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カテゴリ: 民事執行法

再転相続の際の民法916条の熟慮期間起算点 最高裁令和元年 潮見 詳解相続法第2版 74頁

重要判例解説 令和元年度 民法9

執行文付与に対する異議事件

最高裁判所第2小法廷判決/平成30年(受)第1626号

令和元年8月9日

【判示事項】    民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義

【判決要旨】    民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。

【参照条文】    民法916

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集73巻3号293頁

          裁判所時報1729号1頁

          判例タイムズ1474号5頁

          金融・商事判例1581号7頁

          金融・商事判例1598号24頁

          判例時報2452号35頁

          金融法務事情2144号46頁

          LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】    銀行法務21 850号66頁

          ジュリスト1544号82頁

          ジュリスト1552号89頁

          法学教室471号140頁

          NBL1160号16頁

          金融法務事情2145号70頁

          法学セミナー65巻3号126頁

          判例時報2481号108頁

          家庭の法と裁判28号69頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人瀬戸祐典,上告復代理人岸田麻希の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 株式会社みずほ銀行は,南大阪食肉市場株式会社に対して貸金等の支払を求めるとともに,A外4名に対し,上記貸金等に係る連帯保証債務の履行として各8000万円の支払を求める訴訟を提起した。平成24年6月7日,みずほ銀行の請求をいずれも認容する判決が言い渡され,その後,同判決は確定した(以下,この判決を「本件確定判決」という。)。

 (2)ア Aは,平成24年6月30日,死亡した。Aの相続人は,妻及び2名の子らであったが,同年9月,当該子らによる相続放棄の申述が受理された。

 イ 上記の相続放棄により,Aのきょうだい4名及び既に死亡していたAのきょうだい2名の子ら7名(合計11名)がAの相続人となったが,平成25年6月,これらの相続人のうち,B(Aの弟)外1名を除く9名による相続放棄の申述が受理された。

 (3) Bは,平成24年10月19日,自己がAの相続人となったことを知らず,Aからの相続について相続放棄の申述をすることなく死亡した。Bの相続人は,妻及び子である被上告人外1名であった。被上告人は,同日頃,被上告人がBの相続人となったことを知った。

 (4) みずほ銀行は,平成27年6月,上告人に対し,本件確定判決に係る債権を譲渡し,南大阪食肉市場に対し,内容証明郵便により上記の債権譲渡を通知した。

 (5)ア 上告人は,平成27年11月2日,本件確定判決の正本(以下「本件債務名義」という。)に基づき,みずほ銀行の承継人である上告人が,Aの承継人である被上告人に対して本件債務名義に係る請求権につき32分の1の額の範囲で強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受けた。

 イ 被上告人は,平成27年11月11日,本件債務名義,上記承継執行文の謄本等の送達(以下「本件送達」という。)を受けた。被上告人は,本件送達により,BがAの相続人であり,被上告人がBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。

 (6) 被上告人は,平成28年2月5日,Aからの相続について相続放棄の申述をし,同月12日,上記申述は受理された(以下,この相続放棄を「本件相続放棄」という。)。

 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件相続放棄を異議の事由として,執行文の付与された本件債務名義に基づく被上告人に対する強制執行を許さないことを求める執行文付与に対する異議の訴えである。甲が死亡し,その相続人である乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡し,丙が乙の相続人となったいわゆる再転相続に関し,民法916条は,同法915条1項の規定する相続の承認又は放棄をすべき3箇月の期間(以下「熟慮期間」という。)は,「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する旨を規定しているところ,本件では,Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間がいつから起算されるかが争われている。

 3 原審は,前記事実関係等の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,丙が自己のために乙からの相続が開始したことを知った時をいう。しかしながら,同条は,乙が,自己が甲の相続人であることを知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべきであり,BがAの相続人となったことを知らずに死亡した本件に同条は適用されない。Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間の起算点は,同法915条によって定まる。Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は,被上告人がBからAの相続人としての地位を承継した事実を知った時から起算され,本件相続放棄は熟慮期間内にされたものとして有効である。

 4 しかしながら,民法916条の解釈適用に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

 (1) 相続の承認又は放棄の制度は,相続人に対し,被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく,被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は,相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに当たり,被相続人から相続すべき相続財産につき,積極及び消極の財産の有無,その状況等を調査し,熟慮するための期間である。そして,相続人は,自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ,当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから,民法915条1項本文が熟慮期間の起算点として定める「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,原則として,相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される(最高裁昭和57年(オ)第82号同59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁参照)。

