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カテゴリ:憲法 > 国際私法

日本人妻とエジプト人夫の婚姻無効訴訟 東京地方平成3年

国際私法判例百選 第2版 9事件         3版 10事件     婚姻無効確認等請求事件

東京地方裁判所判決/平成元年(タ)第303号

平成3年3月29日

【判示事項】       日本人妻からエジプト人夫に対する婚姻無効確認等請求事件において、イスラム教徒に対し異教徒間の婚姻を禁止するエジプト法を準拠法として適用することは、わが国の公序良俗に反するとして、平成元年改正前の法例30条により、エジプト法の適用を排除した事例

【参照条文】       平成元年改正前法例13-1

             平成元年改正前法例30

【掲載誌】        家庭裁判月報45巻3号67頁

             判例時報1424号84頁

             判例時報1424号85頁

【評釈論文】       戸籍時報432号44頁

             ジュリスト1057号119頁

             判例タイムズ臨時増刊821号164頁

 

       主   文

 

 一 原告の主位的請求を棄却する。

 二 原告と被告とを離婚する。

 三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

 

       事   実

 

 一 原告訴訟代理人は、主位的に(1)東京都新宿区長に対する届出によってなされた原告と被告との婚姻が無効であることを確認する、(2)訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、予備的に1原告と被告とを離婚する、(2)訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、各請求原因を次のとおり述べた。

 1 主位的請求の請求原因

 (一) 戸籍上、仏教徒である原告(国籍日本、昭和三五年三月三一口生)とイスラム教徒である被告(国籍エジプト、西暦一九五七年三月二一日生)が、東京都大田区長に対する昭和五九年五月九日届出により婚姻(以下「本件婚姻」という。)した旨の記載がある。

 (ニ) エジプト法では異教徒間の婚姻を禁止し、これに反する婚姻を無効としてるところ、異教徒間の婚姻の禁止は双面的婚姻障害であると解されるので、被告の本国法上、異教徒間の婚姻が禁止されている以上、本件婚姻は無効というべきである。

 (三) よって、原告は、本件婚姻が無効であることの確認を求める。

 2 予備的請求の請求原因

 (一) 仏教徒である原告(国籍日本、昭和三五年三月三一日生)とイスラム教徒である被告(国籍エジプト、西暦一九五七年三月二一日生)は、昭和五九年五月九日、日本において、婚姻の届出をした。

 (ニ) 原告と被告は、昭和五九年八月下旬ころから、乙山市において同居して生活するようになり、被告は、昭和五九年一一月下旬ころより、コンピューター関係の会社で働くようになったが、勤務態度が悪く、昭和六〇年三月下旬、解雇された。その後、被告は、他の会社に勤めたこともあったが、同年四月下旬以降は定職につこうとせず、無為徒食の生活をするようになった。

 (三) 更に、被告は、原告に対し、昭和六○年六月二〇日夜半、夫婦間の口論がきっかけで激しく殴打する暴力を加えた。

 そのため、原告は、被告と別居するに至った。

 (四) 被告は、昭和六一年八月ころ、エジプトに帰国したが、昭和六三年五月一六日、来日し、原告に対し、復縁を迫ったが、原告がこれを拒絶したため、同年六月一八日、日本から出国した。

 (五) 原告は現在被告との婚姻関係を継続する意思はない。

 (六) よって、原告は、日本民法七七〇条一項五号に基づき、被告との離婚を求める。

 二 被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

 三 《証拠関係略》

 

       理   由

 

 一 主位的請求について

 1 《証拠略》を総合すると、請求原因1(一)の事実を認めることができる。

 2 婚姻の実質的成立要件の準拠法は、平成元年法律第二七号付則第二項によって改正前の法例一三条一項が適用され、各当事者の本国法となるが、イスラム教徒である被告に適用されるエジプトの法令によると、イスラム教徒である被告と仏教徒である原告との婚姻は、異教徒間の婚姻として禁止され、右婚姻は無効とされているものと解される。しかしながら、単に異教徒間の婚姻であるというだけの理由で、口本人である原告とエジプト人である被告の婚姻を無効とすることは、信教の自由、法の下の平等などを定め、保障する我が国の法体系のもとにおいては、公序良俗に反するものと解さざるを得ないので、本件においては、前記改正前の法例三〇条により前記イスラム教徒に適用されるエジプトの法令の適用を排除するのが相当である。

 しかるところ、その他に本件婚姻が無効となるべき事情は認められないので、原告の主位的請求は理由がない。

 二 予備的請求

 1 《証拠略》によると、請求原因2の各事実を認めることができる。

 2 本件離婚については、法例一六条ただし書により、日本の法律が準拠法として適用されるところ、右認定の事実によると、原告と被告間に日本民法七七〇条一項五号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があることは明らかである。

 したがって、原告の予備的請求は理由がある。

 三 よって、原告の本訴請求のうち、主位的請求は理由がないのでこれを棄却することとし、予備的請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 尾方 滋 裁判官 西口元 野島秀夫)

 

米国人夫と中国人妻の離婚事件の準拠法 横浜地裁平成10年

国際私法判例百選第2版 7事件 3版8事件

              離婚請求事件

横浜地方裁判所判決/平成8年(タ)第137号

平成10年5月29日

【判示事項】       米国人の夫と中国人の妻との間の離婚事件において、離婚の準拠法を離婚の密接関連地法である日本法とし、親権者指定の準拠法を親子の共通本国法であるオハイオ州法とした事例

【参照条文】       法例16

             法例14

             法例21

             法例28-3

【掲載誌】        判例タイムズ1002号249頁

【評釈論文】       ジュリスト1190号142頁

 

       主   文

 

一 原告と被告とを離婚する

二 原告と被告との間の長男A(一九九〇年八月二日生)の親権者を原告と定める。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       理   由

 

第一 請求

 主文一、二項と同旨

第二 事案の概要

一 基礎となる事実(甲一ないし四、原告本人、弁論の全趣旨)

1原告(米国籍、一九四七年一二月五日生)と被告(中国籍、一九六二年二月二二日生)は、一九八八年(昭和六三年)三月四日、在日アメリカ大使館において婚姻手続を採った上、これを東京都港区長に届出受理されて夫婦となり、両者の間には、長男A(米国籍、一九九〇年八月二日生、以下「長男」という。)がいる。

2原告は、米国オハイオ州で生まれ、同州の大学を卒業して来日した後、一九八〇年(昭和五五年)大塚製薬株式会社(以下「大塚製薬」という。)に入社し、香港駐在員として同所で勤務していた際、被告と知り合って右のとおり婚姻したが、日本における定住者の在留資格を有し、在留期間を三年ごとに延長している。一方、被告は、一九八八年(昭和六三年)に米国の永住権を取得した。

3原告と被告は、婚姻した後、香港に居住して前記のとおり長男をもうけたが、 九九二年(平成四年)四月に原告が日本に転勤となり、同年六月から原告、被告及び長男が西宮市内で生活をするようになった。長男は、原告により在香港アメリカ領事館に出生の届出がされた結果、米国籍を取得したが、原告と同様、日本における定住者の在留資格を有し、在留期間を三年ごとに延長している。

4被告は、一九九二年(平成四年)七月、長男を連れて上海の実家に帰省したまま戻らず、原告が長男だけを日本に連れ帰り、以来、原告と被告は別居状態となった。その後、被告が二年続けて中国の旧正月に長男を連れて上海に帰省し、その都度、原告が同地に赴いて被告に対Lて戻るように説得したが、被告が応じないため、原告は、やむを得ず長男だけを連れて日本に帰り、一九九四年(平成六年)八月から長男を養育し、一九九五年(平成七年)四月には、大塚製薬の横浜支店ヘの転勤に伴い、肩書住所地に長男と共に転居し、現在に至っている。

5被告は、一九九五年(平成七年)九月、上海から米国カリフォルニア州アルハンブラ市に転居したが、その後、一九九六年(平成八年)五月ころ、トランジットのビザを取るため数日間原告と会ったのを最後に、一年に一回くらい米国から一方的に電話をかけてくるにとどまり、同国内での住居所は不明である。

