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更正及び加算税賦課決定取消請求控訴事件

租税判例百選7版 87事件 佐藤修二 入門64頁

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成24年(行コ)第124号

【判決日付】 平成25年2月28日

【判示事項】 被控訴人らの相続税の申告に対し,税務署長が,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分,被控訴人らがその取消しを求め,原審が,請求を認容したのに対し,控訴した事案。「取引相場のない株式」について,類似業種比準方式による評価にするか(原審),株式保有特定会社として純資産方式等の特別の評価方式にするか(本件更正処分)が争点。控訴審は,大会社につき,株式保有割合が25%以上である会社を一律に株式保有特定会社とし,特別な評価方式によるとした判定基準は,本件相続開始時では合理性を有していたとは言えない。その企業の規模,実態等を総合して判断すべきで,本件対象の企業は,上場会社に匹敵し,原則的評価方式である類似業種比準方式を用いるべきであるから,原判決は相当であるとし,控訴を棄却した事例

【掲載誌】  税務訴訟資料263号順号12157

       LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】 税研170号84頁

       税研178号188頁

       税経通信68巻9号38頁

       税務弘報61巻8号115頁

       主   文

  本件控訴をいずれも棄却する。

  控訴費用は,控訴人の負担とする。

        事実及び理由

 第1 控訴の趣旨

  1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

  3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。

 第2 事案の概要

  1 本件は,被控訴人らが,平成▲年▲月▲日にA(以下「亡A」という。)が死亡したことによって開始した相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税を申告したところ,処分行政庁江東東税務署長から,平成19年2月13日付けで原判決別紙A「処分目録」記載1ないし5の各(1)記載の各相続税に係る更正処分及び同各(2)記載の各過少申告加算税賦課決定処分(同別紙記載1ないし5の各括弧書内の一部取消し及び減額の前後を問わず,上記の各相続税に係る更正処分を以下「本件各更正処分」と,上記の各過少申告加算税賦課決定処分を以下「本件各賦課決定処分」といい,こられを併せて以下「本件各処分」という。)を受けたことにつき,①本件各更正処分は,本件相続に係る相続財産中の株式会社B(以下「B」という。)及びC株式会社(以下「C」といい,Bと併せて「本件各会社」という。)の各株式の価額の評価を誤ってされたもので,相続税法22条に違反する,②仮に①が認められなかったとしても,被控訴人らは申告に係る納付すべき相続税額が過少であったことにつき国税通則法65条4項にいう正当な理由があったなどと主張し,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。

    本件においては,本件各会社の各株式がいずれも取引相場のない株式であることからその評価方式が問題とされ,相続財産の時価の算定方式等について定めた財産評価基本通達(評価通達)において,取引相場のない大会社(評価通達178)の株式の価額の算定については,原則として類似業種比準方式によって評価することとしているが,株式保有割合が一定以上の会社を「株式保有特定会社」と定義して,その会社の株式の価額につき,いわゆる純資産評価方式又はS1+S2方式という特別の評価方式によって評価するとしていることから,Bが評価通達にいう「株式保有特定会社」に該当するか否かが主要な争点となっている。

    原審は,Bが株式保有特定会社とするものとして特別の方式でその株式を評価するのは相当ではなく,その評価について原則的評価方式である類似業種比準方式によるべきであり,これを特別の方式で評価することを前提とした本件各更正処分における各株式の評価は誤りであるとして,被控訴人らの①の主張を認め,被控訴人らの請求をいずれも認容した。そこで,控訴人がこれを不服として控訴した。

  2 本件における関係法令等の定め,判断の前提となる事実,本件各処分の根拠及び適法性に関する控訴人の主張,相続税額に関する被控訴人らの主張並びに本件の争点及びこれに関する当事者の主張の要点は,当審における当事者の補足主張を3のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2ないし6に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,上記引用部分中,「原告」とあるのを「被控訴人」と,「被告」とあるのを「控訴人」と,「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。以下の引用部分において同じ。)。

  3 当審における当事者の補足主張

   (1) 控訴人の主張

    ア 評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保有割合が25%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社とする部分(本件判定基準)が本件相続開始時においても合理性があることについて

    (ア) 評価通達の平成2年改正により株式保有特定会社の株式について特別の評価方式が定められた趣旨は,従前から,資金構成が類似業種比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている評価会社の株式の価額は,その保有する株式等の価値に依存する割合が高いものと考えられていたものの,取引相場のない株式の評価に用いられる類似業種比準方式(評価通達180)は,評価会社の保有資産を時価評価することなく株式の価額を評価するもので,比準要素の一つである簿価純資産価額にも株式等の含み益が反映されていないため,評価通達179所定の会社の規模区分に応じた原則的評価方式である類似業種比準方式によっては,それによる評価額と適正な時価との間に看過できない開差が生じ,適正な株式価額の評価が困難であるという問題があったため,課税の公平の観点から,そのような開差の是正及び株式の価額の評価の一層の適正化を図ることを目的としたものである。そして,同改正においては,資産構成が類似業種比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている会社を株式保有特定会社と定義し,その株式の価額につき,①当該会社の有する資産の価値を的確に反映できる評価方式である純資産価格方式又は②株式保有特定会社の事業の実態を株式の価額の評価に反映されるために部分的に類似業種比準方式を取り入れた評価方式であるS1+S2方式によるべきこととした。このS1+S2方式は,S2の金額(保有株式等のみを純資産価額方式により評価した金額)の計算において保有株式等の含み益も評価の対象としつつ,S1の金額(保有株式等の影響を排除した上で原則的評価方式により評価した金額)の計算において当該会社の事業の実態を株式の価額の評価に反映させるために,部分的に類似業種比準方式を取り入れるという合理的なものである。

     (イ) ところで,評価の対象となる会社が保有する株式等に係る含み益を当該会社の発行株式の評価に可能な限り反映させるべきであるとの立場からすれば,株式保有割合の多寡にかかわらず,全ての会社について評価通達189-3所定の方式(純資産価額方式又はS1+S2方式)で評価すべきことになるが,他方,株式等を僅かに保有する会社を含め,全ての評価会社の株式を上記の方式で評価することを要求することは煩瑣であり,画一的で簡便な評価基準を定め納税者の事務負担を軽減するという評価通達に求められる簡便性の要請という観点からは相当ではない。そこで,評価通達189の(2)は,取引相場のない株式について,評価会社の資産構成がよほど株式等に偏った会社でない限り,評価の画一性・簡便性(納税者の便宜)の要請を重視して,その株式の価額を簡便な方法(類似業種比準方式)により評価することを認めるものとした上で,その資産構成が平均的な会社に比べ著しく株式等に偏っていると認められる一部の例外的な会社については,適正評価の要請を重視し,その保有株式等の含み益を反映させた純資産価額方式又はS1+S2方式により評価すべきものとした。また,取引相場のない株式のうち大会社の株式については,平成2年当時の法人企業統計等によれば,資本金10億円以上の会社の株式保有割合が平均約7.88%であったことから,一般的な会社の保有株式割合の数値の3ないし4倍以上の数値となる株式保有割合25%以上の会社の株式を,その資産構成が平均的な会社に比べ著しく偏っている会社の株式として,例外的に純資産価額方式又はS1+S2方式により評価すべきとした。

     (ウ) 法人企業統計(乙第12号証の2,第13号証)に基づき,平成2年度及び平成15年度の全ての業種の営利法人(ただし,金融業及び保険業を除く。)における株式保有割合等を詳細に分析してみると,その結果は,本判決別表1-1及び同1-2のとおりであり,まず,概ね資本金5000万円以上に属する会社が評価通達の指標を満たす大会社に相当する会社とみることができ(同別表1-1及び1-2の「⑦1社当たりの総資産」欄,「⑨1社当たりの従業員数」欄参照。),平成2年度における資本金5000万円以上の法人数5万5402社のうち,資本金5000万円以上10億円未満の法人数5万1597社が占める割合は約93.1%であり,平成15年度における資本金5000万円以上の法人数8万3883社のうち,資本金5000万円以上10億円未満の法人数7万8197社が占める割合は約93.2%であって,いずれの年度においても,資本金5000万円以上10億円未満の法人が,大会社に相当する会社の大部分を占めていることがわかる。そして,そのうち,資本金5000万円以上1億円未満の会社における株式保有割合をみると,平成2年度が4.8%であるのに対し,平成15年度が5.5%となっており,資本金1億円以上10億円未満の会社における株式保有割合も,平成2年度及び平成15年度のいずれも5.8%となっている(同別表1-1及び1-2の各「⑩株式の保有割合(②/③)」欄参照)。すなわち,評価通達上の大会社に相当する会社の大半(約93%)を占める資本金5000万円以上10億円未満の会社の株式保有割合については,いずれの年度においても5%前後となっており,平成2年度と平成15年度との比較において,有意な差異は認められない。さらに,資本金10億円以上の会社を含めてみた場合であっても,平成15年度の資本金5000万円以上の会社に係る株式保有割合は13.1%であり(同別表1-2の「⑩株式の保有割合(②/③)」欄),この数値は,平成2年度の株式保有割合である8.6%(同別表1-1の「⑩株式の保有割合(②/③)」欄)と比較して上昇しているものの,本件判定基準である25%のほぼ半分程度にとどまっている。

