ディズニー英会話事件 東京地裁平成29年4月11日

佐藤修二『租税と法の接点』大蔵財務協会・2020年105頁

法人税更正処分取消等請求事件

東京地方裁判所判決/平成21年(行ウ)第472号

平成29年4月11日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1516号10頁

             ジュリスト1536号118頁

 

       主   文

 

 1 新宿税務署長が平成(省略)付けで原告に対してした原告の平成9年9月1日から平成10年8月31日までの事業年度の法人税の更正(平成(省略)付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額(省略)円及び納付すべき税額(省略)円を超える部分(還付すべき金額が(省略)円を下回る部分)並びに過少申告加算税賦課決定(同日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 2 新宿税務署長が平成(省略)付けで原告に対してした原告の平成10年9月1日から平成11年8月31日までの事業年度の法人税の更正(平成(省略)付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額(省略)円及び納付すべき税額(省略)円を超える部分(還付すべき金額が(省略)円を下回る部分)並びに過少申告加算税賦課決定(同日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 3 新宿税務署長が平成(省略)付けで原告に対してした原告の平成11年9月1日から平成12年8月31日までの事業年度の法人税の更正(平成(省略)付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額(省略)円及び納付すべき税額(省略)円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(同日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 4 新宿税務署長が平成(省略)付けで原告に対してした原告の平成12年9月1日から平成13年8月31日までの事業年度の法人税の更正(平成(省略)付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額(省略)円及び納付すべき税額(省略)円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(同日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 5 新宿税務署長が平成(省略)付けで原告に対してした原告の平成13年9月1日から平成14年8月31日までの事業年度の法人税の更正(平成(省略)付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額(省略)円及び納付すべき税額円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(同日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 6 新宿税務署長が平成(省略)付けで原告に対してした原告の平成14年9月1日から平成15年8月31日までの事業年度の法人税の更正(平成(省略)付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額(省略)円及び納付すべき税額(省略)円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(同日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 7 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

  主文同旨

第2 事案の概要

  本件は,(省略)に本店を置く兄弟会社(原告と親会社を同じくする会社)から幼児向け英語教材を輸入して我が国の国内で販売する内国法人である原告が,平成9年9月1日から平成10年8月31日までの事業年度(以下「平成10年8月期」といい,原告の他の事業年度についても同様の表現をする。),平成11年8月期,平成12年8月期,平成13年8月期,平成14年8月期及び平成15年8月期(以下,これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の申告をしたところ,新宿税務署長(以下「原処分行政庁」という。)から,上記の幼児向け英語教材を輸入する取引について,租税特別措置法(平成10年8月期から平成13年8月期までについては平成13年法律第7号による改正前のもの,平成14年8月期については平成14年法律第79号による改正前のもの,平成15年8月期については平成16年法律第14号による改正前のもの。以下,これらの改正前のものを包括して「措置法」という。)66条の4第1項の規定により,同条2項の規定する独立企業間価格で行われたものとみなされて,平成16年11月24日付けで原告の本件各事業年度の法人税の更正(以下「本件各更正処分」という。また,本件各更正処分のうち,平成10年8月期の法人税に係る更正を「平成10年8月期更正処分」といい,他の更正についても同様の表現をする。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けたことから,本件各更正処分において同項1号ロの規定する再販売価格基準法によりされた独立企業間価格の算定に誤りがあるなどとして,本件各更正処分(平成(省略)付け裁決(以下「本件裁決」という。)により一部取り消された後のもの)のうち申告額(平成13年8月期については平成(省略)付けの更正により変更された納付すべき税額)を超える部分(還付すべき金額については申告額を下回る部分)及び本件各賦課決定処分(本件裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である。

   なお,本判決で使用する略語等の主なものは,別紙2「略語等一覧表」のとおりである。

 1 関係法令等の定めと移転価格税制の仕組み

  (1) 関係法令等の定め

    本件の主な関係法令等の定めは,別紙3「関係法令等の定め」記載のとおりである(本件で適用される条項につき数次の改正がされているが,本件との関係において実質的な差異が生じないものについては,最も新しいもののみ記載した。)。なお,以下,租税特別措置法施行令(平成10年8月期から平成13年8月期までについては平成13年政令第141号による改正前のもの,平成14年8月期及び平成15年8月期については平成16年政令第105号による改正前のもの)を,これらの改正前のものを包括して「措置法施行令」と,租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成10年8月期から平成13年8月期までについては平成14年2月15日付課法2-1通達による改正前のもの,平成14年8月期については平成15年2月28日付課法2-7通達による改正前のもの,平成15年8月期については平成16年12月20日付課法2-14通達による改正前のもの)を,これら改正前のものを包括して「旧措置法通達」と,租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成23年10月27日課法2-13による改正後のもの)を「新措置法通達」と,国税庁長官制定の平成13年6月1日付け「移転価格事務運営要領」(平成17年4月28日査調7-3ほかによる改正前のもの)を「旧事務運営指針」と,同じく,国税庁長官制定の平成13年6月1日付け「移転価格事務運営要領」(平成19年6月25日査調7-21ほかによる改正後のもの)を「新事務運営指針」と,それぞれいう。

  (2) 我が国における移転価格税制の仕組み(乙1,乙118)

