岡本法律事務所のブログ

カテゴリ: 民法

このブログは、岡本法律事務所(岡山市)の所長岡本哲(おかもとてつ) 岡山弁護士会の個人的見解などを
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2019年3月24日現在では弁護士3名でやっております。

納税者の更正の請求を認めない東京高裁平成25年判決

納税者側からみると不公平に思われる事案である。

 

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決

 

【判決日付】 平成25年2月28日

 

【掲載誌】  税務訴訟資料263号順号12156

 

       主   文

 

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 控訴の趣旨

  1 原判決を取り消す。

  2 平成19年4月1日から平成20年3月31日までの控訴人の事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に係る更正の請求については更正をすべき理由がない旨の処分行政庁(麹町税務署長)の控訴人に対する平成21年4月13日付けの通知処分(以下「本件通知処分」という。)を取り消す。

 第2 事案の概要等

  1 不動産の売買等を目的とする株式会社である控訴人は、昭和58年3月、B地区(原判決2頁6行目参照)に購入した約20万平方メートルの土地について、当初の段階では、賃貸用建物を建設して、賃料収入により投資の回収を図るという「当初の計画」(原判決3頁18行目参照)を有していたことから、昭和63年5月、上記の土地の全てを有形固定資産として計上する会計処理をした。その後、いわゆるバブル崩壊による地価の値下がりに伴う賃料相場の下落などから、控訴人は当初の計画を変更し、B地区の8箇所の街区のうちC街区(原判決3頁14行目参照)の土地を第三者に売却することとし、平成10年3月、有形固定資産から棚卸資産である販売用不動産に振り替える会計処理をした上で、同年9月、その一部を更地のまま譲渡した(第1回譲渡。原判決4頁5行目参照)。また、控訴人は、同様の理由で、D街区の土地のうち固定資産に計上している未稼働のビル事業用地等についても、当初の計画を変更して、マンション等を建設して第三者に売却することとし、平成14年3月、有形固定資産から棚卸資産である販売用不動産に振り替える会計処理をした上で、平成16年3月、2棟の分譲マンションを建設する計画を策定し、平成19年2月、1棟目の分譲マンションを建設し、これを購入者に引き渡した。

    控訴人は、第1回譲渡の後、C街区の残りの土地であるC(原判決4頁16行目参照)に本件ビル(原判決4頁19行目参照)を建設して、テナントを入居させた上で売却する方針を決定し、本件ビルを建設した上で、平成20年2月、H投資法人との間で、C及び本件ビルの譲渡契約を締結して、同年3月、これらを引き渡した。また、控訴人は、D街区の残りの土地であるD(原判決5頁9行目参照)にも本件マンション(原判決5頁10行目参照)を建設して、本件事業年度中に引渡しを完了した。

  2 本件の主たる争点は、棚卸資産であったC及びD(以下、一括して「本件土地」という。)の譲渡について、措置法(原判決2頁12行目参照)65条の7第1項(原判決別紙1の2の(1))所定の本件特例(原判決2頁13行目参照)の適用の有無であり、具体的には、同項所定の「棚卸資産を除く」との文言の意義が争われた。

    本件は、控訴人が、本件事業年度の法人税について本件特例が適用されることを前提として、いわゆる圧縮損177億3247万0332円を損金の額に算入する一方、適用がない場合の調整額として同額を益金の額に算入する内容の本件確定申告(原判決5頁19行目参照)をした上で、この調整額は益金の額に算入すべきものではなかったとして、通則法(原判決別紙1の1)23条1項1号に基づき、本件更正請求(原判決2頁19行目参照)をしたところ、処分行政庁(麹町税務署長)は、本件土地が譲渡の時点でいずれも棚卸資産に当たるから、その譲渡には本件特例の適用がないとして、更正をすべき理由がない旨の本件通知処分をしたので、控訴人が、被控訴人に対して、本件通知処分の取消しを求めた事案である。

    本訴において、控訴人は、法人税法の領域でもいわゆる二重利得法の考え方(所有者の意思によらない外部的条件の変化に起因する資産価値の増加は譲渡所得に、所有者の人的努力と活動に起因する資産価値の増加は事業所得や雑所得に当たるから、資産の譲渡益の全体を事業所得又は雑所得として課税するのは妥当性を欠き、譲渡所得と事業所得ないし雑所得に分けて課税すべきであるなどとするもの)が妥当するから、これを踏まえて本件特例の適用の可否を検討すべきであり、上記の「棚卸資産を除く」との文言は、「所有目的の変更により棚卸資産となった以後の当該資産を除く」の意味に解するのが相当であると主張して、本件通知処分の効力を争った。

  3 原審は、上記の「棚卸資産を除く」との文言の意義について、控訴人の主張を採用せず、「当該資産の譲渡の時点において棚卸資産であるものを除く」との趣旨であると解されるから、本件更正請求について更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法であるとして、控訴人の本訴請求を棄却したので、控訴人が、これを不服として控訴した。

