[労 働 法]平成18年度問題

〔第1問〕(配点:50)

以下のX,Yの言い分を読んで,次の各問いに答えなさい。

. Xの代理人としてYを被告に訴えを提起する場合の請求内容と額を具体的に述べなさい(遅延損害金は除く (配点:8) 。)。

. Yの言い分から,1の訴訟で考えられる争点を挙げ,各争点に対するあなたの見解を述べなさい (配点:42) 。

【Xの言い分】

私は,平成7年3月1日に広告代理店のY社に入社し,以後営業社員として勤務していましたが,Y社は忙しいばかりで,月給は27万円(基本給20万円と営業手当7万円)と安く,嫌気がさしていたところ 以前の同僚から 独立して一緒に広告代理店をやらないかと誘われたので昨年 平成17年 11月中旬ころ 社長に年内一杯で退職したいと申し出ました このときは年が明けたら昇給を考えるからと強く慰留されたので,いったん退職を思いとどまりましたが、今年になっても給料が上がる様子がないので,退職を決断し,元同僚が設立の準備を進めていたP社の取締役になることを承諾しました。そして,本年3月8日付けで,広告代理店業を目的とし,私も取締役となったP社の設立登記ができましたので,3月10日付けで,3月末までの有給休暇取得届と,3月末日をもって退社する旨の退職届をY社に郵送しました。有給休暇日数は十分残っていました。Y社では,給料は毎月10日に前月分が銀行振込みで支払われていましたが,Y社は,本年3月分の給料も退職金も,全く支払おうとしません。そこで,私の権利が一刻も早く実現するよう法的手段をとってください。

なお 私は 退職後1 2か月はのんびりするつもりでいましたが 4月上旬ころ Y社から

私を3月31日付けで懲戒解雇する,退職金は支給しないとの通知書が送られてきた上,3月分の給料も支払われないため,4月の中旬ころからP社の営業活動を始めました。といっても,Y社時代の担当顧客に対しては積極的に取引を勧誘した訳ではなく,退職のあいさつに行ったところ是非私に引き続き担当してほしいと頼まれたので,P社で引き受けただけです。Y社のいう誓約書を提出したことは事実ですし,退職金規程の内容も知っていましたが,Y社の言い分は不当だと思います。

【Yの言い分】

当社は,従業員が25人前後の広告代理店です。営業社員にはそれぞれ専属で顧客数社を担当させているので,営業社員と顧客との個人的信頼関係が会社の売上げに直結します。平成5年ころ,当社の社員が退職直後に同業他社に入社し,担当していた顧客をそっくり他社に持っていったことがありました その経験から 社員を採用するに当たっては 退職後1年間は同業他社に就職しないことを誓約いたします。万一違約した場合は,退職金を放棄し又は受領した退職金を全額返還いたします との文言による誓約書を提出することを義務付けており Xも入社時これを提出しています。

Xは,本年3月13日に出勤せず,前日までに有給休暇届と退職届が郵送されていました。不審に思い急きょ調査したところ,Xが3月8日付けで設立されたP社の取締役に就任していたことが判明しました。そこで,当社は,就業規則第56条第3号,第10号によりXを3月31日付けで懲戒解雇することとし,念のため退職金は不支給とすることも付記して,4月5日にその通知書を発送しました。Xが担当していた顧客5社は,そろって本年5月初めころ,これまで継続して当社に発注していた仕事の向う3か月分をP社に発注したため,当社は少なくとも300万円の利益を失いました。

そもそも誓約書や就業規則,退職金規程の内容からして,Xに退職金を支払う義務はありませんし,それは別としても,当社は,XのせいでP社に顧客を奪われ,差引きではXが請求する以上の損害を受けていますから,いずれにせよ,Xに支払うべきものはありません。なお,当社の就業規則及び退職金規程には,別紙の定めがあります。

別 紙

【Yの就業規則(関係部分のみ抜粋 】平成2年4月1日施行 )

(退職金の支給)

