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       特例農地等について交換〔中略〕が行われた場合において,当該交換〔中略〕が所得税法第58条〔中略〕の規定により所得税の課税上譲渡がなかったものとみなされたときにおける措置法第70条の6第19項において準用する法第70条の4第15項の規定の適用については,70の4-33〈〈交換〔中略〕により農地又は採草放牧地を取得した場合〉〉を準用する。

      (注) なお,上記規定における措置法70条の6第19項は,法70条の6第10項(上記ア)に相当する。

     (イ) 措置法通達70の4-33

       特例適用農地等について交換〔中略〕が行われた場合で,当該交換〔中略〕が所得税法第58条〈〈固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例〉〉〔中略〕の規定により所得税の課税上譲渡がなかったものとみなされたときであっても,当該交換〔中略〕は,措置法第70条の4第1項第1号又は第4項の規定による譲渡等に該当するのであるから留意する。

       したがって,当該交換〔中略〕により取得した農地又は採草放牧地につき,同条第15項の規定の適用を受ける場合には,当該交換〔中略〕があった日から1月以内に令第40条の6第25項の規定による代替農地等の取得に関する承認申請書の提出を要することとなる。

      (注) なお,上記規定における措置法70条の4第15項は,法70条の4第7項(上記イ)に相当し,令とは,法施行令を意味する。

   (4) 法70条の6第13項等

    ア 法70条の6第13項

      第1項の規定の適用を受ける農業相続人は,同項に規定する納税猶予分の相続税の全部につき同項の規定による納税の猶予に係る期限が確定するまでの間,同項の相続税の申告書の提出期限の翌日から起算して毎3年を経過するごとの日までに,政令で定めるところにより,引き続いて同項の規定の適用を受けたい旨の届出書〔中略〕を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

    イ 施行令40条の7第24項

      法第70条の6第13項の規定により提出する届出書には,引き続いて同条第1項の規定の適用を受けたい旨及び次に掲げる事項を記載し,かつ,大蔵省令で定める書類を添付しなればならない。

     1号及び2号 〔省略〕

     3号 納税猶予分の相続税の額

     4号ないし7号 〔省略〕

    ウ 法施行規則23条の8第12項

      施行令第40条の7第24項に規定する大蔵省令で定める書類は,次に掲げる書類とする。

     1号 農業相続人が相続〔中略〕により取得をした特例農地等に係る農業経営を引き続き行っている旨の当該特例農地等の所在地を管轄する農業委員会の証明書〔後略〕

     2号 法第70条の6第13項に規定する届出書の提出期限前3年間に同条第1項の規定の適用を受ける特例農地等につき異動があった場合には,その明細を記載した書類

     3号 〔省略〕

   (5) 法70条の6第18項等

    ア 法70条の6第18項

      第70条の4第15項の規定は,第1項の規定による納税の猶予がされた場合における国税通則法及び国税徴収法の規定の適用について準用する。この場合において,同条第15項〔中略〕第3号中「第1項」とあるのは「第70条の6第1項」と,「贈与税」とあるのは「相続税」と,「租税特別措置法第70条の4第1項」とあるのは「租税特別措置法第70条の6第1項」と読み替えるものとする。

    イ 法70条の4第15項

      第1項の規定による納税の猶予がされた場合における国税通則法及び国税徴収法の規定の適用については,次に定めるところによる。

     1号 及び2号 〔省略〕

     3号 第1項の規定による納税の猶予を受けた贈与税については,国税通則法〔中略〕第73条第4項中「延納」とあるのは,「延納(租税特別措置法第70条の4第1項の規定による納税の猶予を含む。)」とする。

    ウ 国税通則法73条4項

      国税の徴収権の時効は,延納〔中略〕に係る部分の国税(当該部分の国税にあわせて納付すべき延滞税及び利子税を含む。)につき,その延納〔中略〕がされている期間内は,進行しない。

   (6) 法70条の6第20項

     第1項の場合において,同項の規定の適用を受ける農業相続人が次の各号〔中略〕のいずれかに掲げる場合に該当することとなったとき〔中略〕は,当該各号に定める相続税は,政令で定めるところにより,免除する。

    1号ないし3号 〔省略〕

    4号 当該農業相続人がその被相続人からの相続〔中略〕により取得をした第1項の規定の適用を受ける特例農地等の当該取得に係る相続税の申告書の提出期限の翌日から20年を経過した場合 同項に規定する納税猶予分の相続税

  3 農地法の定め

  (1) 3条1項本文

     農地又は採草放牧地について所有権を移転し,又は地上権,永小作権,質権,使用貸借による権利,賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し,若しくは移転する場合には,政令で定めるところにより,当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。

   (2) 4条1項本文

     農地を農地以外のものにする者は,都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村〔中略〕の区域内にあっては,指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。

   (3) 5条1項本文

     農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの〔中略〕にするため,これらの土地について第3条第1項本文に掲げる権利を設定し,又は移転する場合には,当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。

  4 所得税法等の定め

  (1)ア 所得税法33条1項

      譲渡所得とは,資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。

    イ 所基通33-1の6(乙26参照)

      個人が他の者と土地を共有している場合において,その共有に係る一の土地についてその持分に応ずる現物分割があったときには,その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う。〔注は省略〕

   (2) 所得税法58条1項

     居住者が,各年において,1年以上有していた固定資産で次の各号に掲げるものをそれぞれ他の者が1年以上有していた固定資産で当該各号に掲げるもの(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し,その交換により取得した当該各号に掲げる資産(以下この条において「取得資産」という。)をその交換により譲渡した当該各号に掲げる資産(以下この条において「譲渡資産」という。)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には,第33条(譲渡所得)の規定の適用については,当該譲渡資産(取得資産とともに金銭その他の資産を取得した場合には,当該金銭の額及び金銭以外の資産の価額に相当する部分を除く。)の譲渡がなかつたものとみなす。

    1号 土地(建物又は構築物の所有を目的とする地上権及び賃借権並びに農地法〔中略〕第2条第1項(定義)に規定する農地の上に存する耕作に関する権利を含む。)

    2号 ないし5号 〔省略〕

  5 国税通則法の定め

  (1) 2条8号

     法定納期限 国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限〔中略〕をいう。〔後略〕

   (2) 56条1項

     国税局長,税務署長又は税関長は,還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)があるときは,遅滞なく,金銭で還付しなければならない。

   (3)ア 72条1項

      国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は,その国税の法定納期限〔中略〕から5年間行使しないことによって,時効により消滅する。

    イ 同条2項

      国税の徴収権の時効については,その援用を要せず,また,その利益を放棄することができないものとする。

    ウ 同条3項

      国税の徴収権の時効については,〔中略〕民法の規定を準用する。

   (4)ア 74条1項

      還付金等に係る国に対する請求権は,その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって,時効により消滅する。

    イ 同条2項

      第72条第2項及び第3項(国税の徴収権の消滅時効の絶対的効力等)の規定は,前項の場合について準用する。

                                 以上

         

札幌地方裁判所 平成28年(行ウ)第31号 不当利得返還等請求事件 平成31年3月27日

イ(ア) これに対し,原告は,本件交換が共有物の現物分割であり,所得税法の解釈上,共有物の現物分割は「資産の譲渡」に該当しないとされており,改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡」の解釈も,所得税法の解釈と同一にすべきであり,本件交換が「譲渡」に該当しない旨主張する。

       確かに,本件交換は,本件農地1ないし本件農地8を原告の単独所有とし,本件農地9に係る原告の共有持分をQらに移転するための農地法3条1項に基づく許可を得るという目的を達成するため,原告とQらにおいて,共有持分の放棄を相互に行うことにより(認定事実(2)ウ(イ)),民法255条に基づき,本件農地1ないし本件農地8を原告の単独所有とし,本件農地9をQらの共有とすることを意図したものといえる。そうすると,本件交換は,共有物の現物分割としての性格を有しているということができる。

       しかしながら,所得税法33条1項が「資産の譲渡」による所得に課税をする趣旨は,資産の値上がりによる増加益を所得とし,その資産が所有者の支配を離れて他に移転する機会にこれを清算して課税する点にある(最高裁昭和43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁)。他方,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度は,農地の利用制限が確立していないために,農地が宅地に転用される事象が生じる結果,相続財産となった農地の時価評価においては,宅地期待益を含めた高額な評価がされ,相続税の納税のために農地の一部を手放さざるを得なくなる事態が生じていることを踏まえ,農業相続人が相続した農地を農業の用に供して農業を継続していくという意思決定を前提に,宅地期待益ともいうべき価額部分に対する相続税額の納税を猶予するために創設されたものである(乙6,34〔12,14頁〕,37〔17頁〕)。これらによれば,両者は,その制度趣旨を異にしているから,「資産の譲渡」の解釈と改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡」の解釈を全く同一にしなければならないものではない。

       そして,「特例農地等」に係る相続税の納税を猶予するに当たっては,改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡」該当性の判断とは別に,買換え特例の制度が設けられているところである。このことからすれば,同号の「譲渡」に該当するか否かについては,形式的に判断した上で,「譲渡」に当たるという形式的な判断によっては,上記の制度趣旨を損なうような不都合が生じることを回避するべく,当事者が買換え特例の申請をし,納税地の所轄税務署長がこれを承認した場合には,「譲渡」がなかったものとみなされるという買換え特例の制度を通じて実質的な判断をすることが予定されていると解される。

     (イ) また,原告は,本件農地9の共有持分を放棄したものの,本件農地7を原告が単独所有するに至ったことにより,本件各農地に減少が生じたわけではなく,農地の細分化がされたわけでもないことから,本件交換は「譲渡」に該当しない旨主張する。

       しかしながら,相続税の納税猶予制度は,農地の細分化阻止を立法趣旨に含むものではないから(乙34〔14頁〕,37〔1,2,17頁〕),本件交換の結果,本件各農地の一部に細分化が生じたのか否か及び本件各農地に減少が生じたのか否かは,「譲渡」の該当性判断に当たっての考慮要素とはならないというべきである。

     (ウ) さらに,原告は,本件交換が「譲渡」に該当するとしても,既に代替農地が明らかになっており,その過半が「特例農地等」である本件においては,買換え特例承認申請書(改正前措置法70条の6第10項,70条の4第7項)の提出は不要であり,仮にこれを提出すれば,O税務署長の承認を受けられることが確実であったとした上で,本件交換が「譲渡」に該当するとしても,本件交換に係る「特例農地等」の「譲渡」はなかったものとみなされる旨主張する。

       しかしながら,「特例農地等」の「譲渡等」がなかったものとみなされるために所定の事項を記載した買換え特例承認申請書を所轄税務署長に提出する必要があるとされるのは,所轄税務署長において,「譲渡等」がされた「特例農地等」と「譲渡等」の対価で取得が予定される農地又は採草放牧地等の諸般の事情を踏まえて,「譲渡等」がされた「特例農地等」について,「譲渡等」がなかったものとしてよいかを実質的に判断する必要があるためであると解される。

       そうだとすれば,本件交換に係る「特例農地等」の「譲渡」がなかったものとみなされるか否かは,買換え特例承認申請書を提出した上で,O税務署長が実質的に判断する事項であるというべきであり,本件交換に関して,買換え特例承認申請書の提出が不要であるということはできない。