二原告の主張

1国際裁判管轄

 原告と被告は外国人夫婦であり、被告の住所は日本にはないが、原告と長男は横浜市内に住所を有しており、被告は、原告と婚姻した後、日本国内でいったん原告と長男との共同生活を始めながら、原告らを遺棄したものであるから、本件については、日本に国際裁判管轄がある。

2準拠法

 原告と長男が米国籍、被告が中国籍であって、夫婦の共通の常居所地法はないから、離婚については、夫婦に最も密接な関係ある地の法律(法例一六条、一四条)である日本法が準拠法となり、未成年の子の親権者の指定については、子の常居所地法(同法二一条)である同じく日本法が準拠法となる。

3離婚原因

 被告は、婚姻後、日本国内で原告と長男との共同生活を始めながら、原告らを悪意で遺棄したものであり、夫婦の別居期間は五年余に及んでいるほか、被告は、一九八九年(平成元年)五月以降、Bと不貞行為を継続し、一九九三年(平成五年)には、原告の委任を受けた伴純之介弁護士に対して右事実を認め反省の気持を示した書面を提出しながら、その後も態度を変えていない。このように原告と被告の婚姻関係は完全に破綻しているから、民法七七〇条一項所定の離婚原因が存在する。

4長男の親権者の指定

 長男の養育については、被告にその意思もないため、前記のとおり、一九九四年(平成六年)八月以降、原告が日本において養育しており、勤務先も原告の事情を熟知し、子の養育監護に必要な休暇を取ることに十分理解ある態度を示している。原告は、英語を母語とし、日本語も堪能であるため、長男も英語と日本語のバイリンガルとして育ち、保育園や小学校によくなじんでいる。他方、被告は中国語を母語とし、日本語も英語も不十分であって、長男との意思疎通は困難である。以上のような点からすれば、未成年の子である長男の親権者は原告と定められるベきである。

三 被告は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

第三 判断

一 裁判管轄について

 一般に、渉外離婚訴訟事件について、日本の国際裁判管轄権を肯定するためには、当事者間の便宜公平、判断の適正確保等の訴訟手続上の観点から、被告の住所が日本にあることを要するのが原則であるところ、本件は、米国籍の原告(夫)と中国籍の被告(妻)との間の離婚訴訟で、被告が日本に住所を有しない事案である。しかしながら、前記の基礎となる事実からすれば、原告が被告から遺棄されたともいえるし、被告の住居所も不明であるから、このような特別の事情が存在する場合には、国際私法生活における正義公平の見地から、原告が住所を有する日本の裁判所に国際裁判管轄権を認めるのが相当であり(最高裁昭和三九年三月一五日判決・民集一八巻三号四八六頁参照)、人事訴訟手続法一条一項により、本件は、原告が普通裁判籍を有する地の地方裁判所である当庁の管轄に専属することになる。

二 離婚請求について

1準拠法

 本件離婚請求の準拠法については、法例一六条本文により、同法一四条を準用することになるが、まず、原告は米国籍であり、被告は中国籍であるから、共通本国法は存在せず、また、原告は日本に定住者の資格で在留しており、その常居所は日本であるのに対し、被告は永住権を取得している米国のいずこかに住居所を有しているにすぎないから、夫婦の共通常居所地法も存在しない。そこで、夫婦に最も密接な関係がある地の法律によるべきところ、前記のとおり、原告と被告は、日本で婚姻した後、原告の転勤に伴って香港から長男を伴って来日し、一九九一年(平成四年)六月から一時期日本で共同生活を始めたことがあり、原告と長男は、いずれも日本における定住者の在留資格を有し、在留期間を三年ごとに延長し、夫婦が別居状態となった以降も、引き続き日本で生活して現在に至っているから、こうした事実に照すと、夫婦に最も密接な関係がある地の法律は日本法であり、本件 婚請求については日本法か準拠法になるというべきである。

2離婚原因

 前記基礎となる事実のほか、証拠(甲四、原告本人)によれば、被告は、一九八九年(平成元年)五月以降、Bと不貞行為を継続し、一九九三年(平成五年)には、原告の委任を受けた伴純之介弁護士に対して右事実を認め反省の情を表した書面まで提出しながら、その後も態度を変えていないことが認められる。右事実関係からすれば、被告には不貞行為があり、また、原告と被告の婚姻関係は既に破綻しており、その修復は極めて困難であるといわざるを得ないから、民法七七〇条一項一号、五号所定の離婚原因が存在する。

三 未成年の子の親権者の指定について

1準拠法

 離婚に伴う未成年の子の親権の帰属は、父母の離婚によって発生する問題ではあるが、離婚を契機として生ずる親子問の法律関係に関する問題であるから、準拠法は法例二一条によるべきである。本件において、原告と被告との問の長男は、米国籍を有するが、米国は、実質法のみならず抵触法についても各州ごとに相違しており、統一的な準国際私法の規則も存在しない不統一法国であるから、法例二八条三項にいう内国規則はなく、当 者に最も密接な関係ある地方の法律を当 者の本国法とすべきことになるが、子の国籍が米国である以上、子の本国法としては、米国内のいずれかの法秩序を選択せざるを得ない。証拠(甲一、二)によれば、外国人登録原票上の国籍の属する国における住所又は居所は、長男及び原告とも、オハイオ州クリーブランド市であることが認められ、原告がオハイオ州で生まれ、同州の大学を卒業して来日したことは前示のとおりであるから、右事情にかんがみると、子の本国法としては、法例二八条三項にいう当事者に最も密接な関係ある地方の法律としてオハイオ州法を選択し、長男の親権の帰属は、法例二一条による子と父の共通本国法である同州法の定めるところによって決するのが相当である。そして、同州法によれば、離婚に伴う子の保護に関する両親の権利義務の分配については、裁判所は、子の最良の利益に適う方法により諸般の事情を考慮して決すべきものとされ、その考慮事情としては、両親の希望、裁判所による事情聴取の結果、両親、兄弟や子の利益に関わる者と子の相互の関係、子の住居、学校、地域社会ヘの適応、その状況に関わる者の肉体的・精神的健康、面接交渉権の遵守状況、養育費の支払状況、犯罪、児童虐待への関与等が定められていることは当裁判所に顕著である。

2長男の親権者の指定

 長男は、原告と同様、日本における定住者の在留資格を有し、在留期間を二年ごとに延長していること、原告は、被告と別居状態となった後、一九九四年(平成六年)八月から西宮市内で長男を養育し、一九九五年(平成七年)四月に勤務先の転勤に伴い肩書住所地に長男と共に転居し、現在に至っていること、一方、被告は、一九九五年(平成七年)九月上海から米国に転居したが、この間、不貞行為を続けており、一九九六年(平成八年)五月ころトランジットのビザを取るため数日間原告と会ったのを最後に、一年に一回くらい米国から一方的に電話をかけてくるにとどまり、同国内での住居所は不明であることは前示のとおりである。また、証拠(甲四、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、英語を母語とし、日本語も堪能であるため、長男も英語と日本語の両方を使いこなし、保育園や小学校の生活にもよく適応していること、原告は、約一八年間勤務している大塚製薬から年収約九三〇万円を得ており、肩書住所地の住居の賃料のうち六割は右会社が負担し、経済的には安定していること、右会社も原告の家庭内の事情に理解ある態度を示しているほか、原告の勤務中における長男の世話は原告がべビーシッターに依頼して問題なく処理していること、被告は、中国語を母語とし、日本語及び英語は十分ではなく、長男との円滑は意思疎通に欠けるばかりでなー、電話等により、原告に対し、原告の年収の半分を取得できれば長男の親権を原告に認めてもよい旨の意向を伝えたりしていること、長男は、米国で生活した経験がなく、母である被告との面接や同居を自分の方から積極的に希望してはいないことが認められる。右のような諸般の事情に照らし、離婚に伴う子の保護に関する両親の権利義務の分配についてのオハイオ州の前記準則にかんがみると、原告と被告の離婚後の長男の親権者は原告と定めるのが相当である。