     (エ) 評価通達上,大会社の株式に適用される原則的評価方式は類似業種比準方式とされているところ(評価通達179の(1)),類似業種比準価額計算上の類似業種の株価等の計算の基となる標本会社は,金融商品取引所に株式を上場している全ての会社であり,株式会社Dデータベース営業部が上場企業の有価証券報告書に記載される財務情報をとりまとめデータベース化した「E(確報版)」によれば,上場会社の株式保有割合の平均は,それぞれ平成2年度が12.2%,平成15年度が13.6%となっており(本判決別表2-1,2の各「平均」欄),また,株式保有割合の会社数の分布をみると,15%未満の会社の割合は,平成2年度は70.6%であり,平成15年度は69.0%であって,いずれの年度においても上場会社全体の約70%を占めているし,株式保有割合が10%未満の会社の割合も,平成2年度は47.8%であり,平成15年度は52.1%であって,いずれの年度においても上場会社全体の約50%を占めている。これらの結果からしても,本件相続開始時において,大会社で株式保有割合が25%以上であるような評価会社は,類似業種比準方式において標本会社となる通常の上場会社に比べて,資産構成が著しく偏ったものといえる。

     (オ) 以上のとおりであるから,株式保有割合が25%以上である大会社を一律に株式保有会社とする本件判定基準は,本件相続開始時においてもなお合理性を有するものであり,これを否定した原判決の判断は誤りである。

イ 独占禁止法上の規制は本件相続開始時における本件判定基準の合理性を否定する根拠とならないことについて

    (ア) 独占禁止法は,その1条(目的)において,「私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止して,結合,協定等の方法による生産,販売,価格,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇傭及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」と規定しているとおり,事業支配力の過度の集中を防止して,公正かつ自由な競争を促進し,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものである。したがって,独占禁止法が子会社株式の保有に関して一定の基準を設け,特別な規制をしているとしても,それは同法の趣旨・目的を実現するためのものであって,その規制の基準や内容をもって,それとは異なる趣旨・目的の下に定められた株式保有割合25%という本件判定基準の合理性の有無を判断することができないことは明らかである。

     (イ) また,独占禁止法9条4項1号における「子会社」とは,同条5項により「会社がその総株主の議決権の過半数を有する他の国内の会社」に限定されており,株式の持合関係のある会社間であっても議決権の有無又は割合によって上記規制の対象にならないものであるのに対し,評価通達における「株式保有特定会社」とは,課税時期において評価会社の有する各資産をこの通達の定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合が25%である評価会社(評価通達189の(2))であり,その該当性を判断するに当たっては,議決権の有無や割合にかかわらず,全ての株式の保有割合をもって判定するものであるから,独占禁止法において持株会社とされる基準の割合と株式保有特定会社に係る本件判定基準の割合とでは,その判定の対象となる会社が異なっており,これらを同列に並べて比較することに意味はない。

     (ウ) 以上のとおり,独占禁止法上の規制の内容は,本件相続開始時における本件判定基準の合理性を否定する根拠となるものではなく,その合理性を否定する根拠の一つとして,独占禁止法上,子会社の株式の取得価額の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が100分の50を超える会社が持株会社とされ,特別な規制がされていること(同法9条4項1号)を挙げる原判決の判断は誤りである。

    ウ Bが株式保有特定会社に該当するか否かの判断において原判決が掲げる企業規模・事業実態等はその考慮要素とならないことについて

     原判決がBの事業実態等として掲げる諸点のうち枢要なものは,①資本金の額,②総資産価額(帳簿価額),③従業員数,④直前期末以前1年間における取引金額,⑤業界内での市場シェア,及び⑥株式時価総額であるところ,②ないし④については,評価通達178における会社の規模(大・中・小会社)の判定に用いられる基準と同じものであり,これらの基準により大会社と判定された上で株式保有特定会社に該当するか否かが判定されるべきBについて,会社規模を判定する基準である上記各基準をもって重ねて株式保有特定会社の該当性を判定する意義は認められないところ,①については,②及び④と同様に会社規模を量る基準であり,株式保有特定会社該当性を判断するに当たって独自の意義を有するものではない。⑤についても,これが株式保有特定会社該当性の判断,換言すると,類似業種比準方式を用いることが適切か否かの判断について,いかなる意味を有するか不明であり,さらに,⑥についても,原判決は,本件裁決において認定されたB株式の価額及び本件申告に係るB株式の価額と,甲第6号証によって認定した「(類似業種比準価額の計算において用いられる)標本会社たる上場会社(平成16年3月31日時点における)株式の時価総額の大部分」を比較すると,前者が後者を上回っていることから,Bの企業としての規模や事業の実態等は上場会社に匹敵するものであったと結論づけているが,評価通達178所定の基準により大会社と判定されたBが株式保有特定会社に該当するか否かという本件における争点を検討する際には,Bの企業規模や事業実態は,何ら独自の意義を持つものではない。Bは非上場の同族会社であり,同社の発行株式は公開の市場で自由に取引される上場株式とは純然たる相違があるから,事業規模やその実態がいわゆる上場企業と同様であることのみをもって,B株式につき上場株式の取引価額に準じた価額(類似業種比準方式によって評価した価額)で評価されるべきとの結論が導かれるものではない。

      以上のとおり,Bが株式保有特定会社に該当するか否かを判断するに当たり,本件判定基準に加えて,上記①ないし⑥のような評価会社の事業実態等を考慮要素とすることには意味がなく,このような考慮要素を判断基準に取り込むことは,かえって,いたずらに判断基準を複雑にし,課税処分を迅速に行うことを困難にさせることになり,相当ではない。

    エ 租税回避行為の弊害の有無を主たる考慮要素として株式保有特定会社に該当するか否かを個別的に判断することが誤りであることについて

     原判決は,租税回避行為の弊害を考慮要素として挙げた上で,B株式の価額の評価に関して,原則的評価方式による評価額と適正な時価との間の開差を利用したいわゆる租税回避行為の弊害を危惧しなければならないものとはいい難いとして,Bの事業実態等を踏まえ,同社はその株式の価額の評価において株式保有特定会社に該当するものとは認めるに足りないと結論づけているが,評価通達の平成2年改正の趣旨は,あくまで株式取引等の実態に照らし,株式及び出資の評価の適正化を図ったものであって,租税回避を封じることを主たる目的としたものではなく,このことは,国税庁が定める平成2年12月27日付け直評23ほか「取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等」通達(平成18年12月22日課評2-31ほかによる改正前のもの)の「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の2(1)ヘ(イ)において,株式保有特定会社該当性の判断に係る同評価明細書第5表「株式及び出資の価額の合計額」欄の(〈イ〉)の金額に記載する株式等の相続税評価額の合計額について,「所有目的又は所有期間のいかんにかかわらず,すべての株式等の相続税評価額を合計します。」(乙第4号証)と記載され,本件判定基準において保有株式に係る所有目的や所有期間は考慮されていないことからも明らかである。確かに,評価通達の平成2年改正時において,上場株式等をいわゆる持株会社に移転させて,類似業種比準方式の適用によって評価額の引き下げを図るという手法が問題化していたという背景はあったものの,そのことは評価通達改正のきっかけにすぎず,株式保有特定会社に該当するか否かを判断するに当たって租税回避行為の弊害を考慮要素として重視することは,上記評価通達改正の趣旨を離れて新たに独自の要件を付加することになり,相当ではない。

      また,原判決の判断を前提とすれば,相続財産である取引相場のない株式については,評価通達が定める会社の規模区分や株式保有割合等の客観的な基準によって財産の評価方式を定めることができず,当該会社の企業としての規模,事業実態等を踏まえ,原則的評価方式と適正時価との開差を利用した租税回避行為の弊害を危惧しなければならない事案であるか否かを個別事案ごとに判定し,原則的評価方式によるべきか評価通達189-3が定める評価方式によるべきかを決することが必要となるが,その考慮要素は,基準として曖昧であり,その基準に従った場合は,客観的交換価値の把握がそもそも困難な取引相場のない株式について,公正で適切な評価を迅速に行うことが困難となる事態を招きかねない。

八幡製鉄政治献金事件最高裁昭和45年判決 精読憲法判例人権編68事件 民法判例百選Ⅰ 第6版 8事件 三木・租税法入門14版 176頁 司法試験予備試験令和4年第9問

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取締役の責任追及請求事件 リーガルクエスト民法1 第二版補正版 83頁

