岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

カテゴリ: 憲法

単身赴任者の帰郷旅費を給与所得として原泉徴収義務ありとした平成10年審判

国税不服審判所裁決

【日付】              平成10年1月29日

【事項】              単身赴任者に支給した帰郷交通費は、職務を遂行するための旅行でなく、帰郷に要する交通費の負担を軽減するために支給されたものであるとして、当該単身赴任者に対する給与所得に該当するとした事例

【要旨】              請求人は、単身赴任者に支給した帰郷交通費は、所得税法第9条第1項第4号に規定されている非課税とされる旅費である旨主張するが、当該帰郷交通費は、請求人が受給者の帰郷に要する交通費の負担を軽減するため、その費用の一部を補助する目的で給与関係内規の別居手当の一部として支給したものと認められることから、職務を遂行するための旅費には当たらず、同号に規定する非課税とされる旅費には当たらない。

【掲載誌】       裁決事例集No.55 273頁

 

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、電機部品卸売業を営む非同族会社であるが、原処分庁は、請求人に対し、平成9年1月31日付で平成6年1月から平成8年12月までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別表1の「納税告知処分」欄のとおりの各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)をした。

 請求人は、本件納税告知処分を不服として、平成9年2月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月30日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり納税告知処分の一部を取り消す異議決定をした。

 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年6月19日に審査請求をした。

 

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。

イ 本件納税告知処分の手続について

(イ)原処分庁は、請求人に係る源泉所得税の調査(以下「原処分調査」という。)において、過去の調査とは異なり、調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に調査結果を説明させず、請求人に話合いや反論の機会も与えないまま一方的に本件納税告知処分をした。

(ロ)過去の請求人に係る原処分庁の源泉所得税の調査において、帰郷交通費の取扱いについて問題にされなかったが、今回、請求人のS支店長のF、同T支店長のG、同T支店第一課長のH、同本社電気部第一課長のJ(以下、順次「F」、「G」、「H」、「J」といい、これらを併せて「単身赴任者」という。)に対して支給した帰郷交通費(以下「本件帰郷交通費」という。)について、過去3年間にさかのぼって本件納税告知処分を受けた。

ロ 帰郷交通費について

(イ)平成6年1月から平成8年12月までの各月分の本件帰郷交通費の金額については争わない。

(ロ)本件帰郷交通費は、単身赴任者を単に帰郷させるための旅行に対して旅費を支給したものではなく、業務報告をさせるための旅行に付随した帰宅のための旅行に対して旅費を支給したものであり、実際に単身赴任者から口頭による業務報告を受けていることから、所得税法第9条《非課税所得》第1項第4号に規定する給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行した場合、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものに該当しており、非課税所得である。

(ハ)請求人は、単身赴任者が本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行をした場合に、単身赴任者に対して業務報告書の作成は義務付けていないが、口頭による業務報告は義務付けている。

 なお、原処分庁が過去の請求人に係る源泉所得税の調査で特に問題としなかったことから、請求人としては、業務報告は口頭によるもので十分であると認識していた。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。

イ 納税告知処分の手続について

(イ)原処分庁は、原処分調査の最終日である平成9年1月16日に、請求人の常務取締役であるK(以下「K」という。)、経理部長であるL(以下「L」という。)及び経理課長であるM(以下「M」という。)に対し、調査担当職員から調査結果を説明している。

(ロ)国税通則法(以下「通則法」という。)第36条《納税の告知》において、税務署長は、源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定されている。

 ところで、納税の告知の法的性質は、税額の確定した国税債権につき、納期限を指定して納税義務者に履行を請求する行為、すなわち徴収処分というべきであって、支払者の源泉所得税の納税義務は既に当該所得の支払の時に確定しているものである以上、その請求たる納税の告知は通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》により国税の徴収権が時効で消滅するまではこれをなし得ると解されており、同条第1項において、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことにより、時効により消滅する旨規定されている。

 したがって、本件納税告知処分は、いずれも法定納期限から5年を経過する前に行われており、何ら違法はなく、請求人の主張には理由がない。

ロ 帰郷交通費について

(イ)本件帰郷交通費については、次の事実が認められる。

A 請求人の給与関係内規に定める別居手当の規定には、転勤のためやむを得ず扶養親族と別居する場合に月1回の帰郷交通費を支給する旨の規定があり、その支給の基礎となる金額は、帰郷に係る交通費の金額のみであり、対象となる旅行日はほぼ土曜日、日曜日等の請求人の休日である。

B 異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において、請求人の代表取締役副社長であるN(以下「N」という。)は、本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行に際して単身赴任者は業務報告を行っていると認識しているが、業務報告を義務付けてはいないし、それを具体的に証明できる客観的な報告書等の作成も行っていない旨申述している。

C 原処分調査時及び異議調査時において、請求人は、本件帰郷交通費を支給した旅行に際して単身赴任者が業務報告を行っていることを具体的に証明する資料を提示していない。

(ロ)所得税法第28条《給与所得》第1項において、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有するものをいう旨規定され、同法第6条《源泉徴収義務者》では、同法第28条第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある旨規定されている。

 また、所得税法第9条第1項第4号において、給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行した場合、その旅行に必要な支出に充てるために支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものについては、所得税を課さない旨規定されている。

 さらに、単身赴任者が職務遂行上必要な旅行に付随して帰宅のための旅行を行った場合に支給される旅費については、これらの旅行目的、行路等からみて、これらの旅行が主として職務遂行上必要な旅行と認められ、かつ、当該旅費の額が所得税基本通達9―3《非課税とされる旅費の範囲》に定める非課税とされる旅費の範囲を著しく逸脱しない限り、非課税として取り扱われている。

(ハ)以上のことから、本件帰郷交通費は、単身赴任者が旅行時に業務報告をしているとは認められず、かつ、請求人の給与関係内規に定める別居手当の一部として支払われていると認められることから、上記(ロ)の非課税所得とされる旅費には該当せず、原泉徴収の課税対象となる給与所得としてその支給額に対して源泉徴収すべきものと認められる。

 したがって、請求人の本件帰郷交通費は業務報告させるための旅行に付随した帰宅のための旅行に対して旅費を支給したものである旨の主張には理由がない。

ハ 源泉所得税の額について

 単身赴任者ごとの本件帰郷交通費に対する源泉所得税の額は、本件帰郷交通費として支給した金額に対して所得税法第190条《年末調整》の規定により源泉所得税額の再計算をした別表2及び別表3のとおりであり、その結果、請求人が同法第183条《源泉徴収義務》第1項の規定により納付すべき源泉所得税の額は、次表の税額欄のとおりとなる。

 

                               (単位 円)

年月       税額  年月       税額  年月       税額

6.1   7,509  7.1   7,326  8.1   9,941

6.2   4,459  7.2   7,815  8.2   5,861

6.3   4,459  7.3   5,635  8.3   2,233

6.4   4,750  7.4   5,635  8.4   5,861

6.5   4,459  7.5   6,021  8.5  12,113

6.6   4,459  7.6   5,635  8.6   3,402

6.7   4,459  7.7   5,635  8.7   8,332

6.8   4,750  7.8   5,999  8.8  11,464

6.9   1,700  7.9   5,635  8.9   8,898

6.10  4,459  7.10  5,635  8.10  7,835

6.11  4,459  7.11  2,183  8.11  7,842

6.12  4,578  7.12  5,646  8.12  4,218

 

 したがって、平成6年1月分、同年4月分、同年8月分、平成7年1月分、同年2月分、同年5月分、平成8年1月分、同年5月分、同年8月分、同年9月分の各納税告知処分はいずれもこの範囲で行われており、平成6年2月分、同年3月分、同年5月分から同年7月分まで、同年9月分から同年12月分まで、平成7年3月分、同年4月分、同年6月分から同年12月分まで、平成8年2月分から同年4月分まで、同年6月分、同年7月分、同年10月分から同年12月分までの各納税告知処分はいずれもこれと同額で行われているので適法である。

 

3 判断

(1)納税告知処分の手続について

 請求人は、本件納税告知処分の手続について不当である旨主張するので、以下審理する。

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ)原処分調査は、平成9年1月13日及び同月16日に、所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項第2号に基づき行われた。

(ロ)Nは、異議審理庁に対し、次のとおり申述している。

A 請求人は、これまでのW国税局及び原処分庁の調査において一度として否認事項等の指摘を受けたことがなく、日々正しい申告に努めてきたにもかかわらず、原処分庁は原処分調査において急に帰郷交通費の課税についての指摘をし、そのうえ、過去3年まで遡及して課税した。

B さらに、原処分庁は、原処分調査の結果を一方的に電話により連絡したのみで、十分な話合いや説明もなく一方的に本件納税告知処分をした。

(ハ)Lは、当審判所に対し、次のとおり答述している。

A 平成9年1月13日及び同月16日の原処分調査中において、帰郷交通費は一般的に給与と認定して課税している旨を調査担当職員から説明を受けており、調査結果についても、同月一六日に、税務署に帰ってから検討して連絡する旨同人から説明を受けた。

B 平成9年1月24日に税務署から電話があり、本件帰郷交通費について、給与と認定して3年間課税すると言われた。

C Nの指示に基づき、平成9年1月27日に、K、X税理士(以下「X税理士」という。)と私が税務署へ出かけ、調査担当職員に調査結果の説明を求めたが、「本件帰郷交通費については、給与と認定して3年間課税することとしてすでに上司に決裁を回した。」と言われ、抗弁の余地はなかった。

(ニ)調査担当職員は、当審判所に対し、次のとおり答述している。

A 原処分調査中において、帰郷交通費は所得税法上給与所得になる旨説明をし、進行年度(請求人の事業年度は5月1日より翌年4月30日まで)を含め3年間の支払金額を請求人の方で調べるように依頼したところ、請求人から現在の各月の支払額を基に3年間分を算出することにしたいとの申出を受けた。

B 平成9年1月16日の午後5時ころ、調査担当職員はL、M及びX税理士に対し、本件帰郷交通費は一般的には給与所得に該当する旨を再度説明し、海外取引のコミッションの課税の可否等他の調査事項も含め、検討して連絡する旨伝えた。

C 平成9年1月下旬に、調査担当職員は本件帰郷交通費については課税の対象になるが、その他の調査事項については問題はなかった旨電話で連絡した。

D 平成9年1月27日、税務署に出署したK、L及びX税理士から「本件帰郷交通費は進行年度分から給与にするので、過去の年分はなんとかしてください。」との要請があったが、調査担当職員は本件帰郷交通費は給与として課税されるものである旨説明した。

