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カテゴリ: 倒産

立花党首 自己破産手続き開始決定 - Yahoo!ニュース

傷害保険の保険金請求権発生時期 大阪高裁平成2年

保健判例百選 第2版 108事件

保険金請求控訴事件

大阪高等裁判所判決/平成元年(ネ)第1685号

成2年11月27日

【判決要旨】      破産宣告前に発生した交通事故に基づく傷害保険金債権および所得補償保険金債権は、身体傷害および入院治療を受けた時に発生する破産法6条2項にいう請求権に該当し、破産財団に帰属すると解するのが相当である。

【参照条文】      破産法6-1

            破産法6-2

            破産法162

            民事訴訟法385

            民事訴訟法388

【掲載誌】       判例タイムズ752号216頁

            金融・商事判例875号15頁

            金融法務事情1277号31頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト121号132頁

            別冊ジュリスト271号218頁

            法学研究(慶応大)64巻9号140頁

 

       主   文

 

一 控訴人の被控訴人らに対する本件各控訴をいずれも棄却する。

二 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       事   実

 

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人

 1 原判決を取消す。

 2 本件を京都地方裁判所に差し戻す。

二 被控訴人ら

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 当事者の主張

 左記のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一 原判決五枚目裏九行目から同六枚目裏五行目までを次のとおり訂正する。

「7 よって、控訴人は、

  (一) 被控訴人エイアイユーに対し、その第一、第二契約に基づき、後記破産宣告を受けた昭和六二年二月一二日以降の入通院、後遺障害により生じた、

(1) 右第一契約の入院保険金三六万円(四万五〇〇〇円×八日)、通院保険金四万五〇〇〇円(二万二五〇〇円×二日)、後遺障害保険金三〇〇〇万円(最高額一億五〇〇〇万円の二〇パーセント)の合計三〇四〇万五〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成元年三月一五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、

(2) エイアイユー第二契約の入院保険金八万円(一万円×八日)、通院保険金一万円(五〇〇〇円×二日)、後遺障害保険金二〇〇〇万円(最高額一億円の二〇パーセント)の合計二〇〇九万円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

  (二)被控訴人大同生命に対し、大同契約に基づき、前記破産宣告を受けた日以降の後遺障害により生じた高度障害保険金三〇三〇万円(最高額一億五一五〇万円の二〇パーセント)およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

  (三) 被控訴人安田火災に対し、安田契約に基づき、前記破産宣告を受けた日以降の就業不能、後遺障害により生じた所得補償保険金三三三万三三三三円(五〇万円×六か月二〇日)、後遺障害保険金一〇〇〇万円(最高額五○○○万円の二〇パーセント)の合計一三三三万三三三三円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

  (四) 被控訴人日動火災に対し、日動契約に基づき、前記破産宣告を受けた日以降の入通院、後遺障害により生じた、

(1) 自損事故条項の医療保険金八万八〇〇〇円(六〇〇〇円×八日+四〇○○円×一〇日)、後遺障害保険金二八○万円(最高額一四〇〇万円の二〇パーセント)の合計二八八万八〇〇〇円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

(2) 搭乗者傷害条項の医療保険金一四万円(一万五〇〇〇円×八日十一万円×二日)、後遺障害保険金二〇〇万円(最高額一〇〇〇万円の二〇パーセント)の合計二一四万円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、支払をそれぞれ求める。」

二 控訴人の主張

 1 左記のとおり、本件各保険契約に基づく保険金請求権は、破産法六条一項の「破産宣告ノ時ニ於テ有スル」財産にも、同条二項の「将来行フコトアルヘキ請求権」にも該当せず、控訴人に属する自由財産というべきである。

  (一) エイアイユー第一、第二契約、大同契約、安田契約中後遺障害保険契約、日動契約は、いずれも傷害保険契約である。そして、この種の保険契約は、急激かつ偶然な外来の事故により被った身体の傷害を保険事故とするが、入院保険金については、さらに「その直接の結果として、生活機能または業務能力の滅失をきたし、かつ医師の治療を受けた場合は、その状態にある期間に対し」支払われるもの(傷害保険普通保険約款第七条)とされる。また、後遺障害保険金の支払は、「その直接の結果として、事故の日から一八○日以内に後遺障害(身体に残された将来においても回復できない機能の重大な障害または身体の一部の欠損で、かつ、その原因となった傷害がなおった後のものをいいます)が生じたとき」に「別表(2)の各号に掲げる割合を乗じた額」で支払うものとされている(同約款第六条)。すなわち、右各保険契約は、保険事故を原因とし、その結果身体傷害が一定の状態に達したときに、初めて保険金請求権が具体化し、その請求が可能となるところ、控訴人が右各契約に基づき本訴において請求する保険金は、いずれも破産宣告後に発生した生活上の機能喪失、労働力喪失の事由に対し、その損害填補ないし生活水準の目減りの補償という性質を有するから、破産者に帰属する自由財産というべきである。

  (二) 安田契約中の所得補償保険契約は、「身体傷害」のために「就業不能」となり、その場合に生じた「損失」について保険金を支払うもので、身体傷害は保険事故ではなく、保険事故の原因にすぎない。したがって、就業不能による損失が生じない限り保険金は支払われない。控訴人が本訴において請求している所得補償保険金は、破産宣告後に、就業不能に陥ったため、失った所得の補償にあり、右保険金が自由財産として破産者個人に属すべきものであることは明らかである。

