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カテゴリ:憲法 > 刑法

森林組合不正補助金受給事件 長野地裁平成29年

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反,詐欺被告事件

長野地方裁判所判決/平成27年(わ)第196号、平成27年(わ)第211号、平成28年(わ)第13号、平成28年(わ)第19号、平成28年(わ)第22号、平成28年(わ)第27号、平成28年(わ)第28号、平成28年(わ)第44号

平成29年3月28日

【判示事項】      林業労働の効率化事業等を目的とする被告森林組合で,専務理事等として事業を統括掌理していた被告人が,森林作業道整備に関し,虚偽の補助金交付申請をし,県から間接補助金の交付を受けた補助金適正化法違反5件と被告人が工事受注会社の取締役らと共謀し,工事請負代金の水増し請求をして被告組合から金員を詐取した詐欺32件の事案。裁判所は,本件補助金適正化法違反の事案は,本来補助金の適性を審査する立場の県林務部等が不正な補助金申請の切っ掛けを与え,容認してきたものであるが,被告人側も,利益のための虚偽申請をしたものであるから,犯情を軽く見ることはできない。被告人の詐欺事犯は,利欲的な動機で強い非難に値するとし,被告組合を罰金100万円,被告人を懲役5年に処した事例

【掲載誌】       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 被告人Y1組合を罰金100万円に,被告人Y2を懲役5年に処する。

 被告人Y2に対し,未決勾留日数中330日をその刑に算入する。

 訴訟費用はその5分の1を被告人Y1組合の負担とする。

 

       理   由

 

(罪となるべき事実)

第1 被告人Y2(以下「被告人Y2」という。)は,平成21年4月28日から平成24年3月31日までの間,長野県大町市(以下略)に主たる事務所を置き,森林施業の共同化その他林業労働の効率の増進に関する事業等を目的とする事業者である被告人Y1組合(以下「被告組合」という。)の理事兼事業課長として森林整備事業等を統括掌理していたものであるが,

 1 被告組合の業務である森林作業道整備に関し,長野県から国の補助金を財源とする間接補助金である森林環境保全直接支援事業補助金(以下「本件補助金」という。)について,森林作業道の開設及び敷砂利に係る架空の請求をして,不正に補助金の交付を受けようと企て,被告組合事業課利用係らと共謀の上,別紙一覧表1記載のとおり,平成23年3月中旬から同月下旬頃,同市大町1058番地2所在の同県北安曇地方事務所において,同事務所職員に対し,真実は同市社字樺歌山に所在する森林作業道である権頭山線の開設及び敷砂利の森林作業道整備を実施した事実はないのに,実施したかのように偽り,これに基づいて算出される本件補助金の金額合計104万7000円を含む総額2786万1800円の交付を求める旨の補助金交付申請書を提出し,同年3月30日頃,本件補助金の交付決定に関する専決権者である同事務所長A1をして,前記権頭山線の開設等に係る同申請額の交付を確定させた上,同月31日頃,同事務所において,同事務所職員に対し,確定した同補助金額の支払を請求する旨の補助金交付請求書を提出し,同年4月13日頃,同事務所出納事務職員をして,株式会社八十二銀行大町支店に開設された被告組合名義の普通預金口座に本件補助金合計104万7000円を含む総額2786万1800円を振込入金させ,もって偽りその他不正の手段により間接補助金合計104万7000円の交付を受け(平成28年1月29日付け起訴状公訴事実第1[平成28年3月15日付け訴因変更請求書第1]),

 2 被告組合の業務である森林作業道整備に関し,長野県から国の補助金を財源とする間接補助金である本件補助金について,森林作業道の開設及び敷砂利に係る架空の請求をして,不正に補助金の交付を受けようと企て,被告組合事業課利用係らと共謀の上,別紙一覧表2記載のとおり平成23年12月下旬頃から平成24年1月上旬頃,前記北安曇地方事務所において,同事務所職員に対し,真実は同市大町字南ノ平に所在する森林作業道である南ノ平線ほか7か所の開設及び敷砂利の森林作業道整備又は開設の森林作業道整備を実施した事実はないのに,実施したかのように偽り,これに基づいて算出される本件補助金の金額合計1351万0500円を含む総額8480万2400円の交付を求める旨の補助金交付申請書を提出し,同年2月23日頃,本件補助金の交付決定に関する専決権者である同事務所B1をして,前記南ノ平線ほか7か所の開設等に係る同申請額の交付を確定させた上,同月24日頃,同事務所において,同事務所職員に対し,確定した同補助金額の支払を請求する旨の補助金交付請求書を提出し,同月29日頃,同事務所出納事務職員をして,前記八十二銀行大町支店に開設された被告組合名義の普通預金口座に本件補助金合計1351万0500円を含む総額8480万2400円を振込入金させ,もって偽りその他不正の手段により間接補助金合計1351万0500円の交付を受け(平成28年3月9日付け起訴状公訴事実第1[平成28年3月15日付け訴因変更請求書第1]),

第2 被告組合は,同市(以下略)に主たる事務所を置き,森林施業の共同化その他林業労働の効率の増進に関する事業等を目的とする事業者,被告人Y2は,平成24年4月24日から平成27年9月3日までの間,被告組合の専務理事として被告組合長を補佐し,被告組合の業務の全般を統括掌理していたものであるが,

 1 被告組合の業務である森林作業道整備に関し,長野県から国の補助金を財源とする間接補助金である本件補助金について,森林作業道の開設及び敷砂利に係る架空の請求をして,不正に補助金の交付を受けようと企て,被告組合業務課利用係長及び同課販購買係主任らと共謀の上,別紙一覧表3記載のとおり,平成25年3月8日頃,前記北安曇地方事務所において,同事務所職員に対し,真実は同県北安曇郡池田町広津字出口に所在する森林作業道である中の貝出口線ほか1か所の開設及び敷砂利の森林作業道整備又は開設の森林作業道整備を実施した事実はないのに,実施したかのように偽り,これに基づいて算出される本件補助金の金額合計157万4100円を含む総額6789万0200円の交付を求める旨の補助金交付申請書を提出し,同月21日頃,本件補助金の交付決定に関する専決権者である同事務所長B1をして,前記中の貝出口線ほか1か所の開設等に係る同申請額の交付を確定させた上,同月22日頃,同事務所において,同事務所職員に対し,確定した同補助金額の支払を請求する旨の補助金交付請求書を提出し,同月29日頃,同事務所出納事務職員をして,前記八十二銀行大町支店に開設された被告組合名義の普通預金口座に本件補助金合計157万4100円を含む6789万0200円を振込入金させ,もって偽りその他不正の手段により間接補助金合計157万4100円の交付を受け(平成27年12月11日付け起訴状公訴事実[平成28年1月29日付け訴因変更請求書]),

 2 被告組合の業務である森林作業道整備に関し,長野県から国の補助金を財源とする間接補助金である本件補助金について,森林作業道の開設に係る架空の請求をして,不正に補助金の交付を受けようと企て,被告組合業務課利用係長らと共謀の上,別紙一覧表4記載のとおり,平成25年12月下旬頃から平成26年1月上旬頃,前記北安曇地方事務所において,同事務所職員に対し,真実は同市常盤に所在する森林作業道である大和田青木線ほか2か所の開設の森林作業道整備を実施した事実はないのに,実施したかのように偽り,これに基づいて算出される本件補助金の金額合計361万8000円を含む総額4302万2700円の交付を求める旨の補助金交付申請書を提出し,同月29日頃,本件補助金の交付決定に関する専決権者である同事務所長C1をして,前記大和田青木線ほか2か所の開設に係る同申請額の交付を確定させた上,同月31日頃,同事務所において,同事務所職員に対し,確定した同補助金額の支払を請求する旨の補助金交付請求書を提出し,同年2月7日頃,同事務所出納事務職員をして,前記八十二銀行大町支店に開設された被告組合名義の普通預金口座に本件補助金合計361万8000円を含む総額4302万2700円を振込入金させ,もって偽りその他不正の手段により間接補助金合計361万8000円の交付を受け(平成28年3月9日付け起訴状公訴事実第2[平成28年3月15日付け訴因変更請求書第2]),

