アドビ事件 東京高裁平成20年10月30日

佐藤修二『租税と法の接点』大蔵財務協会・2020年

法人税更正処分取消等請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成20年(行コ)第20号

平成20年10月30日

【判示事項】       処分行政庁が,控訴人と控訴人の国外関連者(租税特別措置法66条の4第1項参照)との間で行われた役務提供取引について,控訴人が国外関連者から支払を受けた対価の額が同条2項所定の独立企業間価格に満たないとして,同条1項の規定に基づき,同役務提供取引が独立企業間価格により行われたものとみなして計算した所得金額を基に,法人税の増額更正及び過少申告加算税賦課決定をした事案について,本件算定方法を用いて独立企業間価格を算定した過程には違法があるなどとして,控訴人の取消請求を認容した事例

【判決要旨】       (1) 措置法66条の4第2項2号イは、棚卸資産の販売又は購入以外の取引において、棚卸資産の販売又は購入について適用される基本3法と同等の方法により独立企業間価格を算定する旨規定しているところ、この「同等の方法」とは、棚卸資産の販売又は購入以外の取引において、それぞれの取引の類型に応じて、基本3法と同様の考え方に基づく算定方法を意味するものと解するのが相当である。

             (2) 省略

             (3) 租税特別措置法66条の4第2項1号ニは、基本3法を独立企業間価格算定の基本的な方法と位置付けつつ、実際に行われている取引の複雑性を考慮し、個々の取引の態様等により基本3法が適用できない場合であっても、基本3法の考え方から乖離しない限りにおいて、取引内容に適合した合理的な方法を採用し得る余地を残したものと解すべきであり、同項2号ロも、これと同様の考え方に基づく規定であると解される。

             (4) 課税庁は、課税処分取消訴訟において、所得の存在について主張立証責任を負うものであるから、租税特別措置法66条の4第2項2号(国外関連者との取引に係る課税の特例)所定の基本3法と同等の方法を用いることができない場合に当たることについても、立証責任を負うものというべきところ、国において、課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず、基本3法と同等の方法を用いることができないことについて主張立証をした場合には、基本3法と同等の方法を用いることができないことが事実上推定され、控訴人会社側において、基本3法と同等の方法を用いることができることについて、具体的に主張立証する必要があるものと解するのが相当である。

             (5)・(6) 省略

             (7) 「基本3法に準ずる方法と同等の方法」とは、棚卸資産の販売又は購入以外の取引において、それぞれの取引の類型に応じ、取引内容に適合し、かつ、基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法をいうものと解するが相当である。

             (8)~(12) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料258号順号11061

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       別冊ジュリスト228号140頁

             税務弘報66巻12号144頁

             税務事例41巻9号23頁

             税理58巻14号82頁

             税理58巻15号82頁

             NBL921号80頁

 

       主   文

 

 1 原判決を取り消す。

 2 処分行政庁が控訴人に対して平成16年4月27日付けでした平成11年12月1日から平成12年11月30日までの事業年度の法人税の更正のうち,所得金額2億5574万2515円,納付すべき税額7666万9100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし,同16年6月29日付け変更決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 3 処分行政庁が控訴人に対して平成16年4月27日付けでした平成12年12月1日から平成13年11月30日までの事業年度の法人税の更正のうち,所得金額5億3767万9363円,納付すべき税額1億6125万1000円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

 4 処分行政庁が控訴人に対して平成16年4月27日付けでした平成13年12月1日から平成14年11月30日までの事業年度の法人税の更正のうち,所得金額2億5863万7674円,納付すべき税額7757万9800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

 5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴の趣旨

   主文と同旨

 2 控訴の趣旨に対する答弁

  (1) 本件控訴を棄却する。

  (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

 1 本件は,処分行政庁が,控訴人と控訴人の国外関連者(租税特別措置法66条の4第1項参照)であるP1(以下「P1社」という。)及びP2(以下「P2社」といい,P1社と併せて単に,「本件国外関連者」ということがある。)との間で行われた役務提供取引について,控訴人がP1社又はP2社から支払を受けた対価の額が同条2項所定の独立企業間価格に満たないとして,同条1項の規定に基づき,同役務提供取引が独立企業間価格により行われたものとみなして計算した所得金額を基に,法人税の増額更正及び過少申告加算税賦課決定をしたことから,控訴人が,控訴人がP1社及びP2社から支払を受けた対価の額は独立企業間価格に満たないものではなく,被控訴人が独立企業間価格であると主張する金額は独立企業間価格ではない旨主張して,被控訴人に対し,同更正のうち確定申告及び修正申告に係る所得金額及び納付すべき税額を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定(ただし,平成16年6月29日付け変更決定により一部取り消された後のもの)の各取消しを求めた事案である。

