主題の通り、先に結論から申し上げると、海外自転車旅行に経験・知識などは一切いらない。
「興味があるけれども自転車に詳しくない」という理由で尻込みしている人がいれば、すぐに自転車に乗って出発してみてほしい。

自転車旅行者がよくされる質問に、「自転車は自分で修理できるの?」というものがある。
これに対して私は、「簡単な修理はできるけど、ほぼ大半はできない。」と答えている。
事実、私ができる修理などパンク修理くらいなもので、他の修理はどうすればいいのかほぼわからないままこの旅行に出発した。

自転車旅行の経験に関しても、海外を走っている自転車旅行者の中で、私は圧倒的に経験値が少ない方だと思う。
私が今まで出会った日本人サイクリストで、海外で自転車旅行をしている人の100%が日本縦断か、日本一周を経験している。
それに比べて私は、大学時代にせいぜい東京の新宿~北海道の宗谷岬縦断と、九州一周を経験したくらいで、期間はどちらも二週間程度のものであった。
そしてその時はガソリンストーブを持っておらずキャンプ自炊をしたことがなく、テント泊も日本では2回しかしたことがなかった。


上述の「自転車での長期旅行経験がない」「キャンプ・自転車メンテナンスの知識が全くない」というのは、この旅行前の私の最大の懸念事項であり、コンプレックスでもあった。

そうした懸念を少しでも解消しようと、この旅行の出発3か月前の2016年2月に、ニュージーランドの南島を一ヶ月間走行してみることにした。
その時27歳、私の初めての海外旅行だった。
それまで私はバックパッカーはおろか、ツアーでの海外旅行すら経験したことがなかったのだ。

あの時の不安感というのは一生忘れられない、ある意味でいい思い出となっている。
私の英語力は当時中学生レベルにも劣ったものであり、自転車の入った大きい箱を持ってニュージーランドに到着した際、空港内の別室へと連れ込まれた。
「なぜこの国へ来た?」という入国審査官からの問に対し、「I love nature!(自然が好きだからだ!)」ということをひたすらに繰り返した。それぐらいしか知っている単語がなかったのだ。
結果、不審人物と見なされて3時間ほど空港内で足止めされたのだが、最終的には釈放され、無事入国することができた。

空港から一歩出ると、私にとって初めての異国の地が広がっていた。
同時に、私の初めての本格的なキャンプを伴う長期自転車旅行が始まった。
初めてガソリンストーブで火を起こして自炊をし、ほとんど初めてテントで野宿をした。
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実際にやってみるとどちらも難しいことはなく非常に単純で、単純がゆえに面白くもあった。
朝起きればテントを畳んで出発し、夕方近くになり疲れれば自分の好きなところでテントを張り、ストーブを使ってキャンプをする。
これこそが自転車旅行の醍醐味であることを異国の地で初めて知り、キャンプの特別な知識などなくてもどうにかなることを知った。

英語に関しても、いくら酷いレベルとはいえほとんどの日本人は中高生の6年間で学んだ基礎はあるわけで、こちらが本気で伝えようとボディジェスチャーを交えれば、何とか理解してもらえることを知った。
現地で出会ったイギリス人自転車旅行者と、言葉は通じないが仲良くなって一緒に数日間走行を共にしたこともあった。

自転車旅行をする上で、語学力不足は決して弱点にはならない。
(※矛盾するが、私は決して英語を勉強する必要がないとは考えていない。ニュージーランドから帰国後2か月半は毎週3日間、地元の英会話カフェに通い詰めた。英語は必須ではないが、旅行の楽しさの幅を広げるものだと考えている。)
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こうして一か月間の初海外旅行、長期自転車旅行を終えた私は、「自転車長期旅行の未経験」「キャンプの知識と経験がない」ということに関しては一切の不安を拭うことができた。

