< 小平が果たせなかった「共富」 >

小平は、「頑張って富を創造したら、その利益を個人が所有できる(先富論」と、「先に富んだ者が、まだ富んでいない者を牽引して、富んでいない者を富ませていき、共に富裕になる“共同富裕”の社会を目指す(共富論」の2論を展開した。

しかし、小平を引き継ぎ1990年代を牛耳った江沢民は、保守派長老グループ(筆頭=薄一波、重慶事件の薄煕来の父)に懐柔されて、改革開放を放棄し利権独占の腐敗を蔓延させた。

その結果として出現したのは、「先富論」によって先に富もうと試みた者が、党の特権階級と組み利益を独占する腐敗状態だ。
先富者たちは誰一人として「共富」のために自ら懐に入れた富を手放そうとはしなかった。
先富は成ったが、共富は全く起こらなかった。


< “待った無し”の「負け組対策」 >

競争的な資本主義経済体制では、勝ち組と負け組の格差が明確になる。
1990年代以降の早すぎる経済成長は、格差の拡大を加速させた。
目に見える生活レベルの違い、資産面の豊かさの格差、とんでもない格差が出現した。

毛沢東時代の貧乏平等から、経済発展の時代になり、その恩恵の有無の違いが生み出す猛烈な格差の時代に突入した。

取り残された、負け組が大量に発生したが、極貧困層(日本的に言えば、世帯年収60万円未満)だけでも、1億人と言われる。
市場経済競争に負けて淘汰される現状に不満を持つ負け組の彼らは、貧乏平等の時代(毛沢東時代)の方が、生活が楽だった、金回りが良かったと思っている。

彼らの不満は、年間20万件ものデモとなって顕在化しており、政治的に待ったなしの対応が迫られるポイントに達した。



< 中国の将来を左右する「勝ち組対策」 >

経済発展は、権利意識を目覚めさせる。
経済発展によって生まれた大量の中間層は、現代中国経済にとって健全な成長の源である。
この中間層を減殺しては中国の将来が無い。

権利意識に目覚めた彼らは、環境保護(大気汚染、水質汚染)に立ち上がっている。日本の昭和40年代に公害反対運動が大きなうねりとなったが、まったく同じだ。

彼らの子孫の時代まで「安全に生活できる中国」が維持できるのか?
もしNoと判断したら、中国を脱出する資金を確保した順に海外へと出ていく。既に世界各地には、したたかに生きている大勢の仲間がいる。脱出は、金銭的にも精神的にも、日本人よりもはるかにハードルが低い。

環境破壊は、国営企業の腐敗が大きな原因だ。環境保護に使うべき資金をネコババして、不正蓄財して、海外に送金してマネロンしている。これを是正することは、前回の共産党大会で決定された。

(1)まっとうな企業経営、社会的責任を果たす経営者、それが主流になるには、フェアな企業間競争と、それを促進する広範な情報公開などの改革開放路線の継続強化が必要だ。

(2)現状のアン・フェアな競争や不平等の源泉は、共産党の腐敗と利権構造が根本にある。この根本的な路線矛盾に向き合い、上記(1)を推進すれば、「一党独裁」を放棄することになる。

今の習近平には、共産党の一党独裁を放棄する選択肢は無い。
改革開放路線の強化と一党独裁の維持の同時追及という微妙で困難な「綱渡り」的な政策調整を10年間にわたって継続するのが、習近平政権の最大の特徴だ。


< 習近平が目指す「小康社会」 >

習近平は、小平が果たせなかった「共富」の夢にチャレンジしたいと心では思っている。
しかし、私利私欲に凝り固まった凡人の集合体という中国の現状に鑑み、実行される政策は夢の追求するのではなく、前国家主席胡錦濤が提唱した小康社会の実現に向けた努力だ。小康社会とは、ほどほどに余裕のある生活ができるフェアな社会だ。

実現のための手段は、(あ)やや減速させた経済成長と、(い)腐敗撲滅運動、である。

(あ)やや減速させた経済成長
早すぎる経済成長は、格差の拡大を加速させ負け組の不満を爆発させる。やや減速させることで格差拡大ペースを鈍らせたいようだ。
地方の首長の評価体系(経済成長の数字で判定)も変更する。これまでの成長至上主義から決別し、経済成長を6.9%まで減速させる。6.9%は、経済が失速しない巡航速度の下限であると、胡錦濤時代にレポートされている。

