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医療法人の脱税と実刑判決 東京地裁平成29年

高裁でも加算税をその後おさめても実刑が維持されています。

法令適用が省略されているのでよくわからない。

法人税法違反,民事再生法違反被告事件

東京地方裁判所判決/平成27年(特わ)第1463号、平成27年(特わ)第1596号

平成29年3月15日

【判示事項】      被告人ら(被告法人の実質的経営者の被告人B,その部下の被告人C・D)は,共謀の上,被告法人に対する民事再生法違反(民事再生手続開始決定確定後に約9億円を隠匿),及び虚偽過少申告により被告法人の2年分の法人税を免れたという法人税法違反(2件)の各事案。本件民亊再生法違反は,巨額の財産を隠匿した倒産犯罪であり,民事再生手続の趣旨を私利私欲で踏みにじったもので強い非難に値するとし,法人税法違反につき,ほ脱額6200万円余・ほ脱率99%と高率で徴税権を侵害した程度は高く悪質であるとし,各犯行の首謀者である被告人Bを懲役5年,税理士として被告法人の脱税に必要不可欠の役割を果たした被告人Cを懲役2年10月,元銀行員で各犯行の実働部隊としてBに従属していた被告人Dを懲役2年6月・執行猶予4年,被告法人を罰金2000万円に各処した事例

【掲載誌】       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 被告人医療法人社団A会を罰金2000万円に,被告人Bを懲役5年に,被告人Cを懲役2年10月に,被告人Dを懲役2年6月に処する。

 被告人B及び同Cに対し,未決勾留日数中各80日を,それぞれその刑に算入する。

 被告人Dに対し,この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。

 

       理   由

 

 【罪となるべき事実】

 被告人医療法人社団A会(以下「被告法人」という。)は,診療所の経営等を目的とする医療法人社団で,平成22年10月29日に東京地方裁判所により民事再生手続開始の決定を受け,同決定が同年11月26日に確定したもの,被告人Bは,被告法人の実質的経営者としてその業務全般を統括していたもの,被告人Cは,被告法人の理事兼事務局長であるとともに関与税理士としてその経理事務を掌理し,法人税の確定申告手続に関与するなどしていたもの,被告人Dは被告法人の財務関係事務を担当するなどしていたものであるが,被告人3名は,共謀の上,

第1 被告法人の業務及び財産に関し,被告法人の債権者を害する目的で,別表(掲載省略)記載のとおり,平成22年12月30日から平成25年11月5日までの間,55回にわたり,東京都港区〔以下省略〕所在のE銀行F支店に開設された「A会預り口弁護士G」名義の普通預金口座又は東京都新宿区〔以下省略〕所在のH銀行I支店に開設された被告法人名義の普通預金口座から,被告人Bらの管理に係る前記E銀行F支店に開設されたJ社名義の普通預金口座に合計8億9584万9999円を振込入金し,もって債務者である被告法人の財産を隠匿し

第2 被告法人の業務に関し,架空業務委託費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,

 1 平成23年7月1日から平成24年6月30日までの事業年度における実際所得金額が1億2046万7949円(別紙1-1の修正損益計算書参照(掲載省略))であったにもかかわらず,同年8月15日,東京都新宿区〔以下省略〕所轄K税務署において,同税務署長に対し,欠損金額が1500万4475円で,所得税額1195円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額3517万8900円と前記還付所得税額との合計3518万円(100円未満の端数切り捨て。別紙2のほ脱税額計算書参照(掲載省略))を免れ

 2 平成24年7月1日から平成25年6月30日までの事業年度における実際所得金額が1億1167万0869円(別紙1-2の修正損益計算書参照(掲載省略))であったにもかかわらず,同年8月14日,前記K税務署において,同税務署長に対し,所得金額が零で,所得税額1765円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額2763万4000円と前記還付所得税額との合計2763万5700円(100円未満の端数切り捨て。別紙2のほ脱税額計算書参照(掲載省略))を免れたものである。

 【争点に対する判断】

第1 争点の概要

 1 判示第1の事実(民事再生法違反)について

 (1) 検察官は,判示の被告法人名義の預金口座ないし「A会預り口弁護士G」名義の預金口座(以下,両口座を合わせて「被告法人口座等」という。)からJ社名義の預金口座(以下「J社口座」という。)への各振込入金(以下「本件各送金」という。)は,民事再生手続開始の申立て(以下「再生申立て」と略称する。)当初から,広告宣伝費を装って被告人3名が管理するJ社口座に被告法人の財産を移動させることにより,自己らの自由にできる裏金を確保するために行われたものであるとして,民事再生法255条1項所定の「債権者を害する目的」による「債務者の財産を隠匿」する行為(同項1号)にほかならないと主張する。

 (2) これに対し,被告法人及び被告人3名の各弁護人の主張は,概要次のとおりである。すなわち,J社は,被告法人のメディカルサービス法人(以下「MS法人」という。)で,医療に直接関係するもの以外の被告法人の業務の委託を受けていた。本件再生申立て以前は,L社が被告法人のMS法人であったが,本件再生申立て後は,J社がこれに代わり,本件各送金に係る資金が更に移転されたM社,N社と並んで,被告法人のMS法人となったものである。したがって,J社,M社,N社の必要経費は,ここから被告人3名が得ていた報酬も含め,実質的に業務委託費として被告法人の経費となるもので,本件各送金はその支弁のために行われたものである。また,本件再生計画遂行中,被告法人の業績は好調で,本件各送金により,事業の再生にも,本件再生計画に基づく弁済にも何ら支障は生じていない。このように,本件各送金は財産の「隠匿」でも,「債権者を害する目的」によるものでもない。

 2 判示第2の各事実(法人税法違反)について

   被告法人及び被告人3名の各弁護人は,いずれも被告法人の判示各事業年度について,法人税の過少申告があったこと自体は争わないものの,被告法人が関連会社(J社,M社,N社及びO社のことを指す。以下4社を併せて単に「関連会社」ともいう。)に対し広告宣伝費ないし業務委託費を架空計上した事実を争い,また,被告人B及び同Cの給与等を被告法人の経費として認定すべきであると指摘するなどして,ほ脱額を争う。そして,関連会社も含めてほ脱税額を計算すると,実質的なほ脱税額は極めて僅少あるいはマイナスであるなどとして,国家の租税債権が害された程度は軽微であると主張する。さらに,被告法人の弁護人は,上記を前提に,本件法人税法違反の起訴は公訴権の濫用であるから同事実につき公訴を棄却すべきであり,また,被告法人につき法人税法159条を適用することは憲法14条1項,31条に反するから被告法人は無罪であるとも主張している。

