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カテゴリ: 保険

傷害保険の保険金請求権発生時期 大阪高裁平成2年

保健判例百選 第2版 108事件

保険金請求控訴事件

大阪高等裁判所判決/平成元年(ネ)第1685号

成2年11月27日

【判決要旨】      破産宣告前に発生した交通事故に基づく傷害保険金債権および所得補償保険金債権は、身体傷害および入院治療を受けた時に発生する破産法6条2項にいう請求権に該当し、破産財団に帰属すると解するのが相当である。

【参照条文】      破産法6-1

            破産法6-2

            破産法162

            民事訴訟法385

            民事訴訟法388

【掲載誌】       判例タイムズ752号216頁

            金融・商事判例875号15頁

            金融法務事情1277号31頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト121号132頁

            別冊ジュリスト271号218頁

            法学研究(慶応大)64巻9号140頁

 

       主   文

 

一 控訴人の被控訴人らに対する本件各控訴をいずれも棄却する。

二 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       事   実

 

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人

 1 原判決を取消す。

 2 本件を京都地方裁判所に差し戻す。

二 被控訴人ら

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 当事者の主張

 左記のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一 原判決五枚目裏九行目から同六枚目裏五行目までを次のとおり訂正する。

「7 よって、控訴人は、

  (一) 被控訴人エイアイユーに対し、その第一、第二契約に基づき、後記破産宣告を受けた昭和六二年二月一二日以降の入通院、後遺障害により生じた、

(1) 右第一契約の入院保険金三六万円(四万五〇〇〇円×八日)、通院保険金四万五〇〇〇円(二万二五〇〇円×二日)、後遺障害保険金三〇〇〇万円(最高額一億五〇〇〇万円の二〇パーセント)の合計三〇四〇万五〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成元年三月一五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、

(2) エイアイユー第二契約の入院保険金八万円(一万円×八日)、通院保険金一万円(五〇〇〇円×二日)、後遺障害保険金二〇〇〇万円(最高額一億円の二〇パーセント)の合計二〇〇九万円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

  (二)被控訴人大同生命に対し、大同契約に基づき、前記破産宣告を受けた日以降の後遺障害により生じた高度障害保険金三〇三〇万円(最高額一億五一五〇万円の二〇パーセント)およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

  (三) 被控訴人安田火災に対し、安田契約に基づき、前記破産宣告を受けた日以降の就業不能、後遺障害により生じた所得補償保険金三三三万三三三三円(五〇万円×六か月二〇日)、後遺障害保険金一〇〇〇万円(最高額五○○○万円の二〇パーセント)の合計一三三三万三三三三円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

  (四) 被控訴人日動火災に対し、日動契約に基づき、前記破産宣告を受けた日以降の入通院、後遺障害により生じた、

(1) 自損事故条項の医療保険金八万八〇〇〇円(六〇〇〇円×八日+四〇○○円×一〇日)、後遺障害保険金二八○万円(最高額一四〇〇万円の二〇パーセント)の合計二八八万八〇〇〇円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、

(2) 搭乗者傷害条項の医療保険金一四万円(一万五〇〇〇円×八日十一万円×二日)、後遺障害保険金二〇〇万円(最高額一〇〇〇万円の二〇パーセント)の合計二一四万円およびこれに対する右同日から支払済みまで右同率の割合による遅延損害金の、支払をそれぞれ求める。」

二 控訴人の主張

 1 左記のとおり、本件各保険契約に基づく保険金請求権は、破産法六条一項の「破産宣告ノ時ニ於テ有スル」財産にも、同条二項の「将来行フコトアルヘキ請求権」にも該当せず、控訴人に属する自由財産というべきである。

  (一) エイアイユー第一、第二契約、大同契約、安田契約中後遺障害保険契約、日動契約は、いずれも傷害保険契約である。そして、この種の保険契約は、急激かつ偶然な外来の事故により被った身体の傷害を保険事故とするが、入院保険金については、さらに「その直接の結果として、生活機能または業務能力の滅失をきたし、かつ医師の治療を受けた場合は、その状態にある期間に対し」支払われるもの(傷害保険普通保険約款第七条)とされる。また、後遺障害保険金の支払は、「その直接の結果として、事故の日から一八○日以内に後遺障害(身体に残された将来においても回復できない機能の重大な障害または身体の一部の欠損で、かつ、その原因となった傷害がなおった後のものをいいます)が生じたとき」に「別表(2)の各号に掲げる割合を乗じた額」で支払うものとされている(同約款第六条)。すなわち、右各保険契約は、保険事故を原因とし、その結果身体傷害が一定の状態に達したときに、初めて保険金請求権が具体化し、その請求が可能となるところ、控訴人が右各契約に基づき本訴において請求する保険金は、いずれも破産宣告後に発生した生活上の機能喪失、労働力喪失の事由に対し、その損害填補ないし生活水準の目減りの補償という性質を有するから、破産者に帰属する自由財産というべきである。

  (二) 安田契約中の所得補償保険契約は、「身体傷害」のために「就業不能」となり、その場合に生じた「損失」について保険金を支払うもので、身体傷害は保険事故ではなく、保険事故の原因にすぎない。したがって、就業不能による損失が生じない限り保険金は支払われない。控訴人が本訴において請求している所得補償保険金は、破産宣告後に、就業不能に陥ったため、失った所得の補償にあり、右保険金が自由財産として破産者個人に属すべきものであることは明らかである。

 2 右のとおり、本件各保険契約に基づく抽象的保険金請求権は、被害の発生の時点において具体化するのであるから、破産宣告後の被害に対する保険給付は破産者の自由財産とすべきで、これが破産財団に属すると言うのは、著しく公平の観念にもとる。このように解すべきことは、判例・学説上、退職金請求権について、破産宣告後に生ずる、継続勤務に対する賃金後払いとしての分ならびに交通事故による逸失利益損害賠償請求権につき破産宣告後に生じた分がいずれも破産財団に属さないと解されていることにより明らかである。

三 被控訴人らの主張

 争う。

 1 保険金請求権は、保険事故の発生と同時に単一の債権として発生し、その後の推移は右債権について予め契約時に合意された方法による当該債権の数額を算出するための材料にすぎない。

 本件各保険契約に基づく保険事故が破産宣告前に発生している以上、右各契約に基づく請求権は破産法六条一項に該当し、破産財団に属する。

 2 仮に、しからずとするも、右保険金請求権は、少なーとも、破産法六条二項にいう破産宣告前に生じた原因に基づく請求権に該当することは明らかである。

 保険金請求権は有償双務契約である保険契約に基づき発生する請求権であり、保険事故発生時までに支払われた保険料と対価関係に立つものである。しかも、本件各保険契約の保険事故がいずれも破産宣告前に生じており、しかも対価である保険料も右宣告前に支払われているのであるから、これに対応する保険金請求権が右宣告前の原因により生じたと解すべきは当然である。

 3 控訴人は、退職金請求権及び交通事故による逸失利益損害賠償請求権について、破産宣告後に生ずる分が自由財産に属すると解されているとして、本件各契約に基づく保険金も右宣告後の逸失利益に対応する分については同様に解すべきであると主張する。

 しかしながら、右退職金については、同金員が賃金後払いの性質を有し、対価たる労務が破産宣告後になされており、その取得原因が右宣告後にあるからこそ右のように解し得るのである。これに対し、有償双務契約である保険契約の保険料は破産宣告前に支払われているのであるから、保険料の対価である保険金請求権も又当然破産財団に帰属するというべきである。

 また逸失利益の損害賠償請求権は、加害行為による傷害によって、同時点で具体的権利として発生しており、ただ、その数額が事後的に確認され、数額化されるにすぎないことは、保険金請求権の場合と同じである。

第三 証拠〈省略〉

   理   由

一 請求原因1ないし4(本件各保険契約の成立)の事実は、エイアイユー第一契約及び大同契約の各締結日を除き、いずれも控訴人と当該各被控訴人との間に争いがなく、争いのある右各契約の締結日は、控訴人と被控訴人エイアイユー及び同大同生命との間に争いのない右各契約の保険期間及び弁論の全趣旨によれば、昭和六一年五月一日以前であったことが認められる。

二 ところで、控訴人が昭和六二年二月一二日、京都地方裁判所(同庁同年(ヱ第五号)において破産宣告を受けたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、その破産管財人に加藤英範が選任された事実が認められるところ、控訴人は、本訴において右破産宣告を受ける以前の昭和六一年九月四日、車両運転の単独事故(本件自損事故)により受傷し、その治療のため同日から同月二五日までと、同月三〇日から同六二年二月一九日まで入院治療を受け、同月二四日から同六三年八月一〇日までの間に一〇日以上通院治療を受けたものの併合一〇級の後遺障害を残したとして、被控訴人エイアイユーに対し、その第一、第二契約に基づき、破産宣告を受けた昭和六二年二月「有以降の右入通院、後遺障害により生じた各保険金、被控訴人大同に対し、大同契約に基づき、前同日以降の右後遺障害により生じた高度障害保険金、被控訴人安田火災に対し、安田契約に基づき、前同日以降の就業不能により生じた所得補償保険金と、後遺障害により生じた後遺障害保険金、被控訴人日動火災に対し、日動契約に基づき、前同日以降の右入通院、後遺障害により生じた各保険金を、それぞれ請求するものである。

 これに対して被控訴人らは、控訴人の本件各保険契約に基づく保険金請求権が破産宣告前に発生したもので、破産法六条一項、少なくとも同条二項に該当し、いずれにしても破産財団に属するから、破産管財人が本訴の訴訟物につき当事者適格を有し、控訴人にはその適格がないと主張するので、検討する。

 なお、弁論の全趣旨によれば、破産者である控訴人の破産管財人加藤英範は、本件各提訴に先立ち、京都地方裁判所に、被控訴人エイアイユーに対し第一、第二契約に基づき(同庁昭和六二年(ワ)第二八五〇号)、被控訴人大同生命に対し大同契約に基づき(同第一干三九号)、被控訴人安田生命に対し安田契約に基づき(同第二七一三号)、いずれも控訴人が本件自損事故により受傷したとして、その結果生じた入通院、後遺障害、就業不能による保険金の発生を請求原因として保険金請求訴訟を提起し、現に同裁判所に係属していることが窺われる(以下一括して「別訴」という。)。

 すると右別訴は破産管財人による法定訴訟担当として、その判決の既判力が控訴人に及ぶ関係にあるものの、別訴における破産管財人(原告)と本訴における破産者(控訴人)とは、破産宣告時を基準にして訴訟の対象とされている権利が破産財団に属するときには破産管財人に訴訟追行権が付され、その権利が自由財産に当たるときには破産者が同追行権を有する関係にあるから、以下ではまず本訴において控訴人の主張する本件各契約に基づく保険金請求権が自由財産に属するか否かを、控訴人の主張自体に即して検討を加え、控訴人の当事者適格の有無につき判断することとする。

 そこで、本件各保険契約の約款の定め、及び右各保険契約の性質に照らして、控訴人の主張を前提としたならば、右各契約に基づき生ずることのあるべき保険金請求権が何時、どのような態様で発生し、何時履行期が到来すると解すべきかを考察することとするが、その前提として、本件各保険契約における保険約款の内容につき検討する。

