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カテゴリ: 交通事故

過失相殺の要件 未成年の被害者

民法判例百選Ⅱ 第6版93事件 第8版 105事件 第9版96事件

損害賠償等請求事件

最高裁判所大法廷判決/昭和36年(オ)第412号

昭和39年6月24日

【判示事項】       民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するについて必要な被害者の弁識能力の程度

【判決要旨】       民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を具えていることを要しないものと解すべきである。

【参照条文】       民法722-2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集18巻5号854頁

             最高裁判所裁判集民事74号173頁

             裁判所時報404号2頁

             判例タイムズ166号105頁

             判例時報376号10頁

【評釈論文】       ジュリスト増刊(民法の判例)183頁

             ジュリスト増刊(民法の判例第2版)201頁

             別冊ジュリスト18号132頁

             別冊ジュリスト47号192頁

             別冊ジュリスト48号140頁

             別冊ジュリスト78号206頁

             別冊ジュリスト105号192頁

             判例評論75号7頁

             法学志林63巻1号77頁

             法曹時報16巻10号143頁

             法律時報36巻13号100頁

             民事研修605号54頁

             民商法雑誌52巻2号64頁

 

       主   文

 

 本件各上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人奥嶋庄治郎の上告理由について。

 未成年者が他人に加えた損害につき、その不法行為上の賠償責任を問うには、未成年者がその行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要することは民法七一二条の規定するところであるが、他人の不法行為により未成年者がこうむつた損害の賠償額を定めるにつき、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくするためには、未成年者にいかなる知能が具わつていることを要するかに関しては、民法には別段の規定はなく、ただ、この場合においても、被害者たる未成年者においてその行為の責任を弁識するに足る知能を具えていないときは、その不注意を直ちに被害者の過失となし民法七二二条二項を適用すべきではないとする当裁判所の判例(昭和二九年(オ)第七二六号、同三一年七月二〇日第二小法廷判決)があることは、所論のとおりである。しかしながら、民法七二二条二項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わつていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わつていることを要しないものと解するのが相当である。したがつて、前示判例は、これを変更すべきものと認める。

 原審の確定するところによれば、本件被害者らは、事故当時は満八才余の普通健康体を有する男子であり、また、当時すでに小学校二年生として、日頃学校及び家庭で交通の危険につき充分訓戒されており、交通の危険につき弁識があつたものと推定することができるというのであり、右認定は原判決挙示の証拠関係に照らし肯認するに足る。右によれば、本件被害者らは事理を弁識するに足る知能を具えていたものというべきであるから、原審が、右事実関係の下において、進んで被害者らの過失を認定した上、本件損害賠償額を決定するにつき右過失をしんしゃくしたのは正当であり、所論掲記の判例(昭和二八年(オ)第九一号、同三二年六月二〇日第一小法廷判決)は事案を異にし本件の場合に適切でない。所論は、採用することをえない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所大法廷

        裁判長裁判官  横田喜三郎

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  奥野健一

           裁判官  石坂修一

           裁判官  山田作之助

           裁判官  横田正俊

           裁判官  斎藤朔郎

           裁判官  草鹿浅之介

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  城戸芳彦

           裁判官  石田和外

  裁判官河村又介、同下飯坂潤夫は退官につき、署名押印することができない。

        裁判長裁判官  横田喜三郎

 

示談と後遺症 最高裁昭和43年 基本判例集第2判246 4版267 ダットサンⅡ4版 167(3) 

民法判例百選Ⅱ 第6版 91事件 第8版 104事件 第9版95事件

損害賠償請求事件

 

       最高裁判所第2小法廷判決/昭和40年(オ)第347号

      昭和43年3月15日

【判示事項】       示談当時予想しなかつた後遺症等が発生した場合と示談における賠償請求権放棄約款の効力

【判決要旨】       交通事故による全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に、小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた再手術や後遺症が後日発生した場合には、被害者はその損害賠償を請求できるものと解すべきである。

【参照条文】       民法709

             民法695

             民法696

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集22巻3号587頁

             訟務月報14巻4号369頁

             最高裁判所裁判集民事90号675頁

             裁判所時報498号1頁

             判例タイムズ218号125頁

             判例時報511号20頁

【評釈論文】       公証24号33頁

             事故と災害2巻2号80頁

             ジュリスト399号74頁

             ジュリスト臨時増刊433号67頁

             ジュリスト臨時増刊433号68頁

             ジュリスト増刊(民法の判例第2版)197頁

             別冊ジュリスト47号220頁

             別冊ジュリスト48号150頁

             別冊ジュリスト78号210頁

             別冊ジュリスト105号206頁

             専修法学論集9号129頁

             時の法令645号49頁

             判例タイムズ222号80頁

             判例評論116号27頁

             法学協会雑誌86巻6号75頁

             法学研究(愛知学院大)13巻2号81頁

             法曹時報20巻6号168頁

             法律のひろば21巻6号33頁

             松山商大論集19巻2号121頁

             みんけん(民事研修)569号15頁

             民商法雑誌59巻5号95頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人信正義雄の上告理由について。

