大橋寛明裁判長不当判決 厳格すぎる必要経費認定 東京高裁平成24年           所得税更正及び加算税賦課決定一部取消等請求控訴事件

東京高等裁判所判決

平成24年5月31日

【掲載誌】        税務訴訟資料262号順号11960

【評釈論文】       金融・商事判例1426号2頁

 

       主   文

 

 1 本件控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 千葉東税務署長が平成20年2月27日付けで行った控訴人の平成16年分、平成17年分及び平成18年分所得税についての各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち、それぞれ、平成16年分については、納付すべき税額243万9500円を超える部分、過少申告加算税32万6500円を超える部分、平成17年分については、納付すべき税額523万2000円を超える部分、過少申告加算税64万6000円を超える部分、平成18年分については、納付すべき税額633万9500円を超える部分、過少申告加算税52万9500円を超える部分を取り消す。

第2 事案の概要

 1(1)ア 控訴人(原告)は、千葉市若葉区の建物(本件A物件)に居住する給与所得者であるが、不動産貸付業(本件業務)も営んでおり、次の(ア)のような事情があったところ、平成16年~平成18年分(以下「本件各係争年度」という。)の所得税について、所得税法143条の青色申告の方法で千葉東税務署長に対し確定申告(以下「本件各申告」という。)をするに当たり、次の(イ)の方法によった。

    (ア)① 控訴人は、本件A物件のうち1室(本件部屋)を不動産の管理等の事務等を行う部屋として利用していた。

     ② 控訴人は、原判決別紙7の「名称」欄記載の順号1の土地及び建物の1室(本件B物件)、同順号2の土地及び建物の1室(本件J物件)、同順号3の土地及び建物(本件C物件)、同順号4の土地及び建物(本件D物件)、同順号5の土地及び建物(本件E物件)、同順号6の土地及び建物(本件F物件)、同順号7の土地及び建物(本件G物件)(以下、併せて「本件各物件」という。)を、同別紙の「原告の取得年月」欄記載の年月に取得し、本件B物件については、当初控訴人が居住の用に供していたものを平成6年6月から、また、本件B物件以外の各物件は、その取得の時から、それぞれ不動産貸付業務の用に供している。

     ③ 控訴人は、本件各物件について、原判決別紙7の「売買契約書における売買価額とその内訳等」の欄に記載の金額の記載がある売買契約書を作成し、うち本件C物件、本件E物件、本件F物件、本件G物件の売買契約書には内訳(土地、建物、消費税等)の記載がある。

     ④ 本件各物件の購入の際の仲介手数料は原判決別表12に記載のとおりである。

    (イ)① 本件A物件の固定資産税を必要経費に算入した。

     ② 控訴人に対する労賃を管理費に含め必要経費にした。

     ③ 本件各物件の購入の際の仲介手数料を不動産取得価格に入れず、必要経費にした。

     ④ 土地を含んだ本件各物件の取得金額を基礎として減価償却費を算定した。

  (2) 本件各申告について、千葉東税務署長は、控訴人に対し、平成20年2月27日付けで、原判決別紙1~3の「更正処分等」欄記載のとおり、更正決定及び過少申告加算税賦課決定処分をした。

  (3) 控訴人が、上記(2)の処分につき異議申立てをし、その棄却決定に対し審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成21年8月6日に、本件各係争年度の本件B物件及び本件G物件の減価償却費の計算における建物及び建物附属設備の各取得価格を算出する方法について一部変更する必要があることを理由として、審査裁決において、原判決別紙1~3の「審査裁決」欄記載のとおり、上記(2)の処分のうち一部を取り消した(一部取り消された後の同処分が、本件各処分)。

 2 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件各処分の一部取消しを求める事案である。

 3 本件の争点は、次のとおりであり、同争点に関する部分を除き、計算の基礎となる金額及び計算方法について争いはない。

  (1) 本件A物件の固定資産税のうち、本件部屋の面積に相当する部分(本件部屋相当分)を、本件業務の必要経費に算入することができるか否か。

  (2) 共益費相当額を管理費として必要経費に算入することができるか否か。

  (3) 本件各物件の取得の際に要した仲介手数料を、本件各物件の取得価格に含め減価償却として各年分の必要経費に算入すべきであるとして本件各更正処分に及んだことは、信義則に違反するか否か。

