20日 昼の部
 
 あの【平成中村座】が九州に初上陸!とのことで、チケット入手困難なほどの前評判だった。
 観客席は熱気むんむん、初めての方達がほとんどのようで、珍し気に場内を見回す人が多かった。
                 昼の部も然り。殆ど満席。
平成中村座 ちらし。 平成中村座6

★神霊矢口渡し(頓兵衛住居の場)霊矢口渡(頓兵衛住家の場) 
  
福内鬼外(このふざけた名前の主は、江戸時代エレキ学者で著名な平賀源内。江戸という時代は戯本や浄瑠璃を書く文化人が多かった。この時代は文化花開いた、ある意味自由な時代と言えよう。(全五段のうちの四段目一幕) 
     頓兵衛娘 お舟・・・七之助、新田義峯‥・橋之助、傾城うてな‥・鶴松、渡し守 頓兵衛・・弥十郎。

 <あらすじ>
 
南北朝時代の話。矢口の渡しで船に穴をあけられ命を落とした武将新田義興の弟義峯が、兄の死を探ろうとして渡し守頓兵衛宅に許嫁うてなを伴って、一夜の宿を借りようとするところから始まる。義峯に一目惚れしてしまった初心な頓兵衛の娘お舟のいじらしくも積極的な恋の口説き、独りになった時の所作が役者さんの見せ所である。七之助は夜の部のお家乗っ取りをたくらむ悪女から、がらりと変わって、初心で純情な娘を演じる。浄瑠璃に乗っ取って動く、この場の所作は、難しいものだが、七之助とても良かったなあ。シッカリ見入ってしまった。

  強欲な父頓兵衛に逆らって、ひそかに二人を逃し、義峯の身代わりとなって父に討たれてしまうお舟。七之助さん『海老反り』見事!2回も見せてくれて、観客席は大拍手。

すっぽんから義興の亡霊が出てくると、観客席またもや「わあ」と驚きの声が。何もかもが珍しいという感じが観客も初々しく、こんな仕掛けが好きになってでも歌舞伎に縁を作ってくれるといいなと、つい思ってしまった。

 七之助クン、まさに『旬の女形役者』だと、嬉しくなった。

三月新橋演舞場で【桜姫東文章】を演るのよね。絶対、遠征したいなあ。

 ★お祭り・・・・勘九郎・虎之介。

   言わずと知れた中村屋の~と言いたくなる歌舞伎舞踊。祖父・父と踊って今度は勘九郎さん、まあ!、口跡のなんと18代目勘三郎さんに似ていることか。特にサ行の発音のそっくりそのまま。目をつぶると勘三郎さんがいる!と思ってしまう。

さすがに「待ってました!」の声もかかって。勿論ご隠居(夫)は【大向こう】が少ないので、昼・夜とも孤軍奮闘に近かった。昼の部は博多座飛梅の会の人が一人来ていたようだが。
恋飛脚大和往来(封印切の場)

   曽根崎心中はじめ心中物と言えば近松門左衛門というくらい。人形浄瑠璃として作られた「冥途の飛脚」亀屋忠兵衛という人物が盗んだ金で、遊女を見受けして捕まったという実際の事件を題材に、近松が書いたもの。最初は人形浄瑠璃として、のちに寛政八年(1796年)歌舞伎化。

 あらすじ
 上方歌舞伎の和事の代表作の一つ。飛脚屋、亀屋の手代忠兵衛と傾城梅川との恋に、恋敵役八右衛門が梅川に横恋慕して、忠兵衛に悪口雑言を浴びせ、とうとう堪忍袋の緒が切れた忠兵衛が、商売物の預かり金百両の封を切ったことで、二人は死ぬより他に道はなくなり、死出の道行きとなる