 一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。

 しかし、本件において原判決の確定した事実によれば、被害者Aは昭和三二年四月一六日左前腕骨複雑骨折の傷害をうけ、事故直後における医師の診断は全治一五週間の見込みであつたので、A自身も、右傷は比較的軽微なものであり、治療費等は自動車損害賠償保険金で賄えると考えていたので、事故後一〇日を出でず、まだ入院中の同月二五日に、Aと上告会社間において、上告会社が自動車損害賠償保険金(一〇万円)をAに支払い、Aは今後本件事故による治療費その他慰藉料等の一切の要求を申し立てない旨の示談契約が成立し、Aは右一〇万円を受領したところ、事故後一か月以上経つてから右傷は予期に反する重傷であることが判明し、Aは再手術を余儀なくされ、手術後も左前腕関節の用を廃する程度の機能障害が残り、よつて七七万余円の損害を受けたというのである。

 このように、全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。これと結局同趣旨に帰する原判決の本件示談契約の解釈は相当であつて、これに所論の違法は認められない。

 論旨は採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

         裁判長裁判官  奥野健一

            裁判官  草鹿浅之介

            裁判官  城戸芳彦

            裁判官  石田和外

            裁判官  色川幸太郎

年少女子の逸失利益に関する最高裁昭和62年 法学セミナー2024年8月号69頁

民法判例百選Ⅱ 第6版 90事件 第8版 102事件 第9版 93事件

損害賠償請求事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和58年(オ)第331号

昭和62年1月19日

【判示事項】       就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を女子労働者の平均給与額によって算定する場合と家事労働分の加算の可否

【判決要旨】       就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額をいわゆる賃金センサスの女子労働者の平均給与額を基準として算定する場合には、賃金センサスの平均給与額に男女間の格差があるからといって、家事労働分を加算すべきものではない。

【参照条文】       民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集41巻1号1頁

             最高裁判所裁判集民事150号1頁

             裁判所時報951号1頁

             判例タイムズ629号95頁

             金融・商事判例767号40頁

             判例時報1222号24頁

【評釈論文】       ジュリスト883号81頁

             ジュリスト臨時増刊910号88頁

             別冊ジュリスト105号188頁

             判例タイムズ649号108頁

             判例評論343号200頁

             法学協会雑誌111巻4号158頁

             法学論叢(京都大)126巻2号112頁

             法曹時報39巻7号163頁

             民事研修600号65頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人小笠原稔の上告理由について

 所論は、要するに、亡安藤美由紀(本件事故当時満一四歳の女子で中学二年生。以下「美由紀」という。)の将来の得べかりし利益の算定に当たつては、女子労働者の平均賃金と男子労働者の平均賃金との間には著しい格差があるので、これを是正するため、女子労働者の平均賃金を基準として算定された収入額に家事労働分を加算すべきであるというものである。

 美由紀のような死亡時に現実収入のない就労前の年少女子の場合には、当該女子の将来の就労の時期、内容、程度及び結婚後の職業継続の有無等将来につき不確定な要因が多いのであるが、原審が、美由紀の将来の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を算定するに当たり、賃金センサス昭和五六年第一巻第一表中の女子労働者、旧中・新高卒、企業規模計(パートタイム労働者を除いたもの)の表による平均給与額を基準として収入額を算定したことは、交通事故により死亡した女子の将来の得べかりし利益の算定として不合理なものとはいえず(最高裁昭和五四年(オ)第二一四号同年六月二六日第三小法廷判決・裁判集民事一二七号一二九頁、同昭和五六年(オ)第四九八号同年一〇月八日第一小法廷判決・裁判集民事一三四号三九頁参照)、美由紀が専業として職業に就いて受けるべき給与額を基準として将来の得べかりし利益を算定するときには、美由紀が将来労働によつて取得しうる利益は右の算定によつて評価し尽くされることになると解するのが相当であり、したがつて、これに家事労働分を加算することは、将来労働によつて取得しうる利益を二重に評価計算することに帰するから相当ではない。そして、賃金センサスに示されている男女間の平均賃金の格差は現実の労働市場における実態を反映していると解されるところ、女子の将来の得べかりし利益を算定するに当たつて、予測困難な右格差の解消ないし縮少という事態が確実に生じるものとして現時点において損害賠償額に反映させ、これを不法行為者に負担させることは、損害賠償額の算定方法として必ずしも合理的なものであるとはいえない。したがつて、美由紀の得べかりし利益を算定するにつき、美由紀の受けるべき給与額に更に家事労働分を加算すべきではないとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。

