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カテゴリ:憲法 > 学校

義務教育無償性の意義 最高裁昭和39年

憲法判例百選 第7版A11

義務教育費負担請求事件

最高裁判所大法廷判決/昭和38年(オ)第361号

昭和39年2月26日

【判示事項】      義務教育用の教科書代金返還等請求事件

            憲法第26条第2項後段の「無償」の範囲

【判決要旨】      義務教育なるが故にすべての費用を無償とすべきいわれはなく、また、義務教育の無償ということは、その言葉の意味からしても、制度の沿革に徴しても、授業料不徴収の意義に用いられてきたのであり、これと別異に解すべき特段の事情もないから、憲法第26条第2項後段の「義務教育は、これを無償とする」との規定は、義務教育の提供については対価としての授業料を徴収しないという意味であつて、そのほかに、教科書、学用品等教育に必要な一切の費用までこれを無償とする旨を定めたものではない。

【参照条文】      憲法26

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集18巻2号343頁

            訟務月報10巻3号523頁

            最高裁判所裁判集民事72号285頁

            裁判所時報396号2頁

            判例タイムズ157号94頁

            判例時報363号9頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト21号146頁

            別冊ジュリスト41号24頁

            別冊ジュリスト44号182頁

            別冊ジュリスト69号232頁

            別冊ジュリスト96号288頁

            別冊ジュリスト118号16頁

            東洋法学8巻1号79頁

            時の法令493号53頁

            法曹時報16巻4号109頁

            法律のひろば17巻4号20頁

            法律のひろば17巻4号25頁

            民商法雑誌51巻1号135頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告人の上告理由について。

 憲法二六条は、すべての国民に対して教育を受ける機会均等の権利を保障すると共に子女の保護者に対し子女をして最少限度の普通教育を受けさせる義務教育の制度と義務教育の無償制度を定めている。しかし、普通教育の義務制ということが、必然的にそのための子女就学に要する一切の費用を無償としなければならないものと速断することは許されない。けだし、憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは、単に普通教育が民主国家の存立、繁栄のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして、それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから、親の本来有している子女を教育すべき責務を完うせしめんとする趣旨に出たものでもあるから、義務教育に要する一切の費用は、当然に国がこれを負担しなければならないものとはいえないからである。

 憲法二六条二項後段の「義務教育は、これを無償とする。」という意義は、国が義務教育を提供するにつき有償としないこと、換言すれば、子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき、その対価を徴収しないことを定めたものであり、教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから、同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。そして、かく解することは、従来一般に国または公共団体の設置にかかる学校における義務教育には月謝を無料として来た沿革にも合致するものである。また、教育基本法四条二項および学校教育法六条但書において、義務教育については授業料はこれを徴収しない旨規定している所以も、右の憲法の趣旨を確認したものであると解することができる。それ故、憲法の義務教育は無償とするとの規定は、授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない。

 もとより、憲法はすべての国民に対しその保護する子女をして普通教育を受けさせることを義務として強制しているのであるから、国が保護者の教科書等の費用の負担についても、これをできるだけ軽減するよう配慮、努力することは望ましいところであるが、それは、国の財政等の事情を考慮て立法政策の問題として解決すべき事柄であつて、憲法の前記法条の規定するところではないというべきである。

 叙上と同趣旨に出でた原判決の判断は相当であり、論旨は、独自の見解というべく、採るを得ない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

     最高裁判所大法廷

         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎

            裁判官    入   江   俊   郎

            裁判官    奥   野   健   一

            裁判官    石   坂   修   一

            裁判官    山   田   作 之 助

            裁判官    五 鬼 上   堅   磐

            裁判官    横   田   正   俊

            裁判官    斎   藤   朔   郎

            裁判官    草   鹿   浅 之 介

            裁判官    長   部   謹   吾

            裁判官    城   戸   芳   彦

            裁判官    石   田   和   外

            裁判官    柏   原   語   六

 

教科書検定と裁量審査 最高裁平成5年

行政判例百選 第7版 79-1

損害賠償請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和61年(オ)第1428号

平成5年3月16日

【判示事項】      一 学校教育法二一条一項(昭和四五年法律第四八による改正前のもの)、五一条(昭和四九年法律第七〇号による改正前のもの)、旧教科用図書検定規則(昭和二三年文部省令第四号)、旧教科用図書検定基準(昭和三三年文部省告示第八六号)に基づく高等学校用の教科書図書の検定と憲法二六条、教育基本法一〇条

            二 右検定と憲法二一条二項前段

            三 右検定と憲法二一条一項

            四 右検定と憲法二三条

            五 右検定における文部大臣の裁量的判断と国家賠償上の違法

【判決要旨】      一 学校教育法二一条二項(昭和四五年法律第四八号による改正前のもの)、五一条(昭和四九年法律第七〇号による改正前のもの)、旧教科用図書検定規則(昭和二三年文部省令第四号)、旧教科用図書検定基準(昭和三三年文部省告示第八六号)に基づく高等学校用の教科用図書の検定は、憲法二六条、教育基本法一〇条に違反しない。

            二 右検定は、憲法二一条二項前段に違反しない。

            三 右検定は、憲法二一条一項に違反しない。

            四 右検定は、憲法二三条に違反しない。

            五 右検定における合否の判定等の判断は、文部大臣の合理的な裁量にゆだねられているが、文部大臣の諮問機関である教科用図書検定調査審議会の判断の過程に、申請原稿の記述内容又は欠陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況、教育状況についての認識や、検定の基準に違反するとの評価等に関して看過し難い過誤があり、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、右判断は、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償法上違法となる。

【参照条文】      学校教育法21-1(昭45法48号改正前)

            学校教育法51(昭49法70号改正前)

            旧教科用図書検定規則(昭23文部省令4号)1

            旧教科用図書検定規則(昭23文部省令4号)2

            旧教科用図書検定規則(昭23文部省令4号)3

            憲法26

            教育基本法10

            憲法21

            憲法23

            国家賠償法1-1

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集47巻5号3483頁

            訟務月報40巻3号518頁

            最高裁判所裁判集民事168号上293頁

            裁判所時報1095号113頁

            判例タイムズ816号97頁

            判例時報1456号62頁

【評釈論文】      ジュリスト1026号8頁

            ジュリスト1026号22頁

            ジュリスト1026号30頁

            ジュリスト1026号35頁

            ジュリスト臨時増刊1046号29頁

            ジュリスト臨時増刊1046号42頁

            別冊ジュリスト130号178頁

            別冊ジュリスト241号172頁

            訟務月報40巻3号96頁

            南山法学17巻2号237頁

            法学教室156号98頁

            法曹時報48巻1号153頁

            法律時報65巻8号8頁

            法律のひろば46巻10号37頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 一 上告代理人森川金寿、同尾山宏、同新井章、同雪入益見、同高橋清一、同田原俊雄、同今永博彬、同内藤功、同四位直毅、同榎本信行、同福田拓、同吉川基道、同荒井誠一郎、同小林正彦、同大川隆司、同大森典子、同高野範城、同門井節夫、同江森民夫、同金井清吉、同上野賢太郎、同荒井良一、同渡辺春己、同吉田武男、同立石則文、同加藤文也、同藤田康幸、同斎藤豊、同栄枝明典、同前田留里、同山崎泉、同井沢光朗の上告理由第三章第一節について

 1 所論は、要するに、学校教育法二一条一項(昭和四五年法律第四八号による改正前のもの、以下同じ)、五一条(昭和四九年法律第七〇号による改正前のもの、以下同じ)、旧教科用図書検定規則(昭和二三年文部省令第四号、以下「旧検定規則」という)、旧教科用図書検定基準(昭和三三年文部省告示第八六号、以下「旧検定基準」という)に基づく高等学校用の教科用図書の検定(以下「本件検定」という)は、国が教育内容に介入するものであるから、憲法二六条、教育基本法一〇条に違反するというにある。