 3 被告人Bの関与について

   被告人Bは,被告法人について再生申立てが検討された平成22年10月頃以降は,人事,営業,広告,マーケティング戦略等は担当したが,財務関係は専ら被告人C及び同Dが握っていたため,判示各罪の認識がなかった旨供述する。

第2 民事再生法違反について

 1 証拠上容易に認められる事実

   次の事実関係は証拠上容易に認められる。

 (1) 被告法人の概要,被告人3名の地位等

 ア 被告法人は,被告人Bが平成17年8月に設立した医療法人社団であり,東京,名古屋,大阪において,自毛植毛手術等を行うクリニックを運営していた。

 イ L社も,被告人Bが植毛事業を営むため設立した会社で,被告法人のほか,被告人Bが福岡市内の自毛植毛手術等を行うクリニックを傘下に収めるために設立した医療法人社団P会に対し,自毛移植の技術,当該技術に関わる商標,資材,消耗品等を提供したり,広告宣伝業務,人事・財務の管理業務等,医療行為以外の業務全般の委託を受けたりすることにより,コンサルタント料,技術使用料等として支払を受け,被告法人及びP会の収益を吸い上げていた。

 ウ 被告人Bは,平成22年4月にL社の代表取締役を退任したが,その後も同社の実質的経営者の立場にあり,また,被告法人についても役職には就いていなかったが,創業者としてその経営を牛耳っており,その立場は,平成25年12月に被告人C及び同Dらの造反により被告法人の経営から追われるまで変わらなかった。

   また,被告人Bは,平成22年6月頃,自己の交際相手を代表者としてM社を設立したが,同社は同年9月頃までこれといった事業活動はしていない。

   なお,被告人Bは,被告法人について再生申立てが検討された同年10月頃以降は,その経営は言わば被告人C及び同Dとの共同経営で,人事,営業,広告,マーケティング戦略等は自分が担当したが,財務関係は専ら被告人C及び同Dが握っていたかのように供述する。しかし,被告法人はもとより,M社,N社等関連会社を含め,被告人Bが収益の処分を中心とする財務面も併せて万事を決定していた実質的な経営者であったことは,被告人B以外の相被告人,従業員その他関係者が一致して供述するところであり,これと異なる被告人Bの供述は採用できない。

 エ 被告人Cは,税理士で,被告人Bの誘いで同年7月頃L社に入社し,その後被告法人に移籍して事務局長に就任し,平成23年7月には理事に就任し,被告法人,P会及び関連会社の財務会計面を見ていた者であり,被告人Bに次ぐ地位にあった。被告人Cは,L社に入社するのに先立つ平成22年3月頃,Qと共に医療機関の広告宣伝等を営む目的でJ社を設立し,Qが代表取締役に就任したが,同社も同年9月頃まで見るべき活動がなかった。

 オ 被告人Dは,L社の従業員で,被告人Bの指示の下,被告法人,P会及び関連会社に関する資金の管理を行っていた。被告人Dは,いずれも被告人Bの指示で,平成23年2月にN社を設立してその代表取締役に就任したほか,同年7月にはM社の代表取締役にも就任している。

 (2) 本件再生申立てに至る経緯

 ア 被告人Bは,L社の親会社(R社)の上場を企図したが,平成22年3月頃頓挫し,同年8月頃には被告法人及びL社の資金繰りが悪化して,債権者等への支払が滞るようになった。また,上記上場のために資金提供したS社及びその実質的経営者であるTが,その回収に向けて被告法人等の連帯保証を求めるなどしてきたことから,TがL社ないし被告法人,被告人Bに対する債権の取立てを強めたり,ひいては被告法人をのっとろうとするのではないかということが懸念された。

 イ 被告人Bは,その対策を検討する中で,被告人Cの知人のG弁護士に被告法人等の経営に関して相談をすることとし,同年10月上旬頃以降,被告人Cとともに,G弁護士と打合せをした結果,被告法人につき民事再生を申し立てることに決め,G弁護士ほか3名の弁護士(以下単に「G弁護士ら」という。)に同手続を進めるよう依頼した。

 ウ 被告法人は,G弁護士らを代理人として,同月25日,東京地方裁判所〔以下省略〕(以下「再生裁判所」という。)に再生手続開始を申し立て,併せて保全処分の申立てもした。その際,提出された申立書には,添付書類として広告宣伝費欄の年間合計欄に2億6832万7000円(月額平均約2236万円)と記載された実績資金繰表と広告宣伝費欄に月額2200万円と記載された資金繰予定表とが付されていたが,当時の被告法人の実際の広告宣伝費は月額1000万ないし1100万円程度であった。

   同月29日,再生裁判所は,被告法人につき再生手続開始を決定し(以下,被告法人に対する民事再生手続を「本件再生手続」という。),同決定は,同年11月26日確定した。

 (3) 本件再生手続終結までの流れ

 ア 被告法人は,平成23年2月4日,再生債権者総数42名に対する確定再生債権総額9億7451万3201円(元本及び再生手続開始決定日前日までの利息・遅延損害金の合計額)のうち100万円を超える部分につき82%の免除を受けること,免除後の金額を同年9月末日から平成26年3月末日までの間に6分の1ずつ6回にわたり分割弁済することなどを内容とする再生計画案を再生裁判所に提出した。

   上記確定再生債権額のうち,L社が7億1845万6481円と突出して多く,同社だけで約73.7%を占めた。

   同計画案は,平成23年3月29日,債権者集会において,議決権を行使した議決権者38名のうち35名が同意し,かつ議決権者の議決権の総額の75.4%の議決権を有する者が同意したことをもって,民事再生法172条の3所定の要件を満たす法定多数により可決された。

 イ この間に,再生債権者であるS社(債権額1億7246万1625円)から,同月14日付けの書面及び同月24日付けの書面等により,被告法人とJ社との間の取引は架空取引ないし水増し取引の可能性があり,詐欺再生罪に該当する疑いがあることなどが指摘され,また,再生債権者であるU社からは,同月23日付け書面で,被告法人が関与した不正行為が存在しており,再生計画案は民事再生法174条2項2号及び3号に抵触する旨の意見が述べられた。これに対し,同年4月8日,G弁護士らは,被告法人はJ社に対し適正に広告宣伝業務を委託して適正な広告宣伝費を支払っているにすぎず,広告宣伝費として毎月数千万円の費用をJ社に支払っていることは何ら不自然ではないなどとする意見書を提出した。これを受けて,監督委員であるV弁護士は,同月11日付け監督委員意見書において,前記G弁護士ら作成の意見書に一見して不合理なところは見当たらず,詐欺再生罪が成立するとまではいい難いとして,同項各号の不認可事由は認められないと思料する旨述べた。

