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カテゴリ: 災害

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なぜこの噴火は世界を滅ぼしかけたのか?【ゆっくり解説】

火災保険金請求控訴事件 地震免責が適用されなかった例 大阪高裁平成11年

保険判例百選第2版10事件

                 大阪高等裁判所判決/平成10年(ネ)第2136号、平成10年(ネ)第2137号

                 平成11年11月10日

【判示事項】        一 保険金請求事件で、火災の原因が地震とは認められなかった事例

              二 火災が地震以外の原因で生じたが、地震のために消火車が到着できなかったために、全焼に至ったときの免責約款の適用

【参照条文】        商法665

【掲載誌】         判例タイムズ1038号246頁

【評釈論文】        判例タイムズ臨時増刊1065号207頁

 

       主   文

 

一 原判決を次のとおり変更する。

二 第一審被告日産火災海上保険株式会社は第一審原告に対し、金一五〇○万円、及びこれに対する平成七年七月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三 第一審被告大東京火災海上保険株式会社は第一審原告に対し、金三五○○万円、及びこれに対する平成七年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四 第一審原告の第一審被告らに対するその余の請求を棄却する。

五 第一審被告らの控訴を棄却する。

六 訴訟費用は、第一、二審を通じ、第一審原告の支出した費用のうち、九万円を第一審被告日産火災海上保険株式会社の負担、二一万円を第一審被告大東京火災海上保険株式会社の各負担とし、その余は各支出者の負担とする。

七 この判決は、第二、三項に限り、仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第一 申立

(第一審原告)

一 原判決を次のとおり変更する。

二 第一審被告日産火災海上保険株式会社は第一審原告に対し、金三〇〇○万円、及びこれに対する平成七年七月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三 第一審被告大東京海上保険株式会社は第一審原告に対し、金七〇〇〇万円、及びこれに対する平成七年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四 仮執行宣言

(第一審被告ら)

一 原判決中第一審被告ら敗訴部分を取り消す。

二 右取消部分にかかる第一審原告の請求を棄却する。

第二 事案の概要

一 二以下に当審における双方の主張を付加するほかは、原判決事実摘示(第二事案の概要)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決五頁四行目の「約一億円をかけて新築し」、一一頁四ないし一〇行目及び二八頁四行目の「破れる程度に強く」を削る。

二 当審における第一審原告の主張

1 本件火災の発生原因について

(一) 第一審被告らは、本件火災が通電火災であることを、合理的な事実に基づいて立証する責任を負うものであり、タバコの火の不始末が原因でないことを立証できたとしても、本件火災が通電火災であることを立証できたことにはならない。

(二) 本件火災の原因として、第一審原告の長男のタバコの火の不始末である可能性を否定することはできない。

2 免責条項の解釈について

(一) 火元火災に第三類型の適用はない。

 すなわち、マンション等分割された各建物にも価値があるような場合でなく、本件のような一戸建ての建物の場合は、「延焼拡大」という概念は適用されない。このような場合、他の建物に延焼した場合に比べると、損害額も小さいので、免責を認めなくても保険会社に過大な負担を強いることにはならない。仮に、火元火災にも第三類型が適用されるとしても、地震により拡大した損害の範囲については、保険会社が主張・立証・責任を負うべきものであるから、その損害の範囲が明らかにされないときは、保険会社は全損害について保険金支払義務を負う。

(ニ) 第一審被告らは、火元及び火元に近い家には平常時でも延焼拡大した可能性があることを理由に火災保険金が支払われ、火元から遠くなるにつれて同保険金が支払われにくくなるという不合理な結果となると主張するが、第三類型が設けられたのは、火元の火災が他の建物に類焼した場合に保険会社に莫大な負担が生じるのを避ける趣旨によるものであるから、延焼が大規模になるに従って免責の範囲が増えることとなり、何ら不合理ではない。

3 損害評価について

(一) 本件火災は、仮に平常時で消火活動に影響がなかった場合にもポヤ程度で済んだはずはなく、相当程度の火災になっていたと考えられる。これによって生じた損害は、燃螢による損害のほか、汚損や水損による損害を含めると、その評価としては全焼と異ならず、全損と評価されるべきである。

(二) 第一審被告らは、本件建物の保険価額の算定に関して、固定資産評価額を持ち出しているが、固定資産評価額が時価額でないことは明らかである。

三 当審における第一審被告らの主張

1 本件火災の発生原因について

(一) 神戸市消防局の調査によれば、本件地震発生後の火災状況は、地震発生日に集中しているが、その時間的経過は午前六時までに六〇件、午前七時までに七〇件、午前八時までに八五件(いずれも累計)と地震発生後二~三時間の間に多発し、それ以降も継続している。しかも、地震による電気火災の態様には電気器具関係、照明器具関係、電線コード類、屋内配線関係、電気設備関係等様々な態様があり、本件地震に関連した火災一七五件のうち発生源が「電気関係」と特定された火災だけでも全体の四分の一に相当する四四件、電気によって出火した疑いのあるものを含めると半数以上になる旨報告されている。