 2 しかし、憲法二六条は、子どもに対する教育内容を誰がどのように決定するかについて、直接規定していない。憲法上、親は家庭教育等において子女に対する教育の自由を有し、教師は、高等学校以下の普通教育の場においても、授業等の具体的内容及び方法においてある程度の裁量が認められるという意味において、一定の範囲における教育の自由が認められ、私学教育の自由も限られた範囲において認められるが、それ以外の領域においては、国は、子ども自身の利益の擁護のため、又は子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、子どもに対する教育内容を決定する権能を有する。もっとも、教育内容への国家的介入はできるだけ抑制的であることが要請され、殊に、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制することは許されない。また、教育行政機関が法令に基づき教育の内容及び方法に関して許容される目的のために必要かつ合理的と認められる規制を施すことは、必ずしも教育基本法一〇条の禁止するところではない。以上は、当裁判所の判例(最高裁昭和四三年(あ)第一六一四号同五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号六一五頁)の示すところである。

 3 学校教育法二一条一項は、小学校においては文部大臣の検定を経た教科用図書(以下「教科書」という)等を使用しなければならない旨を規定し、同法四〇条が中学校に、同法五一条が高等学校にこれを準用している。これを受けて、旧検定規則一条一項は、右文部大臣の検定は、著作者又は発行者から申請された「図書が教育基本法及び学校教育法の趣旨に合し、教科用に適することを認めるものとする」旨を規定している。そして、その審査の具体的な基準は旧検定基準に規定されているが、これによれば、本件の高等学校用日本史の教科書についての審査は、教育基本法に定める教育の目的及び方針等並びに学校教育法に定める当該学校の目的と一致していること、学習指導要領に定める当該教科の目標と一致していること、政治や宗教について立場が公正であることの三項目の「絶対条件」(これに反する申請図書は絶対的に不適格とされる)と、取扱内容(取扱内容は学習指導要領に定められた当該科目等の内容によっているか)、正確性(誤りや不正確なところはないか、一面的な見解だけを取り上げている部分はないか)、内容の選択(学習指導要領の示す教科及び科目等の目標の達成に適切なものが選ばれているか)、内容の程度等(その学年の児童・生徒の心身の発達段階に適応しているか等)、組織・配列・分量(組織・配列・分量は学習指導を有効に進め得るように適切に考慮されているか)等の一〇項目の「必要条件」(これに反する申請図書は欠陥があるとされるが、絶対的に不適格とはされない)を基準として行われ、他の教科、科目についてもほぼ同じである。したがって、本件検定による審査は、単なる誤記、誤植等の形式的なものにとどまらず、記述の実質的な内容、すなわち教育内容に及ぶものである。

 しかし、普通教育の場においては、児童、生徒の側にはいまだ授業の内容を批判する十分な能力は備わっていないこと、学校、教師を選択する余地も乏しく教育の機会均等を図る必要があることなどから、教育内容が正確かつ中立・公正で、地域、学校のいかんにかかわらず全国的に一定の水準であることが要請されるのであって、このことは、もとより程度の差はあるが、基本的には高等学校の場合においても小学校、中学校の場合と異ならないのである。また、このような児童、生徒に対する教育の内容が、その心身の発達段階に応じたものでなければならないことも明らかである。そして、本件検定が、右の各要請を実現するために行われるものであることは、その内容から明らかであり、その審査基準である旧検定基準も、右目的のための必要かつ合理的な範囲を超えているものとはいえず、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような内容を含むものでもない。また、右のような検定を経た教科書を使用することが、教師の授業等における前記のような裁量の余地を奪うものでもない。

   なお、所論は、教育の自由の一環として国民の教科書執筆の自由をいうが、憲法二六条がこれを規定する趣旨でないことは前記のとおりであり、憲法二一条、二三条との関係については、後記二、三において判断するとおりである。

   したがって、本件検定は、憲法二六条、教育基本法一〇条の規定に違反するものではなく、このことは、前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は正当であって、論旨は採用することができない。

 二 同第三章第二節(憲法二一条違反)について

 1 本件検定において合格とされた図書については、その名称、著作者の氏名及び発行者の住所氏名等一定の事項が官報に公告され(旧検定規則一二条一項)、文部大臣が都道府県の教育委員会に送付する教科書の目録にその書目等が登載され、教育委員会が開催する教科書展示会にその見本を出品することができる(教科書の発行に関する臨時措置法五条一項、六条一、三項)。そして、前記のとおり、学校においては、教師、児童、生徒は右出品図書の中から採択された教科書を使用しなければならないとされている。他方、不合格とされた図書は、右のような特別な取扱いを受けることができず、教科書としての発行の道が閉ざされることになるが、右制約は、普通教育の場において使用義務が課せられている教科書という特殊な形態に限定されるのであって、不合格図書をそのまま一般図書として発行し、教師、児童、生徒を含む国民一般にこれを発表すること、すなわち思想の自由市場に登場させることは、何ら妨げられるところはない(原審の適法に確定した事実関係によれば、現に上告人は、昭和三二年四月に検定不合格処分を受けた高等学校用日本史の教科用の図書とほとんど同じ内容のものを、昭和三四年に一般図書として発行している。なお、上告人がその後も、右検定不合格図書を「検定不合格日本史」の名の下に、一般図書として発行し、版を重ねていることは、周知のところである)。また、一般図書として発行済みの図書をそのまま検定申請することももとより可能である。

 2 憲法二一条二項にいう検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的とし、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを特質として備えるものを指すと解すべきである。本件検定は、前記のとおり、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲に当たらず、憲法二一条二項前段の規定に違反するものではない。このことは、当裁判所の判例(最高裁昭和五七年(行ツ)第一五六号同五九年一二月一二日大法廷判決・民集三八巻一二号一三〇八頁)の趣旨に徴して明らかである。

 3 また、憲法二一条一項にいう表現の自由といえども無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限を受けることがあり、その制限が右のような限度のものとして容認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。これを本件検定についてみるのに、(一) 前記のとおり、普通教育の場においては、教育の中立・公正、一定水準の確保等の要請があり、これを実現するためには、これらの観点に照らして不適切と認められる図書の教科書としての発行、使用等を禁止する必要があること(普通教育の場でこのような教科書を使用することは、批判能力の十分でない児童、生徒に無用の負担を与えるものである)、(二) その制限も、右の観点からして不適切と認められる内容を含む図書のみを、教科書という特殊な形態において発行を禁ずるものにすぎないことなどを考慮すると、本件検定による表現の自由の制限は、合理的で必要やむを得ない限度のものというべきであって、憲法二一条一項の規定に違反するものではない。このことは、当裁判所の判例(最高裁昭和四四年(あ)第一五〇一号同四九年一一月六日大法廷判決・刑集二八巻九号三九三頁、最高裁昭和五二年(オ)九二七号同五八年六月二二日大法廷判決・民集三七巻五号七九三頁、最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日大法廷判決・民集四六巻五号四三七頁)の趣旨に徴して明らかである。

   所論引用の最高裁昭和五六年(オ)第六〇九号同六一年六月一一日大法廷判決・民集四〇巻四号八七二頁は、発表前の雑誌の印刷、製本、販売、頒布等を禁止する仮処分、すなわち思想の自由市場への登場を禁止する事前抑制そのものに関する事案において、右抑制は厳格かつ明確な要件の下においてのみ許容され得る旨を判示したものであるが、本件は思想の自由市場への登場自体を禁ずるものではないから、右判例の妥当する事案ではない。

   所論は、本件検定は、審査の基準が不明確であるから憲法二一条一項の規定に違反するとも主張する。確かに、旧検定基準の一部には、包括的で、具体的記述がこれに該当するか否か必ずしも一義的に明確であるといい難いものもある。しかし、右旧検定基準及びその内容として取り込まれている高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)の教科の目標並びに科目の目標及び内容の各規定は、学術的、教育的な観点から系統的に作成されているものであるから、当該教科、科目の専門知識を有する教科書執筆者がこれらを全体として理解すれば、具体的記述への当てはめができないほどに不明確であるとはいえない。所論違憲の主張は、前提を欠き、失当である。