 2 右のとおり、本件各保険契約に基づく抽象的保険金請求権は、被害の発生の時点において具体化するのであるから、破産宣告後の被害に対する保険給付は破産者の自由財産とすべきで、これが破産財団に属すると言うのは、著しく公平の観念にもとる。このように解すべきことは、判例・学説上、退職金請求権について、破産宣告後に生ずる、継続勤務に対する賃金後払いとしての分ならびに交通事故による逸失利益損害賠償請求権につき破産宣告後に生じた分がいずれも破産財団に属さないと解されていることにより明らかである。

三 被控訴人らの主張

 争う。

 1 保険金請求権は、保険事故の発生と同時に単一の債権として発生し、その後の推移は右債権について予め契約時に合意された方法による当該債権の数額を算出するための材料にすぎない。

 本件各保険契約に基づく保険事故が破産宣告前に発生している以上、右各契約に基づく請求権は破産法六条一項に該当し、破産財団に属する。

 2 仮に、しからずとするも、右保険金請求権は、少なーとも、破産法六条二項にいう破産宣告前に生じた原因に基づく請求権に該当することは明らかである。

 保険金請求権は有償双務契約である保険契約に基づき発生する請求権であり、保険事故発生時までに支払われた保険料と対価関係に立つものである。しかも、本件各保険契約の保険事故がいずれも破産宣告前に生じており、しかも対価である保険料も右宣告前に支払われているのであるから、これに対応する保険金請求権が右宣告前の原因により生じたと解すべきは当然である。

 3 控訴人は、退職金請求権及び交通事故による逸失利益損害賠償請求権について、破産宣告後に生ずる分が自由財産に属すると解されているとして、本件各契約に基づく保険金も右宣告後の逸失利益に対応する分については同様に解すべきであると主張する。

 しかしながら、右退職金については、同金員が賃金後払いの性質を有し、対価たる労務が破産宣告後になされており、その取得原因が右宣告後にあるからこそ右のように解し得るのである。これに対し、有償双務契約である保険契約の保険料は破産宣告前に支払われているのであるから、保険料の対価である保険金請求権も又当然破産財団に帰属するというべきである。

 また逸失利益の損害賠償請求権は、加害行為による傷害によって、同時点で具体的権利として発生しており、ただ、その数額が事後的に確認され、数額化されるにすぎないことは、保険金請求権の場合と同じである。

第三 証拠〈省略〉

   理   由

一 請求原因1ないし4(本件各保険契約の成立)の事実は、エイアイユー第一契約及び大同契約の各締結日を除き、いずれも控訴人と当該各被控訴人との間に争いがなく、争いのある右各契約の締結日は、控訴人と被控訴人エイアイユー及び同大同生命との間に争いのない右各契約の保険期間及び弁論の全趣旨によれば、昭和六一年五月一日以前であったことが認められる。

二 ところで、控訴人が昭和六二年二月一二日、京都地方裁判所(同庁同年(ヱ第五号)において破産宣告を受けたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、その破産管財人に加藤英範が選任された事実が認められるところ、控訴人は、本訴において右破産宣告を受ける以前の昭和六一年九月四日、車両運転の単独事故(本件自損事故)により受傷し、その治療のため同日から同月二五日までと、同月三〇日から同六二年二月一九日まで入院治療を受け、同月二四日から同六三年八月一〇日までの間に一〇日以上通院治療を受けたものの併合一〇級の後遺障害を残したとして、被控訴人エイアイユーに対し、その第一、第二契約に基づき、破産宣告を受けた昭和六二年二月「有以降の右入通院、後遺障害により生じた各保険金、被控訴人大同に対し、大同契約に基づき、前同日以降の右後遺障害により生じた高度障害保険金、被控訴人安田火災に対し、安田契約に基づき、前同日以降の就業不能により生じた所得補償保険金と、後遺障害により生じた後遺障害保険金、被控訴人日動火災に対し、日動契約に基づき、前同日以降の右入通院、後遺障害により生じた各保険金を、それぞれ請求するものである。

 これに対して被控訴人らは、控訴人の本件各保険契約に基づく保険金請求権が破産宣告前に発生したもので、破産法六条一項、少なくとも同条二項に該当し、いずれにしても破産財団に属するから、破産管財人が本訴の訴訟物につき当事者適格を有し、控訴人にはその適格がないと主張するので、検討する。

 なお、弁論の全趣旨によれば、破産者である控訴人の破産管財人加藤英範は、本件各提訴に先立ち、京都地方裁判所に、被控訴人エイアイユーに対し第一、第二契約に基づき(同庁昭和六二年(ワ)第二八五〇号)、被控訴人大同生命に対し大同契約に基づき(同第一干三九号)、被控訴人安田生命に対し安田契約に基づき(同第二七一三号)、いずれも控訴人が本件自損事故により受傷したとして、その結果生じた入通院、後遺障害、就業不能による保険金の発生を請求原因として保険金請求訴訟を提起し、現に同裁判所に係属していることが窺われる(以下一括して「別訴」という。)。

