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カテゴリ: 行政法

〔第3869話行政法〔第16問〕解答 - 十代で弁護士になる!(@madi) - カクヨム (kakuyomu.jp)〕

パチンコ店名義貸し事件 最高裁平成12年3月21日

ケースブック行政法 第7版2-5

営業許可取消処分取消事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成10年(行ツ)第5号

平成12年3月21日

【判示事項】      風俗営業の名義貸しと風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(平成一〇年法

律第五五号による改正前のもの)二六条一項に基づく風俗営業の許可の取消し

【判決要旨】      風俗営業の名義貸しは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(平成一〇年法律第五五号による改正前のもの)の立法目的を著しく害するおそれがあるとはいい難いような特段の事情のない限り、同法二六条一項にいう「著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある」場合に当たり、公安委員会は、右名義貸しをした者に対する風俗営業の許可を取り消すことができる。

【参照条文】      風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律11

            風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(平10法55号による改正前)26-1

【掲載誌】       最高裁判所裁判集民事197号717頁

            裁判所時報1264号198頁

            判例タイムズ1028号138頁

            判例時報1707号112頁

【評釈論文】      自治研究77巻4号114頁

            ジュリスト臨時増刊1202号30頁

            判例タイムズ臨時増刊1065号344頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 被上告人の請求を棄却する。

 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人井上隆晴、同青本悦男、同細見孝二の上告理由について

 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

 1 被上告人は、昭和五〇年一一月六日、上告人から第一審判決別紙許可目録記載の風俗営業の許可を受け、大阪市住之江区内において「OK」の屋号でぱちんこ屋を営んでいた。

 2 被上告人は、右ぱちんこ屋の営業の実務を夫であり共同経営者である韓長淑に任せていたところ、同人は、平成五年八月三一日、ツクノ興産株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、店舗を賃貸し、被上告人の名義を使用して「OK」の屋号でぱちんこ屋を営業することを許諾した。訴外会社は、自ら営業許可を受けないまま、同年一一月二八日ころから同七年九月五日までの間、被上告人名義を使用して右店舗でぱちんこ屋を営んだ。

 3 住ノ江警察署警察官は、平成七年九月五日、2の行為が風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(平成一〇年法律第五五号による改正前のもの。以下「法」という。)に違反するとして、被上告人夫婦、訴外会社関係者らを逮捕するなどした。そのため、訴外会社は、店舗の賃貸借契約を解約し、ぱちんこ屋の営業を廃止した。その後、右店舗ではぱちんこ屋の営業はされていない。

 4 被上告人は、2の行為につき起訴猶予処分となり、法に違反したことを反省し、今後このようなことを繰り返さないことを誓っている。

 5 上告人は、平成八年一月二四日、被上告人に対し、名義貸しを理由として、法一一条、二六条一項の規定に基づき、風俗営業許可取消処分(以下「本件処分」という。)をした。

 二 原審は、右事実関係に基づき、次のとおり判断して、本件処分は処分要件を欠く違法なものであるから取り消されるべきであるとした。

 1 法二六条一項は、風俗営業の許可の取消しの要件について、「風俗営業者又はその代理人等が、当該営業に関し、法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において、著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき」と規定している。この規定(以下「本件規定」という。)は、風俗営業の許可を取り消すには、「風俗営業者又はその代理人等が、当該営業に関し、法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合」という要件(以下「第一要件」という。)と、「著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき」という要件(以下「第二要件」という。)の双方を充足することを要求している。

 2 一1、2の事実によれば、本件処分に必要とされる第一要件は満たされていたと認められる。

 3 しかし、(1) 被上告人夫婦が、名義貸し以外に、法に違反しあるいは法四条一項二号に規定する罪を犯し、善良な風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為をし、又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為をした事実は認められないこと、(2) 訴外会社が、「OK」ぱちんこ屋の営業につき、無許可営業以外に、法に違反する行為をし、善良な風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為をし、又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為をした事実は認められないことによれば、本件処分に必要とされる第二要件が満たされていたとは認められない。

 4 上告人は、名義貸し行為があれば、行為の悪質さやその違法性の重大さのゆえに、非常に特殊な事情が認められない限り、原則として、第二要件の存在を推認すべきであり、被上告人についても第二要件の存在を認めるべきであると主張する。しかしながら、次の理由により、右主張は採用することができない。

 (一) 法は、本件規定において、風俗営業の許可の取消しの要件として、第一要件のほかに第二要件を別個の要件として規定している。他方、法二六条一項は、これとは別に、「風俗営業者がこの法律に基づく処分・・・若しくは第三条第二項の規定に基づき付された条件に違反したとき」を風俗営業の許可の取消しの要件として規定しており、この規定や法八条によるときは、第二要件は不要とされている。これによると、第一要件が充足されれば非常に特殊な事情が認められない限り第二要件が満たされるとすることは、法が本件規定において第二要件を別個の要件と定めた趣旨に反するものである。このことは、違反行為が名義貸しの場合でも異ならない。

