岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

カテゴリ: 倒産法

イタメシ、韓国料理など専門料理店の倒産最多 ~ インバウンドの取りこぼしと輸入食材の高騰 ~(東京商工リサーチ) - Yahoo!ニュース

破産管財人の担保価値維持義務 最高裁平成18年12月21日

民法判例百選Ⅰ 第8版 83事件 9版 79事件 倒産判例百選第5版 18事件 4版17事件 6版 17事件 山本入門3版63頁 ダットサンⅠ 4版物97(1)エ

損害賠償請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/平成17年(受)第276号

平成18年12月21日

【判示事項】      1 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害したことが質権設定者の質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反するとされた事例

            2 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害しても質権者に対して善管注意義務違反の責任を負うとはいえないとされた事例

         3 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして上記賃料等の現実の支払を免れた場合において破産管財人は敷金返還請求権の質権者に対して不当利得返還義務を負うとされた事例

【判決要旨】       1 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害したことは,当時破産財団に上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,質権設定者の質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反する。

             2 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際して賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害したことが,質権設定者の質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反する場合であっても,その義務違反の有無が,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と質権設定者が質権者に対して負う上記義務との関係をどのように解するかによって結論の異なり得る問題であって,この点について論ずる学説や判例も乏しかったことや,破産管財人が上記合意をするにつき破産裁判所の許可を得ているという事情の下では,破産管財人は,質権者に対し,善管注意義務違反の責任を負うということはできない。

             (補足意見がある。)

             3 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れた場合において,当時破産財団には上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,破産管財人は,敷金返還請求権の質権者に対し,敷金返還請求権の発生が阻害されたことにより優先弁済を受けることができなくなった金額につき不当利得返還義務を負う。

【参照条文】      民法362

            民法619-2

            破産法(平16法75号廃止前)47

            破産法(平16法75号廃止前)49

            破産法(平16法75号廃止前)50

            破産法(平16法75号廃止前)95

            破産法65

            破産法148-1

            破産法151

            破産法(平16法75号廃止前)164

            破産法85

            民法703

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集60巻10号3964頁

            裁判所時報1427号23頁

            判例タイムズ1235号148頁

            金融・商事判例1264号39頁

            金融・商事判例1258号8頁

            判例時報1961号53頁

            金融法務事情1802号132頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      金融・商事判例1268号6頁

            ジュリスト1377号141頁

            税務事例39巻8号62頁

            判例時報1981号201頁

            法学研究(北海学園大)44巻2号323頁

            法学セミナー52巻4号115頁

            法曹時報61巻3号291頁

            民商法雑誌136巻3号405頁

 

       主   文

 

 1 原判決中,主文第1,2項を破棄する。

 2 被上告人は,上告人に対し,1050万3176円及びこれに対する平成15年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 3 上告人のその余の上告を棄却する。

 4 訴訟の総費用は,これを3分し,その2を被上告人の負担とし,その余を上告人の負担とする。

 

       理   由

 

第1 事案の概要

 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)トーア工業株式会社(以下「破産会社」という。)は,平成10年2月13日,住友不動産株式会社から,東京都港区芝〈番地略〉所在の鉄骨鉄筋コンクリート造地下2階,地上9階建ての建物のうち次のア~エの部分を各記載の賃料で賃借し,その引渡しを受けた(以下,併せて「本件各賃貸借」という。)。

 ア 地下1階事務所部分(以下「本件第1賃貸借」という。)

 月額賃料248万0805円

 イ 8階,9階居室部分(以下「本件第2賃貸借」という。)

 月額賃料388万6875円

 ウ 駐車場部分(以下「本件第3賃貸借」という。)

 月額賃料49万円

 エ 倉庫部分(以下「本件第4賃貸借」という。)

 月額賃料3万円

 (2)破産会社は,本件各賃貸借に際し,住友不動産に対し,合計6050万8750円(本件第1賃貸借につき4961万5000円,本件第2賃貸借につき777万3750円,本件第3賃貸借につき294万円,本件第4賃貸借につき18万円)の敷金(以下「本件敷金」という。)を差し入れた。

 (3)破産会社は,平成10年4月30日,株式会社第一勧業銀行,株式会社富士銀行,株式会社横浜銀行,株式会社あさひ銀行及び株式会社東京三菱銀行(以下,これらの銀行を「本件各銀行」という。)に対し,破産会社が本件各銀行に対して負担する一切の債務の担保として,本件各賃貸借に基づき破産会社が住友不動産に対して有する本件敷金の返還請求権(以下「本件敷金返還請求権」という。)のうち6000万円につき質権(以下「本件質権」という。)を設定し,住友不動産は,同日,確定日付のある証書により本件質権の設定を承諾した。

 (4)本件各銀行及び破産会社は,本件質権の設定に際し,その実行による本件敷金の配分割合を,第一勧業銀行262分の87,富士銀行262分の65,横浜銀行262分の50,あさひ銀行262分の30,東京三菱銀行262分の30とする旨合意した。

 (5)破産会社は,平成11年1月25日に破産宣告を受け,被上告人が破産管財人に選任された。

 (6)第一勧業銀行は,平成11年9月20日,オランダ法人であるプロモントリアホールディングツービーヴィ(以下「プロモントリア」という。)に対し,破産会社に対して有する債権(元本合計75億9884万0303円)を付随する一切の担保等と共に譲渡し,確定日付のある書面による債権譲渡通知を行った。

 また,プロモントリアは,上告人に対し,債権管理回収業に関する特別措置法に基づき,上記債権の回収を委託した。

 (7)被上告人は,破産裁判所の許可を得て(ただし,本件第3賃貸借を除く。),住友不動産との間で,以下のとおり,本件各賃貸借を順次合意解除し,本件敷金6050万8750円のうち6043万4590円を本件各賃貸借に関して生じた住友不動産の債権に充当する旨を合意した(この合意を,以下「本件充当合意」という。)。

