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カテゴリ:民法 > 不動産賃貸借

建物賃借人の地代弁済は第三者弁済として許容される 最高裁昭和63年

民法判例百選Ⅱ 第6版 34事件 第8版32事件

執行文付与に対する異議事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和62年(オ)第1577号

昭和63年7月1日

【判示事項】       借地上の建物の賃借人と地代の弁済についての利害関係の有無

【判決要旨】       借地上の建物の賃借人は、地代の弁済について法律上の利害関係を有する。

【参照条文】       民法474-2

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事154号245頁

             判例タイムズ680号118頁

             金融・商事判例804号3頁

             判例時報1287号63頁

             金融法務事情1204号32頁

【評釈論文】       亜細亜法学26巻2号217頁

             ジュリスト922号71頁

             ジュリスト臨時増刊935号69頁

             別冊ジュリスト105号80頁

             判例タイムズ695号101頁

             判例タイムズ臨時増刊735号76頁

             判例評論370号205頁

             法律時報61巻14号194頁

             民商法雑誌100巻2号134頁

             NBL417号40頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人及び上告補助参加人代理人上田勝義、同新川登茂宣の上告理由第一点について

 借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である。けだし、建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあり、建物賃借人は、敷地の地代を弁済し、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有するものと解されるからである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 所論引用の判例は、右判断と異なる解釈をとるものではなく、論旨は、採用することができない。

 同第二点、第三点について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官奥野久之 裁判官牧 圭次 裁判官島谷六郎 裁判官藤島 昭 裁判官香川保一)

 

 上告代理人及び上告補助参加人代理人上田勝義、同新川登茂宣の上告理由

第一点 原判決が、被上告人らを本件地代の弁済について法律上の利害関係を有する者に該当すると判示されたのは、民法四七四条二項の解釈及び適用を誤ったもので破棄されるべきである。すなわち、

 (一)原判決は、「借地上の建物の賃借人は、借地契約が解除されるときは、建物賃借権の存立の基礎が失われ、土地所有者から建物退去、土地明渡を請求される立場にあるから、敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有する者に該当するといわなければならない」と判示し、被上告人らは、本件土地の地代の弁済につき法律上の利害関係を有する者に該当するとして、同人らの本訴請求を認容された。

 (二) そもそも、原判決が判示する「法律上の利害関係」の意義については、昭和三九年四月二一日最高裁判決(民集一八・四・五六五)によれば、「物上保証人、担保不動産の第三取得者などのように弁済することに法律上の利害関係を有する者」とされ、また、昭和三七年一二月二〇日の東京高裁判決(下民一三・一二・二五一七)によれば、「第三者はその弁済の有無が直接自己の法律上の地位に関係し自己の法律上の利益を擁護するために必要である場合に限り・・・・・・・・・・・」と判示されている。

 従って、右「法律上の利害関係」の意義については、判例上、「法律上かつ直接の利害関係」であるとの立場を採用しているものというべきである。

(三) 而して、右判例にすべて共通する要素は、同一不動産に複数の権利関係が同時に存在し、一つの権利関係の消滅が他の権利関係に「法律上かつ直接に」係わる性質のものであると考えられる。

 従って、右「法律上かつ直接の」利害関係なる意義を不動産に関して類型化したものは、右のごとく同一不動産に複数の権利関係が同時に存在し、一つの権利関係の消滅が他の権利関係に「法律上かつ直接に」係わるものであると解すべきである。

 (四)右のごとく民法四七四条二項所定の「利害ノ関係」を制限的に解することに対し、学説(我妻栄民法講義・二〇四)は反対し、第三者の弁済は経済的意義が大きく、殊に金銭債権については特定個人間の結合が弱く給付の結果のみが重視されることから民法四七四条は立法論として制限が強すぎると批判し、右「利害ノ関係」を広く解釈すべきだとする。しかしながら、債務者が第三者の弁済により恩義を受けることを潔しとしない場合や、債務者が第三者の苛酷な求償権の行使にさらされる可能性も無視できず、更には、本件賃貸借のごとき継続的契約関係にあっては当事者間の信頼関係は極めて重大な要素であり、特定個人間の結合も強く、債権者としては、突然面識のない第三者が弁済の提供をしたときは、その受領をしてよいものか否かにつき迷うのが通常であり、迷った末受領を拒絶すると民法四一三条の受領遅滞に陥る危険性があるというのでは、契約自由の原則、或いは、債権者の法的安全性の保護からしても、その妥当性は極めて疑わしく、民法四七四条二項所定の「利害ノ関係」は直接的かつ、顕著なものである場合に限られるべきである。

   (五)なるほど、原判決判示のとおり、土地と建物は事実上密接な関連があり、借地上の建物の賃借人は、右借地契約が解除されると建物賃借権の存立の基礎が失われ、土地所有者から建物退去、土地明渡を請求される立場にある。しかしながら、土地と建物は法律上別個の独立した不動産であり、土地と建物の関連性は法律上論理必然的なものではなく事実上のものにすぎない。

 事実、昭和三六年一二月二一日最高裁判決(民集一五・一二・三二四三)は、不動産の転貸借につき、賃貸借の終了によって、転貸人の義務に履行不能を生じ、転貸借は賃貸借の終了と同時に終了すると判示する一方、昭和四五年一二月二四日最高裁判決(判例時報六一八・三〇)は、借地上の建物の賃貸借につき、土地の賃貸借の終了によって、その地上の建物の賃貸借が直ちに終了するものではないと判示しており、転貸借と借地上の建物の賃貸借との相違を認めている。

  更に、転貸借の場合には、民法六一二条において債権者の承諾を必要とし、他方、借地上の建物の賃貸借の場合には、土地所有者の承諾を必要としていないが、右相違も、同一不動産か別個不動産かに基づくものであって、借地上の建物の賃借人は、土地と建物との関連性が法律上論理必然性がないことの帰結として、転借人と違って、土地の地代弁済につき、民法四七四条二項所定の「利害ノ関係」を有する者に該当しないと解すべきである。もっとも、右のように解すると借家人の保護に欠けるという批判もあろうが、右保護については別途に方法もあり、法論理上の誤りを犯してまで利害関係概念拡大の方法によるべきではない。事実、昭和三八年二月二一日最高裁判決(民集一七・一・二一九)は、土地賃貸借の合意解除は民法三九八条の趣旨に照らし借地の建物の賃借人に対抗できないと判示し、法論理内で借地上の建物の賃借人の保護を計っている。

  (六)従って、原判決が前記見解と異にし、被上告人らが地代の弁済につき、法律上の利害関係を有すると断じたのは、結局民法四七四条二項の解釈、適用を誤り、その誤りは原判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背であるから破棄を免れない。

