井上繁規裁判長名判決 整理解雇を解雇権濫用とした東京高裁平成25年

実務に効く労働判例精選 第2版 有斐閣・2018年 16-1

地位確認等請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成25年(ネ)第5181号

平成25年11月13日

【判示事項】    1 事業譲渡による営業所閉鎖に伴う整理解雇が,解雇権濫用に当たり無効と判断した一審判決が維持された例

          2 損益悪化,大幅な債務超過から税や社保料の滞納に至り,場合によっては人員削減をも含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったとは認められるが,経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることは困難であるとして,整理解雇の必要性が否定された例

          3 本件解雇後に,事業譲渡先K社に原告Xらの雇用の要請をしたり,被解雇者の一部にK社への就職を勧誘するなどしたりしたとしても,解雇回避措置として十分なものであったとはいえないとされた例

          4 説明会において事業譲渡について一切言及することなく抽象的な解雇理由に言及するに留まり,組合からの団体交渉の要求に応じていないことなどに照らし,本件解雇について十分な説明・協議が行われたと認めることができないとされた例

          5 解雇期間中の賃金について,本件解雇前の平均賃金からその4割を限度として損益相殺をするのが相当と判断した一審判決が維持された例

【掲載誌】     労働判例1090号68頁

 

       主   文

 

 1 控訴人の被控訴人らに対する本件各控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

 第1 控訴の趣旨(陳述擬制)

1 原判決主文1項及び2項を取り消す。

2 上記の部分につき,被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

 第2 事案の概要

1 本件は,タクシー運送事業を営む控訴人の足立営業所に,タクシー乗務員として勤務していた被控訴人らが,控訴人が被控訴人らに対して行った整理解雇は解雇権を濫用した無効なものである旨主張して,控訴人に対し,それぞれ,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,未払賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 原審は,被控訴人らの地位確認請求をいずれも認容し,未払賃金及び遅延損害金の支払請求につき,原判決別紙1未払賃金一覧表〈略-編注。以下,同じ〉記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容したので,これを不服として,控訴人が本件各控訴を提起した。

3 争いのない事実等,争点及びこれについての当事者の主張は,後記4に当審における控訴人の補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから(ただし,原判決7頁1行目(本誌本号74頁右段10行目)の「K株式会社」の次に「(以下「K社」という。)」を加える。),これを引用する。

4 当審における控訴人の補充主張(陳述擬制)

(1) 人員削減の必要性について

 控訴人は,倒産を回避するため,足立営業所におけるタクシー事業を売却して現金化し,これを資金繰りに使用するほかに採るべき方策が全くなかったことから,同営業所に勤務する被控訴人らを解雇せざるを得なかったものである。

(2) 解雇回避努力について

 控訴人は,K社に対し,被控訴人らを含む足立営業所に勤務していたタクシー乗務員を引き続き雇用してくれることを条件として,事業譲渡を行い,K社に上記乗務員の情報を提供したり,被控訴人らに対して雇用の申入れを行うよう勧誘するなど,できる限りの努力を行ったものである。

(3) 人選の合理性について

 本件解雇は足立営業所におけるタクシー事業を売却するほかなかった結果であり,その人選を検討する余地はない。

(4) 説明・協議について

 控訴人は,2回にわたる説明会において,被控訴人らを含む足立営業所に勤務していたタクシー乗務員を解雇せざるを得なかった経緯について詳細に説明するとともに,本件解雇が有効であるための要件についての見解を明らかにし,質疑応答も行い,十分説明義務を果たしている。また,控訴人は,被控訴人らの労働組合が結成されるのと同時に,被控訴人らの代理人弁護士から協議の申入れがあったため,団体交渉を行うことなく代理人弁護士間で協議を行ったものである。

 第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も,被控訴人らの地位確認請求はいずれも理由があり,未払賃金の支払請求は,原判決別紙1未払賃金一覧表記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。

 その理由は,当審における控訴人の補充主張に対する判断を後記2に付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断

(1) 人員削減の必要性について

 控訴人は,倒産を回避するためには,足立営業所におけるタクシー事業を売却して現金化するほかに採るべき方策が全くなかったことから,同営業所に勤務する被控訴人らを解雇せざるを得なかった旨主張する(前記第2の4(1))。

 しかしながら,前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」中の1(1)に説示のとおり,本件解雇当時の控訴人の経営状況からみて,人員削減を含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったとは認められるものの,経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることは困難であるから,足立営業所に勤務する乗務員の全員を解雇するほどの必要性があったということはできない。

 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

(2) 解雇回避努力について

 控訴人は,被控訴人らを含む足立営業所に勤務していたタクシー乗務員を引き続き雇用してくれることを条件として,K社に事業譲渡を行い,上記乗務員の情報を提供するなどできる限りの努力を行った旨主張する(前記第2の4(2))。

 しかしながら,前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」中の1(2)に説示のとおり,控訴人は,足立営業所の従業員全員を解雇することを前提として,K社との間で事業用自動車譲渡契約又は事業譲渡契約を締結し,特段の解雇回避措置を採ることなく本件解雇を実行したものであり,本件解雇後,事業譲渡先であるK社に被控訴人らを含む控訴人の乗務員の情報を提供して雇用の要請をしたり,解雇された従業員の一部に対してK社への就職を勧誘するなどしたとしても,被控訴人らの雇用確保のための措置として十分なものであったとはいえず,結局,控訴人において解雇を回避するための十分な措置を採ったということはできない。

 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

(3) 人選の合理性について

 控訴人は,本件解雇について,足立営業所におけるタクシー事業を売却するほかなかった結果であり,その人選を検討する余地はない旨主張する(前記第2の4(3))。

 しかしながら,本件解雇当時,控訴人の経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることが困難である以上,本件解雇における解雇人員の選定基準が合理的なものといえないことは,前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」中の1(3)に説示のとおりである。

 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

(4) 説明・協議について

 控訴人は,被控訴人らに対し,2回にわたる説明会において十分説明義務を果たしている上,組合結成後,被控訴人らの代理人弁護士との間で協議を行った旨主張する(前記第2の4(4))。

 しかしながら,控訴人が,K社との間で自動車若しくは事業の譲渡契約を締結し又はそのための交渉をしながら,それについて説明することなく突然足立営業所の従業員全員に対し解雇通告をしたこと,その後の説明会においても,事業譲渡について一切言及することなく抽象的な解雇理由に言及するに留まったこと,組合からの団体交渉の要求にも応じていないことなどに照らし,本件解雇について十分な説明・協議が行われたと認めることができないことは,前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」中の1(4)に説示のとおりである。

 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

 第4 結論

 以上によれば,被控訴人らの地位確認請求はいずれも理由があるから認容すべきであり,未払賃金及び遅延損害金の支払請求は,原判決別紙1未払賃金一覧表記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。

 よって,控訴人の被控訴人らに対する本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

  東京高等裁判所第15民事部

           裁判長裁判官 井上繁規

              裁判官 木太伸広

              裁判官 下馬場直志