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カテゴリ: ゲーム

チートツール販売を偽計業務妨害幇助罪に該当するとした事例

【参照条文】      刑法233

            刑法62-1

            刑法168の2-1

【掲載誌】       高等裁判所刑事裁判速報集令和元年362頁

 

       主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 

       理   由

 

第1 事案の概要及び本件控訴の趣意について

   本件は,コンピュータのソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社A(以下,特に断らない限り,略称は原判決のそれによる。)の代表取締役として,その業務全般を統括していた被告人が,①2名の者が,Aが開発販売していた,Bが運営するオンラインゲーム「C」(以下「C」という。)を携帯電話機等で遊戯する際に,その携帯電話機等と同社が使用するCのサーバとの間の通信データが経由するパソコン上で作動させることにより,本来とは異なるデータを同サーバに送信するなどして,同オンラインゲームにおける課金アイテムの消費を避けながら同オンラインゲームを進行させることを可能にする機能を有するソフトウェア「D」を,パソコンを操作して作動させるなどしてCを遊戯し,Cにおける課金の機会を減少させ,もって偽計を用いてBの業務を妨害した際,これに先立ち,Dの機能を知って,ダウンロードによる購入を申し込んだ上記2名の者に対し,同人らがDを使用してBの業務を妨害することを知りながら,その申込みに応じてDをダウンロードにより購入させ,上記2名の上記各犯行をそれぞれに容易にさせてこれらを幇助し(原判示第1),②正当な理由がないのに,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,Aの従業員のEに,アンドロイドOSが稼働する電子計算機である携帯電話機を用いて実行した際,実行者の意図に基づかず,同携帯電話機に記録されたLINEメッセージ等をインターネット回線を通じて特定のサーバに送信する指令等を与える電磁的記録である本件アンドロイドアナライザーを作成させ,もって人が電子計算機を使用する際にその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成した(同第2)という事案である。

   本件控訴の趣意は,要するに,①AにおけるDの販売に関し,被告人には偽計業務妨害幇助罪が成立しないのに,この成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある,②Aにおける本件アンドロイドアナライザーの作成に関し,被告人には不正指令電磁的記録作成罪が成立しないのに,この成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある,③本件各公訴事実は,いずれも訴因が特定されていないから,原裁判所は,公訴棄却の判決をすべきであったのに,有罪の判決を言い渡しており,原審の訴訟手続には不法に公訴を受理した違法がある,④使用されたスクリプトの特定を欠くまま偽計業務妨害幇助罪の成立を認めた原判決には,理由不備ないし理由そごの違法がある,⑤原裁判所は,排除すべき証拠を排除しておらず,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,⑥本件の各罪と最高裁判所に係属中の不正競争防止法違反の罪は,刑法45条前段の併合罪の関係にあるのに,原判決はこの併合罪関係に触れずに処断刑を導き出しており,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,⑦この不正競争防止法違反の罪を考慮せず,これと本件が同時審判された場合よりも著しく被告人に不利な刑を言い渡した原判決の量刑は,重すぎて不当であるというのである。

第2 偽計業務妨害幇助罪(原判示第1)に関する事実誤認及び法令適用の誤りの論旨について

 1 原判決は,要旨,以下のとおり説示して,偽計業務妨害幇助罪の成立を認めた。

  (1)Dは,これをインストールしたパソコンにCをインストールしたスマートフォン(以下「スマホ」という。)を接続することにより,当該スマホとBが管理するCのサーバとの間の通信を,Dを介して行わせる機能を有し,Aが運営管理しているウェブサイトであるスクリプト掲示板において公開されているスクリプトというD専用のプログラムを読み込んで動作させることにより,上記サーバとの間の通信データの内容を書き換えることができる。Cにおいて,ユーザーは,保有するキャラクター(モンスター)でチームを編成して迷宮(ダンジョン)の攻略に挑み,攻略した際はキャラクター等の特典を獲得することができるが,どの特典を獲得できるかは確率により決められており,ダンジョンの攻略に挑むと,スタミナと称する数値を消費し,スタミナがなくなると挑戦ができなくなる。

    しかし,本件の正犯者らは,ダンジョンキャンセル機能(ダンジョン攻略後に獲得する特典を読み取り,当該特典が希望するものでない場合には,ダンジョンの攻略への挑戦を自動で取り消し,スタミナの消費を回避する機能)を有するスクリプトを読み込んだ状態のDを使用してCを遊戯し,希望する特典が獲得できない場合にはダンジョンの攻略への挑戦を取り消し,希望する特典が獲得できる場合にはダンジョンを攻略して希望する特典を獲得していた。

  (2)偽計業務妨害罪における偽計が業務者本人以外に向けられる場合,あたかも通常,正常であるかのような外観,真実とは異なる外観を作出されていれば,人の意思に働き掛ける場合と同程度に業務者の業務が妨害されたといえるから,人の意思に対する働き掛けがなくても,偽計を用いたと解するのが相当である。そして,本件の正犯者らは,前記のとおり,Dにより通信データを書き換えているにもかかわらず,あたかも通常の遊戯をしているかのような,真実とは異なる外観を作出しており,偽計を用いたと認められる。