ロ 上記の事実等に基づいて判断すると、次のとおりである。

 原処分調査は、所得税法第234条第1項第2号に基づき適法に行われており、調査担当職員は調査結果を請求人の代表取締役社長及びNに直接説明していないが、(a)上記(ハ)のA及び(ニ)のA、Bによれば、原処分調査の最終日である平成9年1月16日に、調査担当職員は、本件帰郷交通費は一般的に給与所得に該当すること及び原処分調査におけるその他の疑問点があり、それらを税務署に戻って検討する旨をLに説明したこと、(b)上記(ハ)のB及び(ニ)のCによれば、平成9年1月24日に、調査担当職員は、検討した調査事項について、電話でLに対して本件帰郷交通費については給与と認定して3年間課税するが、その他の調査事項は問題ない旨伝えていること、(c)上記(ハ)のC及び(ニ)のDによれば、Nの指示に基づきL、K及びX税理士が出署した平成9年1月27日に、調査担当職員は、Lらに本件帰郷交通費は給与と認定している旨、また、3年間課税を要する旨を説明していることが認められる。

 以上のことから、原処分庁は、請求人に対して原処分調査の結果について十分な説明をせず、一方的な納税の告知をしたとは認められない。

 なお、所得税法上、調査結果を説明しなければならない旨を定めた法の規定はないことからしても本件納税告知処分に違法又は不当はない。

ハ 通則法第36条において、税務署長は、源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定されている。

 ところで、納税の告知の法的性質は税額の確定した国税債権につき納期限を指定して納税義務者に履行を請求する行為、すなわち徴収処分というべきであって、支払者の源泉所得税の納税義務は既に当該所得の支払の時に確定しているものである以上、その請求たる納税の告知は通則法第72条により国税の徴収権が時効で消滅するまではこれをなし得ると解されている。

 すなわち、通則法第72条第1項において、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことにより、時効により消滅する旨規定されており、本件納税告知処分は過去3年間にさかのぼっているが、いずれも法定納期限から5年を経過する前に行われていることから何ら違法はない。

したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)本件帰郷交通費について

 請求人は、本件帰郷交通費が所得税法上非課税とされている旅費であるから、原処分は違法、不当である旨主張するので、以下審理する。

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

(イ)本件帰郷交通費は、給与関係内規に定める別居手当の規定に基づき、単身赴任者に1か月に1回支給され、請求人の旅費交通費勘定で処理されており、その支給額は実費交通費の額である。

(ロ)原処分調査時及び異議調査時において、請求人は、本件帰郷交通費の支給の対象となった旅行に際して単身赴任者が義務報告を行っていることを具体的に証明する資料を提示していない。

ロ 請求人提出資料、原処分関係資料等及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。

(イ)請求人の役員及び従業員に対する給与は、昭和43年1月21日から実施されている賃金規定に基づいて支給されており、給与等の源泉徴収については、支店も含め本社で一括して行われている。

(ロ)「給与関係内規」(直前の一部変更は平成5年3月16日、はっきりした実施日は不明)において、別居手当に関し「転勤のため、やむを得ず扶養親族と別居する場合は常務会にて審査の上、下記手当を支給する」旨の記載がある。

 

                (単位 円)

職階    家族    配偶者    その他

上級職及び役職者 20,000 10,000

一般職      15,000 10,000

初級職他     10,000 10,000

上記の他、月1回の帰郷交通費

 

 なお、「給与関係内規」には、本件帰郷交通費の対象となる旅行に際して業務報告をしなければならない旨の規定はない。

(ハ)出張に関する旅費は、昭和34年10月21日から実施されている出張旅費規定(直前の改定は昭和63年11月1日、以下「旅費規定」という。)によって支給されており、旅費規定には次の記載がある。

第2条 出張を行わんとする者は

1.目的

2.行先

3.出発予定日時

4.帰着予定日時

5.予算額

を明記の出張稟議書を稟議規定に従い、上長に提出し、上長の承認を得なければならない。

第3条 出張した者は帰社の上直ちに出張報告書を提出しなければならない。

第4条 所要の経費は帰社後2日以内に精算するものとし、支払稟議書により稟議規定に従い上長に提出しなければならない。

(ニ)F、G、Hには、毎月第2火曜日開催の販売会議及び第3金曜日開催の部課長会議に出席するための本社への出張に対し、旅費規定に基づいた旅費が支給されているほか、月1回の本件帰郷交通費が支給されている。

 また、Jには、月1回の本件帰郷交通費が支給されている。

(ホ)請求人の旅費交通費の支払稟議書によると、単身赴任者が毎月の販売会議及び部課長会議に出席するために支給する旅費(以下「会議出席旅費」という。)及び本件帰郷交通費は次のとおり支給されている。

A Fについては、会議出席旅費は旅費規定に基づき精算を行っているが、本件帰郷交通費は6枚つづりのS、W間の新幹線回数券を交付している。

 なお、新幹線回数券を使用できないときの帰郷交通費はS、W間の往復交通費を現金で支給している。

B Gについては、会議出席旅費は旅費規定に基づき精算を行っているが、本件帰郷交通費は毎月1回支払稟議書の摘要欄に「月度帰省費」と記載して、P、Q間の往復交通費を現金で支給している。

C Hについては、会議出席旅費は旅費規定に基づき精算を行っているが、本件帰郷交通費は毎月1回支払稟議書の摘要欄に「月度帰省費」と記載して、P、R間の往復交通費を現金で支給している。

D Jについては、本件帰郷交通費は毎月1回支払稟議書の摘要欄に「月度帰省費」と記載して、W、P間の往復交通費を現金で支給している。

(ヘ)単身赴任者の自宅の住所等は次のとおりである。

 

氏名 勤務先及び役職    単身開始月  配偶者等扶養家族の居住地

F  S支店の支店長    平成3年5月 E市

G  T支店の支店長    平成5年5月 Q市

H  T支店の第一課長   平成8年5月 R市

J  本社の電気部第一課長 平成8年5月 T市

 

(ト)Nは、異議審理庁に対し、次のとおり申述している。

A 請求人は、社員を大切にすることを理念としており、単身赴任者は請求人の命令で単身赴任をさせているのであるから、本件帰郷交通費を請求人が負担することは当たり前のことである。

B 本件帰郷交通費を支給することを定めた時に、単身赴任者は帰郷に際して営業部門の責任者であるY取締役に業務報告をするというルールを決めたので、同人が義務報告を受けているものと理解している。

 また、現在は本部長制に制度が変更されたため、営業本部長のZが業務報告を受けていると聞いており、同人がいない場合は他の本部長が業務報告を受けると思うが、現在まで特に他の本部長が業務報告を受けたことはない。

 なお、業務報告は義務付けているものではないため、業務報告書などの書類としては何も作成していない。

C 業務報告は、金曜日の夕方4時ころからか、又は、月曜日の朝8時半ころから行っているものと思う。そして、月曜日ならば受給者は報告後はすぐに各支店へ戻っていく。

D 平日に本社が旅費を支払っているのは、通常は第2火曜日の販売会議、第3金曜日の部課長会議の月2回のはずで、この会議は強制的に受給者を本社へ戻すものであるから当然平日になる。

E 受給者は単身赴任者であるから帰郷日は当然休日であり、平日に帰郷しておれば休暇を取らせる。

F Jに対しても本件帰郷交通費が支給されているが、本来、本社から支店への業務報告はないので社内的にも認められないことになり、明らかに請求人の誤りであることから、平成9年6月以降は本件帰郷交通費を支給しないこととしている。

 したがって、Jについては、業務報告などはない。

(チ)Nは、当審判所に対して、次のとおり答述している。

A 給与関係内規に定める別居手当は業務命令により単身赴任する者が二重生活となることから、その負担を軽減するために定めたものであり、本件帰郷交通費についても帰郷に要する交通費の負担軽減のため、原則として単身赴任者のすべてに月1回実費を支給してきたものである。

 なお、別居手当は、本人から単身赴任する旨の申出があった場合、常務以上が出席して行う常務会にて審査して支給することになっているが、常務会の議事録にはこの程度のことは記載していない。

B 本件帰郷交通費の支払については、旅費規定第4条に定める「支払稟議書」を使用しているが、同第2条に定める「出張稟議書及び出張許可書」及び同第3条に定める「出張報告書」は使用していない。

C 本件帰郷交通費は旅費規定に基づいて支給するものではなく、給与関係内規に定める別居手当の規定に基づいて支給するものである。

D 業務報告は、支店に勤務する者が業務の内容等を本社に対して行うもので、本社においては下部の者が上部の者に対して行うものである。

 単身赴任者には帰郷日の前後の日に、口頭による業務報告を義務付けており、上長(営業担当役員、現在は営業本部長)に対し、口頭により業務報告が行われていると思うが、業務報告を受けたことが客観的に分かる報告書の作成を義務付けていないし、業務報告を具体的に証明する資料もない。

E Jは平成8年5月にT支店より本社に赴任しており、T支店の社員との業務打合せ等を行わせていたので、本件帰郷交通費を支給していたが、本来は旅費規定で支給すべきものと思う。

(リ)Lは、当審判所に対して、次のとおり答述している。

A 本件帰郷交通費に係る支払稟議書の記載内容は、過去3年間同様である。

B 本件帰郷交通費については、支払稟議書に基づき、(a)Fには、会議等業務に係るものも含め、新幹線の回数券(6枚つづり)を交付していたが、回数券を使用できない場合等は新幹線料金を現金で支払っており、(b)G、H、Jには新幹線料金を現金で支払っていた。

C 本件帰郷交通費に係る帰郷日については、(a)Fは、新幹線の回数券(6枚つづり)の表紙の裏面に帰郷日が記載されているものは特定でき、現金で支給したものは支払稟議書に帰郷日が記載されていれば特定できる、(b)G、H、Jは、支払稟議書に帰郷日が記載されているものは特定できる。

D 本社の営業日は、通常は暦のとおりの休祭日を除く月曜日から金曜日までである。そのほか、盆の3日間、年末年始の間は休業する。

 また、月曜日の営業開始時刻は午前8時45分で、金曜日の終業時刻は、時間外勤務のない場合は午後5時30分である。

 なお、営業本部長の退社時刻は一定していないが、通常は午後7時半ころである。

(ヌ)Lは、当審判所に対して、電話で次のとおり回答している。

A 本件帰郷交通費を除く別居手当は、役職ごとに毎月の給与に加算して支給しており、当然源泉徴収を行って納付している。

B 本件帰郷交通費は、旅費交通費勘定で経理しているので、源泉徴収はしていない。

ハ そこで、上記の事実等に基づいて総合的に判断すると、次のとおりである。

(イ)請求人の給与関係内規に定める別居手当は、業務命令により単身赴任者が二重生活となることから、その負担を軽減するために支給されるものであり、本件帰郷交通費についても、請求人が単身赴任者の本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行に要する交通費の負担を軽減するため給与関係内規に定める別居手当の規定に基づいて支給されるものであり、旅費規定に基づいて支給されるものではないこと。

(ロ)請求人は、本社において、毎月第2火曜日に販売会議、第3金曜日に部課長会議を開催しており、この2回の会議において、各支店から業務報告を受けていることは認められるが、本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行日が単身赴任者に任されており、あらかじめ決められているものでなく、かつ、特定できない旅行日がある等、当該旅行日に業務報告を受ける理由が認められないこと。

(ハ)請求人には、単身赴任者の本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行に際して、出張報告書の提出及び口頭による業務報告をしなければならない旨の規定がないこと、また、それらの業務報告を受けたことが具体的に明らかにできる書類、資料もないこと。