 ア 平成11年3月31日,本件第2賃貸借を合意解除して居室を明け渡し,未払賃料,未払共益費等合計777万3750円に本件敷金を充当する旨合意した。

 イ 同日,本件第4賃貸借を合意解除して倉庫を明け渡し,未払賃料,未払共益費等合計10万5840円に本件敷金を充当する旨合意した。

 ウ 同年6月21日,本件第3賃貸借を合意解除して駐車場を明け渡し,未払賃料294万円に本件敷金を充当する旨合意した。

 エ 同年10月31日,本件第1賃貸借を合意解除して事務所を明け渡し,未払賃料,未払共益費,本件第1賃貸借の終了に伴う原状回復工事及び残置物処理費用(以下「原状回復費用」という。)等合計4961万5000円(うち1021万3714円は原状回復費用)に本件敷金を充当する旨合意した。

 (8)本件敷金が充当された上記債権のうち,本件第1賃貸借に係る未払賃料及び未払共益費の一部3163万0257円,同賃貸借に係る原状回復費用1021万3714円並びに本件第2賃貸借に係る未払賃料及び未払共益費の一部317万6574円の合計4502万0545円は,破産宣告後に生じた債権である(以下,これらを併せて「本件宣告後賃料等」という。)。

 (9)破産会社の破産財団には,本件第2及び第4賃貸借が合意解除された平成11年3月31日現在で約2億2000万円の,本件第3賃貸借が合意解除された同年6月21日現在で約5億8000万円の,本件第1賃貸借が合意解除された同年10月31日現在で約6億5000万円の銀行預金が存在した。

 2 本件は,上告人が,本件充当合意は破産管財人の善管注意義務に違反するものであり,これにより破産財団が本件宣告後賃料等の支払を免れ,プロモントリアの有する質権が無価値となって優先弁済権が害されたとして,被上告人に対し,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの。以下同じ。)164条2項,47条4号に基づく損害賠償又は不当利得の返還として(両者の関係は選択的併合),本件充当合意により本件敷金が充当された本件宣告後賃料等4502万0545円からプロモントリアに対する債権譲渡がされる前に充当がされた317万6574円を控除した4184万3971円の262分の87に当たる1389万4752円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

 第1審は,上告人の旧破産法164条2項,47条4号に基づく損害賠償請求を一部認容したが,原審は,上告人の請求をいずれも棄却した。

第2 上告代理人遠山康の上告受理申立て理由第1について

 1 債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者に対し,当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,債権の放棄,免除,相殺,更改等当該債権を消滅,変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは,同義務に違反するものとして許されないと解すべきである。そして,建物賃貸借における敷金返還請求権は,賃貸借終了後,建物の明渡しがされた時において,敷金からそれまでに生じた賃料債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を控除し,なお残額があることを条件として,その残額につき発生する条件付債権であるが(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照),このような条件付債権としての敷金返還請求権が質権の目的とされた場合において,質権設定者である賃借人が,正当な理由に基づくことなく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは,質権者に対する上記義務に違反するものというべきである。

 また,質権設定者が破産した場合において,質権は,別除権として取り扱われ(旧破産法92条),破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており(同法95条),他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから,破産管財人は,質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継すると解される。

 そうすると,被上告人は,プロモントリアに対し,本件各賃貸借に関し,正当な理由に基づくことなく未払債務を生じさせて本件敷金返還請求権の発生を阻害してはならない義務を負っていたと解すべきである。

 2 以上の見地から本件についてみると,本件宣告後賃料等のうち原状回復費用については,賃貸人において原状回復を行ってその費用を返還すべき敷金から控除することも広く行われているものであって,敷金返還請求権に質権の設定を受けた質権者も,これを予定した上で担保価値を把握しているものと考えられるから,敷金をもってその支払に当てることも,正当な理由があるものとして許されると解すべきである。他方,本件宣告後賃料等のうち原状回復費用を除く賃料及び共益費(以下,これらを併せて「本件賃料等」という。)については,前記事実関係によれば,被上告人は,本件各賃貸借がすべて合意解除された平成11年10月までの間,破産財団に本件賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,現実にこれを支払うことに支障がなかったにもかかわらず,これを現実に支払わないで住友不動産との間で本件敷金をもって充当する旨の合意をし,本件敷金返還請求権の発生を阻害したのであって,このような行為(以下「本件行為」という。)は,特段の事情がない限り,正当な理由に基づくものとはいえないというべきである。本件行為が破産財団の減少を防ぎ,破産債権者に対する配当額を増大させるために行われたものであるとしても,破産宣告の日以後の賃料等の債権は旧破産法47条7号又は8号により財団債権となり,破産債権に優先して弁済すべきものであるから(旧破産法49条,50条),これを現実に支払わずに敷金をもって充当することについて破産債権者が保護に値する期待を有するとはいえず,本件行為に正当な理由があるとはいえない。そして,本件において他に上記特段の事情の存在をうかがうことはできない。

 以上によれば,本件行為は,被上告人がプロモントリアに対して負う前記義務に違反するものというべきである。

 3 破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負うものである(旧破産法164条1項,185条~227条,76条,59条等)。そして,この善管注意義務違反に係る責任は,破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務に違反した場合に生ずると解するのが相当である。この見地からみると,本件行為が質権者に対する義務に違反することになるのは,本件行為によって破産財団の減少を防ぐことに正当な理由があるとは認められないからであるが,正当な理由があるか否かは,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と質権設定者が質権者に対して負う義務との関係をどのように解するかによって結論の異なり得る問題であって,この点について論ずる学説や判例も乏しかったことや,被上告人が本件行為(本件第3賃貸借に係るものを除く。)につき破産裁判所の許可を得ていることを考慮すると,被上告人が,質権者に対する義務に違反するものではないと考えて本件行為を行ったとしても,このことをもって破産管財人が善管注意義務違反の責任を負うということはできないというべきである。そうすると,被上告人の善管注意義務違反を理由とする旧破産法164条2項,47条4号に基づく損害賠償請求を棄却した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は理由がない。