会社法判例百選第3版 2 4版 2事件 神田23版219頁 佐藤幸治2版168頁
会社の政治献金 最高裁昭和45年6月24日大法廷判決 
民集判例です。地裁への訴え提起が昭和35年、最高裁判所への上告が昭和41年ですから最終的解決まで9年かかっています。川口同志社大学教授の解説です。

 代表訴訟、会社の目的の解釈等会社法の理解も必要ですが、憲法の憲法訴訟のスタンディングの問題にもなっています。八幡製鉄政治献金事件として知られる有名判例です。法学部の会社法の講義ならかならずふれる重要判例です。八幡製鉄のプレゼンスが当時いかにおおきかったか、昭和35年当時の左翼勢力が強く資本主義に疑問がもたれていたときの自由民主党への献金への反対であったこと、など歴史的知識も必要です。このあと政治資金に関していろいろな改定あったことは政治学や憲法では大事なはなしです。

 神田秀樹「会社法 第十八版」弘文堂・2016年・5頁


田中亘「会社法」東京大学出版会・2016年・36頁等

最高裁判所大法廷判決/昭和41年(オ)第444号

昭和45年6月24日

【判示事項】       1、政治資金の寄附と会社の権利能力

             2、会社の政党に対する政治資金の寄附の自由と憲法3章

             3、商法254条ノ2の趣旨

             4、取締役が会社を代表して政治資金を寄附する場合と取締役の忠実義務

【判決要旨】       1 会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の範囲に属する行為である。

             2 憲法3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄附の自由を有する。

             3 商法254条ノ2の規定は、同法254条3項、民法644条に定める善管義務をふえんし、かつ、一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものではない。

             4、取締役が会社を代表して政治資金を寄附することは、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてなされるかぎり、取締役の忠実義務に違反するものではない。

             (1につき意見がある)

【参照条文】       民法43

             商法166

             憲法3章

             商法254の2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集24巻6号625頁

             最高裁判所裁判集民事99号431頁

             裁判所時報548号6頁

             判例タイムズ249号116頁

             金融・商事判例217号5頁

             判例時報596号3頁

             金融法務事情585号16頁

             商事法務529号3頁

【評釈論文】       金融・商事判例239号2頁

             金融法務事情584号13頁

             金融法務事情589号30頁

             ジュリスト459号108頁

             ジュリスト460号16頁

             ジュリスト臨時増刊482号86頁

             ジュリスト増刊(憲法の判例第2版)186頁

             ジュリスト増刊(憲法の判例第3版)206頁

             ジュリスト増刊(商法の判例第2版)9頁

             ジュリスト増刊(商法の判例第3版)9頁

             別冊ジュリスト29号10頁

             別冊ジュリスト44号200頁

             別冊ジュリスト46号30頁

             別冊ジュリスト63号10頁

             別冊ジュリスト68号16頁

             別冊ジュリスト69号264頁

             別冊ジュリスト77号30頁

             別冊ジュリスト80号12頁

             別冊ジュリスト80号218頁

             別冊ジュリスト95号16頁

             別冊ジュリスト96号324頁

             別冊ジュリスト104号24頁

             別冊ジュリスト116号8頁

             商事法務531号2頁

             時の法令721号50頁

             時の法令722号55頁

             別冊法学教室基本判例シリーズ1号10頁

             法学セミナー174号2頁

             法経論集27号63頁

             法曹時報23巻10号237頁

             法律のひろば23巻11号37頁

             民商法雑誌64巻3号122頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第二点ならびに上告人の上告理由第一および第二について。

 原審の確定した事実によれば、訴外八幡製鉄株式会社は、その定款において、「鉄鋼の製造および販売ならびにこれに附帯する事業」を目的として定める会社であるが、同会社の代表取締役であつた被上告人両名は、昭和三五年三月一四日、同会社を代表して、自由民主党に政治資金三五〇万円を寄附したものであるというにあるところ、論旨は、要するに、右寄附が同会社の定款に定められた目的の範囲外の行為であるから、同会社は、右のような寄附をする権利能力を有しない、というのである。

 会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである(最高裁昭和二四年(オ)第六四号・同二七年二月一五日第二小法廷判決・民集六巻二号七七頁、同二七年(オ)第一〇七五号・同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・民集九巻一二号一八八六頁参照)。

 ところで、会社は、一定の営利事業を営むことを本来の目的とするものであるから、会社の活動の重点が、定款所定の目的を遂行するうえに直接必要な行為に存することはいうまでもないところである。しかし、会社は、他面において、自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであるといわなければならない。そしてまた、会社にとつても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあつても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。災害救援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、各種福祉事業への資金面での協力などはまさにその適例であろう。会社が、その社会的役割を果たすために相当を程度のかかる出捐をすることは、社会通念上、会社としてむしろ当然のことに属するわけであるから、毫も、株主その他の会社の構成員の予測に反するものではなく、したがつて、これらの行為が会社の権利能力の範囲内にあると解しても、なんら株主等の利益を害するおそれはないのである。

 以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがつて、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではないのである。論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。上告人のその余の論旨は、すべて独自の見解というほかなく、採用することができない。要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。

 原判決は、右と見解を異にする点もあるが、本件政治資金の寄附が八幡製鉄株式会社の定款の目的の範囲内の行為であるとした判断は、結局、相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

 上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第一点および上告人の上告理由第四について。

 論旨は、要するに、株式会社の政治資金の寄附が、自然人である国民にのみ参政権を認めた憲法に反し、したがつて、民法九〇条に反する行為であるという。

 憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。しかし、会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。論旨は、会社が政党に寄附をすることは国民の参政権の侵犯であるとするのであるが、政党への寄附は、事の性質上、国民個々の選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでなく、政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、それはたまたま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、かかる非違行為を抑制するための制度は厳として存在するのであつて、いずれにしても政治資金の寄附が、選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。会社が政治資金寄附の自由を有することは既に説示したとおりであり、それが国民の政治意思の形成に作用することがあつても、あながち異とするには足りないのである。所論は大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであつて、憲法上は、公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、これをもつて国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。

 以上説示したとおり、株式会社の政治資金の寄附はわが憲法に反するものではなく、したがつて、そのような寄附が憲法に反することを前提として、民法九〇条に違反するという論旨は、その前提を欠くものといわなければならない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。

 上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第三点および上告人の上告理由第三について。

 論旨は、要するに、被上告人らの本件政治資金の寄附は、商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反するというのである。

 商法二五四条ノ二の規定は、同法二五四条三項民法六四四条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであつて、所論のように、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができない。

ところで、もし取締役が、その職務上の地位を利用し、自己または第三者の利益のために、政治資金を寄附した場合には、いうまでもなく忠実義務に反するわけであるが、論旨は、被上告人らに、具体的にそのような利益をはかる意図があつたとするわけではなく、一般に、この種の寄附は、国民個々が各人の政治的信条に基づいてなすべきものであるという前提に立脚し、取締役が個人の立場で自ら出捐するのでなく、会社の機関として会社の資産から支出することは、結果において会社の資産を自己のために費消したのと同断だというのである。会社が政治資金の寄附をなしうることは、さきに説示したとおりであるから、そうである以上、取締役が会社の機関としてその衝にあたることは、特段の事情のないかぎり、これをもつて取締役たる地位を利用した、私益追及の行為だとすることのできないのはもちろんである。論旨はさらに、およそ政党の資金は、その一部が不正不当に、もしくは無益に、乱費されるおそれがあるにかかわらず、本件の寄附に際し、被上告人らはこの事実を知りながら敢て目をおおい使途を限定するなど防圧の対策を講じないまま、漫然寄附をしたのであり、しかも、取締役会の審議すら経ていないのであつて、明らかに忠実義務違反であるというのである。ところで、右のような忠実義務違反を主張する場合にあつても、その挙証責任がその主張者の負担に帰すべきことは、一般の義務違反の場合におけると同様であると解すべきところ、原審における上告人の主張は、一般に、政治資金の寄附は定款に違反しかつ公序を紊すものであるとなし、したがつて、その支出に任じた被上告人らは忠実義務に違反するものであるというにとどまるのであつて、被上告人らの具体的行為を云々するものではない。もとより上告人はその点につき何ら立証するところがないのである。したがつて、論旨指摘の事実は原審の認定しないところであるのみならず、所論のように、これを公知の事実と目すべきものでないことも多言を要しないから、被上告人らの忠実義務違反をいう論旨は前提を欠き、肯認することができない。いうまでもなく取締役が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたつては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり、右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべきであるが、原審の確定した事実に即して判断するとき、八幡製鉄株式会社の資本金その他所論の当時における純利益、株主配当金等の額を考慮にいれても、本件寄附が、右の合理的な範囲を越えたものとすることはできないのである。

 以上のとおりであるから、被上告人らがした本件寄附が商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反しないとした原審の判断は、結局相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨はこの点についても採用することができない。

 上告人の上告理由第五について。

 所論は、原判決の違法をいうものではないから、論旨は、採用のかぎりでない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官入江俊郎、同長部謹吾、同松田二郎、同岩田誠、同大隅健一郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

