過失相殺の要件 未成年の被害者
民法判例百選Ⅱ 第6版93事件 第8版 105事件 第9版96事件
損害賠償等請求事件
最高裁判所大法廷判決/昭和36年(オ)第412号
昭和39年6月24日
【判示事項】 民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するについて必要な被害者の弁識能力の程度
【判決要旨】 民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を具えていることを要しないものと解すべきである。
【参照条文】 民法722-2
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集18巻5号854頁
最高裁判所裁判集民事74号173頁
裁判所時報404号2頁
判例タイムズ166号105頁
判例時報376号10頁
【評釈論文】 ジュリスト増刊(民法の判例)183頁
ジュリスト増刊(民法の判例第2版)201頁
別冊ジュリスト18号132頁
別冊ジュリスト47号192頁
別冊ジュリスト48号140頁
別冊ジュリスト78号206頁
別冊ジュリスト105号192頁
判例評論75号7頁
法学志林63巻1号77頁
法曹時報16巻10号143頁
法律時報36巻13号100頁
民事研修605号54頁
民商法雑誌52巻2号64頁
主 文
本件各上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人奥嶋庄治郎の上告理由について。
未成年者が他人に加えた損害につき、その不法行為上の賠償責任を問うには、未成年者がその行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要することは民法七一二条の規定するところであるが、他人の不法行為により未成年者がこうむつた損害の賠償額を定めるにつき、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくするためには、未成年者にいかなる知能が具わつていることを要するかに関しては、民法には別段の規定はなく、ただ、この場合においても、被害者たる未成年者においてその行為の責任を弁識するに足る知能を具えていないときは、その不注意を直ちに被害者の過失となし民法七二二条二項を適用すべきではないとする当裁判所の判例(昭和二九年(オ)第七二六号、同三一年七月二〇日第二小法廷判決)があることは、所論のとおりである。しかしながら、民法七二二条二項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わつていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わつていることを要しないものと解するのが相当である。したがつて、前示判例は、これを変更すべきものと認める。
原審の確定するところによれば、本件被害者らは、事故当時は満八才余の普通健康体を有する男子であり、また、当時すでに小学校二年生として、日頃学校及び家庭で交通の危険につき充分訓戒されており、交通の危険につき弁識があつたものと推定することができるというのであり、右認定は原判決挙示の証拠関係に照らし肯認するに足る。右によれば、本件被害者らは事理を弁識するに足る知能を具えていたものというべきであるから、原審が、右事実関係の下において、進んで被害者らの過失を認定した上、本件損害賠償額を決定するにつき右過失をしんしゃくしたのは正当であり、所論掲記の判例(昭和二八年(オ)第九一号、同三二年六月二〇日第一小法廷判決)は事案を異にし本件の場合に適切でない。所論は、採用することをえない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 横田喜三郎
裁判官 入江俊郎
裁判官 奥野健一
裁判官 石坂修一
裁判官 山田作之助
裁判官 横田正俊
裁判官 斎藤朔郎
裁判官 草鹿浅之介
裁判官 長部謹吾
裁判官 城戸芳彦
裁判官 石田和外
裁判官河村又介、同下飯坂潤夫は退官につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 横田喜三郎