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山口敬三郎『重要租税判例の解釈Ⅴ』リンケージ・パブリック 2020年 6

所得税更正処分取消等請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成23年(行コ)第89号

平成23年8月4日

【判示事項】       被控訴人が,3年分の各所得税について,被控訴人の出資先であるいわゆる任意組合等から生じた利益又は損失の額を所得税基本通達36・37共-20(以下,本件通達)に定める純額方式により納付税額等を計算して確定申告書を提出したところ,所轄税務署長から,全てにつき総額方式により納付税額等を計算すべきとして更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分を受けたため,同処分は違法であるとしてその取消しを求めたところ,原審は被控訴人の請求を全て認容したため,控訴人が控訴した事案である。控訴審は,本件通達は継続適用を要件とするほかに特段の要件は定めておらず,本件通達に定めがない要件を解釈により付加することは,租税法律主義の趣旨に抵触する等として,原判決を支持し控訴を棄却した事例

【掲載誌】        税務訴訟資料261号順号11728

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       税研160号84頁

             税研178号81頁

 

       主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

 1 本件は,被控訴人が,平成15年分から平成17年分までの各所得税について,被控訴人の出資先であるいわゆる任意組合等から生じた利益又は損失の額を所得税基本通達36・37共-20(以下「本件通達」という。)に定める純額方式(任意組合の利益金額や損失金額のみを各組合員に配分する方法。ただし,平成17年分のA組合(以下「本件A組合」という。)の損益については総額方式(損益計算書,貸借対照表の各項目の全てを各組合員に配分する方法))により納付すべき税額等を計算して確定申告書を提出したところ,戸塚税務署長から,全てにつき総額方式により納付すべき税額等を計算すべきであるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから,これらの処分(ただし,平成15年分及び平成17年分の所得税については,再更正処分及び変更決定処分により所得金額及び納付すべき税額並びに過少申告加算税の額を減額された後のものであり,平成16年分の所得税については,更正処分の翌年へ繰り越す株式等に係る譲渡損失の金額7億9434万7532円を下回る部分のみである。)が違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

   原審は,被控訴人の請求を全て認容したので,控訴人がこれを不服として控訴した。

 2 前提事実,税額等に関する当事者の主張,争点,争点に関する当事者の主張の要旨は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」第2の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。

(当審における控訴人の主張)

  (1) 個々の組合員に属する組合損益(任意組合等の事業活動から生じる損益)の計算方法については,総額方式が原則であり,中間方式(損益計算書の項目だけ各組合員に配分する方法)や純額方式は,例外的な計算方法にすぎないものであって,総額方式による計算が煩雑,困難であるなどの合理的な理由がないにもかかわらず,便宜的な方式を利用することは,これを許容した法の趣旨に反するものである。原判決は,所得税法の合理的な解釈に従った本件通達の内容を誤解したものであり,ひいては所得税法36条,37条の解釈・適用を誤った違法がある。

    すなわち,民法上の組合は個々の組合員の共同事業体であり,組合が行った事業活動は,各組合員自身がその分配割合に応じて行った事業活動として観念される。そのため,組合が行った事業活動の全てをその分配割合に応じて各組合員に帰属させて税額計算を行うことが,民法上の組合の権利関係からみて適切であり,組合損益の計算方法としては総額方式こそが正当な計算方法である。これに対して,中間方式及び純額方式は総額方式が要求する厳密な組合損益の取り込み計算を簡便にし,もって納税者の申告の便宜を図るための例外的な計算方法にすぎない。本件通達は,申告納税制度の円滑な維持という観点から,総額方式による計算が煩雑,困難であるなど,原則的な計算方式を強いることができない場合に,やむなく例外的な手法の選択を許すという解釈上当然の前提が介在しており,上記のような合理的な理由がないにもかかわらず,これを中間方式又は純額方式という計算の便宜を図るための方式を利用することは,本件通達が中間方式及び純額方式という計算方法を許容した趣旨に反するものであって許されない。

    被控訴人は,総額方式による申告納税が可能であったにもかかわらず,純額方式による計算を行っており,このような場合に純額方式の適用ができないことは明らかであって,総額方式に従って組合損益の計算を行った本件各更正処分はいずれも適法というべきである。

  (2) 仮に原判決の理解を前提にしても,中間方式又は純額方式を採用した納税者が,その後,特段の事情もないのに異なる方式を採用したときは,継続して計算をしている場合とはいえず,遡って例外的な方式である中間方式又は純額方式の適用が否定されるべきであるから,本件A組合の平成17年分につき被控訴人自らが総額方式に従って組合損益の計算を行った本件においては,それ以前に純額方式に従って損益計算した組合損益についても継続適用の要件を満たすか否かを見直す必要がある。本件では,被控訴人は,本件通達が中間方式又は純額方式を採用する場合に要求される継続適用の要件も満たしていないと解されるから,純額方式によって組合損益の計算を行うことは許されないというべきである。

  (3) また,租税特別措置法(以下「措置法」という。)37条の10が規定する損益通算の制限は,純額方式によって組合員の損益を計算する場合にも適用される。

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も,本件処分行政庁の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち被控訴人が取消しを求めている部分については,いずれもこれを取り消すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の理由説示(「事実及び理由」第3)のとおりであるから,これを引用する。

(当審における控訴人の主張に対する判断)

  (1) 控訴人は,個々の組合員に属する組合損益の計算方法については,総額方式が原則であり,中間方式や純額方式は,例外的な計算方法にすぎないものであって,総額方式による計算が煩雑,困難であるなどの合理的な理由がないにもかかわらず,便宜的な方式を利用することは,これを許容した法の趣旨に反するものであるところ,被控訴人は,総額方式による申告納税が可能であったにもかかわらず,純額方式による計算を行っており,このような場合に純額方式の適用ができないことは明らかであって,総額方式に従って組合損益の計算を行った本件各更正処分はいずれも適法というべきであると主張する。

    しかしながら,本件通達は,継続して中間方式や純額方式により計算している場合には,「その計算を認めるものとする」と定めており,継続適用を要件としているほかは特段の要件を定めていないものであって,本件通達に定めていない要件を,通達の改正をしないまま解釈により付加することは,租税法律主義の趣旨に抵触する。この解釈と異なる控訴人の主張は理由がない。

  (2) 控訴人は,中間方式又は純額方式を採用した納税者が,その後,特段の事情もないのに異なる方式を採用したときは,継続して計算をしている場合とはいえず,遡って例外的な方式である中間方式又は純額方式の適用が否定されるべきであるから,本件A組合の平成17年分につき被控訴人自らが総額方式に従って組合損益の計算を行った本件においては,それ以前に純額方式に従って損益計算した組合損益についても継続適用の要件を満たすか否かを見直す必要があり,本件では,被控訴人は,本件通達が中間方式又は純額方式を採用する場合に要求される継続適用の要件も満たしていないから,純額方式によって組合損益の計算を行うことは許されないと主張する。

    しかしながら,本件A組合は平成12年分から平成16年分までの5年間純額方式により計算しているものであり(弁論の全趣旨),平成17年分につき継続適用が要件とされていない総額方式に変更したとしても,これによってその前の年度の継続適用の要件が遡って否定されるという解釈には合理的根拠がなく,控訴人の上記主張は理由がない。

  (3) 控訴人は,措置法37条の10が規定する損益通算の制限は,純額方式によって組合員の損益を計算する場合にも適用されると主張する。

    しかしながら,原判決の説示したとおり,本件通達が,複数の所得に区分されるものを単なる利益の額又は損失の額として算出しながら,なお従来の所得区分を維持して損益通算の制限が適用されるとする趣旨であると解することはできないから,控訴人の上記主張も理由がない。

 2 よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第10民事部

        裁判長裁判官  園尾隆司

           裁判官  今泉秀和

           裁判官  櫻井佐英

組合員の所得の計算 東京地裁平成23年

ケースブック租税法6版 285頁            所得税更正処分取消等請求事件

東京地方裁判所判決/平成21年(行ウ)第16号

平成23年2月4日

【判示事項】      平成15年分から平成17年分の各所得税に関し,出資先であるいわゆる任意組合等から生じた利益又は損失の額につき,所得税基本通達(昭和45年7月1日付け直審(所)第30号)36・37-共20の(3)に定める方式(純額方式)により納付すべき税額等を計算した所得税の確定申告に対し,同通達の(1)に定める方式(総額方式)により納付すべき税額等を計算すべきであるとしてされた更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が,違法とされた事例

【参照条文】      所得税法36

            所得税法37

            租税特別措置法37の10-1

【掲載誌】       判例タイムズ1392号111頁

            税務訴訟資料261号順号11608

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      ジュリスト1440号213頁

            税務事例44巻1号1頁

 