(二) 本件火災の出火原因の解明にあたって重要なことは、微視的な自然科学的解明に重きを置くあまり、事件全体の解明が失われないようにすることである。1本件火災は地震発生後二時間余り経過して出火したものであること、2本件地震の発生直後に停電があり、その後一時的通電があったところ、地震による線間短絡の火災例が現に多発し、通電から出火までを合理的に説明できること、3本件建物内の出火場所には電気以外の火源がなかったこと、4タバコの火の不始末を含む他の原因による可能性が皆無であることが重要な前提事実であり、これに経験則を当て嵌めることにより本件火災の地震起因性を推認することは十分に可能である。専門家である神戸市消防局、建設省建築研究所、科学技術庁等の行政的見解が結論として地震による通電火災と認定していることは、その意味で重要であり、一般の常識にもかなう結論であるというべきである。第一審被告らが原審においてなした本件火災の出火原因に関する主張は、第一審被告らにとって可能な限リの主張をしたに過ぎず、これが否定されるからといって、本件火災の出火原因が地震にあることが当然に否定されるものではなく、電気火災であるとの事実上の推定を覆すに足りる反証が第一審原告側からなされない以上、右事実上の推定に基づく事実認定がなされるベきである。

(三) 第一審原告の長男のタバコの火の不始末が本件火災の出火原因である可能性はない。

2 免責条項の解釈について

(一) 火災保険の場合、免責要件の解釈においては、損害評価とは異なり、部分損害、半焼損害、全損害等に分割することは予定されていない。また、地震と延焼拡大との間の相当因果関係は、延焼拡大して全焼したという結果に対して火元火災と地震とのいずれが優勢であったかによって決せられるべきであり、相当因果関係の存否はいわば悉無率(オールオアナッシング)で評価されるべきである。すなわち、現実に発生した結果に対して地震が決定的な影響を及ぼしたか否か、地震が最大の原因であったか否かという合理的な価値判断により判定されるべきものであり、仮定の事情を付け加えて判定されるべきものではない。そうしないと、火元及び火元に近い家には平常時でも延焼拡大した可能性があることを理由に火災保険金が支払われ、火元から遠くなるにつれて同保険金が支払われにくくなるという不合理な結果となる。また、火災保険と択一的関係にある地震保険との関係でも、地震保険金は「地震を直接または間接の原因とする火災によって保険の目的について生じた損害」に対して支払われるところ、分割責任論を認めると、地震を直接にも間接にも原因としない火災損害部分については地震保険金が支払われないことになるが、このような解釈を地震保険制度は想定していない。本件のような保険契約上の責任の存否の判断にあたり、分割責任を入れる余地はない。さらに、そもそも、1原因不明の火元火災及びその地震によらない延焼拡大部分の火災損害と、2地震による消防力低下等による延焼拡大部分の火災損害を一の建物について蓋然性をもって区別し、蓋然性のある損害額を推認することは保険実務として査定困難であり、このような困難を強いる解釈をとる余地はない。

(ニ) 仮に、右のような分割が免責要件の解釈において許されるとしても、免責条項は保険金支払義務の消滅要件を定めたものであるから、保険金請求者側において「免責されない範囲」を主張・立証すべき責任を負う。

3 損害評価について

(一) ボヤ程度の火災による損害が二分の一相当の焼失損害であるということはできない。

(ニ) 本件の場合、第一審原告側で書証を提出することにより容易に損害立証ができるのであるから、民事訴訟法二四八条の適用はない。

(三) 本件建物の平成六、七年度の固定資産評価額は二六〇六万四二〇○円とされているところ、固定資産税を課税するにあたっての家屋の評価方法は「再建築価格を規準として評価する方法」をとっているから、本件建物の保険価額の算定にあたり大いに参考とされるべきである。

理   由

一 出火原因

1 火災は、一般にその発生原因の証拠となるべき徴憑の多くを失うという特徴がある。このような火災のもつ特質に鑑みると、発生原因について厳格に過ぎる立証を求めることになると、主張・立証責任を負う側に酷な結果となることも予想される。しかし、証拠の多くが失われていることは、他方の当事者にとっても同様であって、その当事者が反証を提出することも困難であるし、もともとこのような性格を持つ火災について立証責任を定める保険約款が成立しているのであるから、立証の程度を緩和しすぎることは、保険、約款を無視することにもなりかねない。

 民事裁判における火災の発生原因の認定においては、様々な間接事実に基づき総合的に判断して原因の推認をするという手法をとらざるを得ない場合が多いといえる。これを本件火災に即していえば、1地震に起因する通電火災であることが合理的に説明可能であり、かつ、2他の原因が否定されることが立証されれば、一応本件地震に起因する通電火災であるとの推認が可能であるというべきであるが、結局は、右1、2の事実の立証の程度やその他の関係事実をも踏まえて総合的に判断するほかないというべきである。