 3 被告組合の業務である森林作業道整備に関し,長野県から国の補助金を財源とする間接補助金である本件補助金について,森林作業道の開設に係る架空の請求をして,不正に補助金の交付を受けようと企て,被告組合業務課利用係長及び同課販購買係主任らと共謀の上,別紙一覧表5記載のとおり,平成26年3月7日頃,前記北安曇地方事務所において,同事務所職員に対し,真実は同県北安曇郡池田町大字池田花岡山ほか2か所に所在する森林作業道である花岡山支線ほか2か所の開設の森林作業道整備を実施した事実はないのに,実施したかのように偽り,これに基づいて算出される本件補助金の金額合計480万3300円を含む総額2498万5600円の交付を求める旨の補助金交付申請書を提出し,同月14日頃,本件補助金の交付決定に関する専決権者である同事務所副所長D1をして,前記花岡山支線ほか2か所の開設に係る同申請額の交付を確定させた上,同月17日頃,同事務所において,同事務所職員に対し,確定した同補助金額の支払を請求する旨の補助金交付請求書を提出し,同月24日頃,同事務所出納事務職員をして,前記八十二銀行大町支店に開設された被告組合名義の普通預金口座に本件補助金合計480万3300円を含む総額2498万5600円を振込入金させ,もって偽りその他不正の手段により間接補助金合計480万3300円の交付を受け(平成28年1月29日付け起訴状公訴事実第2[平成28年3月15日付け訴因変更請求書第2]),

第3 被告人Y2は,平成21年4月28日から平成24年3月31日までの間,被告組合の理事兼事業課長として森林整備事業等を統括掌理し,平成24年4月24日から平成27年9月3日までの間,被告組合の専務理事として被告組合長を補佐し,被告組合の業務全般を統括掌理していたものであるが,有限会社E1取締役会長F1及び同社取締役G1と共謀の上,同社が被告組合との間で締結した工事請負契約に基づき実施した工事に係る工事請負代金を水増し請求して,これを被告組合からだまし取ろうと考え,別紙一覧表6記載のとおり,平成22年5月13日頃から平成26年11月11日頃までの間,32回にわたり,前記被告組合事務所において,真実は,前記工事請負契約に基づく正規の請求代金は合計3億9241万7528円であるにもかかわらず,不正に水増しした前記請求金額合計4億6207万2850円とする前記E1発行の各請求書を被告組合にそれぞれ提出して請求し,当時の被告組合代表理事兼組合長H1(H1)らをして,それらが正規な請求であると誤信させて,前記E1に対する前記請負代金の支出をそれぞれ決定させ,よって,平成22年5月20日から平成26年11月20日までの間,32回にわたり,前記八十二銀行大町支店に開設された被告組合名義の普通預金口座から株式会社八十二銀行あづみ松川支店に開設された前記E1名義の普通預金口座に現金合計4億6207万2850円(うち水増し分合計6965万5322円)を振込入金させ,もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた(平成27年12月28日付け起訴状公訴事実,平成28年2月16日付け起訴状公訴事実,平成28年2月29日付け起訴状公訴事実,平成28年3月9日付け起訴状公訴事実,平成28年3月31日付け起訴状公訴事実)。

(証拠の標目)

 括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を示す。

判示全事実について

・ 被告人Y2の公判供述

・ 被告人Y2の警察官調書(乙10~13)

・ H1の警察官調書(乙3)

・ 捜査報告書(甲16)

判示第1の各事実及び判示第2の各事実について

・ 証人I1,同J1,同K1,同L1,同M1,同N1,同O1,同P1,同Q1,同R1の各公判供述

・ S1(甲7),T1(甲9[不同意部分を除く],10,13,15)の各警察官調書

・ O1(甲17),R1(甲20)の各検察官調書謄本

・ 捜査報告書(甲5,22,311)

・ 電話聴取書(乙7)

判示第1の1の事実並びに判示第2の1及び3の各事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙34)

・ P1(甲81),O1(甲107[謄本])の各検察官調書

判示第1の2の事実及び判示第2の2の事実について

・ U1(甲159,172,174),V1(甲162),W1(甲176)の各警察官調書

・ 捜査報告書(甲152,160,165,175,184)

判示第2の1及び3の各事実について

・ Z1(甲102),A2(甲104)の各警察官調書

・ L1の検察官調書謄本(甲126)

・ 捜査報告書(甲94)

判示第1の1の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙32)

・ U1(甲78),W1(甲80),P1(甲83[謄本]),I1(甲86~88,90),A1(甲91)の各警察官調書

・ 捜査報告書(甲75~77,82)

判示第1の2の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙46,47)

・ U1(甲150,153,156,166,169,177,180),W1(甲155,158,168,171,179,182),K1(甲189~195[いずれも謄本]),J1(甲198,200[いずれも謄本]),B1(甲203,204),Q1(甲208,209[いずれも謄本]),P1(甲210~215,217,218[いずれも謄本]),H1(甲229,230[いずれも謄本])の各警察官調書

・ 捜査報告書(甲151,154,157,163,167,170,178,181)

判示第2の1の事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙19)及び警察官調書(乙15,30)

・ P1(甲19),L1(甲27)の各検察官調書謄本

・ H1(乙2),U1(甲69),O1(甲71,72),L1(甲74[謄本]),B1(甲305[謄本],306)の各警察官調書

・ 捜査報告書(甲3,4,18,68,70)

判示第2の2の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙48,49)

・ U1(甲183,187),V1(甲186),M1(甲196,197[いずれも謄本]),C1(甲205,206),P1(甲216,219~221[いずれも謄本]),H1(甲231,232[いずれも謄本])の各警察官調書

・ 捜査報告書(甲188)

判示第2の3の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙33)

・ U1(甲95~98),B2(甲103),O1(甲106[不同意部分を除く],113[いずれも謄本]),P1(甲114~116[いずれも謄本]),L1(甲119~123[いずれも謄本]),D1(甲124,125)の各警察官調書

・ 捜査報告書(甲92,110~112)

・ 電話聴取書(甲93,99)

判示第3の各事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙24,25)及び警察官調書(乙23)

・ R1(甲37),C2(甲50,298,300[いずれも謄本]),F1(甲282,285[いずれも謄本]),G1(甲290[謄本])の各検察官調書

・ R1(甲38),F1(甲53[謄本]),G1(甲61[謄本]),D2(甲270)の各警察官調書

・ 実況見分調書(甲41)

・ 捜査報告書(甲43,44,129)

・ 捜査関係事項照会回答書(甲47,48)

判示第3別紙一覧表6番号4ないし10,12ないし23の各事実について

・ F1(甲287),C2(甲303)の各検察官調書謄本

判示第3別紙一覧表6番号9,10,12ないし23の各事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙54)

・ G1の検察官調書謄本(甲295)

判示第3別紙一覧表6番号24ないし32の各事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙67)

・ G1の検察官調書謄本(甲297)

判示第3別紙一覧表6番号16ないし21の各事実について

・ 捜査報告書(甲250)

判示第3別紙一覧表6番号18ないし23の各事実について

・ H1の警察官調書(甲246)

判示第3別紙一覧表6番号26ないし31の各事実について

・ 捜査報告書(甲268)

判示第3別紙一覧表6番号4ないし8の各事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙45)

・ H1の警察官調書(甲138,139)

・ R1の警察官調書(甲140)

・ G1の検察官調書謄本(甲294)

判示第3別紙一覧表6番号14ないし18の各事実について

・ R1の警察官調書(甲247)

判示第3別紙一覧表6番号19ないし23の各事実について

・ R1の警察官調書(甲248)

判示第3別紙一覧表6番号24ないし28の各事実について

・ H1の警察官調書(甲264)

・ R1の警察官調書(甲266)

判示第3別紙一覧表6番号9,10,12,13の各事実について

・ H1の警察官調書(甲233)

・ R1の警察官調書(甲234)