       主   文

 

 1 処分行政庁が平成19年3月12日付けでした原告の平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(平成19年8月20日付けの減額更正処分及び変更決定処分により一部取り消された後のもの)のうち,更正については所得金額3億4115万9728円,納付すべき税額(予定納税額控除後のもの)2410万0800円を超える部分及び賦課決定については74万3000円を超える部分を取り消す。

 2 処分行政庁が平成19年3月12日付けでした原告の平成16年分の所得税の更正処分のうち,翌年へ繰り越す株式等に係る譲渡損失の金額7億9434万7532円を下回る部分を取り消す。

 3 処分行政庁が平成19年3月12日付けでした原告の平成17年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(平成19年8月20日付けの減額更正処分及び変更決定処分により一部取り消された後のもの)のうち,更正については所得金額3億8063万3934円,納付すべき税額(予定納税額控除後のもの)9070万1200円を超える部分及び賦課決定については全部を取り消す。

 4 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   主文1項ないし3項と同旨

第2 事案の概要

   本件は,原告が,平成15年分から平成17年分までの各所得税について,原告の出資先であるいわゆる任意組合等(所得税基本通達(昭和45年7月1日付け直審(所)第30号)36・37共-19の注1参照)から生じた利益又は損失の額を同通達36・37共-20(以下「本件通達」という。)の(3)に定める方式(以下「純額方式」という。)により納付すべき税額等を計算して確定申告書を提出したところ,戸塚税務署長から,本件通達の(1)に定める方式(以下「総額方式」という。)により納付すべき税額等を計算すべきであるとして更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けたことから,本件各更正処分等(ただし,平成15年分及び平成17年分の所得税については,再更正処分及び変更決定処分により所得金額及び納付すべき税額並びに過少申告加算税の額を減額された後のものであり,平成16年分の所得税については,更正処分の翌年へ繰り越す株式等に係る譲渡損失の金額7億9434万7532円を下回る部分のみである。)は違法であるとして,その取消しを求めている事案である(なお,所得税法その他の租税関係法令については,以下,特に断らない限り,当該事実に適用すべきその当時の有効な法令を指すものとし,その改正法令を特記しない。)。

 1 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

  (1) 当事者等

   ア 原告は,次に掲げる組合(以下「本件各組合」という。)に出資する組合員である。

    ① P1組合(以下「本件P1組合」という。)

      本件P1組合は,民法667条1項(なお,同法は,平成16年法律第147号により改正されている(平成17年4月1日施行)が,民法667条その他本件で関係する規定は,いずれもその文体や用語の現代語化が図られたにすぎないから,証拠等を引用する場合も含め,その施行の前後で区別した表記はしない。)に規定する組合契約により成立する組合(以下「任意組合」という。)である。

    ② P2組合(以下「本件P2組合」という。)

      本件P2組合は,投資事業有限責任組合契約に関する法律(同法は,平成16年法律第34号により「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」の題名等が一部改正されたものであるが,以下では平成16年法律第34号の施行前後で区別せず「投資事業有限責任組合法」と表記する。)3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約により成立する組合(以下「投資事業有限責任組合」という。)である。

    ③ P3組合(以下「本件P3組合」といい,本件P2組合と併せて「本件各P4組合」という。)

      本件P3組合は,投資事業有限責任組合である。

   イ 本件各更正処分等をした処分行政庁は,戸塚税務署長であったが,その後原告の住所が異動したことに伴い,芝税務署長がその権限を承継した(行政事件訴訟法11条1項柱書き括弧内参照)。

  (2) 投資事業組合契約の締結等

   ア 本件P1組合契約の締結

     平成12年11月6日,原告は,株式会社P5らとの間で,別紙1「本件各組合契約の要旨」記載1の内容による本件P1組合に係る投資事業組合契約(以下「本件P1組合契約」という。)を締結した。なお,原告は,本件P1組合の一般組合員であり,株式会社P5がその業務執行組合員である。

                                 (乙1)

   イ 本件P2組合契約の締結

     平成12年1月24日,原告らは,別紙1「本件各組合契約の要旨」記載2の内容による本件P2組合に係るP2組合契約(以下「本件P2組合契約」という。)を締結した。なお,原告は,本件P2組合の有限責任組合員であり,P6らがその無限責任組合員である。

                                 (乙2)

   ウ 本件P3組合契約の締結

     平成12年9月26日,原告らは,別紙1「本件各組合契約の要旨」記載3の内容による本件P3組合に係るP3組合契約(以下「本件P3組合契約」という。)を締結した。なお,原告は,本件P3組合の有限責任組合員であり,P6らがその無限責任組合員である。

                                 (乙3)

   エ 本件各組合の会計報告等について

     本件P1組合の業務執行組合員並びに本件各P4組合の各無限責任組合員は,原告に対し,平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度,平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度及び平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件各事業年度」という。)につき,要旨別表3-1から別表3-6まで(なお,別紙添付の別表については,例えば,別紙3の別表1であれば別表3-1とし,以下この例により表記する。)のとおり,それぞれ本件各組合の利益又は損失の額を原告の持分割合に応じて分割し,原告に帰属すべき本件各組合の利益又は損失の額に基づいて作成した本件各組合の各報告書(本件P1組合に係る報告書は会計報告書,本件各P4組合に係る報告書はいずれも組合員別持分等計算書であり,以下これらを総称して「本件各組合員別計算書」という。)を送付した。

                              (乙4~21)

   オ 原告の本件各組合の事業に係る利益又は損失の額について

     原告は,平成15年分から平成17年分までの各所得税の確定申告をする際,本件各組合の事業に係る利益又は損失の額について,本件各組合員別計算書に基づき,次の計算方法により算出した。

    (ア) 本件P1組合

     ① 平成15年分及び平成16年分 純額方式

     ② 平成17年分 総額方式

    (イ) 本件各P4組合

      いずれの年度についても,純額方式

  (3) 原告の確定申告及び更正処分等の経緯

   ア 原告は,次のとおり,平成15年分から平成17年分までの各所得税について,別紙2「本件各更正処分等の経緯」の各「確定申告」欄記載のとおり,確定申告書の提出をした(以下「本件各申告」という。)。

    (ア) 平成15年分 平成16年3月12日

    (イ) 平成16年分 平成17年3月11日

    (ウ) 平成17年分 平成18年3月15日

                         (以上につき,甲1~3)

   イ 戸塚税務署長は,平成19年3月12日,原告に対し,別紙2「本件各更正処分等の経緯」の各「更正処分等」欄記載のとおり,平成15年分から平成17年分までの各所得税について,それぞれ更正処分(本件各更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各賦課決定処分)をした。

                         (甲4の1,5,6の1)

   ウ 原告は,平成19年3月30日,別紙2「本件各更正処分等の経緯」の各「異議申立て」欄記載のとおり,上記イの本件各更正処分等について異議申立てをしたが,何ら審理・決定がされないまま3か月を経過したことから,同年7月13日,国税不服審判所長に対し,審査請求をした。

                              (甲7~10)

   エ 戸塚税務署長は,平成19年8月20日,原告に対し,別紙2「本件各更正処分等の経緯」の各「再更正処分等」欄記載のとおり,平成15年分及び平成17年分の所得税及び過少申告加算税につき,それぞれ(減額再)更正処分及び過少申告加算税の変更決定をした。

                           (甲4の2,6の2)

   オ 国税不服審判所長は,平成20年7月14日,上記ウの審査請求について,審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし,同月16日,当該裁決書を原告に送達したところ,同月17日,原告は,当該裁決書を受領した。

                            (甲11の1・2)

  (4) 本件訴訟の提起

    原告は,平成21年1月15日,本件訴訟を提起した。

                              (顕著な事実)

  (5) 所得税法基本通達の定め

    次に掲げる所得税法基本通達の定めのうち,原告の平成15年分及び平成16年分の各所得税にはア(ア)及びイ(ア)の定めが,原告の平成17年分の所得税にはア(イ)及びイ(イ)の定めがそれぞれ適用されることとなる。

   ア 任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(以下「組合事業」という。)に係る利益等の帰属

    (ア) 平成17年12月26日付課個2-39ほかにより一部改正前の所得税法基本通達36・37共-19

      任意組合(民法677条《組合契約》の規定による組合をいう。以下36・37共-20において同じ。)の組合員の当該任意組合の事業に係る利益の額又は損失の額は,当該組合の計算期間を基として計算し,当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。ただし,当該組合が毎年1回以上一定の時期において組合事業の損益を計算しない場合には,その年中における当該組合の事業に係る利益の額又は損失の額を,その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。