2 第一審被告らは、神戸市における本件地震発生後の火災、特に電気火災の発生頻度に基づき、本件火災の発生原因も電気にあることを推定できると主張する。

乙三五号証(神戸市消防局編集、阪神・淡路大震災における火災状況・神戸市域、平成八年)によると、震災(平成七年一月一七日午前五時四六分)の日より一〇日のうちに計一五七件の建物火災が発生したこと、そのうち原因が特定できた五五件のうち、電気を原因とするものは三五件であること、そのうち電気により熱を発する器具(電気ストーブ、鑑賞魚用ヒーター、白熱灯、電気コンロ、トースターなど)の熱が近接した物に着火したものが三三件であること、地震により電源コードが損傷し、短絡・発火したものは六件が報告されているが、そのうち四件は地震による落下物が電源コードを損傷させたものであり、地震の揺れ自体が電源コードを損傷させ、その後の通電により火事に至った例は二件が報告されているに過ぎないことが認められる。すなわち、地震による建物の揺れ、その後の通電は地震区域の全ての場所で生じたものであるのに、地震の揺れ自体による電源コードの損傷から火事に至った例はわずか二件しか報告されていないのである。

 本件においては、発火地点の近くでストーブなどの熱を発する器具があったとか、発火地点付近の電源コードが地震による落下物件により損傷された可能性があるなどの証拠はないから、地震を原因とする出火原因として残るのは、第一審被告らの主張する地震の揺れが電源コードを損傷させ、通電により損傷部分より出火したかとの点となる。

 そうなると、地震直後に火災が多発したことから、本件建物の出火原因が地震によるものであるとは、容易に推認することはできず、前記1で判示の方法で原因を認定するのが相当である。

3 原判決三六頁六行目から五四頁三行目までの判示は、次に付加訂正するほか、ここに引用する。

(一) 原判決三七頁一行目から一○行目までを削る。

(二) 原判決四〇頁七行目の末尾に「乙一七、一八及び証人林の供述中右認定に反する部分は、証人小山に照らして採用できない。」を加える。

(三) 原判決四二頁八行目の次に、改行のうえ次のとおり加える。

 「 証人小橋は、本件地震でVVFケーブルが破れて火災になった例がある旨供述しているが、右は本件建物よりより海(南)側の事例であるとも供述しているのであるから、本件建物の屋内配線が本件地震により損傷した蓋然性が高いことの根拠としては不十分である。また、第一審被告らは、証人田畠和子、同岡本等によれば、本件建物の揺れも激しかったことが認められるから、屋内配線も強く引っ張られたと認めるべきである旨主張するが、本件地震の規模に照らせば、本件建物においても相当程度の大きな揺れがあり、屋内配線が相当強く引っ張られた可能性があることは否定できないものの、以上で認定した本件建物及びその付近の被害程度、VVFケーブルの強度、屋内配線の固定方法、前記一2に認定の事実等に照らすと、本件建物の揺れにより屋内配線が損傷した蓋然性が高いとまでは認められない。さらに、第一審被告らは、仮にVVFケーブルの被覆が破れなかったとしても、接続箇所が外れ、そこに短絡が発生じた可能性もあるとの主張もするが、右もあくまで可能性に止まるものであり、その蓋然性が高いことについて的確な立証があるとはいえない。」

(四) 原判決四四頁七行目の末尾に次のとおり加える。

 「第一審被告らは証人田畠和子の最初は本件納戸内には煙はなかった旨の供述は、同人が第一審原告の妻であること等に照らして信用できないと主張するが、反対証拠に乏しく同人の証言を排斥することはできない。」

(五) 原判決四六頁六行目の次に、改行のうえ次のとおり加える。

 「 第一審被告らは、証人岡本によれば、同人は、本件建物にかけつけた際、各子供部屋を含む二階に何らの異常を感じなかったと供述しているところ、もし子供部屋1が出火場所であるとすれば同人は何らかの異常を感じたはずである旨主張する。しかし、同証人は、子供部屋2の内部は少し見た記憶があるが、子供部屋1の内部は見ていないというのであるから、その証言が同部屋が出火場所であることを否定すべき決定的な証拠であるとまでいうことはできない。また、第一審被告らは、子供部屋1が出火場所である可能性があるというためには、煙が天井裏に達するルートの説明ができなければならないが、本件ではそのルートとしては壁の内部の空洞部分しか想定できず、そうとすればやはり子供部屋1の壁の内部における何らかの電気による出火である可能性が高いということになる旨主張する。しかしながら、本件建物の構造の詳細は証拠上不明であり、かつ、子供部屋1が出火場所であるとして、その具体的な出火の箇所も不明であるから、第一審被告らの右主張事実は、同部屋が出火場所であることに疑問を差し挟む余地があることの根拠とはなり得ても、同部屋が出火場所ではないことを積極的に認定する根拠としては不十分である。」

(六) 原判決四八頁一行目から四九頁四行目までを次のとおり改める。

 「(2)右の各証拠のうち、証人岡本の証言は乙一七、一八にある他の付近住民の供述とも整合していてその信用性は高いと認められ、そうすると、午前八時前後にせいぜい一〇分程度の一時的通電があった事実を認定できるというべきである。