 (二) 法は名義貸しについて重い刑罰を科することとしているが、刑事処罰は過去の行為に対する制裁を目的とするのに対し、風俗営業許可取消制度は将来における行政秩序の維持等を目的とするのであるから、名義貸しが前者の見地から悪質であることは、直ちに営業許可の取消しに論理必然的に結び付くものではない。そして、名義貸し行為があったときに、右見地から、非常に特殊な事情が認められない限り、風俗営業の許可の取消しができるとするのは、第二要件を別個の要件と定めた立法者の意思にも反する。

 (三) 風俗営業者が年少者を営業所に客として立ち入らせること、年少者に客の接待をさせること、現金を商品として提供することなどの具体的行為に比べると、被上告人の名義貸し行為自体は、直接に「著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす」行為ではない。せいぜい、名義貸し行為は、営業許可を有しない者の営業を助けるから、営業許可基準に達しない者が営業する可能性が生じ、その無許可営業者には行政庁の監督行為が及ばないことになるという点で、法一条の目的に反することになるにすぎない。

 三 しかしながら、原審の右判断のうち3、4は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 1 本件規定に基づいて風俗営業の許可を取り消すには、第一要件のみならず第二要件をも充足しなければならないことは、原判示のとおりである。したがって、法一一条に違反して第一要件を充足した場合に、そのことのみをもって、直ちに風俗営業の許可を取り消すことはできず、当該違反行為が第二要件をも充足する場合に初めて、右許可を取り消すことができるといわなければならない。

 2 記録に現れた上告人の主張によれば、上告人は、この点について、名義貸し行為自体が当然に第二要件を充足するとの解釈の下に本件処分を行ったのではないかと推測される。しかし、一般に、法一一条に違反する名義貸し行為が悪質であり、その違法性が重大であることはいうまでもないものの、それだけで常に風俗営業の許可を取り消すべきであるというのであれば、法は端的にその旨を規定することができたはずである。それにもかかわらず、法が、そのようには規定せず、同条違反についても他の法令違反と区別することなく、常に営業許可の取消しには第二要件を要すると規定していることからするならば、右のような解釈の下に、名義貸しについては第二要件の充足の有無を検討するまでもなく直ちに風俗営業の許可を取り消し得るとすることは、法の規定を無視するものであって、採ることができない。

 3 しかしながら、第一要件を充足する行為が、その類型的特質から、特段の事情のない限り第二要件をも充足すると認められる場合が考えられないではない。名義貸しがされた場合に、その行為の類型的特質にかんがみて、特段の事情のない限り第二要件を充足すると認められるならば、営業許可の取消しはなお可能である。

 第一要件にいう「法令」や「条例」の規定には様々なものが含まれ、それらの規定と風俗、風俗環境ないし少年の健全育成との関連性の強さは同一ではないから、それらの規定に違反することが第二要件をも充足すると認められる度合いにも差があることはいうまでもない。そして、法は「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する」ことなどを目的として制定されたものである(法一条)から、法の規定に違反することは、類型的にみて、「善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある」と認められるがい然性が高いということができる。わけても、法一一条に違反して名義貸しをすることは、右目的達成のため所定の基準を充足することが確認された者にのみその営業を認めることとする風俗営業許可制度を根底から危うくするものであって、それ自体が法の右目的に著しく反する類型の行為であることは明らかである。また、これを実質的にみても、一般に、他人の名義を借りて風俗営業を営む者は、自己の名義をもって許可を受けることに支障がある者であることが多いと推測されるのであり、名義貸し行為は、そのような者が公安委員会の監督を逃れて無許可で風俗営業を営むことを助長し、隠ぺいする行為であって、それ自体が法の立法目的を著しく害するおそれのある行為であるといわなければならない。法四九条一項三号が、名義貸し行為については、無許可営業行為、不正な手段により営業許可を受ける行為等と並んで、最も厳しい刑罰を科すものと規定しているのも、以上のような考えに立つものと理解することができるのである。そうであれば、形式的には名義貸しといわざるを得ないものの法の立法目的を著しく害するおそれがあるとはいい難いような特段の事情が認められる場合は別として、そうでない限り、名義貸しは、類型的にみて「著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある」場合に当たると解するのが相当である。