  4 本件における「関係法令の定め」については、原判決の「事実及び理由」中の第2の1(原判決2頁23行目以下、28頁以下の別紙1)に、「前提事実」については、原判決の「事実及び理由」中の第2の2(原判決2頁末行以下)に、「被控訴人が主張する控訴人の本件事業年度の法人税の所得の金額及び納付すべき税額等」については、原判決の「事実及び理由」中の第2の3(原判決6頁7行目以下、32頁以下の別紙2)にそれぞれ記載するとおりであり、「争点及びこれに関する当事者の主張」については、次項において「控訴人の当審における補充主張」を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2の4(原判決6頁12行目以下)に記載するとおりであるから、これを引用する。

  5 控訴人の当審における補充主張

   (1) 本件通達2(原判決別紙1の3の(2))は、譲渡資産が実質的に棚卸資産であることを前提とした上で、その譲渡により実現する利益のうちキャピタル・ゲインに相当する部分が含まれていることから、当該部分については本件特例の適用を認める趣旨で定められた法令解釈の通達である。

   (2) 棚卸資産と固定資産とは、その保有目的によって区別され、本件通達2所定の「従来固定資産として使用していた土地」とは、「棚卸資産に転化するまで固定資産として保有していた土地」を意味する。そして、本件土地はいずれも棚卸資産に転化するまで固定資産として保有されていたのであるから、本件通達2が適用され、したがって、本件特例も適用されるべきである。

   (3) 仮に、本件通達2の「従来固定資産として使用していた土地」の意義について、被控訴人が主張するように「固定資産である土地を有利に処分するための手段として、当該土地に集合住宅等を建築し、又は、当該土地の区画形質の変更を行う時点まで固定資産であったものをいう」と理解したとしても、少なくともDについては、当初商業用ビルを建築してテナントに賃貸する目的で保有していたものを、住宅用マンションを建設して分譲する目的に計画を変更したことに基づき、平成14年3月に固定資産から棚卸資産に振り替えた上で、本件マンションを建設して売却したのであるから、本件通達2が適用されることになり、キャピタル・ゲインに相当する部分については本件特例が適用されるべきである。

 第3 当裁判所の判断

  1 当裁判所も、措置法65条の7第1項所定の「棚卸資産を除く」との文言は、「当該資産の譲渡の時点において棚卸資産であるものを除く」との趣旨であると解するのが相当であり、控訴人が主張するような「所有目的の変更により棚卸資産となった以後の当該資産を除く」と解することはできないものと判断する。その理由は、控訴人の控訴理由を踏まえて、原判決を次のとおり補正し、次項において「控訴人の当審における補充主張についての判断」を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第3の1に記載する通りであるから、これを引用する。

   (1) 原判決24頁6行目の「いい難いものである」を「いい難いものであり、また、本件特例の『棚卸資産を除く』との文言について二重利得法の考え方に基づいて解釈することが文理解釈として必ずしも相当とはいえないと解される」に改める。

   (2) 原判決24頁6行目の次に、改行して、次のとおり加える。

    「 また、所得税の譲渡所得に関する特例を定める措置法37条1項は、本件特例と条文の構造が同様であり、同項は二重利得法の考え方を採っているのであるから、本件特例についても、二重利得法の適用が可能であるとする控訴人の主張は、上記の所得税法と法人税法との課税上の構造における差異を考慮すれば失当というべきである。」

   (3) 原判決24頁10行目の「(甲21)や、②」の次に、「昭和44年度の税制改正において、土地政策又は国土政策に合致すると認められる買換えに限り課税の特例を認めることとされたこと(甲14)、また、③」を加える。

  2 控訴人の当審における補充主張についての判断

   (1) 控訴人は、本件土地、特にDの土地については、本件通達2に該当し、課税の繰延べができる場合に当たるというべきであり、したがって、本件特例が適用されることになると主張するので検討する。

   (2) ところで、本件特例は、当該資産の譲渡時点における性質に基づいて、棚卸資産に該当する場合を適用対象から除外しているのであるが、従来固定資産として使用していた土地を、譲渡時点においては、形式的に法人税法上の棚卸資産に区分して、集合住宅等を建築し、又は土地の区画形質の変更を行って分譲したような場合には、実質的に棚卸資産に該当しない土地の譲渡と同視できる事情が認められるのであるから、本件特例の趣旨に照らしても、その適用を認めて、棚卸資産の譲渡に該当しないものとして取り扱うことには合理性があり、しかも、固定資産のままで譲渡した場合との均衡を考慮すれば、固定資産の譲渡益と認められる部分以外の譲渡益(上記の例でいえば、付加価値部分)を除いた部分について、本件特例による課税の繰延べの対象とすることが措置法の解釈としても可能であるから、原判決(25頁4行目以下)も適切に説示しているとおり、本件通達2は、この場合の上記のような取扱いが可能であることを明らかにした趣旨のものであると解することが相当である。