  (4) 本件各物件についての減価償却費の計算方法

 4 原審は、おおむね次のように判断の上、本件各処分は適法であると判断して、控訴人の請求を棄却した。

  (1) 争点(1)について

    本件部屋を含む本件A物件の固定資産税は、控訴人が同物件を居宅として利用するにおいて必要な費用に関連する経費であるといえ、同固定資産税は家事関連費に当たるところ、本件部屋は、本件業務に利用されることがあったとしても、その利用状況によると、本件業務のみに利用されていたものではなく、本件業務の遂行上必要である部分を明らかにできない。したがって、本件A物件の固定資産税のうち本件部屋相当分の固定資産税を、不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要な部分として明らかに区分できるとも、同じく直接必要であったことが明らかにされる部分の金額であるともいえないから、所得税法施行令96条各号の要件を満たさない。

  (2) 争点(2)について

    控訴人は、賃貸物件購入業務、賃借人の募集等をしており、控訴人が行っている業務を外部委託した場合には、不動産収益の10%~15%の経費が必要とされていることから、第三者に管理業務を委託していない場合においても、賃借人からの共益費相当額は、必要経費に当たると主張するが、必要経費について総収入額から控除されるとしている法の趣旨は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けることにあり、所得税法37条の文言からしても、必要経費に当たるためには不動産貸付業務を行うために実際に支出する費用であることを前提にしているものといえ、支出しない費用について、同条の費用に当たるとする控訴人の主張は、採用することはできない。

  (3) 争点(3)について

   ア 租税法律主義の原則の貫かれるべき租税法律関係においては、法の一般原理である信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該更正処分に係る課税を免れさせて、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、同法理を適用し得るといえる。そして、このような特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解(公表された通達など)を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に同表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の同表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点について考慮する必要があるといえる。

   イ(ア) 税務相談は、納税者の申告の補助として行われるもので、行政サービスの一種であり、仮に、その相談が課税に関わる個別具体的なものであったとしても、最終的にいかなる納税申告をすべきかは、納税義務者の判断に任せられているといえることからすると、税務相談に対応した乙事務官の指導が税務官庁の公的見解を表示したものとまでは認められない。また、その後の相談においても特に指摘がなかったことをもって、税務官庁が公的見解を表示したものとは認められない。

    (イ) 本件においては、税務官庁の公的見解の表示があるとは認められないのであるから、その余の要件を検討するまでもなく、信義則の法理を適用すべき特別の事情があるとは認められない。

   ウ よって、仲介手数料に関する本件各処分が信義則に反し違法な処分であるとはいえない。

  (4) 争点(4)について

   ア 減価償却資産である建物等と土地との取得区分については、次のような考え方を採用すべきである。

    (ア) 所得税法49条1項は、不動産所得の計算上、減価償却資産について償却費として政令で定める計算方法による金額について必要経費として算入することができる旨を、同法施行令126条は、その償却費の計算の基礎となる減価償却資産の取得価格の計算方法を当該資産の購入のために要した費用を含む購入代価に当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額等を加算して算出することを、それぞれ定めており、投下資本の回収部分に課税をしないという趣旨からしても、上記購入代価は実際の売買代金額を採用すべきである。

    (イ)① 本件C物件、本件G物件、本件E物件については、売買契約書に建物等の代価が記載されているので、建物等の購入代価は、売買契約書に記載された金額であると認められる。

     ② 本件F物件については、売買契約書には、建物等の代価そのものは記載されていないものの、建物に係る消費税額が記載されているので、当該消費税額から計算される金額が本件F物件の建物等の購入代価であると認められる。

     ③ 本件B物件、本件J物件、本件D物件については、売買契約書には、建物等の購入代価も、消費税についても記載がないところ、固定資産税評価額は、一般的に土地及び建物ともに適正な時価を反映しているものであるから、土地及び建物等を一括で売買した場合には、固定資産税評価額、すなわち、土地課税台帳等及び家屋課税台帳等に登録された価格により按分する方法には合理性があり、千葉東税務署長がこの方法により原判決別紙3のとおり各物件の建物等の価格を算出したのは、適法である。

   イ(ア) 建物附属設備についての設置費用が具体的な資料に基づいて算出できない場合、建物附属設備の取得代価を算出する方法としては、固定資産税評価基準における再建築費評点基準表を適用して、各部分別に標準評点数を求め、これに補正項目について定められた補正係数を乗じて得た数値に計算単位の数値を乗じて各部分ごとの再建築費評点数を算出し、建築後控訴人が取得するまでの年の経過に応じて発生した損耗等を考慮して減点した上、建物の取得価格と建物附属設備の取得価格とに按分する方法が合理的である。

