金融や経済に問題が生じたときに最初に発動されるのは「金融緩和」だ。
財政出動は予算とか議会の承認とか財源探しとかで時間がかかる上に、決まってから実際に現金が発動されるまでに数ヶ月〜半年を要するので、即効性が無い。

一方、金融緩和が実施されると、ほぼ同時に債券や株式が好感して値上がりする。
この値上がりを資産効果と呼ぶ。

資産効果が発生してからしばらくすると消費設備投資が増加する(=実態経済が活性化する)。
これは経済効果だ。

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資産効果が発生してから経済効果が得られるまでには、通常半年〜2年の期間を要する。
大きな経済危機の後は、人々のマインドが極端に冷え込んでいるので、経済効果までのタイムラグが、通常以上に長くかかる。

サブプライム証券化商品の崩壊、リーマンショックという数十年ぶりの巨大ショック後の世界経済は、まさにタイム・ラグが大きくなっている。

チャートでリーマンショック後を振り返ると下図のようになる。

(1)米国
リーマンショック直後から、FRBバーナンキ議長は大幅な緩和を継続し、強化してきた。
株式市場は、2009年初からそれを好感してジリジリと上昇を続けており、(下チャートの白線)、上場来新高値に近づいている。
緩和の継続強化の
4年目(2012年)に経済と住宅価格が改善を見せ始めた。特に住宅価格の底打ち反転の効果は大きく、US経済全体を下支えしている。

(2)ECB
USと同時に緩和したが、「のど元過ぎれば、熱さを忘れる」という危機感の無さで、リーマンショックのパニックが収束した段階で緩和をやめてしまった。
緩和が消えたことで、PIIGS諸国のソブリン・リスク(国債からの資金逃避)が顕在化し、欧州経済は一気に悪化を始めた。
そこで慌てて2011年終盤から大幅緩和を再開(下図濃い水色枠内)した。
株式市場は、これを好感し、ここを起点に持続的な上昇相場が始まった。
このまま緩和の強化が継続されれば、大幅緩和から遅くとも4年目の
2015年には、経済効果が出現するだろう

(3)日本
欧米との比較では緩和と呼べないレベルでしか緩和が実行されず、ずるずる円高デフレを続けた(下図右)
2013年4月の新総裁から、しっかりした緩和を始める可能性が強まっており、欧米を凌駕するほどの超緩和が継続強化されれば2016年後半までには、経済的な効果が出現しているだろうと期待できる。
株式市場はその変化を先取りする形で、11月中旬から急上昇をしている。


緩和と相場

金融が量的に緩和されてから、民間セクターが元気になって資金を借り入れて経済活動を活性化するまでにはタイム・ラグがある理由は・・・・・
企業が設備投資計画を積み増したり、家計が自動車・住宅の購入を決断することは、大きな支出するという重大決定だ。重大決定は金利が下がっただけでは、ホイホイと決断する人や企業は少ない。
特に、バブルが崩壊して不況が訪れた後などは少々景気が改善しても「まだまだ心配だ」などと、羹に懲りて膾を吹く状態が長いものだ。

だから、どうしても実態経済に点火して、資金需要が盛り上がるまでにはタイムラグが生じる。
このタイムラグのフェイズでは、インフレは発生しない

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なお、資産効果のフェイズでは、景気が回復しないのに株だけが上昇する。
金融緩和は金持ち優遇策だ。
金利が下がると預金の利息を当てにしている引退世代は困る。
だから景気回復のためには金融緩和ではなく貧者への財政出動、富の再配分をすべきだ。
という論調もある。

しかし、資産効果が起こらないと経営者や消費者は前向き(=拡大行動)にならない。
財政出動と富の再配分では、おそらく縮小均衡になる確率が高いだろう。

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