  (3)ダンジョンの攻略への挑戦で消費されたスタミナは,時間の経過による回復を待つのでなければ,魔法石という,ゲーム内で使用する,基本的に有料の商品により回復する必要がある。ところが,本件の正犯者らは,希望する特典を得るために短時間で多数回ダンジョンに挑戦したにもかかわらず,Dを使用してスタミナの消費を抑えることで,魔法石の購入が必要になる事態をできるだけ生じないようにしたのであるから,Bの課金の機会を減少させる行為をしたものと認められる。

    そして,魔法石の売上げはCを運営する際の唯一の収益源であり,Bは,Cのダウンロード及び遊戯自体は無料にして,ユーザーの数を増やしつつ,ユーザーが連続してCを遊戯したくなるような工夫をするなどして,ユーザーに魔法石を購入してもらうことで,Cの運営費用をまかなうとともに収益を上げているのであるから,Cの運営業務とは,Cを配信,提供する中で魔法石を販売していく業務にほかならない。したがって,本件の正犯者らの行為は,魔法石による課金の機会を減少させ,BによるCの運営業務を妨害するおそれのある行為と認められるから,Bの業務を妨害したといえる。

  (4)Dは,C専用のプログラムではなく,使用するスクリプトによってはC以外のオンラインゲームにも対応して動作するものであるが,Aでは,発売当初,Cの裏技ソフトと称してその顧客に告げるなどし,その後も,社員が匿名販促ブログを作成する際,Cに関係する検索ワードで検索した場合に表示される順位が上位となることが目標とされ,DをCで使用することを内容とするとうかがわれる匿名販促ブログから多数の売上げが生じていた。また,ダンジョンキャンセル機能を有するスクリプトについても,Aは,Dの発売当初,顧客に対し,ダンジョンキャンセル機能でスタミナの消費が避けられることをメールで宣伝し,同社の社員が作成したダンジョンキャンセル機能を有するスクリプトを,同社が運営管理するスクリプト掲示板にアップロードし,途中までは,Dの販売用ホームページにおいてもダンジョンキャンセル機能を紹介し,匿名販促ブログにも同機能が記載されるなどしており,ダンジョンキャンセル機能を有するスクリプトは,DをCに使用する場合に用いられる典型的なスクリプトの1つであったと認められる。そして,Dの販売価格(通常版でも定価9800円)が低額とはいえず,Cに使用するためにDを購入した者には,スタミナの消費を避けるためにダンジョンキャンセル機能を使用するインセンティブが強く働くと考えられることなどをも併せ考えれば,客観的にみて,Dの購入者のうち,例外的とはいえない範囲の者がそれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いと認められるから,本件の正犯者らの申込みに応じてそれをダウンロードにより購入させる行為は,偽計業務妨害の幇助行為に当たる。

 2 以上の原判決の認定は,論理則,経験則等に照らして不合理なところがなく,その認定した事実を前提に偽計業務妨害幇助罪が成立するとした判断も概ね相当であって,当裁判所も是認することができる。以下,所論を踏まえて,説明する。

  (1)所論は,①原判決は,人の意思に対する働き掛けがなくても,あたかも,通常,正常であるかのような外観,真実と異なる外観が作出されていれば,人の意思に働き掛ける場合と同程度に業務者の業務が妨害されるとして,偽計を用いたといえるためには,人の意思に対する働き掛けは不要であるとするが,偽計とは,人の意思に働き掛け,困惑させ,又は判断を誤らせることを意味するから,人の意思に対する働き掛けを不要とする原判決の解釈は誤りであり,また,原判決の説示からは,正常であるかのような外観等が作出されていれば,人の意思に働き掛ける場合と同程度に業務者の業務が妨害される理由が不明であり,本件の各正犯者の行為が偽計に当たるとした原判決の判断は誤りであると主張する。

    しかし,偽計の意義については,一般的に,欺罔,計略,策略等,威力以外の不正の手段であって,悪戯の程度を越えるものと解される。従来の判例上,人の意思に対する働き掛けが必要であるか否かについて明言したものはないが,大審院判例(大審院大正3年12月3日判決・刑録20輯2322頁)や下級審判例(大阪高裁昭和32年9月27日判決・刑事裁判資料148号75頁,大阪高裁昭和49年2月14日判決・刑事裁判月報6巻2号118頁等)は,人の意思に働き掛けているとはいい難い行為についても,偽計に当たるとし,さらに,最高裁判所も,通話料金課金に用いる度数計器の作動を不能にするマジックホンの使用が,偽計業務妨害罪に当たるかどうかが争われた事案について,課金業務を行う者の課金額の認識への影響について言及することなく,同罪の成立を肯定している(最高裁昭和59年4月27日決定・刑集38巻6号2584頁)。これによれば,最高裁判例は,人の意思に対して働き掛けているとはいえない行為についても,偽計に該当し得ることを否定していないと解される。これらの偽計に当たるとされた行為は,いずれも,何らかのひそかな不正の手段を用いることにより,あたかも通常あるいは正常であるかのような外観や,真実とは異なる外観を作出し,通常あるいは正常でない,真実の状態が業務者に発覚しないようにすることによって,その業務を妨害したものであるが,真実の状態が業務者に発覚しないようにすることによってその業務を妨害するという目的を達成する手段としては,人の意思に働き掛けて欺罔し,あるいは困惑させて業務を妨害した場合と異なるところはないというべきである。したがって,偽計を用いたといえるためには,人の意思に対して働き掛けることは必ずしも必要ではないと解すべきであって,これと同旨の判断の下に,本件の各正犯者の行為が偽計に当たるとした原判決の判断は相当である。

