ホンダ事件 東京高裁平成27年5月13日

佐藤修二『租税と法の接点』大蔵財務協会・2020年110頁

法人税更正処分等取消請求控訴事件

 

【事件番号】       東京高等裁判所判決/平成26年(行コ)第347号

【判決日付】       平成27年5月13日

【判示事項】       自動車の製造及び販売を主たる事業とする内国法人である原告が,その間接子会社である外国法人であり,ブラジル連邦共和国アマゾナス州に設置されたマナウス自由貿易地域(マナウスフリーゾーン)で自動二輪車の製造及び販売を行っているA社及びその子会社との間で,国外関連取引を行ったことにより支払を受けた対価の額につき,残余利益分割法を適用した独立企業間価格の算定が違法であるとし,法人税更正処分等の取消等を求め,一審は原告の請求を全部認容したため,被告である国が控訴した事案。裁判所は,マナウスフリーゾーンで事業活動を行うことによる税制上の利益であるマナウス税恩典利益を享受していないブラジル法人を検証対象法人として選定し,かつマナウス税恩典利益の享受の有無についてなんらの再調整も行わなかったことについて違法であるとした原審の判断を維持し,控訴審でなされた控訴人の予備的主張も含め,控訴人の請求を全部棄却した事例

【掲載誌】        税務訴訟資料265号順号12659

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1485号10頁

             別冊ジュリスト228号142頁

             税研208号167頁

 

       主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 (主位的)

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

 (予備的その1)

  原判決主文第1項ないし第4項を次のとおり変更する。

 1 処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし,平成19年7月9日付け異議決定による一部取消し後のもの。以下「本件更正1」という。)のうち納付すべき税額508億7211万9300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし,上記異議決定による一部取消し後のもの。以下「本件賦課決定1」といい,本件更正1と併せて「本件更正等1」という。)のうち過少申告加算税の税額2億4972万5000円を超える部分を取り消す。

 2 処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正2」という。)のうち納付すべき税額485億8414万4800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定2」といい,本件更正2と併せて「本件更正等2」という。)のうち過少申告加算税の税額1億6353万9000円を超える部分を取り消す。

 3 処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正3」という。)のうち納付すべき税額マイナス(還付金の額に相当する税額)16億1275万2821円を下回る部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定3」といい,本件更正3と併せて「本件更正等3」という。)のうち過少申告加算税の税額1462万2000円を超える部分を取り消す。

 4 処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正4」という。)のうち納付すべき税額66億6500万8100円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定4」といい,本件更正4と併せて「本件更正等4」という。)のうち過少申告加算税の税額175万7000円を超える部分を取り消す。

 (予備的その2)

  原判決主文第1項,第2項及び第4項を次のとおり変更する。

 1 本件更正1のうち納付すべき税額499億6892万5500円を超える部分及び本件賦課決定1のうち過少申告加算税の税額1億5940万6000円を超える部分を取り消す。

 2 本件更正2のうち納付すべき税額478億0184万0700円を超える部分及び本件賦課決定2のうち過少申告加算税の税額8530万9000円を超える部分を取り消す。

 4 本件更正4のうち納付すべき税額66億6649万9000円を超える部分及び本件賦課決定4のうち過少申告加算税の税額190万6000円を超える部分を取り消す。

 (主位的,各予備的共通)

   訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要等

 1 事案の要旨

   本件は,自動二輪車及び四輪車の製造及び販売を主たる事業とする内国法人である被控訴人が,その間接子会社であり,ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という。)アマゾナス州に設置されたマナウス自由貿易地域(以下「マナウスフリーゾーン」という。)で自動二輪車の製造及び販売事業を行っている外国法人であるA(以下「A社」という。)及びその子会社との間で,自動二輪車の部品等の販売及び技術支援の役務提供取引(以下「本件国外関連取引」という。)を行い,それにより支払を受けた対価の額を収益の額に算入して,平成10年3月期(平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度をいう。以下,他の事業年度についても同様である。),平成11年3月期,平成13年3月期,平成14年3月期及び平成15年3月期(以下,これらの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告をしたところ,処分行政庁から,上記の支払を受けた対価の額が租税特別措置法(平成10年3月期,平成11年3月期及び平成13年3月期については平成13年法律第7号による改正前のもの,平成14年3月期については平成14年法律第79号による改正前のもの,平成15年3月期については平成18年法律第10号による改正前のもの。以下,これらの改正前のものを包括して「措置法」という。)66条の4第2項1号ニ及び2号ロ,租税特別措置法施行令(平成10年3月期,平成11年3月期及び平成13年3月期については平成13年政令第141号による改正前のもの,平成14年3月期及び平成15年3月期については平成16年政令第105号による改正前のもの。以下,これらの改正前のものを包括して「措置法施行令」という。)39条の12第8項に定める方法(以下「利益分割法」という。)により算定した独立企業間価格(以下「本件独立企業間価格」という。)に満たないことを理由に,措置法66条の4第1項の国外関連者との取引に係る課税の特例(以下,この特例に基づく税制度を「移転価格税制」という。)の規定により,本件国外関連取引が本件独立企業間価格で行われたものとみなし,本件各事業年度の所得金額に本件独立企業間価格と本件国外関連取引の対価の額との差額を加算すべきであるとして,本件更正等1ないし4並びに,平成16年6月29日付けでされた被控訴人の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし,平成17年4月27日付け更正による一部取消し後のもの。以下「本件更正5-1」という。)及び過少申告加算税賦課決定(ただし,同日付け変更決定による一部取消し後のもの。以下「本件賦課決定5」といい,本件更正5-1と併せて「本件更正等5-1」という。),さらに平成18年3月28日付けでされた被控訴人の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正5-2」という。)を受けたため,処分行政庁の所属する国を被告として,本件更正等1ないし本件更正等5-1並びに本件更正5-2(以下「本件各更正等」という。)の一部又は全部の取消しを求める事案である。ただし,被控訴人は,本件更正5-1と本件更正5-2については,選択的に取消しを求めている。

   被控訴人は,処分行政庁がした本件独立企業間価格の算定(本件では,利益分割法のうちの残余利益分割法を用いている。)は,A社及びその子会社(以下「A社等」という。)がマナウスフリーゾーンで事業活動を行うことにより享受している税制上の利益(以下「マナウス税恩典利益」といい,その基礎となる税制度を「マナウス税恩典」という。)が,本来A社等が事業活動を行う市場の条件に基づくものであるからA社等に帰属すべきものであるのに,それが被控訴人にも配分されるべきものであることを前提としている点で既に誤っており,また,そのほか,被控訴人の貢献を過大に評価していて本件独立企業間価格の算定が高額に過ぎるなどとして,本件各更正等は違法である旨主張している。

   本件の当事者等及び本件国外関連取引の概要は,原判決別図(X1(株)取引関係図)のとおりであり,また,本判決の本文及び各別紙において用いる略語のうち主要なものは,原判決別紙1(略語一覧)のとおりである。

   原判決は,本件各更正等は,マナウス税恩典利益がA社等に属することの影響を考慮せずに残余利益分割法を適用して算定した本件独立企業間価格に基づくものであるところ,本件国外関連取引の対価が独立企業間価格に満たないとの立証があるとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく違法であるとして被控訴人の各請求をいずれも認容したので,これを不服とする控訴人が,原判決を取り消して被控訴人の各請求を全て棄却することを求めて控訴した。なお,控訴人は,当審において,残余利益分割法の適用における必要な差異調整を行うなどすると,本件各更正等を一部取り消すことになるので,そのように原判決を変更することを求めるとの予備的主張1及び2を追加した。

 2 法令等の定め,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張の要旨

   法令等の定め,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張の要旨は,下記のとおり原判決を補正し,下記第3の2のとおり控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論を摘示するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する。

  (原判決の補正)

  (1) 16頁17行目,同18行目,170頁17行目及び同18行目の各「過少申加算税」をいずれも「過少申告加算税」に改める。

  (2) 324頁5行目の「通常の事業状況にない」を「関連会社との取引割合の大きい」に改める。

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も,原審と同様に被控訴人の各請求はいずれも理由があると判断する。その理由は,下記2のとおり控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論を摘示し,下記3のとおりこれらに対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。