       また,本件交換が「譲渡」に該当し,法定の記載事項(措置法施行令40条の7第16項)が記載された買換え特例承認申請書が提出されていない本件においては,本件交換が「譲渡」に該当しないとみなされる前提となる判断材料がO税務署長に提供されておらず,承認を受けられることが確実であったとも認められない。

     (エ) これらによれば,原告の上記主張はいずれも採用できない。

    ウ また,原告は,本件申立書(乙3)には,買換え特例承認申請書に記載すべき事項が実質的に記載されており,また,本件申立書(乙3)の提出を受けて本件農地9に係る担保の解除がされていることからすると,O税務署長は,原告が引き続き相続税の納税の猶予を受ける意思を有していたことを十分認識していたとした上で,原告に対し,買換え特例承認申請書の提出を教示しなかった以上,その提出がないことを理由として,本件交換が「譲渡」に該当するから,相続税の納税猶予期限が確定したと主張することは,信義則上許されない旨主張する。

      しかしながら,そもそも,本件申立書(乙3)には,譲渡に係る「特例農地等」の価額及びその計算の明細並びに当該譲渡の対価の額等をはじめとする買換え特例承認申請書に記載すべき事項(措置法施行令40条の7第16項各号)が記載されていない。

      そうすると,O税務署長において,原告が相続税の納税の猶予を受ける意思を有していることを本件申立書(乙3)の内容(認定事実(2)ア)から認識し得たとしても,そこから更に進んで,O税務署長に原告に対する買換え特例承認申請書の提出を促す義務があるとまでは認められない。

      また,担保の解除といった事情(認定事実(2)イ)を踏まえて,買換え特例承認申請書の提出があったときと同様の審査をすべきことがO税務署長に義務付けられていたとも認められない。

      これらによれば,買換え特例承認申請書の提出がないことを理由として,相続税の納税猶予期限が確定したと主張することが,信義則上許されないなどということはできず,原告の主張は採用できない。

  3 争点②(原告が継続届出書を提出していたことが債務の承認に当たり,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効が中断するか)について

  (1) 前記2で説示したとおり,本件転用及び本件交換は,いずれも「譲渡等」に該当するところ,本件交換が「譲渡」に該当することによって納税猶予期限が確定した相続税(改正前措置法70条の6第7項)は,平成15年7月11日及び同年8月21日,利子税及び延滞税を含めて納付されている(前提事実(8))。

     他方,本件転用が「譲渡等」に該当することによって確定した相続税の納税猶予期限は,平成14年3月18日であるところ,その旨が本件通知書2(甲7の2)によって原告に通知されたのは,平成26年11月26日である(前提事実(10))。

     その上で,原告は,同年12月24日,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当することに伴い,改正前措置法70条の6第1項1号に基づき,本件各農地に係る相続税の納税猶予期限が確定したとして,本件相続税等を納付した(前提事実(11))。

     ところが,同日における本件相続税等の納付は,本件転用に係る相続税の納税猶予期限から5年以上が経過した後にされており,納付された本件相続税等から本件交換が「譲渡」に該当するとして納付された税額を控除した税額については,既に相続税の徴収権の消滅時効期間が経過していたことになる(国税通則法72条1項,2項)。

   (2)ア もっとも,相続税の徴収権の消滅時効は,債務の承認によって中断するところ(同条3項,民法147条3号),原告は,平成10年から平成24年までの間,O税務署長に対し,継続届出書を提出しており(改正前措置法70条の6第13項,前提事実(2)イ),継続届出書には,納税猶予分の相続税の額を記載することとされており(措置法施行令40条の7第24項3号),本件でも,本件交換が「譲渡」に該当するとされた後に提出された各継続届出書には,引き続き納税の猶予を受けたい相続税額が記載されている(前提事実(2)イ)。

      そこで,本件における上記の各継続届出書の記載が,消滅時効の中断事由である債務の承認に該当するかを検討する。

    イ 消滅時効における債務の承認とは,時効の利益を受ける当事者が,時効によって権利を喪失する者に対し,その権利が存在することを知っている旨を表示することであり,その旨の表示があればよく,時効を中断しようとする意思を必要としないと解される。

    ウ 上記の各継続届出書に記載された引き続き納税の猶予を受けたい相続税額は,未だ納税猶予期限が到来していないものではあるが,これを記載して所轄税務署長に提出することによって,課税主体である国に対し,記載された金額の租税債権が存在することを表示したということができる。

      かかる租税債権は,将来的に免除される可能性のある租税債権ではあるものの,免除されることが確定的なものではなく,将来において納付義務が生じる可能性もあるものであり,免除の可能性があるからといって,権利の存在の表示がないことにはならない。

   (3) 以上によれば,原告による上記の各継続届出書の提出は,消滅時効の中断事由である債務の承認に該当するというべきであり,納付された本件相続税等から本件交換が「譲渡」に該当するとして納付された税額を控除した税額について,相続税の徴収権の消滅時効が成立しているとはいえない。

  4 争点③(原告に対する相続税の徴収権について被告が消滅時効の中断の主張をすることが信義則に違反するか)について

  (1) この点に係る原告の主張は,継続届出書及びその添付書類を検討して,相続税の納税猶予期限の確定事由の有無を調整すべき義務があるO税務署長において,その義務を怠った以上,被告が本件相続税等の徴収権の消滅時効の中断を主張することは,信義則上許されないというものである。

     そこで検討すると,所轄税務署長に対して提出すべき継続届出書には,農業相続人が相続により取得した「特例農地等」に係る農業経営を継続している旨の農業委員会の証明書,及び,継続届出書の提出期限前3年間に改正前措置法70条の6第1項の規定の適用を受ける「特例農地等」につき異動があった場合には,その明細を記載した書類を添付しなければならない(措置法施行令40条の7第24項,措置法施行規則23条の8第12項1号,2号)。

     本件で原告がO税務署長に提出した各継続届出書には,本件農地3及び本件農地4の各一部について,本件転用に供されたものの,これらは「譲渡等」から除外される転用(措置法施行令40条の7第6項)に該当する旨が記載されたU町農業委員会の証明書が添付されているものがある(認定事実(1)エ)。

     現に本件転用の許可をしたU町農業委員会が上記の内容の証明書を作成していることからすると,O税務署長としては,本件転用が「譲渡等」から除外される転用であると認識したと認められるし,本件においては,O税務署長がそのような認識を持つに至ったことについて疑念を抱かせるような事情も見当たらない。そうすると,O税務署長には,納付された本件相続税等から本件交換が「譲渡」に該当するとして納付された税額を控除した税額についての相続税の徴収権につき,消滅時効が完成しないように,本件転用に係る本件施設,本件農地3及び本件農地4の各一部の具体的な利用態様等を積極的に調査すべき義務があったと認めることはできない。

   (2) 以上によれば,被告において,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効の中断を主張することが信義則に違反するとはいえない。

  5 原告の被告に対する請求について

   前記2ないし4において説示したところによれば,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当する結果,旧本件各農地の面積の100分の20を超える割合である100分の21.67が「譲渡等」の対象となったといえるから(別紙2「特例農地等目録」参照),原告の相続税の納税猶予期限は,全部確定したといえ,本件相続税等は,いずれも適法な相続税の徴収権に基づいて被告が徴収し,納付されたものであり,被告が不当に利得したものであるとも誤納金であるともいうことはできない。

    また,本件相続税等が適法な相続税の徴収権に基づいて徴収,納付されたものである以上,公務員であるO税務署長には,故意又は過失に基づく違法な行為が認められない。

 第4 結論

    よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

     札幌地方裁判所民事第2部

         裁判長裁判官  武部知子

            裁判官  向井宣人

            裁判官  臼倉尭史

 

  (別紙1)

        関係法令等の定め

 1 相続税法の定め

  (1) 27条1項

     相続〔中略〕により財産を取得した者〔中略〕は,当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格〔中略〕の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において,その者に係る相続税の課税価格〔中略〕に係る〔中略〕相続税額があるときは,その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内〔中略〕に課税価格,相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

   (2) 33条

     期限内申告書〔中略〕を提出した者は,これらの申告書の提出期限までに,これらの申告書に記載した相続税額〔中略〕に相当する相続税〔中略〕を国に納付しなければならない。

    (注) なお,期限内申告書には,上記(1)における申告書が含まれる(1条の2第2号)。

  2 改正前措置法及び措置法施行令等の定め(乙15,22,23,29,48参照。以下,この項において,改正前措置法を「法」という。)

   (1) 法70条の6第1項等

    ア 法70条の6第1項

      農業を営んでいた個人として政令で定める者(以下,この条において「被相続人」という。)の相続人で政令で定めるもの(以下,この条において「農業相続人」という。)が,当該被相続人からの相続〔中略〕によりその農業の用に供されていた農地〔中略〕及び採草放牧地〔中略〕の取得〔中略〕をした場合〔中略〕には,当該相続に係る相続税法第27条第1項の規定による申告書(当該申告書の提出期限前に提出するものに限る。以下この条において「相続税の申告書」という。)の提出により納付すべき相続税の額のうち,当該農地,採草放牧地〔中略〕で当該申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該農地及び採草放牧地については当該農業相続人がその農業の用に供するもの〔中略〕に限る〔中略〕。以下この条において「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税については,当該申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税の額に相当する担保を提供した場合に限り,同法第33条の規定にかかわらず,納税猶予期限〔中略〕まで,その納税を猶予する。ただし,当該農業相続人が,その納税猶予期限又は当該贈与〔注-法第70条の4の規定の適用に係る贈与〕があった日のいずれか早い日(以下この条において「死亡等の日」という。)前において次の各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなった場合には,当該各号に定める日から2月を経過する日まで,当該納税を猶予する。

     1号 当該相続〔中略〕により取得をした特例農地等の譲渡,贈与〔中略〕若しくは転用(〔中略〕政令で定める転用を除く。)をし,若しくは当該特例農地等につき地上権,永小作権,使用貸借による権利若しくは賃借権の設定をし,又は当該取得に係るこれらの権利の消滅〔中略〕があった場合〔中略〕において,当該譲渡,贈与,転用若しくは設定又は消滅(以下この条において「譲渡等」という。)があった当該特例農地等に係る土地の面積〔中略〕が,当該農業相続人のその時の直前における当該取得をした特例農地等に係る耕作又は養畜の用に供する土地〔中略〕の面積(その時前に当該特例農地等につき譲渡等があった場合には,当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)の100分の20を超えるとき。 その事実が生じた日

     2号 〔省略〕

    イ 法70条の6第5項

      第1項に規定する納税猶予期限とは,当該農業相続人の死亡の日又は相続税の申告書の提出期限の翌日から20年を経過する日のいずれか早い日〔中略〕をい〔中略〕う。

    ウ(ア) 法施行令40条の7第1項

       法第70条の6第1項に規定する農業を営んでいた個人として政令で定める者は,次に掲げる者のいずれかに該当する者〔中略〕とする。

      1号 その生前において有していた法第70条の6第1項に規定する農地及び採草放牧地につきその死亡の日まで農業を営んでいた個人

      2号 〔省略〕

     (イ) 法施行令40条の7第2項

       法第70条の6第1項に規定する被相続人の相続人で政令で定めるものは,次に掲げる者のいずれかに該当する者であることにつき大蔵省令で定めるところにより農業委員会が証明した者〔中略〕とする。