   (3) 本件土地の譲渡に至る経緯等については、前記引用に係る原判決の前提事実(2)(原判決3頁5行目以下)のとおりであり、これによれば、控訴人は、本件土地を含むB地区の土地を取得した当初の段階では、建物を建築した上で賃貸して収益を挙げるという計画を有していた(そのため、本件土地も有形固定資産として計上する会計処理をした。)ものの、当初の計画が実際には実現せず、基本的には更地のままになっていたところ、その後、当初の計画を変更して、控訴人の不動産売買の業務の一環として、売却、販売する計画が策定され(そのために、本件土地も有形固定資産から棚卸資産に振り替える会計処理がされた。)、付加価値を付けた上で譲渡したのであるから、本件通達2が想定するような実質的に棚卸資産に該当しない土地の譲渡と同視できる事情の存在が認められると解する余地はないと判断するのが相当である。したがって、控訴人の主張は採用することができない。

 第4 結論

   以上のとおり、控訴人が、本件確定申告において本件土地の譲渡につき本件特例の適用があることを前提として圧縮損177億3247万0332円を損金の額に算入する一方で、その適用がないとした場合の調整額としてこれと同額を益金の額に算入したことは、通則法23条1項1号所定の更正の事由に該当しないから、本件更正請求について更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分には違法と評価すべき事由が認められず、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

     東京高等裁判所第16民事部

         裁判長裁判官  奥田隆文

            裁判官  渡邉 弘

            裁判官  齊藤 顕

 

担保財産に係る差押え処分を取り消した名古屋地裁平成25年判決

 

平成21年の誤りの訂正に平成25年までかかっています。税務署長はペナルティがあったのでしょうか。なさそうですけど。

 

差押処分取消請求事件

【事件番号】 名古屋地方裁判所判決

【判決日付】 平成25年2月7日

【掲載誌】  税務訴訟資料(徴収関係判決)平成25年順号25-4

最近の税務争訟15 774頁

       主   文

  1 処分行政庁が平成21年6月23日付けで別紙物件目録記載の土地に対してした差押処分を取り消す。

  2 訴訟費用は被告の負担とする。

 

        事実及び理由

 第1 請求の趣旨

  主文同旨

 第2 事案の概要

  1 事案の要旨

    本件は、処分行政庁が、原告の長男であるA(以下「A」という。)の滞納国税に係る換価の猶予として担保提供された原告所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、滞納処分の例により処分して上記滞納国税を徴収するため、差押処分を行ったところ、原告が、上記担保提供は原告に無断で行われたものであるから自らにその効力は帰属せず、これを前提として行われた差押処分は違法であるとして、上記差押処分の取消しを求めた事案である。

  2 前提事実(証拠等の掲記がないものは当事者間に争いがない。以下、書証番号は、特記しない限り枝番を含む。)

  (1)原告の家族関係等

 ア 原告(昭和20年6月9日生)は、平成13年2月1日に死亡したB(以下「亡B」という。)との間に、長女C(昭和48年3月26日生。以下「C」という。)、長男A(昭和49年5月16日生)及び二女D(昭和54年3月29日生。以下「D」という。)をもうけた。(甲3、6、7)

 イ 原告は、平成13年2月1日、相続により本件土地を取得した。(甲2、乙10)

  (2)Aの国税滞納状況等

 ア Aは、平成12年頃から、E(以下「E」という。)の経営するFの従業員として、岐阜県所在の飲食店3店舗(以下「本件店舗」という。)の企画業務等に従事していたところ、平成19年5月頃には、オーナーとして本件店舗を経営するようになった。(甲6、7)

    イ Aは、平成19年9月10日、処分行政庁に対し、平成16年分ないし平成18年分の所得税並びに平成18年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について、それぞれ期限後申告をした。

    ウ Aは、平成19年9月14日、前記イの各期限後申告に係る本税(所得税の総額2065万0100円並びに消費税及び地方消費税の総額281万3800円。以下「本件本税」という。)を全額納付した。

 エ 処分行政庁は、平成19年10月16日、Aに対し、前記アの各期限後申告に係る重加算税合計937万6000円の賦課決定処分を行った。

 オ その後、Aは、平成20年4月12日に死亡するまでの間に、前記エの重加算税及び延滞税の一部を納付した。その結果、平成20年4月1日時点におけるAの滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)は、別紙租税債権目録記載のとおりとなった。

  (3)担保提供の経緯等

 ア Aは、平成20年2月13日、処分行政庁に対し、税理士G(以下「G税理士」という。)をAの代理人と定める旨の税務代理権限証書を提出した。(乙9)

 イ G税理士は、平成20年4月1日、処分行政庁に対し、本件土地を本件滞納国税についての国税通則法(以下「通則法」いう。)50条3号所定の担保として提供するため、①本件土地を担保として提供する旨が記載された「担保提供書」(乙11。以下「本件担保提供書」という。)及び②本件土地に被担保債権を本件滞納国税1008万1510円、債務者をAとする同月7日設定の抵当権設定契約(以下「本件抵当権設定契約」という。)に基づく抵当権設定登記をすることを承諾する旨が記載された「抵当権設定登記承諾書」(乙12。以下「本件抵当権設定登記承諾書」といい、本件担保提供書と併せて「本件担保提供書類」という。)とともに、同年3月27日付けの原告の印鑑登録証明書(乙13)を提出した。

