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カテゴリ:憲法 > 税法

大門匡裁判長不当判決 ホステス報酬事件 最高裁で破棄所得税納税告知処分取消等請求事件

東京地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第8号、平成17年(行ウ)第10号

平成18年3月23日

 

【判示事項】 原告らが,その経営する各パブクラブで使用する各ホステスに対して,半月毎に報酬の支給額を計算して報酬を支払っていたので,当該報酬の額から同ホステスが欠勤や遅刻した場合に「罰金」として差し引かれた額を所得額から差し引いて納付したのに対し,被告らが上記ペナルティは控除しつつも,原告らに対し,差額分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行なったことから,原告らがその取消を求めた事案で,上記各処分は適法であり,これを前提とした各不納付加算税賦課決定処分のうち,上記各月分の各納税告知処分に対応した分も適法として,原告らの本訴各請求は理由がないとして棄却した事例

 

【判決要旨】 (1) 源泉徴収制度の趣旨は、申告納税制度に対する特例制度たる一種の所得税の前払ないし予納制度として、税収の確保、徴税手続の簡便さや徴税費等の節約を図るとともに、源泉徴収義務者に著しい煩わしさをかけることなく、源泉納税義務者にとっても申告等の煩雑さを避けるという納税の便宜上の利点にあるものと解される。

 

       (2) ホステス報酬に係る源泉徴収制度は、収入があった都度一定の所得税を天引して納めておく方が納税しやすくなるという事情を背景に、源泉徴収義務者に著しい煩わしさをかけることなく源泉納税義務者の申請の煩雑さを避け、かつ、その納税の実情に即するよう配慮することによって還付の手数の省略を図ることをも念頭に置きつつ、このような簡便な徴税手続の下で徴税費等の節約を図りながら税収を確保するために設けられた制度である。

 

       (3) 源泉徴収制度における基礎控除方式は、手続上の便宜と税収の確保の調整の観点から、いずれ必要となる確定申告時において、還付又は不足分の納税という事務手続をする必要が出来る限り発生しないように、また、発生してもその調整額が低額となるように、源泉徴収の段階で確定的な税額に近い額を源泉徴収税額として徴収するために設けられた制度であるということができる。

 

       (4) ホステス等の個人事業者の場合、その課税所得金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額(所得税法27条2項)であるから、源泉徴収においても、「同一人に対し1回に支払われる金額」から可能な限り実際の必要経費に近似する額を控除することが、ホステス報酬に係る源泉徴収制度における基礎控除方式の趣旨に合致するというべきである。そして、報酬の算定要素となるのが業務上の拘束を受ける日(業務上の拘束を受けていたとしても、欠勤した場合には当該欠勤日における報酬が支払われないこととなるので、実際の出勤日と同様である。)における勤務時間である場合には、当該拘束日(出勤日)についてのみ稼働に伴う必要経費が発生するととらえることが自然であって、これによるのが、非拘束日(非出勤日)をも含めた本件各集計期間の全日について必要経費が発生すると仮定した場合よりも、実際の必要経費の額に近似することになるものと思われる。よって、所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは、「同一人に対し1回に支払われる金額」の計算要素となった期間の日数を指すものというべきである。

 

       (5) 省略

 

【掲載誌】  税務訴訟資料256号順号10351

 

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 ジュリスト1330号173頁

 

       主   文

 

  1 原告らの請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は,原告らの負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 請求

  1 第1事件

    第1事件被告が第1事件原告に対して平成15年7月8日付けでした別表1記載の平成12年2月分から平成14年12月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分(ただし,平成13年10月分及び平成14年1月分については平成15年11月26日付け異議決定により一部取り消された後のもの)及びこれに伴う不納付加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

  2 第2事件

    第2事件被告が第2事件原告に対して平成15年6月30日付けでした別表2記載の平成12年4月分から平成14年12月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及びこれに伴う不納付加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

 第2 事案の概要

    本件は,原告らが,その経営する各パブクラブで使用する各ホステスに対して,半月毎に報酬の支給額を計算して報酬を支払っていたので,当該報酬の額から,同ホステスが欠勤や遅刻をした場合に「罰金」として差し引かれることとされていたペナルティの額及び所得税法(昭和40年法律第33号)205条2号,同法施行令(昭和40年政令第96号)322条の控除額として同ホステスの出勤日数にかかわらず5000円に上記半月の日数を乗じた額を差し引いた残額に100分の10を乗じて計算した金額を同法204条1項6号,205条2号の源泉徴収に係る所得税額(以下「源泉所得税額」という。)であるとして納付したのに対して,被告らが,上記ペナルティは控除しつつも,同法205条2号,同法施行令322条の控除額は5000円に同ホステスの出勤日数を乗じた額にとどまるとして,原告らに対し,差額分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったことから,原告らが,その取消しを求めている事案である。

  1 法令等の定め

 (1)所得税法204条1項6号

     所得税法204条1項本文は,居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金,契約金又は賞金の支払をする者は,その支払の際,その報酬若しくは料金,契約金又は賞金について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない旨規定し,同項6号は,当該報酬若しくは料金,契約金又は賞金の1つとして,キャバレー,ナイトクラブ,バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者のその業務に関する報酬又は料金(以下「ホステス報酬」という。)を規定している。

  (2)所得税法205条2号

     所得税法205条2号は,ホステス報酬については,その金額から政令で定める金額を控除した残額に100分の10の税率を乗じて計算した金額が上記(1)の規定により徴収すべき所得税の額である旨規定している。

  (3)所得税法施行令322条

     所得税法施行令322条は,ホステス報酬について所得税法205条2号に規定する政令で定める金額を,「同一人に対し1回に支払われる金額」につき,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額(当該報酬又は料金の支払者が当該報酬又は料金の支払を受ける者に対し法第28条第1項に規定する給与等の支払をする場合には,当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額)」である旨規定している。

  2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

  (1)当事者

    ア 第1事件原告は,東京都杉並区(以下略)のパブクラブ「△△△高円寺店」を経営する者である。

    イ 第2事件原告は,バー・キャバレー・ナイトクラブの経営等を業とする株式会社であり,その代表取締役は第1事件原告である。第2事件原告は,東京都武蔵野市(以下略)のパブクラブ「△△△吉祥寺店」,東京都品川区(以下略)のパブクラブ「△△△五反田店」並びに川崎市川崎区(以下略)のパブクラブ「△△△川崎店」及び「□□□川崎店」を経営している。

  (2)原告らの業務内容等

    ア 原告らの業務

      原告らの業務は,原告らが経営する各パブクラブにおいて,顧客に対し,接待をして遊興又は飲食をさせるものであり,原告らは,当該各パブクラブにおいて接待をすることを業務とするホステスを使用している。

    イ 営業日

      原告らは,原則として年中無休でパブクラブを開け営業しているが,毎年1月1日,同月2日及び12月31日は休業としている。

    ウ ホステスの採用及び出勤状況等の管理

    (ア)原告らは,ホステスの採用に際して,原告らにおけるホステス報酬の計算方法等を説明し,ホステスから,氏名,生年月日及び現住所地等を記載した応募申込書を徴しており,当該申込書には,ホステスの出勤可能な曜日及び出勤時間等の勤務方法並びに入店時の保証報酬としての1時間当たりの金額が記載されている。

    (イ)原告らは,ホステスから提出された上記応募申込書の出勤可能な曜日欄を目安に,各営業日の開店前までに,各ホステスに対して各当日の出勤の可否を電話等で確認するなどして,当日勤務するホステスの必要人数を確保しており,ホステスの実際の出勤の有無についても,各人別,各日毎に管理している。

    (ウ)原告らは,ホステスの出勤日における同伴の有無及び指名個数等について,リスト表等を作成し,日々管理している。

    エ ホステスへの報酬の支払等

    (ア)原告らは,毎月1日から15日までの報酬をその月の25日(この日が土曜日,日曜日又は祝日に当たるときはこれらの日の翌日)に,16日から月末日までの報酬を翌月の10日(この日が土曜日,日曜日又は祝日に当たるときはこれらの日の翌日)に,各ホステスに対してそれぞれ支払っている(なお,以下,第1事件原告がその使用する各ホステス(以下「第1事件各ホステス」という。)に対して報酬を支払う集計期間を「第1事件各集計期間」,第2事件原告がその使用する各ホステス(以下「第2事件各ホステス」といい,これと第1事件各ホステスとを併せて,「本件各ホステス」という。)に対して報酬を支払う集計期間を「第2事件各集計期間」といい,これと第1事件各集計期間とを併せて,「本件各集計期間」という。)。

    (イ)原告らは,本件各ホステスに支払うホステス報酬の額について,次のa「1時間当たりの報酬額」にb「勤務した時間数」を乗じて算出した額に,c「手当」の額を加算して算出している。

      a 1時間当たりの報酬額

        1時間当たりの報酬額は,原則として,本件各集計期間における本件各ホステスの指名個数等の合計を実際の出勤日数で除して算出した平均指名個数等に応じて決定される金額に精勤手当等を加えて原告らが算定する金額である。なお,入店して間もないホステスについては,一定金額が1時間当たりの報酬額として保証されている。

      b 勤務した時間数

        前記ウ(イ)のとおり,原告らが日々管理している,本件各集計期間のうち本件各ホステスが出勤した日におけるそれぞれの勤務時間数の合計である。

      c 手当

        本件各ホステスが,本件各集計期間において客との同伴出勤をした回数に応じて支給される同伴手当が主なものである。

    (ウ)原告らは,上記(イ)で算出した報酬の額から,主に次のaないしdとして算出される金額を控除して支給額を算出し,当該差引支給額を本件各ホステスに支払っている。

      a 「税,厚生費」の額

        本件各集計期間における本件各ホステスの報酬の額に11パーセント又は12パーセントを乗じたもので,本件各ホステスの報酬に係る源泉所得税額と厚生費の額とを併せた概算額である。

      b 「ペナルティ」の額

        本件各ホステスが欠勤,遅刻等をした場合の「罰金」である。

      c 「日払い」の額

        本件各ホステスからの要望に応じて勤務当日に1万円を限度として仮払いされた金額である。

      d 「寮費」,「水道光熱費」,「スーツ代」,「送り代」等の額

        各項目毎に本件各ホステスが各人で負担すべき金額を原告らが支払ったものであり,本件各ホステスの報酬の額から差し引かれる金額である。

  (3)処分に至る経緯等

    ア(ア)第1事件原告は,別表3記載のとおり,前記(2)エ(イ)のとおり算出した第1事件各ホステスの報酬の額(同別表のA)から,5000円に第1事件各集計期間の合計日数を乗じた金額(同別表のB)及び前記(2)エ(ウ)bの「ペナルティ」の額(同別表のC,以下「第1事件各ペナルティ」という。)を控除し,控除後の金額(同別表のD)に100分の10を乗じて第1事件の各月分の源泉所得税額を算出して,その金額に近似する額(同別表のF)を各法定納期限までに納付した。

    (イ)第2事件原告は,別表4記載のとおり,前記(2)エ(イ)のとおり算出した第2事件各ホステスの報酬の額(同別表のA)から,5000円に第2事件各集計期間の合計日数を乗じた金額(同別表のB)及び前記(2)エ(ウ)bの「ペナルティ」の額(同別表のC,以下「第2事件各ペナルティ」といい,これと第1事件各ペナルティとを併せて,「本件各ペナルティ」という。)を控除し,控除後の金額(同別表のD)に100分の10を乗じて第2事件の各月分の源泉所得税額を算出して,その金額に近似する額(同別表のF)を各法定納期限までに納付した。

    イ(ア)第1事件被告は,第1事件各ホステスの報酬の額の計算について,実際に出勤した日における勤務した時間数が計算の基礎とされているから,実際に出勤した日がホステス報酬の支払金額の算定要素と認められるので,第1事件各ホステスの第1事件各集計期間中の実際の出勤日数が所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」に該当することになるとして,平成15年7月8日付けで,第1事件原告に対し,第1事件各ホステスの報酬に係る平成12年2月分から平成14年12月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について,別表1の「納税告知処分」欄の「原処分の額」欄記載のとおり各納税告知処分及び「賦課決定処分」欄の「原処分の額」欄のとおり不納付加算税の賦課決定処分(以下「第1事件各不納付加算税賦課決定処分」という。)を行った(第1事件各ペナルティを,第1事件各ホステスの報酬の額から控除することは認めた。)。

    (イ)第2事件被告は,上記(ア)と同様の理由で,平成15年6月30日付けで,第2事件原告に対し,第2事件各ホステスの報酬に係る平成12年4月分から平成14年12月分までの各月分の源泉所得税について,別表2の「納税告知処分」欄記載のとおり各納税告知処分(以下「第2事件各納税告知処分」という。)及び「賦課決定処分」欄記載のとおり不納付加算税の賦課決定処分(以下「第2事件各不納付加算税賦課決定処分」といい,これと第2事件各納税告知処分とを併せて,「第2事件各処分」という。)を行った(第2事件各ペナルティを,第2事件各ホステスの報酬の額から控除することは認めた。)。

    ウ(ア)第1事件原告は,平成15年8月27日,第1事件被告に対し,上記イ(ア)の各処分を不服として異議申立てをしたところ,第1事件被告は,同年11月26日付けで,別表1の「納税告知処分」欄の「異議決定」欄記載のとおり平成13年10月分及び平成14年1月分の各納税告知処分について各1円を取り消すとともに,その余の異議申立てをいずれも棄却する旨の決定を行った(なお,上記異議決定により一部取り消された後の各納税告知処分を,以下「第1事件各納税告知処分」という。)。

    (イ)第2事件原告は,平成15年8月27日,第2事件被告に対し,上記イ(イ)の第2事件各処分を不服として異議申立てをしたところ,第2事件被告は,同年11月26日付けで,第2事件原告の異議申立てをいずれも棄却する旨の決定を行った。