    なお,所論は,スクリプトを読み込んでDを作動させても,外観の存在しないデジタル信号が書き換えられるだけであるから,通常,正常であるかのような外観,真実と異なる外観が作出されたという原判決の認定は誤りであると主張する。しかし,原判決がいう外観とは,書き換えられたデジタル信号を指すのではなく,各正犯者が,D及びスクリプトを使用して,Bによる課金の機会を減少させる意図を有しながら,あたかも通常のゲームをするかのように装って同社のサーバにアクセスすることを指すと解されるから,所論は原判決を正解しないものである。

  (2)所論は,②原判決は,業務妨害罪が成立するためには,業務妨害の結果が現実に発生することは不要で,結果を発生させるおそれがある行為があれば足りるとした上,Bの課金の機会を減少させたことがこれに当たると判断しているが,同罪が成立するためには,業務妨害の結果が現実に発生することが必要であり,仮にそれが不要であるとしても,業務の遂行自体に支障が生じることが必要であるところ,課金の機会が減少することがあっても,それが極端に売上げに影響を与えるようなものでない限り,BがCを運営することに全く支障がなく,そもそも,魔法石の販売業務がCの運営業務とは認められないから,課金の機会を減少させたことが業務妨害のおそれに当たるとした原判決の判断は誤りであると主張する。

    しかし,業務妨害罪は,業務妨害の結果が現実に発生しなくても,業務を妨害するのに足りる行為が行われれば成立するものであり(威力業務妨害罪につき,最高裁昭和28年1月30日判決・刑集7巻1号128頁参照),所論は独自の見解であって,採用の限りではない。これを本件についてみると,Bは営利を目的とする株式会社であり,Cの運営も営利行為の一環として行われているところ,ユーザーに魔法石を購入してもらうことは,Cを運営する中で,費用をまかない,収益を上げる唯一の機会であるから,Cの運営業務と不可分の関係にあるといえるのであって,その機会を減少させることは,Cの運営の基盤に重大な影響を与えるものとして,業務妨害のおそれがある行為に当たるとした原判決の判断に誤りはない。この点に関する所論も失当である。

  (3)所論は,③原判決は,Bの課金の機会が減少したと認定しているが,C関連の売上げは,Dの販売開始後も伸び続け,その販売中止後は下がっており,Dは魔法石の売上げを向上させたといえ,また,それを利用した結果,ゲームがより魅力的になり,魔法石を購入してでもゲームを進行したいという気持ちが促進されることもあり,これは課金の機会の増加というべきであり,原判決の上記認定は誤りであると主張する。

    しかし,本件の正犯者らは,Dを使用してスタミナの消費を抑えることにより,魔法石の購入が必要になる状況をできるだけ生じないようにしたのであるから,これがBの課金の機会を減少させる行為に当たることは明らかであり,Dの販売開始後のC関連の売上げが上昇したかどうか(なお,この点は,原審記録及び原審で取り調べた証拠に現れていない事実を援用するもので,不適法な主張である。弁護人は,上記の点を立証するため,報告書(弁1)の事実取調べを請求したが,当裁判所は,刑訴法382条の2にいう「やむを得ない事由」が認められないとして,請求を却下した。)や,Dを使用してCを遊戯した者の心理がどうであったかなどは上記認定を左右するものではない。

  (4)ア 所論は,④原判決は,いわゆるWinny事件で最高裁判所が示した基準に従い,本件で認定できる諸事情から,客観的にみて,Dの購入者のうち,例外的とはいえない範囲の者がそれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いと認められるとして,本件の正犯者らの申込みに応じてそれをダウンロードにより購入させる行為は,偽計業務妨害の幇助行為に当たるとしたが,上記の事情から上記の蓋然性が高いとは認められないから,原判決は,Dの悪用の可能性とその認識だけで幇助犯の成立を認めたものであって,事実誤認及び法令適用の誤りがあると主張する。

   イ しかし,所論がいうWinny事件(最高裁平成23年12月19日決定・刑集65巻9号1380頁)は,被告人が,適法な用途にも著作権侵害の用途にも利用できるファイル共有ソフトWinnyをインターネットを通じて不特定多数の者に公開,提供し,正犯者がこれを利用して著作物の公衆送信権を侵害することを幇助したとして,著作権法違反幇助罪に問われた事案であるところ,同決定によれば,同事件の被告人は,匿名性と効率性を兼ね備えた新しいファイル共有ソフトが実際に稼働するかの技術的な検証を目的として,Winnyの開発に着手し,その最初の試用版を自己の開設したウェブサイトで公開し,利用者の意見を聴取しながらその開発を進め,その改良版を順次公開したが,公開に当たっては,ウェブサイト上に「これらのソフトにより違法なファイルをやり取りしないようお願いします。」などの注意書きを付記し,Winnyの開発宣言をしたスレッドに,これを著作権侵害のために利用しないように求める書込みをしていたというのである。これに対し,Dは,オンラインゲームにおいて不正な行為(チート行為)をするためのソフトとして開発され,Aの利益のために販売されたものであって,それ以外の適法な用途に使用することは想定されておらず,販売に当たっては,業務妨害行為をしないように警告することもされていないのである。したがって,Dは,適法な用途にも著作権侵害の用途にも利用できることから,価値中立ソフトと称されるWinnyとは同列に論じられないというべきである。この点に関し,所論は,Dも,Winnyと同様に価値中立ソフトであると主張する。しかし,上記の諸事情によれば,Winnyについては,その開発者のソフト公開の趣旨に賛同し,その技術的な検証のために利用する者もいれば,著作権侵害のために利用する者もいると考えられるのに対し,Dについては,Cをはじめとするオンラインゲームのチートツール以外に利用する者がいるとは考え難いのであって,DがWinnyと同様の価値中立ソフトといえないことは明らかである。したがって,本件においては,必ずしも原判決のように処罰範囲を限定する必要があるとは解されず,Dが不正行為に用いられることを認識,認容しながらこれを販売した以上,偽計業務妨害幇助罪の成立は妨げられないというべきである。

