会社法判例百選第3版 37 4版34事件 解説者変更なし 決議取消の訴えと取消事由の追加 最高裁昭和51年12月24日 民集判決です。小塚学習院大学教授が解説です。この論点がでたとしても前提問題で訴訟物論争をかいたりしないように。訴訟物論争と関係なく取消事由が複数あっても訴訟物はひとつです。民事訴訟法のほうでくわしくやる論点ではあります。神田秀樹「会社法 第十八版」弘文堂・2016年・191頁199頁。 法学セミナー2024年8月号82頁
株式会社総会決議取消請求事件
最高裁判所第2小法廷判決/昭和48年(オ)第794号
昭和51年12月24日
【判示事項】 一、株式会社が定款で株主総会における議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合と株主である地方公共団体、株式会社の職員又は従業員による議決権の代理行使
二、株主総会決議取消しの訴えにおいて商法248条1項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することの許容
【判決要旨】 一、株式会社が定款で株主総会における議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合においても、株主である地方公共団体、株式会社が、その職制上上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使にあたつて法人の代表者の意図に反することができないようになつている職員又は従業員に議決権を代理行使させることは、右定款の規定に反しない。
二、株主総会決議取消しの訴において、商法248条1項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは、許されない。
【参照条文】 商法239-3
商法247
商法248-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集30巻11号1076頁
最高裁判所裁判集民事119号381頁
裁判所時報707号1頁
判例タイムズ345号195頁
金融・商事判例516号5頁
判例時報841号96頁
金融法務事情814号43頁
【評釈論文】 金融・商事判例524号2頁
企業法研究267号45頁
ジュリスト635号100頁
ジュリスト臨時増刊642号115頁
別冊ジュリスト63号64頁
別冊ジュリスト76号128頁
別冊ジュリスト80号68頁
別冊ジュリスト114号156頁
別冊ジュリスト116号74頁
法学協会雑誌95巻7号154頁
法学新報84巻7~9号247頁
法政理論11巻3号99頁
法曹時報31巻7号111頁
法律のひろば30巻6号71頁
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松井道夫の上告理由第一から第三までについて
論旨は、法令の解釈の誤り、判断遺脱をいうが、その実質は、原審の証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠及び説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。また、論旨は、原審が、上告人が申し立てない事項について判断をした違法をいうが、右違法は、結局、判決の結論に影響を及ぼさないものというべきである。論旨は、採用することができない。
同第四について
原審が適法に確定したところによれば、被上告会社の定款には、「株主又はその法定代理人は、他の出席株主を代理人としてその議決権を行使することができる。」旨の規定があり、被上告会社の本件株主総会において、株主である新潟県、直江津市、日本通運株式会社がその職員又は従業員に議決権を代理行使させたが、これらの使用人は、地方公共団体又は会社という組織のなかの一員として上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たつて法人である右株主の代表者の意図に反するような行動をすることはできないようになつているというのである。このように、株式会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合において、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、原審認定のような事実関係の下においては、右定款の規定に反しないと解するのが相当である。けだし、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえつて、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。論旨は、これと異なる前提に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。
同第五について
株主総会決議取消しの訴えを提起した後、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、取消しを求められた決議は、たとえ瑕疵があるとしても、取り消されるまでは一応有効のものとして取り扱われ、会社の業務は右決議を基礎に執行されるのであつて、その意味で、右規定は、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるためその取消しの訴えを提起することができる期間を決議の日から三カ月と制限するものであり、また、新たな取消事由の追加主張を時機に遅れない限り無制限に許すとすれば、会社は当該決議が取り消されるのか否かについて予測を立てることが困難となり、決議の執行が不安定になるといわざるを得ないのであつて、そのため、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるという右規定の趣旨は没却されてしまうことを考えると、右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである。
したがつて、Aの議決権行使を被上告会社が認めなかつたのは違法である旨の第一、二審における上告人の主張は、本件決議取消しの訴えの提起期間経過後に新たに追加されたものであるから許されないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない、また論旨は、原判決の裁量棄却の判断の違法をいうが、右は、判決に影響を及ぼさない点を論難するものにすぎず、論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 本林 讓
裁判官 岡原昌男
裁判官 大塚喜一郎
裁判官 吉田 豊
裁判官 栗本一夫