(ニ)Jの自宅はT市であるが、本社から支店に対する業務報告はあり得ないことから、同人に支給された本件帰郷交通費は社内的にも認められないものであること。

(ホ)以上のことから、本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行は、所得税法第9条第1項4号に規定する非課税とされる職務を遂行するための旅行に当たらず、本件帰郷交通費は同法第28条第1項の給与所得に該当することになり、請求人はその支給に際しては同法第6条及び第183条第1項の規定により所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない。

したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)源泉所得税の額について

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は所得税法第183条第1項の規定により徴収すべき源泉所得税の額の計算を行っており、これらの金額は本件納税告知処分(異議決定による一部取消しの後のもの)の額と同類であるか上回っているので適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

 

別表1

                            (単位 円)

期間    区分 所得の種類    納税告知処分      異議決定

               (源泉所得税の額) (源泉所得税の額)

平成6年1月分  給与        4,741     4,741

平成6年2月分  給与        4,741     4,459

平成6年3月分  給与        4,741     4,459

平成6年4月分  給与        4,741     4,741

平成6年5月分  給与        4,741     4,459

平成6年6月分  給与        4,741     4,459

平成6年7月分  給与        4,741     4,459

平成6年8月分  給与        4,741     4,741

平成6年9月分  給与        4,741     1,700

平成6年10月分 給与        4,741     4,459

平成6年11月分 給与        4,741     4,459

平成6年12月分 給与        4,749     4,578

平成7年1月分  給与        6,000     6,000

平成7年2月分  給与        6,000     6,000

平成7年3月分  給与        6,000     5,635

平成7年4月分  給与        6,000     5,635

平成7年5月分  給与        6,000     6,000

平成7年6月分  給与        6,000     5,635

平成7年7月分  給与        6,000     5,635

平成7年8月分  給与        6,000     5,999

平成7年9月分  給与        6,000     5,635

平成7年10月分 給与        6,000     5,635

平成7年11月分 給与        6,000     2,183

平成7年12月分 給与        6,000     5,646

平成8年1月分  給与        6,233     6,233

平成8年2月分  給与        6,233     5,861

平成8年3月分  給与        6,233     2,233

平成8年4月分  給与        6,233     5,861

平成8年5月分  給与        8,407     8,407

平成8年6月分  給与        8,407     3,402

平成8年7月分  給与        8,407     8,332

平成8年8月分  給与        8,407     8,407

平成8年9月分  給与        8,407     8,407

平成8年10月分 給与        8,407     7,835

平成8年11月分 給与        8,407     7,842

平成8年12月分 給与        8,419     4,218

 

別表2 平成6年分、平成7年分

別表3 平成8年分

 

【速報】韓国・尹錫悦前大統領に死刑求刑 内乱首謀の罪で(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース
司法が機能するかなあ

岩田誠裁判長名判決 納税告知に関する昭和45年最高裁 宇賀Ⅱ169頁

行政判例百選 第6版 64事件 金員支払請求事件 租税判例百選 5版 111事件 7版 114 ケースブック6版 335頁

21世紀の人権感覚からすれば根本的なところに問題はあるのですが。当時として名判決です。

最高裁判所第1小法廷判決/昭和43年(オ)第258号

昭和45年12月24日

【判示事項】       1、源泉徴収による所得税についての納税の告知の法的性質

             2、源泉徴収による所得税についての納税の告知を受けた支払者が右所得税の徴収・納付義務の存否または範囲を争う場合の訴訟の形式

             3、源泉徴収による所得税を徴収されまたは期限後に納付した支払者のする求償権の行使と受給者の支払拒絶

             4、源泉徴収による所得税を徴収されまたは期限後に納付した支払者が受給者に対して行使しうる求償権の範囲

【判決要旨】       1、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、徴収処分であつて課税処分ではない。

             2、支払者は、源泉徴収による所得税の徴収・納付義務の存否または範囲を争つて、納税の告知(徴収処分)に対する抗告訴訟を提起することができ、また、これにあわせてまたはこれと別個に、右徴収・納付義務の存否または範囲を訴訟上確定させるため、右義務の全部または一部の不存在確認の訴を提起することができる。

             3、受給者は、源泉徴収による所得税を税務署長から徴収されまたは期限後に納付した支払者から、その税額に相当する金額につき求償権の行使を受けたときは、自己の負担すべき源泉納税義務の存否または範囲を争つて、支払者の請求を拒むことができる。

             4、源泉徴収による所得税を税務署長から徴収されまたは期限後に納付した支払者の、受給者に対する求償権は、右所得税の本税相当額についてのみ行使することができ、附帯税相当額には及ばない。

【参照条文】       旧所得税法(昭和22年法律第27号)43-1

             所得税法221

             国税通則法15

             国税通則法36

             民事訴訟法225

             所得税法222

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集24巻13号2243頁

             訟務月報17巻1号140頁

             最高裁判所裁判集民事101号859頁

             裁判所時報561号1頁

             金融・商事判例250号2頁

             判例時報616号28頁

             税務訴訟資料62号15頁

【評釈論文】       シュトイエル118号1頁

             ジュリスト474号104頁

             ジュリスト臨時増刊509号33頁

             別冊ジュリスト61号145頁

             別冊ジュリスト79号172頁

             別冊ジュリスト92号126頁

             別冊ジュリスト120号170頁

             別冊ジュリスト122号124頁

             訟務月報17巻1号140頁

             税72巻9号112頁

             税経通信32巻11号238頁

             税経通信38巻15号304頁

             時の法令747号34頁

             判例評論148号117頁

             法曹時報23巻10号391頁

             民商法雑誌65巻5号170頁

 

       主   文

 

 被上告人の本訴請求中、上告人中村卯助につき八六万二二六六円およびこれに対する昭和三九年八月一五日よりその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員、上告人藤本玉江につき三八万〇一一〇円およびこれに対する右同日よりその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の範囲を超えて支払を求める部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。

 その余の部分に関する上告人らの上告を棄却する。

 訴訟の総費用は、これを一〇分して、その七を上告人らの負担とし、その余を被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人橋本福松、同朽名幸雄の上告理由第一点ないし第三点について

 原判決(その訂正・引用する一審判決を含む。以下同じ)挙示の証拠によれば、所論の点に関する原判決の認定判断は相当で、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するに帰し、とうてい採用し難い。

 同第四点および第五点について

 一、原判決の確定するところによれば、上告人らは、もと被上告会社の役員であつたが、上告人らの在任中における被上告会社の所得の調査に際し、昭和三九年三月一〇日(原判決に二月一〇日とあるのは、三月一〇日の誤記と認める)、所轄の中川税務署長は、本件係争の簿外定期預金の払出しを上告人中村、同売却損を上告人藤本に対する役員賞与と認定し、徴収義務者たる被上告会社に対し、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)四三条一項に基づいて、上告人らに対する源泉徴収による所得税の本税ならびに不納付加算税(旧源泉徴収加算税)および旧利子税の支払方を請求したので、被上告会社は、同年四月九日これを国に納付したところ、同税務署長は、さらに同年八月一四日被上告会社に対し、右に加えて新利子税の支払方を請求したので、被上告会社は同日これを国に納付したが、上告人らが以上の事実を知つたのは翌四〇年三月八日頃であつて、それ以前に被上告会社はこれを上告人らに知らせることはしなかつた、というのである。

 二、本訴は、被上告会社が旧所得税法四三条二項により上告人らに対し右所得税等に相当する金額の支払を求めるというものであるが、上告人らが、被上告会社の右請求原因に対する抗弁として、(一)もし被上告会社が右認定賞与の「課税決定」を受けたのち上告人らにその旨の連絡をしておれば、上告人らは、本件簿外定期預金の払出しおよび売却物件の譲渡について源泉徴収による納税義務(以下たんに「源泉納税義務」という)を負ういわれがなく、かつ、その旨を詳細に説明しうる立場にあつたので、被上告会社の税務当局に対する不服申立てにつき協力し、税務当局をして右不服申立てを認容させることができたものであるのに、被上告会社は、上告人らになんらの通知連絡をすることなく、不充分な理由によつて不服申立てをし、それが容れられなかつたところ、漫然出訴期間を徒過して「課税決定」を確定させ、これにより源泉徴収による所得税等を納付するに至つたものであるから、被上告会社はみずからの重大な過失により右所得税等を納付したものというべく、したがつて右納付にかかる税額に相当する金額の支払を上告人らに請求することは許されない、(二)かりに然らずとしても、被上告会社が前記「課税決定」につき上告人らに対してなんら通知をすることなく、上告人らをして右「課税決定」に対する異議申立ておよび訴訟提起の機会を失わしめたことは、信義誠実の原則に反し、かつ、権利の濫用であるから、被上告会社の本訴請求は許されない、(三)かりに然らずとしても、被上告会社が、右のように、上告人らをして異議申立ておよび訴訟提起の機会を失わしめたことは、被上告会社の重大な過失に起因するところ、上告人らは被上告会社の右不法行為により憲法三二条に規定する裁判を受ける権利を奪われた結果となり、被上告会社が本訴において上告人らに請求する金額と同額の損害を被つたことになるので、上告人らは右損害賠償債権をもつて被上告会社の本訴請求債権と対当額において相殺したから、被上告会社の請求は失当である、と主張したのに対し、原判決は、上告人らにおいて源泉納税義務を負わなかつた旨の主張は採用しえないとして、抗弁(一)を排斥し、また、上告人らは、右認定賞与に対する「所得税の決定」を知つた時から、これに対する異議申立て、行政訴訟をなしえたものであるとして、抗弁(二)(三)を排斥したことが、その判文上明らかである。

 三、論旨は、前記抗弁(二)(三)を排斥した原判決の判断を非難するのであるが、本件においては、論旨の検討に先だつて、源泉徴収の法律関係を考察する必要がある。

 1、源泉徴収の対象となるべき所得の支払がなされるときは、支払者は、法令の定めるところに従つて所得税を徴収して国に納付する義務(以下たんに「納税義務」というときは、これを指す)を負うのであるが、この納税義務は右の所得の支払の時に成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされている(国税通則法一五条。以下たんに「法何条」というときは、同法の各条を指す)。すなわち、源泉徴収による所得税については、申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長等の処分(更正、決定)、賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして、その税額が法令の定めるところに従つて当然に、いわば自働的に確定するものとされるのである。そして、右にいわゆる確定とは、もとより行政上または司法上争うことを許さない趣旨ではないが、支払われた所得の額と法令の定める税率等から、支払者の徴収すべき税額が法律上当然に決定されることをいうのであつて、たとえば、申告納税方式において、税額が納税者の申告により確定し、あるいは税務署長の処分により確定するのと、趣きを異にするのである。そして、以上は、法一五条の規定をまつまでもなく、源泉徴収制度の当然の前提として、法の予定するところというべきである。

