岡本法律事務所のブログ

カテゴリ: 憲法

このブログは、岡本法律事務所(岡山市)の所長岡本哲(おかもとてつ) 岡山弁護士会の個人的見解などを
日々書き綴るものです。ロータリアンでもあるのでロータリークラブ関連の話題もあります。

  法律関連の話題が中心になりますが、趣味に関するかるい話題もまじえていきたいと思います。

 岡本法律事務所は1965年に先代岡本貴夫が開設した事務所です。

 民事全般(商事・民事介入暴力対策を含む)・刑事全般(暴力団員の私選弁護はいたしません)・行政訴訟を扱っています。

 勝訴での判例集搭載判例あり、無罪獲得複数あり、税務異議認容例あり、となっています。


 2015年で50周年をむかえました。

 岡山市北区にあります。

 所長 弁護士 岡本哲

 
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2019年3月24日現在では弁護士3名でやっております。

450万円余の法人税脱税事件で懲役4月執行猶予2年の昭和42年高松地裁判決

 

物価が10倍くらいとして4500万円のだつぜいで懲役4月ということは令和ならないでしょう。昔は脱税の量刑が軽かった例です。

 

法人税法違反被告事件

【事件番号】 高松地方裁判所判決/昭和41年(わ)第301号

【判決日付】 昭和42年3月7日

【掲載誌】  税務訴訟資料54号133頁

 右被告人らに対する法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官山田十雄出席のもとに審理し、次のとおり判決する。

        主   文

  被告A株式会社を罰金百万円に、被告人Bを懲役四月に各処する。

  但し被告人Bに対しこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

        理   由

 

 (罪となるべき事実)

  被告会社は高松市<以下略>の一五に本店を設け、土木建築請負業、石材採掘販売等を営業目的とする資本金二、〇〇〇万円(昭和三八年九月末の資本金三〇〇万円)の同族会社である株式会社であり、被告人Bは右会社の代表取締役として同会社の一切の業務を統轄主宰しているものであるが、同被告人は右会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもつて労務費、燃料費等の架空経費を計上して、収益の一部を正規経理より除外し、架空人名義等で銀行に預金をなし、またはこれら預金の利息を脱洩する等の不正の方法により、右会社の昭和三七年一〇月一日から昭和三八年九月三〇日迄の事業年度における実際の所得は一八、二六三、五四六円であつたのにかかわらず、同年一一月三〇日所轄高松税務署長に対し、所得は六、四〇〇、五四一円である旨の虚偽の所得申告をなし、もつて同会社の右事業年度の法人税四、五〇六、七二〇円を逋脱したものである。

 (証拠の標目)

 一、被告人Bの当公廷の供述

 一、証人C、Dの当公廷の各供述

 一、E、D、Bの検察官に対する各供述調書

 一、B(五通)、D(昭和四〇年二月一六日付)の高松国税局収税官吏に対する各質問てん末書

 一、登記官F作成の被告会社の登記簿謄本

 一、昭和三七年六月一八日付被告会社の臨時株主総会議事録

 (適条)

  被告会社並に被告人Bの所為はいずれも判示行為時における法人税法第四八条第一項、第五一条第一項に該当するので被告会社に対してはその所定罰金額の範囲内で、また被告人Bに対しては所定刑中懲役刑を選択しその所定刑期の範囲内で夫々主文第一項掲記のとおり量刑処断し、被告人Bに対しては情状刑の執行猶予を相当と認め、刑法第二五条第一項によりこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとして主文のとおり判決する。

   昭和四二年三月七日

     高松地方裁判所

            裁判官  谷 弓雄

 

『営利目的』が共犯に連帯しないとした最高裁昭和42年判決

刑法判例百選1第7版・有斐閣・2014年・91事件

昭和40年代から採用されつづけている超有名判例です。百選では65条2項つかう意味があるのかと疑問を呈せられています。

田中二郎判事がはいっていますね。行政追従がちがちかとおもっていましたが、ここでは行政についていませんね。

 

租税訴訟関係では逋脱犯は確定的故意のみが処罰されるべきという感覚がありますが、さて確定的故意については65条2項の対象となるのでしょうか。

 

麻薬取締法違反被告事件

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和41年(あ)第1651号

【判決日付】 昭和42年3月7日

【判示事項】 麻薬取締法第64条の規定は刑法第65条第2項にいう「身分ニ因リ特ニ刑ノ軽重アルトキ」に当るか

【判決要旨】 麻薬取締法第64条の規定は、刑法第65条第2項にいう「身分ニ因リ特ニ刑ノ軽重アルトキ」に当る。

【参照条文】 麻薬取締法64

       刑法65

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集21巻2号417頁

       最高裁判所裁判集刑事162号681頁

       裁判所時報469号1頁

       判例タイムズ204号144頁

       判例時報474号5頁

       刑事裁判資料222号180頁

 