      1号 当該被相続人からの相続〔中略〕に係る法第70条の6第1項の相続税の申告書の提出期限までに当該相続〔中略〕により取得をした同項に規定する農地及び採草放牧地に係る農業経営を開始し,その後引き続き当該農業経営を行うと認められる者

      2号 〔省略〕

     (ウ) 法施行令40条の7第6項

       法第70条の6第1項第1号に規定する政令で定める転用は,同項に規定する農業相続人〔中略〕が,同項に規定する特例農地等〔中略〕を当該農業相続人の耕作若しくは養畜の事業〔中略〕に係る事務所,作業場,倉庫その他の施設又はこれらの事業に従事する使用人の宿舎の敷地にするための転用とする。

   (2) 法70条の6第7項等

    ア 法70条の6第7項

      第1項の規定の適用を受ける特例農地等の一部につき当該特例農地等に係る農業相続人に係る死亡等の日(その日前に同項各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなった場合には,当該各号に定める日)前に当該農業相続人による譲渡等があった場合(当該譲渡等により同項第1号に掲げる場合に該当することとなる場合を除く。)〔中略〕には,同項に規定する納税猶予分の相続税の額のうち,当該譲渡等があった特例農地等〔中略〕(以下この項において「譲渡特例農地等」という。)の価額から,当該譲渡特例農地等につき当該譲渡特例農地等に係る第2項第1号に規定する農業投資価格を基準として計算した価額を控除した残額(以下この条において「農業投資価格控除後の価額」という。)に対応する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税(以下この条において「譲渡特例農地等に係る相続税」という。)については,第1項の規定にかかわらず,当該譲渡等があった日〔中略〕の翌日から2月を経過する日〔中略〕をもって同項の規定による納税の猶予に係る期限とする。

    イ(ア) 法70条の6第2項1号

       前項の規定の適用を受けない者 当該相続〔中略〕により財産の取得をしたすべての者に係る相続税の課税価格(相続税法第19条の規定の適用がある場合には,同条の規定により当該課税価格とみなされた金額)の計算の基礎に算入すべき同項の規定の適用を受ける者の特例農地等の価額は,当該特例農地等につき農業投資価格を基準として計算した価額であるものとして,同法第11条から第17条までの規定を適用した場合において同条の規定により算出される金額

     (イ) 法70条の6第5項

       〔前略〕第2項第1号に規定する農業投資価格とは,特例農地等に該当する農地,採草放牧地〔中略〕につき,それぞれ,その所在する地域において恒久的に耕作又は養畜の用に供されるべき農地若しくは採草放牧地又は農地若しくは採草放牧地に開発されるべき土地として自由な取引が行われるものとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格として当該地域の所轄国税局長が決定した価格をいう。

   (3) 法70条の6第10項等

    ア 法70条の6第10項

      第70条の4第7項の規定は,第1項第1号又は第7項の場合において,これらの規定に規定する譲渡等があった日から1年以内に当該譲渡等の対価の額の全部又は一部をもって農地又は採草放牧地を取得する見込みであることにつき,政令で定めるところにより,納税地の所轄税務署長の承認を受けたときについて準用する。この場合において,同条第7項中「第1項及び第3項」とあるのは「第70条の6第1項又は第7項」と,同項第2号中「農地等」とあるのは「第70条の6第1項に規定する特例農地等」と,同項第3号中「第1項」とあるのは「第70条の6第1項」と,「農地等」とあるのは「同項に規定する特例農地等」と読み替えるものとする。

    イ 法70条の4第7項

      第1項第1号又は第3項の場合において,これらの規定に規定する譲渡等があった日から1年以内に当該譲渡等の対価の額の全部又は一部をもって農地又は採草放牧地を取得する見込みであることにつき,政令で定めるところにより,納税地の所轄税務署長の承認を受けたときにおける第1項及び第3項の規定の適用については,次に定めるところによる。

     1号 当該承認に係る譲渡等は,なかったものとみなす。

     2号及び3号 〔省略〕

    ウ 法施行令40条の7第16項

      法第70条の6第10項の税務署長の承認を受けようとする農業相続人は,同項に規定する譲渡等に係る特例農地等について同項の規定の適用を受けようとする旨及び次に掲げる事項を記載した申請書を,当該譲渡等があった日から1月以内に,納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

     1号 申請者の氏名及び住所

     2号 当該譲渡等に係る特例農地等の明細,当該特例農地等の被相続人からの相続〔中略〕による取得の時における農業投資価格控除後の価額及びその計算の明細並びに当該譲渡等の対価の額

     3号 取得しようとする法第70条の6第10項に規定する農地又は採草放牧地の明細,取得予定年月日及び取得価額の見積額

     4号 その他参考となるべき事項

    エ(ア) 措置法通達70の6-34

しかしながら,本件通知書1により,相続税の納税猶予期限が一部確定し,相続税の納税義務があるとの公的見解が表示されたことになるところ,本件取消通知は,相続税の納税猶予期限の一部確定による納税義務がなかったとの公的見解の表示に該当する。また,本件充当通知は,同日時点において誤納金の還付請求権が存在していたとの公的見解を明らかにしたものといえる。

      これらによれば,O税務署長は,原告の誤納金に係る還付請求権が時効消滅していない旨の公的見解を表示していたといえ,本件充当通知によって,同日時点で,時効消滅したはずの誤納金が存在していることが公的に表示されていたということができるから,本件交換に係る本件相続税等の誤納金の還付請求権の消滅時効は,本件充当通知の到達日の翌日から起算されると解さないと,正義,公平に反するといわざるを得ない。

   (被告の主張)

    ア 仮に,原告が本件交換に係る本件相続税等が誤納金に該当するとして,還付請求権を有していたとしても,還付請求権は,その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって,時効により消滅する(国税通則法74条1項)。そして,還付請求権の時効については,援用を要せず,かつ,時効の利益を放棄することはできない(同条2項,72条2項)。そのため,還付請求権の消滅時効の効果は,被告の行為を要することなく法律上当然かつ確定的に生じるものであり,還付請求権の消滅時効について,信義則が適用される余地はない。

    イ また,租税法規の適用における納税者間の平等,公平の要請を犠牲にしてもなお,納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に初めて,信義則の適用を検討すべきであり,かかる特別の事情が存するか否かは,税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したことにより,納税者がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したところ,後に表示に反する行動により納税者が経済的不利益を受けることになったか否か,また,納税者が税務官庁の表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないか否かを考慮すべきである(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。

      本件において,本件取消通知中には,原告の誤納金に係る還付請求権が時効消滅していないとの公的見解は表示されていないし,本件充当通知は,相続税の納税猶予期限が確定したことを前提としたものであり,原告が同日時点においてもなお誤納金の還付請求権を有することを表示したものではないから,O税務署長が,原告に対し,本件交換に係る本件相続税等の誤納金の還付請求権が時効消滅していない旨の公的見解を表示したことはない。また,原告がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことをうかがわせる証拠もない上,信頼に基づく行動による経済的不利益も生じていない。

      これらによれば,被告が本件交換に係る本件相続税等の誤納金の還付請求権の消滅時効を主張することは,信義則に違反するものではない。

   (6) 争点⑤(O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為により,原告が平成15年に本件交換に係る本件相続税等を納付し,原告がその納付額相当の損害を被ったか〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡」に該当しない場合,又は本件転用が「譲渡等」に該当しないが,本件交換が「譲渡」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

    ア 原告は,平成15年6月30日付けの本件通知書1(乙4)及び平成26年11月26日付けの本件通知書2(甲7の2)を受けて,本件相続税等を納付した。本件通知書1及び本件通知書2は,O税務署長が「譲渡等」の解釈を誤り,相続税の納税猶予期限が確定していないにもかかわらず,これが確定したものとして発出されたものである。そして,「譲渡等」に関するO税務署長の法律解釈には合理的根拠はなく,かかる解釈を前提とする本件通知書1及び本件通知書2の発出は,O税務署長の過失に基づく違法行為である。

    イ 特に,本件交換については,原告及びQらは,O税務署長に対し,本件交換以前に,Qらによる遺留分減殺請求によって共有となった旧本件各農地を現物分割すること,その場合でも相続税の納税の猶予を求める旨の本件申立書(乙3)を提出し,O税務署長は,これを受けて,Qらが取得する本件農地9の担保を一部解除した。その上で,本件和解後,O税務署長は,原告に対し,登記名義変更に関する照会をし,これに対し,原告は,「遺産分割(相続共有後の現物分割)」と回答したにもかかわらず,その約7か月後に本件通知書1が送付された。

      このような経緯を踏まえると,O税務署長は,本件交換が共有物の現物分割であったことを認識していたはずであり,これを民法上の交換契約と認定した合理的根拠はない。

    ウ 本件通知書1及び本件通知書2の発出により,原告は,相続税の納税猶予期限が確定しているものと誤信し,その納税義務がなかったにもかかわらず,本件相続税等を納付したものであり,原告には,納付税額相当の損害が生じた。

   (被告の主張)

    ア 前記(2)(争点①)で主張したとおり,「譲渡等」は,有償無償を問わず,資産の移転を広く含むものと解釈すべきであり,これと異なる解釈を採用すべき根拠規定は改正前措置法には見当たらないことから,O税務署長は,「譲渡等」の意義を文理に忠実に,形式的かつ客観的に解釈した上で,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するものと判断した。このような解釈は,租税法規について,みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではないとの最高裁判例(最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁)等によって裏付けられている。

    イ 個別に検討すると,本件転用については,O税務署長の判断当時,被相続人の相続開始後,納税猶予の対象となっている「特例農地等」上に他人所有の建物が建築されたが,当該建物を相続人が独占的に使用し,当該建物の所有者も臨時的に当該建物を使用することがある事案において,このような使用借権の設定が「譲渡等」に該当すると判断した平成14年5月30日付けの国税不服審判所の裁決例(乙49)があった。

      また,O税務署長が,平成26年11月26日,原告に対し,本件通知書2(甲7の2)を送付した時点において,「特例農地等」上の他人所有の建物が存在したとしても,それを相続人が使用し,「特例農地等」を農業の用に供しているときは,「譲渡等」に該当しないという解釈を採用した裁判例,裁決例及び実務上の取扱いは不見当であった。

      次に,本件交換については,前記(2)(争点①)で主張したとおり,「特例農地等」の交換が行われた場合でも,それが「譲渡等」に該当することを前提に,買換え特例の承認を受けない限り,相続税の納税の猶予を受けられないのであるから,本件交換は「譲渡等」に該当し,O税務署長の法解釈に誤りはない。

      また,O税務署長は,本件和解において作成された弁論準備手続調書に添付された和解条項の記載内容から,本件交換が民法上の交換契約であると法的評価したところ,原告及びQらがした法律行為の内容が公証されている弁論準備手続調書の記載を形式的,客観的に解釈すれば,かかる法的評価は極めて自然なものである。