 (2) 民法916条の趣旨は,乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには,乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて,丙の認識に基づき,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。

 再転相続人である丙は,自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって,当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また,丙は,乙からの相続により,甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの,丙自身において,乙が甲の相続人であったことを知らなければ,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が,乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず,丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって,甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。

 以上によれば,民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。

 なお,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について,乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは,同条がその適用がある場面につき,「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したとき」とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである。

 (3) 前記事実関係等によれば,被上告人は,平成27年11月11日の本件送達により,BからAの相続人としての地位を自己が承継した事実を知ったというのであるから,Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は,本件送達の時から起算される。そうすると,平成28年2月5日に申述がされた本件相続放棄は,熟慮期間内にされたものとして有効である。

 5 以上によれば,原審の前記判断には,民法916条の解釈適用を誤った違法がある。しかしながら,本件相続放棄が熟慮期間内にされたものとして有効であるとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 山本庸幸 裁判官 三浦 守 裁判官 草野耕一)

最高裁判所第2小法廷 平成30年(受)第1626号 執行文付与に対する異議事件 令和元年8月9日

 

田原睦夫裁判長不当判決 源泉徴収義務に関する最高裁平成23年

租税判例百選 第7版 117事件 法の不知について納税義務者側を容赦しない不当なもの

岡口マニュアル6版4巻251頁では特に異論なく引用されているが、おかしなものである。

求償金請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成21年(受)第747号

平成23年3月22日

【判示事項】      給与等の支払をする者が判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合における源泉徴収義務の有無

【判決要旨】      所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者が、その支払を命ずる判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合であっても、上記の者は、同法183条1項所定の源泉徴収義務を負う。

            (補足意見がある)

【参照条文】      所得税法6

            所得税法28-1

            所得税法183-1

            民事執行法25

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集65巻2号735頁

            裁判所時報1528号69頁

            判例タイムズ1345号111頁

            金融・商事判例1368号15頁

            判例時報2111号33頁

            金融法務事情1947号113頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      ジュリスト1424号88頁

            ジュリスト1435号122頁

            ジュリスト1440号217頁

            別冊ジュリスト228号220頁

            租税訴訟9号509頁

            法学協会雑誌130巻4号993頁

            法曹時報65巻12号3051頁

            民商法雑誌145巻3号309頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人内野経一郎,同仁平志奈子の上告受理申立て理由(上告受理の申立理由4項〔上告受理申立理由2〕を除く。)について

 1 本件の主位的請求は,上告人らに対する賃金の支払を命ずる仮執行の宣言を付した判決に基づく強制執行において,民事執行法122条2項の規定により弁済を行った被上告人が,所得税法(以下「法」という。)183条1項所定の源泉徴収義務を負う者として,法221条の規定により税務署長から上記賃金に係る源泉徴収すべき所得税(以下「源泉所得税」という。)を徴収されたが,上告人らから上記源泉所得税の徴収をしていなかったと主張して,上告人らに対し,法222条に基づき,上記相当額の各支払を求めるものである。

 原審は,被上告人の主位的請求をいずれも認容すべきものとした。

 2 所論は,本件のように,賃金の支払をする者が,その支払を命ずる判決に基づく強制執行による取立てなどによりその回収を受ける場合には,上記の者は,当該賃金の支払の際に源泉所得税を徴収することができないから,法183条1項所定の源泉徴収義務を負わないと解すべきであるというのである。

 3 法28条1項に規定する給与等(以下「給与等」という。)の支払をする者が,その支払を命ずる判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合であっても,上記の者は,法183条1項所定の源泉徴収義務を負うと解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。

 法183条1項は,給与等の支払をする者は,その支払の際,その給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない旨を定めるところ,給与等の支払をする者が,強制執行によりその回収を受ける場合であっても,それによって,上記の者の給与等の支払債務は消滅するのであるから,それが給与等の支払に当たると解するのが相当であることに加え,同項は,給与等の支払が任意弁済によるのか,強制執行によるのかによって何らの区別も設けていないことからすれば,給与等の支払をする者は,上記の場合であっても,源泉徴収義務を負うものというべきである。上記の場合に,給与等の支払をする者がこれを支払う際に源泉所得税を徴収することができないことは,所論の指摘するとおりであるが,上記の者は,源泉所得税を納付したときには,法222条に基づき,徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を,その徴収をされるべき者に対して請求等することができるのであるから,所論の指摘するところは,上記解釈を左右するものではない。

