岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

カテゴリ: 民事執行法

金銭の占有と所有 最高裁昭和39年

民法判例百選Ⅰ 第6版 77事件 第8版 77事件 第9版 73事件 潮見民法全第3版補訂版41頁 ダットサン1 4版 物28(1)ア

仮差押に対する第三者異議事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和38年(オ)第146号

昭和39年1月24日

【判示事項】      金銭の占有と所有

【判決要旨】      金銭の直接占有者は、特段の事情のないかぎり、金銭の所有者とみるべきものである。

【参照条文】      民法188

            民法192

【掲載誌】       最高裁判所裁判集民事71号331頁

            判例タイムズ160号66頁

            判例時報365号26頁

【評釈論文】      法経論集(静岡大)19号31頁

 

       主   文

 

   本件上告を棄却する。

   上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告人らの上告理由(上告状記載のものを含む)について。

 金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべきであり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によつて取得したか、またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである(昭和二九年一一月五日最高裁判所第二小法廷判決、刑集八巻一一号一六七五頁参照)。

 本件において原判決の認定した事実によると、訴外藤野太一は上告人丹部忠男をだまして一一万円余の交付をうけ、自己が上告人らから依頼されて経営に従事していた判示店舖の売上金六万余円を加えた金一七二、三〇〇円を、自己の銀行預金を払戻した自己の金であるといつて執行吏に提出したというのであるから、一一万円余い上告人丹部忠男から交付をうけたとき、六万余円は着服横領したとき、それぞれ訴外藤野太一の所有に帰し上告人らはその所有権を喪失したものというべきである。これと同趣旨の原判決の判断は正当であつて、これを誤なりとする論旨は理由なく、違憲の主張も前提を欠き採用しえない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

(上告理由省略)

動産売買先取特権の物上代位 最高裁平成10年

民法判例百選Ⅰ 第6版 81事件 第8版 81事件 第9版77事件 ダットサン1 4版 物82(3)ウ

債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件

最高裁判所第3小法廷決定/平成10年(許)第4号

平成10年12月18日

【判示事項】      一 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することの可否

            二 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権の一部に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるとされた事例

【判決要旨】      一 請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる。

            二 甲から機械の設置工事を請け負った乙が右機械を代金1575万円で丙から買い受け、丙が乙の指示に基づいて右機械を甲に引き渡し、甲が乙に支払うべき2080万円の請負代金のうち1740万円は右機械の代金に相当するなど判示の事実関係の下においては、乙の甲に対する1740万円の請負代金債権につき右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、丙は、動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができる。

【参照条文】      民法304

            民法322

            民法632

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集52巻9号2024頁

            最高裁判所裁判集民事190号1073頁

            裁判所時報1234号12頁

            判例タイムズ992号90頁

            判例タイムズ1103号196頁

            金融・商事判例1061号8頁

            判例時報1663号107頁

            金融法務事情1540号47頁

【評釈論文】      行政社会論集12巻4号234頁

            金融法務事情1552号35頁

            金融法務事情1556号53頁

            ジュリスト1153号115頁

            別冊ジュリスト159号176頁

            判例タイムズ999号85頁

            判例タイムズ1004号72頁

            判例タイムズ臨時増刊1036号58頁

            法学教室226号128頁

            法学教室234号別冊付録15頁

            法律時報別冊私法判例リマークス20号30頁

            北大法学論集52巻5号335頁

            NBL668号10頁

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 抗告費用は抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

 抗告人の抗告理由について

 動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(民法三〇四条)。これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。

 これを本件について見ると、記録によれば、破産者エヤー・工販株式会社は、申立外松下電子部品株式会社からターボコンプレッサー(TX―二一〇キロワット型)の設置工事を代金二〇八〇万円で請け負い、右債務の履行のために代金一五七五万円で右機械を相手方に発注し、相手方は破産会社の指示に基づいて右機械を申立外会社に引き渡したものであり、また、右工事の見積書によれば、二〇八〇万円の請負代金のうち一七四〇万円は右機械の代金に相当することが明らかである。右の事実関係の下においては、右の請負代金債権を相手方が破産会社に売り渡した右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、申立外会社が仮差押命令の第三債務者として右一七四〇万円の一部に相当する一五七五万円を供託したことによって破産会社が取得した供託金還付請求権が相手方の動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となるとした原審の判断は、正当として是認することができる。右判断は、所論引用の大審院大正二年(オ)第四五号同年七月五日判決・民録一九輯六〇九頁に抵触するものではない。原決定に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

  平成一〇年一二月一八日

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官  園部逸夫

            裁判官  千種秀夫

            裁判官  尾崎行信

            裁判官  元原利文

            裁判官  金谷利廣

 

(参照 抗告許可決定)

         許可決定

 申立人は、当庁平成10年(ラ)第463号債権差押及び転付命令に対する執行抗告事

件について、当裁判所が平成10年7月6日にした決定に対し、抗告許可の申立て

をした。申立ての理由によれば、右決定について、民事訴訟法337条所定の事項を

含むと認められる。

 よって、当裁判所は次のとおり決定する。

     抗告を許可する。

       (平成10年9月10日 大阪高等裁判所第11民事部)

 

動産売買先取特権の物上代位 最高裁昭和60年

民法判例百選Ⅰ 第6版 第8版 82事件 第9版 78事件 民事執行保全判例百選56事件75事件

配当異議事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和58年(オ)第1548号

昭和60年7月19日

【判示事項】      1、先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押えまたは仮差押えの執行をした後に先取特権者が右債権に対し物上代位権を行使することの可否

            2、優先権を有する債権者の得た転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令に係る金銭債権について他の債権者が差押え、仮差押えの執行または配当要求をした場合における転付命令の効力

            3、差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法156条2項に基づいてした供託の効力

            4、差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者のした供託に基づき転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成された場合と効力の生じた転付命令を得た債権者の不服申立方法

【判決要旨】      1、先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押えまたは仮差押えの執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が右債権に対し物上代位権を行使することを妨げられない。

