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カテゴリ:民法 > マンション

マンションの共有部分の賃貸と貸金債権の行使権限 最高裁平成27年

ダットサン2 4版 債権174

不当利得返還請求事件

                 最高裁判所第2小法廷判決/平成25年(受)第843号

平成27年9月18日

【判示事項】        1 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権を各区分所有者が行使することができない場合

              2 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料につき生ずる不当利得返還請求権を他の区分所有者が行使することができないとされた事例

【判決要旨】        1 区分所有者の団体が、一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権を区分所有者の団体のみが行使することができる旨を集会で決議し、または規約で定めた場合には、各区分所有者は、上記請求権を行使することができない。

              2 区分所有建物の管理規約に、管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあるときは、この定めは、一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち他の区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権を区分所有者の団体のみが行使することができる旨を含むものと解すべきであり、当該他の区分所有者は上記請求権を行使することができない。

【参照条文】        建物の区分所有等に関する法律3前段

              建物の区分所有等に関する法律第1章第2節 共用部分等

              建物の区分所有等に関する法律18-1本文

              建物の区分所有等に関する法律18-2

              建物の区分所有等に関する法律第1章第5節 規約及び集会

【掲載誌】         最高裁判所民事判例集69巻6号1711頁

              裁判所時報1636号218頁

              判例タイムズ1418号92頁

              判例時報2278号63頁

              金融法務事情2039号76頁

              LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】        金融・商事判例1504号8頁

              金融法務事情2095号84頁

              ジュリスト1492号73頁

              ジュリスト1493号70頁

              別冊ジュリスト259号52頁

              判例時報2305号167頁

              法学(東北大)82巻1号106頁

              法学セミナー61巻11号126頁

              法学セミナー62巻4号124頁

              法曹時報68巻11号222頁

              民商法雑誌152巻1号62頁

              市民と法98号33頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人高橋健一郎,同小平展洋,同櫻井遥二の上告受理申立て理由について

 1 本件は,横浜市所在の区分所有建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者の1人である上告人が,同じく本件マンションの区分所有者である被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,被上告人が本件マンションの共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち共用部分に係る上告人の持分割合相当額の金員及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,平成9年5月,Aとの間で,本件マンションのうち被上告人の専有部分並びに共用部分である塔屋及び外壁等を,賃料を月額28万2000円と定めて賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。

 本件賃貸借契約はAの携帯電話基地局を設置する目的で締結されたものであり,アンテナを制御するための機器等は被上告人の専有部分に,アンテナの支柱,ケーブルの配管部分等は共用部分にそれぞれ設置された。本件賃貸借契約の賃料のうち共用部分の使用の対価に相当する部分は月額12万2000円である。

 (2) 本件マンションの管理規約には,要旨次のような定めがある。

 ア 各住戸及び事務所に接する共用部分であるバルコニーについては,各バルコニーに接する建物部分の区分所有者に無償で(ウの管理等の費用を除く。)専用させることができる(9条1項)。

 イ 塔屋,外壁及びパイプシャフトの一部については,事務所所有の区分所有者に対し,事務所用冷却塔及び店舗・事務所用袖看板等の設置のため,アと同様に無償で使用させることができる(9条2項本文)。

 ウ 区分所有者が無償で使用するア,イの部分の修理,保守及び管理の費用は,各使用者が負担し,その他の共用部分の修理,保守及び管理は,管理者において行い,その費用負担は他の条項の定めによる(12条1項)。

 (3) 被上告人は上記(2)イの定めにいう事務所所有の区分所有者であるが,上記(1)のアンテナの支柱,ケーブルの配管部分等はこの定めにいう事務所用冷却塔及び店舗・事務所用袖看板等に当たらない。したがって,被上告人は,本件賃貸借契約に基づき共用部分を第三者に賃貸して賃料を得たことにより,法律上の原因なく上告人の持分割合相当額の利益を受け,そのために上告人に損失を及ぼしたことになり,同額について不当利得が成立する。

 3 原審は,区分所有建物の共用部分の管理は団体的規制に服するから,本件マンションの区分所有者であるからといって上告人が上記2(3)の不当利得返還請求権を行使する余地はないなどとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 4 所論は,一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権については,各区分所有者による行使が許されるというものである。

 5 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから,各区分所有者は,原則として,上記請求権を行使することができるものと解するのが相当である。

 他方において,建物の区分所有等に関する法律は,区分所有者が,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有者の団体)を構成する旨を規定し(3条前段),この団体の意思決定機関としての集会の招集手続並びに決議の方法及び効力等や,この団体の自治的規範としての規約の設定の手続及び効力等を規定している(第1章第5節)。また,同法18条1項本文及び2項は,区分所有者に建物の区分所有という共同の目的があり,この共同目的達成の手段として共用部分が区分所有者全員の共有に属するものとされているという特殊性に鑑みて,共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか,又は規約で定めをする旨を規定し,共用部分の管理を団体的規制に服させている。そして,共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項に当たるところ,上記請求権は,共用部分の第三者に対する賃貸による収益を得ることができなかったという区分所有者の損失を回復するためのものであるから,共用部分の管理と密接に関連するものであるといえる。そうすると,区分所有者の団体は,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し,又は規約で定めることができるものと解される。そして,上記の集会の決議又は規約の定めがある場合には,各区分所有者は,上記請求権を行使することができないものと解するのが相当である。

 そして,共用部分の管理を団体的規制に服させている上記のような建物の区分所有等に関する法律の趣旨に照らすと,区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めがある場合には,上記の集会の決議又は規約の定めは,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。

 これを本件についてみると,本件マンションの管理規約には,管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり,この定めは,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから,上告人は,前記2(3)の不当利得返還請求権を行使することができない。

 6 以上によれば,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)

新築マンションに「G」412匹 責任めぐり住民側と販売会社が対立(朝日新聞) - Yahoo!ニュース

契約締結に際しての説明義務 最高裁平成17年

民法判例百選Ⅱ 第6版 4事件

損害賠償請求事件

最高裁判所第2小法廷判決/平成16年(受)第1847号

平成17年9月16日

【判示事項】      売主から委託を受けてマンションの専有部分の販売に関する一切の事務を行っていた宅地建物取引業者に専有部分内に設置された防火戸の操作方法等につき買主に対して説明すべき信義則上の義務があるとされた事例

【判決要旨】      防火設備の一つとして重要な役割を果たし得る防火戸が室内に設置されたマンションの専有部分の販売に際し,防火戸の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所に設置され,それが切られた状態で専有部分の引渡しがされた場合において,宅地建物取引業者が,購入希望者に対する勧誘,説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務について売主から委託を受け,売主と一体となって同事務を行っていたこと,買主は,上記業者を信頼して売買契約を締結し,上記業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事情の下においては,上記業者には,買主に対し,防火戸の電源スイッチの位置,操作方法等について説明すべき信義則上の義務がある。

【参照条文】      民法1-2

            民法555

            民法643

            民法709

【掲載誌】       最高裁判所裁判集民事217号1007頁

            裁判所時報1396号401頁

            判例タイムズ1192号256頁

            金融・商事判例1232号19頁

            判例時報1912号8頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      ジュリスト1367号124頁

            別冊ジュリスト196号10頁

            別冊ジュリスト259号20頁

            判例時報1928号164頁

            法律時報79巻2号116頁

            民商法雑誌134巻2号275頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人奥田純司ほかの上告受理申立て理由について

 1 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)上告人の亡夫A(以下「A」という。)は,平成11年4月30日,被上告人Y1(以下「被上告人Y1」という。)との間で,1審判決別紙物件目録記載1の建物(以下「本件マンション」という。)の一部である同目録記載3の専有部分(以下「802号室」という。)を5億3000万円で購入する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

 被上告人Y2(以下「被上告人Y2」という。)は,宅地建物取引業者であり,被上告人Y1から委託を受け,本件売買契約の締結手続をした。

 (2)802号室の中央付近にある室内廊下の北側主寝室寄りには,防火戸(以下「本件防火戸」という。)が設置されていた。本件防火戸は,その電源スイッチが入っていれば,802号室内で火災が発生した場合には自動的に閉じて,床,壁等と共に,上記主寝室を含む北側の区画(以下「本件北側区画」という。)と南側の区画(以下「本件南側区画」という。)に区切り,出火した側の区画から他の区画への延焼等を防止するようになっていた。

