岡本法律事務所のブログ

カテゴリ: 行政法

モンスターペイシェントについて
もともとは2016年にかいたものです。

 

            弁護士 岡本 哲

1 患者がおかしい

無理難題をいう患者について医師は診療を断ることができるのか。

 法律的には医師法の応召義務の解釈とあてはめの問題になる。医師法19条1項は、診療治療の求めがあった場合に正当に事由がなければこれを拒んではならないと規定する。応召義務・診療義務と呼ばれている。医業の公共性と業務独占からみちびかれるとするが業務独占性の強いほかの分野では契約強制が明文化されていること、戦前は違反に罰金がかされていたが戦後は削除されている。沿革的には帆的な強制の程度は弱くなった。戦前戦後で医師の数が増えていることからもそうそう義務化すべき状態ではんかった。ところが下級審判例や学説上は業務上過失致死罪や私法上の契約責任を認めて医師の法的責任を認める傾向がある。中森喜彦京都大学名誉教授は1972年の助教授時代の論文で、刑事法的強制に疑問を呈している。樋口範雄東京大学教授も2007年の医師への行政処分が強化されたことをうけて民事刑事の強制については疑問を呈している(樋口範雄「医療と法を考える」有斐閣・2007年79頁以下)。樋口教授は民事・刑事・行政それぞれの効果に対応してきめ細かく論ずべきとされる。いずれにせよ刑事法的に違法なものまで強制されるすじあいはない。

 

週刊朝日2016年9月2日号21頁によれば医師が理不尽な要求をされるモンスターペイシェントについて勤務医の53パーセント、開業医の43パーセントが経験あるとこたえている。勤務医のパーセンテージが高いのは、勤務医は大病院にいることがおおく、重症患者をみることがおおいこと、患者の期待がおおきことが影響していると推測されている。

個別例を検討してみる。。

 

 

第1例

ただの発熱患者が他の患者の心肺蘇生中に処置室に乱入して「俺を早く診ろ!」とどなってきた

他の患者の診察中に応召義務・診察義務のないこことは1932年にも通達にのっている。これは法律家の目でみると建造物等侵入罪・業務妨害罪や発言内容や当事者の属性(暴力団員かどうか)等により強要罪等の刑法上の犯罪をしたことになる。精神的におかしい場合は措置入院の対象ともなりうる。医師法により医師の応召義務があることを医師は教え込まれていますが、これにも自分や他人を犠牲にしてまで患者を診ることは要求されているわけではない。(私生活を犠牲にする趣旨なのかという夜間診察強制のような通達もあるが、これは現在の人権感覚では疑問)。

警察や保健所の介入をさせたうえ、業務妨害として診察を断ることができる。

 

 

第2例

風邪の投薬をしたところ、すぐによくならないのは誤診だとさわぎたてられた。l

 

風邪薬がきくかどうかは風邪の症状がでてからしばらくかかる。すぐに症状が緩和されるものでないことは一般常識であろう。さわがれかたの内容が不明だが、診察室で医師に大声をあげてからんで次の患者をなかなか診ることができないようにおいこんだ場合は第1例と同様に業務妨害罪に該当しえます。

SNS等ネットの書き込みで行われた場合は名誉棄損罪や信用棄損罪ということもありえる。刑法上の犯罪の被害者になっている、ということで診察を断ることも可能である。。

認知症等を含む精神病の疑いもありますが、自覚症状のないひとにいうとトラブルをまねくことは経験則上明らかである。信頼関係がないときは控えたほうがいい。

 

第3例

患者自身ではなく、家族用の薬の処方を要求された。

 これは健康保険法違反や詐欺罪の共犯になることを要求していることになる。このままでは刑法上の犯罪をしていることをさとすことになる。

(いままで自分や同僚がやっていたとなると厄介である。悪質な患者だと、ほかのひとのことを告発しないかわりにやれ、という恐喝をする例がある)、弁護士に知り合いがいるようなら弁護士事案にしてしまったほうが無難かもしれない。