            2、転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令に係る金銭債権について他の債権者が差押え、仮差押えの執行または配当要求をした場合でも、転付命令を得た債権者が優先権を有するときは、転付命令はその効力を生ずる。

            3、差押命令の送達と転付命令の送達を競合して受けた第三債務者が民事執行法156条2項に基づいてした供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押えの競合があるとはいえない場合であっても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは、同項の類推適用により有効である。

            4、差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者のした供託が民事執行法156条2項の類推適用により有効である場合において、右供託金について転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成されたときは、効力の生じた転付命令を得た債権者は、配当期日における配当異議の申出さらには配当異議の訴えにより転付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができる。

【参照条文】      民法304-1

            民事執行法159-3

            民事執行法156-2

            民事執行法143

            民事執行法90

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集39巻5号1326頁

            最高裁判所裁判集民事145号223頁

            裁判所時報918号2頁

            判例タイムズ571号68頁

            金融・商事判例729号3頁

            判例時報1168号60頁

            金融法務事情1105号6頁

【評釈論文】      ジュリスト850号72頁

            ジュリスト臨時増刊862号64頁

            別冊ジュリスト104号174頁

            別冊ジュリスト107号112頁

            別冊ジュリスト127号166頁

            別冊ジュリスト127号232頁

            判例評論330号206頁

            判例評論332号199頁

            法学協会雑誌107巻1号151頁

            月刊法学教室66号85頁

            法学研究61巻10号135頁

            法曹時報41巻3号119頁

            法令ニュース21巻5号61頁

            民商法雑誌94巻5号634頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 大阪地方裁判所が同庁昭和五七年(リ)第五五一号配当手続事件について作成した配当表別紙一を別紙二のとおり変更する。

 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人宇佐美明夫、同今泉純一、同宇佐美貴史の上告理由について

 一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 上告人は、日新商会ことA(以下「本件債務者」という。)に対し溶接用材等を売り渡して二一三万八三一〇円の売掛代金債権を有していたところ、本件債務者が右動産を株式会社吉田造船工業(以下「本件第三債務者」という。)に対し代金二六三万四〇三〇円で転売したため(以下右転売代金を「本件転売代金」という。)、本件転売代金債権に対し民法三〇四条一項本文により動産の先取特権を行うことができる権利(以下「本件物上代位権」という。)を取得し、その行使として、昭和五七年三月一〇日、本件転売代金債権のうち二一三万八三一〇円について、差押(大阪地方裁判所同年(ナ)第四四七号)及び転付命令(同年(ヲ)第七一一号)(以下「本件転付命令」という。)を取得し、同命令は同月一一日本件第三債務者に送達された。

 2 上告人は、昭和五七年三月五日、本件債務者に対する溶接棒の売掛代金債権五〇万二〇〇〇円を被保全債権として、本件転売代金債権のうち右同額について、仮差押命令(同庁同年(ヨ)第八一五号)を取得し、同命令は、同日本件第三債務者に送達された。

 3 被上告人岩谷産業株式会社は、昭和五七年三月四日、本件債務者に対する約束手形金債権四四五万五五五〇円及び売掛代金債権一六一万三三四〇円の合計六〇六万八八九〇円を被保全債権とし、本件転売代金債権額を三二一万四九一〇円として、右同額について、仮差押命令(同庁同年(ヨ)第八〇三号)を取得し、同命令は同月五日本件第三債務者に送達された。

 4 被上告人南海信用金庫は、昭和五七年三月四日、本件債務者に対する約束手形買戻債権二二九万三三〇〇円を被保全債権として、本件転売代金債権のうち右同額について、仮差押命令(和歌山地方裁判所同年(ヨ)第四八号)を取得し、同命令は同日本件第三債務者に送達された。

 5 そこで、その後、本件第三債務者は本件転売代金債務全額を供託した(以下「本件供託」という。)。

 6 大阪地方裁判所は、本件供託金の配当を実施するため(同庁昭和五七年(リ)第五五一号)、昭和五七年一二月三日の配当期日に、別紙一のとおり、手続費用を除いた金額について上告人及び被上告人らの各債権額に応じて配分する配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。

 二 本訴において、上告人は、本件物上代位権を行使して本件転付命令を取得したから、本件転付命令に係る債権につき優先配当を受けるべき権利を有する旨主張して、本件配当表を別紙二のとおり変更する旨の判決を求めた。

 三 原審は、前記の事実を確定したうえ、民法三〇四条一項但書にいう差押は、先取特権に基づく物上代位権についての優先権保全のための対抗要件と解すべきであり、また、同項但書にいう払渡又は引渡には、物上代位の目的となる債権に対する一般債権者による差押、仮差押の執行も含まれると解すべきところ、本件においては、被上告人らによる本件転売代金債権に対する仮差押の執行が上告人による本件転売代金債権に対する差押に先行してされているから、上告人は被上告人らに対し、物上代位権を行使した動産の先取特権者として優先権を主張することができないものというべきであり、したがつて、本件供託金につき手続費用を除いた金額について上告人及び被上告人らに対し、その各債権額に応じて配分した本件配当表に瑕疵はない旨判断して、上告人の本訴請求を全部棄却すべきものとし、これと同旨の第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。

 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第九二七号同五九年二月二日第一小法廷判決・民集三八巻三号四三一頁参照)。

 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、一般債権者たる被上告人らは、本件転売代金債権について仮差押の執行をしたにすぎないから、その後に上告人が本件物上代位権を行使することは妨げられないものというべきである。これと異なる原審の判断には民法三〇四条一項の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえない。

 五 次に、本件配当異議の訴えの適否について判断する。

 1 民事執行法一五九条三項は、「転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしたときは、転付命令は、その効力を生じない。」と規定するが、転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合でも、転付命令を得た者が物上代位権を行使した先取特権者であるなど優先権を有する債権者であるときは、右転付命令は、その効力を生ずるものと解すべきところ、本件の前記事実関係によれば、上告人が本件物上代位権の行使として得た本件転付命令は、被上告人らの仮差押が執行されたのちに本件第三債務者に送達されたものではあるが、その効力を生じたものというべきである。