     もっとも,Dが適法な用途に用いられる可能性があることを重視して,原判決のように,偽計業務妨害幇助罪の成立する範囲を限定する立場に立つとしても,Aでは,Dの発売当初,Cの裏技ソフトと称して,その旨顧客に告げるなど,原判決の指摘する事情から,客観的にみて,Dの購入者のうち,例外的とはいえない範囲の者がそれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いと認められるとした原判決の認定に誤りはない。

     補足すると,Bは,Dが発売されてから2か月が経過した,平成25年10月初めの8日間,Cの不正行為の調査を行い,狙われやすい特定のダンジョンに絞ってキャンセル率の高いユーザーを調べたところ,キャンセル率が90%以上の者が130人ないし140人おり,50%以上の者は546人いたが,この頃までにダンジョンキャンセル機能を有するソフトとして知られていたものは,Dのみであり(Fの原審証言。原審記録251丁の29ないし33),他方,同月8日までのDの購入者は合計1335名であったことが認められる(原審甲157。同241丁の377)。そうすると,この時点において,Dの購入者と推定される者の約4割が,Cの特定の限られたダンジョンでダンジョンキャンセル機能を使用したことが認められるのであって,Dの購入者のうち例外的とはいえない範囲の者がこれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いといえることは明らかである。

     この点に関し,所論は,Bは,上記の調査を行った時点において,Cのチートツールを10種類以上把握しており(Fの原審証言。原審記録251丁の46),キャンセル率が高かった者がD以外のソフトウェアを使用していた可能性があり,また,50%以上のキャンセル率というのは,通信状況が悪いため通信が切断した場合も含み得るから,上記の蓋然性が高いとはいえないと主張する。しかし,Fの原審証言によれば,上記調査の時点で,ダンジョンキャンセルができるD用のスクリプトが存在し,そのことが「G」などで話題になっており,また,Dを使用しないで同じことをしようとすれば,相当の技術が必要であるが,そのような技術をもった者はそれほどいないはずであり,さらに,50%以上のキャンセル率というのは,通信の切断ではあり得ないほど高い数字である(同251丁の31)というのであるから,所論の指摘する点は,上記認定を左右するものではない。

     したがって,本件の正犯者らの申込みに応じてDをダウンロードにより購入させる行為が,偽計業務妨害の幇助行為に当たるとした原判決の判断に誤りはない。

  (5)所論は,⑤原判決は,罪となるべき事実において,Dを,課金アイテムの消費を避けながらオンラインゲームを進行させることを可能にする機能を有するソフトウェアと認定しているが,Dは,通信データを閲覧できる機能を有するだけであり,スクリプトを用いれば通信データの書換えは可能になるが,Aは,スクリプトを販売したことも,ユーザーに直接提供したこともなく,スクリプト掲示板を管理しているが,そこには,ユーザーが提供したものも相当な割合で掲載されており,また,どのゲームにどのスクリプトを使用するかはユーザーの意思に委ねられていたから,上記認定は誤りであると主張する。

    確かに,原審証拠によれば,D自体は通信データを閲覧できる機能を有するだけであって,スクリプトを用いなければ通信データを書き換えることはできず,また,Aがスクリプトをユーザーに直接提供したことはないが,一般のユーザーのほかAの社員等が作成したスクリプトが同社の管理する掲示板に掲載され,同社においては,Dについて,スクリプトと一体としてダンジョンキャンセル機能を宣伝していたことが認められる。したがって,Dについて,スクリプトと一体のものとして,課金アイテムの消費を避けながらオンラインゲームを進行させることを可能にする機能を有するソフトウェアであるとした原判決の認定に誤りはない。

第3 不正指令電磁的記録作成罪(原判示第2)に関する事実誤認ないし法令適用の誤りの論旨について

 1 原判決は,要旨,以下のとおり説示して,不正指令電磁的記録作成罪の成立を認めた。

  (1)本件アンドロイドアナライザーの不正指令電磁的記録該当性について

    不正指令電磁的記録作成等罪における不正指令電磁的記録に該当するためには,プログラムに悪用の可能性があるというだけでは足りず,当該プログラムが実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると,客観的,一般的に想定される必要があると解される。しかし,プログラム自体からそのように想定されない場合でも,プログラム作成当時の客観的事情に照らし,その供用先としてどのような電子計算機が想定されるかを考慮して,当該プログラムが指令を与える電子計算機の使用者のうち例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態で当該プログラムを実行させられることが想定される場合には,当該プログラムは,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定されると認められ,不正指令電磁的記録に当たると解される。

