岡本法律事務所のブログ

カテゴリ: 民事執行法

 民事執行法の実務的な議論ですので法律を勉強中のひとや司法試験受験生はよみとばしてください。

 最高裁平成23年9月30日第三小法廷判決は預金債権差押えに際して支店の特定を要求した事案として知られている。判決の事案を単純化して示すと次のようになる。
 X(債権者・抗告人)はY(債務者・執行の相手方)に対する金銭債権を表示した債務名義にもとづきZ銀行(第三債務者)に対して、執行裁判所に預金債権の差押命令を申し立てた。このときXは全店一括順位付け方式による差押債権目録を提出していた。取扱店舗を一切限定せずに複数の店舗に預金があるときは支店番号の若い順位による、としていた。
 地裁・高裁・最高裁とも民事執行規則133条2項の特定に欠けるとした。

 債権者側についた弁護士としては、全店一括順位付け方式にこだわって却下されたうえで、この判決の妥当性について争うより、依頼者のためにな預金額最大支店特定方式による表をつけていくことになる。このへんの知識がなくて、受け付け段階のロスタイムでほかの債権者に出し抜かれたり債務者に資産隠匿されたら弁護過誤といえるかもしれない。預金額最大支店特定方式については東京高裁決定平成23年10月26日判例時報2130号4頁がこの方式で特定がたりるとしている。
 学説上は支店の特定は不要という考え方も有力なようである。
 この最高裁判決には田原最高裁判事の補足意見があるのだが、長いので判例百選や重要判例集では省略されてしまっている。

2 学説及び民事法以外の別の考え方
 2-1 学説
 おおきくわけて支店特定の必要説と不要説がある。財産開示や弁護士法23条の2照会に銀行がこたえないことを前提に支店特定を要求されては債権者はたいへんだ、ということが支店特定不要説の基本である。債権者の便宜重視である。必要説は支店ごとの顧客管理をしているのだから支店を特定しなけらばならない、というのが基本である。第三債務者の便宜重視となる。ところが第三債務者たる金融機関もいろいろであって、コンピュータ管理があたりまえで名寄せが容易なところとそうでないとこもらる。支店特定説はオンラインが完成していないわりと古い説がおおいのはこのへんの事情が関連しているのかもしれない。

 2-2 行政法・刑事法では
 行政法や刑事法での相手方の銀行の口座凍結を申し立てることがある。暴力団追放条例や振込詐欺防止法による例がおおい。
 振込詐欺防止法にもとづくあやしい口座をさしてめる書式(日弁連のホームページ参照)では支店の口座を届けるかたちになっているうえに、口座名義も支店の特定も欄がある。ただ、被害者が口座をおぼえていない場合もあり、実際はカタカナの口座名義人の記載だけでも受け付けてくれている。マネーロンダリングや不正行為防止のため名寄せ(顧客単位での管理)はかなりすすんでいるのである。消費者被害の局面で、行政法と民事法の差異はないほうがのぞましい。
 とすると同一のコンピュータ回線で管理されている範囲、たとえば都銀の同一銀行の国内支店に関しては概括的な国内支店ということで特定はたりるとしていいのではないだろうか。
 田原補足意見でも指摘されていたが、複数銀行間の場合は金額をどの程度までおさえるか二重払いの可能性とか否定できないのでちょっと無理であろう。
 過剰支払いや二重支払いの可能性を考えて支店間の順位付けは必要ということになる。
 まとめると同一金融機関のどうしに対しては、支店間で過剰執行のおそれがないように指定したうてで支店記載はなくしてもよいことになる。


参考文献 ジュリスト1440号 平成23年度重要判例解説 民事訴訟法8 全店一括順位付け方式による預金債権差押命令も申し立てと差押債権の特定 小原将照

民事執行・保全判例百選第2版 47 差し押さえるべき債権の特定 高田昌宏

会社法判例百選第3版 4 法人格の否認と第三者異議の訴え 最高裁平成17年7月15日第二小法廷判決 民集判例です。解説は松下東京大学教授で民事訴訟法畑のひとです。

第三者異議の訴えがわからない段階で読んではいけません。民事執行法をひととおり勉強したあとで読む判例です。初心者のうちはとばしたほうがいいでしょう。わたしの弁護修習さきであった今中利昭先生の論文が判例に反対する立場として引用されています。かわった説をだしてしまうといつまでも引用されてしまいます。

第三者異議の訴えについて法人格の否認法理を適用して請求を棄却した1審控訴審について上告受理申立(※上告と上告受理申し立ての違いは民事訴訟法でちゃんと覚えておきましょう)がありました。最高裁判所がどう判断したかはおよそ見当がつきますね。

 3のところで述べたとおりけっこうひろく法人格否認の法理の適用があるわけです。

 

田中亘「会社法」東京大学出版会・2016年・35頁

民事訴訟雑誌 62号
2016年3月21日 印刷
2016年3月31日 発行
編集兼発行者 日本民事訴訟法学会
印刷所 中村印刷株式会社
発行所 株式会社法律文化社
ISSN-0075-4188
ISBN978-4-589-03748-0
C3032

目次

 論  説

確定期限到来前の給料債権の差押えとその取消しについて…佐野裕志
  ――民事執行法第一五一条の二における債務者保護の必要性
強制執行の和解的解決……………………………………………内山衛次
控訴審における釈明権の行使…………………………………大竹たかし