   したがって、本件検定は憲法二一条一項の規定に違反するとはいえず、これと同旨の原審の判断は正当である。論旨は採用することができない。

 三 同第三章第三節(憲法二三条違反)について

  教科書は、教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、普通教育の場において使用される児童、生徒用の図書であって(後出四の2参照)、学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、本件検定は、申請図書に記述された研究結果が、たとい執筆者が正当と信ずるものであったとしても、いまだ学界において支持を得ていなかったり、あるいは当該学校、当該教科、当該科目、当該学年の児童、生徒の教育として取り上げるにふさわしい内容と認められないときなど旧検定基準の各条件に違反する場合に、教科書の形態における研究結果の発表を制限するにすぎない。このような本件検定が学問の自由を保障した憲法二三条の規定に違反しないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和三一年(あ)第二九七三号同三八年五月二二日大法廷判決・刑集一七巻四号三七〇頁、最高裁昭和三九年(あ)第三〇五号同四四年一〇月一五日大法廷判決・刑集二三巻一〇号一二三九頁)の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は正当であって、論旨は採用することができない。

 四 同第三章第四節のうち、法治主義(憲法一三条、四一条、七三条六号)違反の点について

 1 学校教育法五一条によって高等学校に準用される同法二一条一項は、文部大臣が検定権限を有すること、学校においては検定を経た教科書を使用する義務があることを定めたものであり、検定の主体、効果を規定したものとして、本件検定の根拠規定とみることができる。

 2 また、本件検定の審査の内容及び基準並びに検定の手続は、文部省令、文部省告示である旧検定規則、旧検定基準に規定されている。しかし、教科書は、小学校、中学校、高等学校及びこれらに準ずる学校において、教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、授業の用に供せられる児童又は生徒用図書であり(昭和四五年法律第四八号による改正前の教科書の発行に関する臨時措置法二条一項)、これらの学校における教育が正確かつ中立・公正でなければならず、心身の発達段階に応じて定められた当該学校の目的、教育の目標、教科の内容(具体的には、法律の委任を受けて定められた学習指導要領)等にそって行われるべきことは、教育基本法、学校教育法の関係条文から明らかであり、これらによれば、教科書は、内容が正確かつ中立・公正であり、当該学校の目的、教育目標、教科内容に適合し、内容の程度が児童、生徒の心身の発達段階に応じたもので、児童、生徒の使用の便宜に適うものでなければならないことはおのずと明らかである。そして、右旧検定規則、旧検定基準は、前記のとおり、右の関係法律から明らかな教科書の要件を審査の内容及び基準として具体化したものにすぎない。そうだとすると、文部大臣が、学校教育法八八条の規定(「この法律に規定するもののほか、この法律施行のため必要な事項で、地方公共団体の機関が処理しなければならないものについては政令で、その他のものについては監督庁が、これを定める」)に基づいて、右審査の内容及び基準並びに検定の施行細則である検定の手続を定めたことが、法律の委任を欠くとまではいえない。

 3 したがって、所論違憲の主張は、前提を欠き、失当である。これと同旨の原審の判断は正当であって、論旨は採用することができない。

 五 同第三章第四節のうち、手続保障(憲法三一条)違反の点について

 1 所論は、行政手続にも憲法三一条が適用されるところ、(一) 検定の審議手続が公開されていないこと、(二) 検定不合格の場合は、事前に不合格理由についての告知、弁解、防御の機会が与えられず、事後の告知も理由の一部についてされるにすぎないこと、(三) 教科用図書検定調査審議会の人選が不公正であること、(四) 検定の基準(旧検定基準)の内容が不明確であることなどから、本件検定は手続保障に違反するものであるというにある(その余の論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎない)。

 2 しかし、右(三)の審議会の人選が不公正であるとの点は原審の認定にそわない事実に基づくものであり、右(四)の旧検定基準が不明確とはいえないことも前記のとおりであるから、右(三)、(四)についての所論違憲の主張は、その前提を欠く。

 3 また、行政処分については、憲法三一条による法定手続の保障が及ぶと解すべき場合があるにしても、それぞれの行政目的に応じて多種多様であるから、常に必ず行政処分の相手方に告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を必要とするものではない。

   本件検定による制約は、思想の自由市場への登場という表現の自由の本質的な部分に及ぶものではなく、また、教育の中立・公正、一定水準の確保等の高度の公益目的のために行われるものである。これらに加え、検定の公正を保つために、文部大臣の諮問機関として、教育的、学術的な専門家である教育職員、学識経験者等を委員とする前記審議会が設置され(昭和五八年法律第七八号による改正前の文部省設置法二七条一項、昭和五九年政令第二二九号による改正前の教科用図書検定調査審議会令一条、三条一項)、文部大臣の合否の決定は同審議会の答申に基づいて行われること(旧検定規則二条)、申請者に交付される不合格決定通知書には、不合格の理由として、主に旧検定基準のどの条件に違反するかが記載されているほか、文部大臣の補助機関である教科書調査官が申請者側に口頭で申請原稿の具体的な欠陥箇所を例示的に摘示しながら補足説明を加え、申請者側の質問に答える運用がされ、その際には速記、録音機等の使用も許されていること、申請者は右の説明応答を考慮した上で、不合格図書を同一年度内ないし翌年度に再申請することが可能であることなどの原審の適法に確定した事実関係を総合勘案すると、前記(一)、(二)の事情があったとしても、そのことの故をもって直ちに、本件検定が憲法三一条の法意に反するということはできない。以上は、当裁判所の判例(最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日大法廷判決・民集四六巻五号四三七頁)の趣旨に徴して明らかである(その後、旧検定規則が昭和五二年文部省令第三二号教科用図書検定規則によって全文改正され、同規則一一条によって、新たに不合格理由の事前通知及び反論の聴取の制度が設けられたことは、原判決の説示にもみられるとおりである)。

 4 したがって、所論の点に関する原審の判断は、本件検定に手続保障違反の違法がないとした結論において正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 六 同第四章について(ただし、本判決末尾添付の「個別検定箇所分類表」の×印が付された箇所に関する部分を除く。右部分は、昭和六三年一一月二四日付け上告理由補充書をもって上告理由から撤回されている。後記七、八につき同じ)

  所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右事実関係の下においては、本件各検定処分において検定関係法令が憲法又は教育基本法の趣旨に反して適用、運用されたとはいえないとした原審の判断は、前記各大法廷判決(昭和三八年五月二二日判決、昭和四四年一〇月一五日判決、昭和四九年一一月六日判決、昭和五一年五月二一日判決、昭和五八年六月二二日判決、昭和五九年一二月一二日判決、平成四年七月一日判決)の趣旨に徴して、正当として是認することができ、その過程にも所論判断遺脱等の違法はない。論旨は採用することができない。

 七 同第五章(第一節第四及び平等原則違反、一貫性原則違反の点を除く)について

 1 本件検定における教科用図書検定調査審議会の合否の判定は、旧検定基準の絶対条件については各条件ごとに合否を判定し、必要条件については、各条件ごとに申請原稿中の欠陥があるとされる箇所を具体的に指摘し(右欠陥箇所の指摘を「検定意見」と称している)、その欠陥の質及び量に基づき各条件ごとの評点を決し、右各評点を合計して合否を判定し(必要条件全体に一〇五〇点の評点を配し、八〇〇点以上を「合」とする)、右絶対条件及び必要条件のいずれについても「合」とされたものを、合格と判定している。そして、この場合においても、指摘された欠陥で程度が大きいと認められるものについては、その修正を条件として合格と判定される(中学校用および高等学校用教科用図書の検定申請新原稿の調査評定および合否判定に関する内規・昭和三四年一二月一二日審議会決定)。上告人側の申請に係る本件図書については、昭和三七年度は、申請原稿に三二三箇所の欠陥が指摘され、絶対条件は「合」とされたが、必要条件の合計評点が七八四点で同条件において「否」とされ、不合格と判定された。また、昭和三八年度は、申請原稿に二九〇箇所の欠陥が指摘されたが、絶対条件、必要条件(合計評点八四六点)とも「合」とされ、欠陥修正後の再審査を条件として合格と判定された。右審議会の合否の判定は、欠陥の指摘(検定意見)とともに文部大臣に答申され、文部大臣は両年度とも答申どおりの処分をした(なお、昭和三八年度は、再審査の段階で欠陥の追加指摘がされた)。以上は原審の適法に確定するところである。