 (3)Aは,平成12年4月7日,802号室の引渡しを受け,上告人と共に同年9月28日から居住を開始した。被上告人Y2は,A及び上告人の入居時までに,A又は上告人に対し,重要事項説明書,図面等を交付した。上記重要事項説明書には,802号室の防火設備等として,火災感知器及び火災報知器の場所が示されていたが,本件防火戸の記載はなく,上記図面に本件防火戸の位置が点線で表示されていたのみであった。また,被上告人らは,A又は上告人に対し,本件防火戸の電源スイッチの位置及び操作方法,火災発生時における本件防火戸の作動の仕組み等については,全く説明していなかった。

 なお,本件防火戸の電源スイッチは,802号室の納戸の壁に設置されていたが,ふたがねじで固定された連動制御器の中にあり,上記電源スイッチが同制御器内にあることが一見して明らかとはいえない造りになっていた。

 (4)同年10月4日午前5時15分ころ,802号室の主寝室を出火場所とする火災(以下「本件火災」という。)が発生した。本件火災は,Aが上記主寝室で吸ったたばこ又はその火種がベッドの布団に落下して着火したことにより発生したものと判定された。

 (5)本件防火戸は,本件火災発生当時,電源スイッチが切られて作動しない状態にあり,自動的に閉じなかったため,出火場所である上記主寝室を含む本件北側区画から本件南側区画への延焼等を防止することができなかった。

 (6)本件マンションを巡回していた警備員の通報により,同日午前5時24分ころ,麻布消防署の消防隊が臨場し,消火活動に当たった。本件火災は,同日午前7時55分に鎮火した。

 (7)本件火災により,802号室(床面積約210平方メートル)の主寝室その他の部分98平方メートル及び天井等49平方メートルが焼損した。本件南側区画の損傷状態については,室内廊下のうち,本件防火戸に近い部分は,天井の石膏ボードが落下し,比較的遠い部分の天井や壁は,化粧仕上材が焼失して石膏が露出するなどしたほか,本件南側区画のほぼ全室にわたり,天井及び壁の全体又は一部が変色し又はすすけ,居間やその北側の寝室の空調設備が溶融して垂れ下がるなどというものであった。

 (8)本件火災により,Aは,顔面及び気管の火傷等を負い,同年11月15日死亡した。Aの法定相続人は,Aの妻である上告人並びにAの姉,弟及び妹の合計4名である。

 2 本件は,上告人が,被上告人Y1については,本件防火戸の電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたことにつき売買の目的物に隠れた瑕疵があったことなど,被上告人Y2については,上記電源スイッチの位置,操作方法等を説明すべき義務を怠った注意義務違反があったことなどにより,本件南側区画にも本件火災による損傷が及び,その原状回復に要する費用等に係るAの損害賠償請求権を相続により4分の3の割合で取得したなどと主張して,被上告人Y1に対し売主の瑕疵担保等による損害賠償を,被上告人Y2に対し不法行為等による損害賠償をそれぞれ求める事案である。

 3 原審は,前記事実関係等の下において,上告人の請求を棄却すべきものとした。本件防火戸が作動しなかったことによる本件南側区画の損害に関する原審の認定判断は,次のとおりである。

 (1)802号室は,本件防火戸の電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたものであり,売買の目的物に隠れた瑕疵があった。したがって,被上告人Y1は,売主の瑕疵担保責任として,本件防火戸が作動しなかったことと相当因果関係のある損害について賠償すべき責任を負う。

 (2)本件防火戸の電源スイッチは,ふたがねじで固定された連動制御器の中に設置されており,居住者がそれを操作することが予定されているとはいえないような造りになっているものであって,売主である被上告人Y1において,上記電源スイッチを入れた状態で引き渡すべきことが当然の前提とされていたと考えられることに照らすと,被上告人Y2には,上記電源スイッチの位置,操作方法等を買主に説明すべき義務があったとはいえない。また,被上告人Y2は,被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の締結手続をした者にすぎず,802号室を引き渡すに際し,本件防火戸の作動状況についての調査,確認義務があったとはいえないから,上記電源スイッチを入れた状態で802号室を引き渡すべき義務があったともいえない。

 (3)本件防火戸が作動していた場合には,本件南側区画の焼損,変色等の範囲及び程度は,本件火災後の状況に比べて軽度に抑えられていたであろうと推認することができる。しかしながら,本件防火戸が作動したとしても,消火活動等に当たり,本件防火戸が開けられ,ばい煙,高熱,水蒸気等が本件南側区画に出ることは避けられず,相当範囲に汚れ等が付着し,特に,ばい煙によるにおいは,広範囲にわたって天井,壁等に染み込んだはずである。本件火災後の原状回復工事については,本件防火戸が作動した場合であっても,802号室を再び居住の用に供するためには,全部屋の天井及び壁の石膏ボード等を交換する作業が必要となることが十分考えられ,空調設備,家具等についても,具体的な焼損が生じなかったとしても,ばい煙によるにおいの吸着のため,新たなものと交換する方が部品交換やクリーニング等よりも安価な対処方法となる場合も考えられる。したがって,本件防火戸が作動しなかったからといって,本件火災により現実に生じた損害の額が,本件防火戸が作動した場合に比べて高額になるとは認められない。

 4 しかしながら,原審の上記認定判断(2),(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1)ア 前記1の事実関係によれば,本件防火戸は,火災に際し,防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであることが明らかであるところ,被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の締結手続をした被上告人Y2は,本件防火戸の電源スイッチが,一見してそれとは分かりにくい場所に設置されていたにもかかわらず,A又は上告人に対して何らの説明をせず,Aは,上記電源スイッチが切られた状態で802号室の引渡しを受け,そのままの状態で居住を開始したため,本件防火戸は,本件火災時に作動しなかったというのである。

 イ また,記録によれば,(ア)被上告人Y2は,被上告人Y1による各種不動産の販売等に関する代理業務等を行うために,被上告人Y1の全額出資の下に設立された会社であり,被上告人Y1から委託を受け,その販売する不動産について,宅地建物取引業者として取引仲介業務を行うだけでなく,被上告人Y1に代わり,又は被上告人Y1と共に,購入希望者に対する勧誘,説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務を行っていること,(イ)被上告人Y2は,802号室についても,売主である被上告人Y1から委託を受け,本件売買契約の締結手続をしたにとどまらず,Aに対する引渡しを含めた一切の販売に関する事務を行ったこと,(ウ)Aは,上記のような被上告人Y2の実績や専門性等を信頼し,被上告人Y2から説明等を受けた上で,802号室を購入したことがうかがわれる。

 ウ 上記アの事実関係に照らすと,被上告人Y1には,Aに対し,少なくとも,本件売買契約上の付随義務として,上記電源スイッチの位置,操作方法等について説明すべき義務があったと解されるところ,上記イの事実関係が認められるものとすれば,宅地建物取引業者である被上告人Y2は,その業務において密接な関係にある被上告人Y1から委託を受け,被上告人Y1と一体となって,本件売買契約の締結手続のほか,802号室の販売に関し,Aに対する引渡しを含めた一切の事務を行い,Aにおいても,被上告人Y2を上記販売に係る事務を行う者として信頼した上で,本件売買契約を締結して802号室の引渡しを受けたこととなるのであるから,このような事情の下においては,被上告人Y2には,信義則上,被上告人Y1の上記義務と同様の義務があったと解すべきであり,その義務違反によりAが損害を被った場合には,被上告人Y2は,Aに対し,不法行為による損害賠償義務を負うものというべきである。

 そうすると,802号室の販売に関し,被上告人Y2が被上告人Y1から受けた委託の趣旨及び内容,被上告人Y2の具体的な役割等について十分に審理することなく,被上告人Y2の上記義務を否定した原審の判断には,審理不尽の結果,法令の適用を誤った違法があるといわざるを得ない。

