地方公共団体を特別縁故者と認めなかった札幌家裁滝川支部平成27年

高橋ほか 第6版 380頁

特別縁故者に対する相続財産分与申立事件

札幌家庭裁判所滝川支部審判/平成27年(家)第2号

平成27年9月11日

【判示事項】       地方公共団体が申立人となり,被相続人に対して介護予防支援事業契約に基づき予防訪問介護サービスを提供等をしたことを理由としてした,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てを却下した事例

【参照条文】       民法958の3

【掲載誌】        判例タイムズ1425号341頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       民商法雑誌153巻1号196頁

 

       主   文

 

 1 本件申立てを却下する。

 2 本件手続費用は申立人の負担とする。

 

       理   由

 

第1 事案の概要

   本件申立ては,申立人に対し,被相続人の相続財産を分与するとの審判を求めるというものであり,その実情は,申立人は,昭和59年以来,被相続人に対し,継続的に支援を行い,今後も被相続人の供養を行うことからすれば,被相続人の療養看護に努めた者又は被相続人と特別の縁故があった者(民法958条の3第1項)に当たるというものである。

第2 当裁判所の判断

 1 本件記録,被相続人に係る相続財産管理人選任申立事件(当庁平成25年(家)第□□□号)及び相続人捜索の公告申立事件(当庁平成26年(家)第□□号)の各記録によれば,以下の事実を認めることができる。

  (1) 被相続人は,昭和3年□月□□日生の男性であり,婚姻歴はない。□□□内の炭鉱での勤務を経て,定年となり,昭和59年□月□日,○○市からA市に転居し,A市の住民となった。

  (2) 被相続人は,平成4年□月□□日,最後の住所地であるA市のCに転居した。このCは,高齢者に安心して生活してもらう目的で申立人が設置した集合住宅であり,入居者は賃料等を支払う義務を負う一方で,医師による月1回の健康診断や管理者による生活相談等のサービスを受けるという施設であり,月額となった場合の賃料は4万3000円であった。

  (3) 被相続人は,それ以降,Cで生活できたが,高齢となり日常生活に不安が生じてきたため,要支援1の認定を受けた上,平成24年□月□□日,A市地域包括支援センターを事業者,被相続人を利用者とする介護予防支援事業契約を締結し,Cに居住したまま,訪問予防介護のサービスを受けるようになった。この契約は,利用者が可能な限りその居宅において自らの意思に基づきその有する能力に応じて自立した質の高い生活を送ることができるように,事業者が介護予防サービス計画を作成するとともに,この計画に基づいて介護予防サービスが提供されるよう,指定介護予防サービス事業者等との間で,連絡調整を行うことを目的としたものである。介護予防支援に関する費用は,介護保険から全額給付されるため,利用者には金銭的な負担はない。

  (4) A市地域包括支援センターにおいては,同センターのケアマネージャーであるD(以下「本件担当者」という。)が被相続人の担当となった。同センターのケアマネージャーは,要支援の認定を受け,介護予防支援事業契約を締結した利用者については,3か月に1回程度の割合で利用者宅を訪問するのが原則とされていた。しかしながら,被相続人が,聴力の低下により電話による連絡調整に困難を来していたこと,肺がんに罹患していたこと,指定介護予防サービス事業者が派遣したヘルパーとのトラブルが多かったことなどから,本件担当者は,平成24年□月□□日から平成25年□月□□日までの間,概ね1週間に1度の割合で,被相続人の自宅を訪問して,被相続人の相談を受けたり,トラブルの対処をしたりしていた。被相続人が骨折した際には,本件担当者が,病院まで同行したり,バストバンドの装着の手伝いをしたりすることもあった。

  (5) 被相続人は,平成24年□月□□日から平成25年□月□□日までの間,本件担当者に対して感謝の念を伝えたことがあったが,本件担当者や申立人に対し,財産を贈与したいとか,遺贈したいという趣旨の話をしたことはなかった。

  (6) 被相続人は,平成25年□月□□日,A市立病院に入院し,□月□□日に死亡した。申立人は,墓地,埋葬等に関する法律9条1項に基づき,被相続人の火葬を執行し,その遺骨を無縁物故者として申立人が管理する墓地に埋葬した。これらの費用は,同条2項,行旅病人及行旅死亡人取扱法11条に基づき,被相続人の相続財産から支弁された。

  (7) 申立人は,札幌家庭裁判所滝川支部に対し,被相続人について相続財産管理人の選任の審判を申立て,同裁判所は,平成25年□月□□日,E弁護士を相続財産管理人に選任した。その後,相続債権者及び受選者への請求申出の催告,相続権主張の催告の各公告を経て,被相続人について,相続人が不存在であることが確定した。

  (8) 被相続人の相続財産は,債権者に対する弁済を終えた平成27年□月□□日の時点で,預金債権1073万3242円,現金205円,還付金4万1250円及び上記預金の利息債権である。

  (9) 上記相続財産管理人は,平成27年□月□□日付けで,被相続人の残余財産全部を申立人に分与するのが相当である旨の意見を述べた。

 2 以上の事実を前提に,申立人が被相続人の療養看護に努めた者又は被相続人と特別の縁故があった者に当たるかどうかについて検討する。

   被相続人は,昭和59年に○○市からA市に転居し,平成4年には申立人が設置主体であるCに入居して生活を続け,平成24年□月には,介護予防支援事業契約を締結して,予防訪問介護サービスの提供を受けるようになった。そして,予防訪問介護サービスの提供を受けるに当たり,3か月に1度の割合で利用者宅をケアマネージャーが訪問するのが一般的であったにもかかわらず,被相続人については,本件担当者が,概ね1週間に1度の割合で,被相続人宅を訪問してトラブルの対処や病院への同行といった業務を担っている。このように,被相続人は,定年後,長期間にわたりA市内に居住し,予防訪問介護サービスの提供を受けるようになった平成24年□月からは,本件担当者等により,通常よりも手厚い対応を受けてきたことがそれぞれ認められるのであり,被相続人も,これらの対応に感謝の念を抱いていたであろうことは想像に難くない。

   しかしながら,本件担当者の上記業務は,介護保険制度の下で,地方公共団体の事務として介護予防支援事業契約に基づいて実施されたものである。また,予防訪問介護サービス自体は,指定介護予防サービス事業者が派遣したヘルパーが基本的に担当していたものであるし,本件担当者が被相続人の対応に当たっていた期間も約1年半にとどまり,長期間にわたって特別の対応を継続してきたとも言い難い。申立人が被相続人の火葬や埋葬を執り行った点についてみても,これらは墓地,埋葬等に関する法律に基づいて行われたものであり,その費用は被相続人の相続財産から支弁されているのであるから,かかる事情をもって申立人が特別の負担をしたとみることは困難である。そして,被相続人が,その相続財産を本件担当者や申立人に贈与するとか,遺贈するといった趣旨の話をしたという事情も特段うかがえない。

   以上で指摘したところによれば,相続財産管理人の上記意見を踏まえても,申立人が被相続人の療養看護に努めた者に当たるとも,被相続人と特別の縁故があった者に当たるとも認めることはできない。

 3 よって,本件申立てを却下し,手続費用については家事事件手続法28条2項により申立人に負担させることとし,主文のとおり審判する。

  平成27年9月11日

    札幌家庭裁判所滝川支部

           裁判官  穗苅 学