    (イ) 上記一部改正後の上記所得税法基本通達に相当する部分

     a 所得税法基本通達36・37共-19

       任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(組合事業)に係る利益の額又は損失の額は,当該任意組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。

       ただし,当該分配割合が各組合員の出資の状況,組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合には,この限りではない。

       (注)1 ここでいう「任意組合等」とは,民法667条1項に規定する組合契約,投資事業有限責任組合法3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約に関する法律3条1項に規定する有限責任事業組合契約により成立する組合並びに外国におけるこれらに類するものをいう。

          2 分配割合とは,組合契約に定める損益分配の割合又は民法674条《組合員の損益分配の割合》,投資事業有限責任組合法16条《民法の準用》及び有限責任事業組合契約に関する法律33条《組合員の損益分配の割合》の規定による損益分配の割合をいう。以下36・37共-20までにおいて同じ。

     b 所得税法基本通達36・37共-19の2

       任意組合等の組合員の組合事業に係る利益の額又は損失の額は,その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。

       ただし,組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期において計算し,かつ,当該組合員への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合には,当該任意組合等の計算期間を基として計算し,当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入するものとする。

   イ 任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の額の計算等(本件通達)

    (ア) 平成17年12月26日付課個2-39ほかにより一部改正前の所得税法基本通達36・37共-20

      36・37共-19により任意組合の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は,次の(1)の方法により計算する。ただし,その者が継続して次の(2)又は(3)の方法により計算している場合には,その計算を認めるものとする。

     (1) 当該組合の収入金額,支出金額,資産,負債等を,組合契約又は民法674条《損益分配の割合》の規定による損益分配の割合(以下この項において「分配割合」という。)に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法(総額方式)

     (2) 当該組合の収入金額,その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法

       この方法による場合には,各組合員は,当該組合の取引等について非課税所得,配当控除,確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はあるが,引当金,準備金等に関する規定の適用はない。

     (3) 当該組合について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員にあん分する方法(純額方式)

       この方法による場合には,各組合員は,当該組合事業に係る取引等について,非課税所得,引当金,準備金,配当控除,確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく,各組合員にあん分される利益の額又は損失の額は,当該組合事業の主たる事業の内容に従い,不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とする。

    (イ) 平成17年12月26日付課個2-39ほかにより一部改正後の所得税法基本通達36・37共-20

      36・37共-19及び36・37共-19の2により任意組合等の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は,次の(1)の方法により計算する。ただし,その者が継続して次の(2)又は(3)の方法により計算している場合には,その計算を認めるものとする。

     (1) 当該組合事業に係る収入金額,支出金額,資産,負債等を,その分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法(総額方式)

     (2) 当該組合事業に係る収入金額,その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法(前記(ア)(2)の方式も含め,以下「中間方式」という。)

       この方法による場合には,各組合員は,当該組合事業に係る取引等について非課税所得,配当控除,確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はあるが,引当金,準備金等に関する規定の適用はない。

     (3) 当該組合事業について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員にあん分する方法(純額方式)

       この方法による場合には,各組合員は,当該組合事業に係る取引等について,非課税所得,引当金,準備金,配当控除,確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく,各組合員にあん分される利益の額又は損失の額は,当該組合事業の主たる事業の内容に従い,不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とする。

                 (以上につき,甲11の1,乙24,25)

 2 税額等に関する当事者の主張

   被告及び原告が本件訴訟において主張する原告の総所得金額,納付すべき税額及び過少申告加算税の額等は,それぞれ別紙3「被告主張に係る本件各更正処分等の根拠及び計算」及び別紙4「原告主張に係る所得金額等」のとおりであり,本件の争点に関する部分を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法に争いはない。

 3 争点

  (1) 本件各更正処分の適法性

   ア 原告が本件各組合から分配を受けた利益又は損失の額に係る所得金額等について,本件通達の純額方式の適用が認められるか否か。

   イ 本件通達の純額方式の適用が認められる場合においても,分離課税の対象となる所得については,その他の所得と区分して計算されるべきか否か。

  (2) 本件各賦課決定処分の適法性

 4 争点に関する当事者の主張の要旨

  (1) 争点(1)(本件各更正処分の適法性)について

   ア 原告が本件各組合から分配を受けた利益又は損失の額に係る所得金額等について,本件通達の純額方式の適用が認められるか否かについて

   (被告の主張の要旨)

    (ア) 本件通達の解釈

      任意組合等の組合事業から生じる損益の計算方法及びこれに対する課税方法等については,所得税法及び法人税法に何ら規定がないため,専ら解釈に委ねられているところ,所得税法の定める所得金額の計算方法は組合事業に係る取引による収入及び支出はそれが生ずる都度分配割合に従ってその構成員に帰属することを前提としていること,租税特別措置法(以下「措置法」という。)等が各種所得と区分して所得金額の計算及び税額の計算を行うとした所得(いわゆる分離課税の対象となる所得)があること等に照らすと,所得税法の解釈上,総額方式によることを原則とし,総額方式によることが事実上困難であるなど,総額方式によらないことにつき合理的な理由があると認められる場合に限り,中間方式又は純額方式によることを許容しているものと解される。

      そこで,本件通達は,上記のような所得税法の解釈を踏まえ,総額方式によることを原則としつつ,総額方式による計算が困難である特段の事情がある場合,又は,総額方式による計算が実際上困難とまでいえない場合であっても,納税者が総額方式と比較して簡易な計算方法である中間方式及び純額方式を選択しても,当該納税者の租税負担が軽減されることがないなど,課税上の公平を害さない(課税上の弊害が生じない)限度において,継続適用を条件に,中間方式又は純額方式による計算方法を許容したものと解するのが相当である。

    (イ) 本件各更正処分の適法性

     a 本件において,原告は,本件各組合から,本件各組合員別計算書及び本件各組合の財務諸表等といったその組合事業から生じる損益を総額方式により計算することが十分可能な資料を受領しているから,上記(ア)で述べた本件通達の解釈上純額方式により計算をすることができる場合には該当せず,むしろ純額方式による計算を認めれば,次の(a)及び(b)のとおり所得税法上認められない所得の種類の転換及び損益通算がされることとなり,任意組合等を介さないで本件各組合と同じ事業を行った納税者との課税の公平を害し,課税上の弊害を生じることになるから,これを総額方式により計算することとした本件各更正処分は適法である。

      (a) 本件P1組合ついて

       〈ア〉 平成15年分

        ① 総合課税の配当所得に該当する受取配当金(34万8180円)と総合課税の雑所得に該当する投資関連債権利息及び貸付債権利息(合計:2億1075万3722円)並びに② 源泉分離課税の配当所得に該当する受益証券分配金(4682円)と同利子所得に該当する預金利息(295円)及び有価証券利息(935万1788円)が,③ 申告分離課税の株式等の譲渡に係る雑所得に該当する有価証券売却損(上場分:△2981万9137円,未公開分:△2億553万4033円)の損失と損益通算されることとなる。

       〈イ〉 平成16年分

         組合損益に係る申告分離課税の株式等の譲渡に係る雑所得に該当する有価証券売却益のうち上場分に係る有価証券売却益(6億2765万8030円)と,原告が本件各組合を通じないで行った取引に係る申告分離課税の株式等の譲渡に係る雑所得(△7億6041万7228円)を差引きする計算が行われないこととなる結果,原告の申告における上場株式等の譲渡に係る損失の金額が過大となり,その結果,翌年へ繰り越す株式等に係る譲渡損失の金額(当初申告額:7億9434万7532円,原処分の額:1億9650万8639円)も過大となり,所得税法及び措置法等が許容していない損失の繰越しを認めることになる。

      (b) 本件各P4組合について

        平成15年分から平成17年分までについて,本来は,申告分離課税の株式等の譲渡に係る雑所得(未公開分)として区分されるべき組合損益が,総合課税の雑所得として計算される結果,総合課税の配当所得と損益通算がされたことと同様の結果となる。

     b 原告の主張に対する反論

      (a) 本件通達は,① 所得税法等の趣旨に反しない範囲で適用されるものであるから,任意組合等の組合事業による損益の計算につき,上記(ア)のような純額方式によることができる場合以外の場合にまで,継続適用の要件のみをもって純額方式によることを認めるものではないし,② 所得税法36条及び37条の規定を組合損益の計算に適用する場合の解釈を示したにすぎず,法律の根拠のない新たな課税を定めたものではないから,租税法律主義(憲法84条)に反するものでもない。また,③ 租税行政庁が本件通達の解釈(上記(ア)参照)に反する場合を長期間にわたり容認し,このような取扱いが法的確信を得ているというほど定着しているとはいえず,④ 本件通達は,措置法が規定する分離課税の対象となる所得についてまで,それを総合課税の対象となる所得と合算して計算することまで認めるとは記載しておらず,また,納税者がこれに基づいて任意組合等に対して行動に及ぶものとも認められないから,行政上の信義則違反を論じる前提を欠く。そして,⑤ 原告と同様の状況にある者について,原告と同様の課税処分が行われていないという事実もないから,平等原則に反するものではない。