 4 本件規定は、法又は法に基づく条例の違反行為と他の法令違反行為とを区別せずに要件を定めるなどした結果、名義貸しがされた場合の営業許可の取消し等の要件について解釈上の疑義を生じかねないものとなっていることは否めず、そのことが、原審が第二要件を重視して前記のような解釈適用をしたことの要因になっていると思われる。しかしながら、以上のように考えると、名義貸しは、特段の事情が認められない限り、第一要件とともに第二要件をも充足すると認めることができるのであって、このように名義貸しが第二要件をも充足すると認められる以上、これを理由に風俗営業の許可を取り消すことは、第一要件のほかに第二要件を定めた法の趣旨に反するとはいえず、立法者の意思に反するものともいえない。また、他人に名義を使用させること自体が第二要件を充足すると認められるのであるから、被上告人が名義貸し以外に違法行為等をしていないことや、名義を借りた訴外会社が無許可営業以外に違法行為等をしていないことは、被上告人に対する風俗営業の許可の取消しを妨げる事情とはいえない。

 5 そうすると、右の特段の事情について主張立証のない本件においては、法一一条、二六条一項の規定に基づいて被上告人に対する風俗営業の許可を取り消した本件処分に違法があるとはいえない。これと異なる原審の前記判断は、同項の解釈適用を誤ったものといわざるを得ず、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨には理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求には理由がないというべきであるから、右請求を認容した第一審判決を取り消し、右請求を棄却すべきである。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

[第596話 問題25 回答 情報公開 - 行政書士試験に高校在学中に受かる!(@madi) - カクヨム (kakuyomu.jp)]

スピード違反公訴提起事件 最高裁昭和63年
ケーズブック行政法 第7版 2-4

21世紀の感覚だと違法で損害賠償見て目るべきでしょう。

道路交通法違反被告事件

最高裁判所第2小法廷決定/昭和63年(あ)第103号

昭和63年10月28日

【判示事項】      免許停止処分の理由となった交通事故が刑事裁判で無罪となった場合において右処分歴に基づく非反則者に対する公訴の提起が適法であるとされた事例

【判決要旨】      免許停止処分の理由となった軽傷交通事故につきその後の刑事裁判で傷害の事実の証明がないとして無罪となった場合においても、右処分が無効となるものではなく、右処分歴に基づき反則者に当たらないとしてなされた速度違反事件の公訴の提起は、適法である。

【参照条文】      道路交通法125-1

            道路交通法130

            道路交通法(昭和61年法律第63号による改正前)別表

            道路交通法(昭和61年法律第63号による改正前)125-2

            道路交通法(昭和61年法律第63号による改正前)118-1

            刑事訴訟法338

【掲載誌】       最高裁判所刑事判例集42巻8号1239頁

            最高裁判所裁判集刑事250号993頁

            裁判所時報991号156頁

            判例タイムズ682号86頁

            判例時報1295号150頁

【評釈論文】      研修488号192頁

            ジュリスト931号99頁

            判例評論1312号237頁

            法学新報97巻3~4号283頁

            法曹時報41巻10号314頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反の主張であり、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

 所論にかんがみ、本件公訴の適否について検討すると、記録によれば、(1)岡山県警察本部長は、被告人が安全運転義務違反を行い、これにより軽傷交通事故を起こしたと認定して、その累積点数に基づき被告人を免許停止処分にしたこと、(2)被告人は、被害者らには傷害が発生しておらず、軽傷交通事故を起こしていないから、その累積点数は処分基準以下となるので、右免許停止処分は違法であるとして、同県公安委員会に対して審査請求をしたが、請求棄却の裁決を受け、出訴期間内に取消訴訟を提起しなかったこと、(3)本件違反行為は、最高速度を二〇キロメートル毎時超えるもので、反則行為(道路交通法一二五条一項、昭和六一年法律第六三号による改正前の別表参照)に当たるが、被告人には、過去一年以内に右免許停止処分の前歴があったため(同改正前の同条二項二号参照)、反則者に当たらないとして、本件公訴が提起されたこと、(4)その後右交通事故に関する業務上過失傷害被告事件において、傷害の事実の証明がないとして、右訴因については無罪とされ、予備的訴因の安全運転義務違反の限度で有罪とされ、右判決が確定したこと、(5)被告人が本件について控訴を申し立てた後、同県警察本部に対する同人の申し出により、警察庁情報処理センターに保管されている被処分者の運転ファイルから右免許停止処分の記事が抹消されたことが認められる。このうち、(5)の免許停止処分の記事抹消は、その理由、手続、効果等からみて、右処分の職権取消とは認められない。また、(1)の免許停止処分の当時、処分行政庁は、相当な根拠のある関係資料に基づき、被害者らが傷害を負ったと認めたのであるから、その後(4)のように刑事裁判において傷害の事実の証明がないとして、被告人が無罪とされたからといって、右処分が無効となるものではない。そうすると、本件免許停止処分は、無効ではなく、かつ、権限のある行政庁又は裁判所により取り消されてもいないから、被告人を反則者に当たらないと認めてなされた本件公訴の提起は、適法である。

 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧 圭次 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)

 

 