 しかし、証人野々村及び弁論の全趣旨によれば、本件建物内で燻焼火災等が発生し、煙が建物外に出るには相当程度の時間を要することが認められるところ、証人岡本の証言等を前提にすると、右の一時的通電が原因で火災が発生したとすると、煙を目撃するまでの時間が短すぎることになる。第一審被告らは、右一時的通電と煙の目撃が接着し過ぎているというのであれば、さらにそれ以前に一時的通電があったかもしれないし、本件地震発生時に短絡が生じた可能性もあると主張するが、前者は裏付けを欠く想像に過ぎないし、後者も可能性としては肯定できるかもしれないが、その蓋然性が高いとまでは証拠上認められない。」

(七) 原判決五〇頁九行目の「二○、」の次に「四〇、」を加える。

(八) 原判決五二頁三行目の末尾に次のとおり加える。

 「乙三〇によれば、高速高限流型ブレーカーの場合にも出火を防止できないことがあるとの実験結果が報告されていることが認められるが、この事実によっても、本件の場合にブレーカーが正常に作動した蓋然性が高いとの右認定を覆すには足りない。」

(九) 原判決五二頁七行目の「小橋」の次に「及び神戸大学の室橋教授」を、五三頁一行目の「乙」の次に「九、」を、それぞれ加える。

(10) 原判決五三頁六ないし九行目を削る。

4 他の原因の可能性

(一) 証拠(証人田畠和子、同田畠豊)によれば、本件火災当時子供部屋1を自室として使用していた第一審原告の長男豊は、日頃から両親に隠れてタバコを喫煙し、その吸殻はペツトボトルや空き缶に捨てて、室内に保管する等していたこと、本件地震の日は午前三ないし四時まで自室で勉強をしていたことが認められる。証人田畠豊は、本件火災の原因が自己のタバコの火の不始末にあると考えたことはない旨証言しており、同証言から、本件火災の出火原因が長男のタバコの火の不始末にある蓋然性が高いということはできない。しかし、同証言を前提に考えても、右出火原因がタバコの火の不始末にある可能性が否定されるとまではいえない。同証言によれば、長男豊も午前八時過ぎころに最初に煙を発見した以降に子供部屋1の内部を見ていないことが認められ、二階屋根裏から出火したと考えて、自己の部屋を疑ってみなかったとしても不思議ではないからである。

(ニ) 弁論の全趣旨によれば、本件では、タバコの火の不始末以外の原因による失火及び放火等の電気火災以外の他の原因による火災の可能性があるとの事実は認められない。

5 以上を総合すると、第一審被告ら主張の経過により午前八時ころの一時的通電が本件火災の出火原因となったことについては、その蓋然性が高いとは認められない。1本件建物の揺れは本件地震の被災地域の中では相対的に小さいものであったこと、2屋内配線の固定方法からその損傷の可能性が高いとはいえないこと、3出火場所が本件納戸とは断定できないこと、4一時的通電と煙発見の時刻が接着し過ぎていること、5阪神大震災の被災建物の全てでこのようなことが考えられるのに、現実にその原因により火事が発生した例は確認出来たところで二件に過ぎないこと等からすると、本件火災が第一審被告ら主張の経過による電気火災であることを合理的に説明できたことにはならないと考えられる。もちろん、第一審被告ら主張の経過以外の経過による電気火災を想定できないわけではないが、その蓋然性が高いことに関して具体的立証があるものでもない。本件火災が本件地震により発生した電気火災である可能性まで否定できるものではないが、神戸市東灘消防署も結局は原因不明としている(乙二八)のであり、本件火災が電気火災であることについて合理的な疑問が残るといわざるを得ない。

 そして、他の原因が否定されるとまで認められないことも前記のとおりであり、第一審原告の反証の成否にかかわりなく、第一審被告らの立証によっては本件火災が電気火災であることを認めるには足りないというほかない。

 結局本件火災の原因は不明というほかはない。

二 地震による延焼拡大

1 原判決五四頁五行目から六六頁五行目までの判示は、次に付加訂正するほか、ここに引用する。

(一) 原判決五八頁一〇行目、六一頁八行目、一一行目及び六二頁二行目の「ボヤ程度」をいずれも「比較的小規模」と改める。

(二) 原判決五八頁一〇行目末尾に次のとおり加える。

 「第一審原告は、岡本らが本件納戸内に煙が充満しているのを発見したときの状況等から、本件火災は本件地震による消火活動への影響がなくても全焼に至ったと考えられる旨主張するが、前記認定の二階屋根付近から一気に火の手が上がるまでの間は煙が出続けていたという経過によれば、右の主張は理由がない。」

(三) 原判決六二頁九行目から六三頁末行までを次のとおり改める。「 本項1(一)の認定事実によれば、本件火災は本件地震による影響がなければ二階天井裏又は子供部屋1及びその周辺の焼螢による比較的小規模の段階で鎮火した蓋然性が高いと認められ、これに本件建物の規模構造や消火作業による汚損、水損により生じたであろう損害も考慮すると、本件地震により拡大した損害は、後記認定の全損害の五割程度であると認めるのが相当である。右の割合については、事柄の性質上証拠に乏しくある程度概括的な認定とならざるを得ないが、前記の主張・立証責任の分配を踏まえて、裁判所が認定できた事実を前提に可能な範囲で認定するほかなく、これが許されないと解することはできない。」