 2 ところで、当該債権に対し差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法一五六条二項に基づいてした供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合があるとはいえない場合であつても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは、同項の類推適用により有効であると解するのが相当である。そして、右供託金について、転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに、これを得た債権者を含む全差押債権者に対し、その各債権額に応じて配分する配当表が作成されたときは、転付命令を得た債権者は、配当期日における配当異議の申出、さらには配当異議の訴えにより、転付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができるものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると、前記事実関係のもとにおいて、本件供託は、民事執行法一七八条五項において準用する同法一五六条二項に基づいてされたものと解せられるところ、本件転付命令は本件供託前に確定してその効力が生じたことが記録上明らかであるから、本件転売代金債権に対する差押の競合があるとはいえない。しかし、本件転付命令は被上告人らの仮差押が執行されたのちに本件第三債務者に送達されたものではあるが、その効力の有無について本件第三債務者に的確な判断を期待することは困難であるから、本件供託は、民事執行法一七八条五項において準用する同法一五六条二項の類推適用により有効なものというべきである。そして、本件転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに作成された本件配当表について、上告人が本件転付命令に係る債権につき優先配当を主張した配当異議の申出及び本件配当異議の訴えは、適法なものというべきである。

 六 以上によれば、本件の事実関係のもとにおいては、前記説示に徴し、上告人の本訴請求は全部理由があるものというべきである。したがつて、原審の前記法令の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、論旨は理由があるから、原判決を破棄し、第一審判決を取消し、本訴請求を全部認容することとする。

 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

         裁判長裁判官  島谷六郎

            裁判官  大橋 進

            裁判官  牧 圭次

 

別紙 一

      配当表

   債権者       債権の種類      債権額         配当額

上告人          手続費用        三〇五〇円       三〇五〇円

同右           売掛代金    二一三万八三一〇円    五一万一三二五円

同右           同右       五〇万二〇〇〇円    一二万〇〇四一円

被上告人南海信用金庫   約束手形金   二二九万三三〇〇円    五四万八三八七円

被上告人岩谷産業     同右      四四五万五五五〇円   一〇六万五四三六円

同右           売掛代金    一六一万三三四〇円    三八万五七九一円

別紙 二

      配当金

  債権者        債権の種類            債権額         配当額

上告人          手続費用              三〇五〇円       三〇五〇円

同右           本件転付命令に係る債権   二一三万八三一〇円   二一三万八三一〇円

同右           売掛代金           五〇万二〇〇〇円     二万七九〇一円

被上告人南海信用金庫   約束手形金         二二九万三三〇〇円    一二万七四六一円

被上告人岩谷産業     同右            四四五万五五五〇円    二四万七六三九円

同右           売掛代金          一六一万三三四〇円     八万九六六九円

行政上の義務履行確保 大阪高裁昭和40年決定

行政法判例50! 第2班 21事件

行政処分取消の訴えにもとづく執行停止決定に対する抗告申立事件

大阪高等裁判所決定/昭和40年(行ス)第3号

昭和40年10月5日

【判示事項】      1、市庁舍使用許可が取り消された場合、管理権者のする同庁舎の明渡しないし立ちのき要求に応ずべき義務

2、行政代執行法第2条所定の行政代執行により履行の確保される行政上の義務の範囲

3、市庁舍使用許可取消処分をした場合の同庁舎の明渡しないし立ちのき請求実現の方法

4、観念的な法律状態の形成を目的とする行政処分と執行停止

5、行政代執行の戒告に対する行政訴訟は許されるか

6、市役所職員組合事務所の明渡しないし立ちのきに関する戒告に続く代執行手続の続行を停止した事例

【判決要旨】      1、市庁舍の管理権者である市長が市役所職員組合に対する市庁舍の使用許可を取り消すときは、同庁舎の使用関係は終了し、組合は右市長の明渡しないし立ちのき要求に応ずべき義務があることはいうまでもないが、右義務は行政代執行によってその履行の確保が許される行政上の義務ではない。

            2、行政代執行法第2条所定の行政代執行により履行の確保される行政上の義務は、いわゆる「為す義務」である作為義務のうち代替的なものに限られ、庁舎の明渡しないし立ちのきのような、いわゆる「与える義務」は含まれないと解すべきである。

            3、市庁舍使用許可取消処分をした場合の同庁舎の明渡しないし立ちのき請求については、庁舎の権利主体である市から相手方に対して訴訟を提起し、その確定判決に基づく強制執行による等、民事訴訟法上の強制的実現の方法に出るべきものである。

            4、市庁舍使用許可取消処分のような観念的な法律状態の形成を目的とする行政処分については、処分の効力の停止は考えられるとしても、処分の執行はありえないから、その執行停止もありえない。

            5、行政代執行の戒告は、新たな義務ないし拘束を課する行政処分ではないが、代執行の前提要件として行政代執行手続の一環をなすとともに、代執行の行なわれることをほぼ確実に示す表示でもあり、代執行の段階に入れば多くの場合直ちに執行は終了し、救済の実をあげえない点よりすれば、戒告は後に続く代執行と一体的な行為であり、公権力の行使に当たるものとして、これに対する抗告訴訟は許すべきである。

            6、省略

【掲載誌】       行政事件裁判例集16巻10号1756頁

            判例時報428号53頁

【評釈論文】      月刊労働問題95号86頁

            自治研究44巻1号227頁

            別冊ジュリスト71号172頁

            別冊ジュリスト125号176頁

            法律のひろば19巻10号45頁

 

       主   文

 

原決定を左のとおり変更する。

右当事者間の大阪地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第八号行政処分取消請求事件の本案判決(ただし抗告人が昭和三九年一二月一五日茨達第一三一号を以てなした相手方に対する戒告取消請求事件の本案判決)確定に至るまで、右戒告に続く行政代執行手続の続行を停止する。