    (イ) 被控訴人が、本件B物件、本件F物件、本件D物件及び本件G物件について、上記方法によって、原判決別表6のとおりの再建築費評点数を基礎とし、これに原判決別表7-1のとおり再建築費評点数の損耗等を考慮して減点した上、原判決別表8-1のとおり各物件の建物及び建物附属設備の各取得代価を算出したのは合理的である。

    (ウ) 被控訴人が、本件C物件は木造物件であることから、経理の簡素化等の見地からその建物附属設備の取得価格を建物の取得価格に含め、一括して建物の耐用年数を適用したことは合理的である。

    (エ) 本件J物件が建築されたのは昭和55年3月であるから、控訴人が同物件を取得した平成11年4月までに建物附属設備の耐用年数の8年ないし18年を経過しており、その償却額は計上することができないことになることから、被控訴人が、同物件について、控訴人に有利なように、建物附属設備を建物に含めて建物の取得代価として減価償却費を算定したことは適法である。

    (オ) 被控訴人が、本件E物件について、給水ポンプのみが建物附属設備に当たるとして、建物と建物附属設備の取得価格を区分して減価償却費を算出するのは合理的である。

    (カ) 控訴人は、被控訴人主張の減価償却費の計算は不合理であると種々主張するが、どの主張も上記結論を覆すには足りない。

 5 これに対して、控訴人が控訴した。

 6 前提事実、税額等に関する当事者の主張、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決3頁1行目の「本件書斎」を「本件部屋」と、同7頁5~6行目の「隔年分」を「各年分」と、それぞれ改め、当審における控訴人の主張を後記7のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1~4記載のとおりであるから、これを引用する。なお、控訴人は、当審において、前記争点(1)、(2)については被控訴人の主張を認めた原審の判断に対して不服を申し立てず、また、前記争点(3)については、本件B物件の減価償却費に係る更正処分は信義則に違反し取り消されるべきであると主張することとし、その余の物件についての原審の判断には不服を申し立てなかった結果、当審における争点は、① 本件B物件の減価償却に係る更正処分は信義則に反し取り消されるべきかと、② 減価償却費の計算方法のみとなった。

 3(ママ) 当審における控訴人の主張

  (1) 本件B物件の減価償却に係る更正処分の信義則違反

   ア 控訴人は、本件B物件を貸し始める平成6年の時点で、適正な申告を行うために、本件B物件の減価償却費に係る具体的な計算とその計算の根拠となる資料を携えて市川税務署に税務相談に行ったところ、同税務署の職員である乙事務官は、控訴人の計算と資料を確認した上で、別室に行って調査し、自ら書面を作成し、具体的に控訴人のした計算を次のように更正してくれた。

     固定資産税課税標準を使って、土地と建物の取得価格を按分し、控訴人が自宅として居住していた期間の1年分の減価償却費を、鉄筋コンクリートの耐用年数60年の1.5倍の90年とし、これに対応する定額の償却率で1年分の減価償却費の額を計算し、これに控訴人が自宅として居住している期間に対応する金額を家の取得価額から控除した額を、確定申告に必要な未償却残高とする。

   イ 控訴人は、平成6年の確定申告では、上記計算に沿って作成した申告書を千葉東税務署の相談員に見せ、確認した上でこれをした。なお、控訴人は、本件B物件については仲介手数料を必要経費としていない。

   ウ 控訴人は、上記指導を信じて、以後12年間にわたって建物等を建物と建物附属設備に区分せずに千葉東税務署に確定申告していたが、その間、1度も誤りを指摘されたことはなかった。

   エ 以上の経緯によれば、控訴人には、確定申告において全く落ち度はなく、控訴人は納税者の責務を果たしているのであるから、被控訴人が本件B物件について更正処分を行って、しかも過少申告加算税までも控訴人に課すのは、信義則に反する。

   オ 以上の点に関する原審の判示には、次のような誤りがある。

    (ア) 原審は、控訴人が仲介手数料を不動産取得価格に入れず必要経費にしたと判示するが、控訴人は、本件B物件については、原判決別表12に記載の順号①の仲介手数料を必要経費にしていない。

    (イ) 原審は、控訴人が土地を含んだ本件各物件の取得金額を基礎として減価償却費を算定したと判示するが、控訴人は、本件B物件については、土地と建物に区分した上で、建物分を減価償却費の取得価額としている。