判示第3別紙一覧表6番号14ないし17の各事実について

・ H1の警察官調書(甲245)

判示第3別紙一覧表6番号22ないし25の各事実について

・ 捜査報告書(甲251)

判示第3別紙一覧表6番号29ないし32の各事実について

・ H1の警察官調書(甲265)

・ R1の警察官調書(甲267)

判示第3別紙一覧表6番号1ないし3の各事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙38)

・ H1の警察官調書(甲132)

・ R1の警察官調書(甲133)

・ C2の検察官調書謄本(甲301)及び警察官調書写し(甲135)

・ F1の検察官調書謄本(甲286)及び警察官調書謄本(甲136)

・ G1の検察官調書謄本(甲293)及び警察官調書謄本(甲137)

判示第3別紙一覧表6番号6ないし8の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲145)

・ F1の警察官調書謄本(甲147)

・ G1の警察官調書謄本(甲149)

判示第3別紙一覧表6番号7ないし9の各事実について

・ 捜査報告書(甲143)

判示第3別紙一覧表6番号10ないし12の各事実について

・ 捜査報告書(甲45)

判示第3別紙一覧表6番号13ないし15の各事実について

・ 捜査報告書(甲235)

判示第3別紙一覧表6番号18ないし20の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲254)

・ F1の警察官調書謄本(甲258)

・ G1の警察官調書謄本(甲262)

判示第3別紙一覧表6番号21ないし23の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲255)

・ F1の警察官調書謄本(甲259)

・ G1の警察官調書謄本(甲263)

判示第3別紙一覧表6番号24ないし26の各事実について

・ F1の警察官調書謄本(甲275)

・ G1の警察官調書謄本(甲278)

判示第3別紙一覧表6番号27ないし29の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲273)

・ F1の警察官調書謄本(甲276)

・ G1の警察官調書謄本(甲279)

判示第3別紙一覧表6番号30ないし32の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲274)

・ F1の警察官調書謄本(甲277)

判示第3別紙一覧表6番号1及び2の各事実について

・ 捜査報告書(甲127)

判示第3別紙一覧表6番号3及び4の各事実について

・ 捜査報告書(甲128)

判示第3別紙一覧表6番号4及び5の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲144)

・ F1の警察官調書謄本(甲146)

・ G1の警察官調書謄本(甲148)

判示第3別紙一覧表6番号5及び6の各事実について

・ 捜査報告書(甲142)

判示第3別紙一覧表6番号9及び10の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲236)

・ F1の警察官調書謄本(甲238)

・ G1の警察官調書謄本(甲240)

判示第3別紙一覧表6番号12及び13の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲237)

・ F1の警察官調書謄本(甲239)

・ G1の警察官調書謄本(甲241)

判示第3別紙一覧表6番号14及び15の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙55)

・ C2の警察官調書謄本(甲252)

・ F1の警察官調書謄本(甲256)

・ G1の警察官調書謄本(甲260)

判示第3別紙一覧表6番号16及び17の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙56)

・ C2の警察官調書謄本(甲253)

・ F1の警察官調書謄本(甲257)

・ G1の警察官調書謄本(甲261)

判示第3別紙一覧表6番号18及び19の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙57)

判示第3別紙一覧表6番号20及び21の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙58)

判示第3別紙一覧表6番号22及び23の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙59)

判示第3別紙一覧表6番号24及び25の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙60)

判示第3別紙一覧表6番号25及び26の各事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲272)

判示第3別紙一覧表6番号26及び27の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙61)

判示第3別紙一覧表6番号28及び29の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙62)

判示第3別紙一覧表6番号30及び31の各事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙63)

・ G1の警察官調書謄本(甲280)

判示第3別紙一覧表6番号1の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙35)

判示第3別紙一覧表6番号2の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙36)

判示第3別紙一覧表6番号3の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙37)

判示第3別紙一覧表6番号4の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙39,40)

判示第3別紙一覧表6番号5の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙41)

判示第3別紙一覧表6番号6の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙42)

判示第3別紙一覧表6番号7の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙43)

判示第3別紙一覧表6番号8の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙44)

判示第3別紙一覧表6番号9の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙50)

判示第3別紙一覧表6番号10の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙51)

判示第3別紙一覧表6番号11の事実について

・ 被告人Y2の検察官調書(乙26)

・ H1の警察官調書(甲36)

・ R1の警察官調書(甲39)

・ F1の警察官調書謄本(甲54)

・ G1の警察官調書謄本(甲62)

判示第3別紙一覧表6番号12の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙52)

判示第3別紙一覧表6番号13の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙53)

判示第3別紙一覧表6番号24の事実について

・ C2の警察官調書謄本(甲271)

判示第3別紙一覧表6番号30の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙64)

判示第3別紙一覧表6番号32の事実について

・ 被告人Y2の警察官調書(乙65,66)

・ 捜査報告書(甲269)

・ G1の警察官調書謄本(甲281)

 なお,検察官は,判示第3の各犯行について,被告人Y2と有限会社E1(以下「E1」という。)取締役会長F1(以下「F1」という。)及び同社取締役G1(以下「G1」という。)との間に共謀が成立したのち,F1及びG1を介して,被告人Y2と同社代表取締役C2(以下「C2」という。)との間でも共謀が成立したと主張するが,被告人Y2は,判示第3の各犯行について,平成20年8月頃にF1及びG1に対して工事代金の水増し請求を持ち掛けた際,同人らとの間で,C2には前記水増し請求の事実を話さないことを決め,C2は前記水増し請求については知らないと思っていたと供述しており(乙38,被告人の公判供述),判示第3の各犯行につき,C2の関与を明確に排除して犯行に及んだものであるから,C2が,F1及びG1と意思を通じて,いわば片面的に犯行に協力していたとしても,被告人Y2にはC2と共同して各犯行に及ぶ意思は認められず,被告人Y2とC2との間で各犯行について共謀が成立していたと認定することはできない。

(法令の適用)

1 被告組合について

  被告組合の判示第2の1ないし3の各所為はいずれも補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項,32条1項に該当するが,以上はいずれも刑法45条前段の併合罪であるから,同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告組合を罰金100万円に処し,訴訟費用については,被告人両名に関して取り調べた証人に支給したもので被告人両名にその全額を負担させるのは相当でないから,刑事訴訟法181条1項本文により,その5分の1を被告組合に負担させることとする。

2 被告人Y2について

  被告人Y2の判示第1の1及び2並びに判示第2の1ないし3の各所為はいずれも刑法60条,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項,32条1項に,判示第3別紙一覧表6番号1ないし32の各所為はいずれも別表番号ごとに刑法60条,246条1項に該当する(いずれも振込入金された金員の全額について詐欺罪が成立する。)ところ,被告人Y2の判示第1の1及び2並びに判示第2の1ないし3の各罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第3別紙一覧表6番号2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人Y2を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人Y2に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1 本件は,大北地域に主たる事務所を置き森林施業の共同化その他林業労働の効率の増進に関する事業等を目的とする森林組合である被告組合において,理事兼事業課長又は専務理事として森林作業道整備等の事業を統括掌理していた被告人Y2が,被告組合職員らと共謀の上,被告組合の業務である森林作業道整備に関し,森林作業道整備を実施した事実はないのに実施したかのように偽って補助金の交付を申請し,長野県から国の補助金を財源とする間接補助金合計2455万2900円(被告組合を被告人とする事実に係る金額は合計999万5400円)の交付を受けた補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)違反5件(判示第1及び第2。なお,被告組合を被告人とするものは判示第2の3件のみ。)と,被告人Y2が,被告組合から工事を受注していたE1の取締役らと共謀の上,工事請負代金を水増し請求して,被告組合から合計4億6207万2850円(うち水増し分は合計6965万5322円)を詐取した詐欺32件(判示第3)の事案である。