 1 〈証拠〉及び右当事者間に争いがない事実に、弁論の全趣旨を総合すると、

  (一) エイアイユー第一、第二契約は、普通傷害保険契約であり、その約款第一条一項には、「当会社は、被保険者が(略)急激かつ偶然な外来の事故(略)によってその身体に被った傷害に対して、この約款に従い保険金(死亡保険金、後遺障害保険金および入院保険金をいいますこを支払います。」との記載があり、同第六条には、後遺障害保険金の、同第七条には、入院保険金の各支払条件及びその額の算定基準が、同第二一条には、被保険者が被控訴人エイアイユーに保険金を請求するに当たり提出すべき後遺障害診断書、入通院日数証明書等の書類が定められており、同第二三条一項には、右被控訴人は被保険者が前同第二一条一項の請求手続をした日から三〇日以内に保険金を支払う旨、ただし、右被控訴人が右期間内に必要調査を終えられなかったときは、これを終えた時に遅滞なく保険金を支払う旨の定めがある。

  (二) 大同契約は、医療保険付生命保険契約であり、控訴人主張の高度障害保険金に関し、その定期保険普通保険約款第二条一項には、被保険者が給付責任開始の日以後に発生した傷害によって保険期間中に、例えば両眼の視力完全永久喪失など所定の高度障害状態となった場合に、死亡保険金と同額を保険金受取人に支払う旨定められている。また、同約款第四条二項には、保険金受取人は、高度障害保険金の支払事由が発生した場合には、すみやかに請求に必要な書類を被控訴人大同に提出すること、同条四項には、右被控訴人による調査又は診断のため特に日数を要した場合を除き、請求に必要な書類が右被控訴人の本社に到達した日の翌日からその日を含めて五日以内に保険金を支払う旨定められている。

 (三) 安田契約は、所得補償保険契約に、傷害による死亡、後遺障害担保特約条項が付されたもので、所得補償保険普通保険約款第一条には、「当会社は、被保険者が傷害(略)を被り、そのために就業不能になったときは、この約款に従い被保険者が被る損失について保険金を支払います。」と、第二条には「(1)傷害 被保険者が、急激かつ偶然な外来の事故によって被った身体の傷害をいいます。」とそれぞれ定められ、また同条(4)ないし(6)には、就業不能開始日から右の状態が継続する当初の約定期間(安田契約では一四日間)を免責期間とし、右期間終了日の翌日から約定の期間(安田契約では一二か月)を填補期間とし、右期間内における被保険者の就業不能日数を就業不能期間とする旨定められ、第五条において右就業不能期間に対し被保険者に保険金を支払う旨それぞれ定められている。そして、同第二四条には、被保険者が就業不能でなくなった日等から三○日以内に身体障害及び就業不能を証明する医師の診断書等を提肝して保険金請求を行うことが、同第二五条には、被控訴人安田は、原則として被保険者又は保険金受取人が右請求手続完了日から三〇日以内に保険金を支払う旨定められている。

 また右約款の特約条項第一条には、「当会社は、被保険者が所得補償保険普通保険約款第二条第一号の傷害(略)を被りその直後の結果として傷害の原因となった事故(略)発生の日から一八〇日以内(略)に後遺障害(略)が生じたときは、この特約条項に従って保険金(死亡保険金および後遺障害保険金)を支払います。」と定められ、その履行期については、第一三条において右所得補償保険普通約款を準用している。

  (四) 日動契約は、自家用自動車保険契約で、同約款第二章自損事故条項第一条一項には、「当会社は・・・・・・自動車(略)の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害(略)を被り、かつ、それによってその被保険者に生じた損害について自動車損害賠償保障法第三条に基づく損害賠償請求権が発生しない場合は、この自損事故条項および一般条項に従い、保険金(死亡保険金、後遺障害保険金、(略)医療保険金をいいます。(略))を支払います。」と、同第四章搭乗者傷害条項第一項には、「当会社は、(略)搭乗中の者(略)が被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害(略)を被ったときは、この搭乗者傷害条項および一般条項に従い保険金(略)を支払います。」とそれぞれ定められている。また同約款第六章一般条項二〇条一項には、保険金請求権が次の時から発生し、行使できる旨定められている。

(1) 自損傷害に関し、後遺障害保険金については、被保険者に後遺障害が生じた時、

 医療保険金については、被保険者が平常の生活もしくは業務に従事することができる程度になおった時または事故の発生の日を含めて一六〇日を経過した時のいずれか早い時、

(2) 搭乗者傷害に関し、後遺障害保険金については、被保険者に後遺障害が生じた時または事故の発生の日を含めて一八〇日を経過した時のいずれか早い時、

 医療保険金については、自損傷害と同旨、

 以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

 2 右で認定したところに基づき、本件各保険契約に基づく保険金請求権の性質につき検討した上で、右債権が破産法六条一項、又は二項にいう破産財団に属する債権に当たるか否かについてみることとする。

  (一) まず、エイアイユー第一、第二契約、安田契約中の後遺障害担保特約条項(以下「後遺障害特約」という。)、日動契約は、右で認定した、それぞれの約款によれば、いずれも傷害保険の性質を有するところ、右保険は、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によって身体に被ったことを保険事故とし、その結果生ずる入院、通院、後遺障害等は単なる支払条件にとどまるものと解される。そしてこれらの保険金の履行期は、保険金受取人が保険者に対し、右支払条件を証明する診断書等を提出して請求をした日から原則として三〇日以内とされ(エイアイユー第一、第二契約、安田契約中後遺障害特約)、或いは、後遺障害に関し、その発生した時、入通院に関し治癒した日か事故日を含め事故後一六〇日を経過した日のいずれか早い日とされており(日動契約)、これらの事実に鑑みると、右各保険規約に基づく被保険者の保険金請求権は、右保険事故の発生と同時に、約款所定の支払条件の生起を停止条件とする債権が発生し、右条件成就後約款所定の履行期の到来をもってこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

  (二) 次に、大同契約は、医療保険付生命保険をその内容とし、前記で認定した定期保険普通保険約款中の高度障害保険金支払条項によると、傷害によって所定の高度障害状態になったことを保険事故とするものと解される。そしてその履行期は、原則として、保険金受取人が診断書等所定の書類を提出して請求し、被控訴人大同の本社に右書類が到達した日から起算して五日以内とされている。

 右の事実に鑑みると、大同契約に基づく高度障害保険金請求権は、傷害又は疾病によって保険期間内に所定の高度障害状態になったという保険事故の発生と同時に発生し、その後約款所定の履行期の到来をもってこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

  (三) 安田契約中所得保障保険約款に基づく保険は、被保険者の傷害そのものではなく、右傷害のために発生した就業不能を保険事故とし、それにより被った実際の損害を保険証券記載の金額を限度として填補することを目的とした損害保険の一種というべきであり(最高裁平成元年一月一九日一小法廷判決、判例時報一三〇二号一四四頁)、その履行期は、前記認定の右約款によれば、保険金受取人又は被保険者による、所定期間内の請求手続完了後三〇日以内である。

 右の事実に鑑みると、右保険金請求権は、右就業不能という保険事故の発生と同時に発生し、その後約款所定の請求手続完了後における履行期の到来をもってこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

 3 そこで、右1、2で認定、説示したところに基づき、右各保険金請求権が破産法六条一項、または二項に該当し、破産財団に属するものか否かにつき検討する。

 まず傷害保険としての性質を有するエイアイユー第一、第二契約、安田契約中後遺障害特約、日動契約に基づく保険金請求権は、前記控訴人の主張によれば、その保険事故である、「急激かつ偶然な外来の事故による身体傷害」が本件破産宣告前既に発生し、右時点において停止条件付債権として発生していることになるから、少なくとも破産法六条一項にいう破産宣告前に生じた原因に基づき将来行うことあるべき請求に当たるものといわなければならない。

 次に、安田契約中所得保障保険約款に基づく保険金請求権は、控訴人の主張によれば、その保険事故である、「被保険人者の傷害のために発生した就業不能」が本件事故日である昭和六一年九月四日、控訴人が入院治療を受けたことにより発生していることになり、右時点において債権として発生し、その後約定の免責期間を経て就業不能状態が継続することにより具体的な数額が確定し、その履行期が破産宣告後に到来することかあるにとどまるというべきであるから、右保険金請求権も又少なくとも破産法六条二項に該当する債権と解するのが相当である。

 これに対し、控訴人が本訴において請求する大同契約に基づく保険金請求権は、傷害により所定の高度障害状態になったことを保険事故とするものであるところ、控訴人の主張によると、控訴人は、破産宣告を受けた昭和六二年二月一二日から一週間後に入院先を退院し、その月の一四日から翌六三年八月一〇日までの間に一〇日通院治療を受けて、併合一〇級の後遺障害を遺したというのであるから、右請求権が自由財産に属する旨の控訴人の主張を前日とする限り、控訴人が右訴えにつき当事者適格を有することは否定できないものの、本件自損事故の傷害により所定の高度障害状態になっていないことは控訴人の右主張自体によって明らかである。

 なお控訴人は、その主張を前提とすればエイアイユー第一、第二契約、安田契約、日動契約に基づき生じることのあるべき保険金中破産宣告後の入通院期間に相当する分及び右宣告後の就業不能、後遺障害分が自由財産に属する理由として退職金請求権中破産宣告後の賃金相当分が自由財産に属すると解されていること及び不法行為に基づく逸失利益損害賠償請求権中右同様の分を自由財産に属すると解すべきことを挙げるけれども、退職金につき右のように解されているのは、それが賃金後払いの性質を有し、破産宣告後の労務の対価として発生した分は、まさに右宣告後の原因によって生じたからにほかならないし、逸失利益損害賠償請求権については、もともと事故の発生時点において不法行為による損害賠償請求権の総てが発生していると解するのが相当であるから、控訴人のこれらの点に関する主張は失当といわなければならない。

 4そうすると、控訴人の主張自体によっても、大同契約以外の本件各保険契約に基づく保険金請求権は総て破産財団に帰属することになるから、控訴人は、被控訴人エイアイユー、同安田火災、同日動火災に処する本件訴えの当事者適格を有しないことが明らかであり、また被控訴人大同生命に対する本訴請求は失当といわなければならない。

三 よって、控訴人の被控訴人エイアイユー、同安田火災、同日動火災に対する本件訴えはいずれも不適法であるから、却下すべきであり、また、被控訴人大同生命に対する本訴請求は失当であるから棄却すべきである。したがって、原判決中右被控訴人大同生命に対する請求に関する訴えを不適法として却下した部分は失当であって、本来ならば取消されるべきであり、民訴法三八八条によれば、かかる場合、控訴裁判所は事件を第一審裁判所の差戻すことを要する旨規定されているけれども、右規定の趣旨は審級の利 を保障することにあるから、本件のごとく、本案についてその理由のないことが控訴人の主張自体から明らかであり、事実の認定そのものについて審級の利益を保障すべき実質的理由のない場合には、敢えて第一審に差戻す必要はないものと解される。しかしながら、原判決を取消して請求棄却の判決をすることは、原判決よりも控訴人に不利益となり、民訴法三八五条により、原判決を控訴人の不利益に変更することは許されないので、当裁判所は原判決の結論を維持するほかない。