しかし、地方政府を中心に積み上がった2008年11月の「リーマン・ショック対応の4兆元の経済対策」の副作用の軟着陸(=不良債権処理と、非効率部分、鉄鋼、セメントなど素材産業の閉鎖に伴う大量の失業者を吸収する)には、経済のパイを拡大させる高い成長が必要となる。

6.9%近辺の経済成長の長期間の維持は、さまざまな利害関係者からのバラバラの身勝手な要求の嵐の中、難易度の高い目標になるだろう。

(い)腐敗撲滅運動
汚職や不正蓄財など腐敗を撲滅して、フェアな社会を実現する。さもなければ、負け組の不満は一気に大規模な反政府運動のうねりとなる。

1.経済格差を是正して、平等社会を目指す。
そのために、まずは本来なら労働者に期すべき利益を不正に蓄財する悪党を追放する。
毛沢東の貧乏平等時代を懐かしむ負け組への対応であり、ある程度毛沢東路線のフリをする事を意味する。

2.中国の将来を支える虎の子である中間層への対応として、改革開放をすすめ、市場の判断に任せる部分を拡大(=規制緩和)させる。これは小平路線の承継だ。

上記1(毛沢東路線)と2(小平路線)の同時に追及することは、そもそも矛盾する。
今後、言葉として発表される内容と現実に実施される内容に、微妙な政治的な差異が生じることになるだろう。


< 反日デモと、反政府意思表明 >

2012年9月11日の尖閣諸島の国有化後に、中国国内では大規模な反日デモと日本企業(特に小売業)を狙い撃ちする暴動が多発した。

その1年後の2013年12月26日の毛沢東生誕120周年記念日に、安倍首相の靖国参拝が行われた。これに反発する反日デモが起こることが多いに懸念されたが、何も起こらなかった。

中国の専門家に共通する理解では、・・・愛国無罪(愛国、反日を叫びながらデモをしたり、暴徒化して破壊活動をしても許される)というデモ参加者の心は、「現在の政策に対する不満表明=反政府」であり、反日、愛国無罪を叫びながら、表現の自由を奪われ反政府の意思表示を禁止されている負け組層の不満表明のシグナルを意味している

負け組の割合は先進国とあまり変わらないとしても、その絶対数は13億人も人口(=分母)がいると、数億人の負け組という人数に達する。
現在のようにモバイル・インターネット(スマホ)で連絡を取り合って、徒党を組んでデモを起こすと数万人規模のデモは日常茶飯事となる。

2012年の尖閣国有化後の暴動の背景を十分に理解した習近平は、毛沢東の貧乏平等時代への回帰を要求する負け組不満層が、安倍首相の靖国参拝後に大規模デモと毛沢東主義復活(共産党が禁止している個人崇拝と大衆扇動)を防止するために、反日デモを徹底的に鎮圧した。

その変わり、愛国無罪を叫ぶ負け組を考慮して、日本政府に対する抗議は常識以上に激化させた。尖閣諸島への領海侵犯を頻繁に実施し、もめている東シナ海のガス田開発を推進した。


< 共産党が変わるか、追放されるか >

中国の政治史の特徴は、「天命」という考え方だ。
中国人が為政者を為政者と認めるのは「天が、彼をして、為政者たらしめた」と思うからだ。

過去のどんな強大な王朝も、独裁とその副産物である腐敗で滅びてきた。民衆が「天命が尽きた、支配者としての正当性が無くなった」、「次の天命は**に移った」と思うことで、あっという間に現王朝は崩壊した。これは、中国の大地の掟と言われる。

この掟は、中国共産党とて例外では無いことは、習近平をはじめとする7人の指導者全員に留まらず、共産党の上層部全員の認識である。
だから腐敗撲滅作戦を強力に推進し、民衆に「支配の正当性=天命」を訴える必要があるのだ。
天命があるから共産党に従っているだけ、それが中国人のDNAだ。

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