第30条 社員が退職するときは,別に定める「退職金規程」により退職金を支払う。

(懲戒解雇)

第56条 次の各号の一に該当する場合には懲戒解雇とする。

1,2 (略)

3 会社の承認を得ず,在籍のまま他人に雇用されたとき又は就業に従事したとき

4~9 (略)

10 前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき

【Yの退職金規程(関係部分のみ抜粋 】平成2年4月1日施行 )

(算出方法)

第6条 退職金は,別表の退職金の支給算式により算出支給する。

(支給事由)

第7条 社員が満3年以上勤務し,次の各号の一に該当する場合に支給する。

1 自己の都合により退職したとき

2~5 (略)

(退職金の支給除外)

第8条 退職金は,次の各号の一に該当する場合は支給しない。

1 勤続3年未満の者

2 懲戒解雇された者

(支給制限)

第9条 退職に際して次の事項に該当する場合は 退職金を減額し又は支給しないことがある。退職金支給後に次の事項に該当することが判明した場合は,支給した退職金の全部又は一部の返還を求めることがある。

1,2 (略)

3 退職後1年以内に同業他社へ転職した場合には,退職金を通常の半額とする。

別 表

・ 退職金の支給算式は次のとおりとする。

支給退職金額=退職時基本給+退職時基本給×乗率 ×(勤続年数 -4) (注1) (注2)

(注1) 乗率は次のとおりとする。

勤続 4年未満 乗率 0.0

勤続 4年 〃 0.5

勤続 5年以上10年未満 〃 0.6

勤続10年以上15年未満 〃 0.7

勤続15年以上20年未満 〃 0.8

勤続20年以上 〃 1.0

(注2) 勤続年数の計算においては,端数の月数は,6か月未満は切り捨て,6か月以

上は1年に切り上げる。

以 上

〔第2問〕(配点:50)

以下の事案を読んで,X労組がY社に対してとり得る法的手段について論じなさい。

Z社は,Y社が製造する製品を梱包する仕事を同社から請け負い,自社が雇用する20名の社員をY社の工場において就労させている。Y社の工場は老朽化が進んでおり,特に梱包作業を行う場所は換気が十分でなく,また,賃金もY社の正社員と比べると格段に安かったため,Y社の工場で働くZ社の社員はかねてから不満を持っていた。そのため,Y社で働くZ社の社員であるAが X労働組合 以下 X労組 という の役員であるBに相談したところ X労組に加入すれば,X労組として改善に取り組むことが可能だとBが述べたため,AはX労組に加入するとともに,他の社員にも加入を働きかけた。この結果,Y社の工場で働くZ社の社員のうち,チームリーダーを除く19名がX労組に加入することとなった。なお,X労組は,近隣の様々な企業で働く労働者によって組織された労働組合である。X労組がZ社に対し,Y社の工場における換気の改善と賃金引上げを求めて団体交渉を申し入れたところ,Z社はこれに応じ,換気の改善をY社に申し入れることを約束した。また,賃金引上げについても,Y社からの請負代金が増額されなければ実現が難しいので,Y社に対し請負代金の増額を求めると回答した。これに基づき,Z社はY社に対し,換気の改善と請負代金の増額を求めたが,Y社はこれを承諾せず,かえって,これ以上文句があるのであれば,Z社との請負契約の解除も考えると述べた。Z社は,Y社から融資を受けていることもあり,これ以上求めるのは無理と判断し,X労組に対してその事情を説明した。X労組はZ社と交渉しても成果を得られないと判断し,今度は,Y社に対して換気の改善と請負代金の増額を求めて団体交渉を申し入れた。これに対し,Y社は,X労組と交渉する義務はないとして団体交渉を拒否したが,Y社で労務を担当する総務課長Cは 問題が大きくなりはしないかと心配した そこで CはAに対しZ社の社員がX労組を脱退しなければ,Z社との請負契約は解除されるだろうと述べた。なお,労組は労働組合法第2条の要件を満たしている。