 2 原審は,

  (1) 本件手数料の額が独立企業間価格に満たないものであるか(争点(1))について,①本件国外関連取引のような役務提供取引において,基本3法と同等の方法といい得るためには,比較対象取引に係る役務が本件国外関連取引に係る役務と同種(独立価格比準法)か,あるいは同種又は類似(再販売価格基準法及び原価基準法)であり,かつ,比較対象取引に係る役務提供の条件が本件国外関連取引と同様であることを要するものと解するのが相当である,②国(被控訴人)において,(ア)課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず,基本3法と同等の方法を用いることができないことについて主張立証をした場合には,基本3法と同等の方法を用いることができないことが事実上推定され,納税者(控訴人)側において,(イ)基本3法と同等の方法を用いることができることについて,具体的に主張立証する必要があるものと解するのが相当であるところ,本件において,被控訴人は(ア)を主張立証したが,控訴人の(イ)の立証はない,③本件において処分行政庁が適用した独立企業間価格の算定方法(P3製品と同種又は類似のソフトウェアについて非関連者間で行われた受注販売方式の再販売取引を比較対象取引に選定した上で,我が国におけるP3製品の売上高にその売上総利益率(必要な差異の調整を加えた後のもの)を乗じて,本件国外関連取引において控訴人が受け取るべき通常の手数料の額(独立企業間価格)を算定するという方法)は,P3製品の販売において控訴人が果たしている機能及び負担しているリスクの観点からすると,受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似しているということができるから,「取引内容に適合し,かつ,基本3法の考え方(再販売価格基準法)から乖離しない合理的な方法」に当たるので,本件算定方法は,再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たるというべきである,④この観点から本件国外関連取引と本件比較対象取引とを対比すると,相当程度の同種性又は類似性があることが認められる,⑤控訴人は,処分行政庁の比較対象取引の選定基準に合理性がなく,その選定が恣意的であることを理由に,本件比較対象取引を比較対象取引とすることはできない旨主張するが,比較対象取引の選定基準の合理性と比較対象取引とするか否かとは直接的な関係がない上,本件比較対象取引に比較可能性があることについては前示のとおりであり,仮にこの点を措くとしても,本件比較対象取引の選定の経緯に不合理な点を見い出すことはできない,⑥再販売価格基準法について定めた租税特別措置法施行令39条の12第6項は,通常の利益率につき,比較対象取引と当該国外関連取引に係る再販売取引とが売手の果たす機能その他において差異がある場合には,その差異により生じる割合につき必要な調整を加えた後の割合とする旨規定しているところ,本件においては,売掛金及び買掛金に含まれる金利相当額の調整及び債権回収リスクについて適正な差異の調整が行われているなどとして,本件算定方法は再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たり,本件比較対象取引に比較可能性があると認められるところ,同方法により処分行政庁が算定した通常の手数料の額(独立企業間価格)が本件手数料の額を上回ることは明らかである,

  (2) 本件各処分に質問検査権限の行使に係る違法事由があるか(争点(2))について,租税特別措置法66条の4第9項は,税務職員による比較対象法人に対する質問検査権限を創設した規定であって,当該質問検査に係る手続要件自体が課税処分の要件となるものではないから,当該質問検査に係る手続が違法であることを理由に,直ちに課税処分が違法であるということはできず,当該質問検査に係る手続が刑罰法規に抵触し,又は公序良俗に反するような重大な違法がある場合に初めて,当該処分の取消事由となるものと解するのが相当であるところ,本件において,控訴人が主張している事実は,控訴人が処分行政庁の職員が提出を求めた独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類又はその写しをすべて遅滞なく提出して,処分行政庁の職員からの事業内容の聴取等にも積極的に協力したにもかかわらず,租税特別措置法66条の4第9項に基づき本件比較対象法人に対する質問検査権限を行使し情報を収集したというものであるから,控訴人の上記主張をもってしても,処分行政庁がした当該質問検査に係る手続に重大な違法があるということはできないなどとして,処分行政庁の職員が同項所定の要件に該当しないにもかかわらず上記質問検査権限を行使したことを理由に本件各処分が違法であるとする控訴人の主張を採用することはできない