 4 以上によれば,上告人らに対する賃金の支払を命ずる仮執行の宣言を付した判決に基づく強制執行において,民事執行法122条2項の規定により弁済を行った被上告人が上記賃金に係る源泉所得税の徴収義務を負うとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。

 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。

 法183条1項によれば,給与等の支払義務者は源泉徴収に係る所得税の徴収義務を負うが,それは,給与等を現実に支払うに当たり,「その支払の際」に生じるものである。それゆえ,給与等の支給を受ける者の請求権が確定していても,その支払義務者が実際にその支払をなすまでは,その徴収義務が生じることはない。また,支払義務者が給与等の一部を支払った場合には,給与等の請求権の総額に対する実際の支払額の割合に応じた所得税を源泉徴収した上で,その納税義務を負うことになると解される。

 その理は,法廷意見にて述べるとおり,給与等の支払が任意の手続ではなく,強制執行手続によってなされた場合であっても同様である。もっとも,強制執行手続においては,執行債務者が徴収すべき源泉所得税を徴収する手続は予定されていないから,本件のように給与等の債権者がその債務名義に基づいて民事執行法122条2項により弁済を受ける場合には,源泉徴収されるべき所得税相当額をも含めて強制執行をし,他方,源泉徴収義務者は,強制執行により支払った給与等につき源泉徴収すべき所得税を納付した上で,法222条に基づき求償することになる。

 なお,給与等の債権者による強制執行手続が複数回にわたって行われる場合には,給与等の支払義務者が第1回目の強制執行手続に基づいて支払った給与等に係る所得税の源泉徴収義務は,その支払によって具体的に発生することになるから,同税相当額は,それ以後に支払うべき金額から控除することができる。したがって,給与等の支払義務者は,第1回目の強制執行によって生じた源泉所得税相当額については,第2回目以降の強制執行に対して請求異議事由として主張することができることになる。

(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)

金銭の占有と所有 最高裁昭和39年

民法判例百選Ⅰ 第6版 77事件 第8版 77事件 第9版 73事件

仮差押に対する第三者異議事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和38年(オ)第146号

昭和39年1月24日

【判示事項】      金銭の占有と所有

【判決要旨】      金銭の直接占有者は、特段の事情のないかぎり、金銭の所有者とみるべきものである。

【参照条文】      民法188

            民法192

【掲載誌】       最高裁判所裁判集民事71号331頁

            判例タイムズ160号66頁

            判例時報365号26頁

【評釈論文】      法経論集(静岡大)19号31頁

 

       主   文

 

   本件上告を棄却する。

   上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告人らの上告理由(上告状記載のものを含む)について。

 金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべきであり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によつて取得したか、またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである(昭和二九年一一月五日最高裁判所第二小法廷判決、刑集八巻一一号一六七五頁参照)。

 本件において原判決の認定した事実によると、訴外藤野太一は上告人丹部忠男をだまして一一万円余の交付をうけ、自己が上告人らから依頼されて経営に従事していた判示店舖の売上金六万余円を加えた金一七二、三〇〇円を、自己の銀行預金を払戻した自己の金であるといつて執行吏に提出したというのであるから、一一万円余い上告人丹部忠男から交付をうけたとき、六万余円は着服横領したとき、それぞれ訴外藤野太一の所有に帰し上告人らはその所有権を喪失したものというべきである。これと同趣旨の原判決の判断は正当であつて、これを誤なりとする論旨は理由なく、違憲の主張も前提を欠き採用しえない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

(上告理由省略)

誤振り込みと預金契約 最高裁平成8年

民法判例百選Ⅱ 第7版 70事件 第8版 72事件 第9版 63事件
第三者異議事件 松島先端刑法各論11頁

最高裁判所第2小法廷判決/平成4年(オ)第413号

平成8年4月26日

【判示事項】       振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合における振込みに係る普通預金契約の成否

【判決要旨】       振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、両者の間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立する。

