国税通則法67条1項但書の正当な理由あり 源泉所得税遅延 平成25年裁決

谷原誠『税務のわかる弁護士が教える税務調査における重加算税回避ポイント』ぎょうせい・2019年231頁     国税不服審判所裁決

平成25年5月21日

【判示事項】    源泉所得税の納付が法定納期限後になったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があったと認められるとした事例

【裁決要旨】     原処分庁は、請求人が賃借する店舗及びその敷地(本件店舗等)の賃貸人が非居住者となった日以後に支払った賃借料についての源泉徴収に係る所得税(源泉所得税)を法定納期限後に納付したことについて、請求人には本件店舗等の賃借料の支払の都度、当該賃貸人が居住者か非居住者かを確認する義務があり、請求人は、単にその確認を怠ったものであると認められるから、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書の「正当な理由があると認められる場合」には当たらない旨主張する。

           しかしながら、不動産の賃貸借等において、賃借料の支払の都度、居住者・非居住者の別を確認することを義務付けた明文の規定はなく、また、本件のように、賃貸人等との接触をほとんど必要としない取引について、そのような煩雑な手続を採ることが必要であるとするのは合理的でないというべきであるところ、請求人は、本件店舗等の賃貸借に係る取引において、当該賃貸人が非居住者に該当することになったことを直ちに知り得る状況になかったと認められ、源泉所得税の納付が法定納期限後となった原因は、当該賃貸人からの連絡が遅れたためであると認められるから、請求人には、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったというべきであり、源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、「正当な理由があると認められる場合」に該当するとするのが相当である。

【参照条文】    国税通則法67-1

【掲載誌】     裁決事例集No.91

 

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃貸人に対して支払った店舗等の賃借料について、当該賃貸人が居住者から非居住者に変更となったため、非居住者となった日以後に支払った賃借料は所得税を源泉徴収すべき国内源泉所得に該当するとして、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)を法定納期限後に納付したところ、原処分庁が、当該源泉所得税をその法定納期限までに納付しなかったとして、不納付加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、法定納期限までに納付しなかったのはやむを得ない事情によるものであるとして、同処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人が当該源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成24年1月及び同年2月に支払った店舗等の賃借料に係る源泉所得税を、別表の「源泉所得税の額」及び「納付年月日」欄のとおり、いずれも法定納期限後に納付した(以下、この納付した各源泉所得税の額を「本件各源泉所得税額」という。)。

ロ 原処分庁(F税務署長)は、平成24年6月26日付で、別表の「賦課決定処分」欄のとおり、不納付加算税の額をそれぞれ○○○○円とする各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、平成24年7月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月17日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月23日に送達した。

ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年11月20日に審査請求をした。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、G(以下「本件賃貸人」という。)との間で、d市e町○-○に所在する店舗及びその敷地の用に供されている土地(以下、併せて「本件店舗等」という。)について、賃貸借期間を店舗開店日から15年間とする旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、平成17年9月29日付の賃貸借契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)を取り交わした。

 なお、本件賃貸借契約書には、本件賃貸人の住所として「f県g市h町○-○」と記載されていた。

ロ 本件賃貸人は、平成20年2月以降に支払う本件店舗等の賃借料を月額○○○○円から○○○○円とする旨の請求人の申入れを承諾し、請求人との間で、平成20年2月26日付の建物賃料改定条件付承諾書(以下「本件賃料改定承諾書」という。)を取り交わした。

ハ 本件賃貸人は、日本国内の○○会社に勤務していたが、平成22年11月30日に退職し、その後、大韓民国の○○会社に就職するため、平成23年11月28日に出国した。これに伴い、本件賃貸人は、平成23年11月29日以後、非居住者に該当することとなった。

ニ 請求人は、平成24年1月分及び同年2月分の本件店舗等に係る賃借料(以下、当該2か月分の賃借料を「本件各賃借料」という。)を、それぞれ平成24年1月20日及び同年2月20日にH銀行i支店の本件賃貸人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件賃貸人口座」という。)に振り込んだ。