2 第一審原告は火元火災に第三類型の適用はない旨主張する。

 大量に同種の契約の締結があることを前提に、個別の契約に当然適用されることを想定して作成されるという保険約款の性質からすれば、その解釈は、文言の合理的な解釈によるほかないと解すべきである。そして、火災が地震による消火活動への影響等に基づき通常の場合に比べて火元の建物自体に大きな損害を生じさせた場合は、「延焼または拡大」のうちの少なくとも「拡大」に該当するというのが、右の解釈指針に沿った解釈であるというべきである。したがって、火元火災にも第三類型の適用はあると解される。

3 第一審被告らは、保険金請求者側において免責されない範囲の主張・立証責任を負うと解すべきであると主張する。

 しかし、保険約款一条は火災によって生じた損害に対して保険金を支払う旨を規定し、例外的に免責される損害を二条で定めているのであるから、この例外事由に該当する損害がどれだけであるかは、保険会社の立証責任に属することは明らかである。

4 第一審被告らは、当審においても、免責はその火災による損害の全部に認めるか認めないかであり、その火災の一部の損害についてのみ免責を認めることはあり得ない(オールオアナッシング論)、オールかナッシングかは、地震がその延焼拡大による全焼に火元火災と地震とのいずれが決定的な影響を与えたかどうかで定めるべきであると主張する。

 前記のとおり、保険約款の解釈は文言中心になすべきところ、「地震によって延焼または拡大して保険の目的に与えた損害」という表現からすると、免責されるのは火災による 損害ではなく、地震により延焼または拡大した部分の損害に限られることは明らかである。保険約款は、免責される要件を定める共に、免責される範囲(損害)をも定めている。第一審被告らの解釈は、保険約款の規定を無視したもので到底採用できない。しかも、第一審被告らのような解釈では、地震に関係のない火災損害まで免責されることになり不相当であるし、第一審被告らの主張する規準の「決定的な影響」は当裁判所の指摘にも関わらず具体的に明確とはなっていない。

三 支払うべき保険金額

1 証拠(甲三三ないし三五、三六の1ないし7、四一ないし四三、乙二八、四四の13ないし15)によれば、本件建物が全焼したことにより第一審原告が被った全損害(保険価額)は、本件建物については、1本件建物は平成五年四月に附帯設備を含む建物建築だけで八二四一万円余りを費やして建築されたものであり、坪単価で一一八万円以上の建築費を要したものであること、2右建築費用からすると、本件建物は比較的耐用年数が長い建物であったと推認できること、3建築から本件火災までの期間が二年足らずに過ぎず、その間の物価の変動も僅少に止まったことからすると、少なくとも八○○○万円、また、本件家財については二〇〇〇万円であると認められる。第一審被告らは、建物建築に八〇〇〇万円以上の費用をかけたとは信じられないと主張するが、第一審原告は的確な証拠をもって立証しており、第一審被告らの右主張には根拠がない。また、乙六二の3により認められる本件建物の平成七年度の固定資産評価額が約二六〇〇万円であることも、右の認定を左右するものではない。本件家財の損害評価につき、第一審被告らは甲三三には一般的な統計値としての意味しかなく、これに従って評価することは相当でないと主張するが、甲四四により認められる第一審原告の収入額からすると、本件家財の損害を甲三三に基づき二〇〇〇万円を下らないと認めることには合理性があるということができる。

2 以上のとおり、第一審被告らが免責されない本件火災による損害は、本件建物につき四〇〇〇万円、本件家財につき一〇〇〇万円であるところ、第一審被告らがそれぞれ支払い義務を負う損害保険金額を約款四条1項、3項、4項及び5条に基づいて算定すると、第一審被告日産火災は本件建物につき一五〇〇万円の、第一審被告大東京火災は本件建物につき二五〇○万円、本件家財につき一〇〇〇万円の支払い義務を負うことになる。

3 そうすると、第一審原告の請求は右額の損害保険金および、これに対する訴状送達の翌日からの年六分の割合の遅延損害金の支払いを求める部分に限り理由がある。

四 よって、第一審原告の控訴に基づき原判決を主文のとおり変更し、第一審被告らの控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官前坂光雄 裁判官將積良子は、填補のため署名押印できない。裁判長裁判官井関正裕

涌井紀夫裁判長名判決 多重保険課最高裁平成21年                 保険金請求事件

保険判例百選第2版21事件             最高裁判所第1小法廷判決/平成19年(受)第1987号

                 平成21年6月4日

【判示事項】        店舗総合保険契約に適用される普通保険約款中に,保険の目的が受けた損害に対して支払われる水害保険金の支払額につき上記損害に対して保険金を支払うべき他の保険契約があるときには同保険契約に基づく保険給付と調整する旨の条項がある場合における,同条項にいう「他の保険契約」の意義