 

 

2 患者の家族がおかしい

第4例

長期入院中の高齢患者を献身的看護のすえ看取ったのに、家族に最後の対応がおくれたことを非難がましい感想をいわれた。

医師に非難がましいことをいう家族は、とくに自分がろくに看護も扶養もしなかったひとがやりがちである。神戸大学医学部では「カリフォルニアの親戚」といっている。

患者と遠い親戚ほど気をつけろ、ということになる。献身に感謝を求めるのも法的には契約内容ではない。わかいときは感謝を期待しがちだが、そうでないことも経験をつむちにわかってくる。

 

弁護士でも無罪判決は感謝されない、と言われている。あたりまえの状態にもどっただけだ、ということで弁護人の努力はあってもなくても同じだということになりがちである。無罪は実はけっこうなファインプレイがほとんどなのではあるが。医師の場合は難しい治療が成功しても、あたりまえに戻っただけと思う人はままある。

筆者は無罪を2件とっているが、感謝のことばがあったかどうかについては特に書かないことにする。

http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e6%84%9b%e5%aa%9b%e3%81%ae%e8%aa%a4%e8%aa%8d%e9%80%ae%e6%8d%95-%e7%9c%8c%e8%ad%a6%e6%9c%ac%e9%83%a8%e9%95%b7%e3%81%8c%e8%ad%b0%e4%bc%9a%e3%81%a7%e8%ac%9d%e7%bd%aa-%e3%80%8c%e8%87%aa%e7%99%bd%e5%bc%b7%e8%a6%81%e3%80%8d%e8%aa%bf%e6%9f%bb%e3%81%b8-%e4%bc%9a%e8%a6%8b%e3%81%af%e4%ba%88%e5%ae%9a%e3%81%9b%e3%81%9a/ar-AAFqoZw?ocid=sf

県議会が警察をちゃんとチェックできたんだ。

第3 当裁判所の判断

  1 争点1(本件点数付加の処分性)について

  (1) 行政事件訴訟法は,処分の取消しの訴えとは,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の取消しを求める訴訟をいう旨を規定するところ(同法3条2項),ここでいう取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁判所昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。

   (2) 道交法及び道交法施行令の点数制度は,免許を受けた者が交通法規に違反する行為を行った場合において,当該違反行為の種別に応じて点数を付し,一定期間に付された点数の累積点数により,公安委員会において,当該免許の効力の停止又は取消し(道交法103条1項,道交法施行令38条5項)をすることを主たる内容とする制度である。もっとも,違反点数の付加は,累積点数が所定の点数に達しない場合のほか,所定の点数に達した場合においても,直ちに免許の効力に影響を及ぼすものではなく,これを要件とする免許の効力の停止等の処分がされた場合に初めて,免許を受ける者の権利義務に具体的影響を生じさせるものである。また,自動車安全運転センターは,免許を受けた者に対し,一定の場合に,違反行為者に対する累積点数等の通知や運転に関する経歴の書面の交付をするが(自動車安全運転センター法29条1項3号,4号,自動車安全運転センター法施行規則8条),違反点数が付加される度に,当該違反行為者に対して,その旨を通知するものではない。

     したがって,道交法及び道交法施行令における違反点数の付加は,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえず,取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には当たらないというべきである。

   (3) よって,本件点数付加の取消しを求める訴えは,不適法である。

  2 争点2(本件更新処分取消しの訴えの適法性)について

  (1) 免許は,自動車及び原動機付自転車の運転という道路交通の危険と障害を生じさせるおそれがある危険な行為を一般的に禁止しつつ,運転免許試験に合格した者に限り,上記おそれがないものとして,上記禁止を解除して,適法に運転を行わせることとしたものである。そして,免許は,所定の有効期間のある免許証を交付して行うものであり,免許を受けた者が免許証の更新を受けなかったときは,免許の効力が失われる(道交法92条1項本文,92条の2,105条)。そうだとすると,免許証の更新処分は,免許証を有する者の申請に応じて,免許証を更新することにより,免許の効力を時間的に延長し,適法に自動車等の運転をすることのできる地位をその名あて人に継続して保有させる効果を生じさせる点に本質があるというべきである。