 2 控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論

  (1) 控訴人の当審における補充主張

   ① 残余利益分割法の基本的利益の額の算定における検証対象法人と比較対象法人との間の事業活動を行う市場の類似性の判断は,総費用営業利益率に基づき行われるべきところ,マナウス税恩典利益の享受の有無は,総費用営業利益率に重要な影響を与えるものではない。仮に与えているとしても,重要な無形資産の寄与によるところが大きいものである。したがって,マナウス税恩典利益の享受は,本件におけるA社等と本件のブラジル側比較対象企業との間の市場の類似性を否定するものではない。

    ア 原判決は,要旨以下のとおり判示する。

      マナウス税恩典利益を享受する法人は,その輸入税(連邦税)及びICMS(州税)の負担が減免され,それにより売上原価が低減して,利益を増大させることができる。そうするとマナウス税恩典利益を享受している検証対象法人と,マナウス税恩典利益を享受していない比較対象法人とでは,市場の類似性はない。

      本件でも,マナウス税恩典利益の享受がA社等の営業利益に大きな影響を及ぼしたことは明らかであるのに対し,控訴人がブラジル側比較対象法人としたブラジル側比較対象企業は,いずれもマナウスフリーゾーン外で事業をしており,マナウス税恩典利益を享受していないのであるから,両者の間に市場の類似性はなく,A社等との比較可能性を欠く。控訴人が,そのことについて何らの差異調整をしないまま,ブラジル側比較対象企業に基づきブラジル側基本的利益を算定し,本件独立企業間価格を算定したことは誤りである。

    イ しかし,上記判断には誤りがある。

      まず,残余利益分割法は,基本三法が使えない場合に適用される最後の手段(ラストリゾート)であるから(措置法66条の4第2項1号ニ及び2号ロ),その基本的利益の算定において,比較対象法人に求められる比較可能性の程度は,基本三法におけるそれより緩やかなものであり,検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定する理由となる差異は,比較の信頼性に重要な影響を与えることが客観的に明らかな差異に限られるべきである。

    ウ 基本的利益の額の算定上,事業活動を行う市場の類似性の判断は,マナウス税恩典の利益の多寡や営業利益に占める割合ではなく,総費用営業利益率で判断すべきである。そして,以下の理由から,マナウス税恩典は,ブラジル側比較対象企業の総費用営業利益率に重要な影響を与えることが明らかであるとはいえない。

     (ア) マナウス税恩典は,輸入税やICMSの減免により売上原価の低減をもたらすものの,その低減額は,部品の輸入割合の多寡や,アマゾナス州以外の州からの部品や原材料の購入額の多寡といったような事業形態等により大きく異なるものである。

     (イ) マナウス税恩典は,各種拠出金等の支出を伴う。

       また,マナウスはブラジル北部の,アマゾンの奥地にあり,主要な大都市が集中するブラジル南東部はもちろん,ブラジル第3の人口を有する都市のある北東部からも遠隔の地にあって,マナウスフリーゾーンで操業することにより物流コスト及び保険料(物流コスト等)の増加がもたらされる。これは総費用営業利益率を低下させる。

       A社等の物流コスト等の割合が高くないとしても,それは事業規模が大きいため大量輸送により費用効率が高められたためであり,重要な無形資産を有さず,一定の事業規模を達成できない法人には当てはまらない。

     (ウ) マナウス税恩典利益を享受する企業は,中長期的な視点から,通常,市場シェアの拡大や維持を目指すという目的で,それを販売価格の低減に用いることが合理的に予測される。すなわち,マナウス税恩典利益は消費者に移転されることになり,これも総費用営業利益率を低下させる要素となる。現に,マナウス税恩典利益を享受している企業の最終製品は,そうでない企業の製品より約3割は安いとされている。

       マナウス税恩典利益は事業規模に応じて増加するものであることから,現にA社等も,インフレーションが進む中でも販売価格を据え置くなどして,本件製品の販売量を増加させる事業戦略を採用してきた。

     (エ) 控訴人が現実に調査したところによると,マナウスフリーゾーン内に所在する法人であっても,その総費用営業利益率が,マナウスフリーゾーン外の法人のそれを常に下回っている例があることが判明した。また,マナウスフリーゾーン内に所在する各法人において,法人ごと,事業年度ごとに総費用営業利益率は千差万別であり,規則的な影響はなかった。