    (ウ) 原審は、控訴人は、その妻から乙事務官の指示を聞いたと判示するが、控訴人は、そのような主張をしていない。

    (エ) 原審は、税務相談は行政サービスの一種であり、乙事務官の指導が税務官庁の公的見解を表示したものとまでは認められないと判示するが、納税義務者が適正な申告を行うことが予定されているのと同時に、徴税者においても適正な行政サービスが予定されていると解すべきであり、税務相談に対する税務署の指導に全幅の信頼を寄せた控訴人には落ち度がなく、落ち度は誤った指導をした税務署側にあるから、本件B物件の減価償却費に係る更正処分は、信義則に反し違法である。

  (2) 減価償却費の計算方法

   ア 原審は、売買契約書に建物等の購入代価の記載がなく、かつ消費税金額の記載もない本件B物件、本件J物件及び本件D物件について、依拠する法律がないにもかかわらず、減価償却資産の取得価額を計算し、税金を控訴人から徴収することを認めるものであって、同判断は、合法性の原則、租税法律主義、憲法84条に違反する。

   イ このような記載がない場合にも所得税法施行令126条に委任した所得税法49条1項が準拠法であるとするならば、合理的な建物等の金額が資産購入の代価になるが、そのように考える以上、憲法14条の納税者間の公平の要請から、売買契約書に建物等の購入代価の記載や、消費税の金額の記載がある場合においても、その金額が合理的な金額でない限り、同額は減価償却資産の取得価額としては認められないと解すべきである。土地及び建物が一括して売却された場合においては、その一括代金額を不動産鑑定士による土地及び建物の各鑑定評価額で按分する方法こそが、客観的合理性が担保された方法であり、原審の採用した方法はいずれもその取得価額が過少であって、誤りである。

   ウ 原審は、控訴人が本件で提出した鑑定書は、建物と建物設備等の区分を、共同住宅では設備工事費等が平均値20%前後となるという理由で積算したにすぎず、取得時の取得代価を適正に評価したものであるとは認められないとか、建物等の鑑定評価額が現実の売買価額と大幅に齟齬しており、取得時の取得代価に近似しているとは認められないなどと判示して、適正な評価額とはいえないとするが、誤っている。

     控訴人が本件で提出した鑑定書は、いずれも実際のデータを基に建物附属設備割合に相当する建物設備割合を20%と決めたものであるし、按分法を採用する限り、建物等の絶対金額の高低ではなく、評価額全体に占める土地ないし建物等の取得額あるいは按分比が正確であるかどうかが、合理的な「建物等の取得価額」かどうかの問題に影響するのであって、不動産鑑定士による評価額が売買代金から大きく乖離しているからといって、同額が不合理であるということはできず、逆に、売買代金の価格に近似しているからといって合理的であるともいえないのである。

   エ 本件各処分の通知書には、建物等の取得価額は、所得税法施行令126条1項1号イにおいて、「当該資産の購入の対価」及び「当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨が規定されており、これに従って次のとおり算定した旨が記載されているのみで、その説明は、抽象的であって、具体的ではない。一般納税者は、この条文からだけでは具体的な計算はできないから、これでは更正処分の具体的根拠を明らかにしたことにならず、また、原処分庁が選択した算定方法の合理性が明らかではないので、本件各処分には理由附記不備の違法がある。

   オ 以上の点に関する原審の判示には、次のような誤りがある。

    (ア) 原審は、控訴人が原判決別紙7の「売買契約書における売買価額とその内訳等」の欄に記載の金額の記載がある売買契約書を作成したと判示するが、これらの契約書を作成したのは不動産仲介業者であって、控訴人ではない。

    (イ) 原審は、控訴人が固定資産税評価額は時価を反映しておらず同評価額を基準とするのは合理性がないと主張していると判示するが、控訴人はそのような主張はしていない。

    (ウ) 原審は、処分行政庁は中古住宅になることによって物理的減耗以上の価格の下落が生じること等を踏まえて経年減価補正率を適用しているものであり、この方法が不合理であるとはいえないと判示するが、全くの誤りである。

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も、本件各処分はいずれも適法であり、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、原判決20頁23~24行目の「816万円と査定し、これを更地価格と建物建築費合計額の30%を」を「更地価格と建物建築費の合計額の30%に当たる8億1600万円と査定し、これを」と改め、同23頁24行目の「別紙被告の主張」を削り、後記2のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

