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カテゴリ:憲法 > 司法試験

論文式試験問題集[民事系科目第3問]

 

[民事系科目]

〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,40:20:40])

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。

【事 例】

AとBは,Aを貸主,Bを借主として,Aの所有する土地(以下「本件土地」という。)について,期間を30年,賃料を1か月30万円,目的を建物所有とする賃貸借契約(以下「本件契約」という。なお,本件契約は,事業用定期借地権を設定するものではない。)を締結した。

Bは,本件土地上に,レストラン経営のための店舗建物(以下「本件建物」という。)を建築し,本件建物でレストラン(以下「本件レストラン」という。)を経営してきた。Bが本件契約の締結から20年後に死亡すると,その子であるYが相続により本件土地の賃借人としての地位を承継し,本件レストランの経営を引き継いだ。また,Bの死亡と同じ時期に,AがXに本件土地を譲渡したことから,Xが本件土地の賃貸人としての地位を承継した。

Yは,本件契約の期間満了の3か月前に,Xと面談し,本件契約が期間満了後も更新されることの確認を求めたが,Xは,その場で,以下のように主張しつつ,本件契約の更新を拒絶した。

1.Xの息子Cは,歯科医であり,開業を予定している。本件土地は,Cが歯科医院を営むのに最適の立地条件であることから,本件土地上に歯科医院用の建物を建築することを計画している。

2.XはYに対して立退料として1000万円程度を支払う用意がある。

XY間での交渉はまとまらず,Xは,本件契約の期間満了の直後,本件契約の終了に基づき,「Yは,Xから1000万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡せ。」との判決を求めて,訴え(この訴えに係る訴訟を,以下「本件訴訟」という。)を提起した。

本件訴訟の第1回口頭弁論期日においては,XとYの双方が出頭し,Xが前記1と2記載の主張をしたのに対して,Yは,本件レストランの経営継続を予定しているところ,離れた地に移転してしまうと経営が成り立たず,近隣において適当な土地を取得することは困難である旨及びXから申出があった程度の立退料では本件レストランの収入喪失まで補償するには全く不十分である旨を主張した。

また,この期日において,裁判官Jは,訴状の請求の趣旨には,「1000万円の支払を受けるのと引換えに」と記載してあるが,他方で,Xが1000万円程度を支払う用意がある旨を申し出た旨を主張していることから,1000万円という額にどの程度のこだわりがあるかという点についてXに釈明を求めた。これに対して,Xは,「1000万円という額に強いこだわりはありません。この額は,早期解決の趣旨で若干多めに提示したものですので,早期解決の目がなくなった以上,より少ない額が適切であると思っておりますが,本件土地を明け渡してもらうのが一番大事ですから,裁判所がより多額の立退料の支払が必要であると考えるならば,検討する用意があります。」と陳述し,その要旨は口頭弁論調書にも記載された。

以下は,裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。

J:Xは,立退料の支払を申し出ていますね。立退料は,借地借家法第6条の正当事由の有無を判断する上で,どのような役割を担うのでしょうか。

P:借家に関してですが,判例は,立退料は他の諸般の事情と総合考慮され,相互に補充しあって正当事由の判断の基礎となるものであるとしています(最高裁判所昭和46年11月25日第一小法廷判決・民集25巻8号1343頁。以下「最判昭和46年」という。)。

J:そうすると,裁判所が正当事由を認める上で必要と考える立退料額がXの申出額よりも多額である場合は,どういう判決をすることになりますか。

P:最判昭和46年は,原告は「立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し,かつその支払と引き換えに(中略)店舗の明渡を求めている」と述べた上で,申出額よりも多額である500万円の支払との引換給付判決をした原判決を是認しています。本件でも,Xの第1回口頭弁論期日における陳述の内容から見て,Xの申出額と格段の相違のない範囲内で増額した立退料の支払との引換給付判決は許容されそうです。

J:それはそうでしょうね。それでは,申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決はどうでしょうか。

P:最判昭和46年に照らすと難しいと思います。

J:そう結論を急がないでください。最判昭和46年は,格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決の許否について直接判断したものではありません。また,格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決を拒否するというのがXの意思であるとは直ちにはいえないように思います。

P:確かにそうですね。

J:それでは,引換給付判決をすることができないとすると,その場合にすべきことになる判決はどのようなものとなるのかを示し,その判決を,Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決と対比した上で,後者のような引換給付判決をすることの許否を検討してください。これを「課題1」とします。

ところで,裁判所が正当事由を認める上で必要と考える立退料額がXの申出額よりも少ないということも考えられます。この場合には,Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることはできるのでしょうか。

P:それは,Xが求めている判決よりも有利な判決をXに与えることになりそうでやや違和感があります。しかし,口頭弁論調書を見ると,Xはより少ない額が適切であるとも陳述していますね。

J:こちらも額によるかもしれないですね。それでは,第1回口頭弁論期日におけるXの陳述の内容にも留意しつつ,Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることは許容されるかという点も検討してください。これを「課題2」とします。

なお,「課題1」及び「課題2」を検討するに当たっては,どのような事実を判決の基礎にすることができるかという問題と借地借家法第6条に関する実体法上の解釈問題に言及する必要はありません。

〔設問1〕

あなたが司法修習生Pであるとして,Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。

【事 例(続き)】

本件訴訟が第一審に係属中,弁護士に頼らず自ら訴訟を追行してきたYは,心労もあって健康を害し,以前から本件レストランの経営を手伝っていたZにレストラン経営を任せることとした。

そこで,Yは,Zに本件建物を賃貸し,これに基づき本件建物を引き渡した。

Xは,前記の事実を直ちに察知し,Zを本件建物から立ち退かせなければ,目的は達成することができないと考え,Zに対する建物退去土地明渡請求を定立しつつ,Zが本件訴訟の係属中にYから本件建物を賃借し,これに基づき本件建物の引渡しを受けたことを理由としてZを引受人とする訴訟引受けの申立てをした。