      (b) そもそも任意組合等の純資産を観念することは,組合自体が権利義務の主体とならないこと(パス・スルー)と整合しないし,所得税法及び措置法は,各種所得区分の規定及び損益通算の規定によって各種所得や特に定めた所得についてそれぞれ担税力の調整を図り,また,その適用により課税の公平を図っているから,ある者の純資産の増加の有無・程度により担税力の大小を決定しているわけではなく,任意組合等の純資産が増加しない場合にその組合員に課税することが所得税法の趣旨に反する旨の原告の主張は採り得ない。

        なお,原告は,平成17年分の本件P1組合の組合損益の計算方法を純額方式から総額方式に変更しているが,これは,株式等の譲渡所得等の金額が多額の黒字となり,純額方式によれば累進税率(37%。所得税法89条1項,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律4条)の適用があり,総額方式によれば7%の税率(措置法37条の11第1項)があることを踏まえ,税額の多寡を確認した上,多額の税負担を免れるためであると推認される。

     c 以上によれば,本件各組合の損益計算に際し,純額方式によるべき合理的理由はなく,むしろ,課税上の公平が害されるなどの課税上の弊害が生じるのであるから,本件各組合の損益計算において,純額方式によることは所得税法上,許容されず,所得税法上の原則である総額方式に基づいて計算した本件各更正処分が適法であることは明らかである。

   (原告の主張の要旨)

    (ア) 本件通達の解釈

      任意組合等の組合員が組合事業を通じて得た所得の計算方法について,所得税法及び法人税法に明文の規定がなく,その解釈に委ねられているところ,本件通達は,その文理上,総額方式を原則としつつ,その例外として,継続適用のみを要件として,中間方式又は純額方式の選択を認めており,中間方式又は純額方式の選択に当たり,被告主張の「課税上の弊害」を要件とはしていない。そして,任意組合等の組合財産が構成員の共有(合有)として団体法的観点から一定の制約を受けること(民法675条~677条),投資事業を行う任意組合等における担税力の源泉はその事業全体での所得を一体としてとらえることが担税力の実態に最も合致すること等に照らすと,純額法を許容する合理性があり,また,任意組合等の構成員の具体的態様が自ら業務執行に当たる者から業務執行に関与せず関心を持たない者まで様々である実態を併せ考慮すれば,所得税法は,本件通達の3方式のいずれも採り得るとする趣旨であると解すべきである。

      したがって,本件通達によれば,任意組合等の組合員である原告は,当該組合事業を通じて得た所得の計算について,継続適用の要件を充足する限り,中間方式又は純額方式によることができるものというべきである。

    (イ) 本件各更正処分の違法性

     a 課税実務では,任意組合等の組合員がその組合事業を通じて得た所得の計算について,昭和45年7月1日の所得税法基本通達制定時から,一貫して本件通達の明文に従って行われており,被告主張のような純額方式の適用を制限する公的な見解が示されたことはない。

       それにもかかわらず,本件各更正処分は,① 原告が本件各組合を通じて得た所得の計算について純額方式を適用すべきところ総額方式を適用した点で,当該所得に対する所得税の計算方法を誤った違法があるほか,② 何らの法律上の根拠もなく,本件通達の明文にない要件を付加した点で,法的安定性と予測可能性を著しく害しており,憲法84条の租税法律主義に反する違法が,③ 行政先例法として確立した本件通達に反する違法が,④ 原告に対してのみ本件通達の明文にない要件を付加した点で,不合理な差別的取扱いとして,平等原則に反する違法が,⑤ 本件通達の明文を帰責事由なく信頼した原告の信頼を著しく害した点で,行政上の信義則に反する違法があるというべきである。

     b 本件においては,① 本件各組合の組合財産による投資等の業務執行は原告以外の者が行っており,当該投資による損益は投資先のベンチャー企業の業績に左右されるものでこれを恣意的に操作することはできないこと,上記のような本件各組合の業務執行は異なる所得区分に属する利益又は損失の発生を予定していること,② 本件各組合は,本件P1組合の平成17年分を除き,純資産の増加がなく,平成15年から平成17年まで(ただし,本件P1組合については平成15年及び平成16年)純額方式を継続適用していたことから,原告が本件各組合を通じて得た所得の計算について純額方式によったとしても,「課税上の弊害」があるとはいえない。

     c また,任意組合等の財産は,資産及び負債を含んだ単一体であり,その純資産が増加しない場合には,組合員の持分が増加しない以上,所得税の課税対象とすべき組合員の担税力を増加させる経済的利得としての「所得」がないから,このような場合にその組合員に課税をすることは所得税法の趣旨に反するところ,本件においては,上記b②のとおり本件各組合の純資産が増加していない場合に総額方式を適用して増額更正処分をすることは,所得税法の趣旨に反して違法である。

   イ 本件通達の純額方式の適用が認められる場合においても,分離課税の対象となる所得については,その他の所得と区分して計算されるべきか否かについて

   (被告の主張の要旨)

     措置法に基づき分離課税の対象となる所得については,総合課税の対象となる所得と区分して所得金額及び税額を計算し,その所得金額の計算上生じた損失の金額は生じなかったものとみなされるから,当該損失の金額について,他の所得と通算することはできない(同法31条1項,32条1項,37条の10第1項,41条の14第1項等)。

     したがって,原告が本件各組合を通じて得た所得の計算を純額方式によることができるとしても,措置法等による損益通算の制限を潜脱する純額方式の適用は許されないから,上記(1)(被告の主張の要旨)ア(イ)a(a)及び(b)で指摘した各所得のうち,株式等に係る譲渡所得等の金額は措置法の規定に基づく分離課税の対象となる所得としてその所得金額の計算をすべきであり,その場合における原告の総所得金額,納付すべき税額及び過少申告加算税の額等は別紙3「被告主張に係る本件各更正処分等の根拠及び計算」添付の別表3-23のとおりである。

   (原告の主張の要旨)

     純額方式によれば,組合事業から各種の所得が発生した場合には,結局組合段階で計算された利益又は損失をいずれか一の所得に配分すべきことになり,また,組合の決算において常に異なる区分の所得間で損益通算を行うことになるから,本件通達は,各種の所得が発生した場合に所得区分が変更になることや異なる区分の所得間で損益通算を行うことを予定しており,その所得に分離課税の対象となる所得が含まれているとしても,これをその他の所得と区分する必要はないというべきである。

  (2) 争点(2)(本件各賦課決定処分の適法性)について

   (被告の主張の要旨)

   ア 前記(1)ア(被告の主張の要旨)のとおり,本件各更正処分はいずれも適法である。

   イ 本件通達は,措置法が規定する分離課税の対象となる所得についてまで,それを総合課税の対象となる取得と合算して計算することまで認めるとは記載していないから,原告は,所得税法及び措置法の解釈を誤ったか,あえて本件通達の文言を自己に有利に解釈して,本件各組合を通じて取得した損益につき純額方式による申告を行ったものであり,本件通達の存在を踏まえても,国税通則法(以下「通則法」という。)65条4項の「正当な理由」があるとは認められない。

   ウ したがって,本件各賦課決定処分は,本件各更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額を基礎として計算したものとして,いずれも適法である。

   (原告の主張の要旨)

   ア 本件各更正処分は,適法な所得金額及び所得税額を超える部分について違法であるから,これを前提とする本件各賦課決定処分も,適法な過少申告加算税を超える範囲において違法である。

   イ 仮に本件各更正処分が適法であったとしても,原告は,本件通達の文言に従って本件各申告をしたもので,被告主張に係る本件通達の解釈に基づく申告を求めることは酷であったから,適法な過少申告加算税額を超える部分については,真に原告に責めに帰することができない客観的な事情にあり,なお原告に過少申告加算税を付加することが不当又は酷になる場合として,通則法65条4項の「正当な理由」があるから,本件各賦課決定処分は,その限度で違法であるというべきである。