ホ 本件賃貸人は、J税務署長から平成24年3月21日付の「非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」(以下「本件免除証明書」という。)の交付を受けた。なお、本件免除証明書の有効期間は、本件免除証明書の発行の日から平成25年3月21日までとなっている。

ヘ 請求人は、平成24年4月17日に本件賃貸人から本件店舗等の管理を任されているK(以下「本件管理人」という。)から、本件免除証明書の提示を受けた。

(4) 関係法令の要旨

イ 通則法第67条第1項は、源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、同法第36条《納税の告知》第1項第2号の規定による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額について、不納付加算税を徴収する旨、また、同項ただし書は、当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。

ロ 所得税法第2条《定義》第1項第3号は、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう旨規定し、また、同項第5号は、非居住者とは、居住者以外の個人をいう旨規定している。

ハ 所得税法第161条《国内源泉所得》第3号は、国内にある不動産の貸付けによる対価は国内源泉所得に当たる旨規定している。

ニ 所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項は、非居住者に対し国内において同法第161条第1号の2から第12号までに掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。

ホ 所得税法第213条《徴収税額》第1項第1号は、同法第212条第1項の規定により徴収すべき所得税の額は、同法第161条第3号に掲げる国内源泉所得については、その金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨規定している。

 

2 主張

 

請求人

 請求人が本件各源泉所得税額を法定納期限までに納付することができなかったのは、下記の(1)ないし(6)の事情によるものであり、源泉徴収義務者である請求人には過失がないから、源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由があるとは認められず、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。

 仮に、請求人に過失があったとしても、上記の「正当な理由」とは、東京地方裁判所昭和51年7月20日判決(昭和49年(行ウ)第144号納税告知処分等取消請求事件)によれば、「不納付加算税が国税の確保のため課せられる税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の制裁であることに鑑み、このような制裁を課することが不当あるいは過酷とされるような事情をいい、・・・必ずしも納税義務者の全くの無過失までをも要するものではなく、諸般の事情を考慮して過失があったとしてもその者のみに不納付の責を帰することが妥当でないような場合を含むものと解するのが相当である」から、本件においては、「正当な理由があると認められる場合」に該当する。

 なお、請求人には本件店舗等の賃借料の支払の都度、本件賃貸人が居住者か非居住者かを確認する義務がある旨の原処分庁の主張の基となっている大阪高等裁判所平成3年9月26日判決(平成2年(行コ)第33号源泉所得税納税告知処分等取消請求控訴事件。以下「大阪高裁平成3年9月26日判決」という。)の判示は、支払者が業務を通じて受給者(支払者の代表取締役)の国内外の滞在状況、勤務形態、国内外における居住等について把握し、実質的な判断をなすことが可能な状況における場合のものであるから、請求人のおかれている状況とは全く異なっている。したがって、本件においては、大阪高裁平成3年9月26日判決の判示を当てはめるのは、適当ではない。

(1) 請求人は、f県に居住している本件賃貸人との間で本件賃貸借契約書を取り交わしたが、本件店舗等の管理は、本件管理人に任されており、また、賃借料の支払は、本件賃貸人口座に毎月振り込んでいることから、本件賃貸人との接触は従来から全くなかった。

(2) 請求人は、本件賃貸借契約書を取り交わす際に本件賃貸人が居住者であることを確認しており、更に、本件賃料改定承諾書を取り交わす際も本件賃貸人が居住者であることを確認した。

(3) 請求人は、本件賃料改定承諾書を取り交わした後も、本件賃貸人口座に継続して賃借料の振込みを行っている。

(4) 請求人は、平成24年4月17日に本件管理人から本件免除証明書の提示を受けた際に、本件免除証明書の発行の日から平成25年3月21日までの間に本件賃貸人に支払う賃借料については源泉徴収を行う必要がない旨の説明を受けたことから、その時点で初めて本件賃貸人が居住者から非居住者になったことを知った。また、本件各賃借料については源泉徴収を行う必要がある旨の説明を受けたことから、本件各源泉所得税額を納付した。