 すると右別訴は破産管財人による法定訴訟担当として、その判決の既判力が控訴人に及ぶ関係にあるものの、別訴における破産管財人(原告)と本訴における破産者(控訴人)とは、破産宣告時を基準にして訴訟の対象とされている権利が破産財団に属するときには破産管財人に訴訟追行権が付され、その権利が自由財産に当たるときには破産者が同追行権を有する関係にあるから、以下ではまず本訴において控訴人の主張する本件各契約に基づく保険金請求権が自由財産に属するか否かを、控訴人の主張自体に即して検討を加え、控訴人の当事者適格の有無につき判断することとする。

 そこで、本件各保険契約の約款の定め、及び右各保険契約の性質に照らして、控訴人の主張を前提としたならば、右各契約に基づき生ずることのあるべき保険金請求権が何時、どのような態様で発生し、何時履行期が到来すると解すべきかを考察することとするが、その前提として、本件各保険契約における保険約款の内容につき検討する。

 1 〈証拠〉及び右当事者間に争いがない事実に、弁論の全趣旨を総合すると、

  (一) エイアイユー第一、第二契約は、普通傷害保険契約であり、その約款第一条一項には、「当会社は、被保険者が(略)急激かつ偶然な外来の事故(略)によってその身体に被った傷害に対して、この約款に従い保険金(死亡保険金、後遺障害保険金および入院保険金をいいますこを支払います。」との記載があり、同第六条には、後遺障害保険金の、同第七条には、入院保険金の各支払条件及びその額の算定基準が、同第二一条には、被保険者が被控訴人エイアイユーに保険金を請求するに当たり提出すべき後遺障害診断書、入通院日数証明書等の書類が定められており、同第二三条一項には、右被控訴人は被保険者が前同第二一条一項の請求手続をした日から三〇日以内に保険金を支払う旨、ただし、右被控訴人が右期間内に必要調査を終えられなかったときは、これを終えた時に遅滞なく保険金を支払う旨の定めがある。

  (二) 大同契約は、医療保険付生命保険契約であり、控訴人主張の高度障害保険金に関し、その定期保険普通保険約款第二条一項には、被保険者が給付責任開始の日以後に発生した傷害によって保険期間中に、例えば両眼の視力完全永久喪失など所定の高度障害状態となった場合に、死亡保険金と同額を保険金受取人に支払う旨定められている。また、同約款第四条二項には、保険金受取人は、高度障害保険金の支払事由が発生した場合には、すみやかに請求に必要な書類を被控訴人大同に提出すること、同条四項には、右被控訴人による調査又は診断のため特に日数を要した場合を除き、請求に必要な書類が右被控訴人の本社に到達した日の翌日からその日を含めて五日以内に保険金を支払う旨定められている。

 (三) 安田契約は、所得補償保険契約に、傷害による死亡、後遺障害担保特約条項が付されたもので、所得補償保険普通保険約款第一条には、「当会社は、被保険者が傷害(略)を被り、そのために就業不能になったときは、この約款に従い被保険者が被る損失について保険金を支払います。」と、第二条には「(1)傷害 被保険者が、急激かつ偶然な外来の事故によって被った身体の傷害をいいます。」とそれぞれ定められ、また同条(4)ないし(6)には、就業不能開始日から右の状態が継続する当初の約定期間(安田契約では一四日間)を免責期間とし、右期間終了日の翌日から約定の期間(安田契約では一二か月)を填補期間とし、右期間内における被保険者の就業不能日数を就業不能期間とする旨定められ、第五条において右就業不能期間に対し被保険者に保険金を支払う旨それぞれ定められている。そして、同第二四条には、被保険者が就業不能でなくなった日等から三○日以内に身体障害及び就業不能を証明する医師の診断書等を提肝して保険金請求を行うことが、同第二五条には、被控訴人安田は、原則として被保険者又は保険金受取人が右請求手続完了日から三〇日以内に保険金を支払う旨定められている。

 また右約款の特約条項第一条には、「当会社は、被保険者が所得補償保険普通保険約款第二条第一号の傷害(略)を被りその直後の結果として傷害の原因となった事故(略)発生の日から一八〇日以内(略)に後遺障害(略)が生じたときは、この特約条項に従って保険金(死亡保険金および後遺障害保険金)を支払います。」と定められ、その履行期については、第一三条において右所得補償保険普通約款を準用している。

  (四) 日動契約は、自家用自動車保険契約で、同約款第二章自損事故条項第一条一項には、「当会社は・・・・・・自動車(略)の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害(略)を被り、かつ、それによってその被保険者に生じた損害について自動車損害賠償保障法第三条に基づく損害賠償請求権が発生しない場合は、この自損事故条項および一般条項に従い、保険金(死亡保険金、後遺障害保険金、(略)医療保険金をいいます。(略))を支払います。」と、同第四章搭乗者傷害条項第一項には、「当会社は、(略)搭乗中の者(略)が被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害(略)を被ったときは、この搭乗者傷害条項および一般条項に従い保険金(略)を支払います。」とそれぞれ定められている。また同約款第六章一般条項二〇条一項には、保険金請求権が次の時から発生し、行使できる旨定められている。

