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カテゴリ:憲法 > 少年法


道路交通法違反,自動車運転過失致死傷被告事件
【事件番号】大阪高等裁判所判決/平成25年(う)第486号
【判決日付】平成25年9月30日
【判示事項】登校中の小学生ら10人を無免許の車で撥ねて死傷させた道交法違反と自動車運転過失致死傷被告事件について,懲役5年以上8年以下に処した一審判決に対し,双方から控訴した事案。裁判所は,少年法55条にいう保護処分相当性の判断は,保護不能にも保護不適にも当たらない場合に認められるが,本件は保護不適に当たることは明らかであるとした上で,被告人は3回に渡り無免許運転し,その常習性や交通法規無視の姿勢は顕著で,一般的な不注意とは質が異なり,その結果は極めて重大であるとして,被告人の酌むべき事情を考慮しても原判決は,軽きに失するとして,原判決を破棄し,懲役5年以上9年以下に処した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役5年以上9年以下に処する。
 原審における未決勾留日数中150日をその刑に算入する。

       理   由

 検察官の控訴趣意は,検察官中田和範作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は主任弁護人服部達夫及び弁護人小嶋敦連名作成の答弁書に,弁護人の控訴趣意は,上記弁護人ら連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書の訂正申立書に,これに対する答弁は検察官宮本健志作成の答弁書(第1回公判期日における訂正後のもの)にそれぞれ記載のとおりである。
 1 弁護人の少年法55条に関する法令適用の誤りないし量刑不当の主張について
 論旨は,要するに,原審は,いわゆる保護不能の場合だけでなく,いわゆる保護不適の場合にも少年に刑事処分を科することができると解して,少年法55条により本件を家庭裁判所に移送することなく,被告人を懲役5年以上8年以下に処するとの判決を言い渡しているが,少年法は,保護不能の場合に限って刑事処分を科することを許容していると解すべきところ,本件が保護不能の場合に当たらないことは明らかであるし,仮に保護不適の場合にも刑事処分を科することが許されると解するとしても,本件は保護不適の場合にも当たらないのであり,いずれにしても,本件を京都家庭裁判所に移送すべきであるから,原判決にはこの点において法令適用の誤りないし量刑不当がある,旨いうのである。
 そこで検討するに,少年法55条にいう保護処分相当性の判断は,検察官送致決定に関する同法20条にいう刑事処分相当性の判断と表裏の関係にあると解されるが,同条1項が「その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは」と規定していることなどからみると,保護処分によってはもはや少年の矯正の見込みがない保護不能の場合のほか,保護処分による矯正が不可能とはいえないものの,事案の内容や社会に与える影響等の事情から保護処分に付するのが相当でない保護不適の場合にも,少年に対して刑事処分を科することができると解するのが相当である(換言すれば,これら保護不能にも保護不適にも当たらない場合に,同法55条にいう保護処分相当性が認められることになる)。
 そして,後述する諸事情に照らせば,本件は,少年である被告人を保護処分に付するのが相当でない保護不適の場合に当たることも明らかである。
 そうすると,原審が本件を家庭裁判所に移送しなかったことをもって,原判決に法令適用の誤りがあるとも量刑が不当であるともいえない。
 論旨は理由がない。
 2 検察官及び弁護人の量刑不当の各主張について
 (1) 検察官の論旨は,要するに,被告人を懲役5年以上8年以下に処した原判決の量刑は,その長期の点において軽過ぎて不当であって,被告人を懲役5年以上10年以下に処するべきである,というのであり,弁護人の論旨は,要するに,原判決の上記量刑は,その長期及び短期のいずれの点においても重過ぎて不当であって,被告人を懲役3年以上6年以下に処する程度にとどめるべきである,というのである。