     そして,優良運転者及び一般運転者と違反運転者の区分により,免許証の有効期間を異にし(道交法92条の2第1項),優良運転者,一般運転者及び違反運転者の区分により,他の公安委員会を経由した更新申請書の提出の可否(同法101条の2の2第1項),更新時講習の講習事項,講習方法,時間(同法108条の2第1項11号,道交法施行規則38条11項)等を異にする。これらの差異を生じさせる運転者の区分は,上記の免許証の更新処分の本質的効果を制限し又は付随的部分を決するものというべきであるから,運転者の区分ごとにそれぞれ別個の処分が存するとみるべきではなく,処分の一部ないし講学上の法定附款とみるべきである。

   (2) そして,客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有し,一般運転者として扱われ優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は,上記の法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復する利益を有する(最高裁判所平成21年2月27日第二小法廷判決・民集63巻2号299頁)ところ,前記(1)のとおり,そもそも,免許証の更新処分は,免許証を有する者の申請を認容して利益を名あて人に付与する授益処分であるから,上記の法律上の利益を回復するに当たっても,その更新処分の全てを取り消す必要はなく,そのうち一般運転者として扱うとする部分のみを取り消せば足りる。

     また,免許証の更新は,道交法101条4項所定の適性検査の結果及び同法101条の2の2第3項に規定する書面の内容等から判断して,当該免許証の更新を受けようとする者が自動車等を運転することに支障がないと認めたときになされる一方,運転者の区分は,前記第2の1(2)のとおり,違反行為の有無等を要件とするものであって,両者は,要件を異にする。

     そうだとすると,免許証の更新処分の前記本質的部分と同処分の一部又は法定附款たる運転者の区分は,不可分一体のものと解するべきではなく,両者を区別した上で,後者のみを取り消すことが可能というべきである。

   (3) よって,本件更新処分のうち原告を一般運転者とする部分の取消しを求める本件更新処分取消しの訴えは,適法である。

  3 争点3(本件違反行為の有無)について

  (1) 本件取締りにおいて現認係を担当していたdは,本件証人尋問において,本件取締りでは別紙図面記載Aの地点に立ち,原告車両が同記載①の地点において狭山市方面からさいたま市方面に向けて走行しているところを発見し,原告車両が同記載②の地点に到達した際,原告車両のフロントウィンドウ越しに原告が左手に黒っぽい二つ折りの携帯電話を把持して左耳に当てていたのを現認し,原告車両が同記載③の地点に到達した際,本件違反行為があったことを停止係に無線連絡し,原告車両が同記載④の地点を経て同記載⑤の地点に到達する時点までの間,原告が左手に携帯電話を持って耳に当てる姿勢を継続して取っていたところを目撃した旨の証言をする(d作成に係る捜査報告書〔乙2〕,実況見分調書〔乙5〕及び陳述書〔乙16〕にも同旨の記載がある)。

     また,本件取締りにおいて停止係を担当していたeが作成した捜査報告書(乙3),実況見分調書(乙5)及び陳述書(乙17)において,eが,別紙図面記載「B’」の地点に立って,原告車両が同記載④の地点まで進行した時点において,同車両のフロントウィンドウ越しに左手に携帯電話様の物を把持し,左耳に当てて口を動かしていた,その後,警笛を鳴らし,停止旗を示して停止の合図をしたが,原告車両は減速することなく,再度警笛を強く鳴らすと減速し,その際にも,原告が左手に携帯電話様の物を把持して,左耳に当てていたのを目撃し,eが同記載「B”」の地点に立って,原告車両が同記載⑤の地点まで進行した時点において,原告が,左手を左耳に当てながら右手のみでハンドルを切って左折したのを目撃した,その際には携帯電話様の物は死角となって見えなかった旨の記載がある。