第3 上告代理人遠山康の上告受理申立て理由第2について

 1 前記事実関係の下で,原審は,被上告人が本件宣告後賃料等に本件敷金を充当してその支払を免れても,それと同額が破産財団に属する敷金返還請求権から減少するから,これにより破産財団に利得が生じないことは明らかであると判断して,上告人の不当利得返還請求を棄却すべきものとした。

 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 本件質権の被担保債権の額が本件敷金の額を大幅に上回ることが明らかである本件においては,本件敷金返還請求権は,別除権である本件質権によってその価値の全部を把握されていたというべきであるから,破産財団が支払を免れた本件宣告後賃料等の額に対応して本件敷金返還請求権の額が減少するとしても,これをもって破産財団の有する財産が実質的に減少したとはいえない。そうすると,破産財団は,本件充当合意により本件宣告後賃料等の支出を免れ,その結果,同額の本件敷金返還請求権が消滅し,質権者が優先弁済を受けることができなくなったのであるから,破産財団は,質権者の損失において本件宣告後賃料等に相当する金額を利得したというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,主文第1,2項は破棄を免れない。

 そして,前記事実関係及び上記に説示したところによれば,破産財団は,本件賃料等3480万6831円について,法律上の原因なくこれを利得したものであり,被上告人は,3480万6831円からプロモントリアに対する債権譲渡がされる前に本件充当合意がされた317万6574円を控除した3163万0257円の262分の87に相当する1050万3176円につき,これを不当利得としてプロモントリアに返還すべき義務を負うというべきである。したがって,上告人の不当利得返還請求を上記金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の上告は理由がないから棄却することとする(なお,上記不当利得返還請求が認容されることにより,第1審判決主文第1項は当然に失効する。)。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官才口千晴の補足意見がある。

 裁判官才口千晴の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛同するものであるが,本件は破産管財人の善管注意義務という重要かつ微妙な問題に関する事案であるから,補足して意見を述べることにする。

 1 破産管財人の善管注意義務は,民法上のものと同趣旨であり,破産管財人としての地位,知識において一般的に要求される平均的な注意義務であるとされ,破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の共同の利益のため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成する義務と責任を負うものである。そして,破産管財人は,第1次的には破産債権者のために破産財団を適切に維持・増殖すべき義務を負うのであるが,他方で,破産者の実体法上の権利義務を承継する者として,利害関係人との間の法律関係を適切に整理・調整すべき義務を負っているのである。

 2 本件は,破産管財人が負う上記の各義務,すなわち,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという職務上の義務と破産者である質権設定者の義務を承継する者として質権者に対して負う義務とが衝突する場面において,破産管財人がいかに適正に管財業務を処理するかの問題であり,正に破産管財人の資質や力量が問われるところである。破産管財人は,多種・多様な職務に追われ,時間的な余裕に乏しく多忙である中で,現在及び将来の破産財団や財団債権等の状況を把握したり,予想したりしながら管財業務を遂行することが一般的であるが,各種の権利関係に細やかな目配りをして公平かつ適正な処理をすべきであり,特に法律の専門家である弁護士が破産管財人となっている場合には,その要請は高度のものとなるというべきである。

 本件において,破産管財人は,破産手続開始後,破産宣告後約2か月から9か月の間賃貸借を継続し,その間賃料等を現実に支払わずに破産財団の維持を図ったものである。このような行為は,敷金返還請求権に質権を設定している者の権利の内容に重大な影響を与えるのであるから,破産管財人としては,関係者の権利関係に細やかな目配りをして,より慎重に対応することが望ましかったといえよう。しかしながら,本件は,相反する義務のいずれを優先させるかという困難かつ微妙な判断の当否が問われたものであるところ,条件付債権に対する質権の効力について論ずる学説や判例も乏しく,また,このような質権の破産手続上の取扱いについて法的な整備もなされていないことや,破産管財人は,本件行為につき破産裁判所の許可を求めており,破産裁判所がこれを許可していること等の事情を考慮すれば,破産管財人の上記行為を善管注意義務に違反する行為であるとまでは評価できないのである。

 そうすると,原審の判断には,破産管財人が質権者に対して負う義務の内容についての法令の解釈を誤った違法があるが,破産管財人の善管注意義務違反を否定したことは結論において正当である。

 なお,本件においては,この賃貸借の継続がいかなる理由に基づくものであったかを原審は何ら認定しておらず,賃貸借の継続が管財業務の遂行に必要不可欠なものと評価できるかどうかは不明である。しかし,破産管財人としては,破産財団の早期清算のため,継続する賃借部分を縮小したり,あるいは賃借部分を賃料の低額な他の物件に移すなどの措置をとるべきではなかったかとの疑問も生ずるところである。

 3 ところで,破産管財人は,自然人であれば弁護士ではない一般人であってもよく,必ずしも法律的知識や会計に関する知識等に堪能であるとは限らない。また,新破産法は,破産管財人は自然人に限らず,法人を選任することができるとした(74条2項)。しかし,実務では,破産管財人のほとんどに弁護士が選任されているのが現状である。そして,法律の専門家である弁護士は,高度な専門的知識及び経験を有する者として,各種の権利関係等に細やかな目配りをしながら,公平かつ適正に管財業務を遂行することが求められているのである。