    エ(ア)第1事件原告は,平成15年12月26日,国税不服審判所長に対し,上記ウ(ア)の各処分を不服として審査請求を行ったが,国税不服審判所長は,平成16年10月15日付けで,前記イ(ア)と同様の理由に加えて,第1事件各ペナルティの額は報酬の算定要素ではなく約定に基づく損害賠償金にすぎないから,第1事件各ホステスの報酬の額から控除することはできず,これを控除せずに算出した第1事件各ホステスの報酬に係る各源泉所得税額は,別表5記載のとおり,いずれも第1事件各納税告知処分の額を上回るなどとして,第1事件原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った。

    (イ)第2事件原告は,平成15年12月26日,国税不服審判所長に対し,上記ウ(イ)の各処分を不服として審査請求を行ったが,国税不服審判所長は,平成16年10月15日付けで,上記(ア)と同様の理由で,第2事件各ホステスの報酬に係る各源泉所得税額は,いずれも第2事件各納税告知処分の額を上回るなどとして,第2事件原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った。

    オ そこで,平成17年1月14日に,第1事件原告は第1事件を,第2事件原告は第2事件を,それぞれ提起し,第2事件は,第1事件の平成17年3月29日の第1回口頭弁論期日において,同事件に併合された。

    カ(ア)第1事件各納税告知処分についての,同処分時における課税対象金額及び第1事件原告が納付すべき源泉所得税額の計算は,別表6記載のとおりであり,本訴における第1事件被告による課税対象金額及び第1事件原告が納付すべき源泉所得税額の計算は,別表5記載のとおりである。また,第1事件被告による国税通則法(昭和37年法律第66号,以下「通則法」という。)118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後の金額を基礎として算出された同法67条1項の不納付加算税額の計算は,別表1記載のとおりである。

    (イ)第2事件各納税告知処分についての,同処分時における課税対象金額及び第2事件原告が納付すべき源泉所得税額の計算は,別表2記載のとおりであり,本訴における第2事件被告による課税対象金額及び第2事件原告が納付すべき源泉所得税額の計算は,別表7記載のとおりである。また,第2事件被告による通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後の金額を基礎として算出された同法67条1項の不納付加算税額の計算は,別表2記載のとおりである。

    (ウ)なお,所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」を本件各集計期間のうち本件各ホステスの実際の出勤日数としつつ,本件各ホステスの報酬の額につき本件各ペナルティの控除を認めなかった場合の源泉所得税額の計算は,別表5及び7各記載のとおりとなる。また,本件各ペナルティの控除を認めた場合の源泉所得税額の計算は,別表6及び8各記載のとおりとなる。そして,上記「当該支払金額の計算期間の日数」を本件各集計期間の全日数としつつ,本件各ホステスの報酬の額につき本件各ペナルティの控除を認めた場合の源泉所得税額の計算は,別表3及び4各記載のとおりとなる。さらに,上記「当該支払金額の計算期間の日数」を本件各集計期間のうち本件各ホステスの実際の出勤日数とした場合の通則法67条1項の不納付加算税額の計算は,別表1及び2各記載のとおりとなる。

  3 争点

    本件の主要な争点は,次のとおりであり,これに関して摘示すべき当事者の主張は,後記第3「争点に対する判断」において掲げたとおりである。

  (1)所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」の意義(同条の「当該支払金額の計算期間の日数」は,本件各集計期間のうち本件各ホステスの実際の出勤日数か,本件各集計期間の全日数か。)

  (2)本件各ペナルティの控除の可否(本件各ホステスの報酬に係る源泉所得税の課税対象金額は,本件各ホステスへの総支給額から所得税法205条2号,同法施行令322条所定の控除額を控除した残額か,本件各ホステスへの総支給額から本件各ペナルティの額を控除した残額から同法205条2号,同法施行令322条所定の控除額を控除した残額か。)

 第3 争点に対する判断

  1 争点(1)(所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」の意義)について

 (1)被告らは,所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,本件における原告らとホステスとの契約内容,源泉徴収制度及び基礎控除方式の趣旨及び目的,並びに,租税負担の適正及び公平の観点からすれば,ホステス報酬の支払金額の計算の対象となった日の合計数(当該支払金額の計算期間の出勤日数)たる本件各集計期間のうちの出勤日数と解すべきである旨主張する。

     他方,原告らは,一般に「期間」とはある時点からある時点までの継続した時の区分であるから,上記「当該支払金額の計算期間の日数」とは,当該支払金額の計算の対象となる起算点から満了点までの継続した日数であって,本件各ホステスの報酬の計算期間の日数は本件各集計期間の全日数である旨反論するので,以下,この点につき検討する。

  (2)ア 本件における原告らと本件各ホステスとの契約内容に基づく報酬の支払態様については前記前提事実(第2の2)(2)のとおりであるところ,これによれば,原告らは本件各ホステスに対して本件各集計期間毎に報酬を支払っているが,本件各ホステスは入店当初に出勤可能な曜日として応募申込書に記載した曜日について出勤すべき日として業務上の拘束を受けるものではなく,各営業日の開店前までに,原告らとの間で電話等で各当日の出勤について合意した営業日についてのみ業務上の拘束を受けることとされており,当該業務上の拘束を受ける営業日における本件各ホステスの勤務時間数を基に上記報酬の額が算定されているものである。

     そして,原告らの経営する各パブクラブでは,以上を前提に,本件各ホステスの客からの指名個数等を,出勤日毎に把握した上で本件各集計期間毎に集計し,これをその期間内の出勤日数で除して求めた平均指名個数等により1時間当たりの報酬額を決定した上で,本件各ホステスの勤務した時間数を,出勤日毎に把握して本件各集計期間ごとに集計し,これに上記1時間当たりの報酬額を乗じて本件各ホステスの報酬の額を算出して支払っているものであり,本件各ホステスに対する報酬の日払いも行われているところである(乙16)。

    イ この点,原告らは,報酬の算定要素となるものは勤務時間数のみであって,実際の出勤日ではない旨主張するが,上記のとおり本件各ホステスが原告らとの間で業務上の拘束を受ける営業日について個別に事前の合意がなされた上で契約に基づきホステス業務が行われる関係にある上,本件各ホステスに対する報酬の額も出勤日毎の管理を基にして算定される契約が締結されている以上は,単に勤務時間数のみを業務上の拘束日から切り離して概念することはできないものというべきである。

  (3)ア そこで,上記の本件各ホステスへの報酬支払形態を前提に,本件各ホステスに係る所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」について考察する。

    イ 所得税法施行令322条によれば,上記の「当該支払金額」とは「同一人に対し1回に支払われる金額」であるところ,その「計算期間」が,「同一人に対し1回に支払われる金額」の集計期間,すなわち,本件各集計期間を指すのか,「同一人に対し1回に支払われる金額」の計算要素となった期間,すなわち,報酬の算定要素となる業務上の拘束を受ける日(業務上の拘束を受けていたとしても,欠勤した場合には当該欠勤日における報酬が支払われないこととされていた場合には,業務上の拘束を受ける日のうちの実際の出勤日)を指すのかについては,上記「当該支払金額の計算期間の日数」という形式的な文言だけからは,一見すると,判然としていないようにもみえる。

    ウ しかしながら,所得税法204条1項6号,205条2号を含む源泉徴収制度の趣旨は,申告納税制度に対する特例制度たる一種の所得税の前払ないし予納制度として,税収の確保,徴税手続の簡便さや徴税費等の節約を図るとともに,源泉徴収義務者に著しい煩わしさをかけることなく,源泉納税義務者にとっても申告等の煩雑さを避けるという納税の便宜上の利点にあるものと解される。

      また,ホステス報酬に係る源泉徴収制度は,昭和42年の税制改正により新たに導入された制度であるが,これは,この種の報酬については収入が固定的に発生するものではないので確定申告の際に一時に納税するよりは,収入があった都度一定の所得税を天引して納めておく方が納税しやすくなるという事情等を考慮したことによるものであり,また,ホステス報酬のうちには,少額なものがあったり,異常な経費がかさむものもあるので,一定の控除額を設け,その納税の実情に即するよう配慮されて,併せて基礎控除方式が採用されることとなったものである。

      なお,ホステス報酬以前から源泉徴収制度が採用されていた外交員,集金人等の特定の報酬等に係る源泉徴収については,上記昭和42年の税制改正前には,支払金額が一定限度以下である場合には源泉徴収を要しないこととするいわゆる免税点方式が採用されていたが,この免税点方式では,報酬等の額が免税点を若干でも超えると全体の金額について10パーセントの税率による源泉徴収が行われることとなり,還付の手数を省略しようとする免税点方式の本来の趣旨につき徹底を欠くきらいがあったため,上記昭和42年の税制改正により,基礎控除方式に改められているところである。

    エ このような観点からすれば,ホステス報酬に係る源泉徴収制度は,収入があった都度一定の所得税を天引して納めておく方が納税しやすくなるという事情を背景に,源泉徴収義務者に著しい煩わしさをかけることなく源泉納税義務者の申告等の煩雑さを避け,かつ,その納税の実情に即するよう配慮することによって還付の手数の省略を図ることをも念頭に置きつつ,このような簡便な徴税手続の下で徴税費等の節約を図りながら税収を確保するために設けられた制度であるということができる。

      そうすると,かかる源泉徴収制度における基礎控除方式は,手続上の便宜と税収の確保の調整の観点から,いずれ必要となる確定申告時において,還付又は不足分の納税という事務手続をする必要が出来る限り発生しないように,また,発生してもその調整額が低額となるように,源泉徴収の段階で確定的な税額に近い額を源泉徴収税額として徴収するために設けられた制度であるということができる。

    オ この点について,原告らは,基礎控除方式の趣旨を,源泉徴収制度の趣旨から全く切り離して,不足分の納税よりも格段に手数のかかる還付という事態が発生することを極力防止することのみにある旨主張する。

      しかし,ここでの基礎控除方式はホステス報酬に係る源泉徴収制度の一内容として設けられているものであって,両者を全く切り離して考察することができないことはもとより,基礎控除方式が設けられたことによって,源泉徴収制度の趣旨の一内容たる税収の確保の意義が全く失われたことにもならないから,原告らの主張は採用できない。

    カ 以上の観点から所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」の意義についてみると,ホステス等の個人事業者の場合,その課税所得金額は,その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額(所得税法27条2項)であるから,源泉徴収においても,「同一人に対し1回に支払われる金額」から可能な限り実際の必要経費に近似する額を控除することが,ホステス報酬に係る源泉徴収制度における基礎控除方式の趣旨に合致するというべきである。

      そして,本件のように,報酬の算定要素となるのが業務上の拘束を受ける日(本件においては,業務上の拘束を受けていたとしても,欠勤した場合には当該欠勤日における報酬が支払われないこととなるので,実際の出勤日と同義である。)における勤務時間である場合には,当該拘束日(出勤日)についてのみ稼働に伴う必要経費が発生するととらえることが自然であって,これによるのが,非拘束日(非出勤日)をも含めた本件各集計期間の全日について必要経費が発生すると仮定した場合よりも,実際の必要経費の額に近似することになるものと思われる。

      よって,所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,「同一人に対し1回に支払われる金額」の計算要素となった期間の日数を指すものというべきである。そして,本件事案における契約関係を前提とした場合,本件各ホステスに係る所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,本件各集計期間の日数ではなく,実際の出勤日の日数であるということができる。

    キ なお,被告らの主張には,所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,「計算期間」を集計期間と同義であると理解しつつ,当該支払金額の計算期間の出勤日数を指すものとも受け取れる部分が存する。しかし,本件事案における報酬支払形態に照らして,結論として出勤日数になることは上記カのとおりであるとしても,同条の「当該支払金額の計算期間」が本件各集計期間に当たることを前提としている点については,これを肯定できない。

      なぜならば,被告らの見解を前提とした場合には,同条の「(当該報酬又は料金の支払者が当該報酬又は料金の支払を受ける者に対し法第28条第1項に規定する給与等の支払をする場合には,当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額)」にいう「当該期間」も本件各集計期間に当たることとなるが,これではホステス報酬から控除すべき金額が必要以上に減額されてしまうことになって,妥当でないからである。

  (4)上記(3)のとおり,本件各ホステスに係る所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,「同一人に対し1回に支払われる金額」の計算要素となった期間の日数を指すものというべきであって,本件事案における契約関係を前提とした場合,本件各集計期間の日数ではなく,実際の出勤日の日数であるということができる。そして,この点に関して,原告らは,様々な角度から主張をしているので,更に検討を加えることとする。

    ア まず,原告らは,「期間」という文言の一般的な意義が「ある時点からある時点までの継続した時の区分」であることを根拠に,所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは本件各集計期間の全日数である旨主張する。

      しかし,「期間」の一般的な意義が原告ら主張のとおりであるとしても,本件のように,報酬の算定要素となる業務上の拘束日(出勤日)が必ずしも一連の継続した日でない場合にも,当該計算期間を拘束日(出勤日)と拘束日(出勤日)に挟まれた非拘束日(非出勤日)をも含めた一繋がりの全日と解することは,前記(3)エ及びカのホステス報酬に係る基礎控除方式の源泉徴収制度の趣旨に反し,妥当ではない。むしろ,本件においては,報酬の算定要素となる業務上の拘束日(出勤日)がそれぞれ隔離した日となり得ることが契約上想定される以上,そのそれぞれが「計算期間」に当たると解することもでき,これによれば,本件各集計期間内における業務上の拘束日(出勤日)の総数が「計算期間の日数」に当たることとなって,上記の趣旨に合致する。

    イ また,原告らは,労働基準法(昭和22年法律第49号)108条の賃金台帳の必要的記載事項として,労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)54条1項が,本件各集計期間に相当する「賃金計算期間」と実際の出勤日数に相当する「労働日数」とを各別に規定している以上,同じく計算期間との文言を使用する所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間」も労働基準法施行規則54条1項の「賃金計算期間」と同義であると解すべきである旨主張する。

