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カテゴリ:民法 > 相続

『相続させる』旨の遺言と債務 最高裁平成21年 相続債務も承継が原則

民法判例百選Ⅲ 87事件 第2版 88事件 基本判例4版450事件 ダットサン3第5版 287頁
持分権移転登記手続請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成19年(受)第1548号

平成21年3月24日

【判示事項】      相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合において,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することの可否

【判決要旨】      相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定にあたり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。

【参照条文】      民法427

            民法899

            民法902

            民法908

            民法1029

            民法1031

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集63巻3号427頁

            家庭裁判月報61巻9号93頁

            裁判所時報1480号71頁

            判例タイムズ1295号175頁

            金融・商事判例1331号42頁

            判例時報2041号45頁

            金融法務事情1871号46頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      銀行法務21 714号15頁

            金融・商事判例1436号116頁

            金融法務事情2102号40頁

            公証法学39号67頁

            ジュリスト1421号98頁

            同志社法学63巻2号1277頁

            法曹時報64巻6号1376頁

            法の支配156号171頁

            法律時報82巻10号117頁

            民商法雑誌142巻3号314頁

            神奈川ロージャーナル7号119頁

            名城ロースクール・レビュー17号91頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人佐藤昇,同甲木真哉の上告受理申立て理由について

 1 本件は,相続人の1人が,被相続人からその財産全部を相続させる趣旨の遺言に基づきこれを相続した他の相続人に対し,遺留分減殺請求権を行使したとして,相続財産である不動産について所有権の一部移転登記手続を求める事案である。遺留分の侵害額の算定に当たり,被相続人が負っていた金銭債務の法定相続分に相当する額を遺留分権利者が負担すべき相続債務の額として遺留分の額に加算すべきかどうかが争われている。

 2 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) Aは,平成15年7月23日,Aの有する財産全部を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。本件遺言は,被上告人の相続分を全部と指定し,その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利を被上告人に移転する内容を定めたものである。

 (2) Aは,同年▲月▲日に死亡した。同人の法定相続人は,子である上告人と被上告人である。

 (3) Aは,相続開始時において,第1審判決別紙物件目録記載の不動産を含む積極財産として4億3231万7003円,消極財産として4億2483万2503円の各財産を有していた。本件遺言により,遺産全部の権利が相続開始時に直ちに被上告人に承継された。

 (4) 上告人は,被上告人に対し,平成16年4月4日,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

 (5) 被上告人は,同年5月17日,前記不動産につき,平成15年▲月▲日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。

 (6) 上告人は,Aの消極財産のうち可分債務については法定相続分に応じて当然に分割され,その2分の1を上告人が負担することになるから,上告人の遺留分の侵害額の算定においては,積極財産4億3231万7003円から消極財産4億2483万2503円を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円に,相続債務の2分の1に相当する2億1241万6252円を加算しなければならず,この算定方法によると,上記侵害額は2億1428万7377円になると主張している。これに対し,被上告人は,本件遺言により被上告人が相続債務をすべて負担することになるから,上告人の遺留分の侵害額の算定において遺留分の額に相続債務の額を加算することは許されず,上記侵害額は,積極財産から消極財産を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円になると主張している。

 3(1) 本件のように,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。

 そして,遺留分の侵害額は,確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものであり(最高裁平成5年(オ)第947号同8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁参照),その算定は,相続人間において,遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。したがって,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。

 (2) これを本件についてみると,本件遺言の趣旨等からAの負っていた相続債務については被上告人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情はうかがわれないから,本件遺言により,上告人と被上告人との間では,上記相続債務は指定相続分に応じてすべて被上告人に承継され,上告人はこれを承継していないというべきである。そうすると,上告人の遺留分の侵害額の算定において,遺留分の額に加算すべき相続債務の額は存在しないことになる。

 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)

 

千葉勝美裁判長名判決 延滞税不発生とした最高裁平成26年12月12日 佐藤修二 実務69頁

佐藤修二『租税と法の接点』大蔵財務協会・2020年・36頁 谷口勢津夫『税法基本講義 第7版』弘文堂・2021年・27頁 第8版 2025年186頁 【150】
佐藤修二編『対話でわかる租税「法律家」入門』中央経済社・2024年・27頁

延滞税納付債務不存在確認等請求事件

最高裁判所第2小法廷判決/平成25年(行ヒ)第449号

平成26年12月12日

【判示事項】       相続税につき減額更正がされた後に増額更正がされた場合において,上記増額更正により新たに納付すべきこととなった税額に係る部分について上記相続税の法定納期限の翌日からその新たに納付すべきこととなった税額の納期限までの期間に係る延滞税が発生しないとされた事例

【判決要旨】       相続税につき減額更正がされた後に増額更正がされた場合において,次の(1),(2)など判示の事情の下では,上記増額更正により新たに納付すべきこととなった税額に係る部分について,上記相続税の法定納期限の翌日からその新たに納付すべきこととなった税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しない。

             (1) 上記相続税については,法定の期限までに申告及び納付をした納税義務者による更正の請求に基づいて上記減額更正がされ,これにより減額された税額に係る部分につき過納金が還付された後,上記納付をした税額を超えない額に上記増額更正がされた。

             (2) 上記減額更正は,相続財産である土地の評価の誤りを理由としてされ,上記増額更正は,上記減額更正における土地の評価の誤りを理由としてされた。

             (補足意見及び意見がある。)

【参照条文】       国税通則法24

             国税通則法26

             国税通則法60-1

             国税通則法60-2

             国税通則法61-1

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事248号165頁

             裁判所時報1618号5頁

             判例タイムズ1412号121頁

             判例時報2254号18頁

             税務訴訟資料(徴収関係判決)平成26年順号26-44

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1481号10頁

             ジュリスト1486号103頁

             ジュリスト1487号65頁

             ジュリスト1492号193頁

             別冊ジュリスト228号192頁

             租税訴訟10号418頁

             税研184号92頁

             税研208号245頁

             税経通信70巻5号184頁

             判例時報2277号188頁

             民商法雑誌151巻1号105頁

 

       主   文

 

 1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

 2(1) 上告人X1の被上告人に対する亡Aの相続に係る相続税の延滞税1万5800円の納付義務が存在しないことを確認する。

  (2) 上告人X2の被上告人に対する亡Aの相続に係る相続税の延滞税1万6200円の納付義務が存在しないことを確認する。

 3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人井上清成,同衞藤正道,同尾籠真弥の上告受理申立て理由第3の3について

 1 本件は,亡Aの相続人である上告人らが,Aの相続について,それぞれ,法定申告期限内に相続税の申告及び納付をした後,その申告に係る相続税額が過大であるとして更正の請求をしたところ,所轄税務署長において,相続財産の評価の誤りを理由に減額更正をするとともに還付加算金を加算して過納金を還付した後,再び相続財産の評価の誤りを理由に増額更正をし,これにより新たに納付すべきこととなった本税額につき,国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「法」という。)60条1項2号,2項及び61条1項1号に基づき,法定納期限の翌日から完納の日までの期間(ただし,法定申告期限から1年を経過する日の翌日から上記の増額更正に係る更正通知書が発せられた日までの期間を除く。)に係る延滞税の納付の催告をしたことから,上告人らが,被上告人を相手に,上記の延滞税は発生していないとして,その納付義務がないことの確認を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 上告人ら及びBは,いずれもAの子であり,Aの死亡により,その財産を相続した。Aの相続に係る各相続税(以下「本件各相続税」という。)の法定申告期限及び法定納期限は平成21年8月25日である。