【評釈論文】 警察研究39巻8号127頁

       研修227号79頁

       研修228号49頁

       研修410号35頁

       別冊ジュリスト57号194頁

       別冊ジュリスト82号178頁

       別冊ジュリスト111号184頁

       法学研究(慶応大)43巻5号109頁

       法曹時報19巻6号174頁

 

       主   文

  原判決および第一審判決中被告人に関する部分を破棄する。

  被告人を懲役八年に処する。

  第一審における未決勾留日数中二〇〇日および原審における未決勾留日数中五〇日を、本刑に算入する。

  押収してあるビニール袋入り麻薬二袋(原審昭和四一年押第一三四号の三)を没収する。

 

        理   由

  被告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、上告適法の理由に当らない。

  弁護人大河内躬恒の上告趣意第一点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第二点は、量刑不当の主張であつて、いずれも上告適法の理由に当らない。

 職権によつて調査するに、麻薬取締法六四条一項は、同法一二条一項の規定に違反して麻薬を輸入した者は一年以上の有期懲役に処する旨規定し、同法六四条二項は、営利の目的で前項の違反行為をした者は無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び五百万円以下の罰金に処する旨規定している。これによつてみると、同条は、同じように同法一二条一項の規定に違反して麻薬を輸入した者に対しても、犯人が営利の目的をもつていたか否かという犯人の特殊な状態の差異によつて、各犯人に科すべき刑に軽重の区別をしているものであつて、刑法六五条二項にいう「身分ニ因リ特ニ刑ノ軽重アルトキ」に当るものと解するのが相当である。そうすると、営利の目的をもつ者ともたない者とが、共同して麻薬取締法一二条一項の規定に違反して麻薬を輸入した場合には、刑法六五条二項により、営利の目的をもつ者に対しては麻薬取締法六四条二項の刑を、営利の目的をもたない者に対しては同条一項の刑を科すべきものといわなければならない。

 しかるに原判決およびその是認する第一審判決は、共犯者であるAか営利の目的をもつているものであることを知つていただけで、みずからは営利の目的をもつていなかつた被告人に対して、同条二項の罪の成立を認め、同条項の刑を科しているのであるから、右判決には同条および刑法六五条二項の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすものであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条但書により、原判決および第一審判決中被告人に関する部分を破棄し、当裁判所においてさらに判決することとする。

 第一審判決がその挙示の証拠によつて確定した被告人の所為(ただし、被告人に営利の目的があつたとの部分を除く。)は、麻薬取締法六四条一項、一二条一項、刑法六〇条に該当するので、所定刑期の範囲内で、被告人を懲役八年に処し、刑法二一条により、第一審における未決勾留日数中二〇〇日および原審こおける未決勾留日数中五〇日を本刑に算入し、麻薬取締法六八条本文により、押収してあるビニール袋入り麻薬二袋(原審昭和四一年押第一三四号の三)を没収し、訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書により負担させないこととする。

  よつて、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  検察官 神谷尚男公判出席

   昭和四二年三月七日

      最高裁判所第三小法廷

          裁判長裁判官    下   村   三   郎

             裁判官    柏   原   語   六

             裁判官    田   中   二   郎

             裁判官    松   本   正   雄

遺産分割協議の無効を確認する判決が確定でも国税通則法23条2項1号に該当で更正請求をできないとした最高裁平成15年判決

裁判集判決ですが、判例雑誌にはいろいろと掲載されていて評釈もおおいものです。

 

平成23年国税犯則法改正後、2019年の納税者保護の感覚からはこの結論は疑問ですし、裁判集レベルの判決として先例拘束性を認めなくていいように思われます。

 

金子宏『租税法・18版』弘文堂・2013年には参照判例として脚注のなかで小さくあつかわれています。

 

処分取消請求事件

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/平成13年(行ヒ)第230号

【判決日付】 平成15年4月25日

 

【判示事項】 相続税申告の基礎となった遺産分割協議の無効を確認する判決が確定したことが国税通則法二三条二項一号に該当することを理由として更正の請求をすることはできないとされた事例

 

【判決要旨】 通謀虚偽表示により遺産分割協議が成立した外形を作出し、これに基づいて相続税の申告を行った後、遺産分割協議の無効を確認する判決が確定したという事実関係の下においては、当該判決の確定が国税通則法二三条二項一号に該当することを理由として更正の請求をすることはできない。

【参照条文】 国税通則法23-1

       国税通則法23-2

       民法94

       民法907-1

【掲載誌】  訟務月報50巻7号2221頁

       最高裁判所裁判集民事209号689頁

       裁判所時報1338号147頁

       判例タイムズ1121号110頁

       金融・商事判例1180号25頁

       判例時報1822号51頁

 