(5) 請求人は、原処分庁所属の職員の指導により、源泉徴収義務者の氏名を本件賃貸人、納付先をJ税務署とする納付書を作成し、平成24年4月26日に本件各源泉所得税額に相当する金額を納付した。その後、J税務署から本件賃貸人の関与税理士を通じて誤納付である旨の連絡があったため、改めて平成24年5月24日に本件各源泉所得税額を納付したのであり、本件免除証明書の提示を受けた後、一月以上放置していたわけではない。

(6) 請求人は、本件賃貸人から、国外へ住所を変更した旨の連絡や賃借料の振込口座を国外の預金口座へ変更する旨の連絡等がない限り、本件賃貸人が非居住者になったことを知る由もない。

原処分庁

 請求人の左記(1)ないし(6)の主張は、本件各賃借料を支払う際に本件賃貸人が居住者であるか非居住者であるか確認しなかった事情を述べているにすぎず、請求人において確認することができなかった特段の事情は認められない。

 ところで、所得税法第212条第1項は、非居住者に対し国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、国に納付しなければならない旨規定している。この場合、支払者が所得税を徴収する必要性を判断するためには、支払を受ける者が居住者か非居住者かを確認することが前提となるが、支払を受ける者自らが支払者に対して、あらかじめ自らが居住者であるか非居住者であるかを申告する義務に関する規定はないことから、支払者が、その支払の都度、支払を受ける者に確認することが予定されているものと考えられる。

 また、大阪高裁平成3年9月26日判決は、請求人が主張するとおり、本件とは事実関係が異なる判例であるが、支払を受ける者が居住者か非居住者かは、支払者が判断すべきものである旨判示している。

 そうすると、請求人は、その支払の都度、本件賃貸人が居住者か非居住者かを確認する義務があると解されるところ、請求人は、単にその確認を怠ったものであると認められることから、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」には当たらない。

 

3 判断

(1) 法令解釈

 通則法第67条第1項に規定する不納付加算税は、源泉所得税の不納付による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に徴収及び納付をした納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、源泉所得税の不納付による納税義務違反の発生を防止し、適正な徴収及び納付の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。

 そして、上記の趣旨に照らせば、源泉所得税の不納付があっても例外的に不納付加算税が課されない場合として通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記の不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人の代表者であるE及び本件管理人の答述から認められる事実

(イ) 請求人と本件賃貸人との間で本件賃貸借契約書を取り交わす際は、本件賃貸人は仕事の関係で立ち会うことができなかったことから、本件賃貸人の母であるL(以下「母L」という。)が本件賃貸人に代わって行った。

(ロ) 請求人と本件賃貸人との間で本件賃料改定承諾書を取り交わす際も、上記(イ)と同様に、母Lが本件賃貸人に代わって行った。

(ハ) 請求人は、本件賃貸借契約書を取り交わした後は、平成18年の請求人の店舗の開店祝い及び上記(ロ)以外で、母Lと接触したことはない。

(ニ) 請求人は、本件店舗等に問題が生じた場合は、本件管理人へ連絡することになっており、請求人が、本件賃貸借契約書を取り交わした後に本件管理人へ連絡したのは次のとおりであり、それ以外で連絡したことはない。

A 本件店舗等の賃借料の値下げの交渉をしたい旨の連絡(平成20年1月頃)

B 台風で店舗のシャッターが壊れた旨の連絡(平成23年の夏)