  として,控訴人の請求をいずれも棄却した。

   そこで,これを不服とする控訴人が控訴した。

 3 「関係法令等の定め」,「前提事実」,「争点」及び「当事者の主張の要旨」は,後記4において当審における控訴人の補充主張を,同5においてこれに対する被控訴人の認否及び反論を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。

 4 当審における控訴人の補充主張

  (1) 争点(1)(本件手数料の額が独立企業間価格に満たないものであるか)について

   ア 租税特別措置法66条の4第2項2号柱書き所定の基本3法と同等の方法を用いることができない場合に当たることの主張立証責任

     原判決は,国において,課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず,基本3法と同等の方法を用いることができないことについて主張立証をした場合には,基本3法と同等の方法を用いることができないことが事実上推定され,納税者側において,基本3法と同等の方法を用いることができることについて,具体的に主張立証する必要があるものと解するのが相当であると判示する。

     しかしながら,上記のような事実上の推定を行うことは,本来国にあるべき「基本3法が適用できない」という要件の主張立証責任を事実上納税者に転換するのと同様の効果がある上,論理則及び経験則に著しく反するものであるから認められない。

   イ 課税庁が「合理的な調査を尽くした」といえるか否かについて

     原判決は,①P4調査官の調査過程を認定し,②本件報告書(乙23号証)中には,「本分析にCPLM(原価基準法)を適用する場合の前提事項として,販売促進活動及び市場開拓等の,コミッションベースの販売代理活動を行う,外部の比較対象となるサービスプロバイダを特定するのは,極めて困難であることがある。」との記載があることを根拠として,課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず,基本3法と同等の方法を用いることができないことについての被控訴人の立証があったというべきであると判示する。

     しかしながら,①原判決の認定に係るP4調査官の調査過程によれば,課税庁が行った調査は場当たり的なものであって,基本3法と同等の方法の適用が可能な比較対象取引が存在しないことを合理的に論理づけるに足りるものであるとは到底いえない。また,②本件報告書(乙23号証)は,役務提供事業者の取引の中に原価基準法を適用する比較対象取引を見い出すことは困難であるが,「限られた資本資産しか有さない状態で事業を行っている,日本の独立販売代理店」の取引が原価基準法の比較対象取引となると明示しているのであって,原価基準法を適用する比較対象取引が存在しないといっているわけではない。これらの点からすると,課税庁が行った調査をもって,「課税庁が合理的な調査を尽くした」ということは到底できない。

   ウ 処分行政庁の採用した本件算定方法の誤り

    (ア) 控訴人の国外関連取引は,P3製品の販売支援という役務提供取引であるところ,P3製品は,ディストリビュータ(卸売業者)において

      本件国外関連者から直接輸入してリセラー(小売業者)に転売し,小売業者がエンドユーザーに販売しているものであり,控訴人がその仕入れや販売をすることはない。

      しかして,処分行政庁が用いた本件算定方法は,控訴人の本件国外関連者によるディストリビュータ(卸売業者)への売上高に,比較対象取引の売上総利益率を乗じた金額をもって独立企業間価格の額であるとするものであるが,①控訴人が再販売活動を行っていない点,②控訴人自身の売上高ではなく本件国外関連者のディストリビュータ(卸売業者)に対する売上高に比較対象取引の売上総利益率を乗じて,通常の利潤の額を算出している点,③控訴人の再販売価格から通常の利潤の額を控除した金額を独立企業間価格とするのではなく,「通常の利潤の額」そのものが独立企業間価格であるとしている点において,再販売価格基準法(と同等の方法)とは異なるものである。

    (イ) 原判決は,租税特別措置法66条の4第2項2号ロは,棚卸資産の販売又は購入以外の取引について,基本3法に準ずる方法と同等の方法により独立企業間価格を算定することができる旨規定しているところ,この「準ずる方法」とは,①取引内容に適合し,かつ,②基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法をいうものと解するのが相当であると判示しながら,本件算定方法が①②の各要件を充足することについて理由を示さず,あるいは不合理な理由により,「再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法」であると判示しており失当である。