申請費用及び抗告費用はすべて抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

一、抗告人の抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二、当裁判所の判断

 抗告人主張の茨木市庁舎の相手方に対する一部使用は、行政財産たる公有公用物の使用としてその用途または目的を妨げない限度で許されるものであることはいうまでもないが、これが公法関係に属することは、使用について公共団体の長の許可形態をとるとともに許可取消による使用の終了を規定していること(地方自治法二三八条の四、三項、五項)、借地法、借家法の適用がないことを明定していること(同条四項)、行政財産を使用する権利に関する処分についての不服申立の規定を設けていること(同法二三八条の七)などの点よりみて明らかであるとともに、右使用許可取消処分に対し、抗告訴訟が許されることも亦明白である。

 本件では、抗告人が昭和三九年一二月一五日相手方に対し、従来茨木市庁舎の一部を組合事務所として使用することの許可をしていたのを取消す旨の処分をし、ついで、昭和四〇年一月一七日相手方に対し右組合事務所内の存置物件搬出についての行政代執行法上の戒告をするに至つたので、相手方は右庁舎使用許可の取消処分と戒告の各取消を求める抗告訴訟を提起するとともに、(1)庁舎(組合事務所)使用許可取消処分の効力の停止と(2)右取消処分に基く、相手方組合事務所内存置物件搬出についての行政代執行法上の戒告ならびにこれに続く行政代執行手続の続行停止を求め、原審は右(2)の申立を認容し、これと同趣旨の決定をしたものである。

  そこでまず庁舎使用許可の取消処分に基いて行政代執行法による代執行ができるかどうかを考えてみる。本件庁舎の管理権者たる抗告人が、相手方に対する庁舎の使用許可を取消すときは、庁舎の使用関係はこれによつて終了し、抗告人が管理権に基いて相手方に対し庁舎の明渡ないし立退きを求めることができ、相手方はこれに応ずべき義務あることはいうまでもないが、右義務は行政代執行によつてその履行の確保が許される行政上の義務ではない。けだし、行政代執行による強制実現が許される義務は、行政代執行法第二条によつて明らかな如く、法律が直接行為を命じた結果による義務であるかまたは行政庁が法律に基き行為を命じた結果に基く義務に限定されているのである。ところで、本件の如き庁舎使用許可取消処分については、処分があれば、庁舎の明渡ないしは立退きをなすべき旨を直接命じた法律の規定はない。また右使用許可取消処分は単に庁舎の使用関係を終了せしめるだけで、庁舎の明渡ないしは立退きを命じたものではないし、またこれを命じうる権限を与えた法律の規定もないからである。

 抗告人の相手方に対する前記明渡し、立退き要求は、庁舎管理権に基く事実行為に過ぎないし、また相手方のこれに応ずべき義務は、使用関係の終了に伴い権利主体(茨木市)に対して生ずる公法上の義務であつて、これを以て法律が直接命じた義務とすることはできないのである。

 抗告人は行政代執行が公法上の義務をそのまゝの形において実現するのであつて、これにつき直接的な法律の根拠規定を必要としないことを理由に代替的な公法上の作為義務はすべて代執行に親しむかのように主張するのであるが、右の所論は行政代執行法二条の規定に反し、失当であることはいうまでもない。

 しかのみならず、行政代執行により履行の確保される行政上の義務は、いわゆる「為す義務」たる作為義務のうち代替的なものに限られるのであつて、庁舎の明渡しないしは立退きの如き、いわゆる「与える義務」は含まれないものと解すべきである。

 これらの義務の強制的実現には実力による占有の解除を必要とするのであつて、法律が直接強制を許す場合においてのみこれが可能となるのである。

 もつとも、抗告人が相手方に対してなした行政代執行の前提たる戒告は、前記の如く、庁舎内にある相手方組合事務所の存置物件の搬出についてであつて、組合事務所の明鍍しないしは立退きについてではないが、組合事務所存置物件の搬出は組合事務所の明渡しないしは立退き義務の履行に伴う必然的な行為であり、それ自体独立した義務内容をなすものではなく、况んや、法律が直接命じた義務あるいは法律に基ずく行政処分により命じた義務でないこと勿論である。従つて、組合事務所の明渡しないしは立退きについて前記の如く代執行が許されないからといつて、組合事務所存置物件の搬出のみを取り上げ、これが物件の搬出という面では代替的な作為義務に属することの故に、代執行の対象とするが如きことが許されないのは、いうまでもない。

 そうであるから、前記庁舎使用許可取消処分に基ずく行政代執行は、その執行の範囲を相手方組合事務所内の存置物件搬出に限定すると否とを問はず、行政代執行法二条の要件を欠き違法であるといわなければならない。右の如き庁舎の明渡しないしは立退き請求については、庁舎の権利主体たる茨木市より相手方に対し、公法上の法律関係に関する訴えたる、当事者訴訟を提起し、その確定判決に基く強制執行によるか、あるいは仮処分によるなど、民訴法上の強制的実現の方法に出ずべきものである。

 右庁舎の明渡しないし立退き請求は、前記の如く公法上の請求権ではあるが、その実質において私法上の賃貸借、使用貸借の終了による返還請求と異るところはないのであるから、民訴法の強制執行ないしは仮処分の規定の類推適用が許されるものと解すべきである。また庁舎所有権に基き、相手方の不法占拠を理由に明渡しないしは立退きを求める民訴法上の訴えを提起し、あるいは仮処分を求めて、その強制的実現をはかる方法もないではなく、行政代執行を許さないからといつて、不当な結果を生ずるものではない。