      しかし,労働基準法108条が賃金台帳の調製を定めている趣旨は,国の労働基準監督機関が各事業場の労働者の労働条件を随時把握することができるようにするとともに,労働の実績と支払賃金との関係を明確に記録することによって,使用者のみならず労働者にも労働とその対価である賃金に対する認識を深めさせることにある。このように,ホステス報酬に係る源泉所得税額の計算において,支払金額から控除する金額を算出するための所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間」とは,その趣旨が異なる以上,それぞれの文言の一部に「計算期間」という共通した用語が用いられているからといって,両者の意義が同一であると解さなければならないことにはならないから,原告らの上記主張は採用できない。

    ウ さらに,原告らは,国税庁又は国税局の職員が編者となった書物(甲19,20)において,所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とはホステスの稼働日数にかかわらず,店の休日を除いた営業日数を指す旨記載されていることからすれば,課税当局も原告らの見解を採用していることになる旨も主張する。

      しかし,上記書物は,国税庁又は国税局の職員が,あくまでも読者の源泉徴収事務の参考に供するために,当該職員の個人的見解を掲載して作成したものにすぎず,国税庁又は国税局が,納税者一般に対し,課税当局の見解を示したものとはいえないから,原告らの上記主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。また,上記書物の記載内容を見ても,「一般的な場合の控除額の計算方法」(甲19)とか「一般的には」(甲20)などとして紹介されているものにすぎず,この「一般的」な場合とは,ホステスが,バー等の店舗の営業日の全日数について勤務することを前提としているとも解され,また少なくとも,必ずしも本件各ホステスに対する報酬の支払形態を前提としているとはいえない点において,前記(3)カのとおり解釈することの妨げとなるものとはいえない。

    エ 加えて,原告らは,所得税法施行令308条2項の「給与等の計算の基礎となつた日数で除して計算した金額」の意義について定める所得税基本通達185-4は,これを「あらかじめ定められた支給期が到来するごとに支払う給与等については,その給与等に係る計算期間の日数(当該計算期間中における実際のか働日数のいかんを問わない。)」と規定しており,「給与等の計算の基礎となつた日数」ですら実際の出勤日に限られないのであるから,まして同令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」であればより稼働日数からは離れた規定振りであるからなおさらである旨主張する。

      しかし,上記通達は所得税法205条2号の規定に関するものではなく,同法28条1項に規定する給与等に関するものであり,支給期が到来する毎に支払う給与等の日割額を計算する際には,一般に雇用契約においては労働基準法所定の休日等を含めた一定期間の就労の対価として,実際の稼働日数にかかわらず,給与等を支給しているものであって,稼働日数と給与等との連結性が一般的に希薄であるために,支給期間の全日数によって除することとしたものにすぎない。また,「その給与等に係る計算期間の日数」で除するとの通達の規定文言だけでは,上記連結性が一般的に希薄であるが故に,日数に疑義が生じかねないことから,支給期間の全日数によることを明確にすべく,括弧書きで「当該計算期間中における実際のか働日数のいかんを問わない。」旨が明記されたものと考えられる。さらに,同通達は,続けて,「あらかじめ雇用契約の期間が定められている場合において当該期間の終了により支払う給与等」の場合についても同様の定義規定を設けた上で,これら以外の給与等については「その支払う給与等の計算の基礎となった実際のか働日数」で除する旨規定しており,上記連結性が一般的に希薄である雇用契約の場合には全日数とし,連結性が明確な雇用契約の場合には実際のか働日数で除することを明らかにしているところである。したがって,所得税法施行令308条2項及びこれに関する上記通達は,本件事案に係る同令322条とは規定の趣旨を異にすることになるから,原告らの上記主張は,前記(3)カのとおり解釈することに影響を与えるものではないというべきである。

  (5)以上によれば,本件各ペナルティの控除の可否にかかわらず,第1事件各ホステスに係る源泉所得税について第1事件原告が納付すべき税額は,別表5又は6各記載のとおりとなり,第1事件各納税告知処分に係る源泉所得税額(別表1)と同一か又はこれを超えることになり,また,第2事件各ホステスに係る源泉所得税について第2事件原告が納付すべき税額は,別表7又は8各記載のとおりとなり,第2事件各納税告知処分のうち平成12年5月分から8月分まで,同年10月分から12月分まで,平成13年2月分,同年3月分,同年6月分,同年9月分から平成14年4月分まで,同年6月分,及び,同年8月分から12月分までにつき,これらに係る源泉所得税額(別表2)と同一か又はこれを超えることになるから,上記各処分は適法であり,これを前提とした第1事件各不納付加算税賦課決定処分,及び,第2事件各不納付加算税賦課決定処分のうち上記各月分の各納税告知処分に対応した分も適法ということができる。

  2 争点(2)(本件各ペナルティの控除の可否)について

 (1)そこで,進んで,本件各ペナルティの控除が認められることによって,第2事件各納税告知処分のうち平成12年4月分,同年9月分,平成13年1月分,同年4月分,同年5月分,同年7月分,同年8月分,平成14年5月分,及び,同年7月分に係る源泉所得税額が,これらに係る適正な源泉所得税額を上回る可能性があるので,その適法性について判断するために,争点(2)(本件各ペナルティの控除の可否)について検討する。

  (2)前記前提事実(2)エ(ウ)bのとおり,本件各ペナルティとは本件各ホステスが欠勤,遅刻等をした場合の「罰金」であるとされている。

     そして,証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件各ペナルティは,具体的には,遅刻・早退の場合は15分を1単位として500円,当日欠勤の場合は連絡の時間帯により5000円,8000円又は1万5000円,無断欠勤の場合は1万5000円などというように,本件各ホステスが一定の契約違反をした場合に,一定額の「罰金」が科されるものとされていることが認められる。

  (3)この点に関して,第2事件原告は,本件各ペナルティは当該違約が発生した日の報酬を限度に報酬から減算されるにすぎず,報酬の多寡にかかわらず報酬とは別個に約定額の違約金全額が発生するわけではないから,報酬算定の際の減額要素にすぎない旨主張する。

     しかし,これを認めるに足りる証拠はないばかりか,第2事件原告の主張を前提としたのでは,そもそもペナルティが発生するはずの欠勤時には報酬が発生しない以上,およそ減算要素を規定する意味はなくなることになり,本件各ペナルティを科すことができないという矛盾が生じることになる。また,証拠(乙8の1ないし8の4,17の1ないし17の4,21の1及び21の2)及び弁論の全趣旨によれば,第2事件原告が第2事件各ホステスに報酬を支払う際に作成したホステス別の報酬支払明細書には,その上段欄に,ホステス報酬の額の算定根拠となる「時給」,「出勤日数」,「勤務時間数」,「平均個数」,「基本給」,「手当」及びそれらの合計である「総支給額」の各項目が,また,下段欄に,「税,厚生費」,「ペナルティ」,「寮費」,「水道光熱費」,「スーツ」,「日払い」,「送り代」,「その他」及びそれらの合計である「控除合計」の各項目が,それぞれ記載されており,第2事件原告は,上記上段欄の「総支給額」から下段欄の「控除合計」を差し引いた残額を「差引支給額」として第2事件各ホステスに支払っていることが認められる。第2事件原告も,第2事件各ペナルティを,「税,厚生費」等と並ぶ,ホステス報酬の総支給額から控除する「控除合計」として構成している。したがって,第2事件原告が,本件各ペナルティを本件各ホステスの報酬算定の際の減額要素と認識してはいなかったことは明らかである。さらに,証拠(乙17の1ないし17の4)及び弁論の全趣旨によれば,第2事件原告は,第2事件各ホステスのうち,「総支給額」から「ペナルティ」を控除した「差引支給額」がマイナスとなるホステスについても,約定に従った「税,厚生費」として総支給額の11パーセント(乙16)を控除していることが認められる。このように「ペナルティ」の有無にかかわらず,第2事件原告が「総支給額」に対する源泉所得税額相当分をホステスから預り金として控除していることからしても,第2事件各ペナルティは,報酬算定の際の減額要素ではなく,契約違反の場合に定額で科される「罰金」(違約金)であることが明らかである。よって,上記第2事件原告の上記主張を採用することはできない。

  (4)そうすると,第2事件各ペナルティは,第2事件原告と第2事件各ホステスとの間で定められた違約金にすぎないというべきであるから,その性質にかんがみれば,第2事件各ホステスの事業所得の計算上,必要経費となるべきものではあっても,これを第2事件各ホステスの報酬算定の際の減算要素であると解することはできないものといわざるを得ない。

     よって,第2事件各ホステスの報酬に係る源泉所得税額を計算するに当たっては,第2事件各ペナルティの額を第2事件各ホステスの報酬の総支給額から控除することはできないこととなる。

  (5)以上によれば,第2事件各ホステスに係る源泉所得税について第2事件原告が納付すべき税額は,別表7記載のとおりとなり,第2事件各納税告知処分のうち平成12年4月分,同年9月分,平成13年1月分,同年4月分,同年5月分,同年7月分,同年8月分,平成14年5月分,及び,同年7月分につき,これらに係る源泉所得税額(別表2)を超えることになるから,上記各処分は適法であり,これを前提とした第2事件各不納付加算税賦課決定処分のうち上記各月分の各納税告知処分に対応した分も適法ということができる。

  3 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴各請求はいずれも理由がない。

     東京地方裁判所民事第2部

         裁判長裁判官  大 門   匡

            裁判官  関 口 剛 弘

            裁判官  菊 池   章

 

三好達裁判長不当判決 所得税更正処分と国家賠償責任について責任否定の最高裁平成5年

行政判例百選第7版 219事件

損害賠償請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/平成元年(オ)第930号、平成元年(オ)第1093号

平成5年3月11日

【判示事項】      収入金額を確定申告の額より増額しながら必要経費の額を確定申告の額のままとしたため所得金額を過大に認定した所得税の更正が国家賠償法上違法でないとされた事例

【判決要旨】      税務署長が収入金額を確定申告の額より増額しながら必要経費の額を確定申告の額のままとして所得税の更正をしたため、所得金額を過大に認定する結果となったとしても、確定申告の必要経費の額を上回る金額を具体的に把握し得る客観的資料等がなく、また、納税義務者において税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって確定申告の必要経費が過少であることを明らかにしないために、右の結果が生じたときは、右更正につき国家賠償法一条一項にいう違法があったということはできない。

【参照条文】      国家賠償法1-1

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集47巻4号2863頁

            訟務月報40巻2号256頁

            最高裁判所裁判集民事168号上191頁

            裁判所時報1095号111頁

            判例タイムズ833号113頁

            金融・商事判例938号3頁

            判例時報1478号124頁

            税務訴訟資料194号663頁

【評釈論文】      ジュリスト1040号78頁

            ジュリスト1050号190頁

            訟務月報40巻2号257頁

            訟務月報40巻2号28頁

            法曹時報46巻5号120頁

            民商法雑誌109巻6号150頁

 

       主   文

 

 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

 右部分について被上告人の控訴を棄却する。

 被上告人は、上告人に対し、金六四万九三〇三円及びこれに対する平成元年六月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

 控訴費用及び上告費用並びに前項の裁判に係る費用は、被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人岩佐善巳、同鈴木芳夫、同堀嗣亜貴、同一杉直、同星野英敏、同赤塚信雄、同田中清、同細井淳久、同山口一成、同紅野康夫、同今中一寿、同河本省三、同橋本稔の上告理由第一点について

 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 被上告人は、商品包装用等の紙箱の製造加工業者であるが、昭和四六年分ないし同四八年分(以下「本件係争各年分」という。)の各事業所得につき、奈良税務署長に対し、所得金額を同四六年分につき一一五万五一三六円、同四七年分につき七三万一二八三円、同四八年分につき九六万八〇九八円として確定申告(ただし、同四六年分については、修正申告)をしたところ、奈良税務署長は、同五〇年三月一日付で、所得金額を同四六年分につき二一七万六五四一円、同四七年分につき一三七万八五六五円、同四八年分につき六四六万四三二〇円とする各更正(以下「本件各更正」といい、各別には「四六年分更正」等という。)をした。

 2 本件各更正に至る経緯は、以下のとおりである。

 奈良税務署長は、被上告人の本件係争各年分の所得税の調査のため、昭和四九年一一月二二日以降数回にわたり部下の税務職員を被上告人方に赴かせ、帳簿書類の提示を求めさせたが、被上告人は、奈良民主商工会の事務局員の立会いを要求してこれに応じようとしなかった。右税務職員は、同五〇年一月二三日、被上告人に対し、申告書記載以外の収入が発覚していることを告知した上、同日以降も数回にわたり、右事務局員の立会いなくして、調査に協力するよう説得したが、被上告人は右要求に固執し、これが認められるのでなければ、帳簿書類の調査に応ずることはできないとの態度に終始したため、結局右調査をすることができなかった。

 そこで、奈良税務署長は、被上告人の得意先、取引銀行を反面調査して、本件係争各年分の被上告人の収入金額を、同四六年分につき五七五万五六三八円、同四七年分につき五一七万六二〇一円、同四八年分につき一〇六五万六六〇四円と把握し、右各収入金額から被上告人の提出に係る申告書記載の申告額どおりの売上原価その他の必要経費を控除して、本件各更正の基礎となる本件係争各年分の所得金額を算定し、本件各更正をした。

 3 被上告人は、本件各更正に対して、異議申立て及び審査請求を経て、本件各更正の取消しを求める訴訟(以下「本件取消訴訟」という。)を提起したところ、一審では請求棄却の判決を受けたが、控訴審では、昭和五八年六月二九日、所得金額において、同四六年分につき一二八万八九〇九円、同四七年分につき八六万三五四七円、同四八年分につき一五七万四七〇一円を超える部分の本件各更正を取り消す旨の一部認容の判決(以下「本件取消判決」という。)を受け、同判決は、上告がなく確定した。