 2、したがつて支払者は、右の自働的に確定した税額を、法令に基づいてみずから算出し(ただし、計算の前提となるべき諸控除の申告は受給者による)、これを支払額より徴収して国に納付すべきこととなるのであるが、それが法定の納期限までに納付されないときは、税務署長は支払者に対し、当該所得の支払と同時に確定した税額を示して納税の告知(法三六条)をし、さらに督促を経て、滞納処分をなすべきものとされる。

 この場合、納税義務の存否またはその範囲いかんにつき、支払者と税務署長との間に意見の対立があるときは、支払者はいかなる手続によりこれを争うべきかの問題を生ずる。

 3、税務署長が、支払者の納付額を過少とし、またはその不納付を非とする意見を有するときに、これが納税者たる支払者に通知されるのは、前記の納税の告知によるのであり、この点において、納税の告知は、あたかも申告納税方式による場合の更正または決定に類似するかの観を呈するのであるが、源泉徴収による所得税の税額は、前述のとおり、いわば自働的に確定するのであつて、右の納税の告知により確定されるものではない。すなわち、この納税の告知は、更正または決定のごとき課税処分たる性質を有しないものというべきである。

 もし、これに反して、右の納税の告知がそれ自体として税額を確定させる行為(課税処分)であるとすると、取消判決等によりその効力が否定されないかぎり、支払者において、納税の告知により確定された税額を徴収して国に納付すべき義務の存することを争いえず、また従つて受給者において、旧所得税法四三条(新法二二二条)に基づく支払者の請求等を拒みえないこととなるのである(支払者において徴収義務を負担するとは、すなわち、受給者において源泉納税義務を負うことにほかならず、両者は表裏をなす関係にあり、したがつて、もし納税の告知が課税処分であるとすれば、そこにおいて確定された税額およびその前提となる徴収義務の存在は、右処分が取り消されないかぎり、支払者はもとより受給者においても、これを否定しえないこととなるのである)が、現行法上、かかる見地は許容されえない。けだし、源泉徴収による所得税の税額が納税の告知によつて確定されるとするのは、所得の支払の時に所得税を徴収すべきものとする制度の本旨に反するのみならず、もし、納税の告知によつて、支払者の納税義務とともに、受給者の源泉納税義務の範囲(およびその前提となる当該義務の成立)が確定されるものであるとすれば、納税の告知は支払者および受給者の双方に対してなされることを要すべきところ、法二条五号は支払者のみを納税者とし、したがつて、納税の告知は支払者に対してのみなされるのであつて、これが税法の建前とするところであるからである。すなわち、納税の告知は、納税者たる支払者に対してのみなされるにかかわらず、これにより支払者の納税義務の範囲(および成立)が公定力をもつて確定されるものとすれば、同時に、しかも受給者不知の間に、その源泉納税義務の範囲(および成立)が公定力をもつて確定されることとなるのであるが、かかる結果は、とうてい法の予定するところとは解しえないのである。

 4、一般に、納税の告知は、法三六条所定の場合に(なお、資産再評価法七一条四項参照)、国税徴収手続の第一段階をなすものとして要求され、滞納処分の不可欠の前提となるものであり、また、その性質は、税額の確定した国税債権につき、納期限を指定して納税義務者等に履行を請求する行為、すなわち徴収処分であつて(ただし、賦課課税方式による場合において法三二条一項一号に該当するときは、納税の告知が、同時に賦課決定の通知として、税額確定の効果をあわせもつ例外の場合にあたる)、それ自体独立して国税徴収権の消滅時効の中断事由となるもの(法七三条一項)であるが、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、前記により確定した税額がいくばくであるかについての税務署長の意見が初めて公にされるものであるから、支払者がこれと意見を異にするときは、当該税額による所得税の徴収を防止するため、異議申立てまたは審査請求(法七六条、七九条)のほか、抗告訴訟をもなしうるものと解すべきであり、この場合、支払者は、納税の告知の前提となる納税義務の存否または範囲を争つて、納税の告知の違法を主張することができるものと解される。けだし、右の納税の告知に先だつて、税額の確定(およびその前提となる納税義務の成立の確認)が、納税者の申告または税務署長の処分によつてなされるわけではなく、支払者が納税義務の存否または範囲を争ううえで、障害となるべきものは存しないからである。

 5、以上のとおり、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。したがつて、受給者は、源泉徴収による所得税を徴収されまたは期限後に納付した支払者から、その税額に相当する金額の支払を請求されたときは、自己において源泉納税義務を負わないことまたはその義務の範囲を争つて、支払者の請求の全部または一部を拒むことができるものと解される(支払者が右の徴収または納付の時以後において受給者に支払うべき金額から右税額相当額を控除したときは、その全部または一部につき源泉納税義務のないことを主張する受給者は、支払者において法律上許容されえない控除をなし、その残額のみを支払つたのは債務の一部不履行であるとして、当該控除額に相当する債務の履行を請求することができる)。

 支払者は、一方、納税の告知に対する抗告訴訟において、その前提問題たる納税義務の存否または範囲を争つて敗訴し、他方、受給者に対する税額相当額の支払請求訴訟(または受給者より支払者に対する控除額の支払請求訴訟)において敗訴することがありうるが、それは、納税の告知が課税処分ではなく、これに対する抗告訴訟が支払者の納税義務また従つて受給者の源泉納税義務の存否・範囲を訴訟上確定させうるものでない故であつて、支払者は、かかる不利益を避けるため、右の抗告訴訟にあわせて、またはこれと別個に、納税の告知を受けた納税義務の全部または一部の不存在の確認の訴えを提起し、受給者に訴訟告知をして、自己の納税義務(受給者の源泉納税義務)の存否・範囲の確認について、受給者とその責任を分かつことができる。

 四、本件において原判決の確定した事実関係中、中川税務署長が被上告会社に対し、昭和三九年三月一〇日、本件簿外定期預金の払出しおよび売却損を上告人らに対する役員賞与と認定して、源泉徴収による所得税の本税ならびに不納付加算税(旧源泉徴収加算税)および旧利子税の支払方を請求し、また、同年八月一四日新利子税の支払方を請求したというのは、以下、本税の関係のみについていえば(その余の関係については後述)、所轄税務署長が被上告会社に対し、本件簿外定期預金の払出しおよび売却損につき上告人らより徴収して納付すべき所得税の納付がないとして、これを被上告会社より徴収するため、納税の告知(法三六条)をしたことをいうのであり、原判決がこれを指して「課税決定」といい、また「所得税の決定」というのは、納税の告知の法律的性質を誤解したものといわなければならない。

 しかしながら、支払者たる被上告会社が納税の告知(徴収処分)に対して、行政上の不服申立てを適切に行なわず、また、抗告訴訟を提起しなかつたとしても、それが受給者たる上告人らの源泉納税義務の存否および範囲いかんにつき、なんら影響を及ぼすものでないことは、前記に説示するところによつて明らかであつて、上告人らは、被上告会社に対する納税の告知の行政処分としての確定と無関係に、上告人らの源泉納税義務(また従つて被上告会社の納税義務)の不存在を主張して、被上告会社の本訴請求を争うことができるのである。現に、上告人らは原審において、源泉納税義務の不存在を主張して排斥されたものであり、被上告会社が納税の告知を受けながら、これを上告人らに知らせることのないまま行政処分として確定させたとしても、なんら上告人らの権利・利益を侵害したものということはできないのである。

 したがつて、上告人ら主張の抗弁(二)(三)は主張自体失当というべきであつて、これを排斥した原判決の判断は、その結論において正当たるに帰し、論旨第四点および第五点は、ともに、その立論の前提に誤りがあつて採用しえないものというべきである。

本件上告理由がいずれも採用し難いものであることは、以上説示のとおりであるが、源泉徴収による所得税の納税者は、支払者であつて受給者ではないから、法定の納期限にこれを国に納付する義務を負い、それを怠つた場合に生ずる附帯税を負担すべき者は、納税者(徴収義務者)たる支払者自身であつて、右の附帯税相当額を旧所得税法四三条二項(新法二二二条)に基づいて受給者に請求しうべきいわれはない。すなわち、被上告会社の本訴請求中、上告人中村卯助につき八六万二二六六円、上告人藤本玉枝につき三八万〇一一〇円の、いずれも源泉徴収による所得税の本税相当額の支払を求める部分は正当であるが、不納付加算税(旧源泉徴収加算税)および新旧利子税相当額の支払を求める部分は失当たるを免れない。また、被上告会社が上告人らに対して請求しうる所得税の本税相当額に対する遅延損害金は、原判示のような商事法定利率によるべきではなく、一般の原則に従い、年五分の民事法定利率によるものと解すべきである。

 よつて、一、二審判決中、上告人らにつき前記の源泉徴収による所得税の各本税相当額およびこれに対する民事法定利率の範囲を超えて、被上告会社の本訴請求を認容した部分は、もとより違法として破棄または取消しを免れず、右部分に関する被上告会社の請求は棄却すべきであり、また、その余の部分に関する上告人らの上告は理由がないので、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条二項、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

 裁判官松田二郎は退官につき評議に関与しない。

    最高裁判所第一小法廷

        裁判長裁判官  岩田 誠

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  大隅健一郎

地方税の源泉聴取制度の合憲性 最高大法廷昭和37年

金子24版 地方税法違反被告事件

最高裁判所大法廷判決/昭和33年(あ)第1413号

昭和37年2月21日

【判示事項】      1、地方税法(昭和25年法律第226号)に規定された遊興飲食税の特別徴収制度の合憲性

            2、同法第122条第1項の合憲性

            3、同法第12条第1項の合憲性

            4、同法第12条第1項にいう煽動の意義

【参照条文】      地方税法(昭和25年法律第226号)118

            地方税法119

            地方税法122-1

            地方税法12-1

            憲法11

            憲法13

            憲法14

            憲法22

            憲法29

            憲法36

            憲法31

【掲載誌】       最高裁判所刑事判例集16巻2号107頁

            最高裁判所裁判集刑事141号155頁

            裁判所時報348号6頁

            判例タイムズ128号58頁

            判例時報288号12頁

【評釈論文】      シュトイエル8号38頁

            ジュリスト247号36頁

            ジュリスト276の2号224頁

            別冊ジュリスト1号216頁

            別冊ジュリスト17号174頁

            別冊ジュリスト21号210頁

            別冊ジュリスト33号154頁

            別冊ジュリスト44号254頁

            別冊ジュリスト69号342頁

            別冊ジュリスト96号404頁

            地方税13巻4号80頁

            地方税22巻7号77頁

            時の法令421号30頁

            判例評論48号8頁

            法曹時報14巻5号112頁

            法律のひろば15巻5号23頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人伊藤仁の上告趣意第一点、弁護人青柳盛雄、同池田輝孝、同青柳孝夫の上告趣意第一点ないし第三点、及び被告人本人の上告趣意中憲法違反をいう点について。