 ウ 処分行政庁は、平成20年4月7日、Aに対し、本件滞納国税について、国税徴収法(以下「徴収法」という。)151条1項2号に基づき、本件土地を担保として、平成21年3月31日まで滞納処分による財産の換価を猶予した(以下「本件換価の猶予」という。)。

 エ 処分行政庁は、平成20年4月8日、Aに対し、担保受領書を送付した。その際、処分行政庁は、原告とAが親子で、住所地が同一であったことから、上記担保受領書を入れた郵便物の中に、原告宛ての「物上保証等の確認書」(乙17。以下「本件確認書」という。)を同封した。

 オ 処分行政庁は、平成20年4月10日、本件土地について、本件換価の猶予に係る本件滞納国税について、本件抵当権設定契約を原因とし、債権額を1008万1510円、債務者をA、抵当権者を財務省(取扱庁岐阜南税務署)とする抵当権設定登記を経由した。(甲2)

  (4)本件差押処分の経緯等

ア Aは、平成20年4月12日、死亡した。

イ 処分行政庁は、平成21年3月13日、Aの死亡を受けて、徴収法152条が準用する通則法49条1項4号に基づき、本件換価の猶予を取り消した。

ウ 処分行政庁は、平成21年6月23日、通則法52条1項に基づき、本件土地について担保物処分の差押えを行い(以下「本件差押処分」という。)、原告に対し、差押書を送付した。

  (5)本件訴訟提起に至る経緯等

ア 原告は、平成21年8月24日、処分行政庁に対し、本件差押処分の取消しを求めて異議申立てをした。これに対し、処分行政庁は、同年11月18日、上記申立てを棄却した。

イ 原告は、平成21年12月18日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。これに対し、国税不服審判所長は、平成22年12月3日、上記請求を棄却した。

ウ 原告は、平成23年6月6日、本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著な事実)

  3 争点に関する当事者の主張

  (1)被告の主張

     本件担保提供書類は、原告の意思に基づき真正に成立したものであり、これによって本件抵当権設定契約が締結された。したがって、本件抵当権設定契約により本件土地に設定された抵当権を前提として行われた本件差押処分は、適法である。

  (2)原告の主張

     本件抵当権設定契約締結の事実は否認する。本件担保提供書類中の各原告作成部分の原告の署名は、原告の自署によるものではなく、その右横の各印影は、Cが原告の実印を盗用して顕出したものであるから、本件担保提供書類は、いずれも原告の意思に基づき真正に成立したものとはいえない。したがって、本件抵当権設定契約が成立したということはできないから、本件土地に抵当権が設定されていることを前提として行われた本件差押処分は、違法である。

 第3 当裁判所の判断

  1 まず最初に、平成20年4月1日付け本件担保提供書(乙11)及び同月7日付け本件抵当権設定登記承諾書(乙12)の各原告作成部分の成立の真否について検討する。

  (1)本件担保提供書(乙11)の担保物権所有者欄及び本件抵当権設定登記承諾書(乙12)の抵当権設定者欄に記入された原告の氏名右横に押捺された印影がいずれも原告の実印(印鑑登録済印鑑)によって顕出されたものであることは、原告自身の認めるところであるから、上記印影は、特段の反証がない限り、原告の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定すべきである。

  (2)そこで、この点について検討するに、証拠(甲3、5ないし7、乙9ないし13、16、17、25ないし27、証人Gの証言、証人Cの証言、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

    ア 原告の家族関係等

    (ア)原告は、Hに勤務していた亡Bとの間に、長女C、長男A及び二女Dをもうけたが、C及びDはそれぞれ結婚し、Aも岐阜県内のアパートで独り暮らしをしていたため、亡Bの死亡後は、岐阜県内の自宅において単身で生活していた。もっとも、Cは、離婚後、仕事と育児の両立を図るため、原告宅近くの分譲マンションを購入し、以来、毎日、養護学校教諭としての勤務を終えて帰宅するまで、原告に娘の面倒を看てもらい、原告宅において夕食を共にしていた。Dも、原告宅近くのアパートに居住しており、週三、四回程度、原告宅を訪れ、息子の面倒を看てもらったり、食事を共にするなどしていた。

    (イ)C及びDは、原告宅に頻繁に出入りしていたことから、原告の実印を始めとする印鑑や印鑑登録証明書の発行に必要な市民カード、重要書類等の保管場所を知っていた。また、Cは、亡Bが死亡した際に原告の代理人として上記市民カードを作成したため、市民カードを利用して印鑑登録証明書の発行を受ける際に必要な暗証番号も知っていた。

    イ Aが本件店舗を経営するに至った経緯等

    (ア)Aは、大学卒業後、職を転々としていたところ、平成12年頃から、Eの経営するFの従業員として本件店舗の企画業務等に従事し、平成19年5月頃には、Eから本件店舗の経営に係る権利を買い取り、オーナーとして本件店舗を経営するようになった。本件店舗は、いわゆるキャバクラと呼ばれる飲食店であったが、その実態は、女性従業員が客に対して性的サービスをする風俗店であった。