 (2) そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
 本件は,被告人が,大別すると3回にわたって普通乗用自動車を無免許運転し(原判示第1の1ないし3),うち1回はその運転中に居眠りして,集団登校のため道路右側路側帯内側を歩行中の小学生の列に後方から突っ込み,保護者1名を含む3名を死亡させるとともに,7名に傷害を負わせた(同第2),という事案である。
 被告人は,平成22年4月及び6月に道路交通法違反(暴走族仲間との共同危険行為,その際等の原動機付自転車の無免許運転)の非行に及んだことから,観護措置及び在宅試験観察を経た上で,平成23年1月に保護観察(交通一般:一般保護観察に準ずる処遇勧告あり)に付されたのにもかかわらず,その保護観察期間中に自動車の無免許運転をも始め,平成24年2月に保護観察が解除された前後ころからは自動車の無免許運転を繰り返すようになり,原判示第1の各無免許運転に至ったのであって,被告人の無免許運転の常習性や交通法規無視の姿勢は顕著であり,それ自体厳しい非難を免れない。しかも,被告人は,無免許運転を繰り返した挙げ句,原判示第2の交通事故(以下「本件事故」ともいう)を惹起しているが,その事故原因は,連日あまり眠らずにかつての暴走族仲間ら(そうでない者を含む。以下同じ)と遊び続けて疲れ果て,ついには居眠り運転をしたということにあって,およそ自動車を運転する資格のない者が自動車を運転すべきでない状態で運転したことにあるというほかなく,過失の態様は一般の自動車運転者にも起こりうる一時的な不注意とは全く異質なものであり,その程度は非常に高い。これによって生じた結果は,極めて重大であって,死亡した3名(胎児を含めると4名)の被害者は,その命とともに長い将来や夢・希望の全てを奪われ,負傷した7名の被害者は,身体だけでなく心にも深い傷を負い,後遺症等がこれからの人生に悪影響を及ぼすことも懸念される状態にある。死亡した被害者ら,負傷した被害者らそれぞれに,また,その親族らを含めて,実に多くの人々の人生が被告人の無謀な行為により暗転しており,死亡した被害者らの遺族の悲しみは深く,怒りは強いし,負傷した被害者らやその親族の苦しみや心配も大きい。このような悲惨な結果を受け,被害者参加人らが厳罰を求めるのも,その心情として至極当然といえるが,その結果発生の原因が上記のとおり被告人の無軌道さに由来することは,やりきれない思いを一層強くするものと推察される。また,本件事故は,全く落ち度のない無防備な多くの小学生等が悲惨な被害に遭った事故として,社会の関心を集めており,本件は社会的影響が大きい事件として,一般予防の見地からの考慮も欠かせない。以上を併せ考えると,犯情は非常に悪く,被告人の刑責は誠に重大といわざるを得ない。
 他方,被告人が,各事実を認めるとともに,事故を起こしてしまったことをそれなりに反省・後悔し,これまでの自堕落な生活態度をも省みていること,被告人なりに死亡した被害者らの冥福を祈り,また,遺族や負傷した被害者らに対して謝罪の態度を示していること,被告人の父親が加入していた対人無制限の任意保険が本件事故にも適用のあることが判明し,民事的な損害賠償については相応のものがなされるものと見込まれること,被告人は本件各犯行当時18歳の少年であって,これまでに上記の保護処分歴はあるものの,少年院に送致されあるいは受刑したことはないことなどの事情も認められ,これらは被告人のために酌むべき事情に当たるが,その各事情の内容に鑑み,また,前述した本件各犯行に至る経緯や各犯行の態様,結果等に照らすと,その酌むべき度合いは自ずと限られるというべきである。
 (3) ところで,原判示第1の3の無免許運転については,その時間,距離,態様等,特にそれが本件事故を伴うものであることからすると,その犯情は同種事犯の中で最も悪質なものというべきであり,また,原判示第2の自動車運転過失致死傷については,その過失の態様,程度,結果の重大性等からすると,その犯情は同様に最も悪質なものというべきであるが,この2つの罪のみが併合罪を構成する場合の処断刑(いずれも懲役刑を選択)の上限は,懲役8年にとどまるところ,原判示第1の1及び2の各無免許運転が併せて起訴されていることから,本件の処断刑(前同)の上限が懲役10年になっていることが明らかである。