       税務訴訟資料253号順号9333

【評釈論文】 ジュリスト1266号208頁

       訟務月報50巻7号259頁

       税法学550号127頁

       税務事例37巻3号1頁

       判例時報1873号172頁

       判例タイムズ臨時増刊1154号246頁

       民商法雑誌130巻1号142頁

       主   文

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

        理   由

  上告代理人河津和明、同鹿瀬島正剛の上告受理申立て理由について

 1 本件は、上告人が、亡父の相続に関して遺産分割協議に基づき相続税の申告をした後、他の相続人から遺産分割協議無効確認の訴えを提起され、同訴訟において、上記遺産分割協議が通謀虚偽表示により無効である旨の判決が確定したのを受けて、国税通則法(以下「法」という。)二三条二項一号に基づき更正の請求をしたところ、更正をすべき理由がない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、被上告人に対し、本件処分の取消しを求めている事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

   (1) 昭和六〇年一〇月二六日に死亡した亡甲野次郎の相続人は、その妻及びその子である上告人外三人である(以下、これらの相続人五人を一括して「本件相続人ら」といい、上告人以外の相続人を「他の相続人ら」という。)。

   (2) 本件相続人らの間において、昭和六一年四月二一日ころ、亡次郎の遺産について遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)が成立した。

   (3) 上告人は、被上告人に対し、法定申告期限内である昭和六一年四月二五日、本件遺産分割協議に基づき、課税価格を三億六八三八万五〇〇〇円、納付すべき税額を一億六七六一万三五〇〇円とする相続税の申告をし、さらに、同年七月三日、課税価格を三億六八三八万五〇〇〇円、納付すべき税額を一億六七九六万二七〇〇円とする修正申告をした(以下、併せて「本件申告」という。)。

   (4) 他の相続人らは、昭和六二年九月四日、本件遺産分割協議が通謀虚偽表示により無効であると主張し、上告人に対し本件遺産分割協議の無効確認を請求する訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。別件訴訟について、控訴審は、平成八年一〇月二四日、本件相続人らは、上告人の主導の下に、配偶者に対する相続税額軽減規定の適用による利益を最大限に受けるべく、相続税の申告期限内に遺産分割が成立したことにするために、通謀の上、仮装の合意として本件遺産分割協議を成立させたと認定して、他の相続人らの請求を認容する判決をし、同九年三月一三日、これが確定した。

   (5) 上告人は、平成九年四月一四日、被上告人に対し、別件訴訟の判決確定により亡次郎の遺産は未分割の状態にあり、法定相続分により計算した相続税を超える額について、本件申告に係る課税価格及び納付すべき税額が過大になったとして、法二三条二項一号に基づき、課税価格を九七五一万六〇〇〇円、納付すべき税額を四四一五万四三〇〇円とする更正の請求をした。これに対し、被上告人は、同年六月三〇日付けで、本件処分をした。

  3 上記事実関係によれば、上告人は、自らの主導の下に、通謀虚偽表示により本件遺産分割協議が成立した外形を作出し、これに基づいて本件申告を行った後、本件遺産分割協議の無効を確認する判決が確定したとして更正の請求をしたというのである。そうすると、上告人が、法二三条一項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由があるとはいえないから、同条二項一号により更正の請求をすることは許されないと解するのが相当である。したがって、本件処分は適法というべきであり、これと同旨の原審の判断は是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官・梶谷 玄、裁判官・福田 博、裁判官・北川弘治、裁判官・亀山継夫、裁判官・滝井繁男)

 

1億円余の損害について200万円の弁済を申し述べていれば貸倒損失を認めなかった東京高裁平成21年判決

 

 特に重加算税については2019年段階からは憲法31条違反といえよう。

 

平成30年の通達変更の解釈次第では部分貸倒を認めるべきだろうし、そもそも損害は訴訟物1つ1つではなく、各犯罪ごとであり200万円をのぞいた部分は全部貸倒として評価しえたように思料される。判例秘書なので上告等されたかどうかは不明。

法人税更正処分取消等請求控訴事件

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成20年(行コ)第116号

 

【判決日付】 平成21年2月18日

【判示事項】 被控訴人のした法人税の確定申告に対し,浦和税務署長がした更正処分及び重加算税賦課決定処分は違法であるとして,被控訴人がその取消を求めた事案について,被控訴人の経理部長であったAの詐取行為により被控訴人が受けた損害額を損金に計上すると同時に,Aに対する損害賠償請求権を当該事業年度の益金に計上すべきであるとの扱いをした本件各処分は適法であるとして,被控訴人の請求を認容した原判決を取り消し,その請求を棄却した事例

【掲載誌】  訟務月報56巻5号1644頁

       税務訴訟資料259号順号11144

       LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】 TKC税研情報18巻6号26頁

       税法学564号197頁

       名城法学論集大学院研究年報38号93頁

       主   文

  1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

  3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

        事実及び理由

 第1 控訴の趣旨

    主文同旨

 第2 事案の概要

  1 被控訴人の経理部長は,被控訴人の金員を詐取し,これを隠ぺいするため外注費が生じたように装ったため,被控訴人の平成12年10月1日から平成13年9月30日までの事業年度及び平成14年10月1日から平成15年9月30日までの事業年度の各法人税の確定申告には,架空外注費が損金として計上されていた。