    (イ)Aは、平成19年8月、税務調査を受け、本件店舗の営業に関して多額の税金が滞納されていることを知った。そこで、Aは、Eから紹介された税理士に相談したものの、十分な助言を得られないまま、同年9月10日、処分行政庁に対し、平成16年分ないし平成18年分の所得税並びに平成18年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について期限後申告をした。その結果、Aは、2300万円以上に上る本件本税の支払を迫られることになった。

    (ウ)Aは、平成19年9月に原告宅を訪問した際、原告やC、D、原告の実妹であるI(以下「I」という。)に対し、税務調査を受けて納税しなければならなくなったことを打ち明け、納税資金に充てるため、原告から、亡Bの残したA名義の定期預金300万円を受け取ったほか、原告には告げずに密かにIからも300万円を用立ててもらった。Aは、上記各金員と自己資金に加え、Eから約1000万円を借り入れた上、同月14日、本件本税を全額納付した。

       その後、Aは、同年10月16日、前記(イ)の期限後申告に係る重加算税合計937万6000円の賦課決定処分を受けた。

    (エ)Dは、平成19年10月に離婚したこともあって、その頃から、本件店舗の経理事務を手伝うようになった。これに伴い、Dは、本件店舗の実態が風俗店であることを知ったが、原告が亡Bの癌宣告やCの離婚等の際に情緒不安定となり、パニック症候群と診断されていた上、水商売を毛嫌いしていたことから、本件店舗の実態等を秘匿するため、経理の事務作業を行っていた原告宅の離れには原告を近づけないようにした。

    ウ Aの入院後における原告の生活状況等

    (ア)Aは、平成19年11月28日、腰痛等の症状を訴えて、J病院に入院した。Aには、発熱があり、身動きできない状態であったため、原告は、Aに付き添って看病に当たった。

    (イ)Aは、病名が分からないまま容態が悪化したため、平成19年12月20日、K病院に転院した。K病院では、Aの疾患が血管炎であることが判明し、ステロイド投与等の治療が開始された。Aは、高熱、高血圧、腎機能障害等を発症していた上、腰痛等のために身動きがままならない状態であり、時折パニック状態になるなど精神的にも安定せず、精神安定剤が投与されていた。このため、原告は、連日、病院に泊まり込んで看病に当たり、時折入浴や着替えを取りに帰る以外は、自宅を留守にする状態が続いた。

    (ウ)その後、Aは、平成20年1月に仮退院し、原告の看護を受けながら原告宅や自宅アパートで療養したものの、同年2月14日には、再びK病院に緊急入院した。Aは、同年4月には、もはや手の施しようのない状態となり、同月7日、退院して原告宅に戻り、同月12日、死亡した。この間、原告は、ほぼ終日Aの傍に付き添って看病に当たった。

    エ G税理士への税務相談の経緯等

 (ア)Dは、Aが平成19年11月28日に入院した後、Aに代わって本件店舗の集金等に当たるようになり、本件滞納国税や市県民税等の滞納があることを知った。Cは、同年12月頃、Dから、同月中に納付期限が到来する市県民税の支払について相談を受け、同月26日、自らの定期貯金を解約して上記市県民税185万円を納付した。この頃、Cも、本件店舗の実態を知ったが、Aの看病に専念している原告に心配をかけたくなかったことから、原告には一切事情を説明せず、平成20年3月には、Aに代わって消費税を納付するため、更に約100万円を立て替えた。

    (イ)Dは、AがEから紹介された税埋士への不信感や平成19年度以降の所得税等について懸念を示していた上、本件滞納国税の支払にも窮したことから、原告の実弟の妻であるL(以下「L」という。)から、G税理士の紹介を受け、平成20年2月上旬頃、C及びLと共にG税理士を訪ねた。その際、CやDは、G税理士に対し、本件店舗が風俗店であることを打ち明けたが、原告には、ショックを与えないように本件店舗の実態等を知らせていない旨説明し、原告への配慮を求めた。

       帰宅後、Dは、Cと共にG税理士を訪問した旨を報告し、Aの了解を得た上で、従前の税理士との顧問契約を解除し、同月12日、Aに代わってG税理士に対する税務代理権限証書に押印した。

    (ウ)G税理士は、平成20年2月13日、岐阜南税務署において本件滞納国税の納付方法について相談したところ、同署職員から、分割納付を希望する場合には、担保不動産又は保証人の提供が必要である旨の説明を受けた。これを受けて、G税理士は、Dに対し、担保提供可能な不動産の有無を問い合わせたところ、原告所有の不動産がある旨回答したため、不動産の価格資料を持参するように依頼した。Dは、同年3月頃、原告が実印等と一緒に保管していた原告所有不動産に係る「平成17年度固定資産税・都市計画税課税明細書」(乙10)を持参した。その際、G税理士は、Dから、原告が担保提供を承諾した旨の説明を受けたが、原告の意思を直接確認することはなかった。