 裁判官松田二郎の意見は、次のとおりである。

 本件は、いわゆる八幡製鉄株式会社の政治献金事件に関し、その株主である上告人の提起した株主の代位訴訟(商法二六七条)に基づく訴であり、原審は、上告人の請求を排斥した。私は、その結果をば正当と考えるものである。しかし、その理由は、必ずしも多数意見と同様ではない。ただ、本件の一審判決以来、これに関する多くの批評、論文が発表されていて、細別するときは、意見はきわめて区々であるといえよう。私の意見は、次のとおりである。

 (一) 多数意見は、まず、会社の権利能力について、次のごとくいうのである。曰く「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するを相当とする」と。これは、用語上、多少の差異あるは別として、当裁判所従来の判例のいうところと同趣旨であるといえよう。そして、多数意見は、会社による政治資金の寄附について、曰く「会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果すためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げない」と。これによると、多数意見は、会社による政治献金を無制限に許容するものでなく、「会社の社会的役割を果すためになされたものと認められるかぎり」との制限の下に、これを是認するものと一応解される。

 しかし、他面において、多数意見は、会社の行う政治献金が政党の健全な発展のための協力であることを強調するのである。曰く、「政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがつて、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様としての政治資金の寄附についても例外ではないのである」(傍点は、私の附するところである)と。そして、多数意見がこのように、会社による政治資金の寄附の根拠を「会社の社会的実在」ということに置く以上、自然人もまた社会的実在たるからには、両者は、この点において共通の面を有することとなろう。そして、私の見るところでは、多数意見は、この面を強調して会社と自然人とをパラレルに考えるもののごとく思われるのである。多数意見はいう。「会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり……」と。かくて、多数意見は、会社による政治資金の寄附の自由を自然人の政治資金の寄附の自由と同様に解するがごとく思われる。しかして、自然人が政治資金の寄附のためその者の全財産を投入しても法的には何等とがむべきものを見ない以上、多数意見は、会社による政治資金の寄附をきわめて広く承認するもののごとくさえ解されるのである。

 この点に関連して注目すべきは、政治献金についての取締役の責任について多数意見のいうところである。多数意見はいう。「取締役が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたつては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてその金額等を決すべきであり、右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するものというべきである」と。思うに、取締役が会社を代表して政治献金をするについて、多数意見のいう右の諸点を考慮すべきことは当然であろう。しかしながら、多数意見が政治資金の寄附に関し、取締役に対し対会社関係において右のごとき忠実義務に基づく厳格な制約を課するにかかわらず、会社自体のなす政治献金について何等かかる制約の存在に言及しないのは、注目すべきことであろう。そして、多数意見のいうところより判断すれば、あるいは多数意見は、会社自体のなす政治資金の寄附については、取締役に課せられた制限とは必ずしも関係なく、ただ、「定款所定の目的の範囲内」なるか否かの基準によつて、その寄附の有効無効を決するとしているものとも思われる。しかし、判例上、会社の行為が定款所定の目的の範囲外として無効とされたものを容易に見出し難い以上、多数意見によるときは、会社による政治資金の寄附は、実際上、きわめて広く肯定され、あるいは、これをほとんど無制限に近いまで肯定するに至る虞なしといえないのである。私としては、このような見解に対して疑を懐かざるを得ないのである。

 思うに、会社は定款所定の目的の範囲内において権利能力を有するとの見解は、民法四三条をその基礎とするものであるが、右法条は、わが国の民商法が立法の沿革上、大陸法系に属するうちにあつて、いわば例外的に英米法に従い、そのいわゆる「法人の目的の範囲外の行為」(ultra Vires)の法理の流を汲むものとせられている。そして、もし、略言することが許されるならば、この法理は、法人擬制説によるものであつて、法人はその目的として示されているところを越えて行動するとき、それは効なしとするものといえよう。そこでは、「定款所定の目的」と「権利能力」との間に、深い関連が認められているのである。もつとも、理論的に考察するとき、「定款所定の目的の範囲」と「権利能力の範囲」とは、本来別個の問題であるべきであるが、わが国の判例がかかる理論に泥むことなく、法人は「定款所定の目的の範囲内」において「権利能力」を有するものとし、会社についてはその目的の範囲をきわめて広く解することによつて、会社の権利能力を広範囲に認めて来たことを、私は意味深く感じ、判例のこの態度に賛するものである。判例法とは、かくのごとき形態の下に形成されて行くものであろう。そして、他の法人に比して、会社についてその権利能力の範囲を特に広く認めるに至つたのは、会社の営利性と取引の安全の要請に基づくものと解されるのである。

 思うに、法律上、会社は独立の人格を有し、社員の利益とは異るところの会社自体―企業自体―の利益を有するものではあるが、営利法人である以上、会社は単に会社自体の利益を図ることだけでは足りず、その得た利益を社員に分配することを要するのである。株式会社について、株主の利益配当請求権が「固有権」とされているのは、このことを示すのである。ここに、会社の特質が存在するのであつて、いわば、会社は、本来はこのような営利目的遂行のための団体であり、そのため権利能力を付与されたものといえよう。それは本来、政治団体でもなく、慈善団体でもないのである。そして、会社が企業として活動をなすからには、その「面」において権利能力を広範囲に亘つて認めることが当然に要請される。けだし、これによつて、会社は、営利的活動を充分になし得るし、また、取引の安全を確保し得るからである。

 そして、近時、英米法上において ult a vires の法理を制限しまたは廃止しようとする傾向を見、わが国において、学説上、会社につき「目的による制限」を認めないものが抬頭しているのは、叙上のことに思を致すときは、容易にこれを理解し得るのである(この点に関し、a博士が明治の末葉において夙に民法四三条が会社に適用がないと主張されたことに対し、その慧眼を思うものである。もつとも、私が「目的の範囲」による制限を認めることは、既に述べたところである)。

 そして、叙上の見地に立つて、わが国の判例を見るとき、近時のもののうちにさえ、会社以外の法人、たとえば農業協同組合につき、金員貸付が「組合の目的の範囲内に属しない」としたもの(最高裁判所昭和四〇年(オ)第三四八号同四一年四月二六日判決、民集二〇巻四号八四九頁)を見るにかかわらず、会社については、たとえば、大審院明治三七年五月一〇日判決が「営業科目ハ……定款ニ定メタルモノニ外ナラサレハ取締役カ定款ニ反シ営業科目ニ属セサル行為ヲ為シタルトキハ会社ハ之ニ関シ責任ヲ有セス」(民録一〇輯六三八頁)という趣旨を判示したなど、きわめて旧時における二、三の判例を除外すれば、会社の行為をもつて定款所定の目的の範囲外としたものを大審院並びに最高裁判所の判例中に見出し難いのである。換言すれば、判例は、表面上、会社につき「定款所定の目的による制限」を掲げながら、実際問題としては、会社の行為につき、この制限を越えたものを認めなかつたことを示すものといえよう。これは、わが国の判例が会社については英米法上の ultra vires の制限撤廃に近い作用を夙に行つていたのである。

 しかし、会社に対してこのように広範囲の権利能力の認められるのは、前述のように、会社企業の営利的活動の自由、取引の安全の要請に基づくものである。したがつて、会社といえどもしからざる面――ことに営利性と相容れざるものともいうべき寄附――において、その権利能力の範囲を必ずしも広く認めるべき必要を見ないものといえよう。私は、アメリカ法について知るところが少ないのではあるが、そこでは、会社の寄附に関し、最初は、それが会社の利益のためになされた場合にかぎり、その効力を認め、慈善のための理由だけの寄附は認められなかつたこと、その寄附が会社事業に益し、または、従業員の健康、福祉を増進するためのものでもあればこれを認めるに至つたこと、そして、次第に慈善事業のための寄附が広く認められるに至つたとされることに興味を覚える。それは会社制度の発展に従い、会社企業の行動が社会の各方面に影響することが大となるに伴つて、会社がある種の寄附をすることが、いわば、その「社会的責任」として認められるに至つたものといい得よう。それは会社として義務を負担し得る範囲の拡大であり、この点で「権利能力」の拡大といい得るにしても、しかし、それは、会社が本来の企業としての性格に基づいて、広範囲に亘つて権利義務の主体たり得ることは、面を異にし、これとは別個の法理に従うものであり、そこには自ら制約があるものと思うのである。詳言すれば、会社の権利能力は企業としての営利的活動の面においては客観的、抽象的に決せられ、その範囲も広いのに対し、然らざる面、ことに寄附を行う面においては、会社の権利能力は個別的、具体的に決せられ、その範囲も狭小というべきであろう。そして、この後者について、会社は各個の具体的場合によつて「応分」の寄附が認められるに過ぎないのである。この点に関し、商法を企業法とし、この見地より会社法を考察したウイーラントが公共の目的や政治的プロパガンダなどのために、会社の利得を処分することは、営利会社の目的と合致しないとしてこれを否定しながら、業務上通常の範囲に属すると認められる贈与は許容されるとし、また、道義的、社会的義務の履行――たとえば、従業員や労働者のための年金や保険の基金をつくること――のため会社の利得を用いることは許される旨(Karl Wieland,Handelsrecht,Bd.II,S.219)の主張をしているのは、たとえ、彼の所説が既に旧時のものに属するにせよ、会社の営利性と会社による寄附との関係の本質に言及したものとして、意味深く覚えるのである。