    アンドロイドアナライザーは,パソコンにインストールした上で,当該パソコンに接続したアンドロイド端末にインストールすることにより,アンドロイド端末中の通話履歴等のデータをAが管理するサーバに自動で送信させ,サーバで取得,保管しているそのデータをパソコンから閲覧できるようにする機能が備わっているプログラムである。また,アンドロイドアナライザーは,発売以来バージョンアップが繰り返されたところ,本件アンドロイドアナライザーのバージョンまでは,アンドロイドアナライザーがインストールされたアンドロイド端末において,それがインストールされている旨のポップアップ通知やホーム画面等におけるアイコン表示はされなかった。そうすると,アンドロイドアナライザーは,アンドロイド端末の使用者に知られることなくインストールすることを容易にする機能は備わっていないものの,一旦インストールされれば,同端末の使用者の知らないうちにデータを送信させることを可能にするプログラムであり,アンドロイド端末の使用者の合意を得ることなくインストールして,データを送信させるために用いることも考えられるプログラムといえる。

    Aは,アンドロイドアナライザーの企画,販売に先行し,アイフォンのデータをパソコンでバックアップできるソフトウェアであるアイフォンアナライザーを販売し,匿名販促ブログにおいて,これを交際相手等の浮気調査目的のソフトウェアとして位置付けた販売促進活動も始めていたところ,アンドロイドアナライザーの企画,開発の段階における同社の社内の議論や,被告人が社員に送信したメールの内容等によれば,アンドロイドアナライザーは,アイフォンアナライザーと同様に,浮気調査に使用するソフトウェアとして企画され,開発が進められていたと認められる。そして,アンドロイドアナライザーの販売が始まると,これを浮気調査目的のソフトウェアとして紹介する匿名販促ブログを用いた販売促進活動が行われ,売上げを伸ばしていた。

    このように,アンドロイドアナライザーは,発売当初から,主に浮気調査に使用する者を顧客と見込んだ販売促進活動が続けられており,本件アンドロイドアナライザーの作成当時において,そうした販売促進活動が変更される予定があったとはうかがわれない。したがって,従来のアンドロイドアナライザーをバージョンアップさせた本件アンドロイドアナライザーは,上記販売促進活動により既にアンドロイドアナライザーを購入していた者及び同様の販売促進活動により将来これを購入する者に提供されることが客観的に想定される。なお,ここでいう浮気調査とは,Aの社内の会議資料等によれば,交際相手等の合意を得ることなく,アンドロイド端末にアンドロイドアナライザー等をインストールしてデータを取得し,浮気の有無をひそかに調査することを意味するものと認められる。

    以上によれば,本件アンドロイドアナライザーは,主に浮気調査の目的を有する者に提供されることが予定された,浮気調査に適した機能を有するプログラムであり,購入者が,第三者の合意を得ずに,当該第三者が使用するアンドロイド端末に本件アンドロイドアナライザーをインストールして,当該第三者が知らないうちに実行することが一般に想定され,それがインストールされたアンドロイド端末の使用者のうちの例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態でそれを実行させられることが想定されるから,本件アンドロイドアナライザーは,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定されると認められ,人が電子計算機を使用するに際して,その意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録に該当する。

  (2)故意及び供用目的について

    被告人は,別のソフトウェアを参考にアンドロイドアナライザーを開発するというAの社員の提案を了承して開発を進めるように指示し,実際に,そのとおりのアンドロイドアナライザーが開発されたこと,被告人はその仕様書を了承していることなどに照らせば,被告人はその機能及び仕様を認識していたと認められる。また,被告人は,Aの社員に対し,アイフォンアナライザーを浮気調査目的のソフトウェアとして紹介する匿名販促ブログの内容をほめるメールを送信するなどし,アイフォンアナライザーと同様の浮気調査の目的で,アンドロイドアナライザーを開発することを指示し,その後も,会議等の機会に,これを浮気調査で使用することを前提とした報告を受けたが,販売促進活動の方針に変更はなかった。これらの事情に照らせば,被告人は,本件アンドロイドアナライザーの作成当時,主に浮気調査に使用する者を顧客と見込んで販売促進活動をすることについても,認識,認容していたと認められる。

    そうすると,被告人には,本件アンドロイドアナライザーが不正指令電磁的記録に該当することの故意及びそれをアンドロイド端末の使用者には実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くという供用目的があったと認められる。

  (3)被告人に間接正犯が成立することについて

    被告人のAの社内における地位や,被告人が,実際にアンドロイドアナライザーの機能等を企画し,その開発を度々同社の社員に指示し,同社の社員が提案した開発方法や仕様書を了承し,販売の指示もしたこと,他方,本件アンドロイドアナライザーを作成したEは,Aの単なるアルバイトである上,販売促進活動について十分に認識してはいなかったと考えられることに照らせば,被告人が,幇助的意思を有していたにとどまるEを道具として利用して本件アンドロイドアナライザーを作成した間接正犯としての刑事責任を負うことは明らかである。

 2 以上の原判決の認定は,論理則,経験則等に照らして不合理なところがなく,その認定した事実を前提に不正指令電磁的記録作成罪が成立するとした判断も相当であって,当裁判所も是認することができる。以下,所論を踏まえて,補足して説明する。

