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「ドラクエ」の“生みの親”が旭日小綬章 “親の敵”がここまで…… 果たした大きな功績 #エキスパートトピ(河村鳴紘) - エキスパート - Yahoo!ニュース

名誉回復措置等請求事件

東京地方裁判所判決/令和3年(ワ)第27154号

令和5年10月20日
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告らは、原告に対し、連帯して220万円及びこれに対する被告東宝株式会社、被告株式会社スクウェア・エニックス、被告B、被告Cは令和3年6月4日から、被告株式会社白組、被告D、被告Eは同月7日(訴状送達日)から各支払済みまで、年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告らは、別紙謝罪広告記載の広告を別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトに記載せよ。
 3 第1項につき仮執行宣言
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
   本件は、原告が、被告株式会社スクウェア・エニックス(以下「被告スクウェア・エニックス」という。)が発売したゲームソフトを原作とする小説を執筆し、その際、原告が同小説の主人公の名称を発案して執筆したところ、①被告らが同ゲームソフトを原作とする映画を製作委員会の構成員として共同で制作するに当たり、同映画の主人公の名称として原告が発案した前記主人公の名称を使用したことが原告の著作権を侵害した、②被告スクウェア・エニックスには原告との出版契約に基づき同名称を使用するに当たって原告と協議する義務が存在したにもかかわらず協議をしなかったことについて、被告らは、共同して同協議義務に係る債権侵害をしたとして、被告らに対して、著作権法115条の名誉回復措置としての謝罪文の掲載、著作権侵害又は前記債権侵害の共同不法行為に基づき、連帯して220万円及び遅延損害金を請求する事案である。
 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
  (1)ア 原告は、小説家であり、被告スクウェア・エニックスが平成2年にスーパーファミコン専用のソフトとして発売した「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(以下「本件ゲーム」という。)を題材に「小説ドラゴンクエストV天空の花嫁」という題名の小説(同題名で1から3があり、以下、総称して「本件小説」という。)を執筆した者である。原告は、被告スクウェア・エニックスと協議をしながら、発売前のゲームの内容を知らされるなどして同社が発売した「ドラゴンクエストⅣ」を題材にした小説を執筆し、本件小説も、被告スクウェア・エニックスと協議をしながら執筆された。(争いなし、甲10、原告本人)
    イ(ア)被告東宝株式会社(以下「被告東宝」という。)、被告スクウェア・エニックス及び被告株式会社白組(以下「被告白組」という。)は、いずれも令和元年8月2日に公開された「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」という題名の映画(以下「本件映画」という。)の製作委員会の構成員である。(争いなし)
     (イ)被告D(以下「被告D」という。)は本件映画の総監督であり、被告E(以下「被告E」という。)は本件映画の監督である。(争いなし)
     (ウ)被告B(以下「被告B」という。)は、「ドラゴンクエスト」シリーズのチーフプロデューサーであり、本件映画の全体監修者である。(争いなし)
     (エ)被告C(以下「被告C」という。)は、本件映画の原作者であり、監修を務めたものである。(争いなし)
  (2)原告と被告スクウェア・エニックス(当時の商号は株式会社エニックス)は、平成12年9月14日、本件小説につき出版契約書(以下「本件出版契約書」という。)を作成して出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結した。本件小説は、いずれも同年10月20日に被告から初版が発行された。(甲1~4、弁論の全趣旨)
  (3)本件ゲームでは、主人公の名称は本件ゲームを起動した時には定まっておらず、その後プレイヤーが主人公の名称を任意に入力して設定する仕様になっている。
    原告は、本件小説を執筆するにあたり、本件ゲームの主人公に当たる架空の人物の名称を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(以下「本件正式名称」という。)と設定し、その通称を「リュカ」(以下「本件通称」といい、本件正式名称と併せて「本件名称」という。)と設定し、本件小説において主人公に当たる人物について本件名称を使用した。なお、「グランバニア」とは、本件ゲームにおける主人公の祖国の名称であり、主人公は同国の王族である。
   (甲2~4、丙8、弁論の全趣旨)
  (4)本件映画は、本件ゲームを原作とする映画であり、主人公の名称として「リュカ」が用いられ、作中で「リュカ・エル・ケル・グランバニア」が主人公の名称として用いられるシーンもある。被告らは、本件映画でこれらの名称を使用することにつき、原告の許諾は受けていなかった。(甲5、弁論の全趣旨)
 3 争点
  (1)本件名称に著作物性が認められるか(争点1)
  (2)被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約に基づき、本件映画を作成するにあたり、原告との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したか(争点2)
  (3)本件映画を作成したことが、被告らによる、原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるか(争点3)
  (4)損害(争点4)
  (5)謝罪広告の必要性(争点5)
 4 争点に対する当事者の主張
  (1)本件名称に著作物性が認められるか(争点1)
   (原告の主張)
    登場人物名の呼称であっても、小説中の一場面を際立たせる等の演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が使用されている場合、それは、漫画のキャラクターが絵によって描写されているのと何ら異なることはなく、もはや抽象的概念にとどまらず、具体的表現そのものになっているというべきである。本件名称は、本件小説中で呼称されることで、特定の場面を際立たせて演出しており、本件小説の演出上、重要な意味を持っている。そして、本件正式名称については、その文字数は19文字に及び、単なる文字列の組み合わせではなく、原告の思想に基づいて創作されている。よって、本件名称は著作物に当たる。
   (被告らの主張)
    原告の主張は争う。キャラクターの名称は思想又は感情を表現したものではなく、著作物であるとは認められない。
   (被告東宝及び被告スクウェア・エニックスらの主張)
    仮にキャラクターの名称が著作物たりえるとしても、本件名称はありふれた名称であり、創作性が認められない。
  (2)被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約に基づき、本件映画を作成するにあたり、原告との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したか(争点2)
   (原告の主張)
    本件出版契約5条では、本件小説を映画等の二次的に使用する場合は、その使用に関する処理を被告スクウェア・エニックスに委任し、具体的な条件について協議の上決定することが定められている。同条項は、被告スクウェア・エニックスが原告の本件小説に関する権利・利益を保護することを目的としたものであり、また、同条項で「二次的著作物」ではなく「二次的使用」と記載したこと、本件出版契約の前に執筆された「ドラゴンクエスト精霊ルビス伝説上中下」に係る原告と被告スクウェア・エニックスとの間の出版契約においては、設定を提供したにすぎない被告スクウェア・エニックスに著作権を付与していることなどからしても、本件出版契約では著作権法の解釈にかかわらず、設定、キャラクター名についても著作権法により保護される著作物として取り扱うと合意し、著作権法上の二次的著作物の制作に限定することなく、キャラクター名を使用する場合も協議等することが必要な場合に含ませることにした。被告スクウェア・エニックスは、本件映画作成に当たり、本件名称を「リュカ・エル・ケル・グランバニア」に変えて二次的使用をしたものの、本件名称の使用につき何らの協議をしなったから、本件出版契約5条に違反した。
    また、設定等に著作権があるか否かの問題と、本件名称に著作物性が認められるかの問題は本来同種の問題であるにもかかわらず、被告スクウェア・エニックスは、長年、キャラクター名を含めた設定が著作権により保護される対象であることを前提に利益を得てきた。このことに照らすと、被告スクウェア・エニックスが本件名称に著作物性がないと主張することは信義に反する。
   (被告スクウェア・エニックス、被告B、被告Cの主張)
    否認ないし争う。本件出版契約5条によれば、「本著作物が」「二次的に使用される場合」であって、被告スクウェア・エニックスが委任を受けた事務を処理するという特定の条件下において、「著作権使用料等の具体的条件」という特定の事項について協議するという状況が発生することがあるとしても、原告が主張するような義務が生じることはない。
   (被告東宝の主張)
    本件出版契約5条は、「本著作物」の使用について規定したものであり、著作物ではないキャラクターの名称である本件名称の使用に際しての協議については一切定めがない。よって、被告スクウェア・エニックスに原告が主張する協議義務は存在しない。
   (被告白組、被告D、被告Eの主張)
    争う。
  (3)本件映画を作成したことが、被告らによる、原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるか(争点3)
   (原告の主張)
    被告スクウェア・エニックスは、前記(2)の原告の主張のとおり、協議義務に違反した。そして、これにより、原告は、事前に本件名称を映画に用いることを許諾するか否かを判断する機会を奪われたのであるから、被告スクウェア・エニックスには債権侵害の不法行為が成立する。
    社会通念上、映画を作成する際に登場人物の名称について他の出版物の名称を使用する際には、出版物の著作権者と協議することが通常であり、被告スクウェア・エニックス以外の被告らはそのような慣習を知っていた。そうであるにもかかわらず、同被告らは、原告と協議せずに本件名称を使用したのであるから、被告スクウェア・エニックスと共同で債権侵害をしたといえ、共同不法行為責任を負う。
   (被告らの主張)
    否認ないし争う。
   (被告東宝の主張)
    被告東宝は、企画の詳細がほぼ固まっていた段階で本件映画の製作に関与したものであり、本件映画における主人公の名称の決定に関与していない。被告東宝は、本件出版契約の存在も本件小説の存在も知らず、被告スクウェア・エニックスに対して、原告と協議しないように働きかけたこともない。
   (被告白組、被告D、被告Eの主張)
    被告白組、被告D及び被告Eは、被告スクウェア・エニックスの了解を得ながら、本件映画の製作や脚本の執筆を行っていたもので、不法行為責任を負いようがない。
  (4)損害(争点4)
   (原告の主張)
    原告は著作権侵害又は被告らによる債権侵害により、甚大な精神的苦痛を受けており、これを金銭に評価すると200万円を下らない。弁護士費用相当額は、20万円が相当である。
   (被告らの主張)
    否認ないし争う。
  (5)謝罪広告の必要性(争点5)
   (原告の主張)
    本件においては、名誉回復措置として謝罪広告を掲載する必要性がある。
   (被告らの主張)
    否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
 1 本件名称に著作物性が認められるか(争点1)について