 そこで庁舎使用許可取消処分に基く代執行が許されないのにかゝわらず、抗告人が代執行の前提である戒告をなし、代執行の強制手段に出ること確実であると認められる場合において、その行政処分の違法を理由に取消訴訟を提起するとともに、処分の執行停止を求め、これにより違法な執行を停止することができるかどうかを考察するに、庁舎使用許可取消の行政処分は、前記の如く庁舎の使用関係を終了せしめる効果を生ぜしめるに過ぎないのである。かような観念的な法律状態の形成を目的とする行政処分には執行はありえないのであつて、従つて執行停止もありえないのである(もつとも処分の効力の停止は考えられるし、相手方はその効力の停止の申請をもしているようであるが、原審はこの点についての判断を示していない。かりに申請棄却の趣旨であるとしても、相手方より抗告の申立がないのであるから、当裁判所はこの点についての審理はしない。)。かつ行政処分取消訴訟に伴う執行停止制度は、本案の取消訴訟の判決確定に相当の日時を要し、その間に行政処分の執行がなされて回復し難い損害を生じたときには、折角本案勝訴の確定判決を得ても、これが画餅に帰するおそれあることを考慮した救済規定であるから、行政処分が執行に親しむものであることを当然の前提とするものであり、当該行政処分が執行の観念を容れる余地のない性質のものであるのに、その処分を根拠にして違法な執行がなされた場合の救済は右執行停止制度の関知しないところである。

 右の如く行政処分の執行そのものが違法であるときは、むしろ当該執行の違法を理由にその取消を求める抗告訴訟を提起し(行政代執行が行政事件訴訟法三条の公権力の行使にあたる事実行為であり、これに対する抗告訴訟が許されることは同条の規定ならびに旧行政代執行法七条の規定との沿革的な関係に照して明らかなところである。)、執行手続の続行を停止する意味での執行停止を求めるべきである。

 本件では、相手方は抗告人のなした前記戒告に対しても取消訴訟を提起しているのである。もつとも戒告は代執行そのものではなく、またこれによつて新な義務ないし拘束を課する行政処分ではないが、代執行の前提要件として行政代執行手続の一環をなすとともに、代執行の行われることをほぼ確実に示す表示でもある。そして代執行の段階には入れば多くの場合直ちに執行は終了し、救済の実を挙げえない点よりすれば、戒告は後に続く代執行と一体的な行為であり、公権力の行使にあたるものとして、これに対する抗告訴訟を許すべきである。そうであれば、前記の如く戒告に対する抗告訴訟の提起がある以上、行政事件訴訟法二五条により戒告に続く代執行手続の続行を停止する意味での執行停止が許されるものといわなければならない(もつとも相手方の申立書によると組合事務所使用許可取消処分に基く戒告その他の代執行手続の続行停止を求めるかのような体裁になつているが、組合事務所使用許可取消処分についてその効力の停止を求めている点よりすれば、「組合事務所使用許可取消処分に基ずく戒告その他の代執行手続」という表現は、抗告人の発した戒告書の文言にそつたまでで、その真意は戒告その他代執行手続の違法を理由にその執行停止を求める趣旨であることは本件記録に照して容易に推知しうるところである。)。そして本件記録によれば、抗告人の違法な代執行により相手方は場所的に有利な組合事務所の利用ができなくなり、回復し難い損害を生ずることならびに右損害を回避するためその執行を停止すべき緊急の必要性あることが疎明せられ、かつ右執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすものとは認め難いから、執行停止をなすべき要件に欠けるところはないものといわなければならない。

 抗告人は組合事務所使用許可取消処分及び戒告の各取消を求める本案請求は理由がないと主張するが、少くとも本件に直接関係をもつ戒告の取消を求める部分については、理由がないとみえる場合に該当しないこと前説示のとおりであるから、右主張は採用できない。

 さらに抗告人は、本件組合事務所の移転先として庁舎の別の一部を相手方に提供する旨申出でているのであるから、相手方は本件事務所を失つたからといつて、回復し難い損害を被る筈はなく、従つて、執行停止を求める緊急の必要性を欠くと主張するのであるが、抗告人が本件組合事務所の移転先として相手方に提供を申出でた庁舎の一部は、従来の窮屈な事務所よりも多少狭い上に、相手方組合から分裂した第二、第三、第四組合の各事務所が隣合せに存在し、かつ裏側は茨木警察署に隣接しており、かくては相手方組合の運動方針、企画など組合運営に関する秘密が漏洩察知されることが懸念され、また相手方の組合活動の中心たる組合事務所が敵対的な分裂組合の事務所に囲まれていては組合活動も自ら制約されて萎縮し、はては強固な団結の維持も困難となり、組合員の脱退あるいは再分裂による組合の脆弱化ないしは崩潰が憂慮される状況にあることは、甲第三ないし六号証、同第七号証の一、二、同第八号証の一ないし四、同第一一号証、原審での相手方組合代表者原田保に対する審尋の結果によつて疎明できるから、本件代執行により相手方の被る回復し難い損害ならびにこれを避けるための緊急な必要性を否定することはできないものというべく、この点に関する抗告人の主張も亦採用し難い。

 そうであれば、本件は前記戒告取消訴訟の判決確定に至るまで、戒告に続く代執行手続(代執行令書の発行及び代執行)の続行を停止すべきである。原決定は「組合事務斬使用許可取消処分に基く戒告その他の代執行手続の続行停止」を命じ、使用許可取消処分に基く代執行が許されることを前提とするかの如く解せられ、かつ戒告はすでになされてしまつた行為であり、もはや執行停止の余地がないのにかゝわらず、これを執行停止の対象としたかの如く解せられる点において失当であるから、これを変更すべきものとする。

 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、九二条但書を適用し、主文のとおり決定する。

 (裁判官 金田宇佐夫 日高敏夫 中島一郎)

 (別紙)

        抗告の趣旨

 原決定を取消す。

 相手方の本件申立を却下する。

 との裁判を求める。

          抗告の理由

一、本件の組合事務所使用許可取消処分及び戒告処分の取消を求める本案請求は法律上その理由がないのみならず、右処分の執行または手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性もまた存しないのである。従つて、本執行停止を命じた原決定は違法であり、取消を免れない。