 そうすると、右と結論を同じくする原判決は相当であるから控訴人の被控訴人らに対する本件各控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石田 眞 裁判官福永政彦 裁判官鎌田義勝)


死亡保険受取人を「相続人」としていた場合の処理 最高裁平成6年

保険金請求事件 保険法判例百選 第2版 109事件

最高裁判所第2小法廷判決/平成3年(オ)第1993号

平成6年7月18日

【判決要旨】      保険契約において保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれ、各保険金受取人の有する権利の割合は相続分の割合になる。

【参照条文】      商法675

            民法427

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集48巻5号1233頁

            家庭裁判月報47巻6号45頁

            最高裁判所裁判集民事172号983頁

            裁判所時報1127号122頁

            判例タイムズ863号139頁

            金融・商事判例958号3頁

            判例時報1511号138頁

            金融法務事情1407号71頁

【評釈論文】      金融法務事情1428号72頁

            ジュリスト1060号62頁

            ジュリスト臨時増刊1068号108頁

            別冊ジュリスト138号184頁

            別冊ジュリスト271号220頁

            商事法務1377号82頁

            判例タイムズ868号52頁

            判例タイムズ臨時増刊913号162頁

            判例評論438号73頁

            法学協会雑誌113巻9号121頁

            法学教室173号132頁

            法曹時報48巻9号209頁

            法令ニュース30巻3号18頁

            民商法雑誌113巻3号83頁

            NBL586号58頁

            別冊NBL45号127頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人大西英敏の上告理由について

 保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。けだし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあるとともに、右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。したがって、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合に、数人の相続人がいるときは、特段の事情のない限り、民法四二七条にいう「別段ノ意思表示」である相続分の割合によって権利を有するという指定があったものと解すべきであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の割合になるものというべきである。

 これを本件についてみると、原審の確定した事実は、次のとおりである。(1) 上告人の妻であるAは昭和六一年七月一日被上告人との間で、被保険者をA、事故による死亡保険金を一〇〇〇万円、保険期間を五年とするなどの内容の積立女性保険契約(以下「本件契約」という。)を締結したところ、Aは昭和六三年九月二八日事故により死亡した。(2) 本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記入はされていなかったが、同欄には「相続人となる場合は記入不要です」との注記がされており、また、本件契約の保険証券の死亡保険金受取人欄には、「法定相続人」と記載されている。(3) Aの相続人は配偶者である上告人及び兄弟姉妹(代襲相続人を含む。)の一〇名であり、上告人の法定相続分は四分の三である。

 右事実関係によれば、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載はされていなかったが、同欄には前記のような注記がされていたのであるから、Aは右注記に従って保険金受取人の記載を省略したものと推認するのが経験則上合理的であり、したがって、Aは本件契約に基づく死亡保険金の受取人を「相続人」と指定したものというべきである。そうすると、前に説示したところによれば、上告人は、本件契約に基づく死亡保険金につき、その法定相続分である四分の三の割合による権利を有することとなる。

 原審は、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載がないことから、本件契約においては保険金受取人の指定がなかったものとし、仮に右の指定があったと推認されるとしても、保険金の帰属割合についてまでの指定はなかったとし、本件においては、本件契約に適用される保険約款の定めによってAの法定相続人が死亡保険金の受取人となり、その割合は民法四二七条により平等の割合になるものと判断したが、右認定判断には、経験則違背ないし保険契約者の意思解釈を誤った違法があるというべきであって、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、被上告人の抗弁の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第二小法廷

        裁判長裁判官  中島敏次郎

           裁判官  木崎良平

           裁判官  大西勝也

           裁判官  根岸重治

 

保険の入院給付金における入院 福岡地裁平成28年

保険法判例百選第2版A11 保険金等請求事件

                 福岡地方裁判所判決/平成26年(ワ)第2180号、平成26年(ワ)第2535号

                 平成28年2月22日

【判示事項】        保険契約における保険金の支払事由としての「入院」とは、単に医師が入院を必要とすると判断しただけでは足りず、その判断に客観的合理性のあることが必要であるとされた事例

【参照条文】        保険法第4章第3節

【掲載誌】         判例時報2302号111頁

【評釈論文】        ジュリスト1518号114頁

              法学セミナー62巻1号111頁

              法律のひろば71巻6号53頁

              保険事例研究会レポート317号1頁

              保険事例研究会レポート321号14頁

 

       主   文

 

 一 原告の請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は、二一八〇号事件、二五三五号事件とも、原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 請求

 (二一八〇号事件)

 一 被告Y1は、原告に対し、八四万円及びうち七四万円に対する平成二六年八月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を、うち一〇万円に対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

 (二五三五号事件)

 二 被告生協は、原告に対し、八六万円及びうち七六万円に対する平成二六年九月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を、うち一〇万円に対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二 事案の概要

 本件は、被告らとの間で保険契約ないし共済契約(以下「本件各保険契約」という。)を締結していた原告が、自転車を運転中に自家用普通貨物自動車と接触し、その後、病院に入院したこと(以下「本件入院」という。)について、本件入院は、本件各保険契約における保険金ないし共済金の支払事由としての「入院」に該当するにもかかわらず、被告らは故意又は過失により保険金ないし共済金の支払を怠ったと主張して、被告らに対し、本件各保険契約に基づき、保険金や共済金の支払(訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を含む。)を求めるとともに、不法行為に基づき、弁護士費用相当額の支払(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を含む。)を求めた事案である。

第三 前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲証拠〔枝番があるものは枝番を含む。以下同様である。〕及び弁論の全趣旨により認めることができる。)

   〈編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します〉

 一 原告

 原告は、昭和四三年×月×日生まれの男性であり、三六歳頃に左膝の人工関節手術を受け、四二歳頃に右膝の靱帯の手術を受けた。

 二 原告と被告Y1との間の保険契約

 (1) 原告は、平成一一年一二月五日、被告Y1との間で、原告を被保険者とする総合医療保険契約(証券番号:《省略》)(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

 (2) 本件保険契約においては、その約款上、災害入院給付金の支払について、概要、以下の規定が置かれている。

 ア 支払事由

 被保険者が保険期間中に次のいずれにも該当する入院をしたとき

  ① 責任開始期以後に発生した不慮の事故による傷害の治療を目的とした、その事故の日からその日を含めて一八〇日以内に開始した入院

  ② 病院又は診療所における入院

  ③ 入院日数が五日以上の継続した入院

 イ 支払額

 同一の不慮の事故による入院一回につき、(入院給付金日額)×(入院日数-入院開始日からその日を含めての四日)

 ウ 受取人

 被保険者

 エ 免責事由

 被保険者が、次のいずれかにより支払事由に該当したとき

  ① 保険契約者の故意又は重大な過失

  ② 被保険者の故意又は重大な過失

  (以下、略)

 オ 入院

 「入院」とは、医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいう。

 三 原告と被告生協との間の共済契約

 (1) 原告は、平成二〇年一月一日、被告生協との間で、原告を共済契約者兼被共済者とする生命共済契約(総合保障四型医療一型特約)(加入者番号:《省略》)(以下「本件共済契約」という。)を締結した。

 (2) 本件共済契約においては、その約款上、交通事故による入院の場合の共済金について、概要、以下の支払基準等が定められている。

 ア 支払基準

 保障期間内に発生した事故を直接の原因とし、事故の日から一八〇日以内に開始された、一回につき継続して五日以上の、病院、診療所等での治療のための入院が対象となる。ただし、入院の初日から四日分は免責となる。

  (ア) 総合保障四型における具体的な支払額

 一日当たり一万円×(入院日数-四日)

  一八〇日分を限度とする。

  (イ) 医療一型特約における具体的な支払額

 入院一時金 二万円

 イ 事故

 「事故」とは、急激で偶発的な外来の事故をいう。

 ウ 入院

 「入院」とは、医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいう。

 なお、平成二二年四月以降を始期とする共済契約締結の際に配布される「生命共済ご加入のしおり」には、上記定義に加え、新たに「自宅等での療養や通院での治療が可能であるにもかかわらず入院している場合は、この「入院」に該当しません。」との文言が付加されている。

 四 交通事故の発生

 原告は、平成二五年七月一八日午後〇時八分頃、福岡県○○市○○町×丁目××番×号先路上(以下「本件事故現場」という。)において、自転車(以下「本件自転車」という。)を運転中、丁原花子(以下「丁原」という。)運転の自家用普通貨物自動車(以下「丁原車」という。)と接触した(以下「本件事故」という。なお、その原因や態様については当事者間に争いがある。)。

 五 その後の入通院状況

 (1) 原告は、本件事故後間もなく、福岡県A病院(以下「A病院」という。)に救急搬送され、同病院の麻酔科医である戊田梅夫医師(以下「戊田医師」という。)及び同医師からコンサルトを受けた整形外科医である甲田春夫医師(以下「甲田医師」という。)の診察を受け、殿部打撲と診断された。

 (2) 原告は、同月一九日、乙野外科を受診し、乙野夏夫医師(以下「乙野医師」という。)の診察を受け、殿部打撲傷兼左殿部下肢神経運動障害(歩行障害・跛行)と診断され、同日から同年九月三〇日まで、同病院に入院し(本件入院)、退院後も同病院に通院した。

第四 争点及び争点に関する当事者の主張

 一 争点一(本件入院が本件各保険契約における保険金ないし共済金の支払事由としての「入院」に該当するか否か)

 (原告の主張)

 (1) 「入院」該当性の判断に際しては、患者を直接診察した上で治療法について広い裁量を有している主治医の医学的な判断を軽視すべきではなく、主治医が患者の病状や家族状況等を総合判断して医学的見地から入院の必要性を考慮している以上は、「入院」に該当するとの一応の推認が働き、同推認を覆すに足りる事情があるかという見地から検討すべきである。

 (2) 本件では、乙野医師が、原告の主訴を聞いただけではなく、原告の歩行状況等を観察して、殿部痛、左下肢痛、しびれ感、跛行等の運動障害があると判断した上で、まずは比較的安静(入院し、最小限の用事のみ)にし、消炎鎮痛、機能回復の物療、外用・内服を行い、様子をみながらリハビリも行うこととし、保存療法として入院による安静を選択したものであり、上記推認を覆すに足りる事情はない。

 なお、原告は、A病院受診時、MRI検査の結果を聞いた後も左足の調子が悪く、左足を引きずって救急処置室を退室し、その後も最寄り駅が近距離にあるにもかかわらずタクシーに乗車せざるを得なかった。また、A病院では、左足の痛みが酷くなることに備え、かかりつけ病院であった乙野外科への紹介状が作成されたところ、翌日、痛みが酷くなったため、同紹介状を持参して乙野外科を受診し、乙野医師の勧めにより本件入院に至ったものであり、A病院受診時の状態や医師の判断は、乙野医師の上記判断が不合理であることの理由とはならない。

 (被告Y1の主張)

 (1) 入院給付金の支払対象となる「入院」は、単に医師が入院を要すると判断しただけでは足りず、入院当時の医学水準からみてその症状ないし状態に照らし、自宅等では治療が困難であって医療機関における入院治療を要すると判断することが客観的にも合理的である場合に限定される。