 4 本件係争各年分の事業所得に係る収入金額及び売上原価その他の必要経費についての被上告人の申告に係る額、更正に係る額、本件取消訴訟における奈良税務署長の主張額及び被上告人の主張額は、原判決の別表に記載のとおりであって(ただし、昭和四七年分更正額の項の「4」経費計の欄に「―」を、所得の欄に「1,378,565」をそれぞれ加え、同四六年分判決額の項の消耗品費の欄の「469,364」は、「469,384」の、所得の欄の「1,286,909」は、「1,288,909」のそれぞれ誤記と認める。)、本件取消判決において本件係争各年分の所得金額につき本件各更正に係る所得金額を下回る金額が認定されたのは、収入金額については、いずれも本件各更正に係る収入金額を上回る金額が認定されたが、売上原

価その他の必要経費のうち、(1) 同四六年分の接待交際費、消耗品費、減価償却費、給料賃金、支払利子、雑費、(2) 同四七年分の接待交際費、消耗品費、減価償却費、福利厚生費、給料賃金、支払利子、(3) 同四八年分の売上原価、租税公課、水道光熱費、通信費、接待交際費、修繕費、消耗品費、減価償却費、福利厚生費、給料賃金、支払利子、雑費について、本件各更正に係る金額(すなわち、被上告人の申告に係る金額)を上回る金額が認定されたことによるものである。

 二 原審は、右事実関係の下において、次の理由で、本件各更正のうち四八年分更正については国家賠償法上の違法性が認められるとし、被上告人の本件損害賠償請求を一部認容した。

 1 本件各更正に係る本件係争各年分の収入金額は、反面調査の結果に基づくものであり、右収入金額の認定については過大認定の過誤は存在しない。

 2 事業所得の金額を算定するに当たり収入金額から控除すべき売上原価その他の必要経費のうち、売上原価、消耗品費及び給料賃金を除くその余の費目については、必ずしも売上の増加がその各費目の増加を伴うことが自明であるとまではいえず、また右各費目について申告額を故意に過少申告することも通常考えられないから、帳簿等の調査を遂げないまま更正をすることが許される状況の下では、右各費目について申告額をそのまま採用したことは著しく不合理な認定方法とはいえず、右各費目の過少認定が所得金額の過大認定に反映した部分は、いまだ奈良税務署長の過失に基づくものとはいえない。

 3 しかし、売上原価、消耗品費及び給料賃金については、売上の増加に伴い通常それらの出費も増加していることが考えられる。したがって、収入金額につき申告に係る額の約二倍の額を反面調査によって把握し、これを前提とする更正をする場合に、売上原価、消耗品費及び給料賃金につき、申告どおりの金額を採用すれば実額把握の理念に程遠いものとなることは、税務職員が職務経験則上容易に想到すべきところである。

 4 本件において、四六年分更正及び四七年分更正については、申告に係る収入金額に対する更正に係る収入金額の増加率は、それぞれ約一・二一五倍及び約一・一四三倍にすぎないから、売上原価、消耗品費及び給料賃金につき比例的増額推計をしなかったことは、いまだ職務上の注意義務に著しく違反し、不合理な方法を選択した違法な処分と評価することはできない。しかし、四八年分更正については、右の増加率は約二倍であったのであるから、右更正のうち、売上原価、消耗品費及び給料賃金につき申告どおりの金額を採用したことによって右各費目の金額が過少認定となり、それが所得金額の過大認定に反映した部分は、奈良税務署長が職務上通常尽くすべき義務に著しく違反したことによる違法な処分というべきである。

 三 しかしながら、原審の右判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 1 税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である。

 2 ところで、所得税法は、納税義務者が自ら納付すべき所得税の課税標準及び税額を計算し、自己の納税義務の具体的内容を確認した上、その結果を申告して、これを納税するという申告納税制度を採用し、納税義務者に課税標準である所得金額の基礎を正確に申告することを義務付けており(所得税法一二〇条参照)、本件のような事業所得についていえば、納税義務者はその収入金額及び必要経費を正確に申告することが義務付けられているのである。それらの具体的内容は、納税義務者自身の最もよく知るところであるからである。そして、納税義務者において売上原価その他の必要経費に係る資料を整えておくことはさして困難ではなく、資料等によって必要経費を明らかにすることも容易であり、しかも、必要経費は所得算定の上での減算要素で

あって納税義務者に有利な課税要件事実である。そうしてみれば、税務署長がその把握した収入金額に基づき更正をしようとする場合、客観的資料等により申告書記載の必要経費の金額を上回る金額を具体的に把握し得るなどの特段の事情がなく、また、納税義務者において税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしない以上、申告書記載の金額を採用して必要経費を認定することは何ら違法ではないというべきである。

 3 以上によって本件をみるのに、被上告人は、本件係争各年分の所得税の申告をするに当たり、必要経費につき真実より過少の金額を記載して申告書を提出し、さらに、本件各更正に先立ち、税務職員から申告書記載の金額を超える収入の存在が発覚していることを告知されて調査に協力するよう説得され、必要経費の金額について積極的に主張する機会が与えられたにもかかわらず、これをしなかったので、奈良税務署長は、申告書記載どおりの必要経費の金額によって、本件各更正に係る所得金額を算定したのである。してみれば、本件各更正における所得金額の過大認定は、専ら被上告人において本件係争各年分の申告書に必要経費を過少に記載し、本件各更正に至るまでこれを訂正しようとしなかったことに起因するものということができ、奈良税務署長がその職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をした事情は認められないから、四八年分更正も含めて本件各更正に国家賠償法一条一項にいう違法があったということは到底できない。

 四 そうすると、右と異なる解釈の下に、四八年分更正につき国家賠償法上の違法性が認められるとした原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものであり、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり、他の上告理由について判断するまでもなく原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記説示に徴すれば、被上告人の本件損害賠償請求はすべて理由がないことに帰し、これと結論を同じくする第一審判決は正当であるから、右部分に対する被上告人の控訴は理由がなくこれを棄却すべきものである。

 上告人の民訴法一九八条二項の裁判を求める申立てについて

 上告人が右申立ての理由として主張する事実関係は、被上告人の争わないところであり、原判決中上告人の敗訴部分が破棄を免れないことは前記説示のとおりであるから、原判決に付された仮執行宣言が効力を失うことは論をまたない。そうすると、右仮執行宣言に基づいて給付した金員及びその執行のために要した執行費用に相当する金員並びにこれらに対する右支払の日の翌日である平成元年六月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の申立ては、正当として認容されるべきである。

 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、一九八条二項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

        裁判長裁判官  三好 達

           裁判官  大堀誠一

           裁判官  橋元四郎平

           裁判官  味村 治

           裁判官  小野幹雄

 

税理士・税務職員による共謀による横の後始末 東京地裁平成12年

損害賠償請求事件

東京地方裁判所判決/平成11年(ワ)第8353号

平成12年1月31日

【判示事項】       納税者が納税資金として税理士に交付した金員をその税理士と税務職員であった者が共謀して納付することなく、着服横領したことは、国家賠償法一条一項にいう違法行為に該当するとの納税者の主張が、納税者の税理士らに対して行った一連の行動・態度、納税者の検察官に対する供述及び国税局の調査官に対する供述の内容からすれば、納税者は、税理士らが不正に税額を低くすることを知っており、金員交付の目的が納税のためであったとは認められないとして排斥された事例

【掲載誌】        税務訴訟資料246号378頁

 

       主   文

 

 原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 請求の趣旨

   被告は、原告に対し、金二〇八〇万円及び内金一八〇〇万円に対する平成三年三月七日から、内金二八〇万円に対する平成一一年五月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

第二 事案の概要

 一 原告の所得税の申告等に関する基本的事実

   以下の事実中、末尾括弧内に証拠を挙示したものは、当該証拠によってこれを認める。その余は、当事者間に争いがない。

  1 原告は、税理士であった松尾玉廣(以下「松尾」という。)に対し、平成三年三月三日、平成二年分の所得税の申告に係る事務を委任した。

  2 荻窪税務署の資産税担当の特別国税調査官であった宮下誠(以下「宮下」という。)及び松尾は、原告の平成二年分の譲渡所得に係る所得税(以下「本件所得税」という。)についてこれを免れさせようと企て、共謀の上、平成三年二月中旬ころから同年三月上旬ころにかけて、松尾において、渋谷税務署に対し原告が東京都杉並区に転出した旨の虚偽の連絡をし、原告に係る平成二年分の所得税の申告書(松尾において右譲渡所得を計上しないで作成、提出した。)及び譲渡所得申告相談・申告審理事績書等の課税資料を荻窪税務署に送付させた上、宮下において同税務署内においてこれを抜き取り、廃棄した。そのため、原告の右譲渡所得については申告がされず、その納付もされないままに推移した。

  3 原告は、松尾に対し、平成三年三月六日現金合計一八〇五万円を交付した(甲第一、二号証)。

  4(一) 松尾は、平成一〇年七月二一日当庁において、贈賄、所得税法違反被告事件について有罪判決を受けた。右の所得税法違反の罪となるべき事実は、納税義務者一三名ほかの者らとそれぞれ共謀の上譲渡所得に係る所得税の申告に当たり内容虚偽の各申告書を提出して右一三名をしてそれぞれ所得税を免れさせたものというものである。(乙第二号証)

   (二) 宮下は、平成一〇年七月三日当庁において、加重収賄被告事件について有罪判決を受けた。右の罪となるべき事実は、右2と同様に、所轄税務署から転送されてきた六名の納税義務者の平成二年分の譲渡所得に係る所得税に関する課税資料を抜き取って隠匿、廃棄し、右納税義務者が右譲渡所得についての申告をせず、これに係る所得税を免れることが発覚しないよう取り計らい、その謝礼としての現金を受領したというものである。(乙第一号証)

 二 争点

   原告は、宮下及び松尾が本件所得税につき右一2のような逋脱行為をしているとは知らず、松尾から一八〇〇万円が納付すべき税額であると告げられ、その納付に充てられると信じて、この金額を右一3のとおり同人に預けたところ、同人がこれを着服横領したものであると主張し、これは、宮下の違法な職務執行を構成するものであるとして、国家賠償法一条一項に基づき、損害(1 松尾に納付資金として交付した金額一八〇〇万円、2 原告自らも所得税法違反の被疑事実につき取調べを受けたことに関する慰藉料一〇〇万円、3 弁護士費用一八〇万円の合計金額二〇八〇万円)の賠償及び民法所定の割合による遅延損害金(右1の損害については加害行為である松尾の金員領得の日の翌日を、右2、3の損害については本件訴状送達の日の翌日をそれぞれ起算日とする。)の支払を求めている。

   したがって、本件の争点は、宮下及び松尾に原告の主張する違法行為があったかどうかの点にまず存することとなる。

第三 争点に対する判断

 一 争点に関する原告の主張事実については、これに副う原告本人の供述記載(甲第六、八号証)及び尋問結果がある。すなわち、原告は、真実本件所得税について申告をし、納付すべき税額を納付する意思で松尾に委任をした、松尾には、川崎市多摩区内所在の原告所有に係る土地(以下「本件土地」という。)の売却による譲渡所得について適法正当な節税を依頼した、松尾からは本来譲渡所得に係る税額は二千五百五十余万円となるところ、法律に基づく節税で一八〇〇万円で済むと聞かされ、そのとおり信じた、そこで、松尾に対し、前記第二の一3のとおり、納付資金一八〇〇万円を預けるとともに、同人に対する手数料五万円を支払った、松尾に一八〇〇万円を預けた後も、これが納付すべき税額に不足するときは、同人から追加を求めてくるものと思っていた、納期限後に原告の妻が電話で松尾に尋ねたところ、同人は、納税は済んだと答えたので安心していた、原告は、東京都杉並区への転出届をしたことはない、以上のように供述するのである。以下その採否についてみることとする。

 二 原告の前示供述を前提としてみても、次のことを指摘すべきである。

  1 原告は、松尾からは本来本件所得税のうち譲渡所得に係る税額は二五五〇万円以上にも上るところ、適法な節税で一八〇〇万円で済むと聞かされ、そのとおり信じたと供述しており、その供述によっても、原告は、右譲渡所得に係る税額は、そのいうところの節税をしなければ一八〇〇万円を大きく上回る二五五〇万円以上の金額となることを認識していたとみられることとなる。しかるに、原告は、適法な節税策がそれほど顕著に巧を奏したとしながら、節税策なるものの根拠法条等については、松尾から種々説明を受けたとし(前掲各供述記載)、また、同人の説明の内容はよく理解することができなかった旨を述べる(尋問結果)のみで、首肯すべき説明をすることができない。かえって、原告の供述によっても、松尾は、右説明の際に記入したメモに本件土地の草刈りに要した費用として、原告の申し出た金額を大幅に超える六〇〇万円を表す記載をしたことが看取されるのである。このことは、原告が税務の専門家ではないことを斟酌してもいささか不合理であるといわざるを得ず、原告としては適法な節税により納付すべき税額が一八〇〇万円に収まったと信じた旨をいうその供述の信用性を動揺させるものである。

  2 原告は、以前には口座振替納付の方法により国税を納付したことがあったことを本人尋問において自認しながら、本件所得税については、なにゆえその方法によらず、預金を引き出して払出金を松尾に託すという迂遠な処理をしたのかについては、同人からそのように求められたというばかりで、これまた得心の行く弁疏がされていない。このことからすると、前記第二の一3の原告の松尾に対する金員の交付は、本件所得税の納付を依頼する趣旨に出たものではなかったのではないかとの疑いを拭い難いところである。

