労働法の出題の趣旨であるが(これは恐らく他の科目も同じだと思われるが ,労働

法の分野について基本的な制度の理解ができているか,概念の理解ができているかとい

うことを問い,そして,それを実際に具体的な事案に対して適用することができるのか

ということを問うている。労働法には個別法,集団法の二つの分野があるが,今回は初

回でもあり,両方の分野について出題したほうが良いであろうということから,第1問

は個別法,第2問は集団法から出題した。第1問の方は,労働者側,使用者側のそれぞ

れの言い分を書いて 規範を適用していく能力を見るというものであり 第2問の方は ,,

単に事案を書き,それを分析してもらうという形にした。問題のレベルとしては,第2

問の方で扱った事案は判例百選やケースブック等 どこにでも掲載されていて しかも ,,

大きく扱われる著名な最高裁判決の事案におおむね近いもの,つまり,問題を見ればす

ぐにその判決が浮かぶようなものを出し,その事案について法的な分析をさせる形にな

っている。法科大学院で必ず扱うであろう判例であるから,法科大学院で授業を受けて

いれば,かなり簡単であろうと考えていた。第1問の方については第2問とは異なり,

こちらで色々考えて事案を作出した。したがって,第2問とは異なり 「あれかな」と

いう形で一つの裁判例をそのまま参考にできるものではない。ただ,問題となっている

規範自体については,それほど難しくはなく,基本的な理解があれば,すぐに解答でき

るものなので,考査委員としては,第2問よりは難しいであろうが,基本的には簡単な

問題であると考えていた。実際に弁護士会のアンケート等を見ると,労働法については

大体適当なレベルという意見が多く,法科大学院で勉強していればできたのではないか

と言われている。学生に対するアンケートでも,大体できたというように書いてある。

しかし,採点実感を申し上げると,それとはかなり乖離しているというのが実際の印象

である。

まず,第1問について申し上げる。第1問は,小問で具体的にいくら請求するかとい

う金額の計算を問うている。これについては,なぜそのような計算をしなければならな

いのかという批判もあるが,それは小問2への導入で,それを考える前提と理解してい

た。簡単な問いであると考えていたが,実際には,正しい答えを書いていない答案が半

数くらいに及んだのではないかと思われる。また,請求を根拠付けるところで規範の適

用を見ると,事案の読み方が非常に甘い印象を受けた。例えば,退職した後に懲戒解雇

している点を正しく分析した答案は非常に少なく,懲戒解雇の効力に関して論ずる必要

があるのかを深く考えずに長々と論じている答案が多かった。これでは正しい分析をし

ているとは言えず,第1問では多くの解答者が期待されるレベルに到達しなかったとい

う結果である。法的に重要な事実と関係のない事実を区別することの困難さはある程度

予想していたが,受験生は,事案が出れば,必ずすべての事実に何らかの意味があると

考えているようである。実際の事件では,意味のある事実と意味のない事実を分別する

ことが,法曹の重要な仕事である。残念ながら,この点に関して考査委員が期待したレ

ベルは少し高かったようである。

第2問の方は,基礎的な概念についての理解はそこそこあって,また,論点について

の理解もあったと考えている。ただ,できている人とできていない人の差がかなりある

というのも事実である。また,一応の理解がある人の場合でも,判例の論理に対する理

解という点でいうと,確かに勉強してはいるが,それを正確に自分で理解しているかと

いうとかなり怪しいというものも多かった。部分的使用者概念という最高裁の考え方が

問題となってくるが それについての理解を正確にしている人は少なかったように思う

判例を勉強するに当たって とにかく判旨の重要な部分のフレーズだけを覚えるだけで

内容をきちんと理解していない人が相当いるように思われる。

法科大学院の教育に求めることを言わせていただくと,今回は,労働法に関する基礎

的理解を問う問題を出題したと考えているが,結果的には,かなり高いレベルのものを

求めたことになったようである。特に事案の分析という形で,実際のルールを知ってい

るだけではなく,それを具体的な事案に適用できるかということを問うたが,労働法の

分野について,こうした教育を行っている法科大学院がどの程度あるのか,疑問に感じ

たところである。判例の分析に関しても,判例の論理をじっくり読み込んでいるという

感じが見受けられないので,これももう少し要求したいところである。ただ,選択科目

に法科大学院生が実際に使える時間がどれくらいあるのかということも考える必要があ

ろう。私が以上で申し上げたのは労働法の考査委員としてはそのように考えるというこ

とであるが,全体的な視点から見ると,過大な要求を選択科目にするのは受験生の負担

になりすぎるように思われる。

今後の労働法の出題ということについては,今回の試験結果を見ると,基礎的な力の

ある人と不十分な人を見分けることは十分にできていたと考えられるので,特に基本方

針を変更する必要があるとは考えてない。ただ,事案を出題する場合に,関係のないも

のを入れるということについては,その方法などに関してあらためて検討する必要があ

るかもしれない。