 このことは、一定の保険事故(支払事由)の発生率を算定し、それを基礎に保険料を定め、保険契約者から徴した保険料を責任準備金として積み立て、当該保険事故(支払事由)が発生したと客観的に認められる場合に責任準備金から保険金(給付金)を支払い、もって相互扶助制度である保険契約における保険契約者間の公平を図るという保険契約の特質から必然的に要請されるものである。

 (2) 本件においては、原告は、A病院受診時、腰部MRIでも骨折等の所見はなく、その旨を説明された後は、説明前には動きが悪いと言っていた左下肢を問題なく動かし、歩行も問題なく、甲田医師に帰宅を促されて独歩で退室しており、甲田医師も全く入院の必要性を考えていなかった。

 さらに、本件入院は、乙野医師が、単に独り者が家にいるようになると、飲みに行ったり遊びに行ったりして安静にしておくことが難しく、回復までの時間がかかると判断したためであり、入院中の治療内容も外来でも十分可能なものばかりであった。なお、乙野外科における傷病名のうち「左殿部下肢神経運動障害(歩行障害・跛行)」は、A病院での原告の上記言動に照らして疑わしく、仮にあったとしても極めて軽微なものであったと考えられる。

 以上によれば、本件入院が入院給付金の支払の対象となる「入院」に該当しないことは明らかである。

 (被告生協の主張)

 (1) 本件共済契約の約款の文言によれば、自宅等での療養や通院での治療が可能であるにもかかわらず、入院している場合には、共済金の支払の対象となる「入院」には該当しない。

 (2) 本件においては、被告Y1が主張するとおりのA病院における診断結果や、丁原に対する聞き取り調査の結果のとおり、本件事故が極めて軽微であり、接触後、原告が自らの意思で本件自転車を降りた後に、後ろに倒れたという不可解な事故状況からすれば、原告に入院を余儀なくされるような歩行障害が生じていたとは考えられない。

 さらに、乙野医師は、被告生協嘱託の調査員による面談時、主訴は神経症状ではないなどと、診断書記載の傷病名と矛盾する供述をしていたほか、画像撮影すら行わず、仕事の有無のみを確認して入院を指示した旨を述べていたこと(従前の原告の交通事故歴や通院歴からすれば、乙野外科は、客観的な他覚的所見に基づく入院の必要性が認められない自覚症状のみの症状であっても安易に入院を認める医療機関であるといえる。)や、入院期間中、原告が日常生活に必要な所作の全てにつき他者の支援を受けることなく独りで対応可能であったこと、その他、被告Y1が主張するとおりの諸事情からしても、本件入院が共済金の支払の対象となる「入院」に該当しないことは明らかである。

 二 争点二(給付金及び共済金の額等)

 (原告の主張)

 (1) 被告Y1に対する請求

 ア 入院給付金 七四万円

   (一日一万円×入院七四日)

 イ 弁護士費用相当額 一〇万円

 (2) 被告生協に対する請求

 ア 共済金 七六万円

 (入院給付金七四万円と入院一時金二万円の合計額)

 イ 弁護士費用相当額 一〇万円

 (被告Y1の主張)

 否認する。

 なお、入金給付金については、入院開始日からその日を含めての四日が入院日数から控除されることになっている。

 (被告生協の主張)

 否認する。

第五 当裁判所の判断

 一 前提事実に加え、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

 (1) 本件事故の発生

 ア 原告は、平成二五年七月一八日午後〇時八分頃、本件事故現場において、本件自転車を運転中、前方の信号が赤色であったため、速度を落として停車しようとしたところ、右方の店舗駐車場から左折して路上に進行しようとしていた低速度の丁原車と接触して、本件自転車ごと転倒し、主に左殿部を打った(原告の供述する事故態様があり得ないものとはいえず、当初から戊田医師らに対しても一貫した事故態様を述べており、その症状とも矛盾しないものであることから、上記の範囲で認める。これに対し、丁原は、被告生協側の電話による聞き取り調査時、接触後、原告が本件自転車から降りて自分から後ろに倒れた旨を述べているが、事故態様につき利害関係を有する一方当事者からの同聞き取り調査結果のみから直ちに同事実を認めることは困難である。また、原告は本件事故以前にも頻繁に事故に遭っていたものであるが、その内容に照らしても、直ちに本件事故の偶発性や事故態様に関する原告の供述に重大な疑念を生じさせるものとまではいえない。)。

 イ なお、本件事故当時、原告は、母親が入院中であったため、自宅で一人で生活していた。また、原告は、左膝に人工関節を入れており、日常生活上困ることはなかったが、重い物を持つのが大変であったため、週一回、介護ヘルパーに来てもらっていた。

 (2) A病院における診療経過

 ア 原告は、本件事故後間もなくA病院に救急搬送され、ストレッチャーで救急処置室に入室後、麻酔科医である戊田医師に対し、腰部、殿部の痛みがあり、左足の感覚がおかしい旨を訴えた。

 戊田医師は、原告の左の尾てい骨殿部辺りの痛みの訴えが著明であり、左下肢の動きが悪かったため、レントゲン検査を実施したが、骨盤や大腿骨頸部に明らかな骨折を認めず、痛みも少し落ち着いてきたものの、左下肢をつねっても痛みがなかったため、整形外科医である甲田医師にコンサルトをした。

 イ 甲田医師は、腰部のMRI検査を実施したが、骨折やヘルニア、神経圧迫等の外傷による異常所見は認められなかった。その後、甲田医師が、原告に対し、上記検査結果や左下肢の動きの悪さも一時的なものだと思う旨を説明し、帰宅してよい旨を伝えたところ、原告は、入室時は動きが悪いとして引きずるように歩行していた左下肢を問題なく動かし、歩行も問題なく、痛みも自制可能な範囲内であり、独歩で救急処置室から退室し、帰宅した(これに対し、原告は、MRI検査の結果を聞いた後も、左足の調子は悪く、左足を引きずって救急処置室を退室し、自宅までタクシーに乗車せざるを得なかったと供述する。しかし、仮に原告が左足を引きずって退室したのであれば、甲田医師が診療録に左下肢を問題なく動かし、歩行も問題ない旨を記載するとは考え難く、むしろ、同医師の印象に残る出来事であったため、敢えて上記の旨を診療録に記載したと認めるのが自然であり、上記のとおり自制可能な範囲内とはいえ痛みはあったことからタクシー乗車の事実までを否定するものではないが、その他の原告の上記供述を採用することはできない。)。

 また、甲田医師は、上記診察時、原告から、かかりつけ医である乙野外科への紹介を希望されたため、紹介状を作成したほか、自宅に痛み止めがあり不要である旨を伝えられたため、内服薬や外用剤も処方しなかった。

 ウ なお、A病院では、原告について、当初、その主訴を踏まえ、殿部打撲、外傷性下肢不全麻痺疑いとの診断をしていたが、その後の上記診療経過を踏まえ、最終的には、殿部打撲との診断をした。

 (3) 乙野外科における診療経過

 ア 原告は、同月一九日、乙野外科(原告の自宅から約五〇〇mの距離にある。)を受診し、乙野医師の診察を受けた。

 乙野医師は、診察時、原告が殿部痛、左下肢痛やしびれ感を訴えるとともに、左足を引きずる歩行の仕方であったこと(なお、同医師は、書面尋問において、これらの症状が脊髄性末梢神経症状である可能性が考えられるとしているが、これを裏付ける他覚的所見等は何ら存在せず、これを採用することはできない。また、上記診察時、皮膚の変色等のその他の外傷所見は認められなかった。)を受け、自立歩行は可能であり、治療内容面やADL(トイレ、洗面、食事、風呂、更衣等)上の問題は特になかったものの、当時、原告は仕事をしておらず、独居者が家にいると安静にしておくことが難しい分、怪我の治りも遅くなるため、また、上記歩行状態等から通院治療の指示を確実に守るようにも思われなかったため、痛み等の回復を早期かつ確実に実現させるためには入院して管理することが望ましいと考え、入院を勧めた。

 原告は、その後、入院準備のため一旦自宅に帰宅したほか、同日、本件事故で損傷した本件自転車を自転車販売店に持ち込み、修理の見積りを依頼していた。

 イ 原告は、同日から同年九月三〇日まで、乙野外科に入院した(本件入院)。

 本件入院に際しては、まずは比較的安静(最低限の用事のみ)にし、消炎鎮痛、機能回復の物療、外用、内服を行い、様子をみながらリハビリを行うとの治療計画が立てられ、原告は、入院中、午前と午後の一日二回のホットパックや低周波による治療とともに、疼痛治療剤等の注射や内服薬処方等による治療を受けたほか、途中からはリハビリを行った。

 ウ 原告は、退院後、症状の軽減はみられたものの、腰痛等の症状(左足を引きずる歩行も少しみられた。)が持続し、平成二六年二月二八日まで毎日、乙野外科に通院し、一日一回のホットパックや低周波のほか、疼痛治療剤等の注射や内服薬処方等による治療を受けた。

 二 争点一(本件入院が本件各保険契約における保険金ないし共済金の支払事由としての「入院」に該当するか否か)について

 (1) 本件各保険契約における保険金ないし共済金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、前提事実二(2)オ及び三(2)ウのとおりの本件各保険契約における「入院」の定義(医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること)からしても、単に当該入院が医師の判断によるにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものと解される。

 これに対し、原告は、当該入院が患者を診察した担当医師の判断によるものであれば「入院」該当性が推認されるなどと主張する。しかし、担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、上記の「入院」該当性の判断に際して一つの重要な事情とはなるものの、通常、医師の判断によらない入院を想定できないことからしても、医師による判断の存在という外形的な事情のみから直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえないというべきである。

 (2) 以上を基に判断するに、本件においては、前記一(3)のとおり、客観的にも、また、乙野医師の判断によっても、治療内容やADL上の問題から自宅等での治療が困難であるといった事情があったわけではなく、乙野医師は、独居者である原告については自宅で安静にしておくことが難しく、また、その歩行状態等から通院治療の指示を確実に守るようにも思われなかったことから、痛み等の回復を早期かつ確実に実現させるため、入院での管理が望ましいと判断したにとどまるものである。

 この点、前記一(3)アのとおり、原告は、平成二五年七月一九日に乙野外科を受診した際、乙野医師に対し、殿部痛、左下肢痛やしびれ感を訴えるとともに、左足を引きずる歩行の仕方をしていたものである。しかし、前記一(1)のとおりの本件事故による受傷状況(本件事故時の両車の速度等からしても、本件事故による衝撃がそれほど大きなものであったとは認め難い。)や、前記一(2)イ、(3)アのとおりのその後の診察結果等(MRI検査等によっても外傷による異常所見は認められず、皮膚の変色等のその他の外傷所見も認められなかったほか、A病院における診察終了時には、左下肢を問題なく動かし、歩行も問題なく、痛みも自宅の痛み止めで足りるほどの自制内のものであり、また、その翌日に、原告が供述するように妹の運転する自動車に積み込んだのだとしても、本件自転車を自転車販売店に持ち込み、修理の見積りを依頼するだけの余裕はあった。)からすれば、乙野外科受診時、原告が訴えていた殿部痛等の症状の存在自体は否定できないとしても、その症状が自宅等での治療が困難であるほど重いものであったと認めることはできない。

