組織的犯罪処罰法3条2項で求刑30年 量刑26年の福岡地裁令和2年

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,現住建造物等放火,傷害

福岡地方裁判所/平成26年(わ)第1284号

令和2年1月27日

【掲載誌】       LLI/DB 判例秘書登載

判例評釈 法律時報2021年12月号262頁

       主   文

 

 被告人を懲役26年に処する。

 未決勾留日数中1300日をその刑に算入する。

 

(罪となるべき事実)

第1 (放火事件)

  被告人は,A,B,C,D及びEと共謀の上,平成24年8月14日午前4時26分頃,Fほか2名が現に住居に使用し,かつ,現に同人ら10名がいた北九州市小倉北区a1町b1丁目c1番d1号所在のe1ビル(鉄筋コンクリート造陸屋根等6階建,床面積合計約1025.39平方メートル)において,被告人又はEが,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,同エレベーター内に火をつけた発炎筒を投げ込んで火を放ち,その火を同エレベーターの天井及び3階エレベーター前床面等に燃え移らせ,よって,建造物である同ビルのエレベーターを全焼させるとともに,同ビル3階エレベーター前床面の一部を焼損(焼損面積合計約3.2平方メートル)した。

第2 (f1事件)

  平成24年9月7日当時,被告人は,指定暴力団五代目甲會の二次団体である五代目乙組の組織委員であったものであり,乙組の不正権益を維持・拡大する目的を有していたものであるが,同目的を有していた乙組組長A,同若頭B,同組織委員長G,同筆頭若頭補佐C,同組織委員Hのほか,同風紀委員長I及び同組員Jと共謀の上,組織により,被害者Kを殺害することになってもやむを得ないと考え,乙組の活動として,Aの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って,

 1 同日午前零時58分頃,北九州市小倉北区g1h丁目i番j号k東側駐車場において,タクシーを降車した被害者K(当時35歳)に対し,被告人が,殺意をもって,持っていた刃物でその左顔面を1回切り付け,その臀部を1回突き刺し,もって団体の不正権益を維持・拡大する目的で,かつ,団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが,被害者Kに入院加療約114日間を要する左顔面切創,左顔面神経損傷,右臀部刺創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかった。

 2 前記日時,場所において,前記1の犯行を制止しようとした前記タクシーの運転手被害者L(当時40歳)に対し,被告人が,殺意をもって,前記刃物でその左側頭部等を切りつけ,もって団体の不正権益を維持・拡大する目的で,かつ,団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが,被害者Lに入院加療約14日間を要する左側頭部・左耳介・左頚部・手背部切創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかった。

第3 (g2事件)

  被告人は,A,B,G,C,M,N及びJと共謀の上,平成24年9月26日午前零時38分頃,北九州市小倉北区mn丁目o番p号q出入口前において,Mが,O(当時54歳)に対し,持っていた刃物でその左殿部及び右大腿部を3回突き刺すなどし,よって,同人に入院加療15日間を要する殿部・大腿部刺創,頭部挫創の傷害を負わせた。

第4 (看護師事件)

  平成25年1月28日当時,被告人は,特定危険指定暴力団五代目甲會専務理事兼五代目乙組組織委員,Pは甲會総裁,Qは甲會会長,Aは甲會理事長兼乙組組長,Rは甲會理事長補佐兼丙組組長,Bは甲會上席専務理事兼乙組若頭,Iは甲會専務理事兼乙組風紀委員長,Cは甲會専務理事兼乙組筆頭若頭補佐,Sは甲會専務理事兼乙組若頭補佐,Tは甲會専務理事兼乙組組長秘書,Uは甲會専務理事兼乙組組長付,Hは甲會専務理事兼乙組組織委員,Vは甲會常任理事兼丙組組員であったものであるが,被告人は,P,Q,A,R,B,I,C,S,T,U,H及びVと共謀の上,組織によりW(当時45歳)を殺害することになってもやむを得ないと考え,同日午後7時4分頃,福岡市博多区r町s番t号のu北側歩道上において,甲會の活動として,Pの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って,Sが,Wに対し,殺意をもって,所携の刃物で,その左側頭部等を目掛けて数回突き刺すなどし,もって団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが,Wに約3週間の入院及び通院加療を要する左眉毛上部挫創,顔面神経損傷,右前腕部挫創及び左殿部挫創の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかった。