【判決要旨】        店舗総合保険契約に適用される普通保険約款中に、洪水等の水災によって保険の目的が受けた損害に対して支払われる水害保険金の支払額につき、上記損害に対して保険金を支払うべき他の保険契約があるときには同保険契約に基づく保険給付と調整する旨の条項がある場合において、同条項にいう「他の保険契約」とは、上記店舗総合保険契約と保険の目的を同じくする保険契約を指す。

              (補足意見がある。)

【参照条文】        商法629

              商法632

              商法633

              民法91

【掲載誌】         最高裁判所民事判例集63巻5号982頁

              裁判所時報1485号159頁

              判例タイムズ1306号229頁

              金融・商事判例1334号9頁

              判例時報2054号144頁

              金融法務事情1884号48頁

              LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】        ジュリスト1444号96頁

              商事法務1978号97頁

              法曹時報64巻9号2445頁

              法律のひろば63巻9号52頁

              民商法雑誌141巻3号392頁

 

       主   文

 

 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。

 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。

 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人倉田嚴圓の上告受理申立て理由について

 1 本件は,上告人が,保険会社である被上告人に対し,店舗総合保険契約に基づき,水害保険金100万円の支払を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,平成16年3月29日,被上告人との間で,①保険期間を同年4月3日~平成17年4月3日,②保険の目的を上告人所有の第1審判決別紙物件目録記載1の建物(以下「本件建物1」という。)及びこれに収容される設備,什器等並びに上告人所有の同目録記載2の建物(以下「本件建物2」という。)及びこれに収容される設備,什器等,③保険金額を本件建物1につき7200万円,これに収容される設備,什器等につき430万円,本件建物2につき7800万円,これに収容される設備,什器等につき420万円とする店舗総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

 (2) 上告人は,平成16年7月1日,A損害保険株式会社との間で,保険期間を同日~平成17年7月1日,保険の目的を上告人所有の第1審判決別紙物件目録記載3の建物(以下「別件建物」という。),保険金額を7000万円とする店舗総合保険契約(以下「別件保険契約」という。)を締結した。

 (3) 本件保険契約に適用される普通保険約款(以下「本件約款」という。)には,次のような条項がある。

 ア 1条7項は,豪雨による洪水等の水災によって保険の目的が損害を受け,その損害の状況が同項各号のいずれかに該当する場合には,その損害に対して水害保険金を支払う旨定め,上記損害の状況として,同項3号は,保険の目的である建物が床上浸水を被った結果,当該建物にその保険価額の15%未満の損害が生じたときを,同項4号は,保険の目的である設備,什器等を収容する建物が床上浸水を被った結果,当該設備,什器等に損害が生じたときを,それぞれ定めている。

 イ 7条4項は,1条7項3号及び4号に定める水害保険金の額につき,保険金額の5%とする(ただし,1回の事故につき,1構内ごとに100万円を限度とする。)旨定めている。

 ウ 14条4項は,「被保険者の所有する建物または建物以外のものについて,第1条(保険金を支払う場合)第7項の損害に対して保険金を支払うべき他の保険契約がある場合には,同項各号の損害ごとに次の各号によります。」と定め,14条4項3号は,「第1条(保険金を支払う場合)第7項第3号または第4号の損害」と題して,次のとおり定めている。

 「それぞれの保険契約につき他の保険契約がないものとして算出した第1条(保険金を支払う場合)第7項第3号または第4号の損害に対する支払責任額の合計額が,1回の事故につき,1構内ごとに100万円(他の保険契約に,この損害に対する限度額が100万円をこえるものがあるときは,これらの限度額のうち最も高い額)または保険価額に5%(他の保険契約に,この損害に対する支払割合が5%をこえるものがあるときは,これらの支払割合のうち最も高い割合)を乗じて得た額のいずれか低い額(以下この号において「支払限度額」といいます。)をこえるときは,当会社は,次の算式によって算出した額を第1条(保険金を支払う場合)第7項第3号または第4号の水害保険金として,支払います。この場合において,支払責任額の算出にあたっては,第7条(水害保険金の支払額)第4項の規定を適用して算出した額とします。

 支払限度額×この保険契約の支払責任額/それぞれの保険契約の支払責任額の合計額=第1条(保険金を支払う場合)第7項第3号または第4号の水害保険金の額」

 (4) 本件建物1,2は,平成16年9月30日,豪雨のため,床上浸水を被り,その結果,本件保険契約の保険の目的に生じた損害は,本件約款1条7項3号及び4号所定の損害に該当し,本件約款7条4項によれば,本件保険契約の水害保険金の額は100万円となる。別件保険契約に適用される普通保険約款には,本件約款1条7項3号及び7条4項と同旨の規定があるところ,別件建物も,上記豪雨のため,床上浸水を被り,それらの規定によれば,別件保険契約の水害保険金の額は100万円となる。

