まずは、「この『火垂るの墓』という作品について、そもそもみんなはどういう話だと思っているのか?」というところから始めますね。
 日テレの公式サイトに、『火垂るの墓』のストーリーの簡単なまとめがありました。

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 昭和20年9月21日夜、神戸三宮駅構内で清太は息を引き取る。所持品はドロップの缶だけ。遺体を片付けていた駅員が、その缶を放り投げると中から小さな遺骨がこぼれ落ち、草むらに季節外れの蛍が舞い上がる。
 3ヶ月前の6月9日、神戸は大空襲に見舞われ、清太は心臓の弱い母を先に避難させ、幼い妹節子を連れて、後を追う。遅れて避難所の学校についた清太だったが、そこには変わり果てた母の姿が。
 母はそのまま息を引き取り、清太は節子と共に西宮にある親戚の家に移るが、叔母は次第に清太たちに厳しい言葉を投げつけるようになる。毎日小言を言われ、ご飯も満足に食べさせてもらえない生活に耐えきれなくなった清太は、家出を決意。節子と2人で、池の畔の横穴で暮らすことになるが……。
 空襲が続き、人の心もだんだん荒んで、清太は節子を食わせることも出来なくなる。次第に節子は衰弱し、ついに死んでしまう。清太は1人、節子の遺体を焼いて、自分も神戸の駅で息絶える。
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 というふうに書いてあります。まあ、表面上のストーリーはこの通りなんですけども。

 実はですね、この映画について、今聞かせたようなお話だと思っている人が、全体の半分くらいいるんですよね。
 僕、金曜ロードショーで放送されていた時に、「♯火垂るの墓」というハッシュタグが付いているツイートを、ずーっと見てて、後でまとめも見たんですけども。この映画のラストシーンを覚えていない人がビックリするくらい多いんですよ。

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 そのラストシーンというのが、これなんですけども。
神戸の夜景

 ベンチに座っている清太と節子。寝ている節子の傍らで、清太は繁栄している現代の神戸のビル街を見下している。こんなシーンが最後にあります。
 これこそが『火垂るの墓』を見る際に基本中の基本になるシーンだと思うんですけども、このシーンを覚えていないというか、これがどういう意味だか受け取っていない人が、思いの外、多いんですよね。

 最後、清太が死んだ時、節子の霊が迎えに来て、一緒に成仏するのかと思ったら、ラストでは現代の神戸の夜景が映る。つまり、彼らは終戦後半世紀が過ぎた今でも、まだ成仏せずに、今でも私達を見つめているんだと、この映画を見た一部の人は解釈しているんです。
 そういう意味では、オカルトとまでは行かないんですけど、ちょっと怖い映画なんですよ。
 しかし、「あの2人は今も霊となって、神戸の街を見下ろしてるんだよ」と考えている人がいる一方で、残りの人はそこまで考えていない。そもそも、過半数の人が、このシーンを覚えてない。
 そういうことを、今回、ツイートを見ていて知ったんですけども。「このシーンで終わるところが、やっぱりこの映画のスゴイところだ」と思う僕としては、このシーンを見逃している人があまりにも多かったことに、かなり驚きました。

 しかし、今回の解説は、こういうレベルではなく、もっと細かくやっていきます。

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 では、冒頭の流れを説明します。映画が始まって一番最初のシーンを、カットごとに順繰りで説明していきますね。

 まず、真っ暗闇の中、カメラ目線で真っ正面を向いた清太の幽霊が現れます。そして、「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」というふうに関西弁のイントネーションで言います。

 次に、清太の幽霊が見ている光景として、駅構内で死にかけている自分の姿が映ります。

 この時点では、一応、ハアハアとまだ息をしているんですね。

 でも、やがて崩れてしまう。

 すると、駅員がやってきて、清太が死んだことを確認します。そして、「ああ、こいつも死んでしもうた」ということで、遺品を探っていたら、ポケットの中からなんか缶カンが出てくる。

 何の缶カンかわからないので、駅員がそれをポイと捨てると、捨てられた缶の中から骨が出てきて、季節外れの蛍がポワッと現れる。

 その蛍の中から1人の女の子の幽霊が現れる。妹の節子ですね。節子はお兄ちゃんの死体を見ています。

 節子の幽霊がお兄ちゃんの死体に駆け寄ろうとすると、後ろから肩を叩かれて止められる。

 振り返ると、そこには生きていた頃の優しいお兄ちゃんがいて、2人はそのまま手を繋いで、蛍のいる草原を右から左へ歩いてフェードアウトする。

 この、二人が通り過ぎたところに、『火垂るの墓』というタイトルが表示されます。
 まあ、ちょっと簡単に説明したんですけども、こういう大きい流れで出来ています。

「もうツラい」(コメント)
「これを見るだけで泣いてしまう」(コメント)
 もう泣いてますか。すごいな、みんなやっぱり泣くんだな。

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 さて、実はこの「まだ生きている自分を、死んだ清太の幽霊が見つめる」というシーンには、よくよく見ると、すごい秘密が隠されているんですね。
 それは何かというと……さらに細かく、1カットずつ検証していくとこうなります。