 (2) 上告人ら及びBは,平成21年7月22日,市川税務署長に対し,それぞれ本件各相続税の申告をした。上告人X1は,同年8月21日,上記申告に係る納付すべき税額4185万1300円を納付し,上告人X2は,同月12日,上記申告に係る納付すべき税額4556万0600円を納付した(以下,これらの申告を「本件各申告」という。)。

 (3) 上告人らは,平成22年7月12日,市川税務署長に対し,本件各申告における相続財産である土地(以下「本件相続土地」という。)の評価額が時価よりも高いことを理由として,それぞれ更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。これに対し,市川税務署長は,同年12月21日,本件各申告における本件相続土地の評価に誤りがあったとして,本件各更正請求の一部を認め,上告人X1について納付すべき税額を3035万5500円とし,上告人X2について納付すべき税額を3353万7100円とする減額更正(以下「本件各減額更正」という。)をした。

 (4) 市川税務署長は,本件各減額更正により上告人らの本件各相続税に係る納付すべき税額が減少したことから,平成23年1月26日,本件各申告に係る納付すべき税額から本件各減額更正に係る納付すべき税額を控除した金額(以下「本件各過納金」という。)に,法58条1項2号に基づき,本件各更正請求があった日の翌日から起算して3月を経過する日の翌日である同22年10月13日からの期間の日数についての租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの)95条に基づく特例基準割合である年4.3%の割合による還付加算金を加算した金額につき支払決定をし,上告人らに対して上記の還付加算金を加算して本件各過納金を還付した。これによる各上告人に対する支払額の合計は,上告人X1に対しては1163万9200円(本件各過納金1149万5800円と還付加算金14万3400円の合計額),上告人X2に対しては1217万3600円(本件各過納金1202万3500円と還付加算金15万0100円の合計額)であった。

 (5) 上告人らは,平成23年2月1日,市川税務署長に対し,それぞれ,本件各減額更正について本件相続土地の評価額がなお時価より高いとしてその取消しを求める異議申立てをした。市川税務署長は,同年4月27日,その異議申立手続において本件相続土地の一部の評価額を見直して算出した上告人らの納付すべき税額の金額は,本件各減額更正において上告人らの納付すべき税額とされた金額を上回るので,結局,本件各減額更正はいずれも適法であるとして,上記各異議申立てをいずれも棄却する旨の各決定をした。

 (6) 市川税務署長は,平成23年5月31日,上記各決定における上記の評価額の見直しによれば,本件各減額更正における本件相続土地の評価額は時価よりも低かったとして,上告人X1について納付すべき税額を3071万5800円とし,上告人X2について納付すべき税額を3391万1700円とする増額更正(以下「本件各増額更正」という。)をした。

 本件各増額更正により新たに納付すべきこととなった本税額,すなわち本件各減額更正に係る納付すべき税額と本件各増額更正に係る納付すべき税額との差額(以下「本件各増差本税額」という。)は,上告人X1につき36万0300円,上告人X2につき37万4600円であり,その納期限は,その更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日(法35条2項2号)である平成23年6月30日であった。

 上告人らは,平成23年6月3日,本件各増差本税額をそれぞれ納付した。

 (7) 市川税務署長は,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について,本件各相続税の法定納期限の翌日である平成21年8月26日から本件各増差本税額の納付日である同23年6月3日までの期間(ただし,法定申告期限から1年を経過する日の翌日である平成22年8月26日から本件各増額更正に係る更正通知書が発せられた日である同23年5月31日までの期間を除く。以下「本件期間」という。)に係る延滞税として,上告人X1について1万5800円,上告人X2について1万6200円が発生していることを前提に,同年7月27日付けの催告書をそれぞれ送付し,その納付を催告した。

 3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しており,上告人らはその納付義務を負うものであるとして,上告人らの請求を棄却した。

 本件のように,国税の申告及び納付がされた後に減額更正がされると,減額された税額に係る部分の具体的な納税義務は遡及的に消滅するのであり,その後に増額更正がされた場合には,増額された税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに確定することになるのであるから,新たに納税義務が確定した本件各増差本税額について,更正により納付すべき国税があるときに該当するものとして,法60条1項2号に基づき延滞税が発生するものというべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 前記事実関係等によれば,本件各増額更正がされた時点において,本件各相続税については,本件各増差本税額に相当する部分につき法的効果としては新たに納税義務が発生するとともに未納付の状態となっているが,本件各増額更正後の相続税額は本件各申告に係る相続税額を下回るものであることからすれば,本件各増差本税額に相当する部分は,本件各申告に基づいて一旦は納付されていたものである。これにつき再び未納付の状態が作出されたのは,所轄税務署長が,本件各減額更正をして,その減額された税額に係る部分について納付を要しないものとし,かつ,当該部分を含め,本件各申告に係る税額と本件各減額更正に係る税額との差額を過納金として還付したことによるものである。このように,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分については,それぞれ減額更正と過納金の還付という課税庁の処分等によって,納付を要しないものとされ,未納付の状態が作出されたのであるから,納税者としては,本件各増額更正がされる前においてこれにつき未納付の状態が発生し継続することを回避し得なかったものというべきである。

 他方,所轄税務署長は,本件各更正請求に係る税務調査に基づき,本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,上告人らの主張の一部を認めて本件各減額更正をしたにもかかわらず,本件各増額更正に当たっては,自らその処分の内容を覆し,再び本件各減額更正における本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,税額を増加させる判断の変更をしたものである。

 以上によれば,本件の場合において,仮に本件各相続税について法定納期限の翌日から延滞税が発生することになるとすれば,法定の期限内に本件各増差本税額に相当する部分を含めて申告及び納付をした上告人らは,当初の減額更正における土地の評価の誤りを理由として税額を増額させる判断の変更をした課税庁の行為によって,当初から正しい土地の評価に基づく減額更正がされた場合と比べて税負担が増加するという回避し得ない不利益を被ることになるが,このような帰結は,法60条1項等において延滞税の発生につき納税者の帰責事由が必要とされていないことや,課税庁は更正を繰り返し行うことができることを勘案しても,明らかに課税上の衡平に反するものといわざるを得ない。そして,延滞税は,納付の遅延に対する民事罰の性質を有し,期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すことを目的とするものであるところ,上記の諸点に鑑みると,このような延滞税の趣旨及び目的に照らし,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件各増額更正によって改めて納付すべきものとされた本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税の発生は法において想定されていないものとみるのが相当である。

 したがって,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分は,本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期間については,法60条1項2号において延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではないというべきであるから,上記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しないものと解するのが相当である。

 そして,本件において,本件各増差本税額の納期限は平成23年6月30日であるところ,上告人らは,これより前の同月3日に本件各増差本税額を納付しているから,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しないものというべきである。

 5 以上と異なる見解に立って,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税が発生するとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記説示したところによれば,上告人らの請求は理由があるから,第1審判決を取り消し,上告人らの請求をいずれも認容すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見,裁判官小貫芳信の意見がある。