 また、所論は、原審のした慰藉料額の算定をも非難するが、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて原審の算定した慰藉料の額が不当なものであるということはできない。原判決に所論の違法はなく、右の判断は所論引用の判例に抵触するものでもない。論旨は、違憲の主張を含め、独自の見解に基づいて、原判決の損害賠償額算定の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧 圭次 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一 裁判官 林 藤之輔)

 

上告代理人小笠原稔の上告理由

 本件交通事故によつて死亡した被害者安藤美由紀は、事故当時一四才であつたが、原審裁判所は、かゝる女子の死亡事故について、その逸失利益を算定するにあたり、第一審判決が、賃金センサスの女子平均給与の外、同女の家事労働分として年六〇万円を加算したのに対し、「専業として職について受けるべき給与額を基礎として得べかりし利益の額を算定する以上、亡美由紀が将来労働によつて得られるべき利益の一般的評価は既に尽されているものというべきである」として、家事労働分を減額してしまつた。

第一点 右原審の判断は、憲法に違背するものである。

(一) 憲法第一四条は、すべての国民が法の下に平等であつて、性別によつて経済的関係において差別されない旨をうたつている。

(二) ところで、わが国の賃金についてみるに、男女間で著しい格差があることは公知の事実である。

 労働省の毎月勤労統計調査の結果によると、昭和五五年の女子労働者の平均月額給与総額は一六六、三九七円で、男子の平均三〇九、二一八円と比較すると、男子の賃金の五三・八パーセントという数字が示されているが、最近の報道によると、更に格差が拡大して、遂に四〇パーセント台に落ちたとのことである。

 かゝる格差は、女子が労働市場において常に労働予備軍的地位に置かれ、かつ婚姻制度等とも微妙に絡み合つて、資本の力によつて形成されて来たものである。

 即ち、若年女子労働者は、非常に低い賃金を強いられ、二〇才台後半に達すると、特に既婚婦人は「女性は家庭に戻れ」とのキャンペーンに象徴されるように、いつたん職場から追放されるが、さまざまな理由から既婚婦人が、より劣悪な労働条件のもとで労働市場に再度登場する。この典型がパートタイマーであり臨時工である。このように、女子の労働力は、かゝる構造的仕組みのなかで男子に比べて一般的に低い価格におさえつけられている。

 具体的には、賃金体系(例えば男女で初任給から差別する等)、あるいは職務・職能給、あるいは又若年定年制・結婚出産退職制などによるさまざまな差別の結果、政策的につくり出された著しい格差であつて、決して男女間の肉体的能力の相違から生ずる合理的差別であるという理由によつて説明しつくされるものではない。少なくとも、女子労働力の価値が男性のそれの半分以下であるなどということは、到底是認できるものではない。

 このことは、同じ資本主義国である諸外国の男女格差(これらの国でも、同じ理由で、男女の賃金にある程度の格差は存在するが)の程度と比較して、わが国の格差が異常に大きいことからも明らかであろう。

(三) ところで、わが国の裁判所は、かゝる男女間の差別については、例えば男女間で賃金体系を区別して適用しようとしたケースについて(秋田地方裁判所、昭和五〇・四・一〇判決)又例えば若年定年制について(名古屋高等裁判所、昭和四九・九・三〇判決)、いずれも差別を認容しない立場を明確にしている。

 男女間の差別が直接争訟の対象となつた場合は勿論であるが、そうでない場合も同様である。

 即ち、交通事故により死亡した幼児等の逸失利益を算定するにつき、統計資料(平均賃金)を基礎にすることは実務上定着しているが、統計資料によると男女間の平均賃金に著しい格差が生ずる。

 この点については、慰藉料の比重を重くすることによつて、逸失利益と慰藉料の総額を性別を問わずに同額に近づけるべきである(判例タイムズ、二一二号)とか、男女を含めた全産業労働者の平均賃金によるべきである(判例タイムズ、二六八号)等の学説もあるが、裁判所の判例では、女子の平均賃金に家事労働分を加算するという方法が定着してきている(東京地判、昭和四九・二・一九。東京高判、昭和五〇・三・二七。東京高判、昭和五五・一一・二五。更に、右東京高判の上告審判決である最高裁第一小法廷判決、昭和五六・一〇・八もこれを認容しているとみるべきである。)。本件の第一審判決も同様である。