しかしながら「自転車メンテナンスの知識がない」という点に関しては、ニュージーランドの旅行において解消されることがなかった。
何のトラブルもなく、メンテナンスの必要が一切なかったのだ。

この不安を抱えたまま私は関西国際空港で飛行機に乗り、2016年5月21日アラスカの地に降り立ったのである。
アラスカから現在記事を書いているグアテマラのアンティグアまでの一年間は、トラブルの連続であった。

タイヤのパンクは当たり前で、スポーク(タイヤの骨組みを成している針金状の棒)の折れ、走行中にペダルの落下、後輪タイヤへの巻き込みによる変速機の完全破損、走行中にチェーンが切れる等々・・・
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冒頭で申し上げたように、私はパンク修理しかメンテナンスに関して知識は持ち合わせていなかった。
しかし、トラブルは望まずとも起こってしまうのである。
ならばどうするか。トラブルが起こった時に学びながら対処すればいいのである。

幸いなことに今の時代、インターネット上には無数の情報が溢れている。
そこには当然自転車メンテナンスの情報もごまんとある。
そして、自転車とは非常に単純な仕組みとパーツの組み合わせで成り立っている。
情報と道具さえあれば、どんなバカでもある程度は対処できるようになっているのである。

こうして私は、トラブルがある度に手持ちのメンテナンス教本やパソコンを眺めながら、手持ちの道具で対応してきた。
自分ではどうしようもないトラブルに関しては、プロである自転車屋に持ち込んで対処してもらってきた。
自転車とは人の生活に深く根差した乗り物なので、どんなに小さな町でも一軒は自転車屋があるということを、この旅行中で知った。

要は、出発前に知識など持ち合わせていなくても必要な道具さえ持っていれば自分で何とか対応できるし、対応を重ねる度に自らの経験と知識は増えていくのである。
どうしようも無ければ自転車屋に頼ればいい。
知識や経験が無くても恐れることなく、誰でも自転車旅行を楽しむことができるのである。

この記事を書いている数時間前には、初めて自分の手でブレーキワイヤーを交換した。
明日には、初めて自分の手でリアとフロントのスプロケット(タイヤ横とペダル横に付いている歯車状のギア)を交換するつもりだ。
自転車旅行など、そんなもので何とかなるのだ。

こうして私は、最後の懸念である「自転車メンテナンスの知識がない」ということも旅行中に克服することができた。
とどのつまり、全ての懸念事項がはっきり言って「クソどうでもいいこと」であったのだ。
自転車旅行始めるにあたり、経験・知識などいらないのである。それらはやっていれば勝手に身についていく。
4
ただ、「これだけは必要」なものがこの旅行中に見つかった。
それは、自分の自転車に対する「愛着」である。
私が出会ったほとんどの自転車旅行者は、彼らの愛車に対して並々ならぬ愛着を持っていた。
私も彼ら同様、並々ならぬ愛着を持っていると自負している。

なぜなら、私を含め自転車旅行者は、自転車が私たちの足として、我々の体をいつも支え続けてくれる特別な存在であることを知っているからである。
そうした特別な存在であればこそ、自転車を清掃や整備し、「いつまでもこいつと走りたい!」という思いを持って日々走っているのである。

逆にそうした愛着を持っていなかった自転車旅行者は、メンテナンスなど一切せず、メンテナンスの知識を自ら得ようともしていなかった。
私の目から見れば自転車が非常に可哀そうであったのと同時に、「この人はこの先走り続けられるのだろうか」という不安をその人に持った。

自転車旅行に使う自転車など、なんでもいいのである。
高いパーツを使う必要などなく、ママチャリだろうが、補助輪付きの自転車だろうが、なんでもいい。
愛着さえあれば、自転車はどこまでも走ることができる。

もし自転車旅行に興味があっても、「メンテナンスの知識がないし・・・」としり込みしている人があれば、安心して自転車旅行に出てほしい。
事実、何も持たざる私が1年以上も走ることができているのだから。