岡本法律事務所のブログ

カテゴリ:憲法 > 刑法

刑法36条(正当防衛)の急迫性を否定した平成29年最高裁判決

平成31年2月に法曹時報で最高裁調査官解説(中尾佳久)が掲載されました。判例秘書の判例評釈リストでは令和元年8月6日段階ではおちていました。

 司法試験や司法修習の試験の題材につかわれています。

   

殺人,器物損壊被告事件

 

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷決定/平成28年(あ)第307号

【判決日付】 平成29年4月26日

【判示事項】 侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判方法

【判決要旨】 行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであり,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに私人による対抗行為を許容した刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。

【参照条文】 刑法36

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集71巻4号275頁

       判例タイムズ1439号80頁

       判例時報2340号118頁

       LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】 警察学論集70巻8号184頁

       警察学論集71巻2号88頁

       ジュリスト1510号107頁

       捜査研究66巻7号14頁

       判例時報2362号169頁

       法学教室444号158頁

       法学教室445号48頁

       法学新報125巻1~2号129頁

       法学セミナー62巻7号109頁

       刑事法ジャーナル54号148頁

       専修ロージャーナル13号113頁

  法曹除法71巻2号232頁

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

  当審における未決勾留日数中310日を本刑に算入する。

 

        理   由

 

  弁護人久保博之の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

  所論に鑑み,本件における正当防衛及び過剰防衛の成否について,職権で判断する。

  1 第1審判決及び原判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

  (1) 被告人は,知人であるA(当時40歳)から,平成26年6月2日午後4時30分頃,不在中の自宅(マンション6階)の玄関扉を消火器で何度もたたかれ,その頃から同月3日午前3時頃までの間,十数回にわたり電話で,「今から行ったるから待っとけ。けじめとったるから。」と怒鳴られたり,仲間と共に攻撃を加えると言われたりするなど,身に覚えのない因縁を付けられ,立腹していた。

  (2) 被告人は,自宅にいたところ,同日午前4時2分頃,Aから,マンションの前に来ているから降りて来るようにと電話で呼び出されて,自宅にあった包丁(刃体の長さ約13.8cm)にタオルを巻き,それをズボンの腰部右後ろに差し挟んで,自宅マンション前の路上に赴いた。

  (3) 被告人を見付けたAがハンマーを持って被告人の方に駆け寄って来たが,被告人は,Aに包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることなく,歩いてAに近づき,ハンマーで殴りかかって来たAの攻撃を,腕を出し腰を引くなどして防ぎながら,包丁を取り出すと,殺意をもって,Aの左側胸部を包丁で1回強く突き刺して殺害した。

  2 刑法36条は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。したがって,行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたことから,直ちにこれが失われると解すべきではなく(最高裁昭和45年(あ)第2563号同46年11月16日第三小法廷判決・刑集25巻8号996頁参照),対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。具体的には,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき(最高裁昭和51年(あ)第671号同52年7月21日第一小法廷決定・刑集31巻4号747頁参照)など,前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。

  前記1の事実関係によれば,被告人は,Aの呼出しに応じて現場に赴けば,Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら,Aの呼出しに応じる必要がなく,自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず,包丁を準備した上,Aの待つ場所に出向き,Aがハンマーで攻撃してくるや,包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることもしないままAに近づき,Aの左側胸部を強く刺突したものと認められる。このような先行事情を含めた本件行為全般の状況に照らすと,被告人の本件行為は,刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。したがって,本件につき正当防衛及び過剰防衛の成立を否定した第1審判決を是認した原判断は正当である。

  よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)

 

https://news.nifty.com/article/domestic/society/12136-360939/

犯人は、ナンパした相手との性行為を同意なしでの撮影をしたうえでポルノ映像をうりさばくということでリボンジポルノ防止法違反とわいせつ電磁的記録陳列罪で逮捕されています。わいせつ電磁的記録陳列罪はわたしが刑法を勉強しだした1980年代には図画(とが)陳列罪でした。刑法の改正により電磁的記録がくわわりました。

リベンジはしていないけどリベンジポルノ防止法違反です。

日刊ゲンダイ 2019年8月3日の記事から

 野元容疑者は「ジョニー01230」のハンドルネームで動画サイトFC2に「盗撮作品」を投稿。固定カメラからのリアルなハメ撮り映像がマニアの間で人気を博し、約6年間で30人以上、200点以上の女性との生々しい本番行為の投稿で9000万円を荒稼ぎしていた。

リベンジポルノ防止法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%81%E4%BA%8B%E6%80%A7%E7%9A%84%E7%94%BB%E5%83%8F%E8%A8%98%E9%8C%B2%E3%81%AE%E6%8F%90%E4%BE%9B%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E3%81%AE%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B