  (1)著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)が著作物とされている。
    原告は、本件名称がそれ自体で著作物であると主張する。しかし、人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。
    本件正式名称は、人物の名称としてはやや長いものの、王族であるという当該人物の出身国名が付されるなどして長くなっているのであって、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものであり、また、本件通称は当該人物の特定のための符号として用いられていることが明らかである。本件名称は、いずれも著作物ではない。
  (2)原告は、小説中の一場面を際立たせる等の演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が呼称される場合には、名称等が具体的表現になるなどと主張する。
    しかし、小説中の特定の場面において登場人物名が重要な役割を果たし、登場人物名の描写を含む当該場面に関する具体的描写が創作的な表現であったとしても、そのことによって、当該描写における特定の語句自体が著作物となるものではなく、当該特定の語句が他の箇所で使われた場合に著作物が使われたことになるものではない。なお、ある特定の場面において登場人物名が効果的に使用され、それにより同場面での当該登場人物の活動等が印象付けられたとしても、そのことを理由として当該特定の場面の具体的描写を離れて登場人物名が著作物となるとすると、特定の場面において活動等を行ったことがある者などという抽象的な概念を著作物として保護することとなるが、それは認められない(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日最高裁第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。
  (3)よって、本件名称は著作物に当たるとはいえないから、原告の被告らに対する著作権侵害の不法行為に基づく請求にはいずれも理由がない。
 2 被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約に基づき本件映画を作成するにあたり、原告との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したか(争点2)及び本件映画を作成したことが、被告らによる、原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるか(争点3)について
  (1)本件出版契約書には次の記載がある。(甲1)
    FことA(以下、「甲」という(判決注:原告))と、株式会社エニックス(以下、「乙」という(判決注:被告スクウェア・エニックス))とは、甲が執筆した「小説ドラゴンクエストV」(以下、「本著作物」という)を書籍として、複製並びに頒布する際の条件について、以下のとおり定める。
   (著作権の設定)
   第1条 本著作物は、乙が保有する著作物「ドラゴンクエストV」(以下「原著作物」という)を題材に甲が創作したものである。
      故に、本著作物の原著作物に含まれるものを除き、それ以外の著作権は甲乙の共有のものである。
     2.前項の定めにより、甲は本契約の有効期間中であるか否かを問わず、乙の承諾なしに本著作物の全部もしくは一部を転載ないし出版できず、あるいは第三者をして転載ないし出版させることはできないものとする。
   (出版権の設定)
   第2条 乙は本著作物を複製ならびに頒布する出版の権利を占有する。
     2.甲は、乙が本著作物の出版権の設定を登録することを承諾する。
   (二次的使用)
   第5条 この契約の有効期間中に、本著作物が翻訳・ダイジェスト等、または演劇・映画・放送・録音・録画等、その他二次的に使用される場合、甲はその使用に関する処理を乙に委任し、乙は著作権使用料等の具体的条件について甲と協議の上決定する。
   (契約の有効期間)
   第6条 この契約の有効期間は、契約の日から5年間とする。
     2.この契約は、期間満了の3ヶ月前までに甲乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がなされない限り、この契約と同一条件で自動的に3年間ずつ延長される。
   (著作者人格権の尊重)
   第9条 乙が本著作物を出版する際、本著作物の内容、表現またはその書名、題号に変更を加える場合には、あらかじめ乙(判決注:ママ)の承諾を必要とする。
   (契約条項の変更)
   第20条 契約中に別段の明示の規定がある場合を除き、本契約のいかなる条項の変更、追加または削除も両当事者の代表者が記名捺印した書面によらない限り効力を生じない。
   (契約の尊重)
   第21条 甲乙双方は、この契約を尊重し、この契約に定める事項について疑義を生じたとき、またはこの契約に定めのない事項について意見を異にしたときは、誠意をもってその解決にあたる。
  (2)原告は、本件映画で本件名称と類似する「リュカ・エル・ケル・グランバニア」を使用するに当たって、被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約5条に基づき、その可否を原告と協議する義務があったと主張する。
    本件出版契約第5条では、「・・・本著作物が・・・映画・・・等・・・に使用される場合、甲(原告)はその使用に関する処理を乙(被告スクウェア・エニックス)に委任し、乙は著作権使用料等の具体的条件について甲と協議の上決定する。」と定められている。
    本件出版契約は、本件小説について「本著作物」と述べた上で、それについての複製、頒布(譲渡)という著作権法上の支分権該当行為を行う際の条件を定めるとし、また、第1条で、著作権の帰属等を定めた上で、第2条以下でも、出版権(第2条)や著作者人格権(第9条)など著作権法上の権利について定めている。これらからすると、本件出版契約第5条も、本件小説の著作権を原告と被告スクウェア・エニックスが保有していることを前提として、著作権法の権利関係を前提とした義務等を定めたものといえる。そして、原則として、第三者が本件小説を著作権者である原告及び被告スクウェア・エニックスの承諾なく複製、翻案等して利用することは著作権(複製権、翻案権等)を侵害し、第三者がそのような著作権侵害を避けて本件小説の複製、翻案等の利用をするためには原告及び被告スクウェアの利用許諾等を得ることが必要なところ、本条は、そのように第三者において本件小説を利用するための利用許諾が必要な場合、原告及び被告スクウェア・エニックスの双方が当該第三者と個別又は共同で交渉して契約を締結する等の処理をするのではなく、原告と被告スクウェア・エニックスが第三者との契約締結前に許諾の条件について協議の上で決定し、原告が保有する著作権の持分に係る部分についても同協議結果のとおり実現されるように原告が被告スクウェア・エニックスにその処理を委任する趣旨であると認められる。前記協議、処理の委任の対象となる第三者の利用態様が、許諾のない限り著作権侵害を構成するものを想定していることは、協議にかかる具体的条件の例として「著作権使用料」が挙げられていることからも裏付けられる。
    以上のとおり、本件出版契約第5条では、第三者との間で第三者が本件小説を著作権侵害とならない態様で利用するための利用許諾の交渉、契約締結、契約に基づく処理を行う場合には、その処理を被告スクウェア・エニックス単体で行うものとし、ただし、その利用許諾の条件については原告との協議の上で決定されたところに基づくことが定められていると認められ、第三者において著作権侵害とならない態様で利用するため交渉が必要ない場合や第三者との間でそのための交渉が持たれない場合には、被告スクウェア・エニックスには原告との間で同条に基づく協議をする義務があったとはいえない。
    本件小説で記載されている本件名称について、著作物であるとは認められないことは前記1で説示したとおりであり、本件名称のみを第三者が利用することは著作権侵害に当たるとはいえない。そうすると、原告及び被告スクウェア・エニックスは本件映画の作成に当たって、著作権法上、本件名称の利用についてその利用を拒否できる地位にはなかったのであり、本件出版契約上の義務に基づいて被告スクウェア・エニックスから映画の作成に当たって本件名称の利用許諾条件について映画製作の主体に交渉を持ち掛ける理由もないし、そのような交渉が持たれたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、被告スクウェア・エニックスが本件名称について第三者と利用許諾についての交渉を提起すべき理由もなく、そのような交渉が行われたこともうかがえないのであるから、被告スクウェア・エニックスがこれらの交渉のために本件名称の利用許諾の条件について原告と協議すべき理由もないことになる。
    よって、本件において、被告スクウェア・エニックスに、本件出版契約に基づき原告と本件名称の利用条件について協議すべき義務があったとはいえず、同義務の違反があったとはいえない。
  (3)原告は、本件出版契約の前に原告と被告との間で平成2年5月17日に締結された、テレビゲームであるドラゴンクエストI、Ⅱ、Ⅲの設定に準拠した原告が執筆した「ドラゴンクエスト精霊ルビス伝説 上中下」という題名の各書籍についての出版契約(以下「別件出版契約」という。)では、ゲームの設定について著作権があることを前提に契約が締結され、本件出版契約もこれを前提にしたものであり、本件出版契約で規定されている「著作物」には、著作権法上の著作物に当たるか否かにかかわらず、キャラクターの名称も含まれるから、被告スクウェア・エニックスには協議義務があったなどと主張する。
    しかし、本件出版契約は、別件出版契約の約10年後に締結されたもので、本件出版契約に別件出版契約に関する言及もなく、別件出版契約の前提が本件出版契約において前提とされていたとは認められない。なお、別件出版契約の第1条には、「表記の著作物((判決注:ドラゴンクエスト精霊ルビス伝説 上中下)以下「本著作物」という)は、ファミコンゲーム・ドラゴンクエストシリーズ(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)の設定のもとに著作されたものである。旨に(判決注:ママ)、本著作物の著作権は、甲(判決注:原告)・乙(判決注:被告スクウェア・エニックス)・アーマープロジェクト・チュンソフト・バードスタジオの五者が共同所有するものとし、甲の印税は・・・・とする。」との定めがある(甲8)。しかし、別件出版契約において、上記の「設定」に、著作権法上の著作物に当たらないキャラクターの名称等が含まれることが定められているわけではない。同条の「設定」が何を意味するかについては明確ではなく、対象のゲームに関する要素のうち、著作権法により著作物といえるもののみを意味すると解しても矛盾はない。
    そうすると、別件出版契約に係る原告が主張するその他の経過等を考慮しても、原告と被告スクウェア・エニックスの間において本件出版契約締結に当たり「著作物」という文言を用いたとき、これにキャラクターの名称が含まれるとは認められない。
  (4)また、原告は、被告がキャラクター名が著作権によって保護に値することを前提に利益を得てきたことから、本件名称に著作物性がないと主張することは信義に反するなどと主張するが、被告スクウェア・エニックスが、キャラクター名自体が著作権により保護される対象であることを前提に利益を得てきたと認めるに足りる証拠はなく、原告の主張はその前提を欠く。
  (5)以上のとおりであって、原告と被告スクウェア・エニックスの間に本件映画に関連して本件名称の使用に関する協議を行う義務があったとは認められない。
    よって、被告スクウェア・エニックスに上記義務違反があったことを理由とする原告の請求(争点2関係)には理由がなく、原告が原告主張の債権を有していたとは認められないから、その債権の存在を前提として債権侵害があったことを理由とする請求(争点3関係)も理由がない。
第4 結論
   よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第46部
        裁判長裁判官  柴田義明
           裁判官  杉田時基
           裁判官  仲田憲史