以下は,裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。

J:本件で,民事訴訟法第50条の承継は認められるのでしょうか。

P:同条の「訴訟の目的である義務」という文言を素直に捉えて,同条にいう承継とは訴訟物である義務の承継を指すと理解するのであれば,Zがこのような義務をYから承継したというのは難しいと思います。

J:しかし,そのような承継の理解は狭すぎるように思います。そこで,そのような理解を離れた上で,訴訟承継制度の趣旨を踏まえて,同条の承継の意味内容を具体的に明らかにし,Zが同条にいう承継をしたといえるか否か検討してください。これを「課題」とします。

なお,検討に際しては,XのYに対する訴えの訴訟物は,賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物収去土地明渡請求権であることを前提にしてください。

〔設問2〕

あなたが司法修習生Pであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。

【事 例(続き)】

本件訴訟では,弁論準備手続における争点及び証拠の整理が完了したことから弁論準備手続が終結となり,Cの証人尋問並びにX及びYの当事者尋問が実施され,口頭弁論の終結が予定された口頭弁論期日(以下「最終期日」という。)の指定がされた。本件建物がYからZに対して賃貸され,引き渡されたのは,最終期日の指定がされた直後であり,Xの訴訟引受けの申立ては,最終期日前に認められることとなった。

本件訴訟に従前関わっていないZは,弁護士に頼らずに訴訟を追行するのは難しいと考え,直ちに弁護士Lに訴訟委任をした。Lは,正当事由の判断の基準時が本件契約の期間満了時であるとしても,Yが本件レストランの経営から退いたことが,Yの従前の主張に関して不利にしんしゃくされることもあり得ることから,更新拒絶に正当事由があると評価されるのを妨げる事実を追加して主張するのが適切であろうと考えた。

そこで,Lが改めて本件レストラン経営に係る資料を調査すると,B名義の預金通帳(以下「本件通帳」という。)に,本件契約締結の際にBがAの預金口座に対して1500万円を振り込んだ旨の記帳がされていることを発見した。LがYに対してこれについて質問をすると,「Bから,亡くなる直前に,本件契約の際に権利金としてAの口座にかなりの額を振り込んだ,本件土地の更新時にもめるといけないから,本件通帳はきちんと保管しておくように,と伝えられていました。言われたとおり,本件通帳は本件契約の契約書と共に厳重に保管し,本件訴訟の前にも本件通帳の中身を見てBからAへの振込みも把握していましたが,本件訴訟においてそれほど重要なものとは思っていませんでした。」との回答を得た。その後,Lは,近隣の土地の相場や賃料相場を調査した結果,BからAに支払われた権利金は,賃料の前払の性質だけではなく,更新料の前払の性質も含むものであったと思うに至った。

以下は,弁護士Lと司法修習生Qとの間の会話である。

L:最終期日には,BからAに対して更新料の前払の性質も含む権利金が支払われていた旨の新主張(以下「本件新主張」という。)をするとともに,この事実を立証するために本件通帳についての書証の申出とAの証人尋問の申出をしようと思います。ただ,最終期日にAの証人尋問を実施するというのは無理がありますから,改めて期日を指定してもらうことになります。

Q:Xは,これらの攻撃防御方法の提出は,時機に後れた攻撃防御方法であるとして,却下決定を申し立ててくるのではないでしょうか。

L:その可能性は十分にあります。そこで,差し当たり本件新主張が却下されるか否かについて考えてほしいのです。Xは,①Y自身が最終期日に本件新主張をしたとしたら,時機に後れたものとして却下されるべきである,②そうである以上,Zによる本件新主張も却下されるべきである,と主張してくると思います。まず,Xの立場から,①について,その結論を得るための理由を説明してください。また,その際には,以後予想されるXとY双方の主張立証活動と,却下決定を得るのを容易にするためにXがYに対してすることができる訴訟法上の行為にも言及してください。これを「課題1」とします。

その上で,Xの立場から②についてZによる本件新主張は却下されるべきであるという立論をして,さらに,Zの立場からこれに対する反論をしてください。これを「課題2」とします。

「課題2」の検討に当たっては,Y自身が本件新主張をしたとしたら,時機に後れたものとして却下されるということを前提としてください。

〔設問3〕

あなたが司法修習生Qであるとして,Lから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。

 

論文式試験問題集[民事系科目第2問]

[民事系科目]

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:25:40〕)

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,和食器の製造・販売を業とする株式会社であり,取締役会及び監査役を置いているが,会社法上の公開会社ではなく,平成28年3月31日現在,資本金は1億円,負債額は2億円,総資産額は10億円,当該事業年度の経常利益は2000万円であった。甲社の取締役は,Aほか3名であり,Aが代表取締役を務めている。甲社の和食器は,伝統美の中に現代的なテイストを取り入れる点が評価され,人気が高まっていたが,甲社は,厳格な品質管理体制を有し,信頼できる代理店のみを通じて販売する方針を堅持していた。

2.高級食器の販売を業とする乙株式会社(取締役会を設置しておらず,株主はBのみである。以下「乙社」という。)の代表取締役Bは,Aに対し,甲社の和食器を販売させてほしいと再三申し入れていたが,断られていた。

3.Aは,平成28年5月頃,Bに対し,「私個人でレストランを開業するので,下見に同行してほしい。」と頼んだ。Aは,同行したBに対し,「レストランでは甲社の和食器を利用するので,気に入った客が乙社を通じて購入できるようにするのはどうか。」と持ち掛けるとともに,「この計画の実現には5000万円資金が足りない。」と漏らした。Bは,これを機に甲社との取引関係を深めようと思い,前記1の事項を含む甲社の財務状況の概要をAに確認した上で,乙社としてAに5000万円を融資することとし,Aに対し,「我が社にお任せください。ただ,個人に事業上の融資をした実績がないので,甲社の連帯保証を付けてください。」と述べたところ,Aは,「分かった。」と答えた。Bは,後日,Aに対し,「連帯保証についての甲社の取締役会の議事録の写しをもらえれば,すぐに融資できます。」と述べた。