 ウ 同年4月18日,再生裁判所は,不認可事由は認められないとして本件再生計画を認可する旨の決定をした。

   その後,被告法人は,平成25年11月14日までに本件再生計画に従い弁済を終えたことから,再生裁判所は,同月18日,本件再生手続を終結する旨の決定をした。

 (4) 本件各送金と使途

   被告法人は,本件再生申立てを検討する中で,従前広告宣伝業務等を委託していたL社に代わり,J社に広告宣伝業務を委託したとして,平成22年10月4日以降,広告宣伝費等の名目で被告法人口座等からJ社口座に反復継続して多数の振込送金がされるようになった。なお,J社口座は,同社の設立から間もない同年4月28日に開設されているが,同年10月4日に被告法人からの振込送金を受け入れるまで何らの取引も記録されていない。

   そして,本件再生手続開始決定確定後の同年12月30日から本件再生手続が終結する以前の平成25年11月5日までの間に被告法人口座等からJ社口座に振込送金されたもののうち,本件各送金に当たる別表(掲載省略)記載の合計55回,合計8億9584万9999円分については,いずれも振込送金の直後にその全部又は一部がM社又はN社名義の各預金口座に移動されるなどしている。そして,これらの口座を経由した分を含めて,うち1億6859万5903円が広告宣伝費として支出されたり,約3億3700万円が被告法人のそれ以外の事業資金として説明のつく支出に充てられたりはしている。しかし,その一方で,合計2億5000万円余りについては,被告人Bによる現金出金のほか,同被告人やその前妻,親族及び交際相手名義の各預金口座への入金(以上合計約7000万円)や家賃の支払(合計約2500万円),被告人Bの使用する車両の購入費やクレジットカードの支払,更には被告人Bが支配する海外法人名義の預金口座への送金(8989万円余り)などとして,同被告人の下で費消されている。同様に被告人Cの下で6400万円余り,被告人Dの下で3700万円余りが費消されているほか,約3200万円の使途が不明となっている(甲8)。

   一例を挙げると,本件各送金の最初のものである別表(掲載省略)番号1の平成22年12月30日の2205万円の送金については,うち1000万円余りが広告宣伝費の支払に充てられている一方,J社口座から平成23年1月6日に被告人B名義の預金口座に400万円が送金されているほか,同月5日に400万円がM社名義のW信用金庫X支店の預金口座に送金されて更に同口座から同月13日に380万円が被告人Bの交際相手名義の預金口座に送金され,また,同月20日にも630万円がJ社口座からM社名義の上記口座に送金され,直後の同月21日に64万9346円が被告人Bの前妻名義の預金口座に送金されるなどしている。

   また,同番号2の同年1月31日の2204万9999円の送金については,J社口座から,同年2月4日に1000万円がM社名義のE銀行Y支店の預金口座に送金されて更に同口座から同日に800万円が被告人D名義の証券運用口座(運用主体は被告人B)に送金され,また,同月9日にも500万円がJ社口座からM社名義の上記口座に送金され,同日620万円が被告人B名義の預金口座に送金されるなどしている。

 (5) 被告法人及びJ社を含む関係会社等の預金口座の管理状況

   被告法人だけでなく,P会,J社,M社,N社(ただし設立後),O社(ただし設立後)等の預金通帳や届出印は,平成22年11月まではZタワー6階のL社の社長室の本立ての中のクローゼットに施錠されて保管されており,その後被告法人の事務所がaハウスb号室に移転してからは,被告人Bの机横の本立て内の施錠できるクローゼット内に保管されており,その鍵は被告人Bの机の引き出しに保管され,さらにその引き出しの鍵は,被告人Dの机の引き出しに保管されていた。

 2 関係者の供述により認められる事実

   以上に加え,関係証拠によれば,次のような事実関係も認められる。

 (1) J社口座への送金の経緯と実情

 ア Qの供述

   Qは,検察官調書のほか,弁護側証人として出廷した当公判廷においても,概要次のような供述をする。

   平成22年9月頃,被告人Cから,J社で被告法人の広告宣伝業務を行うことを提案され,同月下旬か10月上旬頃,L社の事務所で被告人Bと会い,事前に被告人Cから用意するよう言われていたJ社口座の通帳,銀行印及びキャッシュカードを被告人Bに手渡し,以後自分はこれらを管理していない。同年9月から11月にかけて開かれた数回の打合せにおいて,被告人Bから,被告人Cが同席の上で,現状の被告法人の広告宣伝費は1000万円ほどであるから同程度の金額で広告の仕事を行い,広告宣伝費を増額する必要がある場合には被告人Bにいくらで何をやるか説明すること,被告法人からJ社に流す金は実際の広告宣伝費より膨らませ,広告宣伝費に使う分以外の資金はM社に流してそこから様々な支払に充てることにし,同年11月より,被告法人からは毎月2205万円,P会からは毎月420万円ずつJ社に送金するから,被告法人側から入金額と入金日の連絡を受けたら対応する請求書を作成するようにすることを指示された。J社から被告法人への請求書は,Qが実際に行っていた仕事をベースにしたり,不自然でないように請求書を分割したりして作成した。

   同年11月から平成23年5月までは,被告法人口座等からJ社口座に毎月定額(2205万円。ただし,別表(掲載省略)番号2は2204万9999円,同5は2100万円。)の送金がされていたが,同年6月以降,送金が定額でなくなり,かつ,頻繁に行われるようになり,多額の送金について説明がつく請求書を作成することが困難になって,請求書を作成しないことも増えた。そうすると,c,被告人D及び同Cからメールで催促されることもあった。