(1) 自損傷害に関し、後遺障害保険金については、被保険者に後遺障害が生じた時、

 医療保険金については、被保険者が平常の生活もしくは業務に従事することができる程度になおった時または事故の発生の日を含めて一六〇日を経過した時のいずれか早い時、

(2) 搭乗者傷害に関し、後遺障害保険金については、被保険者に後遺障害が生じた時または事故の発生の日を含めて一八〇日を経過した時のいずれか早い時、

 医療保険金については、自損傷害と同旨、

 以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

 2 右で認定したところに基づき、本件各保険契約に基づく保険金請求権の性質につき検討した上で、右債権が破産法六条一項、又は二項にいう破産財団に属する債権に当たるか否かについてみることとする。

  (一) まず、エイアイユー第一、第二契約、安田契約中の後遺障害担保特約条項(以下「後遺障害特約」という。)、日動契約は、右で認定した、それぞれの約款によれば、いずれも傷害保険の性質を有するところ、右保険は、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によって身体に被ったことを保険事故とし、その結果生ずる入院、通院、後遺障害等は単なる支払条件にとどまるものと解される。そしてこれらの保険金の履行期は、保険金受取人が保険者に対し、右支払条件を証明する診断書等を提出して請求をした日から原則として三〇日以内とされ(エイアイユー第一、第二契約、安田契約中後遺障害特約)、或いは、後遺障害に関し、その発生した時、入通院に関し治癒した日か事故日を含め事故後一六〇日を経過した日のいずれか早い日とされており(日動契約)、これらの事実に鑑みると、右各保険規約に基づく被保険者の保険金請求権は、右保険事故の発生と同時に、約款所定の支払条件の生起を停止条件とする債権が発生し、右条件成就後約款所定の履行期の到来をもってこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

  (二) 次に、大同契約は、医療保険付生命保険をその内容とし、前記で認定した定期保険普通保険約款中の高度障害保険金支払条項によると、傷害によって所定の高度障害状態になったことを保険事故とするものと解される。そしてその履行期は、原則として、保険金受取人が診断書等所定の書類を提出して請求し、被控訴人大同の本社に右書類が到達した日から起算して五日以内とされている。

 右の事実に鑑みると、大同契約に基づく高度障害保険金請求権は、傷害又は疾病によって保険期間内に所定の高度障害状態になったという保険事故の発生と同時に発生し、その後約款所定の履行期の到来をもってこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

  (三) 安田契約中所得保障保険約款に基づく保険は、被保険者の傷害そのものではなく、右傷害のために発生した就業不能を保険事故とし、それにより被った実際の損害を保険証券記載の金額を限度として填補することを目的とした損害保険の一種というべきであり(最高裁平成元年一月一九日一小法廷判決、判例時報一三〇二号一四四頁)、その履行期は、前記認定の右約款によれば、保険金受取人又は被保険者による、所定期間内の請求手続完了後三〇日以内である。

 右の事実に鑑みると、右保険金請求権は、右就業不能という保険事故の発生と同時に発生し、その後約款所定の請求手続完了後における履行期の到来をもってこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

 3 そこで、右1、2で認定、説示したところに基づき、右各保険金請求権が破産法六条一項、または二項に該当し、破産財団に属するものか否かにつき検討する。

 まず傷害保険としての性質を有するエイアイユー第一、第二契約、安田契約中後遺障害特約、日動契約に基づく保険金請求権は、前記控訴人の主張によれば、その保険事故である、「急激かつ偶然な外来の事故による身体傷害」が本件破産宣告前既に発生し、右時点において停止条件付債権として発生していることになるから、少なくとも破産法六条一項にいう破産宣告前に生じた原因に基づき将来行うことあるべき請求に当たるものといわなければならない。

 次に、安田契約中所得保障保険約款に基づく保険金請求権は、控訴人の主張によれば、その保険事故である、「被保険人者の傷害のために発生した就業不能」が本件事故日である昭和六一年九月四日、控訴人が入院治療を受けたことにより発生していることになり、右時点において債権として発生し、その後約定の免責期間を経て就業不能状態が継続することにより具体的な数額が確定し、その履行期が破産宣告後に到来することかあるにとどまるというべきであるから、右保険金請求権も又少なくとも破産法六条二項に該当する債権と解するのが相当である。

 これに対し、控訴人が本訴において請求する大同契約に基づく保険金請求権は、傷害により所定の高度障害状態になったことを保険事故とするものであるところ、控訴人の主張によると、控訴人は、破産宣告を受けた昭和六二年二月一二日から一週間後に入院先を退院し、その月の一四日から翌六三年八月一〇日までの間に一〇日通院治療を受けて、併合一〇級の後遺障害を遺したというのであるから、右請求権が自由財産に属する旨の控訴人の主張を前日とする限り、控訴人が右訴えにつき当事者適格を有することは否定できないものの、本件自損事故の傷害により所定の高度障害状態になっていないことは控訴人の右主張自体によって明らかである。

 なお控訴人は、その主張を前提とすればエイアイユー第一、第二契約、安田契約、日動契約に基づき生じることのあるべき保険金中破産宣告後の入通院期間に相当する分及び右宣告後の就業不能、後遺障害分が自由財産に属する理由として退職金請求権中破産宣告後の賃金相当分が自由財産に属すると解されていること及び不法行為に基づく逸失利益損害賠償請求権中右同様の分を自由財産に属すると解すべきことを挙げるけれども、退職金につき右のように解されているのは、それが賃金後払いの性質を有し、破産宣告後の労務の対価として発生した分は、まさに右宣告後の原因によって生じたからにほかならないし、逸失利益損害賠償請求権については、もともと事故の発生時点において不法行為による損害賠償請求権の総てが発生していると解するのが相当であるから、控訴人のこれらの点に関する主張は失当といわなければならない。