(ホ) 上記(ニ)以降、本件管理人から請求人へ連絡があったのは、平成24年4月17日だけであり、同日、請求人は、本件管理人から次の事項について説明を受けた。

A 本件賃貸人が非居住者に該当することとなったこと。

B 上記Aに伴い、請求人が本件賃貸人に支払った本件各賃借料について、所得税法所定の源泉所得税を納付しなければならないこと。

(ヘ) 請求人は、本件賃貸借契約に係る月々の賃借料の支払は契約締結時から一貫して本件賃貸人口座に振り込んでおり、また、本件賃貸人から領収書等の交付を受けたことはない。

ロ 請求人は、原処分庁所属の職員の指導により、源泉徴収義務者の氏名を本件賃貸人、住所をf県g市h町○-○とし、納付先をJ税務署とする納付書を作成し、平成24年4月26日に本件各賃借料に係る源泉所得税相当額をそれぞれ納付した。

(3) 当てはめ

 通則法第67条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」とは、上記(1)のとおりであるところ、これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 上記(2)のイの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件賃貸借契約書及び本件賃貸料改定承諾書を取り交わした相手方はいずれも本件賃貸人の代理である母Lであって、それ以外で母Lと接触したのは平成18年の請求人の店舗の開店祝いの僅か1回だけであったこと。

 また、上記(2)のイの(ニ)のとおり、本件店舗等の賃貸借に係る連絡は本件管理人と行っており、上記(2)のイの(ホ)のとおり、本件管理人と平成23年の夏に接触した後の接触は、本件免除証明書の提示を受けた平成24年4月17日であったこと。

 更に、請求人が本件賃貸人と接触した事実は認められず、その必要性もなかったものと認められ、上記(2)のイの(ヘ)のとおり、本件賃貸借契約に係る月々の賃借料の支払は契約締結時から一貫して本件賃貸人口座に振り込まれており、その支払に際して本件賃貸人から領収書等住所が分る何らかの書類が交付された事実は認められず、請求人の住所の変更を知り得る状況にはなかったと認められる。

 これらのことからすると、本件賃貸借契約に係る取引において、本件賃貸人が非居住者に該当することになったことを請求人が直ちに知り得る状況にはなかったと認められる。

ロ そして、請求人は、平成24年4月17日に本件管理人から連絡があって初めて、本件賃貸人が非居住者に該当することとなったことを了知するに至ったことが認められ、平成24年1月20日及び同年2月20日に本件賃貸人口座に振り込んだ本件各賃借料について、所得税を源泉徴収すべきであったことを認識し、現実に、上記(2)のロのとおり同年4月26日に納付手続を採っており、本件管理人から連絡後、遅滞なく納付する意思を有していたものと認められる。

ハ そうすると、請求人は、本件賃貸人が非居住者に該当することとなった事実を直ちに知り得ていれば、当然に法定納期限内に納付が行われたであろうことは、十分推認され、本件各源泉所得税額の納付が法定納期限後となった原因は、本件賃貸人からの連絡が遅れたためであると認められる。

ニ 以上のことからすると、請求人には、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったというべきであり、上記(1)の不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当するというべきである。したがって、請求人には、本件各源泉所得税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、「正当な理由があると認められる場合」に該当するとするのが相当である。

ホ なお、原処分庁は、上記2の「原処分庁」欄のとおり、請求人には本件店舗等の賃借料の支払の都度、本件賃貸人が居住者か非居住者かを確認する義務があるが、請求人は、単にその確認を怠ったのであるから、「正当な理由があると認められる場合」に当たらない旨主張する。しかしながら、不動産の賃貸借等において、賃借料の支払の都度、居住者・非居住者の別を確認することを義務付けた明文の規定はなく、また、本件賃貸借契約に係る取引のように、賃貸人等との接触をほとんど必要としない取引について、そのような煩雑な手続を採ることが必要であるとするのは合理的でないというべきであるから、原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

 上記(3)のとおり、請求人には、本件各源泉所得税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書の「正当な理由」があるものと認められるから、本件各賦課決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

 

別表 審査請求に至る経緯(省略)