第四 結論

 以上の次第であるから、原告の本件離婚請求は理由があるから認容し、長男の親権者は原告と定めることとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官篠原勝美)

 

隠れた反致を認めた青森家裁平成20年

国際私法判例百選 第2版 6事件 第3版6事件

養子縁組許可申立事件(趣旨変更後の事件名 特別養子縁組申立事件)

青森家庭裁判所十和田支部審判/平成18年(家)第252号

平成20年3月28日

【判示事項】       米国人を養親とする養子縁組につき,いわゆる隠れた反致を認めた事例

【判決要旨】       米国人夫婦と日本人未成年者との特別養子縁組につき,申立人ら及び未成年者の居住地である日本に国際裁判管轄権があるとした上,養親の本国法上の裁判管轄のルールに準拠法のルールを読み込み,いわゆる隠れた反致を認めて日本法を適用し,申立てを認容した事例

【参照条文】       法の適用に関する通則法31-1

             法の適用に関する通則法38-3

             法の適用に関する通則法41

             民法817の2

             家事審判法9-1

【掲載誌】        家庭裁判月報60巻12号63頁

【評釈論文】       戸籍時報643号3頁

             戸籍時報665号25頁

             別冊ジュリスト210号14頁

 

       主   文

 

 事件本人Cを申立人両名の特別養子とする。

 

       理   由

 

第1 申立ての趣旨

   主文同旨

第2 認定事実

   家庭裁判所調査官○○○○の調査報告書を含む一件記録によれば,以下の事実が認められる。

 1 申立人(養父となる者)A(以下「申立人A」という。)と申立人(養母となる者)B(以下「申立人B」という。)は,1987年×月×日に婚姻した夫婦である。

 2 申立人Aは,アメリカ合衆国a州で出生し,現在も実母と妹は同州内に居住しているが,父はb州に居住している。そして申立人A自身は,1987年にテネシー州内の高校を卒業し,そのころ同州内で申立人Bと婚姻し,○○や○○で勤務した後,同州内にある○○学校に入学して,1995年に同校を卒業した。その後は□□として活動するようになり,1996年(平成8年)ころには申立人Bと共に来日の上,○○県○○市内で生活するようになって,今日に至っている。申立人Aは,その本国法がアメリカ合衆国テネシー州であることを前提に本件申立てを行っている。

   申立人Bは,アメリカ合衆国テネシー州で出生し,同州内の高校を卒業し,そのころ同州内で申立人Aと婚姻し,1995年には同申立人と同様,□□としての資格を有するに至った。申立人Bの実父は既に他界したが,実母や兄,妹は,現在もテネシー州内に居住している。申立人Bは,1996年(平成8年)ころ,申立人Aと共に来日し,○○県○○市内で生活するようになって,今日に至っている。申立人Bも,その本国法がアメリカ合衆国テネシー州であることを前提に本件申立てを行っている。

   申立人らは,現時点では,無期限で○○県○○市内での生活を継続する予定であって,アメリカへの帰国予定は有していない。

   また,申立人らは,現在,○○から相当額の報酬を受領し,借財は特になく,経済的に安定した生活をしている。

 3 申立人らには,1988年×月×日生まれの長女E,1990年×月×日生まれの二女F,1994年×月×日生まれの三女Gの3人の実子がいる。

   申立人らの長女は,2007年夏以降アメリカに帰国して大学に通学しているものの,高校生の二女,中学生の三女は,現在も申立人らと同居して生活している。

 4 申立人らは,3人の娘に恵まれ,養育してきたものの,かねて男児が欲しいという希望を有しており,また恵まれない子に愛情のある家庭環境を与えたいという思いから,2年位前から養子を迎えたいと考えるようになり,知人を通じて,養子縁組希望者リストへの登録を行っていた。

 5 事件本人Cは,平成18年(2006年)×月×日,○○県○○市内の○○病院において,事件本人Dの非嫡出子として出生した。事件本人Dの供述書によれば,事件本人Cの実父とは1回の付き合いだけで妊娠したとのことであり,実父の氏名職業等,その人となりは不明であって,実父からの認知も受けていない。

 6 事件本人Dは,事件本人Cの妊娠中から,精神的な疾患を抱えて通院していた上,事件本人Cの兄に当たる非嫡出子H(平成14年×月×日生)を既に施設に預けていて,体調快復後は同児を引き取って養育するつもりであったことから,事件本人Cについては,妊娠当時から,自ら養育することは困難と考えていた。そして,事件本人Cの出生後は,○○市内在住のIが主宰する民間の養子縁組斡旋機関「□□□□」のスタッフを通じて,同児を養子縁組に出すことを決意した。

   事件本人Cは,低出生体重児で誕生したほか,貧血などの治療のため,出生後も病院で過ごしていたが,平成18年(2006年)×月×日に退院し,そのまま「□□□□」のスタッフに預けられた。なお,退院時点の事件本人Cには,○○の障害が残っていた。

 7 事件本人Dは,平成18年(2006年)×月×日には,自宅を訪ねてきた「□□□□」のスタッフに対して,申立人らと事件本人Cとの特別養子縁組に同意する内容の特別養子縁組同意書,また事件本人Cが,申立人らと養子縁組をしてアメリカに移民すること,養子縁組成立時までは申立人らに事件本人Cの後見人を依頼する内容の孤児養子縁組並びに移民譲渡証明書等に署名して交付し,また事件本人Cの幸せのために養子縁組を希望し,将来これに対する異議申立てはしないこと,この養子縁組によって事件本人Dの事件本人Cに対する責任と親権がすべて終了することを承諾,同意することを含む内容の供述書を作成して,本件養子縁組に対する同意を表明した。

 8 他方,「□□□□」のスタッフから,事件本人Cの事情を知らされた申立人らは,平成18年(2006年)×月には事件本人Cを引き取り,養子として養育していくことを表明し,同月×日に,実際に「□□□□」スタッフから事件本人Cを引き取って,以後現在まで同児と同居して生活している。

   そして申立人らは,平成18年(2006年)×月×日には,当裁判所に対し,テネシー州法に基づき,事件本人Cを養子とすることの許可を求める本件申立てを行ったが,その後その申立ての趣旨を,日本法上の特別養子縁組申立てに変更する旨の申立てを行った。

 9 事件本人Cは,申立人らに引き取られた後,申立人らや3人の娘たちに大変かわいがられて養育されており,その家庭環境にもすっかりなじんで,安定した生活を送っている。事件本人Cには○○の障害があるものの,これについては医師の診察の下,近年中に手術で治療する予定であり,それ以外には特に健康上の問題もない。成育状況は順調であり,年齢相応の発達段階にあると見受けられる。

   申立人らは,今後とも事件本人Cを実子同様養育するつもりであるが,養子縁組の事実について隠し立てをするつもりはなく,成長に応じて説明をするつもりである。なお,事件本人Cに対しては,将来的には大学課程まで含めた教育の機会を与えるつもりでいる。

   これまでの経過に照らして,申立人らの監護養育態度,生活環境には何の問題もなく,申立人ら及びその娘たちと,事件本人Cとの適合性は十分である。

 10 なお,本件申立後,事件本人Dは,家庭裁判所調査官からの電話連絡に1度だけ応対したことがあったものの,その後電話(携帯電話)は不通となり,また4回にわたる文書送付に対しても何の反応も示さなかったが,現在に至るまで,本件養子縁組に対する反対の意向を表明したことがない。

第3 当裁判所の判断

 1 申立人ら及び事件本人Cは,いずれも日本国内に居住していることから,本件についての国際裁判管轄権は我が国にあると認められる。

 2 本件養子縁組に関する準拠法は,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)31条1項前段により,養親となるべき者,すなわち申立人らの本国法が適用される。