 当審が,本件における破産管財人の行為につき善管注意義務違反の責任を問わないのは,前述のとおり,本件が,破産債権者の利益の保護と質権者に対する義務の履行のいずれを優先すべきかという困難かつ微妙な問題であって,これらの義務の関係等について論ずる学説や判例も乏しく,破産債権者の利益のために破産財団を維持することを優先させた破産管財人の判断を一概に不合理であるとはいえないからである。破産管財人が,法律の無知や知識の不足により利害関係人の権利を侵害した場合には,善管注意義務違反の責任を問われることはいうまでもなく,その場合の破産管財人の責任は,利害関係人に対し,破産管財人個人が損害を賠償する義務を負う(旧破産法164条,新破産法85条)という極めて重いものであることを改めて認識すべきである。

 (裁判長裁判官・才口千晴,裁判官・横尾和子,裁判官・甲斐中辰夫,裁判官・泉 徳治,裁判官・涌井紀夫)

古田佑紀裁判長名判決 管財人の源泉徴収義務否定 最高裁平成23年

租税判例百選 第5版 114事件 第7版 118事件 倒産判例百選 第5版 20事件 第6版 18事件 解説者交替源泉徴収納付義務不存在確認請求事件 金子17版 207頁ほか

最高裁判所第2小法廷判決/平成20年(行ツ)第236号、平成20年(行ヒ)第272号

平成23年1月14日

 

【判示事項】 1 弁護士である破産管財人は,自らの報酬の支払について,所得税法204条1項2号所定の源泉徴収義務を負うか

       2 弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権に当たるか

       3 破産管財人は,破産債権である所得税法199条所定の退職手当等の債権に対する配当について,同条所定の源泉徴収義務を負うか

 

【判決要旨】 1 弁護士である破産管財人は,所得税法204条1項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負う。

       2 弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権に当たる。

       3 破産管財人は,破産債権である所得税法199条所定の退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではない。

 

【参照条文】 所得税法6

       所得税法204-1

       破産法(平16法75号廃止前)166

       破産法87-1

       破産法(平16法75号廃止前)47

       破産法148-1

       所得税法30-1

       所得税法199

       破産法(平16法75号廃止前)256

       破産法193-1

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集65巻1号1頁

       裁判所時報1523号17頁

       判例タイムズ1343号96頁

       金融・商事判例1365号31頁

       金融・商事判例1359号22頁

       判例時報2105号3頁

       金融法務事情1916号48頁

       税務訴訟資料(徴収関係判決)平成23年順号23-1

       税務訴訟資料261号順号11593

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 金融・商事判例1374号8頁

       ジュリスト1418号100頁

       ジュリスト1432号100頁

       ジュリスト1440号139頁

       別冊ジュリスト207号212頁  租税判例百選5版

       別冊ジュリスト216号42頁 租税判例選6版

       別冊ジュリスト228号222頁

       租税訴訟9号509頁

       税研178号55頁

       税経通信66巻7号147頁

       税法学572号171頁

       税務事例43巻6号1頁

       税務事例45巻1号7頁

       判例時報2136号170頁

       法曹時報66巻1号185頁

       民商法雑誌150巻1号81頁

 

       主   文

 

  1 原判決のうち平成12年8月分の源泉所得税及びその不納付加算税に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。

  2 本件訴えのうち平成12年8月分の源泉所得税の不納付加算税に関する部分を却下する。

  3 上告人の被上告人に対する平成12年8月分の源泉所得税2013万7500円の納税義務が存在しないことを確認する。

  4 上告人のその余の上告を棄却する。

  5 訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

 

        理   由

 

  第1 事案の概要

  1 本件は,破産管財人である上告人(弁護士)が,破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの。以下「旧破産法」という。)の下において,破産管財人の報酬の支払をし,破産債権である元従業員らの退職金の債権に対する配当をしたところ,所轄税務署長から,上記支払には所得税法204条1項2号の規定が,上記配当には同法199条の規定がそれぞれ適用されることを前提として,源泉所得税の納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を受けたことから,上告人において,主位的に,上告人の被上告人に対する上記源泉所得税及び不納付加算税の納税義務が存在しないことの確認を求めるとともに,予備的に,被上告人の上告人に対する上記源泉所得税及び不納付加算税の債権が財団債権でないことの確認を求めている事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

  (1) A株式会社(以下「破産会社」という。)は,平成11年9月16日,大阪地方裁判所において破産宣告を受け,弁護士である上告人が破産管財人に選任された。

  (2)ア 大阪地方裁判所は,平成12年6月29日,上告人の報酬を3000万円とする旨決定し,上告人は,同年7月3日,上記報酬の支払をした。

  イ 上告人は,平成12年8月30日,破産会社の元従業員ら270名を債権者とする退職金の債権(以下「本件各退職金債権」という。)に対し,合計5億9415万2808円の配当をした。なお,上記元従業員らは,いずれも平成11年9月16日をもって破産会社を退職していた。

  ウ 大阪地方裁判所は,平成13年3月21日,上告人の報酬を5000万円とする旨決定し,上告人は,同月28日,上記報酬の支払をした(以下,この報酬と上記アの報酬とを併せて「本件各報酬」という。)。

  (3) 住吉税務署長は,平成15年10月23日付けで,上告人に対し,次のとおりの源泉所得税の納税の告知(以下「本件各納税告知」という。)及び不納付加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした。

  ア 上記(2)アの支払に係る平成12年7月分の源泉所得税590万円の納税の告知及び不納付加算税59万円の賦課決定

  イ 上記(2)イの配当に係る平成12年8月分の源泉所得税2013万7500円の納税の告知及び不納付加算税201万3000円の賦課決定

  ウ 上記(2)ウの支払に係る平成13年3月分の源泉所得税990万円の納税の告知及び不納付加算税99万円の賦課決定

  (4) 住吉税務署長は,平成15年10月28日付けで,上告人に対し,本件各納税告知に係る源泉所得税及び本件各賦課決定に係る不納付加算税並びに延滞税について交付要求をした。