 私の解するところによれば、会社の行う寄附は、それが会社従業員の福祉のため、会社所在の市町村の祭典のため、社会一般に対する慈善事業のため、あるいは、政党のためなど、その対象を異にするによつて、各別に考察すべきものであり、その間に段階的にニユアンスの差があるものと考える。そして、その寄附の有効無効は、その寄附の相手方と会社との関係、その会社の規模、資産状態等諸般の事情によつて、会社の権利能力の範囲内に属するや否や決せられるものである。私は、この点につき、多数意見――先に引用したところである――が、「会社は自然人たる国民と同様国や政党の特定の政策を支持、推進または反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附も正にその自由の一環である」とし、会社と自然人の行う政治資金の寄附を同様に解するごとくいうことに対して大なる疑を持つ。けだし、自然人は、自己の有する全財産をある政党に寄附する自由があるにしても、会社についてはこれと同様に論ずべきではないからである。

 もつとも、私の叙上の見解に対し、かかる見解を採るときは、会社による寄附が「応分」なるか否かを具体的場合について決すべきこととなり、寄附の効力がきわめて不安定になるとの非難があるであろう。しかし、それは、従来、「正当の事由」ということが、各場合の状況により具体的に判断されるに類するといえよう。そして、会社による寄附の効力は、新しく提起された問題であるが、やがて判例の積み重ねによつてその基準が次第に明らかになつてゆくであろう(会社関係において画一的基準が明らかでないことは、望ましいことではない。しかし、止むを得ない場合には、かかることを生じるのである。たとえば、株式の引受または株金払込の欠陥がある場合、それがいかなる程度のもののとき会社の設立無効を来すかは、具体的に決める外はないのである)。そして、その献金が会社の権利能力の範囲外の行為として無効と認められる場合でも、相手方の保護を全く欠くわけではない。何となれば、これを約した会社の代表取締役は、民法一一七条により相手方に対しその責に任ずべきものだからである。かくて、叙上に照して多数意見を見るならば、それは会社がその企業としての営利的活動の面において認められた広範囲の権利能力をば、不当に会社の行う政治献金にまで拡大したもののごとく思われる。そして、多数意見によるときは、会社の代表者が恣意的に当該会社としては不相応の巨額の政治献金をしたときでも、それが有効となり、その事により会社の経営が危殆に陥ることすら生じ得るであろう。かかることは、企業の維持の点よりしても、また、社会的観点よりしても、寒心すべきはいうまでもないのである。

 (二) 会社による政治資金のための寄附の効力は、叙上のごとくである。しかし、会社の代表者として政治資金のための寄附をした取締役の会社に対する責任は、別個に考察すべき問題である。したがつて、会社の代表者として行なつたかかる寄附が無効であり、会社が既にその出捐を了したときは、その取締役は、これにつき会社に対して当然その責に任ずるが、たとえそのような寄附が会社の行為として対外的に有効のときであつても、その寄附をした取締役の対会社の責任は生じ得るのである。これは、会社の権利能力の問題と取締役の対会社関係における善管義務、忠実義務の問題とは、別個に考察されるべきものであるからである。たとえば、会社の代表取締役が自己の個人的利益のため政治資金を寄附したところ、それが会社の行為として有効と認められた場合において、かくのごときことを生じ得よう。

 (三) 今、叙上論じたところに照して本件をみるに、原審認定の事実関係の下では、被上告人らが訴外八幡製鉄株式会社の代表取締役として自由民主党に対してした政治資金三五〇万円の本件寄附は、右会社の目的の範囲内の行為であり、かつ、取締役の会社に対する善管義務、忠実義務の違反ともなり得ないものと解される。したがつて、訴外会社の株主たる上告人が株主の代位訴訟に基づき被上告人らに対して提起した訴につき、上告人の請求を棄却した原審の判断は正当であり、本件上告は理由なきに帰するのである。

 裁判官入江俊郎、同長部謹吾、同岩田誠は、裁判官松田二郎の意見に同調する。

 裁判官大隅健一郎の意見は、つぎのとおりである。

 私は、本判決の結論には異論はないが、多数意見が会社の権利能力について述べるところには、つぎの諸点において賛成することができない。

 (一) 多数意見は、会社の権利能力についても民法四三条の規定が類推適用され、会社は定款によつて定まつた目的の範囲内においてのみ権利を有し義務を負う、とする見解をとつている。これは、会社は、自然人と異なり、一定の目的を有する人格者であるから、その目的の範囲内においてのみ権利義務の主体となりうるのが当然であるのみならず、会社の社員は、会社財産が定款所定の目的のために利用されることを期待して出資するのであるから、その社員の利益を保護するためにも、会社の権利能力を定款所定の目的の範囲内に限定する必要がある、という理由に基づくものではないかと推測される。しかしながら、会社の目的と権利能力との関係の問題は、単に会社の法人たる性質から観念的、抽象的にのみ決するのは不適当であつて、会社の活動に関連のある諸利益を比較衡量して、これをいかに調整するのが妥当であるか、の見地において決すべきものと考える。そして、このような見地において主として問題となるのは、会社財産が定款所定の目的のために使用されることを期待する社員の利益と、会社と取引関係に立つ第三者の利益である。

 おもうに、会社が現代の経済を担う中核的な存在として、その活動範囲はきわめて広汎にわたり、日常頻繁に大量の取引を行なつている実情のもとにおいては、それぞれの会社の定款所定の目的は商業登記簿に登記されているとはいえ、会社と取引する第三者が、その取引に当たり、一々その取引が当該会社の定款所定の目的の範囲内に属するかどうかを確かめることは、いうべくして行ないがたいところであるのみならず、その判断も必ずしも容易ではなく、一般にはそれが会社の定款所定の目的といかなる関係にあるかを顧慮することなく取引するのが通常である。したがつて、いやしくも会社の名をもつてなされる取引行為については、それがその会社の定款所定の目的の範囲内に属すると否とを問わず、会社をして責任を負わせるのでなければ、取引の安全を確保し、経済の円滑な運営を期待することは困難であつて、いたずらに会社に責任免脱の口実を与える結果となるのを免れないであろう。事実審たる下級裁判所の判決をみると、多数意見と同様の見解をとる従来の判例の立場に立ちながらも、実際上会社の権利能力の範囲をできるだけ広く認める傾向にあり、中には判例の立場をふみ越えているものも見られるのは、上述の事情を敏感かつ端的に反映するものというほかないと思う。それゆえ、会社の権利能力は定款所定の目的によつては制限されないものと解するのが、正当であるといわざるをえない。公益法人については、公益保護の必要があり、また、その対外的取引も会社におけるように広汎かつ頻繁ではないから、民法四三条がその権利能力を定款または寄附行為によつて定まつた目的の範囲内に制限していることは、必ずしも理由がないとはいえない。しかし、商法は、公益法人に関する若干の規定を会社に準用しながら(たとえば、商法七八条二項・二六一条三項等)、とくにこの規定は準用していないのであるから、同条は公益法人にのみ関する規定と解すべきであつて、これを会社に類推適用することは、その理由がないばかりでなく、むしろ不当といわなければならない。もちろん、社員は会社財産が定款所定の目的以外に使用されないことにつき重要な利益を有し、その利益を無視することは許されないが、その保護は、株式会社についていえば、株主の有する取締役の違法行為の差止請求権(商法二七二条)・取締役の解任請求権(商法二五七条三項)、取締役の会社に対する損害賠償責任(商法二六六条)などの会社内部の制度にゆだねるべきであり、また、定款所定の目的は会社の代表機関の代表権を制限するものとして(ただし、その制限は善意の第三者には対抗できないが。)意味を有するものと解すべきであると考える。従来、会社の能力の目的による制限を認めていたアメリカにおいても、そのいわゆる能力外の法理(ultra vires doctrine)を否定する学説、立法が漸次有力になりつつあることは、この点において参考とするに足りるであろう。

 以上のようにして、会社の権利能力は定款所定の目的によつては制限されないものと解すべきであるが、しかし、すべての会社に共通な営利の目的によつて制限されるものと解するのが正当ではないかと考える。法は、営利法人と公益法人とを区別して、これをそれぞれ別個の規制に服せしめているのであるから、この区別をも無視するような解釈は行きすぎといわざるをえないからである。そして、このように解しても、客観的にみて経済的取引行為と判断される行為は一般に営利の目的の範囲内に属するものと解せられるから、格別取引安全の保護に欠けるところはないであろう。