名誉回復措置等請求控訴事件

知的財産高等裁判所判決/令和5年(ネ)第10104号
令和6年4月23日
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
 3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して220万円及びこれに対する被控訴人東宝株式会社(以下「被控訴人東宝」という。)、被控訴人株式会社スクウェア・エニックス(以下「被控訴人スクウェア・エニックス」という。)、被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1’」という。)及び被控訴人Y2(以下「被控訴人Y2’」という。)は令和3年6月4日から、被控訴人株式会社白組(以下「被控訴人白組」という。)、被控訴人Y3(以下「被控訴人Y3’」という。)及び被控訴人Y4(以下「被控訴人Y4’」という。)は同月7日から各支払済みまで、年5分の割合による金員を支払え。
 3 被控訴人らは、原判決別紙謝罪広告記載の広告を原判決別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトに記載せよ。
 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
 5 第2項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
 1 本件は、控訴人が、被控訴人スクウェア・エニックスが発売したゲームソフトを原作とする小説を執筆し、その際、控訴人が同小説の主人公の名称を発案して執筆したところ、①被控訴人東宝、被控訴人スクウェア・エニックス及び被控訴人白組が同ゲームソフトを原作とする映画の製作委員会の構成員として、他の被控訴人らは監督等として、同映画を共同で制作するに当たり、同映画の主人公の名称として控訴人が発案した前記主人公の名称を使用したことが控訴人の著作権を侵害した、②被控訴人スクウェア・エニックスには控訴人との出版契約に基づき同名称を使用するに当たって控訴人と協議する義務が存在したにもかかわらず協議をしなかったことについて、被控訴人らは、共同して同協議義務に係る債権侵害をしたとして、被控訴人らに対して、著作権法115条の名誉回復措置としての謝罪文の掲載、著作権侵害又は前記債権侵害の共同不法行為に基づき、連帯して220万円及び遅延損害金を請求する事案である。
   原審が、①上記主人公の名称は著作物には当たらない、②控訴人と被控訴人スクウェア・エニックスとの間で結ばれた出版契約において、上記名称の利用について協議すべき義務があるとはいえない、などとして控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。
   控訴人は、当審において、被控訴人スクウェア・エニックスとの関係で、事務管理に基づく予備的請求原因事実の主張を追加した。
 2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおりの当審における控訴人の主な補充主張及び後記4のとおりの当審における控訴人の追加主張及びこれに対する被控訴人スクウェア・エニックスの反論を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の2ないし4(原判決3頁8行目ないし8頁20行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
  (1) 原判決6頁4行目の「契約5条」を「契約第5条」と、同行目の「映画等の」を「映画等に」と、同頁17行目の「に変えて」を「に変えて主人公の名称に」と、同頁18行目の「協議をしなった」を「協議をしなかった」と、同頁18行目及び同頁25行目の各「契約5条」をいずれも「契約第5条」と、それぞれ改める。
  (2) 原判決7頁5行目の「契約5条」を「契約第5条」と改める。
 3 当審における控訴人の主な補充主張
  (1) 争点1(本件名称に著作物性が認められるか)について原判決は人物の名称は当該人物の特定のための符号であるとして創作性を認めなかったが、人物や商品の特定のための符号だからといって、創作性が認められないということにはならない。過去の裁判例にも、商品ロゴとして対象の特定のための符号という性質に本件と変わりはないところ、著作物性が認められないとの判断はされていないものもあり、美的創作性が認められる限りは著作権が認められる余地があることを肯定しているものがある(東京高裁平成6年(ネ)第1470号同8年1月25日判決、その上告審である最高裁平成8年(オ)第1022号)。
    本件名称は、「ドラゴンクエストシリーズでリュカと言えばほとんど彼のことを指す」(甲11)とされていることからも分かるとおり、ファンの間では既に他のキャラクターと区別しうるものとなっている。まして、本件においては、キャラクターの名称だけで他のキャラクターと区別しうることを前提に、名前を呼びかける場面が描写されているのであって、その描写されている場面は、「ドラゴンクエストの主人公を」「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」と呼びかける場面として、著作物性を判断すべきであり、名称であるからといって著作物性を認めない理由にはならない。
    原判決は、創作性の有無に触れることなく著作物性を否定しており、法令の解釈適用を誤っている。
  (2) 争点2(被控訴人スクウェア・エニックスは、本件出版契約に基づき、本件映画を作成するにあたり、控訴人との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したか)について
   ア 原判決は人物名に著作権がないことを前提に本件出版契約上の協議義務を否定しているが、厳密な意味での著作権の有無に関わらず、関連作品についてその著作者に事前に断りを入れ、場合によって、巻末等で謝辞を述べるなど、その敬意を示すことはクリエイティブ業界において広く行われている。原判決の解釈は誤りである。
   イ 被控訴人スクウェア・エニックスは製作委員会の構成員であり、その従業員である被控訴人Y1’は本件映画の監修者であったのであるから、仮に本件出版契約に基づき本件名称の使用についての委任が成立していないとしても、被控訴人Y1’は、控訴人に対し要望があれば述べてほしい旨を述べ、これに対し控訴人が要望を伝えるというやり取りをしており、この時点で、被控訴人スクウェア・エニックスを代表して被控訴人Y1’が控訴人の要望を伝えるべく委任の範囲を変更するという合意がされたというべきである。
 4 当審における控訴人の追加主張及びこれに対する被控訴人スクウェア・エニックスの反論
 〔控訴人の主張〕
  (1) 当審における追加主張に係る被控訴人スクウェア・エニックスの事務管理に基づく請求原因事実
    被控訴人Y1’は、控訴人の要望を聞き取っているのであるから、控訴人としてはそれが製作委員会及び映画を実際に制作しているメンバーに伝わることを期待するのは当然である。そうすると、仮に被控訴人らに出版契約上の義務がなかったとしても、この時点で、被控訴人Y1’及び同人が所属する被控訴人スクウェア・エニックスは、義務なく他人のために事務の管理を始めた者というべきである。そして、この時点で、控訴人が自らの要望を製作委員会及び映画を実際に制作しているメンバーに伝えることを望む意思を有していたことは明らかであるから、民法697条2項により、この意思にかなった方法により製作委員会及び映画を実際に制作しているメンバーに伝えなければならなかった。
    ところが、被控訴人Y1’及び被控訴人スクウェア・エニックスは、控訴人から聞き取った要望を製作委員会及び映画を実際に制作しているメンバーに伝えることすらしていなかった。この行為は控訴人の意思に反した管理行為であり、事務管理者としての債務不履行に当たる。これにより、控訴人には損害が生じたものである。
  (2) 被控訴人スクウェア・エニックスの時機後れの主張に対する反論
    控訴人は、本件映画の製作委員会内部の状況については知り得ないところ、上記の控訴人の追加主張は、被控訴人白組らの控訴答弁書の記載により明らかにされた事実に基づくものであるから、時機に後れた攻撃防御方法には当たらない。
 〔被控訴人スクウェア・エニックスの反論〕
  (1) 控訴人の事務管理に基づく請求原因事実の追加主張は、時機に後れた攻撃防御方法に当たり、却下されるべきである。
  (2) 事務管理の主張に対しては否認ないし争う。
    被控訴人スクウェア・エニックスは、控訴人のためにその要望を聞き取る意思を有していたわけではないし、被控訴人Y1’も自分が所属する会社のために行動していたのであって控訴人のために当該要望を聞き取る意思を有していたわけではなく、被控訴人Y1’及び被控訴人スクウェア・エニックスは、控訴人との関係で、「義務なく他人のために事務の管理を始めた者」に該当しない。
    控訴人は、自身の要望を聞き取った以上は、自身の要望に沿った行動をすることを期待していたという理由のみで、被控訴人スクウェア・エニックス及び被控訴人Y1’が事務管理の要件を満たしていると主張しているにすぎず、具体的な事務管理の要件事実を摘示していない。
    そもそも被控訴人Y1’は、控訴人から聞き取った要望を製作委員会の代表たる被控訴人東宝に伝えているのであり、仮に控訴人の主張するような事務管理が成立するとしても、そこにおける債務は果たされている。
    いずれにしろ、控訴人の事務管理の主張には理由がない。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、控訴人の請求についてはいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加し、後記3のとおり当審における控訴人の追加主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第3(原判決8頁22行目ないし15頁5行目)のとおりであるから、これを引用する。
  (1) 原判決11頁22行目ないし23行目の「契約5条」を「契約第5条」と改める。
  (2) 原判決13頁21行目の「準拠した」を「準拠して」と、同14頁20行目の「被告」を「被控訴人スクウェア・エニックス」と改める。
 2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断
  (1) 控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、原判決は創作性の有無に触れることなく著作物性を否定しており、法令の解釈適用を誤っている旨を主張する。
    しかし、補正の上で引用した原判決第3の1のとおり、本件名称には著作物性が認められない。控訴人の挙げる裁判例(東京高裁平成8年1月25日判決等)は、デザイン書体に著作物性が認められるか否かに関する裁判例であり、本件の判断に関係するものではない。
    また、控訴人は、本件名称が愛好者の間では知られているとして、それに沿う証拠(甲11)を提出するほか、主人公の名称は呼びかけの場面等と併せて用いられているものであるから著作物性が認められる旨も主張するが、それらは人物の特定のための符号として用いられていることに変わりはなく、補正の上で引用した原判決第3の1(2)のとおり、特定の場面において効果的に登場人物名が使用されていることがあっても、これを理由として人物名に著作物性が認められることにはならない。
    したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
  (2) 控訴人は、前記第2の3(2)のとおり、厳密な意味での著作権の有無に関わらず、関連作品の著作者に謝辞を述べるなどの形で敬意を示すことは広く行われていること、被控訴人Y1’が控訴人の要望を伝えるべく委任の範囲を変更する合意がされた旨を主張する。
    しかし、補正の上で引用した原判決第3の2のとおり、本件出版契約に基づき被控訴人スクウェア・エニックスにおいて協議すべき義務があったとはいえず、著作権の有無にかかわらず何らかの形での敬意を示すとの控訴人主張の業界の慣行が存すると認めるに足りる証拠はなく、それが本件出版契約に基づく協議義務の発生の根拠ともなり得ない。
    控訴人と被控訴人Y1’は、令和元年(2019年)6月頃に、本件映画における主人公の名称に関して話をした事実は認められるものの、証拠(原審における控訴人本人の尋問の結果〔尋問調書15頁から18頁〕)によっても、控訴人から被控訴人Y1’に対し伝えたとされる要望の内容についても明確ではなく、仮に控訴人の主張するとおり、控訴人から被控訴人Y1’に対し、要望として、本件名称が控訴人の創作に由来すること及び控訴人の氏名を本件映画において明記するとともに、本件小説の宣伝広告をすることを求めたとしても、上記本人尋問の結果によっても、「別に無理だとかできないとかいうお返事はいただいていない」というにすぎず、被控訴人Y1’が控訴人の主張する要望を承諾したか否かは明らかでないのであって、仮に同人が黙示に承諾したとしても、そもそも被控訴人Y1’において被控訴人スクウェア・エニックスの代表権等を有しないことからして、控訴人が同要望をした時点において、直ちに委任の範囲の変更が生じたあるいは何らかの合意が成立したものとは認められない。
    したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
 3 当審における追加主張に係る被控訴人スクウェア・エニックスの事務管理に基づく請求原因事実について
  (1) 被控訴人スクウェア・エニックスは、前記第2の4〔被控訴人スクウェア・エニックスの主張〕(1)のとおり、当審における追加主張に係る被控訴人スクウェア・エニックスに対する事務管理に基づく請求原因事実について、時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下の申立てをする。
    控訴人の主張には判然としない部分があるものの、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、控訴人と被控訴人Y1’との間で行われた会話において控訴人の要望を伝えるべく黙示の合意が成立した旨、既に原審において、当審における追加主張と同一事実関係に基づく法的評価に関する主張を行っていたということができる。また、被控訴人スクウェア・エニックスの当審における答弁書の提出を受け、控訴人が上記請求原因を追加した後の令和6年3月12日の第1回口頭弁論期日において、口頭弁論が終結されるに至っているから、控訴人が上記主張を提出したことによって本件訴訟の終結が遅延したということはできない。
    したがって、上記被控訴人スクウェア・エニックスの主張には理由がないから、被控訴人スクウェア・エニックスの上記申立ては却下する。
  (2) 控訴人は、前記第2の4〔控訴人の主張〕(1)のとおり、被控訴人Y1’が控訴人の要望を聞き取った時点で、被控訴人Y1’及び被控訴人スクウェア・エニックスは義務なく他人のために事務の管理を始めたが、その事務管理者としての債務不履行により控訴人に損害が生じた旨を主張する。
    しかし、前記2(2)のとおり、控訴人が被控訴人Y1’との会話において、控訴人からどのような内容の要望がされたのかについては明確ではなく、仮に控訴人の主張する内容の要望がされたとしても、被控訴人Y1’が控訴人から口頭で要望を伝えられたことをもって、直ちに民法697条所定の「事務の管理を始めた」ものと評価することはできないし、被控訴人Y1’は控訴人から聞き取った要望を製作委員会の被控訴人東宝に伝え、これにより被控訴人東宝の担当者から控訴人にメールでの連絡があった(乙12)のであるから、その事務も履行されている。
    したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
 4 前記認定及び判断は、控訴人のその余の主張によっても左右されるものではない。
 5 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく、当審で追加した事務管理に基づく請求原因事実に係る請求についても理由がないから、いずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
    知的財産高等裁判所第3部
        裁判長裁判官  東海林保
           裁判官  今井弘晃
           裁判官  水野正則