第3 当裁判所の判断

 1 争点(1)(本件各更正処分の適法性)について

  (1) 任意組合等の組合損益の計算方法に関する所得税法の解釈について

   ア 任意組合について

    (ア) 任意組合(民法上の組合)は,① 各当事者が出資して共同の事業を営むことを約する組合契約(民法667条1項)に基づき創設される共同事業のための団体であるが,② 法人格は認められておらず,③ 組合の業務執行は,原則として組合員の過半数で決し(同法670条1項),全組合員のためにされるものと解され,④ 組合員の出資その他の組合財産は,総組合員の共有に属する(同法668条。ただし,組合員は,組合財産についてその持分を処分したとしても,その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができず(同法676条1項),清算前に組合財産の分割を求めることができない(同条2項)。さらに,組合の債務者は,その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない(同法677条)。)とされ,また,⑤ 当事者が損益分配の割合を定めなかったときは,その割合は,各組合員の出資の価額に応じて定める(同法674条1項)が,⑥ 組合の債権者は,その債権発生の時に組合員の損失分担の割合を知らないときは,各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができるとされている(同法675条)。

      以上によれば,任意組合は,法人格を有せず,組合財産が組合事業の経営という目的のために各組合員個人の他の財産と独立の存在を認められる(上記④ただし書等)とはいえ,法形式的には,権利義務の帰属主体になり得ないため,任意組合の行う個々の事業活動から生じた損益(以下「組合損益」という。)は,その組合員に帰属することになる。したがって,組合損益に対する課税についても,任意組合が法人税法上の「人格のない社団等(法人でない社団又は財産で代表者又は管理の定めがあるもの。同法2条8号)」に含まれないと解される限り(法人税基本通達1-1-1,所得税基本通達2-5参照),これに対する法人税としての課税はされず(法人税法4条1項参照),その組合員に対する所得税又は法人税としての課税がされること(以下「構成員課税」という。)になる。

      そこで,本件のように,任意組合の組合員が法人ではなく個人である場合には,当該組合員は,組合損益に対する構成員課税として,所得税法により,所得税の納付義務を負うことになる(同法5条,2条1項3号から5号まで)から,以下,組合損益に対する構成員課税に関する所得税法上の解釈について検討する。

    (イ) 所得税法は,所得税の額を同法21条1項に定める順序により計算する(同項)とし,具体的には,① 個人の所得を,その源泉又は性質によって利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得又は雑所得の10種類の所得に区分し,これらの所得ごとに所得の金額を計算し(同法21条1項1号),② これらの所得の金額を基礎として,同法22条及び69条から71条までの規定により同法22条に規定する総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額を計算し(同法21条1項2号),③ これらから基礎控除その他の控除をして同法89条2項に規定する課税総所得金額,課税退職所得金額及び課税山林所得金額を計算し(同法21条1項3号),④ これらを基礎として,同法89条等の規定により所得税の額を計算すること(同項21条1項4号。なお,配当控除及び外国税額控除を受ける場合には,上記所得税の額に相当する金額からその控除をした後の金額となる(同項5号)。)としている(以上の同法21条1項に基づく税額の計算方法のうち退職所得及び山林所得の計算に関する部分を除いたものを「総合課税」という。)。そして,総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失があるときは,これを他の各種所得の金額から控除することができ(損益通算。所得税法69条1項),他方,土地等に係る譲渡所得(長期又は短期。措置法31条又は32条),株式等に係る譲渡所得等(同法37条の10,37条の11),先物取引に係る雑所得(同法41条の14)等の一定の所得について,総合課税とは別個に税額を計算することとされている。

      しかしながら,所得税法は,任意組合の事業活動から生じる損益(組合損益)及び個々の組合員に帰属すべき損益の計算方法及びこれに対する課税方法等については何ら規定していないため,これらについては専ら解釈に委ねているものと考えられる。

    (ウ) そこで,組合損益及び個々の組合員に帰属すべき損益の計算方法を検討するに,前記(ア)で指摘した任意組合の基本構造に加え,任意組合の組合員には,共同事業者として任意組合の業務執行をする者から単に利益の分配を期待する出資者にすぎない者まであり得ることをも併せ考慮すれば,まず,① 組合財産が組合員の共有とされており,組合損益は,それが生ずるごとに実際の分配の有無を問わず(損益分配割合に応じて)各組合員に帰属すると考えられる点に着目して,総額方式(損益計算書,貸借対照表の各項目のすべてを各組合員に配分する方法)によることが考えられ,これが原則的,論理的な考え方ということができる。しかし,② 任意組合が社団ではなく組合員間の共同事業を目的とする契約の形態を採り,その業務執行が組合契約に基づく各組合員の共同事業として行われるものであり,任意組合の組合財産が狭義の共有(民法249条以下)ではなくいわゆる合有とされ(したがって,その組合員各自が組合財産に対する自由な支配権を有しないという意味で,組合財産にある程度の独立性があると解されている。),組合内部においては組合損益のうち利益は各組合員に分配し,損失は各組合員が分担することが予定され(同法674条はこれを前提としているものと解される。),特に営利事業を主たる目的とする組合であれば,その存続中には,定期的に損益の計算をして利益があればその都度組合員がその分配を受けることを意図していることが通例であると解されること(この点からすると,任意組合が多数の組合員から出資を募って共同事業を行う場合においては,その出資者が単に利益の配分を期待する資本出資者という実態を持つ場合には,その業務から生じる利益の配分として個人組合員が当該組合から受ける所得は,出資・投資の対価として雑所得に該当するとも考えられる。)に着目すれば,純額方式(任意組合の利益金額や損失金額のみを各組合員に配分する方法)によることも考えられる。

      そうであるとすれば,組合損益及び個々の組合員に帰属すべき損益の計算方法としては,③ 上記のような総額方式と純額方式の中間の方式である中間方式(損益計算書の項目だけ各組合員に配分する方法)も含めた,以上の3つの方法のいずれもが所得税法上の解釈として許容されるものと解すべきである。

    (エ) これ

横田喜三郎裁判長名判決 第三者所有物没収違憲判決 最高裁昭和37年

「憲法 事例問題起案の基礎」14頁73頁 精選憲法判例57事件 憲法判例百選6版112事件194事件 第7版107事件
関税法違反未遂被告事件

最高裁判所大法廷判決/昭和30年(あ)第2961号

昭和37年11月28日

 

【判示事項】 一 関税法第一一八条第一項(旧関税法第八三条第一項)により第三者の所有物を没収することは、憲法第三一条、第二九条に違反するか

       二 第三者所有物の没収の違憲を理由として上告することができるか

 

【判決要旨】 一 関税法第一一八条第一項(旧関税法第八三条第一項)の規定により第三者の所有物を没収することは、憲法第三一条、第二九条に違反する。

       二 前項の場合、没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、これを違憲として上告をすることができる。

       (補足意見、反対または少数意見がある。)

 

【参照条文】 関税法118

       憲法29

       憲法31

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集16巻11号1593頁

       最高裁判所裁判集刑事145号223頁

       裁判所時報366号2頁

       判例タイムズ139号144頁

       判例時報319号6頁

【評釈論文】 経済法7号37頁

       警察時報18巻2号28頁

       研修175号73頁

       財経詳報472号10頁

       財政経済弘報970号7頁

       シュトイエル9号1頁

       ジュリスト266号48頁

       ジュリスト268号10頁

       ジュリスト276の2号76頁

       ジュリスト307の2号106頁

       別冊ジュリスト17号242頁

       別冊ジュリスト21号86頁

       別冊ジュリスト27号122頁

       別冊ジュリスト44号120頁

       別冊ジュリスト68号144頁

       別冊ジュリスト82号216頁

       別冊ジュリスト95号192頁

       別冊ジュリスト96号382頁

       捜査研究130号2頁

       時の法令449号30頁

       時の法令447~448号108頁

       判例評論54号1頁

       一橋論叢50巻2号55頁

       法学教室297号65頁

       法学新報70巻12号55頁

       法曹時報15巻1号131頁

       法律時報35巻2号36頁

       法律のひろば16巻2号4頁

       法律のひろば16巻2号9頁

 

       主   文

 

  原判決および第一審判決を破棄する。

  被告人Aを懲役六月に、同Bを懲役四月に各処する。

  但し本裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予する。

  福岡地方検察庁小倉支部の保管に係る機帆船大栄丸(換価代金四三万一、〇〇〇円)はこれを没収する。

  第一審における訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

 

        理   由

 

  弁護人緒方英三郎、同松永志逸の各上告趣意について。

  関税法一一八条一項の規定による没收は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等で同項但書に該当しないものにつき、被告人の所有に属すると否とを問わず、その所有権を剥奪して国庫に帰属せしめる処分であつて、被告人以外の第三者が所有者である場合においても、被告人に対する附加刑としての没收の言渡により、当該第三者の所有権剥奪の効果を生ずる趣旨であると解するのが相当である。