 2 本件検定の審査基準等を直接定めた法律はないが、文部大臣の検定権限は、前記一の2記載の憲法上の要請にこたえ、教育基本法、学校教育法の趣旨に合致するように行使されなければならないところ、前記のとおり、検定の具体的内容等を定めた旧検定規則、旧検定基準は右の要請及び各法条の趣旨を具現したものであるから、右検定権限は、これらの検定関係法規の趣旨にそって行使されるべきである。そして、これらによる本件検定の審査、判断は、申請図書について、内容が学問的に正確であるか、中立・公正であるか、教科の目標等を達成する上で適切であるか、児童、生徒の心身の発達段階に適応しているか、などの様々な観点から多角的に行われるもので、学術的、教育的な専門技術的判断であるから、事柄の性質上、文部大臣の合理的な裁量に委ねられるものというべきである。したがって、合否の判定、条件付合格の条件の付与等についての教科用図書検定調査審議会の判断の過程(検定意見の付与を含む)に、原稿の記述内容又は欠陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況、教育状況についての認識や、旧検定基準に違反するとの評価等に看過し難い過誤があって、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、右判断は、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償法上違法となると解するのが相当である。

 なお、検定意見は、原稿の個々の記述に対して旧検定基準の各必要条件ごとに具体的理由を付して欠陥を指摘するものであるから、各検定意見ごとに、その根拠となるべき学説状況や教育状況等も異なるものである。例えば、正確性に関する検定意見は、申請図書の記述の学問的な正確性を問題とするものであって、検定当時の学界における客観的な学説状況を根拠とすべきものであるが、検定意見には、その実質において、(一) 原稿記述が誤りであるとして他説による記述を求めるものや、(二) 原稿記述が一面的、断定的であるとして両説併記等を求めるものなどがある。そして、検定意見に看過し難い過誤があるか否かについては、右(一)の場合は、検定意見の根拠となる学説が通説、定説として学界に広く受け入れられており、原稿記述が誤りと評価し得るかなどの観点から、右(二)の場合は、学界においていまだ定説とされる学説がなく、原稿記述が一面的であると評価し得るかなどの観点から、判断すべきである。また、内容の選択や内容の程度等に関する検定意見は、原稿記述の学問的な正確性ではなく、教育的な相当性を問題とするものであって、取り上げた内容が学習指導要領に規定する教科の目標等や児童、生徒の心身の発達段階等に照らして不適切であると評価し得るかなどの観点から判断すべきものである。

 3 原審が裁量権の範囲の逸脱の審査基準として説示するところは、結局のところ、以上と同旨をいうものとして是認することができる。

   また、審議会が付した所論の各検定意見(前記「個別検定箇所分類表」の「固有濫用」欄参照)に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、その説示の一部において措辞妥当を欠く点がないではないが、右各検定意見に看過し難い過誤があったとはいえないとする趣旨のものとして、結論において是認し得ないものではない(右各検定意見の中には、その内容が細部にわたり過ぎるものが若干含まれているが、いまだ、旧検定基準に違反するとの評価において看過し難い過誤があるというには当たらない)。

 4 したがって、文部大臣の本件各検定処分に所論の裁量権の範囲の逸脱の違法があったとはいえず、これと同旨の原審の判断は相当である。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するに帰し、いずれも採用することができない。

 八 同第五章のうち、平等原則違反、一貫性原則違反の点について

  原審の適法に確定した事実関係の下においては、文部大臣の本件各検定処分に所論平等原則違反、一貫性原則違反の裁量権の範囲の逸脱の違法があったとはいえないとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 九 同第五章第一節第四について

  所論の点に関する原審の判断は、記録に照らして是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、原審で主張しなかった事由に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

 一〇 結論

  よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第三小法廷

        裁判長裁判官  可部恒雄

           裁判官  坂上壽夫

           裁判官  園部逸夫

           裁判官  佐藤庄市郎

 

(個別検定箇所分類表は末尾添付)

 

 

学校施設使用許可と考慮事項の審査 最高裁平成18年

行政判例百選 第7版 73事件

損害賠償請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成15年(受)第2001号

平成18年2月7日

【判示事項】       1 公立学校施設の目的外使用の許否の判断と管理者の裁量権

             2 学校教育法85条に定める学校教育上の支障の意義

             3 公立学校施設の目的外使用の許否の判断の適否に関する司法審査の方法

             4 公立小中学校等の教職員の職員団体が教育研究集会の会場として市立中学校の学校施設を使用することを不許可とした市教育委員会の処分が裁量権を逸脱したものであるとされた事例

【判決要旨】       1 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられており,学校教育上支障がない場合であっても,行政財産である学校施設の目的及び用途と当該使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により許可をしないこともできる。

             2 学校教育法85条に定める学校教育上の支障がある場合とは,物理的支障がある場合に限られるものではなく,教育的配慮の観点から,児童,生徒に対し精神的悪影響を与え,学校の教育方針にもとることとなる場合も含まれ,現在の具体的な支障がある場合だけでなく,将来における教育上の支障が生ずるおそれが明白に認められる場合も含まれる。

             3 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かの管理者の判断の適否に関する司法審査は,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものである。

             4 公立小中学校等の教職員によって組織された職員団体がその主催する教育研究集会の会場として市立中学校の学校施設を使用することの許可を申請したのに対し,市教育委員会が同中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由でこれを不許可とする処分をした場合につき,①教育研究集会は,上記職員団体の労働運動としての側面も強く有するものの,教員らによる自主的研修としての側面をも有していること,②前年の第48次教育研究集会まで1回を除いてすべて学校施設が会場として使用されてきていたこと,③上記申請に係る集会について右翼団体等による具体的な妨害の動きがあったことは認められず,上記集会の予定された日は休校日である土曜日と日曜日であったこと,④教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領等に対して批判的な内容の記載は存在するが,いずれも抽象的な表現にとどまり,それらが自主的研修の側面を大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないこと,⑤当該集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで利便性に大きな差違があることは否定できないこと,⑥当該中学校の校長が職員会議を開いた上で支障がないとし,いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に,市教育委員会が過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し,不許可処分をするに至ったことなど判示の事情の下においては,上記不許可処分は裁量権を逸脱したものである。

【参照条文】       学校教育法85

             地方自治法238-4

             地方自治法238の4-4

             学校施設の確保に関する政令3

             地方教育行政の組織及び運営に関する法律23

             国家賠償法1-1

             行政事件訴訟法30

             呉市立学校施設使用規則(昭40呉市教育委員会規則4号)2

             呉市立学校施設使用規則(昭40呉市教育委員会規則4号)4

             呉市立学校施設使用規則(昭40呉市教育委員会規則4号)5

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集60巻2号401頁

             裁判所時報1405号113頁

             判例タイムズ1213号106頁

             判例時報1936号63頁

             労働判例916号5頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       季刊教育法152号74頁

             自治研究84巻10号142頁

             ジュリスト1333号109頁

             同志社法学59巻1号271頁

             判例時報1956号177頁

             法学セミナー51巻10号116頁

             法曹時報59巻11号284頁

             法律時報79巻8号173頁

             法令解説資料総覧295号90頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人岡秀明の上告受理申立て理由について

 1 本件は,広島県の公立小中学校等に勤務する教職員によって組織された職員団体である被上告人が,その主催する第49次広島県教育研究集会(以下「本件集会」という。)の会場として,呉市立青森中学校(以下「本件中学校」という。)の体育館等の学校施設の使用を申し出たところ,いったんは口頭でこれを了承する返事を本件中学校の校長(以下,単に「校長」という。)から得たのに,その後,呉市教育委員会(以下「市教委」という。)から不当にその使用を拒否されたとして,上告人に対し,国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,以下のとおりである。

