司法試験平成18年度 論部式試験 [租 税 法]

〔第1問〕(配点:50)

A 個人 は 平成16年3月3日 Bから 土地・建物 以下 甲不動産 という を 代金6億円で買い受けた。前記代金のうち,2億円は自己資金であったが,4億円は銀行からの借入金であり,10年間の元利均等返済方式による分割弁済で,利息は年10%の約定で借り入れたものであった。AがBから甲不動産を購入した当時,その建物には,Bの親族Cが居住しており,すぐに退去しなかった。Aは,Cと交渉し,ようやく平成17年3月2日に無償で立ち退いてもらい,翌3日から同建物に居住した。その後,甲不動産の所在地一帯を,商業用地として再開発することを計画していた不動産業者Dが,Aに対し,甲不動産を7億円で買い取りたいという申出をしてきた。これに対して,Aは,甲不動産と同等の土地・建物を取得できることと,譲渡所得税等の支払等のため3億円を支払ってもらえることを条件に,甲不動産を譲渡する意向を示した。そこで,Dは,前記再開発のためにはどうしても甲不動産の土地が必要であったため,Aの提示した条件に従うこととし E所有の土地・建物 以下 乙不動産 という を探し出し これをEから代金6億5000万円で購入した。その上で,DとAとは,平成18年3月3日,A所有の甲不動産を代金7億円でAからDに売却する旨の売買契約書と,D所有の乙不動産を代金4億円でDからAに売却する旨の売買契約書をそれぞれ作成し,両不動産を相互に引き渡し,所有権移転登記を行い,DからAに双方の代金額の差3億円が支払われた。

以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

〔設 問〕

. A・D間で甲不動産を7億円で売却する売買契約に基づいて甲不動産が譲渡されたと考えた場合,甲不動産の譲渡によるAの譲渡所得の算定において,法的に問題となる点を指摘して見解を述べなさい。

. 甲不動産の譲渡によるAの譲渡所得の算定において,D所有の乙不動産との交換契約であるとして課税することはできるか。また,交換契約であることを前提として甲不動産の譲渡によるAの譲渡所得を算定する場合,設問1のように売買契約と考えた場合と異なる点を説明しなさい。

 

〔第2問〕(配点:50)

Xは,昭和20年にT町に生まれ,今日までずっとT町で暮らしてきた。Xの父Mは,昭和25年に医薬品等を製造する事業を始め,T町を事業の本拠地と定めた。Xは,昭和50年にこの事業を継承し,漸次これを発展させ,今日のY株式会社を築いた。Xは,昭和60年にY社の筆頭株主となり,それ以来Y社の代表取締役を務めている。ところで,Y社の従業員はそのほとんどがT町に居住しており,新年には,T町所在の宗教法人Uの祭殿に参けいすることを通例としていた。Uの祭殿は,平成10年ころから屋根や柱の傷みが激しく,数度にわたる修繕も限界に達し,改築の必要に迫られていた。この話を聞いたXは,平成17年1月にUの祭殿に参けいした折に U法人の関係者に対し この祭殿は Y社の従業員一同にとって,大切な祭殿だ。私も,子供のころ父に手を引かれ,よく参ったものだ。このように荒廃しているのは見たことがない 改築してはどうか 明日会社へ来なさい と話した そこで 翌日U法人の関係者がY社の事務所を訪ねたところ,Xは 「寄進するからUの祭殿を改築してはどうか と申し出た そこで U法人の関係者は この申出を受けることとし 祭殿改築委員会を組織 。Y社においては,平成17年3月開催の取締役会において,祭殿改築委員会への寄付に係る承認決議がされ,これに基づいて,祭殿改築委員会に対し,平成17年4月に,5000万円が小切手で支払われた(以下「本件5000万円」という 。祭殿改築委員会は,この支払を受けるに当たり,領収証のあて名欄にY社の名前を記載したが,その保存する帳簿書類には,寄付行為の主体をと記していた。

Uの祭殿の改築に伴い,敷地内には「寄付者芳名碑」が建てられたが,その碑には「金5000万円也 Y社代表取締役X」と刻まれた。また,Uの敷地内には,高さ2メートルの「顕彰の碑」が建立されたが,その正面にはMとXのそれぞれの胸像の陶板がはめ込まれ,その下に「M氏,Yグループ創始者 「X氏,Yグループ会長」と刻まれた。Y社は,平成17年1月1日から12月31日までの事業年度の法人税の申告に当たり,本件5000万円の支出を寄附金として損金に算入して申告した。これに対し,所轄税務署長は,前記寄付行為の主体はY社ではなくX個人であり,Xの支出すべき個人的費用をY社が負担したものであるから,Xへの役員賞与であると認定し,Y社に対し,この寄附金の損金算入を否定する法人税の更正 以下 本件更正 という をするとともに 源泉所得税の納税告知 以下 本件納税告知 という )をした。

以上の事案において,Y社の代理人が,本件寄付行為の主体がY社であるとして本件更正及び本件納税告知を争う場合,どのような主張が可能であるかを,予想される所轄税務署長の主張を念頭に置いて,検討しなさい。ただし,所轄税務署長は,同族会社等の行為又は計算の否認の規定に基づく主張はしないものとする。