  しかし、第三者の所有物を没收する場合において、その没收に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。けだし、憲法二九条一項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同三一条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没收は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、所有物を没收せられる第三者についても、告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没收することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。そして、このことは、右第三者に、事後においていかなる権利救済の方法が認められるかということとは、別個の問題である。然るに、関税法一一八条一項は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没收する旨規定しながら、その所有者たる第三者に対し、告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを定めておらず、また刑訴法その他の法令においても、何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。従つて、前記関税法一一八条一項によつて第三者の所有物を没收することは、憲法三一条、二九条に違反するものと断ぜざるをえない。

 そして、かかる没收の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没收の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没收に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、收益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。これと矛盾する昭和二八年(あ)第三〇二六号、同二九年(あ)第三六五五号、各同三五年一〇月一九日当裁判所大法廷言渡の判例は、これを変更するを相当と認める。

  本件につきこれを見るに、没收に係る貨物が被告人以外の第三者の所有に係るものであることは、原審の確定するところであるから、前述の理由により本件貨物の没收の言渡は違憲であつて、この点に関する論旨は、結局理由あるに帰し、原判決および第一審判決は、この点において破棄を免れない。

  よつて刑訴四一〇条一項本文、四〇五条一号、四一三条但書により原判決を破棄し、被告事件につき更に判決する。

  原審の是認する第一審判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人らの同判示所為は、関税法一一一条二項、一項、刑法六〇条に該当するから、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期範囲内で被告人Aを懲役六月に、同Bを懲役四月に各処し、情状により刑法二五条一項を適用して本裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予し、主文第四項掲記の機帆船大栄丸は、本件犯行の用に供した船舶であつて、被告人Bの所有に係るものであるから、関税法一一八条一項本文により、その換価代金四三万一、〇〇〇円を没収することとし、訴訟費用にき刑訴一八一条一項本文、一八二条を適用し主文のとおり判決する。

  この判決は裁判官入江俊郎、同垂水克己、同奥野健一の補足意見および裁判官藤田八郎、同下飯坂潤夫、同高木常七、同石坂修一、同山田作之助の少数または反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

  裁判官入江俊郎の補足意見は次のとおりである。

  一 わたくしは、(一)関税法一一八条一項の規定による没収は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等で、同項但書に該当しないものにつき、それが被告人の所有に属すると否とを問わず、その所有権を国庫に帰属せしめることを目的とする処分であること、(二)被告人以外の第三者が所有者である場合においては、被告人に対する附加刑としての没收の言渡により、当該第三者の所有権剥奪の効果を生ずる趣旨であること、(三)かかる没收の言渡を受けた被告人は、その没收の客体がたとえ第三者の所有物である場合であつても、その没收の裁判の違憲を理由として上告をなしうるものであることを判示した本判決の多数意見に賛同する。そして、わたくしはその理由について、昭和二八年(あ)第三〇二六号、同三五年一〇月一九日大法廷判決における、右の諸点に関するわたくしの反対意見を援用して補足することとする。

  二 次に、本判決の多数意見は、本件の没收が憲法三一条、二九条に違反するものであるというのであるが、この点についてはわたくしは、前記判決における右の点に関するわたくしの反対意見において述べたところを改め、右多数意見に賛同することとした。その理由とするところは、右多数意見の説示をもつて足りるとは思うが、念のため若干附加補足することとする。

  先ず、(一)憲法三一条にいわゆる法定手続の保障は、単に形式上法律で定めれば、それで本条の要請を満たしたものというものではなく、たとえ法律で定めても、その法律の内容が、近代民主主義国家における憲法の基本原理に反するようなものであれば本条違反たるを免れず、単に手続規定のみについてでなく、権利の内容を定めた実体規定についても、本条の保障ありと解すべきであり、更に本条は単に刑罰についてのみの規定ではなく、「若しくは自由を奪われ」という中には、刑罰以外に、国家権力によつて個人の権利、利益を侵害する場合をも包含しているものと解すべきであると考える。

  (本条は明治憲法二三条の趣旨を引継いだ規定でもあり、明治憲法二三条は、刑事上のみならず行政上の逮捕、監禁、審間、処罰についても保障した規定であると一般に解せられていたことと思い合わすべきである。)次に、(二)しかし、憲法三一条は、国家権力が個人に対しその権利、利益を侵害するすべての場合に、常に必ずその者に予め告知、聴問の機会を与えて、意見を開陳し弁解、防禦をなすことを得せしめるべきことを要請したものだとは考えない。もちろん、それが刑罰である場合には、憲法は他の規定、例えば三二条、三七条、八二条等により、そのような要請が明定せられ、それらの規定と三一条とが相まつて、そのような保障がなされていると解すべきであるが、刑罰以外のものについては、事柄の性質から判断し、予め告知、聴問の機会を与え、弁解、防禦をなすことを得せしめることが、憲法全体の建前から見て、基本的人権の保障の上に不可欠のものと考えられない限りは、そのことがないからといつて、立法政策上の当否はしばらくおき、これを憲法三一条に反するものであると解すべきではないといいたいのである。更に、(三)第三者没收の言渡は、これと不可分に言渡される主刑と一体をなすものとして、その手続を考えるべきであるから、右第三者に対しては、これを訴訟手続に参加せしめ、何らかの方法により、予め告知、聴問の機会を与え、弁解、防禦をなすこと得せしめることが、第三者についての憲法三一条の要請といわなければならない。(以上(一)ないし(三)に述べた憲法三一条に関するわたくしの考え方は、前記判例におけるわたくしの反対意見で述べたところと変わりはないのである。)

  (四)しかし、わたくしは前記反対意見においては、右第三者没收に関する憲法三一条の適用については、同条の最小限度の要請としては、右第三者を証人として法廷に召喚し、証人調の段階においてこれに第三者没收の趣旨を告知し、意見を開陳し、弁解、防禦を試みる機会を与えることをもつて足りると解する旨を主張したのであるが、今回右の見解を改めることとし、本判決の多数意見に賛同することとした。蓋し、現行刑事訴訟法の上で証人調の手続には一定の限界があり、証人として尋問するということが、直ちに防禦の機会を与えたことになるとはいい得ず、また、現行訴訟手続の上で、所有者たる第三者の悪意を認定するにつき、第三者たる所有者を証人として尋問せねばならぬという証拠調上の制約もなく、更に、被告人が自己の所有物につき没收の刑を受ける場合にあつては、刑事訴訟法により当然被告人として告知、審間を受け、防禦権行使の機会が与えられるのに反し、第三者がその所有物を没收される場合には、これにそのような機会を与えることが制度上保障されていないということは、被告人と第三者との間に取扱上不利益な差別があるといわざるを得ない等の事情を考えると(これらの諸点は、前記判例において河村大助裁判官、奥野健一裁判官の少数意見中に指摘されていた。)、本件第三者の所有物の没收は、被告人に対する附加刑として言渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであり、右第三者に対する関係においても、刑事処分に準じて取扱うことを妥当とすべく、被告人に対する場合に準じて、第三者を訴訟手続に参加せしめ、これに告知、弁解、防禦の機会を与えるべきであり、単に第三者を証人として尋問し、その機会にこれに告知、弁解、防禦をなさしめる程度では、未だ憲法三一条にいう適正な法律手続によるものとは

 いい得ないと解するのが正当であると考えるに至つたからである。

  裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。1 没收は犯罪を原因とする所有権の剥奪である。(この考の下に没收の執行に関する規定が定められている。)だから、この不利益処分を受けるべき者は、第一に、実体法面からいうと、物が犯罪の用に供され或いは犯罪組成物件とされたこと等について、犯罪行為者本人であるか又は悪意のあつた者(共犯者)ないしは社会的に強く責められるべき態度ないし意思状態にあつた者(或る種の過失者)等に限られなければならない。第二に、手続法面からいうと、或る人が右にいう犯人と共犯者若しくは過失者等の関係に立つ所有者であるとの事実を確定するには、その人が訴訟の第三者である場合には、正当な事由のない限り、その第三者に対し、彼を一種の当事者として、没收の虞ある事実上及び法律上の理由を知らせ、その言いぶんを聴取し、彼に防禦の方法として没收されてはならない事実上又は法律上の理由を自ら若しくは代理人によつて陳述し、更には立証する機会を適当に与えなければならない。かくすることによつて、第三者所有物の没收は始めて憲法三一条の法定の適正手続によつたものといえるのである(昭和二八年(あ)三〇二六号同三五年一〇月一九日言渡、被告人Cら関税法違反事件大法廷判決における私の補足意見同旨)。