わいせつ電磁的記録陳列罪

刑法175

わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする(1)。有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする(2)





特殊詐欺未遂容疑で21歳女逮捕と報道されています。
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=5730046


受け子が被害者宅へいきカードと暗証番号をかいたメモをうけとって封入し、ダミーとすりかえて、ダミーをわたす。その後。カードと暗証番号をもちいて引き出す、という手口です。
 今年の司法試験論文式刑法で出題されています。 詐欺罪と窃盗罪と電子計算機詐欺罪について理解がとわれるなかなかの難問です。

刑法上は特殊詐欺という構成要件はありません。詐欺罪の未遂と既遂があるだけです。

 カードと暗証番号をとった段階ではすりがすり取ったのと同じであり、被害者に処分意思がないから詐欺罪ではなくて窃盗既遂罪にあたるというのが実務であり、出題趣旨である、というのが松宮教授のブログで指摘されています。

刑法36条1項の急迫不正の侵害が終了していないとして過剰防衛を認めた最高裁平成9年破棄判決

 

 司法試験の論文式の題材などにもよくつかわれています。

 

傷害被告事件

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/平成9年(あ)第152号

【判決日付】 平成9年6月16日

【判示事項】 一 刑法三六条一項にいう「急迫不正の侵害」が終了していないとされた事例

      二 過剰防衛にあたるとされた事例

 

【判決要旨】 一 文化住宅の二階便所にいた被告人を鉄パイプで殴打した上逃げ出した後を追いかけて殴り掛かろうとしていた相手方を、被告人が二階通路から外側の通路上に転落される行為に及んだ当時、相手方において、勢い余って二階手すりの外側に上半身を前のめりに乗り出した姿勢となったものの、なおも鉄パイプを握りつづけるなどその加害の意欲がおう盛かつ強固であり、間もなく態勢を立て直して再度の攻撃に及ぶことが可能であったと認められるなど判示の事実関係の下においては、相手方の被告人に対する急迫不正の侵害は終了してはおらず、なお継続していたということができる。

二 相手方の不正の侵害は、鉄パイプで被告人の頭部を一回殴打した上、引き続きそれで殴り掛かろうとしたものであり、他方、被告人の暴行は、もみ合いの最中にいったん取り上げた鉄パイプで相手方の頭部を一回殴打したほか、二階手すりの外側に上半身を乗り出した相手方の片足を持ち上げて約四メートル下のコンクリート道路上に転落させたという死亡の結果すら発生しかねない危険なものであったことに照らすと、被告人の一連の暴行は、全体として防衛のためにやむを得ない程度を超えたものであったと認められる

【参照条文】 刑法36

【掲載誌】  刑集51巻5号435頁

       判例タイムズ946号173頁

      判例時報1607号140頁

【評釈論文】 警察公論53巻3号97頁

       研修596号11頁

       現代刑事法1巻1号69頁

       産大法学32巻4号118頁

       ジュリスト1122号76頁

       ジュリスト臨時増刊1135号150頁

       同志社法学51巻6号263頁

       判例評論481号48頁

       法学教室208号110頁

       法曹時報52巻3号307頁

 

       主   文

 

  原判決及び第一審判決を破棄する。

  被告人を懲役一年に処する。

  第一審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

  この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

 

        理   由

 

  弁護人高橋茂樹の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件とは事案を異にし適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であり、被告人本人の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

  しかしながら、所論にかんがみ職権をもって調査すると、原判決及び第一審判決は、次の理由により破棄を免れない。

  一 原判決及びその是認する第一審判決の認定並びに記録によれば、本件事案の概要は、次のとおりであることが明らかである。

  すなわち、被告人は、肩書住居の文化住宅A荘二階の一室に居住していたものであり、同荘二階の別室に居住するB(当時五六歳)と日ごろから折り合いが悪かったところ、平成八年五月三〇日午後二時一三分ころ、同荘二階の北側奥にある共同便所で小用を足していた際、突然背後からBに長さ約八一センチメートル、重さ約二キログラムの秩パイプ(以下「鉄パイプ」という)で頭部を一回殴打された。続けて鉄パイプを振りかぶったBに対し、被告人は、それを取り上げようとしてつかみ掛かり、同人ともみ合いになったまま、同荘二階の通路に移動し、その間二回にわたり大声で助けを求めたが、だれも現れなかった。その直後に、被告人は、Bから鉄パィプを取り上げたが、同人が両手を前に出して向かってきたため、その頭部を鉄パイプで一回殴打した。そして、再度もみ合いになって、Bが、被告人から鉄パイプを取り戻し、それを振り上げて被告人を殴打しようとしたため、被告人は、同通路の南側にある一階に通じる階段の方へ向かって逃げ出した。被告人は、階段上の踊り場まで至った際、背後で風を切る気配がしたので振り返ったところ、Bは、通路南端に設置されていた転落防止用の手すりの外側に勢い余って上半身を前のめりに乗り出した姿勢になっていた。しかし、Bがなおも鉄パイプを手に握っているのを見て、被告人は、同人に近づいてその左足を持ち上げ、同人を手すりの外側に追い落とし、その結果、同人は、一階のひさしに当たった後、手すり上端から約四メートル下のコンクリート道路上に転落した。Bは、被告人の右一連の暴行により、入院加療約三箇月間を要する前頭、頭頂部打撲挫創、第二及び第四腰椎圧迫骨折等の傷害を負った。