2 まず,各補助金適正化法違反の犯行(判示第1,第2)に至る経緯及び背景事情についてみると,被告組合は,平成17年頃から,長野県林務部(以下「県林務部」という。)及び地方事務所林務課から,民有林の搬出間伐を行うよう指導を受け,これに必要な高規格の作業道(大型のトラックが通行可能で,「高規格作業道」などとも呼ばれているもの。)を開設したが,その経済的負担が重く,平成19年頃,被告人Y2が,当時の地方事務所林務課課長に対し,前記指導には従えないなどと告げたところ,同人から,既設の森林作業道を新しく開設したものと偽って補助金を申請し,その補助金を高規格作業道の開設に係る自己負担分に充てるように助言され,これを契機として,被告組合においては,平成20年2月頃から,被告人Y2の主導の下,既存の森林作業道について新しく森林作業道を開設したものと偽って本件補助金を申請するようになり,地方事務所林務課においては,職員が,本来,全件について実施しなければならない現地調査を実施しないまま,造林事業検査野帳に虚偽の内容を記載して現地調査を行ったように装い,あるいは,年度末に残った予算を消化するため,被告組合職員に補助金の申請を求めるなどして,補助金を交付し,本件各犯行に及んでいたというのであり(なお,現地調査をしなかった県職員らは,被告組合を信頼していたなどと証言するが,県職員が現地調査をすれば虚偽の補助金交付申請であることが直ちに明らかになるのであるから,被告人Y2が地方事務所職員の了解もないまま虚偽の補助金交付申請に及ぶことは想定できず,このような事情だけをみても,被告組合を信頼していたなどとする証言が信用できないことは明らかである。),その背景には,被告人Y2においては,地域の森林の整備をはかり,林業経営を安定化させるほか,被告組合の決算に際して高規格作業道の開設費用や組合運営費の赤字を埋めたいという動機があり,他方,地方事務所林務課では,作業道の整備を通じて森林の整備をはかるという使命を果たそうとはしていたものの,降雪期で補助金の対象となる工事や作業が不可能であるのに県林務部から執行未了の予算の消化を割り当てられ,本来は補助金の交付が許されない,工事や作業が完了していない事業について補助金を交付する「闇繰越」などとも呼んでいた違法な手段を使っても予算を消化するよう迫られていたなど,予算に見合った行政サービスの提供より,数値上の予算の消化が重視されていたという事情も認められる。

  そうすると,本件では,本来,補助金の申請が適正であるか審査すべき立場にある地方事務所林務課職員が,予算の消化を迫られたことなどもあって,被告組合に対し,不正な補助金申請を始めるきっかけを与え,その後も,これを容認し続けていたことは明らかで,補助金を交付した長野県側において重大な落ち度があったというべきである。もっとも,被告人Y2を含む被告組合の側でも,被告組合の利益のため,虚偽で許されない申請であることを熟知しながら補助金の申請を行ったのであるから,一般予防の見地に照らすと,長野県の職員の落ち度を斟酌するには自ずと限度があるといわねばならない。

  なお,検察官は,被告人Y2が詐欺による利得を増やすために本件各補助金適正化法違反の犯行に及んだ旨主張し,被告組合の弁護人も,被告組合にとって酌むべき事情の一つとして同様の主張をするが,被告組合の赤字を埋めることで,被告組合に対する詐欺の損失も埋め合わせされる関係にはあるものの,被告人Y2が,詐欺による利得を増やすことを意図して本件各補助金適正化法違反の犯行に及んだとみるべき証拠もないので,前記主張は採用できない。

  次に,本件各補助金適正化法違反の犯行態様等についてみると,判示のとおりの大胆な犯行であり,被告人Y2は,本件各補助金適正化法違反の犯行につき主導的役割を果たし,起訴されたものだけでも4年度分にわたって補助金の不正受給を繰り返し,被告組合が前記のとおり多額の補助金を不正に受給した。被告組合については,起訴されたものは2年度分であるが,不正に受給した補助金は少額とはいえない。なお,被告組合の弁護人は,判示第2の1の事実のうち,中の貝出口線に係る補助金は被告組合において預かり金として処理されていたので実質的違法性の程度が低いと主張するが,量刑に影響を与えるほどの事情とはいえない。

  以上によれば,長野県の職員の落ち度を斟酌しても,本件各補助金適正化法違反の犯情を軽くみることはできない。

3 次に,被告人Y2の量刑上重要な各詐欺の犯行(判示第3)についてみると,被告人Y2は,被告組合職員等との飲食代金がかさむなどして,自由に使える金が必要となったことから,平成19年頃,E1から現金を受け取るようになり,平成20年頃には,組合からの支払いが高額となる高規格作業道の開設工事に目を付け,自ら不自然でない範囲で工事費用を水増しした工事費用の内訳書を作成した上,E1の共犯者らに交付して,被告組合に対して工事費用を請求させ,その一部についてキックバックを受けるようになり,本件詐欺の各犯行に及んだというのであって,犯行に至る経緯に酌むべきものはなく,利欲的な動機は強い非難に値する。結局,被告人Y2は,約4年6か月間に32回にわたって犯行を繰り返しているから,その犯行は常習的であり,被害額は合計4億6207万2850円で,実質的な被害とみられる水増し分は合計6965万5322円という多額に及んでいるが,被告人Y2によって被害が回復される見込みは乏しい。

  そうすると,本件詐欺の各犯行の犯情は誠に悪質というべきである。

4 以上によれば,被告人Y2の刑事責任は相当に重く,また,被告組合の刑事責任も軽くみることはできない。

  一方,すでに指摘した事情に加えて,被告人Y2については,事実を認め,将来被害を弁償していきたいと述べるなど反省の態度を示していること,本件各犯行に及んだとはいえ,それまで,被告組合に勤務して大北地域の森林整備に尽力してきたこと,前科,前歴がないことなど,被告人Y2のために酌むことのできる事情も認められ,また,被告組合については,当然の成り行きとはいえ,長野県から補助金約8億7000万円の返還を命じられ,これを受けて総代会において返還計画を立てるなど,本件発覚後は基本的に誠実に対応してきたとみられること,各犯行当時の組合長及び現組合長が謝罪していることなど,被告組合のために酌むことのできる事情も認められ,これらの事情を各被告人について併せ考慮すると,各被告人をそれぞれ主文の刑に処するのが相当である。

(求刑 被告人Y1組合につき罰金100万円,被告人Y2につき懲役6年)

  平成29年3月28日

    長野地方裁判所刑事部

        裁判長裁判官  伊東 顕

           裁判官  稲田康史

           裁判官  加納紅実

違憲審査の対象 明治憲法下の犯罪 最高裁昭和23年

憲法判例百選 第7版 189

傷害致死被告事件

最高裁判所大法廷判決/昭和23年(れ)第73号

昭和23年7月7日

【判示事項】      喧嘩と正当防衛

【判決要旨】      2人が口論の末互いに殴合となり、そのうち1人が、殴られながら後方へ押されて鉄条網に仰向けに押しつけられた上、睾丸等を蹴られたので、憤激の余り、所持していた小刀で相手に斬りつけ、その結果相手が死亡した場合には、傷害致死の行為は、必ずしも正当防衛にあたらない。

【参照条文】      刑法36-1

            刑法205

【掲載誌】       最高裁判所刑事判例集2巻8号793頁

            最高裁判所裁判集刑事3号69頁

【評釈論文】      ジュリスト200号94頁

            ジュリスト307の2号32頁

            別冊ジュリスト2号162頁

            別冊ジュリスト27号40頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人八田三郎上告趣意について。

 互に暴行し合ういわゆる喧嘩は、闘争者双方が攻撃及び防禦を繰り返す一団の連続的闘争行為であるから、闘争の或る瞬間においては、闘争者の一方がもつぱら防禦に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあつても、闘争の全般からみては、刑法第三十六条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合がある。本件について、原判決の確定した事実にされば、被告人はAと口論の末、互に殴り合となり、被告人はたちまちAのために殴られ乍ら後方へ押されて鉄条網に仰向けに押しつけられた上睾丸等を蹴られたので、憤激の余り所持していた小刀でAに斬りつけ創傷を負わせた結果、同人を左上膊動脉切断に因る失血のため、死亡するに至らしめたというのであるから、被告人の行為は全般の情況から見て、前記の場合に当るものと言わなければならない。従つて刑法第三十六条を適用すべき余地はない。しかのみならず、原判決は被告人の所為を正当防衛とは認定していないのであるから、所論は原判決に添わない非難であつて、結局原判決の事実認定の不当を主張するに帰着し上告適法の理由とならない。されば、論旨はいずれの点からも理由がない。

