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カテゴリ: 保険

死亡損害について実際の所得ではなく賃金センサスによった大阪地裁平成31年3月判決

損害賠償請求事件

【事件番号】 大阪地方裁判所判決/平成30年(ワ)第4119号

【判決日付】 平成31年3月22日

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 

  1 被告は,原告に対し,3822万6659円及びこれに対する平成28年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  2 原告のその余の請求を棄却する。

  3 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

  4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

        事実及び理由

 

 第1 請求

    被告は,原告に対し,5677万2978円及びこれに対する平成28年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要

    本件は,亡A(以下「亡A」という。)と被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)との間で発生した交通事故(以下「本件事故」という。)に関して,本件事故によって死亡した亡Aの夫である原告が,亡Aの被告に対する民法709条に基づく損害賠償請求権を相続により取得したと主張して,被告に対し,損害賠償金5677万2978円及びこれに対する本件事故発生日である平成28年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

  1 前提事実等(本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)

   (1) 本件事故の発生(争いのない事実,甲1,14,15,25)

    ア 日時

      平成28年12月1日午後8時6分頃

    イ 場所

      大阪市中央区(以下略)先路上(以下「本件事故現場」という。)

    ウ 事故状況

      本件事故現場の状況は,概ね別紙図面記載のとおりであり,南北に延びる道路(以下「本件南北道路」という。)と概ね東西に延びる道路が交差する信号機により交通整理の行われている交差点(◇◇交差点。以下「本件交差点」という。)がある。

      また,本件交差点の北側の大阪市中央区(以下略)先には,信号機により交通整理の行われている交差点(△△交差点。以下「本件北側交差点」という。)があり,本件南北道路は両交差点に通じている。

      被告は,被告車を運転し,本件北側交差点で信号待ち停車中,眠気を催したが,直ちに運転を中止せず,そのまま運転を継続し,本件交差点手前において本件南北道路を時速約54kmで北から南に向かい走行中,仮睡状態に陥り,本件交差点南東角歩道上に被告車を逸走させて,同歩道上を歩行中の亡A(当時41歳)に被告車を衝突させて同人を路上に転倒させた。

   (2) 本件事故の結果(争いのない事実,甲4)

     亡Aは,本件事故により重症頭部外傷の傷害を負い,平成28年12月3日午前6時5分頃,死亡した。

   (3) 責任原因(争いのない事実,甲14)

     被告は,被告車を運転し,本件北側交差点で信号待ち停車中,眠気を催し,前方注視が困難な状態に陥ったのであるから,直ちに運転を中止すべき注意義務を負っていたのに,これを怠り,直ちに運転を中止せず,前記状態のまま運転を継続した過失により,亡Aに被告車を衝突させて同人を路上に転倒させる本件事故を発生させたから,民法709条に基づき,同人に対し,本件事故による損害を賠償する責任を負った。

   (4) 相続(甲8~10)

     原告は,亡Aの夫である。

     亡Aに子はなく,亡Aの相続人は,原告及び亡Aの父母のみであったところ,亡Aの父母は,原告に対し,亡Aの相続に関する相続分全部を譲渡し,原告は,亡Aの被告に対する損害賠償請求権を全て取得した。

   (5) 損害の填補(争いのない事実,弁論の全趣旨)

     原告は,本件事故による損害について,次の各保険金の支払を受けた。

    ア 自動車損害賠償責任保険金 3000万0000円

    イ 任意保険金         107万4230円

  2 争点及びこれに関する当事者の主張の要旨

    本件の争点は,亡Aの損害であり,これに関する当事者の主張の要旨は次のとおりである。

   (原告の主張の要旨)

    亡Aは,本件事故により,次の損害を被った。

   (1) 治療費及び文書料 107万4230円

   (2) 死亡逸失利益  4527万2978円

    ア 亡Aは,原告とともに美容師として美容室を経営していたが,男性であり40歳を超えていた原告が顧客から敬遠されがちであったため,亡Aが顧客の大半を担当し,半分以上の売上を上げるとともに,その他経理等の業務も行っていた。本件事故によって亡Aがいなくなったことにより,前記美容室の売上は激減しており,本件事故後の平成29年1月から同年7月までの売上は,本件事故前の平成28年1月から同年7月までの売上から262万4521円減少している。

      そこで,亡Aの基礎収入を,前記7箇月分の売上減少額を1年分に引き直した449万9178円(262万4521円/7箇月×12箇月)として,亡Aの死亡時の年齢である41歳から67歳までの26年に対応するライプニッツ係数14.375を乗じ,さらに生活費控除率を30%として算定すると,亡Aが本件事故により被った死亡逸失利益は,下記計算式のとおり,4527万2978円となる。

      (計算式)4,499,178円×14.375×(1-0.3)=45,272,978円

    イ 仮に,亡Aの基礎収入が前記アの金額に達しないとしても,亡Aは,家事の大半にも従事していたから,その基礎収入は,平成28年女子全年齢平均賃金である376万2300円を下回らないというべきである。

   (3) 死亡慰謝料 3500万0000円

     被告は,①本件事故発生日の前日,深夜まで携帯電話によるゲームに興じるなどして睡眠不足となり,②本件事故発生日において,職場から自動車出勤を禁止されていたにもかかわらず,被告車で出勤し,③その後職場から被告車を運転して自宅に帰る途中,強い睡魔に襲われ,本件事故現場に至るまでに停止して仮眠をとることが十分可能であったにもかかわらず,もう少しで自宅に着くと安易に考えて運転を継続した結果,本件事故現場手前で仮睡状態に陥り,本件事故を発生させた。

     また,被告は,④本件事故直後において,被告車から救出された後,亡Aの救護活動を行おうとせず,⑤その後,原告に対し,電話で謝罪したり手紙を送付したりしたが,被告が何をどのように反省しているのかを明らかにしなかった。

     以上のとおり,本件事故についての被告の過失が重大であり,本件事故後の被告の対応も不誠実であることからすると,亡Aの慰謝料は,通常の基準に照らした金額よりも増額されるべきであり,3500万円を下らないというべきである。