 イ 被告人Cの供述

   また,被告人Cも,「被告人Bから,被告法人の広告宣伝業務をM社に行わせ,被告法人から広告宣伝費の名目で資金をM社名義の預金口座に入金するという計画を打ち明けられ,被告人Bが被告法人の資金をM社名義の預金口座を介して個人的な用途に使うつもりであることがわかった。しかし,被告人Bの交際相手がM社の代表取締役を務めていたことから,同社を利用して被告法人の利益を被告人B個人に移し替えていることが債権者に発覚する危険があると思い,別の会社を使うことを考えた。そこで,平成22年10月上旬頃,知人のQに対し,J社口座の通帳等を被告人Bに差し出せば,被告法人の広告宣伝業務を行うことができると提案したところ,Qは了承した。その後,Qと一緒に被告人Bと会い,Qが被告人Bに対し,前記通帳等を手渡したところ,被告人Bはこれを受け取り,以後,同通帳等を被告法人の事務所で保管するようになった。その後,被告人Bの指示で,被告人Dらが,J社口座への入金手続や同口座からM社やN社名義の預金口座への入金手続をするようになった。」旨,捜査・公判を通じて供述している。

 ウ 被告人D及びcの供述

   そして,被告人Dも,捜査段階において,平成22年10月初め頃,被告人Bから,「被告法人とP会からJ社,J社からM社にお金を流す。J社は広告会社だから広告宣伝費で出せ。」と指示を受けたことを明言し(乙110,111),当公判廷では,被告法人やP会からJ社口座への送金は当初dがしていたとしつつ,被告人Bの指示により,同月頃から,J社口座から,被告人3名やその親族に関係する預金口座等への振込送金その他の入出金をしていたことを認めている。

   また,平成23年5月頃,M社に入社し,被告法人,P会及び関連会社の入出金業務を担当していたc(被告人Cの内妻)は,同年10月頃以降,被告人Dから,被告法人名義の預金口座からJ社口座へ月2205万円を送金し,その金をN社名義の預金口座に移した上で,更にJ社口座及びM社名義の預金口座に移し,各口座から必要な支払をすること,必要な支払ができない場合には,基本的に1000万円以上の切りの良い額に消費税相当額を加えた額を被告法人等名義の預金口座からJ社口座に送金し,上記経路で各口座に移動させて支払に充てるよう指示されて実行したこと,M社名義の預金口座からは,c,被告人D,医師及び従業員らの人件費及び被告人Bの親族への送金等の支出が,J社口座からは,被告人Cの家賃支払等の支出が,N社名義の預金口座からは,被告人Dほか上記同様の人件費や被告人Bの交際相手の学費,被告人C及びcの生活費等の支出が,それぞれされたほか,cがN社名義の預金口座から現金を引き出して被告人Bや同Dに渡すこともあったことなどを詳細に供述している。

 エ 被告人B作成のメモ

   他方,被告人Bは,捜査・公判を通じ,前記1(4)の資金移動や同(5)の預金通帳等の管理について関知していない旨供述するが,第4回公判期日において,平成22年9月3日の記載のある紙片に「D→B個人用法人設立(税ム申告なし),A会から,新法人にお金振込ませて,飲食代等そこで落としてから,B個人に入金」「e→資金f社,g,A会以外の口座に移す!」「M社 至急法人に名変」と記したこと,上記「B個人用法人設立」の記載から更に線を引いて「M社→(9末から!!!)」とも記載したこと,eは当時の被告法人の経理担当者の名前であり,f社はL社,gはその親会社のR社であること,「M社,至急法人に名変」はハワイの被告人B個人名義の別荘をh社名義にする趣旨であることについて,それぞれ認める供述をしている。

   また,11月25日及び12月24日の各日付けのある平成22年に被告人Bが作成したメモには,L社,M社,J社それぞれの預金口座から,被告人3名や従業員,その他関係者の用途にいくらの金員を割り振るか指示したものとうかがわれる記載がある(乙35)ところ,被告人Dは,同Bから「これ払っておけ。」と言われて各メモを渡され,これに基づいて振込送金をしたと当公判廷(第6回)で述べている。

 オ 評価と認定

   前記アないしウの各供述は,相互によく符合し,また,いずれも前記1(4)(5)の資金移動の経緯や預金口座管理の実情を合理的に説明するものである。そして,前記エの被告人B作成のメモの記載も,前記1認定の事実関係に照らして被告法人やL社,被告人B個人等の財産の差押えを免れながら,被告人Bが自由に使えるようにこれらの財産や被告法人の収益をM社等に移すことを画策し,それを実現していた証跡とみるのが最も自然であり,前記被告人C及び同Dの供述の核心部分の信用性を支えるものといえる。

   したがって,これら各供述はいずれも信用に値するものであり,これら各証拠を総合すれば,次の各事実が優に認められる。すなわち,被告人Bは,平成22年9月頃には,被告法人やL社から資金をM社に移して差押え等を回避しつつ,自己の自由にできる金を確保することを画策し,被告人Cにも相談した上,折から紹介されていたQの広告会社であるJ社について,その預金通帳や印鑑を提供されたことから,被告法人やP会の資金をJ社口座に移動した上でM社名義の預金口座に送金し,J社口座又はM社名義の預金口座から出金することとした。そして,その旨被告人C及び同Dに指示し,被告法人等の資金を実際に要する広告宣伝費とは無関係にJ社口座に送金した上で,J社口座から実際に要する広告宣伝費の金額を除いてM社名義の預金口座その他に送金するようになった。他方,Qに対しては,毎月1000万円程度を上限に被告法人等の広告宣伝業務を行うよう依頼するとともに,実際に要する広告宣伝費の金額を水増しして被告法人口座等からJ社口座に送金した上で水増しした分の金額をJ社口座からM社名義の預金口座に送金して諸々の用途に使う旨説明した上で,被告法人等からJ社口座に送金した額に見合う架空請求書を作成して被告法人等に提出するよう依頼して,その提供を受けていた。

 (2) 再生申立てに関する事実

 ア また,G弁護士の供述(被告人B関係では当公判廷における証言,被告人C及び同D関係では検察官調書)によれば,次の事実が認められる。

   本件再生申立てに向けた複数回にわたる打合せの場において,被告法人側は会計面の話になると被告人Cが口を出す程度で,それ以外はほとんど被告人Bが話していた。被告法人側から当初送られてきた資金繰予定表には,売上の3割以上の月額2500万円の広告宣伝費が計上されていたため,被告人B及び同Cに対し,その旨を指摘してもっと削らないと債権者が納得しないと意見を述べたのに対し,被告人Bは,自由診療の分野では売上の三,四割を広告費に充てるのは当たり前であるなどと述べて強く反対し,結局,その後の打合せの結果,資金繰予定表の広告宣伝費を月額2200万円とすることになった。また,この頃,被告人Bから,今後,被告法人の広告は,J社という広告代理店を通して外注をしていく予定であるなどと説明を受けた。