行政行為の撤回 最高裁昭和63年 医師免許

行政法判例百選 第6版 93事件 第7版 89事件 ケースブック行政法第7版2-3 

優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和60年(行ツ)第124号

昭和63年6月17日

【判示事項】       いわゆる赤ちゃんあっせんをしたことを理由に優生保護法14条1項による指定医師の指定を撤回することができるとされた事例

【判決要旨】       優生保護法14条1項による指定を受けた医師が、虚偽の出生証明書を発行して他人の嬰児をあっせんするいわゆる赤ちゃんあっせんを長年にわたり多数回行い、そのうちの1例につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられていたことが判明した場合において、右指定の撤回によって当該医師の被る不利益を考慮してもなおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるときは、指定権限を付与されている都道府県医師会は、右指定を撤回することができる。

【参照条文】       優生保護法14

【掲載誌】        訟務月報35巻3号504頁

             最高裁判所裁判集民事154号201頁

             判例タイムズ681号99頁

             金融・商事判例812号45頁

             判例時報1289号39頁

【評釈論文】       ジュリスト927号70頁

             ジュリスト臨時増刊935号36頁

             別冊ジュリスト122号194頁

             訟務月報35巻3号172頁

             判例タイムズ臨時増刊706号348頁

             法律のひろば41巻9号53頁

             民商法雑誌99巻6号879頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人佐々木泉の上告理由第一点及び第三点並びに上告人の上告理由について

 原審の適法に確定したところによれば、(1)上告人は、昭和二五年に医師免許を付与され、昭和三三年一〇月以降石巻市において、産科、婦人科、肛門科の医院を開設している医師である、(2)そして、昭和二八年に被上告人社団法人宮城県医師会(以下「被上告人医師会」という。)から、優生保護法一四条一項により人工妊娠中絶(以下「中絶」という。)を行いうる医師(以下「指定医師」という。)の指定を受け、それ以降、途中一年間を除き、二年ごとの指定の更新により、最終的には、昭和五一年一一月一日付をもって指定を受けた、(3)上告人は、中絶の時期を逸しながらその施術を求める女性に対し、勧めて出産をさせ、当該嬰児を子供を欲しがっている他の婦女が出産したとする虚偽の出生証明書を発行することによって、戸籍上も右婦女の実子として登載させ、右嬰児をあっせんする、いわゆる赤ちゃんあっせん(以下「実子あっせん行為」という。)を行ってきたが、上告人が昭和四八年四月新聞等を通じてこのことを公表するまでにあっせんした数は約一〇〇件に及んだ、(4)実子あっせん行為についての問題点が指摘されたことなどから、上告人は、昭和四九年三月、指定医師の団体である社団法人日本母性保護医協会の全理事会において、今後実子あっせん行為は繰り返さない旨言明したが、その後も、中絶時期を逸したにもかかわらず中絶を望む妊婦は、胎児ないし嬰児に対して強い殺意を抱いているので、上告人提唱のいわゆる実子特例法が制定されるまでは、実子あっせん行為は嬰児等の生命を救うための緊急避難行為であるとしてこれを続け、結局、昭和四八年四月以降更に約一二〇件の実子あっせん行為をした、(5)そのうちの一例である昭和五〇年一二月にした実子あっせん行為につき、上告人は、昭和五二年八月三一日付で愛知県産婦人科医会長から医師法違反等の嫌疑により仙台地方検察庁に告発され、昭和五三年三月一日仙台簡易裁判所において、犯罪事実の要旨を「上告人は、(一)昭和五〇年一二月一八日ころ、上告人方医院において、A女に対し、自ら同女の出産に立ち会わないのに、同女が男子を出産した旨の出生証明書を交付し、(二)A夫婦と共謀して、B女が出産した男子をA夫婦の実子として届け出ようと企て、同月二二日ころ、A女が市役所係員に、右男子がA夫婦間の長男として出生した旨の出生届と前記出生証明書を提出して虚偽の申立をし、情を知らない右係員らをして公正証書の原本である戸籍薄にその旨不実の記載をなさしめ、これを真正なものとして市役所に備えつけさせて行使した」とする医師法違反、公正証書原本不実記載・同行使の罪により、罰金二〇万円に処する旨の略式命令を受け、右裁判は正式裁判に移行することなく確定した、(6)被上告人医師会は、昭和五三年五月二四日付で上告人に対し、昭和五一年一一月一日付の指定医師の指定を取り消す旨の本件取消処分をしたが、その理由の要旨は、右罰金刑の確定とその裁判の違法事実に徴するとき、上告人は指定医師として不適当と認められるというものである、(7)上告人は、昭和五三年一〇月一日被上告人医師会に対し指定医師の指定申請をしたところ、被上告人医師会は、同月三〇日付で、本件取消処分と同じ理由により、右申請を却下する旨の本件却下処分をした、というのである。