チートツール販売を偽計業務妨害幇助罪に該当するとした事例

【参照条文】      刑法233

            刑法62-1

            刑法168の2-1

【掲載誌】       高等裁判所刑事裁判速報集令和元年362頁

 

       主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 

       理   由

 

第1 事案の概要及び本件控訴の趣意について

   本件は,コンピュータのソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社A(以下,特に断らない限り,略称は原判決のそれによる。)の代表取締役として,その業務全般を統括していた被告人が,①2名の者が,Aが開発販売していた,Bが運営するオンラインゲーム「C」(以下「C」という。)を携帯電話機等で遊戯する際に,その携帯電話機等と同社が使用するCのサーバとの間の通信データが経由するパソコン上で作動させることにより,本来とは異なるデータを同サーバに送信するなどして,同オンラインゲームにおける課金アイテムの消費を避けながら同オンラインゲームを進行させることを可能にする機能を有するソフトウェア「D」を,パソコンを操作して作動させるなどしてCを遊戯し,Cにおける課金の機会を減少させ,もって偽計を用いてBの業務を妨害した際,これに先立ち,Dの機能を知って,ダウンロードによる購入を申し込んだ上記2名の者に対し,同人らがDを使用してBの業務を妨害することを知りながら,その申込みに応じてDをダウンロードにより購入させ,上記2名の上記各犯行をそれぞれに容易にさせてこれらを幇助し(原判示第1),②正当な理由がないのに,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,Aの従業員のEに,アンドロイドOSが稼働する電子計算機である携帯電話機を用いて実行した際,実行者の意図に基づかず,同携帯電話機に記録されたLINEメッセージ等をインターネット回線を通じて特定のサーバに送信する指令等を与える電磁的記録である本件アンドロイドアナライザーを作成させ,もって人が電子計算機を使用する際にその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成した(同第2)という事案である。

   本件控訴の趣意は,要するに,①AにおけるDの販売に関し,被告人には偽計業務妨害幇助罪が成立しないのに,この成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある,②Aにおける本件アンドロイドアナライザーの作成に関し,被告人には不正指令電磁的記録作成罪が成立しないのに,この成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある,③本件各公訴事実は,いずれも訴因が特定されていないから,原裁判所は,公訴棄却の判決をすべきであったのに,有罪の判決を言い渡しており,原審の訴訟手続には不法に公訴を受理した違法がある,④使用されたスクリプトの特定を欠くまま偽計業務妨害幇助罪の成立を認めた原判決には,理由不備ないし理由そごの違法がある,⑤原裁判所は,排除すべき証拠を排除しておらず,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,⑥本件の各罪と最高裁判所に係属中の不正競争防止法違反の罪は,刑法45条前段の併合罪の関係にあるのに,原判決はこの併合罪関係に触れずに処断刑を導き出しており,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,⑦この不正競争防止法違反の罪を考慮せず,これと本件が同時審判された場合よりも著しく被告人に不利な刑を言い渡した原判決の量刑は,重すぎて不当であるというのである。

第2 偽計業務妨害幇助罪(原判示第1)に関する事実誤認及び法令適用の誤りの論旨について

 1 原判決は,要旨,以下のとおり説示して,偽計業務妨害幇助罪の成立を認めた。

  (1)Dは,これをインストールしたパソコンにCをインストールしたスマートフォン(以下「スマホ」という。)を接続することにより,当該スマホとBが管理するCのサーバとの間の通信を,Dを介して行わせる機能を有し,Aが運営管理しているウェブサイトであるスクリプト掲示板において公開されているスクリプトというD専用のプログラムを読み込んで動作させることにより,上記サーバとの間の通信データの内容を書き換えることができる。Cにおいて,ユーザーは,保有するキャラクター(モンスター)でチームを編成して迷宮(ダンジョン)の攻略に挑み,攻略した際はキャラクター等の特典を獲得することができるが,どの特典を獲得できるかは確率により決められており,ダンジョンの攻略に挑むと,スタミナと称する数値を消費し,スタミナがなくなると挑戦ができなくなる。