 また、前記一(3)イのとおり、原告は、入院中、退院後と異なり、午前と午後の一日二回、ホットパックや低周波による治療を受けていたものである。しかし、乙野医師は、二回目の治療については診療録にも記載せず、診療報酬請求もしておらず、同治療が無益なものではなかったにせよ、その積極的な必要性がどこまであったのか疑問があり(上記のとおりの本件事故による受傷状況やその後の診察結果等からすれば、前提事実一のとおりの原告の既往症の存在等を考慮しても、結果的に二か月半近くの入院とその後も五か月に及ぶ通院を要した本件において、本件入院により通院治療を続けた場合と比べて早期の回復が得られたとも認め難いものである。)、少なくとも一日二回の上記治療が必要であることから入院の必要性があったと認めることはできない(乙野医師も同治療が必要であることから直ちに入院を勧めたものではないとうかがわれる。)。

 そして、これらの原告の症状やその後の治療内容等からすれば、本件においては、客観的にみて、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性を認めることはできない。乙野医師の上記判断は、結局のところ、原告の症状等からすれば、通常は自宅等での療養や通院での治療も可能であるが、独居者であり、また、歩行の困難性がうかがわれた原告(なお、仮に同症状があったとしても、客観的にみて、自宅等での治療が困難であるほど重いものであったとは認められないことは、上記判示のとおりである。)については、同医師の指示通りに自宅で安静を保ったり通院するか不安があったため、これに配慮したものであって、原告個人との関係ではあり得ないものとまではいえないにしても、客観的な契約上の要件である「入院」該当性の根拠とすることはできないというべきである。

 (3) したがって、本件入院が本件各保険契約における保険金ないし共済金の支払事由としての「入院」に該当するとは認められない。

第六 結語

 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

  (裁判官 船所寛生)

保険の他保険告知義務違反と解除制限 東京高裁平成5年

保険法判例百選第2版A12                 保険金請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成3年(ネ)第2627        平成5年9月28日

【判示事項】        重複保険の不告知を理由とする保険契約の解除について、保険契約者の代理人において、右不告知が契約解除事由となることを知ったうえで、故意または重過失により他保険の存在を告知しなかったとして、保険契約の解除が認められた事例

【参照条文】        商法633

              商法644

【掲載誌】         判例タイムズ848号290頁

              判例時報1479号140頁

【評釈論文】        ジュリスト1114号123頁

              判例評論431号66頁

 

       主   文

 

 一 原判決を取り消す。

 二 被控訴人の請求を棄却する。

 三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 

       事   実

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 控訴人

 主文と同旨

 二 被控訴人

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 当事者の主張

 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決に記載(第二 事案の概要)のとおり(ただし、原判決三枚目裏九行目の「使者」の次に「(又は代理人若しくは履行補助者。本件傷害保険契約締結にあたっての被控訴人の法的地位については争いがある。)」を加える。)であるから、これを引用する。

 一 控訴人

 (第一解除及び第二解除に関する主張の補足)

  1 本件傷害保険契約は、定額給付型傷害保険であって、保険事故が生じたときは具体的な損害額とは無関係に約束された保険金を給付するものであり、その本質は条件付きの金銭給付契約であって、商法六三一条から六三四条までの規定の適用を受けない。その保険事故は急激・偶然・外来の事故による傷害又はその結果としての死亡又は後遺傷害であり、その発生率が少ないことから保険料は低額であり、支払われた保険料と保険事故が起きた場合の保険金との乖離が極端に大きく、保険事故招致を企図する者にとって誘惑的なものである。そこで、道徳的危険の防止という観点から、生命保険契約にはない重複保険契約についての告知義務や通知義務の制度が設けられているのであり、本件のような傷害保険契約にとっては、これらの制度は特に重要である。

  2 仮に、不告知ないし不通知を理由とする保険契約の解除が社会通念上公平かつ妥当と解される場合に限って許されるとしても、被控訴人は、控訴人担当者の拒否を圧してまで本件制約を締結し、また、右契約締結にあたり、担当者から告知義務・通知義務の存在及びその違反の場合の効果を説明されているのに、一日前に締結された第一契約の存在を告げず、さらには、第二契約の締結もわずか二か月後のことであって、被控訴人は、これらを知り尽くした上で右各違反をしたこと、被控訴人は、後述のとおり、日本語ができずかつ地理に不案内の順福をホテルに一人残して去っており、保険事故の発生を抑止しなかった上、順福を迎えに来ることとなっていたとする親戚の者の姓名や住所、新幹線に同乗した男性の同行者の存在を明らかにしないのであって、保険契約の善意契約性に著しくもとり、このような被控訴人に対しては、右解除することが許されるべきである。

 (当審における新たな主張)

 約款二〇条は、保険事故が発生したときは保険金を受け取るべき者は事故発生の日から三〇日以内に事故発生の状況を保険者に告知し、保険者が説明を求めたときはこれに応じなければならないと定め、その通知若しくは説明につき知っている事実を告げず若しくは不実のことを告げたときは、保険者は保険金を支払わないことを定めている。

 被控訴人は保険金を受け取るべき者であって右の義務を負っているところ、被控訴人は日本語ができない順福をホテルに一人残して韓国に旅立ったがその理由も経緯も不明であり、また、奈良の親戚が順福を迎えに来ることとなっていたと弁解するが、その親戚の者の姓名や住所を明らかにしなかったし、さらには、被控訴人は順福と被控訴人のみで新幹線に乗って大阪に行ったと説明し、男性の同行者一名の存在を隠蔽する。このように、被控訴人は本件事故の発生状況や犯人の特定に関する重要な事項について控訴人に説明を怠っており、被控訴人は前記約款の条項により保険金支払義務を負わない。

 二 被控訴人

 (第一解除及び第二解除に関する主張の補足)

 控訴人は、本件のような傷害保険契約にとっては、道徳的危険の防止という観点から告知義務や通知義務の制度は重要であると主張するが、生命保険契約(ママ)おいても同様の危険があり得るので、右主張は失当である。

 また、本件保険契約申込書には、重複保険の告知については左端に小文字で指摘されているに過ぎず、その義務の履行を厳格に要求しているとは考えられない。

 (控訴人の新たな主張に対する反論)

 被控訴人が控訴人主張の約款上の義務を負っていることは認めるが、控訴人は被控訴人に対し順福の死亡の態様を告知しており、その他の点については控訴人から説明を求められなかったから告げていないにすぎず、保険者たる控訴人に知っている事実を告げなかったり、不実のことを告げたことは否認する。

第三 証拠〈省略〉

 

       理   由

 

 一 第一、第二契約の成否

 第一、第二契約の成否に関する当裁判所の認定及び判断は、次の説示を加えるほか、原判決の「第三 争点に対する判断」中「一 第一、第二契約の成否」(原判決七枚目表七行目の冒頭から同一一枚目表末行の末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

  1 被控訴人は、当審において、小松原が第一、第二契約の契約書を偽造した証拠として、同人がその名刺の裏を利用して作成したとする仮領収証(〈書証番号略〉)と受領書(〈書証番号略〉)を提出する。このうち〈書証番号略〉は、小松原作成名義の昭和六三年九月五日(以下において、年の表示のない月日は、昭和六三年の月日を表すこととし、「昭和六三年」の表示を省略する。)付け被控訴人宛の仮領収証であって、八月八日から一〇日間の海外旅行の保険料として金一万四八四〇円を受領した旨が、また、〈書証番号略〉は、小松原作成名義の九月二〇日付け被控訴人宛の受領書であり、同日に被控訴人の領収証を受領した旨がそれぞれ記載されている。そして、被控訴人は、被控訴人が八月八日から一〇日間の韓国行き傷害保険の代金は小松原が立て替えていたので、これを九月五日に小松原に支払ったから(〈書証番号略〉)、右傷害保険と同時に加入したとする第二契約について被控訴人が八月八日に保険金を払い込んだことはあり得ないし、また、富士火災は第一、第二契約の契約書はいずれも小松原が偽造したことを認め、小松原に保険料を返還することとしたが、契約名義人が被控訴人であったことから、被控訴人宛に保険料を返済し、被控訴人が富士火災から保険料の返還を受けた旨の領収証とともに右返還金を小松原に交付した(〈書証番号略〉)と主張し、被控訴人本人の供述(原審・当審第一回)はこれに沿う。〈書証番号略〉については、小松原が病気のため記憶喪失となり(〈書証番号略〉)、同人からその作成の経緯についての供述を得ることができないが、同人が作成したことに争いのない〈書証番号略〉の筆跡との対照からいずれも真正に成立したものと認められる。

 しかし、〈書証番号略〉については、その作成の経緯に関する被控訴人の右主張には次のような疑問がある。まず、被控訴人の主張の経緯で右書証が作成されたとすると、小松原は被控訴人の保険料を立て替えたこととなるが、過去においてこのような立替払が行われたこと及び小松原と被控訴人との間に立替払が行われるような個人的な関係が形成されていたことが証拠上認められないこと。次に、同書証は、前示のとおり小松原作成名義の仮領収証であるが、「立替金」の文言がない上に、立替金に関する領収書であれば「仮」の文言を付する必要のないこと。被控訴人は八月一七日に小松原を通じて富士火災と同日から一〇日間の韓国行きの傷害保険を契約し、その保険金を同日小松原に支払っているのであって(〈書証番号略〉、証人小松原、被控訴人・当審第二回)、もし被控訴人主張の立替えが行われていたとすると、その際に立替金に関するやりとりが行われるはずであるのに、証拠上右事実が認められないこと。被控訴人は九月五日に小松原が同人の名刺の裏を利用して作成した領収証を持参して富士火災に順福の死亡保険金の支払い方を要求したが(〈書証番号略〉)、〈書証番号略〉はこれに関連して作成されたとも考えられること。以上の疑問があり、被控訴人の主張の経緯で右書証が作成されたものと認めることは困難である。仮に、被控訴人の主張のとおり右書証が作成されたとしても、第二保険の保険契約者は順福であって、右保険に関する立替金の領収証の宛名は同人となるはずであるから、右と同時に加入したとする被控訴人の傷害保険の保険金に相当する金額のみの立替金の領収証があるからといって、第二保険の成立を否定すべき根拠とはならない。

 次に、〈書証番号略〉については、被控訴人は富士火災から保険料の返還を受けた旨の領収証とともに返還金を小松原に交付したことを証するものであると主張するが、右富士火災からの領収証とともに返還金を小松原に交付したのであれば、領収証よりも重要な返還金に関する事項も記載されるはずであるのに、その記載がないことからすると、被控訴人主張の経緯で右書証が作成されたものとは直ちに認めがたい。却って、〈書証番号略〉に前示引用にかかる原判決認定の事実を総合すると、小松原は、被控訴人の執拗な要求に根負けして、自らのポケットマネーから第一契約及び第二契約の保険料相当額の二万五六二〇円を被控訴人に支払ったときに、被控訴人が富士火災宛てに作成した領収証を小松原が受領したことを証明するために〈書証番号略〉を作成したことが認められるのであって、同書証は、〈書証番号略〉と同様、第二保険の成立を認定する妨げとなるものではない。