 所論はるる論述するが、要するに、遊興飲食税の特別徴収は所論憲法の諸条章に違反するものであり、従つてこれを維持した原判決も違憲であるという趣意に帰する。

 思うに、国民の負担する具体的な担税義務は法律によつて定まる、このことは憲法三〇条、八四条の明示するところである。そして、これらの規定は担税者の範囲、担税の対象、担税率等を定めるにつき法律によることを必要としただけでなく、税徴収の方法をも法律によることを要するものとした趣旨と解すべきである。税徴収の方法としては、担税義務者に直接納入させるを常則とするが、税によつては第三者をして徴収且つ納入させるを適当とするものもあり、実際においてもその例は少くはなく、本件における遊興飲食税の特別徴収は正にこの部類に属する。けだし、遊興飲食税の如きものを担税者より直接徴収するが如きは徒に費用と手数を要し、もしこれを強行するときは、遊興飲食税を確保することは殆ど期し難いからである。この故に、法律は遊興飲食税の徴収は特別徴収の方法によらなければならない(地方税法一一八条一項)とし、特別徴収の手続として、料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者を当該道府県条例によつて、特別徴収義務者と指定の上、これに徴収させることとし(同法一一九条一項)、―特別徴收義務者は現実に税を徴収したると否とにかかわらず、当該税額を納入しなければならない―この特別徴収義務者に当該道府県条例で定める納期限までに徴収すべき遊興飲食税にかかる課税標準額、税額その他同条例で定める事項を記入した納入申告書を道府県知事に提出させて納入金を納入する義務を負わせ(同法一一九条二項)右一一九条二項の規定によつて徴収して納入すべき遊興飲食税に係る納入金の全部又は一部を納入しなかつたときは三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金刑を併科する(同法一二二条一項)、こととしているのである。そして、本件におけるが如き料理店の実質的経営者が当該道府県条例により一方的に納税義務者と指定され、且つ現実に税を徴収したると否とにかかわらず、当該税額を納入しなければならないとされている点は、いささか重い負担をかける感がないわけではないが、そのような措置を採らなければ、遊興飲食税は徴収の実を挙げることを得ないのであるのみならず、他面、徴税のため煩雑な手続、多くの費用、起り易い紛争を避けることができ、公共の福祉のためになることであるから、真に已むを得ないところと言わなければならない。また前示罰則の如きも、憲法にいわゆる残虐の刑と呼ぶべき筋合のものではない。(昭和二二年(れ)第三二三号、同二三年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七七七頁参照)。

 以上の次第で、本件遊興飲食税の特別徴収は憲法に基そを有する法律上の制度であり、しかも、上叙の如き合理的根拠を有するものであるから、右制度及び原判決を憲法一一条、一二条、一三条、二二条、二九条、三一条、三六条の諸条章に反するものとする所論はすべて理由がなく、採用のかぎりではない。

 弁護人青柳盛雄、同池田輝孝、同青柳孝夫の上告趣意第四点について。

 所論は、地方税法一二条一項及びこれに基いてなされた原判決は憲法二一条に違反するというのである。

 しかし、憲法二一条の保障する言論の自由といえども、絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することを許されないことは、すでに当裁判所大法廷の判例(昭和二八年(あ)第一七一三号同三二年三月一三日判決、刑集一一巻三号九九七頁参照)とするところである。そして納税義務者又は特別徴牧義務者のなすべき税金の徴牧若しくは納付しないこと、又は納入金の納付をしないことなどを煽動することは、地方団体の住民の負担する納税の義務の不履行を慫慂するものであつて、公共の福祉を害し、憲法の保障する言論の自由の範囲を逸脱するものであるから、これを処罰する旨を定めた地方税法一二条一項の規定は憲法二一条に反するものではない。それ故、所論は採用できない。

 同第五点について。

 地方税法一二条一項にいう煽動とは、同条項に掲げた所為のいずれかを実行させる目的で文書若しくは図画または言動によつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生ぜしめるような、または既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいうものと解するを相当とする。してみれば、右条項の煽動という概念は必ずしも所論のようにあいまいであり、漠然としているものとは言い難く、従つて、所論違憲の主張はその前提を欠くに帰し、採用できない。

 弁護人伊藤仁の上告趣意第二点、弁護人青柳盛雄、同池田輝孝、同青柳孝夫の上告趣意第六点ないし第八点、及び被告人本人の上告趣意中違憲主張を除くその他の点について。

 所論はいずれも単なる法令違反、事実誤認の主張を出でないものであつて、すべて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、記録を調べても同法四一一条一号、三号を適用すべきものとは認められない。

 よつて、刑訴四〇八条により裁判官藤田八郎、同垂水克己、同奥野健一の補足意見、同河村大助の少数意見あるほか裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

 裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。

一 地方税法一一三条所定の遊興飲食は、主食を入手し医療を受ける行為などと異り、人が金銭的余裕に恵まれた場合にするものだから同条が遊興飲食者(以下客ということがある)に遊興飲食税を課することの相当であることには先ず問題はない。

  では遊興飲食客から同税を徴収するのに本人の申告により調査して徴税の決定をするような方法を採つてはどうか。もし客が一定期間にした遊興飲食についてその年月日、場所、経営者、遊興飲食の態様、料金等を申告し、経営者がこれを帳簿等によつて証明し地方公共団体がこれを調査の上各遊興飲食者に対する課税額を決定するような制度を採るとしたら、遊興飲食客と経営者と地方公共団体(税務課)の三者の手数の煩雑、労力、費用の損失は測り知れず、恐らく実行不可能であろう。けだし、客は住所地外に出てこれをすることも多く、いずれにせよ、遊興飲食の際、経営者に自己の住所、氏名を打ち明けたり、遊興飲食の証拠を保存したりする意欲も利益も持たないことも頗る多いと思われるからである。客が遊興飲食の正しい報告をしない場合に税務課が経営者側の営業調査をしただけでは、多大の日時、労力、費用を用いながら、誰がどんな遊興飲食をしたかを殆んどつかめまい。また各地方公共団体がその住民の他地方での遊興飲食について全国各地方公共団体に照会して真実の報告を得ることの如きは莫大の費用、労力を要するのみならず不成功に終る可能性が高い。とすれば、客が遊興飲食した金銭的余裕ある際に同税を客から徴収する方が成功確実である。そしてこの納税も前段説示のようにやむをえないものである以上、特別徴収の方法は誠実な遊興飲食者にも好都合であることは入場税、通行税の場合と異らない。

  とに角、遊興飲食税を経営者が特別徴収する制度が地方公共団体と住民大衆の両者にとつて便宜であり公共の福祉に適合する点は多く論ずるまでもない。

二 では、料理店等の場所(その事業所得については別に所得税が納められる)の「経営者その他徴収の便宜を有する者」で条例で指定された者に特別徴収義務を課する規定は、殊にその義務違反に対し地方税法所定の刑を科する法律の規定は、不合理というべきか。

 (1)思うに経営者は業として遊興飲食を誘引しまたは助けこれに原因を与え、よつて利得する者であり、彼は客及びその遊興飲食の態様、程度やその料金額を知りこれを受取りもしくはその請求債権を有する者であるから、彼がその料金と同時に担税義務者から遊興飲食税を預かりこれを他日納入することは前述のような他の方法によつて税金納入に協力するよりも労力、費用の点で助かる訳である。

  (料理店等の場所の経営者の経理全般に宜つて関与する使用人も経営者を助け彼に類似する地位に立つものであるから「徴収の便宜を有する者」といえよう。)

 (2)また、地方公共団体の税務課員が連日料理店等の場所に赴き遊興飲食料金支払の都度その場で客から同税の支払を受ける制度(莫大の人員・費用・時間を要する)の如きは客から喜ばれない結果商売繁昌に差障わるのでこれを実施されないことの方が経営者にも利益であろう。

 (3)経営者は同税を徴収納付するため、多少余分の労力、設備、費用を要するに違いないが、経営者はこれらの経費を営業経費に織込みこれを遊興飲食料金に含めて実質上客に転嫁することができる地位にいる。

 (4)特別徴収義務者たる経営者は客から徴収しえた同税金額を地方公共団体に翌月納付するまでの間(昭和二五年九月一日施行広島県条例四二条参照)手許に預かり(消費寄託)これを利用できる地位にいる。この利益は無視できない。同税不払客に対しては元来その支払請求権を持つており、同法所定の求償権も持つているのである。してみれば、条例によつて指定された経営者が他の方法によるよりも特別徴収の方法によつて徴収する義務を課せられることは経営者にとつて必ずしも不便不合理というに足りない。(固より労役もしくは私有財産の無償徴発ではない。)

三 われわれ日本人は日本国をつくりわれわれの総意によつて憲法、法律を定めて国や地方公共団体が国民の精神的・物質的生活の進歩向上に貢献する不断の活動をするように仕向ける。けれども国や地方公共団体は性質上、金銭的支出をすることなしには国会も開けず、最低限度の生活の保障もできず、一日として活動できない存在である。この活動のエネルギ―源が歳入である。最近わが国の歳入の八二・五パーセントは税収入で、地方税は国の歳入の三五パーセントを占め、地方公共団体の平均歳入の四〇パーセントは地方税であるといわれる。これらが国の歳入となつて教育費(歳出の二八・二パーセント)を筆頭とする歳出に充てられる。このことはとに角納税の必要性の高いことを物語るものではなかろうか。

 裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。

 弁護人伊藤仁の上告趣意第一点、弁護人青柳盛雄外二名の上告趣意第一点ないし第三点及び被告人本人の上告趣意中憲法違反をいう点について。

 憲法三〇条は「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負ふ」と規定し、また同八四条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定している。従つて、租税の創設、変更、納税義務者、課税標準、徴税手続等すべて法律に委せられていると解し得るとしても、その法律の内容は憲法の各条章に適合する合理的なものでなければならないものと考える。

 地方税法(昭和二五年法律二二六号)は遊興飲食税の特殊性にかんがみ、直接納税の制度を採らず所謂特別徴収の方法によるべきことを定めている(同法一一八条)。従つて、右特別徴収の制度は法律に基くものであることは疑いないところではあるが、果して憲法各条章に反しない合理的なものであるか否かを検討する要がある。思うに、遊興飲食税の徴収のため徴収職員を各料理店に派遣してその場に居合せ税の納付を受けしめることは事実上不可能であり、他面納税者たる客に直接に納税せしめることは煩雑な手続と費用を強いることになる等徴税確保の便宜を考慮するときは、所謂特別徴収義務者を指定して、その者に地方団体に代わつて遊興飲食税を徴収せしめ、その税を地方団体に納入する方法によることは止むを得ない制度であるというべく、また、特別徴収義務者として料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者を指定すること(同法一一九条)も、必しも不合理であるということはできない。けだし、料理店の経営者又はこれに準ずる徴収の便宜を有する者(例えば形式上の名目は他人名義であるが実質上の料理店の経営者であるというような者)は客より遊興飲食税を徴収するにつき最も便宜な地位にあるものであり、他面客に代わつて右税金を地方団体に納入し客の負担を軽減することは結局自己の利益を増進する所以でもあるからである。尤も、徴収義務者は税金の代納のため多少の費用の負担は免れないところであり、また、客より徴収を怠つた未徴収部分の税金についても納入義務があり、その結果不納入罪の制裁を課せられるなど不利益な面もあるのであるが、特別徴収義務者に支払わなかつた税金については特別徴収義務者は当該納税者に対して求償権が認められ、かつその求償権に基く訴については徴税吏員は証拠の提出その他必要な援助を特別徴収義務者に与えなければならない(同一一九条三項)ことになつているのみならず、これら特別徴収義務者は予め地方税法上かかる特別徴収義務を課せらるべきことを承知の上で、料理店の経営者又は実質上これと同様の地位に就いた者であるから不測の不利益を強いられるものということはできない。これを要するに、遊興飲食税の特殊性からくる税徴収確保という公共の福祉の必要性と料理店の経営者又はこれに準ずる者のその間に占める特別な地位とを勘案考慮するときは、この地方税法の遊興飲食税の特別徴収の制度は、必しも不合理なものとは言い難く、所論憲法の諸条文に反するものではない。