   申立人らはいずれもアメリカ合衆国の国籍を有しているが,同国は地域(州)により法を異にする国であるため,通則法38条3項により,各申立人の本国法が同国内のどの州法となるベきかを検討すべきところ,同国内には,その適用法を統一して指定する規則がないと認められるから,当事者に最も密接な関係がある地域の法が,その本国法になると解すべきである。

   認定事実によれば,申立人Aは,その出生地こそテネシー州ではないものの,同州内の高校を卒業し,同州出身の申立人Bと同州内で婚姻し,同州内での○○学校も卒業して同州内で□□としての資格を得,申立人A自身も同州法を自身の本国法として本件申立てを行っているのであるから,同申立人と最も密接な関係がある地域とはテネシー州であると認められ,同申立人の本国法は,アメリカ合衆国テネシー州の州法であると認める。

   また,申立人Bは,テネシー州で出生し,同州内の高校を卒業し,同州内で申立人Aと婚姻し,現在も実母や兄,妹は同州内に居住しており,同申立人自身が同州法を自身の本国法として本件申立てを行っているのであるから,同申立人と最も密接な関係がある地域もテネシー州であって,同申立人の本国法も,アメリカ合衆国テネシー州の州法であると認める。

 3 ところで,申立人らはいずれも平成8年(1996年)ころから日本国の○○県○○市内に居住し,現時点では,無期限で同所での生活を続けるつもりであって,アメリカに帰国する予定はないというのであるから,英米法上にいうところの住所(そこを本拠〔home〕とする意思〔永住意思〕をもって居住する地域)たるドミサイル(domicile)は,日本国内にあると認められる。

   そして,申立人らの本国法であるアメリカ合衆国テネシー州法(36-1-114)では,養子縁組の場合の裁判管轄権は,①養子縁組の申立人の居住地,②子の居住地,③子が公的機関による保護を受けるに至った時の居住地,④子の監護権又は後見の権利を有する公認機関もしくは子の引渡を受けている公認機関の所在地,のいずれかにあることが規定されており,他方で,アメリカ合衆国のアメリカ抵触法第2リステイトメント(Restatement of The Law Second Conflict of Laws 2d)289条によれば,裁判所は,養子縁組の裁判につき,常に,当該法廷地法を適用する旨定めているところである。

   そうすると,養親となるべき申立人らのドミサイルも,また養子となるべき事件本人Cの住所(すなわち,英米法上のドミサイル)も日本国内にあり,他方で事件本人Cの監護権や後見業務に携わっている公認機関があるとはいえない(少なくとも,テネシー州内に,かかる公認機関はない)本件においては,テネシー州法上も,その裁判管轄権は我が国のみにあることとなる(したがって,現にテネシー州内に居住しておらず,ドミサイルも日本国内に有している申立人らとしては,現状のままでは,本国であるアメリカ合衆国テネシー州において,本件養子縁組を求める裁判を提訴することができず,当然準拠法をテネシー州法とする養子縁組裁判も受け得ない可能性が高い。)。

   かかる場合においては,裁判管轄権を有する法廷地法をもって事件審理の準拠法とする旨定めた前記アメリカ抵触法第2リステイトメント289条の法理に従い,本申立てについてのいわば専属的な裁判管轄権のある日本法が,その準拠法として適用される(すなわち,いわゆる「隠れた反致」理論により,申立人らの本国法(テネシー州法)上,日本法ヘの反致が成立する。通則法41条)と解するのが相当である。またこのように解しても,それが申立人らの本国法(テネシー州法)上の公序に反するとは認められないし,養子となるべき者の保護,利益を勘案して決されるべき日本法に基づく養子縁組裁判の結果は,申立人らの本国法(テネシー州法)上も十分承認され得るものと解される。

   となれば,結局本件養子縁組に関する準拠法は,日本法ということになる。

 4 申立人らは,日本法の適用を前提とする場合,事件本人Cを特別養子とすることを希望してその旨の趣旨変更申立てをしたので,日本国民法817条の2以下の規定により,その特別養子縁組(養子と実親その他の実方との親族関係が終了する縁組)を成立させることが相当であるかを検討する。

   前記認定事実によれば,申立人らはいずれも満25歳以上であり,事件本人Cは平成18年(2006年)×月×日の本件申立時点で未だ6歳未満であることが明らかであるから,その年齢要件はいずれも満たしている。

   事件本人Cの実母である事件本人Dは,本件申立て以前の平成18年(2006年)×月×日の時点で,既に申立人らと事件本人Cの特別養子縁組に同意する旨の意思表明をして,その旨の文書も作成しており,その後現在までには,当家庭裁判所調査官からの連絡にも何ら返答を寄こさないなど,同女との連絡自体が困難な状態に陥っているが,いずれにしても現在に至るまで,その同意の意思を撤回したと認められる事情はなく,同女は現在もなお本件特別養子縁組に同意しているものと認められる。

   さらに,事件本人Dは,事件本人Cの出産以来,同児を自ら養育したことはなく,またその意思もなく,経済的にも環境的にも,養育が可能な状況にあるとも認められないから,実母たる事件本人Dによる監護は,著しく困難かつ不適当であって,事件本人Cの利益のため,特に特別養子縁組をする必要性があると認められる。

   そして,申立人らは,平成18年(2006年)×月×日の本件申立て後,既に6か月以上の間,手ずから事件本人Cを監護養育してきたところ,これまでの期間中における申立人らと事件本人C,また申立人らの実子である長女,二女,三女と事件本人Cとの関係は大変良好で,申立人らと事件本人Cとの適合性には申し分がない。

 5 以上によれば,本件では,特別養子縁組を認めるための法的要件はすべて充足しており,事件本人Cの利益のためにも,同人を申立人らの特別養子とすることが特に必要であると認めるから,本件申立てを認容するものとし,主文のとおり審判する。(家事審判官 荻原弘子)

 

 

 

離婚親子関係の国際私法上の常居所

国際私法判例百選第3版4事件

婦関係調整調停申立事件

【事件番号】    水戸家庭裁判所審判/平成2年(家イ)第565号

【判決日付】    平成3年3月4日

【判示事項】    1 妻(フランス国籍)から夫(イギリス国籍)に対する、離婚及び子(イギリス、フランスの二重国籍)の親権者指定調停申立事件において、相手方の住所地国を日本として我が国に国際裁判管轄権を認め、離婚については、法例16条、14条により夫婦に最も密接な関係がある地を日本として我が国の民法を適用し、親権者の指定については、法例28条1項、21条により子に最も密接な関係がある国をイギリスとして、同国法を適用した事例

          2 上記の調停申立事件において、離婚及び親権者を相手方父と指定する旨の合意はあるが、離婚の準拠法である日本民法とは異なり、親権者指定についての準拠法であるイギリス法には協議ないし調停離婚制度がないから、離婚と併せて親権者の指定をなすには調停で行うのは相当でないとして、家事審判法24条により調停に代わる審判をした事例

【参照条文】    法例14

          法例16

          法例21

          法例28-1

          家事審判法24

【掲載誌】     家庭裁判月報45巻12号57頁

【評釈論文】    ジュリスト1085号110頁

          別冊ジュリスト133号24頁

          別冊ジュリスト133号128頁

 

       主   文

 

 1 申立人と相手方を,離婚する。

 2 当事者間の長男デュポン・ピエール・コティー(DUPONT PIERRE COTY 1979年8月21日生)の親権者を相手方と定める。

 

       理   由

 