二、いまこれを詳述するに

(1) 本案請求が理由がないとの点について

  1 本件の如き市庁舎たる行政財産の許可による使用関係については借家法の適用がなく、公用若しくは公共用に供するため必要が生じたときは、その許可を取消すことができ、借家法におけるような正当の事由を必要としない。抗告人が本件の使用許可を取消したのは、市庁舎本来の目的である行政事務の処理のために使用する必要が生じたからである。茨木市は昭和二三年市制施行以来人口急増し、従つて市庁舎も事務量、職員数の増加に伴い狭隘となり、いまや数次の増築によつて、敷地の利用も極限に達し、既存庁舎の有効使用以外に打開の途はなくなつた。

   本件の組合事務所の使用部分の許可取消は庁舎狭隘のため日常事務の処理さえ円滑に行いえない事態を打開するためであつて、単に市民税の申告事務や固定資産税台帳縦覧の如き臨時的事務に必要なためばかりでない。右の次第であるので、本件使用許可取消処分は地方自治法二三八条の四 五項の要件を完全に具備するものである。

  2 憲法二八条は労働組合に、使用者の施設の一部をその事務所として使用する権利を保障しているのでないことはいうまでもない。のみならず使用者が組合に無償で事務所を提供することは、本来なれば労働組合法七条三号にいわゆる経理上の援助として不当労働行為に該当するのであるが、わが国の労働組合が主として企業組合の形態をとつている特殊な実情から、これが不問に付されているのであつて、組合の自主性の上からは避くべきことがらであつて、憲法の保障する団結権とは何の関係もない。使用許可取消処分が地方自治法二三八条の四 五項所定の事由に基く以上、たとえ取消処分の結果組合活動に支障を来しても、その処分の効力に影響はない。とくに本件では抗告人において本組合事務所と大差のない新しい組合事務所を相手方に提供しているのであるから、相手方の組合活動に支障が生ずる筈はない。

(2) 代執行について

 1 相手方は抗告人の使用許可取消処分によつて組合事務所使用の権限を失い、これを抗告人に明渡すべき行政上の義務を負担するに至つたのにかゝわらず、相手方はこの義務を履行する意思のないことを表明しているのである。かくて庁舎の狭隘を打開し、行政事務の円滑をはかるためになした使用許可坂消処分の目的が達成できず、このまゝ放置することは著しく公益に反するし、他に履行確保の手段もない故、抗告人はやむなく組合事務所の明渡に伴う事務所内存置物件の搬出という代替的作為義務について代執行を行うこととし、その旨の戒告をしたのであつて、行政代執行法二条の要件に欠けるところはない。

 2 市庁舎の如き行政財産の管理については、公共の福祉実現という管理目的に照して私法規定の適用を排除する特別の定めをすることが多く地方自治法二三八条の四は正に右の如き特別規定の一つである。従つてこの規定に基いて抗告人が命じた組合事務所内存置物件の搬出は公法上の義務に外ならない。而して公法上の義務の不履行について行政代執行法が適用されるのは当然である。右の義務者が一般国民でなく、市内部の労働組合であつても、何ら差異は生じない。

   そして行政上の義務については行政機関が自らその義務の存在を確認して自ら執行する権限を有し、その執行方法が義務の内容をそのまゝの形において実現するものである限り、執行そのものについては、法律の規定のあることを必要としないのである。従つて使用許可の取消しという以外に明渡しを命じうる直接的な法律上の根拠規定のないことは、何ら代執行の妨げにならない。従つて民訴法上の訴えによらなければならない必要もないのである。

 (3) 執行停止の必要性について

   抗告人が相手方のために移転先として提供しようとしている新しい事務室は、出人りの便利さにおいてははるかに勝るのみならず、その規模、構造ならびに設備等の点において現状と変るところがないから、移転したからといつて、相手方の組合活動に支障を来すようなことは考えられない。また相手方が主張するような、他組合事務所と隣接し、警察署と近接しているため会議の状況が漏洩するというようなおそれもない。もし隣接箇所の壁等を補強すればなおさらである。要するに新しい事務室に移つたからといつて、回復し難い損害が生じるとはいえないのである。

集合動産譲渡担保の対抗要件 最高裁昭和62年

民法判例百選Ⅱ 第9版 96事件

第三者異議事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和57年(オ)第1408号

昭和62年11月10日

【判示事項】      一、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の対抗要件と構成部分の変動した後の集合物に対する効力

            二、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権と動産売買先取特権に基づいてされた動産競売の不許を求める第三者異議の訴え

            三、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権設定契約において目的物の範囲が特定されているとされた事例

【判決要旨】      一、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の設定者がその構成部分である動産の占有を取得したときは譲渡担保権者が占有改定の方法によって占有権を取得する旨の合意があり、担保権設定者がその構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、譲渡担保権者は、右譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至り、右対抗要件具備の効力は、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物に及ぶ。

            二、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者は、特段の事情のない限り、第三者異議の訴えによって、動産売買先取特権者が右集合物の構成部分となった動産についてした競売の不許を求めることができる。

            三、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権設定契約において、目的動産の種類及び量的範囲が普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、その所在場所が譲渡担保権設定者の倉庫内及び同敷地・ヤード内と指定されているときは、目的物の範囲が特定されているものというべきである。

【参照条文】      民法85

            民法369

            民法178

            民法181

            民法183

            民法333

            競売法3

            民事訴訟法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)549-1

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集41巻8号1559頁

            最高裁判所裁判集民事152号143頁

            裁判所時報972号1頁

            判例タイムズ662号67頁

            金融・商事判例791号3頁

            判例時報1268号34頁

            金融法務事情1186号5頁

【評釈論文】      金融法務事情1186号5頁

            金融法務事情1186号11頁

            金融法務事情1186号20頁

            金融法務事情1194号38頁

            金融法務事情1581号88頁

            ジュリスト908号72頁

            ジュリスト臨時増刊910号79頁

            ジュリスト912号102頁

            別冊ジュリスト104号206頁

            別冊ジュリスト127号52頁

            別冊ジュリスト247号38頁

            別冊ジュリスト250号98頁

            別冊ジュリスト262号194頁

            判例タイムズ668号34頁

            判例タイムズ臨時増刊706号52頁

            判例評論357号182頁

            法学協会雑誌107巻1号137頁

            月刊法学教室93号106頁

            法学研究(慶応大)62巻2号112頁

            法学論集(山梨学院大)16号1頁

            法政論集(名古屋大)140号493頁

            法曹時報42巻7号199頁

            法律時報60巻7号109頁

            法令ニュース23巻12号27頁

            名城法学38巻1号75頁

            NBL397号13頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人岩本幹生の上告理由について

 原審の適法に確定した事実関係は、(一)