 地方税法一二二条の罰則規定は特別徴収義務者が単に納入金を所定納入期日までに納入しないということのみで処罰されるものではなく、一般の犯罪の場合と同様犯意を必要とし、従つて特別徴収義務者が故意に徴収すべき地方税の徴収を怠り納入しなかつたこと又は既に徴収した税金を納入しなかつたことを処罰するものであると解するから、実質的には背任罪的又は横領罪的色彩をもつものであり、またその法定刑も他の犯罪のそれと比較して著しく苛酷なものとも言い難く固より残虐な刑にもあたらない。従つて、右地方税法一二二条の罰則が憲法三一条、三六条に反するとの所論も採り難く、また、地方税法一二条一項に対する所論違憲の主張については多数意見が弁護人青柳盛雄外二名の上告趣意第四点について判示したところと同じ理由により、憲法三一条、三六条にも違反するものではないと考える。

 裁判官藤田八郎は、右奥野裁判官の補足意見に同調する。

 裁判官河村大助の少数意見は次のとおりである。

 本件における第二犯罪は、遊興飲食税の特別徴収義務者として指定された被告人が、納税者から徴収して納入すべき遊興飲食税を所定の期日に納入しなかつた行為であつて(原判決参照)、すなわち、徴収しないで納入しなかつた不作為(以下立替不納入と略称する)による犯罪である。わたくしは、原判決中この立替不納入罪に関する限り多数意見と所見を異にするので、以下卑見を陳述する。

 凡そ国家が行政上又は政策上の目的を実現するため、個人に対しある行為を命令し又は禁止する場合において、これに違反したる者に対して、行政罰を科することは各種の行政法規において一般的に認められるところであるが、その違反の事実が単純な公法上の義務を怠つたものであつて、反倫理性をもたないか若しくはその程度の極めて微弱なものであるときは、行政秩序違反として所謂秩序罰程度の行政罰を科するを相当とし、反倫理性を要素とする刑事犯罪と同様の刑罰を科すべきでないことは異論のないところであろう。そしてある行為に秩序罰を科すべきか、刑事罰を科すべきかは単なる立法政策の問題として看過すべきでないと考えられる。

 けだし人権保障を強く標榜し、人権の制限、剥奪には合理的根拠を必要とする憲法の精神に照らし、憲法三一条の「法律に定める手続」とは「法律の正当な手続」の保障、すなわち、法律の内容が適正であることを要する適正条項の要請をも含むものと解するを相当とするからである。そして何が適正条項かは、窮極するところ正義と合理性の判断を基準として定むるの外はないと思料する。従つて行政法規違反のある行為につき秩序罰程度の行政罰を科するを相当とする場合に、重い刑事罰を科する規定を設くることは、立法の過誤であつて、憲法三一条違反の非難を免れないものといわなければならない。

 ところで地方税法一二二条一項は「第一一九条二項の規定によつて徴収して納入すべき遊興飲食税に係る納入金の全部又は一部を納入しなかつた特別徴収義務者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」と規定している。右規定は特別徴収義務者が納税者から徴収しないで納入を怠つた場合(立替不納入)と徴収したのに納入を怠つた場合の両者を包含するものと解すべきことは正に原判決判示のとおりである。しかして、特別徴収義務者は料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者につき一方的に指定されるものであること(同法一一九条、府県条例)及びその特別徴収手続が止むを得ない制度であることは奥野裁判官の補足意見のとおりであるが、多数意見もその理由とする「遊興飲食税の如きものを担税者より直接徴収するが如きは徒に費用と手数を要」するとのことは、特別徴収義務者にそのまま転嫁されるものであつて義務者の負担する労費の容易ならざるものであることは顕著な事実である。然るに被指定者は一方的に指定されて、これを拒むこともできず、徴収の労務を負担しながらこれに対し何等報酬、費用等支弁の定めのない制度が果して合理的の制度といえるであろうか。それはともかくとして、かくの如く被指定者の意思にかかわりなく、一方的に指定され、しかも無償で徴収事務を執行すべき特別徴収義務者に対し、納税者から徴収することを怠り納入しない場合にふいて、納入しないという不作為それ自体につき、直ちに同法一二二条一項の如き重い刑罰を科することは著しく苛酷であるといわなければならない。かかる重い刑罰を科さなければならないことを正当化する社会的事実については、立法当時の記録からもこれを見出すことはできない。のみならず、取引界の実際においても多くは飲食代後払の慣習存在し、往々にして、その税金も徴収できない場合のあり得ることは明らかな事実であつて、かかる場合においても特別徴収義務者が、立替不納入罪の責任を負わなければならないとすることは如何にも苛酷な制裁ではあるまいか。とくに留意すべきは、かかる立替不納入の徴収義務者に対しても延滞加算金が課せられ(同法一三八条)、国税徴収法による滞納処分の執行が行われ(同法一三四条六項)、滞納処分を免れる不正行為に対しては重い刑罰の制裁を科する(同法一三五条)という、厳しい制裁が定められている。その上更に立替不納入の特別徴収義務者に対して制裁を科する必要があるかどうかは疑問であるが、税収入確保という重要な行政目的のためには何らかの制裁を科することが是認されるべきであるとしても、事は単純な公法上の義務違反であり、民事的には金銭債務の不履行であつて、倫理的無色の行為に外ならない立替不納入に対しては、精々秩序罰程度の制裁を相当とするものと解する。されば徴収した税金を納入しない行為や詐偽その他の不正行為による脱税犯(同条二項)と同一の法定刑によることにした同条一項の刑罰規定は彼此著しく均衡を失し、苛酷不当な刑罰と評せざるを得ないのである。

 一例を挙げて均衡を見る。家庭裁判所が、その調停や審判で定まつた家事債務につき、履行の勧告や履行命令を発する履行確保制度(家事審判法一五条二、一五条三)は、家事債務が概ね扶養料的性格を有し、これが確保は債権者の生存権の保障的機能を持つものであるから、家庭に対し後目的役割を果すべき国家が特に債務の実現に協力することにしたものと解せられる。従つて金銭的給付を目的とする債務とはいえ、その重要性においては、決して本件の飲食税立替納入義務と逕庭があるものではない。然るにこの家事債務の履行命令に対し、義務者が正当の事由なくして、その命令に従わないときは、五千円以下の過料に処せられる(同法二八条一項)のである。けだし命令不遵守に対する制裁としては適当な行政罰といえよう。この行政罰と本件立替不納入罪の刑罰を比較して見ると、後者が如何に苛酷不当であるか多言を要せずして明らかである。

 以上の理由により、わたくしは、立替不納入の行為に地方税法一二二条一項を適用する限りにおいて、同条は違憲無効であると解する。弁護人青柳盛雄外二名の上告趣意第三点は叙上の違憲論を含むものと認められるから、論旨は結局理由あるに帰し、原判決は破棄すべきものと思料する。

  昭和三七年二月二一日

     最高裁判所大法廷

         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎

            裁判官    斎   藤   悠   輔

            裁判官    藤   田   八   郎

            裁判官    河   村   又   介

            裁判官    入   江   俊   郎

            裁判官    池   田       克

            裁判官    垂   水   克   己

            裁判官    河   村   大   助

            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

            裁判官    奥   野   健   一

            裁判官    高   木   常   七

            裁判官    石   坂   修   一

            裁判官    山   田   作 之 助

            裁判官    五 鬼 上   堅   磐

 

保証債務履行と損益通算 所得税法64条2項について東京地裁平成19年

渕『所得税法講義』209頁

所得税更正処分取消請求事件

東京地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第448号

平成19年4月20日

【判示事項】      原告が,本件更正処分が,保証債務の履行のために原告所有の土地建物を譲渡したことについて,その譲渡所得の計算にあたり,所得税法64条2項に定める保証債務を履行するための資産の譲渡があった場合の特例を適用していないこと及び租税特別措置法31条の3に規定する居住用財産部分の算定方法を誤っているとして,本件更正処分等の取消しを求めた事案について,前者につき,債務者側の事情だけでなく,債権者側の事情等の客観的事情を総合考慮した上で求償債権の回収の見込みのないことが確実か否かを判断するのが妥当であり,本件の場合,上記保証債務の特例を適用を認め,後者については,原告の主張は採用できないとして,納付すべき税額及び過少申告加算税を算定して,算定額を超える部分について請求を認容した事例

【判決要旨】      (1) 保証債務の特例に限定する「求償権の全部又は一部が行使することができなくなったとき」に当たるかどうかは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情だけでなく、求償債権を行使する債権者側の事情等の客観的事情を総合考慮した上で、所得税の確定申告期限において求償債権の回収の見込みのないことが確実となったか否かにより判断するのが妥当である。

            (2) 省略

            (3) 租税特別措置法31条の3に定める居住用財産とは、自己が所有し居住の用に供していた家屋及び当該家屋の敷地の用に供されていた土地等であるから、納税者が所有する本件の土地に係る譲渡所得のうち本件特例の適用対象となるのは、納税者が所有していた土地の譲渡による譲渡所得のうち、納税者が所有し、その居住の用に供していた家屋である建物等の敷地の用に供されていた部分に対応する譲渡所得となる。具体的には、納税者の所有する土地の譲渡価額に居住用割合(納税者の所有する土地及び隣接地上に建っている建物がそれらの土地に面している床面積(建築面積)の合計床面積に占める納税者が所有し居住の用に供していた建物等がそれらの土地に面している床面積(建築面積)の割合)を乗じて算出するのが合理的である。

【掲載誌】       税務訴訟資料257号順号10699

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      Lexis判例速報9号127頁

 

       主   文

 

     1 北沢税務署長が、原告に対し、平成15年11月17日付けでした原告の平成14年分の所得税の更正処分(ただし、国税不服審判所長が平成17年4月19日付けでした審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち、納付すべき税額2292万3600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、過少申告加算税額36万1000円を超える部分を取り消す。

     2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

     3 訴訟費用は、これを20分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   北沢税務署長が、原告に対し、平成15年11月17日付けでした原告の平成14年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。ただし、国税不服審判所長が平成17年4月19日付けでした審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち、納付すべき税額2231万7700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)のうち、過少申告加算税の額11万5000円を超える部分を取り消す。