 そうすると,被告人に対する本件量刑は,もとより併合罪の構成単位である各罪について個別的に量刑判断を行った上で,これを合算するような方法でなすべきものではなく,処断刑の範囲内で各罪全体に対する刑を決する方法でなすべきものである(最高裁第一小法廷平成15年7月10日判決参照)が,それを判断する上では,原判示第1の1及び2の各罪の犯情をも十分に考慮する必要がある。
 原判決は,この点,「(原)判示第1の1及び2の各無免許運転は,本件事故を引き起こした居眠り運転の原因である(原)判示第1の3の無免許運転と同様に被告人の常習的な無免許運転の一環としての行為で,かつ,そのような交通法規無視の態度がひいては本件事故を招いたという意味においては本件事故と無関係であるとはいえないものの,そもそも本件事故の6日前及び12日前に犯された別個の無免許運転であり,本件事故の過失の内容である居眠り運転との因果関係は全くない」と説示している。なるほど,原判示第1の1及び2の各無免許運転が本件事故の過失の内容である居眠り運転と因果関係を有しないことは上記説示のとおりである。しかしながら,被告人は,これまで運転免許を一度も取得したことがないにもかかわらず,無免許運転を繰り返していただけでなく,原判示第1の1及び2の各無免許運転は,被告人がかつての暴走族仲間らと夜どおし遊び回る中で犯したものであって(特に同第1の1に際しては,眠たかったが運転すれば目が覚めると思って運転したというのである),それらの各無免許運転に至る経緯や動機に全く酌むべき点はなく,その態様等からはいずれ何らかの事故を惹起しかねない危険性がうかがわれ,原判示第1の3の無免許運転時における本件事故は,そのような危険性が最も不幸な形で現実のものとなったと考えられるのであるから,原判示第1の1及び2の各罪の犯情は同第1の3の罪の犯情ほど悪質ではないにしても,相当に悪いというべきである。
 (4) 以上によれば,被告人に対する本件量刑は,処断刑期及び少年法上の不定期刑に係る制約の上限に近い辺りをもって臨むのが相当であって,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは到底いえないし,原判決が不定期刑の長期を懲役8年としたのも,被告人のために酌むべき事情をやや過大に評価する一方,原判示第1の1及び2の各罪の犯情の悪さをやや過小に評価したものとして,軽きに失するというべきであるから,原判決は破棄を免れないが,検察官のいうように不定期刑の長期を処断刑の上限の懲役10年とすることについても,処断刑の上記上限を導き出した併合罪を構成する各罪の各犯情を念頭に置いた上で,それらを全体として評価しても,なおそれが相当であるとまではいえない。
 弁護人の論旨は理由がなく,検察官の論旨は上記の限度で理由がある。
 3 破棄自判
 よって,刑訴法397条1項,381条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に次のとおり判決する。
 原判決が認定した罪となるべき事実(ただし,「被告人は,」の後に「少年であるが,」を付加する)に原判決が挙示する法令を適用し(科刑上1罪の処理,刑種の選択及び併合罪の処理を含む),その処断刑期の範囲内で,少年法52条1項,2項により,被告人を懲役5年以上9年以下に処し,原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を,原審及び当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(原審における検察官の科刑意見 懲役5年以上10年以下)
  平成25年9月30日
    大阪高等裁判所第6刑事部
        裁判長裁判官  森岡安廣
           裁判官  向野 剛
           裁判官  田中幸大