    しかし,本件の正犯者らは,ダンジョンキャンセル機能(ダンジョン攻略後に獲得する特典を読み取り,当該特典が希望するものでない場合には,ダンジョンの攻略への挑戦を自動で取り消し,スタミナの消費を回避する機能)を有するスクリプトを読み込んだ状態のDを使用してCを遊戯し,希望する特典が獲得できない場合にはダンジョンの攻略への挑戦を取り消し,希望する特典が獲得できる場合にはダンジョンを攻略して希望する特典を獲得していた。

  (2)偽計業務妨害罪における偽計が業務者本人以外に向けられる場合,あたかも通常,正常であるかのような外観,真実とは異なる外観を作出されていれば,人の意思に働き掛ける場合と同程度に業務者の業務が妨害されたといえるから,人の意思に対する働き掛けがなくても,偽計を用いたと解するのが相当である。そして,本件の正犯者らは,前記のとおり,Dにより通信データを書き換えているにもかかわらず,あたかも通常の遊戯をしているかのような,真実とは異なる外観を作出しており,偽計を用いたと認められる。

  (3)ダンジョンの攻略への挑戦で消費されたスタミナは,時間の経過による回復を待つのでなければ,魔法石という,ゲーム内で使用する,基本的に有料の商品により回復する必要がある。ところが,本件の正犯者らは,希望する特典を得るために短時間で多数回ダンジョンに挑戦したにもかかわらず,Dを使用してスタミナの消費を抑えることで,魔法石の購入が必要になる事態をできるだけ生じないようにしたのであるから,Bの課金の機会を減少させる行為をしたものと認められる。

    そして,魔法石の売上げはCを運営する際の唯一の収益源であり,Bは,Cのダウンロード及び遊戯自体は無料にして,ユーザーの数を増やしつつ,ユーザーが連続してCを遊戯したくなるような工夫をするなどして,ユーザーに魔法石を購入してもらうことで,Cの運営費用をまかなうとともに収益を上げているのであるから,Cの運営業務とは,Cを配信,提供する中で魔法石を販売していく業務にほかならない。したがって,本件の正犯者らの行為は,魔法石による課金の機会を減少させ,BによるCの運営業務を妨害するおそれのある行為と認められるから,Bの業務を妨害したといえる。

  (4)Dは,C専用のプログラムではなく,使用するスクリプトによってはC以外のオンラインゲームにも対応して動作するものであるが,Aでは,発売当初,Cの裏技ソフトと称してその顧客に告げるなどし,その後も,社員が匿名販促ブログを作成する際,Cに関係する検索ワードで検索した場合に表示される順位が上位となることが目標とされ,DをCで使用することを内容とするとうかがわれる匿名販促ブログから多数の売上げが生じていた。また,ダンジョンキャンセル機能を有するスクリプトについても,Aは,Dの発売当初,顧客に対し,ダンジョンキャンセル機能でスタミナの消費が避けられることをメールで宣伝し,同社の社員が作成したダンジョンキャンセル機能を有するスクリプトを,同社が運営管理するスクリプト掲示板にアップロードし,途中までは,Dの販売用ホームページにおいてもダンジョンキャンセル機能を紹介し,匿名販促ブログにも同機能が記載されるなどしており,ダンジョンキャンセル機能を有するスクリプトは,DをCに使用する場合に用いられる典型的なスクリプトの1つであったと認められる。そして,Dの販売価格(通常版でも定価9800円)が低額とはいえず,Cに使用するためにDを購入した者には,スタミナの消費を避けるためにダンジョンキャンセル機能を使用するインセンティブが強く働くと考えられることなどをも併せ考えれば,客観的にみて,Dの購入者のうち,例外的とはいえない範囲の者がそれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いと認められるから,本件の正犯者らの申込みに応じてそれをダウンロードにより購入させる行為は,偽計業務妨害の幇助行為に当たる。

 2 以上の原判決の認定は,論理則,経験則等に照らして不合理なところがなく,その認定した事実を前提に偽計業務妨害幇助罪が成立するとした判断も概ね相当であって,当裁判所も是認することができる。以下,所論を踏まえて,説明する。

  (1)所論は,①原判決は,人の意思に対する働き掛けがなくても,あたかも,通常,正常であるかのような外観,真実と異なる外観が作出されていれば,人の意思に働き掛ける場合と同程度に業務者の業務が妨害されるとして,偽計を用いたといえるためには,人の意思に対する働き掛けは不要であるとするが,偽計とは,人の意思に働き掛け,困惑させ,又は判断を誤らせることを意味するから,人の意思に対する働き掛けを不要とする原判決の解釈は誤りであり,また,原判決の説示からは,正常であるかのような外観等が作出されていれば,人の意思に働き掛ける場合と同程度に業務者の業務が妨害される理由が不明であり,本件の各正犯者の行為が偽計に当たるとした原判決の判断は誤りであると主張する。

    しかし,偽計の意義については,一般的に,欺罔,計略,策略等,威力以外の不正の手段であって,悪戯の程度を越えるものと解される。従来の判例上,人の意思に対する働き掛けが必要であるか否かについて明言したものはないが,大審院判例(大審院大正3年12月3日判決・刑録20輯2322頁)や下級審判例(大阪高裁昭和32年9月27日判決・刑事裁判資料148号75頁,大阪高裁昭和49年2月14日判決・刑事裁判月報6巻2号118頁等)は,人の意思に働き掛けているとはいい難い行為についても,偽計に当たるとし,さらに,最高裁判所も,通話料金課金に用いる度数計器の作動を不能にするマジックホンの使用が,偽計業務妨害罪に当たるかどうかが争われた事案について,課金業務を行う者の課金額の認識への影響について言及することなく,同罪の成立を肯定している(最高裁昭和59年4月27日決定・刑集38巻6号2584頁)。これによれば,最高裁判例は,人の意思に対して働き掛けているとはいえない行為についても,偽計に該当し得ることを否定していないと解される。これらの偽計に当たるとされた行為は,いずれも,何らかのひそかな不正の手段を用いることにより,あたかも通常あるいは正常であるかのような外観や,真実とは異なる外観を作出し,通常あるいは正常でない,真実の状態が業務者に発覚しないようにすることによって,その業務を妨害したものであるが,真実の状態が業務者に発覚しないようにすることによってその業務を妨害するという目的を達成する手段としては,人の意思に働き掛けて欺罔し,あるいは困惑させて業務を妨害した場合と異なるところはないというべきである。したがって,偽計を用いたといえるためには,人の意思に対して働き掛けることは必ずしも必要ではないと解すべきであって,これと同旨の判断の下に,本件の各正犯者の行為が偽計に当たるとした原判決の判断は相当である。

    なお,所論は,スクリプトを読み込んでDを作動させても,外観の存在しないデジタル信号が書き換えられるだけであるから,通常,正常であるかのような外観,真実と異なる外観が作出されたという原判決の認定は誤りであると主張する。しかし,原判決がいう外観とは,書き換えられたデジタル信号を指すのではなく,各正犯者が,D及びスクリプトを使用して,Bによる課金の機会を減少させる意図を有しながら,あたかも通常のゲームをするかのように装って同社のサーバにアクセスすることを指すと解されるから,所論は原判決を正解しないものである。

  (2)所論は,②原判決は,業務妨害罪が成立するためには,業務妨害の結果が現実に発生することは不要で,結果を発生させるおそれがある行為があれば足りるとした上,Bの課金の機会を減少させたことがこれに当たると判断しているが,同罪が成立するためには,業務妨害の結果が現実に発生することが必要であり,仮にそれが不要であるとしても,業務の遂行自体に支障が生じることが必要であるところ,課金の機会が減少することがあっても,それが極端に売上げに影響を与えるようなものでない限り,BがCを運営することに全く支障がなく,そもそも,魔法石の販売業務がCの運営業務とは認められないから,課金の機会を減少させたことが業務妨害のおそれに当たるとした原判決の判断は誤りであると主張する。

    しかし,業務妨害罪は,業務妨害の結果が現実に発生しなくても,業務を妨害するのに足りる行為が行われれば成立するものであり(威力業務妨害罪につき,最高裁昭和28年1月30日判決・刑集7巻1号128頁参照),所論は独自の見解であって,採用の限りではない。これを本件についてみると,Bは営利を目的とする株式会社であり,Cの運営も営利行為の一環として行われているところ,ユーザーに魔法石を購入してもらうことは,Cを運営する中で,費用をまかない,収益を上げる唯一の機会であるから,Cの運営業務と不可分の関係にあるといえるのであって,その機会を減少させることは,Cの運営の基盤に重大な影響を与えるものとして,業務妨害のおそれがある行為に当たるとした原判決の判断に誤りはない。この点に関する所論も失当である。

  (3)所論は,③原判決は,Bの課金の機会が減少したと認定しているが,C関連の売上げは,Dの販売開始後も伸び続け,その販売中止後は下がっており,Dは魔法石の売上げを向上させたといえ,また,それを利用した結果,ゲームがより魅力的になり,魔法石を購入してでもゲームを進行したいという気持ちが促進されることもあり,これは課金の機会の増加というべきであり,原判決の上記認定は誤りであると主張する。

