NHKの会見と事前に発表されたコメントを見て、小保方さんは政治的天才だとはっきり確信しました。

彼女は日本のマス層が何を理解できて何を理解できないのかをかなりの精度で把握しています。そして、どういうストーリーを描けば自分にとって得なのかということもしっかり考え尽くしています。

小保方さんは理研に残ることも、研究を続けることも恐らく考えていません。彼女の目的は、日本のマス層からの共感と評価です。
この騒動が始まって以来、理研を始めとするアカデミアは以下のような主張を打ち出していました。つまり

「小保方論文には極めて不適切な点が多い。また博士論文に剽窃が見つかるなど、小保方さん自身に科学者として十分な能力と倫理観が備わっていない。だから二度とこの業界で仕事すんなよ。あと論文取り下げろ」

ということです。

それを受けた彼女の主張はこうです

「自分はSTAP細胞という画期的発見をしたが、それを発表する段階で多くのミスを犯してしまった。この世紀の発見を活かすためにもう一度がんばっていきたい」

一見してわかるように、両者の主張は全く噛み合っていません。理研は研究方法の不備について指摘しているのに、小保方さんはSTAP細胞の存在について主張しています。両者の意見は完全に平行線です。

なぜ小保方さんはこんなかみ合わない答弁を行ったのでしょう。それは彼女のメッセージが理研ではなく、マスコミを始めとする一般マス層に向けられたものだからです。

そもそもSTAP細胞を巡る報道の焦点は、「小保方論文の研究手法は正しかったのか」ではありません。そんなこと、はっきり言って視聴者は誰も気にしていません。科学の素人たるマス層が気にしているのは「STAP細胞は存在するのか否か」です。

そんなことこれから再現実験を何度も行なって確かめなければわからないことですが、マス層にはそんなことわかりません。偉い学者ならわかるだろうと思っています。つまり科学の研究手法というものに、ほとんどの人間は明るくないのです。

小保方さんは、恐らくそこを十分に理解しています。なので「小保方論文の研究手法は正しかったのか」という(アカデミアの物差しで図るなら)極めてまっとうな問題にはほとんど言及せず、「STAP細胞は存在するのか」という問いにのみ「存在する」と力強く答えているのです。

つまり、小保方さんは理研に戻ろうとして会見をしているのではありません。どうせ戻れっこないし、戻ってもそこはもう居心地の良い場所ではなくなっています。彼女は一見「STAP細胞の研究を続けるために戦う」という姿勢をとっていますが、本当の目的は別のところ…世間の共感と評価にあるわけです。

こうした(一方にとっては意図的な)すれ違いは何を生み出すのか?そろそろ表題の「STAP界隈でこれから何が起こるのか」にお答えしようと思います。

理研と小保方さんの対話はこれからも平行線を描き続けるでしょう。お互い話しかけてる相手が違うのだから、当然のことです。業を煮やした理研は博士論文の剽窃などを理由に小保方さんに対し解任などの処分を取ると思います。

その後、小保方さんは一連の過程で得た評価を武器に「世紀の大発見を成し遂げたものの不運と無理解によって潰された悲劇の天才科学者」というロールを演じて行くはずです。博士論文の剽窃というアカデミアにおける大罪は、メディアヒロインになる上でなんの障害にもなりません。

そしてヒロインとなった彼女はメディア文化人兼個人研究者となり「肌が蘇るSTAP美容液」や「STAP細胞効果でみるみる痩せる奇跡のSTAPサプリ」などのビジネスに手を出し、富と人気と毀誉褒貶を手に入れるわけです。


いや、しかし小保方さん本当に人の心を掴むのが上手いですね。理研の秀才たちが手玉に取られたのも納得できます。

一ヶ月間沈黙を守って世間の動向を見極めた上で渾身の会見を打つ手際もお見事です。研究者としては恐らく下の下でしょうが、政治家としては本当に見事です。

反して、理研の手際はお粗末としか言いようがありません。一ヶ月間の猶予があったにも関わらず、世間様に必要なメッセージを打ち出すことに失敗しています。科学の研究とはどういう手順で進むものなのか、小保方さんの研究はなぜお粗末なのか、それをしっかり伝えることができませんでした。

確かに小保方さんは科学者としては本当に失格で、アカデミアの住人なら誰の目にも明らかなクズなのですが、世間の目も自分たちと同じように見てくれると考えるのは余りにも視野の狭い考えです。

インテリの武器はジャーゴンとせせら笑いですが、それで威嚇できるのは同じインテリだけです。彼女はインテリではありません。政治家です。