子の引渡し保全処分却下の福岡家裁行橋支部令和2年

              仮の地位を定める仮処分(子の引渡し・子の監護者指定)申立事件

福岡家庭裁判所行橋支部審判/令和2年(家ロ)第103号

令和2年10月22日

【掲載誌】       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 1 本件申立てをいずれも却下する。

 2 手続費用は各自の負担とする。

 

       理   由

 

第1 申立ての趣旨

 1 福岡家庭裁判所行橋支部令和2年(家)第457号,同第458号・子の監護者の指定,子の引渡しを求める審判申立事件(以下「本案事件」という。)の審判確定まで,未成年者Aの監護者を仮に申立人と定める。

 2 本案事件の審判確定まで,相手方は,申立人に対し,未成年者Aを仮に引き渡せ。

第2 当裁判所の判断

 1 前提事実

   本件記録(本案事件記録を含む。)及び当裁判所に顕著な事実によれば,以下の事実を一応認めることができる。

  (1)申立人(昭和61年○○月○○日生)と相手方(昭和57年○月○○日生)は,平成28年5月14日に婚姻の届出をし,両名の間には,平成29年○月○○日に長男A(本件対象となる未成年者。以下「未成年者」という。)が,令和元年○○月○日に長女B(以下「長女」という。)が,それぞれ出生した(以下,上記子ら両名を指すときは,「子ら」という。)。

  (2)申立人は,保健所で公務員として稼働している。

    相手方は,小学校の教員であるが,現在は育児休暇中である。なお,職場復帰については,現時点では令和2年12月を予定しているが,長女が保育園に入園できなかった場合には,令和3年4月からの復帰とする予定である。

  (3)相手方は,令和2年5月24日,申立人から,子らを連れて家を出て行くように言われたため,子らとともに実家に戻り,以降,本日に至るまで別居状態にあり,子らは,相手方が監護養育している。

    未成年者の監護補助者としては,同居する相手方の両親がいる。相手方の実父は,自宅に隣接する倉庫兼事務所で食品問屋を経営しており,相手方の実母も家事の合間に事務作業を手伝っているが,稼働時間に融通はきき,未成年者を仕事場に連れて行って面倒を見ることもある。

  (4)申立人は,相手方との別居後の令和2年6月1日,未成年者と日中の面会交流を行ったほか,同月5日から同月6日までの間,申立人宅において未成年者と宿泊を伴う面会交流を行った。

  (5)申立人は,(4)以降,相手方が未成年者の精神的負担等を理由に面会交流を拒絶していることなどを理由として,本件審判前の保全処分の申立てをするとともに,未成年者の監護者指定及び同引渡しを求める本案事件の申立てをした。また,これと同時に,申立人は,相手方との離婚等を求める夫婦関係調整調停事件(福岡家庭裁判所行橋支部令和2年(家イ)第93号事件)及び申立人と子らとの面会交流を求める面会交流調停事件(同第94号,95号事件)の申立てをした。本案事件については,本件と併せて家庭裁判所調査官に対する調査命令が発令されて子の監護状況調査が実施され,その後の期日である令和2年9月24日に調停に付され,上記夫婦関係調整調停及び面会交流調停と併せて次回期日が同年11月5日に指定されている。

  (6)本件及び本案事件については,上記家庭裁判所調査官による調査報告書提出後の期日である令和2年9月10日の第2回期日において,同月12日午前11時から午後5時まで,申立人と子らとの面会交流が実施されることが合意され,また,同月24日の第3回期日において,同年10月10日午前10時から午後1時まで,申立人と子らとの面会交流が実施されることが合意されている。

 2 判断

  (1)審判前の保全処分としての子の引渡命令は,仮の地位を定める仮処分に準じた命令であるから,著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発する(家事事件手続法115条が準用する民事保全法23条2項)ところ,審判前の保全処分としての子の引渡しが命ぜられると,確定を待たずに,強制執行が可能となり(家事事件手続法109条2項),かつ,その方法も直接強制によることが可能と解されることから,子の生育環境に大きな影響を与え,子に精神的苦痛を与える可能性が生じる上,後の裁判において審判前の保全処分と異なる判断がされれば,数次の強制執行により上記の不都合が反復されるおそれがある。したがって,審判前の保全処分として子の引渡しを命じる場合には,現に子を監護する者が監護に至った原因が強制的な奪取またはそれに準じたものであるかどうか,虐待の防止,生育環境の急激な悪化の回避,その他の子の福祉のために子の引渡しを命ずることが必要であるかどうか及び本案事件の審判の確定を待つことによって子の福祉に反する事態を招くおそれがあるかどうかについて審理し,これらの事情と子をめぐるその他の事情とを総合的に検討した上で,審判前の保全処分により子の引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要するものというべきである。

  (2)前提事実(前記1)(3)のとおり,相手方は,令和2年5月24日,申立人から,子らを連れて家を出て行くように言われたため,子らとともに実家に戻り,以降,本日に至るまで,別居状態にあると認められるところ,この相手方が未成年者の監護を開始するに至った経緯には,相手方の強制的な奪取やそれに準じた連れ去りといった事情はない。

    また,本件記録上,未成年者が現在,相手方に虐待されているとか,従前の生育環境と比較して急激に悪化した現状にあるという事情も認められず,それゆえ,本案事件の審判確定を待つことによって,未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあるとは認められない。

    さらに,前提事実(前記1)(5)記載のとおり,本案事件はいまだ審理中であり,今後,話合いによる解決が図られるか,そうでなければ本案事件の審判がされる可能性が高く,家庭裁判所調査官作成に係る調査報告書において,「現状で父を監護者に指定し,未成年者を引き渡したり,きょうだいと分離させることは,かえって未成年者に悪影響を与える可能性が高い」(調査報告書12頁)と指摘されていることも踏まえると,現状を維持することが未成年者の福祉に反するとは認め難い。

  (3)申立人は,保全の必要性として,申立人と未成年者との面会交流が断絶している点を挙げるところ,前提事実(前記1)(4),(5)のとおり,確かに別居直後に2回の面会交流が行われた後,本件申立てに至るまでの間は,一時面会交流が途絶えていたことがあったことが認められる。しかしながら,同(6)のとおり,当事者双方は,本件申立て後の令和2年9月12日及び同年10月10日に,それぞれ,申立人と子らとの面会交流を実施することに合意しており,これまでの申立人と未成年者との関係が良好であったと認められることも踏まえると,今後,上記において合意した面会交流の結果を踏まえて,本案事件及び面会交流調停の期日の中で,今後の面会条件について話し合っていくことになるものと考えられることからすれば,申立人が主張する保全の必要性はもはや失われたというほかない。

    その他,本件全記録によるも,本件において,審判前の保全処分として,未成年者の監護者を仮に申立人と定め,また,相手方に対し,未成年者を申立人に仮に引き渡すよう命じなければならない緊急の必要性を認めるに足りる疎明はない。

 3 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,本件申立ては理由がないから,いずれもこれを却下することとし,主文のとおり審判する。

  令和2年10月22日

    福岡家庭裁判所行橋支部

           裁判官  長尾 崇