     そこで,以下において,上記のとおりのd証言及びe作成に係る捜査報告書等の信用性について検討する。

   (2) 証拠(甲23,乙2,4,8,9,16)によれば,原告車両は別紙図面記載①ないし③の地点を走行する際の速度は時速約20キロメートルであったこと,dが本件取締りにおいて立っていた別紙図面記載Aの地点から同記載①の地点までの距離が25.4m,同記載②の地点までの距離が13.2m,同記載③の地点までの距離が8.0mであったこと,原告車両の助手席側2列目窓,助手席側3列目窓及びリアウィンドウには着色フィルムが貼付されていたこと,原告が,本件取締りの当時,長髪を垂らし,黒色キャップを被っていたことが認められる。

     これらの事実からすると,dから,動き続けている原告車両の奥側の運転席に座る原告の左耳元を視認する状況は,停止している車両内部を視認する場合に比して悪く,また,原告車両の助手席側2列目窓以降に貼付された着色フィルム並びに原告の頭髪及びキャップによって,dからの視認は,相当程度妨げられていたというべきである。

     この点,dは,本件証人尋問において,原告が本件取締りの際に通話のために使用していたのは,「黒色っぽい二つ折りの携帯電話」であったと証言するが,証拠(甲2,3,14ないし17,19,乙4,18,19,b証人,原告本人)によれば,原告は,本件取締りの当時,二つ折りの携帯電話(株式会社fとの契約に係るもの。)とg(h株式会社との契約に係るもの。)を各1台所持していたところ,この二つ折りの携帯電話の大部分は青色に塗装され,運転席で左手に把持した際に,d側を向く背部下側は,青色の塗装が剥げて水色になっていたことが認められるのであり,dの上記証言は,dの視認条件が良好ではなかったことを窺わせるものである。

     なお,原告は,原告本人尋問において,本件取締りの際,原告車両の助手席側2列窓の後部側半分及び助手席側3列目窓並びにリアウィンドウの全面のカーテンが閉まっていた旨の供述をし,この事実を示すものとして写真撮影報告書(甲23)を提出する。しかしながら,これらのカーテンを閉めることによって,運転席から車両後部の視認が遮られ,相当程度運転の妨げとなるところ,原告は,これらのカーテンを閉める必要性について,原告本人尋問において,遊びや仕事の道具に日を当てたくなかった旨を供述するのみで,何ら首肯に足りる説明をしない。よって,この点についての原告の上記供述は採用することができない。

   (3)ア 証拠(甲14,15,乙15)によれば,原告が本件取締りの際に所持していた二つ折り携帯電話に係る料金明細内訳表においては,平成22年5月13日午後8時25分50秒から26分30秒通話して以降,同月14日午後1時44分4秒までの間,gに係る通話料明細書においては,同月13日午後6時1分15秒から2秒通話して以降,同月18日午前7時44分23秒までの間に,少なくとも原告に通話料が発生する通話(全ての通話の内,相手方からの着信を受けての通話,フリーダイヤル及び110番等の緊急電話番号への発信に係る通話,コレクトコールでの発信に係る通話,電話会社が提供する各種問い合わせ番号への発信に係る通話,留守番電話サービスセンターに接続してもメッセージの録音をしない場合等を除くもの。)をした記録がないことが認められ,原告が本件取締りの際に所持していた携帯電話については,本件現認時刻の前後には原告に通話料が発生する通話をした記録がない。

    イ また,証拠(甲2,3,19,乙4,18,19,b証人)によれば,bは,本件取締りの際,原告から,原告が所持していた二つ折り携帯電話の発着信履歴が表示された画面を示され,本件現認時刻の直前に発着信があった旨の記録がないことを確認したことが認められる。