 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

 私は,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しないとする多数意見の見解に関連して,次のとおり,私見を付加しておきたい。

 1 延滞税は,納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり(国税通則法15条3項6号),その発生要件は,法60条1項2号にいう「・・・35条2項の規定により納付すべき国税があるとき」である。

 ところで,本件では,課税庁が自ら行った減額更正により納税者に対し余分に税を還付したため,未納付状態が生じたのであり,納税者としては,いかに真摯に納付の努力をしても,このような未納付状態を回避し得ないのであって,延滞税を賦課することは,納税者に不当な不利益を与えるものである。また,更正処分は,制度上,所定の期限内であれば何度でも行い得るとしても,本件各減額更正は,いわゆる公定力を有する行政処分であり,課税庁がこれを行ったことは,課税庁自らが,他の事由がない限りそれ以上の納付を要しないとの規範を一度は明示しているのであって,納税者も,還付加算金まで付して過誤納金が還付されたのであるから,そのように信頼するであろう。

 本件には,このような特殊な事情があるので,多数意見が指摘する延滞税の目的に鑑みても,この未納付状態が民事罰を課すような債務不履行ではなく,延滞税を納付させることが納税者間の負担の公平に資することにもならず,期限内納付を促す効果も全く期待し得ないのであって,本件の未納付においては,実質的に見て,延滞税を生じさせる前提ないし理由は全く存在しないといえよう。

 2 法63条6項4号及びこれを受けた国税通則法施行令26条の2第2号は,人為による異常な災害等により納付行為等ができなくなった場合の免除を定め,平成13年6月22日付け徴管2-35ほか国税庁長官通達「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について(法令解釈通達)」によれば,いわゆる誤指導があり,納税者側に社会通念上なすべき行為を尽くしているときもこれに当たるとしている。これは,正に,延滞税の目的が上記のようなものであることを前提として,その趣旨等に背馳するような場合には納付を免除できることを定めたものである。もっとも,このような免除事由は,一義的に明らかなものではないため,その該当性や免除を行うかどうかについては課税庁の裁量によることになる。しかしながら,本件の場合は,本件各増差本税額に相当する部分につき,税務署職員の指導にとどまらず,減額更正や過納金の還付という課税庁の行為によって未納付状態が作出されたのである。このことは,延滞税の免除をすべきかどうかではなく,そもそも延滞税を発生させるべき実質的な根拠が全く存在せず,延滞税を生じさせることは制度の趣旨に完全に背馳し,不正義となることは明らかなのである。このような場合にまで延滞税を発生させることは法が全く想定していないことであろう。

 3 そうであれば,このような場合には,延滞税の納付を免除するのではなく,延滞税の発生自体を認めないとする法解釈を行うべきものであろう。この解釈は,法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もあるが,同号が当然に前提としていると思われる「納税者によって生じた延滞」と評価すべきではないことは明らかであるので,同号にいう「納付すべき国税があるとき」に当たらないとするものである。税法の解釈は,納税者側の信頼や衡平にかない課税実務の効率化や恣意の排除に資するため,本来一義的で明確であることが求められるところであるが,本件は,延滞税の趣旨・目的に照らし,これを発生させることが適当でないことが明らかな例外的な事案であり,これを否定する(限定)解釈を採ったとしても,個別の事案毎の判断が必要となり徴税実務が不安定になるといったおそれはないというべきである。

 4 なお,小貫裁判官の意見は,個々の事案毎の判断ではなく,法定申告期限までに本件各相続税の申告・納付が行われた点とその後の減額更正と還付加算金を加えた過納金の還付が行われたという客観的事実を捉えて,法定申告期限から減額更正・過納金還付までの期間は延滞税が発生しないとした上,この過納金の還付によって納税の事実が存在しないことになるので,その後からは,増額更正により増額された部分の延滞税が発生するという解釈を示しておられる。この見解は,租税の画一性と大量処理の観点から,延滞税が発生しない場合の明確な基準を示すという点で租税法の特質を踏まえた解釈といえよう。

 もっとも,条文にはない明確な基準を示すことについては,それが解釈により不文の消極要件を作ることにもなることや(延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる。),その後の増額更正が,減額更正の事由とは別個の,例えば所得隠しが見つかったことを理由にされた場合にもこの解釈が適用されることになり,そうなると,増額された部分についても,過納金還付前の期間は延滞税が当初申告・納税した額の範囲までは発生しないという結果となるが,これが不都合・不公平ではないかという点が危惧されるところである。また,減額更正・過納金の還付が法定納期限後あまり期間を置かずにされた場合には,結局,延滞税の不発生期間は短期間となり,その後増額更正までの間は延滞税が発生することになり,本件のような場合であっても,課税庁の誤った処理による不利益を納税者が長期間甘受することとなり,不当な課税の是正という面からみて十分ではないのではないかという疑問もある。さらに,法61条1項1号が,特例として,法定申告期限から1年間を延滞税が発生する期間とし,1年経過後の翌日から(増額)更正通知が発せられた日までの期間は延滞税の額の計算の基礎から除くとしているため,減額更正・過納金の還付が1年経過後にされた場合(本件はこの場合である。)には,結局,増額更正の通知が発せられた日までは延滞税が発生しないということになるが,このような結果は,減額更正・還付金の還付がされた時期により納税者の受ける影響があまりにも違いすぎ,延滞税の処理として相当かが気になるところである(本件は,たまたま,この説により多数意見と同様に延滞税が発生しないという結論となる。)。

 5 いずれにしろ,本件の多数意見による処理は,極めて例外的でかつ延滞税不発生となるのが明らかな場合にされるものである点で,全体的な影響が少なくて済む点を指摘しておきたい。

 裁判官小貫芳信の意見は,次のとおりである。

 1 延滞税が発生しないとする多数意見の結論には賛成するが,その理由付けについては意見を異にする。本件においては,端的に延滞税の発生要件を充足するか否かを検討するのが相当であり,この観点からすると,本件各減額更正に伴う過納金の還付前の期間については,国税通則法60条1項2号にいう納付すべき国税は存在せず,納税が法定納期限を徒過した事実もないので,延滞税の発生要件を欠き,延滞税は発生しないと考える。

 2 上告人らは,それぞれ,相続税について申告期限内に申告し,法定納期限内に納税したが,その後,更正の請求,減額更正,過納金の還付,増額更正の経過をたどり,税務署長から,最後の増額更正により納付すべき国税が確定し,その本税増差額の納税につき法定納期限を徒過しており,延滞税が発生しているとして納付の催告を受けた。本件を時間の経過に従って観察してみると,減額更正に伴う過納金の還付前においては,増額更正による本税額を超えた税額が法定納期限内に納税されており,納付すべき国税は存在せず,法定納期限の徒過もなく,延滞税の発生要件を欠いていることは明らかである。このような延滞税の発生要件を欠いている期間についても,その後に,減額更正に伴う過納金の還付及び増額更正の過程を経ることによって,延滞税の発生要件を充たすことになるのかどうかが,まず検討すべき問題であるように思われる。