 (二) 多数意見は、会社の権利能力は定款に定められた目的の範囲内に制限されると解しながら、災害救援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、政治資金の寄附なども、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとすることにより、これを会社の権利能力の範囲内に属するものと解している。それによると、会社は「自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであるといわなければならない。そしてまた、会社にとつても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあつても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。」というのである。私は、この所論の内容にとくに異論を有するものではないが、しかし、このような理論をもつて、右のような行為が会社の定款所定の目的の範囲内の行為であり、したがつて、会社の権利能力の範囲内に属するとする考え方そのものに、疑問を抱かざるをえないのである。

 多数意見が類推適用を認める民法四三条にいわゆる定款によつて定まつた目的とは、それぞれの会社の定款の規定によつて個別化された会社の目的たる事業をいうのであつて、これを本件訴外八幡製鉄株式会社についていえば、「鉄鋼の製造および販売ならびにこれに附帯する事業」にほかならない。それは、すべての会社に共通な営利の目的とは異なるのである。しかるに、多数意見によれば、災害救援資金の寄附、地域社会への財産的奉仕、政治資金の寄附などは、会社が自然人とひとしく社会等の構成単位たる社会的実在であり、それとしての社会的作用を負担せざるをえないことから、会社も当然にこれをなしうるものと認められるというのである。したがつて、それが会社の企業体としての円滑な発展をはかるうえに相当の価値と効果を有するにしても、定款により個別化された会社の目的たる事業とは直接なんらのかかわりがなく、その事業が何であるかを問わず、すべての会社についてひとしく認めらるべき事柄にほかならない。しかのみならず、そのような行為が、社会通念上、社会等の構成単位たる社会的実在としての法人に期待または要請される点においては、程度の差はありうるとしても、ひとり会社のみにかぎらず、各種協同組合や相互保険会社などのようないわゆる中間法人、さらには民法上の公益法人についても異なるところがないといわざるをえない。その意味において、多数意見のように、右のような行為についての会社の権利能力の問題を会社の定款所定の目的と関連せしめて論ずることは、意味がないばかりでなく、かえつて牽強附会のそしりを免れないのではないかと思う。

 多数意見のように定款所定の目的の範囲内において会社の権利能力を認めるにせよ、私のようにすべての会社に共通な営利の目的の範囲内においてそれを認めるにせよ、なおそれとは別に、法人たる会社の社会的実在たることに基づく権利能力が認めらるべきであり、さきに引用した多数意見の述べるところは、まさにかような意味における会社の権利能力を基礎づけるのに役立つものといえるのである。そして、本件政治資金の寄附が訴外八幡製鉄株式会社の権利能力の範囲内に属するかどうかも、かかる意味における会社の権利能力にかかわる問題として論ぜらるべきものと考えられるのである。

 (三) 以上のように、災害救援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、政治資金の寄附のごとき行為は会社の法人としての社会的実在であることに基づいて認められた、通常の取引行為とは次元を異にする権利能力の問題であると解する私の立場においては、その権利能力も社会通念上相当と認められる範囲内に限らるべきであつて、会社の規模、資産状態、社会的経済的地位、寄附の相手方など諸般の事情を考慮して社会的に相当ないし応分と認められる金額を越える寄附のごときは、会社の権利能力の範囲を逸脱するものと解すべきではないかと考えられる。このような見解に対しては、当然、いわゆる相当(応分)の限度を越えてなされた行為は、相手方の善意悪意を問わず、無効であるにかかわらず、その相当性の限界が不明確であるから、法的安定を妨げる、とする批判が予想される。しかし、上述のごとき行為については、通常の取引行為におけるとは異なり、取引安全の保護を強調する必要はなく、むしろ会社財産が定款所定の目的を逸脱して濫費されないことについて有する社員の利益の保護が重視さるべきものと考える。

 叙上の点につき多数意見がどのように考えているかは必ずしも明らかでないが、多数意見が、「会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げない。」と述べているところからみると、上述の卑見にちかい見解をとるのではないかとも臆測される。しかし、右引用の判文は、その表現がすこぶる不明確であつて、はたして、会社による政治資金の寄附は、会社の社会的役割を果たすため相当と認められる限度においてなされるかぎり、会社の定款所定の目的の範囲内、したがつて、会社の権利能力の範囲内の行為であるとする趣旨であるかどうか(このように解するには、「客観的、抽象的に観察して、」というのが妨げとなる。むしろ、「諸般の事情を考慮し具体的に観察して、」とあるべきではなかろうか。)、疑問の余地があるのを免れないのみならず、かりにその趣旨であるとしても、政治資金の寄附も、通常の取引行為とひとしく、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとしながら、前者に関してのみその権利能力につき右のような限定を加えることが理論上妥当であるかどうか、疑問なきをえないと思う。この点においても、政治資金の寄附のごとき行為を会社の定款所定の目的との関連においてとらえようとする多数意見の当否が疑われる。

 いずれにせよ、私のような見解に従つても、本件の政治資金の寄附は訴外八幡製鉄株式会社の権利能力の範囲内に属するものと解せられるから、判決の結果には影響がない。

    最高裁判所大法廷

        裁判長裁判官  石田和外

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  草鹿浅之介

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  城戸芳彦

           裁判官  田中二郎

           裁判官  松田二郎

           裁判官  岩田 誠

           裁判官  下村三郎

           裁判官  色川幸太郎

           裁判官  大隅健一郎

           裁判官  松本正雄

           裁判官  飯村義美

           裁判官  村上朝一

           裁判官  関根小郷

大竹貿易事件 渕・講義329頁355頁

小野幹雄裁判長不当判決 谷口・一高・野一色・木山『基礎から学べる租税法 第2版』30頁

味村反対意見のほうが説得力があります。影響のおおきい行政庁や検察を敗訴させたくない行政畠の小野裁判長だったら処理しそうな事件ではあります。

法人税更正処分等取消請求事件

民集登載・百選・ケースブック採用。 ケースブック6版 390頁
税務判例百選 第7版 65事件 91事件の解説でも引用されています。

 

 

最高裁判所第1小法廷判決/平成4年(行ツ)第45号

平成5年11月25日

 

【判示事項】 一 船荷証券が発行されている商品の輸出取引による収益を船積みの時点で計上する会計処理と一般に公正妥当と認められる会計処理の基準

       二 船荷証券が発行されている商品の輸出取引による収益を取引銀行による荷偽替手形の買取りの時点で計上する会計処理と一般に公正妥当と認められる会計処理の基準

【判決要旨】 一 船荷証券が発行されている商品の輸出取引による収益を船積みの時点で計上する会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合する。

       二 船荷証券が発行されている商品の輸出取引による収益を取引銀行による荷偽替手形の買取りの時点で計上する会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しない。(二につき、反対意見がある。)

 

【参照条文】 法人税法22-2

       法人税法22-4

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集47巻9号5278頁

       訟務月報40巻10号2566頁

       最高裁判所裁判集民事170号569頁

       裁判所時報1111号263頁

       判例タイムズ842号94頁

       金融・商事判例946号3頁

       判例時報1489号96頁

       金融法務事情1391号45頁

       税務訴訟資料199号944頁

 

【評釈論文】 海事法研究会誌123号24頁

       ジュリスト臨時増刊1046号104頁

       ジュリスト1047号78頁

       ジュリスト1054号121頁

       訟務月報40巻10号298頁

 

       訟務月報40巻10号2567頁

       税法学534号122頁

       税務事例26巻4号16頁

       手形研究38巻12号18頁

       判例評論432号30頁

       法曹時報47巻12号204頁

       法律時報別冊私法判例リマークス10号108頁

       民商法雑誌111巻1号145頁

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

 

        理   由

 

  上告代理人田宮敏元、同香山仙太郎の上告理由について

一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

  1 上告人は、ビデオデッキ、カラービデオ等の輸出取引を業とする株式会社であるが、上告人と海外の顧客との間の輸出取引は、上告人において輸出商品を船積みし、運送人から船荷証券の発行を受けた上、商品代金取立てのための為替手形を振り出して、これに船荷証券その他の船積書類を添付し、いわゆる荷為替手形として、これを上告人の取引銀行で買い取ってもらうというものであった。なお、国際商業会議所において採択された貿易条件の解釈に関する国際規則(インコタームス)に示された主要貿易条件に関する統一的解釈によれば、右のように船荷証券が発行されている場合には、上告人が採用しているいずれの貿易条件によっても、売主が船荷証券を中心とする船積書類を整えて買主に提供したときに、商品の所有権は買主に移転し、その効果が船積みの時にさかのぼるものとされている。

  2 今日の輸出取引においては、信用状の授受や輸出保険制度の利用により、売主は商品の船積みを完了すれば、取引銀行において為替手形を買い取ってもらうことにより売買代金の回収を図り得る実情にある。このような輸出取引の実情を背景として、輸出取引による収益の計上については、船積時を基準として収益を計上する会計処理(以下、この会計処理基準を「船積日基準」という。)が、実務上は、広く一般的に採用されている。