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朝山芳史裁判長名決定 少年院送致について破棄 東京高裁令和2年

第1種少年院送致決定に対する抗告申立事件

東京高等裁判所決定/令和2年(く)第180号

令和2年4月2日

【参照条文】       少年法32

             少年法33-2

【掲載誌】        判例時報2468・2469合併号167頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       家庭の法と裁判30号113頁

 

       主   文

 

 原決定を取り消す。

 本件を水戸家庭裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 1 本件抗告の趣意は,要するに,少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は,非行事実及び要保護性を評価する前提事実を正しくとらえておらず,著しく不当であるというのである。

 2(1)本件は,少年が,当時の交際相手である被害者(当時22歳)方居室において,同人に対し,「俺がお前をぶっ殺すぞ」と言って,持っていた包丁(刃体の長さ約15.7cm)を示して脅迫したという事案である。

  (2)原決定は,要旨,以下のとおり説示して,少年を第1種少年院に送致する決定をした。

    すなわち,少年は,被害者に高価なプレゼントを贈ったものの,同人から思うような反応を得られなかったことに不満を感じ,同人と口論になり,同人から「死ね」と言われたことに逆上して,本件非行に及んだ。被害者から「死ね」と言われて憤りを感じることは理解できなくはないが,これに対して,凶器を示して脅迫することは正当化されない。動機や経緯に酌量の余地があるとはいえず,上記非行態様に照らして,被害者が強い恐怖を感じたことも想像に難くない。そうすると,被害者との間で合計20万円を支払うことなどを内容とする示談が成立していることを考慮しても,本件非行は相応に悪質なものである。

    少年は,平成26年(中学1年)頃から,同級生らから疎外されて不良傾向を有する友人との付き合いを深め,中学2年頃からは,上記友人との夜遊びが増え,このような交友の中で,少年は,平成28年の夏頃から万引きや原動機付自転車の無免許運転をするようになり,平成29年△月に中学校を卒業した頃に,左腕に刺青を入れた。少年は,平成28年△月頃から平成29年△月頃にかけて,単独又は友人と共謀して万引きをしたり,バイクを窃取したりし,平成30年△月に窃盗により短期保護観察に付された。少年は,同年△月頃まで万引きを繰り返し,平成31年△月には,窃盗により不処分となっている。

    少年は,令和元年△月頃に被害者と知り合い,同年△月頃から交際を始めたが,同年△月頃からは,被害者とSNS上で口論するようになり,同年△月に被害者と対面で口論した際には,同人を引き留めようとしてとっさに腕を強く引っ張るなどし,同年△月には,被害者の首を絞めるなどの暴行を加え,同月×日に本件非行に及んだ。

    以上によれば,少年の非行性は,中学生の頃に芽生え,異種前歴であるが,短期保護観察に付され,公的指導を受けたにもかかわらず,非行性が十分改善されないまま,非行の範囲が暴力的な行動にまで広がり,本件非行に至った。少年の要保護性は相当に高い。

    鑑別結果通知書や家庭裁判所調査官の調査によれば,少年の問題点として,①知的能力の制約等から,社会的視野が狭く,他者の視点の取入れが不足しており,自己都合や安易な希望に沿った考え方に傾斜しやすい,②相手の心情に配慮して行動する力が養われておらず,親友,恋人,家族等の親密な関係にある者に対しては,自分の欲求や要求を押し付けようとし,独り善がりな自己正当化によって,それを受け入れてもらうことを当然視しやすい,③些紬なことで被害感を抱きやすく,一方的に相手を攻撃して解決を図ろうとする,などの点が指摘できる。

    少年は,被害者の心情等を一切考慮することなく,自身が望む反応を得られなかったことに一方的に憤りを感じ,安易に刃物を持ち出して本件非行に及んだものであり,少年の性格,行動傾向上の問題点が現実化したといえる。少年は,自身の悪かった点を認め,反省の弁を述べているが,一連の法的措置を経ても,性格,行動傾向上の問題点についての内省が十分深まっているとはいい難い。この点からも,少年の要保護性は高い。

    少年と同居する実母は,物質面について少年を監護していたものの,しつけや情緒的な関わりはしてこなかった。実母の本件への受け止めは軽く,調査や審判を経ても上記のような少年の問題点を認識できず,その問題点を踏まえた少年への指導,監護の方針について,思いが至っているとはいい難い。現時点で,家庭に少年の問題点を踏まえた適切な指導を期待することはできず,他に少年にみるべき外的資源はない。

    少年には,被害者との交際開始前に特段の粗暴癖はうかがえないが,上記のとおりの性格,行動傾向上の問題点について,少年の内省が十分深まっているとはいい難いこと,この点の改善について家庭の監護力に期待できず,他にみるべき外的資源がないことからすると,少年をこのまま社会内で処遇すれば,再び対人関係で葛藤や強いストレスを感じた際等に再非行に及ぶ危険性が高い。そこで,少年を第1種少年院に送致し,強固な枠組みの中で集団生活を営ませ,適切な対人関係を構築する能力や,感情や行動の統制力を涵養し,健全な方法により葛藤やストレスを解消し得る能力を身に付けさせる必要がある。