   (4) 葬儀関係費 149万1360円

   (5) 物的損害      8640円

     亡Aは,本件事故当時,愛犬を散歩中であり,当該愛犬も本件事故により打撲傷を負い,動物病院において前記金額の治療費を要した。

   (6) 損益相殺後の残額 5177万2978円

     前記(1)~(5)の各損害の合計額は8284万7208円となり,これに自動車損害賠償責任保険金3000万円及び任意保険金107万4230円を充当すると,残額は5177万2978円となる。

   (7) 弁護士費用 500万0000円

   (8) 合計   5677万2978円

   (被告の主張の要旨)

   (1) 治療費及び文書料

     認める。

   (2) 死亡逸失利益

    ア 基礎収入

     (ア) 原告と亡Aは共同で美容室を経営していたところ,当該美容室における事業について原告が平成27年分の確定申告書と共に提出した同年分所得税青色申告決算書には,売上金額から売上原価及び経費を差し引いた金額が449万0249円と記載されている。原告が主張するように,亡Aが当該美容室の顧客の大半を担当していたとしても,原告も顧客を担当するとともに,その他の経理業務等を行っていたのであるから,原告と亡Aの双方が同程度に寄与して当該美容院の経営を行っていたというべきである。

       したがって,亡Aの基礎収入は,前記金額の半分である224万5124円とするのが合理的である。

     (イ) 原告は,亡Aの基礎収入が家事従事者としての平均賃金の金額を下回らない旨主張するが,亡Aが美容室の業務を担当しつつ家事の大半にも従事していたとは考え難いから,亡Aを家事従事者として評価することは相当ではなく,前記平均賃金の金額を亡Aの基礎収入とすることはできないというべきである。

    イ 生活費控除率

      女性の収入は男性と比較して低いことが多いため,公平の観点から女性の生活費控除率は男性の生活費控除率よりも低い30%とされるのが一般的であるが,亡Aは,原告と共同で美容室を経営しており,原告との間で収入に差がないと考えられるから,亡Aの生活費控除率は,男性と同様に50%とすべきである。

    ウ まとめ

     以上によれば,亡Aの死亡による逸失利益は,下記計算式のとおり,1613万6828円を上回らないというべきである。

      (計算式)2,245,124円×14.375×(1-0.5)=16,136,828円

   (3) 死亡慰謝料

     亡Aは一家の支柱ではない。

     また,被告は眠気を感じたにもかかわらず被告車の運転を継続し,本件事故を発生させているが,眠ってしまっても構わないなどと考えて被告車を運転していたわけではなく,故意又は限りなくそれに近い重過失までは認められない。

     さらに,被告は,本件事故直後の状況に動揺し,亡Aを救護するなど冷静な対応をすることができなかったものであり,その後,反省や謝罪の態度を示し,被害者への慰藉に向けた努力を行っている。

     以上からすれば,亡Aの慰謝料は,通常の基準に照らして算定されるべきであり,さらに増額すべき事情はないというべきである。

   (4) 葬儀関係費

     亡Aの葬儀について実際に支出された費用は95万7169円にとどまり,さらに同額から弔問客接待費合計6万7557円を控除した88万9612円のみが,本件事故と相当因果関係を有する損害というべきである。

   (5) 物的損害

     そもそも原告が主張する愛犬の負傷及び治療と本件事故の間に因果関係があるものとは認められない。

     また,仮にこの点が認められるとしても,原告が主張する愛犬の治療のうち,本件事故から約2箇月後の平成29年1月30日に実施された診察については,必要性及び相当性が認められない。

 第3 当裁判所の判断

  1 治療費及び文書料 107万4230円

    亡Aが本件事故によって前記金額の治療費及び文書料を要したことについて当事者間に争いはなく,これらの費用は,本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。

  2 死亡逸失利益 3785万8407円

   (1) 証拠(甲5,6,11の4,33の2)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当時,①亡Aは,夫である原告と同居し,一定の家事に従事していたこと,②原告と共に従業員を雇用することなく共同で美容室を経営し,いずれも美容師として稼働するとともに,経理等の業務を行っていたこと,③前記美容室の売上金額から売上原価及び経費を差し引いた金額は,平成26年分が534万0641円,平成27年分が449万0249円であったこと,④前記美容室の売上金額合計(消費税込み)に対する担当者別の売上金額(消費税込み)の割合は,平成26年において原告につき約35%,亡Aにつき約65%,平成27年において原告につき約34%,亡Aにつき約66%であったことが認められる。

   (2) 基礎収入

    ア 前記(1)の諸事情に照らせば,本件事故当時,亡Aは,夫である原告と同居し,一定の家事に従事するとともに,前記美容室において美容師として稼働する兼業主婦であったということができる。

    イ そこで,前記美容室における亡Aの収入について検討すると,本件事故当時,亡Aは前記美容室の売上の相当割合を上げていたものであり,前記美容室の経営に相当程度寄与していたことは否定できない。

      もっとも,前記美容室においては,原告も美容師として稼働し,残りの売上を上げていたことに加え,亡Aを補助するなど,その他の業務を全く行っていなかったとまで認めるに足りる証拠はないことからすると,前記美容室の売上,利益等の全額を直ちに前記美容室における亡Aの収入と評価することは困難というべきである。

      そして,その他,亡Aが前記美容室の経営に寄与した程度を明らかにする証拠もないことからすると,前記美容室における亡Aの収入は,前記美容室の売上金額から売上原価及び経費を差し引いた金額の平成26年分及び平成27年分の平均額である491万5445円を基準としても,その半額である245万7722円にとどまるというべきである。

    ウ もっとも,前記のとおり,亡Aは,夫である原告と同居し,一定の家事に従事していたものであるから,その兼業主婦としての基礎収入は,前記イで認定した美容室における収入を上回る,死亡した年である平成28年賃金センサス・産業計・企業規模計・女性労働者・学歴計・全年齢の376万2300円とするのが相当である。