冒頭の清太

 まず、「昭和20年9月21日夜僕は死んだ」と正面を見つめて言う清太の幽霊。
 そう言ってから、清太の幽霊は次に右下に視線を流します。

 すると、駅構内の柱が映るんですけど、この時、手前に何かが映ってるんですよね。わかりますか? 
柱の横に何か

 柱があって、その手間に、何か物が映ってて、これがスーッと消えたと思ったら、次に、死にかけている自分がボワっと現れて、次のカットに流れるんですね。
死にかけの自分


 この柱の前にあるものは何か? ということで、この3番目の部分だけを、よく見えるように引き伸ばしたのが、これです。
アップ

 実は、死にかけの自分の姿が映る前に、この柱の手前には、こういう形の物が描かれているんですね。
 この曲線的なデザインを見るに、これは戦前に作られたものじゃありません。これ、実は灰皿なんですよ。それも“現代的にデザインされた灰皿”なんですね。
 僕はこれ見た時に「ああ、やっぱりそうか!」って思ったんですけども。つまり、清太は、死んで幽霊になった後も、現代の日本に留まり続けているんです。
 『火垂るの墓』は1988年の映画なんですけど、その時点でも、清太はあの場所に居る。そして、そんな清太の幽霊が昔のことを思い出すと、そこが昔の風景に戻っていく。つまり、「清太はいまだに三宮の駅に居て、かつての記憶を思い出して苦しんでいる」ということなんですね。

・・・

 「本当にそうなのかな?」と思って、念のために『火垂るの墓』のBlue-rayのディスクの特典を見たら、ちゃんと制作当時に神戸まで行って撮ってきたロケハン写真というのが載っていたんですよね。
 そのロケハン写真をみると、柱の横に、やっぱり同じデザインの灰皿があるんですよ。
ロケハン写真 灰皿

 まあ、これは劇中に描かれている柱とは別の柱なんですけど、冒頭に描かれていたのと全く同じ灰皿があります。
ロケハン写真 柱

 実際にモデルとなったこの柱の横に、灰皿だけを移動させたわけですね。
 このロケハン写真を見てもわかる通り、『火垂るの墓』の冒頭では、現代の駅にある灰皿を描くというようなことをやっているんです。
 つまり、『火垂るの墓』というのは、決して過去の話ではなく、現代のシーンから始まっているんです。「ラストシーンで、現代に戻ってくる」とみんな思ってるんですけど、違うんですよ。そうじゃなくて、冒頭の一番最初から現代なんですね。
 清太の霊は、いまだにあの場所に留まっていて、自分の人生最後の3ヶ月間を、何千回も、何万回も、何億回もリプレイして、苦しんでいるというお話なんです。
 みなさんがコメントに書いている通り“地縛霊”みたいなものなんですね。まあ、地縛霊というのは「その場所に縛られ続ける霊」という意味で、清太たちは電車に乗って移動するから、正確には違うんですけども。

・・・

 じゃあ、なぜ彼は、死後も、映画公開時点で43年間も、過去に囚われ続けているのか? そういった理由説明が、ここからはじまる映画なんです。
 つまり、「なぜ彼は、死んでから43年も経つのに、自分が一番ツラかった時のことを見返さなきゃいけないのか?」という理由を、これから90分掛けて説明してくれるという構造になっているんですね。
 この全体構造がわかっていると、この映画の見方ってだいぶ変わってくるんですよ。実は、この作品って“かわいそうな話”とかではなくて、「なぜ彼が、こんなにも呪われているのか?」を解き明かすという“ミステリー”になっているんですね。

 ここら辺、高畑勲監督に言わせれば、「そんなこと、いちいち説明しなくても、それがわかるシーンというのをちゃんと見せてるでしょ? ほら、ちゃんと冒頭に現代風の灰皿を写してるじゃん?」となるんですよ。
 確かにそうなんです。僕もあれを見て、「あっ!」って、なにか嫌な予感がしたから、こうやって確認しました。「映画のラストで現代の町並みを映しているから、もしかしたら、最初にもやってるんじゃねえのかな」って思ったら、やっぱりやってたんですけども(笑)。

 高畑監督としては「これを見れば、誰にでもわかるはずだ」と思っちゃうんですけど。でも、まあ、こんなの、気がつくはずがないんですよね。
 金曜ロードショーでの放送中のツイートを見ても、ここを指摘している人はゼロでした。

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この記事は『岡田斗司夫ニコ生ゼミ』4月15日(#226)から一部抜粋してお届けしました。

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