    浦和税務署長は,上記各事業年度について,架空外注費の損金計上を理由として,被控訴人に対し,平成16年10月19日付けで法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした(ただし,平成14年10月1日から平成15年9月30日までの事業年度については,平成17年4月14日付けで減額の更正処分がされている。)。

    本件は,被控訴人が,架空外注費の額はこれを計上した事業年度の損金額から控除され,詐取された架空外注費に相当する損害の額は同事業年度の損金の額に算入されるが,金員を詐取した者に対する損害賠償請求権の額は,同事業年度の益金の額に算入する必要がないので,上記各処分は違法であると主張して,更正処分については確定申告に係る金額を超える部分の取消しを,賦課決定処分についてはその金額全部の取消しを求めるのに対し,控訴人が,詐取した者に対する損害賠償請求権の額は,詐取された架空外注費に相当する損害の額を損金の額に算入する事業年度と同じ事業年度の益金の額に算入すべきであると主張して,被控訴人の請求を争う事案である。

    原判決は,被控訴人の請求を認容したので,控訴人が控訴をした。

  2 本件における前提となる事実,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の適法性に関する控訴人の主張並びに争点及び当事者の主張は,下記3に当事者の当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1項ないし3項(原判決2頁19行目から同8頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

  3 当事者の当審における主張

   (1) 控訴人

    ア 法人が従業員から資産を詐取され,そのことが後に発覚した場合,この詐取行為に係る損失及び利益は,法人税法上,当該詐取行為が発生(又は実現)した各事業年度に遡って修正処理することとなる。

      そうすると,法人が従業員から資産を詐取され,これが架空外注費として経理処理されていた場合,架空外注費は,法人税法22条3項に規定する損金の額に該当しないので,当該架空外注費の金額が損金の額から減額される。また,法人が従業員から資産を詐取されて損失を被っているので,同項3号により,損失額を損金の額に算入する。同時に,法人は,当該従業員に対し損失額と同額の損害賠償請求権を取得することになるので,同条2項により,損害賠償請求権の額を益金の額に算入することとなる。

      ところで,収益については,その収入すべき権利が確定した時に属する年度の益金に計上すべきであるという権利確定主義が採用されているが,権利の確定は,権利の発生と同一ではなく,権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性が増大したことを客観的に認識することができるようになった時を意味するところ,法人資産の詐欺,横領等の場合には,不法行為時に法人資産が外部に流失し,それと同時に不法行為者に対し直ちに履行を請求し得る損害賠償請求権が取得されるのであるから,損害賠償請求権の権利の確定があったということができる。

      なお,不法行為者の資力の有無は,損害賠償請求権の確定とは関係がなく,これは貸倒損失として損金処理するかどうかの問題である。

    イ なお,法人税基本通達2-1-43は,「他の者から支払を受ける損害賠償金(かっこ内省略)の額は,その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが,法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には,これを認める。」と規定している。これは,不法行為等によって生ずる損害賠償請求権の場合,そもそも相手方に損害賠償責任があるかどうかについて当事者間に争いのある場合が少なくなく,また,仮に相手方に損害賠償責任があることが明確であるとしても,損害賠償請求権の具体的な金額については,当事者の合意又は訴訟等の結果を待たなければ確定しない場合が多いことから,そのような場合には,詐取行為による損害に係る損失の計上と同時に,これに対応する損害賠償請求権を益金に計上することの例外として,支払を受けることが確定した日の属する事業年度の益金に算入することを確認的に明らかにし,また,法人がその損害賠償請求権の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には,これを認めることとしたものである。

      そして,法人の経理において売上げ除外や架空経費計上が行われた場合,それが法人の脱税行為なのか個人が横領行為等を隠ぺいするための経理処理をしたものなのか判別困難であるから,税務行政の遂行に困難を来したり,収益計上時期の恣意的な操作を許して課税の公平を維持できないといった重大な弊害を防止するため,当該法人の役員又は使用人に対する損害賠償請求権については,上記基本通達の範囲外としているのである。

      本件は,Aが被控訴人の経理部長という立場を利用して被控訴人の金員を詐取したものであるから,上記通達が適用される場合には該当しないのである。

   (2) 被控訴人

    ア 法人税の課税対象は,法人の所得であるが,これは課税対象としての適格性(担税力の有無を考慮し,無理のない相当性のある所得かどうかの判定)が要件とされる。したがって,収益の帰属年度は,実現可能性の高い時点及び納税資金に困らない無理のない時点の観点から判断されるべきである。

      そうすると,法人税法上,収益は,確実性,客観性,経済的利益に加え,担税力があること,当該利益に現実的な処分可能性があることなどが計上の要件となる。

      詐欺等の犯罪行為によって法人が被った損害の賠償請求権は,加害行為が秘密裏に行われたり,被害法人が損害発生や加害者を知らないことが多いので,民法上権利が発生しても,これを直ちに行使することは事実上困難であり,また,犯罪行為を原因とする損害賠償請求権は,一般的に履行可能性が低いのであるから,加害行為の発生により直ちに処分可能性のある経済的利益を客観的かつ確実に取得したとはいえないものである。