 (2)前記1の事実関係によれば,本件防火戸は,本来,802号室内で火災が発生した場合には自動的に閉じて,床,壁等と共に区画を区切り,出火した側の区画から他の区画への延焼等を防止するようになっていたというのであるから,本件南側区画の焼損,変色等による損傷は,本件防火戸が作動していた場合には,消火活動等により本件防火戸が開けられたとしても,本件防火戸が作動しなかった場合に比べ,その範囲が狭く,かつ,程度が軽かったことは明らかというべきである。したがって,前者の場合における原状回復に要する費用の額は,特段の事情がない限り,後者の場合における原状回復に要する費用の額に比べて低額にとどまると推認するのが相当である。これについて,原審は,前者の場合であっても,消火活動等により,ばい煙等が本件南側区画に出ることが避けられなかったなどということから,本件南側区画の天井及び壁の石膏ボード,空調設備,家具等の交換が必要となることが考えられるとして,後者の場合における損害の額が,前者の場合に比べて高額になるとは認められないと認定しているが,上記認定の前提とされた事情は,上記石膏ボード等の交換が必要となる可能性があるとするものにすぎず,上記特段の事情というには不十分であることが明らかである。そうすると,原審の上記認定には,経験則に違反する違法があるというべきである。

 5 以上によれば,原審の前記3の(2)及び(3)の認定判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,本件について更に審理を尽くさせるため,これを原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 津野 修 裁判官 滝井繁男 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋)

 

転々譲渡中間者の管理費支払義務 大阪地裁平成21年

マンション判例百選 72事件        管理費等請求事件(甲事件、乙事件)

                 大阪地方裁判所判決/平成20年(ワ)第10021号、平成20年(ワ)第16059号

平成21年7月24日

【判示事項】        1 マンションの管理組合が元の区分所有者に対して有していた管理費等の債権について,その区分所有者の特定承継人として建物の区分所有等に関する法律8条により債務の履行責任を負うことになった者は,その区分所有権を第三者に譲渡した後であっても,その管理費等の支払義務を負う

              2 建物の区分所有等に関する法律8条により元の区分所有者の管理費等の債務の履行責任を負うことになった専有部分の所有権の特定承継人は,民法148条により時効の中断の効力が及ぶ「承継人」にあたる

【参照条文】        建物の区分所有等に関する法律8

              民法148

【掲載誌】         判例タイムズ1328号120頁

【評釈論文】        別冊ジュリスト259号146頁

 

       主   文

 

 1 甲事件被告及び乙事件被告は,各自,原告に対し,617万2500円並びにうち135万3801円に対する平成20年12月6日から支払済みまで年1割8分の割合による金員及びうち115万9715円に対する平成20年12月6日から支払済みまで年1割4分の割合による金員を支払え。

 2 訴訟費用は,甲事件については甲事件被告の負担とし,乙事件については乙事件被告の負担とする。

 3 この判決は,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要

 1 原告の請求及び請求原因の要旨

 本件は,区分所有建物(Xマンション。以下「本件マンション」という。)について建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条に基づき構成された団体(法人格のない社団)である原告が,本件マンション1005号室(以下「本件専有部分」という。)の元の区分所有者に対して有していた規約に基づく管理費等の債権について,債務者たる区分所有者の特定承継人となった被告らに対し,区分所有法8条に基づき,区分所有者全員のために支払を求めた事案である。

 甲事件被告が,平成19年1月11日,平成4年以前から本件専有部分を共有していた元の区分所有者である甲野花子と乙山太郎からの担保不動産競売による売却により,乙事件被告が,平成20年2月27日,甲事件被告からの売買により,それぞれ本件専有部分の所有権を取得したことは,当事者間に争いがない。

 原告は,被告らがいずれも元の区分所有者(甲野花子と乙山太郎)からの区分所有法8条にいう特定承継人にあたるとして,被告ら各自に対し,以下の管理費等の支払を求めた。

 ① 平成4年1月分から平成13年9月分までの管理費合計128万9451円(別紙「元金明細および遅延損害金計算表」(以下「別表」という。)のとおり。月額1万1040円,ただし平成4年1月分は未払額8811円)

 ② ①に対する規約に基づく各月分の支払期日(別表のとおり)の翌日から平成20年12月5日までの規約に基づく約定の年18%の割合による遅延損害金合計280万5207円

 ③ ①と同期間の積立金合計6万4350円(月額550円)

 ④ ③に対する②と同様の遅延損害金14万0030円

 ⑤ ①と③の合計135万3801円に対する平成20年12月6日から支払済みまで②と同じ割合による遅延損害金

 ⑥ 平成13年10月分から平成18年12月分までの管理費合計70万1040円(平成17年1月分までは月額1万1040円,平成17年2月分からは月額1万1280円)

 ⑦ ⑥に対する規約所定の各月分の支払期限(別表のとおり)の翌日から平成20年12月5日までの規約所定の年14%の割合による遅延損害金合計44万7532円

 ⑧ ⑥と同期間の積立金合計21万6490円(平成13年12月分までは月額550円,平成14年1月分から平成17年1月分までは月額3320円,平成17年2月分からは月額4000円)

 ⑨ ⑧に対する⑦と同様の遅延損害金13万2018円

 ⑩ ⑥と同期間の上下水道料金合計10万6399円(別表のとおり。原告と市水道局の一括契約により水道水の供給を受け,親メーターで計測された使用量から算出された全戸の使用料金を原告が一括して立替払した後,各戸設置の子メーターで計測された使用量から使用料金を算出したもの)

 ⑪ ⑩に対する⑦と同様の遅延損害金6万5167円

 ⑫ ⑥と同期間の温水料金合計13万5786円(別表のとおり。共用部分にボイラー(給湯設備)を設け一括して各住居に給湯し,この給湯に関わるガス料金・水道料金(温水分)を各親メーターで計測された使用量を基に算出された各戸のガス・水道使用料金を原告が一括して立替払した後,各戸(住戸部分)に設置された温水メーターで計測した使用量を基に使用料金を算出したもの)

 ⑬ ⑫に対する⑦と同様の遅延損害金6万9030円

 ⑭ ⑥⑧⑩⑫の合計115万9715円に対する平成20年12月6日から支払済みまで⑦と同じ割合による遅延損害金

 2 被告らの主張の要旨及び主な争点

 被告らは,要旨次のとおり主張して,原告の請求を争った。

  (1) 上下水道料金・温水料金について

 上下水道料金・温水料金について管理組合が区分所有者に対して有する債権は,専有部分に関する立替金の求償権であり,共用部分の管理とは直接関係がなく,区分所有法30条1項の規約事項(建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項)にあたらない。したがって,その債権は,区分所有法8条により特定承継人に対して請求することができる「規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(区分所有法7条1項)にあたらない。

  (2) 甲事件被告の所有権喪失

 区分所有法8条が,区分所有者の特定承継人が前区分所有者の未払管理費等を負担する旨の特別の規定を定めている趣旨は,右負担につき区分所有権を引き当てにするというものであり,もはや引き当てとすベき区分所有権を有しない者は,その負担を負わない(大阪地判昭和62年6月23日,判時1258号102頁)。甲事件被告は,乙事件被告に対し本件専有部分の区分所有権を売買によって移転させ,区分所有者ではなくなっているのであるから,区分所有法8条の特定承継人にあたらず,前所有者の滞納した管理費等の債務について負担を負わない。

  (3) 消滅時効の抗弁

 判例(最判平成16年4月23日,民集58巻4号959頁)によれば,マンション管理において区分所有者が負担する管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から発生する支分権として,民法169条所定の債権にあたるとされている。そのため,管理費等のうち訴え提起時(平成20年12月5日)において支払期限から5年を経過しているもの(平成4年1月分から平成15年11月分まで)及びこれらに対する遅延損害金の債務については,民法169条の定期給付債権の短期消滅時効により,支払期限から5年の経過により消滅時効が完成している。したがって,被告は,消滅時効を援用する。

 3 前提事実(請求原因)

 以下の請求原因事実は,当事者間に争いのない事実又は後記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。

 原告は,大阪市中央区西心斎橋2丁目に所在する区分所有建物「Xマンション」(本件マンション,甲1)の区分所有者全員で構成する平成13年9月16日に設立された管理組合である(甲3~5,甲3のうちの管理規約6条)。以下この管理規約(同規約70条により平成13年9月16日発効)を「新規約」といい,本件マンション分譲当初の管理規約(甲2の9~18頁)を旧規約という。