   G弁護士らは,平成22年10月25日に再生裁判所に提出した再生手続開始申立書に,上記内容の資金繰予定表を添付したほか,その本文にも,被告人B及び同Cの説明等に基づき,被告法人の月次広告宣伝費は平均2000万円を超える旨を記載した。その後,同年12月10日に再生裁判所に提出した定例報告書には,被告人B,同C又は同Dから受けた説明に基づき,本件再生申立て時に複数存在していた取引広告会社をJ社のみに絞った旨を記載し,また,平成23年2月4日に再生裁判所に提出した再生計画案添付の資金繰計画表には,被告人B及び同Cの説明に基づき,広告宣伝費の支払実績や支払予定について月額2205万円と記載した。さらに,S社やU社から,被告法人とJ社との取引が架空や水増しではないかなどと指摘する意見書が提出されたのに対し,被告人B及び同CやQから受けた説明に基づき,J社に対しては,適正に広告業務を委託し適正に広告宣伝費を支払っているにすぎないなどと記載した反論の意見書を作成して再生裁判所に提出した。

   G弁護士は,J社口座を被告人Bらが管理していたことや,被告法人からJ社に広告宣伝費名目で支払われていた資金の一部が広告宣伝以外のことに使われていたことは知らなかった。

 イ 上記認定の根拠となるG弁護士の供述は,被告法人側との間のメール等の客観的証拠や,G弁護士とともに本件再生手続の申立代理人を務めたi弁護士及びj弁護士の各供述(甲61,62)並びに被告人Cの供述(乙73,74)とよく合致している。また,被告人Bが被告法人の実質的経営者であったことは前記1(1)ウのとおり明らかであるところ,本件再生手続の進行にあたっても被告人Bの意思決定が最重要視されており,実際に同被告人が決定権者であり,同被告人に対して十分な説明をしたことと整合的である。

   被告人Bの弁護人は,平成22年10月19日にdから送られてきた実績資金繰表の広告宣伝費の額は,前日に被告人Dから送られてきた実績資金繰表の広告宣伝費の額の約2倍であったのに,G弁護士が,その原因を尋ねず,しかも被告法人の確定申告書等との不整合を確認することもなく被告法人側の説明を信じたというのは不合理で信用できないと主張する。しかし,G弁護士は,上記金額の差異について,被告人Bから,前の実績資金繰表は誤っており,本来広告宣伝費として支出しているものが抜けていたと説明を受けた旨証言するところ,被告法人について,一刻も早く再生手続を申し立てて開始決定を受けなければS社から債権差押えをされてしまう可能性があったため,依頼を受けてから2週間足らずという短期間で準備をしたこと,本件がG弁護士にとって初めて担当する民事再生事件であったこと等の事情に鑑みれば,上記程度の説明を受けてそれ以上の確認をしなかったことが不自然であるとはいえず,その供述の信用性を減殺しない。

 (3) 被告人Bの関与について

   なお,被告人Bは,本件再生手続の開始決定後は,被告法人の財務及び経理は被告人C及び同Dに任せていた,本件再生手続に関する書類の作成には関与しておらず,J社口座からM社名義の預金口座等への送金については,被告人Cや同DからG弁護士らや再生裁判所に対して報告されていると思っていたなどと供述する。

   しかし,既に述べたとおり,信用できるG弁護士,Q及びcの供述等の関係証拠によれば,被告人Bが,被告法人の財務及び経理面を含め,業務全般につき実質的経営者として最終的な決定権限を有していたことは明らかであり,本件再生手続においてG弁護士らが作成,提出する主な書面の内容も把握,理解していたと認められる。また,被告人Bは,前記(1)エの各メモの記載をしているほか,本件が刑事事件として発覚する前の段階でG弁護士とした会話においても,本件再生申立て当時から,本件各送金やその後のJ社口座からM社名義の預金口座及びN社名義の預金口座への金の流れについても十分理解していたことをうかがわせる発言をしていた(乙64,65)。これらの事実や証拠に反する被告人Bの上記供述は信用できない。

千種秀夫裁判長名判決 事情変更の原則適用を認めなかった最高裁平成9年

民法判例百選Ⅱ 第8版 39事件 ゴルフクラブ会員権等存在確認請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成8年(オ)第255号

平成9年7月1日

【判示事項】       1 事情変更の原則と契約締結時の当事者の予見可能性及び帰責事由

             2 ゴルフクラブ入会契約後のゴルフ場ののり面の崩壊という事情の変更とゴルフ場経営会社の予見可能性及び帰責事由

【判決要旨】       1 事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、契約締結時の当事者にとって予見することができず、かつ、右当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要である。

             2 自然の地形を変更してゴルフ場を造成したゴルフ場経営会社は、ゴルフクラブ入会契約締結後にゴルフ場ののり面が崩壊したとしても、事情変更の原則の適用に関しては、特段の事情のない限り、右崩壊について予見不可能であったとはいえず、また、これについて帰責事由がなかったということもできない。

【参照条文】       民法1-2

             民法3編第2章契約

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集51巻6号2452頁

             裁判所時報1198号232頁

             判例タイムズ953号99頁

             判例時報1617号64頁

             金融法務事情1501号51頁

【評釈論文】       ジュリスト1128号74頁

             ジュリスト臨時増刊1135号73頁

             別冊ジュリスト160号98頁

             判例タイムズ臨時増刊978号18頁

             判例タイムズ1021号48頁

             法学協会雑誌117巻1号127頁

             法学教室209号100頁

             法曹時報51巻6号125頁

             法律時報別冊私法判例リマークス17号43頁

             民商法雑誌118巻4~5号655頁

             別冊NBL62号218頁

 

       主   文

 

 原判決中上告人らの請求に関する部分を破棄し、右部分についての被上告人の控訴を棄却する。

 前項の部分に係る控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人芝原明夫、同水田利裕、同金高好伸の上告理由第三及び第四について

 一 本件は、大日本ゴルフ観光株式会社の経営するゴルフ場「阪神カントリークラブ」(現在の名称は「パインヒルズゴルフ」。以下「本件ゴルフ場」という。)の会員たる地位を取得した上告人ら(ただし、上告人Aについては、その被承継人である亡Bのことをいう。以下同様とする。)が、本件ゴルフ場の営業を譲り受け会員に対する権利義務を承継した被上告人に対し、本件ゴルフ場の会員資格を有することの確認を求める事案である。被上告人は、上告人らは、本件会員資格のうち預託金返還請求権及び会員権譲渡権を有するが、本件ゴルフ場施設の優先的優待的利用権については、事情変更の原則又は権利濫用の法理の適用により、これを有しないと主張している。