  3 原告は、納付の確認については、前示のとおり妻が電話で松尾に尋ねたところ、納付を了した旨の返答を得たので安心していたと述べ、かつ、それ以上領収証書の引渡しを同人に求めるなどのことはしなかったことを自認するが、そのいうところによっても税額一八〇〇万円にもなる本件所得税の納付に関し、松尾の口頭の答え程度で安心し、確たる証書を確認しようとしなかったということは、いかに同人が当時税理士であったとしても、納税義務者の態度としては粗略、安易に過ぎるものであり、松尾への前記金員の交付の趣旨が本件所得税の納付にはなかったことの証左とみられても仕方がないというべきである。

  4 右のとおり、原告の供述及び自認するところは、それ自体についてみても、重要な部分において不合理な点が指摘されるのであり、容易には採用することができない。

 三 右に加え、乙第八号証(原告の検察官に対する供述調書)の記載内容との対比においては、前記一の供述は、次のようにいうべきものである。

  1 前掲乙第八号証によると、原告は、自己に対する所得税法違反被疑事件について、東京地方検察庁検察官に対し、平成九年一一月三〇日次のように供述したことが認められる。すなわち、松尾は、原告に対し、本件土地の譲渡所得に係る納付すべき税額は、概算額二三一〇万円となるが、過大な譲渡費用を計上して算定した税額からさらに税額約八〇〇万円も安く済ませることができる旨を述べたので、原告も、松尾が架空の費用の計上等の手段により不正に税額を低くすることは分かっていたと供述しているのである。

    しかして、右は、原告が自らに対する被疑事件の取調べにおいてあらかじめ黙秘権を告知された上で検察官に対して自己に不利益な事実を認めた供述であり、前掲乙第八号証によれば、原告は、これを録取した供述調書を読み聞かされ、誤りがない旨を申し立てて署名指印したことが認められるのである。原告は、右の供述調書の記載について、検察官から本件所得税については修正申告をすれば済む、原告に対しては公訴提起をしない、調書作成を待つことはできない、調書を書き直すことはあり得ないなどと告げられ、また、体調も思わしくなかったことなどから事実と相違するにもかかわらず署名指印に応じたという趣旨の弁解をするが、検察官が右のような対応に終始しなければならない理由は見出されない上に、右弁解に係る事情が仮にあったとしても、そうであるからといって、原告(甲第七号証及びその本人尋問の結果により、教育学を専攻する大学教授の地位にあることが認められる。)が軽々しく虚偽の租税逋脱を自認する供述をするとも直ちに考え難い。したがって、右のような弁解によって、右供述調書の記載の信用性を否定し去ることができるものではない。

  2 また、乙第九号証(東京国税局調査官の作成に係る原告からの平成九年一一月二一日付け聴取書)をみても、前記譲渡所得について申告がされていないことについては、松尾に税金が安くなると持ちかけられ、それに乗り、不正な申告をしたことは、不徳の致すところであり、申し訳なく思っている旨の原告の供述記載があり、原告は、この聴取書にも誤りのないことを確認した上署名押印したことが認められるところ、この供述記載の信用性についても、右1と同様に評価すべきである。

  3 しかして、原告自らがこれらの供述をしていることによれば、右譲渡所得に係る税額を正当な節税により一八〇〇万円とすることができた旨を松尾から聞き、そのように信じたという原告の前記一の供述の信用性については疑義を避けられず、そうであるとすれば、ひいて松尾に対し前記第二の一3のとおり一八〇〇万円を交付したのは、本件所得税の納付資金として同人に預ける趣旨であったとの供述部分についても疑いが差し挟まれざるを得ないというべきである。前掲乙第八号証の供述調書においても、右金員は本件所得税の納付資金として松尾に預けたものであるとの供述を原告が持していること、原告が前記の所得税法違反被疑事件について公訴の提起等の処分を受けた形跡がないことも、右判断を覆すには足りない。

 四 以上判示したところに、原告から一八〇〇万円を受け取ったのは本件所得税につき不正な申告をしたことに対する謝礼であるとの松尾の検察官に対する供述調書(乙第四号証)の記載部分をも併せ考えると、結局、原告の前記一の供述は措信し難く、争点に関する原告の主張事実は、本件全証拠によってもこれを認めることができないといわざるを得ない。

第四 結語

   以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点についてみるまでもなく理由がないから、これを棄却することとする。

    東京地方裁判所民事第三四部

           裁判官  長屋文裕

 

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客観的な交換価値を超えていないとした東京地裁平成11年

固定資産評価審査決定取消請求事件

東京地方裁判所/平成9年(行ウ)第164号

平成11年10月29日

【判示事項】      各土地を所有する原告が,各土地について固定資産課税台帳に登録された各価格につき,右各価格は,地方税法の固定資産の評価に関する規定等に違反して評価,決定された違法なものであるとして,被告に対し審査の申出をしたところ,被告が審査の申出を棄却する旨の決定をしたため,右決定の取消しを求めた事案。判決は,固定資産の価格の評価が評価基準に従って適正に行われている以上,その価格は,法上は固定資産税の課税標準として適正な価格とみるべきで,評価基準等による七割評価の定めは適法等として,各土地の各登録価格はいずれも適法とし,請求を棄却した。

【掲載誌】       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 一 原告の請求を棄却する。

 二 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 請求

 被告が、原告に対し、平成九年一〇月八日付けでした、別紙一物件目録記載の土地について固定資産課税台帳に登録された平成九年度の各価格に係る審査の申出に対する決定のうち、右各土地の価格が別紙二「平成五年度固定資産評価額一覧表」記載の価格を超える部分について審査の申出を棄却した部分を取り消す。

第二 事案の概要

 本件は、別紙一物件目録記載の各土地(以下「本件各土地という。)を所有する原告が、右各土地について固定資産課税台帳に登録された平成九年度の各価格につき、右各価格は、地方税法(以下「法」という。)の固定資産の評価に関する規定等に違反して評価、決定された違法なものであるとして、被告に対し審査の申出をしたところ、被告が平成八年五月二九日付けで審査の申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をしたため、右決定の取消しを求めたものである。

一 関係法令等の定め

1 法令等の定め

(一)固定資産税は、固定資産に対し、その所有者(質権又は一〇〇年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。)に課する地方税である(法三四二条、三四三条一項)。この場合、所有者とは、土地又は家屋については、土地登記簿若しくは土地補充課税台帳又は建物登記簿若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう(法三四三条二項)。そして、土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地の基準年度に係る賦課期日(本件では平成九年一月一日である。法三五九条)における価格、すなわち「適正な時価」で土地課税台帳に登録されたもの(以下、この登録された価格を「登録価格」という。)である(法三四九条一項、三四一条五号)。基準年度の翌年度(第二年度)、翌々年度(第三年度)においては、原則として基準年度の価格が据え置かれ、基準年度の価格が課税標準となる(法三四九条二項、三項)。ただし、法附則一七の二に規定する土地に対して課する平成一〇年度又は平成一一年度の各年度分の固定資産税及び都市計画税の特例の適用があるものについては、右価格に所定の調整措置を講じたものが課税標準とされる。

(二)市町村長は、固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため、固定資産課税台帳(土地課税台帳、土地補充課税台帳等)を備えなければならない(法三八〇条一項、三四一条九号)。市町村長は、土地課税台帳に、自治省令で定める様式によって、土地登記簿に登記されている土地について不動産登記法七八条の規定により登記する事項、所有権、質権及び一〇〇年より永い存続期間の定めのある地上権の登記名義人の住所及び氏名又は名称並びに当該土地の基準年度の価格又は比準価格を登録しなければならず、また、土地補充課税台帳に、自治省令で定める様式によって、土地登記簿に登記されていない土地で法の規定によって固定資産税を課することができるものの所有者の住所及び氏名又は名称並びにその所在、地番、地目、地積及び基準年度の価格又は比準価格を登録しなければならない(法三八一条一項、二項)。

(三)登録価格の決定に際しての土地の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施方法及び手続(固定資産評価基準)を定め、告示しなければならないものとされ(法三八八条一項)、昭和三八年自治省告示第一五八号をもって固定資産評価基準(以下「評価基準」という。)が告示されている。市町村長は、評価基準によって土地の評価をしなければならない(法四〇三条一項)。

 東京都(後記(五)参照)においては、評価基準に基づき東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(昭和三八年主課固発第一七四号・昭和三八年五月二二日主税局長決裁。甲二三及び乙一。以下「取扱要領」という。)を定め、評価基準及び取扱要領(以下、両者を併せて「評価基準等」という。)に基づき土地の評価を行っている。

(四)市町村長(東京都の特別区においては、法七三四条一項により都知事。以下同じ。後記(五)参照)は、固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書を受理した場合においては、これに基づいて毎年二月末日までに土地の価格等を決定し、これを土地課税台帳等に登録しなければならない(法四一〇条、四一一条一項。)。第二年度又は第三年度において土地に対して課する固定資産税の課税標準について基準年度の価格による場合にあっては、土地課税台帳等に登録されている価格をもって第二年度又は第三年度において土地課税台帳等に登録された価格とみなされる(法四一一条二項)。

 土地の価格等を記載した土地課税台帳等は、原則として毎年三月一日から同月二〇日まで関係者の縦覧に供される(法四一五条一項)。固定資産の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る土地の登録価格について不服がある場合においては、縦覧期間の初日からその末日後一〇日までの間に固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」という。)に対し審査の申出をすることができる(法四三二条一項)。ただし、当該土地等のうち法四一一条二項の規定によって土地課税台帳等に登録されたものとみなされる土地の価格については、当該土地について法三四九条二項一号に掲げる事情があるため、同条同項ただし書、三項ただし書又は五項ただし書の規定の適用を受けるべきことを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない(法四三二条一項ただし書)。さらに、固定資産税の納税者は、右委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる(法四三四条一項)。

(五)都は、その特別区の存する区域において、都民税として固定資産税、都市計画税を課するものとされており、この場合においては、都を市とみなして法第三章第二節の規定を準用するものとされている(法七三四条一項、五条二項二号)。

 なお、都知事は、法七三四条一項、東京都都税条例四条の三により、徴収金の賦課徴収に関する事項は、一定の事項を除いて、都税の納税地所管の都税事務所長又は支庁長に委任しており、右(四)記載の固定資産の価格の決定等に関する事項のうち、価格の決定以外の事項は都税事務所長に委任されている。

2 評価基準が定める宅地の評価方法の概要

(一)土地の評価の通則

(1)土地の評価は、土地の地目((1)田、(2)畑、(3)宅地、(4)塩田、(5)鉱泉地、(6)池沼、(7)山林、(8)牧場、(9)原野、(10)雑種地)の別に、それぞれ第2節以下に定める方法によって行う。

(2)各筆の土地の評価額を求める場合に用いる地積は、土地の登記簿に登記されている地積によるものとし、土地登記簿に登記されていない土地については現況の地積による。

(二)宅地(評価基準第1章第3節)

(1)地目の現況が宅地である場合の土地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の評価額を求める方法による(第3節一)。評点一点当たりの価額は、宅地の自治大臣又は都道府県知事が指定する指示平均価額に宅地の総地積を乗じ、これをその付設総評点数で除した価額に基づいて市町村長が決定する(第3節三1。本件においては一円)。

(2)各筆の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって付設する。市街地宅地評価法による宅地の評点数の付設は、以下のとおり行う。

ア 地区区分と標準宅地の選定

 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該地区について、その状況が相当に相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められる標準宅地を選定する。

イ 路線価の付設

 標準宅地について、売買実例価額から適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する街路(以下「主要な街路」という。)について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路(以下「その他の街路」という。)の路線価を付設する。主要な街路について付設する路線価は、当該主要な街路に沿接する標準宅地の単位面積当たりの適正な時価に基づいて付設する。

 標準宅地の適正な時価は、次によって、宅地の売買実例価額から評定する。

① 売買が行われた宅地(以下「売買宅地」という。)の売買実例価額について、その内容を検討し、正常と認められない条件がある場合には、これを修正して、売買宅地の正常売買価格を求める。

② 当該売買宅地と標準宅地の位置、利用上の便等を考慮し、①によって求められた当該売買宅地の正常売買価格から標準宅地の適正な時価を評定する。

③ ②によって標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、基準宅地(第3節三2(1)によって標準宅地のうちから選定した基準宅地をいう。)との評価の均衡及び標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮する。

 その他の街路について付設する路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設する。

ウ 各宅地の評点数の付設

 各筆の宅地の評点数は、その沿接する路線価を基礎とし、各筆について評価の対象とすべき画地を認定し、一画地の宅地ごとに、奥行のある土地、正面と側面あるいは裏面に路線がある土地、三角地又は不整形地、無道路地若しくは袋地等の状況に従って所定の補正を加える方式(画地計算法)を適用して決定する。右の場合において、一画地は、原則として、土地課税台帳等に登録された一筆の宅地によるものとするが、一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする(別表第3の2)。

(三)経過措置

(1)宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の一月一日の地価公示法による地価公示価格及び不動産鑑定士による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の七割を目途として評定するものとする(第1章第12節一)。

(2)平成九年度の評価においては、市町村長は、平成八年一月一日から平成八年七月一日までの間の標準宅地等の価格が下落したと認める場合には、第3節及び右(1)によって求めた評価額に修正を加えることができるものとする(同節二)。

二 前提となる事実(証拠等により認定した事実は、その末尾に証拠等を掲げた。その余の事実は、当事者間に争いがない。)

1 原告は、本件各土地を所有する者であって、本件各土地の固定資産税の納税義務者である。

2 本件各土地は、港区α一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七二四番一、同所一七三八番一、同所一七三八番二、同所一七三八番三の各土地と合わせて「赤坂ツインタワービル」の敷地として利用されている。本件各土地を含む右一区画の土地は、東南側において六本木通り(以下「路線A」という。)に接しており、また、東側及び南西側においてもそれぞれ道路に接している(以下、東側で接する道路を「路線B」と、南西側で接する道路を「路線C」という。)。(乙二、一八、弁論の全趣旨)。