      この点,被告は,Ⅰ原告が,原告車両を別紙図面記載⑥の地点に停止させた後,直ちに携帯電話を取り出して発着信履歴が表示された画面を見るように要求しなかった,Ⅱ警察官が現認した地点を確認するためとしてc及びbの視界から逃れようとした,Ⅲ免許証を探すためとして原告車両の中に入って運転席ドアを閉め,c及びbの視界から逃げた,Ⅳ携帯電話の発着信履歴の記録は即座に消去することが可能であるなどとして,二つ折り携帯電話における発着信履歴に本件現認時刻の前後に発着信があった旨の記録がなかったとしても,原告が本件取締り時に携帯電話を使用していないとはいえない旨の主張をする。

      しかしながら,証拠(乙4,18,19,b証人)によれば,原告は,原告車両を別紙図面記載⑥の地点に停止させた後,c及びbと相対し,その後,本件違反行為を現認された場所を確認するとして,同⑥の地点付近と同Aの地点付近を往復するに際しても,c及びbが,原告の1ないし3メートル後方を終始追随していたことが認められ,その間,原告が携帯電話を取り出し,その操作をしたといった事情は窺われない。また,前記各証拠によれば,原告は,c及びbから,免許証の提示を求められ,これを探すために原告車両の運転席に乗り込んで,運転席ドアを閉め,その後運転席の窓越しに免許証を提示したことが認められるものの,原告車両の運転席窓のすぐ脇には,cとbがおり,また運転席ドアを閉めてから免許証を提示するまでの時間はわずか10秒から15秒程度に過ぎなかったことが認められる。さらに,前記各証拠によれば,cは,交通反則切符の作成のために原告車両の運転席横を離れ,bは,原告が執拗に弁解することから,供述調書の作成に集中するために,必要事項を運転席脇で聞いては原告車両の前方に移動して供述調書を書き込むということを繰り返していたところ,原告車両の前方に移動した際も原告の胸から上が見えるような状況であったことが認められるのであり,その間に,前記二つ折り携帯電話の発着信履歴を操作して,本件現認時刻の前後における発着信の記録を消去する操作をしたとは考え難い。また,bが,原告が所持していた二つ折り携帯電話の発着信履歴を確認する際,原告に対して,原告が本件違反行為の後に本件現認時刻前後の発着信履歴を操作して記録を消去する操作をしたことを疑うような言動をしたといった事情は見当たらない。

      また,前記前提事実(2)イ,ウのとおり,cは,別紙図面記載⑤の地点から同記載⑥の地点まで原告車両を誘導し,また,bは,同地点付近に立っていたのであるから,原告が,原告車両を同記載⑤の地点から同記載⑥の地点まで走行させるまでの間に,本件現認時刻前後の発着信履歴を操作して,記録を消去することは不可能であったというべきである。

      以上からすると,原告が,本件現認時刻からbが二つ折り携帯電話の発着信履歴の表示を確認するまでの間に,同携帯電話の発着信履歴を操作して,記録を消去させる機会はなかったのであり,bが二つ折り携帯電話の発着信履歴の表示を確認して,本件現認時刻の前後に発着信の記録がなかったことは,原告が,そのころ,携帯電話を通話のために使用していなかったことを示すものというべきである。

    ウ よって,前記(1)のとおりのdの証言の内容は,原告が本件取締りの際に所持していた携帯電話の通話料明細等の記録及び発着信履歴の表示と矛盾するといえる。

   (4)ア bは,別紙図面記載⑥の東側の道路内の地点にいたところ,原告車両が本件道路を左折して前記地点から4メートルから5メートルの距離に近づいた時点から原告車両が同記載⑥の地点に停止するまでの間,原告車両の運転席に座っていた原告が,不自然に体を後ろに反らした状況で,左肘を原告車両の座席の肘掛けに置いて,左手で左耳を掻く仕草をしていたところを目撃した旨の証言をする。