 〈以下、省略〉

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補助金と不動産所得 東京地裁平成26年

渕圭吾『租税法講義』有斐閣。・2024年・129頁以下

所得税更正請求に対する通知処分取消請求事件

東京地方裁判所判決/平成25年(行ウ)第672号

平成26年9月30日

【判示事項】      東京都住宅供給公社が借り上げている建物の建設資金に係る住宅金融公庫からの融資金につき東京都の利子補給助成制度に基づき都から上記借上げの貸主に半年ごとに交付される利子補給金について,これを一括交付するものとして都民住宅経営安定化促進助成制度に基づいて都から上記貸主に交付された一括交付金が,不動産所得に係る収入金額に該当するとされた事例

【掲載誌】       税務訴訟資料264号順号12536

            LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   東村山税務署長が原告の平成22年分所得税の更正の請求に対して平成24年7月31日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成24年10月30日付けでした減額更正処分後のもの)を取り消す。

   なお,訴状記載の請求の趣旨は上記括弧内の記載がないが,訴状記載の訴訟物の価額が上記減額分を前提としたものとなっていることから,請求の内容を上記のとおり理解する。

第2 事案の概要

   本件は,不動産貸付業を営む原告が,賃貸の用に供している建物の建設資金に係る住宅金融公庫(現在の名称は,独立行政法人住宅金融支援機構。以下「金融公庫」という。)からの融資金について,東京都が実施する東京都優良民間賃貸住宅制度(現在の名称は,東京都優良民間賃貸住宅等利子補給助成制度。以下「本件利子補給制度」という。)に基づく利子補給金の交付を受けていたところ,平成22年4月30日,東京都が実施する都民住宅経営安定化促進助成制度(以下「本件助成制度」という。)に基づき,交付予定の利子補給金の一括交付を受け,この一括交付金(以下「本件一括交付金」という。)を雑所得に係る総収入金額に算入して平成22年分の所得税の確定申告をした後,本件一括交付金は一時所得の総収入金額に算入されるべきであるとして更正の請求(以下「本件更正請求」という。)を行ったところ,処分行政庁が,更正をすべき理由がない旨の通知処分を行い,更にその後,本件一括交付金は不動産所得に該当するとして減額更正処分(以下「本件減額更正処分」といい,本件減額更正処分後の上記通知処分を「本件通知処分」という。)を行ったことから,原告が,本件一括交付金は不動産所得に該当せず,一時所得に該当するとして,処分行政庁が所属する被告に対し,本件通知処分の取消しを求める事案である。

 1 関係法令の定め

  (1) 不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利,船舶又は航空機の貸付けによる所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう(所得税法26条1項)。

  (2) 不動産所得の金額は,その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする(所得税法26条2項)。

  (3) 総収入金額に算入すべき金額は,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする(所得税法36条1項)。

  (4) 不動産所得の金額等の計算上必要経費に算入すべき金額は,不動産所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年におけるこれらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする(所得税法37条1項)。

  (5) 不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に掲げるもので,その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは,これらの所得に係る収入金額とする(所得税法施行令94条1項)。

   ア 当該業務に係るたな卸資産,山林,工業所有権その他の技術に関する権利,特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの又は著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)につき損失を受けたことにより取得する保険金,損害賠償金,見舞金その他これらに類するもの(1号)

   イ 当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの(2号)

  (6) 事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,小売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう(所得税法27条1項)。

  (7) 一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう(所得税法34条1項)。

  (8) 雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう(所得税法35条1項)。

 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)

  (1) 制度の概要

    本件一括交付金の交付に関わる制度としては,①「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(平成5年法律第52号。以下「特定優良住宅促進法」という。)等に基づいて東京都が実施している東京都都民住宅制度(以下「本件都民住宅制度」という。),②本件利子補給制度及び③本件助成制度(以下,上記①~③の各制度を併せて「本件各制度」という。)がある。主として本件に関係する部分を中心に本件各制度を見ると,その概要は次のとおりである。

   ア 本件都民住宅制度の概要

    (ア) 本件都民住宅制度は,中堅勤労者を対象とする都民住宅の供給を目的として東京都が定める制度である。都民住宅とは,中堅勤労者を対象に,その住居費負担を適切な水準にするため,地価を顕在化させない等の工夫を加えた供給方式及び家賃制度を活用して,東京都が自ら供給し,又はその関与若しくは財政上の援助により供給される住宅をいう。(乙3の1)

    (イ) 都民住宅の供給方式の一つとして,民間の土地所有者等が住宅を建設し,東京都住宅供給公社(以下「住宅公社」という。)がこれを借り上げて入居者に賃借する方式がある。都民住宅を供給しようとする者は,都民住宅の供給に関する計画(以下「供給計画」という。)を作成して東京都知事(以下「都知事」という。)の認定を受けるところ,上記借上げの方式による場合,供給計画の認定を受けた者(以下「認定事業者」という。)と都民住宅の管理を行う管理者(住宅公社)との間で,上記認定を受けた供給計画の趣旨に沿って賃貸借契約を締結する。家賃は都知事の承認を得て認定され,東京都は,管理者(住宅公社)が都民住宅の家賃を減額する場合,当該認定事業者に対し,20年間を限度として,減額に要する費用を補充するなどとされている。(乙3の1)

   イ 本件利子補給制度の概要

    (ア) 本件利子補給制度は,土地の所有者等がその土地を活用して優良な賃貸住宅を建設する場合に,東京都がその建設資金について利子補給等を行うことにより,優良民間賃貸住宅(土地の所有者等が東京都の利子補給等を受けて建設した賃貸住宅)の供給を誘導するとともに,当該住宅を住宅公社等が都民住宅として借上げ等をすることにより,公共賃貸住宅の供給を促進し,もって都民の居住水準の向上を図ることを目的として東京都が定める制度である(乙4の1)。

    (イ) 東京都は,所定の建設基準,認定基準及び申込資格等に適合する賃貸住宅を,優良民間賃貸住宅と認定・登録し,そのうち,金融公庫の農地転用賃貸住宅融資を受けて建設された都民住宅で,民間の土地の所有者等が建設し,住宅公社が借り上げて管理する住宅(以下「公庫利用借上型都民住宅」という。)などにつき,金融公庫の融資金を対象として,その建設者に対して利子補給することとされている(乙4の1,2)。

    (ウ) 公庫利用借上型都民住宅の場合,利子補給金の月額は,金融公庫で定める利率の35年元利均等月賦償還相当額から利子補給対象額及び利用者負担率を基に算出した30年元利均等月賦償還相当額を控除した金額である。利子補給期間は30年であり,半年ごとに6か月分の合計額がまとめて交付される。ただし,利子補給対象の公庫融資金を一括繰上償還した場合,利子補給期間は,繰上償還の実行をした日までとなり,その後の利子補給は打ち切られる。(乙4の2,3)