 原告は,新規約30条10号に基づき管理費等(新規約23条に規定する管理費,積立金,上下水道料及び温水料をいう。)の徴収業務を行っている。原告が設立される前は,旧規約26条1項により日本ビルサービス株式会社(以下「日本ビルサービス」という。)が管理者として指定され,各区分所有者と日本ビルサービスとの間で締結された管理業務委託契約書(以下「旧委託契約書」という。甲2の19~22頁)2条2号に基づき,日本ビルサービスが管理費及び積立金(旧委託契約書4条)の徴収業務を行っていた。

 平成4年以前から本件専有部分を共有していた甲野花子と乙山太郎は,管理者である日本ビルサービスに対し,旧委託契約書4条1項に基づき,平成13年9月分までの管理費月額1万1040円及び積立金月額550円を支払う義務を負い,その支払期日は,同契約書4条2項により,毎月末日までに翌月分を支払うものとし,かつ,同契約書5条により,その支払を怠ったときは,支払期日の翌日から完済に至るまでの間,年18%の割合による遅延損害金を支払うものとそれぞれ定められていた。平成4年1月分から平成13年9月分までの管理費及び積立金の未払額及びその支払期日は,別表のとおりである(甲10,13,14,23,26,27)。

 平成13年10月分からは,甲野花子と乙山太郎は,原告に対し,新規約23条1項に基づき,管理費(新規約25条),積立金(新規約26条),上下水道料,温水料を納入する義務を負うものとされ,管理費及び積立金の月額は,当初は従前と同額であったが,新規約23条2項に基づき,平成14年1月分から積立金月額3320円に(甲6,7),平成17年2月分から管理費月額1万1280円,積立金月額4000円にそれぞれ引き上げられた(甲8,9)。

 上下水道料金は,原告と市水道局との一括契約により水道水の供給を受け,親メーターで計測された共用部分及び全専用部分の使用量合計を基に算出された料金を2か月に1度,2か月分について原告が水道局に支払った上,各専有部分に設置した子メーターにより計測した使用量を基に各専有部分の2か月分の使用料金を算出し,2か月に1度,2か月分を各区分所有者から徴収することとされている。

 温水料金は,共用部分にボイラー(給湯設備)を設け一括して各住戸に給湯を行い,この給湯に関わるガス料金・水道料金(温水分)は,各親メーターで計測された使用量を基に算出された全戸のガス・水道の使用料金を原告が一括して支払った後,各戸(住戸部分)に設置された温水メーターの使用量を基に使用料金を算出し,毎月1か月分を各区分所有者から徴収することとされている(甲3の11~12頁)。

 管理費,積立金,上下水道料,温水料は,新規約56条1項により,自動振替により遅くとも毎月8日までに当月分を支払うものと定められ,遅延損害金については,同条3項により年14%の割合と定められている。平成13年10月分から平成18年12月分までの管理費,積立金,上下水道料金,温水料金及びその支払期日は,別表のとおりである(甲10,13,14,23,26,27)。

 甲事件被告は,平成19年1月11日,甲野花子と乙山太郎からの担保不動産競売による売却により,乙事件被告は,平成20年2月27日,甲事件被告からの売買により,それぞれ本件専有部分の所有権を取得した。

第3 裁判所の判断

 1 要約

 当裁判所は,被告らは,本件専有部分の元の区分所有者の特定承継人として,所有権を第三者に譲渡したか否かに関わりなく,区分所有法8条に基づき,各自原告に対し,上下水道料金・温水料金を含む管理費等を支払うべき義務があり,元の区分所有者との間で消滅時効が中断し又は時効援用権が失われているから,その承継人にあたる被告らが消滅時効を援用することは許されないものと判断する。

 2 上下水道料金・温水料金について

 区分所有法30条は,規約事項について「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」と規定し,規約事項の対象となる「建物」を共用部分に限定していない。また,給排水設備及び給湯設備は,新規約20条1項本文及び別表第2に基づき,管理組合である原告がその責任と負担において管理すべき区分所有建物の附属設備でもある(甲3)。したがって,上下水や温水が専有部分で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても,管理組合が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で各区分所有者にその使用量に応じた支払を請求することを規約で定めることは,建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして,規約で有効に定めることができると解すべきである。大阪市の水道事業において集合住宅の使用者が申請すれば各戸計量・各戸収納制度を実施することができるとしても(甲17,24,25,28。枝番を含む。),そのことは,現に管理組合が規約に基づき全体の使用量を支払っている場合に,これを規約に基づき各区分所有者に対して請求することを妨げる理由にはならない。

 したがって,上下水道料金及び温水料金は,区分所有者の全員で構成された管理組合が,区分所有者全員のために,区分所有法8条により,債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる「規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(区分所有法7条1項)にあたる。

 3 甲事件被告の所有権喪失について

 区分所有法8条は,「規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(区分所有法7条1項)については,債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができると定めている。甲事件被告は,債務者たる区分所有者の特定承継人として,区分所有法8条に基づき元の区分所有者の管理費等の債務をいったん負うことになった以上,その後その区分所有権を他に譲渡しても,その債務の支払を免れることはできないと解すべきである。すなわち,区分所有法8条は,その債務の履行を確実にするために特定承継人に特に債務の履行責任を負わせることを法定して債務履行の確実性を担保することに立法趣旨があり,いったん特定承継人となって債務を負うことになった者が所有権を他に譲渡して債務を免れるなどという責任軽減は,規定もなく,全く想定していないと考えられるからである。区分所有法7条1項による先取特権があることも,同様に債務履行の確実性を担保する立法趣旨にすぎないから,先取特権があるからといって現に区分所有権を有する者にしか請求できないというような責任限定の解釈をすべき根拠はない。

 4 消滅時効の抗弁について

 原告は,平成14年4月26日,本件専有部分の元の区分所有者(共有者の1人)である甲野花子に対し,平成4年1月分から平成13年12月分までの未払管理費等(管理費,積立金,上下水道料金,温水料金)とこれに対する約定利率による遅延損害金の支払を命ずる判決(大阪地方裁判所平成14年(ワ)第1003号。甲10)を得て,この判決が平成14年5月17日の経過により確定している(甲26)。したがって,平成14年の訴え提起から5年前までの支払期日の管理費等については,民法169条による定期給付債権の5年の短期消滅時効につき,不可分債務者の1人に対する請求により時効が中断し(民法147条1号,430条,434条),5年以上前の支払期日の管理費等についても,元の区分所有者の甲野が消滅時効の援用をすることは,判決の既判力により許されないこととなった。

 元の区分所有者の特定承継人として,区分所有法8条により,元の区分所有者の債務を履行する義務を負うことになった被告らは,債務の履行を確保するために同じ債務について履行責任を負う者を広げようとする同条の立法趣旨に照らし,民法148条により時効中断の効力が及ぶ承継人にあたると解すべきであり,かつ,民事訴訟法115条1項3号により確定判決の効力が及ぶ口頭弁論終結後の承継人にあたると解すべきである。そして,本件訴訟のうち後で提起された乙事件の訴え提起の日である平成20年12月5日までには,前記判決確定の日である平成14年5月18日から10年経っていないから(民法174条の2第1項),元の区分所有者の口頭弁論終結後の承継人である被告らは,判決で確定した平成4年1月分から平成13年12月分までの未払管理費等(管理費,積立金,上下水道料金,温水料金)とこれに対する約定利率による遅延損害金について,消滅時効を援用することができない。

 その後,平成16年6月16日,原告から本件マンションの管理業務の委託を受けている日本ビルサービスが,元の区分所有者(共有者の1人)である乙山太郎に対し,平成4年1月分から平成16年6月分までの未払管理費等を請求したのに対し(甲11),乙山は,債務の存在を争わず(甲12),かえって平成18年2月17日,乙山の破産申立代理人である岩崎博之弁護士が,原告に対し,本件専有部分の管理費滞納分があることを認め債権調査票の作成を依頼している(甲13)。

 この事実によれば,債権調査票の作成依頼にあたって管理費滞納分の内容を特定していないが,それ以前からの請求の経緯等も勘案すれば,その依頼をした平成18年2月17日には,乙山は,包括的にその時点における一切の未払管理費等の債務を承認したものと認めるのが相当である。したがって,この債務承認により,上記確定判決によっても被告らが消滅時効を援用することができない平成13年12月分以前の管理費等について乙山は改めて消滅時効の援用権を失うほか,平成14年1月分以降の管理費等及びこれに対する約定の遅延損害金についても,不可分債務者である乙山による債務の承認により(民法147条3号),民法169条の5年の短期消滅時効が中断し,その承継人である被告らについても,時効中断の効力が及び,時効を援用することができないことになる。