 従つて、実務上でも、かゝる方法が一般化されているのが実状である。例えば、財団法人日本弁護士連合会交通事故相談センター発行の交通事故損害額算定基準(甲一三号証一五頁)がそれであつて、弁護士は、当然のこととして家事労働分を加算しているのが常である。

(四)なお、前記の東京高裁昭和五五年一一月二五日判決は、逸失利益の算定に家事労働相当額年六〇万円を加算した他、更に「女子の収入を予測する場合、男子のそれと著しい格差のある現在の状態が将来も長期間継続することを前提とすることは必ずしも妥当ではなく、また特に児童の死亡による損害の算出に当り男女の将来収入に格差を認めることは本来合理性に乏しいこと等」を慰藉料の算定において考慮すべきであるとして、慰藉料を増額認定している点は注目に価する。

 かように判決例が、逸失利益の算定について家事労働分を加算したり、あるいは慰藉料を底上げしたりしているのも、全て、男女の賃金格差からくる不平等を是正し解消するためのものである。

(五) ところが、原判決は、「女子労働者の平均賃金と男子労働者の平均賃金との間には著しい格差のあることは明らかである」とし、かつ「右格差が不合理なものであり今後是正されるべきものであると考えられるとしても」といゝながら、「現時点において損害額を算定するにつき考慮しなければならない程度の確実性をもつて是正されるものと予測することは困難である。」として、家事労働分を減額したのである。

 右原判決の判断は、男女間の賃金格差が、不合理であること即ち性別による差別であることを認めながら、その不合理な差別の実態が当分続くからという理由で、何らの批判を加えることなく右不合理な賃金格差を是認しているものであり、その結果、特に将来を予測することの全く不可能な児童の死亡事故について、被害者が男であるか女であるかによつて損害額に差をつけるという不合理な結果を認容しているのであるから、これは憲法に違背する判断であるといわざるをえない。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすことの明白な法令の違背がある。

(一) 民法第一条の二には、本法は個人の尊厳と両性の本質的平等とを旨として之を解釈すべしとの原則が明記されており、労働基準法第四条には、使用者は、労働者が女子であることを理由として、賃金について男子と差別的取扱をしてはならない、として男女同一賃金の原則をうたつている。

(二) ところで、現実の男女間には著しい賃金格差があり、これは右労働基準法に違反する不合理な性別による差別であることは、第一点で述べたとおりである。

(三) ところで、原判決は、第一点でも述べたとおり、賃金センサスによれば、男女の平均賃金に著しい格差のあることが明らかであるが、「右格差が不合理なものであり今後是正されるべきものであると考えられるとしても、現時点において損害額を算定するにつき考慮しなければならない程度の確実性をもつて是正されるものと予測することは困難である。」「要するに、男女別平均賃金の格差是正が将来実現されるべき課題であるからといつて、直ちにこの要請を女子労働者の喪失した得べかりし利益の評価に反映させることは相当でない」というのである。

(四) 右原判決の考え方は、男女間の平均賃金に著しい格差があり、それの不合理は、将来是正されるべきであつても、早急に是正されるとは予測できないから、現時点で家事労働分を加算すべきではないというものである。

 しかし、法律上は、男女の性別による賃金格差はあつてはならないものである。従つて、賃金格差の存在する事実につき、裁判官としては、法的評価を加えるべきであり、現実に存在する賃金格差が合理的理由によるもので、実質的平等が侵害されてはいないと断定しない限り、現実にある格差は、性別による差別だといわざるを得ないはずである。

 ところが、原判決は、格差が不合理で将来是正さるべきものとみているようであるが、それにも拘らず、現時点で考慮しなければならない程度の確実性をもつて是正されるものと予測することは困難だとして、自ら不合理と判断した事実(賃金格差のある事実)をそのまゝ前提として逸失利益を算定するという結論を出している。そして、かゝる結論が、前提事実が不合理なため、不合理であり、違法であるという点に留意していない。

 かゝる判断は、民法第一条の二、労働基準法第四条等の法令に違背するものであり、それが判決に影響を及ぼしていることは、明白である。

(五) なお、原判決は、既に述べたように、格差のある事実が不合理で将来是正されるべきだとしながら、その不合理な事実を是認した結果になつており、かつ何の根拠も示さず、その是正が近い将来確実になされるとは予測できないと断定して、家事労働分を加算すべきでないといつている。