 3 この点について,原審は,国税通則法においては,減額更正によって具体的納税義務が遡及的に消滅し,これに伴い,減額更正により減少した税額に係る納付については,これに対応する具体的納税義務が存在しなくなるので,所定の還付加算金を加算した過納金の還付による不当利得の清算関係のみが残り,その後改めて増額更正がされた場合には,増額した税額に係る部分の具体的納税義務が新たに確定することとなるのであるから,同法60条1項2号に基づき,更正により納付すべき国税があるとして,増額した税額に係る部分について,延滞税の納税義務が発生し,本件各増差本税額に相当する税額が事実として納付されていたとしても,延滞税の発生に影響しない旨判示した。

 原審は,減額更正の遡及効と過納金の還付による清算を根拠として,延滞税発生の場面において,納税の事実を考慮の外に置いてよいとしたものと思われるが,その根拠が延滞税を発生させる根拠として十分かについては議論の余地があろう。原審のように減額更正に遡及効を認めるのが相当であるとしても,延滞税の発生要件との関係で,納税の事実に一定の効果を認めることと矛盾するとは思われないのである。なるほど,減額更正の遡及効によって具体的納税義務がなかったことになるから,用語の厳密な意味では,その減額部分についての上告人らの金銭納付は税金の納付とはいえないとしても,延滞税の発生において問題としているのは,後に増額更正があった際に上告人らが税として金銭納付していた事実をどのように評価すべきであるかであって,単なる用語の問題ではないのである。したがって,減額更正の遡及効を認めるにしても,そのことから直ちに税として納付した事実が消え去るわけではなく,両者は別の問題であって,論理必然的に結び付く関係にあるとはいえない。また,過納金の還付による清算については,それは減額更正に伴う当然の事後処理にすぎず,特に上告人らに対し延滞税の帰趨に影響を及ぼす可能性のあるような経済的利益を与えるものではなく,納税の事実の存在を覆滅させる理由となるとは思われない。さらに,減額更正の遡及効と過納金の還付を併せてみても,上述したことに違いをもたらすものではない。

 原審の判示するところは,延滞税発生の場面において,上告人らの納税の事実をなかったものとする根拠としては十分とはいえないが,さらに本件においては,他にその根拠になり得るような事情も見当たらないように思われる。そもそも,厳然として存在した法定納期限内の納税の事実をなかったことにするのは,一つのフィクションにすぎず,フィクションを正当化するのは異例であり,これを正当化するためには,法の明文の規定や法解釈上の論理的必然性あるいは十分な代償措置など,それなりの強い論拠がなければならないと思われるが,本件においては明文の規定はなく,また,法解釈上の論理的必然性や代償措置などを認めるのは困難である。そうすると,本件延滞税の発生を肯定すべき論拠は存在しないか,甚だ薄弱であるというほかないであろう。

 4 翻って,延滞税の趣旨・目的との関係で検討すると,その趣旨・目的は,納付した者と納付しない者との間の公平を図り,早期の納税を促すことにあるが,これを本件に当てはめてみると,次のようになろう。上告人らは,本件過納金の還付を受けるまでは,相続税を増額更正による本税額を超えて法定納期限内に納税しており,未納者として公平を図るための措置を受ける立場にはなく,また,法定納期限内に納税しているのであるから,早期の納税を促さなければならない対象とはいえず,いずれの面においても,延滞税の趣旨・目的を害するところは全くない。したがって,過納金の還付前の期間において,上告人らに延滞税制度を作動させなければならない理由はなく,それにもかかわらず,延滞税の発生を認めることは延滞税の趣旨・目的に反するであろう。

 さらに,結果の妥当性を見てみると,減額更正に伴う過納金の還付前にも延滞税の発生を認める見解によれば,上告人らのように何ら責められる点のない申告納税をした者と過少申告納税した者とを,延滞税発生の場面で同列に扱うこととなるが,その結論には違和感を禁じ得ないところである。

 延滞税の趣旨・目的と延滞税の発生を認めることによる不当な結果は,本件における減額更正,過納金の還付前の延滞税発生を否定すべき積極的理由となる。このことと前記3で述べたところを併せ考えると,上告人らが法定納期限内にその後の増額更正による本税額を超える納税をした場合には,減額更正による過納金の還付があるまでの期間については,延滞税の発生要件を欠くことになると解するのが相当である。

 5 本件においては,後述するように国税通則法が延滞税の発生する期間について特段の規定を設けているため,減額更正に伴う過納金の還付の時期によって延滞税額に差が出てくることになり,また,減額更正に引き続いて増額更正という一見矛盾した処分をした事情があることから,過納金の還付後の期間についても延滞税の発生を認めるべきかどうかが問題とされる余地がある。上記に述べたところからすると,過納金の還付を受けたことにより,それ以後は,納税の事実が存在しないこととなるので,減額更正に伴う過納金の還付後において,増額更正があった場合は,増額更正が適法である限り,延滞税が発生することとなる。これに対し,本件減額更正から増額更正に至る経過をも踏まえた本件の事情を総合して考慮し,過納金の還付後も延滞税は発生しないとする考え方もあり得ないではない。しかし,減額更正後に増額更正をする原因については種々のものが想定できるところであり,それらを踏まえて延滞税の発生を検討しなければならないというのは,租税の画一性と大量処理の観点から望ましいことではないし,延滞税の発生要件との関係で不明確さが残るように思われる。したがって,延滞税発生期間内に減額更正に伴う過納金の還付が行われ,その後増額更正がされた場合には,過納金の還付後について,増額された部分の延滞税が発生すると解すべきである。

 ただ,国税通則法は,更正等の事務処理の先後による不公平さと延滞税が過大になることを防ぐため,法定申告期限から1年間を延滞税が発生する期間とし,1年経過後の翌日から更正通知書が発せられた日までの期間は延滞税の額の計算の基礎から除くとしており(同法61条1項1号),本件においては,減額更正及び過納金の還付が,延滞税の発生する期間ではなく,税額計算上除くとされている時点でそれらが行われているので,延滞税の発生する期間においては延滞税の発生要件を欠いており,上記考え方の違いは結論に影響を及ぼさない。また,増額更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月が経過する日を納期限とされており(同法35条2項2号),その日までの期間は延滞税額の計算の基礎から除くのが相当と解されるところ,上告人らは,納期限前に増差本税額の全額を納付している。したがって,結局,本件上告人らに延滞税は発生しないこととなる。

(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)

 

所得税更正処分取消請求事件

実務的にはその解決しましたが、納税者勝訴の画期的判決として判例百選にものりつづけることでしょう。 渕圭吾『租税法講義』有斐閣・2024年・43頁 租税法判例百選 第6版

 

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成20年(行ヒ)第16号

【判決日付】 平成22年7月6日

【判示事項】 1 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)3条1項1号の規定によって相続により取得したものとみなされる生命保険契約の保険金で年金の方法により支払われるもの(年金受給権)のうち有期定期金債権に当たるものにおいて,当該年金受給権に係る年金の各支給額は,所得税の課税対象となるか

2 所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は,当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず,その年金について所得税の源泉徴収義務を負うか

 

【判決要旨】 1 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)3条1項1号の規定によって相続により取得したものとみなされる生命保険契約の保険金であって年金の方法により支払われるもののうち有期定期金債権に当たる年金受給権に係る年金の各支給額については、被相続人死亡時の現在価値に相当する金額として相続税法24条1項1号所定の当該年金受給権の評価額に含まれる部分に限り、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものとして、所得税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)9条1項15号の規定により所得税の課税対象とならない。