 4そうすると、控訴人の主張自体によっても、大同契約以外の本件各保険契約に基づく保険金請求権は総て破産財団に帰属することになるから、控訴人は、被控訴人エイアイユー、同安田火災、同日動火災に処する本件訴えの当事者適格を有しないことが明らかであり、また被控訴人大同生命に対する本訴請求は失当といわなければならない。

三 よって、控訴人の被控訴人エイアイユー、同安田火災、同日動火災に対する本件訴えはいずれも不適法であるから、却下すべきであり、また、被控訴人大同生命に対する本訴請求は失当であるから棄却すべきである。したがって、原判決中右被控訴人大同生命に対する請求に関する訴えを不適法として却下した部分は失当であって、本来ならば取消されるべきであり、民訴法三八八条によれば、かかる場合、控訴裁判所は事件を第一審裁判所の差戻すことを要する旨規定されているけれども、右規定の趣旨は審級の利 を保障することにあるから、本件のごとく、本案についてその理由のないことが控訴人の主張自体から明らかであり、事実の認定そのものについて審級の利益を保障すべき実質的理由のない場合には、敢えて第一審に差戻す必要はないものと解される。しかしながら、原判決を取消して請求棄却の判決をすることは、原判決よりも控訴人に不利益となり、民訴法三八五条により、原判決を控訴人の不利益に変更することは許されないので、当裁判所は原判決の結論を維持するほかない。

 そうすると、右と結論を同じくする原判決は相当であるから控訴人の被控訴人らに対する本件各控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石田 眞 裁判官福永政彦 裁判官鎌田義勝)

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保証・担保の提供が無償否認対象とされた最高裁昭和62年

倒産判例百選第5版34事件 6版 36事件 解説者 山本研早稲田大学教授 5版は解説 松下淳一東京大学教授

配当異議等請求事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和58年(オ)第734号

昭和62年7月3日

【判示事項】      一 保証又は担保の供与と破産法72条5号にいう無償行為

            ニ いわゆる同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が当該会社のためにした保証又は担保の供与が破産法72条5号にいう無償行為に当たる場合

【判決要旨】      一 破産者が義務なくして他人のためにした保証又は担保の供与は、債権者の主たる債務者に対する出損の直接の原因をなす場合であっても、破産者がその行為の対価として経済的利益を受けない限り、破産法72条5号にいう無償行為に当たる。

            二 いわゆる同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が義務なくして当該会社のために保証又は担保の供与をしたことを直接の原因として、債権者が当該会社に対して出損をしても、破産者がその行為の対価として経済的利益を受けない場合には、右行為は、破産法72条5号にいう無償行為に当たる。(一、二につき反対意見がある)

【参照条文】      破産法72

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集41巻5号1068頁

            最高裁判所裁判集民事151号297頁

            判例タイムズ647号113頁

            金融・商事判例780号3頁

            判例時報1252号41頁

            金融法務事情1171号29頁

【評釈論文】      金融法務事情1421号74頁

            債権管理21号32頁

            ジュリスト898号68頁

            ジュリスト905号81頁

            ジュリスト臨時増刊910号142頁

            別冊ジュリスト106号82頁

            手形研究32巻5号4頁

            手形研究32巻9号22頁

            手形研究33巻1号5頁

            判例タイムズ677号306頁

            判例評論353号205頁

            法学研究(慶応大)61巻11号130頁

            法曹時報41巻11号175頁

            民商法雑誌98巻6号784頁

            NBL393号52頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人的場悠紀、同中井康之、同木村保男、同川村俊雄、同大槻守、同松森彬の上告理由について

 破産者が義務なくして他人のためにした保証若しくは抵当権設定等の担保の供与は、それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であつても、破産者がその対価として経済的利益を受けない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当たるものと解すべきであり(大審院昭和一一年(オ)第二九八号同年八月一〇日判決・民集一五巻一六八〇頁参照)、右の理は、主たる債務者がいわゆる同族会社であり、破産者がその代表者で実質的な経営者でもあるときにも妥当するものというべきである。けだし、同号にいう無償行為として否認される根拠は、その対象たる破産者の行為が対価を伴わないものであつて破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、破産者及び受益者の主観を顧慮することなく、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから、その無償性は、専ら破産者について決すれば足り、受益者の立場において無償であるか否かは問わないばかりでなく、破産者の前記保証等の行為とこれにより利益を受けた債権者の出捐との間には事実上の関係があるにすぎず、また、破産者が取得することのあるべき求償権も当然には右行為の対価としての経済的利益に当たるとはいえないところ、いわゆる同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が会社のため右行為をした場合であつても、当該破産手続は会社とは別個の破産者個人に対する総債権者の満足のためその総財産の管理換価を目的として行われるものであることにかんがみると、その一事をもつて、叙上の点を別異に解すべき合理的根拠とすることはできないからである。