    (エ) 利子補給を受けるための手続等については,東京都が定める要綱や要領で定められている。また,公庫利用借上型都民住宅の家賃は,都民住宅建設者が,上記要領で定める家賃の限度の額の範囲内で,かつ,近隣の民間の賃貸住宅の家賃水準等を考慮し,適正な額になるよう東京都と協議して定めなければならないなどとされ,都知事は,都民住宅建設者が上記要領の規定に違反したときなどには,利子補給交付決定を取り消すことができるとされる。(乙4の1~4)

   ウ 本件助成制度の概要

    (ア) 本件助成制度は,都民住宅建設当時の高い建設費借入金の返済のために住宅経営に苦慮している都民住宅の認定事業者に対し,交付予定の利子補給金を一括交付して,当該借入金より低利の民間金融機関融資への借換え又は金融公庫融資等の一部繰上償還を促し,都民住宅建設時の借入金に係る返済の負担(金利負担)を軽減させ,認定事業者の都民住宅の経営の安定化を図ることにより,適切な維持管理の下優良な住宅ストックとして長く使用できるよう維持保全を図ることを目的とする制度である(乙5の1,3)。

    (イ) 一括交付の対象者は,本件利子補給制度に係る要綱により建設された都民住宅の所有者(認定事業者)で,平成9年度以前に同要綱による利子補給の交付決定を受けており,金融公庫の融資等を受け,申込日現在,利子補給期間が満了していないという要件を満たす者であり,かつ,一括交付を受けるためには,民間金融機関の借換融資を受けて金融公庫の融資を全額繰上償還すること,又は当該融資を一部繰上償還することが要件とされている。都知事は,交付対象者に対して,上記要綱により交付決定を行った利子補給交付予定額のうち未交付の利子補給金相当額を一括交付することができる。(乙5の1~3)

    (ウ) 交付対象者は,上記交付額を金融公庫の融資の繰上償還に要した費用やこれに係る手数料等の諸費用等に充てることができる。また,一括交付を受けた都民住宅については,一括交付を受ける前の利子補給期間満了日まで利子補給期間中であるものとみなし,一括交付を受けた者は,上記要綱に規定する賃貸条件等を遵守する義務を負うこととされている。(乙5の1,2)

    (エ) 都知事は,交付対象者が一括交付金を都知事が承認した目的以外に使用したことが判明したとき又は一括交付を受けた者が(ウ)の規定に違反したときは,一括交付の決定を取り消すことができる(乙5の1,2)。

  (2) 本件の経緯

   ア 原告は,農業を営む傍ら,不動産賃貸業を営む青色申告者である。原告及び原告の母A(原告と併せて「原告ら」という。)は,原告の所有する土地に,共有予定の建物1棟(以下「本件建設予定建物」といい,本件建設予定建物のうち,店舗・事務所として使用される部分を除いた住宅部分を「本件賃貸予定住宅」という。)を新規に建設するため,平成5年12月1日,金融公庫に対し,連帯保証人を本件賃貸予定住宅の賃貸予定先である住宅公社とした上,融資種類を農地転用賃貸住宅融資として,その建設資金の借入れを申し込んだ(乙6)。

   イ 母Aは,平成5年12月2日,都知事に対し,本件賃貸予定住宅につき,本件利子補給制度に基づいて,優良民間賃貸住宅の認定及び金融公庫の融資金を対象とした利子補給を申し込み(乙7),利子補給の予定者となった旨の通知を受けた(乙8)。

   ウ また,都知事は,上記イの申込に先立ってされていた,本件賃貸予定住宅に係る原告らからの都民住宅(特定優良賃貸住宅)の供給計画の認定申請に対し,平成5年12月8日付けでこれを認定し(乙9),これにより,原告らは,特定優良住宅促進法5条1項及び本件都民住宅制度における認定事業者となった。

   エ 都知事は,上記イの申込みについて,平成6年3月31日付けで,母Aに対し,本件賃貸予定住宅につき,利子補給対象額を7億0390万円(金融公庫一般貸付6億0840万円,金融公庫特別貸付9550万円),利用者負担利率を金融公庫一般貸付1.0パーセント,金融公庫特別貸付3.0パーセント,利子補給期間を30年として,利子補給を決定した旨通知した(乙10)。

   オ 本件建設予定建物は,平成7年10月16日に新築され,原告らは,平成7年12月1日,住宅公社との間において,賃貸人を原告ら,賃借人を住宅公社とする賃貸借契約を締結し,同日から,本件賃貸予定住宅を借上型都民住宅として,住宅公社に対し,一括して貸し付けた(以下,当該貸付け後の本件賃貸予定住宅を「本件賃貸住宅」といい,当該賃貸借契約を「本件賃貸住宅一括借上契約」という。)。原告らは,住宅公社が借上型都民住宅として転貸することを承諾の上,本件賃貸住宅を住宅公社に賃貸し,住宅公社は入居者の有無にかかわらず,原告らに対して借上料を保証することとされ,住宅公社が原告らに対し支払う本件賃貸住宅の借上料は,住宅公社と入居者との間の本件賃貸住宅の賃貸借に係る家賃の総額(月額529万2000円)とされた。(乙12の1,2)

   カ 原告ら及び住宅公社は,平成7年12月18日,金融公庫との間において,本件賃貸住宅の建設資金の借入金総額8億0250万円(以下「本件融資金」という。)につき,金銭消費貸借契約等を締結した(乙13)。

   キ その後,所定の手続を経て,本件賃貸住宅は,優良民間賃貸住宅として認定及び登録された(乙14,15)。なお,当該手続における審査の結果,前記エの利子補給対象額は,総額に変更はないものの,公庫一般貸付が6億4200万円,公庫特別貸付が6190万円にそれぞれ変更された(乙14)。

   ク 都知事は,母Aからの申請に対して,平成8年7月8日付け「利子補給額確定通知書」により,以下のとおり,利子補給金の交付額を確定した旨通知した(乙18)。

    (ア) 利子補給対象期間

      平成8年1月12日から平成38年1月11日まで

    (イ) 利子補給金(交付総額)

      2億4463万0440円(以下「本件利子補給金」という。)

       内訳 金融公庫一般貸付 2億3867万9280円

          金融公庫特別貸付    595万1160円

    (ウ) 交付回数 60回(1回につき6か月分を交付)

    (エ) 各回の交付額(以下「本件各利子補給金」という。)