(事実認定の補足説明)

第1 弁護人の主張及び争点

   弁護人は,(1)放火事件については,①被告人が放火行為を認識したのはe1ビルに火災が発生した後であり,他の共犯者らと放火を共謀していない,②仮に放火罪が成立するとしても,e1ビル内のエレベーターは建物との物理的一体性が認められず,建造物等以外放火罪が成立するのみであり,③仮にエレベーターが建造物と認められたとしても,被告人は,e1ビルが住居として使用され(現住性),盆の時期の深夜の時間帯に人が現在していること(現在性)を認識していない,(2)看護師事件については,①そもそも実行犯であるSには殺意がなく傷害罪が成立するのみであり,②被告人は,組織の活動として被害者に対して不法な有形力を行使することを認識しておらず,他の共犯者らと共謀もしていないと主張しているほか,(3)f1事件については,被告人は同事件の犯行に関与していないとして,被告人の犯人性(被告人が同事件の犯行に実行役として関与したか否か)を争っている。なお,g2事件について犯罪の成立に争いはない。

   そこで,本件においては,弁護人の主張する前記各点が争点となるが,以下,証拠上容易に認められる前提事実を認定した後,客観的事実関係に概ね争いのない放火事件及び看護師事件については,事件が発生した時系列に沿って,放火事件,看護師事件の順に各事件の争点を検討し,最後に,犯人性に争いがあるf1事件について検討することとする。

第2 前提事実

   関係各証拠によれば,以下の事実が容易に認定できる。

 1 甲會

   甲會は,北九州市内に拠点を置き,同市を中心にその周辺地域を縄張りとする暴力団組織である。平成23年7月には,Pを総裁,Qを会長,Aを理事長とする現在の甲會(五代目)が発足したが,その組織内の序列は,総裁,会長,理事長と続き,理事長以下複数の甲會直若による執行部が設けられている。

   平成4年6月26日,甲會(当時の名称は,二代目甲連合丁一家)は,福岡県公安委員会から,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に基づき,指定暴力団として指定され,以後その指定が更新されている。さらに,甲會は,平成24年12月27日,同法に基づき,特定危険指定暴力団として指定され,看護師事件当時その効力が続いていた。

   乙組は,甲會傘下の最大の二次団体であり,平成23年6月には,Aを組長,Bを若頭とする現在の乙組(五代目)が発足した。乙組内の序列は,組長,若頭,本部長,幹事長以下は,組織委員長,風紀委員長,筆頭若頭補佐,若頭補佐,組長秘書,組長付,組織委員などと続いていた。

   また,同じく甲會傘下の二次団体の一つに丙組があり,丙組組長はRであるところ,丙組のように乙組出身者を組長とする甲會の二次団体は乙組一門と称されている。

 2 被告人と甲會との関係

   被告人は,平成16年頃,甲會(当時四代目)の二次団体の一つである戊組の組員となったが,その後服役している間に戊組組長が死亡して戊組が消滅したため,平成23年9月に出所した後には乙組の組員となり,遅くとも平成24年夏以降は,乙組組織委員として活動していた。

第3 放火事件について

 1 認定事実

   関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

  (1) 標章制度とこれに対する乙組の活動状況等

    平成23年に福岡県暴力団排除条例が改正され,暴力団排除特別強化地域に指定された場所で営業する飲食店等が「暴力団員立入禁止」などと記載された所定の標章を掲示した場合,暴力団員が同店内に立ち入ることを禁止する制度が導入され,平成24年8月1日に施行された。