 (1)呉市立学校施設使用規則(昭和40年呉市教育委員会規則第4号。以下「本件使用規則」という。)2条は,学校施設を使用しようとする者は,使用日の5日前までに学校施設使用許可申請書を当該校長に提出し,市教委の許可を受けなければならないとしている。本件使用規則は,4条で,学校施設は,市教委が必要やむを得ないと認めるときその他所定の場合に限り,その用途又は目的を妨げない限度において使用を許可することができるとしているが,5条において,施設管理上支障があるとき(1号),営利を目的とするとき(2号),その他市教委が,学校教育に支障があると認めるとき(3号)のいずれかに該当するときは,施設の使用を許可しない旨定めている。

 (2)被上告人は,本件集会を,本件中学校において,平成11年11月13日(土)と翌14日(日)の2日間開催することとし,同年9月10日,校長に学校施設の使用許可を口頭で申し込んだところ,校長は,同月16日,職員会議においても使用について特に異議がなかったので,使用は差し支えないとの回答をした。

 市教委の教育長は,同月17日,被上告人からの使用申込みの事実を知り,校長を呼び出して,市教委事務局学校教育部長と3人で本件中学校の学校施設の使用の許否について協議をし,従前,同様の教育研究集会の会場として学校施設の使用を認めたところ,右翼団体の街宣車が押し掛けてきて周辺地域が騒然となり,周辺住民から苦情が寄せられたことがあったため,本件集会に本件中学校の学校施設を使用させることは差し控えてもらいたい旨切り出した。しばらくのやりとりの後,校長も使用を認めないとの考えに達し,同日,校長から被上告人に対して使用を認めることができなくなった旨の連絡をした。

 被上告人側と市教委側とのやりとりを経た後,被上告人から同月10日付けの使用許可申請書が同年10月27日に提出されたのを受けて,同月31日,市教委において,この使用許可申請に対し,本件使用規則5条1号,3号の規定に該当するため不許可にするとの結論に達し,同年11月1日,市教委から被上告人に対し,同年10月31日付けの学校施設使用不許可決定通知書が交付された(以下,この使用不許可処分を「本件不許可処分」という。)。同通知書には,不許可理由として,本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの記載があった。

 (3)本件集会は,結局,呉市福祉会館ほかの呉市及び東広島市の七つの公共施設を会場として開催された。

 (4)被上告人は,昭和26年から毎年継続して教育研究集会を開催してきており,毎回1000人程度の参加者があった。第16次を除いて,第1次から第48次まで,学校施設を会場として使用してきており,広島県においては本件集会を除いて学校施設の使用が許可されなかったことはなかった。呉市内の学校施設が会場となったことも,過去10回前後あった。

 (5)被上告人の教育研究集会では,全体での基調提案ないし報告及び記念公演のほか,約30程度の数の分科会に分かれての研究討議が行われる。各分科会では,学校教科その他の項目につき,新たな学習題材の報告,授業展開に当たっての具体的な方法論の紹介,各項目における問題点の指摘がされ,これらの報告発表に基づいて討議がされる。このように,教育研究集会は,教育現場において日々生起する教育実践上の問題点について,各教師ないし学校単位の研究や取組みの成果が発表,討議の上,集約され,その結果が教育現場に還元される場ともなっている一方,広島県教育委員会(以下「県教委」という。)等による研修に反対する立場から,職員団体である被上告人の基本方針に基づいて運営され,分科会のテーマ自体にも,教職員の人事や勤務条件,研修制度を取り上げるものがあり,教科をテーマとするものについても,学習指導要領に反対したり,これを批判する内容のものが含まれるなど,被上告人の労働運動という側面も強く有するものであった。

 (6)平成4年に呉市で行われた第42次教育研究集会を始め,過去,被上告人の開催した教育研究集会の会場である学校に,集会当日,右翼団体の街宣車が来て,スピーカーから大音量の音を流すなどの街宣活動を行って集会開催を妨害し,周辺住民から学校関係者等に苦情が寄せられたことがあった。

 しかし,本件不許可処分の時点で,本件集会について右翼団体等による具体的な妨害の動きがあったという主張立証はない。

 (7)被上告人の教育研究集会の要綱などの刊行物には,学習指導要領の問題点を指摘しこれを批判する内容の記載や,文部省から県教委等に対する是正指導にもあった卒業式及び入学式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導に反対する内容の記載が多数見受けられ,過去の教育研究集会では,そのような内容の討議がされ,本件集会においても,同様の内容の討議がされることが予想された。もっとも,上記記載の文言は,いずれも抽象的な表現にとどまっていた。

 (8)県教委と被上告人とは,以前から,国旗掲揚,国歌斉唱問題や研修制度の問題等で緊張関係にあり,平成10年7月に新たな教育長が県教委に着任したころから,対立が激化していた。

 3 原審は,上記事実関係を前提として,本件不許可処分は裁量権を逸脱した違法な処分であると判断した。所論は,原審の上記判断に,地方自治法244条2項,238条の4第4項,学校教育法85条,教育公務員特例法(平成15年法律第117号による改正前のもの。以下同じ。)19条,20条の解釈の誤り,裁量権濫用の判断の誤り等があると主張するので,以下この点について判断する。

 (1)地方公共団体の設置する公立学校は,地方自治法244条にいう「公の施設」として設けられるものであるが,これを構成する物的要素としての学校施設は同法238条4項にいう行政財産である。したがって,公立学校施設をその設置目的である学校教育の目的に使用する場合には,同法244条の規律に服することになるが,これを設置目的外に使用するためには,同法238条の4第4項に基づく許可が必要である。教育財産は教育委員会が管理するとされているため(地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条2号),上記の許可は本来教育委員会が行うこととなる。

 学校施設の確保に関する政令(昭和24年政令第34号。以下「学校施設令」という。)3条は,法律又は法律に基づく命令の規定に基づいて使用する場合及び管理者又は学校の長の同意を得て使用する場合を例外として,学校施設は,学校が学校教育の目的に使用する場合を除き,使用してはならないとし(1項),上記の同意を与えるには,他の法令の規定に従わなければならないとしている(2項)。同意を与えるための「他の法令の規定」として,上記の地方自治法238条の4第4項は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができると定めており,その趣旨を学校施設の場合に敷えんした学校教育法85条は,学校教育上支障のない限り,学校の施設を社会教育その他公共のために,利用させることができると規定している。本件使用規則も,これらの法令の規定を受けて,市教委において使用許可の方法,基準等を定めたものである。

 (2)地方自治法238条の4第4項,学校教育法85条の上記文言に加えて,学校施設は,一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設とは異なり,本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され,それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている(学校施設令1条,3条)ことからすれば,学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。すなわち,学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが,そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく,行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。学校教育上の支障とは,物理的支障に限らず,教育的配慮の観点から,児童,生徒に対し精神的悪影響を与え,学校の教育方針にもとることとなる場合も含まれ,現在の具体的な支障だけでなく,将来における教育上の支障が生ずるおそれが明白に認められる場合も含まれる。また,管理者の裁量判断は,許可申請に係る使用の日時,場所,目的及び態様,使用者の範囲,使用の必要性の程度,許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度,代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり,その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。

 (3)教職員の職員団体は,教職員を構成員とするとはいえ,その勤務条件の維持改善を図ることを目的とするものであって,学校における教育活動を直接目的とするものではないから,職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって,管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し,許容しなければならない義務を負うものではないし,使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては,その使用不許可が違法となるものでもない。また,従前,同一目的での使用許可申請を物理的支障のない限り許可してきたという運用があったとしても,そのことから直ちに,従前と異なる取扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。もっとも,従前の許可の運用は,使用目的の相当性やこれと異なる取扱いの動機の不当性を推認させることがあったり,比例原則ないし平等原則の観点から,裁量権濫用に当たるか否かの判断において考慮すべき要素となったりすることは否定できない。

