naユキちゃんが車を作った。
リンゴの木箱をベースに、工場のゴミ捨て場から拾って来た丸いプラスチックの蓋とパイプの車輪。
そして前には牽引する為のロープが付いている。
要は車と言っても廃材を利用した子供オモチャである。
しかし、よくあの廃材から作ったものだと感心する出来映えの車だった。
ユキちゃんは器用だったのだ。

ユキちゃんは、完成間もないその車に僕ら兄弟を乗せてくれた。
僕が小学一年生、弟のフミちゃんが保育園の時のこと。
「いいか、しっかり掴まってろよ」
ユキちゃんの言葉に僕等兄弟は木箱の端を握る。
そしてユキちゃんは牽引のロープを握り引っ張る。
ゴロゴロゴロゴロ。
手作りの車が動き出す。
ユキちゃんが走る。
ユキちゃん家から僕ん家に続く距離およそ100mの一直線の道。
風を切って走る車に乗り僕等兄弟はキャーキャー叫びながら喜んだ。

その時、怒鳴り声が聞こえた。
「こらー!ユキ!コーちゃんとフミちゃんが落ちて怪我でもしたらどうすんだ!」
近くでキャッチボールをしていたマッちゃんが駆けて来た。
マッちゃんはユキちゃんのお兄さんでその時高校生。
僕等にとってみれば大人である。
そして、これは僕等を心配しての行動だろう。
マッちゃんはユキチャンを怒鳴りつける。
マッちゃんから説教をくらうユキちゃん。
流石のユキちゃんも神妙な顔でうつむいている。
いつも胸をはって僕等の先頭にたつガキ大将のユキちゃんが怯えているのだ。
そんなユキちゃんの姿を見たのは初めてだったので僕は不安になった。

僕等兄弟は止まった車に乗ったまま様子を見つめていた。
弟はどうしていいのか分からず怯えた顔を僕に向ける。
マッちゃんがコチラを見る。
そして僕と目があった。
さすがに僕等兄弟を怯えさせてしまったことを悟ったのだろう。
「しまった」という顔になる。
そして、マッちゃんはある行動にでた。

マッちゃんは、いきなり「なっ!」とすっとんきょうな声を発し笑顔になったのだ。

「なっ!ユキ分かったな」
と大魔神の顔から恵比寿顔に変わり、いきなり道化に転じたマッちゃん。
そしてその様子を見た僕等もホッとして笑顔になった。
「なんだマッちゃん、冗談だったんだ」と思わせるその行動。
僕等を安心させ、ユキちゃんのガキ大将の尊厳をも守る。
これぞ大人のテクニック。
マッちゃんは大きかった。

僕は、この「なっ!」が大層気に入りこの後よく使った。
大物になった気分だったのだろう。
友達と言い合いに持って行きタイミングを計り「なっ!」を使う。
友達も冗談だったのかと笑い安心する。
この「なっ!」を使うことで僕は大人ぶってした。

なんて小さいヤツだ。(笑)