 また、他の判決例が、前述の如く、男女間の賃金格差が将来も長期間継続することを前提とすること(原判決の立場は妥当でないとし、特に児童の死亡による損害の算定に当り男女の将来収入に格差を認めることは本来合理性に乏しいと判断をして、逸失利益に家事労働分を加算したり、慰藉料を増額したりして男女間格差の解消に努めているのに比べて、原判決は、何ら説得的立場をとらずに、家事労働分を減額し、かつ慰藉料についても全く配慮していない。

 かゝる原判決は、到底正常な判断とは思料されず、経験則違反の判決であり、この点からも法令違反といわざるを得ない。

第三点 原判決には、次の如き理由不備ないし理由そごがあつて、承服し難い。

(一) 原判決は、「亡美由紀が専業として職に就いて受けるべき給与額を基準として得べかりし利益の額を算定する以上、亡美由紀が将来労働によつて得られるべき利益の一般的評価は既に尽くされている」としたうえで、「右専業としての労働に加えて更に家事労働に従事するとしても、そのような家事労働は家庭の構成員としての仕事の分担によるものであつて、これを金銭に評価して加算すべき利益ということはできない」と断定している。しかし、かゝる家事労働が金銭に評価できない利益であるとの理由づけは、常識では理解できず明らかに不当である。現に女性が専業として労働したうえで、家事を切り回しているケースは多く見受けられるところであるが、家事労働が家庭の構成員相互の間では、一種の分担であることは原判決の認定どおりであり、家庭の構成員間で金銭的に評価するなどということは、通常はありえないと思料されるが、第三者との間では、金銭的評価することは、むしろ当然でありいくらでもありうる。例えば、主婦が家事労働に従事できない場合、家事労働を第三者に依頼すれば、当然金銭的に評価される一事をみても、このことは明白であろう。

(二) 既に述べたとおり、原判決は、男女間の賃金格差が不合理であつて将来是正されるべき課題であるとしながら、右賃金格差は、近い将来是正されるとは予測できないと判断している。

 しかし、裁判所が、それこそ予測できない将来のことを、如何なる根拠も示さずに予測することは不当であり、かつ予測できるはずのものでもない。八卦見の如き予測を前提に判決することは、理由不備といわざるを得ない。

(三) 更に、仮りに原判決認定のとおり、不合理な賃金格差が近い将来確実に是正されることはないとしても、だから逸失利益の算定につき、低い女子平均賃金を基礎にしてよいとの理由が原判決には、全く欠けているのである。

 性別による賃金格差が解消すれば、損害額算定に際し、男女の不平等は生じないので、問題は生じなくなる(専業労働に加えて現実に家事労働に従事している女性についての問題は残るかも知れないが)。

 従つて、むしろ不合理な男女間の賃金格差の生じている現在こそ、逸失利益の算定や慰藉料額の認定において、格差をいかに克服するかが問題となつているのである。

 ところが、この点について、原判決は、男女平等という大原則をふまえた判断をしていないため、既に述べた違憲の主張とも絡むところではあるが、単に「現時点で考慮しなければならない程度の確実性をもつて是正されるものと予測することは困難である」として、単に機械的に追随する姿勢を示し、法的判断を放棄してしまつているのである。

 しかし、結果的には、原判決は自ら不合理だと判断した前提事実にのつかつて不合理な結論を出しているのであつて、かゝる矛盾を充分説明しきつていない。理由にそごありといわざるを得ない。結論

 以上のとおり、原判決の判断は、違憲・違法であり、また経験則に反するものであるため、理由不備・理由そごの判決となつていることは明白であるので、上告審の適正な判断を求めるものである。

 

損害の意義 労働能力の損失 最高裁昭和56     

民法判例百選Ⅱ 第6版 89事件 第8版 100事件 第9版 91事件

損害賠償請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和54年(オ)第354号

昭和56年12月22日

【判示事項】      身体的機能の一部喪失と労働能力喪失を理由とする財産上の損害の有無

【判決要旨】      交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても、後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないときは、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない。

【参照条文】      民法709

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集35巻9号1350頁

            最高裁判所裁判集民事134号609頁

            裁判所時報830号1頁

            判例タイムズ463号126頁

            金融・商事判例647号41頁

            判例時報1031号123頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト94号84頁

            別冊ジュリスト105号184頁

            判例タイムズ505号120頁

            法学47巻3号145頁

            法曹時報37巻6号202頁

            民事研修599号17頁

 

       主   文

 