 3 被上告人は,本件建物1,2と別件建物とは,本件約款14条4項3号にいう「1構内」にあるから,同号が適用され,被上告人が上告人に支払うべき水害保険金の額は50万円となる旨主張して,上告人の請求を争っている。

 4 原審は,本件建物1,2と別件建物とは,本件約款14条4項3号にいう「1構内」にあるから,同号が適用され,被上告人が上告人に支払うべき水害保険金の額は50万円となると判断して,同額の支払を求める限度で上告人の請求を認容した。

 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 本件約款14条4項は,「第1条(保険金を支払う場合)第7項の損害に対して保険金を支払うべき他の保険契約がある場合」に適用されるところ,本件約款1条7項の損害は,当該保険契約の保険の目的が受けた損害であるから,上記の「他の保険契約」とは,当該保険契約と保険の目的を同じくする保険契約を指すものであって,当該保険契約と保険の目的を異にする保険契約はこれに該当しないことは,約款の文言からして明らかなものというべきである。

 (2) また,本件約款14条1項は,本件約款1条8項,10項,12項又は13項所定の各費用(保険事故の発生に伴い被保険者が支出を余儀なくされる費用)に対して保険金を支払うべき他の保険契約がある場合に,上記各項に基づいて支払うべき保険金(臨時費用保険金,失火見舞費用保険金,地震火災費用保険金又は修理付帯費用保険金。以下「費用保険金」と総称する。)の額について,本件約款14条4項と同様に,他の保険契約との保険給付の調整を定めているが,この場合における「他の保険契約」には,「保険契約の保険の目的以外のものについて締結された保険契約」が含まれることを文言上明示しているところ,同項には,そのような文言はない。水害保険金は,水災により保険の目的である財産が受けた損害をてん補するものであり,同一の保険の目的に他の保険契約が重複して締結される場合には,被保険者が各保険契約に基づき保険給付を受けることにより実際に生じた損害の額を超える保険給付を受けて利得を得る事態が生じ得るので,これを避けるため,他の保険契約との間で保険給付の調整が必要となるが,保険の目的を異にする保険契約が締結される場合には,被保険者が各保険契約に基づき保険給付を受けても,上記のような事態が生ずることはない。これに対して,費用保険金は,保険事故の発生に伴って被保険者が支出する損害調査費用,見舞金等の費用をてん補するものであり,上記費用は,その性質上,必ずしも当該保険契約の保険の目的のみに固有に生ずるとは限らず,保険の目的を異にする保険契約が締結される場合にも,被保険者が各保険契約に基づき保険給付を受けることにより実際に支出した費用の額を超える保険給付を受けて利得を得る事態が生じ得ることになる。水害保険金と費用保険金には,上記のような保険給付の性質の相異があることからすると,保険の目的を異にする保険契約が締結されている場合に,費用保険金については他の保険契約との間で保険給付の調整を図ることとし,水害保険金についてはそのような保険給付の調整は図らないこととすることには,実質的にみても,合理的な理由があるというべきである。

 (3) そうすると,本件保険契約と保険の目的を異にする別件保険契約は,本件約款14条4項にいう「他の保険契約」には該当しないと解するのが相当であるから,被上告人が上告人に支払うべき水害保険金について同項は適用されないことになり,前記事実関係によれば,その水害保険金の額は100万円であると認められる。

 6 以上と異なり,本件において本件約款14条4項が適用されることを前提に,本件保険契約の保険の目的である本件建物1,2と別件保険契約の目的である別件建物とが同項3号にいう「1構内」にあるとして被上告人が上告人に支払うべき水害保険金の額を50万円と認めた原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求を全部認容した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官涌井紀夫,同宮川光治の各補足意見がある。

 裁判官涌井紀夫の補足意見は,次のとおりである。

 本件訴訟においては,第1審以来,本件建物1,2と別件建物とが本件約款14条4項3号にいう「1構内」にあるかが争われてきている。このような訴訟の経緯にかんがみ,この「1構内」の文言の解釈について,付言しておくこととする。

 原審の適法に確定した事実関係によれば,本件建物1は保育園として,本件建物2は老人ホームとして,別件建物は診療所として,それぞれ利用され,その利用目的を異にし,本件建物1,2と別件建物との間にはアスファルトで舗装され歩道の整備された幅員6mの公道が存するほか,本件建物1の敷地と上記公道との間にはフェンスが,また,本件建物2と上記公道との間には植え込みがそれぞれ設けられているというのである。このような事実関係の下で,原審は,被上告人の主張するとおり,上記の「1構内」とは,囲いの有無を問わず,保険の目的の所在する場所及びこれに連続した土地で,同一保険契約者又は被保険者によって占有されているものをいい,この場合,公道,河川等が介在していても構内は中断されないものと解釈した上で,本件建物1,2と別件建物とは上記の「1構内」にあるとして,同号が適用されると判断している。