 右事実関係に基づいて、上告人が行った実子あっせん行為のもつ法的問題点について考察するに、実子あっせん行為は、医師の作成する出生証明書の信用を損ない、戸籍制度の秩序を乱し、不実の親子関係の形成により、子の法的地位を不安定にし、未成年の子を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならない旨定めた民法七九八条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、近親婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、将来子にとって親子関係の真否が問題となる場合についての考慮がされておらず、子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。したがって、実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的でなされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反するものというべきであり、本件取消処分の直接の理由となった当該実子あっせん行為についても、それが緊急避難ないしこれに準ずる行為に当たるとすべき事情は窺うことができない。しかも、上告人は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、それによる弊害、その社会的影響を不当に軽視し、これを反復継続したものであって、その動機、目的が嬰児等の生命を守ろうとするにあったこと等を考慮しても、上告人の行った実子あっせん行為に対する少なからぬ非難は免れないものといわなければならない。

 そうすると、被上告人医師会が昭和五一年一一月一日付の指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるものというべきである。したがって、本件取消処分及びそれと同じ理由による本件却下処分に違法な点はなく、右と同し日の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 上告代理人佐々木泉の上告理由第二点について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官香川保一 裁判官牧 圭次 裁判官島谷六郎 裁判官藤島 昭 裁判官奥野久之)

 

 上告代理人佐々木泉の上告理由

 原判決には、次のような判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違背がある。

第一点 原判決は、行政行為撤回制限の法理の解釈をあやまり、その結果理由不備の違法をおかしている。

 一、原判決およびその引用する第一審判決(以下あわせて原判決という。)は、優生保護法一四条に基づく指定医師の指定は、医師であっても一般に禁じられている人工妊娠中絶を一定の要件のもとに行うことができる資格ないし地位を被指定者に附与するものであるから、授益的行政処分たる性質をもつものとしながら(この点につき、第一審判決の見解が改められた。しかし、第一審判決理由三7の部分は依然として改められておらず、理由齟齬の違法をきたしている。)、この場合でも被指定者の責に帰すべき事由により公益に適合しない事情が発生した場合には、法律による明文の根拠がなくとも、指定を撤回できるものと判示している。

 (一)本件指定医の指定の性質は、原判決のように、古典的な特許理論に従い「特許に近いもの」とみるべきではなく、国民において本来なしうる行為について、刑法による禁止を前提とした上、法令により不可罰とされるべき行為者の限定に過ぎないものであることに着目すると、講学上の許可に近いものとみるべきであり、ただその効果(授益性、設権性)において特許に近いものとなっているに過ぎない。してみると、指定の取消処分は、本質的に覊束裁量行為であるとともに、その取消をするについては法律の明文の根拠を必要とするものである。原判決には、法律の解釈をあやまった違法がある。

 (二)次に行政行為の撤回については、相手方の同意がある場合、附款が存在する場合および充分な補償がなされる場合を除き、たとえ相手方の責に帰すべき事由がある場合でも、法律の明文の根拠を必要とする。現行取締法規は当該法律以外の法律に違反しただけでは当然には撤回を認めていないし、その上相手方の義務違反の場合でも、「この法律又はこの法律に基く命令に違反したとき」として(麻薬取締法、古物営業法、道路法など)、更には法律違反だけでは直ちに撤回を認めず、右違反に基く処分に違反したとき(医療法、火薬取締法など)もしくは他の要件を加重して(風俗営業法四四条)、はじめて撤回を認めるという慎重な定めをしており、いずも行政行為の撤回について明文の根拠を設けているのである。

 (三)このような法の態度は、法治主義の原則を尊重するとともに、撤回により相手方のこうむる打撃を考慮し、相手方の義務違反をもって直ちに撤回事由とせず、相手方の利益と公益との慎重な比較考量を要求していることを示すものであり、このことは、相手方の義務違反の場合でも、不利益処分については、法律上の定めを必要とすることの根拠となる。

 (四)本件指定は、原判決も認めるように医師の一部の者について、厳格な要件のもとに与えられる資格であり、しかも継続的性格を有し、取消の結果は極めて重大なものであるところ、同じく義務違反の場合において、例えば古物営業者に対する許可の取消についてさえ、慎重な法律上の定めがあるのに、指定医師の指定の取消については全く法律上の根拠を要しないと解することはあまりにも不当であり、単なる法の不備ではすまされないことである。なお、優生保護法は、指定の要件、取消権者、取消の要件について全く定めのない不備な非近代的な法律であり、このような不備な法律は指定の取消については法律としては機能しないものというべきである。

 (五)以上の次第で、被指定者の責に帰すべき事由のあるときは、公益の必要上法律の根拠なくして指定を撤回できるとの原判決の判示は、法律の解釈をあやまったもので、その結果理由不備の違法をおかしている。