    しかし,本件の正犯者らは,Dを使用してスタミナの消費を抑えることにより,魔法石の購入が必要になる状況をできるだけ生じないようにしたのであるから,これがBの課金の機会を減少させる行為に当たることは明らかであり,Dの販売開始後のC関連の売上げが上昇したかどうか(なお,この点は,原審記録及び原審で取り調べた証拠に現れていない事実を援用するもので,不適法な主張である。弁護人は,上記の点を立証するため,報告書(弁1)の事実取調べを請求したが,当裁判所は,刑訴法382条の2にいう「やむを得ない事由」が認められないとして,請求を却下した。)や,Dを使用してCを遊戯した者の心理がどうであったかなどは上記認定を左右するものではない。

  (4)ア 所論は,④原判決は,いわゆるWinny事件で最高裁判所が示した基準に従い,本件で認定できる諸事情から,客観的にみて,Dの購入者のうち,例外的とはいえない範囲の者がそれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いと認められるとして,本件の正犯者らの申込みに応じてそれをダウンロードにより購入させる行為は,偽計業務妨害の幇助行為に当たるとしたが,上記の事情から上記の蓋然性が高いとは認められないから,原判決は,Dの悪用の可能性とその認識だけで幇助犯の成立を認めたものであって,事実誤認及び法令適用の誤りがあると主張する。

   イ しかし,所論がいうWinny事件(最高裁平成23年12月19日決定・刑集65巻9号1380頁)は,被告人が,適法な用途にも著作権侵害の用途にも利用できるファイル共有ソフトWinnyをインターネットを通じて不特定多数の者に公開,提供し,正犯者がこれを利用して著作物の公衆送信権を侵害することを幇助したとして,著作権法違反幇助罪に問われた事案であるところ,同決定によれば,同事件の被告人は,匿名性と効率性を兼ね備えた新しいファイル共有ソフトが実際に稼働するかの技術的な検証を目的として,Winnyの開発に着手し,その最初の試用版を自己の開設したウェブサイトで公開し,利用者の意見を聴取しながらその開発を進め,その改良版を順次公開したが,公開に当たっては,ウェブサイト上に「これらのソフトにより違法なファイルをやり取りしないようお願いします。」などの注意書きを付記し,Winnyの開発宣言をしたスレッドに,これを著作権侵害のために利用しないように求める書込みをしていたというのである。これに対し,Dは,オンラインゲームにおいて不正な行為(チート行為)をするためのソフトとして開発され,Aの利益のために販売されたものであって,それ以外の適法な用途に使用することは想定されておらず,販売に当たっては,業務妨害行為をしないように警告することもされていないのである。したがって,Dは,適法な用途にも著作権侵害の用途にも利用できることから,価値中立ソフトと称されるWinnyとは同列に論じられないというべきである。この点に関し,所論は,Dも,Winnyと同様に価値中立ソフトであると主張する。しかし,上記の諸事情によれば,Winnyについては,その開発者のソフト公開の趣旨に賛同し,その技術的な検証のために利用する者もいれば,著作権侵害のために利用する者もいると考えられるのに対し,Dについては,Cをはじめとするオンラインゲームのチートツール以外に利用する者がいるとは考え難いのであって,DがWinnyと同様の価値中立ソフトといえないことは明らかである。したがって,本件においては,必ずしも原判決のように処罰範囲を限定する必要があるとは解されず,Dが不正行為に用いられることを認識,認容しながらこれを販売した以上,偽計業務妨害幇助罪の成立は妨げられないというべきである。

     もっとも,Dが適法な用途に用いられる可能性があることを重視して,原判決のように,偽計業務妨害幇助罪の成立する範囲を限定する立場に立つとしても,Aでは,Dの発売当初,Cの裏技ソフトと称して,その旨顧客に告げるなど,原判決の指摘する事情から,客観的にみて,Dの購入者のうち,例外的とはいえない範囲の者がそれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いと認められるとした原判決の認定に誤りはない。

     補足すると,Bは,Dが発売されてから2か月が経過した,平成25年10月初めの8日間,Cの不正行為の調査を行い,狙われやすい特定のダンジョンに絞ってキャンセル率の高いユーザーを調べたところ,キャンセル率が90%以上の者が130人ないし140人おり,50%以上の者は546人いたが,この頃までにダンジョンキャンセル機能を有するソフトとして知られていたものは,Dのみであり(Fの原審証言。原審記録251丁の29ないし33),他方,同月8日までのDの購入者は合計1335名であったことが認められる(原審甲157。同241丁の377)。そうすると,この時点において,Dの購入者と推定される者の約4割が,Cの特定の限られたダンジョンでダンジョンキャンセル機能を使用したことが認められるのであって,Dの購入者のうち例外的とはいえない範囲の者がこれを偽計業務妨害行為に利用する蓋然性が高いといえることは明らかである。

     この点に関し,所論は,Bは,上記の調査を行った時点において,Cのチートツールを10種類以上把握しており(Fの原審証言。原審記録251丁の46),キャンセル率が高かった者がD以外のソフトウェアを使用していた可能性があり,また,50%以上のキャンセル率というのは,通信状況が悪いため通信が切断した場合も含み得るから,上記の蓋然性が高いとはいえないと主張する。しかし,Fの原審証言によれば,上記調査の時点で,ダンジョンキャンセルができるD用のスクリプトが存在し,そのことが「G」などで話題になっており,また,Dを使用しないで同じことをしようとすれば,相当の技術が必要であるが,そのような技術をもった者はそれほどいないはずであり,さらに,50%以上のキャンセル率というのは,通信の切断ではあり得ないほど高い数字である(同251丁の31)というのであるから,所論の指摘する点は,上記認定を左右するものではない。

     したがって,本件の正犯者らの申込みに応じてDをダウンロードにより購入させる行為が,偽計業務妨害の幇助行為に当たるとした原判決の判断に誤りはない。

  (5)所論は,⑤原判決は,罪となるべき事実において,Dを,課金アイテムの消費を避けながらオンラインゲームを進行させることを可能にする機能を有するソフトウェアと認定しているが,Dは,通信データを閲覧できる機能を有するだけであり,スクリプトを用いれば通信データの書換えは可能になるが,Aは,スクリプトを販売したことも,ユーザーに直接提供したこともなく,スクリプト掲示板を管理しているが,そこには,ユーザーが提供したものも相当な割合で掲載されており,また,どのゲームにどのスクリプトを使用するかはユーザーの意思に委ねられていたから,上記認定は誤りであると主張する。

    確かに,原審証拠によれば,D自体は通信データを閲覧できる機能を有するだけであって,スクリプトを用いなければ通信データを書き換えることはできず,また,Aがスクリプトをユーザーに直接提供したことはないが,一般のユーザーのほかAの社員等が作成したスクリプトが同社の管理する掲示板に掲載され,同社においては,Dについて,スクリプトと一体としてダンジョンキャンセル機能を宣伝していたことが認められる。したがって,Dについて,スクリプトと一体のものとして,課金アイテムの消費を避けながらオンラインゲームを進行させることを可能にする機能を有するソフトウェアであるとした原判決の認定に誤りはない。

第3 不正指令電磁的記録作成罪(原判示第2)に関する事実誤認ないし法令適用の誤りの論旨について

 1 原判決は,要旨,以下のとおり説示して,不正指令電磁的記録作成罪の成立を認めた。

  (1)本件アンドロイドアナライザーの不正指令電磁的記録該当性について

    不正指令電磁的記録作成等罪における不正指令電磁的記録に該当するためには,プログラムに悪用の可能性があるというだけでは足りず,当該プログラムが実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると,客観的,一般的に想定される必要があると解される。しかし,プログラム自体からそのように想定されない場合でも,プログラム作成当時の客観的事情に照らし,その供用先としてどのような電子計算機が想定されるかを考慮して,当該プログラムが指令を与える電子計算機の使用者のうち例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態で当該プログラムを実行させられることが想定される場合には,当該プログラムは,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定されると認められ,不正指令電磁的記録に当たると解される。

    アンドロイドアナライザーは,パソコンにインストールした上で,当該パソコンに接続したアンドロイド端末にインストールすることにより,アンドロイド端末中の通話履歴等のデータをAが管理するサーバに自動で送信させ,サーバで取得,保管しているそのデータをパソコンから閲覧できるようにする機能が備わっているプログラムである。また,アンドロイドアナライザーは,発売以来バージョンアップが繰り返されたところ,本件アンドロイドアナライザーのバージョンまでは,アンドロイドアナライザーがインストールされたアンドロイド端末において,それがインストールされている旨のポップアップ通知やホーム画面等におけるアイコン表示はされなかった。そうすると,アンドロイドアナライザーは,アンドロイド端末の使用者に知られることなくインストールすることを容易にする機能は備わっていないものの,一旦インストールされれば,同端末の使用者の知らないうちにデータを送信させることを可能にするプログラムであり,アンドロイド端末の使用者の合意を得ることなくインストールして,データを送信させるために用いることも考えられるプログラムといえる。

    Aは,アンドロイドアナライザーの企画,販売に先行し,アイフォンのデータをパソコンでバックアップできるソフトウェアであるアイフォンアナライザーを販売し,匿名販促ブログにおいて,これを交際相手等の浮気調査目的のソフトウェアとして位置付けた販売促進活動も始めていたところ,アンドロイドアナライザーの企画,開発の段階における同社の社内の議論や,被告人が社員に送信したメールの内容等によれば,アンドロイドアナライザーは,アイフォンアナライザーと同様に,浮気調査に使用するソフトウェアとして企画され,開発が進められていたと認められる。そして,アンドロイドアナライザーの販売が始まると,これを浮気調査目的のソフトウェアとして紹介する匿名販促ブログを用いた販売促進活動が行われ,売上げを伸ばしていた。

