| 道路交通法違反,自動車運転過失致死傷被告事件 | |
| 【事件番号】 | 大阪高等裁判所判決/平成25年(う)第486号 |
| 【判決日付】 | 平成25年9月30日 |
| 【判示事項】 | 登校中の小学生ら10人を無免許の車で撥ねて死傷させた道交法違反と自動車運転過失致死傷被告事件について,懲役5年以上8年以下に処した一審判決に対し,双方から控訴した事案。裁判所は,少年法55条にいう保護処分相当性の判断は,保護不能にも保護不適にも当たらない場合に認められるが,本件は保護不適に当たることは明らかであるとした上で,被告人は3回に渡り無免許運転し,その常習性や交通法規無視の姿勢は顕著で,一般的な不注意とは質が異なり,その結果は極めて重大であるとして,被告人の酌むべき事情を考慮しても原判決は,軽きに失するとして,原判決を破棄し,懲役5年以上9年以下に処した事例 |
| 【掲載誌】 | LLI/DB 判例秘書登載 |
原判決を破棄する。
被告人を懲役5年以上9年以下に処する。
原審における未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
理 由
検察官の控訴趣意は,検察官中田和範作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は主任弁護人服部達夫及び弁護人小嶋敦連名作成の答弁書に,弁護人の控訴趣意は,上記弁護人ら連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書の訂正申立書に,これに対する答弁は検察官宮本健志作成の答弁書(第1回公判期日における訂正後のもの)にそれぞれ記載のとおりである。
1 弁護人の少年法55条に関する法令適用の誤りないし量刑不当の主張について
論旨は,要するに,原審は,いわゆる保護不能の場合だけでなく,いわゆる保護不適の場合にも少年に刑事処分を科することができると解して,少年法55条により本件を家庭裁判所に移送することなく,被告人を懲役5年以上8年以下に処するとの判決を言い渡しているが,少年法は,保護不能の場合に限って刑事処分を科することを許容していると解すべきところ,本件が保護不能の場合に当たらないことは明らかであるし,仮に保護不適の場合にも刑事処分を科することが許されると解するとしても,本件は保護不適の場合にも当たらないのであり,いずれにしても,本件を京都家庭裁判所に移送すべきであるから,原判決にはこの点において法令適用の誤りないし量刑不当がある,旨いうのである。
そこで検討するに,少年法55条にいう保護処分相当性の判断は,検察官送致決定に関する同法20条にいう刑事処分相当性の判断と表裏の関係にあると解されるが,同条1項が「その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは」と規定していることなどからみると,保護処分によってはもはや少年の矯正の見込みがない保護不能の場合のほか,保護処分による矯正が不可能とはいえないものの,事案の内容や社会に与える影響等の事情から保護処分に付するのが相当でない保護不適の場合にも,少年に対して刑事処分を科することができると解するのが相当である(換言すれば,これら保護不能にも保護不適にも当たらない場合に,同法55条にいう保護処分相当性が認められることになる)。
そして,後述する諸事情に照らせば,本件は,少年である被告人を保護処分に付するのが相当でない保護不適の場合に当たることも明らかである。
そうすると,原審が本件を家庭裁判所に移送しなかったことをもって,原判決に法令適用の誤りがあるとも量刑が不当であるともいえない。
論旨は理由がない。
2 検察官及び弁護人の量刑不当の各主張について
(1) 検察官の論旨は,要するに,被告人を懲役5年以上8年以下に処した原判決の量刑は,その長期の点において軽過ぎて不当であって,被告人を懲役5年以上10年以下に処するべきである,というのであり,弁護人の論旨は,要するに,原判決の上記量刑は,その長期及び短期のいずれの点においても重過ぎて不当であって,被告人を懲役3年以上6年以下に処する程度にとどめるべきである,というのである。
(2) そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
本件は,被告人が,大別すると3回にわたって普通乗用自動車を無免許運転し(原判示第1の1ないし3),うち1回はその運転中に居眠りして,集団登校のため道路右側路側帯内側を歩行中の小学生の列に後方から突っ込み,保護者1名を含む3名を死亡させるとともに,7名に傷害を負わせた(同第2),という事案である。
被告人は,平成22年4月及び6月に道路交通法違反(暴走族仲間との共同危険行為,その際等の原動機付自転車の無免許運転)の非行に及んだことから,観護措置及び在宅試験観察を経た上で,平成23年1月に保護観察(交通一般:一般保護観察に準ずる処遇勧告あり)に付されたのにもかかわらず,その保護観察期間中に自動車の無免許運転をも始め,平成24年2月に保護観察が解除された前後ころからは自動車の無免許運転を繰り返すようになり,原判示第1の各無免許運転に至ったのであって,被告人の無免許運転の常習性や交通法規無視の姿勢は顕著であり,それ自体厳しい非難を免れない。しかも,被告人は,無免許運転を繰り返した挙げ句,原判示第2の交通事故(以下「本件事故」ともいう)を惹起しているが,その事故原因は,連日あまり眠らずにかつての暴走族仲間ら(そうでない者を含む。以下同じ)と遊び続けて疲れ果て,ついには居眠り運転をしたということにあって,およそ自動車を運転する資格のない者が自動車を運転すべきでない状態で運転したことにあるというほかなく,過失の態様は一般の自動車運転者にも起こりうる一時的な不注意とは全く異質なものであり,その程度は非常に高い。これによって生じた結果は,極めて重大であって,死亡した3名(胎児を含めると4名)の被害者は,その命とともに長い将来や夢・希望の全てを奪われ,負傷した7名の被害者は,身体だけでなく心にも深い傷を負い,後遺症等がこれからの人生に悪影響を及ぼすことも懸念される状態にある。死亡した被害者ら,負傷した被害者らそれぞれに,また,その親族らを含めて,実に多くの人々の人生が被告人の無謀な行為により暗転しており,死亡した被害者らの遺族の悲しみは深く,怒りは強いし,負傷した被害者らやその親族の苦しみや心配も大きい。このような悲惨な結果を受け,被害者参加人らが厳罰を求めるのも,その心情として至極当然といえるが,その結果発生の原因が上記のとおり被告人の無軌道さに由来することは,やりきれない思いを一層強くするものと推察される。また,本件事故は,全く落ち度のない無防備な多くの小学生等が悲惨な被害に遭った事故として,社会の関心を集めており,本件は社会的影響が大きい事件として,一般予防の見地からの考慮も欠かせない。以上を併せ考えると,犯情は非常に悪く,被告人の刑責は誠に重大といわざるを得ない。