      さらに,O税務署長が,平成15年6月30日,原告に対し,本件通知書1(乙4)を送付した時点において,交換契約が「譲渡等」に該当しないという解釈を前提にした裁判例,裁決例及び実務上の取扱いは不見当であった。

      これらからすれば,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するとのO税務署長の判断には,相当の合理的根拠があった。

      したがって,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するとして,原告に対して本件通知書1及び本件通知書2を送付したO税務署長の対応は,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえないし,O税務署長には過失もない。

    ウ 原告が,相続税の納税猶予期限が確定しておらず,相続税の納税義務を負っていないにもかかわらず,相続税を納付したのであれば,その納付と同時に,原告は,被告に対し,納付税額と同額の誤納金還付請求権を取得するから,原告の財産は減少しておらず,原告に損害は生じていない。

   (7) 争点⑥(国家賠償請求権の消滅時効の成否〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用が「譲渡等」に該当しないが,本件交換が「譲渡」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (被告の主張)

    ア 被害者が損害を知った時(国家賠償法4条,民法724条前段)とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味し,具体的には,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいい,一般人であれば,加害行為が違法であると判断するに足りる事実を認識していれば,被害者において損害の発生を現実に認識したといえると解される。

    イ 原告は,平成15年7月11日までに本件通知書1(乙4)を受領したことで,相続税の納税猶予期限が確定していない根拠となる事実を認識し,また,これを受けて同年8月21日までに本件相続税等を納付したことで納税猶予期限が確定した本件相続税等を納付した事実を認識した。

      原告が認識していた上記事実は,一般人の理解を前提にすれば,国家賠償法上違法な行為に基づいて損害が生じたことを判断するに足りるものということができ,原告は,損害の発生を現実に認識していたといえ,これらの日に,納付税額相当の損害が生じたことを知ったから,これらの日から原告の国家賠償請求権の消滅時効は起算される。

      そうすると,原告の国家賠償請求権の消滅時効は,本件通知書1の受領の3年後である平成18年7月11日及び本件相続税等の納付の3年後である同年8月21日の経過によって完成した。

   (原告の主張)

     原告は,O税務署長から送付された本件通知書1(乙4)及び本件通知書2(甲7の2)により,相続税の納税猶予期限が確定したことを一方的に通知され,納期限を指定されたため,相続税の納税猶予期限が確定したものと誤信して,本件相続税等を納付したものである。

     そもそも,前記(6)(争点⑤)で主張したとおり,本件通知書1及び本件通知書2は,O税務署長が改正前措置法の解釈を誤って発出したものであり,これらは違法なものであった。

     そして,一般納税者である原告は,本件通知書1及び本件通知書2が違法であり,損害賠償請求及び誤納金の還付請求が可能であることを認識し得なかった。原告が,相続税の納税猶予期限が確定したことに疑問を持ち,損害賠償請求及び誤納金の還付請求が可能との認識を有するに至ったのは,平成26年11月26日に本件通知書2が送付された後,専門家に相談した時であるから,原告の被告に対する国家賠償請求権は時効により消滅していない。

   (8) 争点⑦(被告による国家賠償請求権の消滅時効の援用が信義則に違反するか〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用が「譲渡等」に該当しないが,本件交換が「譲渡」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

     O税務署長は,原告において,本件交換が共有物の現物分割であることなどを詳細に述べて相続税の納税の猶予を継続して受けることを求めたにもかかわらず,前記(6)及び(7)(争点⑤及び争点⑥)で主張したとおり,「譲渡等」に関する誤った法解釈を前提に,違法に本件通知書1(乙4)及び本件通知書2(甲7の2)を発出した。

     原告は,このような違法な本件通知書1及び本件通知書2に基づいて本件相続税等を納付したものであるから,被告が消滅時効を援用して原告に対する損害の填補を免れることは,明らかに正義,公平に反するものであり,信義則に違反するものである。

   (被告の主張)

     原告の主張は,結局のところ,違法な行為をした被告自身が,それによって発生した国家賠償請求権の消滅時効を援用することが信義則に違反して許されないというものである。このような原告の主張は,およそ国又は地方公共団体が国家賠償請求権の消滅時効を援用することが許されず,国家賠償制度における消滅時効制度そのものを否定するに等しく,法的根拠に乏しい独自の見解というほかない。

 第3 当裁判所の判断

  1 認定事実

   (1) 本件転用に関する事実関係

    ア 本件施設については,平成10年8月13日及び同月21日,いずれも建築主をTとして建築確認がされ,本件施設は同年12月頃に完成した。本件施設は,Tを所有者として「土地・家屋・償却資産名寄帳〔課税(補充)台帳〕」(以下「本件台帳」という。)に登録され,本件施設に係る固定資産税の課税及び賦課徴収は,Tに対して行われるとともに,Tは,所得税青色申告決算書において減価償却資産として本件施設を計上し,原告は,Tから本件施設を賃借し,Tに対してその賃料を支払っている一方,本件施設の敷地となっている本件農地3及び本件農地4の各一部について,Tから賃料を得ていない。

      (乙7~9の6,10の1~6,11の1~6,弁論の全趣旨)

    イ(ア) 原告及びTは,平成11年3月3日,本件施設の建築に当たり,V農業協同組合から5850万円を借り入れ,連帯債務者として借入金債務を負担したところ,同農業協同組合に対する借入金債務の返済は,Tが行っている(甲17,19)。

     (イ) 原告は,自らの農業経営において,Tを雇用し,Tに対し,給与を支給している(乙10の1~6)。

    ウ U町農業委員会長は,平成12年12月19日,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」を送付し,本件農地3及び本件農地4の各一部について,本件施設の建築が予定されており,それは措置法施行令40条の7第6項に掲げる施設の用に供するための転用であるとして,農地法4条1項の規定による許可をした旨通知した(甲14の1,乙30)。

    エ 原告が同月28日,平成15年12月12日頃及び平成18年2月1日にO税務署長に対して提出した各継続届出書には,いずれも原告が農業経営をしている旨のU町農業委員会長名義の証明書が添付されており,当該各証明書には,本件農地3及び本件農地4の各一部は,措置法施行令40条の7第6項に規定する「譲渡等」から除外される転用の態様として挙げられている施設に供されている農地として記載されている(乙5の2~4)。

   (2) 本件交換に関する事実関係

    ア 原告及びQらは,本件和解による本件交換に先立つ平成13年10月2日,O税務署長に対し,本件申立書(乙3)を提出し,①亡Pの相続税において,原告が相続税の納税の猶予を受けている本件農地7,本件農地8及び本件農地9について,共有者全員の合意により共有物分割をしたこと,②本来であれば登記原因を共有物分割とすべきところ,Qらが農業者ではなく,分割後の転用計画も明確になっていない現状においては,共有物分割を目的とする登記に必要な農地法の許可が下りないため,やむを得ず分筆登記後に各人が所有権の一部を放棄することにより,共有物分割と同様の結果となるように考慮して実施したこと,③登記に至るかかる事情を理解の上,原告に対する相続税の納税猶予の継続をお願いしたいことを申し立てた(乙3)。

    イ 原告は,平成12年11月16日,O税務署長に対し,本件農地9について,協議分割による分筆を理由として,相続税の納税の猶予を受けるために提供していた担保の一部解除をするよう申し出たところ,O税務署長は,本件交換に先立つ平成13年10月10日,同申出に基づき,本件農地9に係る担保を解除した(甲13,乙27,28の1)。

    ウ(ア) O税務署長は,本件交換後の平成14年11月1日,原告に対し,「登記名義の変更についてのお尋ね」と題する文書を送付し,同年2月26日付けの持分放棄の登記により,原告名義となった本件農地1,本件農地2,本件農地7及び本件農地8について,名義変更の理由を回答するよう求めた(甲12の1)。

       これに対し,原告は,同月18日,O税務署長に対し,本件農地7及び本件農地8について,「遺産分割(相続共有後の現物分割)」という理由を記載し,本件和解に係る弁論準備手続調書を添付して返信した(甲12の2)。

     (イ) また,U町農業委員会長は,平成15年5月1日頃,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」を送付し,本件農地9に係る原告の共有持分が全部Qらに移転したこと,それが本件和解の日である平成13年12月18日における持分放棄によることを通知した(甲14の2,乙32,弁論の全趣旨)。

  2 争点①(本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないか)について

  (1) 本件転用について

   ア Tは,本件台帳上,本件施設の所有者として登録され,本件施設の固定資産税を納税していることに加え,自らの所得税の青色申告決算書において,本件施設を減価償却資産として計上している一方で,原告は,Tから本件施設を賃借した上,その賃料を支払っている(認定事実(1)ア)。これによれば,本件施設は,原告ではなく,Tが所有していると認められる。

      そして,本件施設は,原告が所有する本件農地3及び本件農地4の各一部の上に存在するものの,Tは,原告に対し,本件施設に係る賃料等を支払っていない(認定事実(1)ア)。

      そうすると,Tは,本件施設を所有するために,原告が所有する本件農地3及び本件農地4の各一部を無償で利用していることになるから,原告は,Tに対し,「特例農地等」について,「使用貸借による権利〔中略〕の設定をし」た(改正前措置法70条の6第1項1号)といえ,本件転用は「譲渡等」に該当するということができる。

    イ これに対し,原告は,本件施設の建築資金の融資を受けたり,そのために担保権を設定したりする都合上,本件施設について,原告の農業を将来的に承継するTの所有としたものであるし,融資に対する返済は,原告がTに対して支払った賃料を原資として行われていることから,本件施設は,原告の農業の用に供されており,原告以外の者のために建築されたものではなく,実質的には原告の所有に属するものであり,このことは,U町農業委員会が,本件転用について,農地法5条ではなく同法4条に基づく許可をし,「譲渡等」に該当しない転用(措置法施行令40条の7第6項)に当たると認定していることからも裏付けられる旨主張する。

      確かに,原告は,自己の農業経営においてTを雇用しており(認定事実(1)イ(イ)),Tは,原告の農業に関与しているといえる。また,原告とTは,本件施設の建築資金の融資を受けるに当たって連帯債務者となっている(認定事実(1)イ(ア))ことからすると,Tは,原告の農業経営に供するために本件施設を建築し,原告は,現に本件施設を自己の農業の用に供しているということもできる。

      しかしながら,本件施設が原告の農業経営のために使用されているとしても,Tが,本件台帳上,本件施設の所有者として登録され,本件施設の固定資産税を納税していること,Tは,自らの所得税の青色申告決算書において,本件施設を減価償却資産として計上していること,Tは原告から本件施設の賃料を受領していること,Tが本件施設の建築資金であるV農業協同組合からの借入金債務を弁済していること(認定事実(1)ア)等の事実からすれば,本件施設はTの用にも供されていると評価でき,そうすると,たとえ,同農業協同組合からの借入れ及び同農業協同組合に対する担保権設定の都合から本件施設の所有者をTとしたこと,上記賃料が上記借入金債務の返済原資となっていること等の事情があったとしても,本件施設の実質的な所有者が,Tではなく,原告であると認めることはできないというべきである。