 被告人上告趣意第一点について。

 原判決はその理由において、本件のような喧嘩の際における闘争者の闘争行為は互に攻撃及び防禦をなす性質を有し、一方の行為のみを不正の傷害なりとし他の一方のみを防禦行為なりとすべきではなく、従つてその闘争の過程において被告人が相手方に加えた本件反撃行為はこれを正当防衛行為と解し得ない旨説示して原審弁護人の正当防衛の主張を排斥している。そして、被告人の行為が不正の侵害に対する防衛行為でないことを説示した以上、防衛の程度を超えた行為も成立し得ないことは当然であるから、原判決は所論の二つの点につき否定の判断を与えたことは明かであつて、論旨は理由がない。

 同第二点について。

 論旨前段で主張する事由は刑事訴訟法第三六〇条第二項に規定する事実上の主張には当らないから、これに対する判断を判決に示す必要はなく論旨は理由がない。又、本件について、第一審の第一回公判期日が指定されたのは、昭和二二年五月二日であつて、第二審判決が言渡されたのは、同年一一月二二日であること記録上明かである。新憲法の施行以後第二審判決の言渡まで約六ケ月半を費したに過ぎず、その間、現場の検証、証人の訊問等の手続を経た本件の審理は毫も憲法第三七条の規定に反するものではない。されば論旨後段の主張も全く理由がない。

 よつて、裁判所法第一〇条第一号、刑事訴訟法第四四六条により主文のとおり判決する。

 この判決は、裁判官全員の一致した意見である。

 検察官小幡勇三郎関与

  昭和二十三年七月七日

    最高裁判所大法廷

        裁判長裁判官  塚崎直義

           裁判官  長谷川太一郎

           裁判官  沢田竹治郎

           裁判官  霜山精一

           裁判官  井上 登

           裁判官  栗山 茂

           裁判官  真野 毅

           裁判官  小谷勝重

           裁判官  島  保

           裁判官  齋藤悠輔

           裁判官  藤田八郎

           裁判官  岩松三郎

 裁判官庄野理一は退官の為め署名捺印することができない。

        裁判長裁判官  塚崎直義

ビラ貼り行為と刑事罰 金沢タクシー事件 最高裁昭和43年1月27日

菅野和夫「労働法 第10版」弘文堂・2013年・727頁

建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反、建造物損壊各被告事件

最高裁判所第1小法廷決定/昭和42年(あ)第1078号

昭和43年1月18日

【判示事項】       いわゆる闘争手段としてのビラ貼り行為が刑法第260条の建造物損壊および同法第261条の器物損壊に該当するとされた事例

【判決要旨】       会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、4つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の2階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同内部の壁に約50枚、同事務室のガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約30枚、それぞれ糊を用いて貼りつけ、これらのビラの大部分を会社側がはがしたあとに合計50枚の同様のビラを貼りつけ、更にその大部分を会社側がはがしたあとに合計60枚の同様のビラを貼りつけ、更にその1部分を会社側がはがしただけで相当数が残存しているところに重複して合計約80枚の同様のビラを貼りつけた行為は、原審の認定した事実関係(原判文参照)のもとにおいては、刑法第260条の建造物損壊および同法第261条の器物損壊に該当する。

【参照条文】       刑法260

             刑法261

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集22巻1号32頁

             最高裁判所裁判集刑事166号21頁

             裁判所時報494号1頁

             判例タイムズ219号135頁

             判例時報512号20頁

             労働判例74号73頁

【評釈論文】       警察研究44巻11号120頁

             ジュリスト396号89頁

             ジュリスト臨時増刊433号139頁

             地方公務員月報63号49頁

             法曹時報20巻6号200頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人梨木作次郎、同豊田誠、同吉田隆行の上告趣意第一は、判例違反をいうが、引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、同第二は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、同第三は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。(被告人らが、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側および同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約三〇枚を、それぞれ糊を用いて貼りつけ、これらのビラの大部分を会社側がはがしたあとに合計五〇枚の同様のビラを貼りつけ、更にその大部分を会社側がはがしたあとに合計六〇枚の同様のビラを貼りつけ、更にその一部分を会社側がはがしただけで相当数が残存しているところに重複して合計約八〇枚の同様のビラを貼りつけた行為は、原審の認定した事実関係のもとにおいては、右建造物および器物の効用を減損するものと認められるから、右行為が刑法二六〇条および二六一条の各損壊に該当するとした原審の判断は、正当である。)

 よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

  昭和四三年一月一八日

     最高裁判所第一小法廷

         裁判長裁判官    松   田   二   郎

            裁判官    入   江   俊   郎

            裁判官    長   部   謹   吾

            裁判官    岩   田       誠

            裁判官    大   隅   健 一 郎

島保裁判長名判決 ピケッティングの正当性 三友炭鉱事件 最高裁昭和31年

菅野和夫「労働法 第10版」弘文堂・2013年・719頁

業務妨害被告事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和24年(れ)第2273号

昭和31年12月11日

【判示事項】       いわゆるピケツテイングが威力業務妨害罪にあたらない1事例

【判決要旨】       炭坑労働組合が同盟罷業中一部組合員が罷業から脱退して会社の石炭運搬業務に従事し石炭を積載した炭車を連結したガソリン車の運転を開始した際、組合婦人部長たる被告人が、右一部組合員の就業は経営者側との不純な動機に出たもので罷業を妨害する裏切行為であり、これにより罷業が目的を達成し得なくなると考え、既に多数婦人組合員等がガソリン車の前方線路上に立ち塞がり、座り込みまたは横臥してその進行を阻止していたところに参加して「ここを通るなら自分たちを轢き殺して通れ」と怒号して就業組合員等のガソリン車の運転を妨害した行為は、いまだ違法に刑法第234条にいう「威力を用い人の業務を妨害したる者」というに足りない。

【参照条文】       刑法234

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集10巻12号1605頁

             最高裁判所裁判集刑事116号43頁

             判例時報96号1頁

             刑事裁判資料123号90頁

【評釈論文】       警察学論集10巻10号71頁

             別冊ジュリスト1号198頁

             別冊ジュリスト33号66頁

             判例評論8号23頁

             法学新報65巻7号85頁

             民商法雑誌38巻2号148頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 検事山本石樹の上告趣意第一点について。

 論旨は、原判決は被告人の所為について期待可能性がないとしてその刑事責任を否定したのであるが、その根拠としてはただ漫然条理上責任を阻却するというに止まり、何故期待可能性なき場合には刑事責任が排斥されるかを成法との繋りにおいて明示してその法的根拠を充分に説示していないから、結局裁判に理由を附せず叉は判決に示すべき判断を遺脱した違法があると主張する。しかし、、期待可能性の不存在を理由として刑事責任を否定する理論は、刑法上の明文に基くものではなく、いわゆる超法規的責任阻却事由と解すべきものである。従つて、原判決がその法文上の根拠を示すことなく、その根拠を条理に求めたことは、その理論の当否は別としても、なんら所論のような違法があるものとはいえない。されば、論旨は理由がない。