 二、次に、原判決は「相手方の責に帰すべき事由」として、上告人の行為が指定医師として、「人格面の適格性」を欠くに至ったことをあげている。

 (一)原判決は、優生保護法が指定医師の資格要件ないし指定基準について全く明文を設けていないことを前提として、指定のための要件として人格面、技能面、設備面の適格性を想定している。しかし、右のとおり法自体全く要件を定めていないし、右要件を推認しうる定めもしくは委任条項を設けていないのであるから、指定の取消という不利益な行政処分をする場合に限り、右のような要件を解釈によって創造することは、法治主義の原則に反し、法の解釈の限界を超えるものである。ましてや「右のように指定の要件について明文の規定を設けていないことから、指定要件の認定については、医師会の合理的な裁量に委ねられている」旨の原判決の解釈は、指定の撤回をする場面においては法治主義の原則に反するものである。

 (二)次に、法の解釈として、指定医の要件を設定しうるとしても「人格面の適格性」を要件とすることはあやまりである。

 (1)指定医は、母体に重大な影響を与える妊娠中絶を行うものであるから、一般の医師以上に妊娠中絶に必要な専門的知識や経験を必要とするであろうし、右手術を行うにふさわしい医療設備をもたなければならないのは当然である。

(2)しかし、指定は医師に対してのみ附与されるものであるところ、医師法四条、七条二項により明らかなとおり、指定医は既に医師としての品位を要求されており、医師としての品位を損するような行為があったときは、厚生大臣はその免許の取消、業務停止を命ずることができるものとされている。すなわち、指定医は、指定医以前に医師としての人格面における品位を要求されているのであって、それ以上に指定医として高い品位を要求する実定法上の根拠はない。

 人格面における品位は、優生保護法の目的、立法趣旨とは全くかかわりのない問題であって、これを指定の要件として特に附加すべきものではない。逆に言えば、人格面における品位を損するような行為があったときは基本法たる医師法に基づく処分をすれば足りる(これによって当然に指定医としての業務を行い得ない。)のであって、さらに同一の理由で指定医の指定取消処分を行うこと(二重の不利益処分)は許されない。

 (3)法が任意団体である医師会に対して指定権を委任したのは、医師としての専門技術性の判断をする上において、よりふさわしいものと考えたからである。故に医師会には、技術専門性に関する判断権能は認められても、人格面、品位に関する判断を委ねられたものとみることはできない(判例評論二九三号一七頁)。

 (4)よって、原判決が、指定医師として人格面における適格性を欠くに至ったことを「相手方の責に帰すべき事由」としたことは、法律の解釈をあやまったものであり、その結果理由不備の違法をおかしている。

 三、さらに、原判決には「公益に適合しない事情」ないし「公益背馳」の解釈をあやまった違法がある。

  (一)原判決は、上告人が実子あっせんを行ったこと、医師法違反等の罪により罰金刑に処せられたことその他諸種の事情から、指定医師として人格面における適格性を欠き、「公益に適合しない事情」ないし「公益背馳」の状況に立ち至り、指定撤回の公益上の必要が生じたものと判示している。

 (二)まず原判決は、多くの個所で「公益」なる概念を用いているが、その具体的な内容を全く示していない。全体的な観察をすれば、原判決は、優生保護法自体の予定する公益ではなく、「法遵守義務」とか「正しい医業」、「現行法秩序に対する挑戦」とかの表現から明らかなように、同法以外の予定する公益もしくは一般的な法秩序を指しているものと思われる。

 (三)しかし、指定医の指定の取消(撤回)を論ずる場合には、その公益概念は優生保護法の立法趣旨、目的に従いその限界を画されるものであり、たまたま別の法律の予定する公益に反したとしても、指定医の指定を撤回する根拠とはなりえない(医業に関する他の法律違反のすべてが「公益背馳」となるとすれば、それはまさに法治主義に反することである。)。

 (四)優生保護法は一条に定められているように、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の健康を保護することを目的とする。そして同法はその目的を達成するため、一定の要件のもとに優生手術、人工妊娠中絶、受胎調節の実地指導という手段を予定しているが、指定医に関するものは人工妊娠中絶のみであり、同法一四条は一項一号ないし四号に該当し、かつ、関係者が希望する場合においてのみ、指定医師の指定業務として妊娠中絶を認めるのである。

 (五)してみると、指定医に関する限り、同法の予定する「公益」とは、関係者が希望し、法一四条一項一号ないし四号の要件をみたす限度において、不良な子孫が生まれないようにするために妊娠中絶をすることおよび母性の健康を保護することであるといわなければならない。従って、指定医師が他の法律に違反した場合であっても、右のような公益に反するような行為のない限り、指定の撤回の要件としての「公益に適合しない事情」に該当することはありえない。なお、原判決は、実子あっせんの結果、近親婚を生ぜしめ、悪性遺伝子の発現を助長する可能性もあり、優生上の見地から「不良の子孫の出生を防止する」と定める優生保護法の目的にも背馳するという。しかしながら、実子あっせんそれ自体は同法の予定する指定医師の業務ではありえないし、上告人の取り扱ったケースはすべて同法ではもはや妊娠中絶の許されない時期にある胎児に関するものであるから、右行為は右優生保護法の予定する目的には何ら反するものでないことが明らかである。右判示を推し進めると、同法の目的を達成するため、中絶時期を過ぎた胎児も、出産させないで中絶せよという短絡的な発想となってしまうおそれがある。