      そうすると,法人が取得する上記の損害賠償請求権の額は,被害額を損金計上した事業年度の益金に算入することは相当ではなく,万一損害が回収された場合に,その事業年度の益金に算入することで足りるというべきである。

    イ Aは,若干の資産は有していたが,約8000万円の債務超過状態であって,被控訴人から資産を詐取することによって,かろうじて破産を回避していたのである。したがって,損害発生と同一事業年度中に損害を回復させることは事実上不可能であった。

      そうすると,Aに対する損害賠償請求権の額は,本件各事業年度の益金の額に算入する必要はなく,万一回収された場合にその事業年度に収益計上するのが社会通念にも合致する。

 第3 当裁判所の判断

  1 当裁判所は,被控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,下記2以下のとおりである。

  2 本件各賦課決定処分に至る経緯

    前記前提となる事実,関係証拠(甲10の2ないし7,甲13,乙19及び関係箇所に掲記の各証拠),弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実が認められる。

   (1) 被控訴人及びAについて

   ア 被控訴人は,親族であるB,C,Dが株式を保有し,Bが代表取締役に,C,D等が取締役に就任していた資本金5000万円の同族会社であり,ビル総合清掃業務等を業としていた(甲1の1,2,乙1,12)。

    イ Aは,幾つかの会社でいずれも経理関係の仕事に従事していたが,平成3年12月30日から平成5年12月10日までの間に,当時勤務していたE株式会社(以下「E」という。)から,同社の金員5064万1700円を横領し,同社に同額の損害を与えたため,平成5年12月ころ懲戒解雇された(甲10の1)。そして,Aは,平成6年2月26日,Eとの間で,上記損害金5064万1700円を平成6年2月から平成11年1月までの間に分割して支払う旨約した(甲7)。

    ウ Aは,上記懲戒解雇後,他1社の勤務を経て,平成9年4月,被控訴人に入社した(甲10の1)。

   (2) Aの職務(甲3,甲10の3)

    ア Aは,被控訴人に入社と同時に経理課長に就任し,平成11年5月,経理部長に就任した。

      Aは,被控訴人の経理業務の責任者として総勘定元帳作成の基礎となる実務上の処理一切を行い,特に,外注費の支出書類の作成及びその支払手続業務を一任されていた。

    イ Aが行っていた外注費の支出書類の作成及びその支払手続は,次のようなものであった。

     (ア) 被控訴人が外注先から外注取引に係る請求書を受領すると,被控訴人の営業部においてその内容を確認し,確認済みの請求書をAに回す。

     (イ) Aは,外注費が毎月末ころ支払われるため,その支払準備として,毎月,上記請求書の金額及び外注内容を支払明細表の用紙に記載して,当該月の支払明細表(乙7)を作成する。

     (ウ) Aは,被控訴人の取引銀行(F銀行G支店,後のH銀行G支店)の預金口座(以下,上記取引銀行を「本件取引銀行」,上記預金口座を「本件預金口座」という。)から金員が引き出されて各外注先の金融機関の口座に外注費が振り込まれるため,支払明細表に基づき,本件取引銀行に対し外注先の金融機関の口座に外注費を振り込むことを依頼する旨の振込依頼書を作成する。そして,当該月に支払われるべき外注費の総額を算出して,本件取引銀行あての払戻請求書に上記外注費総額を記載し,さらに,上記手続のまとめとして,振込依頼書の枚数と外注費の合計額を記載したメモを作成する。

     (エ) Aは,払戻請求書,振込依頼書及び上記メモを,被控訴人の専務取締役であるC(以下「C専務」という。)に回し,C専務の決裁を受ける。C専務は,決裁をすると,同専務が保管する銀行届出印により,払戻請求書に押印し,これをAに交付する。

     (オ) Aは,押印済みの払戻請求書と振込依頼書を本件取引銀行に持参し,本件預金口座から払戻請求書の金額を払い戻してこれを振込依頼書に記載された各外注先の金融機関の口座に振り込むよう依頼する。そして,上記手続が完了すると,本件取引銀行から,振込領収書(振込完了のお知らせ)を受領し,これを被控訴人に提出する。

       なお,振込依頼書(乙9)は,1部に15箇所への振込依頼を記載するものであるが,多いときはこれが1回で10部くらいになり,払戻請求金額は,多いときは1回で8000万円くらいになっていた。

     (カ) Aは,上記振込手続が完了すると,被控訴人の確定申告の事務を受託していた税理士事務所に支払明細表を交付したり,ファックス送信し,同税理士事務所がこの支払明細表に基づき,被控訴人の外注費に係る総勘定元帳を作成し,それらに基づき被控訴人のため法人税の確定申告をしていた。

   (3) Aの本件詐取行為(甲3,10の2ないし7,12,乙9,10,19)