    (エ)CやDは、平成20年2月から3月の間、数回、G税理士との間で電話や面談による打ち合わせを行い、①本件滞納国税の金額にほぼ見合う価値を有する原告所有地を担保提供した上、本件滞納国税を分割して支払っていく、②万一の場合に備えて、原告の自宅敷地ではなく、畑として利用されている本件土地を担保に提供する、③本件滞納国税の分割納付の原資を本件店舗の売上げから捻出するといった方針を決定した。

       このような方針決定に当たっては、G税理士から、CやDに対し、①本件店舗の収益状況を確認した結果、売上げから毎月の分割納付金を支払うことが可能であり、約2年間で本件滞納国税を完済できる見通しであること、②担保に提供される土地は、分割納付が滞れば処分される危険性があるものの、本件店舗の売上げによって分割納付・完済が可能であるから、実際に処分に至る危険はほとんどないこと等が説明された。

    (オ)G税理士は、専らCやDとの間でのみ打ち合わせ等を重ね、原告と話をする機会はなかったが、原告は入院中のAの看病に当たっていると聞いていたこともあって、特に気に留めることはなかった。

    オ Aに対する担保提供についての説明状況

    (ア)G税理士は、平成20年3月21日、K病院に出向き、Dの立ち会いの下、入院中のAと面会した。同日は、Dが原告に対して自宅で休養をとるよう勧めたため、原告が面会に立ち会うことはなかった。

    (イ)G税理士は、面会の際、Aに対し、提出予定の平成19年分の確定申告の内容を報告するとともに、本件滞納国税を分割して納付していくためには原告の所有地を担保に入れる必要がある旨を説明した。Aは、顔色が悪く、見るからに体調が悪そうで、精神も病んでいるように見受けられたが、会話は可能な状態であり、G税理士の説明内容に特に異を唱えるようなことはなかった。

    カ 本件担保提供書類の作成状況

    (ア)Cは、平成20年3月下旬頃、G税理士から、本件担保提供に係る書類の作成及び原告の印鑑登録証明書の提出が必要である旨の連絡を受け、同月30日頃、原告の印鑑登録証明書と原告の実印を携えてG税理士の事務所を訪れた。

       Cは、G税理士の事務所において、本件担保提供書(乙11)の担保物権所有者欄及び本件抵当権設定登記承諾書(乙12)の抵当権設定者欄に原告の住所及び氏名を書き入れた上、原告の実印を押捺し、持参した印鑑登録証明書をG税理士に交付した。その際、G税理士は、Cに対し、原告の承諾の有無を再度確認したが、原告の意思を確認するために連絡を取るようなことはなかった。

    (イ)G税理士は、平成20年4月1日、岐阜南税務署を訪れ、前記(ア)の本件担保提供書類及び印鑑登録証明書を提出した。これを受けて、処分行政庁は、同月7日、本件換価の猶予をした。本件換価の猶予においては、本件滞納国税の納付計画として、同月から平成21年3月までの間、毎月20万円を納付する旨が定められた。

    (ウ)本件土地については、平成20年4月10日、本件抵当権設定契約を原因とする抵当権設定登記がされた。

    キ 本件確認書の返送状況等

      処分行政庁は、平成20年4月8日、Aに対して担保受領書を送付する際、これを入れた郵便物の中に原告宛の本件確認書(乙17)を同封し、原告宅に発送した。Cは、翌9日、上記郵便物が原告宅に届いているのに気付いたDから、これを受け取って開封した後、本件確認書に原告の住所及び氏名を書き入れ、三文判を押捺した上、返送した。

    ク Aの死亡後の経緯等

    (ア)Aは、平成20年4月12日、原告宅で死亡した。なお、処分行政庁や岐阜南税務署の職員は、Aの生前、前記キのとおり、本件確認書を送付した以外に、原告に対して本件土地の担保提供について連絡することはなかった。また、G税理士は、本件訴訟に至るまで、原告とは一度も話をしたことはなく、本件以外に担保提供の手続を受任した経験もなかった。

    (イ)G税理士は、平成20年4月13日、Cから、Aが死亡した旨の連絡を受けたため、岐阜南税務署の職員に対し、本件土地の担保解除の可否等について照会したところ、納税義務者であるAが死亡した以上、本件滞納国税が納付されない限り、本件土地を差し押さえて公売手続を行うことになる旨の説明を受けた。そこで、G税理士は、同年5月頃、その旨をCやDに伝え、相続放棄を勧めた。

    (ウ)このような事態を受けて、CやDは、平成20年6月頃、税理士M(以下「M税理士」という。)に対し、A死亡後の税務処理等を相談した。

    (エ)原告は、平成20年6月26日、岐阜南税務署に対し、M税理士が所属する税理士法人を原告の代理人と定める旨の税務代理権限証書を提出し、その頃、同税理士と共に同署において本件担保提供書類を閲覧し、同年10月9日には、同税理士及びDと共に同署を訪ね、同署の職員に対し、本件担保提供書類が原告に無断で作成されたものである旨を申し出た。その後、原告は、同月16日、岐阜家庭裁判所において、被相続人をAとする相続の放棄を申述した。