 被上告会社は、昭和五〇年二月一日、丸喜産業株式会社(以下「訴外会社」ということの間で、大要次のような根譲渡担保権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結した、(1)訴外会社は、被上告会社に対して負担する現在及び将来の商品代金、手形金、損害金、前受金その他一切の債務を極度額二〇億円の限度で担保するため、原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内を保管場所とし、現にこの保管場所内に存在する普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品の所有権を内外ともに被上告会社に移転し、占有改定の方法によつて被上告会社にその引渡を完了したものとする、(2)訴外会社は、将来右物件と同種又は類似の物件を製造又は取得したときには、原則としてそのすべてを前記保管場所に搬入するものとし、右物件も当然に譲渡担保の目的となることを予め承諾する、(二)被上告会社は訴外会社に対し、普通棒鋼、異形棒鋼、普通鋼々材等を継続して売り渡し、昭和五四年一一月三〇日現在で三〇億一七八七万〇三一一円の売掛代金債権を取得するに至つた、(三)訴外会社は、上告会社から第一審判決別紙物件目録記載の異形棒鋼(以下「本件物件」という。)を買い受け、これを前記保管場所に搬入した、(四)本件物件の価額は五八五万四五九〇円である、(五)上告会社は、本件物件につき動産売買の先取特権を有していると主張して、昭和五四年一二月、福岡地方裁判所所属の執行官に対し、右先取特権に基づき、競売法三条による本件物件の競売の申立(福岡地裁昭和五四年(執イ)第三二六五号)をした、というのである。

 ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保を目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。

 これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 長島 敦 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 坂上壽夫)

 

 上告代理人岩本幹生の上告理由

 原判決は、法律の解釈を誤り、かつ、事実を誤認したもので、右は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄差戻を免れないと思料する。

第一点 法律の解釈を誤つている。

 一、原判決は、集合物の譲渡担保の特定について、最高裁第一小法廷の判決(昭和五四年二月一五日昭和五三年(オ)第九二五号物件引渡請求事件民集三三巻一号五一頁)を引用し、構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなど何らかの方法で目的物の範囲が指定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となり得るものと解するのが相当である、と判示している。

 しかし、集合物の譲渡担保の特定は、公示(対抗要件)の問題と密接に関連しており、従つて、単に被上告人と訴外丸喜産業株式会社(以下訴外会社という)との譲渡担保契約(甲第一号証=商品等譲渡担保差入証書)締結の際の目的物の種類、所在場所、量的範囲の指定をもつて上告人に対しては特定の要件を充足していることにはならないと思料する。

 二、この点について、学説・判例についても次のように指摘されている。

 (1) 柚木馨・高木多喜男は、「担保目的物の範囲が公示されてはじめて第三者に対する関係において特定の原則は、その意義を発揮する」旨(担保物権法新版五八六頁)

 また、

 (2) 集合物を認めることは、その範囲において有体性の原理を否定する結果となるわけで、それは所有権における独占的支配の同一性とその支配領域の範囲について、これを客観的標準によつて、一義的に確定し、同時にその旨を取引界に対して公示するという特定性の作用を失わせる。従つて、物権法の体系する限り、集合物を単純、無条件に肯定することは不可能であり、それは有体性に代る何らかの手法によつて失われた公示を回復し、優先的支配の同一性とその支配領域を取引界に対して客観的に明瞭な形で確定するとき、はじめて可能になるものといえるであろう」と論じ、

 (3) 「目的物の種類、所在場所、量的範囲の指定ということが特定性の要件の重要な柱となることは否定できないとしてもそれを基に特定性の基準を定式化することができるほど単純な問題ではないし、又、それほど容易な問題でもない」(吉田真澄 NBLM二二二)と言及し、

 (4) 「店舗・倉庫の商品全部といつた目的物の定めがある場合に、種類、数量、価格が毎日のごとく変動する商品について、店舗・倉庫に存するとの限定のみを加え継続的な同一性を付与する指標として、管理上その他何らの具体的方策も講じていない場合には、目的物は特定しているといえない」(昭和四五年八月二五日岡山地裁判決)と論じている。

 三、そもそも、学説・判例によつて、集合物を占有改定により引渡を受けることによつて具備する占有改定説と、明認方法によるそれが有力に主張され、その方法として特定された所有物の所在場所に一定内容を記載した表札や標識をつけるとか、担保権設定契約(できればその公正証書)を表示するとかが考えられている。(吉田・NBL二四七号、金法一九七号、民法総合判例研究)

 実際上、何が明示されるのかということになると、そこでは他の財産より区別される財産(柚木=高木・担保物権法新版)の明示、引渡す物件(瀬川・判例研究ジユリスト五一九号一〇九頁)の明示というように有体物的支配の対象となる物の明示を意味しているようである。

 このような考えは、特定動産上の譲渡担保権の公示と同様で、その特定動産を集合動産に置き替えたにすぎないものである。確かに、他の財産から区別され、譲渡担保権の目的となり得る集合「物」について明示するという意味のあり得ることは否定できないが、集合動産譲渡担保の場合にはそれにつきるどころか、それ以上の意味を持つものである点を見逃してはならない。それは、個々の動産について搬出・搬入がくり返されても、それは、譲渡担保権の目的として優先弁済力の及ぼしうる「集合」物であることが判明できるものでなければならないという点である。