4.このレストラン業は,Aが甲社の事業として提案したところ,採算がとれる見通しがないことを理由に他の取締役らに反対されたものであった。このような経緯から,Aは,甲社が連帯保証することについて,他の取締役らの賛成を得ることはできないと考え,取締役会の議事録の写しではなく,甲社代表取締役A名義でAの乙社に対する債務を連帯保証することについて取締役会の承認がある旨の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これをBに交付することとした。

5.Aは,平成28年5月25日,Bに対し,「社内規定により,取締役会の議事録は金融機関以外の第三者には公開していない。他の取引先にも取締役会の議事録を見せたことはない。」と述べて,本件確認書を交付した。しかし,Aの言う社内規定は存在しなかった。Bは,Aが知名度の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし,甲社の和食器を取り扱うことによる利益が期待できる一方で,自分のような小さな会社の経営者がAに取締役会の議事録の写しを強く求めれば,Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうなどと考え,これ以上の確認をせず,乙社内で必要な手続を経た。

6.Aは,平成28年6月1日,乙社から5000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約(利息は,年1%として1年ごとに後払いとするものとされ,最後の利息と元本の返済期日は,平成31年(令和元年)9月30日とされた。)を締結するとともに,甲社取締役会の承認を受けないまま,甲社を代表して,書面により,乙社との間でAの乙社に対する前記金銭消費貸借契約に基づく債務を連帯して保証する旨の合意をした(以下「本件連帯保証契約」という。)。なお,Aから甲社に対して本件連帯保証契約に係る保証料は支払われていない。

7.Aは,乙社に対し,1年目の利息は支払ったものの,その後の支払を怠り,返済期日に元本の返済もしなかった。そこで,乙社は,令和元年10月頃,甲社に対し,本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行を請求したが,これにより,本件連帯保証契約の存在を甲社の他の取締役らが知ることとなった。

〔設問1〕 乙社からの本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行の請求を拒むために甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。

8.甲社の設立当時の株主名簿上の株主及びその保有株式数は,Aの父親であるCが10万株,Aの祖母でありCの母親でもあるDが20万株,甲社の仕入先であり創業資金を出資した丙株式会社(以下「丙社」という。)が10万株であった。甲社では,平成24年6月開催の定時株主総会の決議を経て新たに10万株(以下「本件株式」という。)が発行され,本件株式の株主名簿上の株主はAであった。なお,甲社は,株券発行会社でも種類株式発行会社でもない。

9.本件株式が発行された経緯は,次のとおりであった。すなわち,Aは,平成24年3月頃,甲社の代表取締役であったCの要請に従い,家業である甲社を継ぐため,大学卒業後に就職した会社を辞めて実家に戻ることとした。Cは,実家に戻ったAに対し,次の株主総会でAを甲社の取締役に就任させる予定である旨を伝え,「いずれ社長になる身として,従業員や取引先の手前多少の株を持っておく必要がある。金のことは心配しなくていい。」と述べたが,それ以上のやり取りはされなかった。そして,前記8の定時株主総会において,Aを取締役に選任するとともに,本件株式をAに発行する旨の決議がされたが,本件株式の発行に必要な事務手続は,Cの指示に基づいて,甲社の総務部が進め,株式の申込みに必要な書面等におけるAの記名押印もAが甲社に預けていた印章を用いて総務部が行った。また,払込金額である2000万円は,全てCの貯金によって賄われた。

10.本件株式に係る剰余金配当は,C名義の株式に係る分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれており,これらの剰余金配当についてはCの所得としてCのみが確定申告をしていた。A及びC宛ての株主総会の招集通知等は,Cの指示により,いずれも甲社の総務部に留め置かれ,本件株式に係る株主総会の議決権についても,甲社の総務部が,C名義の株式に係る議決権と併せて,会社提案に賛成するものとして事務処理がされた。Cは,平成27年6月に取締役を退任し,以後は,Aが代表取締役の地位にあったが,前記のような事務処理は継続された。

11.Cは,令和元年10月頃,本件連帯保証契約の件を耳にし,甲社の将来を憂慮するようになり,Aに対し,「君は,しばらく代表取締役を降りたほうがよい。次の定時株主総会で私が再び取締役に戻り,代表取締役として甲社の経営を仕切り直すから,そのように株主総会の準備を進めなさい。」と伝えたが,Aは,これに応じなかった。そこで,Cは,Aに対し,本件株式の株主の地位はCに帰属するものであると主張したが,Aは,本件株式の株主の地位はAに帰属すると主張して譲らなかった。

〔設問2〕 CがAに対して本件株式に係る株主の地位の確認を求める訴えを提起した場合に,Cの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。

12.AとCは,令和元年12月頃,①AがCに対して一定額の解決金を支払うこと,②本件株式はAに帰属することを確認することを内容とする和解契約を締結したが,甲社の経営をめぐる意見の対立は続いていた。この和解契約により,甲社の株主構成は,Aが10万株,Cが10万株Dが20万株,丙社が10万株となった。

13.甲社においては,令和2年6月,Aの取締役としての任期満了に伴う取締役1名選任の件を議題とし(他の取締役の任期は満了していない。),Aを取締役に選任することを議案(以下「本件選任議案」という。)とする定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を招集することが取締役会において決定され,必要事項が記載された書面にて各株主に通知された。なお,甲社の定款には「株主は,当会社の議決権を行使することができる他の株主1名を代理人として,その議決権を行使することができる。」旨の定めがある。