   なお、原告は、訴え提起時には、本件更正処分のうち、納付すべき税額1930万6700円を超える部分の取消しを求めていたが、第8回口頭弁論において、上記のように訴えを一部取り下げている。

第2 事案の概要

   本件は、本件更正処分について、原告が、原告の親族が経営する同族会社に係る保証債務の履行のために原告所有の土地及び建物を譲渡したことについて、その譲渡所得の計算上、所得税法64条2項に規定する保証債務を履行するための資産の譲渡があった場合における所得計算の特例(以下「本件保証債務の特例」という。)が適用されるべきであるのにこれを適用していないこと、及び租税特別措置法31条の3に規定する居住用財産に該当するものを譲渡した場合の所得税額の軽減の特例(以下「本件軽減税率の特例」という。)が適用される居住用財産部分の算定方法を誤っている旨主張し、本件更正処分及び本件賦課決定処分(以下両処分を「本件各処分」という。)の取消しを求めた事案である。

 1 関係法令等には次のような定めがある。

 (1)所得税法64条(資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例)

    1項 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなった場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこととなった場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなった金額又は返還すべきこととなった金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかったものとみなす。

    2項 保証債務を履行するため資産(第33条第2項第1号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第1項に規定する政令で定める行為を含む。)があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなった金額とみなして、同項の規定を適用する。

 (2)所得税基本通達64-1(回収不能の判定)

    法第64条1項に規定する収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を回収することができなくなったかどうか、又は同条第2項に規定する求償権の全部若しくは一部を行使することができなくなったかどうかの判定については、51-11から51-16までの取扱いに準ずる。

 (3)所得税基本通達51-11(貸金等の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)

    貸金等について次に掲げる事実が発生した場合には、その貸金等の額のうち、それぞれ次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する年分の当該貸金等に係る事業の所得の金額の計算上必要経費に算入する。

   (中略)

    4項 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し債務免除額を書面により通知したこと。

 (4)国税庁は、平成14年12月25日付けの「保証債務の特例における求償権行使不能に係る税務上の取扱いについて(通知)」と題する書面(以下「本件課税庁の取扱い」という。乙47)において、求償権行使の可否の判定は、所得税基本通達64-1に基づき、所得税基本通達51-11に準じて判定し、そのうち、同通達51-11(4)については、その法人がその求償権の放棄後も存続し、経営を継続している場合であっても、①その代表者等の求償権は、代表者等と金融機関等他の債権者との関係からみて、他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情により、放棄せざるを得ない状況にあったと認められ、かつ、②その法人は、求償権を放棄することによってもなお、債務超過の状態にある場合(なお、土地等及び上場株式等は時価で評価する)に、債務者に対し債務免除額を書面により通知した場合には、求償権の行使は不能と判定することとしている。

 (5)租税特別措置法(以下「措置法」という。)31条の3第1項(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)

    個人が、その所有する土地等又は建物等でその年の1月1日において第31条3項に規定する所有期間が10年を超えるもののうち居住用財産に該当するものの譲渡(中略)をした場合(中略)には、当該譲渡による譲渡所得については、第31条第1項(中略)の規定により当該譲渡に係る課税長期譲渡所得金額に対して課する所得税の額は、同条第1項各号及び同条第2項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する額とする。

    1号 課税長期譲渡所得金額が6000万円以下である場合

       当該課税長期譲渡所得金額の100分の10に相当する金額

    2号 課税長期譲渡所得金額が6000万円を超える場合

       次に掲げる金額の合計額

     イ 600万円

     ロ 当該課税長期譲渡所得金額から6000万円を控除した金額の100分の15に相当する金額

 2 前提事実等(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

 (1)関係会社等の概要

   ア 原告は、放送、演劇、映画等の各方面で活動し、平成3年に文化勲章を受章するなどした著名な俳優・演劇人である。

   イ 株式会社F(以下「F」という。)は、原告が自ら出資して昭和40年5月12日に設立した法人であり、百貨店に対し、弔事用贈答品に関する見込み客情報を提供するとともに、同情報に基づいて百貨店が販売した弔事贈答品に関する帳票類の作成・販売事務処理等の業務委託を受けることを業務としていた。当初は、原告自身が代表取締役に就任したが、昭和45年ころから原告の二男であるG(以下「訴外G」という。)に経営を委ね、同人が代表取締役に就任すると、同社の株式も漸次訴外Gらに譲渡していき、平成6年9月末時点で原告が保有していた全株式の25パーセント(甲3)の株式も、その1年後までに全て訴外Gに譲渡した(甲26)。

     同社は、本店と名古屋支店の2店舗を有し、本店は、ほぼ伊勢丹一社と取引し、名古屋支店は名鉄百貨店一社と取引しており、売上全体に占める割合は、伊勢丹との取引が約80%、名鉄百貨店との取引が約20%を占めていた。

   ウ H株式会社(以下「H」という。)は、昭和58年8月に設立され、原告の長男であるIが代表取締役を務めていたが、同人が死亡したのちは同人の妻のJ(以下「訴外J」という。)が、その後はIの長男であるK(以下「訴外K」という。)が、それぞれ代表取締役を務めていたが、平成14年12月31日の株主総会決議により解散した(甲2)。

   エ 株式会社L(以下「L」という。)は、昭和55年5月に設立され、訴外Kが代表取締役を務めていた法人であり、主に港湾土木機器設備等取付工事受託業を営んでいたが、平成14年12月31日の株主総会決議により解散した(甲2)。

 (2)Fの債務及び原告保証の経緯

   ア 原告は、昭和51年12月27日、Fの富士銀行(現みずほ銀行。以下統一して「富士銀行」という。)に対する債務について連帯保証人となった(乙10)。

   イ Fは、昭和63年1月20日に、富士銀行から1億2800万円を借り入れた(乙12)。

   ウ 原告及び富士銀行は、平成3年2月に、原告の所有する東京都世田谷区(以下略)の土地1799.53平方メートル(以下「本件A土地」という。乙1)及び東京都世田谷区(以下略)、同番地○○所在の家屋番号○○○番○の○の建物(以下「本件A建物」という。乙4)について、債務者をF、債権者を富士銀行(取扱店経堂支店)とする以下の内容の根抵当権を設定した(乙1及び乙4)。

    ① 平成3年2月8日受付、原因同月7日設定、極度額1億2000万円

    ② 平成3年2月22日受付、原因同月14日設定、極度額1億3000万円

   エ Fは、平成9年5月14日、原告及び訴外Gを連帯保証人として富士銀行から1億1400万円を借り入れた(乙13)。

   オ 原告、訴外G、F、L及びHは、平成14年3月25日時点において、富士銀行及び日本抵当証券株式会社(以下「日本抵当証券」という。)に対して、元金及び利息を併せて合計20億9200万円の債務を負っていた。そして、Fは、平成15年6月18日の原告らによる代位弁済直前の時点において、富士銀行に対し、上記イの1億2800万円につき6298万9036円、上記エの1億1400万円につき1億0350万円の借入金債務残高があった(甲4)。

 (3)本件A土地等の譲渡及び原告の保証債務の履行の経緯

   ア 平成14年3月28日、原告、訴外G、訴外J及びHが、①原告の所有する本件A土地、②訴外J所有の東京都世田谷区(以下略)の土地221.60平方メートル(以下「本件B土地」という。乙2)、③H所有の同所同番○の土地675.13平方メートル(以下「本件C土地」という。乙3)、④原告所有の本件A建物、⑤訴外J所有の同所同番地○、同番地○○所在の家屋番号○○○番○○の建物(以下「本件B建物」という。乙5)、⑥訴外J所有の同所同番地○所在の家屋番号○○○番○の○の建物(以下「本件C建物」という。乙6)及び⑦訴外G所有の同所同番地○所在の家屋番号○○○番○の○の建物(以下「本件D建物」といい、上記①ないし⑦の土地建物を「本件土地建物」という。乙7)を、10億6000万円(以下「本件譲渡価額」という。)で大和ハウス工業株式会社(以下「大和ハウス」という。)に売却する契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(乙8)。なお、本件売買契約における固定資産税等の精算条項(乙8の13条)に基づき、精算金215万6665円(別表2参照。以下「本件精算金」という。)が大和ハウスから原告らに支払われている。

   イ 平成14年6月18日、本件譲渡価額10億6000万円及び本件精算金215万6655円の合計額10億6215万6665円(以下「本件合計譲渡価額」という。)が、富士銀行経堂支店の原告の預金口座に振り込まれ、同日付けで、原告、訴外G、L、H及びFの債務の弁済に充てられたが(乙14)、そのうち、Fの債務の弁済に充てられたのは別表3のとおり1億2000万円であり、そのうち原告が保証人として代位弁済した額は、1億0325万4025円であった。

   ウ その後、原告に対し、上記イの代位弁済金のうち平成14年9月30日にFから150万円が返済されたほか、Hから、同年8月2日に201万円、同年9月2日に200万円、同年11月5日に370万円がそれぞれ返済された(乙14)。その結果、原告のFに対する求償権の額は、別表5の③のとおり1億0175万4025円となった。

   エ 原告は、F、L及びHの各代表取締役宛に、原告が各社に対し有する求償権のうち、既に返済された上記ウの金額を除く残額について求償権の行使を放棄する内容の平成15年3月17日付けの「通告書」と題する書面を内容証明郵便により送付した(乙16ないし乙18)。

 (4)Fの解散等

    Fは、平成15年7月31日の株主総会決議により解散し(同年9月2日登記、甲2)、清算人を訴外Gとする清算会社となった。なお、Fの本店事務所は平成15年9月末日、名古屋支店事務所は平成16年3月末日をもって閉鎖している(弁論の全趣旨)。

 (5)課税処分等の経緯

    本件に関する課税処分等の経緯は、別紙1のとおりである。

    なお、平成15年11月17日付けでされた更正処分等は、原告が本件譲渡価額をもってF及びHの金融機関に対する債務につき、連帯保証人として保証債務の履行をし、求償権行使が不能であるとして本件保証債務の特例及び本件軽減税率を適用して申告したのに対し、これらの特例の適用に関する原告の主張を否定したものである。そして、平成17年4月19日付けでされた審査裁決は、Hに係る保証債務の履行については、本件保証債務の特例の適用要件を満たしているとして原告の主張を認め、その余の原告の主張を否定し、本件各処分の一部を取り消したものである。

 3 税額等に関する当事者の主張

   原告の本件各事業年度の税額等に関する当事者の主張は、別紙2及び同3記載のとおりであり、本件の争点である本件保証債務の特例が適用される求償権行使不能額の範囲及び本件軽減税率の特例が適用される譲渡所得の範囲の算定方法に関する部分を除き、計算の基礎となる金額及び計算方法に争いはない。

 4 争点

   本件訴訟の争点は、(1)本件A土地の譲渡代金によりなされた原告の保証債務の履行について所得税法64条2項の本件保証債務の特例の適用があるか否か(原告の平成14年分の所得税の確定申告期限である平成15年3月17日時点において、原告がFに対して、求償権を行使することが不可能であったか否か)、(2)本件A土地の譲渡による譲渡所得のうち措置法31条の3に規定する本件軽減税率の特例が適用される譲渡所得の範囲である。