  3 原審は,要旨次のとおり判断し,上告人の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却すべきものとした。

  (1) 弁護士である破産管財人が受ける報酬は,所得税法204条1項2号にいう弁護士の業務に関する報酬に該当する。同項にいう「支払をする者」とは,当該支払に係る経済的出えんの効果の帰属主体をいい,破産管財人の報酬の場合は,破産者がこれに当たると解されるが,破産管財人が自己に専属する管理処分権に基づいて破産財団から上記報酬の支払をすることは,法的には破産者が自らこれを行うのと同視できるし,その場合,破産管財人は当該支払を本来の管財業務として行うのであるから,破産管財人は,当該支払に付随する職務上の義務として,上記報酬につき所得税の源泉徴収義務を負うと解するのが相当である。そして,上記報酬に係る源泉所得税の債権は,破産財団管理上の当然の経費として破産債権者にとって共益的な支出に係るものであって,旧破産法47条2号ただし書所定の財団債権に当たるというべきであり,その附帯税である不納付加算税の債権も,財団債権に当たるというべきである。

  (2) 破産債権である元従業員らの退職金の債権に対して破産管財人が行う配当は,所得税法199条にいう退職手当等の支払に当たり,当該配当においても,上記(1)と同様の理由により,破産者が同条にいう「支払をする者」に当たると解され,破産管財人は,当該配当に付随する職務上の義務として,当該配当につき所得税の源泉徴収義務を負い,その源泉所得税及び不納付加算税の債権は,いずれも財団債権に当たるというべきである。

  第2 上告代理人山下良策ほかの上告理由について

 論旨は,違憲及び理由の不備・食違いをいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項又は2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

  第3 職権による検討

  上告人が,本件訴えとは別に,被上告人を相手に本件各賦課決定の取消しを求める訴えを大阪地方裁判所に提起し,同裁判所が本件各賦課決定のうち本件各退職金債権に対する配当に係る平成12年8月分の源泉所得税の不納付加算税の賦課決定(以下「平成12年8月分賦課決定」という。)を取り消して上告人のその余の請求を棄却する旨の判決を言い渡したのに対し,被上告人は不服申立てをせず,上告人のみが控訴し,その控訴を棄却した大阪高等裁判所の判決に対して上告人が上告(平成21年(行ツ)第11号)及び上告受理の申立て(同年(行ヒ)第14号)をし,平成22年12月17日,上記の各事件について,上告を棄却し,事件を上告審として受理しない旨の決定がされたことは,当裁判所に顕著である。これらの事実によれば,上記大阪地方裁判所の判決のうち平成12年8月分賦課決定を取り消すべきものとした部分が確定したことにより,平成12年8月分賦課決定に係る不納付加算税の納税義務は当初から発生しなかったことになるから,上告人が,本件訴えにおいて,主位的にその納税義務が存在しないことの確認を求め,予備的にその不納付加算税の債権が財団債権でないことの確認を求める利益は失われたものというべきである。したがって,本件訴えのうち平成12年8月分賦課決定に係る不納付加算税に関する部分は,不適法として却下すべきである。

  第4 上告代理人山下良策ほかの上告受理申立て理由について

 1 原審の前記第1の3(1)の判断は,結論において是認することができるが,同(2)の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  (1) 弁護士である破産管財人が支払を受ける報酬は,所得税法204条1項2号にいう弁護士の業務に関する報酬に該当するものというべきところ,同項の規定が同号所定の報酬の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのは,当該報酬の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである(最高裁昭和31年(あ)第1071号同37年2月28日大法廷判決・刑集16巻2号212頁参照)。

  破産管財人の報酬は,旧破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理,換価及配当ニ関スル費用」に含まれ(最高裁昭和40年(オ)第1467号同45年10月30日第二小法廷判決・民集24巻11号1667頁参照),破産財団を責任財産として,破産管財人が,自ら行った管財業務の対価として,自らその支払をしてこれを受けるのであるから,弁護士である破産管財人は,その報酬につき,所得税法204条1項にいう「支払をする者」に当たり,同項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うと解するのが相当である。

  そして,破産管財人の報酬は,破産手続の遂行のために必要な費用であり,それ自体が破産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属するものであるから,その支払の際に破産管財人が控除した源泉所得税の納付義務は,破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当である。したがって,弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」として,財団債権に当たるというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第6号同43年10月8日第三小法廷判決・民集22巻10号2093頁,最高裁昭和59年(行ツ)第333号同62年4月21日第三小法廷判決・民集41巻3号329頁参照)。また,不納付加算税の債権も,本税である源泉所得税の債権に附帯して生ずるものであるから,旧破産法の下において,財団債権に当たると解される(前掲最高裁昭和62年4月21日第三小法廷判決参照)。

  (2) 所得税法199条の規定が,退職手当等(退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与をいう。以下同じ。)の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのも,退職手当等の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである(前掲最高裁昭和37年2月28日大法廷判決参照)。

  破産管財人は,破産手続を適正かつ公平に遂行するために,破産者から独立した地位を与えられて,法令上定められた職務の遂行に当たる者であり,破産者が雇用していた労働者との間において,破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係に立つものではなく,破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配当をする場合も,これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから,このような破産管財人と上記労働者との間に,使用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということはできない。また,破産管財人は,破産財団の管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法7条),破産宣告前の雇用関係に基づく退職手当等の支払に関し,その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。そうすると,破産管財人は,上記退職手当等につき,所得税法199条にいう「支払をする者」に含まれず,破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではないと解するのが相当である。