 

       2 所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払いをする者は、当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず、その支払いの際、その年金について所得税法208条所定の金額を徴収し、これを所得税として国に納付する義務を負う。

 

【参照条文】 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)3-1

       相続税法24-1

       所得税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)9-1

       所得税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)76-3

       所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)207

       所得税法208

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集64巻5号1277頁

       家庭裁判月報62巻12号81頁

       裁判所時報1511号231頁

       判例タイムズ1324号78頁

       金融・商事判例1354号48頁

 

       判例時報2079号20頁

       金融法務事情1908号70頁

       税務訴訟資料260号順号11470

       LLI/DB 判例秘書登載

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 金融法務事情1929号71頁

       自治研究87巻8号150頁

       ジュリスト1423号100頁

       租税訴訟9号410頁

       税研154号84頁

       税研178号51頁

       税務弘報58巻1号121頁

       税務弘報58巻14号154頁

       税務弘報59巻1号121頁

       税務事例42巻9号1頁

       税務事例48巻5号33頁

       税理55巻7号142頁

       判例時報2096号169頁

       法学(東北大)75巻2号214頁

       法学論叢(京都大)173巻2号139頁

       法曹時報65巻6号1257頁

       法律のひろば63巻11号43頁

       民商法雑誌143巻6号686頁

       主   文

  原判決を破棄する。

  被上告人の控訴を棄却する。

  控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理   由

 

  上告代理人丸山隆寛,上告復代理人山内良輝の上告受理申立て理由について

 以下に摘示する相続税法及び所得税法の各規定は,それぞれ別表記載のものをいう。

  1 本件は,年金払特約付きの生命保険契約の被保険者でありその保険料を負担していた夫が死亡したことにより,同契約に基づく第1回目の年金として夫の死亡日を支給日とする年金の支払を受けた上告人が,当該年金の額を収入金額に算入せずに所得税の申告をしたところ,長崎税務署長から当該年金の額から必要経費を控除した額を上告人の雑所得の金額として総所得金額に加算することなどを内容とする更正を受けたため,上告人において,当該年金は,相続税法3条1項1号所定の保険金に該当し,いわゆるみなし相続財産に当たるから,所得税法9条1項15号により所得税を課することができず,上記加算は許されない旨を主張して,上記更正の一部取消しを求めている事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  (1) 上告人の夫であるAは,B生命保険相互会社(以下「B生命」という。)との間で,Aを被保険者,上告人を保険金受取人とする年金払特約付きの生命保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し,その保険料を負担していたが,平成14年10月28日に死亡した。上告人は,これにより,本件保険契約に基づく特約年金として,同年から同23年までの毎年10月28日に230万円ずつを受け取る権利(以下「本件年金受給権」という。)を取得した。

上告人は,平成14年11月8日,B生命から,同年10月28日を支給日とする第1回目の特約年金(以下「本件年金」という。)として,230万円から所得税法208条所定の源泉徴収税額22万0800円を控除した金額の支払を受けた。

  (2) 上告人は,平成14年分の所得税について,平成15年2月21日,総所得金額22万7707円,課税総所得金額0円,源泉徴収税額及び還付金の額2664円とする確定申告をし,次いで,同年8月27日,総所得金額37万7707円,課税総所得金額0円,源泉徴収税額及び還付金の額22万3464円(本件年金に係る源泉徴収税額22万0800円を加算した金額)とする更正の請求をしたが,これらの確定申告及び更正の請求を通じて,本件年金の額を各種所得の金額の計算上収入金額に算入していなかった。

  他方,上告人は,Aを被相続人とする相続税の確定申告においては,相続税法24条1項1号の規定により計算した本件年金受給権の価額1380万円を相続税の課税価格に算入していた。

  (3) 長崎税務署長は,本件年金の額から払込保険料を基に計算した必要経費9万2000円を控除した220万8000円を上告人の平成14年分の雑所得の金額と認定し,平成15年9月16日,総所得金額258万5707円,課税総所得金額219万円,源泉徴収税額22万3464円,還付金の額4万8264円とする更正をし,次いで,同16年6月23日,所得控除の額を加算して課税総所得金額を32万円に減額し,これに伴い還付金の額を19万7864円に増額する再更正をした(以下,この再更正後の上記更正を「本件処分」という。)。

  3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判示し,本件処分は適法であると判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。

  所得税法9条1項15号は,相続,遺贈又は個人からの贈与により取得し又は取得したものとみなされる財産について,相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除する趣旨の規定である。相続税法3条1項1号により相続等により取得したものとみなされる「保険金」とは保険金請求権を意味し,本件年金受給権はこれに当たるが,本件年金は,本件年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて上告人が受け取った現金であり,本件年金受給権とは法的に異なるものであるから,上記の「保険金」に当たらず,所得税法9条1項15号所定の非課税所得に当たらない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 

  (1)ア 所得税法9条1項は,その柱書きにおいて「次に掲げる所得については,所得税を課さない。」と規定し,その15号において「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続,遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げている。同項柱書きの規定によれば,同号にいう「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは,相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく,当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして,当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは,当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず,これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから,同号の趣旨は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。

  イ 相続税法3条1項1号は,被相続人の死亡により相続人が生命保険契約の保険金を取得した場合には,当該相続人が,当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を,相続により取得したものとみなす旨を定めている。上記保険金には,年金の方法により支払を受けるものも含まれると解されるところ,年金の方法により支払を受ける場合の上記保険金とは,基本債権としての年金受給権を指し,これは同法24条1項所定の定期金給付契約に関する権利に当たるものと解される。

  そうすると,年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期金債権に当たるものについては,同項1号の規定により,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき年金の総額に同号所定の割合を乗じて計算した金額が当該年金受給権の価額として相続税の課税対象となるが,この価額は,当該年金受給権の取得の時における時価(同法22条),すなわち,将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し,その価額と上記残存期間に受けるべき年金の総額との差額は,当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されているものと解される。したがって,これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。

ウ 本件年金受給権は,年金の方法により支払を受ける上記保険金のうちの有期定期金債権に当たり,また,本件年金は,被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年金であるから,その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解される。そうすると,本件年金の額は,すべて所得税の課税対象とならないから,これに対して所得税を課することは許されないものというべきである。

  (2) なお,所得税法207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は,当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず,その支払の際,その年金について同法208条所定の金額を徴収し,これを所得税として国に納付する義務を負うものと解するのが相当である。

  したがって,B生命が本件年金についてした同条所定の金額の徴収は適法であるから,上告人が所得税の申告等の手続において上記徴収金額を算出所得税額から控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるものである。

  (3) 以上によれば,本件年金の額から必要経費を控除した220万8000円を上告人の総所得金額に加算し,その結果還付金の額が19万7864円にとどまるものとした本件処分は違法であり,本件処分のうち総所得金額37万7707円を超え,還付金の額22万3464円を下回る部分は取り消されるべきである。

  5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求には理由があり,これを認容した第1審判決は結論において是認することができるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 堀籠幸男 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)

 