 5 争点に係る当事者の主張

 (1)争点(1)について

   (被告の主張)

   ア 本件保証債務の特例の趣旨

     所得税法64条2項は、保証人が、たとえ将来保証債務を履行することになったとしても主たる債務者に対する求償権を行使することによって最終的な経済的負担を免れるとの予期の下に、保証契約を締結したにもかかわらず、一方では保証債務の履行を余儀なくされたために資産を譲渡し、他方では保証契約締結時の予期に反して求償権を行使することができなくなった場合においては、これらの経緯を全体として見ると、当該資産の値上がり益を現実に享受する機会を失ったものとして、求償権を行使することができなくなった限度で、当該資産の譲渡による所得に対する課税を免れさせることによって、特に課税上の救済を図ろうとするものである。したがって、本件保証債務の特例は、求償不能という異例の事態について租税政策上の見地から特に課税上の救済を図った例外的規定であると解されるから、同特例を適用するに当たっては、条文を厳格に解釈すべきであり、同特例の適用を基礎づける事実の主張立証責任は、その適用を受けようとする納税者側にあるというべきである。

   イ 「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」の意義及び判断時期

     前記アのとおり、本件保証債務の特例の適用に当たっては条文を厳格に解釈すべきところ、「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、求償権の相手方たる債務者について、破産宣告、和議開始決定を受けるか、又は、失踪、事業閉鎖等の事実が発生したり、債務超過の状態が相当期間継続して金融機関や大口債権者の協力を得られないため事業運営が衰微し、再建の見通しもないこと、その他これらに準ずる事情があるため、求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実になった場合をいい、これは求償の相手方たる債務者の資産や営業の状況、他の債権者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的に判断すべきものである。そして、「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなった」かどうかは、保証債務を履行するために資産の譲渡があった年分の所得税の確定申告期限を基準として判断することになる。

   ウ 本件における本件保証債務の特例の適用について

   (ア)本件において、本件保証債務の特例が適用されるためには、平成14年分の所得税の確定申告期限である平成15年3月17日時点において、客観的に原告のFに対する求償権の行使が不可能となったことが確実であったことが必要となる。

   (イ)しかし、主たる取引先である名鉄百貨店とFとの間では、名鉄百貨店による契約内容の見直しの申し入れがなされていたものの、①両社間で平成15年2月28日に締結された同日から同年8月31日までの間の業務委託契約の内容は、従前の契約内容と変わらない内容であり、しかも、新たな業務委託契約の締結を前提とした過渡的期間の暫定的契約と解されること、②Fは、平成15年3月14日に行われた名鉄百貨店との新システムの開発の打ち合わせに参加していること、③Fは、平成15年3月17日の後においても名鉄百貨店に対し契約更新の意思があると認められる書面を送付していること、④両社は、平成15年8月31日に、同日から平成16年2月29日までの業務委託契約を締結していることなどからすれば、平成15年3月17日の時点で名鉄百貨店とFとの業務委託契約が終了する予定であったとは認められない。

   (ウ)また、主たる取引先である伊勢丹との間では、平成15年3月をもって業務委託契約が終了したものの、Fは、平成14年11月8日に、伊勢丹に対し業務委託契約終了に係る解決金2億円を請求しており、平成15年3月17日の時点において、その具体的な金額は確定していないが、解決金の受領が十分見込まれる状況にあったといえる。

   (エ)さらに、Fの平成14年9月30日現在の貸借対照表(乙35)によれば、資産合計から負債合計を差し引いた純資産額は7864万6955円の債務超過であるが、①長期借入金の額は年々減少し、原告及び訴外Gに対するものを除いた借入金額は、平成14年9月期が5843万9724円であり(乙35)、平成15年7月期が4362万9724円にとどまっていること(乙36の2)、②平成12年9月期において損失が生じていた営業収支及び経常収支についても、平成13年9月期及び平成14年9月期においては利益が生じていることがそれぞれ認められる。

   (オ)以上のとおり、Fは、本件保証債務の特例の適用の可否を判断する時点である平成15年3月17日において、名鉄百貨店との業務契約については従前どおり継続しており契約終了の予定がないばかりか新たな継続的取引関係を前提とする業務委託契約関係の見直し作業に入っていたこと、伊勢丹との業務委託契約を終了することが確定していたものの、伊勢丹に対して、銀行からの借入金や従業員退職金等会社清算の際にはFが原告以外の者に支払わなければならない金額の合計額をはるかに上回る解決金2億円を請求しており、同解決金の受領が見込まれていたこと、及び財務状況が直ちに破綻するとか再建の見通しがないというようなものではなかったこと等を併せ考えれば、原告がFに対して求償権を行使することが客観的にみて不可能となったことが確実であったとは認められない。したがって、Fの借入金に係る原告の保証債務の履行について、本件保証債務の特例の適用は認められない。

   エ 本件課税庁の取扱い

     以上の結論は本件課税庁の取扱いとも合致している。

   (ア)本件課税庁の取扱いにおける法人の代表者等とは、主たる債務者である法人の経営責任を問われる結果、求償権の放棄を優先的に余儀なくされる立場にある主たる債務者である法人の意思決定権を有する者をいうものと考えられるから、たとえ主たる債務者である法人の代表者の親族であっても、主たる債務者の法人の意思決定権を有しない者は代表者等には含まれないというべきである。

      そして、原告は、債務者であるFを設立した後、昭和45年頃にはその代表取締役を辞任し、同社の株式を保有していた時期も平成6年9月までであり、その後、原告がFの経営に関与していたとの事実は認められない。したがって、原告は上記取扱いにおける法人の代表者等には、そもそも該当しない。

   (イ)Fの平成14年9月30日現在の貸借対照表によれば、資産合計は1億5544万0076円であり、負債合計は2億3408万7031円である(乙35の2枚目)。

      そして、原告がFに対する求償権を放棄した場合の負債合計は1億1408万7031円(2億3408万7031円-1億2000万円)となり、資産合計1億5544万0076円から原告が求償権を放棄した場合の負債合計1億1408万7031円を差し引くと4135万3045円となる。上記の金額は、平成15年3月17日現在のものではないが、この他にもFは、伊勢丹に対し2億円の解決金を請求中であることからすれば、原告が求償権を放棄することによってもなお、Fが債務超過の状態であるとはいえない。

   オ 原告の主張に対する反論

   (ア)原告は、伊勢丹からの弔事情報の蒐集に関わる業務委託の中止により、伊勢丹関連の売上は直ちに半減以下となり、営業の継続は困難となる旨主張する。

      しかし、伊勢丹からFに対する業務委託内容は①弔事贈答品の訪問販売に必要な顧客情報の提供、②伊勢丹が販売した弔事贈答品について、帳票類の作成及び必要な帳票書類の作成等の業務であるところ(乙29)、それぞれの業務に係る売上高は別表11のとおりであり、Fの伊勢丹に対する売上高に占める顧客情報の提供による情報売上高の割合は、おおむね14%程度にすぎない(別表11④)

      また、顧客情報の提供業務委託中止後の上記②の委託業務による平成14年12月以降平成15年3月までの手数料売上高の平均が、顧客情報の提供業務委託中止前の平成14年10月分及び同11月分の手数料売上高の平均に占める割合は88.5%(別表11⑦)、同じく平成14年10月分及び同11月分の合計売上高の平均に占める割合は76.4%(別表11②)程度である。

      さらに、伊勢丹から委託業務の中止を申し入れられた顧客情報の提供業務による損益状況(情報売上高から情報購入原価を差し引いた金額)は、平成12年9月期が838万3672円の損失、平成13年9月期が53万5743円の損失、平成14年9月期が115万2718円の利益であることや(別表10)、「東京支店損益計算書」と題する書面(甲14)において、伊勢丹から委託業務の中止の申し入れがある以前の各期の情報購入費が情報購入売上高よりも多いことからすると、同業務は、元々損失が生じるかあるいはほとんど利益の見込めないものであった。

      これらの事情に照らせば、伊勢丹に対する弔事贈答品の訪問販売に必要な顧客情報の提供業務が打ち切られたとしても、Fの経営に与える影響は極めて少ないといわざるを得ないから、原告の主張は失当である。

   (イ)原告は、名鉄百貨店から委託を受けている業務についても、業務を自社化して合理化するとともに、すべての経費の再見直しを行う旨の通知を受けたとして、同百貨店関連の売上高についても、大幅な低下が予想された旨主張する。

      しかし、名鉄百貨店から経費の見直し等の申し入れがなされた後、平成15年2月28日に締結された平成15年2月28日から平成15年8月31日までの間の契約内容は、従前の契約内容と異ならないのであり、同期間における契約書には、従前の契約と同額の530万円の最低保証もあるのであるから、この点についての原告の主張には理由がない。

      また、原告は、平成15年8月31日、名鉄百貨店との間で、期限が到来した業務委託契約につき、関連業務の支障のない承継のために平成16年2月29日まで延長し、その時点で取引を終えることとした旨主張する。

      しかし、Fが名鉄百貨店と平成15年8月31日に締結した平成15年8月31日から平成16年2月29日の間の業務委託契約書には、平成16年3月1日以降の契約内容について、新たな業務委託契約を締結することを前提に現行の内容では契約しない旨約定しているのであり、契約の終了が決定されていたというよりも、むしろ、継続的取引を前提とする新たな業務委託契約の内容検討が行われていたというべきである。そのことは、平成14年10月には、名鉄百貨店からFに新たな契約検討の申入れがあった上、平成15年10月29日に、Fは、名鉄百貨店に対し、平成16年3月1日以降の契約内容についての問い合わせすらしていることからも明らかである。

      さらに、原告は、平成15年3月17日の時点において、Fは、法人としての存続は断念し、名古屋支店の別会社としての生き残りを模索していた旨主張する。

      しかし、名鉄百貨店とFとの平成15年2月28日から同年8月31日までの契約期間における業務委託契約の内容が従前の契約期間における業務内容と異ならず、Fは、平成15年3月17日以後においても、名鉄百貨店に対し、契約更新の意思があることをうかがわせる書面を送付していること(乙24から乙27)からすれば、平成15年3月17日時点において法人としての存続を断念した旨の原告の主張は事実に反する。

   (ウ)原告は、Fの平成15年7月末における純資産額の算定に当たり、資産について時価評価した場合、相当減少することが明らかであるから、実際の債務超過額は決算書上の数額より大きいとして、Fに対する求償権の行使が不可能であった旨主張する。

      しかし、原告の上記主張の根拠とする「平成15年7月末日現在の貸借対照表とその時価評価額」と題する書面(甲13)における資産及び負債の中には、以下に述べるように平成15年7月末における時価が正確に反映されていない点が多々見受けられるのであり、これらの点を是正して平成15年3月17日時点の時価による純資産額を推算すると、伊勢丹から受領する解決金の額如何によっては、資産超過となることもあり得るのであるから、甲13を根拠にFに対する求償権の行使が不可能であったということはできない。

↑このページのトップヘ