mamascoatが隣町での買い物から帰って来た。
隣町には百貨店もスーパーもあり、特別な買い物の際には足を運ぶ。
隣町は、伯母さんの住む町で母の実家でもある。
なので隣町へ行くと言う事は、母の数少ない気晴らしでもあった。
今回は、なにか大きな買い物があったらしく、10センチ幅くらいのトランクタイプの箱(よく服とかが入ってる)を母は持って帰った。

母は、帰ると荷物をいそいそと2階へ運ぶ。
いそいそと言うか、こそこそとも言える感じで妙だったのを憶えている。
お土産目当てで僕と弟は、母の後について2階へ上がる。
2階の部屋では、母が膝をつきその箱を開けるところだった。
箱の中には婦人用の茶色のコートが入っていた。
特別お洒落でもなく、よくおばちゃんが着るようなコート。
しかし、新しかったからだろう、ちょっと高級そうに見えた。
素材は何だったんだろうか?
厚手の生地で少し毛羽立ち暖かそうなコートだった。
『ああ、お母ちゃんはコートを買ったんだな〜』
と漠然とそう思っていた。

「何処で買ったの?」
と僕の質問に母は答える。
「ジャスコ」
母はコートを両手で広げ、目を細めて眺めながら独り言のようにこう言った。
「お母ちゃんね〜前からこのコートを狙ってたの。
ジャスコ行く度に“まだあるかな〜”って何時も見てて、
“どうか誰も買いませんように”って何時も祈ってた。
それでね、今日ジャスコへ行ったらまだ残ってたから思い切って買っちゃった」
「幾ら?」
「6,000円。高い買い物しちゃったな〜
でも欲しかったからね〜
お父ちゃんとお祖母ちゃんには言えないな〜
食費をやりくりしてなんとか買ったからね〜
誰にも言っちゃだめだよ」
「うん」

ひとしきりコートを眺めていた母は、大事そうにまた箱に入れ、これまた大事そうに箪笥に仕舞った。
嬉しそうにしていた母を見て、僕も何だか嬉しくなった。
洋服などあまり買わない母が、本当に欲しくて買ったコート。
スーパーの量産品だけど輝いて見えた。

兄弟の多い父の家にお嫁に来てから苦労してきた母。
朝早く起き家族分の朝食、弁当の用意。
そして自分も会社に出勤し、夕方帰って来て今度は夕食の準備。
朝早くから夜遅くまで働き、そして3人の子供を育てた。
給料も退職金も全て家に入れ、自分の為にお金を遣わなかった母。

そんな母が欲しかったコートは輝いて見えて当然だろう。