   (3) そして,亡Aの性別,前記基礎収入額に加え,亡Aが原告と同居し,家計の一部を支えていたといい得ること等からすると,生活費控除率は30%とするのが相当であり,亡Aの就労可能期間を死亡時の41歳から67歳までの間(26年間に対応するライプニッツ係数14.3751)とすると,亡Aの死亡による逸失利益は,下記計算式のとおり,3785万8407円となる。

     (計算式)

      3,762,300円×(1-0.3)×14.3751=37,858,407円(1円未満切捨て)

  3 死亡慰謝料 2600万0000円

    前記前提事実に加え,証拠(甲14,24,27~30)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年11月29日の夜から睡眠をとっておらず,同月30日の夜から本件事故発生日である同年12月1日午前2時頃まで携帯電話によるゲームに興じ,その後就寝したものの,同日午前6時30分頃には起床し,被告車を運転して職場に出勤した上,終業後に職場から帰宅する途中,本件北側交差点において強い眠気を催し,直ちに運転を中止すべき注意義務を負っていたのに,これを怠り,直ちに運転を中止せず,そのまま運転を継続した過失により,仮睡状態に陥り,歩道上に被告車を逸走させた結果,本件事故を発生させたこと,本件北側交差点から本件事故現場に至るまでの本件南北道路沿いには,自動車を停止させることが可能な場所(□□広場)があることが認められる。

    このように,被告は,本件事故発生日の2日前の夜から睡眠をとっておらず,本件事故発生日の前日においても深夜までゲームに興じ,その後短時間の睡眠をとったのみで,本件事故発生日に被告車を運転し,本件事故現場手前の本件北側交差点において強い眠気を催していたものであり,そのまま運転を継続すれば,仮睡状態に陥り,被告車を逸走させる結果となることは容易に予見可能であったというべきである。また,被告は,本件事故現場に至るまでに自動車を停止させることが可能な場所があったにもかかわらず,運転を中止することなく継続しており,本件事故の発生を回避することが容易でありながら,これを怠ったものである。さらに,被告は,眠気により正常な運転ができないおそれがある状態で被告車を運転したことにより,本件事故を発生させたものというべきところ,このような被告の運転行為は,運転者の基本的な注意義務(道路交通法66条参照)に反したものであったといわなければならない。以上に照らせば,被告の過失は,重大なものであったといわざるを得ない。

    また,被告は,仮睡状態に陥り,歩道上に被告車を逸走させるという異常な運転行為により,何ら落ち度のない亡Aの死亡という重大な結果を発生させたものであり,本件事故態様は悪質であったものということができる。

    その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,亡Aが一家の支柱に当たらないとしても,その死亡慰謝料は,2600万円とするのが相当である。

  4 葬儀関係費 88万9612円

    証拠(甲12の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,亡Aは,本件事故によって,合計95万7169円の葬儀関係費を要したことが認められるが,このうち本件事故と相当因果関係を有する損害は,通夜及び葬儀の参列者への接待費等に要した合計6万7557円を除く88万9612円とするのが相当である。

  5 物的損害 8640円

    証拠(甲13の1・2,20)及び弁論の全趣旨によれば,亡Aは,本件事故当時,愛犬の散歩をしていたこと,当該愛犬は本件事故によって負傷し,動物病院において前記金額の治療費を要したことが認められ,当該費用は,本件事故と相当因果関係を有する亡Aの物的損害と認められる。

  6 損益相殺後残額 3475万6659円

    前記1~5の各損害の合計額は6583万0889円となり,これに自動車損害賠償責任保険金3000万円及び任意保険金107万4230円(前記前提事実(5))を充当すると,残額は3475万6659円となる。

  7 弁護士費用 347万0000円

    本件事案の難易,審理の経過,認容額その他の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,前記金額とするのが相当である。

  8 合計 3822万6659円

  9 まとめ

   したがって,亡Aの被告に対する民法709条に基づく損害賠償請求権を相続により取得した原告は,被告に対し,損害賠償金3822万6659円及びこれに対する本件事故発生日である平成28年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求権を有するものである。

 第4 結論

    よって,原告の請求は,主文において認容する限度で理由があるからこの限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

     大阪地方裁判所第15民事部

            裁判官  山崎雄大

コトバンクでは
レセプツム責任とは

運送人または旅店の主人は,荷送人や客から受取った運送品や携帯品につき,レセプツム (受領) という事実が証明されれば絶対にこれを返還すべき義務があり,不可抗力によったとしてもその滅失,毀損についてその責任を免れえないという結果責任。ローマ法で認められたものである。

となっている。

日本法では商法594条にうけつがれている。

レセプツム責任を認めて約款によるホテルの免責をみとめなかった平成12年の大阪高裁判決がある。


【事件番号】 大阪高等裁判所判決/平成12年(ネ)第631号

 

【判決日付】 平成12年9月28日

 

【判示事項】 ホテル利用者がホテル従業員の指示によりホテル玄関前に駐車しホテルフロント従業員に車両の鍵を預けていたところ車両が盗まれた場合に、車両所有者(車両内の動産類の所有者)及び同人に車両保険金を支払った損害保険会社のホテルに対する損害賠償請求が認容された事例

 

【参照条文】 商法593

 

       商法594

 

       商法595

 

【掲載誌】  判例時報1746号139頁

 

【評釈論文】 損害保険研究64巻3号169頁

 

       主   文

 

  一 原判決を次のとおり変更する。

   1 被控訴人は、控訴人甲野太郎に対し、一二万二〇〇〇円及びこれに対する平成一一年三月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

   2 被控訴人は、控訴人大東京火災海上保険株式会社に対し、四〇五万円及びこれに対する平成一一年三月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

   3 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

  二 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

  三 この判決は、第一項1及び2に限り、仮に執行することができる。

 

        事実及び理由

 

 第一 申立て

 一 控訴人ら

 1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人は、控訴人甲野太郎に対し、一七万二〇〇〇円及び内金一二万二〇〇〇円に対する平成一一年三月一〇日から、内金五万円に対する同年四月九日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