 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

 前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人佐々木鉄也、同大友秀夫の上告理由について

 原審は、(1) 被上告人は、昭和四七年三月一一日、本件交通事故によつて右手、右臀部に加療五日間を要する挫傷を受け、昭和五〇年一月一〇日までの約二年一〇か月にわたる通院治療の結果、身体障害等級一四級に該当する腰部挫傷後遺症を残して症状が固定し、右下肢に局部神経症状があるものの、上、下肢の機能障害及び運動障害はないとの診断を受けたこと、(2) 右後遺症は多分に心因性のものであると考えられること、(3) 被上告人は、通産省工業技術院繊維高分子材料研究所に技官として勤務し、本件事故前はかなり力を要するプラスチツク成型加工業務に従事していたが、本件事故後は腰部痛及び下肢のしびれ感があつて従前の仕事がやりづらいため、坐つたままでできる測定解析業務に従事するようになつたこと、(4) しかし、本件事故後も給与面については格別不利益な取扱は受けていないこと、などの事実関係を確定したうえ、事故による労働能力の減少を理由とする損害を認定するにあたつては、事故によつて生じた労働能力喪失そのものを損害と観念すべきものであり、被害者に労働能力の一部喪失の事実が認められる以上、たとえ収入に格別の減少がみられないとしても、その職業の種類、後遺症の部位程度等を総合的に勘案してその損害額を評価算定するのが相当であるとの見解に基づいて、右事実関係及び労働省労働基準局長通牒(昭和三二年七月二日付基発五五一号)による労働能力喪失率表を参酌のうえ、被上告人は、本件交通事故に基づく前記後遺症のため労働能力の二パーセントを喪失したものであり、その喪失期間は右事故後七年間と認めるのが相当であるとして、被上告人の年収を基準とする右割合及び期間による三四万一二一六円の財産上の損害を認定している。

 しかしながら、かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。

 ところで、被上告人は、研究所に勤務する技官であり、その後遺症は身体障害等級一四級程度のものであつて右下肢に局部神経症状を伴うものの、機能障害・運動障害はなく、事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けていないというのであるから、現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難いというべきであり、それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである。原審が以上の点について何ら審理を遂げることなく、右後遺症の存在のみを理由にこれによる財産上の損害を認めている点で、原判決には損害認定に関する法令の解釈、適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるといわざるをえず、論旨は理由がある。そして、被上告人の本訴請求は、同一の交通事故によつて生じた身体障害に基づく損害の賠償を請求するものであつて、各費目別の損害額は相互に密接に関連し、上告人の本件上告も右の趣旨で原判決全部の破棄を求めるものと解しえないではないから、原判決中、上告人敗訴部分は、結局、その全部の破棄を免れない。そして、叙上の点を含め、さらに本件損害賠償額について審理を尽くす必要があるから、右破棄部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官  横井大三

            裁判官  環 昌一

            裁判官  伊藤正己

            裁判官  寺田治郎


道路交通法違反,自動車運転過失致死傷被告事件
【事件番号】大阪高等裁判所判決/平成25年(う)第486号
【判決日付】平成25年9月30日
【判示事項】登校中の小学生ら10人を無免許の車で撥ねて死傷させた道交法違反と自動車運転過失致死傷被告事件について,懲役5年以上8年以下に処した一審判決に対し,双方から控訴した事案。裁判所は,少年法55条にいう保護処分相当性の判断は,保護不能にも保護不適にも当たらない場合に認められるが,本件は保護不適に当たることは明らかであるとした上で,被告人は3回に渡り無免許運転し,その常習性や交通法規無視の姿勢は顕著で,一般的な不注意とは質が異なり,その結果は極めて重大であるとして,被告人の酌むべき事情を考慮しても原判決は,軽きに失するとして,原判決を破棄し,懲役5年以上9年以下に処した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役5年以上9年以下に処する。
 原審における未決勾留日数中150日をその刑に算入する。