14.丙社(公開会社である取締役会設置会社であり,多数の株主が存在する。)の内規においては,総資産に占める帳簿価格の割合が1%未満である政策保有株式の議決権行使は,総務担当の代表取締役専務に委ねられていた。丙社の甲社への売上げが丙社の総売上げに占める割合は0.3%程度であり,丙社が保有する甲社株式の帳簿価額が丙社の総資産に占める割合は0.1%程度であった。本件株主総会の招集通知には,例年と同様,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項について甲社代表取締役に委任する旨の包括委任状用紙が同封されていた。そこで,丙社の総務担当の代表取締役専務であるEは,例年と同様,前記包括委任状用紙に必要事項を記載し,甲社に送った。

15.前記14の丙社の内規を知らないCは,この機会にAを甲社の経営から排除しようと考え,丙社の営業担当の代表取締役副社長であり,大学の同窓生であるFに相談し,本件株主総会において,Cを取締役に選任する旨の修正動議を提出してこれに賛成することを示し合わせた。Fは,Eがいつものように包括委任状を提出していることを知りながら,本件株主総会に出席することをCに約束した。

16.Dは,甲社の定時株主総会に毎年出席していたが,AとCがもめていることを知り,一方にのみ肩入れすることを避けるため,弁護士G(甲社の株主ではない。)に代わりに出席してもらうこととし,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項についてGに委任する旨の委任状を作成し,Gに交付した。

17.FとGは,本件株主総会の当日,受付担当者に対し,議場への入場を求めたところ,受付担当者は,株主名簿の記載,Fの名刺及び前記16のDのGに対する委任状を確認し,FとGを議場へ案内した。その後,A及びCが議場に入り,Aが議事を進めようとしたところ,Cは,「Aは,本件連帯保証契約について説明を果たす立場にもあるから,私が議長を務める。」との動議を提出した。Aは,本件連帯保証契約の件もあることから,ひとまず父親の顔を立てようと考え,動議に賛成し,ほかに異論もなく,Cが議長となった。

18.議長となったCは,「Gには出席資格がない。」と述べるとともに,「Fには丙社代表者としての出席を認めます。」と述べた。これらに対し,AとGが異論を唱えたが,Cが取り合わなかったため,Gは,仕方なく退場した。Cが議事を進めると,Fは,本件選任議案に対する修正動議として,Cを取締役に選任する旨の議案(以下「本件修正議案」という。)を提出した。これを受けて,Cは,「取締役1名の選任が議題となっているので,候補者ごとに採決をするのではなく,取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決をすることとしたい。」と提案したところ,誰も異論を唱えなかった。そこで,Cがあらかじめ用意した投票用紙と投票箱により投票が実施された。

各株主の議決権の行使状況は,次のとおりであった。すなわち,Aは,Aの議決権についてAを取締役に選任すべき旨の投票をするとともに,丙社の代理人として丙社の議決権についてAを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Aによる投票」欄参照。)。Cは,Cの議決権についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした。Gは,退場したため,Dの代理人としてDの議決権について投票することはできなかった。Fは,丙社の代表取締役副社長として丙社の議決権についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Fによる投票」欄参照。)。

株主の氏名又は名称 丙社議決権の数(万個) 10 10 20 10

取締役として選任すべき Aによる投票 Fによる投票者として記載した氏名

19.投票用紙の集計後,Cは,丙社の議決権の行使については,Fによる投票が有効であり,Aによる投票が無効であることを前提に,Cが取締役として選任された旨を宣言して(以下「本件決議」という。),本件株主総会を閉会した。

20.Fが,丙社の代表者として,本件株主総会に出席した上で本件修正議案を提出して議決権を行使したことは,独断によるものであった。また,AもCも,前記14の内規の存在を知らなかった。

〔設問3〕 Aは,令和2年7月,本件株式の株主として本件決議の取消しを求める訴えを提起したいと考えているが,本件決議の効力を争うためにAの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。

 

[労 法]

〔第1問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

有料職業紹介事業を営むY社は,本社と事業所が一体となった事業場1か所のみで,労働者6人を使用して事業を行っていた。

Y社と無期労働契約を締結して雇用されているX1は,時間外・休日労働の時間数が1か月当たり60時間を超える状態が続く中で,Y社社長のAから,午後8時以降は会社内で勤務しないようにとの通告を受けた。そこでX1は,やむを得ず,求職者の個人情報等の機密情報が記録された記憶媒体(以下「媒体」という。)を,Y社の許可を得ることなく自宅に持ち帰り,自宅で深夜まで残務処理を行うようになった。そのような状況が続いたある日,X1は,会社から帰宅する電車の中でうたた寝をしてしまい,媒体の入った鞄を紛失した。X1は,翌朝出勤してすぐに,Aに媒体を紛失した経緯を説明した。AとX1は,媒体に個人情報が記録されていた求職者160人と連絡を取り,媒体紛失の経緯を説明して謝罪した。Y社は,これらの求職者160人に対し,お詫びの品として金券3000円相当をそれぞれ送付した。

Y社は,就業規則を作成していなかったが,各労働者との間で労働契約を締結する際に,後記の労働契約書を手交し,各労働者の署名・押印を得ていた。Y社は,X1の前記の媒体紛失行為が労働契約書第18条第3号,第4号及び第10号記載の懲戒事由に該当するとして,X1に弁明の機会を与えることなく,同第19条に基づき,X1を7日間の出勤停止処分とした。また,Y社は,前記の媒体紛失行為によるY社の損害額を48万円とし,X1に対して48万円の損害を賠償するよう請求した。

その後Y社は,他の大手企業に顧客の多くを奪われていく中で,売上げが3年連続で低下し,労働者6人を雇用し続けることが難しい状況となった。そこでAは,「会社の経営方針を正しく理解し,経営改革に柔軟に対応してくれる人材」の雇用を継続し,これに該当しない者2人を解雇するとの方針を立てて,Y社の労働者全員が出席する朝礼の場で,この方針を説明した。このAからの説明に対し,労働者からは特段意見や質問は出なかった。そこでAは,この方針に基づいて被解雇者を決定することとし,全労働者6人の中から,これまでの勤務態度に照らし,会社への協調性や柔軟性に欠ける傾向にあると評価したX2及びX3の2人を選定した(会社の経営方針に協力的であると評価していたX1は,被解雇者に選定しなかった)。Aは,X2及びX3に対し,被解雇者に選定されたことを説明し,30日の予告期間を置いて,両名を解雇した。なお,Y社と各労働者との間で締結された労働契約書には,解雇に関する定めはない。