  しかるに、現行刑訴法には、被告事件の第三者からその所有物を没収する場合について右のような第三者の利益保護のための特別の手続規定がない。この特別規定が立法されない間は、かりに、第三者所有物没收を是認する実体刑事法の規定が合憲であつても、第三者所有物を没收した判決は憲法三一条違反、従つて同二九条一項違反となる。2 無差別没收を排し、無差別不没収の外なしとする多数意見は、現行刑事訴訟法等のどの条項が憲法三一条に違反するとも判示していない。これは刑訴法に適正手続規定がないのに第三者所有物を没收する判決をした場合には判決が憲法三一条、二九条一項に違反するということを示すものと解するしかあるまい。(或る法令の特定の条項を明示しないで或る法令を違憲だというような判決は違法であろう。)多数意見は、没收すべき物の価値の大小を問わない。法律上何人の所有をも許さない法禁物又は価値が失われてしまつた物や所有者が所有権を放棄したと認められる物(殺害に用いられた刺身庖丁、血痕付着の手拭の如く普通人なら使う意思を失つたと認められる物)のほかは、第三者所有物の没收は違憲である。もちろん、被告事件に顕われた証拠からは、第三者の所有物で没收されるべきものと認めうる場合であつても、その第三者に防禦の機会を与えないで(証拠の証拠能力や信用性についての第三者の意見、立証をも聴かないで)かように認めることに憲法三一条違反があるのである。

  第三者が適正な没收手続に呼出を受けながら故なく出頭を怠つたような場合には、普通、没收の裁判をしてよいかも知れないが、今日のわが国では、第三者が長く外国に居住していて国際的司法共助による没收手続への呼出状そのものの送達に成功することは一般に困難であり、第三者が国内にいるとしても住居不明又は不定のような場合には一々の没收すべきものと考えられる物について第三者に対する呼出状を公示送達することは多大の労費と日時を要し、訴訟を長引かせる結果、適正手続規定が立法されても、それは行われえない場合が多くなるかも知れない。かような場合に、有罪、無罪等の本案判決を長い月日の間待つ訳にはいかぬから、この場合につき適当な立法がなされなければ不没收判決をするほかない。なお、そのほかに、第三者所有物没收裁判の確定後、第三者である所有者が一定の正当な事由を主張しそれを裁判所が正当とする場合には没收の執行をすることができないものとするか、他に何らかの救済手続を定める立法も考えられないものか。3 多数意見はいう。「第三者の所有物を没收する言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没收の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは当然である。のみならず、被告としても没收にかかる物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、收益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者からの賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである」と。

  これには一応問題がある。アメリカ連邦最高裁判所では、「単に他人の憲法上の権利のみを援用して或る法律を違憲であると主張する上告は不適法である。けだし、或る憲法上の権利を害された者が最もよくその憲法上の争点を裁判所に提出し、裁判所もその本人の主張ある場合にのみ適正に憲法判断をすることができる。憲法上の権利の主体がその権利の侵害を甘受しその憲法上の権利を抛棄するかも知れないのに、他人が先走つてその権利を援用した場合に判決するのは適当でない。未だ他人に法が適用されていないのに、他人に法が適用された場合その他人の憲法上の権利が害されるであろうという未だ発生しない想像上の事実に基いて憲法上の判断をするのは好ましくない。」というような判示をして来ているのが原則であるという。

  一般に、訴そのものでも同じであるが、控訴ないし上告の場合も、その理由として他人の利益が侵害されることだけを張し、ひいて被告人の自己利益が害される虞ある具体的関係の主張を含まないものは、自己に有利な判決すなわち、原決を上訴人自身の利益に変更する判決を求めるものでないから適法な上訴理由とならないのが原則である。本件上告理由は、被告人に対する附加刑として第三者所有物が没收されることは違憲であるというのであるが、その理由として、この没收判決の破棄により被告人は附加刑を免れる具体的必然的関係にあるという主張が含まれていると解されないことはない。とすれば、本件では上告趣意に対して一応次の如く実体判断をすることはできよう。「被告人自身は本件ですでに第一審で公訴事実を告知され弁護人立会の下に公判廷でこれに対し陳述し、自己のために主張し、証人尋問の機会を与えられて立証し弁護人の弁護も受けた上法律に定める没收の判決を受けたのであるから、被告人自身に対する適法手続は済んでいる。そして、実体法の面からみても、上告論旨に対しては次のようにもいえよう。(1)若し没收された物の所有者が、被告人と共犯その他実体法上没收されてもやむをえない有責者であると仮定しても、没收は、被告人自身の本件犯行を原因として被告人自身に対する附加刑として科されたものである以上、原没收判決が被告人に対する罰である面では正当である。また、(2)若し没收された物の所有者に、没收されてもやむをえない悪意又は或る種の過失の責めらるべきものがなかつたと仮定しても、被告人は自己の犯罪により附加刑としてではあつても、占有権だけを奪われるに反し、所有者は罪もないのに所有権剥奪という犯人にも勝る痛撃を受けない限りでもないから、被告人は彼に賠償する義務があることも当然である。いずれの場合にしても、被告人は自己の犯罪により没收を免れることはできない。被告人自身に関する限り、上告論旨は理由がない」と。これが法律に定めた手続による裁判かも知れない。

  とはいえ、こういつて上告を棄却して原没收判決を正当として終うと、結果としては、違憲な没收判決により所有者たる第三者は適法手続で有責者として確定されもしないまま所有権を剥奪されることとなる。してみれば、この場合、たとえ犯人である被告人を遁がしても、第三者がかような違憲な手続で所有権を奪われることを食いとめることの方が急務であり、正義衡平の要求にも合するというべきであろう。

  かように、一つの判決において、犯人として確定された被告人に対する没收が、被告人に対しては是認されねばならないのに、第三者の所有権剥奪の面では否定されなければならないというヂレンマは何処から来るのか。それは、やはり、訴訟法的には、訴訟の当事者だけの間の弁論に基いて第三者の権利を奪う判決をすること、並びに、実体刑法的に、没收が犯人から占有権を奪うに過ぎないのに反し、第三者から所有権を奪つても犯人に対しては懲罰にも教育にもならないのに、なお第三者から所有権を奪うことの背理性に由来するのだといえよう。このことは、所有者の責任如何を問わない無差別没收の場合には特に明らかである(第三者からの所有物没收が許されない場合にこれに代わる追徴を犯人たる被告人に科することを許す立法ならば差支ないのかも知れない)。いずれにせよ、第三者たる所有者に責めらるべき故意ないし或る種の過失がある場合でも、それがあるか否かを確定するのにその所有者を訴訟に参加させ自己防禦させ自己に有利な判決をえられる権利を与える適法手続法がない間は第三者の所有物没收の不利益処分は違憲であるから、多数意見に従えば、適法手続の立法されるまでは、実際は故意過失ある第三者たる所有者も、被告人も、不当に没收を免れる判決を受ける不正義が通ることになろうが、やむをえない。

  以上の理由から、冒頭掲記のCら関税法違反事件大法廷判決における私の「上告適法の理由」についての意見を改め、違憲か否かの実体問題について多数意に賛成する次第である。

  裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。

  わが刑法その他の法律において「没收」というのは、犯罪に関係のある物件について言渡される附加刑であつて、没收の言渡が確定したときは、その物国庫に帰属する効果を生ずるものと概念されているのでる。そしてその所有権剥奪の効果は、所有者が被告人である、被告人以外の第三者であるとを問わないのである。

  同じく没牧でも、被告人の所有に属する物の没牧の場合はその所有権の剥奪であり、被告人以外の第三者の所有に属する物の没收の場合は被告人の占有権のみの剥奪であつて所有権の剥奪の効果はないと解すべき法律上何等の根拠もない。けだし、若し然りとすれば、被告人以外の第三者の所有物の没收について、法が何故に、所有者の善意、悪意を問題として、所有者の悪意(知情)の場合に限り没收することができるものとしたかを理解することができないからである(刑法一九条二項、関税法一一八条一項但書、昭和二六年(あ)第一八九七号、同三二年一一月二七日大法廷判決参照)。

  没收の言渡は、国家刑罰権の一環として犯罪に密接な関係のある物件を公益の必要上国庫に帰属せしめる宣言であつて、国家権力の一作用であり、その効果は単に被告人との関係においてのみ相対的に生ずるというものではなく、何人の関係においても国庫帰属の効果を生ぜしめる性質のものである。

  しかし、現実に自己の所有権を剥奪される第三者に、予め告知、聴問の機会も与えず、弁解、防禦をなすことも許さないで、その所有物を没收するということは著しく不合理であつて、憲法三一条の容認しないところであるから、かかる没收は違憲・違法と解するのである。