  2 以上によれば,本件各報酬の支払に係る平成12年7月分及び同13年3月分の源泉所得税及びその不納付加算税に関する上告人の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができ,この点に関する論旨は採用することができない。他方,本件各退職金債権に対する配当に係る平成12年8月分の源泉所得税に関する上告人の主位的請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点に関する論旨は理由がある。

  第5 結論

  以上説示したところによれば,原判決のうち平成12年8月分の源泉所得税及びその不納付加算税に関する部分は破棄を免れず,同部分につき第1審判決を取り消して,本件訴えのうち上記不納付加算税に関する部分を却下し,上記源泉所得税に関する上告人の主位的請求を認容すべきであり,上告人のその余の上告は棄却すべきである。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美)

 

破産者に対する条件付き渡航許可

倒産判例百選第6版A5

旅行許可決定に対する抗告事件

東京高等裁判所決定/平成27年(ラ)第355号

平成27年3月5日

【判示事項】    債権者集会への出席を条件とする破産者に対する海外旅行の許可が適法とされた事例

【参照条文】    破産法37-1

          破産法40-1

【掲載誌】     判例タイムズ1421号119頁

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 抗告費用は抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

 第1 抗告の趣旨

 1 原決定を取り消す。

 2 抗告人に対し無条件で海外渡航を許可する。

 第2 事案の概要等

 1 事案の概要

 破産者である抗告人は,破産者株式会社A(平成21年4月21日に破産手続開始。以下「破産会社」という。)の代表取締役であった者であるが,平成21年6月4日午後5時に破産手続開始の決定を受けた。

 本件は,破産者である抗告人が,平成27年3月14日から同年5月14日までの2か月間,ラオス人民民主共和国,タイ王国,ベトナム社会主義共和国,カンボジア王国,フィリピン共和国,マレーシア,シンガポール共和国を渡航先とする海外旅行(以下「本件旅行」という。)について,破産裁判所に対し,破産法37条1項による居住地を離れることの許可を求めた事案(以下「本件申立て」という。)である。

 原審は,本件申立てにつき,平成27年3月11日の財産状況報告集会及び免責審尋期日に出頭することを条件として,上記の期間につき居住地を離れることを許可するとの決定(以下「原決定」という。)をしたので,抗告人が,これを不服として抗告をした。

 2 抗告の理由

 抗告の理由は,即時抗告状の「抗告の理由」に記載のとおりであり,その要旨は次のとおりである。

 (1) 破産者の居住地を制限する破産法37条1項の趣旨は,破産者の逃走や財産の隠匿の防止にあり,これを超えて破産者の居住・移転の自由を制限することは憲法22条に違反し,違法であるところ,抗告人は,5年にわたる破産手続係属中,逃走や財産の隠匿を図ったことはなく,国内移動や海外渡航を繰り返し行っていたところ,破産裁判所が突然抗告人の海外渡航を制限することは,破産法37条1項が予定する破産裁判所の覊束裁量権を逸脱したものである。また,抗告人の債権者集会と重ならない期間の渡航について,債権者集会出席を義務付けることも,上記破産裁判所の覊束裁量権を逸脱したものである。

 (2) 原決定は,抗告人が債権者集会に不出頭を続けたことにより破産債権者への対応に困難が生じ,破産手続の進行に支障が生じるおそれがあるとするが,本件においては,債権届出手続もされておらず,債権者と名乗る者らは現時点での「自称」に過ぎず,また,債権者集会には抗告人の代理人が出頭しており,債権者集会の運営に支障を生じたことはないし,抗告人が債権者集会に出席して債権者と称する者らに不必要にさらされることは,かえって債権者集会の議事進行に混乱を来たしかねない。さらに,抗告人は,毎回医師の診断書を提出した上で欠席しており,また2年以上にわたる勾留により精神身体に甚大な悪影響を受けたものであって,保釈後の債権者集会欠席には合理的理由がある。

 破産裁判所は,破産手続開始決定と同時にすべき破産債権の届出期間を定めず,債権届も提出させることなく,漫然と債権者と称する者の出席を許して債権者集会を開催しているのであり,自ら法の定める手続に違背した破産裁判所が抗告人に対し債権者集会への出席を条件付けることは許されない。また,本件は,破産会社に対し,過払金返還請求権を有すると称する債権者らが,同社が損害を被ったことを理由とする間接損害を根拠として,抗告人に対する破産手続開始の申立てにより破産手続が開始されたものであり,そのような債権者は,破産会社と別個独立に債権を行使し得る立場にない(破産法104条)。これらの事情によれば,債権届出手続をすることなく,いたずらに抗告人の債権者集会への出頭を義務付けることは,憲法31条の定める適正手続の保障に反し,違法である。

 第3 当裁判所の判断

 1 判断の基礎となる事実

 一件記録によれば,次の事実が認められる。

 (1) 破産開始決定に至る経緯

 抗告人に対する債権者らは,平成21年5月,破産会社との取引により損害を被ったところ,破産会社の代表取締役であった抗告人は会社法429条により債権者らに対し損害賠償義務を負うと主張して,抗告人につき破産手続開始の申立てをした。

 原審の破産裁判所は,同年6月4日午後5時,抗告人について破産手続開始の決定をするとともに,破産管財人として弁護士瀬戸英雄を選任し,財産状況報告集会・計算報告集会・破産手続廃止に関する意見聴取のための集会の各期日を,同年10月28日午後1時30分と定めた。なお,上記破産手続開始の決定にあたり,破産債権の届出をすべき期間及び破産債権の調査をするための期間及び期日は定められなかった(破産法31条2項)。上記破産手続開始決定は同年8月27日に確定した。

 抗告人は,平成21年9月28日,免責の申立てをし,平成25年1月25日,その申立てを取り下げたが,その後,同年9月20日,再度,免責の申立てをした。破産裁判所は,平成27年2月18日,抗告人の免責審尋期日を,後記(2)の第14回債権者集会(財産状況報告集会)と同時である同年3月11日午前10時と指定した。