  (1)所論は,①不正指令電磁的記録作成等罪にいう,人の意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録とは,一般人が知らないうちにインストールして動作するような機能を有するソフトウェア,当該機能の存在を秘匿しているため,一般人であれば当該機能が含まれることを知らずに動作させてしまうようなソフトウェア,意図に反して実行すること以外の用途が想定されないソフトウェアに限られると解すべきところ,原判決は,前記のとおり,例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態で当該プログラムを実行させられることが想定される場合には,不正指令電磁的記録に該当すると説示するが,この基準では,大多数の者にとって,実行する意思の下に当該プログラムが実行される場合でも不正指令電磁的記録に当たってしまい,処罰の範囲が広きに失するのであって,上記基準により不正指令電磁的記録作成罪の成立を認めた原判決には,法令の解釈,適用に誤りがあると主張する。

    しかし,不正指令電磁的記録作成等罪の構成要件の文言に照らして,法が,所論がいうような場合に不正指令電磁的記録の範囲を限定しているとは解されない。原判決は,不正指令電磁的記録に当たるといえるためには,プログラムに悪用の可能性があるというだけでは足りず,当該プログラムが,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定される必要があると説示して,前記のとおり,不正指令電磁的記録に該当する場合を限定する解釈を採っているところ,このような解釈は,電子計算機のプログラムが,電子計算機に対し,その使用者の意図に沿うべき動作をせず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与えるものではないという,社会一般の信頼を保護しようという同罪の立法趣旨に照らして,相当である。所論は独自の見解であって,採用できない。

  (2)ア 所論は,②原判決は,アンドロイドアナライザーが,その機能及び仕様から,アンドロイド端末の使用者の合意を得ることなくデータを送信させるために用いられるプログラムといえるとし,また,アンドロイドアナライザーの販売状況から,アンドロイド端末の使用者の合意を得ないで利用する者を顧客としているとした上,本件アンドロイドアナライザーがインストールされたアンドロイド端末の使用者のうちの例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない上でそれが実行させられることが想定されると認定しているが,アンドロイドアナライザーの利用実態に関する客観的な証拠もなしに上記の認定はできないと主張する。

   イ しかし,原判決の上記認定は,論理則,経験則に照らして不合理なところがなく,当裁判所も是認することができる。

     補足すると,原審証拠によれば,アンドロイドアナライザーのリリースメールには,「【Android端末の内部データ・位置情報をPC側で“秘密裡”に監視できるツール】というわけです」という文言があり(原審甲298。原審記録250丁の225),これに対して,ユーザーから,「アプリ非表示にした場合,使用者にはバレないですか?」(原審甲299。同250丁の229),「秘密裏にとありますが 相手に気付かれづにアプリ?をダウンロードさせることが出来るという事ですか?第三者の承諾を得るのなら あまり意味がないとおもえるのですが」(同250丁の230)というメールが寄せられている。また,アンドロイドアナライザーの販売担当であったHは,アンドロイドアナライザー使用のポップアップ画面が表示されることについて,「1日1回ポップアップ画面の表示となると,商品自体の方向性が変わってしまい,実装するとなると,売上げがかなり低下してしまう可能性があります。また,現在のユーザー様からの返金要望も発生するかと思います」というメールを上司であるIに送っている(原審甲342。原審記録249丁の257)。これらの事実によれば,アンドロイドアナライザーが浮気調査を主たる目的とするアプリとして販売することが想定されており,A社内において,アンドロイド端末の使用者の合意を得ずにインストールすることを予定してアンドロイドアナライザーを購入する者が相当数いることを想定していたことは明らかである。

     所論は,Aは,ホームページ等において,第三者の同意を得ずにアンドロイドアナライザーをインストールすることを禁じるなどしており,同社において「浮気調査目的」での販売促進活動を行ったとしても,そこでいう「浮気調査」とは,第三者の同意を得て行うものであると主張する。しかし,第三者の同意を得て行う浮気調査におよそ実効性がないことは,上記のユーザーからのメールに照らして明らかであって,Aが上記のように,第三者の同意を得ずにインストールを行うことを禁じる文言を掲載したからといって,これに従わないユーザーが少なからずいるであろうことは,容易に推測し得ることである。被告人らAの関係者も,このような認識を有していたことは,上記のメールのやり取りに照らしても明らかである。

     所論は採用できない。

  (3)所論は,③Eは,自らの裁量で業務に従事していたから,間接正犯の道具とはいえず,仮に間接正犯の道具といえるとしても,Eに指示を与えていたのは,周游であるから,被告人に不正指令電磁的記録作成罪の間接正犯は成立しないと主張する。

    しかし,Eが自らの裁量で業務に従事していたかどうかは,被告人に間接正犯が成立するかどうかに直接影響を与えるものではなく,Eに直接指示を与えていたのがJであったとしても,その指示はAの代表取締役である被告人の指示に基づくものといえるから,被告人に本件不正指令電磁的記録作成罪の間接正犯が成立するとした原判決の判断に誤りはない。