【参照条文】       民法91

             民法666

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集50巻5号1267頁

             最高裁判所裁判集民事179号23頁

             裁判所時報1170号177頁

             判例タイムズ910号80頁

             金融・商事判例995号3頁

             判例時報1567号89頁

             金融法務事情1455号6頁

【評釈論文】       関西大学法学論集47巻3号49頁

             銀行法務21 40巻9号1頁

             銀行法務21 529号38頁

             金融・商事判例999号2頁

             金融・商事判例1001号43頁

             金融法務事情1452号4頁

             金融法務事情1455号6頁

             金融法務事情1455号11頁

             金融法務事情1455号19頁

             金融法務事情1460号11頁

             金融法務事情1461号4頁

             金融法務事情1467号12頁

             ジュリスト臨時増刊1113号73頁

             桐蔭法学5巻2号137頁

             判例タイムズ918号14頁

             判例タイムズ925号95頁

             判例評論456号30頁

             法学教室194号130頁

             法曹時報53巻3号203頁

             法律時報別冊私法判例リマークス15号47頁

             別冊NBL62号71頁

             別冊NBL79号136頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 被上告人の請求を棄却する。

 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人榎本峰夫、同中川潤の上告理由一、二について

 一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

 1 上告人は、株式会社透信(以下「透信」という。)に対する東京法務局所属公証人A成の昭和六三年第二七七号譲渡担保付金銭消費貸借公正証書の執行力のある正本に基づいて、平成元年七月三一日、透信が株式会社富士銀行(以下「富士銀行」という。)に対して有する普通預金債権を差し押さえたが、差押時の同預金債権の残高は五七二万二八九八円とされていた。

 2 被上告人は、株式会社東辰(以下「東辰」という。)から、東京都大田区所在の建物の一部を賃料一箇月四六七万〇一三〇円で賃借し、毎月末日に翌月分賃料を東辰の株式会社第一勧業銀行大森支店の当座預金口座に振り込んで支払っていた。また、被上告人は、透信から通信用紙等を購入し、その代金を透信の富士銀行上野支店の普通預金口座に振り込む方法で支払っていたことがあったが、昭和六二年一月の支払を最後に取引はなく、債務もなかった。右普通預金口座は、透信と富士銀行との間の普通預金取引契約によるものであるところ、右契約の内容となる普通預金規定には、振込みに関しては、これを預金口座に受け入れるという趣旨の定めだけが置かれていた。

 3 被上告人は、東辰に対し、平成元年五月分の賃料、光熱費等の合計五五八万三〇三〇円を支払うため、同年四月二八日、富士銀行大森支店に右同額の金員の振込依頼をしたが、誤って、振込先を富士銀行上野支店の前記透信の普通預金口座と指定したため、同口座に右五五八万三〇三〇円の入金記帳がされた(以下「本件振込み」という。)。上告人が差し押さえた透信の普通預金債権の残高五七二万二八九八円のうち五五八万三〇三〇円(以下「本件預金債権」という。)は、本件振込みに係るものである。

 二 被上告人の本件請求は、上告人の強制執行のうち本件預金債権に対する部分につき、第三者異議の訴えによりその排除を求めるものであるが、原審は、右事実関係の下に、次のとおり判示して、被上告人の請求を認容した。

 1 振込金について銀行が受取人として指定された者(以下「受取人」という。)の預金口座に入金記帳することにより受取人の預金債権が成立するのは、受取人と銀行との間で締結されている預金契約に基づくものであるところ、振込みが振込依頼人と受取人との原因関係を決済するための支払手段であることにかんがみると、振込金による預金債権が有効に成立するためには、特段の定めがない限り、基本的には受取人と振込依頼人との間において当該振込金を受け取る正当な原因関係が存在することを要すると解される。ところが、本件振込みは、明白で形式的な手違いによる誤振込みであるから、他に特別の事情の認められない本件においては、透信の富士銀行に対する本件預金債権は成立していないというべきである。

 2 そうすると、本件振込みに係る金員の価値は、実質的には被上告人に帰属しているものというべきであるのに、外観上存在する本件預金債権に対する差押えにより、これがあたかも透信の責任財産を構成するかのように取り扱われる結果となっているのであるから、被上告人は、右金銭価値の実質的帰属者たる地位に基づき、本件預金債権に対する差押えの排除を求めることができると解すべきである。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 1 振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当である。けだし、前記普通預金規定には、振込みがあった場合にはこれを預金口座に受け入れるという趣旨の定めがあるだけで、受取人と銀行との間の普通預金契約の成否を振込依頼人と受取人との間の振込みの原因となる法律関係の有無に懸からせていることをうかがわせる定めは置かれていないし、振込みは、銀行間及び銀行店舗間の送金手続を通して安全、安価、迅速に資金を移動する手段であって、多数かつ多額の資金移動を円滑に処理するため、その仲介に当たる銀行が各資金移動の原因となる法律関係の存否、内容等を関知することなくこれを遂行する仕組みが採られているからである。