   ア 移転価格税制の基本的な仕組み

     我が国における移転価格税制は,我が国の法人が「特殊の関係」にある外国法人(国外関連者)との間で取引(国外関連取引)を行った場合に,その法人がその国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき,又はその法人がその国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは,その法人の所得の計算において,その取引が独立企業間価格で行われたものとみなすというものである(措置法66条の4第1項)。この場合における国外関連取引者に支払う対価の額と当該国外関連取引に係る独立企業間価格との差額は,法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入されず(同条4項),その結果,国外関連取引の実際の取引価額のいかんにかかわらず,例えば,国外関連者に対する資産の販売の場合には,独立企業間価格に満たない部分に相当する金額が益金に算入され,国外関連者からの資産の購入の場合には,独立企業間価格に相当する金額が原価とされることになる。

   イ 移転価格税制に関する概念等

    (ア) 国外関連者とは,外国法人で,当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数又は出資の総額の100分の50以上の株式の数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係のあるものをいう(措置法66条の4第1項)。

      なお,上記のような特殊の関係にないものを,非関連者という。

    (イ) 国外関連取引とは,法人が,昭和61年4月1日以後に開始する事業年度において,当該法人に係る国外関連者との間で行った資産の販売,資産の購入,役務の提供その他の取引をいう(措置法66条の4第1項)。

    (ウ) 独立企業間価格とは,国外関連取引が措置法66条の4第2項各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じて,当該各号に定める方法により算定した金額をいう(措置法66条の4第2項)。

    (エ) 移転価格税制の適用対象となる法人は,原則として,我が国において当該法人の当該事業年度の所得に対する法人税及び解散による清算所得に対する法人税について納税義務のある法人である(措置法66条の4第1項)。

   ウ 独立企業間価格の算定

    (ア) 独立企業間価格について定めた措置法66条の4第2項は,同項1号において,国外関連取引の典型的な取引形態として「棚卸資産の販売又は購入」を取り上げ,同取引形態に係る取引に関する独立企業間価格の算定方法を定め,同項2号において,それ以外の取引形態についても同様の方法により独立企業間価格を算定する旨規定している。

    (イ) 措置法66条の4第2項1号は,棚卸資産の販売又は購入に係る取引に関する独立企業間価格の算定方法として,次のようなものを規定している。

     a 独立価格比準法(措置法66条の4第2項1号イ)

       特殊の関係にない売手と買手が,国外関連取引に係る棚卸資産と同種の資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法

     b 再販売価格基準法(措置法66条の4第2項1号ロ)

       国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(以下「再販売価格」という。)から,通常の利潤の額を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法

     c 原価基準法(措置法66条の4第2項1号ハ)

       国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入,製造その他の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法

     d aからcまでに掲げる方法(以下「基本三法」という。)に準ずる方法その他政令で定める方法

       ただし,dの方法は,基本三法を用いることができない場合に限り用いることができる。

   エ 再販売価格基準法

    (ア) 再販売価格基準法(措置法66条の4第2項1号ロ)とは,国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(再販売価格)から通常の利潤の額(当該再販売価格に通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。以下同じ。)を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。

    (イ) 上記の「通常の利益率」とは,国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を,特殊の関係にない者(非関連者)から購入した者(再販売者)が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した取引(以下「比較対象取引」という。)に係る当該再販売者の売上総利益の額(当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売による収入金額の合計額から当該比較対象取引に係る棚卸資産の原価の額の合計額を控除した金額をいう。)の当該収入金額の合計額に対する割合(以下,原告が行う取引に係る同様の割合も含めて「売上総利益率」という。)をいう(措置法施行令39条の12第6項本文)。ただし,比較対象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引とが売手の果たす機能その他において差異がある場合には,その差異により生ずる割合の差につき必要な調整(以下,この差異により生ずる割合の差についての調整を「差異調整」という。)を加えた後の割合とする(同項ただし書)。

    (ウ) 以上を算式で表すと次のとおりとなる。

     ① 再販売価格(国外関連取引における買手が非関連者に販売した価格)-通常の利潤の額=独立企業間価格

     ② 通常の利潤の額=①の再販売価格×通常の利益率(比較対象取引に係る売上総利益率に必要な差異の調整を加えたもの)

   オ 小括

     以上のとおり,法人が,国外関連者から棚卸資産の購入に係る取引をした場合,その対価の額が独立企業間価格を超える場合には,その法人の所得の計算において,その取引は独立企業間価格で行われたものとみなされる。

     そして,独立企業間価格の算定方法については,基本三法とこれに準じる方法があるところ,そのうちの再販売価格基準法によって独立企業間価格の算定を行う場合,国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を,特殊の関係にない者(非関連者)から購入した者(再販売者)が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した取引(比較対象取引)に係る当該再販売者の売上総利益の額(当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売による収入金額の合計額から当該比較対象取引に係る棚卸資産の原価の額の合計額を控除した金額をいう。)の当該収入金額の合計額に対する割合(売上総利益率)につき,比較対象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引とが売手の果たす機能その他において差異がある場合には,その差異により生ずる割合の差につき必要な調整(差異調整)を加えた後の割合(通常の利益率)を,国外関連取引に係る棚卸資産の再販売価格に乗じて通常の利潤の額を算定し,この通常の利潤の額を当該再販売価格から控除して計算した金額(独立企業間価格)をもって当該国外関連取引に係る対価の額とすることとなる。