  3 被控訴人は、控訴人大東京火災海上保険株式会社に対し、四五五万円及び内金四〇五万円に対する平成一一年三月一〇日から、内金五〇万円に対する同年四月九日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

  4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

  5 仮執行宣言

  二 被控訴人

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

 第二 主張

  原判決記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、二丁裏九行目の「原告所有」を「同控訴人所有」と、三丁裏八行目の「盗難された」を「盗難にあった」と、それぞれ改める)。

 第三 証拠《略》

 第四 判断

  一 原判決八丁裏四行目から九丁裏四行目まで〈編注・本号一四三頁三段二四行目~四段三〇行目〉を次のとおり改めるほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、七丁表七行目の「ユニオン会員」を「ユニオンクラブ会員」と改める)。

  「2 右事実によると、控訴人甲野は、自らはホテルの自室に戻ることから、被控訴人において本件自動車をホテルの敷地内で移動させることを了承し、その鍵を従業員に交付することにより、被控訴人に対してその保管を委託し、被控訴人はこれを承諾したのであるから、被控訴人は、ホテルの営業の範囲内において、無償で同控訴人から本件自動車の寄託を受けたというべきであり、同控訴人が被控訴人(フロント係の田所)に対して交付した鍵がスペアキーであり、同控訴人がマスターキーは自己のもとに所持していたこと、被控訴人(田所)において短時間だけ鍵を預かる意図であったことは、いずれも右認定を左右するものではない。

 そして、被控訴人は、本件自動車の滅失(盗難)について、不可抗力を主張・立証しないから、被控訴人は、商法五九三条、五九四条により、同控訴人に対して右盗難により生じた損害を賠償する責に任じるというべきである。

 なお、本件自動車が商法五九五条にいう高価品に該当するとしても、田所は、控訴人甲野の運転する本件自動車を駐車場からホテルの正面まで誘導したのであり、被控訴人は本件自動車の車種や概ねの価額を知ったというべきであるから、被控訴人は同条によりその責を免れることはできないというべきである。

  3 《証拠略》によると、請求原因4(控訴人甲野の損害)及び同5(控訴人大東京火災海上保険株式会社の求償債権)の各事業を認めることができ、同6の事実(催告)は、当事者間に争いがない(請求原因4の(2)記載の動産は、その種類・価額からみて、通常自動車に積載されていると考えられる物品であるから、その滅失についても被控訴人は前記責任を負う)。

  控訴人らの本訴請求は商法五九四条に基づくものであるところ、控訴人らが本件訴訟の提起及び遂行のために支弁した弁護士費用は、同条が場屋の経営者に特に課した責任に基づく損害ということはできない。

  また、被控訴人において、駐車場に前記の「免責の告示」を掲示してあったとしても、これにより本件自動車の盗難について免責を主張することはできず(商法五九四条三項)、右掲示の事実をもって、過失相殺の法理を適用して本件の損害の一部を控訴人甲野に負担させる事由とはなり得ない。

  4 右の次第で、控訴人らの本訴請求は、控訴人甲野について右損害のうち一二万二〇〇〇円、同大東京火災海上保険株式会社について同じく四〇五万円並びにこれらに対する前記催告期限の翌日である平成一一年三月一〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があり、これを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきものである。」

  二 よって、右結論を異にする原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 渡邊雅文 菊池 徹)

 

 

 

 

 

法学>民事法>商法>コンメンタール商法>第2 商行為 (コンメンタール商法)>商法第594

594

1. 旅店、飲食店、浴場其他客ノ来集ヲ目的トスル場屋ノ主人ハ客ヨリ:寄託ヲ受ケタル物品ノ滅失又ハ毀損ニ付キ其不可抗力ニ因リタルコトヲ証明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス

旅店、飲食店、浴場その他客の来集を目的とする場屋の主人は客より寄託を受けた物品の滅失又は毀損につきその不可抗力によったことを証明しなければ損害賠償の責任を免れることができない。

2. 客カ特ニ寄託セサル物品ト雖モ場屋中ニ携帯シタル物品カ場屋ノ主人又ハ其使用人ノ不注意ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ場屋ノ主人ハ損害賠償ノ責ニ任ス

客が特に寄託しない物品であっても場屋中に携帯した物品が場屋の主人又はその使用人の不注意によって滅失又は毀損したときは、場屋の主人は損害賠償の責任を負う。

3. 客ノ携帯品ニ付キ責任ヲ負ハサル旨ヲ告示シタルトキト雖モ場屋ノ主人ハ前二項ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス

客の携帯品につき責任を負わない旨を告示したときであっても、場屋の主人は第一項と第二項の責任を免れることができない。

   



総合格闘家の男性が,約1年半の間に合計6回,スポーツジムでの練習時に負傷したとして,共済組合に対し,共済契約に基づく共済金を請求したのに対し,いずれも負傷事故の発生が認められず,又は「激しい運動中の過度の肉体の行使」に該当し「不慮の事故」に当たらないとして,請求を棄却した事例

 

 これしかスパーリング中の事故に関する判例はないようです。

 判例タイムズだと弁護士名は特定されますが当事者は特定されていません。

 

 

保険金請求事件(第1事件)、共済金等請求事件(第2事件)

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第36573号、平成28年(ワ)第17122号

【判決日付】 平成29年4月24日

【判示事項】 1 総合格闘家の男性が,約1年半の間に合計6回,スポーツジムでの練習時に負傷したとして,共済組合に対し,共済契約に基づく共済金を請求したのに対し,いずれも負傷事故の発生が認められず,又は「激しい運動中の過度の肉体の行使」に該当し「不慮の事故」に当たらないとして,請求を棄却した事例

2 同男性が,自身の共済金請求に対して,共済組合が不正請求を疑い,著しく不当かつ過度な調査を強要したことについて,共済契約上の債務不履行または不法行為(注意義務違反)に基づき慰謝料を請求したのに対して,同組合にかかる違反はないとして請求を棄却した事例

 