      特に,本件国外関連者と控訴人との本件各業務委託契約上,本件手数料は,「役務提供に要するコスト+P1社及びP2社のディストリビュータ(卸売業者)に対する売上高の1.5パーセント」と規定されており,控訴人は,役務提供活動によって必ず利益を取得し,損失を被るリスクを負担しないものとされている。これに対し,再販売取引における再販売者は,その実現した売上高が損益分岐点を下回れば損失を被り,これを上回れば利益を取得するのであって,控訴人と再販売取引における再販売者とはその負担するリスクにおいて類似しないから,本件算定方法は,本件国外関連取引の取引内容に適合した合理的な方法とはいえない。

    (ウ) 原判決は,再販売価格基準法が取引当事者の果たす機能や負担するリスクが重要視される算定方法であることを指摘し,比較対象取引と機能及びリスクの点について類似していれば「再販売価格基準法に準ずる方法(と同等の方法)」で独立企業間価格を算定することができるとし,本件において,P3製品の販売において控訴人が果たしている機能及び負担しているリスクは,受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似しているということができるから,受注販売方式を採る再販売取引に係る売上総利益率をもって独立企業間価格である通常の手数料の額を算定しようとする本件算定方法は,取引内容に適合し,かつ,再販売価格基準法の考え方から乖離しない合理的な方法であるということができると判示する。

      しかし,上記判示は,「準ずる方法」といえるか否かという問題と「比較対象取引」であるか否かという問題とを混同するものである。機能及びリスクに差異がない比較対象取引を用いて価格算定をする方法には多種多様なものが存在するところ,そのうちの独立価格比準法,再販売価格基準法及び原価基準法の3つの方法のみが独立企業間価格算定の基本的方法として認められているのであって,たとえ機能及びリスクが同一の比較対象取引を用いる移転価格算定方法であったとしても,その全てが独立企業間価格を合理的に算定する方法とはいえない。

    (エ) 被控訴人は,①控訴人は,ディストリビュータやリセラー(以下,両者を併せて「卸売業者等」という。)に対してP3製品の販売支援サービスを行い,その対価を本件国外関連者から受領している,②本件国外関連者は,ディストリビュータ(卸売業者)に対してP3製品を販売している,③ディストリビュータ(卸売業者)は,本件国外関連者に対して,P3製品の購入代金及び控訴人から提供を受けた役務の代価の合計を支払っている,④本件国外関連者は,控訴人に対して,ディストリビュータ(卸売業者)から受領した金額のうち役務提供の代価部分を支払っているとの事実関係を前提として,控訴人が行っている取引は,控訴人が本件国外関連者からP3製品を購入し,販売支援サービスと共に本件卸売業者に販売する取引(仕入販売取引)と同視できるから,本件国外関連取引が実質的にこうした仕入販売取引であるとみなして,本件取引に再販売価格基準法を適用して独立企業間価格を算定することに合理性があると主張する。

      しかしながら,被控訴人の主張する本件算定方法は,以下の点において,「取引内容に適合し,かつ,基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法である」とはいえない。

     a 控訴人の行っているのは,エンドユーザーの購買意欲を刺激し,結果として本件国外関連者のディストリビュータ(卸売業者)への売上高が間接的に増加する効果を有する活動であって,実質的にディストリビュータ(卸売業者)への再販売取引そのものと全く同じ活動を行っているわけではない。

     b 一般に,同一の製品の再販売取引であったとしても,海外のメーカーから輸入して卸売を行う者の売上総利益率は,輸入者から仕入れて卸売を行う二次卸取引や小売業者の行う小売取引の売上総利益率と同一でないから,再販売価格基準法において取引段階に差異がある場合には比較対象取引にならないところ,被控訴人は,二次卸取引や小売取引をもって本件比較対象取引としている。

     c 控訴人は,本件国外関連者に対して役務を提供してその対価を受領しているのであって,卸売業者等に対して役務を提供してその対価を受領する取引を行っておらず,また,ディストリビュータ(卸売業者)はP3製品の購入代金を支払っているだけであって,控訴人から提供を受けた役務の代価を支払っているわけではない。

