間接損害 最高裁昭和43年11月15日
民法判例百選Ⅱ 第8版 2018年 99事件
慰藉料並に損害賠償請求事件
最高裁判所第2小法廷判決/昭和40年(オ)第679号
昭和43年11月15日
【判示事項】 個人会社の代表者の負傷と加害者に対する会社の損害賠償の請求
【判決要旨】 甲会社の代表者乙が交通事故により受傷した場合に、甲会社が俗にいう個人会社で、その実権が乙個人に集中して乙に甲会社の機関としての代替性がなく、経済的に甲会社と乙とが一体をなす関係にあるときは、甲会社は、乙の受傷により同会社の被つた損害の賠償を加害者に請求することができる。
【参照条文】 民法709
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集22巻12号2614頁
最高裁判所裁判集民事93号191頁
判例タイムズ229号153頁
判例時報543号61頁
【評釈論文】 ジュリスト475号172頁
別冊ジュリスト47号182頁
別冊ジュリスト48号96頁
別冊ジュリスト78号172頁
別冊ジュリスト105号196頁
時の法令664~665号116頁
判例タイムズ234号72頁
法曹時報21巻8号124頁
北大法学論集59巻6号3217頁
民商法雑誌61巻1号90頁
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告理由第一点について。
論旨は、要するに、上告人はスクーターを運転中にDと衝突して負傷させたのであるから、同人の被つた損害を賠償すれば足り、同人以外の者である被上告会社に対し損害賠償義務を負うべきいわれはない、けだし、上告人の同人に対する加害行為とこれによつて被上告会社の被つた損害との間には相当因果関係がないからである、と主張する。
よつて検討するのに、本件において、上告人の過失により惹起された加害行為の直接の被害者となつたのはDであり、同人の負傷により得べかりし利益を喪失したと主張してその損害の賠償を求めるのは、同人を代表者とする被上告会社であつて、法律上、両者が人格を異にすることは所論のとおりである。
しかし、原判決の確定するところによれば、Dは、もと個人でE薬局という商号のもとに薬種業を営んでいたのを、いつたん合資会社組織に改めた後これを解散し、その後ふたたび個人でBという商号のもとに営業を続けたが、納税上個人企業による経営は不利であるということから、昭和三三年一〇月一日有限会社形態の被上告会社を設立し、以後これを経営したものであるが、社員はDとその妻Fの両名だけで、Dが唯一の取締役であると同時に、法律上当然に被上告会社を代表する取締役であつて、Fは名目上の社員であるにとどまり、取締役ではなく、被上告会社にはD以外に薬剤師はおらず、被上告会社は、いわば形式上有限会社という法形態をとつたにとどまる、実質上D個人の営業であつて、Dを離れて被上告会社の存続は考えることができず、被上告会社にとつて、同人は余人をもつて代えることのできない不可欠の存在である、というのである。
すなわち、これを約言すれば、被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様D個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであつて、かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、原審が、上告人のDに対する加害行為と同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は、正当である。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第二点について。
原審挙示の証拠によれば、所論の点に関する原審の認定は肯認しえないものではない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 奥野健一
裁判官 草鹿浅之介
裁判官 城戸芳彦
裁判官 石田和外
裁判官 色川幸太郎
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