    標章制度施行後,乙組内では,標章の掲示状況を調査することとなり,乙組組員は,北九州市小倉北区v町やw町,a1町等の繁華街を手分けして回り,飲食店等が標章を掲示しているかを調査して取りまとめるなどしていた。

    e1ビルは,前記暴力団排除特別強化地域に指定されているa1町b1丁目に所在する6階建てのビルであり,標章制度施行後には同ビルに入居する複数の店舗が標章を掲示していた。

  (2) 犯行準備状況等

    乙組筆頭若頭補佐のCは,平成24年8月上旬頃,乙組組員のDに指示して,犯行に使用する作業着等4組のほか,灯油入りペットボトル,発炎筒等各2組を用意させ,同月中旬頃には,バイクのナンバープレートを用意させた。また,Cは,その頃,乙組組員のEに指示して車台番号等を削った白色バイクを用意させた。一方,乙組若頭のBは,同月13日頃,Jに指示して赤色スプレー缶2本を用意させた。

    被告人とEは,同日夜,Cから,Eが運転し,被告人が後部座席に乗ったバイクでe1ビルに行くこと,e1ビル内で標章に赤色スプレーを吹き付けることなどの指示(なお,さらに,e1ビル内において火をつけることまでの指示があったかどうかは争いがあり,その事実認定は後に行う。)を受け,その後,Cの案内で,xの砂利の駐車場,e1ビル周辺を回った後にバイクを投棄するy町にある岸壁等を下見した。

    そして,被告人とEは,翌14日未明頃,Dから受け取った作業着等に着替え,Eは,ナンバープレートが付け替えられた前記白色バイクの運転席に乗り,被告人は,Dらがあらかじめ用意していた灯油入りペットボトル,発炎筒,赤色スプレー缶等が入ったリュックサックを背負い,Eが運転する前記白色バイクの後部座席に乗って,y町の高架下にある駐車場からe1ビルに向けて出発した。

  (3) 犯行状況等

    被告人とEは,同日午前4時25分頃,e1ビル前で前記白色バイクから降りると同ビル3階まで階段を上がり,その後,被告人又はEが,同ビル3階において,同階の2店舗(なお,うち1店舗は,第5の1(2)で後述するラウンジ「f1」である。)の出入口付近の壁やシャッターに赤色スプレー缶で赤色塗料を吹き付け,また,同階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,火をつけた発炎筒を同エレベーター内に投げ込んで放火し,同日午前4時26分過ぎ頃,e1ビル前に止めていた前記白色バイクに乗ってその場から走り去った。被告人とEがe1ビル前で白色バイクを降りてから同バイクに戻るまでに要した時間は約1分半であった。その後,Eは,y町の岸壁から前記白色バイクを海中に投棄した。

  (4) e1ビルの状況等

    e1ビルは,鉄筋コンクリート製等の6階建て雑居ビルであり,本件犯行当時,e1ビルの5階には同ビルの所有者とその家族が居住し,1階から4階には飲食店21店舗が入居していた。また,本件犯行時刻頃には,e1ビルには,同ビルの所有者とその家族合計3名がいたほか,同ビル3階で営業中の店舗に合計7名の客及び従業員がいた。

 2 被告人と他の共犯者らとの間の放火の共謀の有無について

  (1) 被告人とEがCから指示を受けてe1ビルに向かい,両名のいずれかが壁等に赤色スプレー缶で赤色塗料を吹き付け,エレベーター内に放火したことは証拠上明らかであるところ,Cが被告人らに対してスプレーを吹き付けることのほかに,火をつけることまで指示したかどうかについては争いがある。

    この点,Cは,被告人とEをe1ビル周辺等に案内した際に,被告人とEに対し,e1ビルの2階か3階に上がって,標章にスプレーを吹きかけることのほか,エレベーター内に灯油をまいて発えん筒(これが「発炎筒」を意味するものとみるべきであることについては後述のとおり)を投げて火をつけることなどを指示した旨供述している。