【労働契約書(抜粋)】

第18条 従業員が次の各号の一に該当する場合は,第19条の定めるところに従い,懲戒を行う。

1,2 (略)

会社の許可なく,会社の物品や機密情報を持ち出したとき。

不正な行為により,会社の名誉・信用を毀損し,又は,会社に損害を与えたとき。

5~9 (略)

10 前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき。

第19条 懲戒は,けん責,減給,出勤停止(14日間を限度とし,無給とする),諭旨退職,懲戒解雇の5種類とし,会社は情状に応じて処分を決定する。

- 〔設 問〕

1.Y社がX1に対して行った出勤停止処分は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。

2.Y社からX1への損害賠償請求は認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。

3.Y社がX2及びX3に対して行った解雇は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。

- 〔第2問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

合板等の製造等を業とするY社は,本社工場と3つの支工場を有し,その従業員の約8割がA労働組合に加入していた。同組合には,本社工場に事務局を置く組合本部とは別に支工場ごとに組合支部が置かれていたが,各支部は,同組合の下部機構であって,各支工場に特有の問題については工場協議会を開催して工場側と折衝して処理するなどしていたものの,組合本部とは独立してY社と団体交渉をしたり,労働協約を締結したりする権限はなかった。Xは,Y社F支工場従業員であり,A労働組合F支部長である。

令和2年1月20日,Y社T支工場において原料木粉の粉塵爆発と思われる事故が発生し,従業員1人が死亡したほか複数の者が負傷した。労働基準監督官等の調査によっても事故原因の特定には至らなかったが,爆発の中心地点にあったM社製機械が着火源になった可能性が調査の過程で指摘され,そのことがM社製の同型同年式の機械を使用していたF支工場従業員を著しく動揺させた。その結果,生命の危険があるなどとして同機械による作業を拒否する者が現れ,一部の従業員が繁忙期を乗り越えるためにやむなく集中的にこの作業を受け持つという状況が生じた。

同年2月3日,F支工場製造部長であるBは,この状況を解消すべく,F支工場の工場長であるWに対し,「安心して働ける環境の回復のため,M社製機械を全て廃棄し,L社製の同等品を導入すべきである」旨,意見を具申した。Bは,かつて組合員であったが,創業者である代表取締役Zに管理能力を買われて現職に昇進し,人事権を有する管理職となるに伴い,非組合員となっていた。

Wは,Zの三男であって長く経理部門の要職を務め,工場勤務の経験はないものの,製造部門の経費率が特に高いF支工場の経営見直しのため,Zの判断で工場長に任命されていた。Wは,M社製機械を事故の原因とする科学的根拠が乏しい中で「安心」のために設備更新をするというコスト意識を欠く提案をするBに憤りを覚え,Bに「お前らは,ありもしない亡霊を仕立てて,金がかかることばかり考える。機械にケチをつける暇があったら危険予測活動を徹底しろ。親父はかわいがっていたようだが,お前はもうだめだな。」と言って罵倒した。

かねてWの工場運営方針に不満を覚えていたBは,激高してWの胸ぐらにつかみかかり,周囲にいた製造部の従業員に制止されながらもなおWに罵声を浴びせた。Wは,暴行についての謝罪と機械の更新をしない方針に従うことをBに指示したが,Bは返事をしなかった。Wから事態の報告を受けたY社は,Bには後記の就業規則第59条第5号及び第6号の懲戒事由があり,その情状は極めて重いとし,Bに同規則所定の弁明の機会を与えた上で,同年3月2日,Bに対して同年4月2日付けで懲戒解雇する旨を予告し,同日,同人を懲戒解雇した。

Xは,Bの懲戒解雇は,人命を軽視するWの策動による不当なものであるというにとどまらず,組合員がどれだけ会社の発展に身を捧げ,管理職に栄進したとしても,創業家の一存で解雇され得ることを示すものであり,放置すれば組合員の将来に希望はないと考えた。そこでXは,F支部の幹部数人と協議の上,Bの懲戒解雇の撤回を本社に上申するようWに要求し,これが拒否された場合にはF支部組合員15人(製造ライン従業員の約8割)が示威的に一斉に早退し,罷業に入るという計画を立てた。

Xは,この計画を組合本部のP書記長に電話で伝達したが,Pは,Bの懲戒解雇に対しては厳重に抗議すべきであるとしつつ,要求が拒否された場合に組合員が一斉に早退して罷業する行動にまで及ぶのは時期尚早であり,相当ではないと返答した。しかしながら,Xは,交渉が長期化すれば不当な前例が既成事実化しかねないことを懸念し,組合本部の了承を得ないまま,F支部組合員にはそのことを秘して,計画を実行に移すこととした。

同年4月13日午前10時頃,Xは,F支部組合員10人を引き連れて工場長室前に赴き,同室の扉を激しくノックして「工場長!B部長の解雇の件でお願いしたいことがある。」と叫んだ。