 (2) 抗告人の債権者集会への出頭状況

 破産裁判所は,抗告人に係る本件破産手続について,別紙「債権者集会欠席理由一覧」(ただし,第9回の欠席理由欄の「心神衰弱」を「心身衰弱」と改める。)のとおり,平成21年10月28日ないし平成26年9月8日までの間,13回にわたって債権者集会の期日を指定してこれらを実施したが,抗告人は,第1回期日は体調不良を理由として出頭せず,第2回期日は「自律神経失調症」との診断書を提出して出頭せず,第3回ないし第8回期日については,第3回期日に先立つ平成22年6月12日に逮捕され,その後勾留されたため,いずれも出頭しなかった。抗告人は,第9回期日に先立つ平成24年7月12日,保釈許可決定により身柄拘束を解かれたが,同年9月10日の第9回期日は「心身衰弱」との診断書を提出して出頭せず,平成25年2月18日の第10回期日は「うつ病」との,同年9月9日の第11回期日は「失神発作,起立性低血圧疑い,頭痛」との,平成26年3月10日の第12回期日は「急性上気道炎(発熱を伴う)」との,同年9月8日の第13回期日は「急性胃腸炎・胆のうポリープ」との各診断書を提出して,いずれの期日も出頭しなかった。なお,第14回債権者集会(財産状況報告集会)は,平成26年9月8日実施の第13回債権者集会において,平成27年3月11日午前10時と指定された。

 (3) 抗告人の海外渡航状況

 抗告人は,第11回債権者集会期日に先立つ平成25年8月21日,破産管財人に対し,同月26日ないし同月31日までの間,会議及びスピーチについての資料提供を目的として,フィリピン・マニラへの海外渡航の同意を申請し,破産管財人はこれに同意した。以後,抗告人は,別紙「甲野太郎海外旅行同意申請一覧」記載のとおり,破産管財人に対し,同一の渡航についての再申請及び本件旅行を含めて30回の海外渡航の同意申請をし,破産管財人はうち20回について同意した。破産管財人は,これらの同意に際し,帰国後に近接した日時に債権者集会期日が指定されているもの(平成25年9月9日の第11回期日,平成26年3月10日の第12回期日,同年9月8日の第13回期日)については,債権者集会期日に出頭するよう特に付言して渡航に同意したが,抗告人はいずれの期日も出頭しなかった。なお,本件旅行以外の海外渡航については,破産裁判所の許可申請の手続は行われていなかった。

 (4) 本件申立て

 抗告人は,平成26年12月24日,破産管財人に対し,平成27年3月14日から同年9月1日までの約6か月間,ラオス等にビジネスを目的とした海外渡航の同意申請をしたが,破産管財人は,平成27年3月11日の第14回債権者集会への出頭状況を見て判断をするとの理由で,判断を留保した。そこで,抗告人は,同年2月19日付け(受付は2月16日)で,破産裁判所に対し,旅行日程を同年3月14日から同年5月14日までに短縮した上で,本件旅行について無条件で許可を求める本件申立てをしたところ,破産裁判所は,抗告人の債権者集会への出頭状況及び海外渡航状況についての破産管財人の意見を聴いた上で,同年2月18日,抗告人が同年3月11日の第14回債権者集会(財産状況報告集会)及び免責審尋期日に出頭することを条件として,上記の期間につき居住地を離れることを許可する旨の原決定をした。

 2 判断

 (1) 破産法37条1項は,破産者は,破産裁判所の許可を得なければ,その居住地を離れることができないと規定しているが,これは,破産者の逃亡や財産の隠匿を防止するとともに,破産者の説明義務の遂行を十分に尽くさせる趣旨の規定である。また,破産者は,債権者集会の決議等に基づく請求があったときは,破産に関し必要な説明をしなければならず(破産法40条1項),免責についての破産裁判所及び破産管財人が行う調査に協力する義務を負い(同法250条2項),破産者が審尋期日において,破産裁判所が説明を求めた事項について説明を拒み,又は虚偽の説明をしたときは,3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し又はこれを併科するとされている(同法271条)。以上のような破産法の規定によれば,破産者は,財産状況報告集会等の債権者集会及び免責審尋期日に出頭して,破産に関する事情や免責不許可事由の有無等について説明する義務を負うものである。

 これを本件についてみると,抗告人は,前記1(2)で認定したとおり,これまで1回も債権者集会に出頭していないことから,破産裁判所は,本件申立てについて判断するにあたり,抗告人に対し,上記破産者の説明義務を尽くさせるため,本件旅行に出発する直前に実施される予定の債権者集会(財産状況報告集会)及び免責審尋期日に出頭することを条件として,本件旅行を許可したものと認められる。そして,上記のとおり破産者が債権者集会及び免責審尋期日に出頭した上で説明義務を尽くすことは,法に基づく破産者の義務であり,抗告人の債権者集会出頭状況及び海外渡航状況に照らすと,破産裁判所が上記のような条件を付すことには十分な合理性がある。また,抗告人は,当該債権者集会及び免責審尋期日に出頭すれば,本件旅行が可能になるのであるから,上記のような条件を付すことが抗告人の居住・移転の自由を不当に制限するものということもできない。