 さらに、小松原が自己の費用負担で第一契約や第二契約を偽造する動機や必要性が認められないことを総合すると、小松原がこれらの契約書を偽造したとする被控訴人の主張は採用しがたい。

  2 被控訴人は第一契約の被保険者の中には順福が含まれていないと主張するが、前示引用にかかる原判決に認定のとおり、被控訴人の八月一六日付け外国人登録済証明書には、妻、子供三名のほか順福が同居の家族として記載されていて、第一契約の被保険者数五名の中には順福も含めなければ数が合わない上に、被控訴人は順福の同居の親族の資格で同人の死亡届をしているのであって(〈書証番号略〉)、第一契約の被保険者の中には順福が含まれていることは明らかである。〈書証番号略〉によれば被控訴人は西暦一九八八年五月二日に張明七と婚姻していることが認められるが、同女は東京に在住し、被控訴人は従来からの妻中村良子と被控訴人肩書地で同居しており(被控訴人当審第一回)、このことは、右認定の妨げとならない。

 二 第一解除及び第二解除の成否

  1 控訴人は、順福の代理人又は履行補助者である被控訴人が第一契約の存在を告知しなかったこと及び第二契約の締結を通知しなかったことを理由に本件傷害保険契約を解除したと主張するところ、第一解除の根拠として控訴人が主張する約款一〇条一項は、「保険契約締結の当時、保険契約者、被保険者またはこれらの者の代理人が故意または重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項について……知っている事実」を告げなかったときは、控訴人は契約を解除することができると定めており、本件傷害保険契約の申込書の記載事項として「他の保険契約」の欄が存在するから(〈書証番号略〉)、第一契約についての告知義務違反は、右約款一〇条一項の解除事由に当たるというべきである。また、約款一二条は、保険契約者または被保険者が重複保険契約をするときは予め、また、重複保険契約があったことを知ったときは遅滞なく、書面をもってその旨を保険者に申し出て、保険証券に承認の裏書を請求すべきことを定めており、被控訴人が第一契約を告知せず、かつ、第二契約を通知しなかったことは当事者間に争いがない。

  2 このように約款が、保険契約者等に対して、傷害保険の締結に際して他の保険契約締結の有無について事前の告知義務を課し、さらに事後に他の傷害保険契約を締結し、またはその存在を知ったときの通知義務を定めた趣旨は、本件の傷害保険が定額給付型の傷害保険であって、保険事故が生じたときは、その具体的な損害額とは無関係に約束された保険金を給付するものであり(〈書証番号略〉)、その本質は条件付きの金銭給付契約である(このため、商法六三一条から六三四条までの規定の適用を受けない。)ことに由来するものと解される。すなわち、本件傷害保険の保険事故は急激・偶然・外来の事故による傷害又はその結果としての死亡又は後遺傷害であって、その発生率が少ないため、病死も保険事故とする生命保険に比して保険料は低額であり、支払われた保険料と保険事故が起きた場合の保険金との乖離が極端に大きいことから、重複保険による保険金額の総額がその被保険者の年齢、性別、職業、保険の目的などに照らして不相当に高額になる場合には保険事故を招致して保険金を取得しようとする危険が高いという経験則に基づき、保険者としては、このような重複保険の成立を回避ないし抑制するため、当該保険契約締結の前後に重複契約に関する情報を開示させ、道徳的危険の強いものかどうかを見極めて、当該保険契約を締結しなかったり、解除するために、これらの告知義務、通知義務が設けられているものと考えられる。

 他方、各種保険の開発、普及及び保険会社による宣伝ないし勧誘等により、一般にさまざまな保険事故を対象とする保険に加入する機会が増大し、その結果特に傷害保険の分野(生命保険の特約条項としての傷害保険を含む。)においては、同一人を被保険者とする同一の保険事故に関する複数の保険契約に競合して加入することが珍しくない。このような状況のもとで、保険約款上重複保険の告知、通知義務が定められ、その懈怠が契約の解除という重大な結果をもたらすものとされているのに、一般公衆には、重複保険契約及びその不告知、付通知がそれほど重大なものと意識されているとはみられない。特に、後に他社と重複保険契約を締結した場合には、その旨を従前の保険会社に通知し、保険証券に裏書きを求めることは保険契約者にとって負担であるのみならず、これらの手順を知っている保険契約者は少ないものと推測される。それにもかかわらず、保険約款が、その各条項についての契約当事者の知、不知を問わず、特段の意思表示がない限り当然に契約内容となって当事者を拘束するいわゆる附合契約とされていることからすると、約款の規定があるからといって直ちにその契約上の効果をすべて無条件に認めることは、一般の保険契約者に対して、社会通念に照らし相当性を欠く不利益を与えるものであって当を得ないものと解される。保険契約の解除は、保険事故が生じた後においてもすることができるところ(約款一〇条四項、一六条四項。保険事故発生後の解除が解除の大多数の場合と思われる。)、保険事故発生前の保険契約の解除の場合は、保険契約者は、重複保険の事実を告知した上で新たに保険契約を締結する等の途が残されているのに比し、保険事故発生後の保険契約の解除の場合は、保険契約者はそのような手段を講ずることができず、特に不利益を与えるものである。

 そこで、右告知・通知義務の存在理由と右保険契約解除による不利益を考量し、保険会社は、約款に定められた者において重複保険の不告知又は不通知が契約解除事由となることを認識した上で、又は重過失により右の点を認識せずに、重複保険の存在を事前に告知せず、又は事後に通知をしなかった場合に限り(なお、事後の通知義務違反の場合は、約款上明示の定めはないが、事前の告知義務の場合との均衡や事後通知の負担を考慮して「故意または重過失」を要件とすべきである。)、当該保険契約を解除することができるものとすべきである。さらに、その不告知ないし不通知が不正な保険金取得の目的に出た場合をはじめ、事案の全体を眺めて、不告知ないし不通知を理由として保険契約を解除することが、保険会社による解除権の濫用とならないと認められる場合に限ってその効力を認めるのが相当である。

 なお、前示のとおり、約款上は、保険契約者、被保険者またはこれらの者の代理人に対して右各義務を課しているところ、本件傷害保険契約の保険契約者兼被保険者は順福であることは当事者間に争いがない。しかし、右各義務が設けられた趣旨が前示のものであり、かつ、被控訴人は本件傷害保険の死亡保険金の受取人であることから、被控訴人が実質的に保険契約者、被保険者またはこれらの者の代理人と同視し得るように振る舞った場合は、信義則上、被控訴人の行為をもって、順福の行為と見なし、その行為が前判示の事由に該当するときは、控訴人は、保険契約者である順福又はその相続人に対し右各義務違反を理由に契約を解除し得るものというべきである。

  3 そこで、まず本件傷害保険契約締結の際の状況について検討すると、〈書証番号略〉、証人八尋の証言によれば次のとおり認められ、この認定に反する被控訴人本人尋問の結果(原審・当審第一回)は採用できない。

 (1) 被控訴人は、六月一三日、控訴人横浜支店の店舗をまず一人で訪れて傷害保険のパンフレットを持ち帰り、翌一四日に今度は順福を同伴して右支店で保険契約締結を申し込んだ。控訴人会社の係員は、個人が保険代理店を通さないで直接控訴人店舗窓口で保険に加入するのは極めて稀であることから不審に思い、契約の締結を断ったことから、被控訴人との間でやりとりがあったが、控訴人会社から後刻連絡することとしてその場を収まった。同日の夕方、控訴人の担当者は被控訴人方の留守番電話に断りの旨を伝えたところ、その夜被控訴人から抗議の電話があった。さらに翌一五日午前九時半ころ、被控訴人は、再び控訴人横浜支店を訪れて、外国人を理由に契約を締結しないのか等と大声で抗議したが、当日は順福を同伴していなかったこともあって、契約を締結することなく帰った。控訴人は検討の結果、断る理由も見当たらず、保険を引き受ける他はないとの判断に達し、翌一六日、営業推進課長である八尋有司(以下「八尋」という。)他一名が被控訴人宅を訪ね被控訴人と順福に面談して本件傷害保険契約を締結した。

 (2) 順福は日本語を殆ど理解しなかったため、本件傷害保険契約の申込書(〈書証番号略〉)作成にあたっては、順福に代わって被控訴人が専らやりとりを行い、右申込書や保険料の預金口座振替に関する申込書には、被控訴人がすべての事項を記入した。もっとも、保険金受取人として指定された被控訴人が順福の法定相続人でなかったため、八尋の求めにより順福は申込人のフリガナ欄の余白部分に署名した。右記入に先立ち、八尋は、前示のような経過があったことから、特に被控訴人に対し、他の保険加入の有無を尋ねたところ、被控訴人は「ない」と答え、回答記入欄にその旨を記入した。八尋は、申込書記載事項に虚偽があったり、後日他の保険契約を結ぶ時は被控訴人に連絡しないと保険金が支払われないことがあることも説明した。

 (3) 右申込書の欄外には「申込書記載事項(特に※欄)が事実と相違した場合は、保険金が支払われないことがあります。」と赤字で記載され、右※は性別、年齢、職業、他の保険契約及び過去三カ年の傷害保険金(五万円以上)請求または受領の欄のみに付せられている。

  4 右認定事実によれば、本件傷害保険契約の締結交渉、控訴人担当者との契約締結に関する打合せ、申込書の作成、重複保険存在の有無の確認等は、すべて被控訴人がこれを行い、順福は形式上保険契約者となったにすぎないのであって、実質的には被控訴人は順福の代理人と同視することができ、被控訴人は、信義則上、被控訴人の行為をもって順福の行為と見なし得るというべきである。そして、本件傷害保険契約締結の前日である六月一五日に第一契約が締結されていることも総合すれば、被控訴人は、本件傷害保険契約締結にあたり重複保険の不告知が契約解除事由となることを知った上で、故意または重過失により第一保険の存在を告知しなかったものと認めるのが相当であり、前判示のとおり、控訴人は第一解除をすることができるものというべきである。

  5 そこで控訴人の右解除権の行使が濫用に当たるかどうかを検討する。

 (1) 前示認定の事実によれば、被控訴人は、控訴人担当者に夜間に電話したり、店頭で大声で抗議することにより、本件傷害保険契約を締結し、また、右契約締結に当たり、担当者から告知・通知義務の存在及びその違反の場合の効果の説明を受けているのに、一日前に締結された第一契約の存在を告げず、さらには、第二契約の締結もわずか二か月後のことであって、被控訴人は、これらを知った上で右各違反をしたことは明らかである。

 (2) 〈書証番号略〉によれば、約款二〇条は、保険事故が発生したときは保険金を受け取るべき者は事故発生の日から三〇日以内に事故発生の状況を保険者に告知し、保険者が説明を求めたときはこれに応じなければならないこと、及び、その通知若しくは説明につき知っている事実を告げず若しくは不実のことを告げたときは、保険者は保険金を支払わないことを定めていることが認められる。そして、被控訴人は保険金を受け取るべき者であって右の義務を負っていることから、信義則上、事故発生の日から三〇日を過ぎた後も、それが右約款上の保険金不払事由となるかどうかを問わず、控訴人に対し、事故発生の状況やこれに関する事項で知っている事実を告げるべき義務又はこれらの事項に関して不実のことを告げてはならない義務を負っているものというべきである。