    (オ)処分行政庁は、平成21年3月13日、Aの死亡を理由に本件換価の猶予を取り消し、同年6月23日、本件差押処分をした。

  (3)以上(2)で認定した事実によると、次の諸点を指摘することができる。

    ア 本件担保提供書類が作成された平成20年3月当時、原告は、入院中のAに付き添って看病に当たっていたため自宅を留守にすることが多かった上、Cは、原告の実印を始めとする印鑑や印鑑登録証明書の発行に必要な市民カード、重要書類等の保管場所を知っていたばかりか、印鑑登録証明書を取得する際に必要な暗証番号も知っていたため、Cが原告に無断でその実印等を押捺したり、原告の印鑑登録証明書を取得することが容易な状況にあった。

方便としての協議離婚が有効とされた昭和57年判決

検察官が離婚無効確認請求事件の原告となっています。

 

生活保護受給のための協議離婚を有効としています。

離婚無効確認請求事件

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和56年(オ)第1197号

【判決日付】 昭和57年3月26日

【判示事項】 いわゆる方便としてされた協議離婚が有効とされた事例

【判決要旨】 夫婦が事実上の婚姻関係を継続しつつ、生活扶助を受けるための方便として協議離婚の届出をした場合でも、右届出が真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであるときは、右協議離婚は無効とはいえない。

【参照条文】 民法739

       民法763

       民法764

【掲載誌】  最高裁判所裁判集民事135号449頁

       判例タイムズ469号184頁

       金融・商事判例647号49頁

       判例時報1041号66頁

【評釈論文】 別冊ジュリスト99号30頁

       民商法雑誌87巻4号635頁

       主   文

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告の負担とする。

        理   由

  上告代理人鈴木悦郎、同山中善夫、同村岡啓一、同林裕司、同伊藤誠一、同森越清彦、同渡辺英一の上告理由について

 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであつて、本件離婚を無効とすることはできないとした原審の判断は、その説示に徴し、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

  よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    (宮崎梧一 栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 大橋 進)

 

  上告代理人鈴木悦郎、同山中善夫、同村岡啓一、同林裕司、同伊藤誠一、同森越清彦、同渡辺英一の上告理由

  一、本件の争点は、法律上の夫婦である上告人と訴外亡櫻庭金三郎(肺ガンにより死亡。療養中生活保護を受けていた。)とが事実上の婚姻関係を維持継続し、これを解消する意思がないのに、

   (一) 空知支庁福祉課担当吏員から、上告人の稼働収入分二万円は生活保護支給金約四万四、〇〇〇円か、控除しなければならず、控除せずに生活保護を受ける場合には詐欺罪になる旨告げられたため、その罪責の恐れと家族の生活困難及び夫の療養困難の事態を慮つて、法律上離婚すれば従来とおりの給付を得られるものと考え、止むなく協議離婚届を提出した。(届出時の緊急避難的状況)

   (二) 届出後の夫婦の生活関係は届出前と変更がなく、夫の死亡後も上告人において夫の債務を承継し祭紀を主宰するなど、法律上の配偶者と同一の権利義務を承継してきた(届出後の夫婦共同生活の実体一という特別な事実関係の下で、法律上なお離婚の意思を肯認しうるか、という点にある。

  二、原判決は、上告人の本件協議離婚の届出に至つた緊急避離的状況、並びに法律上の夫婦と何ら変わらぬ届出後の夫婦共同生活の実体を上告人の主張どおり認定しながら、「控訴人と亡金三郎とは、不正受給した生活保護金の返済を免れ、且つ引続き従前と同額の生活保護金の支給を受けるための方便とするため、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいて本件届出をしたものであるから、右両者間に離婚意思があつたものというべきであり、また、右に認定した諸事情があるからといつて、本件離婚が法律上の離婚意思を欠くものとして無効であるということはできない。」(原判決理由、一、1末尾)と述べて、上告人の請求を棄却した。右判旨によれば、原判決が「離婚意思」の意義につき、大判昭和六年二月二七日法律新聞三二三三号七頁、同昭和一六年二月三日民集二〇巻七〇頁、最判昭和三八年一一月二八日民集一七巻一一号一、四六九頁の各判例を踏襲して、「離婚意思」とは「法律上の婚姻関係を解消する意思」であると理解し、上告人と亡夫金三郎との間で協議離婚の届出に向けられた意思(届出意思)の合致があつた以上、「法律上の婚姻関係を解消する意思」即ち「離婚意思」の合致があつたものと判断しているのは明らかである。

  三、判旨の言うとおり「離婚意思」の内容について、「夫婦共同生活の実体を解消することに向けられた意思」(注釈民法(21)一二一頁は「事実上の婚姻関係を解消する意思」と表現しているが同趣旨である)ではなく、「法律上の婚姻関係を解消する意思」であるとしても、協議離婚の届出に向けられた意思(届出意思)の合致が認められれば、直ちに「離婚意思」が帰結されるという訳のものではない。