 (別表) 略

相続の法律相談

質問1

相続分の譲渡

わたしは3人兄弟の末弟です。

父母がなくなり、自分は遺産には興味がありません。兄2人は遺産分割協議でもめています。

自分の相続放棄の熟慮期間が過ぎてしまったようですが、遺産分割協議にわずあらわされない方法はありますか。

 

回答

遺産分割協議前に相続分の譲渡をすることによって、遺産分割協議は譲受人があることになります。

譲渡できることが民法905条の前提となっています。

また、兄2人に2分の1ずつ、といった譲渡の仕方も可能です。有償で行うこともできます。

 相続人以外の第三者に上智した場合には905条の取戻権の対象になります。

(遺産の分割の基準)

906条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

 

質問2 相続分の譲渡があった場合の相続税

相続分の譲渡をした場合に、自分に相続税はかかるのでしょうか。

 

回答

相続人間で有償の譲渡の場合 有償の分、うけとった金銭等にそうぞっくぜいが課されます。

相続人間で無償の譲渡の場合 相続税その他の税金はかかりません。

 

相続人以外の第三者への譲渡が有償の場合

理論構成としていったん相続したあと譲渡しているので、相続税及び譲渡所得の所得税がかかかります。

 

相続人以外の第三者への譲渡が無償の場合

相続税が譲渡人に、贈与税が譲受人にかかります。

 

相続税ぼ網の目からは逃れられないように制度設計がされています。

 

不当利得返還等請求事件

納税者へ十分な告知と聴聞があったといえるかは疑問と思われる納税者敗訴の札幌地裁平成31年判決

 令和元年度重要判例解説 租税法3 谷口ほか『基礎から学べる租税法第3版』弘文堂・2022年・244頁

【事件番号】 札幌地方裁判所判決/平成28年(行ウ)第31号

【判決日付】 平成31年3月27日

【判示事項】 被相続人が所有していた農地を,その相続人である原告及びそのきょうだいが共有するに至り,また,農業相続人である原告が相続税の納税を猶予されていた事案において,共有物分割の結果,納税猶予の対象とされていた共有持分の一部が原告から他の相続人に移転し,他の相続人の共有持分の一部が原告に移転したところ,原告の共有持分の移転が,租税特別措置法に規定する納税猶予期限の確定事由である「譲渡等」に該当するとされた事例

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載 税資料269号

       主   文

  1 原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 請求

  1 不当利得返還請求(主位的請求)又は国税通則法56条1項に基づく還付金等の返還請求(予備的請求)

    被告は,原告に対し,7342万7300円及びうち1306万円に対する平成15年8月12日から,うち160万円に対する平成15年9月22日から,うち3215万円に対する平成26年11月7日から,うち2661万円に対する平成27年1月25日から,それぞれその還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成18年12月31日までは年4.1%の割合,平成19年1月1日から同年12月31日までは年4.4%の割合,平成20年1月1日から同年12月31日までは年4.7%の割合,平成21年1月1日から同年12月31日まで年4.5%の割合,平成22年1月1日から平成25年12月31日までは年4.3%の割合,平成26年1月1日から同年12月31日までは年1.9%の割合,平成27年1月1日から平成28年12月31日までは年1.8%の割合,平成29年1月1日から同年12月31日までは年1.7%の割合,平成30年1月1日から同年12月31日までは年1.6%の割合,平成31年1月1日以降は年7.3%の割合又は租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合(ただし,当該特例基準割合に0.1%未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)のいずれか低い割合を乗じて計算した各金額を合計した金員(ただし,その合計金額につき100円未満の端数があるときは,その端数金額を切り捨てたもの。)を支払え。

  2 国家賠償請求

    被告は,原告に対し,7342万7300円及びうち1306万0200円に対する平成15年7月11日から,うち160万1400円に対する同年8月21日から,うち3215万5500円に対する平成26年10月6日から,うち2661万0200円に対する同年12月24日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要

    本件は,被相続人が所有していた土地を相続して相続税の納税を猶予されていた原告が,O税務署長から,当該土地の一部を転用しあるいは交換に供したことが,租税特別措置法が定める納税猶予期限の確定事由である「譲渡等」に該当し,納税猶予期限が確定したとして,被相続人の相続に係る相続税本税,利子税及び延滞税(以下「本件相続税等」という。)の納付を求められ,これを納付したものの,当該土地の一部の転用あるいは交換は「譲渡等」に該当せず,被告は,主位的には法律上の原因なく本件相続税等を利得した,予備的にはこれによって誤納金が発生したとして,主位的には不当利得返還請求権(民法703条),予備的には還付金等請求権(国税通則法56条1項)に基づき,上記第1の1の金額及びこれに対する国税通則法及び租税特別措置法所定の還付加算金の支払を求め,又は,これらの請求とは選択的に,O税務署長の「譲渡等」に関する解釈が違法であったとして,国家賠償請求権(国家賠償法1条1項)に基づき,上記第1の2の金額及びこれに対する民法所定の年5%の割合の遅延損害金の支払を求めた事案である。

  1 関係法令等の定め

   別紙1「関係法令等の定め」のとおりである。このうち,改正前措置法とは,平成7年法律第55号による改正前の租税特別措置法をいい(なお,上記法改正の前後を問わない場合は,単に「措置法」という。),措置法施行令とは,平成7年政令第158号による改正前の租税特別措置法施行令をいう。また,以下においては,「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」を「措置法通達」といい,「所得税基本通達」を「所基通」という。

  2 前提事実

   (1) 原告の父であるP(以下「亡P」という。)は,個人で農業を営んでいたところ,平成▲年▲月▲日,死亡した。亡Pの法定相続人は,農業を営んでいないQ,R,S(以下「Qら」という。)及び農業を営んでいる原告であった。

     亡Pは,平成5年11月18日,遺産の全部を原告に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

     (甲6,乙39)

   (2)ア 原告は,亡Pを相続したことによって納付すべき相続税額が4778万円と算定されたものの,被相続人であるPの農業相続人(改正前措置法70条の6第1項)であったことから,平成6年12月9日,O税務署長に対し,「納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書」を添付した上で,別紙2「特例農地等目録」記載の農地について納付すべき相続税額及び納税猶予税額を4778万円と記載した相続税の申告書を提出し,同項に基づき,相続税の納税を猶予された(以下,同目録記載の農地を番号順に,「本件農地1」ないし「本件農地6」,「旧本件農地7」及び「本件農地8」といい,旧本件農地7につき,下記(5)における分筆後の残地を「本件農地7」,旧本件農地7から分筆された農地を「本件農地9」,旧本件農地7を含めた本件農地1ないし本件農地8を「旧本件各農地」,本件農地7を含めた本件農地1ないし本件農地9を「本件各農地」という。)。

      亡Pの相続開始時点において,同項に規定する「特例農地等」(以下,単に「特例農地等」という。)の相続税の納税猶予対象となった旧本件各農地の面積の合計は,9万9559平方メートルであった(別紙2「特例農地等目録」の①欄参照)。

      (甲6,18)

    イ 原告は,平成10年11月16日,平成12年12月28日,平成15年12月12日頃,平成18年2月28日,平成21年12月11日,平成24年12月10日,O税務署長に対し,措置法の規定に基づき,「相続税の納税猶予の継続届出書」(以下「継続届出書」という。)を提出した。

