栗山茂裁判長名判決 酌婦の前借金無効とした最高裁昭和30年
民法基本判例集掲載 ダットサン4版(2)エ1総則100
預金返還請求事件
菅野和夫「労働法 第10版」弘文堂・2013年・172頁
預金返還請求事件
最高裁判所第2小法廷判決/昭和28年(オ)第622号
昭和30年10月7日
【判示事項】 酌婦としての稼動契約に伴い消費貸借名義で交付された金員の返還請求の許否
【判決要旨】 酌婦としての稼動契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費貸借名義で交付された金員の返還請求は許されない。
【参照条文】 民法90
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集9巻11号1616頁
裁判所時報193号1頁
判例タイムズ53号37頁
判例時報61号3頁
金融法務事情126号26頁
【評釈論文】 ジュリスト93号23頁
ジュリスト200号154頁
ジュリスト増刊(民法の判例)18頁
ジュリスト増刊(民法の判例第2版)14頁
別冊ジュリスト2号92頁
別冊ジュリスト46号38頁
別冊ジュリスト77号38頁
法学協会雑誌97巻4号123頁
法学セミナー245号101頁
法律時報28巻1号91頁
民商法雑誌34巻3号85頁
主 文
原判決を破棄する。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は、全部被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人二宮卓及び柴田元一の上告理由は、それぞれ末尾添付のとおりである。
上告代理人二宮卓の上告理由及び上告代理人柴田元一の上告理由第一点について。
原審認定の事実によれば、上告人Aは、昭和二五年一二月二三日頃被上告人等先代Bから金四〇、〇〇〇円を期限を定めず借り受け、上告人Cは、右債務につき連帯保証をしたが、その弁済については、特にAの娘DがB方に住み込んだ上、同人がその妻の名義で経営していた料理屋業に関して酌婦稼働をなし、よつてDのうべき報酬金の半額をこれに充てることを約した、前記Dは当時いまだ一六才にも達しない少女であつたが、同人はその後B方で約旨に基き昭和二六年五月頃まで酌婦として稼働したに拘らず、Dの得た報酬金はすべて他の費用の弁済に充当せられ、上告人Aの受領した金員についての弁済には全然充てられるにいたらなかつたというのである。そして原審は、右事実に基き、Dの酌婦としての稼働契約及び消費貸借のうち前記弁済方法に関する特約の部分は、公序良俗に反し無効であるが、その無効は、消費貸借契約自体の成否消長に影響を及ぼすものではないと判断し、上告人両名に対し前記借用金員及び遅滞による損害金の支払をなすべきことを命じたのであつて、以上のうちDが酌婦として稼働する契約の部分が公序良俗に反し無効であるとする点については、当裁判所もまた見解を同一にするものである。しかしながら前記事実関係を実質的に観察すれば、上告人Aは、その娘Dに酌婦稼業をさせる対価として、被上告人先代から消費貸借名義で前借金を受領したものであり、被上告人先代もDの酌婦としての稼働の結果を目当てとし、これあるがゆえにこそ前記金員を貸与したものということができるのである。しからば上告人Aの右金員受領とDの酌婦としての稼働とは、密接に関連して互に不可分の関係にあるものと認められるから、本件において契約の一部たる稼働契約の無効は、ひいて契約全部の無効を来すものと解するを相当とする。大審院大正七年一〇月二日(民録二五輯一九五頁)及び大正一〇年九月二九日(民録二七輯一七七四頁)の判例は、いずれも当裁判所の採用しないところである。従つて本件のいわゆる消費貸借及び上告人Cのなした連帯保証契約はともに無効であり、そして以上の契約において不法の原因が受益者すなわち上告人等についてのみ存したものということはできないから、被上告人は民法七〇八条本文により、交付した金員の返還を求めることはできないものといわなければならない。原判決は法律の解釈を誤つたものであつて破棄を免れない。そして原審の確定した事実によれば、本件はすでに判決をなすに熟するものと認められるから、民訴四〇八条一号、九六条、八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 栗山 茂
裁判官 小谷勝重
裁判官 藤田八郎
裁判官 谷村唯一郎
裁判官 池田 克