      また,本件転用に係るU町農業委員会の許可の法的根拠が農地法5条ではなく同法4条にあったとしても,本件転用に係る許可申請書(甲10の1)には,本件施設の所有者及びその敷地利用に係る法律関係の記載がないこと(前提事実(4))からすれば,U町農業委員会が,本件施設の所有者及びその敷地(本件農地3及び本件農地4の各一部)の利用に係る法律関係を踏まえて農地法4条に基づく許可をしたとは認められない。さらに,U町農業委員会は,本件施設につき,原告の耕作又は養畜の事業に係る施設として,本件農地3及び本件農地4の各一部を本件施設の敷地にするための転用として認定しているが(認定事実(1)ウ,エ),「農地等の異動事実の通知書」(甲14の1,乙30)及び継続届出書添付の証明書(乙5の2~4)には,いかなる根拠に基づいて本件転用が「譲渡等」に該当しない転用と認定されたのかに関する理由が記載されていない(特に,対外的にはTが本件施設の所有者として行動しているにもかかわらず,Tの本件施設の所有権及びその敷地の使用貸借権を否定した根拠が明らかではない。)。そうすると,これらによっても,本件施設の実質的な所有者が原告であることが裏付けられているとまではいえない。

      これらによれば,本件施設が実質的に原告の所有に属すると認めることはできず,農地法4条に基づき本件転用の許可がされていることが上記アの認定を左右するものではない。

    ウ さらに,原告は,形式的に本件農地3及び本件農地4の各一部を使用貸借に供したとしても,そのことによって,使用貸借部分に係る宅地期待益が実現するような利得が発生したわけではないとして,本件転用が「譲渡等」に該当しない旨主張する。

      しかしながら,上記アで説示したとおり,本件施設の所有者は実質的にもTであり,原告は,Tに対し,本件施設に係る敷地部分である本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権を設定した以上,宅地期待益の実現があったか否かを問題とするまでもなく,改正前措置法70条の6第1項1号の文言上,本件転用が「譲渡等」に該当することは明らかであるから,原告の主張は採用できない。

    エ 以上によれば,本件転用は「譲渡等」に該当する。

   (2) 本件交換について

   ア そもそも,租税法規は,みだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく(最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁),多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から,法的安定性の要請が強く働くため,その解釈は,原則として文理解釈によるべきである。

      そこで,このことを踏まえて,本件交換が改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡」に該当するかを判断すると,本件交換は,本件農地9に係る原告の共有持分(「特例農地等」に該当するもの)を原告からQらに移転する一方,本件農地1ないし本件農地8に係るQらの共有持分(「特例農地等」に該当しないもの)をQらから原告に移転するものである。

      そして,一般に,資産を移転させる行為を(資産の)譲渡というところ,たとえ同時に「特例農地等」に該当しない農地を取得したとしても,「特例農地等」の所有権を第三者に移転する行為は,「特例農地等」を減少させるものであって,「特例農地等」の譲渡に当たると解するのが文理解釈にかなう。

      上記のように解した場合,「特例農地等」を喪失する代わりに,「特例農地等」とは異なる農地を取得し,実質的には,農業相続人の営農の実態に大きな変化がない場合であっても,納税猶予期限が確定する事態が生ずることとなるが,このような事態を防ぐために,買換え特例の制度が用意されているのであるから,農業相続人に大きな不利益が生ずるものではない。

      以上によれば,本件交換は「譲渡」に該当する。

      なお,原告がQらに対して清算金を支払ったのは,Qらに対して相続分に応じた代償給付を取得させたためであり,その支払があったことによって,本件農地7及び本件農地9に係る原告及びQらの所有権取得の法的根拠が共有物の現物分割ではないことになるものではない。

        そして,共有関係にある資産を現物で分割することは,その資産全体に及んでいた共有持分権をその一部に集約するにすぎず,資産の譲渡による増加益が実現したといえるだけの経済的実態が備わっていない。固定資産の交換の場合における譲渡所得の特例について,所得税法58条は,譲渡がなかったものとみなす,つまり,譲渡はあったが,これがないこととするとしているのに対し,所基通33-1の6も,共有物の現物分割をした場合,その分割による土地の譲渡はなかったものとして扱う,つまり,譲渡がそもそも存在しなかったこととしているところ,相続税は,所得をどの段階で捕捉し,課税するかを問題とするものであり,所得税と基本的性格は同一であるから,「譲渡」の解釈は,所得税法における「資産の譲渡」(所得税法33条1項)と同一にすべきであり,本件交換は「譲渡」には該当しないというべきである。

      b さらに,「特例農地等」の相続税の納税猶予制度は,農業相続人が農業を営んでいた被相続人から相続又は遺贈により「特例農地等」を取得し,当該「特例農地等」を引き続き農業の用に供する場合,当該「特例農地等」の時価で相続税が課税されると,その相続税の納税のために営農規模の維持や農業の継続が困難となり,また,民法の定める均等相続に基づく遺産分割によって農地が細分化され,農業経営に支障が生じることから,当該「特例農地等」の恒久的な農地等としての価額を超える部分に対応する相続税額について,その納税を猶予し,次の相続又はその事実が生じる前に申告書の提出期限から20年が経過し,それまでの間,当該「特例農地等」が農業の用に供されてきた場合には,その猶予税額を免除することとしたものである。このことは,改正前措置法70条の6第10項,70条の4第7項(以下,これらの規定に基づく特例を「買換え特例」という。)の規定からも明らかである。

        そうだとすれば,相続税の納税の猶予を受けた相続人の行為によって,仮に,形式的には権利の移転が発生していたとしても,そのことによって,当該「特例農地等」で,恒久的な農地等としての価額を超える対価を得ることなく,しかも,「特例農地等」の減少も来さない場合は,何ら相続税の納税猶予制度の趣旨を潜脱することにはならないから,「譲渡」に該当すると解するべきではない。

        本件交換についてみると,旧本件農地7から本件農地9が分筆され,原告とQらの間において相互に共有持分を放棄することで共有物の現物分割を行い,原告が本件農地9の共有持分に概ね相当する地積を取得することによって本件農地1ないし8を単独所有するに至った。もっとも,このことによって,原告は,本件農地9の恒久的な農地等としての価額を超える対価を得たわけではないし,本件各農地の減少を来したわけでもないから,本件交換は「譲渡」に該当しない。

     (イ) 本件交換が「譲渡」に該当するとしても,「代替農地等の取得等に関する承認申請書」(以下「買換え特例承認申請書」という。)の提出に係る改正前措置法70条の6第10項,70条の4第7項,措置法施行令40条の7第16項は,農地等の譲渡の対価をもって代替農地の取得を予定している場合に,その内容を申請し,承認されれば,相続税の納税猶予期限の確定事由としての「譲渡」をなかったことにするというものであるから,既に代替農地が明らかになっている本件交換の場合で,しかも,その過半が同じく「特例農地等」である本件においては,買換え特例承認申請書の提出は不要というべきである。

       また,買換え特例承認申請書の提出が必要であるとしても,原告は,「納税猶予適用農地における所有権の移転についての申立書」(乙3。以下「本件申立書」という。)及び登記名義変更に関するO税務署長からの質問に対する回答を提出する中で,本件交換において共有物の現物分割として本件農地9の共有持分を放棄したと述べた。そして,原告及びQらが本件和解に先立つ平成13年10月2日に連名で提出した本件申立書には,相続税の納税の猶予を継続して受けることを求める旨が記載されている上,買換え特例承認申請書の記載事項が含まれていたのであるから,本件申立書の提出を受けたO税務署長としては,原告が引き続き相続税の納税の猶予の適用を受けることを求めるとの意思を明確に表示していることを認識していたということができる。

       さらに,本件申立書の提出を受けて,O税務署長は,同月10日,本件農地9の担保を一部解除している。本件交換はこれらを前提としており,本件各農地に係る共有持分の移転登記は,本件和解の履行の結果にすぎず,O税務署長は,本件交換が「譲渡」に該当しないことを十分認識していたといえ,また,買換え特例承認申請書を提出すれば,その承認がされることが確実であったということができる。

       したがって,仮に,一般論として,買換え特例承認申請書の提出が必要であるといえたとしても,上記のとおり,相続税の納税の猶予を継続して受けることが明らかな本件申立書が提出されているにもかかわらず,本件交換が「譲渡」に該当するとして相続税の納税猶予期限を確定させようとするのであれば,O税務署長において,買換え特例承認申請書の提出を教示する義務があるというべきである。それにもかかわらず,O税務署長は,かかる義務を怠った。

       これらによれば,買換え特例承認申請書の提出がないという理由で,相続税の納税猶予期限が確定したと主張することは,信義則上許されない。

     (ウ) これらによれば,本件交換は「譲渡」に該当しないし,仮に「譲渡」に該当するとしても,買換え特例の承認により「譲渡」がなかったものとみなされ,又は,被告においては,信義則上,相続税の納税猶予期限が確定したと主張することはできない。

    ウ 小括

      以上によれば,旧本件各農地の面積の100分の20を超える割合が「譲渡等」の対象となったことはないから,相続税の納税猶予期限は,未だに確定していない。

   (被告の主張)

    ア 本件転用について

    (ア) 本件施設は,Tが建築主として建築し,所有者として固定資産税を負担し,所得税の申告に際しては自らの減価償却資産として計上しているから,Tが取得,所有しているものである。その上で,Tは,原告に対し,本件施設を有償で賃貸し,賃料収入を得ているのであって,原告が主張するように,本件施設の名義を形式上Tとしているにすぎないとはいえない。

       そして,原告は,本件施設の敷地である本件農地3及び本件農地4の各一部について,Tから賃料収入を得ていないから,Tに対し,使用貸借権を設定したということができる。

     (イ) 原告は,本件施設の所有者がTとなっていることについて,融資及び担保権設定の都合によること,本件施設の建築資金が実質的には原告の営農収入から支払われていることを理由として,本件転用が「譲渡等」に該当しないと主張する。しかしながら,Tは,本件施設から賃料という収益を得ており,本件施設の名義を形式上Tとしているにすぎないとはいえないし,本件施設建築に係る借入金の返済を実質的に原告が行っているとの主張を裏付ける証拠はない。

       また,原告は,本件転用に係る使用貸借の存在を観念することが可能であるとしても,それを理由に相続税の納税猶予分の利益を失わせることは納税猶予制度の目的にそぐわないとも主張する。しかしながら,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度は,農業相続人がその「特例農地等」により農業経営を継続することを前提として設けられたものであるところ,農業相続人である原告が「特例農地等」である本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権を設定することは,権利を設定する「特例農地等」の範囲において,農業相続人である原告の農業の用に供されていないことになるから,相続税の納税猶予の対象とはならないというべきである。

     (ウ) これらによれば,本件転用は「譲渡等」に該当する。

    イ 本件交換について

    (ア)a 「譲渡」とは,有償無償を問わず,所有権その他の権利の移転を広く含む概念で,交換もこれに含まれると解される上,「譲渡」の意義は,文理解釈によるべきであり,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の立法目的及び立法趣旨を考慮し,本件交換が「譲渡」に該当しないと判断すべきではない。本件和解における文言が「交換」という文言を用いていることからすれば,本件交換は,民法上の交換契約の履行によるものであって,「譲渡」に該当する。