    ア Aは,借金の返済などに窮したため,被控訴人への入社から間もない平成9年9月から平成16年3月までの間,架空外注費を計上する方法で,被控訴人から総額約1億8815万0475円を詐取した。その方法は,次のとおりであった。

     (ア) Aは,正規の振込依頼書とは別に,Aが管理する株式会社I銀行(後の株式会社J銀行)K支店のL名義の普通預金口座(以下「A預金口座」という。)を振込先とし,虚偽の金額を記入した架空振込依頼書を作成する。

     (イ) Aは,払戻請求書の払戻額の欄に,正規の振込依頼書の金額の合計額に架空振込依頼書の金額を上乗せした虚偽の金額を記載し,また,メモにも同じ虚偽の金額を記載した上で,C専務に対し,上記虚偽の金額を記載した払戻請求書,正規の振込依頼書,虚偽の金額を記載したメモを提出し,架空振込依頼書の金額の外注費が生じているように装って,その旨C専務を欺罔した(なお,正規の振込依頼書の合計金額は,払戻請求書及びメモの金額とは合致しない。)。C専務は,メモの金額と払戻請求書の金額を確認するだけで,正規の振込依頼書の合計金額を確認しなかったため,架空振込依頼書の金額についても,外注費が生じていているものと誤信し,払戻請求書に銀行届出印を押印し,各振込先への支払を決裁した。

     (ウ) Aは,本件取引銀行に対し,被控訴人の銀行届出印が押印された払戻請求書,正規の振込依頼書及び架空振込依頼書を提出して,本件預金口座から払戻請求書の金額を払い戻してこれを正規の振込依頼書及び架空振込依頼書に記載された金融機関の口座にこれらに記載された金額に分けて振り込むよう依頼した。その結果,架空振込依頼書に記載された金額がA銀行口座に振り込まれた。本件取引銀行は,上記手続完了後,振込領収書(振込完了のお知らせ)を交付したが,Aは,架空振込の部分は破棄し,その部分は被控訴人に提出しなかった。

     (エ) Aは,上記(ウ)の手続の後,支払明細表に,架空の業務内容及び架空振込依頼書の振込金額を追加して記載し,これを被控訴人の確定申告の事務を受託していた税理士事務所に提出した。税理士事務所は,支払明細表の払戻金額及び支払金額を本件預金口座の通帳で確認した上(請求書の合計金額と払戻金額及び支払金額との照合は行わなかった。),支払明細表に記載された金額を外注費と消費税に区分し,これを基に被控訴人の総勘定元帳を作成した。そして,それらに基づき本件各事業年度につき法人税の確定申告をした。

    イ Aが平成13年9月期に詐取した金額は,別紙「平成13年9月期の納付すべき法人税額」の「外注費の架空計上額」欄に記載された金額のとおりであり,平成15年9月期に詐取した金額は,別紙「平成15年9月期の納付すべき法人税額」の「外注費の架空計上額」欄に記載された金額のとおりである。

    ウ Aは,A銀行口座に入金された金員をすべて領得し,これを費消した(甲8の1ないし4,甲9)。

   (4) 本件詐取行為の発覚等

    ア 浦和税務署長は,平成16年4月14日,被控訴人に対する税務調査を行ったところ,平成9年9月期から平成15年9月期までの各事業年度において,架空外注費が計上されていることが発覚した。

      そこで,浦和税務署長は,平成16年10月19日,平成9年9月期から平成15年9月期まで(平成11年9月期を除く)の6事業年度について,法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。なお,その後浦和税務署長は,売上げの過大計上額を認定し,平成17年4月14日付けで,平成14年9月期について被控訴人の申告額を下回る更正処分をし,平成15年9月期について税額を一部減額する更正処分及び賦課決定処分をした。

    イ 被控訴人は,本件各更正処分がされる以前である平成16年5月13日,架空外注費の損金計上はAの詐欺行為によるものであるとして,Aを懲戒解雇するとともに,同年7月30日,Aを詐欺罪等で告訴した(乙4,5)。

    ウ 被控訴人は,同じく本件各更正処分がされる以前である平成16年9月7日,さいたま地方裁判所に対し,Aに対する損害賠償請求訴訟を提起し(甲12),同裁判所は,同年10月27日,Aに対し,1億8815万0475円及びこれに対する平成16年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を被控訴人に支払うよう命ずる判決を言い渡し,同判決は確定した(乙3)。