 3 以上の原決定の説示のうち,本件非行に至る経緯,「死ね」と言われたことに対して,凶器を示して脅迫することが正当化されないこと,被害者が強い恐怖を感じたこと,少年の生育歴及び非行歴,被害者との交際の経緯,鑑別結果報告書及び家庭裁判所調査官の調査において,上記のとおりの問題点が指摘されていることについては,概ね相当であるが,本件非行及び少年の要保護性に関する評価,並びに少年を第1種少年院送致とした結論については是認することができない。以下,その理由を説明する。

  (1)本件非行は,少年が,被害者に高価なプレゼントを贈ったものの,同人から思うような反応を得られなかったことに不満を感じて口論になり,同人から「死ね」と言われたことに逆上して,同人に包丁を示し,「俺がお前をぶっ殺すぞ」と言って脅迫したという点において,相応に悪質であるという原決定の評価は,誤りであるとはいえない。

    しかしながら,その経緯を子細に見れば,その「動機や経緯に酌量の余地があるとはいえない」と断じ得るかは疑問である。すなわち,記録によれば,少年は,被害者と交際を始めて以来,被害者と喧嘩をしては別れ,また交際を復活するということを繰り返していたことが認められ,両者が些細なことから衝突し,意思疎通が不十分な状態で,感情的に対立しがちであったことは,被害者及び少年の各供述のほか,本件当日までの両者のLINEのメッセージや,Twitterのダイレクトメッセージのやり取りからもうかがえる。少年は,本件の数日前,被害者との交際を復活させ,本件当日に会うことになり,仕事を終えた後,少年にとっては高価なプレゼントを買い,相当の時間を費やして被害者方に向かっている。他方,被害者は,本件当日は気分がすぐれず,少年が来る前も,LINEのメッセージで少年とぎくしゃくした様子のやり取りをし,来るのが遅いことや,それに対する少年の応答に憤りを示すなどしており,少年がこれに謝罪する様子もうかがえる。少年は,被害者方で,被害者にプレゼントを渡したが,被害者がそっけない態度であり,少年の思っていたのとは違っていたことから,立腹して,被害者を無視するような態度をとった。このため,被害者が怒って口論になった。少年は,被害者が,喧嘩になると人の話を聞かず,一方的に文句を言ってくると考え,このまま文句を言われ続けるのを嫌って,一旦被害者の家を出た。頃合いをみて,被害者に電話をしたところ,「私が具合が悪いのに,家に一人にするんだ」などと言われ,被害者方に戻った。少年は,仲直りをしようと話しかけたが,被害者が少年を無視し,話をしてくれなかったので,何度か話しかけたところ,被害者が「具合が悪いから」と言うので,少年が「無視すんなよ」と怒鳴ると,被害者が何度も「死ね」と言ってきた。このため,少年は,立腹し,被害者の「死ね」という言葉につられて,「俺がお前をぶっ殺すぞ」と言ったが,本気で殺そうとしたり,傷付けたりするつもりはなく,被害者を黙らせたいという思いであった。被害者を静かにさせるために暴力を振るうのはよくないと思い,脅そうと思って包丁を使った。以上のような経緯が認められる。

    以上の事実を踏まえて検討すると,本件は,少年が被害者との交際の復活を喜び,無理をしてプレゼントを準備してきたのに対し,被害者が,体調が悪かったとはいえ,良い反応を示さなかったことから,被害者の体調不良等に思い至らなかった少年が,このような被害者の対応に不満を募らせた結果,これまで両者の間で繰り返されてきたのと同様のいさかいを生じ,両者が相互に感情を高ぶらせ,被害者が何度も「死ね」という言葉を発したことに少年が逆上して本件に及んだとみることができる。以上の経緯をみると,少年より4歳年上の成人である被害者の対応にも問題点が少なからずあるのであって,本件の動機や経緯に酌量の余地がないとはいえない。