        原告は,本件交換は,共有物の現物分割である旨主張するが,共有物の現物分割とは,共有物を現実的にそのまま分割する方法のことをいうのであって,本件交換はこれに当たらない。本件交換以前の事情を考慮し,原告及びQらが選択した法形式とは異なり,本件交換が民法上の交換契約でないとするならば,明確性の求められる課税要件該当性の判断が不明確なものとなってしまいかねない。

        仮に,本件交換が共有物分割であるとしても,共有物分割は,有償か無償かは別にして,持分についての権利が移転することから,その法的性質は,共有者相互間における共有持分の交換又は売買であると解される。このことは,共有物の現物分割であっても同様であり,共有持分についての権利の移転が認められる。このことは,資産の増加益の実現という原告の主張とは全く別問題であり,「譲渡」の解釈は,農業の継続を目的とする相続税の納税猶予という観点から考えるべきで,所得税法における「資産の譲渡」の解釈とは異なる。

      b 原告らは,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度が,農業の振興や,農地が非農地に転用されることの防止を目的としていることを前提として,恒久的な農地等としての価額を超える対価を得ることなく,しかも,「特例農地等」の減少も来さない場合は,当該「特例農地等」について権利の移転があったとしても,「譲渡」には該当しないと主張している。

        しかしながら,相続税は,相続財産をその取得時における時価によって評価した上でされるところ,農地の評価は,転用許可等の可能性を踏まえて行われるため,宅地期待益を含んだ評価となりやすいという問題があったことから,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度において,かかる評価上の問題を解決しようとしたものであって,その立法目的には,農業振興及び農地の転用防止による農地の保護といった点は含まれていない。

        そして,原告が,本件農地1ないし本件農地8のうち,相続税の納税猶予の対象となっていないQらの共有持分8の3を取得したとしても,それは新たな農地の取得にすぎない。本件農地1ないし本件農地8のうち,Qらの共有持分をも一体として,原告が農業経営の用に供していたとしても,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の立法目的に農業振興や農地の保護が含まれない以上,「譲渡」の該当性判断において,原告の本件農地1ないし本件農地8の利用実態を考慮すべきではない。

     (イ) 所得税法58条では,土地の交換が行われた場合,所得税の確定申告書に所要の記載をすることを要件として「資産の譲渡」がなかったものとみなされるが,「特例農地等」について交換が行われた場合には,買換え特例の承認を受ける必要がある。すなわち,措置法通達70の6-34,70の4-33では,固定資産の交換が行われた場合において所得税法58条の規定に基づき,所得税の課税上譲渡がなかったものとみなされる場合でも,措置法上は「譲渡等」に該当するとされているし,措置法通達70の6-34の解説においても,「特例農地等」の交換が行われた場合,その交換が所得税の課税上譲渡がなかったものとみなされるときであっても,相続税の納税猶予制度上は「譲渡」に該当するため,相続税の納税の猶予を受けようとする場合には,買換え特例の承認を受ける必要があるとされている。

       また,原告が本件申立書(乙3)を提出したとしても,本件申立書には,買換え特例承認申請書に記載すべき事項は記載されておらず,本件申立書の記載内容から,O税務署長において,本件交換が相続税の納税の猶予を継続して受け得るものであると認識することは不可能である。さらに,買換え特例承認申請書は,買換え特例の適用を受けようとする者が,自らの選択によって提出するものであり,O税務署長に買換え特例承認申請書の提出を教示する義務はないし,仮に原告が買換え特例承認申請書を提出したとしても,買換え特例の承認がされたことが確実であったともいえない。

     (ウ) これらによれば,本件交換は「譲渡」に該当する。

    ウ 小括

      以上によれば,旧本件各農地の面積の100分の20を超える割合が「譲渡等」の対象となったといえるから,相続税の納税猶予期限は,全部確定している。

   (3) 争点②(原告が継続届出書を提出していたことが債務の承認に当たり,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効が中断するか〔本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (被告の主張)

    ア 相続税を含む国税の徴収権は,法定納期限から5年間行使しない場合,時効によって消滅するが(国税通則法72条1項),「特例農地等」に係る相続税の納税の猶予を受けた相続税については,納税の猶予がされている期間内は,相続税の徴収権の消滅時効は進行しない(改正前措置法70条の6第18項で準用する同法70条の4第15項3号により,国税通則法73条4項中「延納」とあるのは,「延納(租税特別措置法70条の6第1項の規定による納税の猶予を含む。)」と読み替えられることによる。)。

      そして,国税の徴収権に係る時効の中断事由には,債務の承認も含まれるところ(国税通則法72条3項,民法147条3号),債務の承認とは,権利の存在の認識を表示することであり,相手方の権利を消滅させようとする効果意思及び時効期間経過の認識を必要とせず,承認の方法は明示黙示を問わないものと解される。

      これを継続届出書についてみると,そもそも,継続届出書を求める趣旨は,農業相続人の相続税の納税の猶予を継続して受ける意思を確認し,「特例農地等」の異動関係等を把握し,国の租税債権の管理を的確化する点にあるところ,継続届出書には,引き続き納税の猶予を受けたい旨のほか,納税猶予分の相続税の額等が記載されていることから,農業相続人が納税の猶予を受けている相続税額の存在を認識し,表示したものと解すべきである。

      したがって,原告は,継続届出書を提出することによって,自らが「特例農地等」の納税の猶予を受けている相続税額の存在を認識し,表示しているといえる。

      また,原告は,継続届出書においては,相続税の納税の猶予を受け,徴収権の消滅時効が進行しない租税債権と,相続税の納税猶予期限の確定事由が発生したために,納期限が到来して消滅時効が進行している租税債権とが区別して記載されており,前者については,消滅時効が進行していることの認識がなく,債務の承認には当たらないと主張する。しかしながら,相続税の納税猶予制度は,あくまで,相続税の納税期限を猶予するものにすぎず,それ以上に,相続税の納税義務自体の性質を変容させる効力を有するものではない。つまり,同一の納税義務についていえば,相続税の納税猶予期限の確定事由がなく,納税が猶予されている納税義務と,かかる確定事由が発生して納税が猶予されていない納税義務とで,納税義務としての違いはなく,その認識対象を区別する合理的理由はない。

    イ 本件では,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するため,平成14年3月18日に相続税の納税猶予期限が確定していたことになる。したがって,客観的には,同日以降に継続届出書が提出されたとしても,それによって相続税の納税の猶予を受けることはできず,継続届出書の提出は無意味なものであったことになる。

      しかしながら,そのことと,相続税額の存在を確認してその認識を表示しているといえるか否かは別問題であり,結果的に無意味な継続届出書の提出であっても,債務の承認としての効果が否定される理由はない。

    ウ そうすると,前提事実(2)イのとおり,原告が各継続届出書を提出したことは,債務の承認に当たり,各継続届出書の提出日において,本件相続税等の徴収権の消滅時効は中断している。

   (原告の主張)

    ア 改正前措置法70条の6第1項に基づく相続税の納税猶予制度は,納税猶予期限が確定することがなかった場合,相続税の徴収権が消滅し,その納付義務を免れるという効果を有するものであり,納付義務の免除を伴わない一般的な納税猶予制度(国税通則法46条)とはその性質を異にするものであるところ,継続届出書を提出する意図は,相続税の納税の猶予を継続し,その納税義務の免除を受けることにあるのであって,相続税の納税義務を確定させることにあるものではない。

      このような継続届出書の提出意図及びその提出によって得られる相続税の納税義務の免除という効果を踏まえると,継続届出書が債務の承認に当たり,消滅時効を中断させるものと考えることは,時効制度の趣旨のみならず,時効の利益を受ける者と時効によって権利を失う者との間の衡平にも反するというべきである。

    イ これに加え,相続税の納税猶予期限が平成14年3月18日に確定したというのであれば,継続届出書は,納税猶予期限が確定するまでの間に提出することが求められているものであるから,同日以後に提出された各継続届出書は,改正前措置法が要求する継続届出書ではないともいえる。

      すなわち,継続届出書に記載されているのは,あくまでも,相続税の納税の猶予がされている間における,徴収権の消滅時効が進行しない租税債権の存在の認識であって,相続税の納税猶予期限の確定事由が発生したために,納期限が到来して消滅時効が進行している租税債権の存在の認識ではない。納税義務の観点からみても,継続届出書には,相続税の納税猶予期限が確定することなく20年が経過すれば消滅する納税義務と既にかかる期限が確定して発生した納税義務の2種類が記載されているといえる。これらの租税債権及び納税義務は,性質が真逆のものであって,区別しなければならない。そうであれば,相続税の納税猶予期限が確定した同日以降に提出された各継続届出書によって,相続税の徴収権の消滅時効が中断すると解することはできない。

    ウ そうすると,原告が各継続届出書を提出したことは,債務の承認に当たるものではなく,その提出によって本件相続税等の徴収権の消滅時効が中断するとはいえない。

   (4) 争点③(原告に対する相続税の徴収権について被告が消滅時効の中断の主張をすることが信義則に違反するか〔本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当し,継続届出書の提出が債務の承認に当たる場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

    ア O税務署長には,継続届出書及びその添付書類を検討し,相続税の納税猶予期限の確定事由の有無を調査すべき義務があり,調査によって,相続税の納税猶予期限の確定事由があると判断した場合は,速やかに相続税の納付を求めるべきである。それにもかかわらず,O税務署長は,各継続届出書の提出を受けて相続税の納税猶予期限の確定事由を調査せず,又は調査してもかかる事由が発生していないと判断し,漫然と相続税の徴収権の消滅時効期間を経過させたものである。

      被告は,本件転用に係る農地の異動の事実に関する通知及び各継続届出書には,本件転用に関する事実とは異なる記載がされていること等を主張し,O税務署長の調査義務を否定する。しかしながら,原告が提出した書類の内容が正しいことを前提に,調査義務の存在を否定するのであれば,そもそも実地確認が必要となる場合などないことになるし,O税務署長は,自ら所管する居住者の所得税の申告を受けることにより,本件転用の直後から,本件施設の所有関係及びその敷地利用状況を実地確認する必要があったといえる。

    イ これによれば,被告が,本件相続税等の徴収権の消滅時効の中断を主張することは,信義則に違反し,許されない。

   (被告の主張)

    ア 「特例農地等」に係る相続税の納税猶予に関する実地確認は,その必要性を個別に検討して行われるものであり,継続届出書の提出があったことが,直接にO税務署長に対し,実地確認を義務付けるものではなく,現に,O税務署長は,平成26年において原告の相続税の納税猶予期限が確定したことを把握した以前の段階では,本件農地3及び本件農地4の利用状況等を実地確認する必要性を認めなかった。

      すなわち,措置法等の法令は,税務署長において,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予期限の確定事由について,農業委員会等による農地等の異動の事実に関する通知及び農業相続人からの継続届出書によって把握し,その上で必要に応じて確認調査を行うことを予定している。