 2 控訴理由に鑑み、理由を付加する。

  (1) 本件B物件の減価償却に係る更正処分の信義則違反について

   ア 控訴人は、本件B物件の減価償却費については、平成6年に市川税務署で受けた指導を信じて、そのとおりに計算し、以後12年間にわたって、建物等を建物と建物付属設備に区分せずに千葉東税務署に確定申告していたものであって、その間1度も誤りを指摘されたことはなく、控訴人には、確定申告において全く落ち度はなく、控訴人は納税者の責務を果たしているのであるから、被控訴人が本件B物件について更正処分を行って、しかも過少申告加算税までも控訴人に課すのは、信義則に反すると主張する。

     しかしながら、引用に係る原判決が判示するとおり、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の法理の適用により課税処分を違法なものとして取り消して納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情があるかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解(公表された通達など)を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に同表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の同表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点について考慮する必要がある。納税相談における租税職員の助言は、それが、いかに丁寧かつ個別具体的な判断を示すものであったとしても、納税相談は、相談者の一方的な申立てに基づき、その申立ての範囲内で、行政サービスとして、納税申告をする際の参考とするために、税務署職員の一応の判断を示すものであって、その助言内容どおりの納税申告をしたとしても、その申告内容を是認することまでを意味するものではなく、最終的にどのような納税申告をすべきかは納税義務者の判断と責任に任されているのであって、申告相談の職員の回答をもって、税務官庁としての公的見解を示したということはできない。

     また、控訴人が、従前の申告内容について、12年間にわたって1度も税務官庁から誤りを指摘されたことがなかったとしても、そのことは、たまたま課税が延期されるという事実上の取扱いを受けていたにすぎないというべきであり、これを理由に法に反して課税を免れさせることは、租税法律主義の原則の意図する社会的利益との均衡を失するものであって、認めることができない。

   イ 控訴人は、乙事務官の指導を信頼してそのとおりの申告をしたものであるから、過少申告加算税を付加するのは不当である旨を主張しているところ、これは、国税通則法65条4項の「正当な理由」があることをいうものと解せなくはない。

     確かに、仮に控訴人が乙事務官の税務相談における説明を信じて平成6年の確定申告をし、その後も同様に行動してきたというのであれば、控訴人に過少申告加算税を賦課することの当否には、検討の余地があるということができる。しかし、減価償却資産である建物の取得価額に建物の購入に要した仲介手数料を加算して計算すべきことは、所得税法施行令126条1項1号イの解釈上疑問の余地がないこと、控訴人が受けたという指導は本件各係争年度から10年以上前のものであること、その後は単に指摘を受けなかったというにすぎないこと、過少申告加算税が適正に申告をした納税者と法令に反する申告をした納税者との間の不公平の是正を図るためのものであることなどを考慮すれば、控訴人の主張するとおりの事情があったと認められるとしても、「正当な理由」があるものとして過少申告加算税の賦課を免れさせるべきであるとまでいうことはできない。

   ウ 以上によれば、控訴人のその余の主張は、以上の判断を左右するものとはいえない。

  (2) 減価償却費の計算方法について

   ア 控訴人は、原審は、売買契約書に建物等の購入代価の記載がなく、かつ消費税金額の記載もない本件J物件及び本件D物件について、依拠する法律がないにもかかわらず、減価償却資産の取得価額を計算し、税金を控訴人から徴収することを認めるものであって、同判断は、合法性の原則、租税法律主義、憲法84条に違反すると主張する。

     しかしながら、土地と建物を一括して購入しながら、売買契約書に建物等の購入代価や消費税金額の記載がない場合は、減価償却資産ではない土地と減価償却資産である建物の合計額が売買代金額となっているのであって、減価償却資産である建物についての対価がないわけではないのが一般的であり、上記記載がないことのみを理由として建物についての税金を徴収しないというのが所得税法の趣旨でないことは明らかであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。

   イ 控訴人は、上記のような場合にも減価償却資産である建物について税金を徴収するのが所得税法の趣旨であるとしても、原審のように、そのような場合には、一括代価額を土地及び建物それぞれの固定資産税評価額の価額比により按分する方法で建物の取得費を算出して、建物の取得額を計算することが合理的であるとする以上、売買契約書に建物等の購入代価の記載や、消費税の金額の記載がある場合においても、合理的な金額をもって建物の取得価額とすべきであり、その方法としては、土地及び建物の一括代金額を、不動産鑑定士による鑑定評価額で按分するのが、客観的合理性が担保された方法であり、全ての場合にこの方法によるべきであると主張する。