 二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 大日本ゴルフ観光は、本件ゴルフ場の造成工事を完成させた上、昭和四八年七月二五日、東コース・中コース・西コース(二七ホール)を有する本件ゴルフ場を開設した。上告人らは、同社と会員契約を締結し、又は本件ゴルフ場の会員から同社の承認を受けて会員権を譲り受けることにより、本件ゴルフ場の会員たる地位を取得した。上告人らが同社に対して有していた会員としての権利の内容は、(一) 本件ゴルフ場の開業日に非会員よりも優先的条件かつ優待的利用料金でゴルフコース及び付属施設の一切を利用する権利、(二) 第一審判決添付会員権目録の「入会日」欄記載の日から一〇年間の据え置き期間経過後に同目録の「入会金金額」欄記載の預託金の返還を請求する権利、(三) 会員権を第三者に譲渡する権利である。

 2 株式会社モーリーインターナショナルは、昭和六二年九月二一日、大日本ゴルフ観光から本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。被上告人は、平成四年三月二日、モーリーインターナショナルから同月三一日現在の本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。

 3 本件ゴルフ場は、谷筋を埋めた盛土に施工不良があること及び盛土の基礎地盤と切土地盤に存在する強風化花こう岩のせん断強度が小さいことから、被圧地下水のわき出しなどにより、のり面の崩壊が生じやすくなっており、開業以来度々のり面の崩壊が発生していた。

  本件ゴルフ場は、平成二年五月に、同元年九月から閉鎖されていた中コースの一部と営業中であった東コースの一部ののり面が崩壊し、応急措置としての修復はされたものの、それ以前におけるのり面の崩壊状況とあいまって、営業が不可能になった。モーリーインターナショナルは、同二年五月末日にすべてのコースを閉鎖し、同年六月一日から本件ゴルフ場の全面改良工事に着手した。兵庫県は、平成二年五月二二日から同三年六月三日まで四回にわたり、本件ゴルフ場に対して防災処置をとるよう要請していた。

 4 本件改良工事の内容は、(一) 降雨時に上昇した地山の地下水が盛土内に侵入してもこれを速やかに排除できる岩砕盛土、地下排水管、地表面排水の構造とすること、(二) せん断破壊に強い材料を盛土材料として使用し、全体構造としてすべりに強い盛土体とし、土砂盛土内にせん断抵抗力の大きい岩砕盛土を盛土規模に応じ複数箇所に設けること、(三) 旧盛土箇所の崩壊土砂及び軟弱土の排土と岩砕盛土、地下排水管、地表面排水工、排水井等による修復工事を実施するというものであり、これらとともにクラブハウスの建築も含まれていた。本件改良工事にかかった費用は、右クラブハウスの建築も含め、約一三〇億円である。

 5 上告人らは、既に預託している預託金以外には、多額の費用を要した本件改良工事後の本件ゴルフ場を使用するための新たな預託金などの経済的負担を負うことを拒否している。

 三 原審は、前記二の事実関係に加えて、さらに、(一) モーリーインターナショナルは、大日本ゴルフ観光から営業を譲り受けた時点において、本件ゴルフ場について、のり面崩壊に対する防災処置を施す必要が生じることを予見していなかったとはいえないが、本件改良工事のような大規模な防災処置を施す必要が生じることまでは予見しておらず、かつ予見不可能であった、(二) 本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円は、本件ゴルフ場ののり面崩壊に対する防災という観点からみて、必要最小限度のやむを得ないものであった、(三) 大日本ゴルフ観光は、昭和六二年一一月の時点において既に営業実態のない会社になっており、その資産状態も明らかでなく、同社に対して本件改良工事についての費用負担を求めることは事実上不可能である、と説示した上、右事実関係及び前記二の事実関係を総合すると、上告人らに対し本件ゴルフ場の会員資格のうち施設の優先的優待的利用権を当初の契約で取得した権利の内容であるとして認めることは、信義衡平上著しく不当であって、事情変更の原則の適用により上告人らは右優先的優待的利用権を有しないと解すべきであると判断し、上告人らの請求を認容した第一審判決を取り消して、右請求を全部棄却した。

 四 しかしながら、上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 1 上告人らと大日本ゴルフ観光の会員契約については、本件ゴルフ場ののり面の崩壊とこれに対し防災措置を講ずべき必要が生じたという契約締結後の事情の変更があったものということができる。

 2 しかし、事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当時の契約当事者についてこれを判断すべきである。したがって、モーリーインターナショナルにとっての予見可能性について説示したのみで、契約締結当時の契約当事者である大日本ゴルフ観光の予見可能性及び帰責事由について何ら検討を加えることのないまま本件に事情変更の原則を適用すべきものとした原審の判断は、既にこの点において、是認することができない。

 3 さらに進んで検討するのに、一般に、事情変更の原則の適用に関していえば、自然の地形を変更しゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社は、特段の事情のない限り、ゴルフ場ののり面に崩壊が生じ得ることについて予見不可能であったとはいえず、また、これについて帰責事由がなかったということもできない。けだし、自然の地形に手を加えて建設されたかかる施設は、自然現象によるものであると人為的原因によるものであるとを問わず、将来にわたり災害の生ずる可能性を否定することはできず、これらの危険に対して防災措置を講ずべき必要の生ずることも全く予見し得ない事柄とはいえないからである。

  本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した前記二の事実関係によれば、本件ゴルフ場は自然の地形を変更して造成されたものであり、大日本ゴルフ観光がこのことを認識していたことは明らかであるところ、同社に右特段の事情が存在したことの主張立証もない本件においては、事情変更の原則の適用に当たっては、同社が本件ゴルフ場におけるのり面の崩壊の発生について予見不可能であったとはいえず、また、帰責事由がなかったということもできない。そうすると、本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円が必要最小限度のやむを得ないものであったか否か並びに大日本ゴルフ観光に対して本件改良工事の費用負担を求めることが事実上不可能か否かについて判断するまでもなく、事情変更の原則を本件に適用することはできないといわなければならない。

 4 また、前記二及び三の事実関係によっても上告人らの本件請求が権利の濫用であるということはできず、他に被上告人らの権利濫用の主張を基礎付けるべき事情の主張立証もない本件においては、右権利濫用の主張が失当であることも明らかである。