【参照条文】 保険法2

       保険法5-1

       民法415

       民法709

【掲載誌】  判例タイムズ1455号217頁

       主   文

  1 原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        事実及び理由

 

  第1 請求

  1 第1事件

  第1事件被告は,原告に対し,218万2000円及びこれに対する平成28年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  2 第2事件

  第2事件被告は,原告に対し,218万2000円及びこれに対する平成28年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  第2 事案の概要等

  1 事案の概要

  本件は,被告らそれぞれとの間で,共済契約を締結した原告が,被告らそれぞれに対し,①自宅やトレーニングジムにおいて,事故により負傷したとして,各共済契約に基づき,共済金合計118万2000円と,②共済金請求時の被告らによる調査が原告のプライバシーを侵害するものであり,精神的苦痛を被ったとして,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円の合計218万2000円及びこれらに対する各訴状送達の日の翌日である第1事件被告については平成28年2月4日から,第2事件被告については同年6月8日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

  2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠(特に明記しない限り,枝番の表記は省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

  (1) 当事者(甲1,弁論の全趣旨)

  ア 原告は,昭和57年*月*日生まれの男性で,総合格闘家である。

  イ 第1事件被告は組合員の生活の共済を図る事業等を目的とする法人であり,第2事件被告は会員である生活協同組合の構成員たる組合員の生活の共済を図る事業等を目的とする法人である。

  (2) 本件各共済契約の締結(甲6,7)

  ア 第1事件被告との間の共済契約の締結等

  原告は,平成8年11月1日,第1事件被告との間で,以下のとおりの共済契約を締結し,平成16年6月1日に,月掛4000円の加入コースに変更し,その後,契約は,毎年自動更新された(以下「本件共済契約1」という。)。

  共済種類  生命共済

  加入者   原告

  加入者番号 〈省略〉

  保障期間  平成8年11月1日から平成9年7月31日まで(その後,特に申出や掛金滞納による失効がない場合,毎年自動更新され,更新後は,事業年度に合わせ毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間とする。)

  イ 第2事件被告との間の共済契約の締結等

  原告は,平成16年7月1日,第2事件被告との間で,以下のとおりの共済契約を締結し,その後,毎年自動更新された(以下,本件共済契約1と合わせて「本件各共済契約」という。)。

  共済種類  生命共済(生命共済プラス型)

  加入者   原告

  加入者番号 〈省略〉

  加入コース 月掛4000円

  保障期間 平成16年7月1日から平成17年3月31日まで(その後,特に申出や掛金滞納による失効がない場合,毎年自動更新され,更新後は,事業年度に合わせ毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間とする。)

  (3) 本件各共済契約の内容(甲6,7)

  本件各共済契約には,支払事由を通院,支払原因を不慮の事故(交通事故を除く。)とする場合の共済金の支払基準として,概要,以下のとおりの定めがあった。

  ア 対象

  保障期間内に発生した事故を直接の原因とした病院,診療所等での治療のための入・通院(通院は事故のみ)が対象となる。

  事故の場合の通院に関する共済金支払対象は,事故の日からその日を含めて180日以内の実通院であり,1回につき14日以上実通院した場合に,通院の初日から対象となる。通院の共済金額は,90日までの実通院(90日分)について,通院の初日から,1日当たり3000円である。

  イ 「事故」

  「事故」とは,下記ウの「不慮の事故」をいう。

  ウ 「不慮の事故」

  「不慮の事故」とは,急激かつ偶発的な外来の事故(ただし,疾病又は体質的な要因を有する者が軽微な外因により発症し又はその症状が増悪したときは,その軽微な外因は急激かつ偶発的な外来の事故とみなさない。)で,かつ,昭和53年12月15日行政管理庁告示第73号に定められた分類項目中下記のものとし,分類項目の内容については「厚生省大臣官房統計情報部編,疾病,傷害および死因統計分類提要,昭和54年度版」によるものとする。

  そして,本件に関係のある分類項目は,16.「その他の不慮の事故」であり,「努力過度および激しい運動(かっこ内略)中の過度の肉体行使,レクリエーション,その他の活動における過度の運動」(中略)は除外する旨定められている。

  エ 「病院,診療所等」

  「病院,診療所等」とは,次に掲げるものをいう。

 (ア)医療法に定める日本国内にある病院または診療所(以下略)

 (イ)柔道整復師法に定める日本国内にある施術所

 (ウ)(略)

  オ 「通院」「通院」とは,医師(柔道整復師法に定める柔道整復師を含む。以下同じ)による治療(柔道整復師による施術を含む,以下同じ)が必要であり,かつ,自宅等での治療が困難なため病院,診療所等において医師による治療を入院によらないで受けることをいう。なお,平常の生活もしくは業務に支障がない程度に回復した時以降の通院,または医師が通院しなくても差し支えないと認定した時以降の通院は,「通院」に当たらない。

  (4) 原告の被告らに対する共済金の請求(甲8ないし23,弁論の全趣旨)

  原告は,被告らに対し,下記のとおりの不慮の事故が発生し,通院したとして,共済金の支払をそれぞれ請求した(なお,請求時期は,下記本件事故1ないし4につき平成26年12月頃,本件事故5,6につき平成27年3月頃である。)。

          記

  ① 平成25年5月8日の事故(以下「本件事故1」という。)

  原告の自宅において,椅子から立ち上がろうとした際に,右大腿部に痛みが生じ,右大腿部挫傷の傷害を負った。平成25年5月8日から同年8月13日まで,C整骨院(以下「本件整骨院」という。)に通院した(実通院日数47日)。

  ② 平成25年9月17日の事故(以下「本件事故2」という。)

  原告が,格闘技の練習を行っている「D東京店」(以下「本件ジム」という。)において,練習中,足を踏み込んだ際に左股関節に痛みが生じ,左股関節捻挫の傷害を負った。平成25年9月17日から平成26年3月13日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数80日)。

  ③ 平成26年4月7日の事故

  本件ジムにおいて,走っていた際につまずき,右足関節捻挫の傷害を負った。平成26年4月7日から同年6月30日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数61日)。