  (2)本件の態様をみると,少年と被害者の距離は,少なくとも1mは開いており,被害者が静かになったと考えた少年は,包丁を元の位置に戻していることなどに照らすと,少年は,被害者を黙らせる手段として包丁を持ち出したが,被害者を傷付けるつもりまではなかったことが認められる。確かに,女性と2人だけの部屋で,被害者に包丁を示し,「ぶっ殺すぞ」などという言葉を発することは,被害者に多大な恐怖や生命の危険を感じさせる行為であって,軽視できるものではないが,上記の経緯をみても,本件が,少年と被害者とのやり取りの中で,衝動的に行われたものであることは明らかである上,少年が包丁を持ち出した意図が上記のようなものであったことを踏まえると,本件非行の態様が極めて悪質なものであるとはいえない。

  (3)少年の要保護性に関し,原決定は,少年が「短期保護観察に付され,公的指導を受けたにもかかわらず,非行性が十分に改善されないまま,非行の範囲が暴力的な行動にまで広がり,本件非行に至った」と説示している。

    しかしながら,前件非行は平成30年△月にした窃盗(万引き)であり,同年△月以降に少年が窃盗に及んだとは認められず,その際の家庭裁判所調査官の調査においては,少年が○○会社(現在の職場)に就労したことにより,健全な生活志向が確立されつつあることなどが指摘され,これを受けて,平成31年△に不処分決定がされたことがうかがえる。したがって,非行性が十分に改善されないまま,非行の範囲が暴力的な行動にまで広がったとする上記説示は,いささか適切さを欠く。すなわち,少年は,再度異種の非行を行ったとはいえるものの,窃盗の非行傾向が改善されていないとはいえないから,非行の範囲が広がり,それが要保護性を高めるとの原決定の説示は相当ではない。

    また,非行の範囲が暴力的な行動にまで広がったという原決定の説示も十分な根拠に基づくとはいえない。確かに,本件は粗暴な非行ではあるが,その経緯や動機には上記のような点が指摘できる上,被害者との交際開始前に少年に特段粗暴癖がうかがえないことは,原決定も説示するところであって,その粗暴性の認定は,後記のとおり,根拠が乏しいといわざるを得ない。

    さらに,原決定は,少年が,被害者の心情等を一切考慮することなく,自身が望む反応を得られなかったことに一方的に憤りを感じ,安易に刃物を持ち出して本件非行に及んだとし,ここに性格,行動傾向上の問題点が現実化したと説示した上,少年の内省が十分深まっているとはいい難いことをもって,少年の要保護性が高いと説示している。少年が,被害者の心情は十分思いを致すことができずに本件非行に及んだという指摘はそのとおりであるが,少年は,包丁を持ち出した点については,被害者を黙らせるために,暴力を振るうのはよくないから脅す,という少年なりの理由を述べており,その手段は不相当ではあるものの,安易に刃物を持ち出したとは必ずしもいえず,前記の本件の経緯を併せ考えると,これをもって少年の性格,行動傾向上の問題点が現実化したと評価するのはいささか飛躍がある。

    また,原決定は,一連の法的措置を経ても,内省が十分深まったとはいい難いと説示するところ,これは,鑑別結果通知書に,少年が反省の言葉を述べるものの,被害者側にも事件のきっかけや原因があると述べていることや,再非行防止策についても「仕事をすればいい」と的外れなことを述べていることから,内省が進んでない旨の記載があることによるのではないかと考えられる。しかしながら,前記の経緯からすれば,被害者の言動にも本件の契機となる一因はあったといえる上,「仕事をする」ことが再非行防止のための有力な方策であることは否定できないから,これをもって内省が不十分であるとの評価は当たらない。また,少年調査票には,少年が,調査面接中に,語気を荒くして一方的に主張したとか,自分の意に反する話をされると攻撃的な口調になる場面があったなどの指摘があるが,知的能力が低いとされる少年の上記のような対応をもって,直ちに内省の不十分さを指摘するのはいささか飛躍がある。