    イ この点,証拠(乙5,19,原告本人)によれば,別紙図面記載⑤の地点から同記載⑥の地点までの距離は19.6メートルであること,cは,同記載⑥の地点付近において,原告車両が前記各地点間を走行する間,同記載⑥の地点に同車両を停止するように誘導していたこと,原告は,本件取締りの当時,比較的生地の硬いジーンズのズボンを着用していたことが認められる。

      上記b証言及び前記(1)のとおりのd証言並びにe作成に係る捜査報告書等を前提とすると,原告は,左手で携帯電話を持って左耳に当て,その姿勢を保ちながら,原告車両を別紙図面記載②の地点から同記載③及び同記載④の地点を経て同記載⑤の地点まで進行させ,その後同地点から,原告車両が本件道路を左折して,誘導兼取調べ係のcが原告の目前で原告車両を誘導している状況下において,bが立っていた地点から4メートルから5メートルの地点までを進行させる間(その距離は19.6メートル以下である。),左手に持っていた携帯電話を,運転席に座った姿勢のまま,比較的生地が硬いジーンズのズボンの前ポケットに入れたことになるが,かかる行動は,原告の当時の姿勢,時間及び周囲の状況から,極めて困難といわざるを得ない。そして,c作成に係る陳述書,b作成に係る陳述書及びb証言には,原告が,かような行動を取ったことを窺わせる部分は何ら見当たらない。

   (5)ア 証拠(甲4,10,11,13)によれば,原告は,本件現認時刻よりも前の平成22年5月14日午前10時52分ころ,同日に行う予定の免許証の本籍及び住所の変更手続のために,富士見市β出張所において住民票を取得し,同日午前11時1分ころ,同駅東側のクリーニング店であるi店にワイシャツ1点を預け,同日午前11時5分ころ,同駅西側で本件道路の西側にあるj店で缶コーヒーを購入したことが認められる。また,証拠(乙3,17,b証人)によれば,停止係のeは,本件取締りにおいて,縦横各50センチメートルの停止旗を所持していたことが認められる。

      これらの事実からすると,原告は,本件現認時刻の直前において,本件道路を,dによって現認された時とは逆方向であるさいたま市方面から狭山市方面に向って原告車両を走行させ,その際,停止旗を持つ停止係のeを見たことにより,本件取締りを認識した可能性が高いといえる。

    イ この点,被告は,原告が平成24年4月4日付け準備書面(3)になって初めて,本件現認時刻の直前に逆方向を走行し,本件取締りを認識していた旨の弁解を行うようになったこと,原告が本件取締り時にdに気付いておらず,eが警笛を鳴らして停止旗を示しても原告が気付かなかったとして,原告が,本件道路を逆方面に走行するに際しても,本件取締りに気付いていなかった旨の主張をする。

      しかしながら,原告は,本訴提起に至るまで,ふじみ野市出納員の領収証(甲11),i店のレシート(甲10)及びj店のレシート(甲4)をそれぞれ保管し,これらを書証として提出したのであって,上記準備書面によって突如として,事前に本件取締りを認識していた旨を弁解したというのは当たらない。また,原告は,dに現認された際,現認係のdの方向を向かず,また,eによって停止旗を示され,警笛を3回程度鳴らされるまで原告車両を減速させなかったことが認められるとしても,かかる事実は,原告が本件取締りを事前に認識していなかったことを示すものとは必ずしもいえず,むしろ,原告が,携帯電話を使用していたとの認識がなかったことと整合する事情というべきである。

   (6)ア 原告は,原告本人尋問において,本件取締りの際には,左手で左耳を掻いていたのであって,携帯電話を使用していない,携帯電話は2台所持していたところ,それぞれ原告が着用していたズボンの左右の前ポケットに入れていた旨を供述する。