 シンポジウム
当事者論の現代的課題…………………………………(司会)山本 弘
 〔報告〕堀野出、八田卓也、伊東俊明
 〔発言・質問〕松本博之、垣内秀介、名津井吉裕、本間靖規、
   小田敬美、鶴田 滋、福本知行、河野憲一郎

 研究報告
破産手続における「現存額主義」の歴史的系譜とその根拠・機能
 ……………………………………………………………………杉本和士
結合企業の倒産処理における実体的併合についての一試論…金  春
争点整理のための心証開示について……………………………矢尾 渉
  ――裁判所の心証は、なぜ当事者に伝わりにくいのか
解釈論としての職権鑑定の可能性について……………………清水 宏

 紹  介
Adrian Zuckerman, Zuckerman on Civil Procedure; Principles
  of Practice, 3rd.(Sweet and Maxwell, 2013)
Neil Andrews, Andrews on Civil Processes (Intersentia, 2013)
 ……………………………………………………………………我妻 学

 海外学会事情
国債訴訟法学会二〇一五年イスタンブール大会
 (第一五回世界訴訟法会議)について………………………垣内秀介

 追悼文
中村英郎名誉会員のご逝去を悼む………………………………鈴木重勝
福永有利名誉会員のご逝去を悼む………………………………徳田和幸
石川明名誉会員のご逝去を悼む…………………………………三木浩一
ハープシャイト(Walter J.Habscheid)名誉会員のご逝去を悼む
 ……………………………………………………………………本間靖規

学会雑報
各地研究会だより

 民事執行法の実務的な議論ですので法律を勉強中のひとや司法試験受験生はよみとばしてください。

 最高裁平成23年9月30日第三小法廷判決は預金債権差押えに際して支店の特定を要求した事案として知られている。判決の事案を単純化して示すと次のようになる。
 X(債権者・抗告人)はY(債務者・執行の相手方)に対する金銭債権を表示した債務名義にもとづきZ銀行(第三債務者)に対して、執行裁判所に預金債権の差押命令を申し立てた。このときXは全店一括順位付け方式による差押債権目録を提出していた。取扱店舗を一切限定せずに複数の店舗に預金があるときは支店番号の若い順位による、としていた。
 地裁・高裁・最高裁とも民事執行規則133条2項の特定に欠けるとした。

 債権者側についた弁護士としては、全店一括順位付け方式にこだわって却下されたうえで、この判決の妥当性について争うより、依頼者のためにな預金額最大支店特定方式による表をつけていくことになる。このへんの知識がなくて、受け付け段階のロスタイムでほかの債権者に出し抜かれたり債務者に資産隠匿されたら弁護過誤といえるかもしれない。預金額最大支店特定方式については東京高裁決定平成23年10月26日判例時報2130号4頁がこの方式で特定がたりるとしている。
 学説上は支店の特定は不要という考え方も有力なようである。
 この最高裁判決には田原最高裁判事の補足意見があるのだが、長いので判例百選や重要判例集では省略されてしまっている。

2 学説及び民事法以外の別の考え方
 2-1 学説
 おおきくわけて支店特定の必要説と不要説がある。財産開示や弁護士法23条の2照会に銀行がこたえないことを前提に支店特定を要求されては債権者はたいへんだ、ということが支店特定不要説の基本である。債権者の便宜重視である。必要説は支店ごとの顧客管理をしているのだから支店を特定しなけらばならない、というのが基本である。第三債務者の便宜重視となる。ところが第三債務者たる金融機関もいろいろであって、コンピュータ管理があたりまえで名寄せが容易なところとそうでないとこもらる。支店特定説はオンラインが完成していないわりと古い説がおおいのはこのへんの事情が関連しているのかもしれない。

 2-2 行政法・刑事法では
 行政法や刑事法での相手方の銀行の口座凍結を申し立てることがある。暴力団追放条例や振込詐欺防止法による例がおおい。
 振込詐欺防止法にもとづくあやしい口座をさしてめる書式(日弁連のホームページ参照)では支店の口座を届けるかたちになっているうえに、口座名義も支店の特定も欄がある。ただ、被害者が口座をおぼえていない場合もあり、実際はカタカナの口座名義人の記載だけでも受け付けてくれている。マネーロンダリングや不正行為防止のため名寄せ(顧客単位での管理)はかなりすすんでいるのである。消費者被害の局面で、行政法と民事法の差異はないほうがのぞましい。
 とすると同一のコンピュータ回線で管理されている範囲、たとえば都銀の同一銀行の国内支店に関しては概括的な国内支店ということで特定はたりるとしていいのではないだろうか。
 田原補足意見でも指摘されていたが、複数銀行間の場合は金額をどの程度までおさえるか二重払いの可能性とか否定できないのでちょっと無理であろう。
 過剰支払いや二重支払いの可能性を考えて支店間の順位付けは必要ということになる。
 まとめると同一金融機関のどうしに対しては、支店間で過剰執行のおそれがないように指定したうてで支店記載はなくしてもよいことになる。


参考文献 ジュリスト1440号 平成23年度重要判例解説 民事訴訟法8 全店一括順位付け方式による預金債権差押命令も申し立てと差押債権の特定 小原将照

民事執行・保全判例百選第2版 47 差し押さえるべき債権の特定 高田昌宏

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