  3 ところが、上告人は、前記の荷為替手形を取引銀行で買い取ってもらう際に船荷証券を取引銀行に交付することによって商品の引渡しをしたものとして、従前から、荷為替手形の買取の時点において、その輸出取引による収益を計上してきており(以下、この会計処理基準を「為替取組日基準」という。)、昭和五五年三月期及び同五六年三月期においても、輸出取引による収益を右の為替取組日基準によって計上して所得金額を計算し、法人税の申告を行った。

  4 これに対し、被上告人は、為替取組日基準により収益を計上する会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合せず、輸出取引による収益を船積日基準によって計上すべきものとして、上告人の昭和五五年三月期及び同五六年三月期の所得金額及び法人税額の更正を行った。

 二 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(二二条二項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条四項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる。もっとも、法人税法一三条四項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、右の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当でなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も右会計処理を正当なものとして是認すべきである。しかし、その権利の実現が未確定であるにもかかわらずこれを収益に計上したり、既に確定した収入すべき権利を現金の回収を待って収益に計上するなどの会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとは認め難いものというべきである。

 三1 これを本件のようなたな卸資産の販売による収益についてみると、前記の事実関係によれば、船荷証券が発行されている本件の場合には、船荷証券が買主に提供されることによって、商品の完全な引渡しが完了し、代金請求権の行使が法律上可能になるものというべきである。したがって、法律上どの時点で代金請求権の行使が可能となるかという基準によってみるならば、買主に船荷証券を提供した時点において、商品の引渡しにより収入すべき権利が確定したものとして、その収益を計上するという会計処理が相当なものということになる。しかし、今日の輸出取引においては、既に商品の船積時点で、売買契約に基づく売主の引渡義務の履行は、実質的に完了したものとみられるとともに、前記のとおり、売主は、商品の船積みを完了すれば、その時点以降はいつでも、取引銀行に為替手形を買い取ってもらうことにより、売買代金相当額の回収を図り得るという実情にあるから、右船積時点において、売買契約による代金請求権が確定したものとみることができる。したがって、このような輸出取引の経済的実態からすると、船荷証券が発行されている場合でも、商品の船積時点において、その取引によって収入すべき権利が既に確定したものとして、これを収益に計上するという会計処理も、合理的なものというべきであり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものということができる。

  2 これに対して、上告人が採用している会計処理は、荷為替手形を取引銀行で買い取ってもらう際に船荷証券を取引銀行に交付することによって商品の引渡しをしたものとして、為替取組日基準によって収益を計上するものである。しかし、この船荷証券の交付は、売買契約に基づく引渡義務の履行としてされるものではなく、為替手形を買い取ってもらうための担保として、これを取引銀行に提供するものであるから、右の交付の時点をもって売買契約上の商品の引渡しがあったとすることはできない。そうすると、上告人が採用している為替取組日基準は、右のように商品の船積みによって既に確定したものとみられる売買代金請求権を、為替形を取引銀行に買い取ってもらうことにより現実に売買代金相当額を回収する時点まで待って、収益に計上するものであって、その収益計時期を人為的に操作する余地を生じさせる点において、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえないというべきである。このような処理による企業の利益計算は、法人税法の企図する公平な所得計算の要請という観点からも是認し難いものといわざるを得ない。

  3 以上のとおり、為替取組日基準によって輸出取引による収益を計上する会計処理は、公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しないものであるのに対し、船積日基準によって輸出取引による収益を計上する会計処理は、公正妥当と認められる会計処理の基準に適合し、しかも、前記のとおり、実務上も広く一般的に採用されていることからすれば、被上告人が、船積日基準によって、上告人の昭和五五年三月期及び同五六年三月期の所得金額及び法人税額の更正を行ったことは、適法というべきである。

 四 これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に立ち又は原判決を正解しないでこれを論難するものであって、採用することができない。

  よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、九八条に従い、裁判官味村治、同大白勝の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

藤田宙靖裁判長名判決 NTTドコモ事件最高裁平成20年

法人税更正処分等取消請求事件 渕講義408頁

租税判例百選第6版 54事件 ケースブック5版 481頁 租税判例百選7版 57事件

谷口・一高・野一色・木山『基礎から学べる租税法 第2版』49頁 3版50頁53頁

納税者勝訴

納税者にもっとも有利な取引単位にすることを明文化してほしい。

最高裁判所第3小法廷判決/平成18年(行ヒ)第234号

平成20年9月16日

 

【判示事項】 (1) 事実関係によれば、エントランス回線利用権は、C網依存型の方式を採用するPHS事業者が第1種電気通信事業者であるCに対してその事業用電気通信設備である特定のエントランス回線の設置に要する費用を負担し、当該回線を利用して当該PHS事業者の特定の基地局とCの特定のPHS接続装置との間を相互接続し、もって、当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し、CをしてPHS利用者に対しCのネットワークによる電気通信役務を提供させる権利であるが、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されているということができるとされた事例

 

       (2) 減価償却資産は法人の事業に供され、その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるとされた事例

 

       (3) 事実関係によれば、一般に、被上告人会社のようなC網依存型PHS事業者が本件権利のようなエントランス回線利用権をそのPHS事業の用に供する場合、当該事業におけるエントランス回線利用権の用途に応じた本来の機能は、特定のエントランス回線を用いて当該事業者の設置する特定の基地局とCの特定のPHS接続装置との間を相互接続することによって、当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し、Cをして当該事業者の顧客であるPHS利用者に対しCのネットワークによる電気通信役務を提供させることにあるということができるとされた事例

 

       (4) 減価償却資産は法人の事業において収益を生み出す源泉として機能することをその本質的要素とするところ、本件権利一つでは被上告人会社のPHS事業において収益を生み出す源泉としての機能を発揮することができないとの課税庁の主張が、事実関係によれば、エントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からCの固定電話又は携帯電話への通話等、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人会社のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができるとして排斥された事例

 

       (5) 本件権利については、エントランス回線1回線に係る権利一つをもって、一つの減価償却資産とみるのが相当であるから、法人税法施行令133条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)の適用に当たっては、上記の権利一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきであるとされた事例

 

       (6) 事実関係によれば、被上告人会社は、本件権利をエントランス回線1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で取得したというのであるから、本件権利は、その一つ一つが法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に当たるというべきであるとされた事例

 

【判決要旨】 PHS事業者が事業用に大量に保有するいわゆるエントランス回線利用権につき,1回線に係る権利が,それぞれ一つの減価償却資産であり,法人税法施行令(平成16年政令第101号による改正前のもの)133条所定の少額減価償却資産に当たるとされた事例

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集62巻8号2089頁

 

       訟務月報55巻12号3490頁

 

       裁判所時報1468号333頁

 

       税務訴訟資料258号順号11032

 

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 別冊ジュリスト207号106頁

 

       法曹時報63巻10号2471頁

 

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

 

        理   由

 

  上告代理人大竹たかしほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,被上告人の平成10年4月1日から同13年3月31日までの3事業年度の法人税に関し,その減価償却資産である電気通信施設利用権に当たるエントランス回線利用権が法人税法施行令(平成16年政令第101号による改正前のもの。特に断らない限り,以下同じ。)133条所定のいわゆる少額減価償却資産(取得価額が10万円未満であるもの)に当たるかどうかが争われている事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  (1) 被上告人は,平成10年12月1日,A社(以下「A社」という。)から簡易型携帯電話(以下「PHS」という。)事業の営業譲渡を受け,同事業を開始した。被上告人のPHS事業は,B1社(同社の事業のうち本件に関係する部分は,平成11年7月1日にB2社が承継した。以下,上記各社をいずれも「B社」という。)の設置するPHS接続装置,電話網等の機能及びデータベースを活用する方式(いわゆるB社網依存型の方式)によるものであり,この方式における通信経路をみると,例えばPHS事業者との契約により同事業による電気通信役務の提供を受ける利用者(以下「PHS利用者」という。)がB社の固定電話利用者,携帯電話利用者等と通話等をする場合,そのPHS端末から発信された音声等の情報は,無線電信により当該PHS事業者の設置する基地局において受信され,B社の設置するエントランス回線(基地局とB社の設置するPHS接続装置との間を接続する有線伝送路設備),PHS接続装置及び電話網等を介して,固定電話や携帯電話等に送信されるという経路をたどる(B社の固定電話や携帯電話等からPHS端末に向けて発信される情報は,上記と逆の経路をたどる。)。エントランス回線が1回線あれば,その回線が接続する基地局のエリア内のPHS端末とB社の固定電話又は携帯電話等との間で,以上にみたような双方向の通話等が可能になる(なお,PHS端末と他の基地局のエリア内のPHS端末との間で通話等が行われる場合は,PHS端末から発信された情報は,上記と同様に基地局,B社のエントランス回線,PHS接続装置を介して電話網に達した後,B社の設置する他のPHS接続装置及び他のエントランス回線を経て,当該PHS事業者の設置する他の基地局に到達し,同基地局から無線電信により他のPHS端末に送信されることになる。)。