4 東京都知事(以下「都知事」という。)は、本件各土地に対する平成九年度の固定資産税の課税標準となるべき価格を別紙三「修正前平成九年度固定資産評価額一覧表」記載のとおりとする旨決定し、東京都港区都税事務所長は、これを固定資産課税台帳に登録し、同課税台帳を縦覧に供した(弁論の全趣旨)。その後、都知事は、右価格には誤謬があるとして、右価格を別紙四「修正後平成九年度固定資産評価額一覧表」記載のとおり修正する旨の決定をし、同都税事務所長は、右修正後の価格を固定資産課税台帳に再登録した(以下、この再登録された価格を「本件各登録価格」という)。

5 原告は、本件各登録価格を不服として、平成九年五月八日、被告に対し、審査の申出をした。これに対し、被告は、平成九年一〇月八日付けで右審査の申出を棄却する旨の決定(本件決定)を行った。

三 被告主張の本件各登録価格の評価根拠(当事者間に争いがない点についてはその旨を付記した。)

1 本件各土地の地目

 本件各土地の登記及び現況地目はいずれも宅地であり、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当する(争いがない。)から、市街地宅地評価法により評価することとした。

2 本件各土地が属する地域の用途地区区分

 本件各土地の正面路線(路線A)及び側方路線(路線B)の沿接する地域は、高度商業地区の外延部又は地域の拠点としての鉄道駅の周辺等に位置し、一般的な商業施設や事務所等が連たんしているが、高度商業地区に比べ資本投下量が少なく商業密度も低い一方、低層併用住宅地区より商業密度が高い地区に該当するから普通商業地区に該当する(路線A及び路線Bが普通商業地区に属することは争いがない。)。また、本件各土地の二方路線(路線C)に沿接する地域は、高度商業地区から連なる普通商業地区の外延部にあって、商業施設と中高層共同住宅等との用途の混在がみられる地域又は幹線道路沿いに自動車を利用する顧客のためのサービス施設等が多く立地している地域であって、普通商業地区に比べて商業密度が低く、低層併用住宅地区より高度利用が進んでいる地区に該当するから中高層併用住宅地区に該当する(争いがない。)。

3 本件各土地は、右各土地と他の六筆の土地(港区α一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七二四番一、同所一七三八番一、同所一七三八番二、同所一七三八番三。以下「隣接地六筆」という。)と合わせて一画地と認定される正面と側方と裏面(二方)との三方に路線がある画地(以下「三方路線地」という。)である。こうした三方路線地の価格は、正面路線のみに接する画地の価格より一般的に高くなるものであるから、正面路線から求めた基本単価を補正する必要がある。具体的には、正面路線のみに接するとした場合の基本単価に、副路線である側方路線を正面路線とみなして計算した評点に当該用途地区の取扱要領付表2「側方路線影響加算率」によって補正した評点及び副路線である二方路線を正面路線とみなして計算した評点に当該二方路線の用途地区の「二方路線影響評価加算率」によって補正した評点をそれぞれ加算して補正することになる。

4 都知事は、右の普通商業地区について、状況類似地区ごとに区分し、本件各土地の所在する正面路線(六本木通り・路線A)、側方路線(路線B)及び二方路線(路線C)の沿接する地域ごとに標準宅地を次のとおり選定した(各標準宅地を被告主張のとおりとすることについては争いがない。以下、各標準宅地を「本件各標準宅地」という。)。

(一)正面路線(路線A)に沿接する地域 港区α一〇〇一番九に所在する土地(以下「a標準宅地」という。)

(二)側方路線(路線B)に沿接する地域 港区α九〇五番四に所在する土地(以下「b標準宅地」という。)

(三)二方路線(路線C)に沿接する地域 港区α一八二七番に所在する土地(以下「c標準宅地」という。)

5(一)(1)a標準宅地に係る適正な時価については、価格調査基準日である平成八年一月一日時点の不動産鑑定価格一平方メートル当たり四七五万円(これを平成八年一月一日時点の時価であるとすることについては争いがない。)を活用し、その七割程度をもって一平方メートル当たり三三二万円とした。

(2)b標準宅地に係る適正な時価については、平成七年七月一日時点の東京都地価調査価格一平方メートル当たり三七八万円(これを平成七年七月一日時点の時価であるとすることについては争いがない。)を活用するとともに、平成八年一月一日までの六か月の地価動向を勘案しマイナス一五・〇パーセント(平成七年七月一日から平成八年一月一日までの時点修正率を同率とすることについては争いがない。)の時点修正を行い、その七割程度の価格をもって一平方メートル当たり二二一万円とした。

(3)c標準宅地に係る適正な時価については、価格調査基準日である平成八年一月一日時点の不動産鑑定価格一平方メートル当たり一二〇万円(これを平成八年一月一日時点の時価であるとすることについては争いがない。)を活用し、その七割程度の価格をもって一平方メートル当たり八四万円とした。

(二)右に述べた本件各標準宅地の価格に基づいて、それぞれの標準宅地の沿接する街路(主要な街路)の路線価を、a標準宅地につき三三二万点、b標準宅地につき二二一万点、c標準宅地につき八四万点とそれぞれ付設した。

(三)都知事は、右に述べたa標準宅地の主要な街路の路線価を基礎とし、右主要な街路と本件各土地に沿接する正面路線(路線A)とを比較し、その格差を幅員、連続性等の街路条件一〇〇パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇〇パーセント、商業密度等の環境条件八六パーセント、容積率等の行政条件一〇〇パーセントと算定し、これらを乗じた格差率八六パーセントを右主要な街路の路線価に乗じて、正面路線(路線A)の路線価を二八五万点と付設した(被告別表の①)。

(四)次に、都知事は、右に述べたb標準宅地の主要な街路の路線価を基礎とし、右主要な街路と本件各土地に沿接する側方路線(路線B)とを比較し、その格差を幅員、連続性等の街路条件九七パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇〇パーセント、商業密度等の環境条件八八パーセント、容積率等の行政条件九四パーセントと算定し、これらを乗じた格差率八〇パーセントを右主要な街路の路線価に乗じて、側方路線(路線B)の路線価を一七六万点と付設した(被告別表の②)。

(五)さらに、都知事は、右に述べたc標準宅地の主要な街路の路線価を基礎とし、右主要な街路と本件各土地に沿接する二方路線(路線C)とを比較し、その格差を幅員、連続性等の街路条件一二三パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇〇パーセント、商業密度等の環境条件一〇〇パーセント、容積率等の行政条件一〇三パーセントと算定し、これらを乗じた格差率一二七パーセントを右主要な街路の路線価に乗じて、二方路線(路線C)の路線価を一〇六万点と付設した(被告別表の③)。

6(一)本件各土地の評点数は、前述した5(三)ないし(五)の路線価を基礎として、評価基準等に定める画地計算法に従って、算出されるものである。

(二)評価基準等では、画地の認定は、原則として土地課税台帳等に登録された、一筆の宅地を一画地とするものであるが、例外として、隣接する二筆以上の宅地にまたがり、恒久的建物が存在する土地等ついては、二筆以上の宅地を合わせて評価するものと規定している。

 本件各土地は、隣接地六筆(港区α一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七二四番一、同所一七三八番一、同所一七三八番一、同所一七三八番二、同所一七三八番三)と合わせて赤坂ツインタワービルの敷地として利用されているから、まさに隣接する二筆以上の宅地にまたがり恒久的建物が存在する土地として、両土地を一画地と評価すべきである。

(三)そこで、右に述べたことを前提に本件各土地について検討すると、正面路線(路線A)から本件土地の奥行は一二七・〇メートルと認定されるから、取扱要領付表1に基づき奥行価格補正率〇・七三を適用し、また、間口距離は二七・五メートルであって、奥行距離を間口距離で除した割合は四以上五未満となるから、取扱要領付表5に基づき奥行長大補正率〇・九八を適用して、基本単価を算出する(被告別表の④)。

(四)次に、側方路線(路線B)から本件各土地の奥行は一二三・五メートルと認定されるから、取扱要領付表1に基づき奥行価格補正率〇・七三を適用する。

 本件各土地の側方路線部分は、普通商業地区であるから、取扱要領付表2に基づき、側方路線影響加算率の〇・〇八を乗じて、加算評点を求める(被告別表の⑤)。

(五)さらに、二方路線(路線C)から本件各土地の奥行は一四〇・五メートルと認定されるから、取扱要領付表1に基づき奥行価格補正率〇・七三を適用する。

 本件各土地の二方路線部分は、中高層併用住宅地区であるから、取扱要領付表2に基づき、側方路線影響加算率の〇・〇五を乗じて、加算評点を求める(被告別表の⑥)。

(六)以上のことから、本件各土地の評価は、(三)において算出された基本単価に、(四)及び(五)で求められた評点を加算して、単位地積当たりの評点を算出し(被告別表の⑦)、次いで平成八年一月一日から同年七月一日までの時点修正率〇・九二を乗じて、修正後の単位地積当たりの評点を算出し(被告別表の⑧)たうえ、それに各地積を乗じて総評点を求め(同別表の⑨ないし⑰)、最後に評点一点当たりの価格一円(争いがない。)を総評点に乗じて求めることになる(同別表の⑱ないし●)。

 なお、平成八年一月一日から平成八年七月一日までの時点修正率は、次に述べる方法により算出した。すなわち、正面路線に係る鑑定評価書記載の規準地が東京都基準地の場合には、平成八年七月一日のその基準地価格(東京都地価調査価格)を平成八年一月一日の不動産鑑定価格で除した率により求めることとされている。本件における正面路線の標準宅地の鑑定評価書記載の規準地は基準地(港五‐一三)であるところ、平成八年一月一日の規準地の不動産鑑定価格は四三三万円、平成八年七月一日現在のその東京都地価調査価格は四〇〇万円であることより、後者を前者で除した数値は〇・九二(小数点第三位以下切捨て)となる。

(七)本件各登録価格は、以上のようにして求められる本件各土地の価格を超えないから、本件各登録価格の決定は適法である。

四 本件の争点及び争点に関する当事者の主張

 本件の争点は、被告が主張する本件各登録価格の評価の適否であり、右の争点に関しては、具体的には、① 都知事が、固定資産課税台帳の縦覧期間の初日以降に行った本件各土地についての固定資産評価額の修正が法四一七条一項の要件を満たさない違法なものであるか否か(争点1)、② 被告主張の画地の認定が適正であるか否か(争点2)、③ 被告主張の画地計算において正面路線の選定が適正であるか否か(争点3)、④ 本件各土地に係る画地計算において、不正形地補正をなす必要があるか否か、その必要があるとして適用すべき補正率いかん(争点4)、⑤ 都知事が本件各土地の固定資産評価頽の評価に当たり評価基準等に従ってした時点修正が評価方法として違法かどうか(争点5)、⑥ 本件各土地の平成九年度の賦課期日における価格はいくらとすべきか(争点6)が問題となる。これらの争点に関する当事者の主張は次のとおりである。

1 都知事が、固定資産課税台帳の縦覧期間の初日以降に行った本件各土地についての固定資産評価額の修正が法四一七条一項の要件を満たさない違法なものであるか否か(争点1)

(原告の主張)

(一)本件各土地の平成六年度の登録価格に関する原告の審査の申出に対し被告がした決定において、被告は、本件各土地と港区α一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七二四番一の各土地を一画地として評価すべき旨の判断を示したところ、都知事は、本件各土地の評価に当たっては右判断に従うべきであり、そうすると、当初決定した本件各土地の固定資産評価額には誤りが存することになるとし、現状の固定資産課税台帳登録価格を別紙四「修正後平成九年度固定資産評価額一覧表」記載の価格(本件各登録価格)に修正し、再登録をした。

(二)法四一七条一項の同規定に基づく決定・修正は、「固定資産の価格等の登録がなされていないこと又は登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合」にできる旨規定されている。ここにいう「重大な錯誤」とは、同条の規定からみる限り、「固定資産の価格等の登録がなされていないこと」に匹敵する程度の「重大な錯誤」であり、単なる誤り程度のものは含まれないと解釈されよう。都知事は、右(一)に述べた経緯により、固定資産評価額の修正を行ったが、修正前の算定方式及び前記決定の示す算定方式は、現在係争中でありいずれが適法な算定方式であるかについては、確定していない段階にある。このような状況において、都知事が修正前の算定方式に従って固定資産評価額を算定したとしても、「登録された価格等に重大な錯誤がある」とはいえないものと考えられる。したがって、都知事がした本件各土地についての価格修正は、地方税法四一七条一項の要件を満たさない違法な価格修正というべきである。

 さらに、都知事は、今回の価格修正において、本件各土地の平成六年度の登録価格に関する原告の審査の申出に対し被告がした決定が、本件各土地と同一画地とは認定していない、α一七三八番一、同番二及び同番三を含めて同一画地として算定しているが、都知事が今回の価格修正の根拠を被告の決定に従うことに求める以上、算定方式の修正は右決定が同一画地と認定した範囲に限定されるというべきであり、かかる点からも今回の価格修正は違法である。

(被告の主張)

 本件各土地の平成六年度の登録価格に関する原告の審査の申出に対し被告がした決定において、被告は、本件各土地及び港区α一七三八番の土地と同所一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七二四番一の各土地を一画地として評価すべき旨の判断を示した。しかるに、都知事は、平成九年度の評価替えに当たり、当初、右判断と異なる画地認定を行い本件各土地の固定資産評価額を決定していたため、被告の右判断に従うべく価格修正を行ったものである。被告が決定においてなした評価方法に評価庁である都知事が従うように義務づけられている以上、これを見落として評価しそれを放置したままにすることは納税者の公平を損なう大きな問題といわざるを得ない。