      原告は,本件取締りの際,原告車両を別紙図面記載⑥の地点に停止させた直後から,c及びbに対して,耳を掻いていただけであり,携帯電話を使用したことはなく,携帯電話はズボンのポケットに入っている旨を述べ(乙4,18,19,b証人),原告の供述を録取したb作成に係る供述調書(乙6)にも,左手で座席の肘掛けに肘をついて耳を掻いていただけである旨の記載があるほか,原告は,平成22年5月17日付けの苦情申立て(甲2)及び同年10月9日付けの異議申立て(甲1)においても,同旨の主張をしている。

      このように,原告の前記供述は,本件取締りの際から一貫したものであり,相互に矛盾するところは見当たらない。

    イ また,原告の原告本人尋問における供述内容は,前記(2)で判示した部分を除いては迫真性があって具体的であり,不自然な点は特段見当たらない。

      この点,被告は,Ⅰ原告車両が別紙図面記載①の地点から同記載⑥の地点を走行するまでの間,原告は左手で左耳を掻き続けていたことになるが,これは異常な程に耳が痒かったと考えざるを得ない,Ⅱ不自然に身体を後ろに反らせて左肘を座席の肘置きに載せて左手を左耳に当て,c及びbに対して殊更耳を掻く仕草を見せようとした等の主張をする。

      しかしながら,身体を掻くのは痒さを解消する目的もあるが,手癖による場合も十分にあり得るのであり,原告が,原告車両が前記地点間を走行する間,継続して耳を掻き続けたとしても,何ら不自然とはいえない。また,被告の主張,bの陳述書及びbの証言における「不自然」が如何なる姿勢をいうのか判然としないが,原告車両が別紙図面記載⑥の地点に停止する直前の原告の姿勢は,原告車両が同記載②ないし⑤の地点を走行していた際に原告が取っていた姿勢と同じであったというべきであって,原告がc及びbに対して殊更耳を掻く仕草を見せようとしたとはいえない。

      よって,この点についての被告の主張は採用することができない。

    ウ よって,原告の本人尋問における供述は,前記(2)で判示した部分を除いて,信用することができるというべきである。

   (7) 以上からすると,dの証言及びeの作成に係る捜査報告書(乙3),実況見分調書(乙5)並びに陳述書(乙17)は,信用性に乏しく,採用することができない。

   (8) そして,その他,本件記録を精査しても,原告が,本件道路において携帯電話を通話のために使用したと認めるに足りる的確な証拠はない。

     よって,原告が,本件現認時刻において,原告車両を,本件道路の狭山市方面からさいたま市方面に向けて進行させるに当たり,携帯電話を通話のために使用したと認めることはできない。

  4 本件決定の取消しを求める訴えの適法性について

  (1) 前記3のとおり,原告が,本件現認時刻において,携帯電話を通話のために使用したと認めることはできないのであり,原告については,その事実について違反点数を付加すべきではなく,原告の免許証の有効期間が満了する日である平成22年▲月▲日の直前の原告の誕生日である同年▲月▲日の40日前の日の前5年間において,違反行為又は道交法施行令別表第4若しくは第5に掲げる行為をしたことがないことになる。したがって,埼玉県公安委員会は,本件更新処分において,道交法92条の2第1項備考一の2,道交法施行令33条の7第1項1号に基づき,優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して免許証の更新処分をすべきであったにもかかわらず,優良運転者である旨の記載のない免許証を交付したのであり,本件更新処分のうち原告を一般運転者とする部分は違法であるから,取り消されるべきである。

     また,優良運転者である旨の記載のある免許証の交付それ自体は,免許証の更新申請の対象に含まれていないと解されるものの,同記載のない免許証の交付は,免許証の更新申請に応答してなされる更新処分に付随して,申請者に法律上当然に付与されるべき権利利益を与えなかったものというべきであるから,かような場合においては,行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請型義務付け訴訟に準じ,同法37条の2第1項の要件は不要と解するのが相当である。そして,同委員会が,原告に対し,同記載のある免許証を交付すべきであることは,その処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められる。