    そこで,C供述の信用性について検討すると,Cは,自身に対して指示した者や全体の犯罪計画の立案者といった上位者の関与について,供述を拒んだり,曖昧な供述を繰り返しているものの,事件の経緯,犯行計画の概要,下位者の具体的関与状況等については,下位者には分からないような部分を含めて具体的かつ詳細に供述している上,その内容は犯行計画を知りながら下位者に指示をしたというCにとっても不利益なものであり,あえてそのような自己の刑事責任を重くする虚偽の供述をすることは考え難い。

    そして,前記認定のとおり,被告人とEがe1ビル前で白色バイクを降りてから同バイクに戻るまでには約1分半しかかかっておらず,その間に,被告人らは,同ビル3階の2店舗の出入口付近の壁やシャッターに赤色スプレー缶で赤色塗料を吹き付けたほか,同ビル3階に停止していたエレベーター内に放火を行っており,極めて短時間の間にこれらの行為を成し遂げていることからすれば,e1ビル内に入った被告人とEがお互いになすべき行動,すなわち犯行計画を当然に知っていたものと考えざるを得ない。また,前記認定のとおり,被告人自身が灯油入りペットボトルや発炎筒が入ったリュックサックを背負い,白色バイクに乗車してe1ビルに向かっているところ,被告人において,そのリュックサックの中身を確かめたり,中身が何であるかを他の共犯者らに尋ねたりした様子もないことからすれば,被告人は,e1ビルに向かう際には,そのリュックサックの中身を理解していたと考えるのが自然である。このように,C供述は,Cから指示を受けている被告人やEの行動状況とよく整合するものである。

    以上のとおり,被告人らに対し,e1ビルのエレベーター内に灯油をまいて発えん筒を投げて火をつけるなどの指示をしたというC供述は信用でき,そのとおりの事実が認定できる。なお,Cは,被告人らに対し,灯油をまいたエレベーター内に「発えん筒」を投げ込むよう指示したが,それは煙のみを発生させる「発煙筒」である旨の供述もしているが,そもそも犯行現場で煙を発生させる理由に乏しく,Dが実際に用意したのも着火剤としての発炎筒であったことなどに照らせば,Cが被告人ら実行役に指示した「発えん筒」は,当然炎を発生させる「発炎筒」を意味するものと考えるほかない。

    これに対し,被告人は,Cから,e1ビルで標章にスプレーを吹き付けていたずらをするよう依頼されたが,火をつける指示は受けていない旨供述するが,前記認定のとおりの被告人とEの行動状況と明らかに整合しないことなどに照らし,信用できない。

  (2) 以上からすれば,被告人は,Cから,e1ビル内においてエレベーターに灯油をまいて発炎筒を投げて火をつけることなどの指示を受けて,e1ビルに向かい,e1ビル内で放火行為が行われたのであるから,実際にe1ビル3階で放火行為に及んだのが被告人であるのかEであるのかは明らかではないものの,被告人がCを介して他の共犯者らと放火の共謀を遂げた上で,本件犯行が敢行されたことは優に認められる(なお,本件犯行には乙組若頭のBや筆頭若頭補佐のCといった乙組の複数の幹部組員が関与していることに加え,大胆な犯行態様や周到な準備状況,推測される犯行動機等にも鑑みれば,本件犯行は,乙組組長であるAも共謀の上で敢行されたものと認められる。)。

 3 e1ビル内のエレベーターが「建造物」(刑法108条)に該当するか否か

   証拠によれば,本件犯行により焼損に至ったe1ビル内のエレベーターは,積載量400キログラム,6人乗りのものであり,その構造からすれば,取り外すには多額の費用と相当な作業を要し(現に本件犯行後のエレベーターの交換工事においては,エレベーターの撤去費用だけで約242万円がかかっている。),容易には取り外せないものといえることや,e1ビルの住人のほか入居する店舗の従業員,客らが自宅や店舗に出入りするために日頃から使用していたと考えられることからすれば,e1ビル内のエレベーターはe1ビルと物理的にも機能的にも一体となって「建造物」(刑法108条)を構成することは明らかである。