  なお,原告は,本件訴訟において,原告が作成して第1事件被告宛てに提出した事故状況報告書(甲12)の記載は誤りであったとして,真実は,同日,練習中,サンドバッグを右足で蹴った際に,右足関節捻挫の傷害を負ったと主張している(以下「本件事故3」という。)。

  ④ 平成26年7月1日の事故(以下「本件事故4」という。)

  本件ジムにおいて,ランニング中,汗で滑って転倒し,右手を床についた際,右手関節捻挫の傷害を負った。平成26年7月1日から同年10月28日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数90日)。

  ⑤ 平成26年9月24日の事故(以下「本件事故5」という。)

  本件ジムにおいて,格闘技の投げの練習中,転倒し,右肩鎖関節脱臼の傷害を負った。平成26年9月24日から同年11月29日まで,E整形外科(以下「本件整形外科」という。)(実通院日数1日)及び本件整骨院(実通院日数26日。なお,本件事故4の通院期間との重複通院日は算入していない。)に通院した。

  ⑥ 平成26年12月1日の事故(以下「本件事故6」といい,本件事故1ないし6を合わせて「本件各事故」という。)

  本件ジムにおいて,格闘技の練習中,左膝を捻り,左膝内側側副靱帯損傷の傷害を負った。平成26年12月1日から平成27年3月26日まで,本件整形外科(実通院日数2日)及び本件整骨院(実通院日数89日。なお,2日間は本件整形外科への通院日と重なっている。)に通院した。

  (5) 原告による説明確認書の提出(乙2)

  原告は,平成27年1月8日,被告らが調査を委託した調査員による面談調査の際,当該調査員に対し,本件事故1ないし4に係る共済金請求について,「私の周りにいる方々に迷惑をかけたくないので,上記事故4件全ての共済金請求を取り下げ致します。」と記載した説明確認書を提出した。

  (6) 共済金支払請求に対する原告と第1事件被告とのやりとり

 本件各事故に関する共済金支払請求について,原告と第1事件被告との間で,以下のような書面のやりとりがされた(甲26ないし38)。

  ア 平成27年5月25日付け「受任通知書兼共済調査現状のご説明」と題する書面(甲26)

  第1事件被告は,被告ら代理人弁護士を通じ,平成27年5月25日頃,原告に対し,本件事故5及び6に係る共済金支払請求について,原告が,従前,本件事故1ないし4の共済金支払請求を取り下げたという経緯や,事故発生の頻度等に照らし,本件事故5及び6の偶発性及び通院の必要性等に疑問があるとして,共済金の支払に応じることはできないことを通知した。

  イ 平成27年5月29日付け「受任通知」と題する書面(甲27)

  上記アの書面に対し,原告は,原告代理人弁護士を通じ,本件事故1ないし4についても共済金支払請求をしている旨指摘した。

  ウ 平成27年6月9日付け「ご通知」と題する書面(甲28)

  第1事件被告は,被告ら代理人弁護士を通じ,平成27年6月9日頃,原告代理人弁護士に対し,本件事故5について1か月間の通院(実通院治療日数22日分),本件事故6について2日分の通院を認定し共済金を支払うことを提案するとともに,本件事故1ないし4について共済金請求の意思があるか再度確認した。

  エ 平成27年7月31日付け「通知書」と題する書面(甲30)

  原告は,原告代理人弁護士を通じ,本件事故5及び6についての提案に同意せず,本件事故1ないし4についても共済金を請求することを前提に,本件各事故について審査の上認定するよう求めた。

  オ 平成27年8月25日付け「ご通知(3)」と題する書面(甲33)

  第1事件被告は,被告ら代理人弁護士を通じ,平成27年8月25日頃,本件事故5及び6について,事故発生現場である本件ジム,本件整骨院,本件整形外科,本件ジムで一緒に練習を行っていた者,原告の就学先,原告の両親等に対し,再調査を実施するとして,原告に対し調査の同意を求めた。

  カ 平成27年8月25日付け「通知書」と題する書面(甲34)

  原告は,その後,原告代理人弁護士を通じ,原告の就学先や両親に対する調査等は必要性がなく,不当に広範にわたる調査に応じることを強いるのは,事実上,共済金請求の断念を迫るに等しく,極めて不当なものであるなどとして,同意を拒絶した。

  (7) 原告の被告ら以外の保険会社に対する保険金の支払請求及び受領(乙8)

  原告は,F株式会社に対し,原告を被保険者とする傷害保険契約(カード付帯・掛捨団体契約)に基づき,以下のとおり不慮の事故が発生し,通院したとして,保険金の支払をそれぞれ請求し,保険金の支払を受けた。

  ア 平成24年11月7日の事故

  本件ジムにおいて,ランニングマシンで走っていた際に,肉離れを起こした。平成25年5月7日に6万3000円の支払を受けた。

  イ 平成25年5月1日の事故

  出先において,トレーニング中に痛み,左の腿を痛めた。転倒したとかひねったではない。事故性がないので保険を使用せずに事案完了。

  ウ 平成25年5月8日の事故

  本件ジムにおいて,ランニングマシンを使用中,スピードについて行けず転倒,右脛打撲。平成25年11月12日に3万8000円の支払を受けた。

  エ 平成25年7月31日の事故

  出先において,トレーニング中足が痛み,右のふくらはぎを痛めた。転倒したとかではない。事故性がないので保険を使用せずに事案完了。

  オ 平成25年8月8日の事故

  本件ジムにおいて,マットの上で走っていた時,段差につまずき転倒。左ヒザ打撲。平成25年11月12日に4万5000円の支払を受けた。

  カ 平成25年11月5日の事故

  G区のスポーツジムにおいて,マット上でサーキットをしていた。ジャンプした時にふくらはぎに痛みを感じた。平成26年5月14日に1万2600円の支払を受けた。

  キ 平成26年1月7日の事故

  G区のスポーツジムにおいて,マット上でサーキットをしていた。走って切り返すときに痛めた。平成26年5月14日に2万1600円の支払を受けた。

  ク 平成26年3月17日の事故

  G区のスポーツジムにおいて,マット上でサーキットをしていた。別の人と組んだ時にその人のヒザが足にぶつかった。平成26年5月14日に1万0800円の支払を受けた。

  ケ 平成26年4月6日の事故

  スポーツジムにおいて,ランニング中につまずいてしまって足をくじいてしまった。平成26年7月16日に3万1800円の支払を受けた。

  コ 平成26年7月1日の事故

  G区のスポーツセンターにおいて,走っており,転んでしまった際に突いた右手首を痛める。平成26年11月12日に5万4000円の支払を受けた。

  3 争点及びそれに関する当事者の主張

  (1) 本件事故1に係る共済金支払請求の可否(争点1)