     したがって,本件更新処分のうち原告を一般運転者とする部分の取消しを求める請求及び埼玉県公安委員会に対し,優良運転者である旨を記載した免許証の交付の義務付けを求める請求は,いずれも認容すべきである。

   (2) そうだとすると,本件決定のうち,異議申立てに係る本件更新処分取消しのうち原告を一般運転者とする部分の取消しを求める請求及び埼玉県公安委員会に対し優良運転者である旨を記載した免許証の交付の義務付けを求める請求をいずれも棄却した部分の取消しを求める訴えは,いずれの請求についても認容判決がされ,訴えの利益を欠くというべきであるから,不適法である。

  5 争点4(本件決定の適法性)について

   本件決定のうち,本件点数付加の取消しを求める原告の異議申立てを却下した部分の抹消を求める訴えは,訴えの利益があり,適法であるから,以下において,本件決定のうちの同部分の適法性について検討する。

    行政不服審査法4条1項は,行政庁の処分に不服がある者は,同法5条及び6条で定めるところにより,審査請求又は異議申立てをすることができると規定し,この「処分」には,各本条に特別の定めがある場合を除くほか,公権力の行使に当たる事実上の行為で,人の収容,物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれる(同法2条1項)。これは,この種の行為が国民の権利義務に直接関係し,その違法又は不当な行為によって国民の法律上の利益に影響を与えることがあるという理由に基づくものであり,行政庁の行為であっても,性質上このような法的効果を有しない行為は,行政不服審査の対象となり得ないと解するべきである(最高裁判所昭和43年4月18日第一小法廷判決・民集22巻4号936頁参照)。

    本件点数付加は,前記1のとおり,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められたものに該当せず,行政不服審査の対象となる「処分」には当たらないというべきである。

    よって,本件決定のうち,本件点数付加の取消しを求める原告の異議申立てを却下した部分は,適法である。

  6 争点5(損害賠償責任の有無)

    公安委員会が行う免許証の更新処分において,その処分の前提となる事実につき誤認があるなどの理由があり,その一部につき取り消さざるを得ない場合であっても,そのことから直ちに国賠法1条1項の適用上違法との評価を受けるものではないものの,同処分の前提となる事実の認定に当たり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をした場合には,前記違法の評価をすべきである。

    そこで,検討すると,原告は,本件違反行為があったとして原告車両の停止を求められたときから,耳を掻いていただけであって,携帯電話を通話のために使用していないと供述していた(乙4,6)ものの,原告が携帯電話を通話のために使用しているのを現認した旨のd及びeの捜査報告書の内容(乙2,3),原告を取り調べたcの捜査報告書の内容(乙4)及び実況見分調書におけるd及びeの指示説明の内容(乙5)のほか,原告が本件現認時刻の前後に携帯電話で通話していたか否かについて,本件訴訟における調査嘱託によっても携帯電話会社の不回答によって客観的に明らかにならなかったことからすれば,被告が,上記各証拠に基づいて,本件違反行為があったとして,違反点数を付加し,優良運転者である旨の記載のない免許証を交付して行った本件更新処分をしたことについて,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったとはいえず,国賠法1条1項の適用上,違法ということはできない。

    よって,原告の国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。

 第4 結論

   以上の次第で,本件訴えのうち,本件決定のうち異議申立てに係る請求を棄却した部分の取消しを求める部分及び本件点数付加の取消しを求める部分は,いずれも不適法であるから,これらを却下し,その余の訴えに係る原告の請求のうち,本件更新処分のうち原告を一般運転者とする部分の取消しを求める請求及び埼玉県公安委員会に原告に対して優良運転者である旨を記載した免許証を交付することを義務付ける請求は,いずれも理由があるから,これらを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

     さいたま地方裁判所第4民事部

         裁判長裁判官  原啓一郎

            裁判官  古河謙一

            裁判官  猪坂 剛

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