      原告は,各継続届出書において,措置法70条の6第1項の規定による相続税の納税の猶予を引き続き受けたいこと及び納税の猶予を受けた相続税額を記載するとともに,平成15年12月12日頃以降に提出された各継続届出書には,これらの事項に加えて,「特例農地等」の「譲渡等」(同項1号に定めるもの)をしたために既に猶予期限が確定した(又は確定し納付した)相続税額及び引き続き納税の猶予を受けたい相続税額も記載した。

      (甲15の1~6,乙5の1~6)

   (3) 原告は,本件遺言に基づき,亡Pの遺産の全部を相続したところ,Qらは,自己の遺留分が侵害されているとして,平成6年10月17日,原告に対し,遺留分減殺の意思表示をした。

     Qらは,平成8年頃,原告を相手方とする遺留分減殺請求訴訟を釧路地方裁判所北見支部に提起したところ,同裁判所は,平成10年2月17日,旧本件各農地について,平成6年10月17日遺留分減殺を原因とする持分8分の1の所有権移転の各登記手続をすること等を命じる内容の判決をした。

     Qらは,この判決により,旧本件各農地について,いずれも持分合計8分の3の所有権を取得し,平成10年6月8日,その旨の所有権一部移転登記がされた。その結果,原告が所有する旧本件各農地の面積合計は,6万2224.375平方メートルに減少した(別紙2「特例農地等目録」の②欄参照)。

     O税務署長は,上記の遺留分減殺の結果を受けて,平成11年7月5日,原告に対し,原告の相続税額を4237万4400円とし,納税猶予額を4134万4800円とする更正処分をした。

     (甲9の1~8,乙2,31の1,39,40)

   (4) 原告は,平成10年3月4日,北海道知事に対し,農地法4条に基づき,本件農地3のうち4172平方メートル及び本件農地4のうち3247平方メートルの合計7419平方メートル(うち原告の持分8分の5に相当する部分は4636.875平方メートル)について,営農規模を拡大し,経営の安定合理化を進めたいことを理由とし,土地造成の上,牛舎及び堆肥盤(以下「本件施設」という。)を建築する目的で転用すること(以下「本件転用」という。)の許可の申請をしたところ,北海道知事は,同年4月27日,原告に対し,本件転用を許可し,原告の長男であるTの所有名義に係る本件施設が建築された。本件転用に係る許可申請書(甲10の1)には,本件施設の所有者及びその敷地利用に係る法律関係についての記載はない。

     本件転用に係る農地の面積が,原告が所有する旧本件各農地の面積に占める割合は,約7.45%(4636.875平方メートル÷6万2224.375平方メートル×100)であった(別紙2「特例農地等目録」の③欄参照)。

     (甲8,10の1,18〔写真3〕,19〔別紙8〕)

   (5) 旧本件農地7は,平成12年10月27日,本件農地7と本件農地9に分筆された(別紙2「特例農地等目録」の④欄参照。甲9の7の1・2,乙31の1)。

   (6) 原告は,平成12年12月21日,北海道知事に対し,農地法4条に基づき,本件農地3のうち637平方メートル(うち原告の持分8分の5に相当する部分は398.125平方メートル)について,貯留槽を建築する目的で転用すること(以下「別件転用」という。)の許可の申請をしたところ,北海道知事は,平成13年2月21日,原告に対し,別件転用を許可し,貯留槽が建築された(別紙2「特例農地等目録」の⑤欄参照。甲10の2,甲18〔写真3〕,20〔別紙7〕)。

   (7) 原告は,平成13年12月18日,釧路地方裁判所北見支部に係属していた訴訟において,Qらとの間で,訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。

     その内容は,①本件農地9に係る原告の共有持分と本件農地1ないし本件農地8を含む土地に係るQらの共有持分とを交換すること(以下「本件交換」という。),②Qらは,原告に対し,本件農地1ないし本件農地8を含む土地の各共有持分について,同日付け交換を原因とする所有権移転登記手続をすること,③原告は,Qらに対し,本件農地9の各共有持分につき,同日付け交換を原因とする所有権移転登記手続をすること,④原告は,Qらに対し,本件交換の清算金を支払うことなどである。

     本件交換の結果,本件農地1ないし本件農地8に係るQらの共有持分は,原告に対して全部移転され,また,本件農地9に係る原告の共有持分は,Qら3人に対して全部移転されたところ,いずれの共有持分の移転についても,同日付けの持分放棄を原因として共有持分全部移転登記がされた(なお,登記受付日は,本件農地1ないし本件農地8については平成14年2月26日であり,本件農地9については同年1月16日である。)。本件和解によってQらに移転した本件農地9の面積は8848.75平方メートルであり,その面積が原告の所有する旧本件各農地の面積に占める割合は,約14.22%(8848.75平方メートル÷6万2224.375平方メートル×100)であった(別紙2「特例農地等目録」の⑥欄参照)。

     (甲8,9の1~8,11,乙31の1)

   (8) O税務署長は,平成15年6月30日付けで,原告に対し,「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件通知書1」という。)を送付し,本件交換が改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡等」(以下,単に「譲渡等」という。)に該当し,相続税の納税猶予期限が一部確定し,その猶予期限は平成14年3月18日,猶予期限が確定した相続税本税の金額は918万9300円,利子税額は387万0900円,引き続き納税の猶予がされる相続税本税の金額は3215万5500円である旨通知した(乙4)。

     これを受けて,原告は,平成15年7月11日,本件相続税等として,相続税本税918万9300円及びこれに係る利子税387万0900円,同年8月21日に延滞税160万1400円の合計1466万1600円を納付した。

   (9) 原告は,平成26年10月6日,相続税の猶予税額のうち,3215万5500円を納付した。

   (10) O税務署長は,同年11月26日,原告に対し,本件転用及び別件転用の各許可によって建築された本件施設及び貯留槽は,原告が所有するものではなく,本件転用及び別件転用が「譲渡等」に該当するため,相続税の納税猶予期限の確定事由が存在すること,旧本件各農地のうち,本件転用,別件転用及び本件交換において「譲渡等」の対象となった面積が,原告が相続税の納税の猶予を受けていた面積の100分の20を超えるに至ったことを理由として,本件通知書1に係る通知を取り消した(甲7の1。以下「本件取消通知」という。)。

     その上で,O税務署長は,同日,原告に対し,「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件通知書2」という。)を送付し,本件各農地について,相続税の納税猶予期限が全部確定し,その猶予期限は平成14年3月18日,猶予期限が確定したことによる本件相続税等の金額は,相続税本税が4134万4800円,利子税が1755万9100円であって,引き続き納税の猶予がされる相続税本税の金額は0円である旨通知した(甲7の2)。

     そして,O税務署長は,平成26年12月12日,原告に対し,本件通知書1に係る通知を取り消した結果,上記(8)で原告が納付した本件相続税等1466万1600円の誤納金が発生したものの,これを相続税の納税猶予期限が確定したことに伴う本件相続税等に充当した旨の通知をした(甲1。以下「本件充当通知」という。)。

   (11) 原告は,上記(10)を受けて,同月24日,本件相続税等として,相続税本税4134万4800円,利子税1743万1700円及び延滞税1465万0800円の合計7342万7300円のうち,既に納付した4681万7100円(上記(9)の3215万5500円と上記(10)の充当額1466万1600円の合計額)を控除した残額の2661万0200円を納付した。