  【原告の主張】

  ア 原告のようなプロの格闘家は,トレーニングを日々繰り返しており,いつも身体が疲弊している状態にあるから,椅子から立ち上がろうとしたときに右大腿部挫傷,いわゆる肉離れを起こしたとしても不自然ではなく,本件事故1は「不慮の事故」に当たる。

  イ 原告は,平成25年5月8日から同年8月13日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数47日)。

  ウ よって,被告らに対し,共済金14万1000円の各支払を求める。

  【被告らの反論】

  原告は,プロの格闘家であるから,椅子から立ち上がろうとしただけで,何も身体に異常のない状態から47日もの実通院を要する傷害を負ったとは到底信用できない。

  原告は,本件事故1発生日のわずか5日前に、キックボクシングの試合に出場し,3ラウンドの試合時間一杯戦い抜き,その結果判定負けしており,その試合中に右大腿部を痛めたと考えるのが自然である。

  したがって,本件事故1の負傷原因は,原告が申告する原因ではないため,「不慮の事故」は存在せず,共済金支払請求権は発生しない。

  (2) 本件事故2に係る共済金支払請求の可否(争点2)

  【原告の主張】

  ア トレーニングジムでのランニングが,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たらないことは明らかであって,本件事故2は「不慮の事故」に当たる。

  イ 原告は,平成25年9月17日から平成26年3月13日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数80日)。

  原告のようなプロの格闘家は,まさに試合への出場によりファイトマネーを得て生計を立てており,一旦出場を約束した試合を欠場することとなれば大会の主催者からの信用を失い,プロとして仕事を継続していくことが困難となる。そのため,原告は,無理を押して,試合に出場したのであり,それをもって,平常の生活若しくは業務に支障がなかった,とするのは早計である。

  ウ よって,被告らに対し,共済金24万円の各支払を求める。

  【被告らの反論】

  ア 本件事故2が「不慮の事故」に該当するとの主張は争う。本件事故2は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり,「不慮の事故」に当たらない。

  イ 原告は,本件事故2の発生からわずか12日後及びその約2か月半後に,総合格闘技の試合に出場している。

  仮に,本件事故2による左股関節の負傷があったとしても,原告の平常の生活若しくは業務に支障がなかったことは明らかであるから,左股関節の治療のための通院は,「通院」に該当しない。原告は,本件事故2のわずか12日後の試合に出場して,左股関節に高度の負荷をかけ,さらに痛めたことは明らかであって,当該試合前までの通院のみが共済金支払の対象となるところ,事故からの通院は5日であるから,14日以上の実通院がなく,共済金支払基準を満たさない。

  ウ したがって,本件事故2に係る共済金支払請求権は発生しない。

  (3) 本件事故3に係る共済金支払請求の可否(争点3)

  【原告の主張】

  ア サンドバッグを蹴る動作は,さして危険を伴うものではない。また,本件事故3発生当時,原告は,試合の2週間前をきっており,怪我を防止する必要があり,激しく蹴るようなことはしていないから,本件事故3は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たらないから,「不慮の事故」に当たる。

  それでも,原告は,試合前の調整に入る前の追い込みの練習時期の疲労がたまっていたため,サンドバッグを蹴るという負荷の軽い練習で怪我をしてしまったものと考えられる。

  イ 原告は,平成26年4月7日から同年6月30日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数61日)。

  ウ よって,被告らに対し,共済金18万3000円の各支払を求める。

  【被告らの反論】

  ア 本件事故3が「不慮の事故」に該当するとの主張は争う。本件事故3は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり,「不慮の事故」に当たらない。

  イ 原告は,本件事故3の発生からわずか12日後に,総合格闘技の試合に出場している。

  仮に,本件事故3による右足の負傷があったとしても,原告の平常の生活若しくは業務に支障がなかったことは明らかであるから,右足の治療のための通院は,「通院」に該当しない。原告は,本件事故3のわずか12日後の試合に出場して,右足関節に高度の負荷をかけ,さらに痛めたことは明らかであって,当該試合前までの通院のみが共済金支払の対象となるところ,事故からの通院は8日であるから,14日以上の実通院がなく,共済金支払基準を満たさない。

  ウ したがって,本件事故3に係る共済金支払請求権は発生しない。

  (4) 本件事故4に係る共済金支払請求の可否(争点4)

  【原告の主張】

  ア 本件事故4は,「不慮の事故」に当たる。

  イ 原告は,平成26年7月1日から同年10月28日まで,本件整骨院に通院した(実通院日数90日)。

  原告は,プロの格闘家として,負傷した場合でも,負傷部位に支障がないトレーニングを早期に再開し,練習を継続するのは当然のことである。また,負傷部位が完治していない段階においても,多少の無理は押しつつ,当該部位をかばいながら当該部位に関係する練習を再開するのが常である。

  したがって,本件事故4発生後にトレーニングをしていたことをもって,直ちに,平常の生活若しくは業務に支障がない程度に回復していたとはいえない。

  ウ よって,被告らに対し,共済金27万円の各支払を求める。

  【被告らの反論】

  ア 本件事故4が「不慮の事故」に該当するとの主張は争う。本件事故4は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり,「不慮の事故」に当たらない。

