今、日本の将来を考えますと、人口の減少という大変深刻な問題が横たわっています。
その最大の要因として挙げられているのが、出産の減少による少子化でしょう。
このまま推移しますと、私たちの孫が成人した時代には、今の「年金制度」は崩壊してしまうのではないかという警鐘が、盛んに鳴らされていることは、ご承知の通りです。
なんとか日本の人口を増加に転じるには、出産により「赤ちゃん」をもっともっと増えなければなりません。
最近新聞に載った少子化を憂う論評記事を読んでみますと、久しぶりに「赤ちゃんは子宝だ」という文字が目に付きました。
久しぶりと云うことは・・・・・・・、当然以前にも「子宝」が盛んに叫ばれていた時代があったということになります。 それは、昭和初期の頃と言っても・・・・・・・昭和の10年台の戦時下ですから、今から70年以上前になりますでしょうか。
あの戦時下の時代「産めよ増やせよ子宝を・・・・・・」というスローガンは、、国策として盛んに叫ばれました。
もっともこの戦時中の「子宝」は、戦争の必要な戦力になるの男の子ばかりが、 もてはやされたというという偏った「子宝」でありまして、女の子を産めば肩身が狭かったという、偏った一面もありました。
その点最近新聞に出始めた少子化を憂うる論調の中では、「子宝」に男女の差別なぞはまったくありません。
------------------
さて昭和時代の歌から、この「子宝」のついた曲名を検索してみますと、下表のように意外と少ないのには驚きました。
一方で、どの時代でも愛されてきました「赤ちゃん」のついた曲名は、「子宝」曲よりは多いものの、これも思ったほどではないという数値が出てきました。
曲名についた→ |
「子宝」 |
「赤ちゃん」 |
昭和戦前期 |
3 曲 |
0 曲 |
戦後 20年代 |
0 曲 |
1 曲 |
〃 30年代 |
1 曲 |
4 曲 |
〃 40年代 |
0 曲 |
5 曲 |
昭和50~58年 |
0 曲 |
2 曲 |
合計 |
4 曲 |
12曲
|
それではまず「子宝」のついた歌から、順に見てみることにしましょう。
-------------------
「曲名に"子宝"のついた歌」
「子宝部隊 ・徳山 璉」(上山雅輔詞・佐々木俊一曲)ビクター S16/2月
国民合唱「子宝の歌・四家文子」(山上憶良詞・須磨洋朔曲)ビクター S17/10月
♪「しろがねの こがねも玉も なにせむに まされる宝子に しかめやも」
「子宝ぶし・美ち奴、有島通男」(村松秀一詞・陸奥 明曲)テイチク S20/1月
♪ハァー あちらこちらに産聲高く 春もうららな隣組 ソレよい子のせつせと隣組」
ところで同じ戦前でも「子宝」については、昭和一桁の頃と昭和12年以降の戦時下では、まったく正反対の流れがありました。
まず昭和一桁の頃は、東北地方の農村部では凶作による生活苦に悩んでおりました。 一方都会でも低所得者階層ほど子沢山のため、生活苦であえいでおりました。
こうした階層の主婦を対象としまして、多産による女性の過重な心身の負担と、家族の貧困を防ぐため、「産児制限」するよう指導する運動が起きました。
そして実際に農村部では、避妊の啓蒙活動や巡回指導などが進められていたのです。
つまり昭和の初期でも戦争前は、人口抑制の方向に向っていたことになります。
それが昭和12年夏に支那事変が始まりますと、一転して子は宝として「富国強兵」「産めよ殖やせよ」と様変わりしてしまいました。
やがて戦い利あらずして終戦となりましたが、戦後に入って出た「子宝」曲は、高度成長期に生まれた次の一曲だけでした。
「子宝音頭・三波春夫」(門井八郎詞・春川一夫曲)テイチク S35/7月
次は「子宝」に恵まれて、産まれてきた「赤ちゃん」の歌に移りましょう
------------------
「曲名に"赤ちゃん"のついた歌」
「昭和20年代から30年代まで」
戦前には「赤ちゃん」曲はないので、昭和20~30年代の曲から見て行きます。
「赤ちゃんのお耳・加賀美一郎、川田正子」(都築益世詞・佐々木すぐる曲)コロムビア S21/6月
♪「赤ちゃんのお耳は可愛いお耳 ふっくら可愛いかたつむり・・・・・・・」
「赤ちゃんの手・-」(中村メイコ詞・神津善行曲)NHK S34/5月