      本件では,O税務署長は,平成12年12月21日,本件転用に係る異動の事実に関する通知を受領したが,そこには,本件転用が「譲渡等」に該当しない転用に該当するとの記載があり,また,平成10年11月16日に提出された継続届出書には,旧本件各農地に異動はなく,引き続き農業を営んでいるとのU町農業委員会の証明書が添付され,その後の平成12年12月28日,平成15年12月12日頃及び平成18年2月28日に提出された各継続届出書にも,本件転用が「譲渡等」に該当しない転用に該当することを前提とした本件施設の利用に関する書類が添付されている。さらに,平成21年12月10日及び平成24年12月7日に提出された各継続届出書には,本件転用に関する記載はない。

      これらによれば,O税務署長は,本件転用が「譲渡等」に該当するとの疑いを持つことはできず,他に実地確認の必要性を認める事情は平成26年に至るまで認められなかった。また,継続届出書の提出を受けた場合に,実地確認をすることを義務付けた法令の規定もない。

    イ そうすると,被告における本件相続税等の徴収権の消滅時効の中断の主張が信義則に違反することはない。

   (5) 争点④(原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の還付請求権について被告が消滅時効の主張をすることが信義則に違反するか〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

    ア 被告は,本件交換に係る本件相続税等の還付請求権は,本件相続税等が納付された平成15年7月11日及び同年8月21日から5年を経過した平成20年7月11日及び同年8月21日の経過をもって,時効により消滅した旨主張する。

      しかしながら,O税務署長は,平成26年11月26日,原告に対し,本件通知書1(乙4)に係る通知を取り消し(本件取消通知),本件通知書1に基づいて納付した誤納金について,還付金等請求権が発生したことを通知するとともに,平成14年3月18日に相続税の納税猶予期限は確定しており,相続税の納期限が到来していたとした上で,同年12月12日,本件充当通知を送付し,かかる誤納金を相続税の納税猶予期限が確定したことに伴って納付すべき本件相続税等に充当した。

      このように,O税務署長は,被告主張に係る還付請求権の消滅時効期間経過後のこととはいえ,一旦還付請求権の発生を通知している以上,被告において,本件交換に係る本件相続税等の還付請求権が時効によって消滅したと主張することは信義則に違反し,許されない。

    イ 被告は,本件取消通知及び本件充当通知をしたとしても,これらが公的見解の表示に該当しない旨主張する。

不当利得返還等請求事件

納税者へ十分な告知と聴聞があったといえるかは疑問と思われる納税者敗訴の札幌地裁平成31年判決

 

【事件番号】 札幌地方裁判所判決/平成28年(行ウ)第31号

【判決日付】 平成31年3月27日

【判示事項】 被相続人が所有していた農地を,その相続人である原告及びそのきょうだいが共有するに至り,また,農業相続人である原告が相続税の納税を猶予されていた事案において,共有物分割の結果,納税猶予の対象とされていた共有持分の一部が原告から他の相続人に移転し,他の相続人の共有持分の一部が原告に移転したところ,原告の共有持分の移転が,租税特別措置法に規定する納税猶予期限の確定事由である「譲渡等」に該当するとされた事例

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

  1 原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 請求

  1 不当利得返還請求(主位的請求)又は国税通則法56条1項に基づく還付金等の返還請求(予備的請求)

    被告は,原告に対し,7342万7300円及びうち1306万円に対する平成15年8月12日から,うち160万円に対する平成15年9月22日から,うち3215万円に対する平成26年11月7日から,うち2661万円に対する平成27年1月25日から,それぞれその還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成18年12月31日までは年4.1%の割合,平成19年1月1日から同年12月31日までは年4.4%の割合,平成20年1月1日から同年12月31日までは年4.7%の割合,平成21年1月1日から同年12月31日まで年4.5%の割合,平成22年1月1日から平成25年12月31日までは年4.3%の割合,平成26年1月1日から同年12月31日までは年1.9%の割合,平成27年1月1日から平成28年12月31日までは年1.8%の割合,平成29年1月1日から同年12月31日までは年1.7%の割合,平成30年1月1日から同年12月31日までは年1.6%の割合,平成31年1月1日以降は年7.3%の割合又は租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合(ただし,当該特例基準割合に0.1%未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)のいずれか低い割合を乗じて計算した各金額を合計した金員(ただし,その合計金額につき100円未満の端数があるときは,その端数金額を切り捨てたもの。)を支払え。

  2 国家賠償請求

    被告は,原告に対し,7342万7300円及びうち1306万0200円に対する平成15年7月11日から,うち160万1400円に対する同年8月21日から,うち3215万5500円に対する平成26年10月6日から,うち2661万0200円に対する同年12月24日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要

    本件は,被相続人が所有していた土地を相続して相続税の納税を猶予されていた原告が,O税務署長から,当該土地の一部を転用しあるいは交換に供したことが,租税特別措置法が定める納税猶予期限の確定事由である「譲渡等」に該当し,納税猶予期限が確定したとして,被相続人の相続に係る相続税本税,利子税及び延滞税(以下「本件相続税等」という。)の納付を求められ,これを納付したものの,当該土地の一部の転用あるいは交換は「譲渡等」に該当せず,被告は,主位的には法律上の原因なく本件相続税等を利得した,予備的にはこれによって誤納金が発生したとして,主位的には不当利得返還請求権(民法703条),予備的には還付金等請求権(国税通則法56条1項)に基づき,上記第1の1の金額及びこれに対する国税通則法及び租税特別措置法所定の還付加算金の支払を求め,又は,これらの請求とは選択的に,O税務署長の「譲渡等」に関する解釈が違法であったとして,国家賠償請求権(国家賠償法1条1項)に基づき,上記第1の2の金額及びこれに対する民法所定の年5%の割合の遅延損害金の支払を求めた事案である。

  1 関係法令等の定め

   別紙1「関係法令等の定め」のとおりである。このうち,改正前措置法とは,平成7年法律第55号による改正前の租税特別措置法をいい(なお,上記法改正の前後を問わない場合は,単に「措置法」という。),措置法施行令とは,平成7年政令第158号による改正前の租税特別措置法施行令をいう。また,以下においては,「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」を「措置法通達」といい,「所得税基本通達」を「所基通」という。

  2 前提事実

   (1) 原告の父であるP(以下「亡P」という。)は,個人で農業を営んでいたところ,平成▲年▲月▲日,死亡した。亡Pの法定相続人は,農業を営んでいないQ,R,S(以下「Qら」という。)及び農業を営んでいる原告であった。

     亡Pは,平成5年11月18日,遺産の全部を原告に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

     (甲6,乙39)

   (2)ア 原告は,亡Pを相続したことによって納付すべき相続税額が4778万円と算定されたものの,被相続人であるPの農業相続人(改正前措置法70条の6第1項)であったことから,平成6年12月9日,O税務署長に対し,「納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書」を添付した上で,別紙2「特例農地等目録」記載の農地について納付すべき相続税額及び納税猶予税額を4778万円と記載した相続税の申告書を提出し,同項に基づき,相続税の納税を猶予された(以下,同目録記載の農地を番号順に,「本件農地1」ないし「本件農地6」,「旧本件農地7」及び「本件農地8」といい,旧本件農地7につき,下記(5)における分筆後の残地を「本件農地7」,旧本件農地7から分筆された農地を「本件農地9」,旧本件農地7を含めた本件農地1ないし本件農地8を「旧本件各農地」,本件農地7を含めた本件農地1ないし本件農地9を「本件各農地」という。)。

      亡Pの相続開始時点において,同項に規定する「特例農地等」(以下,単に「特例農地等」という。)の相続税の納税猶予対象となった旧本件各農地の面積の合計は,9万9559平方メートルであった(別紙2「特例農地等目録」の①欄参照)。

      (甲6,18)

    イ 原告は,平成10年11月16日,平成12年12月28日,平成15年12月12日頃,平成18年2月28日,平成21年12月11日,平成24年12月10日,O税務署長に対し,措置法の規定に基づき,「相続税の納税猶予の継続届出書」(以下「継続届出書」という。)を提出した。

      原告は,各継続届出書において,措置法70条の6第1項の規定による相続税の納税の猶予を引き続き受けたいこと及び納税の猶予を受けた相続税額を記載するとともに,平成15年12月12日頃以降に提出された各継続届出書には,これらの事項に加えて,「特例農地等」の「譲渡等」(同項1号に定めるもの)をしたために既に猶予期限が確定した(又は確定し納付した)相続税額及び引き続き納税の猶予を受けたい相続税額も記載した。

      (甲15の1~6,乙5の1~6)

   (3) 原告は,本件遺言に基づき,亡Pの遺産の全部を相続したところ,Qらは,自己の遺留分が侵害されているとして,平成6年10月17日,原告に対し,遺留分減殺の意思表示をした。

     Qらは,平成8年頃,原告を相手方とする遺留分減殺請求訴訟を釧路地方裁判所北見支部に提起したところ,同裁判所は,平成10年2月17日,旧本件各農地について,平成6年10月17日遺留分減殺を原因とする持分8分の1の所有権移転の各登記手続をすること等を命じる内容の判決をした。

     Qらは,この判決により,旧本件各農地について,いずれも持分合計8分の3の所有権を取得し,平成10年6月8日,その旨の所有権一部移転登記がされた。その結果,原告が所有する旧本件各農地の面積合計は,6万2224.375平方メートルに減少した(別紙2「特例農地等目録」の②欄参照)。

     O税務署長は,上記の遺留分減殺の結果を受けて,平成11年7月5日,原告に対し,原告の相続税額を4237万4400円とし,納税猶予額を4134万4800円とする更正処分をした。

     (甲9の1~8,乙2,31の1,39,40)

   (4) 原告は,平成10年3月4日,北海道知事に対し,農地法4条に基づき,本件農地3のうち4172平方メートル及び本件農地4のうち3247平方メートルの合計7419平方メートル(うち原告の持分8分の5に相当する部分は4636.875平方メートル)について,営農規模を拡大し,経営の安定合理化を進めたいことを理由とし,土地造成の上,牛舎及び堆肥盤(以下「本件施設」という。)を建築する目的で転用すること(以下「本件転用」という。)の許可の申請をしたところ,北海道知事は,同年4月27日,原告に対し,本件転用を許可し,原告の長男であるTの所有名義に係る本件施設が建築された。本件転用に係る許可申請書(甲10の1)には,本件施設の所有者及びその敷地利用に係る法律関係についての記載はない。

     本件転用に係る農地の面積が,原告が所有する旧本件各農地の面積に占める割合は,約7.45%(4636.875平方メートル÷6万2224.375平方メートル×100)であった(別紙2「特例農地等目録」の③欄参照)。

     (甲8,10の1,18〔写真3〕,19〔別紙8〕)

   (5) 旧本件農地7は,平成12年10月27日,本件農地7と本件農地9に分筆された(別紙2「特例農地等目録」の④欄参照。甲9の7の1・2,乙31の1)。

   (6) 原告は,平成12年12月21日,北海道知事に対し,農地法4条に基づき,本件農地3のうち637平方メートル(うち原告の持分8分の5に相当する部分は398.125平方メートル)について,貯留槽を建築する目的で転用すること(以下「別件転用」という。)の許可の申請をしたところ,北海道知事は,平成13年2月21日,原告に対し,別件転用を許可し,貯留槽が建築された(別紙2「特例農地等目録」の⑤欄参照。甲10の2,甲18〔写真3〕,20〔別紙7〕)。