    このように,アンドロイドアナライザーは,発売当初から,主に浮気調査に使用する者を顧客と見込んだ販売促進活動が続けられており,本件アンドロイドアナライザーの作成当時において,そうした販売促進活動が変更される予定があったとはうかがわれない。したがって,従来のアンドロイドアナライザーをバージョンアップさせた本件アンドロイドアナライザーは,上記販売促進活動により既にアンドロイドアナライザーを購入していた者及び同様の販売促進活動により将来これを購入する者に提供されることが客観的に想定される。なお,ここでいう浮気調査とは,Aの社内の会議資料等によれば,交際相手等の合意を得ることなく,アンドロイド端末にアンドロイドアナライザー等をインストールしてデータを取得し,浮気の有無をひそかに調査することを意味するものと認められる。

    以上によれば,本件アンドロイドアナライザーは,主に浮気調査の目的を有する者に提供されることが予定された,浮気調査に適した機能を有するプログラムであり,購入者が,第三者の合意を得ずに,当該第三者が使用するアンドロイド端末に本件アンドロイドアナライザーをインストールして,当該第三者が知らないうちに実行することが一般に想定され,それがインストールされたアンドロイド端末の使用者のうちの例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態でそれを実行させられることが想定されるから,本件アンドロイドアナライザーは,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定されると認められ,人が電子計算機を使用するに際して,その意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録に該当する。

  (2)故意及び供用目的について

    被告人は,別のソフトウェアを参考にアンドロイドアナライザーを開発するというAの社員の提案を了承して開発を進めるように指示し,実際に,そのとおりのアンドロイドアナライザーが開発されたこと,被告人はその仕様書を了承していることなどに照らせば,被告人はその機能及び仕様を認識していたと認められる。また,被告人は,Aの社員に対し,アイフォンアナライザーを浮気調査目的のソフトウェアとして紹介する匿名販促ブログの内容をほめるメールを送信するなどし,アイフォンアナライザーと同様の浮気調査の目的で,アンドロイドアナライザーを開発することを指示し,その後も,会議等の機会に,これを浮気調査で使用することを前提とした報告を受けたが,販売促進活動の方針に変更はなかった。これらの事情に照らせば,被告人は,本件アンドロイドアナライザーの作成当時,主に浮気調査に使用する者を顧客と見込んで販売促進活動をすることについても,認識,認容していたと認められる。

    そうすると,被告人には,本件アンドロイドアナライザーが不正指令電磁的記録に該当することの故意及びそれをアンドロイド端末の使用者には実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くという供用目的があったと認められる。

  (3)被告人に間接正犯が成立することについて

    被告人のAの社内における地位や,被告人が,実際にアンドロイドアナライザーの機能等を企画し,その開発を度々同社の社員に指示し,同社の社員が提案した開発方法や仕様書を了承し,販売の指示もしたこと,他方,本件アンドロイドアナライザーを作成したEは,Aの単なるアルバイトである上,販売促進活動について十分に認識してはいなかったと考えられることに照らせば,被告人が,幇助的意思を有していたにとどまるEを道具として利用して本件アンドロイドアナライザーを作成した間接正犯としての刑事責任を負うことは明らかである。

 2 以上の原判決の認定は,論理則,経験則等に照らして不合理なところがなく,その認定した事実を前提に不正指令電磁的記録作成罪が成立するとした判断も相当であって,当裁判所も是認することができる。以下,所論を踏まえて,補足して説明する。

  (1)所論は,①不正指令電磁的記録作成等罪にいう,人の意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録とは,一般人が知らないうちにインストールして動作するような機能を有するソフトウェア,当該機能の存在を秘匿しているため,一般人であれば当該機能が含まれることを知らずに動作させてしまうようなソフトウェア,意図に反して実行すること以外の用途が想定されないソフトウェアに限られると解すべきところ,原判決は,前記のとおり,例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態で当該プログラムを実行させられることが想定される場合には,不正指令電磁的記録に該当すると説示するが,この基準では,大多数の者にとって,実行する意思の下に当該プログラムが実行される場合でも不正指令電磁的記録に当たってしまい,処罰の範囲が広きに失するのであって,上記基準により不正指令電磁的記録作成罪の成立を認めた原判決には,法令の解釈,適用に誤りがあると主張する。

    しかし,不正指令電磁的記録作成等罪の構成要件の文言に照らして,法が,所論がいうような場合に不正指令電磁的記録の範囲を限定しているとは解されない。原判決は,不正指令電磁的記録に当たるといえるためには,プログラムに悪用の可能性があるというだけでは足りず,当該プログラムが,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定される必要があると説示して,前記のとおり,不正指令電磁的記録に該当する場合を限定する解釈を採っているところ,このような解釈は,電子計算機のプログラムが,電子計算機に対し,その使用者の意図に沿うべき動作をせず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与えるものではないという,社会一般の信頼を保護しようという同罪の立法趣旨に照らして,相当である。所論は独自の見解であって,採用できない。

  (2)ア 所論は,②原判決は,アンドロイドアナライザーが,その機能及び仕様から,アンドロイド端末の使用者の合意を得ることなくデータを送信させるために用いられるプログラムといえるとし,また,アンドロイドアナライザーの販売状況から,アンドロイド端末の使用者の合意を得ないで利用する者を顧客としているとした上,本件アンドロイドアナライザーがインストールされたアンドロイド端末の使用者のうちの例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない上でそれが実行させられることが想定されると認定しているが,アンドロイドアナライザーの利用実態に関する客観的な証拠もなしに上記の認定はできないと主張する。

   イ しかし,原判決の上記認定は,論理則,経験則に照らして不合理なところがなく,当裁判所も是認することができる。

     補足すると,原審証拠によれば,アンドロイドアナライザーのリリースメールには,「【Android端末の内部データ・位置情報をPC側で“秘密裡”に監視できるツール】というわけです」という文言があり(原審甲298。原審記録250丁の225),これに対して,ユーザーから,「アプリ非表示にした場合,使用者にはバレないですか?」(原審甲299。同250丁の229),「秘密裏にとありますが 相手に気付かれづにアプリ?をダウンロードさせることが出来るという事ですか?第三者の承諾を得るのなら あまり意味がないとおもえるのですが」(同250丁の230)というメールが寄せられている。また,アンドロイドアナライザーの販売担当であったHは,アンドロイドアナライザー使用のポップアップ画面が表示されることについて,「1日1回ポップアップ画面の表示となると,商品自体の方向性が変わってしまい,実装するとなると,売上げがかなり低下してしまう可能性があります。また,現在のユーザー様からの返金要望も発生するかと思います」というメールを上司であるIに送っている(原審甲342。原審記録249丁の257)。これらの事実によれば,アンドロイドアナライザーが浮気調査を主たる目的とするアプリとして販売することが想定されており,A社内において,アンドロイド端末の使用者の合意を得ずにインストールすることを予定してアンドロイドアナライザーを購入する者が相当数いることを想定していたことは明らかである。

     所論は,Aは,ホームページ等において,第三者の同意を得ずにアンドロイドアナライザーをインストールすることを禁じるなどしており,同社において「浮気調査目的」での販売促進活動を行ったとしても,そこでいう「浮気調査」とは,第三者の同意を得て行うものであると主張する。しかし,第三者の同意を得て行う浮気調査におよそ実効性がないことは,上記のユーザーからのメールに照らして明らかであって,Aが上記のように,第三者の同意を得ずにインストールを行うことを禁じる文言を掲載したからといって,これに従わないユーザーが少なからずいるであろうことは,容易に推測し得ることである。被告人らAの関係者も,このような認識を有していたことは,上記のメールのやり取りに照らしても明らかである。

     所論は採用できない。

  (3)所論は,③Eは,自らの裁量で業務に従事していたから,間接正犯の道具とはいえず,仮に間接正犯の道具といえるとしても,Eに指示を与えていたのは,周游であるから,被告人に不正指令電磁的記録作成罪の間接正犯は成立しないと主張する。

    しかし,Eが自らの裁量で業務に従事していたかどうかは,被告人に間接正犯が成立するかどうかに直接影響を与えるものではなく,Eに直接指示を与えていたのがJであったとしても,その指示はAの代表取締役である被告人の指示に基づくものといえるから,被告人に本件不正指令電磁的記録作成罪の間接正犯が成立するとした原判決の判断に誤りはない。

    補足すると,Eの検察官調書抄本(原審甲388。原審記録246丁の140)によれば,同人は,アルバイトとしてAに雇われ,同社のプログラマー部門のリーダーであったJの指示でアンドロイドアナライザーの開発に当たっていたこと,アンドロイドアナライザーに実装する機能や,プログラムの不具合の修正等については,いずれもJや同社のマーケティング担当者から指示されていたこと,Jから,アンドロイドアナライザーの開発を指示された際,アイフォンアナライザーのアンドロイド版を作ってもらいたいと言われたが,その時点で,アイフォンアナライザーが商品としてどのように宣伝されているのかを知らず,アンドロイドアナライザーの仕様書をJから見せられたかどうかの記憶もあいまいであること,本件アンドロイドアナライザーを作成した後のバージョンアップの際,マーケティング担当者から,アンドロイド端末にアンドロイドアナライザーのアイコンが表示される機能を実装するようにとの依頼があったが,弁護士に言われて仕方なくやるという雰囲気を強く感じたこと,アンドロイドアナライザーが,アンドロイド端末の使用者の同意を得ないでインストールし,浮気の証拠をつかむためのソフトとして売られていることを薄々感じていたので,マーケティング担当者らは,インストールしていることがばれるような機能を付けたくないのだろうと思ったことが認められる。このように,Eは,Aの業務の一環として,従属的な立場で本件アンドロイドアナライザーの作成に関与したにすぎない上,これが人の意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録に該当するという認識も希薄であり,その作成を自己の犯罪として行う意思があったとまでは認め難い。そうすると,Eが幇助の意思をもっていたとしても,同人を道具として,被告人に間接正犯が成立することは妨げられず,このことを認めた原判決の判断に誤りはない。