 5 結論

 以上によれば,被告らは,本件専有部分の特定承継人として,区分所有法8条に基づき,各自原告に対し,元の区分所有者である甲野と乙山が旧規約及び旧委託契約書に基づく債務ないし新規約に基づく債務として原告に対して支払義務を負っていた平成4年1月分から平成18年12月分までの未払管理費等(第2の1①③⑥⑧⑩⑫)を支払うベき義務を負うとともに,そのうち平成13年9月分までの管理費等に対する各支払期限の翌日から支払済みまでの旧委託契約書所定の年18%の割合による遅延損害金(第2の1②④⑤),及び,平成13年10月分以降の管理費等に対する各支払期限の翌日から支払済みまでの新規約所定の年14%の割合による遅延損害金(第2の1⑦⑨⑪⑬⑭)をそれぞれ支払うべき義務がある。

 よって,原告の甲事件及び乙事件の請求は,いずれも理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。

              (裁判官・小林久起)

 

 別紙 元金明細および遅延損害金計算表〈省略〉点々

区分所有権法の買取請求の時価の基準時 大阪高裁平成14年

マンション判例百選 73事件        建物等買取請求控訴、附帯控訴事件

大阪高等裁判所判決/平成10年(ネ)第2887号、平成12年(ネ)第613号

平成14年6月21日

【判示事項】        区分所有法六一条五項所定の復旧決議が行われ、区分所有権等の買取請求がなされた場合と同条七項所定の時価の基準時及びその意義

【参照条文】        建物区分所有法61

【掲載誌】         判例時報1812号101頁

【評釈論文】        判例評論538号14頁

              別冊ジュリスト259号148頁

 

       主   文

 

 一 本件控訴及び附帯控訴に基づいて原判決を次のとおり変更する。

  1) 控訴人は、被控訴人額田順惠に対し、八五八万六四二八円及び内金八三六万円に対する平成九年四月一日から、内金一一万九一八八円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万七二四〇円に対する平成一三年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  2) 控訴人は、被控訴人有田スミに対し、七五七万〇七二〇円及び内金七三〇万円に対する平成九年四月一日から、内金一三万九五四八円に対する平成一二年二月二三日から、内金一三万一一七二円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  3) 控訴人は、被控訴人荒井實に対し、七三七万一八八一円及び内金七一四万四〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金一一万七四四三円に対する平成一二年二月二三日から、内金一一万〇四三八円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  4) 控訴人は、被控訴人荒井裕子に対し、三八万七九九四円及び内金三七万六〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金六一八一円に対する平成一二年二月二三日から、内金五八一三円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  5) 控訴人は、被控訴人西原清光に対し、一五六七万円及び内金一五三二万円に対する平成九年四月一日から、内金一三万〇〇三六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二一万九九六四円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  6) 控訴人は、被控訴人齊藤長四郎に対し、一五三二万三八〇〇円及び内金一五〇三万円に対する平成九年四月一日から、内金一三万五九〇〇円に対する平成一二年二月二三日から、内金一五万七九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  7) 控訴人は、被控訴人奥壽二に対し、二二四四万一四九三円及び内金二一八五万円に対する平成九年四月一日から、内金三一万二一五三円に対する平成一二年二月二三日から、内金二七万九三四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  8) 控訴人は、被控訴人和田恭子に対し、一六六二万二二七五円及び内金一六二三万円に対する平成九年四月一日から、内金二〇万七〇四五円に対する平成一二年二月二三日から、内金一八万五二三〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  9) 控訴人は、被控訴人吉永淑子に対し、七六一万一六二五円及び内金七三九万円に対する平成九年四月一日から、内金一一万六七二五円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万四九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  10) 控訴人は、被控訴人齋田朝子に対し、一七九六万三八〇〇円及び内金一七五八万円に対する平成九年四月一日から、内金一二万五七三四円に対する平成一二年二月二三日から、内金二五万八〇六六円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  11) 控訴人は、被控訴人甲野花子に対し、二九〇万〇四六三円及び内金二七九万円に対する平成九年四月一日から、内金五万八〇一三円に対する平成一二年二月二三日から、内金五万二四五〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  12) 控訴人は、被控訴人甲野二郎に対し、一四五万〇二三一円及び内金一三九万五〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金二万九〇〇六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  13) 控訴人は、被控訴人甲野三郎に対し、一四五万〇二三一円及び内金一三九万五〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金二万九〇〇六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  14) 控訴人は、被控訴人今泉麻由美に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人の区分所有建物について原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人に関する抵当権設定登記の抹消登記手続を受けるのと引き換えに、六〇七万七九二三円を支払え。

  15) 控訴人は、被控訴人永野勝巳に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の区分所有建物について原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人及び被控訴人永野美知子に関する抵当権設定登記の抹消登記手続を受けるのと引き換えに、六三〇万〇二八四円を支払え。

  16) 控訴人は、被控訴人永野美知子に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の区分所有建物について原判決別紙抵当権目録記載の上記15)の抵当権設定登記の抹消登記手続を受けるのと引き換えに、八万二三四一円を支払え。

  17) 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

 二 控訴人と被控訴人らの間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とし、補助参加によって生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を補助参加人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

 三 この判決は、被控訴人ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第一 当事者の求める裁判

 (控訴関係)

 一 控訴人

 1) 原判決を次のとおり変更する。

 2) 控訴人は、被控訴人額田順惠に対し、五六七万二〇六五円を支払え。

 3) 控訴人は、被控訴人有田スミに対し、三八万八六三八円を支払え。

 4) 控訴人は、被控訴人荒井實に対し、一二五万六三七五円を支払え。

 5) 控訴人は、被控訴人荒井裕子に対し、六万六一二五円を支払え。

 6) 控訴人は、被控訴人西原清光に対し、九三万二一四四円を支払え。

 7) 控訴人は、被控訴人奥壽二に対し、一二〇万六五三三円を支払え。

 8) 控訴人は、被控訴人和田恭子に対し、一七三万〇七二四円を支払え。

 9) 控訴人は、被控訴人齋田朝子に対し、三二四万一三七五円を支払え。

 10) 上記被控訴人らのその余の請求及び被控訴人齊藤長四郎、同吉永淑子、同甲野花子、同甲野二郎、同甲野三郎、同今泉麻由美、同永野勝巳、同永野美知子の請求をいずれも棄却する。

 11) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

 二 被控訴人ら

 本件控訴をいずれも棄却する。

 (附帯控訴関係)