 これを本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1)訴外平田染工株式会社(以下「平田染工」という。)は、いわゆる同族会社であるが、昭和五一年六月ころ、資金繰りが悪化し、原料購入先である上告人に対し、代金の支払猶予を求めた、(2)上告人は、同年九月三日、平田染工に対し、向う六か月間に満期が到来する金額合計三六七三万三〇六〇円の支払手形の書換えのため上告人において立替決済をする旨約するとともに、平田染工の代表取締役で実質的な経営者でもある訴外高井一三(以下「破産者高井」という。)との間で、同人が平田染工の上告人に対する取引上の一切の債務につき連帯保証(以下「本件保証」という。)をし、かつ、同人所有の本件不動産につき上告人のため極度額四〇〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定する旨の合意をし、その旨登記を経由した、(3)破産者高井は、本件保証及び本件根抵当権の設定に際し、保証料の取得その他破産財団の増加をもたらすような経済的利益を受けなかつた、(4)上告人が右立替決済の一部の履行をしたところ、破産者高井は、同年一二月二一日破産の申立をされ、昭和五二年三月一四日京都地方裁判所において破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に選任された、(5)その後、本件不動産について任意競売手続が開始され、同裁判所により、上告人に対し本件根抵当権に基づき二九一九万五六三五円を配当する旨の配当表が作成されたため、被上告人は、右根抵当権の設定が破産法七二条五号にいう無償行為に当たるとして否認権を行使し、配当期日において異議を申し立てるとともに、本訴において同号に基づき本件保証をも否認した、というのであり、以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らして首肯することができ、その過程に所論の違法はない。

 そうすると、右事実関係のもとにおいて、破産者高井が破産の申立前六月内に義務なくして平田染工のためにした本件保証及び本件根抵当権の設定は破産法七二条五号にいう無償行為に当たり、被上告人の本件否認権行使を肯認すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又はこれと異なる見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官島谷六郎、同林藤之輔の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 裁判官島谷六郎の反対意見は、次のとおりである。

 私は、破産者高井が義務なくしてした本件保証及び本件根抵当権の設定が破産法七二条五号にいう無償行為に当たるとする多数意見に賛成することはできない。その理由は、次のとおりである。

 破産法七二条五号による無償否認は、破産者及び受益者の主観的要件を全く問うことなく、一定期間内の無償行為でありさえすれば、ただそれだけの理由で否認することを認めた特殊な否認類型である。同条が定める他の否認類型、すなわち一号の故意否認では、破産者及び受益者において否認の対象となる行為が破産債権者を害することを知つていたことが必要であり、二号ないし四号の危機否認でも、受益者らが破産者の支払の停止又は破産の申立があつたことを知つていた等の主観的要件が必要とされるのに対し、五号の無償否認では、破産者及び受益者の主観のいかんを全く問わないのである。破産者が破産債権者を害する意思をもつことを要しないのはもちろん、受益者らにもこのような主観的要件は必要ではなく、客観的に無償行為であるならば、これを否認しようというものである。このような純客観主義的な否認類型を認めた理由は、否認の対象が無償行為だからである。無償で財産上の利益を取得した者は、それによつて他人の権利が害される場合には他人に譲らなければならないという法理念に基づき、否認を許しても、財産状態が原状に復するだけで受益者がそのために損失を被ることがないことを前提とするものであつて、贈与がその典型である。贈与が否認されても、受贈者において贈与者から贈与された物を返還すれば足り、それ以上に失うものがなく、その立場が不当に害されることはないからである。これに反し、破産者の保証若しくは担保の供与(以下「保証等」という。)があるため債権者が主たる債務者に対して貸付等の出捐をした場合において、破産者の保証等の行為が無償行為に当たるとしてこれを否認しうるものとすれば、債権者は保証等がないにもかかわらず出捐を行つたのと同じ結果となる。債権者としては、保証等がなければ出捐をしなかつたはずであるが、それが否認されると債権者の出捐だけがそのまま残ることになり、その立場は著しく害されるのであつて、贈与が否認された場合の受贈者の立場とは甚だしく異なる。このような場合までをも無償行為とみて、当事者の主観のいかんを問わず、客観主義的な無償否認を許すのは、法の趣旨とは考えられない。

 多数意見は、破産者が保証等の行為をしたとしても、それだけでは破産者自身が反対給付を受けることはなく無償行為に当たると解するのであるが、債権者の立場からすれば、主たる債務者に対する出捐をしているのであり、破産者自身債権者の右出捐を目的として保証等の行為をしているのである。両者は相互に密接に関連しており、一体として観察されるべきであつて、別々に切り離して評価することは許されない。もちろん、破産者は、右行為の時点では、債権者から反対給付を受けることはないが、自らは何らの出捐をすることもなく、単に債務の負担をするだけであり、将来保証債務を履行し若しくは担保権を実行された場合にはじめて出捐をすることとなるのであつて、この場合には破産者は実質的対価としての求償権を取得する。したがつて、贈与のような、全く対価のない無償行為ということはできない。なおまた、担保の供与についてみるに、破産者が右のように他人の債務について担保の供与をした場合ではなく、破産者が自己の債務について破産債権者に担保を供与した場合には、破産法七二条二号ないし四号の危機否認の規定が適用されることになるのであるが、ここでは受益者の悪意が否認の要件となる。同じく破産者が担保の供与をした場合であつても、自己の債務についてしたときには主観的要件が必要とされるのに、他人の債務についてしたときにはこれを要しないというのでは、両者の均衡がとれず、甚だ不合理であるといわざるをえない。この二つの場合とも、別除権の対象となりうる点では同じである。