  なぜならば、判旨の言う「法律上の婚姻関係を解消する意思」とは「法的に明認され、且つ効力を付与された夫婦関係を解消することに向けられた意思」(法曹会、最高裁判所判例解説民事編昭和三八年度三四三頁)という意味であるから、「離婚の届出に向けられた意思」とは観念上別個のものであり、離婚を有効と判断するためには、届出意思の他に別個にその存在が確定されなければならないからである。

  通常、離婚の届出をなす夫婦は、その離婚が戸籍に記載されることによつて以後は一般社会より法律上夫婦ではないものとして遇せられることを了知して届出をするのであるから、原則的に「離婚の届出に向けられた意思」(届出意思一と「法的に明認され且つ効力を付与された夫婦関係を解消することに向けられた意思」(判旨のいう離婚意思)とは融合的に併存するものと考えられ、任意による届出意思の合致が認められれば、判旨のいう離婚意思が推定されることにはなる。

   しかし、極めて例外的ではあるが、届出意思の合致はあつてもなお法的に明認され、且つ効力を付与された夫婦関係の解消を欲しない場合が存在する。即ち、届出後の生活関係においても、夫婦共同生活の実体を維持継続するのは勿論のこと、法律上の夫婦関係と内縁関係との差としてあらわれてくる法的効果について、法律上の夫婦関係と同一の法的効果を享受する場合である(事実上、夫婦関係を継続する意思を有しながら、離婚届を出す場合、通常は「其ノ届出後ニ於ケル関係ハ之ヲ内縁関係二止メ少クトモ法律上ノ夫婦関係ハ一応之ヲ解消スル意思」一大判昭和一六年二月三日民集二〇巻七〇頁引用)であると推認できるが、右の例外的場合は内縁関係に止めようとするのではなく、そのまま法律上の夫婦関係の法的効果を享受しようと考えている点で、事実上の夫婦関係を継続しながら離婚届を出す場合の通常の意思解釈の更に例外をなしているのである。)。

  従つて、右の如き極めて特殊な場合には、届出意思から判旨のいう離婚意思、即ち「法律上の婚姻関係を解消する意思」は推定されず、「離婚意思」は否定されることになるのである。

  大判昭和一六年二月三日前掲判決が「事実上夫婦関係ヲ継続スル意思ヲ有シナカラ右ノ届出ヲ為ス場合二在リテハ其ノ届出後ニ於ケル関係ハ之ヲ内縁関係ニ止メ少クトモ法律上ノ夫婦関係ハ一応之ヲ解消スル意思ニテ即法律上真二離婚ノ意思ニテ右ノ届出ヲ為スモノト認ムヘキヲ社会ノ通念トシ極メテ明確ナル反証アルニ非サレハ其ノ離婚届ヲ以テ法律上ノ夫婦関係解消ノ意思ナキ虚偽ノ届出ナリト認メ得サルヘキモノトス」と述べて、反証の余地を残しているのも、同様の趣旨に出たものである。

  四、本件における上告人の主張は、届出時の緊急避難的状況及び届出後の夫婦共同生活の実体、並びに内縁の法的効果を否定する権利義務の承認といつた特段の事情を根拠に、本件こそが正に、届出意思から判旨のいう離婚意思が推定されない例外的場合に該当するというものである。

  本件の場合、上告人及び亡金三郎が事実上、夫婦としての共同生活を維持継続していた事実に加えて、次の諸事実を重視する必要がある。

   (一) 一家四人の家族の最低限度の生活を維持し、且つ経済的に夫金三郎の療養を可能ならしめようとして、親族も承知の上で仮装離婚したこと。

   (二) 夫金三郎の死亡後、同人の家財道具一切を上告人が引き取り、金三郎の借入金を上告人が支払つていること。

   (三) 亡金三郎の遺骨は上告人において引き取り、初七日、四九日、一周忌、三周忌等の法要は全て上告人が主宰していること。

   (四) 民生委員を初め周囲の人にとつても、上告人と亡金三郎とが夫婦であることは公知の事実であり、民生委員の「あなたはなぜ離婚届を出したんですか。そんなことをしなくてもいいのに。」の言葉にみられるように仮装離婚の便法が対外的にも知られていたこと。

  これらの事実は、「法的に明認され、且つ効力を付与された夫婦関係を解消することに向けられた意思」を推認させるものではなく、寧ろ内縁関係と対外的に理解されることを拒否し、主観的にも客観的にも「法的に明認され、且つ効力を付与された夫婦関係」であり続けようとする意思の表れであるから、前記大判昭和一六年二月三日判決のいう、離婚意思の推定を覆すに足る「極メテ明確ナル反証」に該当するものと言うべきである。

  五、然るに、原判決は漫然と「右に認定した諸事情があるからといつて本件離婚が法律上の離婚意思を欠くものとして無効であるということはできない。」と述べて(原判決の趣旨が反証として未だ十分でないといつているのか、そもそも反証の余地を認めていないのか判然としない。)、右反証の存在に拘らず、離婚意思を認定した点において、審理不尽の違法があり、右は判決に影響を及ぼすこと明らかな法適用の誤謬に他ならないから、民事訴訟法第三九四条及び同法第三九五条一項六号により破棄されるのが相当である。

  右のとおり上告理由を提出する。

 

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