 (4)以上の見地に立って本件を検討するに,原審の適法に確定した前記事実関係等の下において,以下の点を指摘することができる。

 ア 教育研究集会は,被上告人の労働運動としての側面も強く有するものの,その教育研究活動の一環として,教育現場において日々生起する教育実践上の問題点について,各教師ないし学校単位の研究や取組みの成果が発表,討議の上,集約される一方で,その結果が,教育現場に還元される場ともなっているというのであって,教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ,その側面に関する限りは,自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条,20条の趣旨にかなうものというべきである。被上告人が本件集会前の第48次教育研究集会まで1回を除いてすべて学校施設を会場として使用してきており,広島県においては本件集会を除いて学校施設の使用が許可されなかったことがなかったのも,教育研究集会の上記のような側面に着目した結果とみることができる。このことを理由として,本件集会を使用目的とする申請を拒否するには正当な理由の存在を上告人において立証しなければならないとする原審の説示部分は法令の解釈を誤ったものであり是認することができないものの,使用目的が相当なものであることが認められるなど,被上告人の教育研究集会のための学校施設使用許可に関する上記経緯が前記(3)で述べたような趣旨で大きな考慮要素となることは否定できない。

 イ 過去,教育研究集会の会場とされた学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったというのであるから,抽象的には街宣活動のおそれはあったといわざるを得ず,学校施設の使用を許可した場合,その学校施設周辺で騒じょう状態が生じたり,学校教育施設としてふさわしくない混乱が生じたりする具体的なおそれが認められるときには,それを考慮して不許可とすることも学校施設管理者の裁量判断としてあり得るところである。しかしながら,本件不許可処分の時点で,本件集会について具体的な妨害の動きがあったことは認められず(なお,記録によれば,本件集会については,実際には右翼団体等による妨害行動は行われなかったことがうかがわれる。),本件集会の予定された日は,休校日である土曜日と日曜日であり,生徒の登校は予定されていなかったことからすると,仮に妨害行動がされても,生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かったということができる。

 ウ 被上告人の教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領や文部省の是正指導に対して批判的な内容の記載が存在することは認められるが,いずれも抽象的な表現にとどまり,本件集会において具体的にどのような討議がされるかは不明であるし,また,それらが本件集会において自主的研修の側面を排除し,又はこれを大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないのであって,本件集会をもって人事院規則14―7所定の政治的行為に当たるものということはできず,また,これまでの教育研究集会の経緯からしても,上記の点から,本件集会を学校施設で開催することにより教育上の悪影響が生ずるとする評価を合理的なものということはできない。

 エ 教育研究集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として,実験台,作業台等の教育設備や実験器具,体育用具等,多くの教科に関する教育用具及び備品が備わっている学校施設を利用することの必要性が高いことは明らかであり,学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで,本件集会の分科会活動にとっての利便性に大きな差違があることは否定できない。

 オ 本件不許可処分は,校長が,職員会議を開いた上,支障がないとして,いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に,上記のとおり,右翼団体による妨害行動のおそれが具体的なものではなかったにもかかわらず,市教委が,過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し,自らも不許可処分をするに至ったというものであり,しかも,その処分は,県教委等の教育委員会と被上告人との緊張関係と対立の激化を背景として行われたものであった。

 (5)上記の諸点その他の前記事実関係等を考慮すると,本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。そうすると,原審の採る立証責任論等は是認することができないものの,本件不許可処分が裁量権を逸脱したものであるとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。

 4 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官・濱田邦夫,裁判官・上田豊三,裁判官・藤田宙靖,裁判官・堀籠幸男)

 

いじめ被害者に虚偽説明を命じた市立中学教諭の懲戒処分と比例原則 最高裁令和2年

令和2年度重要判例解説ジュリスト1557号 2021年4月増刊号 行政法1

公務員に対する懲戒処分取消等請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/平成31年(行ヒ)第97号

令和2年7月6日

【判示事項】       市立中学校の柔道部の顧問である教諭が部員間のいじめの被害生徒に対し受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと等を理由とする停職6月の懲戒処分を違法とした原審の判断に違法があるとされた事例

【掲載誌】        裁判所時報1747号10頁

             判例タイムズ1480号123頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       法学教室484号126頁

             関西大学法学論集70巻5号1438頁

 

       主   文

 

 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。

 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人藤原正廣の上告受理申立て理由について

 1 本件は,兵庫県姫路市の市立中学校(以下「本件中学校」という。)の教諭であった被上告人が,顧問を務める同校柔道部(以下,単に「柔道部」ということがある。)における部員間の暴力行為を伴ういじめの事実を把握しながら,受傷した被害生徒に対し,受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと等を理由に,任命権者である兵庫県教育委員会(以下「県教委」という。)から停職6月の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件処分は重きに失するなどと主張して,上告人を相手に,その取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

 2 関係法令等の定め及び原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)ア いじめ防止対策推進法8条は,学校及び学校の教職員は,当該学校に在籍する児童又は生徒がいじめを受けていると思われるときは,適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する旨を定めている。

 また,同法12条は,地方公共団体は,その地域の実情に応じ,当該地方公共団体におけるいじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針を定めるよう努めるものとしており,これを受けて,上告人及び姫路市においてそれぞれ基本方針が定められている。このうち兵庫県いじめ防止基本方針は,「いじめを受けている児童生徒及び保護者への支援」として,「いじめを受けている児童生徒を守るとともに,心配や不安を取り除き,解決への希望や自分に対する自信を持たせる。」などとしている。また,姫路市いじめ防止基本方針は,「いじめの兆候を発見した時は,これを軽視することなく,早期に適切な対応をすることが大切である。いじめを受けている児童生徒の苦痛を取り除くことを最優先に迅速な指導を行い,問題の解決に向けて学年及び学校全体で組織的に対応することが重要である。」などとしている。

 イ 地方公務員法29条1項は,職員が同法等に違反した場合(1号),職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合(2号)及び全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(3号)においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる旨を定めている。また,同法32条は,職員は,その職務を遂行するに当たって,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない旨を,同法33条は,職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない旨をそれぞれ定めている。

 職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和38年兵庫県条例第31号。以下「本件懲戒条例」という。)は,減給は,6月以下の期間,給料の月額の10分の1以下に相当する額を給与から減ずるものとし(4条),停職は,その期間を6月以下とし,停職者は,その職を保有するが職務に従事せず,停職の期間中いかなる給与も支給されないものとしている(5条)。

 なお,県教委は,懲戒処分についての処分基準を定めていない。

 (2)ア 被上告人は,昭和57年4月,上告人の公立学校教員に採用され,平成20年4月,本件中学校に赴任して,教諭として保健体育の授業を担当するとともに,柔道部の顧問を務めていた。本件中学校柔道部は,被上告人の指導の下,多くの大会で優秀な成績を収め,全国優勝をしたこともあったため,入部を希望する生徒は多く,親元を離れ,被上告人の教え子であったFの自宅に下宿して共同生活を送りながら本件中学校に通う部員もいた。

 イ 柔道部員のA,B及びCは,平成27年4月,本件中学校に入学し,3年生で同部の主力選手のD,2年生のEらと共に,F宅に下宿していた。D及びEは,A,B及びCに対し,その入学当初から日常的に,自らの残した食べ物等を食べさせ,食べ切れずに嘔吐したら暴行を加える,手,足,腹等に香水をかけ,気化した香水にライターで火を付ける,二の腕等をエアガンで撃つなどの暴力行為に及んでいた。このほか,A,B及びCは,D及びEからそれぞれ個別に殴る,蹴るなどの暴力を受けていた。

 ウ D及びEは,同年7月7日,本件中学校内において,柔道部の練習が始まる前の午前7時頃から,こもごも,Aの顔面を殴り,長さ約1mの物差しでAの頭,顔及び身体を10回以上たたき,平手で顔面を数回殴打したほか,みぞおちを数回蹴るなどの暴行を加え,Aに全治1か月を要する胸骨骨折を含む傷害を負わせた(以下,この事件を「本件傷害事件」という。)。

 エ 本件傷害事件の後,柔道部副顧問のG教諭に問いただされたAは,階段から落ちたなどと説明したが,受傷状況等から虚偽と見抜かれ,D及びEから暴行を受けたことを認めた。G教諭は,同日午前8時頃には被上告人に連絡し,被上告人と共にAの受傷状況を確認した。被上告人は,Aを一旦下宿先に帰宅させた後,D及びEから事情を聴取し,本件傷害事件の経緯と加害行為の詳細並びにA,B及びCに対する継続的な暴力行為の内容をノートに記録した上,そのコピーをG教諭に渡した。