 一 被控訴人ら

 1) 原判決を次のとおり変更する。

 2) 控訴人は、被控訴人額田順惠に対し、一四二三万一九九七円及び内金一三九九万五三六五円に対する平成八年五月一七日から、内金一二万九三九二円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万七二四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 3) 控訴人は、被控訴人有田スミに対し、一七八五万六三一三円及び内金一七五七万三三四五円に対する平成八年五月一七日から、内金一三万九五四八円に対する平成一二年二月二三日から、内金一四万三四二〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 4) 控訴人は、被控訴人荒井實に対し、一七〇〇万三三一四円及び内金一六七六万二六五六円に対する平成八年五月一七日から、内金一一万七四四三円に対する平成一二年二月二三日から、内金一二万三二一五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 5) 控訴人は、被控訴人荒井裕子に対し、八九万四九一一円及び内金八八万二二四五円に対する平成八年五月一七日から、内金六一八一円に対する平成一二年二月二三日から、内金六四八五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 6) 控訴人は、被控訴人西原清光に対し、三二二五万八一〇〇円及び内金三一八九万〇二六四円に対する平成八年五月一七日から、内金一三万〇〇三六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二三万七八〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 7) 控訴人は、被控訴人齊藤長四郎に対し、三六三〇万六四四一円及び内金三五八六万五〇七〇円に対する平成八年五月一七日から、内金二二万八七七一円に対する平成一二年二月二三日から、内金二一万二六〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 8) 控訴人は、被控訴人奥壽二に対し、四七六八万五〇四八円及び内金四七〇六万七三七二円に対する平成八年五月一七日から、内金三三万八三三六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二七万九三四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 9) 控訴人は、被控訴人和田恭子に対し、三二三〇万〇〇一九円及び内金三一八九万〇二六四円に対する平成八年五月一七日から、内金二二万四五二五円に対する平成一二年二月二三日から、内金一八万五二三〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 10) 控訴人は、被控訴人吉永淑子に対し、一四〇六万四三二五円及び内金一三八三万二七三五円に対する平成八年五月一七日から、内金一二万六六九〇円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万四九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 11) 控訴人は、被控訴人齋田朝子に対し、三一三一万二一三五円及び内金三〇九一万一二〇一円に対する平成八年五月一七日から、内金一二万五七三四円に対する平成一二年二月二三日から、内金二七万五二〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 12) 控訴人は、被控訴人甲野花子に対し、七〇三万一八一三円及び内金六九一万六三六八円に対する平成八年五月一七日から、内金六万二九九五円に対する平成一二年二月二三日から、内金五万二四五〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 13) 控訴人は、被控訴人甲野二郎に対し、三五一万五九〇六円及び内金三四五万八一八三円に対する平成八年五月一七日から、内金三万一四九八円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 14) 控訴人は、被控訴人甲野三郎に対し、三五一万五九〇六円及び内金三四五万八一八四円に対する平成八年五月一七日から、内金三万一四九七円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 15) 控訴人は、被控訴人今泉麻由美に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人の専有部分につき、同被控訴人が原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人に関する抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引き換えに、一四八二万七六三六円を支払え。

 16) 控訴人は、被控訴人永野勝巳に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の専有部分につき、同被控訴人が原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人及び被控訴人永野美知子に関する抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引き換えに、一三八五万五七七九円を支払え。

 17) 控訴人は、被控訴人永野美知子に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の専有部分につき、同被控訴人が原判決別紙抵当権目録記載の上記16)の抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引き換えに、一七万九九四六円を支払え。

 18) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

 19) 仮執行の宣言。

 二 控訴人

 本件附帯控訴をいずれも棄却する。

第二 事案の概要

 事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決の事案の概要のとおりであるから、これを引用する。

 一 原判決書の補正

 1) 原判決書一三頁五行目の末尾に続けて「控訴人は被控訴人らから各専有部分の引渡を受けていない。」を加える。

 2) 同一四頁五行目の末尾に続けて「その内訳は本判決別紙一「請求債権計算表」のとおりである。」を加え、同頁八行目の「価額」の次に「(ただし、評価の基準時については、現実に復旧工事をした時あるいは引渡及び所有権移転登記がされた時などとするのではなく、買取請求権が行使された時とすることを争うものではない。)」を加え、同行目の「共用部分復旧工事費分担額」の次に「等」を加え、同頁九行目の「等」を削る。

 3) 同一五頁一〇行目の「復旧工事等」を「復旧工事費等」に改める。

 4) 同一六頁六行目の「補修費用」を「共同部分の補修費用」に改める。

 5) 同一七頁一〇行目〈編注・本誌一六六八号一一六頁二段二行目から三行目にかけて〉の「限定されない。」の次に「すなわち、復旧費用には、市場性回復のために必要な工事費用も含まれる(共用部分の復旧工事についてみると、共用玄関電気錠、集合インターホン設置工事、集会室リフォーム工事、北側共用廊下天井改修工事、一階バルコニー改修工事、地下一階ピロティー外構工事、地下一階店舗前アプローチ床面改修工事等の費用は、いずれも市場性回復のための共用部分の復旧工事費用である。専用部分の工事費用についても、傾斜した床面の修正に要する工事費用をはじめとして、市場性回復のための改良工事費用が含まれる。)。なお、このように販売可能な状態まで修繕工事をしたとしても、本件マンションについては、震災により被った本件マンション全体の相当ひどい傾斜は全く修復されないまま残るなど、被災しなかった場合の市場価格まで回復することは不可能である。復旧工事後の価格を評価するについては、このような市場性減価事由のあることが十分考慮されるべきである。」を加える。

 6) 同二三頁一行目の「対しては」を「対して」に改める。

 7) 同二四頁七行目の「③」を「④」に、同頁八行目の「④」を「⑤」にそれぞれ改める。

 8) 同二九頁五行目の「七〇六号室の」を「七〇六号室を」に改める。

 9) 同別紙「区分所有権目録」の六枚目裏五行目の次に改行して「駐車場部分の表示 番号P-3」を加える。

 二 当審における被控訴人らの新たな主張

 被控訴人らは、買取請求権行使後も各買取請求に係る区分所有建物の固定資産税等を納付している。その内訳は本判決別紙二「附帯控訴請求債権一覧表」の該当欄及び本判決別紙三「固定資産税一覧表」の該当欄にそれぞれ記載のとおりである。これらは控訴人が負担すべきものを立て替えたのであるから、控訴人は、被控訴人らに対し、その返還をする義務がある。よって、被控訴人らは、控訴人に対し、上記立替金及びこれに対する上記附帯控訴請求債権一覧表の該当欄に記載の金額に対しては平成一二年二月二三日(これらの返還を請求した附帯控訴状送達の翌日)から、固定資産税一覧表の該当欄に記載の金額に対しては平成一三年九月二八日(これらの返還を請求した附帯控訴の追加的変更申立書送達の翌日)から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう請求する。

 三 当審における控訴人の新たな主張

 1) 控訴人は、平成一一年九月一四日の当審第四回口頭弁論期日において、法六一条九項に基づいて、本件買取請求に基づく代金の支払について期限の許与を請求した。許与期間は、専有部分の現実の引渡を受けた上専有部分の改装工事を施工して売却するための期間として、現実の引渡後一年間とするのが相当である。

 2) 法八条により、未払管理費債務及び未払積立金債務は控訴人が承継するのであるから、引渡及び所有権移転登記がされるまでの間についてこれらの未払債務がある時は、その額を時価の算定について考慮すべきである。本件の場合の未払額は、本判決別紙四「未払管理費等一覧表」に記載のとおりである(原審の主張より増加した。)。

 四 三の主張に対する被控訴人らの反論

 1) 被控訴人らは平成八年に買取請求権を行使した。控訴人は大資本の企業である。現在に至って期限の許与をする必要性は皆無である。なお、期限の許与がされた場合でも、許与の裁判は弁済期を変更するものでなく期限を猶予するものに過ぎないから、買取請求の時から許与された期限までの遅延損害金支払債務が消滅するものではない。

 2) 買取請求により各区分所有建物は控訴人の所有になったから、それ以後の管理費等は控訴人が支払義務を負担する。また、被控訴人らは、本件訴えの提起前に引渡を完了している。したがって、いずれにしても、未払管理費等を時価の算定について考慮する余地はない。

第三 当裁判所の判断

 一 争点1について

 法六一条七項に基づく買取請求権の法的性質は形成権と解するのが相当であるから、その意思表示により直ちに当事者間に売買が成立した効果が発生する。したがって、買取請求の相手方は、特段の事由のない限り、買取請求により直ちに請求に係る建物及び敷地に関する権利を取得し、その引渡及び移転登記の各請求権を取得するとともに、相手方には、時価による売買代金債務が発生すると解すべきである。このような性質に鑑みると、時価の算定の基準時は、買取請求権が行使された時とするのが相当である(控訴人も当審においてはこのことを争わない。)。

 なお、控訴人は、買取請求権に係る専有部分に担保権が設定されている場合には、買取代金の支払は担保権の抹消と同時履行関係になると主張する。本件買取請求に係る専有部分のうち、被控訴人今泉麻由美所有のもの並びに被控訴人永野勝巳及び同永野美知子共有のものに抵当権が設定され、その登記がされていることは、同被控訴人らが自ら主張するところである。このように抵当権が設定されている専有部分(及び敷地共有持分)についても、買取請求がされたときは、その意思表示により直ちに売買の効果が発生すると解するのが相当であるが、その場合、買取請求の相手方は、民法五七七条により、滌除の手続が終わるまで買取代金の支払を拒む旨の抗弁を主張することができると解するのが相当である。そうすると、控訴人は、上記被控訴人らに対しては、民法五七七条に規定する抗弁を主張することができるのであるが、控訴人はこの抗弁を主張せず、かえって、前記の趣旨の同時履行の抗弁を主張しているのであり、他方、上記被控訴人らも、自ら、同様の引換給付の判決を求める旨申し立てている。したがって、本件では、前記抵当権の関係は、上記被控訴人らからそのように申し立てられているという限度で斟酌するにとどめるべきことになる。