第4 公訴を不法に受理したとの論旨について

 1 偽計業務妨害幇助の公訴事実について

   所論は,本件偽計業務妨害幇助の公訴事実は,正犯者がいかなるスクリプトを使用したのか,また,何をもって幇助行為に当たるというのかが明示されておらず,訴因が特定されていないと主張する。

   しかし,本件偽計業務妨害幇助の訴因における罪となるべき事実は,各正犯者の偽計業務妨害行為について,日時及び場所のほか,パソコンを操作してDを作動させるなどしてCを遊戯し,Cにおける課金の機会を減少させたという方法を明示しており,これにより,他の犯罪事実との識別は可能であり,また,偽計業務妨害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているといえるから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。所論は,スクリプトを特定しなければ,他の犯罪事実と識別できないと主張するが,スクリプトを特定しなくても,上記のとおり他の犯罪事実との識別は可能である上,同一の機会にDを作動させてCを遊戯した場合,複数のスクリプトを使用したとしても一罪の関係になると解されることに照らしても,使用されたスクリプトを特定する必要はないと解すべきである。

   また,本件偽計業務妨害幇助の訴因における罪となるべき事実は,各正犯者にDをダウンロードにより購入させたことが幇助行為に当たるとするものであるところ,被告人が,Aの代表取締役として,その業務全般を統括していたこと,及び,同社がDを開発,販売していたことが明示されているから,結局,検察官は,Dのダウンロードによる販売が,Aの業務全般を統括する被告人の指示ないし承認に基づくものであり,この指示ないし承認により,被告人が各正犯者にDをダウンロードして購入させたことになることを主張していると解されるから,幇助行為についての特定に欠けるところはないというべきである。

   したがって,本件偽計業務妨害幇助の訴因について有罪を言い渡した原審の訴訟手続に,公訴を不法に受理した違法はない。

 2 不正指令電磁的記録作成の公訴事実について

   所論は,不正指令電磁的記録作成の公訴事実は,被告人が正犯となる根拠を明らかにしていない上,間接正犯として起訴したと善解しても,作成行為を直接行った者が「Eら」とされていて,訴因が特定されていないと主張する。

   しかし,本件不正指令電磁的記録作成の公訴事実は,「被告人は,Eらをして本件アンドロイドアナライザーを作成させ,もって,不正な指令を与える電磁的記録を作成した」というものであるから,被告人は,Eを道具とする間接正犯として起訴されていることが文理上明らかである。さらに,作成行為の年月日,場所及び方法は,訴因において明示されており,これにより他の犯罪事実と識別することが可能であり,また,作成行為を直接行った者がE以外にいたとしても,現に明示されている訴因と同一性を欠く他の訴因を構成するわけではないから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。

   したがって,本件不正指令電磁的記録作成の訴因について有罪を言い渡した原審の訴訟手続に,公訴を不法に受理した違法はない。

第5 理由不備ないし理由そごの論旨について

   刑訴法378条4号にいう理由不備とは,同法44条1項,335条1項により要求される判決理由が全く欠けている場合か,その重要な部分が欠けている場合をいい,理由そごとは,主文と理由との間又は理由相互間において食い違いがある場合であって,その食い違いが重要なときをいうと解される。したがって,原判決が,使用されたスクリプトの特定をしないで偽計業務妨害幇助罪の成立を認めたことは,何ら理由そごに当たらない。また,原判決は,罪となるべき事実において,「不正行為に気付いたB社員らに不正行為に対する調査及びその対策としての環境構築の実施を余儀なくさせるなどした」という点を除き,本件訴因における罪となるべき事実と同様の事実を記載しており,判決の罪となるべき事実としても,その特定に欠けるところはないから,理由不備にも当たらない。

第6 訴訟手続の法令違反の論旨について

 1 所論は,①Kの原審証言は,伝聞証言や単なる意見にすぎないから,証拠能力を欠き,②(ア)原審第9回公判で採用されたAの社内で受送信したメールデータを印刷した資料,(イ)事業発展計画書を複写した資料(原審甲139の添付資料)及び(ウ)リーダー会議のデータを印刷した資料(同343の添付資料)は,オリジナルのデータとの同一性が認められず,また,非供述証拠として採用しても,事実上の心証形成に用いることは,刑訴法320条1項に反するから,いずれも証拠から排除すべきであると主張する。

 2(1)①のうち,伝聞証言の点については,確かに,Kの原審証言には,伝聞証言にわたる部分が散見されるが,原審弁護人は,同証人の尋問終了時までに異議又は証拠排除の申立てをしていないから,その終了後になってその排除を申し立てることはできないというべきである。所論は,伝聞証言に関し,原審弁護人は尋問の際に再三異議を申し立てたと主張するが,原審弁護人がKの証人尋問において異議を申し立てたのは,次の意見の点に関して証拠排除を求めた場面(原審記録251丁の210)以外は,証人に対する文書の展示が誘導になっていると異議を2回申し立てた箇所だけである(同251丁の201及び206)。

    次に,意見の点については,Kは,原審公判において,アンドロイドOSに無料で付加されたデバイスマネージャーという機能により,紛失したスマホの現在位置を表示したり,そこに蔵置されているデータをロックすることなどができること,L社が提供しているLドライブというサービスを利用すれば,データをクラウド上に保管できるので,端末を紛失してもデータを再び利用することができること,これらの機能やサービスは,アンドロイドアナライザーが発売された当時既に提供されていたことを証言した後,アンドロイドアナライザーは,スマホの盗難,紛失の対策のために必要と思うかという質問に対して,必要ないと思うと答えており(原審記録251丁の208ないし210),所論はこの答を問題としている。これらの機能等が,Kがアンドロイド端末を操作するなど直接体験して知り得た事実であるのか,それともそのような体験を伴わず,単に資料等を閲読して知り得た事実であるかは,Kの原審証言からは不明というほかないが,後者であるとすれば,Kの上記証言は単なる意見であって,証拠にならないことになる。しかし,一般人であれば,スマホの盗難対策等のためにアンドロイドアナライザーが必要であると思わないということは,必ずしもKの上記証言によらなければ認定できないものではなく,経験則に従って判断されるべきことがらであるといえる。したがって,原裁判所が上記証言を排除しなかった措置に,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法があるとはいえない。

  (2)②のうち,(ア)については,Mの原審証言によれば,クラウド上で保存されているAの社員間の全メールデータをアーカイブファイルにまとめ,これを同社で使用されているパソコンにダウンロードし,そのファイルをブルーレイディスクにコピーして,その任意提出を受け,そのデータを外付けハードディスクドライブにコピーし,これに捜査で使用されているパソコンを接続してデータの閲覧,印刷を行っていたこと,(イ)については,Nの原審証言によれば,Aの事務所を捜索した際に差し押さえた資料をコピーしたものであること,(ウ)については,Oの原審証言によれば,Aの事務所を捜索した際に差し押さえたHが使用していたパソコンのハードディスクドライブのデータを別のハードディスクドライブにコピーし,これをパソコンにつないで解析し,そのデータの中にあったファイルを印刷したものであることがそれぞれ認められ,元のデータとの同一性に疑問を生じさせるような事情はうかがえない。原裁判所は,これらの証拠を非供述証拠として採用し,取り調べているが,ここでいう非供述証拠とは,その内容の真実性を立証する証拠ではないことを意味するから,原裁判所の上記措置が刑訴法320条1項に違反しないことは明らかである。

第7 法令適用の誤りの論旨について

   原審記録によれば,被告人に対する不正競争防止法違反被告事件(以下「別件」という。)は,本件の原審の弁論が終結した平成31年2月4日の時点において,最高裁判所に係属しており,第1審である京都地方裁判所が言い渡した懲役2年及び罰金200万円,4年間懲役刑の執行猶予の判決(253丁の139)が確定していないことが認められ,別件の罪と本件の各罪は刑法45条前段の併合罪の関係にある。しかし,この併合罪の関係にある各罪について,同法46条及び47条に従い1個の刑が言い渡されるのは,それらが併合して審理され,判決が言い渡される場合に限られるのであって,別個に審理されている場合には,その余地はない。法が,同法45条前段の併合罪の関係にある各罪について2個以上の裁判があることを予定していることは,同法51条の規定からも明らかである。所論は,同法47条が適用されるのが併合されて審理されている場合に限られるとすると,捜査機関が恣意的に捜査を遅らせることにより被告人が不利な取扱いを受けると主張するが,捜査機関が本件の捜査を恣意的に遅らせたという事情は,原審証拠からは全くうかがえず,所論は前提を欠く。

第8 量刑不当の論旨について

   所論は,本件が別件と同時に審理された場合よりも被告人に不利にならないようにするため,本件の量刑に際して別件の存在を考慮すべきであると主張する。しかし,確定していない別件の裁判の結果を考慮することは不可能であり,所論は失当である。

第9 結語

   よって,論旨はいずれも理由がないから,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

  令和元年12月17日

    東京高等裁判所第10刑事部

        裁判長裁判官  朝山芳史

           裁判官  阿部浩巳

           裁判官  高森宣裕

 

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