      407万7174円

      なお,この金額は,金融公庫一般貸付に係る利子補給金月額66万2998円及び金融公庫特別貸付に係る利子補給金月額1万6531円の合計月額67万9529円の6か月分である。

    (オ) 本件各利子補給金の交付日

      第1回交付日は平成8年12月22日,以後6か月ごとに交付

   ケ 原告は,母Aが平成20年2月8日に死去したことに伴い,母Aの本件賃貸住宅の持分を単独で相続し,また,本件利子補給制度における母Aの認定事業者としての地位を継承した上で,同年10月1日,住宅公社との間で,本件賃貸住宅一括借上契約における賃貸人を,「原告ら(原告及び母A)」から「原告」とする旨の変更契約を締結した(乙11,12の1及び3)。

   コ 原告は,平成22年2月24日,都知事に対し,本件助成制度に基づいて,一括交付予定額を1億3127万3604円として,本件利子補給金のうち未交付分の利子補給金相当額の一括交付の申込みを行い(乙20),都知事は,同申込みについて,同年3月8日付けで,原告に対し,交付対象者を原告,一括交付の額(交付金額)を1億3127万3604円と決定した旨通知した(甲4,乙21)。

   サ 原告は,平成22年3月25日,株式会社B銀行C支店からの借換融資により,本件融資金の残債務を全額繰上償還し,同月26日,都知事に対し,繰上償還が完了した旨を報告するとともに,一括交付の額の確定を申請した(乙22)。都知事は,同申請について,同月31日付けで,原告に対し,原告を交付対象者として,交付金額1億3127万3604円として,一括交付の額を確定した旨通知し(乙23),原告は,同年4月30日,東京都から同金額の交付を受けた(甲4,乙24の1,2)。

   シ 原告は,本件一括交付金の交付を受ける前の少なくとも平成13年から平成21年の各年に交付を受けた本件各利子補給金について,本件賃貸住宅の自己の持分割合に応じて,当該各年分の不動産所得の金額の計算上,各年分の総収入金額に算入して確定申告をしていた(乙19の1ないし9)。

   ス 原告は,平成23年2月22日,東村山税務署長に対し,別表本件通知処分等の経緯記載のとおり,平成22年分所得税につき,本件一括交付金1億3163万6373円を公的年金等以外の雑所得に算入して確定申告をしたが(甲1),平成24年3月14日,東村山税務署長に対し,別表本件通知処分等の経緯記載のとおり,本件一括交付金に係る所得は一時所得に該当するとして本件更正請求を行った(乙1)。しかし,東村山税務署長は,平成24年7月31日,原告に対し,更正をすべき理由がない旨の本件通知処分を行い(甲3),原告は,同年9月27日,これを不服として国税不服審判所長に対し審査請求をしたが(甲4),国税不服審判所長は,平成25年5月9日,同審査請求を棄却する旨の決定をした(甲4)。なお,東村山税務署長は,平成24年10月30日,別表本件通知処分等の経緯記載のとおり,本件一括交付金は不動産所得に該当し,地震保険料控除の金額の計算に誤りがある等として本件減額更正処分を行った(甲4)。

     原告は,平成25年10月21日,本件通知処分の取消しを求めて本件訴えを提起した(顕著な事実)。

 3 税額等に関する当事者の主張

   被告が本件訴訟において主張する本件通知処分の根拠及び計算は別紙課税の根拠及び計算記載のとおりであるところ,原告は,後記4の争点に関する部分を除き,その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。

 4 争点

   本件一括交付金の所得区分は,不動産所得か一時所得か。

 5 争点に関する当事者の主張の要旨

  (1) 被告の主張の要旨

   ア(ア) 不動産所得とは,不動産等の貸付けによる所得(所得税法26条1項)をいうところ,「貸付けによる」とは,「貸付けに基づいて」又は「貸付けを原因として」を意味するものと解されるから,貸付けによる所得とは,その典型である賃貸料に限らず,不動産所得を生ずべき業務の遂行に付随して発生した本来企図した収入以外の収入(以下「付随収入」という。)や付随収入とされるべき収入金額に代わる性質を有するものも含まれると解すべきである。

    (イ) 所得税法36条1項は,その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,その年において収入すべき金額とする旨規定している。ここにいう「収入金額」と「総収入金額」に関して,所得税法は,各種所得の金額のうち,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額,譲渡所得の金額,一時所得の金額及び雑所得の金額について「総収入金額」という語を使用しているところ(同法26条2項,27条2項,32条3項,33条3項,34条2項,35条2項2号),これは,これらの所得については,副収入や付随収入等も加わってその収益の内容は複雑な場合が多いところから「総収入金額」という語を使用することによって,その所得に係る収入金額の総額を計算し,これに総体として対応する必要経費をそれから控除して,それらの所得の金額を計算するという所得税法の所得計算の態度を示したものと解されている。したがって,所得税法26条2項が「総収入金額」という語を使用していることは,同条1項の不動産等の貸付けによる所得には,その典型である賃貸料に限らず,付随収入が当然に含まれるというべきである。

    (ウ) 所得税法26条1項は,不動産の貸付けによる所得であっても,事業所得に該当するものを除く旨規定し,他方,同法27条(事業所得)の規定を受けた同法施行令63条(事業の範囲)は,事業所得の基因となる「事業」の範囲から「不動産の貸付業」を除く旨規定している。そして,「不動産の貸付業」の業務の性質・内容が,不動産の貸付けによる利益の獲得を目的とした経済活動の総体であることからすれば,当該業務の遂行に伴って付随収入が生じる場合もあり得るのであり,また,「不動産の貸付業」から生じた所得は本来的には事業所得の範囲に含まれるものであるから,付随収入も,所得税法上,利子所得,配当所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得のいずれかに分類されないものについては,不動産所得に該当すると解すべきである。

    (エ) 本件都民住宅制度,本件利子補給制度及び本件助成制度の枠組みや,東京都,原告及び住宅公社の三者間の関係等に照らせば,東京都は,本件賃貸住宅の直接の借主(賃貸先)ではないが,原告が本件賃貸住宅を都民住宅として供給(賃貸)する事業,すなわち,本件賃貸住宅の貸付け業務に関して密接に関わる者である。よって,原告は,正に当事者の一人である東京都から本件一括交付金の交付を受けたといえる。それゆえ,本件における事実関係等に照らせば,本件一括交付金は,本件賃貸住宅の賃貸料ではないものの,本件賃貸住宅の建設資金に充てた本件融資金の返済負担(金利負担)を軽減させるために企図した収入であって,本件賃貸住宅の貸付け業務の遂行に伴って発生した付随収入であることは明らかである。