 しかし,本件約款が,不特定多数の一般人を対象とする店舗総合保険契約について適用されるものであることからすると,本件約款中の文言については,店舗総合保険契約を締結する一般人の通常の理解に照らした解釈が行われるべきであるところ,原審のような解釈は,「構内」の文言の通常の意味から離れ,一般人の通常の理解を超える意味を付与するものといわざるを得ない。しかも,本件約款自体には,そこにいう「1構内」の意義を被上告人の主張するように広く解釈すべきことを根拠付けるような定めは何ら含まれていないのである。

 そうすると,上記事実関係によれば,本件建物1,2と別件建物とは,上記の「1構内」にあるとは認め難いものというべきであり,この点においても,原審の判断は,是認することができない。

 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。

 1 店舗総合保険契約の保険の目的に生じた損害は,保険の目的である積極財産の喪失の危険と費用を負担することにより消極財産が発生する危険に分かれる。前者に関するいわゆる積極保険については,同一の保険の目的について保険事故,保険期間を共通にする複数の保険契約が存在し,被保険者が各保険契約によって保険給付を受ける場合は,被保険者に利得が生じ得るので,各保険契約による保険給付を調整する必要があるが,当該保険の目的以外のものについて保険契約が存在する場合には,被保険者に利得が生ずる余地はなく,上記のような調整をする必要がない。これに対し,後者に関するいわゆる消極保険については,保険事故が発生した場合における各保険契約の定めによるてん補額が損害額を超え被保険者に利得が生ずるということが,当該保険の目的以外のものについての保険契約が存在する場合においてもあり得るので,当該保険の目的以外のものについての保険契約との間でも保険給付を調整する必要がある。

 本件約款では,他の保険契約がある場合の保険給付の調整に関しては14条に定められているが,同条1項において,「他の保険契約」に関し,1条8項(臨時費用),10項(失火見舞費用),12項(地震火災費用)又は13項(修理付帯費用)の各費用に対して保険金が支払われる場合には「この保険契約の保険の目的以外のものについて締結された保険契約であっても,これを含み」と特記されているのは,以上の趣旨であると理解できる。

 水害保険は,いわゆる積極保険に属する。本件約款では,水害保険に関しては,他の保険契約がある場合の保険給付の調整については14条4項に規定されているが,上記特記は存在しない。14条4項の文言としては,「他の保険契約」には「この保険契約の保険の目的以外のものについて締結された保険契約」を含んでいないことは明確である。そのことは,上記保険の分類に対応する保険給付調整の差異に沿っていると理解できる。

 なお,水害保険金の支払額について,本件約款7条3項ないし5項は,「1構内ごとに」限度額を定めているが(本件約款14条4項2号,3号は,これを受けて他の保険契約がある場合の保険金支払額の算出方法を定めている。),「1構内ごとに」とは「1構内ごとに当該保険の目的を一括して」という意味であると解すべきである。本件では,一つの保険契約で保険の目的が本件建物1と本件建物2と二つ存在する場合であるところ,いずれも「1構内」に含まれる点については争いがないので,本件の水害保険金額は,100万円となる。

 2 本件約款では,水害保険金の支払額は,①保険価額の30%以上の損害が生じたときは,保険価額によって定め,保険金額との比例てん補及び縮小割合(70%)により算出されるが,床上浸水又は地盤面より45cmを超える浸水を被った結果,②保険価額に生じた損害が15%以上30%未満の場合は保険金額の10%,③15%未満の場合は保険金額の5%によって算出される(7条)。②と③は,逐一損害算定の資料を求めず,実際の損害と乖離しない損害率で画一的に処理するものであり,合理性を有する。ところが,②の場合は「1構内ごとに200万円」,③の場合は「1構内ごとに100万円」を限度とするとされている(7条3項,4項)。ほとんどの契約では,この限度額条項が適用されるものと考えられる。水害は広範な地域に及ぶ可能性があり,1事故による損害が巨額となるおそれがあることを考えると,「100万円」,「200万円」といった具体的限度額を設けて支払保険金の額を抑制するということは不合理であるとはいえない。しかし,支払保険金額を抑制しようとする保険者の保険政策はこれで達せられているというべきであるのに,さらに「1構内」で絞り込むということは,過度に保険者の利益が図られているのではないかという疑問がある。水害保険における「1構内」の要件は,不当条項であるとまではいえないが,将来的には約款に残すかどうかが検討されるべきであり,少なくともそれは広く解釈されるべきではない。

 3 保険約款は複雑で容易に理解し難く,本件でも,当事者のみならず第1審及び原審においても本件約款14条1項及び同条4項について議論されることがなかった。また,本件約款は,損害保険料率算出団体に関する法律によって設立された損害保険料率算出機構作成の標準保険約款によっているが,約款改正の趣旨(平成7年改正前は,標準保険約款14条1項は,「この保険契約の保険の目的以外のものについて締結された保険契約であっても,これを含み」という特記の対象として同約款1条7項の水害損害を同条8項,10項,12項又は13項の各費用損害と併記していた。)が保険実務に浸透していないということもあったと思われる。契約者である市民の合理的意思と乖離しない,分かりやすい約款の作成と保険実務における消費者保護の精神に沿った約款の解釈・運用が望まれる。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志)

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