       さらに,マナウスフリーゾーン内に所在する法人と,そうでない法人との間で,それぞれの総費用営業利益率の中位値の較差もわずかであった。

    エ 仮に,マナウス税恩典が総費用営業利益率に重要な影響を与えているとしたら,それは,重要な無形資産の寄与によるものであり,基本的利益の算定における検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定するものではない。

      すなわち,マナウス税恩典利益の多寡は,その仕組みから事業の規模と正の相関関係にあるところ,重要な無形資産を有しない法人の製品が,短期的にはともかく,長期にわたって市場からの支持を受けて事業の規模を拡大維持することはできない。重要な無形資産こそが,事業の規模を拡大維持させ,享受するマナウス税恩典利益を増加させ,もって総費用営業利益率の向上に重要な影響を与えるものである。

      現に,マナウス税恩典利益を受けて自動二輪車市場で事業を行い,かつ重要な無形資産を有しない企業の1つは,平成17年から販売台数及び販売シェアを急速に伸ばしたものの,平成21年には大幅に販売台数が落ち(ただしこの年は自動二輪車の総生産台数が大幅に減少している。),自動二輪車の総生産台数が増加傾向になった後も同社は販売台数を減らしたという事実がある。

      以上のとおり,重要な無形資産の存在が,マナウス税恩典利益の拡大,ひいては総費用営業利益率の向上に重要な影響を与えている以上,マナウス税恩典利益は,残余利益分割法の性質上残余利益として観念すべきであり,その反面,マナウス税恩典利益を基本的利益の算定において考慮して,検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定することは相当でない。

   ② 当審における予備的主張1及び2

     上記①のとおり,本件においてマナウス税恩典利益の享受の有無につき差異調整をする必要はない。

     しかし,控訴人は,予備的に,以下のとおり総費用営業利益率の差について差異調整をするなどした上での,本件各更正等の一部取消しの主張をする。

    ア 予備的主張その1

     (ア) マナウス税恩典利益の影響を受けている状態のA社等の総費用営業利益率(X)と,そうでない状態の総費用営業利益率(Y)から,マナウス税恩典利益がA社等の総費用営業利益率に与えている影響度(Z)を求める。

       Xは,A社等の営業利益(=売上-総費用)を,総費用(=原価+販売管理費)で除した数値である。

       Yは,上記の「(営業利益=売上-総費用)/(総費用=原価+販売管理費)」の数式において,売上に関しては,その増加要因としてICMS税額免除及びICMS税減免があり,低減要因として各種拠出金等(FMPE等)があり,また,原価において,その増加要因として物流コスト等があり,低減要因としてICMSみなし仕入税額控除及び輸入税の軽減があるので,これらの影響を排除して計算した数値となる。

       Zは,XをYで除した数値とする。

       このZを,マナウス税恩典利益を受けていない状態である本件のブラジル側基本的利益率に乗じると,マナウス税恩典利益を受けている状態のブラジル側基本的利益率となる。この差異調整後のブラジル側基本的利益率に,A社等の総費用から重要な無形資産の価値の指標となる費用の額を控除した額を掛け合わせると,差異調整後のA社等の基本的利益の額が算出される。

     (イ) 以上に基づき計算すると,原判決主文第1項ないし第4項は,前記第1の「予備的その1」のとおり変更されるべきである。

     (計算過程は別紙1-1及び同1-2のとおり)

    イ 予備的主張その2

      仮に,被控訴人が原審で主張する,マナウス税恩典利益の全額を,ブラジル側基本的利益の額に加算する方法(なお,これは,残余利益分割法における差異調整として法令の規定に整合しないものである。)を採用したとしても,前記第1の「予備的その2」のとおり,原判決は一部変更されることになる。

    (計算過程は別紙2-1及び同2-2のとおり)

    ウ 被控訴人の反論に対する再反論

      控訴人の予備的主張1及び2は,違法な理由の差し替えに該当しない。

      課税処分取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり,当該課税処分によって確定した税額(租税債務)が,総額において租税実体法によって客観的に定まっている税額を超えていないか否かを審理の対象とするものであって,処分時と異なる理由を控訴人が主張しても,処分の同一性は失われず,青色申告者に対する更正処分に更正の理由の付記を求めた法(法人税法130条2項,所得税法155条2項)の趣旨に反しない理由の差し替えは認められる。