    補足すると,Eの検察官調書抄本(原審甲388。原審記録246丁の140)によれば,同人は,アルバイトとしてAに雇われ,同社のプログラマー部門のリーダーであったJの指示でアンドロイドアナライザーの開発に当たっていたこと,アンドロイドアナライザーに実装する機能や,プログラムの不具合の修正等については,いずれもJや同社のマーケティング担当者から指示されていたこと,Jから,アンドロイドアナライザーの開発を指示された際,アイフォンアナライザーのアンドロイド版を作ってもらいたいと言われたが,その時点で,アイフォンアナライザーが商品としてどのように宣伝されているのかを知らず,アンドロイドアナライザーの仕様書をJから見せられたかどうかの記憶もあいまいであること,本件アンドロイドアナライザーを作成した後のバージョンアップの際,マーケティング担当者から,アンドロイド端末にアンドロイドアナライザーのアイコンが表示される機能を実装するようにとの依頼があったが,弁護士に言われて仕方なくやるという雰囲気を強く感じたこと,アンドロイドアナライザーが,アンドロイド端末の使用者の同意を得ないでインストールし,浮気の証拠をつかむためのソフトとして売られていることを薄々感じていたので,マーケティング担当者らは,インストールしていることがばれるような機能を付けたくないのだろうと思ったことが認められる。このように,Eは,Aの業務の一環として,従属的な立場で本件アンドロイドアナライザーの作成に関与したにすぎない上,これが人の意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録に該当するという認識も希薄であり,その作成を自己の犯罪として行う意思があったとまでは認め難い。そうすると,Eが幇助の意思をもっていたとしても,同人を道具として,被告人に間接正犯が成立することは妨げられず,このことを認めた原判決の判断に誤りはない。

第4 公訴を不法に受理したとの論旨について

 1 偽計業務妨害幇助の公訴事実について

   所論は,本件偽計業務妨害幇助の公訴事実は,正犯者がいかなるスクリプトを使用したのか,また,何をもって幇助行為に当たるというのかが明示されておらず,訴因が特定されていないと主張する。

   しかし,本件偽計業務妨害幇助の訴因における罪となるべき事実は,各正犯者の偽計業務妨害行為について,日時及び場所のほか,パソコンを操作してDを作動させるなどしてCを遊戯し,Cにおける課金の機会を減少させたという方法を明示しており,これにより,他の犯罪事実との識別は可能であり,また,偽計業務妨害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているといえるから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。所論は,スクリプトを特定しなければ,他の犯罪事実と識別できないと主張するが,スクリプトを特定しなくても,上記のとおり他の犯罪事実との識別は可能である上,同一の機会にDを作動させてCを遊戯した場合,複数のスクリプトを使用したとしても一罪の関係になると解されることに照らしても,使用されたスクリプトを特定する必要はないと解すべきである。

   また,本件偽計業務妨害幇助の訴因における罪となるべき事実は,各正犯者にDをダウンロードにより購入させたことが幇助行為に当たるとするものであるところ,被告人が,Aの代表取締役として,その業務全般を統括していたこと,及び,同社がDを開発,販売していたことが明示されているから,結局,検察官は,Dのダウンロードによる販売が,Aの業務全般を統括する被告人の指示ないし承認に基づくものであり,この指示ないし承認により,被告人が各正犯者にDをダウンロードして購入させたことになることを主張していると解されるから,幇助行為についての特定に欠けるところはないというべきである。

   したがって,本件偽計業務妨害幇助の訴因について有罪を言い渡した原審の訴訟手続に,公訴を不法に受理した違法はない。

 2 不正指令電磁的記録作成の公訴事実について

   所論は,不正指令電磁的記録作成の公訴事実は,被告人が正犯となる根拠を明らかにしていない上,間接正犯として起訴したと善解しても,作成行為を直接行った者が「Eら」とされていて,訴因が特定されていないと主張する。

   しかし,本件不正指令電磁的記録作成の公訴事実は,「被告人は,Eらをして本件アンドロイドアナライザーを作成させ,もって,不正な指令を与える電磁的記録を作成した」というものであるから,被告人は,Eを道具とする間接正犯として起訴されていることが文理上明らかである。さらに,作成行為の年月日,場所及び方法は,訴因において明示されており,これにより他の犯罪事実と識別することが可能であり,また,作成行為を直接行った者がE以外にいたとしても,現に明示されている訴因と同一性を欠く他の訴因を構成するわけではないから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。

   したがって,本件不正指令電磁的記録作成の訴因について有罪を言い渡した原審の訴訟手続に,公訴を不法に受理した違法はない。

第5 理由不備ないし理由そごの論旨について

   刑訴法378条4号にいう理由不備とは,同法44条1項,335条1項により要求される判決理由が全く欠けている場合か,その重要な部分が欠けている場合をいい,理由そごとは,主文と理由との間又は理由相互間において食い違いがある場合であって,その食い違いが重要なときをいうと解される。したがって,原判決が,使用されたスクリプトの特定をしないで偽計業務妨害幇助罪の成立を認めたことは,何ら理由そごに当たらない。また,原判決は,罪となるべき事実において,「不正行為に気付いたB社員らに不正行為に対する調査及びその対策としての環境構築の実施を余儀なくさせるなどした」という点を除き,本件訴因における罪となるべき事実と同様の事実を記載しており,判決の罪となるべき事実としても,その特定に欠けるところはないから,理由不備にも当たらない。