 この為、特定動産の場合は、その物の上に譲渡担保権者の優先弁済力が存在する旨さえ明示すれば足りるということになるわけであるが、集合動産譲渡担保では、優先弁済力の存在を明示するだけでは足りず、その物を明示することも必要になる。

 第三者なかんずく、集合物を搬入する取引業者である上告人また、差押債権者等は、見えざる譲渡担保権設定の結果として、搬入による売却・あるいは差押えが全く闇討ちに不測の損害を蒙ることとなり、一人被上告人のみがその価値を独占する状態となり、右闇討ちは特定の内容を明示するときは充分に回避できることとなる。

 前記最高裁の判決は、集合動産について、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなど何らかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である、旨判決しているが、右第一、二審とも原告の請求は認められていない。第二審の判決の要旨は次のとおりである。

 「集合物の一部につき物権の設定・移転がなされ得ることを一般的に否定できないにせよ、控訴会社(原告)と川崎電気の本件取引は、単に川崎電気所有の乾燥ネギ二八トンを譲渡担保として提供することが約されたに止り、未だその目的物の具体的特定は遂げられていなかつたものとみなければならず(控訴会社の者が被控訴会社倉庫へ赴いたのも、単に在庫確認のためであつて、特定のためとは認め難い)、本件ネギにつき控訴会社が譲渡担保権(所有権)を取得した旨の控訴人の主張はたやすく信用し難い」というものである。

 右第二審の判決に対する上告審の判決が前記の判決であり、その目的物の具体的特定が遂げられていなかつたことを認容している。

 四、原判決は、本件目的物の種類は「普通棒鋼、異形棒鋼一切の在庫商品」、その所在場所及び量的範囲は「訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地、ヤード内」として客観的に明瞭な特定場所の指定があつて、右所在場所にある「一切の」在庫商品としての量的範囲が指定されたいわゆる全部譲渡方式が採用されているから、本件譲渡担保契約の目的物の範囲の特定は、それだけで既に充分であるとその理由に述べている。

 ところで原審判決は、第一審判決の請求原因事実を引用し、本件譲渡担保を契約の目的物の範囲の特定は、設定契約における約定をもつてそれだけで充分であると理由付けをしているが、前記の判決の構成部分の変動する集合動産についてのその種類、所在場所及び量的範囲を指定すること、何らかの方法で目的物の範囲を特定することは全くこれを看過している。

 従つて、集合物の目的物の具体的特定は遂げられていないこと明らかである。

 よつて、原判決は法律の解釈を誤つている。

第二点 本件譲渡担保として、被上告人が主張している物件の対抗要件を具備していないこと明らかであり、事実を誤認し、法律の解釈を誤つている。

 一、原判決は、対抗要件の具備として第一審判決の理由を引用し、「集合動産それ自体が譲渡担保の目的物となるのであるから一たん集合動産について占有改定がなされると、後に加入する個々の物は集合動産の構成部分として当然に譲渡担保に服し、かつ、対抗力を取得するものであり、個々の物について改めて占有改定の意思表示をすることは必要でないというべきである。」

 右判断は事実を誤認し、法律の解釈を誤つている。

 二、占有改定とは、「自己の占有物を爾後本人の為に占有すべき意思を表示したるとき」(民法一八三条)であるが、本件の占有改定は被上告人と訴外会社のみの占有移転の合意にすぎない。

 然るところ、第三者である上告人に対する公示という点においては何ら実質的な占有の変更を来していない。占有を公示方法とするのであれば、その目的物の現実の利用等が外界からその権利の存在を容易に認識できるものでなければならず、現実の利用を伴わない占有は観念的なものとならざるを得ない。

 この外部には何らの変化の生じない観念的な占有をもつて動産についての変動が行われたとしてもその事情を全く認知できない第三者に対する対抗要件(公示方法)と判断し、法定担保権を有する上告人の動産先取特権をも消滅すると認定した原判決は、法の解釈を誤つている。

 第一審判決のように、後に加入(搬入)する個々の物は集合動産の構成部分として当然に被上告人の譲渡担保に服するという見解は、上告人にとつては全く想像もされない被上告人の闇討ち的な優先権が表れることになり、言わば狼が口をあけて食物が飛び込んでくる状態であると比喩せざるを得ない。

 三、最高裁判所昭和三五年二月一一日第一小法廷判決(昭和三二年(オ)第一〇九二号)は、「占有取得の方法は外観上の占有状態に変更を来さない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない」と判示し、これを要するに占有改定による対抗力を取得するには、占有の取得(引渡)が何らかの方法により、その動産に対する権利関係者に表示され、又は、権利関係者(特に第三者)においてその事実を認識しうる特別の事情がなければ占有改定による引渡によつては対抗し得ないものと解すべきである。

 そこで、第一審判決が前記のように譲渡担保契約成立時に、集合動産についての占有改定がなされているとの見解は、事実を誤認し、かつ、法律上の見解を誤つている。

第三点 原判決は、民法第三三三条及び同一九四条並びに第三一九条の法律上の解釈を誤つている。

 一、原判決は、動産先取特権の追及力の制限について、上告人は本件物件について動産売買の先取特権を行使することはできず、右権利はここに消滅したと判断している。

 二、しかし、右判断は、善意の取引業者である上告人の権利を闇討ち的に奪うものであつて、動産取引の安全と先取特権者の利益の調和を考慮すると法律の解釈の片手落ちと言わざるを得ない。

 三、民法第一九四条及び同三一九条により、当初より動産に対する所有権を有していない債務者の占有物にさえ先取特権の効力が及ぶとされている。

 民法第三三三条の場合にも前記最高裁判所の判決の趣旨を考慮し、類推適用すべきであり、善意無過失の先取特権者である上告人は、動産の占有改定による引渡しが何ら表示されていなく、かつ、認知されない限りその動産の上に先取特権を行使できるものと思料される。

 よつて、原判決はこの点においても法律の解釈を誤つている。

 

↑このページのトップヘ