  イ 原告は,本件事故4発生から約3か月後の平成26年9月24日に,本件ジムにおいて投げの練習をしており,格闘技のトレーニングをすることが可能な状況であったことから,少なくとも同日においては,原告の平常の生活若しくは業務に支障がなかったことは明らかであるし,それ以前においても,原告は,本件ジムにてトレーニングをしていたのであるから,平常の生活若しくは業務に支障がなかったといえる。そのため,右手関節の治療のための通院は,「通院」に該当しない。

  ウ したがって,本件事故4に係る共済金支払請求権は発生しない。

  (5) 本件事故5に係る共済金支払請求の可否(争点5)

  【原告の主張】

  ア 投げの練習は,総合格闘技における基本動作の練習であるから,怪我をするようなものではない。ただ,原告は,受け身を取り損ねて怪我をしてしまったものであり,「激しい運動中の過度の肉体の行使」には当たらないから,「不慮の事故」に当たる。

  イ 原告は,平成26年9月24日から同年11月29日まで,本件整形外科(実通院日数1日)及び本件整骨院(実通院日数26日)に通院した。

  上記(4)【原告の主張】イと同様,本件事故5発生後にトレーニングをしていたことをもって,直ちに,平常の生活若しくは業務に支障がない程度に回復していたとはいえない。

  ウ よって,被告らに対し,共済金8万1000円の各支払を求める。

  【被告らの反論】

  ア 本件事故5が「不慮の事故」に該当するとの主張は争う。本件事故5は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり,「不慮の事故」に当たらない。

  イ 原告は,本件事故5発生以降も,本件ジムにおいて,従前と変わらずトレーニングをしており,また,本件事故発生から約2か月後の平成26年12月1日には,本件ジムにおいて投げの練習をしており,本件事故5発生後間もなく,原告の平常の生活若しくは業務に支障がない程度に回復していたといえるから,右肩の治療のための通院は,「通院」に該当しない。

  ウ したがって,本件事故5に係る共済金支払請求権は発生しない。

  (6) 本件事故6に係る共済金支払請求の可否(争点6)

  【原告の主張】

  ア 投げの練習の一種であるタックルの練習は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たらないから,本件事故6は「不慮の事故」に当たる。

  イ 原告は,平成26年12月1日から平成27年3月26日まで,本件整形外科(実通院日数2日)及び本件整骨院(実通院日数89日)に通院した。

  上記(4)【原告の主張】イと同様,本件事故6発生後にトレーニングをしていたことをもって,直ちに,平常の生活若しくは業務に支障がない程度に回復していたとはいえない。

  ウ よって,被告らに対し,共済金26万7000円の各支払を求める。

  【被告らの反論】

  ア 本件事故6が「不慮の事故」に該当するとの主張は争う。本件事故6は,「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり,「不慮の事故」に当たらない。

  イ 原告は,本件事故6発生以降も,本件ジムにおいて,従前と変わらずトレーニングをしており,本件事故6発生後間もなく,原告の平常の生活若しくは業務に支障がない程度に回復していたといえるから,左膝の治療のための通院は,「通院」に該当しない。

  ウ したがって,本件事故6に係る共済金支払請求権は発生しない。

  (7) 被告らの債務不履行責任又は不法行為責任の有無(争点7)

  【原告の主張】

  ア 原告は,本件事故5について相談した第1事件被告の担当者から,過去の分も含めて請求してみるようアドバイスを受けたことから,本件各事故について共済金の支払を請求したにすぎない。

  ところが,被告らは,原告の共済金請求に対し,合理的な根拠なく不正請求を疑い,医療調査及び経済調査と称して著しく不当,過度な調査協力を原告に強要し,応じなければ共済金を支払わないという態度を取った。

  また,被告らは,原告を共済金の不当請求者と決めつけて,本件各共済契約の合意解約書面を送り付けており,20年以上も被告らに対して掛金を支払い続けてきた契約者に対する態度とはおよそ信じられず,不誠実である。

  そもそも,原告は,本件各事故の共済金請求に当たり,被告ら担当者に架電して問い合せ,「格闘技の怪我でもおります。」,「整骨院の通院でもおります。」などと説明されたため,請求に至ったものであり,原告の請求が不正請求であるはずがない。

  上記のような被告らの対応は,本件各共済契約上の債務不履行又は不法行為に当たる。

  イ 原告は,上記のような被告らの対応により,精神的苦痛を被った,これを慰謝するための慰謝料は,被告らそれぞれに対し100万円を下らない。

  【被告らの反論】

  被告らには,本件各共済契約上の債務不履行又は不法行為による責任はない。

  第1事件被告は,以下のとおり,原告の対応を踏まえて交渉,調査しており,原告に対し,不当,過度な調査を要求していない。

  ア 原告は,平成26年12月15日,第1事件被告に対して,本件事故1ないし4に関する共済金を請求してきたところ,約1年2か月の期間内において間断なく発生した複数事故による請求という稀有な事例であった。しかも,各事故がその前の事故の治療終了時と近接した時期に発生しており,事故内容も類似し,捻挫や挫傷という一般的に長期かつ頻回の治療になるケースが少ない傷病名であるのに,通院期間が長期にわたり,通院回数が頻回となっているなど,事故の偶発性や通院の必要性等に疑義が生じた。そこで,第1事件被告は,損害状況等の確認調査を入れることとし,調査会社に調査を依頼した。

  以下略

保険法以前 保険の基礎知識

質問

 保険法はいつできた法律なのですか。それ以前はどのような法律で保険は規定されていたのですか。

回答

 保険法は2008年に制定された法律です。2010年4月1日に施行されています。

 それまでは、保険契約の成立・効力・履行及び終了については商法に規定されていました。商法については1997年に制定100年の記念切手が発行されています。制定以来100年を経過しており、実情にあわなくなった部分があることから2006年11月から法制審議会保険法部会で改正案の検討が開始され、2007年8月中間試案、2008年2月要綱試案、2008年5月30日に制定、同年6月6日に公布となりました。

岡山市 岡本法律事務所 所長 弁護士 岡本哲

 


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