読書メモ : 歴史とは何か 岡田英弘

普通の人は、歴史に真実を求めない。
情緒的な満足感、心がときめき、ワクワクする壮大な非日常感を求める。

韓国が歴史認識を執拗に繰り返す背景は以下のようなものだ。
朝鮮半島は1000年以上にわたって中国の皇帝に臣下の礼をとってきたが、傲慢な日本は日中は対等だと主張して正式な朝貢を拒否して現代に至った。
だから中国の朝廷(韓国は現代の中国政権をも、そう位置付けている)における席次は韓国が日本より上だと考えており、それを基礎に日韓関係を是正したいという気持ちがある。

歴史とはなにか_岡田英弘


人間にとって「何かを理解する」ということは、それに起承転結ストーリー、物語を与えるという事だ。
正しい歴史では、発生した歴史的事実に対する善悪と言う道徳的価値は無意味だし、役に立つか否かという功利的な価値判断も禁物だ。
歴史家にとって重要な事は、何が本当に起ったかを明らかにするために、資料の矛盾を突き詰め、最も可能性の高い解釈を構築することだ。

歴史の主流は政治史だ。
1689年のアメリカ成立する以前の世界は、君主制と自由都市しか存在しなかった。
君主の支配地域、自由都市の支配地域と言う概念はあったが、それらは地続きではなく飛び地が多く、現代で言う国境はなかった。人々は自由に往来していた。

アメリカ独立革命とは、イングランド王の財産をアメリカ市民が強奪したことを意味する。この財産の相続人を法的に確定するために、市民の集合体=国家という概念が生まれた。

フランス革命では、ルイ王朝をギロチンにかけて消滅させ、その資産を強奪した後の相続人を確定させる作業に数年を要した。
言語も異なり複数の文化が並存する状態に対して「フランス語をつくり、同じの法律が通用するフランス国という概念を創造し、フランス人という同一意識を作り出す」作業が必要だった。
ナポレオンによる徴兵制度とナポレオン法典の公布によって、ようやくフランスが成立した。その意味ではフランス革命は、1787年の王権に対する貴族の反抗に始まり、1804年のナポレオン法典まで17年を費やした政治劇だった。

アメリカとフランスが始めた徴兵制を基礎とする国民国家は、傭兵を主とする君主制に対して、戦争に強かった。戦争に負けずに生き延びるために世界中が一斉に国民国家と言う政治形態に変化した。
君主制が立憲君主制という国民国家に移行したのは、国民国家の利点を君主制が取り入れる為であった事を考えると、自然の流れだった。

国民の最大の財産は領土だ、という概念は徴兵制を精神的に支える大きな力だった。
そして、それが領土を拡張する目的の多くの戦争(自国の概念が支配する地域を拡大する)を引き起こした。

アメリカやフランスが始めた国民国家は民主主義を採用するが、民主主義の前提とする「人間は全員が平等」という概念は「市民革命の必要性から生み出された」概念であり、理論的に正しい訳でもなく、長い歴史の時間と言う裁判を経て選択されたものでもない。
現実の多くの人間は、自分がしている事を自分で理解する頭もなく、自分の生き方を自分で決めるだけの強さも持ってない。しかも、個々人の能力には歴然とした格差が存在している。
つまり現実の社会は民主主義には向かない。
もし民主主義がそんなに理想的であるならば、なぜ人類はそれを実現するために18世紀末まで何千年も待たねばならなかったのだろう。人類の歴の中では君主制の時代の方がはるかに長かった。

国民国家+民主主義は、賞味期限切れになってきた。
EUが各々の国民国家の主権を制限して、より大きな何かを目指しているのは、その「もがき」だろう。

「中国の皇帝がなぜ、儀礼を大事にするのか」だが、中国の政治では、どんな局面でも多数派がいない。誰でも、みんな少数派だ。
中国はいつの時代でも多くの政治勢力の寄り合い所帯で圧倒的多数を代表する人はいない。
だから皇帝はそんな状況の中、自分は正当性を持った皇帝であると一般の人民に向かって繰り返しアピールして稔を押さねばならない。
それは外国から中国には無い土産物を持参して中国皇帝に儀礼を尽くす「独立した外国」が必要だったのだ。それが朝貢という制度を中国に根付かせた。

歴史資料は作者や、彼が属している社会の好み(都合のよい、正当化のため)の物語だ。
作者や社会が記録すべきものと選択したものだけが、何かの目的に沿った形で改ざんされて書かれている。
社会、民族、国家を超えて正しい歴史を記述すると、「困る人々、民族、国家」が多いので、正しい歴史は多くのグループから歓迎されない。
しかし正しい歴史ほど、文化の違い、個人の好みを超えて、さらには書かれた時代を離れても、多数の人を説得する力を持つ。
現在の国民国家の賞味期限切れ状況、国家間の「自国にとって都合のよい歴史」の押し付け合い、これらの解消には正しい歴史が必要である。
それが時間はかかっても、お互いの対立を解消する手助けとなるだろう。

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