 否認権の制度は、破産債権者のために債権の保全を図り、破産財団の増加に資するものではあるが、他方、取引の安全を害する側面を有する。破産法は、有償行為については、破産者の詐害の意思と受益者の悪意が存するときにのみ否認を許すこととして、債権の保全を図つているが、これが存しないときには、否認を許さないで、取引の安全を図つている。これに反し、無償行為については、詐害の意思等が存在しないにもかかわらず、すべて否認を許すことによつて、取引の安全を全く無視して、債権の保全を図るのである。しかし、それはひとえに無償行為であつて、たとえ否認を許しても、受益者に損失を被らせることがないからである。破産法は、このようにして債権の保全と取引の安全との調和を図つているのであつて、無償行為の範囲を広く解釈することによつて取引の安全を害することは許されないのである。破産者がした本件のような保証等の行為は、破産法七二条一号による否認の対象となりうることは格別、同条五号によつてはこれを否認することができず、多数意見の引用する大審院判例は変更されるべきものと思料する。

 したがつて、破産者高井がした本件保証及び本件根抵当権の設定が同条五号にいう無償行為に当たるとした原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、右違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、同条五号による否認のみを原因とする被上告人の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを認容した原判決を破棄し、第一審判決を取り消して、右請求を棄却すべきである。

 裁判官林藤之輔の反対意見は、次のとおりである。

 私も、多数意見の結論に賛成することができない点では、裁判官島谷六郎の反対意見と同じであるが、その理由とするところを異にするので、私の考えを述べてみたい。

 破産者が義務なくして他人のためにした保証若しくは担保の供与は、破産者がその対価として経済的利益を受けない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当たると解すべきことは、多数意見の説示するとおりである。しかし、主たる債務者が破産者及びその一族の所有かつ経営にかかるいわゆる同族会社であり、破産者がその代表者で名実ともにこれを支配しうる経営者であるような関係にあつて、債権者が破産者の保証若しくは担保の供与(以下「保証等」という。)があればこそ会社に対して出捐をしたものであり、かつ、会社が右出捐を得られないことになれば、その営業の維持遂行に重大な支障を来たすため、破産者自らこれに代わる措置を講ずることを余儀なくされたなどの事情があつて、実質的に、破産者が会社に対する善管注意義務ないし忠実義務を履行するとともに自己の出資の維持ないし増殖を図るため保証等をしたものといえるときには、破産者自ら直接ないし間接に経済的利益を受け破産財団の保全に資したものとして、右行為は無償行為には当たらないものと解するのが相当である。けだし、右の経済的利益の有無は、具体的事案に即して実質的に考察すべきものであつて、多数意見が引用している大審院の判例も、対価関係の存否の判断については破産者の意思をも参酌しうるものとし、破産者自ら経済的利益を受けたといえる場合の例示として、主たる債務者の扶養義務者である破産者が保証等をすることにより債権者の出捐がされたため破産者の右義務の履行が緩和された場合、あるいは一種の企業形態である匿名組合において匿名組合員たる破産者が相手方の営業上の債務につき保証等をした場合を挙げているところ、その趣旨とするところは、前者にあつては、主たる債務者が債権者から出捐を得られなければ、それによる経済的不利益が破産者に帰するため、破産者のする保証等が右の不利益を免れさせる意義を有することとなり、また、後者にあつては、破産者が相手方の営業のために出資しその営業より生ずる利益の分配請求権を有する地位にあるため、自己のする保証等が利益分配請求権及び出資の維持ないし増殖に資するからにほかならないからであり、以上の理は、前述のような場合にも等しく妥当するものというべきである。

 これを本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1)平田染工は、破産者高井及びその義父で創業者でもある訴外平田延三郎とそれらの一族が所有かつ経営するいわゆる同族会社であり、その実質的な経営権限は代表者の破産者高井に集中していた、(2)破産者高井は、平田染工の資金繰りが悪化したのちは、原料購入の取引先である上告人等との融資交渉に奔走し、本件支払手形の書換えのため、上告人から立替決済の資金援助を受け、これを担保するため本件保証等をした、(3)右行為の当時、破産者高井は、平田染工から約三五〇〇万円にのぼる貸付けを受けていた、というのである。右事実関係に照らせば、破産者高井は、平田染工と法人格を異にするとはいえ、名実ともこれを支配しうる経営者であつて、実質的に極めて密接な関係にあり、経済的観点からみても利害関係を共通にし、かつ、破産者高井の本件保証等があればこそ平田染工が上告人からの出捐を得られたものというべきであり、他に格別の事情がない限り、平田染工において右出捐を得られないことになれば、その営業の維持遂行に重大な支障を来たし、破産者高井が、自己所有の本件不動産を処分し、あるいは前記借受金を返済するなどして、自ら平田染工に対し資金の手当を講ぜざるをえなかつた蓋然性が高いものと解しうるのである。そうとすれば、破産者高井は、実質的に、平田染工に対する善管注意義務ないし忠実義務を履行するとともに自己の出資の維持ないし増殖を図るため本件保証等をしたものとみることができるのであつて、原判示のように保証料等を取得しなかつたとしても、自ら直接ないし間接に経済的利益を受け破産財団の保全に資したものとして、右行為が無償行為に当たらないと評価する余地が十分に存するものというべきである。