 同第二点について。

 原判決の認定するところによれば、判示Aの経営にかかるa炭坑においては、昭和二二年三月一五日労働組合が結成されたのであるが、当時の同炭坑の福利施設は他の炭坑にくらべて著しく劣つていたため、同組合はこれが改善等を経営者側に要求し、その要求は一応容れられたものの、経営者側においては容易にその実行をなさず日時を推移するうち、福利施設の不備と諸物価高騰のため鉱員の生活は甚だしく困難になつたので、同年八月二九日組合大会を開いた結果、経営者に対して飢餓突破資金の支給を要求したところ、経営者側から拒絶されたため同年九月一三日から遂に罷業に入るにいたつた。被告人はその前日右組合の婦人部長に選任されたのであるが、元来労働運動ないし争議については経験がなく、労働運動の意識もきわめて低く、婦人部長としても当時組合事務を分担しておらず、本件罷業についてもなんら指導的役割を分担していたものでもなかつた。ところが右罷業中、前記大会当時まで同組合の組合長であつたBおよび組合員二十数名の経営者側に多少の縁故のある人々が突如些産同志会を結成して、罷業から脱退して生産業務に従事するにいたつたので、罷業派組合員は極度に憤慨し、毎日朝本件事件発生の現場附近の広場に集まり、組合幹部から情勢報告を聞くとともに、組合員の結束をはかるため蹴起大会を開き、右Bらを経営者側と結託して争議の切り崩しをなさんとする裏切者であるとして気勢を揚げていたことろ、同年一〇月七日午前入時過頃、生産同志会Cらが右広場の傍にある貯炭場から石炭を積載した炭車を連結したガソリン車を運転して、b駅にむけ進行しようとしたので、昂奮していた多数の婦人組合員および二、三名の男子組合員らは憤慨の余り右ガソリン車の前方線路上に立ち塞り、あるいは横臥し、もしくは坐り込んでその進行を阻止するの挙に出た。ところがたまたま幹部の報告をきくため右広場に来合せた被吉人は、組合長田口政治の指揮に従つて線路上に赴き、さきに集合してガソリン車の進行を阻止していた婦人連中の仲間に参加し、軌道から退去を求めるCに対して、他の婦人たちとともに「ここを通るなら自分たちを轢き殺して通れ」と怒号し、いわゆる坐り込み戦術により、川上らをしてガソリン車の運転を断念せしめ、炭車による石炭の輸送を不能ならしめるに至つたというのである。

 組合が争議権を行使して罷業を実施中、所属組合員の一部が罷業から脱退して生産業務に従事した場合においては、組合(従つて組合役員ならびにその意思に従つた組合員)は、かかる就業者に対し口頭又は文書による平和的説得の方法で就業中止を要求し得ることはいうまでもないが、これらの者に対して暴行、脅迫もしくは威力をもつて就業を中止させることは、一般的には違法であると解すべきである。しかし、このような就業を中止させる行為が違法と認められるかどうかは正当な同盟罷業その他の争議行為が実施されるに際しては特に諸般の情況を考慮して慎重に判断されなければならないこともいうまでもない。

 本件につき原判決の認定した事実によれば、a炭坑労働組合は、原判示のような劣悪な労働条件のもとに待遇改善を要求して組合大会を開いた結果罷業に入つたところ、元組合長B外二十数名の経営者側に縁故のある者が就業を開始したので、罷業派組合員である被告人は、罷業が組合員の共同目的達成のため已むなくなきれたものであるのに、生産同志会は経営者側との不純な動機から同志を裏切り罷業を妨害するもので、もし同志会が就業を開始すると罷業がその目的を達成し得ないこととなると考え、右同志会員の就業に対し極度に憤慨をしていたこと、被告人は被告人以外の多数の婦人組合員および二、三名の男子組合員らがガソリン車の前方線路上に立ち塞がり、あるいは横臥しもしくは坐り込んでその進行を阻止していたところへ参加して線路上に赴き、軌道から退去を求あるCらに対し、他の婦人らとともに前示のごとく怒号したにすぎないことが窺われる。このような経過から考えてみると被告人の判示所為はいわば同組合内部の出来事であり、しかもすでに多数組合員が判示Cらの炭車運転行為を阻止している際、あとからこれに参加して炭車の前方線路上に赴き判示のように怒号し炭車の運転を妨害したというのに止まるのであるから、かかる情況のもとに行われた被告人の判示所為は、いまだ違法に刑法二三四条にいう威力を用いて人の業務を妨害したものというに足りず、それゆえ被告人の所為について罪責なしとして無罪の言渡をした原判決は、結局において正当であるから、論旨については特に判断を加えない。

 よつて刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条により裁判官垂水克己の補足意見あるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

 裁判官垂水克己の第二点についての補足意見は次のとおりである。

 炭鉱の労働者の労働組合が同盟罷業を実施中、組合員の一部がその組合に所属しながらほしいままにその業務たるガソリン車の運転に従事しこれを進行させたので、罷業派組合員がこれを中止きせるため、ガソリン車の進路前方軌道上に坐り込みかつ右運転者たる組合員に向つて「ここを通るなら自分達を轢き殺して通れ」と怒号する所為はそれが本判決第二点に摘示した原判示のような情況のもとに行われた場合においては、いまだ違法に刑法二三四条にいう威力を用いて人の業務を妨害したものということができないと考えられる。その主な理由は、右所為は同盟罷業中の組合員が同じ事業場の仲間組合員に対してしたものであり、かつ、被告人の軌道上に赴いてからの右所為は極めて短時分の間に行われたという原判決の認定と解することができ、結局軽微のものとみられるからである。(原判決のように、被告人が多数組合員と意思を通じてしたことの認定もない場合に、被告人が極めて短い時分の間判示のような言動をしたに過ぎないときは必しも直ちに威力行使といえないと考えられるから、かくいうがためには極めて短い時分間行われたものでないことを判示すべきであり、その判示がない以上前記のように被告人の利益に解すべきものと考える。なお、原判決は、結果として炭車による石炭の輸送を不能ならしめたとの文言を用いているが、これは一種の法律的判断であつて、結果については単に「川上等をしてガソリン車の運転を断念せしめた」との事実を認定しただけである。)なお原判決は、末段において、判示の情況の下では被告人に対し判示所為に出でないことを期待することは一般的通念上可能と認め難いというけれども、本判決は左様な考え方の理論の上に立つものでないと私は解する。

 検察官 安平政吉関与

  昭和三一年一二月一一日

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    島           保

            裁判官    河   村   又   介

            裁判官    小   林   俊   三

            裁判官    本   村   善 太 郎

            裁判官    垂   水   克   己

国会議員の免責特権 東京地裁昭和37年1月22日

憲法判例百選第8版 169事件

公務執行妨害被告事件

東京地方裁判所判決/昭和30年(刑わ)第3143号

昭和37年1月22日

【判示事項】       国会乱闘事件第一審判決

             昭和30年参議院議員運営委員会における憲法調査会設置法案、国防会議の構成等に関する法律案をめぐる議員暴力事件

【掲載誌】        判例時報297号7頁

             刑事裁判資料210号256頁

【評釈論文】       ジュリスト276の2号180頁

             別冊ジュリスト21号172頁

             別冊ジュリスト44号214頁

             別冊ジュリスト69号288頁

             別冊ジュリスト96号350頁

             法学新報69巻8号56頁

 

       目   次

 

