投票の秘密 最高裁昭和25年 司法試験短答式憲法令和4年代13問ア
憲法判例百選 第6版 164事件 第8版 159事件
町会議員選挙無効確認事件
最高裁判所第1小法廷判決/昭和23年(オ)第123号、昭和23年(オ)第124号
昭和25年11月9日
【判示事項】 1、選挙権のない者のした投票と投票の秘密
2、無資格者その他による投票があつた場合の当選人決定の方法
【判決要旨】 1、選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対してなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において取り調べてはならない。
2、無資格者その他による帰属不明の無効投票が他の有効投票中に混入されたときは、それら無効投票を各当選者の得票から差し引いてみて最高位落選者より下位となる者は、これを当選者と決定することができない。(1、2ともに少数意見がある。)
【参照条文】 地方自治法37
衆議院議員選挙法39
地方自治法73
衆議院議員選挙法116-2
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集4巻11号523頁
【評釈論文】 ジュリスト276の2号166頁
別冊ジュリスト21号160頁
別冊ジュリスト44号202頁
別冊ジュリスト69号266頁
別冊ジュリスト96号334頁
主 文
本件各上告を棄却する。
上告費用は各上告人の負担とする。
理 由
上告人A1代理人浅野豊次郎の上告理由第一点について。
しかし、本件のように選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならないことは、既に当裁判所の判例の趣旨とするところであるから、(昭和二三年(オ)第八号同年六月一日第三小法廷判決民事判例集二巻七号一二五頁以下参照)原審が本件無効投票が何人に対してなされたかを確定しなかつたからといつて、違法であるとすることはできない。それ故、所論は採用できない。
同第二点について。
しかし、本件のように無資格者その他による帰属不明の無効投票が他の有効投票中に混入されたときは、それら無効投票を各当選者の得票から差引いて見て、最高位落選者より下位となる者は、これを当選者と決定することができず、従つて、これが当選を無効とすべきことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭和二三年(オ)九八号同年一二月一八日第二小法廷判決民事判例集二巻一四号四七二頁以下参照)されば、これと同趣旨の解釈をした原判決には所論の違法は認められない。
上告人宮城県選挙管理委員会代理人岡本共次郎の上告理由第一点について。
しかし、原判決挙示の証人Dの証言と原判決が適法に確定したE、F、G、H名義で投票されている事実とによれば、右四名が他人に代筆させて投票したとの原判示の認定を肯認することができる。そして、証拠の取捨、証拠調の限度等は原審の裁量に属するところであり、且つ上告人は原審において所論の点について進んで立証をしなかつたのであるから、原審が右証人の証言のみで事実認定をなすに足るものとしそれ以上所論のような証拠調をしなかつたからといつて、所論の違法があるということはできない。それ故、論旨は採用できない。
同第二点について。
しかし、原判決挙示の証拠並びに事実によれば、原判示のI及びJが判示a町に住居を有しないこと、従つて、同町においては選挙権なかつたにかかわらず本件選挙において投票したとの事実認定を肯認することができる。されば、原判決には法律上住居の意義を誤解し又は理由に不備等の違法は認められない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。
この判決は、上告人A1の上告理由に対する裁判官斎藤悠輔の反対意見を除くの外裁判官全員一致の意見によるものである。
上告人A1の上告理由に対する裁判官斎藤悠輔の反対意見は次のとおりである。
論旨第一点、従つて、論旨第二点もその理由あるものと考える。
なるほど地方自治法三七条によつて準用される衆議院議員選挙法三九条に「何人ト雖選挙人ノ投票シタル被選挙人ノ氏名ヲ陳述スルノ義務ナシ」と規定され、また、地方自治法七三条によつて準用される同選挙法一一六条二項には「選挙ニ関シ官吏若ハ吏員又ハ第八条ニ掲グル者選挙人ニ対シ其ノ投票セムトシ又ハ投票シタル被選挙人ノ氏名ノ表示ヲ求メタルトキハ六月以下ノ禁錮又ハ七千五百円以下ノ罰金ニ処ス」と規定され、更らに、憲法一五条四項には「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。」と規定されている。しかし、これら投票の秘密に関する保障は、正当な選挙権者の正当な投票に対する保障であつて、選挙権のない者又は不正投票者を保護するものでないこと憲法一二条の規定に徴しても明瞭である。この点において、大正一一年六月三日以前の行政裁判所の判例を支持する。しかるに多数説が戦々競々として無記名投票制度における投票の秘密を絶対視するのは、濫りに不正を保護するものといわなければならない。しかも、かかる無権利者又は不正投票者の投じた投票は、当選人の当選の結果に影響を及ぼすのであるから、事その個人に止まらず公共の福祉に関するものであるにかかわらず、その何人に投ぜられたかを不問に付した上、更らに、論旨第二点に対する判示のごとき架空な機械的計算を弄するがごときは、公正なるべき選挙をして競輪的不正又は僥倖を生ぜしめる恐れなしとしない。故に先ず無権利者又は不正投票者の投票であるか否かを審理確定し、若しかかる投票であることが明らかであるときは、次に、何人に投ぜられたか否かを審理してその投ぜられた候補者の得票からこれを控除すべく、審理の結果無権利者又は不正投票者の投票であることが明らかであるにかかわらず、しかも、何人に投ぜられたか不明である場合には、その投票に限り、白紙投票と同視して各候補者の得票数から同時に控除して、当選者に対して法定得票数に達しない場合においてのみその当選を無効とすべきものと考える。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 齋藤悠輔
裁判官 澤田竹治郎
裁判官 岩松三郎
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