   イ(ア) 所得税法施行令94条1項は,事業所得に関して,事業を営む者がそのたな卸資産について受ける保険金,損害賠償金,見舞金や事業の休止,転換,廃止等により受ける休業補償,収益補償等は,一時に受けるものではあるが,事業の遂行により得べかりし利益に代わるものであるので事業所得の収入金額とし,不動産所得に関しても,不動産所得を生ずべき業務の休廃止等によってその収益の補償として受ける補償金等は,本来の不動産の賃貸による所得に代わるものとして不動産所得に含まれる旨規定したものと解されている。したがって,不動産所得には,不動産所得を生ずべき業務に関し,当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもので,当該業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものも含まれる。そして,この「当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」で,「収入金額に代わる性質を有するもの」には,不動産所得に係る収入金額を補償する補償金その他これに類するものに限らず,不動産所得に係る必要経費に算入される金額を補填するための補償金その他これに類するものも含まれると解される。

    (イ) 本件一括交付金は,本件助成制度の都民住宅建設時の借入金に係る返済の負担(金利負担)を軽減させ,都民住宅の経営の安定化を図るという目的に照らせば,正に原告の「都民住宅の経営の安定化」,すなわち,本件賃貸住宅の貸付業務の安定化を図るための交付金であるから,その性質は,所得税法施行令94条1項2号の「当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に当たり,同項柱書きの「収入金額に代わる性質を有するもの」そのものであるといえる。

      また,原告は,金利負担の軽減という目的に沿って本件一括交付金の交付を受けるために行った借換融資により,本件賃貸住宅の建設資金に係る借入金の金利負担,すなわち,原告の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき支払利息を減少させたのであるから,本件一括交付金は,原告の本件賃貸住宅の貸付業務に係る必要経費を補填するものである。

      さらに,原告は,その用途目的に沿って,本件一括交付金を当該繰上償還のための借換融資の一部繰上償還に充てることにより,当該借換融資の残債務は減少し,その結果,原告のそれ以後に支払うべき当該借換融資に係る支払利息も減少することになるから,この点においても,本件一括交付金は,原告の本件賃貸住宅の貸付業務に係る必要経費を補填するものである。

  (2) 原告の主張の要旨

   ア 不動産所得とは,不動産等の貸付けによる所得(所得税法26条1項)をいうところ,「貸付けによる所得」とは,借主から貸主に移転される経済的利益のうち,目的物を使用収益する対価としての性質を有するものを指すというべきである。したがって,不動産所得は,貸主が借主に対して一定の期間,不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有する経済的利益,若しくはこれに代わる性質を有するものに限定される。

   イ 利子補給金は,建物を賃貸する前段階の賃貸予定建物の建設に係る融資金の支払利息に充当することを目的として,賃貸借契約の当事者でない第三者の東京都から交付されるものである。不動産所得は,上記アのとおり,貸主が借主に対して一定の期間,不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有する経済的利益,若しくはこれに代わる性質を有するものに限定されるところ,利子補給金は,第三者である東京都から支給されるものであって,借主から貸主に移転するものではない。しかも,利子補給金は,あくまでも不動産の貸付けを行う以前に借り入れた融資金の支払利息を補給するものであり,建物を使用収益させる前段階の費用を補っているにすぎず,建物を使用収益させる対価としての性質やこれに代わる性質を有していない。したがって,利子補給金は,不動産所得には該当しない。

   ウ 仮に利子補給金が不動産所得に該当するとしても,一括交付金は,その性質が変化するため,別途検討が必要である。一括交付金は,第三者である東京都から交付されるものであって,借主から貸主に交付されるものではないし,不動産の貸付けを行う以前に借り入れた融資金の繰上償還のために交付されるものであり,いわば借金の返済そのものに使用されるにすぎず,建物を使用収益させたことの対価やこれに代わる性質を有するものではない。したがって,一括交付金も不動産所得には該当しない。

   エ 本件一括交付金は,利子所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で,労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないから,一時所得となる。

   オ 租税法律主義及び所得税法がその所得を10種類に分けて厳格に課税している趣旨に照らすと,どのようなものが不動産所得に含まれ又は含まれないかの解釈においては,関係法令等の文言を厳格に解釈して判断する必要がある。

     実際に,行政側の解釈である所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)第30(例規))でも,不動産所得に該当するか否かについて厳格に判断している。例えば,所得税法26条1項に規定する船舶には,船舶法20条(小型船舶及びろかい船に対する適用除外)に規定する船舶及び船は含まれないとし,総トン数20トン未満の船舶及び端船その他ろかいのみで運転し,又は主としてろかいで運転する船の貸付けによる所得は,事業所得又は雑所得に該当するとしており(同通達26-1),法律の文言を厳格に解釈している。また,用船契約による所得として,船主が船舶のみを用船主に貸与するいわゆる裸用船契約に係る所得は,所得税法26条1項に規定する船舶の貸付けに該当するが,他方,船舶を船員と共に用船者に利用させるいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に係る所得は,事業所得又は雑所得に該当するとし,航空機の貸付けに係る所得についても,これに準ずるとしており(同通達26-3),これらの場合には,船舶の貸付けに付随した用船契約であっても「不動産所得」に当たらないことを明確にしている。さらに,アパート,下宿等の所得の区分として,アパート,貸間等のように食事を供さない場合の所得は不動産所得としているが,下宿等のように食事を供する場合の所得は,事業所得又は雑所得としており(同通達26-4),この場合には,不動産の貸付けに付随したものであっても,「不動産所得」ではないことを明確にしている。

     裁判例においても,「所得税法が,所得を10種類に分類し,担税力に応じた課税を行うために,その所得の性質によって,回帰的に生ずるものとそうでないものとに分け,とりわけ回帰的に生ずる所得の中でも不労所得性の強い資産所得の性質を有する不動産所得については,給与所得に認められる給与所得控除(28条),臨時的所得に講ぜられる累進負担の緩和措置(22条2項)等の定めを設けず,役務の対価の要素を有する事業所得に認められる資産損失の必要経費算入についても,不動産事業に該当しない場合には無条件には認められず(51条4項),必要経費を控除して所得額に応じた累進課税を課することとしていることに照らすと,不動産所得の概念につき,合理的な根拠なくして拡大解釈を行うことは,租税法律主義の観点から,認めることができないというべきである。」(名古屋地判平成17年3月3日)とされている。