     d 本件算定方法は,モノとサービスを販売する本件比較対象取引の売上総利益率を本件国外関連者のディストリビュータ(卸売業者)への売上高に乗じて通常の利潤の額を算定し,その利潤の額をもってサービスの販売取引の利潤の額とするものであるが,サービスの販売取引の利益率を算定するためには,モノとサービスを販売する本件比較対象取引の利益率からモノを販売する取引の利益率を控除する必要があるのであって,本件算定方法は合理的な方法であるとはいえない。

     e エンドユーザーの中には,控訴人からP3製品の説明等を受けず,専らリセラー等の活動を受けてP3製品を購入する者も少なくないのであって,控訴人の活動の結果P3製品の売上げが増加した部分は,P3製品の売上高全体の一部に過ぎない。それにもかかわらず,控訴人の活動と関連のない本件国外関連者の売上高全体に対して,本件比較対象法人の売上総利益率を乗するのは誤りである。

     f 本件算定方法は,同一の製品につき架空の売買取引を想定し,他の売買行為を行っている者が取得しているのと同一の利益をさらに取得することができるとして課税するものであって,同一の利益に対して2度課税する不合理な方法である。

    (オ) 本件比較対象取引に比較可能性があるかについて

      原判決は,①再販売価格基準法の場合,比較対象取引と国外関連取引との間に,厳密な類似性は要求されず,同種又は類似の取引であれば足りる,②再販売価格基準法は,取引当事者の果たす機能や負担するリスクが重要視される算定方法であることから,比較可能性の判断においてもこの機能やリスクを中心に検討することが有益である,③したがって,比較対象取引と国外関連取引の機能とリスクに類似する点が多く存在すれば,両者の機能とリスクに差異が存在する点があっても,比較可能性は満たされると判示する。

      しかしながら,租税特別措置法施行令39条の12第6項は,比較対象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引とが「売手の果たす機能その他において」差異がある場合には,その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加えた後の割合をもって通常の利益率とする旨規定しており,比較可能性において考慮されるべき要素は売上総利益率に影響を及ぼす差異全てであって,機能及びリスクに限定されるわけではない。したがって,原判決は,租税特別措置法施行令39条の12第6項の解釈を誤っている。

      また,原判決は,両者の機能とリスクに差異が存在する点があっても比較可能性は満たされると考えていたため,上記の差異について十分な審理を行っていない。

    (カ) 本件比較対象取引の選定過程について

      原判決は,比較対象取引の選定基準が合理性を有するか否かによって,直ちに,ある取引を比較対象取引とするか否かを決することができるわけではないと判示する。

      しかし,これは,本件比較対象取引がシークレット・コンパラブルであり,被控訴人が同取引の詳細を国家公務員の守秘義務を理由に開示しないため,控訴人が比較可能性について反論することが極めて困難であることを看過している。このような証拠の信用性が劣ることは一般的に認められているところであり,少なくとも本件比較対象取引が合理的な選定基準に基づき選定されたものであることの立証がなければ,本件比較対象取引につき比較可能性があると認定することは経験則に反する。

    (キ) 差異の調整について

     a 原判決は,差異の調整は,当該差異が取引価格の差に表れていることが客観的に明らかであると認められる場合に限って行われるべきものと解するのが相当であると判示する。

       しかしながら,租税特別措置法施行令39条の12第6項は,通常の利益率につき,比較対象取引と当該国外関連取引に係る再販売取引とが売手の果たす機能その他において「差異がある場合には,その差異により生ずる割合の差につき必要な調整を加えた後の割合とする。」と規定しており,差異の調整が必要な場合につき,原判決のような限定を付す文言上の根拠はない。また,OECD ガイドラインその他において国際的に認められている差異調整についての基本的考え方は,原則として,差異が存在する限り,差異の調整を行わなければ比較可能性がないとするが,例外的に,差異が価格に影響を与えていないか又は価格に与える影響が無視できるほどに僅少である場合には,差異調整を行わなくとも比較可能性を認めるとするものであり,原判決は,この趣旨にも反している。

     b 原判決は,①本件比較対象法人は,あくまでソフトウェアの販売業務を中心的業務として行っていたのであり,商品の受発注や配送手配等はその付随的業務として行っていたにすぎないこと,②本件比較対象取引において,その売上高に対する商品の輸送費の割合は平成13年度において0.09%,平成14年度においては0.16%であるところ,控訴人が主張する商品の受発注や配送手配等に係る費用の割合が上記輸送費の割合に比して特に大きいとは認め難いことから,商品の受発注や配送手配等に係る差異が取引価格の差に表れていることが客観的に明らかであるとまではいえないなどと判示する。