 オ Fの妻は,Aの様子を見て整形外科を受診させるべきであると考え,同日午後3時頃にAを連れて本件中学校に赴いた。被上告人は,Aが受診することを了承したが,A及びG教諭に対し,「階段から転んだことにしておけ。」と述べ,Aには「分かったな。」と念を押すとともに,懇意の医師に連絡すると告げた上,同医師に電話をかけ,階段で転んだ生徒がこれから向かうと伝えた。Aは,同日午後5時頃に受診し,A及びG教諭は,同医師に階段で転んでけがをした旨の説明をした。同医師は,Aの症状につき全治1か月を要する胸骨骨折と診断した。

 カ G教諭は,同日午後6時頃,学年全体の生徒指導担当の教諭に本件傷害事件を報告し,H校長も同教諭から伝達された教頭を通じて報告を受けた。

 本件中学校は,同月9日,本件傷害事件について姫路市教育委員会(以下「市教委」という。)に報告するとともに,第1回校内いじめ対応会議を行った。

 キ 被上告人は,本件傷害事件の当日中に,A,D及びEの各保護者に連絡して説明したほか,柔道部員を集めて本件傷害事件について伝え,翌日から同月18日まで柔道部の練習を休みにし,練習再開後も,D及びEを練習に参加させず,校内のトイレ掃除等の奉仕活動をさせた。また,被上告人は,A,B及びCの各保護者に対し,本件傷害事件について報告し,このような事態を招いたことを謝罪した。

 (3)ア H校長及び教頭は,平成27年7月10日,被上告人に対し,本件傷害事件の重大性等に鑑み,翌日に行われる中播地区総合体育大会にD及びEが出場することを自粛するよう指導した。D及びEは同大会に出場しなかったが,本件中学校柔道部が優勝し,兵庫県中学校総合体育大会(以下「県大会」という。)への出場資格を得た。

 イ その後,H校長は,柔道部の保護者会,A,D及びEの各保護者との話合い等において,今後の試合にDを出さないと発言したが,自身も柔道経験者であるAの父が反対し,Dを試合に出してほしいと訴えた。H校長は,結局,Dの県大会への出場を認め,本件中学校柔道部は同大会で準優勝し,近畿中学校総合体育大会(以下「近畿大会」という。)への出場資格を得た。

 ウ H校長は,近畿大会に出場する選手としてDを登録することを一旦了承したが,同月29日,市教委からDを近畿大会に出場させてはならないとの指示を受け,被上告人に対し,職務命令として,Dを出場させないよう伝えた。これに対し,被上告人は,県大会は出場できて近畿大会がなぜ出場できないのか,納得できないなどと反発した。

 被上告人は,同年8月4日,上記職務命令に従わず,近畿大会の団体戦にDを出場させ,本件中学校柔道部が優勝した。G教諭から報告を受けてこのことを知ったH校長は,被上告人に対し,Dを出場させたのは残念である旨を伝えたが,被上告人は,いじめであれば何でも出場辞退させるのか,処分や指導は覚悟の上だ,自分は命懸けでやっているなどと抗議した。

 (4)ア 被上告人が本件中学校に赴任した後,柔道部のために,卒業生や保護者等から洗濯機,乾燥機,冷蔵庫,トレーニング機器等(以下「本件物品」という。)が寄贈され,校内に設置されていたほか,地元企業からはトレーニングハウスが寄贈されたが,平成24年4月に本件中学校に赴任したH校長は,当時は学校運営に支障がないと判断し,被上告人に撤去を求めることはなかった。

 イ H校長は,平成26年12月以降,被上告人に対し,本件物品の撤去を複数回指示したが,被上告人はその後も新たな物品を搬入した。被上告人は,寄贈者に説明して了解を得るため平成27年9月頃まで撤去を待ってほしい旨及び校長からも寄贈者に説明をしてほしい旨を申し出たが,H校長はこれに応じなかった。H校長は,本件傷害事件後も複数回にわたり撤去を指示したが,洗濯機1台が撤去されただけであった。

 ウ 市教委は,その後,本件物品及びトレーニングハウスにつき学校の備品として認められない物として指摘し,教育長は,同年10月20日付けで,施設管理に係る改善指示書をH校長に交付した。被上告人は,同指示書において期限とされた同年11月20日までに本件物品及びトレーニングハウスを撤去した。

 (5) 県教委は,相応の処分を求める旨の市教委からの内申を受け,平成28年2月23日,地方公務員法29条1項及び本件懲戒条例5条の規定により,懲戒処分として被上告人を同月24日から6月間停職とする旨の本件処分をした。被上告人に交付された処分説明書には,懲戒理由として,被上告人が以下の行為をした旨の記載がある。

 平成27年7月7日,顧問を務める柔道部の部員間の暴力行為を伴ういじめの事実を把握しながら,被害生徒の受診時に「階段から転んだことにしておけ。」と,虚偽の説明をするよう指示し(以下,このことを「本件非違行為1」という。),同年8月4日,加害生徒の近畿大会への出場を禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させた(以下,このことを「本件非違行為2」という。)。また,部活動で使用していた校内の設置物に係る校長からの繰り返しの撤去指示に長期間対応しなかった(以下,このことを「本件非違行為3」という。)。

 (6) 市教委は,平成28年4月1日,被上告人について,姫路市の他の市立中学校への配置換えをした。被上告人は,本件処分に係る停職期間が満了する前の同年6月30日をもって辞職した。

 3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件処分の取消請求を認容するとともに,国家賠償請求を一部認容した。

 (1)ア Aを診察した医師が,A及びG教諭による虚偽の説明をたやすく信用したとは考え難く,これによりAが適切な治療を受けられなかったという事情も認められない。また,被上告人が,G教諭に対し,本件傷害事件についてH校長等に報告することを妨げるような行動をとったなどの事情は認められず,本件非違行為1は,本件中学校としての組織的対応に支障を来す結果をもたらすものではなかった。そうすると,本件非違行為1の悪質性の程度がそれほど高いとはいい難い。

 イ 本件非違行為2については,一旦はDの近畿大会への出場を認めながらこれを撤回したH校長の一貫性を欠く指示に容易に納得できなかった被上告人の心情にも理解し得る側面がないではない。また,被上告人には3年生のDにとって最後の大きな大会となる近畿大会には出場させてやりたいとの思いもあったこと,被害生徒であるAの保護者等がDの出場を支持していたこと等,酌むべき事情もある。

 ウ 本件非違行為3については,本件物品を撤去するには寄贈者らに対する説明等が必要であり,直ちに撤去することは困難であったといい得る上,被上告人から寄贈者に対する説明等を行うことを求められながらこれに応じようとしなかったH校長の対応にも問題があるなど,被上告人にも酌むべき事情がある。

 (2) 県教委は,懲戒処分についての処分基準を定めないまま,処分を11段階(減給及び停職については各3段階のみ)に画一的に区分して,何らかの加重をする場合には直ちに上位に区分する方法を採っており,このような方法が合理的であるとはいい難い。

 そして,本件非違行為1は減給が相当であり,これにそれぞれ戒告が相当である本件非違行為2及び3を併合し,かつ,被上告人には生徒への体罰により減給(10分の1)1月の懲戒処分を受けた前歴があることを勘案しても,減給よりはるかに重い処分である停職を選択すること自体,社会通念上裁量権の範囲を逸脱するものというほかなく,まして,免職に次いで重い停職6月とすることが,県教委の合理的な裁量の範囲内にあるものとは考えられない。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をするか否か,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁平成23年(行ツ)第263号,同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁等参照)。