1 申立人は,主文同旨の審判を求めた。

2 家庭裁判所調査官○○○○及び同○○○○作成の調査報告書及びその余の資料及び本調停の経過を総合すれば,次の各事実を認めることができる。

 (1) 申立人は,フランス国籍を有するものであるが,同人が20歳ころたまたまスリランカにおいて相手方と出会い,行動を共にするようになり,2~3ケ国を経て1979年5月日本に相手方とともに来て,那珂湊市に居住した。そして1979年8月21日当事者間に長男のデュポン・ピエール・コティー(DUPONT PIERRE COTY)が出生した。その後申立人と相手方はビザを更新しながら3年8月を日本で過ごし,1983年にヨットを完成させて親子3人で世界一周の船旅に出た。申立人らは,ヨーロッパ,カナリア諸島,南アフリカ,南アメリカ等を経て1990年5月に日本の小笠原群島に到達して世界一周の船旅を終えた。この間,フランスに2年間,ケニアに1年半及び仏領ギニアに1年滞在し,同地でそれぞれ働いて生活費を得ていた。申立人らは,長男のためにも正式に婚姻していたほうが良いと考えるようになり,1990年4月22日にグァムにおいて婚姻した。

 (2) 相手方は,イギリス国籍を有するものであるが,1963年に軍役を退き日本に観光目的で渡来し,半年日本に滞在し,1967年ころその前年にメキシコで婚姻した前妻をつれて来日し,東京に居住して,読売新聞の英字版のコピーライターとして稼動し,その間に長女フランソワをもうけている。1970年ころ一度英国に帰り1年前後してまた来日し,今度は水戸市に居住して,ヨットの作製を始めたが前記妻とそのころ離婚し,相手方は長女と共に自作のヨットを住居として,那珂湊市で生活をしていた。そして1977年長女とともに自分のヨットでイギリスに船出し,その途中で申立人とたまたま出会い生活を共にするようになった。相手方はその後申立人と共にイギリスに行き,一旦別れた妻のところにいた長女を連れてまた1979年5月日本に帰り,以後は申立人と相手方はヨットの製作や語学教師をしながら生活していた。その間長男ピエールが出生した。その後3年9月近く申立人と相手方とピエールは日本で生活し,1983年3月自作のヨットで3人で世界一周の船旅に出かけ,また日本に来たものである。

 (3) その後また前記の如く申立人らは,1983年に世界一周をして1990年に来日し,那珂湊市に居住したが,申立人が病気にかかったこともあり,申立人において相手方との前記のような放浪的な生活を嫌うようになり,結局離婚すること及び長男は相手方が養育監護することに当事者間で合意ができた。なお,今後は申立人は引き続き日本に居住し,相手方との離婚成立後には,日本人である田中修司と結婚する予定であり,他方相手方は1年前後は引き続き日本に留まるつもりであるが,いずれ長男を連れて,アフリカのケニアに行き,同所において事業をしながら生活してゆくものの如くである。

 (4) 申立人と相手方は,離婚することについて合意があり,かつ,長男についても相手方が今後監護養育するについて合意ができている。

3 裁判管轄

  前認定の如く,相手方は,1963年に始めて来日して以来,1967年から約3年間妻子とともに日本に滞在し,かつ,東京において定職を得て稼働し,その後も1971年にはさらに3回目の来日をなし,その時は,水戸市及び那珂湊市において相手方の長女とともに自作のヨットで船上生活をしながら語学教師等をしつつ約7年間も日本において生活を続け,1978年5月イギリスへの航海の途中に申立人と知り合い生活をともにするようになり,1979年5月にまた日本に戻って申立人及び長男と生活し,その約3年半後に日本を出て,ヨットで世界一周旅行に出て世界各地を転々とし,1990年5月に申立人らとともにまた日本に戻り,現在の肩書住所地において長男とともに生活しており,ここ1年前後は日本に留まる予定である。

  ところで我国の裁判所が本調停事件について管轄権を有するか否かの観点から見るに,以上の相手方の生活状況に鑑みるとき相手方には,右の意味における住所を我国に有するものということができ,かつ,相手方は本調停に出頭して,主文同旨の内容について申立人と合意をなしており,相手方の前記の住所地を考慮し,結局我国裁判所が本調停について管轄権を有する。

4 準拠法

 (1) 離婚について

   法例16条によれば,同法14条が離婚に準用されるところ,同法14条によれば,夫婦の本国法が同一であるときは,その法律により,その法律がないときは,夫婦の常居所地法が同一であるときは,その法律によるが,以上のいずれの法律もないときは,夫婦に最も密接な関係にある地の法律によることとされている。ところで,本件においては,当事者はその本国を異にし,また,申立人の日本における滞在期間は,1979年5月から3年半余及び今回の1990年5月以降現在までのもののみであり,申立人は,その後相手方としばらくして別居しており,以上の生活状況からすると,法例に14条及び16条にいう常居所を日本に有するとはいえないので,結局本件に適用さるべき法律は,夫婦に最も密接な関係にある地の法律ということとなる。

   ところで,相手方は,前記のとおり日本との関わりを持ち,1963年に初めて日本に来てからは,その後1967年から3年,1971年から約7年,1979年から3年半余日本に滞在して語学教師等をして生活し,日本を離れていた時は,殆どヨットで世界を転々と巡りながら生活してきており,ここ20年間は日本以外には落ち着いて生活したことがないような生活状態であった。以上であるとすれば,少なくとも現時点においては,相手方は法例14条及び16条にいう常居所を日本に有するということができ,その他の前記の日本と相手方との関わり具合及び申立人も今後日本に引き続き居住し,日本人と早期に婚姻する予定であること等を勘案すると,夫婦に最も密接な関係にある地の法律は本件においては,日本法に他ならないということができる。以上であるとすれば,本件には日本民法及び家事審判法等が適用されることになるところ,当事者間において離婚の合意ができており,調停期日に当事者が当家庭裁判所に双方出頭してその旨の合意がなされたので,申立人と相手方の離婚を定めるものである。

 (2) 次に当事者間の長男の親権者の定めについては,法例21条によることになるところ,右長男はイギリス及びフランスの二重国籍を有するところ,法例28条1項によれば,当事者が常居所を有するときは,その国の法律により,もしその国がないときは,当事者に最も密接な関係のある国の法律に依るべきところ,本件においては,当事者間の長男については常居所は少なくともフランス及びイギリスには存しないから,本件においては,法例28条1項にいう当事者に最も密接な法律によるべきところ,本件当事者間で長男の養育監護は,今後父である相手方がこれをなすことに合意があり,かつ,長男本人においてもこれを了解して相手方と現在生活を共にしており,今後相手方と長男はいずれ英語圏のケニアに居住し,右長男に対しイギリス人としての教育を受けさせたいとの意向である。そうであるとすれば,法例28条1項にいう当事者に最も密接な法律は,本件の場合イギリス法にほかならず,しかして,法例21条によれば,長男の父である相手方はイギリス国籍を有し,長男の前記密接関連国と同一であるから,結局イギリス法によることとなる。しかして,イギリスにおける子の親権,監護権の帰属の問題についての関係法規であるところの未成年者後見法(GUARDIANSHIP OF INFANTS ACT),婚姻事件法(MATRIMONIAL ACT)及び婚姻訴訟法(MATRIMONIAL PROCEEDINGS ACT)等によれば,夫婦の離婚の際裁判所は,子の福祉を考慮して夫または妻のいずれかを,子の親権者とすることができるところ,本件においては,申立人及び相手方の前記の合意及び子の福祉に鑑み,相手方を右長男の親権者とすることを相当とする次第である。

5 本件は,申立人と相手方の離婚については法例16条及び14条により結局密接関連としての日本民法が適用されるので,当事者間に離婚の合意があるときは,調停離婚が許されるところであるが,他方子の親権者の指定については法例21条により,子の密接関連国であるイギリス法が適用されるところ,同国法においては我が国におけるが如き全くの協議離婚あるいは調停離婚制度は無いといってよく,親権者の指定は裁判所がなすこととしているので,申立人と相手方の離婚と子の親権者の裁判所による指定を同時になす関係上,本件を調停によらしめるのは相当でないので,当裁判所は,当調停委員会を構成する家事調停委員川崎準雄及び同藤須賀子の各意見を聞いた上,家事審判法24条により,調停に代わる審判をし,主文のとおり審判する。(家事審判官 櫻井康夫)

