執行文付与に対する異議の提出方法 最高裁昭和55年 民亊執行・保全判例百選第3版15事件

執行文付与に対する異議事件 最高裁判所第1小法廷判決/昭和55年(オ)第51号 昭和55年5月1日
【判示事項】 執行文付与に対する異議の訴においてその請求の原因として請求に関する異議の事由を主張することの許否 【判決要旨】 執行文付与に対する異議の訴においてその請求原因として請求に関する異議の事由を主張することは、許されない。
【参照条文】 民事訴訟法545        民事訴訟法546
【掲載誌】  最高裁判所裁判集民事129号603頁        判例タイムズ419号77頁        金融・商事判例600号22頁        判例時報970号156頁        金融法務事情934号39頁 【評釈論文】 ジュリスト臨時増刊743号146頁        別冊ジュリスト127号38頁        別冊ジュリスト247号34頁        判例タイムズ439号257頁        判例評論264号175頁        民商法雑誌84巻2号202頁        
主   文  本件上告を棄却する。  上告費用は上告人の負担とする。

       理   由   上告代理人佐野實の上告理由について   民訴法五四六条の執行文付与に対する異議の訴における審理の対象は、債務名義に表示された条件が成就したものとして執行文が付与された場合における条件成就の有無、又は承継執行文を付与された場合における債務名義に表示された当事者についての承継の存否のみに限られ、その請求の原因として同法五四五条所定の請求に関する異議事由を主張することが許されないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかであり(昭和五一年(オ)第一二〇二号同五二年一一月二四日第一小法廷判決・民集三一巻六号九四三頁参照)、これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができる。また、本件訴訟の経過に照らし、原審の措置に所論の違法があるものとは認められない。論旨は、いずれも採用することができない。   よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。    (本山 亨 団藤重光 藤崎萬里 中村治朗)   上告代理人佐野責の上告理由   原判決の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の誤解並びに釈明権の不行使、審理不尽の違背があると考える。   一、原判決は控訴人(上告人)の「主張は民訴法五四六条に定める条件の成就、承継以外の実体的事由により判決の執行力を争うものであつて、請求に関する異議の事由となることはあつても、執行文付与に対する異議の訴において承継執行文の付与を争う理由とはならず、当審口頭弁論に照らし控訴人の前記主張をもつて請求に関する異議の訴の追加的変更であつたとみることはできない。」と判断している。  しかしながら、執行文付与の訴において債権者側は債務名義の執行力の現存のみを主張すれば足るとはいえ、いやしくも受訴裁判所が判決手続によつて執行力の存否を確定すべき場合においては、もはや執行力の存在に関する形式的事由と、より根本的なその実体的事由とをはつきりと区別しなければならないという必要はなく同時に債務者側の執行力を排除しこれによつて執行文付与を違法にすることのできる実体上の異議も参酌するのが理論上むしろ当然であり、また実際上も執行に関する訴訟を余りにも定型化し無駄なくりかえしを認めることは訴訟法の理念からしてあまりにも非合目的的であるといわねばならない。  二、執行文付与に対する異議の訴における実体上の請求権に関する事由の主張の可否については判例学説において問題点が存しているようである。  本件に関しては第一審大阪地裁において積極説を前提として証人等実体的事由の存否についての審理が行なわれていた途上、最高裁において最高裁昭和五一年(オ)第一二〇号、昭和52・11・24一小法廷判決が消極説にもとづいて行なわれ、その内容が翌五二年二月項からの「裁判所時報」とやらに登載せられたので、裁判官はそれを理由に当代理人の奇異の念を禁じ得ないまま突如審理うちきり結審せられたものである。  判例時報八七四号の判例批評により問題点の存在をすこしく理解した当代理人は控訴手続をなし、あらためて上訴に基く強制執行停止申請にも予備的請求として請求異議の訴を行なう旨述べて停止決定を得、控訴審においても予備的に請求に関する異議の訴を請求併合をなしたことであつた。  この処置により控訴審において実体的事由に基く御判断も載けるものと考えていたところ、某日の公判廷において裁判長の訴訟御指揮により「別に請求の異議を予備的に請求しなくても執行文付与の異議のみにて実体的事由に基く判断は可能であるから請求異議は撤回してはどうか。」との御発言があり、当代理人は積極説をおとりになつているものと考え、そのとおり、また、もとの執行文付与の異議の訴一本にしぼつたことは記録上、条理、経験法則上明白な事実である。  その後、裁判官の更送、弁論更新が存在したかどうかは記憶に定かではないが、高裁判決は傍論としていかにも請求異議をいえばよいのにと示唆する表現を用いて棄却敗訴せしめているのである。  民事訴訟法の理念の迅速経済性から考えてこのような裁判所の態度は審理不尽であり、釈明権不行使の違法が存在するものであるから原判決は破棄差し戻しのうえ、ふたたび上告人の請求異議の訴の予備的請求を併合し御審理をしなおして戴くべきであると信じる。  近時、当事者主義の風潮が強調されるあまり裁判官の釈明権不行使の違法があまりにしばしば看取せられ、民訴法のもうひとつのそして最大の理念である実態的真実の発見の努力が無視せられているように感じられることは甚だ遺憾である。