前回に続き、近松門左衛門の浄瑠璃『卯月紅葉(うつきのもみじ)』からお灸の話をします。

 心斎橋の小道具商笠屋の娘〝おかめ〟と婿養子の与兵衛の心中物語です。

主人長兵衛の正妻が死に、妾の〝ゐま〟が弟の伝三郎と組んで与兵衛を追い出し、伝三郎をおかめの入婿にして家督を乗っ取ろうと画策します。そのため、与兵衛と主人たる長兵衛の仲が悪くなり、ある時、与兵衛は蔵に身を隠すことになりました。それを知らない長兵衛が蔵の鍵をかけてしまいます。

 

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 与兵衛は蔵の窓より(かほ)出し「水にても湯にても。せめて煙草(たばこ)()みたやな、煙管(きせる)火縄(ひなわ)懐中(くはいちう)す。おかめ()たらば 火がほしや」と(のんど)(かは)かし()ちけるが。「(おも)ひ付いたり」と、水晶(すいしやう)根付(ねつけ)(たづ)ね出し (もぐさ)を少し押当(をしあ)てゝ。(いり)日の窓に差向(さしむ)かへば げに炎天(えんてん)極陽(ごくやう)()水晶(すいしやう)に火(うつ)りて (もぐさ)ふすぶり出でけるを 火縄(ひなわ)に移し。やすやすと。煙草(たばこ)()をぞ(やす)めける。

 

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    簡単に説明します。

 

 蔵に閉じ込められた与兵衛はたばこをすいたいと思いますが火がありません。そこで思いついたのが、たばこ入れの根付として付いている水晶をレンズにして用いることでした。水晶をレンズとして太陽光をもぐさに集中させて火をおこし、たばこをすっています。

 根付とは、たばこ入れや巾着(きんちゃく)等を帯にはさんで腰に下げる時、落ちないようにひもの端につける物をいいます。

 ここで大切なことは、もぐさが灸をすえるためでなく、火を起こす道具の一部になっていることです。昔の旅人はもぐさを携行し、火打石のマサツで熱くなった石の破片をもぐさの上に落とし、火を起こしていました。

               

狭山養生鍼灸院 福西佐元
 【上記は地方紙に掲載されたものです】