日本人妻とエジプト人夫の婚姻無効訴訟 東京地方平成3年
国際私法判例百選 第2版 9事件 3版 10事件 婚姻無効確認等請求事件
東京地方裁判所判決/平成元年(タ)第303号
平成3年3月29日
【判示事項】 日本人妻からエジプト人夫に対する婚姻無効確認等請求事件において、イスラム教徒に対し異教徒間の婚姻を禁止するエジプト法を準拠法として適用することは、わが国の公序良俗に反するとして、平成元年改正前の法例30条により、エジプト法の適用を排除した事例
【参照条文】 平成元年改正前法例13-1
平成元年改正前法例30
【掲載誌】 家庭裁判月報45巻3号67頁
判例時報1424号84頁
判例時報1424号85頁
【評釈論文】 戸籍時報432号44頁
ジュリスト1057号119頁
判例タイムズ臨時増刊821号164頁
主 文
一 原告の主位的請求を棄却する。
二 原告と被告とを離婚する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事 実
一 原告訴訟代理人は、主位的に(1)東京都新宿区長に対する届出によってなされた原告と被告との婚姻が無効であることを確認する、(2)訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、予備的に1原告と被告とを離婚する、(2)訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、各請求原因を次のとおり述べた。
1 主位的請求の請求原因
(一) 戸籍上、仏教徒である原告(国籍日本、昭和三五年三月三一口生)とイスラム教徒である被告(国籍エジプト、西暦一九五七年三月二一日生)が、東京都大田区長に対する昭和五九年五月九日届出により婚姻(以下「本件婚姻」という。)した旨の記載がある。
(ニ) エジプト法では異教徒間の婚姻を禁止し、これに反する婚姻を無効としてるところ、異教徒間の婚姻の禁止は双面的婚姻障害であると解されるので、被告の本国法上、異教徒間の婚姻が禁止されている以上、本件婚姻は無効というべきである。
(三) よって、原告は、本件婚姻が無効であることの確認を求める。
2 予備的請求の請求原因
(一) 仏教徒である原告(国籍日本、昭和三五年三月三一日生)とイスラム教徒である被告(国籍エジプト、西暦一九五七年三月二一日生)は、昭和五九年五月九日、日本において、婚姻の届出をした。
(ニ) 原告と被告は、昭和五九年八月下旬ころから、乙山市において同居して生活するようになり、被告は、昭和五九年一一月下旬ころより、コンピューター関係の会社で働くようになったが、勤務態度が悪く、昭和六〇年三月下旬、解雇された。その後、被告は、他の会社に勤めたこともあったが、同年四月下旬以降は定職につこうとせず、無為徒食の生活をするようになった。
(三) 更に、被告は、原告に対し、昭和六○年六月二〇日夜半、夫婦間の口論がきっかけで激しく殴打する暴力を加えた。
そのため、原告は、被告と別居するに至った。
(四) 被告は、昭和六一年八月ころ、エジプトに帰国したが、昭和六三年五月一六日、来日し、原告に対し、復縁を迫ったが、原告がこれを拒絶したため、同年六月一八日、日本から出国した。
(五) 原告は現在被告との婚姻関係を継続する意思はない。
(六) よって、原告は、日本民法七七〇条一項五号に基づき、被告との離婚を求める。
二 被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。
三 《証拠関係略》
理 由
一 主位的請求について
1 《証拠略》を総合すると、請求原因1(一)の事実を認めることができる。
2 婚姻の実質的成立要件の準拠法は、平成元年法律第二七号付則第二項によって改正前の法例一三条一項が適用され、各当事者の本国法となるが、イスラム教徒である被告に適用されるエジプトの法令によると、イスラム教徒である被告と仏教徒である原告との婚姻は、異教徒間の婚姻として禁止され、右婚姻は無効とされているものと解される。しかしながら、単に異教徒間の婚姻であるというだけの理由で、口本人である原告とエジプト人である被告の婚姻を無効とすることは、信教の自由、法の下の平等などを定め、保障する我が国の法体系のもとにおいては、公序良俗に反するものと解さざるを得ないので、本件においては、前記改正前の法例三〇条により前記イスラム教徒に適用されるエジプトの法令の適用を排除するのが相当である。
しかるところ、その他に本件婚姻が無効となるべき事情は認められないので、原告の主位的請求は理由がない。
二 予備的請求
1 《証拠略》によると、請求原因2の各事実を認めることができる。
2 本件離婚については、法例一六条ただし書により、日本の法律が準拠法として適用されるところ、右認定の事実によると、原告と被告間に日本民法七七〇条一項五号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があることは明らかである。
したがって、原告の予備的請求は理由がある。
三 よって、原告の本訴請求のうち、主位的請求は理由がないのでこれを棄却することとし、予備的請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 尾方 滋 裁判官 西口元 野島秀夫)