以上の2曲は「ラジオ歌謡」ですが、「赤ちゃんのお耳」は戦後直後の混乱期に、この曲がラジオから流れまして、人々の心を和ませました。 年配の方でしたら、この曲をご存知の方が多いと思います。
「三つ児の赤ちゃん・ミッキーカーチス、北野路子」(永 六輔 詞・いずみたく曲)ビクター S37/2月
次は昭和時代の「赤ちゃん」曲では、最もよく知られている大ヒット曲です
「こんにちは赤ちゃん・梓 みちよ」(永 六輔詞・中村八大曲)キング S38/12月
♪「こんにちは赤ちゃんあなたの笑顔 こんにちは赤ちゃんあなたの泣き声・・・・・・・」
三木鶏郎音楽からは、こんな「赤ちゃん」曲も出ておりました。
「赤ちゃんは王様だ・フランク永井」(三木鶏郎詞・三木鶏郎曲)ビクター S38年
♪「赤ちゃんは王様だ はだかの王様だ 笑ったら王様だ 泣いていたって王様だ・・・・・」
--------------------------
「昭和40年代から昭和58年まで」
「赤ちゃん音頭・鎌田英一、葵 ひろ子、他」(星野哲郎詞・富 侑栄曲)クラウン S42/2月
「赤ちゃんは天使・浜 恵子」(遠藤 実詞・遠藤 実曲)ハーベスト S44年
♪「赤ちゃんが生まれたら 母が私を育てたように 明るく優しく育てたい・・・・・・」
「赤ちゃんぐつ・オッコ&ミミ」(小島みどり詞・小島みどり曲)キング S44/5月
♪「白とピンクの赤ちゃんぐつ ちっちゃな彼の贈り物・・・・・・・」
「赤ちゃんみたいな子・葉山ユリ」(千家和也詞・鈴木 淳曲)キング S48/5月
♪「あなたは 赤ちゃんみたいな子 ふたりでいる時は・・・・・・」
「赤ちゃんみたいな女の子・伊藤咲子」(阿久 悠詞・三木たかし曲)東芝 S49/12月
「ママがわかるの赤ちゃん・松田敏江」(松田敏江詞・松田敏江曲)キング S52/3月
♪「ルル ママがわかるの赤ちゃん かわいい口でかわいい声で・・・・・・・」
---------------------
更にキッズソングと称する、幼児向けの「赤ちゃん」ソングなら、沢山出ておりました。
その中からご存知の方が多いと思われます、この1曲だけ載せてみましょう。
「パンダちゃんの赤ちゃん・むとうかんぺい、りつこ」(左同歌手詞・左同歌手と渡辺宙明曲)コロムビア S52/10月
♪「パンダちゃんの赤ちゃん(繰り返す) こっちを振り向いてよ・・・・・・」
他に幼児向けには 「鯉の赤ちゃん・斎藤三賀子」 「タヌキのあかちゃん・鹿島ヒデヤ」 などがありますが、この辺で終わりといたします。
----------------------------------------------------------------------
付録 歌詞に読み込まれた「子宝」から
戦時中では国を挙げてのスローガンでした「子宝」ですが、調べてみますと意外と歌の数が少なかったようですね。
そこで戦前に出た曲を対象にしまして、「歌詞」の中にある「子宝」を検索してみますと、古くは昭和3年の新民謡から戦時中までの間に、3曲が見つかりました。
「伊香保音頭・-」(大槻如電詞・-曲)- S3年頃
♪「伊香保いで湯で子宝もうけ 川という字のむつまじさ ヨイヨイヨイヨイヨイアサ」
「新家庭行進曲・岡 晴夫」(清水操六詞・島田逸平曲)キング S16/5月
♪「裏の家でもお隣さんも 可愛い泣き声子宝部隊 こころも晴々僕と妻・・・・・・・」
「みたから音頭・霧島 昇、菊池章子」(片桐勘蔵詞・服部良一曲)コロムビア S17/9月
♪「ハー今年ゃ目出度い日本男児 ハヨイショ生めよ殖やせよ花嫁御 ハコリャ 山羊は三っ子で兎は八っ子 家にゃ子宝米俵・・・・・・」
この「 みたから音頭」の歌詞の後半には「ソレ精出せ 生み出せ作りだせ ・・・」という囃子言葉が入っています。
少子化時代の今は、まさにこの囃子言葉通りの実践が求められているかもしれませんが、「夜になったらソレ」ではねえ・・・・・・・・
あまりにあからさま過ぎて、平成時代の若いご夫婦からは、大いに顰蹙をかいそうな気がいたします。 (おわり )
( このブログは、「昭和初期の映画主題歌あれこれ」昭和33年(その23)から抜き取って、口語体に再編集しました姉妹ブログです )