他方,被告人が,各事実を認めるとともに,事故を起こしてしまったことをそれなりに反省・後悔し,これまでの自堕落な生活態度をも省みていること,被告人なりに死亡した被害者らの冥福を祈り,また,遺族や負傷した被害者らに対して謝罪の態度を示していること,被告人の父親が加入していた対人無制限の任意保険が本件事故にも適用のあることが判明し,民事的な損害賠償については相応のものがなされるものと見込まれること,被告人は本件各犯行当時18歳の少年であって,これまでに上記の保護処分歴はあるものの,少年院に送致されあるいは受刑したことはないことなどの事情も認められ,これらは被告人のために酌むべき事情に当たるが,その各事情の内容に鑑み,また,前述した本件各犯行に至る経緯や各犯行の態様,結果等に照らすと,その酌むべき度合いは自ずと限られるというべきである。
(3) ところで,原判示第1の3の無免許運転については,その時間,距離,態様等,特にそれが本件事故を伴うものであることからすると,その犯情は同種事犯の中で最も悪質なものというべきであり,また,原判示第2の自動車運転過失致死傷については,その過失の態様,程度,結果の重大性等からすると,その犯情は同様に最も悪質なものというべきであるが,この2つの罪のみが併合罪を構成する場合の処断刑(いずれも懲役刑を選択)の上限は,懲役8年にとどまるところ,原判示第1の1及び2の各無免許運転が併せて起訴されていることから,本件の処断刑(前同)の上限が懲役10年になっていることが明らかである。
そうすると,被告人に対する本件量刑は,もとより併合罪の構成単位である各罪について個別的に量刑判断を行った上で,これを合算するような方法でなすべきものではなく,処断刑の範囲内で各罪全体に対する刑を決する方法でなすべきものである(最高裁第一小法廷平成15年7月10日判決参照)が,それを判断する上では,原判示第1の1及び2の各罪の犯情をも十分に考慮する必要がある。
原判決は,この点,「(原)判示第1の1及び2の各無免許運転は,本件事故を引き起こした居眠り運転の原因である(原)判示第1の3の無免許運転と同様に被告人の常習的な無免許運転の一環としての行為で,かつ,そのような交通法規無視の態度がひいては本件事故を招いたという意味においては本件事故と無関係であるとはいえないものの,そもそも本件事故の6日前及び12日前に犯された別個の無免許運転であり,本件事故の過失の内容である居眠り運転との因果関係は全くない」と説示している。なるほど,原判示第1の1及び2の各無免許運転が本件事故の過失の内容である居眠り運転と因果関係を有しないことは上記説示のとおりである。しかしながら,被告人は,これまで運転免許を一度も取得したことがないにもかかわらず,無免許運転を繰り返していただけでなく,原判示第1の1及び2の各無免許運転は,被告人がかつての暴走族仲間らと夜どおし遊び回る中で犯したものであって(特に同第1の1に際しては,眠たかったが運転すれば目が覚めると思って運転したというのである),それらの各無免許運転に至る経緯や動機に全く酌むべき点はなく,その態様等からはいずれ何らかの事故を惹起しかねない危険性がうかがわれ,原判示第1の3の無免許運転時における本件事故は,そのような危険性が最も不幸な形で現実のものとなったと考えられるのであるから,原判示第1の1及び2の各罪の犯情は同第1の3の罪の犯情ほど悪質ではないにしても,相当に悪いというべきである。
(4) 以上によれば,被告人に対する本件量刑は,処断刑期及び少年法上の不定期刑に係る制約の上限に近い辺りをもって臨むのが相当であって,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは到底いえないし,原判決が不定期刑の長期を懲役8年としたのも,被告人のために酌むべき事情をやや過大に評価する一方,原判示第1の1及び2の各罪の犯情の悪さをやや過小に評価したものとして,軽きに失するというべきであるから,原判決は破棄を免れないが,検察官のいうように不定期刑の長期を処断刑の上限の懲役10年とすることについても,処断刑の上記上限を導き出した併合罪を構成する各罪の各犯情を念頭に置いた上で,それらを全体として評価しても,なおそれが相当であるとまではいえない。
弁護人の論旨は理由がなく,検察官の論旨は上記の限度で理由がある。
3 破棄自判
よって,刑訴法397条1項,381条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に次のとおり判決する。
原判決が認定した罪となるべき事実(ただし,「被告人は,」の後に「少年であるが,」を付加する)に原判決が挙示する法令を適用し(科刑上1罪の処理,刑種の選択及び併合罪の処理を含む),その処断刑期の範囲内で,少年法52条1項,2項により,被告人を懲役5年以上9年以下に処し,原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を,原審及び当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(原審における検察官の科刑意見 懲役5年以上10年以下)
平成25年9月30日
大阪高等裁判所第6刑事部
裁判長裁判官 森岡安廣
裁判官 向野 剛
裁判官 田中幸大