 したがって、都知事が本件各土地についてした固定資産評価額の修正は、「登録された価格に重大な錯誤があることを発見した場合」に該当するということができるから、原告の批判は妥当性を欠くというべきである。

2 被告主張の画地計算において画地の認定が適正であるか否か(争点2)

(被告の主張)

(一)法は、三八八条において、自治大臣は評価基準を定めなければならないと規定するとともに、四〇三条一項において、市町村長は評価基準に従って固定資産の価格を決定しなければならないと規定している。そして、評価基準は、「その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする」(評価基準別表第3の2参照)と規定している。具体的には、「隣接する二筆以上の宅地にまたがり、恒久的建物が存在する土地及びその土地と効用上一体として利用されていることが明らかな土地」といえるかどうかにより、一体をなしているか否かを判断することになる。

(二)右に述べたことを前提に本件を検討すると、九筆の本件各土地は他の六筆の土地(港区α一七二四番一、同所一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七三八番一、同所一七三八番二、同所一七三八番三)とを合わせて、恒久的建物である赤坂ツインタワービルの敷地となっているから、これらの土地はまさに一体をなしており、一画地として評価すべきである。

(三)原告は、当該土地の客観的価値を算定する際に、所有者の異なる隣接地を含めて評価するのは不当であると批判する。

 しかし、①二筆以上の土地が一画地と評価される場合、各土地の価値は、それぞれの土地の形状や一画地における位置等により影響されるものではなく、一画地の一部として均一に評価するのがかえって合理的であること、②仮に原告の主張するように、所有者ごとに個別に評価することになると、所有者がたとえば相続により細分化すると、それに応じて価格が変動することになるが、それでは一画地の評価額の総和が一定せず、かえって均衡を失することにもなりかねないことから、原告の批判は妥当性を欠くといわざるをえない。

吉井直昭裁判長名判決 福岡高裁那覇支部昭和48年 遡及立法禁止の例

過誤納金還付請求事件

福岡高等裁判所那覇支部判決/昭和44年(行コ)第28号

昭和48年10月31日

【判示事項】      1 復帰前の沖縄における物品税法(1958年10月27日高等弁務官布令17号)1条3類13号の別表掲示品目は、例示的列挙と解すべきか(消極)

            2 米国民政府から琉球政府にあてた書簡は、琉球政府に対する行政指導として発せられたものにすぎず、布令ないし立法としての効力を有しないとされた事例

            3 租税法律主義と税法そ及効との関係

            4 申告納税方式を採用しながら、申告に基づく誤納を是正する方途が法律に設けられておらず、物品税を納付しない限り保税地域からの引き取りができない取扱いとなつているような場合には、その納付が納税者の誤信に基づいていたと否とにかかわらず、その納付に係る税金相当額の返還を受けることができるとされた事例

            5 誤納した物品税の還付請求権

【判決要旨】      1 物品税法1条3類13号の別表掲示の品目は、立法の改正経過に徴すれば例示的列挙ではなく 限定的に課税品目を列挙したものと解するのが相当である。

            2 省略

            3 租税法律主義の見地からみれば、特定の物品を過去にさかのぼつて課税の対象とすることは法律の改正が既に予定されていて、納税者側にもそのことが予想され、法的安定性を著しく害しないような場合にかぎつて許されるものと解すべきところ、本件改正規定(注・高等弁務官布令17号改正3号)のように、のちに至つて数年以上も前にさかのぼつて課税品目となつていない物品に対する課税行為をすべて適法化するような立法は、その許容の範囲を逸脱するものである。

            4 省略

           5 物品税は間接税であつて、その実質上の負担者は消費者であるけれども、そうだからといつて誤納による返還請求権を認めえないということにはならないのであり、納税義務者である輸入者が、実際上、当該物品をいかなる価格で販売するかは市場における自由競争の中で決定されるのであつて、それは、ひつきよう、納税義務者と消費者との関係にすぎないのであるから、担税者が消費者であるというだけでは納税義務者に対する誤納金の返還債務を否定する理由にはなりえない。

【参照条文】      物品税法(1958年10月27日高等弁務官布令17号)1

            行政実体法通則2の2

            物品税法(1964年5月12日高等弁務官布令17号改正3号)1-2

            大統領行政命令10713号12節

            租税徴収法(1952年立法59号)54

【掲載誌】       訟務月報19巻13号220頁

【評釈論文】      税理18巻2号109頁

 

       主   文

 

1 原判決をつぎのとおり変更する。

2 被控訴人は、

(一) 控訴人名護製氷株式会社に対し、金一二九九万四九五五円および別表(一)の(3)(省略)記載の各加算金基準額に対する還付加算金起算日から昭和四七年五月一四日まで一日につき○、○四パーセントの割合による金員、同月一五日から前記金員の還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで年七・三パーセソトの割合による金員を、

(二) 控訴人儀間真義に対し、金四一九万九一三五円および別表(二)の(3)(省略)記載の各加算金基準額に対する還付加算金起算日から昭和四七年五月一四日まで一日につき○、○四パーセントの割合による金員、同月一五日から前記金員の還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで年七・三パーセントの割合による金員を、

(三) 控訴人我那覇生吉に対し、金三五一万九四三九円および別表(三)の(3)(省略)記載の各加算金基準額に対する還付加算金起算日から昭和四七年五月一四日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員、同月一五日から前記金員の還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで年七・三パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。

3 控訴人らのその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 

       事   実

 

第一 当事者の申立

一 控訴人ら

1 控訴人各護製氷

 原判決を取り消す。

 被控訴人は、控訴人名護製氷に対し、金四一八万七四九四円四五銭および別表(一)の(3)(省略)記載の各還付加算金基準額に対する還付加算金起算日から前記金員還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員を支払え。

 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2 控訴人儀間

 原判決を取り消す。

  被控訴人は、控訴人儀間に対し、金四一九万九一三六円三〇銭および別表(二)の(3)(省略)記載の各還付加算金基準額に対する還付加算金起算日から前記金員還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 3 控訴人我那覇

  原判決を取り消す。

 被控訴人我那覇に対し、金三五一万九四四三円八〇銭および別表(三)の(3)(省略)記載の各還付加算金基準額に対する還付加算金起算日から前記金員還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 二 被控訴人

  本件控訴を棄却する。

  控訴費用は控訴人らの負担とする。担保を条件とする仮執行宣言の免脱宣言。

第二 当事者の主張および証拠関係

 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、つぎのとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

 一 誤記の訂正(省略)

 二 控訴人らの主張

 1 控訴人らが本件各物品を輸入し、保税地域から引取りをした当時、琉球政府は、旧物品税法(一九五二年立法第四三号、一九五八年一〇月二七日高等弁務官布令第一七号による改正後のもの)に定められない生鮮魚介類についても、物品税を納付しないかぎり物品の引取りを許可せず、同法一条第三類一三号所定の二○パーセントの物品税を課していたため、控訴人らは、本件各物品についても物品税納付の義務があるものと誤信して納税の申告をし、物品税を納付したのである。

2 被控訴人主張のとおり、控訴人らが一九五八年一二月以降本訴提起にいたるまで六年間にわたり、物品税法の別表に明定されない生鮮魚介類の輸入に際しても物品税を納付してきたことは認める。

三 被控訴人の主張

1 控訴人儀間真義に間する別表(二)の(1)(省略)通し番号1につき同控訴人の主張のとおり、一八〇ドルを納付した事実は認める。

2 控訴人らの1の主張は、誤信して納付したとの点を除いて認める。控訴人らは、一九五八年一二月以降本訴提起までの間本件物品のように物品税法にとくに明定されない生鮮魚介類についても、物品税を納付してきたものであり、錯誤に基づいて申告したものとはいえない。

3 本件物品に対する課税当時の輸入申告書は(証拠省略)の書式のとおりであり、物品税の確定申告書を兼ねていたものであ、る。

4 布令第一七号の改正三号の規定が確認的に疑嚢を明らかにしたものであるにすぎないことは、従来主張のとおりである。

 かりに、遡及立法にあたるとしても、輸入業者、販売業者、消費者等は、一九五八年以来、輸入されるサンマ等には二〇パーセントの物品税が課せられるとの認識のもとに輸入し、購入し、消費してきたもので、税務行政も確立され、貿易、流通の面においても、右課税を前提としてその機構、体制が確立されていて、なんら納税者の既得権ないし利益ぱ侵害されていないこと、一般にもサンマ等に対する課税が予測され、法的安定性を害するものではないこと、布令第一七号による改正後も、「ます」を課税の対象としながら、類似の「さけ」に課税せず、また、「たこ、なまこ、しじみ」などいわゆる大衆魚に課税しながら、同じく大衆魚である「さんま」等が列挙されていないなど、課税の不公平、不均衡を是正する必要がある等合理的理由がある場合には遡及立法もまた許されると事すべきである。

5 復帰前の沖縄における物品税は、沖縄の沿岸漁業者を保護するために立法されたものであつて、その実質は関税の性格を有していたものである。しかして、関税については、その特殊性から租税法律主義の例外が認められるものであるから、旧物品税法一条第三類一三号の解釈に関して発せられた一九五八年一二月四日付および一九六三年一月三〇日付の米国民政府の各書簡(証拠省略)は、政令またはそ九以上の効力を有するものと解すべきであり、その後の改正三号は、右書簡を事後において確認したものと解することも可能である。

四 証拠関係(省略)

 

       理   由

 

一 控訴人ら主張の請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二 よつて、本件輸入物品(アジ、サンマ、サバ、イカ、カマス、キビナゴ、ニシン、カレイ)が、右輸入当時の物品税法による課税物品に該当するものであつたか否かについて検討する。なお、本件輸入物品中、控訴人名護製氷に関する別表(一)の(1)(省略)中通し番号78ないし84は、布令第一七号改正三号施行後の輸入にかかるものであるから、これを別個に検討することとし、右78ないし84を除く控訴人らの輸入物品を以下「本件物品」という。

1 控訴人らが本件物品を輸入した当時の旧物品税法第一条は、「次に掲げる物品(以下『物品』という。)で別表に定めるものにはこの立法により物品税を課する。」として、その第三類(二〇パーセント)一三号には、 「生鮮魚介類。ただし、第七十三号に掲げるものを除く。」と定め、別表である課税物品表の第三類一三号には、「生鮮魚介類。ただし、第七十三号に掲げるもの及び琉球内生産品、繁殖用及び漁業用餌を除く。うなぎ、ます、かき、はまぐり、あなご、このしろ、しろ貝、小えび、伊勢えび、しじみ、つのがい、あわび、かいばしら、とりがい、あかがい、たこ、なまこ、こい、もろこ」と定められて、右所定の物品の中には本件物品はいずれも含まれていなかつたことが明らかである。

 しかるところ、被控訴人は、右一三号に挙示された品目は、例示的列挙であつて、本件物品も同号に定める生鮮魚介類として課税の対象となつたものであると主張する。

 そこで、右物品税法制定当時の規定およびその後の改正経過をみると、一九五二年九月三〇日に公布施行された当初の規定においては、生鮮魚介類は課税品目となつていなかつたこと、一九五三年立法第六二号によつて、一類一〇号に「生鮮魚介類及び鰹節」が挙げられ、その別表で「生鮮魚介類(うなぎ、あゆ、かき、はまぐり)及び鰹節」が新たに課税品目として定められたが、右改正立法は、同年布令第一一九号により拒否され、公布の日に遡つて無効とされて効力を失つたこと、一九五四年立法第四七号による改正によつて、第二類(三〇パーセント)二四号に「生鮮魚介類」が課税品目に挙げられ、その別表には、「うなぎ、あゆ、かき、はまぐり」が本件課税当時の規定と同じ体裁で定められたこと、ついで、一九五五年立法第五四号を同年布令第一五〇号により修正のうえ制定公布された同年立法第八六号による改正では、従前の第二類二四号が第二類(二〇パーセント)三六号となつたほか、新たに第四類(一〇パーセント)六六号として「魚介類」が課税品目に指定され、その別表の第四類六六号の項には、(イ)として、「鮮魚又は冷凍魚、たい、かつお、まぐろ、にしん、さば、いわし、ぶり、あじその他の魚」が挙げられたこと、その後、一九五八年一〇月二七日の同年布令第一七号により、一条の第二類一二六号は前示の第三類(二〇パーセント)一三号になつて、冒頭説示のとおり定められ、第四類六六号に相当するものは、第五類(五パーセント)七三号となつて、その別表には、「一三 魚介類及びその調整品。ただし、別号に掲げるもの、ざこ(無名魚)、いりこ及び琉球内生産品を除く。イ 塩づけ魚、乾燥魚又はいぶし魚、ます、たら、さば及びその他の魚類 ロ 貝類、甲殼類、軟体動物及び棘皮類の冷凍、塩づけ、乾燥又はいぶしたもの ハ 魚介類(魚のはらご及び臓物を含む。)の調整品」と定められたこと(なお、右第四類七七号の別表について、一九五八年一〇月三一日付公報号外八〇号所収の邦訳には、前記イ、ロ、ハにつづいて、「ニ 鮮魚及び冷凍魚」との記載があるが、正文である同公報所収の英文にはこれに該当する項目が存在しないので、右邦訳部分はなんらかの誤りであつて、かかる改正はなされなかつたものと認めざるをえない。また同公報には、別表第三類一三号列挙の魚介類一九種のうち、英文で、“trout”とあるのを「あゆ」と邦訳してあるが、被控訴人主張のとおり「ます」が正当であろう。)、さらにその後、右布令第一七号の改正三号(一九六四年五月一二日実施)により、第三類(二〇パーセント)一一二号は「一三 生鮮及び冷凍魚介類。ただし、第一二八号の(1)に掲げる特殊魚介類を除く。」と改められ、その別表は「魚介類の生きているもの、冷蔵されているもの、冷凍されているもの又はその他生鮮のもの。ただし、甲殼類の動物、軟体動物及びなまこ類の動物並びにその一部を含み、第三八号の(1)に掲げる魚類を除く。」と定められ、また一第四類ハ一〇パーセント)三八号の(1)として「特殊魚類」が追加されて、その別表には「さば(さんま、あじ、いわし、にしん、このしろ、アンチヨビー及びいかの生きているもの、冷蔵されているもの、冷凍されているもの又はその他生鮮のもの並びにその一部分」と定められ、同七三号の別表は、「魚介類で塩づけしたもの、乾燥したもの、燻製したもの、つけものにしたもの又はその他調製したもの。ただし、甲殼類の動物、軟体動物、棘皮動物等を含み、ダシザコを除く。」と改められたこと、なおまた、右改正三号には、別に「かつお、まぐろ、かじき、さば、さんま、あじ、さめ、ひらめ、かれい類の平たい魚、とびうお、いか等の鮮魚及びその他一九五八年一〇月二七日付高等弁務官布令の別表『課税物品表』の『第三類-二〇パーセント』の第一三号に特に掲げられていない鮮魚に対し、一九五二年琉球政府之法第四三号により、又は同立法によるものとしてこれまで賦課され、納付され、かつ、徴収された物品税及び同税の徴収並びに同税の賦課及び徴収を遂行するためになされたすべての行為は、あたかも上記の鮮魚及びその他の鮮魚が別表『課税物品表』の『第一二類-二〇パーセント』の第一三号に特に掲げられていた場合と事実上全く同じように、ここに裁可し、かつ確認する。ただし、この項のいかなる規定も、この布令の施行期日以前の課税の無効又は払い戻しの最終判決を受けた納税者の権利又は免除に対し影響を与えるものと解し、又は当該影響を与えるべく適用してはならない。」との規定が設けられたこと、以上のことが明らかである。