     しかしながら、所得税法施行令126条1項1号は、購入した減価償却資産の「取得金額」について、「当該資産の購入の代価」と「当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」の合計額と規定しており、購入の代価とは、文理上、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額をいうことが明らかである。売買契約の当事者が契約書において合意した売買価額を明示した場合には、それとは異なる金額が実際には合意された金額であったことが控訴人によって主張・立証されたなど特段の事情のない限り、そこに記載された金額をもって、購入の代価とするのが合理的である。また、売買契約書に記載されている消費税の額を税率で割り返すことによって算出した額についても、同様である。建物と土地とを一括購入し、しかも売買契約書からは建物の取得価額が明らかでない場合にも、合理的な方法によって実際の購入の代価を認定することになるのであって、その方法としては、固定資産税評価額による土地及び建物の価額比で代金総額を按分するのが最も合理的であることは、引用に係る原判決判示のとおりである。控訴人は、上記の手法の差異をもって、憲法14条の納税者間の公平の要請に反すると論難するが、いずれの手法も、所得税法施行令126条1項1号の規定する文言に従い、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額を最も合理的に認定するものであり、その差異は、これを認定するための材料に差異があることにより生じたものにすぎないというべきであるから、控訴人の上記論難は採用することができない。

   ウ 控訴人は、原審は、控訴人が本件で提出した鑑定書について、建物と建物設備等の区分について、共同住宅では設備工事費等が平均値20%前後となるという理由で積算されたにすぎず、取得時の取得代価を適正に評価したものであるとは認められないと判示するが、これらは、いずれも実際のデータを基に建物附属設備割合に相当する建物設備割合を20%と決めたものであるし、また、原審は、建物等の鑑定評価額が現実の売買価額と大幅に齟齬しており、取得時の取得代価に近似しているとは認められないことを理由として、適正な評価額とはいえないとするが、按分法を採用する限り、合理的な「建物等の取得価額」かどうかの問題に影響するのは、建物等の絶対金額の高低ではなく、評価額全体に占める土地ないし建物等の取得額あるいは按分比が正確であるかどうかであるから、売買代金から大きく乖離しているからといって、不動産鑑定士の評価額が不合理であるとはいえず、また、売買代金の価格に近似しているからといって合理的であるともいえないのであるから、同判断は誤っていると主張する。

     しかしながら、甲第20号証によれば、控訴人が本件で提出した鑑定書において建物附属設備の占める割合が20%とされたのは、一般的共同住宅におけるおおむねの平均値を根拠とするものであって、本件各物件の個別事情や具体的特性を基礎に評価された結果ではないことは明らかであり、また、鑑定評価の額が実際の売買の価額と大きく齟齬している場合には、特段の事情がない限り、その鑑定の評価に問題があると考えるのは当然であって、そのような鑑定であっても土地と建物の価格の比率だけは問題がないという理由は見いだし難いから、控訴人の上記主張は採用することができない。

   エ 控訴人は、本件各処分の通知書には、建物等の取得価額は、所得税法施行令126条1項1号イにおいて、「当該資産の購入の対価」及び「当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨が規定されており、これに従って次のとおり算定した旨が記載されているのみで、その説明は、抽象的であって、具体的ではなく、一般納税者はこの条文だけでは具体的な計算はできず、これでは更正処分の具体的根拠を明らかにしたことにならないし、また、原処分庁が選択した算定方法の合理性が明らかではないので、理由附記不備の違法があると主張する。

     しかしながら、本件各処分の通知書には、各物件ごとに、「売買契約書に記載された建物の価額によった」のか、「売買契約書に記載された消費税額を税率5%で割り返して建物等の価額を算出した」のか、「固定資産税評価額を基に算定した」のかが具体的に明らかにされ、更に、それぞれの計算過程が説明されているのである(甲1~3)し、更正の理由に関しては、法の解釈や法的判断の問題については、結論のみを示せば足り、結論に達した理由ないし根拠を示す必要はないというべきであるから、本件各処分の通知書の理由附記に不備があるということはできず、控訴人の上記主張は採用することができない。

   オ 以上によれば、控訴人のその余の主張は、以上の判断を左右するものとはいえない。

  (3) その他、控訴人はるる主張するが、これらにより当裁判所の前記判断は左右されない。

 3 よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第2民事部

        裁判長裁判官  大橋寛明

           裁判官  川口代志子

           裁判官  蓮井俊治