  かかる場合でも所有者たる第三者は民事訴訟により救済を求め得ると論ずる者もあるが、国が一方において没收の対象たる物件が被告人の所有物であると第三者の所有物であるとを問わず、等しく没收により国庫に帰属せしめるという制度を採りながら、他方で第三者たる所有者に、没收の判決確定後でも、民事訴訟により国家に対し没收に係る物件の返還又は不当利得の返還の請求を許容するというが如きことは国家意思の矛盾であつて、到底是認することを得ない。すなわち、没收の言渡が確定しても第三者たる所有者は民事訴訟によつて裁判所に救済を求めることができるという論は、没收の裁判にも拘らず所有権が剥奪されないこと、言い換えればかかる没收は違憲・違法であり、従つて没收の効力を生じないことを前提として始めて是認される議論である。

  なお、自己の所有物件を没收された第三者は、刑訴四九七条により没收物の交付を請求しうるとの説があるが、同条は、犯人以外の第三者の所有に属しないものとして没收の言渡をした判決の確定後、他に権利者があることが判明した場合に関する規定であつて、裁判所が、第三者の所有物であることを認めた上、なおこれを没收すべきものであると判断して没收の言渡をした場合に適用すべきものではないと解する。

  裁判官藤田八郎の少数意見は次のとおりである。

  弁護人松永志逸の上告趣意並びに弁護人緒方英三郎の上告趣意について。

  所論は要するに本件貨物は被告人以外の第三者の所有するものであつて、これを没收した原判決は第三者の権利を侵害するが故に違憲違法であるというに帰着するのであるが、被告人は第三者の所有権を対象として、第三者の権利が侵害されることを理由として上告を申立てることは許されないものと解すべきであるから(昭和二八年(あ)第三〇二六号、同二九年(あ)第三六五五号事件、同三五年一〇月一九日大法廷判決参照)、所論はこれを採用すべきでない。

  裁判官下飯坂潤夫の反対意見は次のとおりである。

  被告人以外の第三者の所有に係る物件の没收が附加刑として言い渡された判決に対し、没收物の所有者でない被告人がその憲法上の効力を争つている本件のような場合は、該没收の裁判が没收物の所有者たる第三者に対し違憲か否かを判断する必要は毫末もないのであり、したがつて、本判決は右に反し不必要な憲法判断をしている点で、昭和二八年(あ)第三〇二六号、同二九年(あ)第三六五五号同三五年一〇月一九日の当裁判所大法廷言渡の判決の趣旨に背反するものであるが、わたくしは右大法廷判決に盛られている意見を強硬に主張した一人として、本判決にも強く反対する者であり、その理由として右大法廷の判決を維持引用するのは勿論、更に本件多数意見の誤謬を指摘しつつ、左記の意見を附け加えることとする。

  憲法八一条の下で裁判所に付与されている違憲審査権は司法権の範囲内で行使すべきであり、司法権が発動するためには具体的に争訟事件が提起されていることが必要である。裁判所は具体的に争訟事件が提起されていないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下す如き権限を行い得るものでないことは当裁判所大法廷判決により確立されているところである。(昭和二七年(マ)第二三号同年一〇月八日大法廷判決参照。)ところで、具体的争訟事件の中において、自己に付き適用されない又は自己に合憲に適用される法令等を、他人に適用される場合、違憲になることの理由で攻撃し、違憲審査権の発動を促すことが許されるものであろうか。この場合、(一)違憲審査の対象となる法令等により当事者が現実の具体的不利益を蒙つていない場合、(二)違憲審査の対象となる法令等により当事者が現実の具体的不利益を蒙つている場合の二つに分けて考える必要がある。前者の場合、すなわち違憲審査の対象となる法令等により当事者が現実の具体的不利益を蒙つていない場合に、その違憲性についての争点に判断を加えることは、将来を予想して疑義論争に抽象的判断を下すことに外ならず、司法権行使の範囲を逸脱するものである。このことは、憲法八一条の下で裁判所に付与されている違憲審査権の行使として許されるものではないのである。後者の場合、すなわち違憲審査の対象となる法令等により当事者が現実の具体的不利益を蒙つている場合に、その違憲性についての争点に判断を加えることの是非については後に言及することとする。

  翻つて、本件についてこれを見るに、没收に係る貨物は被告人が密輸出しようとしていた犯罪貨物であり、それが、被告人以外の第三者の所有に係るものであることは、原審の確定するところである。右の犯罪貨物の没收の裁判確定により、被告人としては没收に係る物の占有権を剥奪され、または、これが使用收益をなし得ない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等利害関係を有することが明らかであることを理由として、多数意見は没收の裁判の違憲を被告人は抗争することができると判示している。多数意見は所有権を剥奪された第三者から賠償請求権を行使される危険に曝されることを以て、被告人が本件没收の裁判を違憲と抗争できる理由の一つとしているが、没收物の所有者たる第三者が賠償請求権を行使するかどうかは未定の問題であり、この危険は未確定、抽象的なものに止る。したがつて、被告人は本件没收の裁判により現実的には何ら具体的不利益を蒙つているわけではないのである。当裁判所大法廷判決(昭和二六年(あ)第一八九七号同三二年一一月二七日言渡刑集一一巻一二号三一三三頁)は、悪意の第三者の所有物の没收は憲法二九条に反するものではないと判示している。本件没收の裁判確定により被告人は没收に係る物の占有権を剥奪され、これが使用收益をなし得ない状態におかれるに至ることは多数意見の指摘のとおりであるが、被告人は没收に係る貨物を密輸出せんとした犯罪者であり、悪意者なのであるから本件没收の裁判確定により被告人がその物の占有権を奪われ、またはこれを使用收益し得ない状態におかれるに至つても、その結果被告人は憲法二九条の財産権を不法に剥奪されたことにはならないし、また被告人に対しては告知、弁解、防禦の機会が与えられているのであるから、右没收の裁判確定により被告人が自らの憲法上の権利を現に侵害されているわけのものではない。したがつて、被告人は本件没收の裁判によりいずれの面からみても現実の具体的不利益を蒙つているものではないから、現実の具体的不利益を蒙つていない被告人の申立に基づき没收の裁判の違憲性の争点に判断を加えた多数意見は、将来を予想して疑義論争に抽象的判断を下したものに外ならず、憲法八一条の下で裁判所に付与されている違憲審査権の行使の範囲を逸脱したものであると論結せざるを得ない。されば、被告人は本件没收の裁判につきこれを違憲と抗争する現実の具体的利害関係を欠如しているものであるから、没收を違憲と主張する上告理由は不適法なものであり、本件はこれを理由として棄却さるべき筋合のものなのである。そこで、わたくしは多数意見が、前示昭和三五年一〇月一九日言渡の大法廷判決を変更していることに関し一言しなければならない。右判決は、訴訟において、他人の権利に容喙干渉し、これが救済を求めるが如きは本来許されない筋合のものと解するを相当とするが故に、本件没收の如き事項についても他人の所有権を対象として基本的人権の侵害がありとし、憲法上無効である旨論議抗争することは許されないと解すべきであると判示している。右は、つまり具体的争訟事件中において自分には合憲に適用される法令等を他人に適用される場合違憲になるとの理由で他人の憲法上の権利を援用して抗争することは如何なる場合でも許されない旨うたつているわけなのである。けだし、違憲審査の対象となる法令等により当事者が現実の具体的不利益を蒙つていない場合に、その法令等が他人に適用される場合他人の憲法上の権利を侵すとして抗争するのは、他人の憲法上の権利に容喙干渉し、これが救済を求めることに帰着するから許されないと解せられているのである。右に反し、違憲審査の対象となつている法令等により当事者が現実の具体的不利益を蒙つている場合、その法令等を、それが他人の憲法上の権利を侵すことを理由とし、他人の憲法上の権利を援用して攻撃することも絶対に許されないものであろうかどうかという事柄になると、問題はまた別個の観点から考慮されなければならないものと考える。この点に関し前示大法廷判決の表現は明瞭を欠き幅がなかつたように思うので、わたくしは右大法廷判決の内容はもつと広い意味をもつていたものとし、改めて左にその点を敷衍説明したいと思う。すなわち、違憲審査の対象となつている法令等により当事者が現実に具体的不利益を蒙つている場合に、その法令等を他人の憲法上の権利を援用して攻撃することは、法の禁ずるところではなく、かくして提起された憲法上の争点について裁判を加えても、司法権の範囲を逸脱するものでないと考えるのが相当と思料するのである。(ところが、本件では被告人は没收の裁判により具体的に不利益を蒙つているということに付いては何ら主張も立証もしていないのである。)

  ところで、わたくしはわが国の違憲審査制と同じ基盤に立つアメリカ合衆国連邦最高裁判所がこの点について、どんな考え方をしているかを紹介したいと思う。

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