 ところで、〈書証番号略〉によれば、順福の殺害現場である新阪急ホテル七〇二二号室のテーブル上のハンドバッグ内に、新横浜駅で同時に三名分発行された新幹線乗車券の内一枚と八月八日ひかり三五一号の自由席から指定席への社内補充券三名分が入っていたことが認められ、このことに証人児島英発は、右ひかり三五一号に車掌として乗車していたところ、順福、被控訴人及び四二、三歳くらいで四角い顔形、身長一・六メートル程度の男性の三名が右車内補充券を購入したと供述していて、右〈書証番号略〉の記載内容と合致し、明らかに被控訴人は、順福のほか男性一名と大阪入りしたことが認められる。しかしながら、被控訴人は、原審及び当審第一回本人尋問で、八月八日は新横浜から順福と二人で大阪に行き、新幹線の中で知人に会うことはなかった、と供述して、新幹線に同乗した男性の同行者の存在を隠蔽するのであり、被控訴人は本件事故の発生状況や犯人の特定に関する重要な事項について、控訴人に説明を怠っているといわざるを得ない。

 (3) さらに、被控訴人は、原審及び当審第一回本人尋問で、横浜から出発する四日ほど前から奈良在住の姪である柴田容子に幾度か電話連絡をとり、自分は九日の一〇時五〇分の飛行機で韓国に行くから、その間順福を預かってくれと依頼し、この点を確認した。九日朝八時ころホテルを出発する前にも姪に確認し、さらには空港でも姪の家に連絡した。その結果、姪の夫である柴田洋次が同日約束の時間より後れてホテルに迎えに行ったら順福は殺害されていたので連絡を受けたと供述する。

 他方、証人柴田容子、同柴田洋次は、いずれも、被控訴人からは八月九日より前は一切の連絡がなかったが、九日の午前一〇時頃に奈良市内の柴田洋次、容子夫妻の留守宅に、同日午後五時過ぎに新阪急ホテルに電話するように連絡が入った(留守番の中尾みどりが応対。)。柴田洋次が約束どおり電話すると、被控訴人は既にチェックアウトしており、順福のみが同ホテルに宿泊しているが、不在のため通じなかったので、柴田洋次の連絡先を明らかにして、電話を切った。その後、一〇日夕方のテレビニュースで順福殺害の事実を知り、警察に連絡した。被控訴人の連絡先が不明であったが、同日、被控訴人から連絡が入り、順福殺害の事実を教え、警察には被控訴人の連絡先を教えた。被控訴人は韓国の郷里で柴田容子が順福を殺害したと言い触らしたため、同女は、弁明のため、訪韓せざるを得なかったと供述する。

 被控訴人は、右証人柴田容子、同柴田洋次の証言は虚偽であると主張し、被控訴人が横浜を出発する数日前から柴田容子らと頻繁に電話連絡したことの証拠として〈書証番号略〉(電話料金等支払明細書)を提出し、これによれば昭和六三年八月の電話料金が通常の月に比して約五割増の四六四六円であることが認められる。しかし、被控訴人は、同月八日の夕刻に新阪急ホテルで金谷善雄と面会したと供述しており(当審第一回)、その打合せ等にも電話料金が加算されたとも考えられ、決定的な裏付けとなるものではない。却って、〈書証番号略〉によれば、被控訴人は、同月八日横浜から新阪急ホテルにツインの部屋二泊分を予約し、一〇日チェックアウトの予定で同ホテルにチェックインしたこと、右チェックインにあたり九日夜の順福の宿泊のためシングルの部屋を仮予約したが、結局部屋替えはされなかったことが認められ、順福が一〇日にチェックアウトする日程でホテルを予約していたことは明らかであり、九日の午前中に柴田容子が同ホテルまで順福を迎えにいく約束となっていたことと矛盾する。また、〈書証番号略〉によれば、新阪急ホテルの従業員が順福の死体を発見した日時は八月一〇日午後一時一五分であることが認められ、前示被控訴人の、柴田洋次が九日にホテルに迎えに行ったら順福が殺害されていたので連絡を受けたとの供述は、真実であるとは認めがたい。これらの点に、証人柴田洋次は、被控訴人が一〇日一〇時五〇分の飛行機で韓国にいくとの連絡を受けたようにも思うと供述しており、右ホテルの予約状況とも矛盾しないこと、前示証人柴田容子、同柴田洋次は、留守番の中尾みどりが残したメモ(警察で保管中)を確認していると供述しており、その供述にあいまいな点がないことを総合すると、前示証人柴田容子、同柴田洋次の供述内容が真実と認められる。

 そうすると、被控訴人は、日本語ができずかつ地理に不案内の順福をホテルに一人残して去ったこととなるが、このことを隠蔽するため、姪の柴田容子と事前に連絡をしていたと虚偽の真実を述べ、また、同女を犯人と吹聴して、殺害犯人の特定を混乱させている。

 以上認定の本件傷害保険契約締結の経緯、新幹線同乗者存在の真実の隠蔽等を総合すると、控訴人の第一解除は解除権の濫用とならないというべきである。なお、他保険である第一契約の内容をみると、その契約は毎月の保険料一万二〇六〇円の積立による契約期間五年間の積立保険契約で、満期返戻金が五〇万円、被保険者を保険契約者及びその家族とするもので、被保険者死亡の場合の保険金が一二五万円とされているごく日常的な内容のものであり(〈書証番号略〉)、第二契約も、保険期間をわずか四日間とし、死亡保険金を二〇〇〇万円、入院保険日額を四五〇〇円、通院保険金日額を三〇〇〇円とする、保険金が一五〇〇円の国内旅行傷害保険契約である(〈書証番号略〉)。しかし、〈書証番号略〉によれば、順福は、六月一三日に、神奈川県民共済生活協同組合との間で、同年七月一日を契約日(保証開始日)とし、順福を被共済者とし、不慮の事故死の共済金を五〇〇万円とする災害保障共済等を内容とする共済契約を締結しており、契約者である順福(本件傷害保険と同様、被控訴人が実質的に共済契約を締結したとすれば、被控訴人)は、本件傷害保険契約締結時に右申込を知っていたことは明らかである。控訴人は右共済契約の不告知を重複保険告知義務違反として第一解除をしたわけではないが、右共済契約が本件傷害保険契約締結時のわずか三日前、かつ、第一契約締結の二日前に申し込まれていることを参酌すると、右第一、第二契約の内容が日常的なものであるからといって、第一解除が濫用にわたるということはできない。

  6 被控訴人は、右告知義務違反と本件の保険事故発生との間に因果関係がないから、商法六四五条二項ただし書により、契約解除権は発生しないと主張する。しかし、約款(〈書証番号略〉)には右ただし書の規定と同旨の規定が存在しないことや、前示のとおり道徳的危険防止の観点から告知義務又は通知義務違反の場合は控訴人は契約を解除することができる旨の規定が設けられたことから、右約款の規定は、告知義務違反等があれば、保険事故発生との間の因果関係の有無を問わず解除権が発生する趣旨であることが明らかであり、右約款により商法六四五条二項ただし書の規定の適用を排除したものと認めるべきであるから、被控訴人の右主張には理由がない。

 三 してみれば、控訴人の第一解除の抗弁は理由があり、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人の本訴請求は理由がない。

 よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であって本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官岩佐善巳 裁判官稲田輝明 裁判官南 敏文)

 

通知義務違反で保険者免責を認めた山口地裁令和3年

保保険判例百選 第2版 9事件 険金請求事件

山口地方裁判所判決/令和2年(ワ)第52号

令和3年7月15日

【判示事項】      引受範囲を超える危険増加における通知義務違反を理由とする保険者免責が認められた事例

【判決要旨】      1 家庭総合保険契約を締結した一般的な保険契約者は、本件火災発生当時の本件建物を専用住宅、共同住宅または併用住宅といった人が住宅として使用する建物と理解するとは考え難く、本件建物の使用目的は変更され、居住用ではなくなったと理解するのが普通であろうといえ、本件火災発生までの間に、本件建物は「建物の使用目的を変更し、居住用ではなくなった」ということができるので、被告は、原告に対し、本件約款第4章第8条4項に基づき、本件保険契約を解除することができる。

            2 本件建物が施錠機能を有しない状態で長期間放置され、その内部も不法投棄された物などが散乱した状態であれば、一般的な被告の家庭総合保険の保険契約者は、前記判断のとおり、本件建物の使用目的は変更され、居住用ではなくなっていたと理解するものと考えられる。

【参照条文】      保険法29

            保険法31

            保険法33

【掲載誌】       金融・商事判例1633号46頁

【評釈論文】      銀行法務21 883号71頁

            金融・商事判例1641号2頁

            金融・商事判例1661号26頁

            明治学院大学法学研究114号161頁

            損害保険研究85巻1号163頁

            ジュリスト1587号114頁

            法律時報別冊私法判例リマークス66号98頁

 

       主   文

 

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 被告は、原告に対し、8800万円及びこれに対する平成29年4月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は、原告と損害保険会社である被告が、茨城県神栖市〈略〉所在の建物(以下「本件建物」という。)について火災保険を含む損害保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していたところ、保険期間中である平成29年3月26日、本件建物が火災により全焼したとして、原告が、被告に対し、本件保険契約による保険金請求権に基づき、約定保険金8800万円及びこれに対する平成29年4月28日から支払済みまで商事法定利率年6分(平成29年法律第45号による改正前のもの)の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実

 (1) 当事者等

  ア A(昭和49年〈略〉月〈略〉日生)は、航空自衛隊員であり、全国各地の自衛隊基地を約3年ごとに転勤をしている(乙7〔E聴取要約〕)。

 Aは、平成21年頃から、副業として、資産運用の目的で、不動産競売サイトを通じて居住者のいる競売物件を廉価で落札し、当該居住者に引き続き居住させ、賃料収入を得ていた(争いなし)。

  イ 原告は、平成27年5月7日、Aの妻を代表取締役として設立された株式会社であるが、原告の運営は、Aが行っている(乙7〔A聴取要約〕)。

 原告は、Aが競落した不動産11件の譲渡を受け、当該不動産の賃貸人として賃料収入を得ている(争いなし)。

 (2) 本件建物

  ア 本件建物は、Bが、昭和54年に新築した鉄骨・木造スレート・亜鉛メッキ鋼板葺2階建(床面積:1階602.96平方メートル、2階185.92平方メートル)の建物であり、1階を同人が代表取締役を務める株式会社C(以下「C」という。)の水産工場として、2階をB及びその家族(以下、B及びその家族を「B一家」という。)やCの従業員の居宅として使用されていた。その構造は、別紙図面記載のとおりである。(甲3、乙4の5、7〔B聴取要約〕、8、弁論の全趣旨)

  イ 本件建物は、Cの借入債務の担保に供されていたところ、平成22年頃にCが経営破綻したため、同年7月、担保不動産競売開始決定がされ、平成24年7月26日、Aにより、約54万円で落札された(甲3、乙7〔B聴取要約〕、落札価格は争いなし)。

  ウ Aは、本件建物の競落後、Bに対し、月額5万円で本件建物を賃貸し、B一家は、その1階がCの廃業当時の状態のまま、その2階に居住していたが、Bは平成25年には家賃を滞納するようになり、同年3月にはB一家全員が本件建物を退去した(乙7〔E聴取要約、D聴取要約、B聴取要約〕)。