       理   由

 検察官の控訴趣意は,検察官中田和範作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は主任弁護人服部達夫及び弁護人小嶋敦連名作成の答弁書に,弁護人の控訴趣意は,上記弁護人ら連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書の訂正申立書に,これに対する答弁は検察官宮本健志作成の答弁書(第1回公判期日における訂正後のもの)にそれぞれ記載のとおりである。
 1 弁護人の少年法55条に関する法令適用の誤りないし量刑不当の主張について
 論旨は,要するに,原審は,いわゆる保護不能の場合だけでなく,いわゆる保護不適の場合にも少年に刑事処分を科することができると解して,少年法55条により本件を家庭裁判所に移送することなく,被告人を懲役5年以上8年以下に処するとの判決を言い渡しているが,少年法は,保護不能の場合に限って刑事処分を科することを許容していると解すべきところ,本件が保護不能の場合に当たらないことは明らかであるし,仮に保護不適の場合にも刑事処分を科することが許されると解するとしても,本件は保護不適の場合にも当たらないのであり,いずれにしても,本件を京都家庭裁判所に移送すべきであるから,原判決にはこの点において法令適用の誤りないし量刑不当がある,旨いうのである。
 そこで検討するに,少年法55条にいう保護処分相当性の判断は,検察官送致決定に関する同法20条にいう刑事処分相当性の判断と表裏の関係にあると解されるが,同条1項が「その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは」と規定していることなどからみると,保護処分によってはもはや少年の矯正の見込みがない保護不能の場合のほか,保護処分による矯正が不可能とはいえないものの,事案の内容や社会に与える影響等の事情から保護処分に付するのが相当でない保護不適の場合にも,少年に対して刑事処分を科することができると解するのが相当である(換言すれば,これら保護不能にも保護不適にも当たらない場合に,同法55条にいう保護処分相当性が認められることになる)。
 そして,後述する諸事情に照らせば,本件は,少年である被告人を保護処分に付するのが相当でない保護不適の場合に当たることも明らかである。
 そうすると,原審が本件を家庭裁判所に移送しなかったことをもって,原判決に法令適用の誤りがあるとも量刑が不当であるともいえない。
 論旨は理由がない。
 2 検察官及び弁護人の量刑不当の各主張について
 (1) 検察官の論旨は,要するに,被告人を懲役5年以上8年以下に処した原判決の量刑は,その長期の点において軽過ぎて不当であって,被告人を懲役5年以上10年以下に処するべきである,というのであり,弁護人の論旨は,要するに,原判決の上記量刑は,その長期及び短期のいずれの点においても重過ぎて不当であって,被告人を懲役3年以上6年以下に処する程度にとどめるべきである,というのである。
 (2) そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
 本件は,被告人が,大別すると3回にわたって普通乗用自動車を無免許運転し(原判示第1の1ないし3),うち1回はその運転中に居眠りして,集団登校のため道路右側路側帯内側を歩行中の小学生の列に後方から突っ込み,保護者1名を含む3名を死亡させるとともに,7名に傷害を負わせた(同第2),という事案である。
 被告人は,平成22年4月及び6月に道路交通法違反(暴走族仲間との共同危険行為,その際等の原動機付自転車の無免許運転)の非行に及んだことから,観護措置及び在宅試験観察を経た上で,平成23年1月に保護観察(交通一般:一般保護観察に準ずる処遇勧告あり)に付されたのにもかかわらず,その保護観察期間中に自動車の無免許運転をも始め,平成24年2月に保護観察が解除された前後ころからは自動車の無免許運転を繰り返すようになり,原判示第1の各無免許運転に至ったのであって,被告人の無免許運転の常習性や交通法規無視の姿勢は顕著であり,それ自体厳しい非難を免れない。しかも,被告人は,無免許運転を繰り返した挙げ句,原判示第2の交通事故(以下「本件事故」ともいう)を惹起しているが,その事故原因は,連日あまり眠らずにかつての暴走族仲間ら(そうでない者を含む。以下同じ)と遊び続けて疲れ果て,ついには居眠り運転をしたということにあって,およそ自動車を運転する資格のない者が自動車を運転すべきでない状態で運転したことにあるというほかなく,過失の態様は一般の自動車運転者にも起こりうる一時的な不注意とは全く異質なものであり,その程度は非常に高い。これによって生じた結果は,極めて重大であって,死亡した3名(胎児を含めると4名)の被害者は,その命とともに長い将来や夢・希望の全てを奪われ,負傷した7名の被害者は,身体だけでなく心にも深い傷を負い,後遺症等がこれからの人生に悪影響を及ぼすことも懸念される状態にある。死亡した被害者ら,負傷した被害者らそれぞれに,また,その親族らを含めて,実に多くの人々の人生が被告人の無謀な行為により暗転しており,死亡した被害者らの遺族の悲しみは深く,怒りは強いし,負傷した被害者らやその親族の苦しみや心配も大きい。このような悲惨な結果を受け,被害者参加人らが厳罰を求めるのも,その心情として至極当然といえるが,その結果発生の原因が上記のとおり被告人の無軌道さに由来することは,やりきれない思いを一層強くするものと推察される。また,本件事故は,全く落ち度のない無防備な多くの小学生等が悲惨な被害に遭った事故として,社会の関心を集めており,本件は社会的影響が大きい事件として,一般予防の見地からの考慮も欠かせない。以上を併せ考えると,犯情は非常に悪く,被告人の刑責は誠に重大といわざるを得ない。
