朝、ドアを開ける
鏡の前には昨日の気配
いや、もう一度 はじめから

朝、何もかもではないにしろ
生まれ変わったような気分だ
周りの空気が瓶の中のくっきり分かれた
層みたいに しっかりとそこにいる

突然、記憶の中の通り過ぎた夏へ
放り込まれたような感覚
行ったら戻れない いや
もうとっくに 元には戻れない

ぬるい そして ほんのわずかな風
かつて僕は この風に
吹かれたことがあるのかもしれない
同じ風じゃなくても
これと似たようなものに
白い浜辺 ほそ長い いびつな植物が
そこかしこに生えている
父と友人と歩いた 遠い夏の日
どうして海に行ったのかはわからない
途中も なにも おぼえていない 
気付けば 僕は海にいた

乾いているが どろりとした空気
それが 現実にあったことなのか
自分の中の空想が生み出したのか
もはや 確かめる手段はない
父も友人も覚えていないだろう

でも 確かに それは頭の中に存在している

とてもせまい空 小学生の僕には高過ぎる
視界を横切る防波てい
昔、母が乗ってた銀色のワゴン
かたい駐車場の地面

そこには 誰もいない 不安も
時間の経過もない 風さえ吹かない
あるものといえば 
コンクリートの上の じゃりが すれる感覚くらい
そして 僕の中の何かは 確実にそこにいる
自分の中に 刻み込まれたのか
その場所に 何か大事なものを
置き去りに してきたのかは わからない
でも その場所は 確かに存在している
今も ひっそりと 僕の中に










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