   (12)ア 原告は,平成27年2月13日,O税務署長に対し,本件充当通知(甲1)を充当処分と捉えた上で,相続税の納税猶予期限が平成14年3月18日であるため,その徴収権は時効により消滅しているとして,本件充当通知に係る充当処分の取消しを求める旨の異議申立てをした。これに対し,O税務署長は,平成27年5月11日,原告の異議申立てを棄却する旨の決定をした。(甲2の1~3,3)

    イ 原告は,同年6月10日,国税不服審判所長に対し,本件充当通知に係る充当処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成28年3月17日,審査請求を却下する旨の裁決をした。

      国税不服審判所長は,この裁決の中で,上記(8)で原告が納付した本件相続税等は誤納金に該当しないと判断したところ,これを受けて,O税務署長は,同年11月10日,原告に対し,本件充当通知(甲1)を取り消す旨の通知をした。

      (甲4,5,乙1)

    ウ 上記イの裁決を受けて,原告は,同年8月25日,被告に対し,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないこと等を理由として,不当利得返還請求権に基づき,納付した本件相続税等の返還を請求する本件訴訟を提起したところ,平成29年3月1日の第2回弁論準備手続期日において,還付金等請求権(国税通則法56条1項)に基づく納付した本件相続税等の返還請求を予備的に追加し,平成30年3月12日の第8回弁論準備手続期日において,納付した本件相続税等を損害とする国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求を選択的に追加した(国家賠償請求の選択的な追加は,原告が,同期日において2018(平成30)年2月20日付け準備書面(5)を陳述したことによってされた。なお,同期日の調書には,「2018年2月23日付け準備書面陳述」と記載されているが,当該記載は,同月20日付け準備書面陳述の誤記と認める。)。

      被告は,同年8月30日の第11回弁論準備手続期日において,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づく原告の上記請求権は時効によって消滅しているとして,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

  3 争点及びこれに関する当事者の主張

   (1) 争点の概略等

    ア 本件においては,まず,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないかが争点となる(争点①)。

    イ 争点①において,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当する場合,適法な徴収権に基づいて相続税が徴収されてはいるものの,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,相続税の納税猶予期限である平成14年3月18日から5年経過後に納付されたものであり,かかる差額分に係る徴収権が時効によって消滅していること(国税通則法72条)になるため,原告が継続届出書を提出していたことが債務の承認に当たり,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効が中断するか(抗弁)が争点となり(争点②),さらに,被告が消滅時効の中断の主張をすることが信義則に違反するか(再抗弁)が争点となる(争点③)。なお,この場合,国家賠償請求については,違法かつ過失に基づく徴収行為はないことになる。

    ウ 争点①において,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,国が不当に利得したことになり,不当利得又は誤納金となる。他方,原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の金額については,不当利得又は誤納金となるものの,その納付から5年以上が経過していることから,還付請求権の消滅時効(国税通則法74条,72条)の期間が経過していることになるが(抗弁),これに対して,被告が消滅時効の主張をすることが信義則に違反するか(再抗弁)が争点となる(争点④)。また,この場合,国家賠償請求の争点は,O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為により,原告が平成15年に本件交換に係る本件相続税等を納付し,原告がその納付額相当の損害を被ったか(請求原因,争点⑤),国家賠償請求権の消滅時効の成否(抗弁,争点⑥)及び被告による国家賠償請求権の消滅時効の援用が信義則に違反するか(再抗弁,争点⑦)となる。

    エ 争点①において,本件転用が「譲渡等」に該当せず,本件交換が「譲渡等」に該当する場合,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,国が不当に利得したことになり,不当利得又は誤納金となるところ,国家賠償請求との関係では,かかる差額分がO税務署長の過失に基づく違法な徴収行為による原告の損害といえるか,その消滅時効の成否及び被告による消滅時効の援用が信義則に違反するかが争点となる(争点⑤ないし⑦と同様である。)。他方,原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の金額については不当利得及び誤納金とはならず,また,かかる相続税の金額を損害とする国家賠償請求についても,O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為はないことになる。

   (2) 争点①(本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないか)について

  (原告の主張)

    ア 本件転用について

    (ア) 本件施設の所有名義人であるTは,原告の後継者であるところ,原告の年齢上の問題から,T名義でなければ本件施設の建築資金の融資を受けられなかったため,担保権設定の都合上,形式的に本件施設の所有名義をTとし,原告がTから本件施設を賃借する形をとったものである。現に,本件施設の建築資金に係る借入金の返済は,原告からTに支払われた本件施設の賃借料から支出されている。これらによれば,本件施設は,実質的には原告の所有に属するものである。

       このような実態に照らすと,形式的には,Tが所有する本件施設のために,その敷地利用権として本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権が設定されているとみることが可能であるとしても,それを理由に相続税の納税猶予の利益を失わせることは,後記イ(ア)bにおいて述べる「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の目的にそぐわない。

       加えて,原告が本件農地3及び本件農地4の各一部を使用貸借に供したとしても,そのことによって農地の宅地期待益が実現するような利得が発生したわけでもないから,この点からも,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の目的に外れるものではない。

     (イ) そもそも,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度は,農業継続の意思がありながら,地価の高騰に伴い,相続によって農地に対する宅地期待益を含んだ売買価格を基礎として相続税が課税されることによって農業継続ができなくなることを防止し,農業経営の近代化と農業後継者育成を税制面から支援することを目的とする制度である。

       そして,旧本件各農地における営農の主体は一貫して原告であるところ,本件転用において本件施設を建築したことも,旧本件各農地での原告の営農規模の拡大及び合理化を目的としたものであって,他者のためにこれらを建築したわけではない。

       このことは,本件転用に際して北海道知事がした許可が,農地法5条ではなく,同法4条に基づくものであって,これを受けて,U町農業委員会長が,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」(甲14の1)を送付していることからすれば,Tに対する本件農地3及び本件農地4の各一部に係る使用貸借権の設定は前提とされていないこと,継続届出書に添付されているU町農業委員会の証明書(措置法施行規則〔平成7年省令第33号による改正前のもの〕23条の8第12項1号に基づくもの)においても,本件農地3及び本件農地4の各一部が,措置法施行令40条の7第6項に掲げる施設,すなわち農業相続人の耕作又は養畜の事業に係る施設の敷地に供している農地として記載されていることからも明らかである。

     (ウ) これらによれば,本件施設は実質的には原告所有であるということができるのであって,本件転用は「譲渡等」の一類型である「転用」には該当しないというべきである。

    イ 本件交換について

    (ア)a 本件交換は,本件和解における調書上,交換の形式を採用しているものの,その実質は,亡Pに係る相続の発生に伴って生じた旧本件各農地の共有状態の解消に当たって,農業相続人である原告においては,承継すべき農地を確保することを,農業を営んでいないQらにおいては,非農地及び清算金を獲得することを,それぞれ目的として行われたものである。すなわち,旧本件農地7は,現況が非農地となっていたことから,旧本件農地7から本件農地9を分筆してこれをQらが取得し,分筆後の本件農地7を原告が取得したものであって,まさに共有物の現物分割というべきものであり,民法上の交換契約又は売買契約には該当しない。

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