      本件でも,残余利益分割法を採用していること,比較対象法人として,同一のブラジル側比較対象企業を用いていることには変わりなく,予備的主張1及び2で控訴人が主張した事実関係は,本件各更正等における事実(ブラジル側比較対象企業の基本的利益の額の算定)と直接関係する,いわば本件各更正等の延長上にある。また,いずれも,「国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないこと」という同一の課税要件事実に係るものである。さらに,予備的主張1及び2は,差異調整をすべきであるという被控訴人の各主張に対応するものである。

      よって,控訴人の予備的主張1及び2は,理由付記を求めた法の趣旨を害さず,適法な理由の差し替えとして許容されるべきものである。

  (2) 被控訴人の反論

   ア 控訴人の上記①の補充主張は,おおむね原審でした主張の繰り返しにすぎず,理由がない。

   イ 控訴人の予備的主張1及び2は,違法な理由の差し替えに該当するものであって許されない。

     残余利益分割法において,検証対象取引と比較対象取引との間に差異がない旨の主張と,差異が存在するが調整することができるとの主張は,異なる課税要件事実に係るものであり,基本的な課税要件事実の同一性があるとはいえない。

     被控訴人は青色申告書による申告の承認を受けた法人であり,課税処分の具体的根拠の開示を受けて,不服申立ての便宜が図られるという手続的な権利を保障されているところ,このような理由の差し替えは,上記手続的権利の保障の趣旨を没却するから,許されるべきではない。

   ウ 予備的主張1に係る差異調整は不適切なものである。すなわち,控訴人の主張する差異調整は,A社等の全体の総費用及び営業利益について,すなわち,重要な無形資産の寄与に係る残余利益に係るものも含めて算定したA社等の総費用営業利益率を算定してなされている。これでは,重要な無形資産を持たないブラジル側比較対象企業の基本的利益についての適切な差異調整たり得ない。

     また,控訴人が用いた物流コスト等の費用の証拠(甲133)は,物流コスト等の影響を考慮してもマナウス税恩典利益の影響が大きいことを証明するために保守的に(被控訴人に不利に)算定された内容のものであり,適切な差異調整に用いることができるほど精密なものではない。

     予備的主張2についても,被控訴人の原審における主張は,マナウス税恩典利益がブラジル側比較対象企業の比較可能性を否定することの論証のためにしたものにすぎない。また,控訴人は,被控訴人が上記論証で加味した物流コスト等や人件費の較差について適切な差異調整を行っていない。

 3 前記2の各主張に対する当裁判所の判断

  (1) 上記主張①について

   ア 残余利益分割法においては,基本三法に比較して,比較対象法人に求められる比較可能性の程度は緩やかであるとしても,また,総費用営業利益率により市場の類似性の判断をしたとしても,マナウス税恩典利益は,本件のブラジル側比較対象企業とA社等との比較可能性に重大な影響を及ぼすものであり,適切な差異調整をすることなくなされた本件各更正等は違法であり取り消されるべきことは,前記引用に係る原判決の説示及び後記当審における説示のとおりである。

   イ マナウスフリーゾーンで操業することは,物流コスト等の増加をもたらし,また,各種拠出金等を負担することになって,これが総費用営業利益率の低下をもたらすことは,控訴人の主張するとおりである。しかし,以下に述べるとおり,これを考慮しても,マナウス税恩典利益は,A社等の営業利益を大きく増加させることは,原判決が説示するとおりである。

    (ア) 各種拠出金等の額は,ICMS税軽減額の6パーセント(中小企業奨励金,FMPE),ICMSみなし仕入税額控除額の1パーセント及び輸入品のFOB価格の2パーセント(観光・地方開発事業基金,FTI)並びにICMSみなし仕入税額控除額の10パーセント(アマゾナス州立大学奨励金,UEA)であり,これらは,マナウス税恩典利益の概ね10パーセント程度にすぎないと概算される。

    (イ) 物流コスト等の増加分については,A社等において,多くともマナウス税恩典利益の3分の1未満であると推認することができ(甲133,253),マナウス税恩典の総費用営業利益率に対する重要な影響を否定するとはいえない。