Wは,管理職であったBの懲戒解雇について組合と話すことはないと考え,返事もせずに無視した。Xは,さらに激しくノックしながら,「工場長!組合としてB部長の懲戒解雇の撤回を要求する。聞こえないのか。現場を分かっているのはあんたじゃない。B部長だ。そのB部長をクビにして俺たちを爆弾のそばで働かせ,浮いた経費で飲む洋酒はそんなにうまいか!」と大声で言い放った。Xは,Wがなおも返事をしないことから,同行した組合員に「この野郎は俺たちが大人しく作業をしているうちは動く気はない。こんなところでワイワイ言っても無駄だ。聞く気がないなら俺たちも作業を放棄せざるを得ない。B部長が戻り,怯えて働かずに済むようになるまで,組合は断固戦う。」などと言ってあおり,工場長室前を立ち去った。F支部組合員は,支部長の指揮によるものである以上本部が了解した方針であるものと誤信しつつも,Y社の対応やWの態度に憤りを覚え,Xに賛同し,同日午前11時30分頃,全員がXと共に早退届を提出してF支工場から立ち去った。

同日から始まった同盟罷業は,組合本部の仲介により要求事項の実現を見ないまま同月21日に終了したが,その間,F支工場の製造部門の操業が完全に停止したため,Y社は,生産予定であった全製品について納期を守ることができず,その後取引先から債務不履行責任を問われるなどの事態となった。

また,Xは,罷業期間中,世論を味方に付けるため,F支部名義の情報宣伝活動用アカウントでインターネット上に「創業家の横暴・人命を無視した搾取の実態」などと題したY社経営陣を批判する投稿をしたり,Y社製品の不買を呼び掛ける投稿をしたりした。これらの投稿の大部分は,事実を誇張してY社を攻撃・中傷する過激なものであり,それがインターネット上で注目を集めた結果,これに呼応してY社を批判する匿名の投稿が爆発的に増加するとともに,これらの投稿の内容や騒動の経過が全国放送のテレビ番組で取り上げられ,それが更に反響を拡大させ,本社に抗議の電話が殺到するなどした。

Y社は,X自身が罷業期間中一切出勤せず,組合本部の了解も得ずにF支部組合員を扇動し,罷業させた行為は就業規則第59条第1号,第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に,また,Y社を誹謗中傷する,事実に基づかない内容の投稿を拡散させ,本社への抗議の電話を殺到させた行為は同条第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に,それぞれ該当し,いずれも情状は極めて重いとし,Xに同規則所定の弁明の機会を与えた上で,同年6月1日,Xに対して同年7月3日付けで懲戒解雇する旨を予告し,同日,同人を懲戒解雇した。

【Y社就業規則(抜粋)】

第59条 従業員が次のいずれかに該当するときは,情状に応じ,訓戒,けん責,減給,出勤停止,降格,諭旨退職,懲戒解雇に処する。

正当な理由なく,無断で3日以上欠勤し,出勤の督促に応じなかったとき。

2,3 (略)

故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。

会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い,その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。

勤務怠慢,素行不良又は会社の秩序又は風紀を乱したとき。

他の従業員の業務を妨害したとき。

私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉・信用を傷つけ,業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき。

その他前各号に準ずる程度の行為があったとき。

第60条 前条の規定により懲戒を行うときは,当該従業員に対し,事前に弁明の機会を与える。

-〔設 問〕

Y社がXに対して行った懲戒解雇は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。

租税法令和3年司法試験問題

[租 法]

〔第1問〕(配点:50)

Aは,平成元年1月からBと婚姻し同居していた。婚姻中は,Aが専ら収入を得ており,Bは家事に従事していた。

Aは,平成12年12月31日付けの契約で,不動産業者である株式会社P社から,土地(以下「本件土地」という。)を4000万円の対価により取得した。この金額は,この時の本件土地の時価と等しいものであった。Aは,この金額を,婚姻中に蓄積した貯蓄から支払った。平成18年3月1日,AとBは離婚することになった。同日,財産分与として,Aは本件土地をBに引き渡した。この時点において,AとBとが婚姻中に形成した資産の時価相当額は約1億円であり,本件土地の時価は5000万円であった。

平成20年3月1日,Bは,本件土地を個人Cに5500万円の対価により譲渡した。

Cは,本件土地の取得後直ちに,その上に居住用の部屋10室から成る建物(以下「本件建物」という。)を建築した。そして,平成22年1月から,本件建物の各部屋を賃貸する不動産賃貸業を個人で営み始めた。本件建物の賃借人は,C名義の銀行口座への振込みによりその賃料を支払っていた。本件建物に係る賃貸借契約や管理業務には,Cはほとんど関わっておらず,Cの子であるDが事実上行っていた。Dは,本件建物の部屋の一室に居住しているが,Cに対して賃料の支払はしていない。

さらに,Cは,平成23年1月から,本件建物の一室を使って,個人でQ鍼灸院という屋号の鍼灸院の事業を開始した。鍼灸の施術サービスを行うには,はり師及びきゅう師の国家資格が必要であったが,鍼灸院の経営自体は,経営者がはり師及びきゅう師の国家資格を持っていなくても,はり師及びきゅう師の国家資格を持つ者を別に雇用することで営業することが可能であった。Cは,個人経営者としてQ鍼灸院の事業運営を取り仕切り,また,はり師及びきゅう師の国家資格を持つFを雇用した。Fが来院客に鍼灸の施術サービスを提供するとともに,C自らは,施術サービスを行うのに国家資格の不要なリラクゼーションセラピストとして,来院客にリラクゼーションの施術サービスを提供し,Q鍼灸院は鍼灸及びリラクゼーションの各施術サービスによる収入を得ていた。

Cは,本件建物の居住用の部屋の賃貸収入と,Q鍼灸院の収入により生計を立てていた。

他方,Cは,平成26年1月から,かねて趣味にしようと考えていた生花の専門学校に半年間通い,その腕を磨き,かなりの腕前を持つに至った。そこで,Cは,同年10月に,Q鍼灸院の待合室に自作の生花を飾ったところ,来院客からも好評で,待合室の雰囲気が良くなったためか,生花を飾って以降毎月の売上げが1割上昇した。

さらに,Cは,将来は自らも鍼灸の施術サービスを提供し,より多くの来院客に施術サービスを提供できるようにし,Q鍼灸院の事業の拡大を図ろうと考え,平成27年1月から,はり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に通い始め,はり師及びきゅう師の国家資格取得を目指した。