  エ 本件建物は、B一家が平成25年3月に本件建物を退去した当時から、入口の鍵が腐敗して施錠機能を喪失しており、その後、無施錠のまま空き家となっていた(乙7〔B聴取要約〕)。

  オ Aは、平成27年8月31日、原告に対し、本件建物を売却した(甲3)。

  カ 本件建物は、平成29年3月26日午前11時頃、何者かの放火により火災(以下「本件火災」という。)が発生し、全焼した(乙4の2・3)。

  キ A及び原告代表者は、本件建物を競落する際に本件建物を現認しておらず、競落後も本件火災発生まで、本件建物を訪れたことはなかった(争いなし)。

 (3) 本件保険契約

  ア Aは、平成24年8月8日、損害保険会社である被告との間で、次のとおり、本件建物につき、普通保険約款(以下「本件約款」という。)に従う本件保険契約を締結した(甲1、弁論の全趣旨)。

   (ア) 保険種類 家庭総合保険(ベーシック)

   (イ) 保険期間 平成24年8月15日午後4時から

            平成29年8月15日午後4時まで

   (ウ) 本件建物の用法 専用住宅

   (エ) 本件建物の評価額 8300万円

   (オ) 損害保険金 8300万円

   (カ) 費用保険金(事故発生時諸費用) 300万円

   (キ) 費用保険金(特別費用) 200万円

  イ Aは、平成28年1月8日、被告に対し、本件建物の所有者を原告に変更した旨通知し、被告は、同年2月13日、本件保険契約の契約者及び被保険者を原告に変更した(変更日は甲2、その余は争いなし)。

  ウ 原告は、平成29年3月29日、被告に対し、本件建物の火災による焼失を通知した(争いなし)。

  エ 被告は、平成29年12月14日頃、原告に対し、本件建物が平成25年4月以降空き家になったことを理由として、本件約款第4章第8条の規定により本件保険契約を解除する旨の意思表示をし、本件約款第4章第9条の規定により、保険金の支払に応じない旨を通知した(甲6)。

 (4) 本件約款

 本件約款第4章第8条、第9条の規定は別紙のとおりである(乙1)。

3 争点及び当事者の主張

 (1) 本件約款第4章第8条4項に基づく解除の可否

  ア 被告の主張

 本件保険契約締結時点の本件建物の使用状態は、その1階の水産工場は廃業となり、その2階にB一家が居住するだけであったので、本件建物の用法は「専用住宅」とされた。

 しかし、本件建物は、平成25年4月から本件火災発生時までの約4年以上にもわたり、誰も住んでいない空き家となったばかりか、A及び原告によって全く管理されず、無施錠のまま放置され、建物内に大量の廃棄物等が遺棄され、動物や不審者等が出入りするような状況で、もはや「廃墟」同然と化していた。

 したがって、本件建物は、平成25年4月以降、遅くとも本件火災発生時までのいずれかの時点で、その用法が少なくとも「専用住宅」ではなくなったことは明らかであり、これは、本件保険契約の引受の範囲外としての建物の用途変更に当たり、本件約款第4章第8条4項に基づき、解除することができる。

  イ 原告の主張

 登記制度における建物の種類や住宅用地に対する固定資産税の軽減規定においては居住用建物が空き家になった場合でも居住用建物として扱われているように、法律上は、空き家になったとしても居住用建物に変わりはないという理解が一般的であるが、火災保険上居住用建物が空き家になった場合に、用途変更があるとされているのは、空き家の場合、監視が行き届かないので火災発生の危険が高くなり、危険に見合う保険料も高くなって、保険会社の想定した火災発生の危険を上回ることにより保険財政上問題になるからである。

 しかし、一般人は、居住用建物であった本件建物が空き家になっても居住用建物のままと考えるのが通常で、空き家になったからといって、本件建物の使用目的を変更したとは考えない。

 したがって、単に用途変更と規定し、これに空き家になった場合を含むとするのであれば、本件約款の規定は誤解を招く不明確な規定である。

 そして、本件保険契約が、空き家になったときには引受範囲を超えることを明確に定めないまま締結されたのであれば、空き家になったことの危険増加は全て引受範囲内の危険増加と扱うべきである。

 被告は、本件建物を廃墟と主張するが、本件建物自体は本件保険契約締結当時から変わりはなく、原告から管理を任されたDは、平成28年7月まで、折に触れて本件建物を訪れていたことからすれば、本件建物は、廃墟というのは誇張した表現であり、管理されていた空き家と考えるべきである。

 したがって、被告は本件保険契約を解除することはできない。

 (2) 本件火災は原告及びAの重大な過失によって生じたものか。

  ア 被告の主張

 空き家であった本件建物の所有者である原告及びAにおいては、平成26年に成立した「空家等対策の推進に関する特別措置法」や、本件建物所在地に適用される「神栖市空家等の適正管理に関する条例」及び「鹿島地方事務組合火災予防条例」によって、その適正な管理が求められていたにもかかわらず、約4年間にわたり、廃墟同然の本件建物を完全に放置し、何の管理をすることもなく無施錠で第三者が容易に侵入可能な状態にし、そのために本件建物内には大量の動物の糞やスクラップ材、大量のブラウン管テレビ等の廃棄物が不法に投棄ないし遺棄され、動物や不審者等が頻繁に出入りしていた。

 したがって、原告及びAが、所有者としての管理ないし必要な措置を講じる義務に長年違反し続けていたことは明らかであり、その結果、本件建物は、案の定何者かに侵入され、放火されたのである。

 本件約款第1章第4条1項、別表1においては、「ご契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反」によって生じた損害に対しては保険金を支払わないものとされており、原告及びAには、本件約款第1章第4条1項、別表1に規定された重大な過失がある。

  イ 原告の主張

 前記のとおり、本件建物は廃墟というのは誇張した表現であり、管理されていた空き家と考えるべきであるから、重過失と評価されることは争う。

第3 当裁判所の判断

1 本件約款第4章第8条4項に基づく解除の可否について

 (1) 本件約款第4章第8条1項、4項によれば、解除の要件である本件保険契約の引受範囲を超える保険対象建物の構造又は用途の変更は、被告が本件保険契約締結の際に交付する書面等において定めたものをいうところ、被告が、本件保険契約締結の際に、Aに交付した重要事項説明書及び冊子には、本件保険契約の引受範囲を超える場合として、「建物の使用目的を変更し、居住用ではなくなった場合」と定められている(乙1、2)。

 (2) そこで、本件建物が、「建物の使用目的を変更し、居住用ではなくなった場合」に当たるかを検討するに、証拠(甲1、乙1、2)によれば、被告における家庭総合保険は、保険事故を火災に加えて、落雷、破裂、爆発、風災、雹災、雪災、建物外部からの物体の落下等、給排水設備の事故等による水ぬれ、盗難、盗難による損傷・汚損などを含むものとし、専用住宅、共同住宅及び店舗や事務所などを併設した併用住宅の用法で使用されている建物や家財を保険の対象とするものであることが認められ、人が住宅として使用する建物が保険の対象となっている。

 前提事実のとおり、平成24年8月当時、本件建物の1階は水産工場の廃業状態のままであったが、2階にB一家が居住していたため、本件建物の用法を専用住宅として、Aと被告は本件保険契約を締結したが、B一家は平成25年3月には本件建物を退去し、その後、本件火災が発生した平成29年3月26日までの約4年間、本件建物は施錠機能を有しない状態のまま空き家となったところ、証拠(甲21、乙7〔D聴取要約、B聴取要約〕)によれば、B一家が本件建物から退去して以降、Aの父親であるDが、本件火災発生までの間、時折、本件建物を訪れたことはあったものの、本件建物及びその内部は放置されたままであり、本件火災発生当時、本件建物内部は、電気配線が切断されて盗まれ、犬の糞や成人向け雑誌が散乱し、ブラウン管テレビが10台近く不法投棄された状態であったことが認められる。

 被告の家庭総合保険の内容と本件建物の状況を踏まえると、被告の家庭総合保険を締結した一般的な保険契約者は、本件火災発生当時の本件建物を専用住宅、共同住宅又は併用住宅といった人が住宅として使用する建物と理解するとは考え難く、本件建物の使用目的は変更され、居住用ではなくなったと理解するのが普通であろうといえる。

 したがって、本件火災発生までの間に、本件建物は「建物の使用目的を変更し、居住用ではなくなった」ということができるので、被告は、原告に対し、本件約款第4章第8条4項に基づき、本件保険契約を解除することができる。

 (3) これに対し、原告は、本件約款が一般人には不明確であるから、空き家になったことの危険増加は全て引受範囲内の危険増加と扱うべきであると主張するが、前記認定のとおり、本件約款及び本件保険契約締結の際に交付された重要事項説明書及び冊子によって、「建物の使用目的を変更し、居住用ではなくなった場合」に、本件保険契約の引受範囲を超えることが明確に定められていることから、原告の主張は、要するに、「建物の使用目的を変更し、居住用ではなくなった場合」の要件が一般人にとっては不明確であるので、本件建物は、本件火災発生時も、本件保険契約当時と同様に居住用のままであるとして、当該要件を満たさないと主張するものと解される。

 しかし、前記のとおり、本件建物が施錠機能を有しない状態で長期間放置され、その内部も不法投棄された物などが散乱した状態であれば、一般的な被告の家庭総合保険の保険契約者は、前記判断のとおり、本件建物の使用目的は変更され、居住用ではなくなっていたと理解するものと考えられるので、原告の主張は採用できない。

2 結論

 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

                裁判官 道場康介

 

(別紙)

第8条[ご契約後に通知いただく事項-通知義務その1]

 (1) 保険契約締結の後、次の①から③のいずれかに該当する事実が発生した場合には、ご契約者または被保険者は、遅滞なく、その旨を当会社に通知しなければなりません。ただし、その事実がなくなった場合には、当会社への通知は必要ありません。

  ① 保険の対象である建物または保険の対象を収容する建物の構造または用途を変更したこと。

  ② (省略)

  ③ (省略)

 (2) 本条(1)の事実の発生によって危険増加が発生した場合において、ご契約者または被保険者が、故意または重大な過失によって遅滞なく本条(1)の規定による通知をしなかったときは、当会社は、ご契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。

 (3) (省略)

 (4) 本件(2)の規定にかかわらず、本条(1)の事実の発生によって危険増加が発生し、この保険契約の引受範囲(注)を超えることとなった場合には、当会社は、ご契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。

(注) 保険料を増額することにより保険契約を継続することができる範囲として保険契約締結の際に当会社が交付する書面等において定めたものをいいます。

 (5) (省略)

第9条[当会社に通知いただけなかった場合の保険金のお支払い]

 (1) (省略)

 (2) (省略)

 (3) 第8条(4)の規定による解除が損害または費用の発生した後になされた場合であっても、第19条の規定にかかわらず、第8条(1)の事実が発生した時から第8条(4)の規定による解除がなされた時までに発生した事故による損害または費用に対しては、当会社は、保険金をお支払いしません。この場合において、既に保険金をお支払いしていたときは、当会社は、その返還を請求することができます。

                      以上

 

(別紙)図面〈略〉

 

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