       しかしながら,本件比較対象取引においては,ソフトウェアの販売業務(①エンドユーザーとの価格交渉,②エンドユーザーへの商品発送の手配と引渡,③エンドユーザーへの売買代金の請求,④エンドユーザーからの売買代金の入金管理,⑤ディストリビュータ(卸売業者)への発注,⑥ディストリビュータ(卸売業者)との価格交渉,⑦ディストリビュータ(卸売業者)からの請求額の管理,⑧ディストリビュータ(卸売業者)への支払等)が中心業務なのであって,エンドユーザーへの商品説明等のサービス(控訴人が行っているのと同一の業務)は付随業務に過ぎない。したがって,本件比較対象取引の中心業務である販売業務に帰属する売上総利益率は本件比較対象取引の売上総利益率の相当部分を占めるものと思われるから,差異調整が必要であることは明らかである。また,本件比較対象取引においては,本件比較対象企業が,控訴人の行っていない機能を行うことに要するコストをまかなうに足りるだけ売上総利益率が高くなっているのであるから,その分の差異調整が必要であることも明らかである。

  (2) 争点(2)(本件各処分に質問検査権限の行使に係る違法事由があるか)について

   ア 原判決は,租税特別措置法66条の4第9項は,税務職員による比較対象法人に対する質問検査権限を創設した規定であって,当該質問検査に係る手続要件自体が課税処分の要件となるものではないから,当該質問検査に係る手続が違法であることを理由に直ちに課税処分が違法であるということはできないと判示する。

     しかしながら,一般に手続要件の違反が課税の効力に影響を与えないとされているのは,手続の違反があっても課税の違法性を争えなくなるという不利益を受けるわけではないからであるところ,シークレット・コンパラブルによる課税は,それが認められると納税者による比較可能性についての反論防御が著しく困難になるのであるから,控訴人がシークレット・コンパラブルによる課税の要件(「法人が帳簿書類又はその写しを遅滞なく提示し,又は提出しなかった」こと)を充足しない場合には,質問検査権の行使の結果得られたシークレット・コンパラブルの情報を用いた移転価格課税は違法となると解するべきである。

   イ シークレット・コンパラブルの情報を用いた移転価格課税は,その詳細な情報が納税者に開示されないため,納税者の反論が著しく困難であり,納税者の利益が害される。仮に,シークレット・コンパラブルの情報を用いて算定された価格が独立企業間価格とされるならば,比較対象企業の財務内容や価格算定の基礎となる数値を知り得ない納税者は,将来年度において,独立企業間価格を自ら算定し適法な申告納税をすることが不可能となり,更正処分を受けるリスクにさらされ続けることになる。したがって,納税者が申告時に利用できなかった資料に基づき独立企業間価格を算定して申告の適否を判断して更正処分を行うことは,法律に「特段の定め」がない限り認められないと解するべきであり,上記「特段の定め」は租税特別措置法66条の4第7項があるのみであるから,同条の4第9項の調査の結果得られた資料(納税者に入手可能でない資料)を用いて同条の4第2項に基づき本件各処分を行うことは,同条項に違反するばかりか,国民生活に法的安定性と予測可能性を保障することを目的とする租税法律主義(憲法84条)及び適正手続を保障した憲法13条及び31条に違反し,申告納税主義を採用する法人税法74条及び国税通則法16条の規定にも違反する。

  (3) 過少申告加算税を課すべきでない「正当な理由」があること

    本件各更正処分は,処分行政庁がシークレット・コンパラブルの情報を用いる以外に独立企業間価格を算定することはできないと判断してしたものであるところ,控訴人が非公開であるシークレット・コンパラブルの情報を入手することは不可能であることは明らかである。

    したがって,シークレット・コンパラブルの情報を用いて算定された独立企業間価格を税額計算の基礎としなかったことについては,真に控訴人の責めに帰することができない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお,控訴人の過少申告加算税を付加することは不当又は酷になるというのが相当であるから,本件においては国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があり,過少申告加算税の付加を決定した本件各賦課決定処分は取り消されるべきである(最高裁第一小法廷平成18年4月20日判決・民集60巻4号1611頁,最高裁第三小法廷平成18年4月25日判決・民集60巻4号1728頁,最高裁第三小法廷平成18年10月24日判決・民集60巻8号3128頁)。