   カ 所得税法施行令94条1項2号は,「当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」という文言の前に「当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により」と規定している。そして,ここでいう「その他の事由」については,その前に列挙された「当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止」という文言を受けて記載されている以上,「当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止」と同様の事由を要件としていると解すべきである。すなわち,所得税法施行令94条1項2号は,あくまで不動産所得を生ずべき業務の休廃止等によって失われた収益の補償として受け取った補償金等で,当該業務の遂行によって生ずる収入金額に代わるものについては,不動産業務の付随収入として不動産所得の収入金額に算入するというものであって,その対象は不動産所得を生ずべき業務の休廃止等,不動産業務を一時的にでも止めることを前提としていることは明らかである。したがって,金銭が交付されたとしても,そもそも当該業務を休廃止等する代わりの補償という性質がなければ,交付された金銭は,「当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に該当しない。

     これを本件において見ると,原告は不動産業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止しておらず,現在も継続して不動産業を行っているから,本件一括交付金は,原告が不動産業務を休止等する代わりの補償として支払われたものでない。それにもかかわらず本件一括交付金を「当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に該当すると解釈することは,不動産所得の概念について,合理的な根拠なく拡大解釈を行うものであり,租税法律主義の観点から認めることはできない。よって,本件一括交付金は,不動産所得に該当しない。

第3 当裁判所の判断

 1 争点(本件一括交付金の所得区分は,不動産所得か一時所得か。)について

  (1) 不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利等の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得のうち,事業所得又は譲渡所得に該当するものを除いたものをいうところ(所得税法26条1項),ここにいう不動産等の貸付けとは,これによって貸主に一定の経済的利益をもたらすものをいい,有償契約である賃貸借契約がその中心となるものと解される。そして,賃貸借契約は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって成立する契約(民法601条)であるから,不動産等の貸付けによる所得とは,使用収益期間に対応して定期的かつ継続的に支払われる賃料がその典型である。もっとも,所得税法26条1項は,不動産所得を不動産の貸付けによる所得としているが,当該所得の発生原因を不動産賃貸借契約に限定しているわけではないし,所得税法が,所得金額の計算に関して,配当所得(24条2項)や給与所得(28条2項)等では「収入金額」という語を用いる一方で,不動産所得(26条2項)や事業所得(27条2項)等では「総収入金額」という語を用いているのは,後者については副収入や付随収入等も加わってその収益の内容が複雑な場合が多いことを踏まえたものと解されるところである。そうすると,不動産所得該当性を判断するに当たっては,上記典型の場合に限られず,当該所得発生に係る諸事情を考慮の上,当該所得が不動産の貸付けにより発生したと評価できるかどうかを検討すべきである。

  (2) まず,本件一括交付金が不動産所得に係る収入金額に該当するかどうかを検討するに先立ち,本件各利子補給金が所得税法上いかなる所得に属するかについて検討することとする。

    前提事実において見たとおり,本件賃貸住宅一括借上契約は,本件都民住宅制度の定める都民住宅供給の仕組みの下において,認定事業者である原告らが本件賃貸住宅を建設した上で,管理者である住宅公社にこれを賃貸し,更に住宅公社がこれを入居者に転貸する形で入居者に対して都民住宅を供給するものである。かかる住宅供給を促進するため,当該都民住宅の建設資金借入金の利子補給を行うべく,本件利子補給制度が設けられているところ,建設資金借入金の利子は不動産所得に係る必要経費であるから,上記利子補給がされることによって当該必要経費の負担が長期間にわたって軽減される結果となる。本件賃貸住宅一括借上契約は,以上のような一体としての制度を利用した上で締結されたものであって,本件利子補給金は,本件賃貸住宅の借上げに係る収益構造の中に不可分一体のものとして組み込まれているということができるし,逆にいえば,原告らが所定の基準等を満たして本件賃貸住宅一括借上契約を締結しなければ本件利子補給金の支給もあり得なかったものである。このような事情を総合考慮すると,本件利子補給金は,本件賃貸住宅の貸付けによる所得に係る収入ということができるのであり,不動産所得に係る総収入金額に算入されるべきである。実際にも原告らは,確定申告において,本件利子補給金を不動産所得に係る総収入金額に算入していたものである。

  (3) 以上の検討を踏まえ,本件一括交付金が不動産所得に係る収入金額に該当するかどうかについて検討する。

    前提事実において見たとおり,本件助成制度は,都民住宅建設当時の高い建設費借入金の返済のために住宅経営に苦慮している都民住宅の認定事業者に対し,交付予定の利子補給金を一括交付して,当該借入金より低利の民間金融機関への借換え等を促すものである。本件助成制度が利用されて金融公庫の融資金が一括繰上償還された場合,本件利子補給制度に基づく利子補給は打ち切られることになる。

    ところで,所得税法施行令94条1項2号は,不動産所得を生ずべき業務について,当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもので,その業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは,不動産所得に係る収入金額とする旨定める。先に見たとおり,本件利子補給制度に基づく利子補給は,本件賃貸住宅の借上げに係る収益構造の中に不可分一体のものとして組み込まれているものであって,不動産所得を生ずべき業務の一部分をなすものといえるのであり,本件一括交付金は,本件利子補給制度に基づく利子補給が打ち切られることと引替えとなる形で交付されるのであるから,所得税法施行令の上記規定にいう収益の補償として取得する補償金その他これに類するものに当たるということができる。そして,先に見たとおり,利子補給金は不動産所得に係る収入と評価されるべきものであるから,これを一括交付するものとして交付される本件一括交付金は,利子補給金に代わる性格を持つものであって,不動産所得に係る収入ということができる。

  (4) この点,原告は,利子補給金は,第三者である東京都から支給されるものであって借主から貸主に移転するものではないし,あくまでも不動産の貸付けを行う以前に借り入れた融資金の支払利息を補給するものであり,建物を使用収益させる前段階の費用を補っているにすぎず,建物を使用収益させる対価としての性質やこれに代わる性質を有していない旨主張する。しかしながら,所得税法26条1項が,文理上,不動産所得に係る収入を不動産の借主から得られたものに限っているとまではいえず,前記(2)のような事情の下においては,本件利子補給金が不動産の貸付けによる所得に係る収入とするに十分というべきである。

    また,原告は,所得税基本通達が,所得税法26条1項に規定する船舶には,船舶法20条に規定する船舶及び船を含まないなどとするなど,法律の文言を厳格に解釈していることから,本件においても不動産所得の範囲を厳格に解すべきである旨主張する。しかし,船舶は,登記の対象となる点で(船舶法5条1項)不動産に類似しているのに対して,そのうち小型の船舶については,登記の対象とならず(同法20条),不動産と同様の取扱いを受けないことから,上記のような取扱いがされていると解されるのであって,本件とは所得税法の解釈の局面が異なるものというべきである。