第6 訴訟手続の法令違反の論旨について

 1 所論は,①Kの原審証言は,伝聞証言や単なる意見にすぎないから,証拠能力を欠き,②(ア)原審第9回公判で採用されたAの社内で受送信したメールデータを印刷した資料,(イ)事業発展計画書を複写した資料(原審甲139の添付資料)及び(ウ)リーダー会議のデータを印刷した資料(同343の添付資料)は,オリジナルのデータとの同一性が認められず,また,非供述証拠として採用しても,事実上の心証形成に用いることは,刑訴法320条1項に反するから,いずれも証拠から排除すべきであると主張する。

 2(1)①のうち,伝聞証言の点については,確かに,Kの原審証言には,伝聞証言にわたる部分が散見されるが,原審弁護人は,同証人の尋問終了時までに異議又は証拠排除の申立てをしていないから,その終了後になってその排除を申し立てることはできないというべきである。所論は,伝聞証言に関し,原審弁護人は尋問の際に再三異議を申し立てたと主張するが,原審弁護人がKの証人尋問において異議を申し立てたのは,次の意見の点に関して証拠排除を求めた場面(原審記録251丁の210)以外は,証人に対する文書の展示が誘導になっていると異議を2回申し立てた箇所だけである(同251丁の201及び206)。

    次に,意見の点については,Kは,原審公判において,アンドロイドOSに無料で付加されたデバイスマネージャーという機能により,紛失したスマホの現在位置を表示したり,そこに蔵置されているデータをロックすることなどができること,L社が提供しているLドライブというサービスを利用すれば,データをクラウド上に保管できるので,端末を紛失してもデータを再び利用することができること,これらの機能やサービスは,アンドロイドアナライザーが発売された当時既に提供されていたことを証言した後,アンドロイドアナライザーは,スマホの盗難,紛失の対策のために必要と思うかという質問に対して,必要ないと思うと答えており(原審記録251丁の208ないし210),所論はこの答を問題としている。これらの機能等が,Kがアンドロイド端末を操作するなど直接体験して知り得た事実であるのか,それともそのような体験を伴わず,単に資料等を閲読して知り得た事実であるかは,Kの原審証言からは不明というほかないが,後者であるとすれば,Kの上記証言は単なる意見であって,証拠にならないことになる。しかし,一般人であれば,スマホの盗難対策等のためにアンドロイドアナライザーが必要であると思わないということは,必ずしもKの上記証言によらなければ認定できないものではなく,経験則に従って判断されるべきことがらであるといえる。したがって,原裁判所が上記証言を排除しなかった措置に,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法があるとはいえない。

  (2)②のうち,(ア)については,Mの原審証言によれば,クラウド上で保存されているAの社員間の全メールデータをアーカイブファイルにまとめ,これを同社で使用されているパソコンにダウンロードし,そのファイルをブルーレイディスクにコピーして,その任意提出を受け,そのデータを外付けハードディスクドライブにコピーし,これに捜査で使用されているパソコンを接続してデータの閲覧,印刷を行っていたこと,(イ)については,Nの原審証言によれば,Aの事務所を捜索した際に差し押さえた資料をコピーしたものであること,(ウ)については,Oの原審証言によれば,Aの事務所を捜索した際に差し押さえたHが使用していたパソコンのハードディスクドライブのデータを別のハードディスクドライブにコピーし,これをパソコンにつないで解析し,そのデータの中にあったファイルを印刷したものであることがそれぞれ認められ,元のデータとの同一性に疑問を生じさせるような事情はうかがえない。原裁判所は,これらの証拠を非供述証拠として採用し,取り調べているが,ここでいう非供述証拠とは,その内容の真実性を立証する証拠ではないことを意味するから,原裁判所の上記措置が刑訴法320条1項に違反しないことは明らかである。

第7 法令適用の誤りの論旨について

   原審記録によれば,被告人に対する不正競争防止法違反被告事件(以下「別件」という。)は,本件の原審の弁論が終結した平成31年2月4日の時点において,最高裁判所に係属しており,第1審である京都地方裁判所が言い渡した懲役2年及び罰金200万円,4年間懲役刑の執行猶予の判決(253丁の139)が確定していないことが認められ,別件の罪と本件の各罪は刑法45条前段の併合罪の関係にある。しかし,この併合罪の関係にある各罪について,同法46条及び47条に従い1個の刑が言い渡されるのは,それらが併合して審理され,判決が言い渡される場合に限られるのであって,別個に審理されている場合には,その余地はない。法が,同法45条前段の併合罪の関係にある各罪について2個以上の裁判があることを予定していることは,同法51条の規定からも明らかである。所論は,同法47条が適用されるのが併合されて審理されている場合に限られるとすると,捜査機関が恣意的に捜査を遅らせることにより被告人が不利な取扱いを受けると主張するが,捜査機関が本件の捜査を恣意的に遅らせたという事情は,原審証拠からは全くうかがえず,所論は前提を欠く。

第8 量刑不当の論旨について

   所論は,本件が別件と同時に審理された場合よりも被告人に不利にならないようにするため,本件の量刑に際して別件の存在を考慮すべきであると主張する。しかし,確定していない別件の裁判の結果を考慮することは不可能であり,所論は失当である。

第9 結語

   よって,論旨はいずれも理由がないから,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

  令和元年12月17日

    東京高等裁判所第10刑事部

        裁判長裁判官  朝山芳史

           裁判官  阿部浩巳

           裁判官  高森宣裕

 

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