 他方,被告人が,各事実を認めるとともに,事故を起こしてしまったことをそれなりに反省・後悔し,これまでの自堕落な生活態度をも省みていること,被告人なりに死亡した被害者らの冥福を祈り,また,遺族や負傷した被害者らに対して謝罪の態度を示していること,被告人の父親が加入していた対人無制限の任意保険が本件事故にも適用のあることが判明し,民事的な損害賠償については相応のものがなされるものと見込まれること,被告人は本件各犯行当時18歳の少年であって,これまでに上記の保護処分歴はあるものの,少年院に送致されあるいは受刑したことはないことなどの事情も認められ,これらは被告人のために酌むべき事情に当たるが,その各事情の内容に鑑み,また,前述した本件各犯行に至る経緯や各犯行の態様,結果等に照らすと,その酌むべき度合いは自ずと限られるというべきである。
 (3) ところで,原判示第1の3の無免許運転については,その時間,距離,態様等,特にそれが本件事故を伴うものであることからすると,その犯情は同種事犯の中で最も悪質なものというべきであり,また,原判示第2の自動車運転過失致死傷については,その過失の態様,程度,結果の重大性等からすると,その犯情は同様に最も悪質なものというべきであるが,この2つの罪のみが併合罪を構成する場合の処断刑(いずれも懲役刑を選択)の上限は,懲役8年にとどまるところ,原判示第1の1及び2の各無免許運転が併せて起訴されていることから,本件の処断刑(前同)の上限が懲役10年になっていることが明らかである。
 そうすると,被告人に対する本件量刑は,もとより併合罪の構成単位である各罪について個別的に量刑判断を行った上で,これを合算するような方法でなすべきものではなく,処断刑の範囲内で各罪全体に対する刑を決する方法でなすべきものである(最高裁第一小法廷平成15年7月10日判決参照)が,それを判断する上では,原判示第1の1及び2の各罪の犯情をも十分に考慮する必要がある。
 原判決は,この点,「(原)判示第1の1及び2の各無免許運転は,本件事故を引き起こした居眠り運転の原因である(原)判示第1の3の無免許運転と同様に被告人の常習的な無免許運転の一環としての行為で,かつ,そのような交通法規無視の態度がひいては本件事故を招いたという意味においては本件事故と無関係であるとはいえないものの,そもそも本件事故の6日前及び12日前に犯された別個の無免許運転であり,本件事故の過失の内容である居眠り運転との因果関係は全くない」と説示している。なるほど,原判示第1の1及び2の各無免許運転が本件事故の過失の内容である居眠り運転と因果関係を有しないことは上記説示のとおりである。しかしながら,被告人は,これまで運転免許を一度も取得したことがないにもかかわらず,無免許運転を繰り返していただけでなく,原判示第1の1及び2の各無免許運転は,被告人がかつての暴走族仲間らと夜どおし遊び回る中で犯したものであって(特に同第1の1に際しては,眠たかったが運転すれば目が覚めると思って運転したというのである),それらの各無免許運転に至る経緯や動機に全く酌むべき点はなく,その態様等からはいずれ何らかの事故を惹起しかねない危険性がうかがわれ,原判示第1の3の無免許運転時における本件事故は,そのような危険性が最も不幸な形で現実のものとなったと考えられるのであるから,原判示第1の1及び2の各罪の犯情は同第1の3の罪の犯情ほど悪質ではないにしても,相当に悪いというべきである。
 (4) 以上によれば,被告人に対する本件量刑は,処断刑期及び少年法上の不定期刑に係る制約の上限に近い辺りをもって臨むのが相当であって,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは到底いえないし,原判決が不定期刑の長期を懲役8年としたのも,被告人のために酌むべき事情をやや過大に評価する一方,原判示第1の1及び2の各罪の犯情の悪さをやや過小に評価したものとして,軽きに失するというべきであるから,原判決は破棄を免れないが,検察官のいうように不定期刑の長期を処断刑の上限の懲役10年とすることについても,処断刑の上記上限を導き出した併合罪を構成する各罪の各犯情を念頭に置いた上で,それらを全体として評価しても,なおそれが相当であるとまではいえない。
 弁護人の論旨は理由がなく,検察官の論旨は上記の限度で理由がある。
 3 破棄自判
 よって,刑訴法397条1項,381条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に次のとおり判決する。
 原判決が認定した罪となるべき事実(ただし,「被告人は,」の後に「少年であるが,」を付加する)に原判決が挙示する法令を適用し(科刑上1罪の処理,刑種の選択及び併合罪の処理を含む),その処断刑期の範囲内で,少年法52条1項,2項により,被告人を懲役5年以上9年以下に処し,原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を,原審及び当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(原審における検察官の科刑意見 懲役5年以上10年以下)
  平成25年9月30日
    大阪高等裁判所第6刑事部
        裁判長裁判官  森岡安廣
           裁判官  向野 剛
           裁判官  田中幸大

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