令和元年10月にCが死亡し,Cの子であるD及びEの2名のみが共同相続人となったが,現在に至るまで遺産分割協議は成立していない。なお,Cは遺言をしていない。また,C死亡後,速やかにQ鍼灸院は廃業した。

本件建物の居住用の部屋の賃料については,DとEとの合意により,遺産分割協議が成立するまではD名義の銀行口座への振込みにより受領することとし,その旨を賃借人に通知した。実際に,令和2年1月からは,本件建物の賃借人は,D名義の銀行口座への振込みにより賃料を支払っている。この賃料収入は,現在に至るまでD名義の銀行口座から引き出されていない。

以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

- 〔設 問〕

平成18年3月1日に,Aが本件土地をBに引き渡したことは,財産分与の額として適正なものであったとする。このとき,

上記の財産分与に関して,Aの所得税の課税関係はどうなるか。

平成20年3月1日に,Bが本件土地をCに譲渡したことに関して,Bの所得税の課税関係はどうなるか。

Cの平成26年分の所得税の計算上,Cが生花の専門学校に支払った学費は,CのQ鍼灸院に係る事業所得における必要経費に該当するか。また,Cの平成27年分の所得税の計算上,同年中にCがはり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に支払った学費は,CのQ鍼灸院に係る事業所得における必要経費に該当するか。

所得税法上は,令和2年分の本件建物の居住用の部屋の賃料収入は,誰に帰属するか。

- 〔第2問〕(配点:50)

株式会社A(以下「A社」という。)及び株式会社P(以下「P社」という。)は,株主及び役員の一部を同じくする関連会社である。A社は,昭和50年に甲県乙市郊外の土地(以下「本件土地」という。)を3000万円で購入し,A社の保養施設の敷地として利用していた。平成29年に本件土地上の保養施設は取り壊され,本件土地は更地となっていた。令和元年9月,A社代表取締役のQは,知り合いのRから,本件土地を時価相当額である9000万円で売却してほしいとの電話連絡を受けた。Qは,A社が直接Rに本件土地を売却するのではなく,A社からP社へ,そしてP社からRへ,順次売却することを計画した。その目的は,A社及びP社がそれぞれ譲渡益を得て,A社及びP社の繰越欠損金を消滅させることにより,2社合計の法人税額を,A社が直接Rに本件土地を売却した場合と比して低くすることであった。

Qは,課税上問題視されないようにするため,A社とP社との間に株式会社B(以下「B社」という。)を挟むことを考えた。Qの大学時代の同じサークルの後輩で今でも交流を続けているCが,乙市内で不動産販売会社たるB社を立ち上げ,B社の代表取締役を務めていることを思い出したためである。QはCに,B社がA社から本件土地を購入する取引を提案した。ただし,B社がA社から7000万円で本件土地を買い受けた後,2か月以内にこれをP社に7500万円で売却すること(以下「本件特約」という。)を条件とするものであった。Qとしては,A社及びP社とは何ら関係性のないB社を間に介在させることで,本件土地の適正な時価が7000万円であると見せ掛けることを企図していた。Cとしては,古くから世話になっている先輩からの依頼であり無下に断ることもできず,立ち上げたばかりのB社の売上げが少しでも上がるのであればと思い,承諾した。

なお,本件特約は,Qの希望により本件土地の売買契約書とは別の覚書(以下「本件覚書」という。)という形でA社,B社間で締結された。また,Qは,本件土地の売却時期が令和2年2月頃になることをあらかじめRに連絡し,Rの了解を得ていた。

以上に基づき,B社は,令和元年11月15日にA社から本件土地を7000万円で買い受け(以下,この取引を「本件AB取引」という。),令和2年1月10日に本件土地をP社に7500万円で売却した(以下,この取引を「本件BP取引」という。)。同月20日,QはRに対し,本件土地は,現在,関連会社であるP社が保有しているので,P社に買付証明書を提出してほしいと連絡し,Rは,同月23日付け買付証明書をP社に郵送した。P社は,同年2月25日にRに対し,本件土地を9000万円で売却した(以下,この取引を「本件PR取引」という。また,「本件AB取引」,「本件BP取引」,「本件PR取引」をまとめて,以下「本件各取引」という。)。

P社は,同月29日にCに対し,協力金として100万円(以下「本件リベート」という。)を支払った。

A社,B社及びP社は,毎年1月1日から12月31日までの期間を事業年度としている。

A社は,本件土地の時価が7000万円であるという前提で,令和元年12月期の法人税の申告(以下「本件A申告」という。)をした。令和2年9月,税務署によるA社に対する法人税の実地調査がなされた。本件土地が転々譲渡されていることにつき調査官から尋ねられたQは,本件土地を,交渉の末,B社に7000万円で売却したところ,その後,本件土地を9000万円で購入したいとRから連絡を受けたが,既にB社に売却してしまっており,当時,A社にて買い戻すだけの資金的余裕もなかったことから関連会社のP社が本件土地をB社から7500万円で購入した上で,Rに売却することになった旨を説明した。その際,Qは,本件各取引の売買契約書(以下「本件各売買契約書」という。)について調査官に示したものの,本件覚書については開示しなかった。なお,本件各売買契約書には架空の名義の利用はない。

調査後,QはすぐにCに連絡し,B社について調査官から事情を聴かれた際には,本件覚書の存在やQとCとの関係については一切触れずに,交渉の末に,購入価額が7000万円となったと説明するよう要請した。また,Qは,Rに対してもQが調査官に説明した内容での口裏合わせを行った。しかし,B社に反面調査がなされた際,本件覚書の存在が発覚し,本件各取引の全貌が明らかとなった。