    さらに,原告は,所得税基本通達において,用船契約による所得として,船主が船舶のみを用船主に貸与するいわゆる裸用船契約に係る所得は,所得税法26条1項に規定する船舶の貸付けに該当するが,船舶を船員と共に用船者に利用させるいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に係る所得は,事業所得又は雑所得に該当するとしていたり(同通達26-3),アパート,貸間等のように食事を供さない場合の所得は不動産所得としているが,下宿等のように食事を供する場合の所得は,事業所得又は雑所得としていたりする(同通達26-4)ことなどからすれば,一括交付金は,不動産の貸付けに付随したものであっても,不動産所得に該当しない旨主張する。しかしながら,不動産所得は資産所得であり,他方,事業所得はいわば資産,勤労共同の所得であることから,所得がほとんど又は専ら不動産等を利用に供することにより生ずるものである場合には不動産所得,不動産等の使用の他に役務の提供が加わり,これらが一体となった給付の対価という性格をもつ場合には事業所得又は雑所得と解するのが相当であり,上記用船契約及びアパート,下宿等の所得の区分の振り分けもこの基準に基づくものである。そして,本件一括交付金は,前記(2)認定のとおり,専ら本件賃貸住宅一括借上契約の締結という不動産等を利用に供することにより生ずるものであり,役務の提供の対価という性格は存在しないから,原告が挙げる事例とは事情が異なるというべきである。

    その他の原告の主張も,既に説示したところに照らし,採用できない。

  (5) 以上によれば,本件一括交付金は,不動産所得に係る収入金額に算入されるべきであり,本件通知処分において,本件一括交付金を不動産所得に係る収入金額に算入したことに違法性はない。

 2 本件通知処分の適法性について

   以上を前提として,原告の平成22年分所得税についてみると,被告が本訴において主張する別紙課税の根拠及び計算記載の根拠はいずれも相当であり,かつ,その根拠に基づいて算定した原告の同年分の納付すべき税額は,同別紙の記載のとおりであると認められ,別表記載の本件通知処分における納付すべき税額と一致するから,本件通知処分は,適法というべきである。

第4 結論

   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第51部

        裁判長裁判官  小林宏司

           裁判官  桃崎 剛

           裁判官  中村仁子

 

 (別紙)

       課税の根拠及び計算

 1 本件通知処分の根拠

   被告が本訴において主張する原告の平成22年分の所得税の納付すべき税額等は,次のとおりである。

  (1) 総所得金額 1億0036万3788円

    上記金額は,次のアないしエの各金額の合計金額である。

   ア 事業所得の金額 △55万3911円

     上記金額は,原告が提出した平成22年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に記載した事業(農業)所得の金額と同額である。

     なお,事業所得の金額の「△」は,損失の金額を表す。

   イ 不動産所得の金額 9773万4930円

     上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除した後の金額から,(ウ)の金額を控除した金額である。

    (ア) 総収入金額 2億5393万9314円

      上記金額は,次のa及びbの各金額の合計額である。

     a 本件一括交付金に係る総収入金額 1億3127万3604円

      上記金額は,本件一括交付金の金額である。

     b 上記以外の不動産所得に係る総収入金額

                       1億2266万5710円

      上記金額は,原告が本件申告書に添付した平成22年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)の「収入金額」欄の「計」欄に記載した金額と同額である。

    (イ) 必要経費の合計額 1億5610万4384円

      上記金額は,原告が本件決算書の「必要経費」欄の「計」欄に記載した金額と同額である。

    (ウ) 青色申告特別控除額 10万円

      上記金額は,租税特別措置法25条の2第1項1号に規定する金額である。

   ウ 給与所得の金額 282万円

     上記金額は,原告が本件申告書に記載した給与所得の金額と同額である。

   エ 雑所得の金額 36万2769円

     上記金額は,原告が本件申告書に記載した雑所得の金額1億3163万6373円から,不動産所得に該当する(上記イ(ア)a)本件一括交付金1億3127万3604円を控除した後の金額である。

  (2) 株式等に係る譲渡所得の金額 21万8075円

    上記金額は,原告が本件申告書に記載した株式等の譲渡所得(上場分)の金額と同額である。

  (3) 上場株式等に係る配当所得の金額 207万3081円

    上記金額は,原告が本件申告書に記載した上場株式等の配当所得の金額と同額である。

  (4) 所得控除の金額の合計額 269万6480円

    上記金額は,次のア及びイの各金額の合計額である。

   ア 医療費控除,社会保険料控除,小規模企業共済等掛金控除,生命保険料控除,扶養控除及び基礎控除の各金額の合計額

                268万1480円

     上記金額は,原告が本件申告書に記載した医療費控除8万9180円,社会保険料控除94万2300円,小規模企業共済等掛金控除84万円,生命保険料控除5万円,扶養控除38万円及び基礎控除38万円の各金額の合計額と同額である。

   イ 地震保険料控除の金額 1万5000円

     上記金額は,原告が本件申告書において地震保険料控除の対象とした損害保険料が,平成18年法律第10号(所得税法等の一部を改正する等の法律)附則10条(地震保険料控除に関する経過措置)2項1号に規定する旧長期損害保険料に該当することから,当該損害保険料の額24万円につき,同項2号ハの規定により算出した金額である。

  (5) 課税される所得金額

   ア 課税総所得金額 9766万7000円

     上記金額は,前記(1)の総所得金額1億0036万3788円から前記(4)の所得控除の金額の合計額269万6480円を控除した後の金額(ただし,国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

   イ 株式等に係る課税譲渡所得等の金額 21万8000円

     上記金額は,前記(2)の株式等に係る譲渡所得の金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

   ウ 上場株式等に係る課税配当所得の金額 207万3000円

     上記金額は,前記(3)の上場株式等に係る配当所得の金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

  (6) 申告納税額 3615万8200円

    上記金額は,次のアないしウの各金額の合計額から,エの源泉徴収税額を控除した後の金額(ただし,通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

   ア 課税総所得金額に対する税額 3627万0800円

     上記金額は,前記(5)アの課税総所得金額9766万7000円に所得税法89条1項に規定する税率を乗じて算出した金額である。

   イ 株式等に係る課税譲渡所得等の金額に対する税額 1万5260円

     上記金額は,前記(5)イの株式等に係る課税譲渡所得等の金額21万8000円に,平成20年法律第23号附則43条2項に規定する税率(7パーセント)を乗じて算出した金額である。

   ウ 上場株式等に係る課税配当所得の金額に対する税額

                           14万5110円

     上記金額は,前記(5)ウの上場株式等に係る課税配当所得の金額207万3000円に,平成20年法律第23号附則32条1項に規定する税率(7パーセント)を乗じて算出した金額である。