 5 当審における控訴人の補充主張に対する被控訴人の認否及び反論

  (1)ア 控訴人の主張(1)ア(基本3法と同等の方法を用いることができない場合に当たることの主張立証責任)は,否認又は争う。

     なお,課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず基本3法と同等の方法の適用対象となり得る比較対象取引が見つからない場合に,そのような比較対象取引は存在せず,当該事案に基本3法と同等の方法を適用することができないと事実上推定することは,何ら論理則及び経験則に反するものではない。

   イ 同(1)イ(課税庁が「合理的な調査を尽くした」といえるか否かについて)は,否認又は争う。

    (ア) そもそも控訴人のように,自らは商品の仕入販売の当事者となることなく,他の法人が卸売業者等に対して販売している商品に関して販売促進等の役務提供のみを行うという形態の事業を営んでいる法人は,稀にしか存在しない。また,仮にそのような形態の取引が存在するとしても,別法人の間で同一の商品の仕入販売とその販売促進等の役割を分担することは,親子会社のような特殊な関係にある関連者同士であるからこそ可能なのであって,独立の企業間でこのような取引が行われている可能性は非常に低い。したがって,本件国外関連取引について,租税特別措置法66条の4第2項第2号イ,同項第1号イないしハの要件を満たす比較対象取引を選定することは,もともと極めて困難である。こうした状況の下にあって,P4調査官は,原判決が判示するように,その専門的な知識経験に照らし,通常想定できる調査方法を尽くしたものの,基本3法と同等の方法の適用対象となり得る比較対象取引を見い出すことができなかったものである。

    (イ) また,本件報告書(乙23号証)が採用しているのは,「原価基準法(と同等の方法)」ではなく,「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」であるから,本件報告書を根拠として,原価基準法の適用が可能であることが示されていると主張するのは事実に反する。すなわち,原価基準法と同等の方法の適用対象となる役務提供取引を行っている法人の場合,そもそも「在庫リスク」を負うことはあり得ないはずであるところ,本件報告書にいう「独立販売代理店」は「在庫リスクをほんのわずかしか負っておらず」と記載されていること(同号証訳文16頁21行目),本件報告書において選定された比較対象法人8社はいずれも電気通信製品等の再販売者(仕入販売業者)であることからすると,本件報告書は,本件国外関連取引が役務提供取引であるにもかかわらず,あえて仕入販売取引を比較対象取引に選定しているのであるから,その独立企業間価格の算定方法が,「原価基準法(と同等の方法)」そのものではなく,「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」であることは明らかである。そうすると,本件報告書においても,本件国外関連取引について,基本3法と同等の方法の適用対象となる比較対象取引が存在しないことが前提とされているものというべきである。

   ウ 同(1)ウ(処分行政庁の採用した本件算定方法の誤り)は否認又は争う。

    (ア) 同(イ)について,原判決は,再販売価格基準法が「取引当事者の果たす機能や負担するリスクが重要視される算定方法であること」を踏まえた上で,本件国外関連取引において控訴人が果たしている機能及び負担するリスクが,受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクに類似しているといえることから,本件算定方法が再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たると判示したものであり,控訴人の原判決に対する批判は当たらない。

    (イ) 同(ウ)について,原判決は,本件算定方法が再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たるか否かという問題(原判決46頁以下)と,本件算定方法に基づいて選定された本件比較対象取引に具体的に比較可能性が認められるかという問題(原判決51頁以下)とを明確に区別して判断しているのであるから,控訴人の批判は当たらない。

    (ウ) 同(エ)について,控訴人は,被控訴人が「控訴人が行っている取引は,控訴人が本件国外関連者からP3製品を購入し,これを販売支援サービスと共に卸売業者に販売する取引(仕入販売取引)と同視できるから,本件取引が実質的にこうした仕入販売取引であるとみなして,再販売価格基準法を適用することに合理性があると主張する。」などと述べ,そのような理解を前提として当該主張を論難するが,それは被控訴人の主張を曲解するものである。すなわち,被控訴人は,本件国外関連取引が仕入販売取引ではなく役務提供取引であることを前提に,再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法を適用することができると主張しているものであり,本件国外関連取引を「仕入販売取引であるとみなして,再販売価格準法を適用する」と主張しているわけではない。したがって,この点に係る控訴人の主張は,いずれもその前提を誤ったものであり,失当である。