  二 原判決及びその是認する第一審判決は、被告人がBに対しその片足を持ち上げて地上に転落させる行為に及んだ当時、同人が手すりの外側に上半身を乗り出した状態になり、容易には元に戻りにくい姿勢となっていたのであって、被告人は自由にその場から逃げ出すことができる状況にあったというべきであるから、その時点でBの急迫不正の侵害は終了するとともに、被告人の防衛の意思も消失したとして、被告人の行為が正当防衛にも過剰防衛にも当たらないとの判断を示している。

  しかしながら、前記一の事実関係に即して検討するに、Bは、被告人に対し執ような攻撃に及び、その挙げ句に勢い余って手すりの外側に上半身を乗り出してしまったものであり、しかも、その姿勢でなおも鉄パイプを握り続けていたことに照らすと、同人の被告人に対する加害の意欲は、おう盛かつ強固であり、被告人がその片足を持ち上げて同人を地上に転落させる行為に及んだ当時も存続していたと認めるのが相当である。また、Bは、右の姿勢のため、直ちに手すりの内側に上半身を戻すことは困難であつたものの、被告人の右行為がなければ、間もなく態勢を立て直した上、被告人に追い付き、再度の攻撃に及ぶことが可能であったものと認められる。そうすると、Bの被告人に対する急迫不正の侵害は、被告人が右行為に及んだ当時もなお継続していたといわなければならない。さらに、それまでの一連の経緯に照らすと、被告人の右行為が防衛の意思をもってされたことも明らかというべきである。したがって、被告人が右行為に及んだ当時、Bの急迫不正の侵害は終了し、被告人の防衛の意思も消失していたとする原判決及びその是認する第一審判決の判断は、是認することができない。

  以上によれば、被告人がBに対しその片足を持ち上げて地上に転落させる行為に及んだ当時、同人の急迫不正の侵害及び被告人の防衛の意思はいずれも存していたと認めるのが相当である。また、被告人がもみ合いの最中にBの頭部を鉄パイプで一回殴打した行為についても、急迫不正の侵害及び防衛の意思の存在が認められることは明らかである。しかしながら、Bの被告人に対する不正の侵害は、鉄パイプでその頭部を一回殴打した上、引き続きそれで殴り掛かろうとしたというものであり、同人が手すりに上半身を乗り出した時点では、その攻撃力はかなり減弱していたといわなければならず、他方、被告人の同人に対する暴行のうち、その片足を持ち上げて約四メートル下のコンクリート道路上に転落させた行為は、一歩間違えば同人の死亡の結果すら発生しかねない危険なものであったことに照らすと、鉄パイプで同人の頭部を一回殴打した行為を含む被告人の一連の暴行は、全体として防衛のためにやむを得ない程度を超えたものであったといわざるを得ない。

  そうすると、被告人の暴行は、Bによる急迫不正の侵害に対し自己の生命、身体を防衛するためその防衛の程度を超えてされた過剰防衛に当たるというべきであるから、右暴行について過剰防衛の成立を否定した原判決及びその是認する第一審判決は、いずれも事実を誤認し、刑法三六条の解釈適用を誤ったものといわなければならない。

  三 以上の次第で、原判決及びその是認する第一審判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認及び法令違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められるから、刑訴法四一一条一号、三号により原判決及び第一審判決を破棄し、同法四一三条ただし書により更に判決することとする。

  第一審判決の挙示する証拠及び原審公判調書中の被告人の供述部分によれば、被告人は、大阪市a区b町c丁目d番e号所在のA荘二階六号室に居住していたものであるが、日ごろから同荘二階一号室に居住するB(当時五六歳)との折り合いが悪かったところ、平成八年五月三〇日午後二時一三分ころ、同荘二階北側奥にある共同便所で小用を足していた際、後ろから同人にいきなり鉄パイプで頭部を一回殴打され、同人ともみ合いながら同荘二階通路に至ったところで、同人から取り上げた鉄パイプでその頭部を一回殴打し、さらに、同通路で同人ともみ合ううち、鉄パイプを取り返した同人が、これで被告人を殴り付けようとしたが、勢い余って通路南端の手すりの外側へ上半身を前のめりに乗り出してしまっているのを認めるや、その片足を持ち上げて同人を同所から約四メートル下の道路上に転落させ、もって、自己の生命、身体を防衛するため、同人に対し防衛の程度を超えた暴行を加え、よって、同人に入院加療約三箇月間を要する前頭、頭頂部打撲挫創、第二及び第四腰椎圧迫骨折等の傷害を負わせたものであることが認められる。なお、弁護人は、自救行為による違法性阻却を主張するが、右の事実関係に照らすと、理由がないというべきである。