以上の事案について,以下の設問に答えなさい。ただし,第2問において,グループ法人税制及び同族会社行為計算否認規定の適用は考えなくてよい。

〔設 問〕

1⑴ 仮にA社が令和元年11月15日に直接Rに本件土地を9000万円で譲渡していた場合,当該譲渡に関して,同年12月期のA社の法人税の計算上,益金の額及び損金の額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。

本件AB取引に関して,令和元年12月期のA社の法人税の計算上,益金の額及び損金の額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。

国税通則法第68条第1項の「隠蔽」,「仮装」につき,最高裁判所平成7年4月28日

第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁は「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく,納税者が,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合には,重加算税の右賦課要件が満たされる」と判示した。益金を2000万円少なくした本件A申告そのものが同項の「隠蔽」,「仮装」に当たるか,説明しなさい。

本件A申告そのもの以外に,国税通則法第68条第1項の「隠蔽」,「仮装」に当たる事

実があるかについて,本件各取引の法律行為の内容が本件各売買契約書に偽りなく記載されており,架空名義の利用はないことに留意しつつ,上記最高裁判所の判決の判示を踏まえて説明しなさい。

本件AB取引及び本件BP取引に関して,B社の令和元年12月期及び令和2年12月期の法人税の計算上,益金の額及び損金の額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。

本件リベートは,Cの令和2年分の所得税の計算上,事業所得,一時所得,雑所得のいずれの所得に分類されるか,説明しなさい。

 

 法律科目名 簿

商   法 飯 島   努 法務総合研究所教官

遠 藤 啓 佑 法務省民事局付

笠 原 武 朗 九州大学大学院法学研究院教授

神 作 裕 之 東京大学大学院法学政治学研究科教授

久保田 安 彦 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

齊 藤 恒 久 法務省民事局付

齊 藤 真 紀 京都大学大学院法学研究科教授

澁 谷 展 由 弁護士(第二東京弁護士会)

高 橋 浩 美 東京地方裁判所判事

髙 橋 美 加 立教大学法学部教授

丹 下 将 克 東京地方裁判所判事

冨 田 陽 子 弁護士(大阪弁護士会)

中 西 和 幸 弁護士(第一東京弁護士会)

林   史 高 東京地方裁判所判事

松 尾 健 一 大阪大学大学院高等司法研究科教授

深 山   徹 弁護士(東京弁護士会)

本 井 克 樹 弁護士(東京弁護士会)

余 田 博 史 弁護士(大阪弁護士会)

渡 辺   諭 法務省民事局付兼法務省民事局参事官

民事訴訟法 内 野 宗 揮 法務省民事局民事法制管理官

大 野 晃 宏 法務省民事局参事官兼法務省訟務局参事官

川 嶋 隆 憲 名古屋大学大学院法学研究科教授

日下部 真 治 弁護士(第二東京弁護士会)

佐 瀨 裕 史 学習院大学法学部教授

佐 藤 り か 弁護士(東京弁護士会)

新 谷 貴 昭 法務省大臣官房参事官

鈴 木 和 孝 法務省訟務局付

勅使川原 和彦 早稲田大学法学学術院教授

中 武 由 紀 司法研修所教官[判事]

名津井 吉 裕 大阪大学大学院高等司法研究科教授

菱 田 雄 郷 東京大学大学院法学政治学研究科教授

法務省大臣官房参事官

松 尾 吉 洋 弁護士(大阪弁護士会)

松 村 和 德 早稲田大学大学院法務研究科教授

向 井 宣 人 司法研修所教官[判事]

本 山 正 人 弁護士(第一東京弁護士会)

安 岡 美香子 司法研修所教官[判事]

和 田 希志子 弁護士(第一東京弁護士会)

渡 邊 英 夫 法務省大臣官房司法法制部参事官

法律実務基礎 中 祖 康 智 弁護士(大阪弁護士会)

(民事) 茂 垣   博 弁護士(第二東京弁護士会)

世 森 亮 次 司法研修所教官[判事]

刑   法 有 吉 成 美 司法研修所教官[検事]

大 橋 君 平 弁護士(東京弁護士会)

鎌 倉 正 和 司法研修所教官[判事]

鈴 木 輝 仁 司法研修所教官[検事]

十 河 太 朗 同志社大学大学院司法研究科教授

高 森 宣 裕 司法研修所教官[判事]

玉 本 将 之 法務省刑事局参事官

坪 井 慶 太 司法研修所教官[検事]

中 畑 知 之 司法研修所教官[検事]

長 濱 周 生 弁護士(第一東京弁護士会)

中 山 大 輔 司法研修所教官[検事]

野 崎 高 志 司法研修所教官[検事]

橋 爪   隆 東京大学大学院法学政治学研究科教授

藤 川 綱 之 弁護士(東京弁護士会)

増 尾   崇 司法研修所教官[判事]

松 原 芳 博 早稲田大学大学院法務研究科教授

刑事訴訟法 池 田 公 博 京都大学大学院法学研究科教授

浦 岡 修 子 司法研修所教官[検事]

大 塚 雄 毅 法務省大臣官房参事官

大 森   顕 弁護士(東京弁護士会)

小 川 正 持 元東京家庭裁判所長

小 川 佳 樹 早稲田大学大学院法務研究科教授

小木曽   綾 中央大学大学院法務研究科教授

近 藤 和 久 司法研修所教官[判事]

坂 元 文 彦 法務省矯正局参事官

笹 川 義 弘 司法研修所教官[検事]

武 井 聡 士 司法研修所教官[検事]

武 田 和 寿 司法研修所教官[検事]

土 屋 孝 伸 弁護士(千葉県弁護士会)

土 居 景 子 司法研修所教官[検事]

道 本 周 作 弁護士(東京弁護士会)

山 下 順 平 司法研修所教官[検事]

法律実務基礎 上 沼 紫 野 弁護士(第二東京弁護士会)

(刑事) 小 畑 和 彦 司法研修所教官[判事]

鈴 木 健太郎 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

堀 越 健 二 司法研修所教官[検事]

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