主文

理由

第一章 序論

第二章 憲法調査会設置法案および国防会議の構成に関する法律案が第二十二回特別国会に提出された当時における被告人らを含む日本社会党所属国会議員の判断した政治情勢

 第一節 国際情勢

 第二節 国内情勢

第三章 第二十二回特別国会における社会党の国会対策等

 第一節 第二十二回特別国会における社会党の重要視した諸問題

 第二節 憲法調査会法案および国防会議法案の衆議院における審議状況

 第三節 右二法案に対する社会党の態度

 第四節 オネスト・ジョン持込問題

 第五節 砂糖、バナナ法案をめぐる与野党の駈引

第四章 憲法調査会法案および国防会議法案の参議院における審議状況

 第一節 内閣委員会

 第二節 議員運営委員長および理事打合会

  第一 委員長および理事打合会の性格ならびに通常の運営

  第二 本件理事会の経過

 第三節 議院運営委員会

  第一 議院運営委員会の性格および運営

  第二 本件「議運委」の経過

  (一) 審議の開始

  (二) 宮坂委員部長の継続審査案件朗読

  (三) 矢嶋理事の郡委員長に対する不信任動議提出

  (四) 郡委員長の採決

  (五) 郡委員長周辺の混乱と同委員長の身体に加えられた圧迫

  (六) 郡委員長退室前後の状況

  (七) 委員会の当時の雰囲気

  (八) 郡委員長の「議運委」の運営振り

   (1) 出席者の批判

   (2) 不信任動議は先議事項

  (九) 衛視の行動

   (1) 参議院院内警察権の根拠

   (2) 参議院衛視の職務

   (3) 衛視の職務行動の基準および範囲

   (4) 本件「議運委」における衛視の具体的行動

    A 総括

    B 衛視各人の具体的行動

     (a) 衛視   木村 明

     (b) 衛視   小西保雄

     (c) 衛視班長 長島安五郎

     (d) 衛視班長 中野庄九郎

     (e) 衛視班長 原田音吉

     (f) 衛視長  佐々木司

     (g) 衛視副長 徳武国広

     (h) 衛視   林左右吉

     (i) 衛視長  伴 侃爾

   (5) 前記各衛視らの当日における行動の具体的根拠

第五章 「議運委」委員長郡祐一が被つた傷害

第六章 右委員会において衛視らの被つた傷害

 第一節 衛視  小西保雄の受傷

 第二節 衛視長 佐々木司の受傷

第七章 被告人秋山長造の身体障害について

第八章 右委員会における各被告人の行動

 第一節 被告人 矢嶋三義

 第二節 被告人 秋山長造

 第三節 被告人 成瀬幡治

第九章 弁護人の主張する公訴棄却論

第十章 憲法第四十一条にいわゆる「国会は国権の最高機関である」との意義について(第九章に掲げた弁護人の主張第一に関するもの)

第十一章 憲法第五十八条等の規定する国会の自律権、特に議院の懲罰権について(第九章に掲げた弁護人の主張第四ないし第六に関するもの)

 第一節 自律権の意義

 第二節 昭和二十二年法律第二二五号「議院における証人の宣誓及び証言等に関する件」に関する最高裁判所の判例について

 第三節 議院の懲罰権

  第一 懲罰の性質および種類

  第二 懲罰の司法的審査

  第三 懲罰権と国家刑罰権との相関関係

第十二章 憲法第五十条に規定されている両議院議員の不逮捕特権について(第九章に掲げた弁護人の主張第二に関するもの)

 第一節 沿革

 第二節 本条の解釈

第十三章 憲法第五十一条に規定されている両議院議員の免責特権について(第九章に掲げた弁護人の主張第に(ママ)二および第三に関するもの)

 第一節 沿革

  (一) イギリス

  (二) アメリカ

  (三) フランス

  (四) ドイツ

 第二節 本条の解釈

  第一 憲法上の解釈

   (一) 本条制定の趣旨、目的

   (二) 免責特権の対象になる行為の内容

   (三) 各国憲法における免責特権の規定

   (四) 免責特権の性質

   (五) 免責事由の拡張解釈((1)ないし(3))と厳格な解釈((4)、(5))および当裁判所の見解((6))

    (1) 斎藤教授説

    (2) 佐藤教授説

    (3) 鈴木教授説

    (4) 兼子博士説

    (5) 黒田教授説

    (6) 当裁判所の見解

  第二 刑法上の解釈

   (一)  わが国の学説

    (1) 刑法の人に対する効力の問題であるとする説

    (2) 違法性阻却事由説

    (3) 一身的刑罰阻却原由説

    (4) 訴訟障碍説

   (二) ドイツにおける学説

   (三) 当裁判所の見解

  第三 刑事訴訟法上の解釈

 第三節 イギリスにおける免責特権に関する裁判権の問題

  (1) ジョン・エリオットらの事件

  (2) 国会における議事手続と無関係に国会内で起つた事柄について

  (3) 国会における議事手続と刑法

  (4) 国会内における犯罪的言辞

  (5) 国会内における犯罪的行為

  (6) 議員の特権に関する裁判権の問題

  (7) 両議院の見解

  (8) 裁判所の見解

  (9) 国会と裁判所の妥協

  (10) 議院の内部手続

 第四節 アメリカ合衆国における免責特権に関する裁判権の問題

  第一 合衆国憲法の免責特権に関する解釈

  第二 コフイン対コフイン事件におけるマサチュセッツ州最高裁判所の判例

第十四章 いわゆる統治行為論について(第九章に掲げた弁護人の主張第七に関するもの)

 第一節 意義および沿革

 第二節 わが憲法のもとにおける統治行為

  第一 学説

  第二 最高裁判所の判例

 第三節 統治行為のリスト

  第一 外国判例等

  第二 わが国の学説

 第四節 本件被告人らの行為の性質等について

第十五章 結論

 第一節 本件起訴の適法性

 第二節 被告人らの行為の刑法的評価

  第一 総論

  第二 各論 (一)被告人 矢嶋三義

        (二)被告人 秋山長造

        (三)被告人 成瀬幡治

 第三節 結語

 

       主   文

 

 被告人ら三名はいずれも無罪

 

       理   由

 

 第一章 序論

 被告人らの弁護人(猪俣浩三、坂本泰良、古屋貞雄、佐竹晴記、亀田得治)らは本件審理の当初から、すなわち昭和三十一年十一月二十九日における第四回公判期日に「本件は国会会期中参議院内における被告人らの職務遂行行為に関連して惹起されたもので、参議院の規律および秩序に関する事犯である。かくの如き参議院の秩序に関する事犯については憲法上認められた参議院の固有な自律権に基いて処置すべきであり、かつそれのみに止まるべきもので、これら秩序に関して行政庁たる検察庁が介入することは、国会を国権の最高機関とした憲法第四十一条ならびに国会にその内部事項についての自律的権限を付与した憲法第五十八条第二項に違反するものと言わねばならず、本件についての検察官の訴追は正に右趣旨に反するものである。すなわち国会は国権の最高機関であつて、唯一の立法機関であるのみならず行政庁に対しては行政権の行使につき一般的監督権を有する関係にあり、その国会を構成する参議院の議員たる被告人らはいずれも右の如き立場をその議員の資格において有するのである。これら被告人の職務行為がたまたま議院の秩序に違反する結果となつたからとて被監督庁たる検察庁が、それの行為につき一般市民としての刑事責任を負わせるため訴追することは国会を国権の最高機関とした憲法の建前から許されないのみならず議院にその自律的権限を認めた憲法の趣旨にも反することになるからである。しかも検察庁が議院内におけるこの種の事犯につ公訴を提起し、公訴を維持する慣行を意慾的に作ることは冒険に等しい所為で、その作為が国会の権威を著しく侵害することをも付言する次第である。

 以上の如く本件公訴の提起は国家的、社会的妥当性がないものであるから検察官はすみやかに公訴を取り消すべきである」との申立をなし、これに対して検察官が昭和三十二年四月五日の第五回公判期日において公訴を取り消さない旨を明言するや、即時前記公訴取消申立理由と同一理由をもつて公訴棄却の申立をした。

 当裁判所は同年同月十七日の第六回公判期日において弁護人の公訴棄却の申立に対してはさしあたり判断を下さない旨を宣言した。その後弁護人らは昭和三十四年九月九日の第三十七回公判期日における冒頭陳述においても被告人らに対する本件公訴はいずれも棄却さるべき旨の主張をしたが、当裁判所は当時これを採用しなかつた。

 弁護人らの「本件はいかなる審理をも為さず直ちに公訴棄却の裁判を為すべきである」との主張を当裁判所がしりぞけて事実審理を続けて来たのは次のような理由によるものである。本件起訴状には

 「被告人らはいずれも参議院議員で被告人矢嶋三義は第二十二回国会会期末日である昭和三十年七月三十日午後十一時十八分より参議院議長応接室において再開された同院議院運営委員会に委員として出席していたもの、その余の被告人は右委員会を傍聴していたものであるが