  (忠兵衛・・・獅童、梅川・・・七之助、八右衛門‥・勘九郎、他

   う~ん、上方歌舞伎の和事と呼ばれる世話物は、難しいものだと思った。獅童さん熱演

なのだが、出のところの「梶原源太は俺かしらん」とチャラチャラ二枚目色男を気取る

関西特有の風情が、演じていますという感じになってしまっている気がする。


 私が若い頃、坂田藤十郎さん(扇雀時代)が20代の頃、【曽根崎心中】のお初で空前の「扇雀ブーム」が起きて、歌舞伎にあまり縁のない若い娘達が、歌舞伎座で「扇雀さーん!」と黄色い声をあげて、他の役者が困ったという逸話もあるほどのブームの頃、父親の二代目鴈治郎さんとのコンビで「曽根崎心中」や【恋飛脚大和往来」などを見た時の、新鮮な感動を思い出すと、今回は・・・やっぱり大阪物は関西の役者サンでないと、その色が出せないのかなと思った。
   獅童さん、熱演なんだが、あのとろけたような関西風な色合いが出ないし、台詞が固すぎるというか‥‥こ れは勘九郎君も(敵役というには憎めなかった)七之助さんも同じと言えよう。周りに秀太郎さんなど関西色を出せる役者さんが入っていたら、だいぶ違うのかしら。獅童サン、難しい役に挑まれたなあと思った。

    すっぽんから新田義興の亡霊が登場したり、中村座の特徴である舞台の後ろが開いて、小倉城が見えた時は、客席から歓声が上がっていた。


 熊本山鹿の八千代座・四国の金毘羅歌舞伎の金丸座、そして移動できる芝居小屋「平成中村座」私が行ったのはこの三つだが、どれも芝居見(芝居を観ること)のだいご味を味わうことが出来た。

 
平成中村座【筋書】 平成中村座1。

平成中村座筋書より2.


19日 夜の部   
小笠原騒動(通し狂言)
     
 九州の小倉藩のお家騒動と当地に伝わる白狐伝説を絡めたおはなし。
側室のお大の方は、殿さまの目を盗み、執権犬神兵部の子を宿しており、その子を世継ぎにすべく、お家乗っ取りをもくろんでいる。
    小倉藩主のキツネ狩りで、とらえられた狐を小笠原隼人が逃がしてやったところから、物語が始まる。
悪辣なたくらみ、殿をいさめる忠臣、悪心から良心に立ち返る「モドリ」の飛脚小平次、狐の化身菊平の恩返し、本水を使った水車小屋でのびしょ濡れになりながらの立ち回り、早替わり、勘九郎や若手の役者橋之助や鶴松・虎之介が客席を飛び回り、捕り手に追われる悪人犬神兵部は、客席から二階へ梯子でかけ登り(私の目の前で梯子が掛けられた。
 勘九郎は手を伸ばせば触れるところに)二階席からも嬉しい悲鳴が上がる。

    舞台後ろの幕が切って落とされると、ライトアップされた小倉城が浮かび上がるし、小倉の名物【祇園太鼓】も出演、花を添える。小倉弁使っての「チャリ場」のシーンもある。
 お客様を喜ばせる仕掛け、外連(ケレン)が幾つもあって、もう、観客席は笑い声と拍手・拍手の嵐。スタンディング、カーテンコールと盛り上がった。
岡田良助・犬神兵部‥・勘九郎。 小笠原隼人・奴奴菊平・・・獅童。
お大の方・良助女房おかの・・・七之助


飛脚小平次‥・橋之助、隼人妹小萩・林数馬‥・鶴松、
良助母お浦…歌女之丞。小笠原豊前守…片岡亀蔵、小笠原遠江守・・・弥十郎など。

皆さん、楽しそうに演じていたように思えた。獅童サンは四の切りの狐のような、嵐の夜にのガブのような。軽々と役をこなしているような感じ。この人は荒事も世話物も、なんでもできる役者さんだなと見るたびに思う。長谷川伸の「瞼の母」など任侠ものも、板についている。
七之助は声も押さえて、憎々し気に。若手の橋之助や鶴松、虎之介クンたちも生き生きと飛び回っていた。
   昼・夜共に、歌女之丞さん、山左衛門さん、など昔からの中村屋生え抜きの脇役さん達も大活躍。老練なこういう役者さんがいればこそ、主役が映えてくる。歌舞伎はそうだと思う。そういう役者さんの後に続く人達は育っているのだろうか?

平成中村座夜景、お城平成中村座夜景5
暮れなずんだ小倉の街も、もうXmasイルミが輝いていた。

平成中村座を創り出してくれた十八代目勘三郎さん、跡を継ぐ勘九郎君、七之助クン、そして中村屋一門の役
役者さん達、これからも江戸の芝居小屋を彷彿させる芝居小屋で、楽しい芝居を見せて下さいね。
   全国様々なところへ出かけて、歌舞伎を観る機会のない方達にも、こんな楽しい舞台を!!