 (六)上告人は、医師法等には違反する結果とはなったが、優生保護法の目的や定めに反する行為をしたことはない。中絶の時期を逸した妊婦に対し、胎児の生命を救い、かつ、母性の健康を保護するために出産を勧めたのであり、同法一四条一項各号の要件に反して出産させたわけではない。

 (七)以上のように原判決は、公益の解釈、ひいては「公益に適合しない事情」の解釈をあやまったもので、その結果理由不備の違法をおかしている。

第二点 原判決には、行政における公正手続の保障の法理の解釈適用をあやまり、かつ、証拠に基づかないで事実を認定した違法があり、その結果理由不備の違法をおかしている。

 一、行政手続においては、何人も告知、弁明の機会を与えられることなく不利益な処分を受けることはない。これはいわゆる行政における公正手続の保障の原理である(憲法一三条、三一条)。本件取消処分は、指定医師の有する重要な法的利益ないし資格を剥奪するものであるから、その誤りなきを期するため、事前に被指定者に対して告知した上、十分事情を聴取すべきであり、被指定者としても事前に当該処分手続において当然弁明、立証する機会を与えられなければならない(最高裁判所昭和四六年一〇月二八日判決民集二五巻七号一〇三七頁、東京高裁昭和四〇年九月一六日判決行判集一六巻九号一五八五頁参照)。特に現在司法審査の範囲を裁量の踰越、濫用の著しい場合にのみ限定しようとする判例の傾向からみると、行政における裁量権の公正、適切な行使を期待するためにも、この原理は極めて重要な役割をもち、その手続もますます厳格なものであることが要求される。

 二、ところで、原判決は、本件取消処分の手続に右のような公正手続の保障の原理の適用があることを前提とした上で、

 (1)本件においては、事前に事情聴取や弁明の機会を与える手続をとらなかったこと。

 (2)しかし、上告人は国会や日本母性保護医協会において直接実子あっせん行為に関する実情や意見を開陳し、著書、新聞等によりその考え方を公表するとともに、これが問責に対する弁明をなしてきたこと(この点は第二審判決によって附加されたもの)。

 (3)医師会の審議会の構成員は、上告人の意見や弁明について十分了知、検討した上で本件取消処分をしたこと(前同)。

 (4)本件取消処分に対する不服申立後に上告人に対し不服審査委員会において弁明の機会が与えられていること。を認定した上、処分手続のなかで直接弁明する機会を与えられなかったとはいえ、公正手続保障の原理に反するところはないものと判示した。

 三、まず前頭(2)の認定のうち、上告人が問責に対する弁明をなしてきたとの点について検討するに、本件においては処分前にこのような弁明をなしてきたことは認めるに足りる証拠はなく(従って、この部分は証拠に基づかない事実の認定である。)、かつ、理論上不利益処分につき事前に全く告知のない段階において上告人が「問責に対する弁明」をなす余地のありえないことからみて、右判示は既にこの点において理由齟齬の違法をおかしている。

 さらに前項(3)の点について検討するに、被上告人医師会は第一審において「指定審査委員会の答申と被上告人自身で収集した資料に基づいて、本件取消処分をした」旨主張したのみで、全くこの点の立証をしていないのであるからこれを肯認できる証拠はなく、ましてや審議会の構成員が上告人の意見や弁明について十分了知、検討した事実を認めるに足りる証拠も全くないのであるから、原判決は証拠に基づかないで事実を認定した違法がある。

 四、上告人が国会や日母においてなした意見の開陳、著書等による公表は、本件取消処分の告知のなされる以前において、主として自ら実行した実子あっせんおよびいわゆる実子特例法に関する自己の見解を述べたに過ぎないもので、その段階においては全く取消処分を予想しておらず、少なくとも指定医の指定の取消処分を前提とした意見弁明は述べていないし、また理論上述べる余地はありえなかったのである。しかも、右意見の開陳、公表は、本件処分手続外において、本件処分とは全く無関係になされた意見の表明に過ぎないものであった。

 このように、不利益処分を全く予想しない(問題意識を異にする。)、不利益処分と全く無関係になされた個人的意見の表明(防衛方法とはなりえない)をもって問責に対する弁明であるとし、これをもって公正手続における弁明にあたるとした原判決の判断は、公正手続保障の法理の解釈をあやまったものである。