 五 原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、論旨は理由があり、その余の論旨につい判断するまでもなく原判決中上告人らの請求に関する部分は破棄を免れない。そして、以上の説示によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決の結論は正当であるから、右部分については被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第三小法廷

        裁判長裁判官  千種秀夫

           裁判官  園部逸夫

           裁判官  大野正男

           裁判官  尾崎行信

           裁判官  山口 繁

伊藤茂夫裁判長不当判決 雑所得にあたるとした平成6年東京高裁

2020年段階の会計感覚なら雑所得である以上、商法19条をかまして公正会計基準をかましても収益としての圧縮が可能に思われます。

所得税更正処分等取消、裁決取消請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成4年(行コ)第35号

平成6年3月30日

 

【判示事項】 (1) 訴外甲らから納税者に交付された金員は、訴外甲らが納税者に期待した書籍販売の社内における便宜な取扱いを図ることとの対価的な関係にあると見ることができるから、右金員の取得は、贈与税の課税対象たる贈与に当たらず、そして、右金員の受領により納税者に発生した所得は、継続的に生じるもので一時的偶発的なものでなく、納税者の職務上の行為と性質上対価関係を有するものであるから、一時所得ではなく雑所得に当たるとされた事例

       (2) 納税者が訴外甲らから受領した金員は納税者が訴外甲らに交付した金員と表裏一体の関係にあるから、所得の算定に当たっては、納税者の交付した金員を必要経費として控除すべきであるとの納税者の主張が、納税者の金員支払は、訴外甲らの金員支払いとは無関係に一方的に行われたものであって納税者の金員の受領と金員の交付との間には相互に関連性がなく、納税者の交付した金員は、納税者が金員の支払いを受ける必要以上支出された金員とは認め難いとして排斥された事例

       (3) 訴外甲らから納税者に支払われた金員を訴外会社の労働組合対策のための情報収集、会合、顧客の接待のための費用に支出したとの納税者主張が、仮に、訴外甲らの支払った金員が右費用の支出に当てられたとしても、右金員は使途を限定することなく納税者に支払われたものであるから、納税者がその判断で前記用途に支出したからといって、右金員が納税者の雑所得であるとの判断は左右されず、訴外甲らから受領した金員がどの程度納税者自身の私的な支出のための金員と区別されていたかは疑わしいとして排斥された事例

 

【判決要旨】 (1)~(3) 省略

 

【掲載誌】  税務訴訟資料200号1308頁

 

       主   文

 

  一 本件控訴を棄却する。

  二 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

        事   実

 

  一 当事者の求めた裁判

   1 控訴の趣旨

    (一) 原判決中、控訴人の左記(二)の請求を棄却した部分を取り消す。

    (二) 控訴人の昭和五四年から昭和五六年までの各年分の所得税について、被控訴人世田谷税務署長(以下「被控訴人署長」という。)がいずれも昭和五八年三月一四日付けでした各更正(昭和五六年分については異議決定によって一部を取り消された後のもの)のうち、昭和五四年分については、総所得金額で二四六九万円、所得税額で八一万二九〇〇円を、昭和五五年分については、総所得金額で、三〇七九万七五〇〇円、所得税額で一七九万四七〇〇円を、同五六年分については、総所得金額で三三五〇万五〇〇〇円、所得税額で六四万六〇〇〇円をそれぞれ越える部分及び過少申告加算税賦課決定(昭和五六年分については異議決定によって一部を取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

   2 控訴の趣旨に対する答弁

     本件控訴を棄却する。

  二 当事者の主張

    当事者の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示中の被控訴人に関する部分のとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。

   1 原判決一三枚目裏六行目の「本件」を「原審、当審の」に改める。

 

        理   由

 

  一 当裁判所は、原判決の判断を正当とするものであり、その理由は、原判決の理由説示一、第二の一ないし三(但し、被控訴人に関する部分のみ。)のとおりであるからこれを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。

   1 原判決一四枚目裏一一行目の「乙一号証」の前に「甲一二四号証、」を同行目の「まで」の次に「、同一二号証の一ないし三、」を同行目の「三二号」の次に「証」をそれぞれ加える。

   2 同一五枚目表一行目の「聴取書)」の次に「、同三四号証の一ないし三、同四三号証の一ないし五、同四四、四五号証の各一ないし六」を加える。

   3 同一五枚目裏五行目の「昭和四九年六月ころ、」を「昭和四八年七月ころに」に改め、同七行目の「ことがあり、」の次に「また、控訴人らが右問題につき支店長の対策会議を開いたところ、控訴人から本部長の首などすぐ飛ばせるなどと言われるなどしたことから、」を、同一一行目の「考え、」の次に「昭和四九年六月ころから」をそれぞれ加える。

   4 同一六枚目表四行目の「その後、」の次に「昭和五〇年一月に」を、同行目の「及び」の次に「そのころ」を、同行目の「ため、」の次に「田口及び山下(以下、合わせていうときは「田口ら」という。)はその手数料等の報酬の一部を個別に控訴人に支払うようにより、」を、同七行目の「対応して、」の次に「昭和五二年ころから」を、同一〇行目の「支払われている」の次に「ほか、昭和五七年一月ころには、控訴人のティビーエス・ブリタニカの退職金から田口らに八一〇万円ずつが支払われた。」をそれぞれ加える。

   5 同一七枚目裏末行の「そもそも」から同一八枚目表一行目の「して、」までを削る。

   6 同一八枚目表三行目の「(これを」から同五行目の「しまう。)」までを削る

  7 同一八枚目裏四行目の「開発等」の次に「(同社のほか、控訴人が兼務する株式会社ティビーエス・ブリタニカ、ティビーエス・ブリタニカ年鑑株式会社)」を、同8行目の「供述」の次に「及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

   8 同二〇枚目表四行目の「なお」から同九行目の末尾までを削る。

   9 同二一枚目表八行目の「なお」から同二一枚目裏一行目の末尾までを削る。

   10 同二一枚目裏六行目の「抽象的に」から同九行目の「であり」までを次のとおり改める。

      「抽象的であって、その支払額の算出の変遷の基準についても、分からないと述べたり、おおざっぱな話は出ていたと述べたりするなど、あいまいなものであるし、右支払額と控訴人の支払額との比較についても、大体同じ位じゃないかと思う、逆に余計に渡していたんじゃないかと思うなどと不明確な供述にとどまるものであり」