      この点を措くとして,控訴人の個々の主張に対する反論は以下のとおりである。

     a 控訴人は,実質的にディストリビュータ(卸売業者)への再販売取引そのものと全く同じ活動を行っているわけではないから,本件において,再販売価格基準法を「準ずる方法」として適用する余地はない旨主張する(控訴人の主張(1)ウ(エ)a)。

       しかし,被控訴人は,控訴人が「実質的にディストリビュータ(卸売業者)への再販売取引そのものと全く同じ活動を行っている」といえるか否かを問題としているのではなく,P3製品の販売において控訴人の果たしている機能及び負担しているリスクが,受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似しているということができることなどから,本件算定方法が再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たると解しているのであるから,控訴人の上記主張は理由がない。

     b 控訴人は,再販売価格基準法において取引段階に差異がある場合には比較対象取引にならないところ,被控訴人は二次卸取引や小売取引をもって本件比較対象取引としているから,本件算定方法は合理的でない旨主張する(同b)。

       しかし,一般に,再販売価格基準法の適用対象となる比較対象取引の選定に当たり,小売又は卸売,一次問屋又は二次問屋等の取引段階の差異が考慮要素とされているのは,かかる取引段階が異なることにより,当該取引において再販売者が果たす機能及び負担するリスクが大きく異なるためである。これに対し,本件算定方法は,あくまでも,役務提供取引である本件国外関連取引が受注販売方式を採る仕入販売方式に機能及びリスクの点で類似していることに着目し,受注販売方式を採る仕入販売取引を比較対象取引に選定して独立企業間価格を算定しようとするものである。そうであるとすると,取引段階がどのようなものであれ,機能及びリスクの観点から本件国外関連取引との類似性が認められる受注販売方式を採る仕入販売取引であれば,これを比較対象取引とすることに何ら問題はないというべきであるから,控訴人の上記主張は理由がない。

     c 控訴人は,本件国外関連者に対して役務を提供してその対価を受領する取引を行っているものであって,卸売業者等に対して役務を提供して対価を受領する取引は行っておらず,卸売業者等が役務の対価を支払っているものでもないなどと主張する(同c)。しかし,本件各業務委託契約書(乙9号証の1・2)によれば,控訴人が,本件各業務委託契約に基づき,本件国外関連者に対する債務の履行として,卸売業者等に対して販売促進等のサービスを行うという内容の役務を提供していたことは明らかである。

       また,本件国外関連者は,上記役務提供の対価を控訴人に対して支払っていたのであるから,そのコストが本件国外関連者と日本の卸売業者等との間の取引価格に織り込まれていることは明らかである。

     d 控訴人は,サービスの販売取引をしている控訴人の利益率を算定するためには,モノとサービスを販売する本件比較対象取引の利益率からモノを販売する取引の利益率を控除する必要があるのであり,本件算定方法は合理性に欠ける旨主張する(同d)。

       しかし,控訴人は,日本において,P3製品の販売促進,マーケティング,宣伝広告,トレーニングコースの提供,サポートサービスの提供等を行っていたところ,これらの役務の内容は,再販売取引において再販売者が果たす機能と類似しているということができる。そうである以上,控訴人とは異なる再販売者固有の機能は,上記販売促進等の機能から切り離された純粋な商品の受発注及び配送手配,仕入代金の支払及び販売代金の受領等の事務処理作業にすぎない。そして,こうした事務処理作業を通じて商品の取引価格や売上総利益率に影響するような多大な利益が生じることは想定し難いから,本件算定方法において,控訴人のいう比較対象法人固有の「モノを販売する取引の利益率」を比較対象取引の利益率から控除する必要があるとは認められず,結局,控訴人の上記主張は理由がない。

     e 控訴人は,エンドユーザーの中には専らリセラー等の活動を受けてP3製品を購入する者も少なくないにもかかわらず,本件算定方法は本件国外関連者の売上高全体に対して本件比較対象法人の売上総利益率を乗じている点において誤りであると主張する(同e)。