 そして、【判示事項ここのような立法の改正経過、ことに、立法第八六号には、第二類三六号のほかに第四類六六号として、前者に含まれない魚介類を課税の対象とする一般規定が設けられていたこと、二〇パーセント課税品目である前者については、従来四種類のみが挙げられていたのに、布令第一七号によつて一九種に品目が増加していること、その後布令第一七号の改正三号には、被控訴人主張の遡及適用の規定が設けられたことに徴すれば本件で問題になつている第三類一三号の別表に掲げられた一九種の品目は、例示的列挙ではなく、限定的に課税品目を列挙したものと解するのが相当である。

 なお、【判示事項二】被控訴人は、第三類一三号の生鮮魚介類には、別表に掲げられた一九種以外のすべての生鮮魚介類が含まれるとするのが立法の趣旨であつたとして、(証拠省略)(米国民政府財政部係官から琉球政府内政局主税課長あて一九五八年一二月四日付書簡)および(証拠省略)(同民政府総務部長から琉球政府行政主席あて一九六三年一月三〇日付書簡)を提出するところ、右各号証には被控訴人の主張にそう内容が記載されているが、右は、琉球政府に対する行政指導として発せられたものにすぎないものと解すべきであり、布令ないし立法として公布されたものではないから、かかる文書の存在によつては、前記解釈が左右されるためではない。

2 つぎに、被控訴人は、課税の当時第三類一三号の物品に該当しなかつたとしても、布令第一七号改正三号によつてその課税行為は、当該物品が課税の当時別表に同類同号該当のものとして掲げられていたと同じように裁可確認されたから、適法に課税されたことになつたものと主張する。改正三号には、所論のように、本件のような課税行為を適法なものとして確認する規定が設けられたことは、さきに説示したとおりである。しかしながら、本件物品は、課税の当時物品税法一条三類一三号の物品に該当していなかつたこともまたさきに説示したとおりであるから、右放正三号の規定がたんなる確認規定であると解することはできないだけでなく、【判示事項三】租税法律主義の見地からみれば、特定の物品を過去に遡つて課税の対象とすることは、法律の改正がすでに予定されていて、納税者側に・もそのことが予測され、法的安定性を著しく害しないような場合にかぎつて許されるものと解すべきところ、本件改正規定のように、のちに至つて数年以上も前に遡つて課税品目となつていない物品に対する課税行為をすべて適法化するような立法は、その許容の範囲を逸脱するものであり、ことに右改正三号によれば、さば、さんま、あじ、いわし、いかなど遡及的に過去の課税行為を適法化された品目について、右布令による改正後もそのすべてが二〇パーセントの課税品目として定められたものではなく、本件物品の大部分は、第四類三八号の(1)として一〇パーセントの課税の対象とされることになつたにとどまるのであつて、右立法は、ひつきよう、課税の根拠がないにかかわらず過去に課税し徴収した税金の還付を不要ならしめるべく、もつぱら行政庁側の救済措置として便宜的に設けられた規定であり、実質的にも不当であつて、当時の米国大統領行政命令第一〇、七一三号第一二節の規定の趣旨に反していたものといわなければならず、したがつて、その効力を認めることはできないものと解するのが相当である。してみれば、控訴人らは、本件物品については、その引取時においては、これに見合う租税債務が存在しなかつたのに、存在するものとして物品税の申告をなし、納付をした結果、誤納を生じたもの上いうべきである。

三 そこで、右訴納にかかる金員の返還請求の当否について検当する。

 本件課税当時の物品税法が賦課課税方式によつていたものか、申告納税方式によつていたものかは、その規定の体裁からは必ずしも明らかではない。ことに、同法第三章の表題が「賦課及び徴収」となつており、第八条の見出も「課税標準の申告及び決定」となつていること、後記のように、申告に誤りがある場合における納税義務者側からの是正の途が設けられていないこと、当時の琉球政府立法院における提案者によれば、当時本土で施行されており、賦課課税方式によつていたことに異論のない旧物品税法(昭和一五年法律第四〇号)にならつて立法された旨の説明がなされていること(琉球政府公報号外一九五三年五月二五日号一一頁参照)などに徴すれば、同法は賦課課税方式をとつていたものではないかとの疑いを生ずる。しかしながら、同法八条が、納税義務者は、製造場から移出しまたは保税地域から引き取る指定物品につき、その数量、価額のほか税額をも記載した申告書を政府に提出するものとし、これに基づいて同時にその税金を納付すべき旨を定めており、賦課課税方式に必要な告知の規定を有しないこと、一九六四年八月三日立法第四八号をもつて物品税法の全部改正が行なわれた際における立法院内政委員会での行政府参考人の改正案に対する立法趣旨の説明によれぱ、右改正前の物品税法は申告納税制度をとつていたところ、これを賦課課税方式に改めることが改正の眼目の7ひとつになつていたこと(第二五回定例議会、立法院内政委員会議録五五号一三頁)、(証拠省略)によれば、実際の取扱いもまた申告納税方式によつて行なわれていたものと認められること等の諸点に徴すれば、右改正前の物品税法は租税債権が納税義務者の申告によつて確定する申告納税方式を採用していたものと解するのが相当である(結論同旨の琉球上訴裁判所一九六四年五月一二日判決、上訴裁判例集民事一二巻二七頁参照)。

 しかるところ、【判示事項四】右のような申告納税方式を採用する場合において、納税者がその申告に基づく納付が誤納であることを知つたとき、みずからこれを是正する方途、たとえば、修正申告、更正の請求の制度が法律に設けられている場合には、申告書の記載内容の是正については、その記載が錯誤に基づくものであつたとしても、それが客観的に明白かつ重大であつて、右の救済方法による以外の是正を許さないとするならば、納税義務者の利益を著しく害する特段の事情がある場合でないかぎり、法定の方法によらない救済を求めることは許されないものと解するのを相当とするが、本件当時の法制をみると、前述のように、申告納税方式を採用しながら、その税額については、前記修正申告ないし更正の請求の制限は設けられていなかつたことが明らかであつて、法定の形式による是正の方途を閉ざされていただけでなく、本件物品の輸入の当時は、琉球政府側の方針によつて、本件物品のように一条第三号該当の物品でないものについても物品税を納付しないかぎり保税地域からの引取をすることはできない取扱いになつていたことは、当事者間に争いがないのであるから、かような場合においては、控訴人らの本件物品税の納付が控訴人らの誤信に基づいていたと否とにかかわらず、また、控訴人らが一九五八年一二月以降本訴提起に至るまで六か年にわたつて非該当物品について物品税の納付を続けてきた事実があつたとしても、琉球政府においてこれを収納しうべき理由はなかつたものである以上、控訴人らはなお、その納付にかかる税金相当額の返還を受けることができるものと解さなければならない。

 なお、この点に関し、被控訴人は、本件物品税は間接税であつて担税者は一般消費者大衆であるところ、消費者の負担は軽微であるから、これを返瀾しなくても、苛酷となるものではなく、したがつて、返還義務はないと主張する。

 【判示事項五】物品税が間接税であつて、その実質上の負担者が消費者であることは所論のとおりであるけれども、しかし、そうであるからといつて間接税については常に誤納による返還請求権を認めえないということにはならないのであり、租税の負担が消費者に転嫁されているとはいつても、納税義務者である輸入者が、実際上、当該物品を消費者にいかなる価格で販売するかは市場における自由競争の中で決定される価格にゆだねられているのであり、それは、ひつきよう、納税義務者と消費者との関係にすぎないのであるから、担税者が消費者であるというだけでは、納税義務者に対する誤納金の返還債務を否定する理由にはなりえないのである。

四 以上のとおりであつて、控訴人名護製氷に関する別表日の(1)(省略)中通し番号1ないし77、同儀間真義に関する別表(二)の(1)(省略)の(1)全部、同我那覇生吉に関する別表(三)の(1)(省略)の全部は、いずれも物品税の課税の対象とならない物品であるにかかわらず、第三類一三号所定の物品に該当するものとして申告され、各表税額欄の金額が納付されたものであるから、右金員は、当時の租税徴収法(一九五二年立法五九号)五四条に基づいて各控訴人においてその返還を求めうるものといわなければならない。

五 つぎに、控訴人名護製氷に関する別表(一)の(1)(省略)中、通し番号78ないし84の輸入物品についてみるに、これらの物品は、前記布命第一七号改正三号の施行後に物品税が納付されたものであるから、その引取もまた同布令により物品税法が改正された後になされたもので改正後の規定を適用すべきものと解されるところ、前説示のとおり、改正後の規定によれば、78ないし83の物品であるイカ、アジ、サバ、サソマは一条第四類一二八号の(1)の「特殊魚類」として 一〇パーセントの課税の対象となつており、本件において納付された税額もまた課税標準額の一〇パーセントであることは前記のとおり当事者間に争いがないのであるから、控訴人名護製氷には全く誤納のないことが明らかである。また、84のキビナゴは、第三類一一二号の課税品目として二〇パーセントの課税の対象となるのであるが、納付額が課税標準額の一〇パーセントであることは前記のとおり当事者間に争いがないから、これまた、誤納のないことが明らかである。

 六 してみれば、控訴人らの本訴請求中、その主張の誤納金の還付を求める部分は、控訴人名護製氷については、原判決別表(一)の(1)(省略)の通し番号1ないし77につき、その税額欄の金額を一ドルにつき一二〇五円の割合で換算した合計金額三九九万四九五五円(うち15、39、56、66については、沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令六条三項、国税通則法一二〇条一項を適用)の限度では理由があるから認容すべきであるが、これをこえる金額および前記別表中78ないし84に関する部分は理由がないからこれを慄却すべく、控訴人儀間については、原判決別表(二)の(1)(省略)の通し番号1ないし74の全部につきその税額欄の金額を右同様の割合で換算した合計金額四一九万九一一二五円(うち23、27、68については前記各法令の条項を適用)の限度、同我那覇については、原判決別表(三)の(1)(省略)の通し番号1ないし92の全部につきその税額欄の金額を右同様の割合で換算した合計金額三五一万九四一二九円(うち13、16、38、40、49、5458、63、77、78、83については前記各法令の条項を適用)の限度でそれぞれ理由があるからこれを認容するが、これをこえる金額については理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。

 つぎに、還付加算金の請求については、沖縄の本土復帰前における還付加算金は、その日数に応じて還付されるべき金額につき一日○・○四パーセントの割合を乗じて計算した金額によるべきものであつたところ(一九五二年立法第五九号租税徴収法五四条の二、一九六七年立法第一〇二号租税徴収法一六四条)、本土復帰後は国税通則法の適用を受け(沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律七二条二項および沖繩の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令六条一項一号参照)、昭和四七年五月一五日以降は、同法五八条に従い、右の割合は年七・三パーセントとなつたものと解すべきである。なお、控訴人らはいずれも、還付加算金の支払の終期についてその主張の還付加算金基準額の金銭の支払のすむ前月末日とするが、その趣旨は、復帰前の前記各租税徴収法の規定、国税通則法の規定が、還付加算金は還付のための支払決定がなされる日を終期としてこれを支払うべきものとして いることに徴すれば、その内金として、還付加算金基準額に対する前記割合を乗じた金額につき右支払決定がなされる日の前月末日までの金額の支払を求めるにあるものと解するのを相当とする。

 以上説示するところによれば、控訴人らの還付加算金の請求は、控訴人名護製氷については本判決別表(一)の(3)(省略)、同儀間については同表(二)の(3)(省略)、同我那覇については同表(三)の(3)(省略)の各加算金基準額に対する還付加算金起算の日から昭和四七年五月一四日までは一日につき○・○四パーセント、同月一五日以降各控訴人に対する本件還付金の還付のための支払決定のなされる日の前月末日までは年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払を求める限度で理由があるからいずれもこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

七 よつて、これと異なり、控訴人らの各請求を全部棄却した原判決は正当でないから、右の趣旨に従つて原判決を変更すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(判事 吉井直昭 屋宜正一 宮城安理)

別表(一)の(3)、(二)の(3)、(三)の(3)(省略)

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