 (2)ア Aは,柔道部の上級生であるD及びEによる継続的ないじめの被害に遭い,さらに,本件傷害事件により明らかな傷害を負うに至っている。ところが,被上告人は,本件中学校の教諭及び柔道部の顧問として,同事件を機にこれらの事実を把握しながら,A及びG教諭に対し,受診に際して医師に自招事故によるものであるとの事実と異なる受傷経緯を説明するよう指示した上,自らも医師に連絡して虚偽の説明をするなどしている。このような被上告人の言動は,柔道部が大会を目前に控えている状況の下,その活動に支障を生じさせないため,主力選手らによる不祥事が明るみに出ることを免れようとする意図をうかがわせ,A及びG教諭には,部員又は副顧問としてこれに沿った行動をとるよう命ずるものと受け取られるものである。このことは,被害生徒であるAの心情への配慮を欠き,また,G教諭が校長等に報告することを暗に妨げるものともいうことができるのであって,いじめを受けている生徒の心配や不安,苦痛を取り除くことを最優先として適切かつ迅速に対処するとともに,問題の解決に向けて学校全体で組織的に対応することを求めるいじめ防止対策推進法や兵庫県いじめ防止基本方針等に反する重大な非違行為であるといわざるを得ない。さらに,Aは重い傷害を負っていたのであるから,医師による適切な診断及び治療を受ける必要があったが,被上告人の上記言動は,医師に実際の受傷経緯が伝えられることを妨げ,誤った診断や不適切な治療が行われるおそれを生じさせるものであったというべきである。結果的に,Aが誤った診断等をされることはなく,また,G教諭が報告したことにより本件中学校等における組織的な対応に支障が生ずることはなかったとしても,被上告人の上記言動が重大な非違行為であることが否定されるものではない。

 このように,被上告人による本件非違行為1は,いじめの事実を認識した公立学校の教職員の対応として,法令等に明らかに反する上,その職の信用を著しく失墜させるものというべきであるから,厳しい非難は免れない。

 イ また,本件傷害事件やそれまでの一連のいじめにおけるDの行為は重大な非行であり,そのような行為に及んだDについて,教育的見地から,柔道部員として対外試合に出場することを禁ずることは,社会通念に照らしても相当であって,このことは,近畿大会が3年生のDにとって最後の大きな大会となることや,被害生徒であるAの保護者等がDの出場を支持していたことを考慮しても異ならない。したがって,H校長がDを近畿大会に出場させないよう被上告人に命じたことは,職務命令として正当であったというべきであり,これに従わずDを同大会に出場させた被上告人による本件非違行為2は,本件傷害事件等の重大性を踏まえた適切な対応をとることなく,校長による職務命令に反してまで柔道部の活動や加害生徒であるDの利益等を優先させたものであって,その非違の程度は軽視できない。

 ウ さらに,本件非違行為3は,柔道部が優秀な成績を挙げるために,学校施設の管理に関する規律や校長の度重なる指示に反したものであり,本件非違行為1及び2と共に,生徒の規範意識や公正な判断力等を育むべき立場にある公立学校の教職員にふさわしくない行為として看過し難いものといわざるを得ない。

 エ 以上のとおり,本件処分の理由とされた一連の各非違行為は,その経緯や態様等において強い非難に値するものというほかなく,これが本件中学校における学校運営や生徒への教育,指導等に及ぼす悪影響も軽視できない上,上告人や姫路市の公立学校における公務への信頼をも損なわせるものであり,非違行為としての程度は重いといわざるを得ない。他方で,原審が被上告人のために酌むべき事情として指摘する点は,必ずしもそのように評価できるものではなく,これを殊更に重視することは相当でないというべきである。

 (3) 県教委は,懲戒処分についての処分基準を定めておらず,処分を11段階に区分し,減給及び停職については各3段階としているというのであるが,そのことにより適切な処分の量定の選択が妨げられるものということはできない。また,上告人の主張するように,本件非違行為1を最も重大なものとしてその処分の量定を選択した上,本件非違行為2及び3の存在等を加重事由として最終的な処分の量定を決定することも,それ自体が不合理であるとはいえない。

 そして,本件処分は,本件懲戒条例の下では免職に次ぐ相当に重い処分であり,また,処分の量定に関する上告人の主張には,個々の加重事由の考慮方法が形式的に過ぎるなど,直ちに首肯し難い点もあるものの,前記のような一連の各非違行為の非違の程度等を踏まえると,被上告人に対する処分について,県教委が停職6月という量定を選択したことが,社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず,県教委の判断が,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。

 (4) 以上によれば,本件処分が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

 5 以上のとおり,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,前記事実関係等の下においては,本件処分にその他の違法事由も見当たらず,被上告人の請求はいずれも理由がないというべきであり,これらを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木澤克之 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 山口 厚 裁判官 深山卓也)

水泳授業の飛び込み事故 学校事故と国家賠償責任 最高裁 昭和62年

行政判例百選 第7版 215事件

損害賠償請求事件

最高裁判所第2小法廷判決/昭和59年(オ)第1058号、昭和59年(オ)第1059号

昭和62年2月6日

【判示事項】      一、公立学校における教師の教育活動と国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」

               二、損害賠償請求権者が一時金による支払を訴求している場合と定期金による支払を命ずる判決の許否

【判決要旨】      一、法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。

            二、損害賠償請求権者が訴訟上一時金による支払を求めている場合には、定期金による支払を命ずる判決をすることはできない。

【参照条文】      国家賠償法1-1

            民法722-1

            民法417

【掲載誌】       最高裁判所裁判集民事150号75頁

            判例タイムズ638号137頁

            金融・商事判例784号44頁

            判例時報1232号100頁

【評釈論文】      ジュリスト886号20頁

            ジュリスト890号56頁

            別冊ジュリスト118号136頁

            時の法令1329号72頁

            判例タイムズ677号126頁

            月刊法学教室81号102頁

            民事研修618号42頁

            民商法雑誌97巻3号439頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 一 上告代理人猪狩庸祐の上告理由第一及び上告代理人小川善吉、同瀬沼忠夫の上告理由第四点一、二について

 国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 二 上告代理人堀家嘉郎の上告理由第二点、上告代理人猪狩庸祐の上告理由第二並びに上告代理人小川善吉、同瀬沼忠夫の上告理由第一点、第二点及び第四点三、四について

 学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負つており、危険を伴う技術を指導する場合には、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務があることはいうまでもない。本件についてこれをみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右の事実関係によれば、松浦教諭は、中学校三年生の体育の授業として、プールにおいて飛び込みの指導をしていた際、スタート台上に静止した状態で頭から飛び込む方法の練習では、水中深く入つてしまう者、空中での姿勢が整わない者など未熟な生徒が多く、その原因は足のけりが弱いことにあると判断し、次の段階として、生徒に対し、二、三歩助走をしてスタート台脇のプールの縁から飛び込む方法を一、二回させたのち、更に二、三歩助走をしてスタート台に上がつてから飛び込む方法を指導したものであり、被上告人今野良彦は、右指導に従い最後の方法を練習中にプールの底に頭部を激突させる事故に遭遇したものであるところ、助走して飛び込む方法、ことに助走してスタート台に上がつてから行う方法は、踏み切りに際してのタイミングの取り方及び踏み切る位置の設定が難しく、踏み切る角度を誤つた場合には、極端に高く上がつて身体の平衡を失い、空中での身体の制御が不可能となり、水中深く進入しやすくなるのであつて、このことは、飛び込みの指導にあたる松浦教諭にとつて十分予見しうるところであつたというのであるから、スタート台上に静止した状態で飛び込む方法についてさえ未熟な者の多い生徒に対して右の飛び込み方法をさせることは、極めて危険であるから、原判示のような措置、配慮をすべきであつたのに、それをしなかつた点において、松浦教諭には注意義務違反があつたといわなければならない。もつとも、同教諭は、生徒に対して、自信のない者はスタート台を使う必要はない旨を告げているが、生徒が新しい技術を習得する過程にある中学校三年生であり、右の飛び込み方法に伴う危険性を十分理解していたとは考えられないので、右のように告げたからといつて、注意義務を尽くしたことにはならないというべきである。したがつて、右と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

三 上告代理人堀家嘉郎の上告理由第一点一について

 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、原審の付添看護費用に関する損害額の算定方法は、正当として是認することができる。また、損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立をしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当であるから、定期金による支払を命じなかつた原判決は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 四 その余の上告理由について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官林 藤之輔 裁判官牧 圭次 裁判官島谷六郎 裁判官藤島 昭 裁判官香川保一)

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