 したがつて、破産者高井が本件保証及び本件根抵当権の設定の対価として経済的利益を受けたものとはいえないとしたうえ、右行為が破産法七二条五号にいう無償行為に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽の違法があるものというべく、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、これと同旨をいう論旨は、理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、叙上の見地から更に審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻すのが相当である。

 (裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧 圭次 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一 裁判官 林 藤之輔)

 

 上告代理人的場悠紀、同中井康之、同木村保男、同川村俊雄、同大槻守、同松森彬の上告理由

 原判決には、破産法第七二条第五号の解釈・適用に誤まりがあり、そうでないとしても、理由不備・経験則違反の違法があり、その誤りはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決を破棄し、更に相当の裁判をなされた一1 破産法第七二条に定められた否認権は、破産者のなした破産債権者を害すべき行為を取消して、破産財団の状態を原状に回復する権利である。これは破産債権者の共同担保の維持をはかり、債権者平等の理念を達成することを目的とする。従つて、否認権が成立するには、少なくとも破産者のなした行為が破産債権者を害することを要するが、その観点に立てば、否認権の成否につき、破産者ひいては破産債権者の立場を中心に考えるべきことは言うまでもない。

 しかしながら、否認権は、破産債権者の利益のために、破産宣告前の破産者の行為の効力を破産財団に対する関係で失わせて破産財団の状態を原状に回復させる権利であるから、事理の当然の結果として、否認権を行使されると、受益者は破産者の行為によつて一旦取得していた利益を破産債権者のために吐き出さなければならない。従つて否認権行使の結果、破産債権者と受益者の利害が衝突することとなるから、いかなる要件のもとに否認権を認めるかは、破産債権者と受益者との間の利害を適正に調整するという見地から決定されなければならない。

 2 破産法第七二条は否認権が成立する場合を列挙している。講学上、故意否認・危機否認・無償否認の三つに分類されているが、条文上の成立要件を概観すると明らかなように、単に破産債権者を害する破産者の行為でありさえすれば、直ちに否認権を認めている訳ではない。破産法第七二条は、破産者の行為の時期・破産者の主観・受益者の主観・行為の内容に応じて否認権の成立する場合の類型化がなされている。

 このような類型化自体、法が破産債権者と受益者の利害を適正に調整するという見地から否認権の成否を考えていることを示している。しかし、これら各類型が定める要件は、必ずしも一義的に明らかとは言えず、そのため否認権の成立を判断するにしても形式的なあてはめ作業では解決できない場合が多々存するのである。

 3 たとえば、破産債権者を害すべき行為であることは、否認権成立のための最も基本的な要件であるが、これとても適正価額による不動産の売却や本旨弁済について、古くから、それらが有害行為であるか否か争われている。これは、法解釈上は「破産債権者を害すべき行為」が何であるかという問題であるが、その究極にあるのは、破産債権者と受益者の利害を如何に適正に調整するかという問題である。

 本件においても、破産者の連帯保証・担保提供行為が無償行為であるかが争われているが、それは、同様に「無償行為」の解釈問題の様相を示しているものの、やはり、究極的には、破産債権者と受益者の利害を如何に適正に調整するかという問題であり、その問題の本質は、適正価額による不動産売却等の場合と同質であると言えよう。

 4 そこで、対立する破産債権者と受益者の利害を調整する原理が何であるか発見されなければならない。

 しかし、破産宣告前の破産者の状態にも様々な段階があり、その経済状態の把握は必ずしも容易ではないうえ、法的には同じ破産者の行為であつても、破産者の財産状態の実質如何によつて、破産債権者に与える影響は著しくことなることもあり、又、問題となる破産者の行為に対する当事者の認識も千差万別である。さらに破産者の行為が、全債権者との関係で有害である場合や、一部債権者に有利で多数債権者に有害である場合など受益者と破産債権者の関係・受益者と破産者の関係も事案によつて著しく異なつており、当事者間の利害関係は錯綜している。従つて、受益者と破産債権者の利害を適正に調整するためには、破産法第七二条各号に挙示されている要件をはじめ、その他諸般の事情、即ち破産者の財産や営業の状態、破産者の行為の内容・時期及びその態様、行為の目的又は動機をはじめとする破産者や受益者の主観的状態、その他の行為時の状況などを、各事案ごとに具体的に検討して、破産債権者の利益と受益者の利益とを利益衡量せざるを得ない。その結果、破産者の行為が信義則ないし公平の理念に照らして是認できないと判断されるとき、その行為は否認されるべきであり、反対に、破産者の行為が、たとえ破産債権者にとつて計算上有害であつたとしても、それが社会的に必要かつ正当なものと評価された場合には、否認権は成立せず、その行為による一般財産の減少や破産債権者間の不公平は、受忍されなければならない。

 このような利益衡量を通じてこそ、事件の具体的妥当な解決がはかりうるのである。

 5 学説において、否認権の一般的成立要件として、破産者の行為によつて破産債権者が害されることに加えて、実質的な利益衡量を行つた結果、破産者の行為が破産債権者との関係で不当であると評価されることを独立の要件に掲げる立場や、同じく「相当性」を否認権成立の阻却事由と考える立場は右の考えと同旨に出たものと思われる。

 そこで、以下、便宜上、右の実質的な利益衡量による判断を仮に行為の不当性の判断と称することとする。

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