    加えて,原決定は,実母の受け止めが軽く,少年の問題性を認識できておらず,適切な指導,監護の方針に思い至っているとはいい難く,家庭に適切な指導を期待できないとした上,他にみるべき外的資源はない,と説示する。確かに,経済的な困窮等もあって,実母が少年の指導,監護に十分関わることができず,しつけや情緒面の関与が薄かったことや,本件に対する実母の受け止めの軽さはうかがえるものの,少年や姉が働いて家計に相応の金銭を入れるなどしていることからすれば,家族にまとまりがないという評価は当たらないというべきである。また,少年調査票においては,少年が家族に親和しているのは,幼少期から注意されることなく好き勝手に発言でき,ストレスが生じなかったという理由が大きいと指摘されているが,この指摘を前提としても,少年が家族と親和している事実は否定できない。また,実母は,被害者との示談金を一部立て替え,今後の対応についても引き受ける旨を原審審判で述べており,実母なりに考えて本件に対応しているといえる。さらに,少年調査票では,外的資源として,少年の勤務先の○○会社の存在が指摘されているが,少年が最年少であるため,仕事中に怒られることは少なく,実母からみると,少年は年長の従業員に言いたい放題で甘やかされているなどと指摘されており,「家庭や職場は少年を甘やかし気味で,少年の身勝手さなどを助長する面が強く,感情のコントロールや対人スキルを学べる環境ではない」と結論付けられているところ,原決定は,これらの指摘を踏まえて,みるべき資源がないと説示したことがうかがえる。しかし,明らかに収容処遇が選択される見込みである場合を除き,就労先の有無や環境,少年の定着の度合い等は,処遇の決定に相当に影響する事情であるから,この点はついて相応の調査をするのが望ましいところ,本件では少年の就労先について調査された形跡がうかがえず,上記のような就労先の評価の根拠も十分明らかになっていない。この点を措くとしても,少なくとも少年は,就労先になじんでいたことがうかがえ,このような就労先があるにもかかわらず,みるべき外的資源がないとの評価には疑問がある。

  (4)鑑別結果通知書においては,再非行の可能性に関し,将来的に少年が安定した異性関係を築けずに同種再非行に及び,子への虐待に及ぶ危険性もあることが指摘され,少年調査票においては,交際相手や女性との間で苛立ちや葛藤を抱えたときに暴力や暴言に及び,家庭を持ったときにDVや虐待に及ぶ危険性があることが指摘されており,これらを受けて,原決定は,一定の人間関係における少年の再非行の危険性が高いと説示している。

    しかしながら,鑑別結果通知書等の上記指摘が具体的にいかなる根拠に基づくのか不明である。また,記録によっても,少年が一方的に被害者に暴力を振るったことはうかがえない上,少年が被害者以外の者に粗暴な言動に及んだ事実も認められない。以上によれば,少年の暴力的言動や暴力的支配を裏付けるような事実は認められない。

    鑑別結果通知書には,少年には,「親密な関係にある異性は自分のわがままや欲求を受け入れて当然であるといった独り善がりな女性観が前提にあり,脅しや暴力で自分が優位に立ち相手を言いなりにさせることに抵抗感や問題意識を持てておらず,むしろそれらの効果を実感し,暴力支配的な異性関係になじみつつある」との指摘があるところ,少年が女性との交際において,避妊をせず,同時に複数の異性と性的関係をもつことを疑問視せず,相手方の気持ちに無頓着であることが上記指摘に結び付いていることがうかがえる。しかし,指摘された事実からこのような評価ができるかはいささか疑問である上,一件記録からは,少年による暴力支配的な異性関係は認められず,本件の経緯等からして,本件非行をそのようなものとみることもできない。また,鑑別結果通知書には,少年に対し,自分の身勝手さに気付かせ,これを改める必要なスキルを身に付けさせなければ,「交際相手や配偶者,さらには,子への一方的な暴力(虐待)に及ぶおそれがあり,今,このタイミングで強力に教育を行うことが強く望まれる」との指摘がある。早期に必要な処遇をすることの必要性は否定できないとしても,少年に身勝手なところがあることが,交際相手等への一方的な暴力につながるおそれがあるということには,十分な根拠がないといわざるを得ない。