  法令に照らすと、被告人の判示所為は刑法二〇四条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二一条を適用して第一審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、第一審、原審及び当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  検察官 澤新 公判出席

   平成九年六月一六日

     最高裁判所第二小法廷

         裁判長裁判官  河合伸一

            裁判官  大西勝也

            裁判官  根岸重治

            裁判官  福田 博

所得税法違反と共犯と身分(刑法65条)

65条1項に共同正犯を認めています。団藤・大塚・福田・松宮が651項には共同正犯を含まないとしています。

 

所得税法違反被告事件

 

 

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷決定/平成8年(あ)第637号

 平成9年7月9日

【判示事項】 一 申告納税に関する事務を担当していない従業者と所得税法二四四条一項にいう「使用人その他の従業者」

二 所得税法二四四条一項所定の従業者の身分のない者が従業者と共謀して所得税ほ脱の違反行為に加功した場合における所得税ほ脱の共同正犯の成否 肯定

 

【判決要旨】 一 所得税法二四四条一項にいう「使用人その他の従業者」は、所得の計算や所得税確定申告書の作成などの申告納税に関する事務を担当する従業者に限定されない。

二 所得税法二四四条一項所定の従業者の身分のない者が従業者と共謀して所得税ほ脱の違反行為に加功した場合、その身分のない者には、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)六五条一項の適用により所得税ほ脱共同正犯が成立する。

 

【参照条文】 所得税法238-1

       所得税法244-1

       刑法(平7法91号改正前)65-1

【掲載誌】  刑集51巻6号453頁

       判例タイムズ951号148頁

       判例時報1616号157頁

【評釈論文】 現代刑事法1巻1号75頁

       ジュリスト1126号330頁

       ジュリスト臨時増刊1135号158頁

       ジュリスト1187号109頁

       同志社法学53巻8号160頁

       法曹時報51巻4号176頁

 

       主   文

  本件各上告を棄却する。

 

        理   由

  被告人Aの弁護人宮道佳男、同新信聡、同後藤昌弘の上告趣意のうち、両罰規定の違憲をいう点は、所論は、原審で主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であり、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人Bの弁護人山口悠介、同福岡宗也、同中西英雄の上告趣意は、違憲をいう点を含め、実質は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

  所論にかんがみ、職権により判断する。原判決の認定によれば、被告人Cは、「D」の名称で全国に八箇所の美容整形外科診療所を経営する医師であり、被告人Bは、その実母であるが、被告人Bは、名古屋、福岡等西日本地区四箇所に所在の各診療所における診察料の集計、管理、日計表の記帳等の窓口事務の責任者であったE及び東京、札幌等東日本地区四箇所に所在の各診療所における同様の窓口事務の責任者であったFと共謀の上、被告人Cの業務に関し、その所得税を免れようと企て、E、Fに指示して手術料等の診療収入を日計表等に記載させずに自己の下に届けさせるなどの所得秘匿工作をした上、情を知らない経理事務員に右日計表等を基に各種帳簿に記入させるなどし、次いで、情を知らない税理士に右帳簿に基づいて所得金額を過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出させて、被告人Cの所得税を免れたというのである。所得税法二四四条一項にいう「使用人その他の従業者」は、所論のような所得の計算や所得税確定申告書の作成などの申告納税に関する事務を担当する従業者に限定されないものと解されるから、E、Fをこれに該当すると認めた原判断は、正当である。また、被告人Bは、被告人Cの従業者ではないが、E、Fと共謀して、同法二三八条一項の所得税ほ脱の違反行為に加功したというのであるから、被告人Bには平成七年法律第九一号による改正前の刑法六五条一項の適用により所得税ほ脱の共同正犯が成立すると解するのが相当である。そして、被告人Cは、従業者であるE、Fの行為について、事業主としての過失責任を負うことが明らかであるから、以上と同趣旨の見解の下に、被告人両名にほ脱犯の成立を認めた原判断は、正当である。

  よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

   平成九年七月九日

     最高裁判所第二小法廷

         裁判長裁判官  大西勝也

            裁判官  根岸重治

            裁判官  河合伸一

            裁判官  福田 博

 

このページのトップヘ