〔編注〕事件関係人の人名は仮名にした。

 

 

 

 

外国法不明の場合の処理 ジンバブエ法による離婚 札幌地裁昭和59年

国際私法判例百選 第2版 117事件 第3版104事件

離婚請求、同反訴請求事件

札幌地方裁判所判決/昭和56年(タ)第62号、昭和56年(タ)第75号

昭和59年6月26日

【判示事項】       夫の本国法(ジンバブエ国離婚原因法)の一部しか判明しないとして、判明している部分の内容を手懸りに不明な部分を条理によって補い、有責配偶者である夫から妻(日本人)に対する離婚請求を棄却し、妻の反訴離婚請求を認容した事例

【参照条文】       法例16

【掲載誌】        家庭裁判月報37巻7号65頁

             判例タイムズ545号267頁

             判例時報1140号123頁

【評釈論文】       ジュリスト861号146頁

             ジュリスト臨時増刊862号266頁

 

       主   文

 

一 原告(反訴被告)と被告(反訴原告)とを離婚する。

二 原告(反訴被告)と被告(反訴原告)との間の長男シャリング・アルデイア・アラジン(昭和五五年一月二日生)の親権者を被告(反訴原告)と定める。

三 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

四 訴訟費用は本訴反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

 

       事   実

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 原告(反訴被告、以下「原告」という。)

  1 原告と被告(反訴原告、以下「被告」という。)とを離婚する。

  2 原告と被告との間の長男シャリング・アルデイア・アラジン(昭和五五年一月二日生)の親権者を原告と定める。

  3 被告の反訴請求を棄却する。

  4 訴訟費用は本訴反訴を通じて被告の負担とする。

 二 被告

    主文と同旨

第二 当事者の主張

 〔本訴請求について〕

 一 本訴請求の原因

  1 原告は、一九五〇年(昭和二五年)一〇月一九日、イギリスの植民地であつた南ローデシアにおいて生まれ、イギリス国籍を有していたが、一九八〇年(昭和五五年)四月一八日の独立によりジンバブエ国籍を有するに至つた男性である。

    被告は、昭和二六年一一月五日に生まれた日本国籍を有する女性である。

  2 原告と被告は、昭和五四年五月六日及び同年一〇月一六日に日本において結婚式を挙げ、同年一〇月二日に札幌市○○区長に対して婚姻の届出をした夫婦である。

  3 原告と被告との間に、昭和五五年一月二日、長男シャリング・アルデイア・アラジン(以下「シャリング」という。)が生まれたが、シャリングは、ジンバブエ国籍を有する。

  4 以下に述べるとおりの事情で、原告と被告との間の婚姻生活は現在破綻しているので、原告は、被告との離婚を求める。

   (一)シャリングが生まれた昭和五五年一月ころ、原告が被告に対し、親子三人でジンバブエに帰つて生活したい旨の意向を表明したところ、被告がシャリングを被告の両親に預けて二人でジンバブエに帰ることを主張したため、原告と被告との間に見解の相違が生じた。

  (二)原告と被告は、右の見解の相違や感情的な行き違いが原因で、昭和五六年四月ころはほとんど毎日夫婦間に口論が絶えないようになり、同月一七日、離婚について合意のうえ別居するに至つた。

 5 原告はイスラム教徒であるが、シャリングにもイスラム教の教えを身につけさせることが本人のしあわせにつながること、シャリングが原告と同じジンバブエ国籍を有し、被告の有する日本国籍を有していないこと、被告及びシャリングが現在同居している被告の両親及び姉妹は、混血児であるシャリングに対して偏見を抱いていること、被告には物事を安易に考え、結果的に他人の信頼を裏切るという生活態度が見受けられ、子の養育には適さないこと等の事情から、原告がシャリングの養育に当たるのが同人の健全な成長にとつて好ましいので、同人の親権者を原告と定めるとの判決を求める。

二 本訴請求の原因に対する認否

1 1ないし3の事実はいずれも認める。

  2 4のうち、原告と被告との間の婚姻生活が現在破綻していること及び昭和五六年四月一七日に離婚について合意のうえ、原告と被告が別居するに至つたことはいずれも認め、その余の事実は否認する。

 3 5のうち、原告がイスラム教徒であること及びシャリングが原告と同じジンバブエ国籍を有し、被告の有する日本国籍を有していないことはいずれも認め、その余の事実は否認する。

〔反訴情求について〕

一 反訴請求の原因

1 本訴請求の原因の1ないし3と同旨

2 以下に述べるとおりの事情で、原告と被告との間の婚姻生活は現在破綻しており、それは原告の責に帰するものであるから、被告は原告との離婚を求める。

 (一)原告は、被告に対し、昭和五四年四月末ころ、婚姻の申込みをしたが、その際、原告は、被告の両親に対し、日本語を習得して定職につくこと及び将来とも日本で生活することを約束し、更に、原告の兄から送金があるうえ、インド人の友人からインドの服や民芸品を輸入し販売して収入を得ることとするので生活費の心配はないと述べた。

   ところが、原告は、日本語を習得したのみでその余の約束を守らず、生活費についても、昭和五四年八月ころから英会話教師のアルバイトをして月収七、八万円を得るのみであつたので、生活費の約二分の一及び原告のビザ取得のためのインド、韓国への旅費等は被告の実家の負担となつていた。

 (二)原告と被告は、昭和五四年五月七日から、札幌市○○区○××条○××丁目に存するアパートを新居として婚姻生活を開始したが、原告は、同年六月ころから、右のアパートの一階に住んでいた管理人の訴外君塚雅子(以下「訴外君塚」という。)と肉体関係を結び、訴外君塚を妊娠させた。被告は、同年一一月初めころ、右の事実を知つたが、そのころ、昭和五五年一月に出産予定のシャリングを妊娠していたので、精神的、肉体的に著しい苦痛を被つた。しかし、被告は、被告が既にシャリングを妊娠していたこと、訴外君塚が妊娠中絶手術を受けたこと及び原告が反省し、訴外君塚との関係を断つと誓つたことを考慮して原告を許し、原告と被告は、昭和五四年一一月一一日、住居を札幌市○区○○○××条×丁目に存するアパートに移した。

  (三)原告は、昭和五四年一一月中旬、被告がその友人と勝手にコンサートに出かけたといつて、妊娠中の被告を殴打した。

  (四)被告は、昭和五四年一一月の転居後は原告と訴外君塚との関係が絶たれたものと信じていたが、原告は、その後も訴外君塚との肉体関係を継続していた。被告は、昭和五五年二月に訴外君塚から、原告の子を再び懐妊したので中絶手術を受けることを告げられてこの事実を知り、原告を詰問したところ、原告もこれを認めた。

    被告は、原告に対し、離婚を申し入れたが、原告が涙を流して被告の許しを求め反省を誓つたこと及びシャリングの将来を考えて我慢することとした。

  (五)しかし、原告の生活態度はその後も改まらず、週に四、五回は深夜一二時ころまで帰宅せず、被告がその理由を尋ねても原告は答えず、「お前が口を出すことではない。」などとどなつて被告を殴打し、被告の眼鏡が壊れることもあつた。また、原告から被告に渡される生活費は、月額約八万円で生活も苦しかつた。

  (六)原告は、原告と被告が昭和五六年一月に被告の実家を訪問している際、電話の受話機を誰がとるべきかというささいなことで被告と口論のうえ、被告を数回殴打して一人で帰宅し、翌日、被告に対して電話で、「もう日本にいたくないからアメリカに行く。ついてくるなら帰つてこい。」などと一方的に言い放つた。

 (七)原告は、現在、訴外西方陽子と同居している。

 (八)被告は、以上のとおりの原告による度重なる不貞行為、暴力行為、背信行為等が被告の我慢の限度を超えていたので、これ以上原告と婚姻生活を継続することは困難であると判断し、昭和五六年四月一七日、シャリングを連れて家を出て、被告の実家で生活している。