   エ 源泉徴収税額 27万2871円

     上記金額は,原告が本件申告書に記載した源泉徴収税額と同額である。

  (7) 納付すべき税額 2933万5600円

    上記金額は,前記(6)の申告納税額3615万8200円から,原告が本件申告書に記載した予定納税額682万2600円を控除した後の金額である。

 2 本件通知処分の適法性

   被告が本訴において主張する原告の平成22年分の所得税の納付すべき税額は,前記1(7)で述べたとおり2933万5600円であるところ,当該金額は,本件減額更正処分に係る納付すべき税額と同額であるから,本件通知処分は適法である。

 

公社住宅に借地借家法32条の適用あり 最高裁令和6年

賃料減額等請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/令和4年(受)第1744号

                 令和6年6月24日

【判示事項】        地方住宅供給公社が賃貸する住宅の使用関係と借地借家法32条1項の適用の有無

【判決要旨】        地方住宅供給公社が賃貸する住宅の使用関係については,借地借家法32条1項の適用がある。

【参照条文】        借地借家法32-1

              地方住宅供給公社法24

              地方住宅供給公社法施行規則16-2

【掲載誌】         最高裁判所民事判例集78巻3号335頁

              判例タイムズ1526号74頁

              判例時報2618号74頁

              LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】        法学教室528号115頁

              法学教室533号128頁

              ジュリスト1607号118頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人石畑晶彦、同小笠原憲介の上告受理申立て理由について

 1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

 (1)被上告人は、地方住宅供給公社法(以下「公社法」という。)にいう地方住宅供給公社(以下「地方公社」という。)であり、神奈川県内において、多数の住宅を賃貸している。上告人らは、それぞれ、被上告人から第1審判決別紙物件目録記載の一棟の建物の一室を賃借する者である。

 (2) 被上告人は、平成16年4月から平成30年4月までの間、おおむね3年ごとに、上告人らに対し、前記の各室の家賃を改定する旨を通知した(以下、これらの改定を総称して「本件各家賃改定」という。)。その結果、月額3万9530円ないし5万6350円であった家賃は、最終的に月額6万1950円ないし8万6910円になるものとされた。

 2 本件の主位的請求は、上告人らが、被上告人に対し、本件各家賃改定による家賃の変更のうち適正賃料を超える部分は効力を生じないなどと主張して、家賃の額の確認を求めるとともに、変更後の家賃を支払ってきたことを理由に不当利得返還請求権に基づいて過払家賃の返還等を求めるものである。

 3 原審は、地方公社は、公社法24条の委任を受けた地方住宅供給公社法施行規則(以下「公社規則」という。)16条2項に基づき、その賃貸する住宅(以下「公社住宅」という。)の家賃を変更することができ、同項は、借地借家法32条1項に対する特別の定めに当たるから、公社住宅の使用関係について、同項の適用はない旨判断した上、本件各家賃改定による家賃の変更は、公社規則16条2項に基づく有効なものであるとして、上告人らの主位的請求を棄却すべきものとした。

 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 地方公社は、住宅の不足の著しい地域において、住宅を必要とする勤労者に居住環境の良好な集団住宅を供給し、もって住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与することなどを目的とする法人であり(公社法1条、2条)、その目的を達成するため、住宅の賃貸を含む所定の業務を行うことができるものとされている(公社法21条1項、3項)。地方公社の上記業務として賃借人との間に設定される公社住宅の使用関係は、私法上の賃貸借関係であり、法令に特別の定めがない限り、借地借家法の適用があるというべきである。

 そこで、公社住宅の使用関係について借地借家法32条1項に対する特別の定めがあるかをみるに、公社法は、地方公社において住宅の賃貸等に関する業務を行うには、住宅を必要とする勤労者の適正な利用が確保され、かつ、家賃が適正なものとなるように努めなければならないことなどを規定した上(22条)、上記業務を行うときの基準について、「他の法令により特に定められた基準がある場合においてその基準に従うほか、国土交通省令で定める基準に従つて行なわなければならない。」と規定する(24条)。そして、公社規則16条2項は、公社法24条の委任を受けて、「地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする。」と定める。

 公社法の上記各規定の文言に加え、地方公社の上記目的に照らせば、公社法24条の趣旨は、地方公社の公共的な性格に鑑み、地方公社が住宅の賃貸等に関する業務を行う上での規律として、他の法令に特に定められた基準に加え、補完的、加重的な基準に従うべきものとし、これが業務の内容に応じた専門的、技術的事項にわたることから、その内容を国土交通省令に委ねることにあると解される。そうすると、当該省令において、公社住宅の使用関係について、私法上の権利義務関係の変動を規律する借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対し、同項所定の賃料増減請求権とは別の家賃の変更に係る形成権を付与する旨の定めをすることが、公社法24条の委任の範囲に含まれるとは解されない。また、公社規則16条2項の上記文言からしても、同項は、地方公社が公社住宅の家賃を変更し得る場合において、他の法令による基準のほかに従うべき補完的、加重的な基準を示したものにすぎず、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対して上記形成権を付与した規定ではないというべきである。このほかに、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用が排除されると解すべき法令上の根拠はない。

 以上によれば、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である。

 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 安浪亮介 裁判官 岡 正晶 裁判官 堺  徹 裁判官 宮川美津子)

 

証明責任の分配 賃貸借の背信 最高裁昭和41年

民亊訴訟法判例百選 第5版 64 判例講義民事訴訟法136事件

建物収去土地明渡請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/昭和40年(オ)第163号

昭和41年1月27日

【判示事項】       無断転貸を背信行為と認めるに足りないとする特段の事情の存否に関する主張・立証責任

【判決要旨】       賃借地の無断転貸を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りないとする特段の事情は、その存在を賃借人において主張・立証すべきである。

【参照条文】       民法612-2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集20巻1号136頁

             最高裁判所裁判集民事82号149頁

             判例タイムズ188号114頁

             判例時報440号32頁

【評釈論文】       別冊ジュリスト76号188頁

             別冊ジュリスト115号268頁

             法学協会雑誌83巻11~12号150頁

             法曹時報18巻4号107頁

             民事研修114号27頁

             民商法雑誌55巻2号176頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人田中和の上告理由について。

 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法六一二条二項による解除権を行使し得ないのであつて、そのことは、所論のとおりである。しかしながら、かかる特段の事情の存在は土地の賃借人において主張、立証すべきものと解するを相当とするから、本件において土地の賃借人たる上告人が右事情について何等の主張、立証をなしたことが認められない以上、原審がこの点について釈明権を行使しなかつたとしても、原判決に所論の違法は認められない。それ故、論旨は採用に値しない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷

         裁判長裁判官    松   田   二   郎

            裁判官    入   江   俊   郎

            裁判官    長   部   謹   吾

            裁判官    岩   田       誠

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