 二 争点2について

 買取請求権は、前記のような意味の形成権であるところ、買取請求がされる時には、大規模に損壊(一部滅失)した状態ではあるが、復旧工事を加えて存続すべき建物が現存するのであるから(本件各専有部分が存続することも争いがない。)、「時価」は、損壊した状態のままの、前記評価基準時における建物及び敷地に関する権利の価格をいうと解するのが相当である。

 このような時価は、具体的に評価するのは相当困難であるが、被控訴人らからは、建物が被災しない状態で買取請求時点まで存在したものと仮定して、その場合の専有部分(本件ではいずれの専有部分も完全には滅失していない。)の買取請求時点における価格を想定し、これから、現実には被災している建物(共用部分及び専有部分)を被災しなかった状態に復旧するための復旧工事費用(復旧工事によっても回復しきれない減価要因がある場合にはこれを含む。)等を控除して算定する手法(双方で直接法と仮称されている手法)が主張され、控訴人からは、買取請求時点で復旧工事が終了しているものと仮定して、その場合の専有部分の買取請求時点における価格を想定し、これから、そのように復旧するのに要する復旧工事費用等の被災による減価を控除して算定する手法(双方で間接法と仮称されている手法)が提唱されている。

 直接法は、基本的には、実在した被災前建物と同じ状態の建物が買取請求時にも存在することを想定して、そのような建物の専有部分の買取請求時の評価額から、被災前の状態に復旧するのに必要な復旧工事費用を中心とするマイナス要因を減額するという考え方のものであり、損壊してはいるが既存のマンションの買取請求による売買であることに比較的なじみやすく、かつ、間接法と比較する限りでは、復旧後の建物の状態、したがってまた復旧工事の内容を比較的想定しやすく、その意味である程度客観的に検討できるとも考えられるから、評価手法の一つとして重視すべきものと考えられる。

 なお、この手法による場合には、復旧後の建物として想定される建物は被災前の建物であるから、復旧工事の内容は、安全性を回復するための工事のほか被災前の状態に復旧するために必要な工事に限られることになり、機能性向上自体を目的とする工事は含まれないし、使用する設備材料の選択においても、価値の向上を目的とするものは含まれないことになる。しかし、実際の復旧工事では設備器具等の更新をする必要もあるであろうが、このような場合にも、特別の事情のない限り、ことさら更新により結果的に生じる増加価値を取り上げ、現実に必要な復旧工事費用からこの増加価値分を控除した残額をもって復旧工事費用とするような計算を行う必要はないと思われる。その工事が直接法の観点からも必要であると考えられる限り、その一部をもって復旧工事費用ととらえることは必ずしも合理的とは認めがたいし、買取請求者との相手方との公平を欠くことになると考えられるからである。

 また、減価要素としては、復旧工事費用にとどまらず、復旧工事によってもなお回復し得ない事情の有無及びその程度をも考慮する必要がある。

 間接法は、基本的には、買取請求時点で既に復旧工事がされていることを想定して、復旧工事後の専有部分の買取請求時点における想定価格(現実に復旧工事がされた時点の価格ではない。そのような価格を基準とすることは相当でない。)から復旧工事費用等のマイナス要因を減額するというものであるが、復旧工事後の建物として被災しなかった場合の建物を想定し、復旧工事内容としてそのような建物に復旧するための工事を想定するのであれば、直接法と相違は生じないことになる。

 しかし、控訴人の主張する間接法の趣旨は、復旧後の建物ないし専有部分は中古マンションの売買市場で商品とするのにふさわしいものをいい、したがって、復旧工事はこのような意味で市場性のある建物に再生させるための工事をいうものである。控訴人は、本件買取請求により一三戸もの買取を請求されたのであり、これらを中古マンションとして売却処分するのが最も有効活用になるから、そのような控訴人の主張として、理解し得るところである。ただし、控訴人の主張する意味の間接法では、復旧後の建物は、被災前の建物と同じものであることが重視されず、良好な市場性を得る観点から、機能の向上を含み、諸仕様の点でも被災前よりも良いものにすることにもなるから、直接法と比較すると、復旧工事費用が高額になりやすい。公平の見地からは、その場合の復旧工事費用の増加分は、復旧工事後の建物の価値の増加分に見合うものとして均衡性及び相当性がある場合に限り、全額を減価することができるというべきである。そして、このような均衡性等があることの立証は、実際上相当困難な場合が多いであろう。

 そのほかにも、被控訴人ら、控訴人及び補助参加人(以下「管理組合」という。)から、時価について種々の主張がされているが、いずれにしても、的確な証拠による裏付けが必要であるという意味で、立証の問題に帰する部分が多い。本件では、以上のような点に留意しながら、双方が提出援用した証拠から合理性があると認められる事実を認定し、これらを総合的に判断して、双方に公平と認められる時価を算定する必要がある。

 三 争点3ないし7について(時価の認定)

 争点3ないし7について、証拠の評価とともに検討する。

 1) 鑑定

 ア 原審の鑑定は、被控訴人ら主張の直接法を基本として、本件の時価を試算するものであり、その結論は本判決別紙五「C.鑑定評価額の決定」のとおりである。同別紙の「鑑定評価額」欄記載の各金額が対応する「物件」欄記載の本件各専有部分の買取価格である。「Aの価格」欄記載の金額は本件マンションが被災しなかったものとした場合の各専有部分の買取請求時点の想定価格、「G1+G2+G3」欄中「G1」は共用部分の復旧工事費用のうち被控訴人ら負担分、「G2」は本件各専有部分の復旧工事費用、「G3」は観察・市場性減価、「G4」は建物再使用開始可能時点(平成九年三月末)までに期間があることに伴う期間補正である。G1ないしG3の内訳は本判決別紙六「G1ないしG3の内訳」に記載のとおりである。

 鑑定の手法は、前記の直接法を基本とするのであり、また、本件で提出されている他の証拠による試算結果と比較すると、訴訟上の鑑定である点で、相対的に重視すべきものということができる。

 イ 鑑定については、双方から種々の主張がされている。

  ① 建付増価について(既存不適格建物であることの評価)

 控訴人は、鑑定が本件マンションの敷地価格を査定するについて標準価格にいわゆる既存不適格建物の敷地であることに伴う二〇パーセントの増価をしていることが不当であると主張する。しかし、前記評価基準時点における敷地の指定容積率(基準容積率も同じ)が二〇〇パーセントであるのに、本件マンションの実効容積率は四六〇パーセント程度であって、本件マンションがいわゆる既存不適格建物に該当することは、控訴人も認めるところである。そして、鑑定は、積算法による場合の本件マンションの敷地の価格を試算するのに際して、同敷地は、現に四六〇パーセントの容積率による建物が適法に建築されている以上、標準価格(二〇〇パーセントの容積率とするものである。)の土地よりも、建物が存在する限りは建付増価が発生しているとして、増額修正をしたものである。鑑定に示された判断は相当であり、誤りがあるとは認められないのであって、乙二六号証のうちこれに反する部分は、採用することができない。もっとも、本件マンションも将来における建替えの可能性があることは否定できないから、その敷地価格は容積率四六〇パーセントの土地と同じ評価をすることは相当でないと考えられ、増額修正率の決定にはこの点が斟酌される必要があるが、鑑定は、このような観点を含めて二〇パーセントの増額修正率を採用しているものと認めることができる。そして、この増額修正率に関する鑑定の認定が著しく不合理であると認めるに足りる証拠はない。

  ② 販売費、一般管理費及び関発利益等について

 控訴人は、鑑定が販売費等の上記費用等を増額修正要素として用いていることを批判している。しかし、上記修正は積算法による試算価格を求めるのに際して行われているのであり、マンション価格がこれらの要素を斟酌して決定される性格のものであることは明らかであるから、中古マンションの価格の積算法による試算に際してもこれらの費用を斟酌するのが相当である。また、その斟酌割合についても、鑑定の採用した程度が著しく不合理であると認めるに足りる証拠はない。