  エントランス回線利用権は,B社網依存型の方式を採用するPHS事業者(以下「B社網依存型PHS事業者」という。)が第1種電気通信事業者であるB社に対してその事業用電気通信設備である特定のエントランス回線の設置に要する費用を負担し,当該回線を利用して当該PHS事業者の特定の基地局とB社の特定のPHS接続装置との間を相互接続し,もって,当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し,B社をしてPHS利用者に対しB社のネットワークによる電気通信役務を提供させる権利である。

  (2) B社は,平成10年当時,その設置する電気通信設備につき電気通信事業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)38条の2第1項による郵政大臣の指定を受けており,同条2項に基づき,上記の指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関して取得する接続料及び接続条件につき実施日を平成10年3月24日とする接続約款(以下「本件接続約款」という。)を定めて郵政大臣の認可を受けた。本件接続約款においては,これに基づいてB社との間でその指定電気通信設備との接続に関する協定を締結したB社網依存型PHS事業者は,B社に対しエントランス回線の設置の申込みをし,B社がこれを承諾したときは,B社に対し設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2800円を支払うこととされていた。

  被上告人は,上記(1)の営業譲渡に伴い,A社からエントランス回線利用権を1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で合計15万3178回線分譲り受け(その譲受価格の総額は111億5135万8400円である。),その後,本件接続約款に基づくB社の指定電気通信設備と被上告人の電気通信設備との接続に関する協定に従って,必要に応じて,1回線単位でエントランス回線の設置の申込みをし,B社がこれを承諾して設置工事をするごとに設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2800円を支払って,新設された回線に係るエントランス回線利用権を取得した。被上告人は,以上のとおり取得したエントランス回線利用権(以下「本件権利」という。)を,そのPHS事業の用に供した。

  3 前記事実関係によれば,エントランス回線利用権は,エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されているということができる。上告人は,減価償却資産は法人の事業において収益を生み出す源泉として機能することをその本質的要素とするところ,本件権利一つでは被上告人のPHS事業において収益を生み出す源泉としての機能を発揮することができない旨主張する。しかしながら,減価償却資産は法人の事業に供され,その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるところ,前記事実関係によれば,一般に,被上告人のようなB社網依存型PHS事業者が本件権利のようなエントランス回線利用権をそのPHS事業の用に供する場合,当該事業におけるエントランス回線利用権の用途に応じた本来の機能は,特定のエントランス回線を用いて当該事業者の設置する特定の基地局とB社の特定のPHS接続装置との間を相互接続することによって,当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し,B社をして当該事業者の顧客であるPHS利用者に対しB社のネットワークによる電気通信役務を提供させることにあるということができる。そして,前記事実関係によれば,エントランス回線が1回線あれば,当該基地局のエリア内のPHS端末からB社の固定電話又は携帯電話への通話等,固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから,本件権利は,エントランス回線1回線に係る権利一つでもって,被上告人のPHS事業において,上記の機能を発揮することができ,収益の獲得に寄与するものということができる。

  そうすると,本件権利については,エントランス回線1回線に係る権利一つをもって,一つの減価償却資産とみるのが相当であるから(法人税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)2条24号,法人税法施行令13条8号ソ(平成12年政令第145号による改正前の法人税法施行令13条8号レ,平成10年政令第368号による改正前の法人税法施行令13条8号タ)),法人税法施行令133条の適用に当たっては,上記の権利一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきである。前記事実関係によれば,被上告人は,本件権利をエントランス回線1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で取得したというのであるから,本件権利は,その一つ一つが同条所定の少額減価償却資産に当たるというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)

 

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最高裁判所第3小法廷判決/平成11年(受)第385号

平成12年7月11日

【判示事項】       一 遺留分減殺の対象とされた贈与等の目的である各個の財産について価額弁償をすることの可否

             二 共有株式につき新たに単位未満株式を生じさせる現物分割を命ずることの可否

【判決要旨】       一 受贈者又は受遺者は、遺留分減殺の対象とされた贈与又は遺贈の目的である各個の財産について、民法一〇四一条一項に基づく価額弁償をすることができる。

             二 いわゆる単位株制度の適用のある株式の共有物分割において、新たに単位未満株式を生じさせる現物分割を命ずることはできない。

【参照条文】       民法1041

             民法258

             昭和56年法律第74号商法の一部を改正する法律附則15-1

             昭和56年法律第74号商法の一部を改正する法律附則16

             昭和56年法律第74号商法の一部を改正する法律附則18

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集54巻6号1886頁

             家庭裁判月報53巻2号130頁

             裁判所時報1271号343頁

             判例タイムズ1041号149頁

             金融・商事判例1104号3頁

             判例時報1724号36頁

             金融法務事情1594号96頁

【評釈論文】       ジュリスト1201号111頁

             ジュリスト臨時増刊1202号82頁

             別冊ジュリスト162号198頁

             同志社法学53巻4号106頁

             判例タイムズ臨時増刊1065号190頁

             法学協会雑誌120巻2号188頁

             法学教室247号98頁

             法曹時報54巻8号149頁

             法律時報別冊私法判例リマークス23号78頁

             民事研修655号31頁

             民商法雑誌124巻6号37頁

 

       主   文

 

 一 原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六の各株式の分割請求及び株券の引渡請求に係る部分を破棄する。

 二 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 三 上告人のその余の上告を棄却する。

 四 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 一 事案の概要

 本件は、亡Aの共同相続人の一人であり相続財産全部の包括遺贈を受けた上告人に対して、遺留分減殺請求をした他の共同相続人である被上告人らが、共有に帰した相続財産中の株式等について共有物の分割及び分割された株式に係る株券の引渡し等を請求したものである。

 二 上告代理人高崎英雄の上告受理申立て理由第一について

 1 上告人は、遺贈を受け被上告人らからの遺留分減殺請求の対象となっている財産の一部である第一審判決別紙株式目録記載六の株式のみについて、本件訴訟で民法一〇四一条一項に基づく価額の弁償を主張している。

 2 原審は、同項の「贈与又は遺贈の目的の価額」とは、贈与又は遺贈された財産全体の価額を指すものと解するのが相当であり、贈与又は遺贈を受けた者において任意に選択した一部の財産について価額の弁償をすることは、遺留分減殺請求権を行使した者の承諾があるなど特段の事情がない限り許されないものというべきであり、そう解しないときは、包括遺贈を受けた者は、包括遺贈の目的とされた全財産についての共有物分割手続を経ないで、遺留分権利者の意思にかかわらず特定の財産を優先的に取得することができることとなり、遺留分権利者の利益を不当に害することになるとして、上告人の価額弁償の主張を排斥し、右株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。

 3 しかし、【要旨1】受贈者又は受遺者は、民法一〇四一条一項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。

 なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法一〇二八条ないし一〇三五条参照)、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭和五三年(オ)第九〇七号同五四年七月一〇日第三小法廷判決・民集三三巻五号五六二頁)、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして、相続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁平成三年(オ)第一七七二号同八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、右に説示したことが妥当するのである。

 そうすると、原審の前記判断には民法一〇四一条一項の解釈を誤った違法があるというべきである。

 三 同第二の三について

 1 原審は、第一審判決別紙株式目録一ないし四記載の新日本製鉄株式会社外三社の各株式について、株式は一株を単位として可分であり、かつ、分割することによる価値の減少が認められないことを理由として、右各株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。

 2 しかし、右各株式は証券取引所に上場されている株式であることは公知の事実であり、これらの株式については、一単位未満の株券の発行を請求することはできず、一単位未満の株式についてはその行使し得る権利内容及び譲渡における株主名簿への記載に制限がある(昭和五六年法律第七四号商法等の一部を改正する法律附則一五条一項一号、一六条、一八条一、三項)。したがって、【要旨2】分割された株式数が一単位の株式の倍数であるか、又はそれが一単位未満の場合には当該株式数の株券が現存しない限り、当該株式を表象する株券の引渡しを強制することはできず、一単位未満の株式では株式本来の権利を行使することはできないから、新たに一単位未満の株式を生じさせる分割方法では株式の現物分割の目的を全うすることができない。

 そうすると、このような株式の現物分割及び分割された株式数の株券の引渡しの可否を判断するに当たっては、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等をも考慮すべきであり、この点について考慮することなく、右各株式の現物分割を命じた原審の判断には、民法二五八条二項の解釈を誤った違法があり、これを前提として株券の引渡しを命じた原審の判断にも違法があるというべきである。

 四 結論

 以上によれば、原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六記載の各株式の分割及び株券の引渡しを命じた部分には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって、論旨は理由があり、原判決中、右部分は破棄を免れず、同目録記載一ないし四の各株式に関する請求については、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等を考慮した現物分割の可否について、同目録記載六の株式に関する請求については、弁償すべき価額について、更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。

 なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田昌道)

 

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