 五、次いで、不利益処分に必要な聴問、弁明は、処分決定に先立つ事前手続でなされなければならない。事後的にいかに周到な手続をとろうとも、事前聴問の実質のない瑕疵を事後の不服審査手続において追完し、その瑕疵を治癒するわけにはいかない。従って、本件取消処分に対する不服申立後に不服審査委員会において弁明の機会が与えられたことをもって公正手続保障の要請が満たされたとした原判決の判断は、公正手続の保障の法理の解釈をあやまったものである。

第三 撤回の必要性および処分の選択に関する本件処分の判断は、社会通念上著しく不合理であって、裁量権の濫用があるにもかかわらず、これを肯認した原判決には行政事件訴訟法第三〇条の解釈をあやまった違法がある。

 一、原判決は、「本件取消処分の直接の理由は、前記罰金刑の確定と確定した違法事実に徴するとき、上告人は指定医師として不適当と認められるというのであるが、その実質的な理由は、前記一四の(3)(上告人が開業以来昭和四八年四月までの一五年間に約一〇〇例以上の赤ちゃんあっせんを行ってきたという事実)ないし(8)に示されていると理解され、結局上告人が指定医師として人格面でその適格性を欠くに至ったと・・・・・・・・・するものであると解される。」と判示している。

 二、適格性の判定にあたり、処分理由として掲げられた事実のほか、行為に関する附随的事情をも考慮しうることは当然であるが、この場合考慮できる「附随的事情」とは、その行為の動機や背景事情を指すものであって、右処分の対象となった違法事実(刑事処分の対象となった事実)以外の事実(右に述べた一〇〇例の赤ちゃんあっせんの事実)のような、独立して処分の対象となる事実を含まないものである。もし独立して処分の対象となる事実をも考慮しうるとするときは、それらを含めて行政処分の対象としたことになり、その結果は極めて不当である。

 三、前記の一の判示は、まさに考慮すべきでない事実が本件処分にあたり考慮されていることを容認したものであり、そうだとすると既に本件処分はこの点において、撤回の必要性、処分の選択に関し社会通念上著しく不合理なものであることが明らかである。

 四、本件処分は、右のように考慮すべきでない事実を考慮した違法があるのみならず、考慮すべき事項を考慮しなかった違法が存する。すなわち、本件処分にあたっては、上告人の行為の動機、目的や上告人が世に訴えようとしている意図、その功績についても充分考慮すべきであるのに、これを考慮した形跡は全くうかがわれないのである。

 五、考慮すべき上告人の行為の動機、目的は、原審において提出した第三準備書面第三、二、(三)、6記載のとおり、殺害される危険の大きい胎児の生命を一人でも多く守ろうとしたことにある。この点は、「胎児ないしは生まれ来る嬰児の生命を救おうという人道的動機と善意から本件の実子あっせんに出たのであるとの上告人の弁明はそのとおり受け取つてよいと考える。」という原判決の判断にもはっきりと示されている。

 六、行為の動機が人道的であり、善意から出たものであるという事実は、本件のような不利益処分をするについては最大限に考慮されなければならないことである。このような立派な動機を肯定する以上、指定医として適格性を否定する公益上の必要はないし、処分の選択にあたっても罪一等を減じて一定期間の業務停止もしくは戒告で足りるとするのが社会通念である。

 特に本件処分は、半永久的に指定医の資格を奪うような極刑であること、上告人の右行為は私利私欲のためになされたものでないこと、刑事処分も、上告人のなした複数の行為のうち、一事例だけを処分の対象とし、軽い罰金刑を略式命令により科したこと、法制審議会身分法部会は、昭和五七年九月から特別養子制度の検討を開始したが、世界の潮流に従うものとはいえ、これは主として上告人の提唱がきっかけとなったものであることなどの諸点を考慮するとき日本国民の一般的な感情からみると、本件処分は、不当に重いもので、裁量権の濫用と評価すべきものである。

 上告人の上告理由

 原判決は、判決の総括として、上告人の行為が公益に適合しないものであることを示すため、後記のような見解を示しているが、右説示は本件の如き特殊な事案について、証拠に基づいて充分検討された結果とは思えない、非論理的かつ皮相の見解であって、それは社会通念ないし経験則に著しく反するものであり、その結果理由不備の違法をおかしており、判決に影響を及ぼすことが明らかであると思料するので、以下その理由を述べる。

 一、判決は、「人工妊娠中絶の適期徒過後に控訴人を訪れる妊婦の多くが控訴人から施術を断られれば、自ら又は他の産科医のもとで胎児の生命を断ち、或は嬰児を殺害するに相違ないとする控訴人の判断は、それが何らかの経験と伝聞に基づくものであるとしても、客観性のある裏付けや信頼するに足りる根拠を有するものとは言いがたいので、短絡的な思い込みないしは速断であると評さざるを得ない」という。

 (一)中絶を求められる対象は、通例母から望まれぬ子である。“望まれぬ子”とは“母子の縁”がつながることを望まれぬ子、すなわち、母が、“母子の縁”を断ちたい子を意味する。

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