    エ Aは,平成16年11月25日,詐欺罪で起訴され,平成17年6月8日,○の実刑判決を受け,同判決は確定した(乙2)。

   (5) 本件詐取行為当時のAの経済状況

    ア Aは,本件詐取行為による損害賠償債務を負うものである。また,Aは,本件各事業年度当時,上記損害賠償債務以外に,上記(1)イのEに対する残債務(平成16年4月時点で約4800万円(甲7)),住宅ローン残債務(平成16年11月時点で約4200万円(甲10の2)),相当額のカードローン債務を負っていたが,これらの分割返済(E月額5万円,住宅ローン月額約16万円)を怠ることはなく,被控訴人から月額にして30万円を超える給与を得ていたほか,平成6年7月19日に約5000万円で購入した自宅マンション(住宅ローンの担保権が設定されている。甲11。)を所有し,平成13年9月期終了当時で400万5101円,平成15年9月期終了当時で460万4181円の銀行預金を有し(争いがない。),自家用車(少なくとも1台。時価約200万円相当)を所有していた(甲10の1,2)。

    イ Aは,本件詐取行為に係る刑事裁判の際,被控訴人に対し,上記自家用車1台を売却して,200万円の弁償を申し出たが,被控訴人は,この受領を拒絶した(争いがない。)。

  3 損害賠償請求権の計上時期について

  (1)ア まず本件詐取行為に係る架空外注費は,外注費として被控訴人が支出したものではなく,法人税法22条3項に規定する損金の額に該当しないので,架空外注費相当額が詐取された事業年度の損金の額から減額され,他方,被控訴人は,架空外注費相当額を詐取されているので,同項3号により,これを詐取された事業年度の損金の額に算入することとなる(なお,後記イのように,詐取された架空外注費相当額の損失を詐取された事業年度の損金に算入することは問題がない。)。

    イ 問題は,本件詐取行為により被控訴人が取得した損害賠償請求権(以下これを「本件損害賠償請求権」という。)をどの事業年度の益金に計上すべきかという点である。

      ところで,法人税法上,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(法人税法22条2項),当該事業年度の収益の額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条4項)。したがって,ある収益をどの事業年度に計上すべきかは,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり,これによれば,収益は,その実現があった時,すなわち,その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものというべきである(権利確定主義。最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁等参照)。なお,ここでいう権利の確定とは,権利の発生とは同一ではなく,権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解すべきである。

     また,法人税法上,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として,当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(同条3項3号)が掲げられているところ,本件のような不法行為により発生した損失はこれに該当し,その額を損失が発生した年度の損金に計上すべきものと解されている(最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決・裁判集民事92号607頁参照)。

     そして,本件のような不法行為による損害賠償請求権については,通常,損失が発生した時には損害賠償請求権も発生,確定しているから,これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる(不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生,確定はいわば表裏の関係にあるといえるのである。)。

   ウ もっとも,本件のような不法行為による損害賠償請求権については,例えば加害者を知ることが困難であるとか,権利内容を把握することが困難なため,直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には,権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが,未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから,当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえないというべきである(そのような場合にまで,法的基準に拘泥して収益の帰属年度を決することは妥当でないのである。なお,最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・裁判集民事166号525頁参照)。このような場合には,当該事業年度に,損失については損金計上するが,損害賠償請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許されるのである(法人税基本通達2-1-43が,「他の者から支払を受ける損害賠償金(中略)の額は,その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが,法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には,これを認める。」と規定し,損失の計上時期と益金としての損害賠償金請求権の計上時期を切り離す運用を認めているのも,基本的には,第三者による不法行為等に基づく損害賠償請求権については,その行使を期待することが困難な事例が往々にしてみられることに着目した趣旨のものであると解するのが相当である。)。

     ただし,この判断は,税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから,通常人を基準にして,権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず,権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断していくべきである。不法行為が行われた時点が属する事業年度当時ないし納税申告時に納税者がどういう認識でいたか(納税者の主観)は問題とすべきでない。

    エ なお,権利確定主義にいう収入すべき権利の確定の時期については,基本的には法的基準によって判断していくものである(法的基準により判断することで,法的安定性,徴税の公平性が担保される。)から,債務者の資力,資産状況等といった経済的観点により債権の実現(債務の履行)可能性を判断し,それが乏しい場合には益金計上をしなくてよいとする処理は妥当でないというべきで,このような経済的観点からの実現(履行)可能性の問題は,下記の貸倒損失の問題として捉えていくのが相当である。損害賠償請求権については,確かにこれと通常の商行為に基づく債権とを比較すると,経済的な観点からの実現(履行)可能性の乏しいものが多いといえるが,だからといってこれを別に扱う理由はないというべきである(以上,前掲最高裁昭和43年10月17日判決参照)。

    オ ただし,損害賠償請求権がその取得当初から全額回収不能であることが客観的に明らかであるとすると,これを貸倒損失として扱い,法人税法22条3項3号にいう当該事業年度の損失の額として損金に算入することが許されるというべきである(前掲最高裁昭和43年10月17日判決。なお,最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2637頁参照)。また,取得当初はそういえなかったとしても,その後そうなったという場合は,その時点の属する事業年度の損金に算入することが許されるというべきである。

      もっとも,上記のように,貸倒損失として損金に算入するためには全額回収不能であることが客観的に明らかである必要がある(前掲最高裁平成16年12月24日判決)ところ,この全額回収不能であることが客観的に明らかであるといえるかどうかは,債務者の資産・負債の状況,支払能力,信用の状況,当該債権の額,債権者の採用した取立手段・方法,取立てに対する債務者の態度・対応等諸般の事情を総合して判断していくべきものである。