 2 また、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しないにかかわらず、振込みによって受取人が振込金額相当の預金債権を取得したときは、振込依頼人は、受取人に対し、右同額の不当利得返還請求権を有することがあるにとどまり、右預金債権の譲渡を妨げる権利を取得するわけではないから、受取人の債権者がした右預金債権に対する強制執行の不許を求めることはできないというべきである。

 3 これを本件についてみるに、前記事実関係の下では、送信は、富士銀行に対し、本件振込みに係る普通預金債権を取得したものというべきである。そして、振込依頼人である被上告人と受取人である透信との間に本件振込みの原因となる法律関係は何ら存在しなかったとしても、被上告人は、透信に対し、右同額の不当利得返還請求権を取得し得るにとどまり、本件預金債権の譲渡を妨げる権利を有するとはいえないから、本件預金債権に対してされた強制執行の不許を求めることはできない。

 四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に判示したところによれば、被上告人の本件請求は理由がないから、右請求を認容した第一審判決を取り消し、これを棄却すべきものである。

 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

         裁判長裁判官  河合伸一

            裁判官  大西勝也

            裁判官  根岸重治

            裁判官  福田 博

動産売買先取特権の物上代位 最高裁平成10年

民法判例百選Ⅰ 第6版 81事件 第8版 81事件

債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件

最高裁判所第3小法廷決定/平成10年(許)第4号

平成10年12月18日

【判示事項】      一 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することの可否

            二 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権の一部に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるとされた事例

【判決要旨】      一 請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる。

            二 甲から機械の設置工事を請け負った乙が右機械を代金1575万円で丙から買い受け、丙が乙の指示に基づいて右機械を甲に引き渡し、甲が乙に支払うべき2080万円の請負代金のうち1740万円は右機械の代金に相当するなど判示の事実関係の下においては、乙の甲に対する1740万円の請負代金債権につき右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、丙は、動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができる。

【参照条文】      民法304

            民法322

            民法632

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集52巻9号2024頁

            最高裁判所裁判集民事190号1073頁

            裁判所時報1234号12頁

            判例タイムズ992号90頁

            判例タイムズ1103号196頁

            金融・商事判例1061号8頁

            判例時報1663号107頁

            金融法務事情1540号47頁

【評釈論文】      行政社会論集12巻4号234頁

            金融法務事情1552号35頁

            金融法務事情1556号53頁

            ジュリスト1153号115頁

            別冊ジュリスト159号176頁

            判例タイムズ999号85頁

            判例タイムズ1004号72頁

            判例タイムズ臨時増刊1036号58頁

            法学教室226号128頁

            法学教室234号別冊付録15頁

            法律時報別冊私法判例リマークス20号30頁

            北大法学論集52巻5号335頁

            NBL668号10頁

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 抗告費用は抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

 抗告人の抗告理由について

 動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(民法三〇四条)。これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。

 これを本件について見ると、記録によれば、破産者エヤー・工販株式会社は、申立外松下電子部品株式会社からターボコンプレッサー(TX―二一〇キロワット型)の設置工事を代金二〇八〇万円で請け負い、右債務の履行のために代金一五七五万円で右機械を相手方に発注し、相手方は破産会社の指示に基づいて右機械を申立外会社に引き渡したものであり、また、右工事の見積書によれば、二〇八〇万円の請負代金のうち一七四〇万円は右機械の代金に相当することが明らかである。右の事実関係の下においては、右の請負代金債権を相手方が破産会社に売り渡した右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、申立外会社が仮差押命令の第三債務者として右一七四〇万円の一部に相当する一五七五万円を供託したことによって破産会社が取得した供託金還付請求権が相手方の動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となるとした原審の判断は、正当として是認することができる。右判断は、所論引用の大審院大正二年(オ)第四五号同年七月五日判決・民録一九輯六〇九頁に抵触するものではない。原決定に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

  平成一〇年一二月一八日

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官  園部逸夫

            裁判官  千種秀夫

            裁判官  尾崎行信

            裁判官  元原利文

            裁判官  金谷利廣

 

(参照 抗告許可決定)

         許可決定

 申立人は、当庁平成10年(ラ)第463号債権差押及び転付命令に対する執行抗告事

件について、当裁判所が平成10年7月6日にした決定に対し、抗告許可の申立て

をした。申立ての理由によれば、右決定について、民事訴訟法337条所定の事項を

含むと認められる。

 よって、当裁判所は次のとおり決定する。

     抗告を許可する。

       (平成10年9月10日 大阪高等裁判所第11民事部)

 

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