 3 幼い子にとつて最も必要なものは、母親の愛情であること、シャリングは、昭和五六年四月一七日の原告と被告の別居時から現在まで被告の実家で被告及びその両親と妹らの厚い愛情の下に養育されているが、その生活環境は、原告と共に生活する場合に比して格段に恵まれていること、被告は、昭和四七年三月に○○○○○短期大学を、昭和五二年三月に財団法人○○○・○○○○文化財団アジア・アフリカ語科を修了し、中学校教諭二級普通免許及び栄養士免許を取得しており、被告においてシャリングの養育をすることが経済的にも可能であること等の事情から、被告がシャリングの養育に当たるのが同人の健全な成長にとつて好ましいので、同人の親権者を被告と定めるとの判決を求める。

二 反訴請求の原因に対する認否

 1 1の事実は認める。

 2 2について、冒頭部分のうち、原告と被告との間の婚姻生活が現在破綻していることは認め、その余の事実は否認する、(ハ)のうち、将来とも日本で生活することを約束したこと、原告の兄から生活費の送金があると原告が述べたこと、原告の得た生活費が月額七、八万円であつたこと、インド及び韓国への旅費を被告の実家が負担したことはいずれも否認し、その余の事実は認める、(二)のうち、原告と被告が昭和五四年五月七日から原告主張の住所で婚姻生活を開始したこと、原告と訴外君塚との間に同年九月から一二月ころまで肉体関係があつたこと及び原告と被告が同年一一月一一日に原告の主張する住所に移転したことはいずれも認め、その余の事実は否認する、(三)ないし(五)の事実はいずれも否認する、(六)のうち、昭和五六年一月に原告が被告を殴打したことは認め、その余の事実は否認する、(七)の事実は否認する、(八)のうち、被告が昭和五六年四月一七日にシャリングを連れて家を出て被告の実家で生活していることは認め、その余の事実は否認する。

   3 3のうち、幼い子にとつて母親の愛情が必要であること、シャリングが昭和五六年四月一七日から現在まで被告の実家で生活していること及び被告が昭和四七年三月に○○○○○短期大学を、昭和五二年三月に財団法人○○○・○○○○文化財団アジア・アフリカ語科を修了し、被告主張の各免許を取得していることはいずれも認め、その余の事実は否認する。

 第三 証拠〔略〕

 

       理   由

 

 一  〔証拠略〕及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認めることができ、原告及び被告の各本人尋問の結果中、この認定に反する部分は措信し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

  1 原告は、一九五〇年(昭和二五年)一〇月一九日、イギリスの植民地であつた南ローデシアにおいて生まれ、イギリス国籍を有していたが、昭和五二年九月、南ローデシアを旅行中の被告(昭和二六年一一月五日生まれの日本国籍を有する女性)と知り合い、文通の後、昭和五四年二月下旬、被告と婚姻する目的で来日した。

   原告と被告は、昭和五四年五月六日に北海道中川郡○○町に存する被告の実家においていわゆる日本式の結婚式を挙げ、同年一〇月二日に札幌市○○区長に対して婚姻の届出をし、同月一六日に東京都○○区に存する○○○○○○・センターにおいて原告の信仰する宗教であるイスラム教による結婚式を挙げた。

 原告と被告との間には、昭和五五年一月二日に長男シャリングが生まれた。

 南ローデシアが一九八〇年(昭和五五年)四月一八日にイギリスから独立し、ジンバブエとなつたため、原告及びシャリングは、現在、ジンバブエ国籍を有する。

2 原告と被告とは、昭和五四年五月七日から、札幌市○○区○××条○××丁目に存するアパートを新居として婚姻生活を開始したが、原告は、同年七月ころから右のアパートの一階に住んでいた管理人の訴外君塚と肉体関係を結び、同人を妊娠させた。被告は、同年一一月初めころ、右の事実を知つたが、そのころ、昭和五五年一月に出産予定のシャリングを妊娠していたので、精神的にはもとより肉体的にも大きな苦痛を受けた。しかし、被告は、被告が既にシャリングを妊娠していたこと、訴外君塚が妊娠中絶手術を受けたこと及び原告が反省し、訴外君塚との関係を断つと誓つたことを考慮して原告を許し、原告と被告は、昭和五四年一一月一一日、住居を札幌市○区○○○××条×丁目に存するアパートに移した。

3 原告は、昭和五四年一一月の転居後も昭和五五年一月ころまで訴外君塚との肉体関係を継続していたが、被告は、訴外君塚から、同年二月初めころ、原告の子を再び妊娠したので中絶手術を受ける旨告げられてこの事実を知り、原告に対する信頼の念を著しく損つたが、シャリングの将来を考えて我慢することとした。

4 原告は、被告に対し、婚姻生活を始めるに際し、原告の兄から送金がある旨及びインド人の友人からインドの民芸品等を輸入し販売して収入を得ることができる旨の話をしていたが、これらはいずれも実現せず、昭和五四年七月ころから昭和五五年三月までの間は、英会話教師のアルバイトをして月額七、八万円の収入を生活費として被告に渡すのみであつたので、新居とした前記のアパートの敷金や毎月の生活費の不足分等は、被告の実家からの援助に頼つていた。

5 原告は、昭和五五年四月から、訴外○○鉄筋株式会社に就職するとともに、○○○○○高等職業訓練校に入校し、昭和五六年三月二八日、同校の普通訓練課程建設科を修了し、職業訓練法一二条に基づく技能士補の資格を取得した。

  原告は、被告に対し、昭和五五年四月から後記のとおり原告と被告とが別居した昭和五六年四月までの間は、訴外○○鉄筋株式会社からの給料と英会話教師のアルバイト収入の中から月額平均二〇万円を生活費として渡しており、原告と被告の生活費としてはほぽ十分な額であつた。

6 被告は、昭和五五年一月二日のシャリングの出生後も原告の帰宅が深夜になることが週数回あること等の事情から、原告に対する信頼の念を回復するに至らず、原告と被告は、離婚することについて合意のうえ、昭和五六年四月一七日、別居することとし、被告は、シャリングを連れて被告の実家に身を寄せ、現在に至つている。

7 原告は、昭和五四年五月七日から昭和五六年四月一七日の別居までの間に、夫婦間の口論のすえ、被告に対して平手で殴打する等の暴力を振るつたことが何度かあつた。

8 原告は、前記の別居後は訴外○○鉄筋株式会社の独身寮に入寮して勤務していたが、次第に勤務態度が悪くなり、欠勤が多くなつたことから、昭和五六年八月、解雇されたが、右の独身寮に荷物を置いたままにしていたので、被告は、訴外○○鉄筋株式会社から、原告の荷物を引き取るよう要求された。

 9 前記の別居時から現在までの被告及びシャリングの生活費は、被告の父親が負担しており、この間、原告は、被告に対し、合計約二五万円を交付したのみである。

 10 シャリングは、現在満四歳であるが、日本語を話し、衣食住生活とも他の日本人の子供と同様に育てられている。被告は、栄養士及び中学校教諭二級普通免許を有しており、被告において将来シャリングの養育をすることが経済的にも可能である。

二 前判示のとおり、原告は現在ジンバブエ国籍を有する男性であり、被告は日本国籍を有する女性であるところ、法例一六条本文によれば、離婚の準拠法は、離婚原因発生当時の夫の本国法によると定められているので、本件離婚の準拠法は、本件離婚原因発生当時(前記一の1ないし10の事実を総合すると、昭和五四年七月から現在までと解すべきである。)にジンバブエ(昭和五五年四月一七日まではイギリス領の南ローデシア、以下同じ)において施行されている離婚に関する法であることになる。