   (2) 以上の考え方に基づき,本件について検討する。

    ア 上記(1)イによれば,本件各事業年度において,本件詐取行為により被控訴人が受けた損失額を損金に計上すると同時に益金として本件損害賠償請求権の額を計上するのが原則ということになるが,本件各事業年度当時の客観的状況に照らすと,通常人を基準にしても,本件損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず,権利行使が期待できないといえるとすれば,当該事業年度の益金に計上しない取扱いが許されるということになるから,その点を検討する。

      この点については,上記認定(上記2(3))によれば,Aは,被控訴人の経理担当取締役らに秘して本件詐取行為をしたものであり,被控訴人の取締役らは当時本件詐取行為を認識していなかったものではあるが,本件詐取行為は,経理担当取締役が本件預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際にAが持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであったのである(同2(3)ア(イ))。また,決算期等において,会計資料として保管されていた請求書と外注費として支払った金額とを照合すれば,容易に発覚したものである(同(2)イ,(3)ア)。こういった点を考えると,通常人を基準とすると,本件各事業年度当時において,本件損害賠償請求権につき,その存在,内容等を把握できず,権利行使を期待できないような客観的状況にあったということは到底できないというべきである。

      そうすると,本件損害賠償請求権の額を本件各事業年度において益金に計上すべきことになる。

    イ 次に,本件各事業年度当時において,本件損害賠償請求権は全額回収不能であることが客観的に明らかであったといえるかを検討する。

      上記認定(上記2(5)ア)によると,①本件各事業年度当時でみると,Aは,資産として,約5000万円で購入したマンションを有していたほか,約200万円相当の自家用車を所有していたし,約400万円程度の預金を有していた。また,月額30万円を超える金額の給与を得ていた(被控訴人から懲戒解雇されたのは平成16年5月であり,また,Aに対し実刑判決が言い渡されたのは平成17年6月で,いずれも本件各事業年度が経過した後の出来事である(同2(4)イ,エ)。)。また,②上記認定(同2(5)イ)のように,本件各事業年度が経過した後のことであるが,Aは,本件詐取行為に係る刑事裁判の際,200万円の弁償を申し出ている。確かに,Aは,本件損害賠償請求権に係る債務のほかEに対する債務や住宅ローン債務等を抱えていたから,本件各事業年度当時,債務超過に陥っていた可能性が高いが,本件各事業年度当時,①のような資産を有するなどしていて,全く弁済能力がなかったとはいえないのであるから(②の事実からもそのことが強く推認される。),本件各事業年度当時において,本件損害賠償請求権が全額回収不能であることが客観的に明らかであったとは言い難いといわなければならない。

      そうすると,本件損害賠償請求権の額を本件各事業年度において貸倒損失として損金に計上することはできないことになる。

  4 本件各更正処分の適法性について

   以上を前提にすると,被控訴人の本件各事業年度の法人税に係る納付すべき税額は,別紙「平成13年9月期の納付すべき法人税額」及び「平成15年9月期の納付すべき法人税額」のとおりとなり(弁論の全趣旨),平成13年9月期が1882万4000円,平成15年9月期が1536万3100円となるが,これらの金額は,本件各更正処分の納付すべき税額,すなわち,平成13年9月期の1696万9400円(原判決別表1-1),平成15年9月期の1301万2200円(原判決別表1-2)をいずれも上回るから,本件各更正処分はいずれも適法ということになる。

  5 本件各賦課決定処分の適法性について

   以上によれば,被控訴人は,本件各事業年度の法人税について,納付すべき税額を過少に申告したというべきである。そして,本件では,そのことにつき国税通則法65条4項にいう正当な理由がある(すなわち,真に納税者の責めに帰することができない客観的事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たる)とは認められない。

   また,上記認定(上記2(3)ア)によれば,Aが隠ぺい,仮装行為をし,被控訴人は,それに基づき架空外注費を計上して確定申告を行ったものである。そして,上記認定(同2(2)ア)によれば,Aは,被控訴人の経理業務の責任者で実務上の処理を任されていた者であり,かつ,被控訴人としても,容易にAの隠ぺい,仮装行為を認識することができ(同2(3)ア(イ)),認識すればこれを防止若しくは是正するか,又は過少申告しないように措置することが十分可能であったのであるから,Aの隠ぺい,仮装行為をもって被控訴人の行為と同視するのが相当である。そうすると,本件で,国税通則法68条1項により過少申告加算税に代え重加算税を課したことに違法はない。

   そうすると,本件各賦課決定処分も適法というべきである。

  6 結論

    よって,被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は不当であるから,これを取り消した上,被控訴人の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

     東京高等裁判所第9民事部

         裁判長裁判官  大坪 丘

            裁判官  宇田川基

            裁判官  尾島 明

 

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