   11 同二一枚目裏一〇(ママ)目の「前記のような書証等の裏付けのある」を「本判決二1に判示するような」に改める。

  二 当審における控訴人の主張に対する判断

   1 控訴人は、証人田口、同山下の各証言は信用し難いと主張する。しかし、田口らの証言は、前後齟齬する部分もあるけれども、控訴人に対する金員を交付するに至った経緯、金員供与の趣旨、金員の計算方法などについて、その内容は具体的詳細であるうえほぼ一貫しており、乙一、三二号証ともその内容はほぼ符合しており、金員の支出についても乙四、五、八、一三号証、同七号証の一ないし二四などこれを裏付ける書証の提出もあり、全体として見ると、大筋において信用することができると考える。

   2 控訴人が田口及び山下から本件各年度において交付を受けた金員については、前記認定事実によれば、東日本事業本部長及び新居日本事業本部長の地位にそれぞれあった田口及び山下が、国際教育開発の代表取締役専務の地位にあり、右田口らの職務に関して指示管理し得る立場にあった控訴人に対し、それぞれの書籍販売の営業活動が円滑にゆくように社内で便宜を図って欲しい趣旨で、一定の計算方法により金額を算出し、定期的に継続的に供与した金員ということができる。

     控訴人は、田口らによる右金員の交付は、贈与として贈与税の課税対象に該当すると主張する。しかし、田口らが、控訴人に対し、金員を供与するようになった経緯、動機、両者の国際教育開発内における関係、金員交付の趣旨、金員の計算方法、金額は前示のとおりであり、これらの事実を考慮すると、右金員の交付と田口らが控訴人に期待した書籍販売における社内における便宜な取扱いを図ることとは対価的な関係にあると見ることができるから、控訴人による右金員の取得を無償ということはできない(もとより、負担付贈与とは、その性質を異にする。)。右金員の取得は、贈与税の課税対象たる贈与に当たらないと解される。

     そして、右金員の受領により控訴人に発生した所得は、所得税法上、継続的に生じるもので一時的偶発的なものではなく、控訴人の職務の性質に基本的に変更のない限り、その職務上の行為と性質上対価的関連を有するものであるから一時所得に当たるとはいえず、その他の各種所得にも当たらないから、雑所得に該当すると解するのが相当である。

   3 控訴人は、控訴人が田口らから受領した金員は控訴人が田口らに交付した金員と表裏一体の関係にあるから、所得の算定に当たっては、控訴人の受領金員から控訴人の交付した金員を必要経費として控除すべきであると主張するが、田口らが控訴人に金員を交付するようになった前示の経緯を見ると、控訴人の金員支払いは、田口らの金員支払いとは無関係に一方的に行われたものであって控訴人の金員の受領と金員の交付との間には相互に関連性がなく、控訴人の交付した金員は、控訴人が金員の支払いを受ける必要上支出された金員とは認め難いから、雑所得の金額の計算に当たり、控訴人が田口らに対し支払った金額を必要経費として控除する必要はないというべきである。

   4 控訴人は、右金員は、歩合給のため収入の少ない田口らにとり、固定給を得ていた控訴人との間に資金を拠出しあって収入を平準化しその安定を図ることに意義があったものであると主張するが前掲各証拠によれば、田口らが実施していた報酬の再分配に前示の経緯により控訴人を加えて金員を交付するようになったものであるが、当初は田口らが一方的に金員を交付していたものであり相互的なものではなかったこと、田口らの国際開発から受ける報酬は昭和四八年ころ以降控訴人に比べむしろ著しく多額であり、控訴人との間で報酬を拠出し合って分配する利益はなかったと見られること、昭和五四年から昭和五六年の間においても田口らの収入は控訴人の収入を格段と超えていたこと、控訴人から田口らに金員の交付がされるようになったものの、これは控訴人が田口らと協議の上行ったものでなく一方的に行うようになったものであって、田口らにとりその趣旨も明らかにされておらず、報酬を拠出し合ったとは言い難い。

     そもそも、田口ら及び控訴人の出した金員の額が、控訴人主張のようにほとんど差がないとすれば、前示のような複雑な計算方法によったり、かつ年数を掛けたりして相互に金銭を支出することの意味を見いだすことは困難というべきである(控訴人本人の供述するような相互の団結ということのみでは、田口らと控訴人との立場の違い、収入の性質の違いなどを考えれば、説明をし難いところであると考える。)。

     以上によれば、控訴人の右主張は採り難い。

   5 控訴人は、田口らから支払われた金員を国際教育開発の労働組合対策のための情報収集、会合、顧客の接待のための費用に支出したと主張し、甲一一六、一二三号証にはこれに沿う記載があり、甲一一〇号証の一ないし五、同一一一号証の一ないし九、同一一二号証の一ないし九、同一一三号証の一ないし一一、証人鎌形勝、同市野辰夫の各証言によれば、控訴人は、前記情報収集のための費用等を支出していたことが認められるが、仮に、田口らの支払った金員が右費用の支出に当てられたとしても、右金員は使途を限定することなく控訴人に支払われたものであるから、控訴人がその判断で前記用途に支出したからといって、右金員が控訴人の雑所得であるとの前記判断は左右されないということができる。のみならず、田口らから受領した金員がどの程度控訴人自身の私的な支出のための金員と区別されていたかは、控訴人本人の供述によっても疑わしい。

  三 以上のとおり、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

     東京高等裁判所第一民事部

         裁判長裁判官  伊藤滋夫

            裁判官  宗方 武

            裁判官  水谷正俊

 

        更正決定

  当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 右当事者の間の平成四年(行コ)第三五号所得税更正処分等取消、裁決取消請求控訴事件(原審 東京地方裁判所昭和六一年(行ウ)第一〇九号、一二〇号)につき、平成六年三月三〇日当裁判所が言い渡した判決に明白な誤謬があるので、職権により次のとおり更正する。

        主   文

  右判決三枚目表九行目の「控訴人」を「田口、山下」に改める。

   平成六年四月八日

     東京高等裁判所第一民事部

         裁判長裁判官  伊藤滋夫

            裁判官  宗方 武

            裁判官  飯村敏明

http://kaigainohannoublog.blog55.fc2.com/blog-entry-3204.html


地域の特定がないようですが、ふつうは迷惑条例か軽犯罪法にひっかかりそうです。故意の問題や刑事訴訟法上の通訳の確保とか取り締まる側も大変でしょうが。

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