ヤヌコビッチ大統領選出〜ロシアによるクリミア併合

< ガス代が払えない >
ウクライナが、ロシア依存からEU依存へ資金提供者を鞍替えすると、
(1)ロシアからの輸入するガス価格の大幅ディスカント契約
(2)黒海艦隊基地(セバストーポリ)の使用料を、ガス代金と相殺する契約
双方を失う。(5月8日現在、失っている)

 

これまでのウクライナは、自国消費量をはるかに上回るガスをディスカウント価格(95ドル)で輸入(一部は勝手に抜き取り)して、それを正規価格(230ドル)で輸出することで「巨額の転売利益」を不労所得として得てきた。

 

そもそも自国で消費するガスの輸入代金(正規料金での)を払い続けられるキャッシュ・フローをウクライナは持っていない。上記(1)、(2)を所与とする生活を何十年もしてきたからだ。

 

< 強国に翻弄されるウクライナ >

ゴルバチョフの登場(1985年)、その後の冷戦終結(1989年)を経て、1991のソ連崩壊でようやく、ウクライナは独立した。

 

独立したとは言え、1:統一された国家の経験がほとんどなく、2:部族間対立が日常茶飯事の遊牧民族気質という精神構造は変わらず、また3:国の東西をロシアとドイツという2大軍事強国に挟まれるという地政学的宿命もあり、苦労してでも自主独立を維持するよりも「誰かの援助に依存」する安易な国家経営から脱皮できないまま今日に至っている。

 

2010年に選出された親ロシアのヤヌコヴィッチ大統領でさえも、「EU&USの金銭的援助か?」、もしくは「ロシアの低価格ガスか?」という“親分選択を二股に賭ける”コウモリ的な政治行動に終始した。

 

2013年11月にEUとの連合協定を締結直前で反故にしたのも、EUが示した援助の条件が厳しすぎる(返済が必要なローンでは無く、返済不要な贈与をウクライナは期待していた)ので、急遽ロシアのガス・ディスカウント(返済不要の贈与として機能する)へ秋波を送った。

 

しかし、「親EU路線から、親ロシア路線への変更」が「2004年〜2010年のオレンジ革命を支えた親EUグループ」によるクーデタの引き金となり、今日のウクライナ紛争に発展した。

 

< 民主主義選挙で成立した政権をクーデタで倒した>

ウクライナ紛争は、客観的に見れば、「民主的な選挙によって成立した政権(多数派)」を「デモとメディア操作」によって、少数派がクーデタで打倒した、という評価になる。

日本は、「いわゆる西側陣営」に属している。敗戦後は「国際政治ではアメリカの言いなり」という状態であり、何事もアメリカの主義主張、政策、制度が正しいと判断しがちだ。

資本主義>社会主義、キリスト教>イスラム教、個人の自由>社会全体の秩序、などを含め、旧ソ連や中国、ムスリム諸国などの考え方は間違っていると判定する傾向が強い。

 

その結果、現在のウクライナ暫定政権は、「デモとメディア操作によるクーデタで生まれた。」と言われると違和感を持ってしまうが、国際政治の専門家レベルではそれが定見である。

 

< 東西冷戦は続いている >

20142月、USのウクライナ大使パイアット氏とヌーランド国務長官補の通話内容がYouTubeを通じて世界中に公開された。その内容は・・・

 

1:親ロシアのヤヌコヴィッチ政権を倒して親EUのヤツェニュク政権を発足させる。

2:国連によるウクライナへの介入(=ヤヌコヴィッチ政権打倒)をUSは画策しているが、それに反対するEUを「fuck EUEUなんか、くそくらえ)」と侮蔑

 

米国務省は、この会話内容が本物であることを認め、ヌーランドはEU側に謝罪した。なお、現在の暫定政権の首相はヌーランド氏の希望したヤツェニュクが就任している。

 

また、US議会の公聴会等を通じて、

1:ヌーランド国務次官補とパイアット大使は、クーデタを後押しした。

2:ウクライナ暫定政権側は、クーデタの実行に際して、メディアを利用して、デモを扇動し、ヤヌコヴィッチ政権を崩壊させたが、そのメディア対策費用を支えたのは、US政府とソロス財団からの資金援助だった。

という事実認識が専門家の間では一般的になっている。

 

 

< 民主主義は輸出するが、経済は自助努力を要求 >

いわゆる西側陣営は、民主主義は意欲的に輸出するが、経済援助は限定的な規模に留まる。USもEUもかつてのような財政的な余裕がなくなったので、気前の良い金銭的な無償援助ができないのだ。

 

ロシアの状況も、資源エネルギー価格の高騰が終わった現在では、US&EUに似てきた。

親ロシアのヤヌコヴィッチ大統領でさえも、ロシアが提示するガス価格の値引き率が以前よりも小さくなった事態に直面し、「EU&USの金銭的援助か?」、もしくは「ロシアの低価格ガスか?」という二股戦略を採用せざるをえなかった。

 