  しかるに、右のジンバブエ法の内容は、原告及び被告双方の努力によつても明らかにすることができず(特に、被告訴訟代理人は、弁護士法二三条の二に基づき札幌弁護士会に対し、昭和五七年一〇月五日、ジンバブエ大使館からジンバブエ法の内容の報告を求めるべく照会の申出をし、これを受けて札幌弁護士会は、同大使館に対し、報告を求めたが、現在に至るもその報告を受けていない。)、当裁判所の職権による調査によつて、一九四三年(昭和一八年)のローデシア婚姻訴訟法(以下「一九四三年法」という。)及び一九七四年(昭和四九年)の同法の一部改正法(以下「一九七四年一部改正法」という。)の内容を知るに至り、これらの成文法が現在までジンバブエにおいて効力を有していることが判明したが、一九四三年法は、離婚の要件、効力、手続等の全般を規定したものではなく、特に離婚の要件については、一九四三年当時離婚原因とされていた事由に追加すべき事由を定めたものにすぎないものであるところ、一九四三年当時離婚原因とされていた事由については、当裁判所もこれを明確にすることができず、近い将来明確にすることも期待し得ない状況にある。すなわち、本件離婚の準拠法の内容は、断片的に判明している部分はあるものの、その正確な全体像は判明しないものといわざるを得ない。

  このような場合には、判明しているジンバブエ法の内容を手がかりにしつつ、不明な部分を条理によつて補い、本件離婚請求の当否を判断することとするのが相当である。そこで、一九七四年一部改正法によつて改正された一九四三年法を検討すると、その二条、三条及び一六条には、別紙「ジンバブエ国婚姻訴訟法(抄)」のとおりの規定が存するところ、これらの規定を手がかりとすると、夫婦の婚姻関係が破綻しその回復の見込みがないときには、夫婦の一方から他方に対する離婚請求を原則として認めるが、婚姻関係の破綻を導くについて、専ら又は主として責任のある者からの離婚請求は許さないものとするのが、条理に適う措置というべきである。

 以上の観点から本件を見るに、前判示一の2ないし9の事実を総合すると、原告と被告との間の婚姻生活は、現在、回復し難い程に破綻してしまつていることは明らかである。また、宗教、言語、生活習慣等の異なる原告と被告にとつて、婚姻生活を維持して行くことは、そうでない夫婦と比較して格別の努力を要するであろうこと、特に、外国人である原告において日本での生活に慣れ、仕事をし収入を得ることにかなりの困難が伴つたであろうことは推測するに難くないが、これらの事情を最大限に糾酌しても、前判示一の2ないし9の事実を総合すると、原告と被告との間の婚姻生活が破綻するに至つた主な責任は、原告にあるものというべきであるから、前記の条理によつても、また我が民法七七〇条一項五号によつても(法例一六条但書参照)、原告の離婚請求を失当として棄却し、被告の離婚請求を正当として認容すべきである。

三 そこで、原告と被告との間の未成年の子シャリングの親権者の指定について検討する。

  父母が離婚する場合の未成年の子の親権ないし監護権の帰属に関する準拠法については、離婚に伴う問題として離婚の準拠法(法例一六条により離婚原因発生時の夫の本国法)によるとの説と親子関係の問題として親子間の法律関係の準拠法(法例二〇条により父の本国法)によるとの説が対立しているが、本件においては、いずれの説によつても、一九七四年一部改正法によつて改正された一九四三年法によることになるが、同法は、八条において、別紙「ジンバブエ国婚姻訴訟法(抄)」のとおり規定しているので、裁判所は、離婚の裁判において、諸般の事情を考慮のうえ、子の身上の監護及び財産の管理に当たる親権者の指定をすることができるものと解すべきである。

  そして、前判示一の9及び10の事実、原告が昭和五七年一二月一三日付けの準備書面においてシャリングの親権者を被告とすることに同意すると述べていること、その他諸般の事情を考慮すると、母である被告を親権者と定めるのが相当である。

  なお、シャリングは、前判示のとおり、ジンバブエ国籍を有し、被告と同一の日本国籍を有しないが、この点は、被告を親権者と定めることにつき障害となるものではない(国籍法三条、六条二号により、シャリングは、法務大臣の許可を得て帰化によつて日本国籍を取得することが可能である。)。

四 以上の次第で、原告の離婚請求は失当であるから棄却し、被告の離婚請求は理由があるから認容し、親権者の指定については主文のとおり定め、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判官 田中 豊)

  ジンバブエ国婚姻訴訟法(抄)

二条(1)裁判所は、次の条件が満たされる場合でなければ、悪意の遺棄を理由とする離婚の請求を認容する終局判決をしてはならない。

 (a)婚姻開始の口から少なくとも三年が経過し、かつ

  (b)被告が原告を、判決宣告日の直前少なくとも六か月間継続して遺棄しているとき

 (2)前項の規定は、配偶者の一方が他方に対し、三年間の婚姻期間と六か月間の遺棄期間が経過する前に、離婚の請求をも含めた婚姻関係上の権利回復の訴えを提起することを制限するものではない。

 (3)原告が、婚姻関係上の権利回復の訴えにおいて、離婚の請求もし、かつ次の(a)及び(b)が立証された場合には、裁判所は、完全な自由裁量によつて、婚姻関係上の権利を回復すべき旨の仮判決をすることなく、離婚の請求を認容する終局判決をすることができる。

 (a) 被告が原告を、訴え提起の直前少なくとも三年間継続レて遺棄しており、かつ

  (b)被告が訴状の交付送達を受けたとき

 (4)裁判所は、前項の権限を行使するか否かを決定するに際し、次の事項を考慮しなければならない。

  (a)当該婚姻によつて生まれた子の利益、及び

  (b)婚姻関係上の権利を回復すべき旨の仮判決が発せられた場合に、婚姻の当事者間に和諧の生ずる合理的な蓋然性が存するか否か

  (5)(3)項における「訴え」には、婚姻関係上の権利回復を求める反訴を含む。

三条 ローデシアにおいて現在施行されている法律に基づき離婚が認容され得るすべての原因に加え、本法律の条項に従うことを条件として、次の各原因に基づき離婚は認容され得る。

 (a) 被告が不治の精神病又は精神障害にかかり、かつ離婚訴訟提起の直前一〇年間のうち、継続して又は合計して少くとも五年間看護治療を受けていたとき

 (b)被告が刑事の有罪判決を受け、かつ

   (Ⅰ) 一五年以上の懲役刑に処せられたとき、又は、

   (Ⅱ)刑事訴訟及び証拠法三二二条に基づき常習犯罪者であると宣告され、かつ右の宣告の後離婚訴訟提起の直前一○年間のうち、継続して又は合計して少くとも五年間刑務所に収容されていたとき

  (c)離婚期間中、被告が原告を婚姻生活の継続を不能にする程虐待したとき

八条(1)当該婚姻によつて生まれた未成年の子が存するときには、裁判所は、離婚の請求を認容する終局判決をする前に、子の監護、扶養、教育のため適切な用意がされているか否かを判断するために、いずれの当事者に対しても証拠を提出するよう要求することができる。

 (1a)裁判所は、前項の証拠を調べた後、次の措置をとることができる。

  (a)裁判所が子の監護にとつて最もふさわしいと判断する配偶者の一方又は他の第三者の監護の下に子を置くこと

  (b)子の適切な扶養と教育に必要であると考えられる命令を発すること

  (2)前項に基づき発せられる命令には、なかんずく、次の条項を含めることができる。

  (a)裁判所が特定する配偶者の一方の財産の用益、使用、享受又は利益が、裁判所が指定する方法、条件、期間において、子に対して又は子のために与えられるべきこと

  (b)本項に基づく命令にかかる財産の管理人として適切な者を選任すること

 (3)裁判所は、前項に基づき管理人を選任する旨の命令を発する場合には、管理人の報酬、管理人による保証の条項、管理人による収支明細書類整備の条項を内容とする命令を更に発することができる。

一六条 不貞を原因とする離婚訴訟において、配偶者の一方が婚姻後伝染性の性病に罹患した旨の証拠は、当該配偶者において婚姻開始後不貞行為をしたとの一応の証拠とされる。

〔編注〕 事件関係人の人名は仮名にした。

 

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