  ③ 共用部分復旧工事費用について

 鑑定の認定した共用部分復旧工事費用の各戸負担額(前記G1)は、被控訴人らの主張と一致し、控訴人の主張ともほとんど一致しており、鑑定の認定判断の合理性を覆すに足りる証拠はない。

 控訴人は、このほかにも原判決別紙費用明細の「共用負担費用」中「追加共用部」欄記載の各金額を要するところ、鑑定ではこれが欠落していると主張する。控訴人主張の追加工事の具体的内容は、共用玄関電気錠及び集合インターホン設置工事、集会室リフォーム工事、北側共用廊下天井改修工事、一階バルコニー改修工事、地下一階ピロティ外構工事、地下一階店舗前アプローチ床面改修工事等であるが、《証拠略》によると、これらの追加工事は、本件買取請求がされた後の管理組合の総会でこれを行うことが決議されたように認めることができる。しかし、鑑定は直接法により買取代金額の鑑定をするものであるから、そこで控除される復旧費用は、安全性の確保や被災前の建物に復旧するために必要かつ相当なものである必要があり、機能向上を目的とし、あるいは市場性増加を目的とする工事は、原則的に控除すべき復旧工事費用に該当しない。ところが、本件の全証拠によっても、これらが上記の意味で必要かつ相当な工事費用であると認めることはできない(控訴人は、これらが市場性回復のための工事であると主張している。なお、控訴人は、鑑定中でも、上記工事が必要なものとされていると主張する。しかし、鑑定が補修の必要を認めるとしている工事と上記工事とは必ずしも一致していない。)。他方、本件の全証拠によっても、これらの工事が市場性回復のため必要であること、あるいは価値が増加する程度を確認することはできない。そうすると、控訴人の主張は、採用することができない。

  ④ サッシュ・ガラス工事費用について

 控訴人は、原判決別紙費用明細の「サッシュ・ガラス工事」欄に記載の費用も復旧工事費用に該当すると主張する。《証拠略》によると、控訴人主張の「サッシュ・ガラス工事」欄記載の費用を要する工事は、各専有部分外部のサッシュ及びガラス工事並びに玄関ドア取替工事であると認められるが、《証拠略》によると、サッシュ並びに玄関ドアの錠及び内部塗装部分は共用部分とされていることが認められるから、これらの工事が必要であれば、全体として共用部分の復旧工事費用に計上することができると認めることができる。そして、鑑定の結果によると、これらの工事が必要であると認められ、このことと乙二号証によると、その費用は少なくとも控訴人主張のとおりであると認めることができる。もっとも、これらの工事は専有部分と紛らわしい部分の工事であるから、鑑定中でこれに要する費用が専有部分の工事費用に含まれているのであれば二重計上になるが、鑑定がこれを専有部分の工事費用に含ませている形跡はない。したがって、鑑定は、この点で補正されるべきである。

  ⑤ 専有部分の復旧工事費用について

 控訴人は、鑑定中の専有部分復旧工事費用は過少であり、原判決別紙費用明細の「専有部負担費用」欄記載の金額程度の費用を要すると主張する。そして、乙二六号証も専有部分の復旧費用として控訴人主張の金額とおおむね同額の金額を計上している。控訴人主張の金額は、《証拠略》の平成九年八月の清水建設の見積と同額であり、乙二六号証の前記金額も清水建設の見積に依拠するものである。鑑定による金額と清水建設の見積金額の間には、相当大きな差がある。

 《証拠略》によると、控訴人主張の金額は、本件各専有部分について、おおむね、全面的解体・撤去の上、設備については従前と同程度の物に取り替え、床面の傾斜はこれを修正する床材を設置すること等を基本とする工事の費用であるとされている。

 他方、鑑定の工事費用は、全戸について、床、壁、天井については総貼替(床はカーペットの貼替又は畳の入替、壁及び天井はクロスの貼替)と一部又は相当部分の下地の修正、施工をし、照明器具については一部取替、建具については修復を基本とし、水回り特に風呂及び台所システム等の取替を要する場合には震災時の状況と比べて機能性向上及び市場性向上の効果が生じるのが通常であるから工事費の全額を復旧工事費用として控除するのではなくその一部だけを復旧工事費用と認めるべきであるという認識に立っている。そして、現地測量及び具体的な数量計算は、近視眼的でありかつ手間と費用を要するという理由でこれを行わず、マンションのスケルトン状態からの一般的な内袋一式の工事費(水回り等の設備を含む。)を一平方メートル当たり九万円と想定した上、被災の程度が最も大きな専有部分についてその七〇パーセントの六万三〇〇〇円の内装・設備施工費用をまず計上し、更にその三〇パーセントに当たる一万八九〇〇円を毀損部品等の撤去、処分、下地補修費用として計上し、これらの合計八万一九〇〇円のうち四〇パーセントを機能性及び市場性向上分などとして控除して、結局その約六〇パーセントである五万円を一平方メートル当たりの復旧工事費用としている。それより損傷の程度が下回る専有部分については、一平方メートル当たりの復旧費用を順次四万五〇〇〇円、三万五〇〇〇円及び二万五〇〇〇円としている。

 以上の認定と《証拠略》によると、控訴人主張の金額は、前記控訴人主張の意味における間接法に立つものであり、したがって、本件各専有部分を被災当時の状態に回復すること以上の変更工事を含むと認められる。《証拠略》によると、清水建設は、平成八年二月八日付けで、少なくとも被控訴人永野、同荒井実、同齊藤及び同和田宛に各区所有建物の改修費用見積書を作成して提出しているところ、これらの見積は、作成日付が本件復旧決議の日より前であること及びその記載内容に照らして、自用の専有部分として復旧工事を行う場合の見積であると認めることができるが、その見積額はその後の同社の前記見積より大幅に下回っていることも、上記認定を裏付けるものである。ところが、控訴人主張の間接法により試算するとしても、本件の全証拠を検討しても、後の見積による工事が市場性回復ないし市場性増加のため必要なものであること及び増加した復旧工事費用が当該専有部分についてそれに見合うだけの価格の増加をもたらす均衡性があって、不相当といえないことまでを認定するに足りる的確な証拠があるとは認めがたい。したがって、控訴人主張の復旧工事費用は、その全額が控除されるべき金額に該当するとまで認めがたいといわざるを得ない。

 他方、鑑定による復旧費用は、前記のようにして算出されたものである。専門家の裁量的判断であり、かつ訴訟上の鑑定である点で軽視できないところではあるが、その過程の合理性及び客観性が必ずしも的確に確認できるとはいいがたい。とりわけ、機能性及び市場性増加を目的としない工事であって復旧のため現実に必要であることを前提とする復旧工事費用でありながら(この点に関する鑑定の説明は明瞭とはいいがたいが、そのように理解できる説明であると認めるべきである。)、その四〇パーセントをも機能性及び市場性向上分として復旧工事費用から減額するのは、合理的とはいいがたい上、控訴人に著しく不利益なものであって、相当性を欠き、採用しがたいといわざるを得ない。なお、鑑定の「Aの価格」が、鑑定の認める必要な工事を施工することにより生じる価格であることは、鑑定の説明に照らして明らかである。公平の観点から、上記減額をしないこととする修正が必要であると認められる。その計算をすると、本判決別紙八「買取価格の計算及び認容元本額」の「修正後G2」欄記載のとおりになる。

 被控訴人らは、本件復旧決議の前に、専有部分の復旧工事の費用は一戸当たり三〇〇万円程度と聞かされていたから、時価を試算する場合の復旧工事費用はそれに限られるべきであると主張する。しかし、集会でそのような説明がされたとしても、控訴人がこれに拘束される理由は見出しがたいから、採用することはできない。

  ⑥ 仲介料、登録免許税等について

 控訴人は、原判決別紙費用明細の「仲介料」及び「登録免許税他」欄に記載の金額が控除されていない鑑定は不当であると主張する。控訴人が買取後第三者に売却する時に要すると見込まれる仲介手数料及び所有権移転登記の費用並びに控訴人が買い取ることになったことに伴う所有権移転登記等の費用(不動産取得税、登録免許税、司法書士手数料)であると主張されている。

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