なお、アメリカが反ロシア派を支援した背景には、ロシア帝国時代やソ連時代にロシアから弾圧を受けた多くのウクライナ人がアメリカに亡命した歴史が関係している。

ソ連崩壊以前に西側自由世界、特にUSに逃げ出した人々は、「ロシア憎し」の気持ちが強く、「強硬な反共主義」に凝り固まっている。
彼、彼女らは、
民主主義的な選挙で選出された政権であっても、それが親ロシア政権であれば、非合法手段を使ってでも政権を打倒するようにUS政府に働きかけるらしい。

 

今回のウクライナに関しても、USからの資金援助がヤヌコヴィッチ政権転覆を目論むグループに渡された事が明らかになっている。

 

 

< ウクライナの要求は、民主主義よりも無償資金援助 >

 

EU陣営に加担すれば巨額援助が来るとの夢を見て、デモとメディア操作でクーデタを起こし、民主選挙で選出されたヤヌコヴィッチ政権を倒した。しかし、暫定政権はEUに対して不満をもらしている。

EUなど西側世界からの資金援助は返済が必要なローンだ。しかも、最近決まったIMFのローンの金額(当座の$3.2bn、全体で$17bn)は、ウクライナが要求した$35bnの半分に過ぎない。

無償援助じゃないのか? ロシアは市場価格以下のガス価格を使った事実上の無償援助なのにと、ロシアからEUに乗り換えた報酬を、ウクライナは西側世界に要求している。

西側陣営は、資金援助は民主主義を広げることが目的だと主張する。
そもそもお金で民主主義を購入したり、移植することはできない

民主主義は国民が育むものだ。様々な試行錯誤、多くの失敗を経て民主主義に到達するもので、それには時間がかかる。

 

西側欧米諸国が民主主義を輸出しようと、性急な資金援助をしても、その資金は現行政府の転覆には効果的だが、その後の民主主義の育成には使われず、新政権内部の権力闘争や汚職構造を生み出す要因になってしまうことが多い。

 

現在のウクライナには民主主義が成立する民度やモラル(自己利益を犠牲にして相互に妥協するのが民主主義のエッセンス)が非常に低い。

ウクライナ政治の汚職度は、世界の中で最悪レベルと判定されている。援助資金は政治家のポケットに消えていくだろう。

 

 

< クリミア、戦争の勝敗によらない国境変更 >

 

ロシアによるクリミア併合は国境変更だ。しかも、戦争の勝敗によらない国境変更だ。良し悪しは別判断だが、21世紀に起こった画期的な事件である。

 

2013年秋ごろから、ウクライナの政情が不穏になり、年明け2014年に一気に事態が加速した。しかし、多数の死者を出すようなテロや内戦は起こらなかった。

平和裏に「クリミア」がウクライナから離脱して、ロシアに併合された

 

クリミア自治共和国議会で、ウクライナからの独立とロシアへの帰属の議決が行われ、3月16日に住民投票が実施された。投票率82%、賛成96%、という圧倒的に多数の賛成が得られた。

間髪を入れず、3月18日に、ロシアのプーチン大統領は、クリミアをロシアに編入した。

 

クリミアは、歴史的(前回前々回記載)にも、また直前でもウクライナ内の自治共和国という状態であり、ウクライナとの一体感が希薄な地域であったとは言え、ウクライナ暫定政府が、武力に訴えてでもロシアの行為を阻止しなかった背景は・・・

1:ロシアとの圧倒的な軍事力格差ゆえ、ウクライナが手を出せなかった。

2:EUやUSも、ウクライナに軍事的な支援を実施しなかった。(5月7日現在でも軍事不介入方針が維持されている)

・・・という事である。

 

 

< 世界中に存在する帰属問題 >

 

20世紀に起こった戦争や植民地の独立を通じて、多くの国家が生まれた。

発端はUS大統領ウィルソンが第一次世界大戦中に提唱した民族自決の原則だ。

 

しかし、現実に生まれた新国家は、民族の境界線とは無関係に植民地の宗主国からバラバラに独立した。
また時には民族を分断する事を通じて民族が団結して強力な勢力にならないように、国境が決められた。植民地宗主国の国際戦略だった。

 

その結果、現在の多くの国で「少数民族問題」が噴出している。

クルド民族は、トルコ(1140万人)、イラク北部(600万人)、イラン北西部(660万人)、シリア北東部(280万人)など、中東の各国に広くまたがって住んでいる。クルド人の居住地域が一体となって独立することは、民族自決の原則に合致するが、トルコ、イラン、イラク、シリアは猛烈に反対している。


中国の新疆ウイグル自治区などムスリム居住地域や、チベットも、同様だ。

 

クリミアの分離独立とロシアへの併合が提起した問題は、

1:分離独立が、民主的な住民投票で圧倒的な多数を得た時、これまでのように軍事警察という「手段で圧殺するのか、

2:地域住民の支持を失った政府や国家は、どう対応するのか

3:国家の支配とは、非民主的、暴力的手段が、これまでどおり許されるのか

・・・という民主主義と国家の基本概念を問うている。

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