第一 被告人矢嶋三義、同秋山長造は右議院運営委員会において同委員会委員長参議院議員郡祐一が同院内閣委員会、地方行政委員会、社会労働委員会および農林水産委員会より同院議長宛に提出せられた国防会議の構成等に関する法律案外十二法案の継続審査要求を審査するため同委員会の議事を整理し秩序を保持する等の職務を行つていた際、ほか数名と共謀のうえ同委員長の身辺に押し寄せ大声を発し、手拳肘等で胸部、肩部を突く等の暴行を加え、もつて同委員長の職務の執行を妨害すると共に右暴行により同委員長に対し全治約三ケ月を要する右側第一、第二肋骨々軟骨裂創骨折および全治約二週間を要する右側肘関節内側軟部打撲皮膚擦過傷、左側肘関節内側皮膚擦過傷、左手背皮膚擦過傷の傷害を負わせ

第二 被告人成瀬幡治は

 (一) 右委員会の行なわれた議長応接室において同院衛視副長参議院参事徳武国広、同衛視班長参議院主事原田音吉、同衛視班長参議院主事長島安五郎、同衛視参議院主事木村明、同衛視参議院主事小西保雄らが前記委員長らの警護、会議場の警備等の職務を行なつていた際、

  (1) 衛視小西保雄に対し同人の胸部を手拳で突く等の暴行を加えもつて同衛視の職務の執行を妨害するとともに右の暴行により同衛視に対し全治約一週間を要する右胸部打撲傷を負わせ

  (2)(イ) 衛視副長徳武国広に対し同人の顔面を手拳で殴打し

   (ロ) 衛視班長原田音吉に対し同人の股を足蹴にする等

   (ハ) 衛視班長長島安五郎に対し同人の胸部を手拳で突く等

   (ニ) 衛視木村明に対し同人の襟首を掴んで手拳で突く等の暴行を加え、もつて右徳武国広外三名の職務の執行を妨害し

 (二) 前記委員会終了後である同日午後十一時三十分頃同院議長室前廊下において同院衛視長参議院参事佐々木司が同所附近の警備を行なつていた際、同衛視長に対し同人の腕および肩を掴み身体を前後にゆすぶる等の暴行を加え、もつて同衛視長の職務の執行を妨害するとともに右暴行により同衛視長に対し全治約一週間を要する右上膊部皮下出血の傷害を負わせたものである」

 と記載されている。

 以上のような起訴状の記載によれば被告人らに対してはいずれも刑法所定の犯罪である公務執行妨害と傷害の各罪の構成要件に該当する事実ありとして公訴を提訴されたものであることが明らかである。

 そうして弁護人らは前記主張のほかに「本件が参議院議員たる被告人らの国会審議活動に従事中その職務執行行為もしくはそれに附随する行為中に発生したもので、第一次には憲法第五十一条所定の国会議員の免責特権に該当する行為であり、仮に然らずとするもこれに準ずるものとして本件起訴には議院の告発を条件とするにも拘らず本件にはこれがないから公訴は棄却されるべきである」とも主張するのであるが、そもそも本件被告人らに対する公訴事実が右主張のような国会議員の免責特権に該当するものであるか否かは起訴状の記載自体では明らかでないから、当裁判所としては弁護人らの右主張の当否を判断する前提としてまず被告人らの起訴状記載の事実の存否の認定をしなければならないと考えたのであつて、この考えの正当であるべきことの確信は今なお変らない。すなわち、右起訴状の記載事実のみではその犯罪事実とされているものと被告人らの国会議員としての職務執行との具体的な関連性は明らかでない。憲法第五十一条に規定される国会議員の免責特権の対象たる行為は同条列記のものに厳格に限定されるべきものではないとしても被告人らに対する起訴状記載の事実がこれに包含されるか否かは証拠調に基く事実審理によつてこれを解明するのほかはないのである。

 また弁護人らは被告人らに対する起訴状記載事実が右免責特権の範囲の内外にわたるか否かは議院自身がこれを先決すべきものであると主張するけれども、現行憲法および刑事訴訟法上しかく明瞭に解すべきなんらの実定法上の規定もないから(第十一章第二節および第十三章第二節第一(五)参照)この点に関する主張については十分の検討を要するのでこれに直ちに従う訳にはいかなかつた。

 当裁判所は以上の観点に立つてまず起訴状記載の事実の存否の認定をなし、他面弁護人らの公訴棄却の主張に対する審究をも同時に進めた。

 本判決は第二章ないし第八章を事実認定に当て、第九章ないし第十四章を弁護人の公訴棄却論に対する判断に当てた。すなわち起訴状記載事実の発生した昭和三十年七月三十日の第二十二回特別国会の開会された当時の政治情勢について被告人らを含む日本社会党所属国会議員がどのような判断をしていたかを当初に概観し(第二章第一節および第二節)、次に同国会における社会党の国会対策および国防会議の構成に関する法律案と憲法調査会法案の衆議院における審議状況(第三章)から同じく参議院における審議状況に関する事実認定(第四章)に進んで本件事実発生の政治的背景を不十分ではあるが及ぶ限り認識することに努めた。通常の刑事事件であればかような事柄の認識はいわゆる犯罪事実の認定について全く不要なことと言いうるが、本件においては前述のような弁護人らの公訴棄却の主張に対する考察の一資料としてこのことは必要不可欠のものと言うほかはなかつた。また被告人成瀬幡治については衛視に対する公務執行妨害という事実が起訴されているので本件議院運営委員会における参議院衛視の職務行為の内容およびその行動の根拠についてもこれを審究する必要があつた(第四章第三節第二(九)以下はこれに当てられた)。

 そして弁護人の公訴棄却論に対しては、まず憲法第四十一条の「国会は国権の最高機関である」との意義を尋ね(第十章)、次に憲法第五十八条等の規定する国会の自律権、特に議院の懲罰権の本質、懲罰権と国家刑罰権との関係について考察を廻らし(第十一章)さらに憲法第五十条所定の国会議員の不逮補特権、同第五十一条所定の同じく免責特権についてその沿革、諸外国の立法例を探索し、その刑法、刑事訴訟法上の解釈論に及び(第十二章、第十三章)、特に免責特権についてはイギリスにおける国会と裁判所との裁判権に関する歴史上の論争を回顧し(第十三章第三節)アメリカにおける同問題の処理を調べた(同章第四節)そして最後にいわゆる統治行為論に関する学説、判例の立場から本件を吟味して(第十四章)ついに弁護人の公訴棄却論に対してはすべてこれを否定的に解するのほかなき結論に到達した。

 かくして最後に(第十五章)本件起訴の適法性を確認したうえ(第一節)、既に先に認定した被告人らの行為についての刑法的評価を尽し(第二節)、結語をもつて結んだ(第三節)のである。

 以下その細部にわたる説明にはいることとする。

 第二章 憲法調査会設置法案および国防会議の構成に関する法律案が第二十二回特別国会に提出された当時における被告人らを含む日本社会党所属国会議員の判断した政治情勢

 証人勝間田清一の昭和三十四年十二月二十一日第三十八回(記録第七冊)、同和田博雄の昭和三十五年一月二十八日第三十九回(記録第七冊)被告人矢嶋三義の昭和三十六年六月二十一日第六十二回(記録第十六冊)の各公判調書中の供述記載、被告人矢嶋三義、同秋山長造の当公判廷での各供述を総合すると以下のような事実を認めることができる(なお以下の記載事実には公知の事実であるため前記各証拠中に現われていないものを含む)。

  第一節 国際情勢

 第二次世界大戦終了後に生じた米、ソ二大勢力の対立は米国のソ連に対する巻き返し政策となつて現われた。すなわち米国統合参謀本部議長ラドフオードの提唱にかかるいわゆる周辺戦略を基礎とした外交政策で米軍の高度の機動化、原子戦力化による通常兵力の減少を同盟国ないし従属国の軍隊強化によつて補うことが要請され、その具体的政策として一九五〇年以来米国は日本、韓国、台湾、フイリツピン等の各国との間に相互防衛条約を締結し、一九五四年九月には米、英、仏、濠、新西蘭、比、タイ、パキスタンの八ケ国が参加する東南アジア集団防衛条約機構(SEATO)を成立せしめた。

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