 したがって,当該債権者集会(財産状況報告集会)及び免責審尋期日に出頭することを条件に本件旅行を許可した原決定は相当である。

 (2) 抗告人の主張に対する判断

 ア 抗告人は,5年にわたる破産手続の間,逃走や財産の隠匿を図ったことはなく,国内移動や海外渡航を繰り返し行っていたにもかかわらず,破産裁判所が海外渡航申請について条件を付して制限することは,憲法22条に違反するとともに,破産法37条1項の破産裁判所の覊束裁量を逸脱する違法なものである旨主張する。しかし,前記(1)のとおり,債権者集会(財産状況報告集会)及び免責審尋期日に出頭して,破産に関する事情や免責不許可事由の有無について説明することは破産者の義務であり,前記1に認定したとおり,抗告人が従前の債権者集会に1回も出頭していないことに照らすと,破産裁判所が,抗告人に対し,破産者としての義務を尽くさせるために,本件旅行直前の債権者集会及び免責審尋期日に出頭することを条件として本件旅行を許可したことには,十分な合理性があり,破産裁判所に与えられた裁量の範囲内の判断であるというべきである。そして,当該債権者集会及び免責審尋期日に出頭すれば,本件旅行は可能になるのであるから,上記のような条件を付すことが抗告人の居住・移転の自由を不当に制限するものとはいえず,憲法22条に違反するということもできない。

 したがって,抗告人の前記主張は理由がない。

 イ 抗告人は,抗告人代理人が債権者集会に出席した旨を主張するが,前記のとおり,債権者集会及び免責審尋期日に出頭して必要な説明をすることは破産者の義務であり,代理人の出席によってこれが尽くされたと評価することもできないから,抗告人の上記主張は理由がない。

 また,抗告人は,抗告人が債権者集会に出頭することは同集会の議事進行に混乱を来たしかねない旨主張するが,債権者集会の議事進行についての指揮は,破産裁判所がその権限において円滑な議事が運営できるように行うものであるから,抗告人の上記主張は理由がない。

 さらに,抗告人は,2年以上の勾留により精神身体に重大な影響を受けたから,保釈後の集会不出頭に合理的理由がある旨主張する。しかし,抗告人が,保釈後である平成25年8月以降,会議出席や現地企業とのビジネスの打ち合わせ,投資不動産見学等を理由として,数十回にわたって海外渡航申請をし,実際にも20回の同意を得て海外に何度も渡航していることに照らすと,抗告人について,債権者集会や免責審尋期日への出頭を困難ならしめるほどの精神あるいは身体の不良があるとは認められないから,抗告人の上記主張は理由がない。

 そして,抗告人は,破産裁判所が破産手続開始決定と同時にすべき債権届出期間を定めなかったことが憲法31条の定める適正手続の保障に反し,違法である旨主張するが,破産裁判所は,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足するおそれがあると認めるときは,債権届出期間を定めないことができるのであり(破産法31条2項),抗告人の上記主張は理由がない。

 その他,抗告人の主張は,独自の見解を主張するものであって,それをもって,前記(1)の判断を左右するものとはいえない。

 3 よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官大段亨,裁判官河村浩,裁判官森脇江津子)

 

別紙 甲野太郎 海外旅行同意申請一覧〈省略〉

 

無償否認 債務超過不要 最高裁平成29年

倒産判例百選第6版 37事件

再生債権査定異議事件

最高裁判所第1小法廷判決/平成29年(受)第761号

平成29年11月16日

【判示事項】    再生債務者が無償行為若しくはこれと同視すべき有償行為の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件か

【判決要旨】    再生債務者が無償行為若しくはこれと同視すべき有償行為の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは,民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではない。

【参照条文】    民事再生法127-3

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集71巻9号1745頁

          裁判所時報1688号246頁

          判例タイムズ1445号86頁

          金融・商事判例1534号31頁

          金融・商事判例1531号8頁

          判例時報2357・2358合併号3頁

          金融法務事情2084号62頁

          LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】    判例秘書ジャーナルHJ100041

          金融法務事情2097号48頁

          金融法務事情2120号30頁

          ジュリスト1520号104頁

          ジュリスト1531号136頁

          一橋法学18巻1号313頁

          法学教室450号141頁

          法曹時報70巻9号199頁

          民商法雑誌154巻3号576頁

          早稲田大学法務研究論叢4号210頁

          法政論集(名古屋大)283号289頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人桃尾重明,同乾正幸の上告受理申立て理由第2について

 1 株式会社ユタカ電機製作所は,平成26年8月29日,上告人との間で,グラス・ワンホールディングス株式会社の上告人に対する7億円の借入金債務を連帯保証する旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結したが,平成27年2月18日,再生手続開始の申立てをし,その後,再生手続開始の決定を受けた。

 本件は,上記の再生手続において,上告人が再生債権として届出をした本件連帯保証契約に基づく連帯保証債務履行請求権につき,その額を0円と査定する旨の決定がされたことから,これを不服とする上告人がその変更を求める異議の訴えであり,再生管財人である被上告人が本件連帯保証契約の締結に対し民事再生法127条3項に基づく否認権の行使をすることの可否が争われている。

 2 所論は,民事再生法127条3項の否認が再生債権者を害する行為の否認の一類型であることなどから,再生債務者が無償行為若しくはこれと同視すべき有償行為(以下「無償行為等」という。)の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることが同項に基づく否認権行使の要件であるというのである。

 3 そこで検討すると,民事再生法127条3項は,再生債務者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為等を否認することができるものとし,同項に基づく否認権行使について,対象となる行為の内容及び時期を定めるところ,同項には,再生債務者が上記行為の時に債務超過であること又は上記行為により債務超過になることを要件とすることをうかがわせる文言はない。そして,同項の趣旨は,その否認の対象である再生債務者の行為が対価を伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため,専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあると解するのが相当である。そうすると,同項所定の要件に加えて,再生債務者がその否認の対象となる行為の時に債務超過であること又はその行為により債務超過になることを要するものとすることは,同項の趣旨に沿うものとはいい難い。

 したがって,再生債務者が無償行為等の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは,民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと解するのが相当である。

 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚)

最高裁判所第1小法廷 平成29年(受)第761号 再生債権査定異議事件 平成29年11月16日

↑このページのトップヘ