   (7) 原告は,平成13年12月18日,釧路地方裁判所北見支部に係属していた訴訟において,Qらとの間で,訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。

     その内容は,①本件農地9に係る原告の共有持分と本件農地1ないし本件農地8を含む土地に係るQらの共有持分とを交換すること(以下「本件交換」という。),②Qらは,原告に対し,本件農地1ないし本件農地8を含む土地の各共有持分について,同日付け交換を原因とする所有権移転登記手続をすること,③原告は,Qらに対し,本件農地9の各共有持分につき,同日付け交換を原因とする所有権移転登記手続をすること,④原告は,Qらに対し,本件交換の清算金を支払うことなどである。

     本件交換の結果,本件農地1ないし本件農地8に係るQらの共有持分は,原告に対して全部移転され,また,本件農地9に係る原告の共有持分は,Qら3人に対して全部移転されたところ,いずれの共有持分の移転についても,同日付けの持分放棄を原因として共有持分全部移転登記がされた(なお,登記受付日は,本件農地1ないし本件農地8については平成14年2月26日であり,本件農地9については同年1月16日である。)。本件和解によってQらに移転した本件農地9の面積は8848.75平方メートルであり,その面積が原告の所有する旧本件各農地の面積に占める割合は,約14.22%(8848.75平方メートル÷6万2224.375平方メートル×100)であった(別紙2「特例農地等目録」の⑥欄参照)。

     (甲8,9の1~8,11,乙31の1)

   (8) O税務署長は,平成15年6月30日付けで,原告に対し,「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件通知書1」という。)を送付し,本件交換が改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡等」(以下,単に「譲渡等」という。)に該当し,相続税の納税猶予期限が一部確定し,その猶予期限は平成14年3月18日,猶予期限が確定した相続税本税の金額は918万9300円,利子税額は387万0900円,引き続き納税の猶予がされる相続税本税の金額は3215万5500円である旨通知した(乙4)。

     これを受けて,原告は,平成15年7月11日,本件相続税等として,相続税本税918万9300円及びこれに係る利子税387万0900円,同年8月21日に延滞税160万1400円の合計1466万1600円を納付した。

   (9) 原告は,平成26年10月6日,相続税の猶予税額のうち,3215万5500円を納付した。

   (10) O税務署長は,同年11月26日,原告に対し,本件転用及び別件転用の各許可によって建築された本件施設及び貯留槽は,原告が所有するものではなく,本件転用及び別件転用が「譲渡等」に該当するため,相続税の納税猶予期限の確定事由が存在すること,旧本件各農地のうち,本件転用,別件転用及び本件交換において「譲渡等」の対象となった面積が,原告が相続税の納税の猶予を受けていた面積の100分の20を超えるに至ったことを理由として,本件通知書1に係る通知を取り消した(甲7の1。以下「本件取消通知」という。)。

     その上で,O税務署長は,同日,原告に対し,「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件通知書2」という。)を送付し,本件各農地について,相続税の納税猶予期限が全部確定し,その猶予期限は平成14年3月18日,猶予期限が確定したことによる本件相続税等の金額は,相続税本税が4134万4800円,利子税が1755万9100円であって,引き続き納税の猶予がされる相続税本税の金額は0円である旨通知した(甲7の2)。

     そして,O税務署長は,平成26年12月12日,原告に対し,本件通知書1に係る通知を取り消した結果,上記(8)で原告が納付した本件相続税等1466万1600円の誤納金が発生したものの,これを相続税の納税猶予期限が確定したことに伴う本件相続税等に充当した旨の通知をした(甲1。以下「本件充当通知」という。)。

   (11) 原告は,上記(10)を受けて,同月24日,本件相続税等として,相続税本税4134万4800円,利子税1743万1700円及び延滞税1465万0800円の合計7342万7300円のうち,既に納付した4681万7100円(上記(9)の3215万5500円と上記(10)の充当額1466万1600円の合計額)を控除した残額の2661万0200円を納付した。

   (12)ア 原告は,平成27年2月13日,O税務署長に対し,本件充当通知(甲1)を充当処分と捉えた上で,相続税の納税猶予期限が平成14年3月18日であるため,その徴収権は時効により消滅しているとして,本件充当通知に係る充当処分の取消しを求める旨の異議申立てをした。これに対し,O税務署長は,平成27年5月11日,原告の異議申立てを棄却する旨の決定をした。(甲2の1~3,3)

    イ 原告は,同年6月10日,国税不服審判所長に対し,本件充当通知に係る充当処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成28年3月17日,審査請求を却下する旨の裁決をした。

      国税不服審判所長は,この裁決の中で,上記(8)で原告が納付した本件相続税等は誤納金に該当しないと判断したところ,これを受けて,O税務署長は,同年11月10日,原告に対し,本件充当通知(甲1)を取り消す旨の通知をした。

      (甲4,5,乙1)

    ウ 上記イの裁決を受けて,原告は,同年8月25日,被告に対し,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないこと等を理由として,不当利得返還請求権に基づき,納付した本件相続税等の返還を請求する本件訴訟を提起したところ,平成29年3月1日の第2回弁論準備手続期日において,還付金等請求権(国税通則法56条1項)に基づく納付した本件相続税等の返還請求を予備的に追加し,平成30年3月12日の第8回弁論準備手続期日において,納付した本件相続税等を損害とする国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求を選択的に追加した(国家賠償請求の選択的な追加は,原告が,同期日において2018(平成30)年2月20日付け準備書面(5)を陳述したことによってされた。なお,同期日の調書には,「2018年2月23日付け準備書面陳述」と記載されているが,当該記載は,同月20日付け準備書面陳述の誤記と認める。)。

      被告は,同年8月30日の第11回弁論準備手続期日において,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づく原告の上記請求権は時効によって消滅しているとして,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

  3 争点及びこれに関する当事者の主張

   (1) 争点の概略等

    ア 本件においては,まず,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないかが争点となる(争点①)。

    イ 争点①において,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当する場合,適法な徴収権に基づいて相続税が徴収されてはいるものの,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,相続税の納税猶予期限である平成14年3月18日から5年経過後に納付されたものであり,かかる差額分に係る徴収権が時効によって消滅していること(国税通則法72条)になるため,原告が継続届出書を提出していたことが債務の承認に当たり,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効が中断するか(抗弁)が争点となり(争点②),さらに,被告が消滅時効の中断の主張をすることが信義則に違反するか(再抗弁)が争点となる(争点③)。なお,この場合,国家賠償請求については,違法かつ過失に基づく徴収行為はないことになる。

    ウ 争点①において,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,国が不当に利得したことになり,不当利得又は誤納金となる。他方,原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の金額については,不当利得又は誤納金となるものの,その納付から5年以上が経過していることから,還付請求権の消滅時効(国税通則法74条,72条)の期間が経過していることになるが(抗弁),これに対して,被告が消滅時効の主張をすることが信義則に違反するか(再抗弁)が争点となる(争点④)。また,この場合,国家賠償請求の争点は,O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為により,原告が平成15年に本件交換に係る本件相続税等を納付し,原告がその納付額相当の損害を被ったか(請求原因,争点⑤),国家賠償請求権の消滅時効の成否(抗弁,争点⑥)及び被告による国家賠償請求権の消滅時効の援用が信義則に違反するか(再抗弁,争点⑦)となる。

    エ 争点①において,本件転用が「譲渡等」に該当せず,本件交換が「譲渡等」に該当する場合,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,国が不当に利得したことになり,不当利得又は誤納金となるところ,国家賠償請求との関係では,かかる差額分がO税務署長の過失に基づく違法な徴収行為による原告の損害といえるか,その消滅時効の成否及び被告による消滅時効の援用が信義則に違反するかが争点となる(争点⑤ないし⑦と同様である。)。他方,原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の金額については不当利得及び誤納金とはならず,また,かかる相続税の金額を損害とする国家賠償請求についても,O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為はないことになる。

   (2) 争点①(本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないか)について

  (原告の主張)

    ア 本件転用について

    (ア) 本件施設の所有名義人であるTは,原告の後継者であるところ,原告の年齢上の問題から,T名義でなければ本件施設の建築資金の融資を受けられなかったため,担保権設定の都合上,形式的に本件施設の所有名義をTとし,原告がTから本件施設を賃借する形をとったものである。現に,本件施設の建築資金に係る借入金の返済は,原告からTに支払われた本件施設の賃借料から支出されている。これらによれば,本件施設は,実質的には原告の所有に属するものである。

       このような実態に照らすと,形式的には,Tが所有する本件施設のために,その敷地利用権として本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権が設定されているとみることが可能であるとしても,それを理由に相続税の納税猶予の利益を失わせることは,後記イ(ア)bにおいて述べる「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の目的にそぐわない。

       加えて,原告が本件農地3及び本件農地4の各一部を使用貸借に供したとしても,そのことによって農地の宅地期待益が実現するような利得が発生したわけでもないから,この点からも,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の目的に外れるものではない。

     (イ) そもそも,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度は,農業継続の意思がありながら,地価の高騰に伴い,相続によって農地に対する宅地期待益を含んだ売買価格を基礎として相続税が課税されることによって農業継続ができなくなることを防止し,農業経営の近代化と農業後継者育成を税制面から支援することを目的とする制度である。

       そして,旧本件各農地における営農の主体は一貫して原告であるところ,本件転用において本件施設を建築したことも,旧本件各農地での原告の営農規模の拡大及び合理化を目的としたものであって,他者のためにこれらを建築したわけではない。

       このことは,本件転用に際して北海道知事がした許可が,農地法5条ではなく,同法4条に基づくものであって,これを受けて,U町農業委員会長が,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」(甲14の1)を送付していることからすれば,Tに対する本件農地3及び本件農地4の各一部に係る使用貸借権の設定は前提とされていないこと,継続届出書に添付されているU町農業委員会の証明書(措置法施行規則〔平成7年省令第33号による改正前のもの〕23条の8第12項1号に基づくもの)においても,本件農地3及び本件農地4の各一部が,措置法施行令40条の7第6項に掲げる施設,すなわち農業相続人の耕作又は養畜の事業に係る施設の敷地に供している農地として記載されていることからも明らかである。

     (ウ) これらによれば,本件施設は実質的には原告所有であるということができるのであって,本件転用は「譲渡等」の一類型である「転用」には該当しないというべきである。

    イ 本件交換について

    (ア)a 本件交換は,本件和解における調書上,交換の形式を採用しているものの,その実質は,亡Pに係る相続の発生に伴って生じた旧本件各農地の共有状態の解消に当たって,農業相続人である原告においては,承継すべき農地を確保することを,農業を営んでいないQらにおいては,非農地及び清算金を獲得することを,それぞれ目的として行われたものである。すなわち,旧本件農地7は,現況が非農地となっていたことから,旧本件農地7から本件農地9を分筆してこれをQらが取得し,分筆後の本件農地7を原告が取得したものであって,まさに共有物の現物分割というべきものであり,民法上の交換契約又は売買契約には該当しない。

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