    少年調査票には,少年が「被害者の発言に苛立つと,暴言が止まらなかった」とか,「ストレスを感じると一方的に暴言を吐いたり,身体に危害を加えたりするなど感情の赴くままに攻撃している」といった指摘がある。このうち「暴言」については,具体的な内容や状況が不明である上,「身体に危害を加えたりする」というのは,被害者の首を絞める,腕を引っ張る,包丁を見せるといったことを指すと解されるが,これらの行為の状況は必ずしも明らかでなく,被害者が警察に相談した事実もないことなどからすれば,これらが殊更問題視されるような態様のものであったかは明らかでない。また,少年調査票には,「交際相手や家族等の親密な間柄における対人スキルや深い感情の適切な発散方法が身に付いておらず,感情が昂ぶると衝動的に行動する点が問題である」,「感情や行動を調節する方法や他者の心情を推し量る力が養われなかった」,「交友関係の中で生じたトラブルは回避し,居心地の良い関係性の中にしかいなかったため,対人関係の中で葛藤が生じたときに解決する方法を学べなかった」,「家族や親友等の親密な人には自分が受け入れられることに甘んじて傍若無人に振る舞い,それ以外の人には極端に自分を押さえて接するというアンバランスな対人スキルを身に付けた」,「少年自身の感情を調節する力や衝動性の部分が改善されなかったため,本件のような親密な対人場面においてその問題性が現われた」などの指摘があり,少年の内面の問題点については適切な指摘であると考えられる。しかし「親密な間柄」である家族に対して,少年が暴力的な行動に出たことはうかがえず,「傍若無人」な振舞いがどのようなものかも明らかではない。上記のとおり,記録からは,少年が被害者以外の者に粗暴な言動に及んだ事実も,暴力を受けた被害者が警察に相談をした事実も認められない上,本件非行が前記のような経緯によるものであることも考え併せると,少年が,対人関係に葛藤やストレスを感じた際に再非行に及ぶ可能性は否定できないとしても,それが暴力行為の形で現れるという根拠は十分ではなく,ましてや「交際相手や女性との間で苛立ちや葛藤を抱えたときに暴力や暴言に及び,家庭を持ったときにDVや虐待に及ぶ危険性がある」との結論を導くには飛躍がある。

  (5)少年の被害者に対する看過し難い暴力的な行為が存在し,それが将来における親しい者や身近な者への暴力につながる可能性がある場合,これは少年の要保護性を決定する重要な事情であるから,法律記録から認められる事実に加え,必要に応じて,少年からの事情聴取はもちろん,被害者照会や被害者調査を含む被害者への事情聴取も踏まえて審理を行うのが相当である。本件において,被害者の事件直後の警察での事情聴取が行われた後,捜査段階の供述は得られていない上,家庭裁判所での被害者に対する照会や調査は行われておらず,少年の捜査段階及び原審審判の供述,少年調査票の調査結果を踏まえても,収容処遇を相当とするような問題性のある少年の暴力や暴言は,十分明らかになっているとはいえない。

  (6)以上によれば,本件非行に及んだ少年の動機等に酌量すべき点がないとはいえず,非行の態様についても,極めて悪質なものとはいえない。また,要保護性の根拠として,少年による女性や親しい者への暴力の危険性が重視されているところ,少年の衝動性や身勝手さが改善されていないとしても,これが少年の暴力的な行動に結び付き,再非行に及ぶ可能性が十分な根拠の下で検討されたとはいえない。原決定は,必ずしも認定の根拠が十分でない事実に基づく評価や,事実に基づく評価として不相当な内容を含む鑑別結果や調査を基に,少年に対して第1種少年院送致決定をした疑いがあり,その処分は著しく本当であるといわざるを得ない。

 4 よって,少年法33条2項により原決定を取り消し,本件を水戸家庭裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり決定する。

  令和2年4月2日

    東京高等裁判所第10刑事部

        裁判長裁判官  朝山芳史

           裁判官  伊藤敏孝

           裁判官  高森宣裕

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